「やあ、遠路遥々よく来てくれました」
「あ、どうも。ご丁寧に……」
南海べオルスカの孤島。
そこにアビスと呼ばれる縦穴が発見されたのは1900年前の大昔。当時の英雄達は探窟家としてアビスの全容解明に乗り出したが最深部まで潜った者は誰一人帰っては来なかった。
アビスの底には何があるのか。
それを知るべく迷宮都市オラリオの新鋭冒険者に白羽が立った。ベル・クラネルである。
「流石は神々が降臨せり冒険者が集う街、オラリオの冒険者。このアビスの五層まで軽々下りて来られるとは……本当に素晴らしい」
「そ、それほどでも……」
深界第五層、なきがらの海。
ベル・クラネルは''白兎の脚"の二つ名が示すようにあっという間にアビスを駆け抜けた。
道中、見たことがない原生生物やショタコンの大女に出くわし苦戦を強いられたが彼のポテンシャルは深界まで通用するものだった。
「ああ、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。私はボンドルド。アビスの探窟家、『黎明卿』と人は呼びます」
「黎明卿……良い二つ名ですね」
「はい。その名にそぐわぬよう、日々探窟に勤しんでおります。あらゆる犠牲を捧げて」
「っ……!」
ゾクリと、戦慄が走る。ボンドルドと名乗ったその男の言葉に滲み出る"狂気"を敏感に感じ取ったベル・クラネルは腰のナイフに思わず手を伸ばしかけたが、思い留まった。
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「僕は……ベル・クラネルです」
「おや? もしやレコード・ホルダーのベル・クラネルでしょうか? これはこれは……」
ベルが名乗るとボンドルドは震えた。仮面を被っているので表情は伺いしれないが、どうやら喜んでいるらしく、賞賛を口にした。
「素 晴 ら し い」
「僕のことを、知っているんですか……?」
「もちろんですとも。そしてもっと知りたい」
「っ……それ以上近づくな!」
今度こそ腰のナイフに手をかけ、にじり寄るボンドルドへの警戒心を露わにするベル。
ボンドルドはそれ以上接近することを諦め、背後に隠れる少女を自分の前に出した。
「ほらプルシュカ。本物の英雄候補ですよ」
「英雄……?」
「はい。彼はもうすぐ世界を救い英雄となる素質を持つ少年です。仲良くできますか?」
ボンドルドの娘、プルシュカはベル・クラネルを見つめた。彼女の目には、自分よりも少し年上のヒョロい少年にしか見えなかった。
「ほんとに……?」
「本当ですとも。彼は神の祝福を得ている」
ファルナ。つまり神の恩恵のことをボンドルドは祝福と呼んだ。そこに再び狂気的な"何か"を感じて、ベルは警戒を強めた。怖い。
「あたし、プルシュカ」
「君はボンドルドさんの……?」
「うん。あたしはパパの娘」
娘。その単語で少しだけほっとした。目の前の男がモンスターではない証明であるとベルはそう捉えた。故に、少しだけ警戒が緩む。
ベルは五層の番人である、黎明卿に尋ねた。
「ボンドルドさん。下に降りるには……?」
「ラストダイブに使う祭壇は"白笛"で起動するものです。白笛は本人でしか使えません」
ボンドルドが第六層への降下手段について説明した。白笛。それが必要らしい。当然ベルはそんなものを持っていない。だからこそ。
「部屋を用意しておきました。少し休まれて、考えを巡らせてみては如何でしょう? プルシュカ、案内出来ますね?」
「うん! こっち! ついてきて!」
「え? う、うわ! 引っ張らないで!?」
「早く早くぅ!」
プルシュカに引っ張られて部屋に連れて行かれるベル・クラネルの背中を。その背中に刻まれている恩恵という名の祝福を透かすように見つめながら、ボンドルドは独りごちる。
「是非、欲しい」
不穏なその呟きは、なきがらの海の波音にかき消されて、静かに消えた。夜明けは近い。
「地上のこと、聞かせて!」
「うん、いいよ。何から話そうか……」
部屋に通されて、ひと息吐く暇もなく、ベルはプルシュカに質問責めされた。彼女はどうやら、このアビスから出たことがないらしく、外の世界に興味津々だった。かわいい。
「へえー! ベルは神様の子供なんだ!」
「うん。僕はヘスティア様の子供だよ」
「あたしはパパの娘だよ!」
「そうだね。お父さんは優しい?」
「うん! 時々パパ棒触らせてくれるよ!」
「パ、パパ棒……?」
プルシュカと話していると、ボンドルドという人がどういう人物なのかいまいち掴みにくい。虐待されたり育児放棄されているわけではないらしいが、パパ棒なんて意味深な単語にドキリとする。善人か悪人かわからない。
「ねえ、ベル」
「なんだい、プルシュカ?」
「もしよかったら、あたしも、その……」
よもやパパ棒を触らせてくれという流れではないとベルは判断して、このアビスで出会った可愛らしい女の子に冒険者として接した。
「ボンドルドさんが許可してくれるなら、僕と一緒に冒険に出よう。僕が頼んでみるよ」
「ほんとに!? 約束だからね!!」
「うん。約束ね」
指きりをすると、満足したのかプルシュカは自室に戻った。ひと眠りしようかと思ったが、ベルはこの基地を探索することにした。
「眠れませんか?」
祭壇の中央には光の柱があって、それはまるでオラリオのバベルのようでベルは見上げていた。声をかけられて振り向くと彼が居た。
「ボンドルドさん、あの光は……?」
「あれは黎明の光。夜明けの光です」
「黎明の、光……」
闇に沈むこのなきがらの海を照らす、夜明けの光。兆し。ここから下は、世界が異なる。
オラリオの夜明けに、ベルは思いを馳せた。
「この基地はかつて祭祀場の遺跡でした。決して戻れぬ六層以降に挑むということは奈落にその身を委ねるということ。ここはその準備、儀式を執り行う場所でもあったのですよ。供物は誰でも良いわけではありません。使用者に全てを捧げる確固たる意思がなければ、生命の紋が適合しないのです」
「何を、言っているんですか……?」
「白笛の原料は、人間です」
唐突に明かされた白笛の秘密に動揺を隠せないベルに対して、ボンドルドはそれ以上踏み込もうとはせず、話題を変えた。朗らかに。
「ベル・クラネル。家族とは血の繋がりのみを言うのでしょうか? 私はそうは考えてません。家族とは他人同士が出会い、築き上げるものなのですよ。慈しみ合う心が人を家族足らしめるのです。血……オラリオから来たあなたにとっての"イコル"は、その助けに過ぎません」
ボンドルドの言葉にベルの脳裏に"イコル"を与えてくれたヘスティアの顔が浮かんだ。
「愛です。愛ですよ、ベル・クラネル」
愛。ヘスティアの愛。それを背中に感じた。
「プルシュカのことを愛してるんですね」
「はい。ひとえに彼女に愛されるために」
微かな違和感。何かが妙だとベルは感じた。
「プルシュカは冒険に出たがっています」
「そうですね。そしてその機会が訪れた」
あっさり許可を得た。しかしやはり違和感。
「ボンドルドさん。あなたは、何を……?」
「おっと、その前に」
一瞬だった。一瞬の気の緩み。僅かな、隙。
「少し、席を外しますよ」
「え?」
ボンドルドは落下した。真っ暗な奈落へと。
「ボ、ボンドルドさんっ!?」
「はい、私を呼びましたか?」
身を乗り出して叫んだベルの背後からつい今しがた落下した筈のボンドルドの声がした。
「ボンドルド、さん……?」
「ああ、本当に素晴らしい冒険でしたねえ……プル"スカ"」
ボンドルドの尻穴から、プルスカが溢れた。
「プルシュカは、あなたを想って……」
「おや? おやおやおや。目に入れても痛くない愛娘を尻に挿れたことがそんなにおかしいですか? さあ、次の二千年へ踏み入る準備が出来ました。共に夜明けを見届けましょう」
「プルシュカを、返せッ!!」
「フハッ! そうこなくては」
尻穴からプルスカを垂れ流すボンドルドは、完全にモンスターで、倒すべき敵だった。
「"スカ"ラグモス」
「ッ!!」
闇夜を引き裂く閃光。枢機の光を、躱した。
「素晴らしい。素晴らしい反応速度。それでこそ、"白兎の脚"。それでこそ、神々の祝福を授かりしオラリオの冒険者。大英雄の器」
「ファイアボルト!!」
ベル・クラネルの手のひらから枢機の光が走る。なんなく躱すボンドルド。彼は讃える。
「素晴らしい素晴らしい。ギャングウェイ」
「ッ!?」
複雑に乱反射する光線をまるで兎のように飛び跳ねて躱すベル。そして、背後を取った。
「ああ、なんと素晴らしい」
「これで最後だ、ボンドルド。あなたに僅かでも娘への愛が残っているなら、白笛を鳴らすんだ。僕は……下へ、先に進まないと!」
ベルは懇願した。プルシュカを想いながら。
『あたしの名前には、夜明けの華って意味があるんだよ! パパがつけてくれたんだ!』
「あなたという家族を彼女は愛していた!」
ボンドルドも尻のプルスカのことを想った。
『喧嘩しちゃダメだよ、パパ』
悦びしか知らぬ者から祈りは生まれません。
便秘を呪う苦しみの子。君にしか出来ないことがあります。パパです。私がパパですよ。
『仲直りして、一緒に冒険に行こ?』
コロンッと、尻から尻笛ならぬ白笛が出た。
「フハッ!」
プルスカ……好きなひとができたのですね。
たった今から君の世界は変わっていきます。
今日が君の誕生日。君の冒険の始まりです。
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
大丈夫。私の精神はもっと深いところから来ました。きっとすぐに戻ってきます。だからどうか、良い子でパパの帰りを待ちなさい。
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
愉快ですね。こんなに嗤ったのは久しぶりです。動かざるオーゼンの大便を顔面受けした時以来でしょうか。おっと臭ってきますね。
「もういい……僕はもうあなたに頼まない」
狂ったように哄笑するボンドルドに見切りをつけたベル・クラネルは焼却処分を決めた。
ボンドルドは死を受け入れていた。しかし。
「パパ!」
「プルシュカ!?」
プルシュカは生きていた。パパに駆け寄る。
「パパ! パパ!?」
「おやおや。あと少しで私は倒されていたのに。どうして出てきてしまったのですか?」
「なんで倒されないといけないの!?」
「プルシュカ。冒険とはそういうものです。倒すべき敵が存在してそれを乗り越えることで先に進める。そうでなくてはいけません」
ボンドルドはあえて敵として立ち塞がった。
「ボンドルドさん……お尻のプルスカは?」
「これは文字通りプルシュカのスカ。つまり愛娘の大便です。それを私は尻穴に詰めた」
「あなたは……狂っている」
「正気などアビスの探窟には不要ですので」
仕方なく、ボンドルドは種明かしをした。
彼は愛する娘の糞を自らの尻穴に詰めた。
人間性をすり減らし、そして祝福を得た。
「パパのことを悪く言わないで!」
「プルシュカ……」
「私は平気です。慣れていますので」
彼は白笛、黎明卿。新しき、ボンドルド。
時に冷酷に時に残酷に。奈落を探究する。
ロクでなし。人外。蔑みには慣れている。
「ベル・クラネル。それはあなたの白笛です」
「僕の、白笛……」
「私の愉悦は供物として認められたようです」
「あなたを犠牲にして、僕は……」
「とんでもございません。君たちの祈りが、自らの道を選び進もうという切なる願いが、私の愉悦に勝ったのです」
この世界に神が居るならば見届けてくれる。
「君たちがこの先に進むことこそ、私の新たな憧れです。どうか、どうか……君たちの旅痔に溢れんばかりの、下痢便と祝福を」
「パパ……くちゃい」
「ああ本当に。プルスカはかわいいですね」
わけのわからないことを言うボンドルドに見切りをつけて、ベルとプルシュカは旅立つ。
「生きて糞をする。脱糞と祝福のその全て」
旅立つ2人の背を見送りながら、彼は祈る。
旅痔の果てに何を選び取り、終わるのか。
それを決められるのは、挑む者だけです。
「生命の肛門が適合して、本当に良かった」
もっとも暗い夜明け前の闇を乗り越えて。
【ダンジョンでプルスカと出会うのは間違っているだろうか】
FIN
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