五更瑠璃「……瑠璃義姉さんって呼ばれたいわ」 (18)

"誰が敵か味方かわかんないし

『陰険』で
『強欲』で
『滑稽』で
『外道』で

魔法がとけるチョコみたいに"

ピノキオピー / 魔法少女とチョコレゐト

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「よう。待ったか?」

考えたってわからないから私は彼を待った。
昼下がりの午後。夜の眷属を容赦なく焼き尽くす日差しに耐えながらひたすらに闇雲に。

「日に焼けてしまったわ」
「良かったじゃねえか」

ひりつく二の腕をさすりながら文句を口にすると彼は悪びれずに笑った。人の気も知らないでそっと背中に手を添えて日陰を目指す。

「ここなら日に焼けないだろ」

優しくされてどんな顔をすればいいかしら。

「で? 俺になんの用だ?」
「これを読んでみて頂戴」

単刀直入な彼に新作小説の原稿を手渡した。
私にしては短編だ。もちろん設定資料集もなし。立ち読みも苦にならないよう配慮した。

「ふうん……なるほどな」

その反応はどういう意味なの。わからない。

「正しいと思う?」
「さあ。わかんねえよ」

そも正しさとはなんだろう。それを求めて。

「でもさ、黒猫。これだけは言える」

わからないと言った京介は確信を口にした。

「間違いなく、間違ってはいないさ」

わからない。余計に私は困惑して反論した。

「間違ってるわよ」
「間違ってねえよ」

むきになった様子はなく、諭すような口調。

「根拠はあるの?」
「んなもんねえよ」

一笑に付された。わからない。意地を張る。

「間違ってるわよ」
「間違ってねえよ」

京介も意地を張る。けど彼は私より大人で。

「その代わり、正しくもない」
「なによそれ。どっちなのよ」

逃げ道を作ったにしては妙だ。救いがない。

「さあ? どっちなんだろうな」

まるで面白がるかのような眼差しがくすぐったくて、私は揶揄われているのだと悟った。
彼の目を見て、何も言えず私は続きを促す。

「仮にお前が書いたこの作品が間違っていたとして、それが何か問題あるのか?」
「あるわよ。間違いは、正さないと」
「何でだよ。別に正す必要なくね?」

正さないといけない。そうしないときっと。

「そうしないと、区切りがつかないわ」

駄目なら駄目でいい。結果が知りたいのだ。

「別に引きずったっていいだろ」
「嫌よ。未練なんて残したくないわ」
「それが人を呪った女の台詞かよ」

どうやらまだ未練があるらしい。お互い様。

「なあ、黒猫」
「嫌」
「俺たち、やり直さないか?」
「お断りよ」

拒絶するのは義務だ。無論、本心ではない。

「じゃあ、桐乃の義理の姉になってくれよ」
「っ……わ、私は、桐乃に……あなたの妹に」

息が詰まった。自分の願望を見透かされて。

「……瑠璃義姉さんって呼ばれたいわ」

邪な願望を抱いた自らの罪深さを悔やんだ。

「軽蔑してくれて結構よ」
「軽蔑なんてしねえよ」

雑踏を眺めながら京介はぼんやりと呟いた。

「桐乃はかわいいからな」

それは兄としてかそれとも。邪推はしない。

「お前の小説の妹も悪くはなかったよ」
「お褒めに預かり光栄だわ」
「ま、うちの妹には負けるけどな」

はいはい。別に張り合うつもりなんてない。

「私は京介が好きよ」
「ああ。ありがとう」
「でも、桐乃も好き」
「ああ。ありがとう」

的外れな感謝が不満で、私は彼に問い正す。

「それでもあなたは正しいと言える?」
「だから何度も言うように間違っては……」
「間違っていないとも言い切れないわ」

確かなことを告げると初めて京介は苛立ち。

「間違ってねえよっ!!」

吠えた彼の眼差しは妹への愛で燃えていた。

「……あなたも、間違ってないわ」

『完璧』で
『超人』で
『清廉』で
『潔癖』で

嘘で固めたような人間よりは遥かにマシだ。

「でも、間違いなく正しくはなかった」
「ああ……そうだな」

ようやく理解した。間違っているから悪いわけではなく、正しいからそれでいいわけではないということを。複雑で、不等号なのだ。

「さっきの話だけど」

閑話休題。話を戻す。区切りをつける為に。

「今更やり直すなんて、まっぴら御免だわ」

だから京介と。日陰から一歩日向へと出て。

「だから……これから新しく始めましょう」

これからどうなるのかなんて、わからない。
自分が書いた短編の続きが未確定なように。
これから好きなように、新しく書き始める。

「とりあえずは同棲からね」
「そこは意外と堅実なんだな」
「まずは家電製品を揃えましょう」
「え? 物件からじゃないのか?」

それは間違いではないけれど正しくはない。

「誰かさんが妹のこととなるとつい熱くなって漏らしてしまうから洗濯機が最優先よ」
「フハッ!」

これだけは言える。京介は正しくはないと。

「安心しなさい。洗えば汚れは落ちるから」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

彼のお尻のチョコも洗えばきっと落ちる。

「ふぅ……なあ、黒猫」
「ようやく落ち着いたかしら?」
「洗濯機のついでに猫砂も用意しとくか?」
「……どうぞお好きに」

どうなるのか。わからないから、愉しみだ。


【私がこんな元彼とやり直すわけがない。】


FIN

>>7レス目の『潔癖』は間違いです
正しくは『潔白』でした
確認不足で申し訳ありません

最後までお読みくださりありがとうございました!

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