石動乃絵「フィラメントみたいに切れることはない」 (11)

「ね、眞一郎」
「ん? なんだ?」

ぽりぽりと2人で並び天空の食事を頬張り。

「私、発光ダイオードが好き」

発光ダイオードみたいなグミの実は美味だ。

「発光ダイオードって、LEDのことか?」
「違うわ。LEDが発光ダイオードなのよ」

ギラギラしたLEDは装飾過多なイメージだ。

「たしか、プラスからマイナスに電気を流すだけで発光する抵抗のことだよな」
「そうよ。素朴な輝きがとても綺麗」

昔、お兄ちゃんがよく遊んでいたゲームの電源を入れると赤色の発光ダイオードが点灯した。電池の残量が少なくなると小さくなる。

「でもちょっと頼りなくないか?」
「どうして?」
「ハロゲンランプと違って熱も出ないから」

ぶつかり合わず熱くならない。そこが好き。

「眞一郎は男の子だから」
「なんだよそれ」
「バチバチ熱くなるのが好きでしょ」

訊ねると彼は目を逸らし後頭部を掻きつつ。

「まあ、そういう一面はあるかもな」
「野蛮人」
「あのな! 男に生まれたからにはどうしてもぶつかり合って、バチバチやり合わないといけない時があるんだよ! たぶん……きっと」

勝てるかどうかはわからない。不安そうだ。

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「眞一郎は誰かのために戦いたいの?」

偽善。義憤。正義感。そんなの意味がない。

「そうだな……そうだとしても、そいつのためとは口が裂けても言わないだろうな」
「格好つけるため?」
「理由を自分で背負うため」

それが、格好つけるためだ。彼は認めずに。

「やり合うのは自分で、やっつけるにせよ、やられるにせよ、結局自分が背負うんだ」
「やっつけたらスカッとする?」
「まあ、その時はスカッとするだろうな。そんで、すぐに後悔する羽目になる」

男の子は馬鹿だと思う。わかっているのに。

「眞一郎は優しいね」
「へ? な、なんだよ、急に」
「相手の怪我の痛みをわかってあげられる」

今でも私の怪我は癒えない。胸が疼くから。

「眞一郎の偽善の裏にアブラムシ」
「俺の優しさはアブラムシか」
「眞一郎の怪我の痛みもアブラムシ」

私と同じように痛む胸を手のひらで撫でる。

「眞一郎はハロゲンランプ?」
「どうかな。少なくとも直流ではないかな」
「じゃあ、点滅してるのね」

光ったり、消えたり。そんな慎一郎が好き。

「……乃絵の笑顔もさ」
「え?」
「点いたり消えたりして、忙しないよな」

知れず、微笑んだ顔を見られて赤面する私。

「もうこの先一生、笑わないわ」
「そりゃ困る」
「どうして慎一郎が困るの?」
「だって俺は、石動乃絵の笑顔が……」

残り少ない電池みたいに、光が消えかかる。

「特別に眞一郎の前でだけ笑ってあげる」
「……いいのか?」
「よくないわ。特別なことは罪深いもの」

私は仲上慎一郎の特別になりたかった。特別になれなかった。特別になりたいという気持ちが他人を傷ついた。そして私も傷ついた。

「でもいいの。私が、その罪を背負うから」
「それは格好つけてるのか?」
「違うわ。バチバチチカチカしてないもの」

これは素朴な輝き。私の秘めた想いだから。

「石動乃絵の胸に秘めたアブラムシ、か」
「アブラムシは光らないわ」
「そうだな。ただそこに居るだけだ」

仲上慎一郎みたいに。ただそこに居るだけ。

すみません
>>3レス目の、他人を傷ついたは、他人を傷つけたの間違いでした

以下、続きです

「慎一郎の胸の中にも居る?」
「ああ……増えたり、減ったりしてる」

私とおんなじ。増えたり減ったり。点滅だ。

「私も発光ダイオードみたい?」
「ああ。乃絵はその……す、素敵だ」

それは精一杯の褒め言葉で。私は点灯する。

「眞一郎」
「なんだよ……乃絵」
「発光ダイオードは寿命がとても長いの」

いつまで輝き続けるのだろう。熱を持たず。

「フィラメントみたいに切れることはない」

ずっとずっと好きで。ずっとずっと苦しい。

「それでも私は、この輝きを大切にしたい」
「……そうか」

眞一郎は謝らなかった。その優しさが響く。

「ところで眞一郎」
「そろそろ帰るか?」
「実はいま私、お腹が発酵ダイオードなの」
「……そうか」

眞一郎は覚悟を決めた顔をしてぶつかった。

「実は俺もお腹の調子が発酵ダイオードだ」
「そう。奇遇ね」
「天空の食事を食い過ぎたかもな」

グミの実に整腸作用がある。そこが好きだ。

「我慢はよくないわ」
「乃絵こそ」
「私が出したら、眞一郎も出してくれる?」

訊ねながら懇願する。青い顔で見つめ合う。

「まるで、青色発光ダイオードだな」
「赤い実を食べたのに、何故かしら」
「理由がわかればノーベル賞獲得だ」

馬鹿みたい。優しい。胸が。お腹が、痛い。

「後ろ、向いてるから」
「眞一郎」
「なんだよ。見ないから安心しろって」

眞一郎の背中に抱きつく。パンツを脱いで。

「見ちゃ、だめだから」
「わ、わかってるよ……」
「私のお腹の中に、赤色アブラムシ」
「何言ってんだよ……ほら、さっさとしろ」

ぎゅっと抱きしめても背中だから。切ない。

「眞一郎。やっぱり私は熱を持ってる」
「当たり前だろ。同じ人間なんだから」

私は人間で眞一郎も人間。お腹を押したら。

「あっ!」

ぶりゅっ!

「フハッ!」

すーぐそこーに眞一郎ーの発酵ダイオード。

「あ、あああ、あああああああっ!?!!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

チカチカバチバチ。Emittingして点滅する。

「ふぅ……いっぱい出たね、雷轟丸」
「雷轟みたいな愉悦を出したのはそっちだ」

哄笑して、脱糞して。汚いけど、清々しい。

「また2人で天空の食事が食べたいわ」
「まあ……たまには、悪くないかもな」

罪深い特別も2人で分け合えば消化出来る。

「お腹の痛みも胸の痛みも、大差ないわ」
「そこは大差をつけて欲しいところだな」

こうして外に出せばスッキリして後悔する。

「発光ダイオードはさ」
「なに?」
「どうして光るんだろうな」

恐らく、原理ではない。彼が訊きたいのは。

「きっと届けたい人が居るから」
「メッセージみたいなものか?」
「そう。点滅して、知らせるの」

通電していることを。好きだということを。

「眞一郎には伝わった?」
「乃絵こそ伝わったか?」
「光の速さで、伝わった」
「そうか。なら、嬉しい」

恋人ではなくても特別に想ってくれている。


【true sig"anal"】


FIN

古いアニメだな

>>3レス目と>>5レス目で慎一郎となってる箇所があります
正しくは眞一郎でした
確認不足で申し訳ありません

最後までお読みくださり、ありがとうございました!

>>8
たしかに古いですが、素晴らしいアニメです
月日が流れてから観直すのもまた良いものですよ

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