ありす「Sweet Rain」 (18)

ありす「どうしてこんな事も理解出来ないんですか!この、わからず屋!!」

桃華「そちらこそ、そこまで頑固者だとは思いもしませんでしたわ!この、薄情者!!」

ありす「もういいです!こんなのやってられません!そっちで勝手に進めていればいいじゃないですか!!」

桃華「ええ、そうさせて頂きますわ!では、練習の邪魔になりますので何処かへ行ってくださる!?」

ありす「言われなくったって、そうしますよ!!!」バタン

ルーキートレーナー「あ、あのー…」


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ベテラントレーナー「何事だ?部屋の外まで大声が聞こえていたが?」

桃華「あら失礼、お見苦しい所をお見せしましたわね。わたくしも、少し頭を冷やしてきますわ。」


ベテラントレーナー「…あんなに怒った表情の櫻井、初めて見たぞ。一体何があったんだ?」

ルーキートレーナー「振り付けの決めポーズをどうするか、お二人に意見を出して貰ったんですけど…」

ありす『ここは歌詞の意味を汲み取って、切なくクールな感じでいきましょう』

桃華『いいえ、ここは明るい旋律に合わせて、華やかに、とびっきりの笑顔で決めるべきですわ!』

ルーキートレーナー「と、意見が分かれたうえ、お互いに譲らず段々ヒートアップして…」

ベテラントレーナー「取り返しが付かなくなった、と。止めなかったのか?」

ルーキートレーナー「二人とも真剣そのものでしたし、どちらも間違ったことは言ってなかったので…。止められませんでした」

ベテラントレーナー「…まあ、起こってしまったものは仕方がない。とりあえず、二人の安全のため、プロデューサー殿に連絡を」

ルーキートレーナー「はい…」

ありす(…勢いでレッスン場を飛び出したものの、行く当てがないですね。あ、あの人は…)

ありす「こんにちは、文香さん」

文香「あら、ありすちゃん、こんにちは。ええと、レッスン着、ですか…?」

ありす「あっ…」

文香「…何やら、事情がありそうですね。これから図書館に行こうと思っているのですが、良ければご一緒にどうですか?」

文香「…なるほど、それでレッスン場を飛び出してしまった、と」

ありす「はい。何も言わずに出て行ってしまったのは、トレーナーさんには申し訳なく思ってます」

ありす「でも、最後の振り付けは絶対に譲れません。歌詞の意味を徹底的に調べましたから、哀しい曲であることに間違いないんです」

ありす「それなのに、桃華さんは、それを知ろうともしないで…!」

文香「…」

文香「ありすちゃん、『Du bist hübsch』」

ありす「えっ?」

文香「もう一度、言いますね。『Du bist hübsch』」

ありす「ええと、意味がわかりません…」

文香「今、ドイツ語で『あなたは可愛いですね』と、言いました」

ありす「えっ、そんな、いきなり…」

文香「ありすちゃんなら、照れながら否定してくると、思っていたのですが。まさか、困った顔をされるだなんて…」

ありす「いやだって、ドイツ語なんて知りませんから、そういうリアクションになりますよ…」

文香「…冗談はさておき。言葉を知っていなければ、その意味は相手に伝わりません」

ありす「…?」

文香「ありすちゃんが披露する曲も、歌詞がわからない人にとっては、晴れやかな歌に聴こえるでしょう」

ありす「!!…では、私が間違っていたということですか?」

文香「いいえ。歌詞が聞こえる人にとっては、ありすちゃんの言う通り、切ない歌のように聴こえるでしょう」

文香「同じ歌であっても、聴き手の知識、経験、その時の感情によって、感じ方は大きく変わってきます」

文香「それは、ここに並んでいる本も同じです。物語の解釈に、正解はないと思っています」

ありす「…」

ありす「文香さん、お話、ありがとうございました。少しだけ、分かった気がします」

文香「…そうですか。私の知識が役に立ったようで、何よりです」

ありす「私、レッスンに戻ります」

文香「はい。頑張ってくださいね」



ありす(物語の感じ方に正解はない、だったら…!)

ポツ…ポツ…

ありす「えっ、雨…!?」

ありす(この降り方は、夕立!?急いで、雨宿りできる所を探さないと…!)

ザー…

ありす(喫茶店の軒下があって良かったです。何とか間に合いまし…)

ありす「あっ」
桃華「あら」

ありす「…」
桃華「…」

桃華「あの」
ありす「あの」

ありす「…」
桃華「…」

桃華「そちらからお先に…」
ありす「そちらから先に…」

ありす「…ふふっ」
桃華「…フフッ」

ありす「こういう時に限って、息ぴったりですね。私たち」

桃華「ええ、本当。長いお付き合いですもの、当然ですわね」

ありす「…さっきは、ごめんなさい。その、自分が正しいと思い込んで、その上ひどいことを言ってしまって…」


桃華「こちらこそ、心ないことを言ってしまって、申し訳ありません。音楽の感じ方は人それぞれだというのに、それに気づかなかった自分が、愚かでしたわ」

桃華「だから、ありすさんが仰っていたことを、試してみようと思うんです。切ない表情で、踊ってみようかと」

ありす「私も、桃華さんが言っていた、明るい表情で歌うこと、試してみたいです」

桃華「…なら、お互いに表情を入れ替えてみませんこと?本来のわたくし達が感じたことと、真逆の表情を」

ありす「良いですね、面白いと思います!では早速、レッスン場に…」

ピロン

ありす「…プロデューサーからメールです」

桃華「わたくしにも届きましたわ。傘を持って行くから、居場所を教えて欲しい、と」

ありす「プロデューサーにも、余計な心配をさせてしまいましたね…」

桃華「…それに、プロデューサーちゃまだけでなく、トレーナーの方や、いろんな方々にご迷惑をおかけしてしまいましたわ…」

ザー…

ありす「雨も、止みませんね」

桃華「でも、降り始めよりは弱くなってるみたいですわよ?」

ありす「…プロデューサーを待ちますか?」

桃華「…分かっていて、訊いてませんこと?」

ありす「ふふっ、そうですね。では、踏み出していきましょう!」

桃華「ええ。今のわたくし達に、傘なんて必要ありませんわ!」

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