サイト「好きだ」ルイズ「私も、あんたが……サイトが好き」 (16)

「こ、この私を、誰だと思ってるのよ……」

双月が夜空に浮かぶハルケギニア大陸の中心に位置するトリステイン王国。王族と貴族が統治するその国では、身分の格差が著しい。

「名門中の名門。ヴァリエール家の息女だってことが、あの平民にはわからないようね」

名門、ヴァリエール家の息女。ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールは頭にきていた。代名詞の桃色髪が怒髪天を衝いていた。まるでスーパーサイヤルイズであった。

「メイドの癖に、貴族の犬を誑かして……」

怒り心頭のルイズがここまで桃色頭にキテいる原因は、シュヴァリエ付きのメイドとして使い魔に傅く、あのド淫乱メイドが原因だ。

「そもそもあの犬っ……シュヴァリエ風情がご主人様を蔑ろにするなんてありえないんだから! 守るべきはこの私でしょうがっ!!」

バンバンッ!と枕をぶん殴りながら、ルイズは昼間の出来事を思い出す。貴族の男の子にお尻を触られたシエスタを庇い、刃向かった使い魔のサイトは決闘騒ぎを起こし、あわや死にかけながらも辛くも勝利を収めたのだ。

「勝てばいいってもんじゃないのよ! この私が! 主人である私が! どれだけ心配したと思ってるのよ!! にも関わらずあの犬ぅっ!」

ご主人様には目もくれず、シエスタに駆け寄ったサイトはそのまま気を失ってメイドの豊満な胸に受け止められた。そこまではいい。決闘の動機も含めて、まだ理解出来る。

「ようやく意識を取り戻したかと思ったら、お尻を触られたシエスタに上書きするってほざいて揉みしだくってなんなのよ、もう!」

上書きしてくださいとサイトにねだったのはシエスタなのだがその現場を目撃してしまったルイズにとっては経緯などどうでもよく、再びサイトが気を失うまで鞭を振るった。

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「どうして私以外にも優しくするのよっ!」

ルイズはそこが不満であった。仮にも使い魔として主人に忠誠を誓い、剣を捧げたのならば一途であるべきだ。ところがどっこい、平賀才人と名乗るあの犬は、あっちに美少女が居れば尻尾をふりふり、こっちにお姫様が居れば尻尾をふりふり、おまけにルイズよりも小さい子にも尻尾を振る始末。去勢せねば。

「でも……見て見ぬふりはして欲しくない」

仮にお尻を触られたシエスタを無視してルイズのそばに居るような男ならば、シュヴァリエの称号は返上しなければならない。サイトがしたことは気高いことだと、頭では理解出来る。理解出来るから、少し待って欲しい。
ちゃんとステイして、ルイズがやれと命じてから決闘なりなんなりして欲しかった。ひとりで突っ走って、怪我して、死にかけるなんて、それは勇気ではなく、無謀でしかない。

「男の子って、なんでああなのかしら……」

ひとしきり暴れてフラストレーションを発散したルイズは急にしおらしくなって、羽毛がはみ出た枕を抱きしめた。使い魔を想って。

「死んじゃったらどうするのよ……私のことを守るって言ったのに。ばかっ! ばかっ!」

口では罵りながらも、ルイズは涙声だった。
本気で心配したのだ。サイトは大切な人だ。
彼が居なくなったら、困る。泣いてしまう。

「……バカで悪かったな」
「サイト!」

涙が零れ落ちる寸前で、部屋の扉が開き、申し訳なさそうな使い魔がそこに佇んでいた。

「お前な、少しは加減しろよな……」
「う、うるさい! あんたが悪いんじゃない! 勝手に飛び出して行って、怪我して、私を独りにして! わ、私が、どれだけ、あんたを」

口を尖らせて文句を口にする程度には回復したサイトを叱りつけるも、ルイズは怒りよりも安堵感が募り、ポロポロシクシク泣いた。

「わっ!な、泣くなよ! もうしないから!」
「嘘っ! そう言ってまたやるんだもんっ!」
「やらないよ。もうルイズを独りにしない」
「嘘だもん。あんたは私を置いていくもん」
「嘘じゃないよ。これからはずっと一緒だ」

天蓋付きの寝台の上で泣きじゃくるルイズの隣りに座ったサイトが優しく囁いて肩を抱いた。こてんっと、ルイズの桃色頭が傾いた。
サイトの肩を頭を乗せながらルイズは思う。

嫌だわ、と。嫌がる素振りを一切見せずに。

「あんたはメイドのほうが好きなんだもん」
「シエスタは大切だけどルイズも大事だよ」

ああ。こうやって、また言いくるめられる。
ずるいと思った。だって抗えないんだもの。
優しく頭を撫でられて、たぶんキスされる。

「ルイズが大事だって、証明させて欲しい」
「やだ。キスなんて私、したくない。やだ」

わかっているのに、抗えない。待っている。

「ルイズ」
「な、なによ……するなら早くしなさいよ」
「ちょっと失礼」
「えっ? あ、あんた、なにを……きゃっ!」

ベッドに押し倒されて困惑。なにすんのよ。

「シエスタのお尻触って、ごめん」
「絶対許さないから」
「すまねえ、すまねえ」
「何度謝ってもだめ。さっさと退いて」

覆い被さって謝罪するサイトの熱い眼差しから逃れるように、目を逸らしながらルイズは拒絶した。けれど、押しのけたりはしない。
サイトはこれはイケると思った。イケるぞ。

「ルイズ、俺の目をみろ」
「やだ。あんた、血走ってるし」
「そんくらい本気なんだよ」
「メイドにも本気だった癖に」
「うっ……」

図星を突かれてサイトはたじろいだ。しかし、認めるわけにはいかない。メイドに本気だと認めれば後ろめたさは感じずに済むかも知れないが、ルイズが悲しむ。それは困る。

「本気ジャナイヨ」
「じゃあ、メイドとは遊びなの?」
「あ、遊びでもないよ……」
「それって、浮気よね?」

ルイズはだいぶ手強かった。イケるかもと思っていた自分は間違っていた。強敵である。
ならば、覚悟を決めなければ。決死の覚悟。

臆せばフラれる。勇気。そう、勇気を出せ。

「浮気なんて、気にすんなよ」
「あ、あんた、とうとう開き直っ」
「うるせえ! 俺はルイズが好きだ!!」

ぼっと、ルイズの桃色頭が沸騰した。好きって言われた。熱い眼差しで、私が好きって。

「好きなのに、浮気するの?」
「もうしない」
「嘘」
「ああ、嘘かも知れねえ! それが俺だ!!」

文句あっかと、言われて、文句はなかった。

「そうよね……それがあんたよね」
「こんな俺で、申し訳ない」
「ぷっ……いいわよ。そんなあんたでも私の使い魔で、大切な人だもの。だからいいわ」

吹っ切れたルイズは目を閉じてキスを待つ。

「ルイズ……その、本当にいいのか?」
「いいって言ってるじゃないの。早くして」

サイトは迷う。開き直ってみたら、案外ルイズは許してくれた。しかし、良心が痛んだ。

「や、やっぱり今日はやめとく?」
「はあ?」

今更なにをほざくのか。ルイズは催促した。

「早くしなさい」
「で、でも、俺には反省が必要かと」
「反省してもまた浮気するんでしょ?」
「ウン」

ウンじゃない。苛々する。でも、我慢する。

「ねえ、サイト。あんたは私のなに?」
「つ、使い魔……じゃなくて、犬ですワン」
「犬よね。ならちゃんと戻ってくるでしょ」

ルイズは理解した。帰りを待つ役回りだと。

「戻って来なかったら、許さないから」
「戻ってくるよ、必ず。絶対。命懸けで」
「約束だから。今すぐキスして誓いなさい」

ちょっと重いかも知れないけど、誓わせる。

「わかったよ。ルイズが望むなら、誓うよ」

卑屈を克服したサイトは使命感に駆られていた。女の子にここまで言わせたのだ。幸せにしてあげなければならない。それが義務だ。

「ルイズは俺が必ず幸せにするから」
「ふ、ふえっ!? あんた、誓うってまさか」

ルイズは勘違いしていた。自分がサイトのお嫁さんになる妄想で桃色頭がいっぱいになってしまう。家は小さくてもいいから、2人でのんびり過ごしたい。お休みの日は寝室で一日中くっついていたい。いやらしい手を払い退けながら、たまに許してたら、すぐに子供が出来ちゃったりして。さ、ささ、3人も産むのかしら。それとも、もっと沢山? サイトはきっといつまでも愛してくれる。幸せだ。

「はい、ちょっとごめんよ」
「きゃっ!? な、なにするのよ!?」
「ルイズを幸せにするんだよ」

ひとりで盛り上がっていあルイズは、突然うつ伏せにさせられて混乱した。なんなのよ。
完全に煮えた桃色頭が一気に冷めてしまう。

「幸せにするって、なにするつもり?」
「キス」
「だったらなんでうつ伏せにするの?」
「ルイズのお尻にキスするから」
「は?」

なにかしら。犬の言語はよくわからないわ。

「どこにキスするの?」
「お尻」
「なんで?」
「シエスタが幸せそうだったから」
「したの? メイドのお尻に? キスを?」
「ウン」

ウンじゃない。ふざけんな。否定しなさい。

「あんた正直に言えばいいって思ってる?」
「嘘をつくよりはいいかなって」
「そうね。でも時には優しい嘘をついて欲しい時もあるの。たとえば自分の使い魔がメイドのお尻にキスした時とかね。わかる??」
「わかった。冗談ダヨ」

駄目だこいつ。嘘をつけない。でもそれが。

「まあ、それがあんたよね」
「ごめんね」
「謝るくらいなら最初からしないでよ」

はあ、と嘆息して、ルイズは許してあげた。

「仕方ないわね。許してあげる」
「いいの?」
「いいわ。代わりに、もっと幸せにして」
「もっと?」
「あのメイドよりも、もっと幸せにして」

サイトは頭を棍棒でぶん殴られた気持ちだった。目が覚めた。浮気はいけないことだ。その罪を償うには、浮気相手よりも本命を幸せにする必要がある。サイトは罪を償うべく。

「ルイズ、剥くよ」
「いちいち言わないで」

ぺろんっとルイズを剥く。かわいいお尻だ。

「かわいいよ」
「お、お尻を褒められても嬉しかないわよ」

口を尖らせつつも嬉しそうだ。こ、この女。貴族だかなんだか知らねえけど、なんていやらしいんだ。こんな桃尻見せつけやがって。

「えいっ」

ぱちんっ。

「きゃっ」
「あ、ごめん」
「な、なんで叩くのよ!?」

思わず叩いていた。完全に無意識だった。ルイズの生尻は瑞々しくて、産毛でサラサラ。
驚きの白さの尻たぶに、赤い才人の手の跡。
たとえるならば、そう。大陸の端っこでも世界の中心であるトリステイン王国みたいな。ルイズのお尻は世界地図だ。

「ご主人様を叩くなんて信じられない!」
「だって、ご主人様がいやらしいから」
「い、いい、いやらしくないわよ!?」
「だってほら、叩かれて悦んでるだろ」

完全に煮えたサイトの発言だったが、ルイズは否定出来なかった。何故ならば、ルイズも煮えていたから。ジンジンして気持ちいい。

「もっと叩いて欲しいのか?」
「そ、そんなわけ……ないじゃない」

欲しがっているのはすぐにわかった。けれどサイトは叩かない。ルイズは守るべき主人。
さっき叩いたのは、ルイズのため。そうだ。

「緊張、ほぐれたか?」
「バカ……優しくしないでよ」

何言ってんだか。呆れつつも、煮えたぎる。

「少しだけ広げるよ」
「やっ……み、見ないで」

サイトは見た。サイトに見られた。ルイズのお尻の穴。誰にも見せたことない秘密の穴。
ルイズは恥ずかしかった。サイトは興奮した。感動して感激するほどに、綺麗だった。

「綺麗だよ」
「い、言わないで」
「ルイズは尻穴もかわいいんだな」
「や、やだ……恥ずかしい」

恥ずかしいのは台詞なのだが、当の本人たちは燃え盛っている。それが若さなのである。

「メイドのは見たの?」
「見テナイヨ」
「そう。見たのね」

サイトが見たとしてもルイズは気にしない。

「今は私だけを見なさい」
「ああ。じっくり見させて貰う」

サイトはじっくりマジマジと。文字通り穴が空くほど見た。ルイズの穴を。か、かか、かっぽじってやりたい。でもダメだ。我慢だ。

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「ルイズ……痛くしないから」
「優しくしてくれる?」
「もちろん」

サイトはガンダールヴ。ルイズを守る剣であり盾だ。だから痛くしない。ルイズを傷つけない。余所見して泣かせたとしてもその度に泣き止ませる。ルイズのことが好きだから。

「好きだ」
「私も、あんたが……サイトが好き」

自分も好きで相手も好き。それが、幸せだ。

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「ルイズ、ルイズ、ルイズ!」
「ああ、だめよ、サイト! そんな激しいっ」

サイトは完全に火がついた。萌え盛った。

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「ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!?あぁああああ…ああ…あっあっー!あぁああああああ!!!ルイズルイズルイズぅううぁわぁああああ!!!?あぁクンカクンカ!クンカクンカ!スーハースーハー!スーハースーハー!いい匂いだなぁ…くんくん! んはぁっ!ルイズ・フランソワーズたんの桃色ブロンドの髪をクンカクンカしたいお!クンカクンカ!あぁあ!!?間違えた!モフモフしたいお!モフモフ!モフモフ!髪髪モフモフ!カリカリモフモフ…きゅんきゅんきゅい!!?小説11巻のルイズたんかわいかったよぅ!!あぁぁああ…あああ…あっあぁああああ!!ふぁぁあああんんっ!!?アニメ2期決まって良かったねルイズたん!あぁあああああ!かわいい!ルイズたん!かわいい!あっああぁああ!?コミック2巻も発売されて嬉し…いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!?ぐあああああああああああ!!!コミックなんて現実じゃない!!!!あ…小説もアニメもよく考えたら…?ル イ ズ ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い?にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!?そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!ハルケギニアぁああああ!!?この!ちきしょー!やめてやる!!現実なんかやめ…て…え!?見…てる?表紙絵のルイズちゃんが僕を見てる??表紙絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!ルイズちゃんが僕を見てるぞ!挿絵のルイズちゃんが僕を見てるぞ!!?アニメのルイズちゃんが僕に話しかけてるぞ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!?いやっほぉおおおおおおお!!!僕にはルイズちゃんがいる!!やったよケティ!!ひとりでできるもん!!!?あ、コミックのルイズちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!?あっあんああっああんあアン様ぁあ!!セ、セイバー!!シャナぁああああああ!!!ヴィルヘルミナぁあああ!!?ううっうぅうう!!俺の想いよルイズへ届け!!ハルケギニアのルイズへ届け!」

「ああっサイト! 嬉しい、私も愛してる!」

サイトはルイズのお尻にちゅっちゅっしながら世界を飛び越えて、伝説のコピペを口にした。ルイズを愛していた。普通ならばドン引きだがサイトを愛するルイズは聞き流した。

「ルイズ、ルイズ!」
「やっ……舌は挿れちゃだめぇっ!」
「なんで舌を挿れたらダメなんだ?」
「だって、出ちゃうもん」
「何が出るって? ん? 言ってみ?」

よせばいいのに完全に沸いたサイトは沸いた発言をして、同じく沸いているルイズも美少女として貴族として、あるまじき単語を口にしてしまう。鈴を転がすような美しい声で。

「……うんち」
「お?」
「うんち出ちゃうかららめぇえええっ!?」
「フハッ!」
「おっ! ようやくお目覚めか、相棒っ!!」

待たせたな、出るフリンガー。いざ、参る。

「わ、嗤わないでよ! バカ犬ぅうううっ!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

双月まで届けと言わんばかりに、高らかな哄笑は学園中に響き渡り、愉しそうなサイトさんの愉悦を聴きながらシエスタはやっぱりミス・ヴァリエールには敵わないなと思った。

「もう一度聞かせて。あんたは私のなに?」
「なんでもいい。ただ俺は君を幸せにする」

サイトと出会って、ルイズは幸せになれた。

「ゼロの私に幸せをくれて……ありがとう」
「いいよ。俺は、そのために来たんだから」
「それはあんたが、ガンダールヴだから?」
「違うよ。俺は平賀才人。ただの異世界人」

使い魔だろうが、犬だろうが。どんな風に扱われても良かった。伝説だろうが。英雄だろうが。どうでも良かった。ゼロのルイズを幸せにするために、俺はこの地にやってきた。


【ゼロの使い魔 - 幸せの使者】


FIN

このSSまとめへのコメント

1 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 20:53:35   ID: S:P7wNKA

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2 :  MilitaryGirl   2022年04月19日 (火) 22:09:34   ID: S:KeV9T9

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3 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 00:24:42   ID: S:NQ0rcb

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4 :  MilitaryGirl   2022年04月20日 (水) 02:08:35   ID: S:1zZ2uZ

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