キョン「それで、お前も来ちまったのか?」友崎文也「あ、はい。友崎文也と申します」 (10)

人は心が愉快であれば終日歩んでも嫌になることはないが、心に憂いがあればわずか一里でも嫌になる。
人生の行路もこれと同様で、人は常に明るく愉快な心をもって人生の行路を歩まねばならぬ。

-ウィリアム・シェイクスピア-

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1631024461

「ねえ、友崎くん」
「どうした、日向」
「涼宮ハルヒさんって、知ってる?」

いつものように課題の進捗を確認した後、弱キャラの友崎文也は人生の師たる完全無欠リア充の日向葵にそんな質問をされたらしい。

「涼宮ハルヒって、ラノベの?」

友崎文也は正真正銘のゲーオタであり、別段ラノベ界隈に詳しいわけではなかったが社会現象ともなったライトノベルの金字塔のタイトルくらいは記憶していたらしく、そんな勤勉な彼に日向葵は満足気に頷き、肯定した。

「おにただ」

ちなみに『おにただ』とは、『鬼のごとく正しい』の略であるとのことだが、鬼は基本的に悪いイメージがあるのでそれを正しいと言われても俺としてはいまいちピンとこない。

「あなたは彼女ことをどう思う?」
「俺もそんなに詳しいわけじゃないけど、断片的な情報だけを聞くとチートだと思うよ」
「さすがゲーマーね。それは的確な認識よ」

涼宮ハルヒはチートである。様々な意味で。
今更、そんなことを再確認するまでもない。
これはそんなチーターハルヒとチート級リア充が世界線を越えて邂逅し、己の信念をぶつけ合わせる迷惑極まりない物語である。

「というわけで、初めまして」
「いきなり何なのよ、あんたたち」
「私は日向葵。別の世界から来ました」

さて、お待ちかねの本題に移ろう。
前置きは先述した通りであり、現在、SOS団の部室には珍しく客人が訪れていた。
自称、異世界人。日向葵さんと、それから。

「それで、お前も来ちまったのか?」
「あ、はい。友崎文也と申します」
「俺も自己紹介したほうがいいか?」
「いえ、キョンさん……ですよね?」

ハルヒと日向さんがバチバチやり合っているのをよそに、なごやかな自己紹介を交わす俺と友崎氏。

「そのあだ名は不本意なんだが……まあ、いいさ。好きに呼んでくれて構わない」
「すみません……本名を知らなくて」

別に隠しているつもりはないんだがな。
何せどいつもこいつもあだ名でばかり呼ぶものだからすっかり定着しちまって、もはや本名を名乗る必要すらないときた。やれやれ。

「せっかくだから、寛いでいってくれ」
「あ、どうも。突然押しかけてすみません」
「なに、気にすんな。遠慮はいらん。ああ見えて、ハルヒの奴も嬉しそうだからな」
「そ、そうなんですか……?」

あいつの態度は裏腹だから一見すると刺々しくても、俺から見たらかなりの上機嫌だ。

俺が友崎氏と談笑している最中も涼宮ハルヒの追求は続く。

「別の世界からこの部室に来たわけ?」
「はい。信じられないかも知れませんが」
「ふん。要するに異世界人ってわけね? ま、いいわ。特別に信じてやろうじゃないの!」

何を勿体つけてやがるのやら。
本心では異世界人に興味津々な癖に。
とはいえ、それは俺も同じだ。

「なあ、友崎」
「はい。なんですか?」
「俺はこれでもラノベには詳しいほうなんだが、お前らの世界ってのはあの、『弱キャラ友崎くん』の世界で間違いないんだよな?」
「はい。間違いありません」

弱キャラ友崎くん。巻数はLv.表記の書籍。
今話題沸騰中のライトノベル作品である。
弱キャラの友崎くんがリア充である日向さんに師事を受けて成長していく姿を描く、学園ラブコメディだ。無論、俺も愛読している。

「それで? 異世界から遥々なんの用?」
「あなたにひとこと言いたくて、インスタにアップされた写真の背景から北高の所在地を特定して電車を乗り継ぎ、こうして会いに来ました」
「怖っ! それってもう、ストーカーじゃないの……まあ、いいわ。話を聞いてあげる」

やはり、日向さんは超人的な人物らしい。
インスタの写真から北高を特定するとは。
ハルヒはネットリテラシーを学ぶべきだ。

「単刀直入にお尋ねします、涼宮さん。あなたは何故奇抜な言動で無闇に人生の難易度を上げるのですか? あなたのポテンシャルがあれば、人生はもっと簡単だと思うのですが」
「たしかにやろうと思えば人生なんて簡単にクリアしてみせるわ。でもね、ダメなの」
「ダメとは?」
「だって、そんなのつまんないじゃない」

出た。ハルヒのつまらない禁断症状。
北高に入学直後の憂鬱な顔を思い出す。
しかしながら、今なら別の見方も出来る。

「なあ、ハルヒ」
「なによ、キョン」
「お前がつまらなさを感じていたのは周囲に馴染めずに孤立していたからじゃないか?」

孤立とはつまり、ぼっちと同義である。
ぽつんと独りで居れば当然つまらない。
そこが根本的な理由ではないだろうか。

「たしかに周囲から孤立していたことは否定しないわ。でもあれは私が望んだことだから、あんたの指摘には当たらない。そもそも私は普通の人間と和気藹々とすることがつまらなくて、自ら孤立を選んだのよ」
「普通の人間と和気藹々がつまらない……」

日向さんは何やら考え込んでいる様子。
まあ、ハルヒの言い分は筋が通っている。
こいつとて、なにもこの世に生まれた瞬間から孤高であったわけではなく、ある日ある時、ふと周りの人間に興味を失ったのだ。

思春期を拗らせた者の特有な症状である。

「日向葵さん、だっけ?」
「はい。葵でいいです」
「なら私のことも特別に名前で呼ぶことを許すわ。葵さん。あなたも周囲と『ズレ』みたいなものを感じてる筈よ。図星でしょ?」
「それは……」

詰問されていた筈がすっかりハルヒペースになっているのはカリスマ性なのだろうか。
いや、日向さんにカリスマ性がないというわけではないが、やはりハルヒは別格だった。

「普通の人間が楽しめることを楽しむことが出来なくて、普通の人間が面白いと思えることが面白くなくて、つまらない。みんなが驚くようなことでも自分にとっては想定の範囲内で、退屈。葵さんもきっとそう感じてる」
「ハルヒさん。あなたは私の何を知ってるんですか? そんなに退屈そうに見えますか?」
「ええ。退屈を持て余して死にそうな顔をしてる。なまじ優秀だから手に入るものは片っ端から集めることが出来るでしょうけど、それであなたが満たされることはないわ。私の経験上ね」

つくづく凡人で良かったなと、俺は思った。

「だから、私は周りに合わせるのやめたの」
「でも、それは現実から逃避している」
「現実なんて糞喰らえよ」

糞喰らえなんて女子高生が言ってはならん。
それは男子高校生の役割であり、友崎くんは言いそうにないので俺が請け負おう。よし。

「でもなハルヒ。案外、糞を食うのも……」
「あんたは黙ってて」

やれやれ。肩を竦めると、友崎に笑われた。

「すみません。まるでラノベみたいで……」
「笑えよ。現実なんてこんなもんだ」
「でも……だからこそ、面白いと思う」

なかなか良いことを言う弱キャラだ。
この糞みたいな現実世界の楽しみ方。
それは存外、簡単なのかも知れない。

なんなら友崎が得意なゲームよりも遥かに。

「友崎。気を悪くしないで欲しいんだが……」
「はい。なんですか?」
「たとえば日向さんが放尿したとして……」
「フハッ!」

やれやれ。弱キャラは沸点が低すぎるな。
この場合は、『フハッ点』と言うべきか。
なんせよこうして愉悦は生み出せるのだ。

「ちょっと、友崎くん!?」
「ご、ごめん、日向……つい」
「私は放尿なんて死んでもしないから!」
「いや、昭和のアイドルじゃないんだから」
「なに物欲しそうな顔してるのよ! 変態!」

友崎。弱キャラ同士気持ちはよくわかるぞ。

「ふうん? ただのモブかと思ったらなかなか見どころがありそうね。キョン、やるわよ」
「やれやれ」

愉悦を漏らした友崎を畳み掛けるべく、俺とハルヒは阿吽の呼吸でタッグを組んだ。
ひらりとハルヒが膝の上に飛び乗り告げる。

「ただの『笑い』には興味ないわ」
「すまん。これ、『嗤う』とこ?」
「真の哄笑を彼らに教えて差し上げなさい」

そんな命令と共に勢いよく放尿するハルヒ。

ちょろりんっ!

「フハッ!」

ぶりゅっ!!

「フハッ!」

ちょろろろろろろろろろろろろろろろんっ!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「ええ……?」

わざわざ異世界から来て貰ったのに悪いな。
この世界はこういう仕様。おしっこ大好き。
思わず俺も大サービスならぬ大便サービス。
ドン引きしている日向葵の表情が堪らない。

「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
「フハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

俺が嗤えば、友崎も嗤う。それが摂理だ。
おしっこを滴らせるハルヒは恍惚な表情。
泣きそうな顔をしているのは普通の人間。
日向葵のようなリア充には、わかるまい。

この尿の温もりと、背徳感のハーモニー。

「ふぅ……どうかしら、葵さん?」
「あなたがたの主張は受け入れられません」
「あなたもSOS団の一員となって、我が世の春を謳歌してみない? 歓迎するわよ」
「結構です! 友崎くんはどうぞご自由に! それではお邪魔しました! さようなら!」
「あっ! お、置いてくのは勘弁して……!」

こうして異世界人は一目散に去っていった。

「ハルヒ、あれで良かったのか?」
「良いも悪いもないわよ。これからあの子たちが自分たちで切り拓いていくだけだから」

とはいえ、寂しそうなハルヒの肩を抱いて。

「なかなか面白い奴らだったな」
「ふん。まあ、そこそこ……ね」

これからあいつらが真の愉悦に目覚めることに期待しているのは俺だけではないだろう。
日向葵の放尿を早く見たいもんだと思った。

ついでに、弱キャラ友崎くんの脱糞も、な。


【涼宮ハルヒの布教】


FIN

余談ですが、みみみ派です
断然、みみみ推しです!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom