アイドルマスターミリオンライブ!のSSです。
地の文があります。
徳川まつりの妹についてオリジナル設定を含みますのでご注意ください。
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「徳川ひなたって何」
「ぶふぉ」
徳川まつりのフワフワぷりてぃーなお口からプリンセス汁が噴出した。
平日。夕食も寝支度も済んですっかり夜。
徳川まつりはリビングで紅茶を飲みながら寛いでいた。
気分はまるで優雅なティータイム。自室から降りてきた妹に声を掛けるも、蚊の鳴くような声で返事をされて、いつものことかと再びカップに口を付けた瞬間の出来事であった。
「あーもう汚い。最悪」
「ささささささくらちゃん。見てたの?」
徳川まつりの妹、徳川さくらはローテーブルに盛大に紅茶を撒き散らした姉に対して、容赦のない軽蔑の眼差しを向けた。
姉の名誉のために補足しておくと、紅茶は床のカーペットには一滴も零れておらず、全てテーブルの上に収まっている。プロの技だ。
「見てない」
「そういえば昨日の夜、お姉ちゃんNetflix見ようとしたらアカウントに制限が掛かってたんだけど」
「見てないから」
彼女たちが見ただの見ていないだの言っているのは、昨日の夜に放送された「クイズパワーNo.1」というバラエティ番組のことだった。徳川まつりは木下ひなたと共に出演していた。もっと言うと優勝した。
その番組の中で、チームを組んでいた木下ひなたに対し、共演したお笑い芸人が「ひなたちゃんって、まつりちゃんの妹みたいだね」とコメントしたのが事の発端だった。
まつりは「ひなたちゃんが妹なら大歓迎なのです!」と答えたが、そのやり取りのスピード感について行き切れていなかった木下ひなたが若干混乱した様子で、
「徳川ひなただよぉ!」
と叫びながらまつりに抱き着いたのであった。
小さくて可愛らしい木下ひなたが不意に発した大きな声と、そのあまりに可愛らしい絵面に、その場にいた全員、いやお茶の間でテレビを見ていた全員がホッコリと笑い、世界は幸せに包まれたのであった。そして徳川まつり、木下ひなたペアはクイズでも優勝した。撮れ高の暴力。
自分が出演した番組が放送されるということで、寝支度を終えて配信サイトを見てみようとPCを開いた徳川まつりだったが、アカウント数制限がかかり見ることが出来なかったのだ。徳川家はベーシックプランだった。
その時は、妹が別の番組を見ているのだろうと思い、きっとプロデューサーが録画しているだろうから良いかと気にしていなかった。しかし、よく考えてみると妹がPCを開くには少し遅い時間だった。
「さくらちゃん。お姉ちゃんの妹はさくらちゃんだけだよ」
「いや、アタシは学校でまた何か言われるのが嫌なだけだから。マジでやめてくれない?」
「えっと、お姉ちゃんは」
「はー、マジ最低。そういうところ嫌い」
「あっ……」
さくらは碌に姉の話を聞かずに、ドカドカと足音を立てて自室へと戻っていった。
気付かぬうちにソファから立ち上がっていたまつりは、ひとつ小さな溜息をつくと、布巾を取りに台所に向かった。
―――
「というわけで、さくらちゃんが拗ねちゃったのです」
「ありゃあ、それは悪いことしたねぇ」
どう考えても木下ひなたは悪いことをしていない。
しかし、どんな言い方をしたとしても、家族のトラブルの切っ掛けを作ったとあれば、真面目な木下ひなたは罪悪感を感じてしまう。
そのことは分かっていたはずなのに、徳川まつりはどうしても木下ひなたに話さなければならなかった。なんと言っても妹の学校生活が賭かっているのだ。
「あたしに何かお手伝い出来ることがあれば、なんでもするからね」
「うーん。姫はどうすれば良いか分からないのです……」
「あたし、弟がいるんだけど、あたしがテストで良い点を取ってお母さんに褒められたら、拗ねちゃったことがあったねぇ」
「その時はどうしたのです?」
「どうだったかねぇ……あっ」
純朴アイドル木下ひなたは、おそらく本人が出来る限りの悪い顔をした。
徳川まつりはその顔を見て、面白いイタズラを思いついた双海姉妹を思い出した。そういえば、ひなたは双海姉妹を師事しているのだった。
悪い顔のつもりが邪悪さの欠片も無いその顔を見て、徳川まつりは少し楽しい気分になってきた。
「確か、悔しがる弟が面白くて、たくさん自慢したべさ」
―――
「さくらちゃーん」
「げっ」
教室にホンワカとした良く通る声が響いた。
特徴的なその声は、耳に入った瞬間に誰が発したものか把握できる。
全員の関心がドアに向いている。友達とお喋りを続けている女の子も、黒板消しで遊んでいるバカな男子も、みんなそれまでの行為を続けながら、その耳は木下ひなたに向けられている。
「さくらちゃん、あのね」
「アンタ、目立つんだからせめてコッソリ入ってきなさいよ」
あまり聞き耳を立てずとも周りから「アイドルの」とか「可愛い」とか、コソコソ話が聞こえてくる。クラスの雰囲気が浮足立っているのを感じる。私はこの雰囲気に巻き込まれるのがどうにも苦手だった。
当の本人はそんな様子なんて全く気にしないようで、真っ直ぐに私に向かってきた。
「まつりさんと喧嘩したのかい?」
「あのバカ……」
「お姉さんのことバカとか言っちゃダメだよぉ」
「で? なんでひなたが出てくるのよ。仲良くしろとか言うわけ?」
「それはそうなんだけど、さくらちゃんに伝えないといけないことがあってね」
木下ひなたは同学年別クラスで、いつも仲良く遊んでいるというわけではない。会えば喋るし、姉の繋がりでやり取りをすることもあったが、一緒にいるとどうしても「アイドル」というワードで括られた視線が向けられるのが、どうにも居心地が悪かった。
だから少しだけぶっきらぼうに対応しているつもりだったが、逆に距離感が近いように見えてしまって、周りの友人からは「やっぱりアイドル繋がりで仲が良いんだね」と思われていた。ひなた本人には全く不満は無いが、さくらにはこの状況が不服であった。
「あたし、今日さくらちゃん家に泊まるから」
「は!?」
「だってあたしは、『徳川ひなた』だからねぇ」
これまで本人に届かないようにヒソヒソ話に留めていたつもりのクラスメイトが、一気にざわめきだした。どうやらこのクラス内での「クイズパワーNo.1」の視聴率は割と高かったらしい。
そして、文脈から判断すると、これはきっと姉からの当てつけだろう。直接言えば良いものを、どうしてこうも回りくどいことを。意味が分からない。
「いや、意味わかんないんだけど」
「まつりさんにお願いして、御両親の許可はもらってるよぉ」
「アタシの許可は!?」
「今もらうべさ、えへへ」
「アンタねぇ……」
いつになく勢いのある木下ひなた。その表情は今日も明るく輝いている。満面の笑みだ。ぺかーっという効果音が聞こえてきそうなくらい、温かい微笑みだった。背後にいた五人の男子のうち、一人が崩れ落ちる音が聞こえた。
「ダメかい?」
と思えば、急に寂しそうな表情で、身を乗り出してくる木下ひなた。残る四人も崩れ落ちた。
「う。……ま、まぁ勝手にすれば」
「えへへ、ありがとうねぇ。今日はさくらちゃん部活だよね? あたしは先におうちにお邪魔してるからね」
再びパッと花が咲くように笑顔になり、そのまま軽い足取りで教室を後にする木下ひなた。
そういえばあの子、最近色んな役のオーディションに受かるようになってきたって言ってたっけ。この前出てたドラマも好評みたいだし、してやられた。
にしてもひなたって、こんなに茶目っ気に溢れてる子だったっけ。どうにも姉の面影が見え隠れしている。家に帰ったら姉を強めに叩いておこう。
―――
バレー部の練習を終えて家に着くころには、すっかり日が暮れていた。
夕飯が恋しくて、急いで家の鍵を捻ろうとしたところで、ふと手を止める。
この扉を開いたら起こるであろうことを想像して、少しだけ眉間に力を入れてから、音を立てないように玄関の扉を開いた。
「さくらちゃん、おかえり」
「おかえりなのです!」
「ほんとに来てるし」
何故か姫モードの姉をスルーして現況を確認する。
台所で皿を洗っている母。リビングのソファーに座ってテレビを見ている姉と木下ひなた。二人ともパジャマ姿で寛いでいる。なんで。
父はまだ帰っていない。食卓の上に私の分であろう夕食。
「ごはん先に頂いたよぉ。さくらちゃんのお母さん、料理上手だねぇ」
「ありがとねひなたちゃん」
「ごはん、自分の部屋で食べていい?」
「ここで食べなさい」
母がピシャリと言い放つ。こんなにハキハキとした母を初めて見た。絶対に予め決めていた台詞だ。
私は観念して、夕食を食べることにした。まずは手洗い。
手洗いのついでに先ほどのリビングの光景を思い出す。
姉にピッタリ並んでソファに座る木下ひなた。
平均的な女性と比べて身体が大きい姉と、同級生と比べても明らかに身体が小さい木下ひなた。
素晴らしい納まりだった。素晴らしい納まりだったんだけど。
何故か手をつないでいた。
(スルーしてご飯食べよ……)
そう決心してリビングに戻った。
姉の膝の上に木下ひなたが座っていた。
「なんでよ!!!!」
「ほ? だってひなたちゃんは姫の妹なのですよ?」
「ウチでそのキャラやめてよ! うざい!」
「さくらちゃん。お姉ちゃんにうざいとか言っちゃダメだよ」
「アンタは……、アンタは、もうっ!」
ひなたに対しては罵倒の言葉が思い浮かばなかった。
とにかくペースを握らせてはならない。話の流れを切るために大げさに溜息をついて、一心不乱に夕食を掻っ込むことにした。
この夕食さえ食べてしまえば、後は自室に篭れば良いのだ。いつもより大きな口を開けて、いつもより素早く箸を動かした。姉とひなたが時々こちらをチラチラと見てきたが、無視して顎を動かした。
「ご馳走様。じゃ、アタシは部屋に戻るから」
「さくらちゃん。ひなたちゃんの分のお布団は部屋の前に出しておいたのです」
「は? アンタの部屋に泊まるんじゃないの?」
「姫の部屋は妖精さんでいっぱいなのです」
「……」
キレそう。
ひなたに目線を向けると申し訳なさそうに手を合わせている。キレられない。
ひなたも姉に振り回されているのだろうか、可愛そうに。憐みの目線を向けるが気付かれることは無かった。
―――
「ひなた、部屋いこ」
お風呂に入ってサッパリしたが、やはり現状は変わっていなかった。
よって、私は一刻も早く姉がいる空間から離れることを選んだ。
「うん。したっけね、まつりさん」
「おやすみなさいなのです~」
「お母さんも、御馳走様でした。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
丁寧に頭を下げるひなた。こういうところが私とは違うなと思う。
同い年なのにしっかりしていて、小さくて可愛らしくて、なんだか悔しい。
部屋に行って何しようか。クタクタだから眠いんだけど。
「ふぁ……」
「明日も早いのかい?」
「土曜日だから午前練。ひなたは?」
「朝からまつりさんと一緒にレッスンだよぉ」
「あぁそう。アンタも姉に巻き込まれて大変だね」
「ううん、あたしがお願いしたんだ。さくらちゃんと一緒に泊まりたいって」
「……おせっかいだね」
「そうかもねぇ」
私が疲れている様子を見かねてか、自分でテキパキと布団を準備するひなた。
座椅子にでも座らせようかと思っていたのに、ササッと端に寄せられてしまった。
寝ろということか。ひなたって変なところで意志が強い。今回の件で嫌というほどに伝わった。
「はーっ」
ベッドに身体を投げ出して天井を眺める。このまま目を瞑れば気持ちよく寝てしまいそうだ。
ひなたも敷き終えた布団にちょこんと座っていた。
「で、なに? 姉と仲良くしろって言いに来たの?」
「あのね、あたし弟がいるんだぁ」
「ひなたってこんなに話聞かない奴だったっけ」
「だからね、ずぅっとお姉ちゃんってものに憧れてたのかもしれないね」
「あんなので良ければいつでもあげるけど」
「さくらちゃん」
気付くと、ひなたは腕をベッドに預けてこちらを見ていた。
顔が近い。目が大きい。まつ毛が長い。
大っ嫌いな姉に負けず劣らず、小さくて整った顔。
「お姉ちゃんのこと、嫌いかい?」
「嫌い。あの年で姫とか、恥ずかしいし」
「そっか」
ひなたは微笑んだ。微笑んだけど笑ってはいなかった。
私はこの表情を、どこかで見たことがある。
「あたしもね、弟に「お姉ちゃん嫌い」って言われたことがあるんよ」
「えっ、ひなたが?」
「うん。弟がね、喧嘩した友達をぶっちゃったことがあって。ちょっと強めに叱っちゃったんだべさ。そしたら「お姉ちゃん嫌い」って言われて、そのまま家を飛び出しちゃって……」
「ふぅん」
「結局、夜ご飯の時には戻ってきてくれて、「お姉ちゃん、ごめんなさい」って言ってきてくれたんだけどね」
「素直で良い子じゃない」
「そうだね」
またあの顔だ。
口元は微笑んでいるけれど、目はどこか遠くを見ている。
それは過去に思いを馳せているようでもあり、私の姿に何かを重ねているようでもあった。
苦手な表情だ。
「でもね、あたし、そのことをずぅっと覚えてるんだ。平気な顔してても、「嫌い」って言われたこと、すっごく悲しかったんだなぁって」
「……」
「だから、さくらちゃんも、まつりさんのこと「嫌い」って言ったらダメだよ」
「嫌いなものは嫌い」
「それでもだよ」
ひなたの表情は変わらなかったけど、目線が変わった。今はあたしを見ている。
なんだろう。この瞳に捉えられると、ちょっとした小言だったり、中途半端な言い訳が喉に閊えて引っ込んでしまう。
あぁ、この表情は、姉が何か正しいことを言った時の表情だ。
私が素直に姉を認められない時に、私の目の前に立ちふさがる、あの顔だ。
「……なんか、ひなた、お姉ちゃんみたい」
「あたしはお姉ちゃんだからねぇ」
「いや、姉を通り越して、もうお母さんみたい」
「えぇっ、お母さんかい? それはちょっと想像できないねぇ、えへへ」
と思えば瞬時にふにゃっと表情を崩す木下ひなた。
なるほど、アイドルは魔性の存在とはよく言ったものだ。同性ながらクラッと来てしまった。
そんな様子を知ってか知らずか、ひなたの顔がこてんと倒れて、可愛らしい顔がさらに近づく。
「ひなたって、お姉ちゃんみたいだけど、妹みたいだね」
「そりゃああたしは、さくらちゃんみたいにスタイル良くないし……」
「アイドルが何言ってんの。そんな可愛い顔しておいて。うりうり」
「ふにゃあ。やめてよぉお姉ちゃんだよぉ」
「あはは、可愛いお姉ちゃんだ」
悪戯心で頬を突いてみると想像以上の滑らかさに驚いた。アイドルって皆こうなのだろうか。姉のほっぺもこうなのだろうか。
「あ」
ふと何かを思いついたようで、アタシの指が掴まれた。
ひなたの顔が精一杯の悪い顔になる。精一杯と書いたのは、本人はきっと悪い顔をしているつもりなのだろうが、邪悪さが一切感じられなかったからだ。
「それなら、こういうのはどうだい?」
―――
はいほー! まつり姫なのです!
7時。午前練のある日のさくらちゃんの起床時間。
普段はまつりも同じくらいに起きるのですが、今日はひなたちゃんもいるのです。6時に起きて、髪もセットにして、優雅にティータイムして待っているのです。
さくらちゃんに嫌いって言われて、ウルウルだった姫に、ひなたちゃんが「もっと嫉妬させちゃおう大作戦」を提案してくれたのです。この作戦の肝は、ただ嫉妬させるだけじゃなくて、その後さくらちゃんのお部屋でひなたちゃんとじっくり話し合うことだったのです。
予定ではもう少し姫とひなたちゃんのラブラブっぷりを見せつけるつもりだったのですが、大丈夫かな……?
……ちょっとひなたちゃんに頼り過ぎちゃったかも。
今は姫モードなので難しいけど、今夜はさくらちゃんとお話しよう、うん。
あ、足音が聞こえる。
いけないいけない。ひなたちゃんの前ではちゃんとまつり姫にならないと。
ドアノブが捻られるタイミングで「んんっ」と喉を慣らす。
「まつりさん、お母さん。おはようございます」
「はいほー! おはようなので、す……?」
「……おはよ」
「ひなたちゃん、その後ろにくっ付いてるさくらちゃんは、一体どうしたのです?」
「えーっとね、これはね、えへへ」
「さくらちゃんの姉の、徳川ひなただよぉ」
「ほ!?」
おわり
おわりです。HTML依頼出してきます。
アイドルの兄弟姉妹が他のアイドルと同級生だったら良いなぁと日々思いながら生活しています。
ひなた弟は4年生だっけ...とか思ったがそもそも北海道にいるか...
乙です
>>2
徳川まつり(19) Vi/Pr
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木下ひなた(14) Vo/An
http://i.imgur.com/vAdN7Bb.png
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