こんにちは。久しぶりにこちらに投稿しに来た気がします。
一時期サイト自体が動かなくなっていたようですが、もう大丈夫なのかな?
【概要】
・ジュリア
・初えっち
・二回戦
・特に危ない要素は無い
では、16レスほど続きます。
家に帰る景色が違うというのは不思議なものだ。家を出た時の景色が違うのも。引っ越しは人生で三度目だが、二度目の引っ越しの後で感じた新鮮な気持ちは、今回の引っ越しでも変わらなかった。家賃は以前の家より高くなった。思い切った決断だったが悔いはない。劇場のアイドル達の奮闘のおかげで、財布事情もよくなったのだ。
荷解きも済んで、家具類は一通り設置した。忙しいオフになったが、充実していたのは確かだった。ちょっと値段の張る肉でも買ってこようか、とウキウキ気分だった。エントランスを抜け、マンションの自動ドアをくぐるまでは。
「うおっ……ぷ、プロデューサー!?」
「えっ、ジュリア!?」
夕暮れ時の住宅街に、素っ頓狂な声が響いた。制服姿にはミスマッチともいえる派手な赤毛が、風になびいている。
「なんでプロデューサーがここに」
「そりゃこっちの台詞だよ。どうしてジュリアがウチの目の前を歩いてるんだ」
ジュリアが眉をひそめた。
「どうして……って、当たり前だろ。ここはあたしの通学路なんだから。それで『ウチの目の前』ってどういうことだ?」
「引っ越してきたんだ、数日前に」
ライブの映像や映画を大音量で楽しみたかったので、防音性に優れたマンションという条件を優先的に探した。鉄筋コンクリートの新築で壁は厚め、一階の角部屋、隣人は夜勤者で生活時間帯はほぼ被らない。真上の部屋は誰も入居していない。……そこまで話す内にジュリアの目が爛々と輝きだし、藪を突いて蛇を出す、という諺が脳裏をよぎった。
結局、来たばかりの通路を引き返し、学校帰りの女子高生が1LDKのお客さん第一号になった。「お邪魔します」と一言、畳んだ段ボール箱を避けながらジュリアがスリッパに足を通した。リビングに入ってくると、視線をあちこちに巡らせている。
「まだ散らかってるのは、勘弁してくれよ」
「……なあ、あの棚のCD、もしかして全部劇場の……?」
「ライブのBlu-rayも揃ってるぞ。大きな音を出しても平気な物件を探してたんだ。グッズの置き場所も欲しかったしな」
「大きな音……。そういうことなら」
背中のギターケースを下ろして、ジュリアがソファーに腰かけた。
「いいよな?」
ダメだ、と俺が言わないのを確かめて、ジュリアがアコースティックギターを奏で始めた。
所属アイドルの住所は事務所で全て把握しているのだから、気づいていなかったわけではないのだが、ひょんなことからジュリアは徒歩数分のご近所さんになってしまった。仕事の帰りに送るついでだったり、こちらがオフの日だったり、ちょっとした時間を見つけてはギターを弾きに、あるいは音楽へ浸かろうと、ウチによく足を運ぶようになった。
初めの方こそ遠慮がちだったが、いずれ当たり前のようにソファーの一角がジュリアの定位置になっていた。地方から上京してきたアイドルは未成年ばかりだったから、プライバシーの侵害にならない範囲で生活の様子をチェックしておく必要があったのだが、手元に置いているのならば心配は……いやいやいや、そうじゃない。男の一人暮らしの家にアイドルが入り浸るなんて大問題だ。ジュリアにそのことを持ち出してはみたものの、「隣に引っ越してきた住人が音に敏感で、苦情を受けたから」という訴えの元、立ち入りを禁じることは叶わなかった。
だが、実家を離れて長い間「家では一人」の生活が続いていたせいか、ジュリアがテレビを見ながら合いの手を入れてくれたり、ふとした独り言に答えてくれたりする度に、干上がってひび割れた心の隙間が埋まる思いだった。リクエストすれば、俺一人のために歌ってくれたりもした。
家の中でジュリアが見せる顔は劇場で見せるものとはまた違っていて、自分が彼女のプライベートの内側にいることに、じんわりと温かい嬉しさを感じていた。そして、ジュリアが自分の生活空間にいることにも、一種の居心地の良さを覚えていた。
ある朝。目が覚めると俺はソファーから天井を眺めていた。ベッドに寝ていないなんておかしい。頭がぼんやりする。服も夕べから着替えていない。そうだ。ジュリアが来ていたのに、新しく買ってきたウイスキーをちょっとだけ飲んだら、思った以上に深酔いしてしまって……。あいつをちゃんと帰らせたっけ……。
その記憶の続きは、寝室のベッドに横たわっていた。
「……!」
掛け布団の間から剥き出しの肩が覗いている。
肝が冷えた。まさか、まさか。
恐る恐る、音を立てないように近寄ってみると、キャミソールの肩紐が見えて、締め付けられていた心臓が解放された。水色の枕に映える赤い髪は鮮やかで、鎖骨の曲線に艶めかしさを感じてしまう。茶色い掛け布団に白い肌が光って見える。年相応の寝顔にあって、マスカラを塗っていなくても濃く長い睫毛が目を引いた。ぷっくりした唇が美味しそうだ……。
首を振って、ぼんやり残っていた酔いを振り飛ばす。鼓動が速い。
なんてことだ。ジュリアに女の色気を感じてしまうなんて。劣情の萌芽に熱くなっていく頭を冷やしたくなり、台所で水を汲んで一気に飲み干した。
起こさなければ、と寝室に戻ると、眠りこけていたジュリアはもう目を覚ましていた。ベッドの上であぐらをかいている。
「ん……おはよ……って、バ、バカP! あっち向いてろ!」
畳まれたジーンズが床の上に置かれているのが目に入った瞬間、飛んできた枕に視界が塞がれた。モコモコの羽毛布団で、下半身は隠されていた……はずだ。多分。
「……なんでジュリアが俺のベッドで寝てたんだ?」
寝室から出てきたジュリアは機嫌がいいようには見えなかった。寝起きなだけあって、髪のあちこちが跳ねている。
「あんたが昨晩『ちょっとだけ飲んじゃうか』って言って、お酒を飲んですぐ、ソファーでいびきをかいて寝ちゃったんじゃないか。帰るに帰れなかったんだよ。家主を放って出ていったら、玄関の鍵を閉められないだろ」
「……うん、まぁ、そんな所だろうとは思った。すまなかった」
「酔っ払いが無事に起きた所で、あたしは家に帰るぜ。学校行かなきゃならな――」
ジュリアの言葉を遮るように、間の抜けた音がした。
「……朝飯、食っていくか? 身支度済ませてから食べるから、三〇分後ぐらいになるけど」
「あっ、いや……」
申し出を断ろうとしたジュリアだったが、本人の言葉に反してお腹の虫は正直だった。
「……学校行く支度済ませて、行きに立ち寄らせてもらうよ。買い物行かないと、あたしの家に食べ物無いんだ」
そこまで言うと、ジュリアはレザージャケットを羽織り、キャップで寝癖を隠した。身軽な背中がドアの向こうに消えていく。
いつの間にか、ギターはウチに置いていくようになっていた。持ち込まれた私物はそれだけだったが、一人暮らしの自宅でジュリアの居場所を声高に主張するそれを眺めていると、心の内側にさざ波が立つと同時に、冷や汗をかいた。
ジュリアが近過ぎる。自分だけの領域に留めておき過ぎてしまった。彼女がアイドルであり続けるために、遠ざけて健全な距離感を保たなければ。道徳観が、手遅れかもしれない警報を鳴らしている。追い出す、とまではいかずとも、ウチには近寄りがたい状況を作っておかなければ、このままずるずると禁忌の領域に落ちてしまいそうだった。
手帳の内にしまったままの、不要なはずのスペアキー。折ってしまえば、決心もつくだろうか。
数週間前から、ジュリアは曲を作っているようだった。探るようにギターを鳴らし、単音だったものが脈絡を持ってフレーズになっていく。真剣な時間だった。リリースする曲にするかどうかはまだ不明。歌詞も書き上がってはいるが、どういった内容なのかは教えてもらえなかった。真面目なミュージシャンの顔になって作曲に励むジュリアに向かって厳しいことを言えないまま、日々が過ぎていった。
午後休を取って早帰りした今日、ジュリアは自慢気に吊り上げた口角と共に、姿を現した。
「できたぜ、プロデューサー」
「できたって、何が」
「曲。今日、スタジオに行って録ってきたんだ。ギター借りてね」
いつものようにジュリアはソファーに腰を下ろし、ギターを手に取って、出来上がった曲を早速弾き始めた。ところが、セクシーな響きを纏うあの歌声を待てども待てども、ギターの音しか聞こえてこない。
「インストなのか?」
「歌詞のお披露目にはまだ早いよ」
曲調はバラードだろうか。作り始めの頃はもっとテンポが速かったが、最終的にはゆったりと湿った雰囲気に落ち着いたらしい。
「どんな方向性の歌なのか、ヒントだけでも貰えないか?」
「一度聴いたら分かるよ。その時まで待っててくれ」
ジュリアがはぐらかしている内にリタルダンドが始まり、切なげなメロディを残して、そのまま一曲が終わってしまった。
「……ま、雰囲気だけでも伝わったろ」
「しっとりした曲だけど、暗い訳でもないな……ほんのりと緊張感もあって……。ラブソングか? もしそうだとしたら意外だな」
蒼い瞳が、ぎゅうっと収縮した。
「い……意外で悪かったな」
「いや、悪いとは思ってないぞ。そういう乙女な一面もあるんだな、って」
「あーもう! うるさいうるさい! そういうことを顔見ながら言うんじゃないっての! シャワー借りるからな。ちょっと汗かいてたんだ、今日は」
そうまくしたてると、ジュリアはリュックから着替えを取り出し、そそくさと浴室へ逃げていってしまった。
ジュリアは当たり前のようにシャワーや風呂も使うようになっていたが、覗かれたりする可能性は考えないのだろうか。そうしないだけの信用があるのか、それとも男として認識されていないのか。後者だとしたら、引っかかるものがある。俺にも男としてのプライドはあるのだ。自分がどれだけ無防備に己を晒しているのかを分からせて、もっと警戒心を抱くよう諭さねばならない。
水音が止み、ドライヤーが静かになると、ジュリアは浴室から出てきた。まだ水気の乾ききっていない髪からは、濃いシャンプーの匂いがする。また俺のを使ったらしいが、嗅ぎなれたはずの匂いが異性から香ると、こうも印象が変わるものか。
「ふ〜、さっぱりしたぜ」
首筋にフェイスタオルを引っ掛けたジュリアが、クッションの上に腰を下ろした。麦藁帽子でも被せたら、まるで畑仕事のオジサンだ。しかしショートパンツからは、真っ白な瑞々しい脚がすらっと伸びている。部屋着のTシャツは首回りが緩めになっていて、鎖骨が見えている。前屈みになったら胸元が見えてしまいそうだ。直視するのに抵抗を覚える俺がいる一方、当の本人はのほほんとストローを咥えて、リプトンのアップルティーをパックから直飲みしている。ごく、と嚥下する音が、心をざわつかせた。
「おい、ジュリア」
「ん?」
「いくらなんでも無防備だぞ」
「……いいだろ。あんたしかここにはいないんだし」
「あのな……分かってるのか?」
あぐらをかいて坐るジュリアの肩を強く押した。そのままカーペットの上に転がり、華奢な体が仰向けになった。肩にひっかけていたタオルが、ぱさっと落ちて広がる。陰になった顔の中で、瞳の青さがやけに目立つ。
「……」
ジュリアは悲鳴をあげなかった。
重たいエンジン音を立てて、バイクが自宅の近くを通り過ぎていく。
「男の家に一人で来てそんなに無警戒でいたら、こうなっちまうかもしれないんだぞ」
「……そんなの、覚悟してないわけがないだろ」
怯える顔や怒声、蹴り飛ばされることまで予想したが、そのいずれも無かった。押し倒されているというのに、ジュリアはこちらと結んだ視線を切ろうとしない。
「……あたしが……ギター弾くためだけって理由で、あんたの家に入り浸ると思ってたのか?」
「え……?」
「い……いつか、こうなったりすることもあるのかな、って……」
青白い顔が赤く染まっていく。
「……ジュリア」
「……おい……ここまでしておいて、やめたりしないだろうな」
「しかし……」
「据え膳食わぬは、ってヤツじゃないのかよ。それとも……あたしみたいなのは……興味ナシか?」
物音のしないリビングで、どちらのものとも分からない鼓動が聞こえる気がした。上腕から伝わるジュリアの脈拍が速くなっていく。
「……いいんだな?」
「こ……これ以上、女に恥をかかせんなよ。心臓が破裂しそうなんだ」
「……」
数秒間、互いの瞳の奥を覗き合う。ジュリアが先に瞼を閉じた。
唇が触れ合っても、ジュリアは身じろぎ一つしなかった。だが、触れるだけの口づけを交わしてから顔を離した途端に、ジュリアはもぞもぞじたばたと落ち着きを失いだした。押さえつけていた腕を解放するやいなや、肘から先で顔を隠してしまった。
「どうした、いきなり恥ずかしがって」
ジュリアは耳まで紅潮している。「慣れてないんだよ」と、外を走る救急車のサイレン越しに、微かにそう聞こえた。
「そうか。……なら、床の上は気の毒だな」
「わっ! い、いいって、自分で歩けるからさ! 子どもじゃないんだから、抱っこなんて……!」
「いいから、大人しく運ばれてろ」
やっぱりというか何というか、スリムを通り越して痩せているジュリアは、抱えたところでさほど重くはなかった。寝室のベッドまで運び、掛け布団は半分まくった。すぐ仰向けになるかと思いきや、一方的に組み敷かれるのにまだ抵抗があったのか、ジュリアは体を起こした。
担当アイドルに手を出そうとしている。いや、既に出してしまったか。これだけの頻度で自宅にアイドルが通っていたら、もう誰かに嗅ぎつけられていたっておかしくは無い。いざとなったら、俺一人が悪党に成り下がり、完全な加害者になってでも、ジュリアの立場は守ってやらなければ。そう静かに決心しながら、細い腰を抱いた。
しっとり湿った唇に吸い寄せられる。石鹸とシャンプーの混ざった匂いの濃さに、頭がくらっとした。息苦しさを覚えて顔を離すと、ジュリアの方からもゆっくりと唇が重なってきた。微かなリップ音。向こうから起こされたアクションに、冷静さが薄くかすれてしまいそうだ。
「舌を入れたことは?」
「んなことあるわけないだろ。キスだって、初めてだ」
「噛むなよ」
「っ……ん……」
口を開かせてノックした先から、おっかなびっくり同じ器官が差し出された。こっちへおいで、と手繰り寄せて、唾液を塗り付ける。されるがままになっているだけではなく、ジュリアは熱い息を口腔から漏らしながら、舌を伸ばしてイチャつこうとしている。燃え上がる情熱が、不慣れであるはずの仕草を積極的にさせていた。
「はぁ……あ……っ」
上気した頬の間で、舌から唾液の糸が伸びている。もう一回、とせがむように唇を突き出してきたジュリアに応えた。アドレナリンが血流を速めて、ドコドコと心臓が高鳴りだす。チリチリする焦燥感が体の末端まで走り抜ける一方で、立ち上る幸福感が温かい。数分間、唇を貪り合っている内に、キリッとしたクールな表情はすっかり弛緩して、目の前にいるジュリアからは妖艶な色香が匂い立った。抱きたい。欲求が沸き立つ。
肩に乗せられていた手が、二の腕、肘、手首へと下ってくる。身長の割に掌は大きく、指も長い。絡み付いてくる女性の肌の柔らかさの中、預かった左手の指先に小さな違和感があった。指先が硬くなっている。
「……やっぱ、気になるか?」
ツルツルした中指の表面を親指の腹で撫でていると、ジュリアがぽつりと呟いた。
「ギター始めた頃はよく水ぶくれができて痛かったんだ。でも、いつの間にかそういうのも無くなって……。お、女らしくないかな、こういう手って」
「いや……生き様の刻まれた、綺麗な手だよ」
「えっ……? あ、よせよ……照れるぜ……」
薄い掌。儚さすら覚える細い指。だがこの手が、ジュリアの精神でメラメラと燃えるロックをアウトプットしている。繊細な骨格に見惚れつつその手を掴み、人差し指を口に含んだ。硬質化した指先を柔らかくするように、薄くなった指紋の筋をなぞる。
「そんな所を舐めるなんて」
と言いつつも、ジュリアは指をしゃぶられるのに身を任せている。切り揃えて手入れされた爪はツルツルだ。音を立てて指を吸うと、熱っぽい溜息が聞こえた。
人差し指から順に、一本一本、丁寧に愛撫していると、指を絡めて握り合った反対側の手が、ぴくりぴくりと力んでは弛緩した。表皮をなぞり、下から上へと指の腹を舐め上げてやると、「あ」と細い声を漏らし、手の甲が握り締められた。咥えたまま指の股をなぞるのに反応して、ジュリアは指先を舌に押し付けてくる。
「はっ……ぅ……っ!」
わざと音を出して吸い付かれ、何かをこらえるかのようにジュリアは唇をきゅっと結んだ。性感帯とは到底思えない部位だが、小さいながらも反応が見られる。指を舐りまわされて無反応でいられずに恥じ入る様が、何とも可愛らしい。倒錯的な行為に身を染める興奮が、身の内でかっかと燃え上がる。
「も……もう、指はいいだろ……」
唇から離した指先は、湯上りみたいにふやけていた。ヘンな気分になりそう、とジュリアは言うが、ライブで見せる高揚とは異質の昂ぶりが、顔全体に表れている。半開きになった唇が官能的でたまらず奪い取ると、ジュリアも半ばがむしゃらに舌を伸ばしてきた。ふー、ふー、と荒い鼻息がかかる。熱いハートを秘めるジュリアには、その品の無さもよく似合っている気がした。
未成年だから。担当アイドルだから。優しくしてあげなければという気遣いが、呼吸の中に溶けて消えていく。もっと乱れた姿が見たい。快楽に翻弄されている姿を愉しみたい。どんな声で鳴くのだろう。欲望に忠実なオスの本能が鎌首をもたげている。夕焼け空の橙色もすっかり翳り、灯りをつけなければ寝室は薄暗い。薄皮一枚の向こうにある裸体を想像して、股座が窮屈になった。
浮き出た鎖骨に舌を這わせ、オーバーサイズ気味のゆったりしたTシャツの奥に隠された輪郭を撫でる。細い体幹の表面を盛り上げる膨らみを鷲掴みにすると、長い睫毛が伏せられた。服の上から触っているのがすぐにじれったくなって、裾を捲り上げた。くびれたウエストに、薄く平らなお腹。白い肌に突如として赤が現れた。
「……歳の割に大人びてるんだな」
「言っとくけど、普段はこんなの着けないからな」
「もしかして、ウチに来る度に着けてた、とか?」
「そんなこと訊くなよ……バカ」
細かくレースのあしらわれた真紅のブラが、華奢な体格に豪華さを与えている。丁重に扱ってやらないと破損してしまいそうだ。カップの触感をなぞっている間、ぽよんぽよんと柔らかそうに形を変える乳房に視線を奪われてしまう。少し背伸びしたランジェリー姿をこのまま眺めていたかったが、それ以上に中身を見たかった。背中に手を回してホックを外し、下からブラをずり上げる。隠されていたのは、肌の白さから予想した通りの薄いピンクだった。
ちらりと視線を上げてみると、ジュリアはこちらに目を向けつつも、口元を手の甲で隠そうとしていた。胸は隠そうとしていないのに。痛がらせないよう気を配りながらも、ふにふに柔らかいおっぱいを触るのに夢中になってしまう。寝姿を目撃して以来、ジュリアは性欲の対象だった。認めたくなかったが、言い逃れのしようもなかった。
「あのさ……物足りない、とか、思ってたりするのか?」
「……いや、全く。どうしてだ?」
「いや、その……まな板じゃないけど、じ、自信持てるサイズでもないし……」
口元がニヤけてしまうのを止められなかった。物足りないどころか、手で捏ねて弄びたくなる中々のボリュームだというのに。意外だと言ったら引っ叩かれそうだが、胸の大きさを気にしているなんて何とも可愛らしいじゃないか。愛おしさが込み上げる。
「ジュリアの服の下が見られただけで十分過ぎる。大きくしたいならもっと揉んでやらないとな」
「あっ、やめ……! 別に、そんなこと言ってるわけじゃ……!」
痛がっていないのを確かめつつ揉みしだく。掌や指先が掠めて芯ができかけていた乳首は、小豆大に膨らんでいた。体を触られて恥ずかしがるのは女の子なら普遍的な反応だ。だがその「当たり前の女の子」を、サバサバしたボーイッシュなジュリアが垣間見せるのはたまらなかった。生々しく乱れる彼女を、もっと淫らに喘がせてみたい。
「ひう……っ! んっ、あ……」
硬くなった乳首を舌先で転がされ、ジュリアがギュッと目を瞑って悶える。勃起して張りつめた蕾は、押されて傾いては、ぴんと直立して更に膨らもうとする。与えられる刺激に胴が仰け反る度、顎や頬にはぷにっとした幸福感が目いっぱいに押し付けられた。力強い歌声を響かせるのと同じ喉から紡がれる甘い嬌声は、理性を断崖絶壁へと追い込んでいく。
気が急いてしまうのを何とか押さえ込み、ベッドへ寝かせながら、ゆっくりとお腹をなぞる。ウエストのくびれが美しい。青いショートパンツの中へ入り込もうとすると一瞬ジュリアは身を硬くしたが、合わせた視線を逃げさせながらも力を抜いてくれた。
ショーツの中は蒸し暑かった。掌にふんわりとした陰毛が触れる。自分の股間に手を突っ込まれる光景を見ていられなかったのか、ジュリアは枕で顔を覆い隠してしまった。見えていない方が、触覚がより鋭敏に機能してしまうことを知らずに。
「んあぁ……っ!!」
下腹部を撫でていたら、指先が突起に当たってしまったらしく、びくんと腰が跳ねた。その拍子に、熱く溶けた泥も指先に感じた。失禁してしまったのかと思うほどに濡れそぼっている。
「よく濡れてる。興奮してるみたいだな」
「そ、それは……! あんたが指なんか舐めるから……!」
「ははっ、そうか。ジュリアはエッチなんだな」
指を舐められて濡らしてしまった。そう口走って墓穴を掘ったことに、ジュリアは気づいたらしい。ぶるぶると肩を震わせながら「うるさい、バカP」なんて、罵り文句が微笑ましい。
「は……あ……っ」
枕から覗かせた強気な目が、秘裂をそっとなぞられてふにゃふにゃと力なく緩んでいく。本人の言によれば処女のはずだが、元々敏感なタイプなのか、それとも、余程昂っているのか。
「あ……っん、あんたは……あんたは、どうなんだよ」
「どうって……」
右手を取って、テントを張った股間へ導く。
「ジュリアがエロ可愛くて、こんなになってるよ」
「うわ……何だよこの、硬いの……」
ズボンの上から軽くなぞられただけでも、電流が走る。どのみち脱ぐのだから、と、さっさとベルトを外し、蒸れた空間にジュリアの右手を導く。
「あっ……熱い……」
ぽつりとそう呟き、正体を探るように、掌が肉茎の表面を這い回る。神経を共有する持ち主以外の手による刺激に、大喜びで上下に暴れている。ほんの少し触られただけで、もう先走りが滲み出てきた。
「あの……さ。どうすればいいんだ? コレ」
しっくりくる持ち方を見つけたのか、マイクを持つように握られる。
「握ったまま上下に擦ってくれ。先っぽの粘膜は敏感だから、爪は当てないようにな。ジュリアのここみたいなもんだ」
人体構造的には亀頭に類似したクリトリスを、包皮の上から撫でた。
「うぁっ!? え、男もこんなに刺激が強いのか?」
びくっ……と腰を跳ねさせたジュリアは、目を丸くした。実際に神経が受け取る刺激は男女でイコールではないだろうが、そこは口をつぐんでおいた。
「……多分、下手だと思うけど。期待すんなよ?」
横並びに寝転んで、性器の触り合いが始まった。緩い力でペニスが扱かれる。利き手でない右手ということもあって要領を得ず、ぎこちない愛撫だ。
「っ……あ……ふうっ……んぁ……ッ」
秘芯を指で挟まれ、掌ですりすりと撫でられて漏らす嬌声が、すぐ近くで聞こえる。さらに目の前には、性感に翻弄されて上気したジュリアの顔がある。女のいやらしい顔。クールで、不敵な笑みの似合う「カッコイイ女」として女性ファンも多いジュリアが、とろんと力なく緩んだ目で、唇の端から涎を垂らしている様は、煽情的、なんていう言葉では表せない。
「ん、これ……びくびくしてる……っ」
理性が千切れそうな興奮で達しかかっている所へ、拙い手コキの刺激が追い打ちをかけてくる。
「い……いいぞ、その辺りを、もうちょっと……」
「えっ、こ……ここでいいのか? うわ、また硬くなってきた……」
ガチガチに固まったペニス裏筋に親指が当たり、疼きのような快感が神経をヒリつかせる。傘のくびれ目に掌が引っかかって、自分の手が止まりそうになってしまった。
「ふぁっ……! んん、そこ、敏感っ、だから……!」
肉豆を指の間でぐりぐり圧迫すると、息と声の混ざった音を出してジュリアが高い声で喘ぎ、下半身をよじった。余った指を伸ばし、ガードの下がった入口へ指を挿入している間、陰茎にかかる刺激が緩慢になっていく。扱く手を止めて欲しくはなかったが、こちらが先に果ててしまいそうだったから、ちょうどよかった。
「う、うっ、ひぁ……」
包皮越しに、陰核が硬く尖っている。勃起したクリトリスをぴくぴくと震わせて手を止めたジュリアが、縋りつくように男性器を握り締めた。
「あ、あたし……ッ……んあっ……あああっ……!」
下半身がぶるっと震え、ジュリアが顎を仰け反らせて硬直した。挿入した指が、入口で強烈な締め付けを受ける。程なくして膣の拘束が緩むと、とろみの増した愛液がねっとりと指先にまとわりついた。きつく閉じられた瞼がゆっくりと開いていく。紅潮した頬と閉じ切らない唇が、発情して男を誘っていた。
「イッちゃったか?」
ジュリアは一度だけ頷いた。顔を近づけてキスを求めてくる。唇が触れ合った途端、舌が入り込んできた。涎が溢れ出すのも構わず、身の内に収まりきらない昂ぶりをぶつけてくる。外敵を排除するような膣口の締め付けが緩み、出し入れする指に合わせて、鼻にかかった声を漏らしている。
「脱がすぞ」
「ん……」
夢見心地で気の抜けたジュリアのショーツを、ショートパンツごと引き下ろす。くたっと脱力した太腿の白さがまぶしくて、頬擦りしたくなる。足首から抜き去って下半身は丸裸だ。赤いショーツの裏地に長い糸が引いていたから分かりきっていたが、膣口を中心にして鼠径部全体がべとべとになっていた。
万歳させてTシャツも脱がし、生まれたままの姿になったジュリアを見下ろす。細身の全身は女性らしい丸みをそこかしこに帯びている。グラマー過ぎない裸体は却って現実的な生々しさがあり、ますます興奮を煽る。くるくると薄膜を巻き付けて身支度を整える様子を、ジュリアはぼんやりと眺めていた。
「ほ……ホントに、入るのかよ、そんなの……」
「怖くなったか?」
ジュリアは首を振った。
「……あんたが欲しい……」
「大丈夫だ。しっかり力抜いとけよ」
「あ、ああ……」
両膝を掴んで横に広げた。愛液の沼地では、充血した陰唇が開いている。サーモンピンクの粘膜は汚れなくツヤツヤだ。未踏の膣口がぴくりと蠢いた。ぬるぬるの体液を[[rb:鏃 > やじり]]に塗り付け、下の口で何度かキスを交わす。
「あ……いぎ……っ……」
握られたシーツに細かい皺が寄った。
「う、あっ、は……入ってくる……!」
ジュリアの体内は狭く、燃えるパッションそのものの熱さだった。一枚壁を隔てていなければ火傷を負ってしまうかもしれない。中途半端だとかえって苦しいだろう。細いウエストを掴んで、腰を押し込む。滑りの良さに任せて抵抗をすり抜け、ペニスが根元まで埋没した。互いの下腹部が密着し、膣口が目いっぱいに広がっている。
「はぁ、はぁっ……」
歯を食いしばるジュリア。前髪の隙間から覗く額に、汗が浮いていた。
「すまん、初めてだと痛いだろ」
「……いや……ジンジンするけどさ……いい気分だぜ。満たされてる……っていうか……」
ジュリアが内腿を摺り寄せて、互いの素肌が触れ合う。そのままスリスリと体温をなすりつけて甘えてくる。それに釣られて、入り込んだ肉茎の輪郭を確かめるように膣内がうねる。侵入者のボディチェックだ。
「んんっ……!」
粘膜に吸い付かれて、思わず腰が逃げた。
「わ、悪い。動いちまった」
「……いいぜ、動いて」
「平気なのか?」
「ちょっと痛いけど……今の、よ……よかった、からさ」
ざわざわ。ジュリアの膣が、奥へ奥へと引き込んでくる。少しずつ腰を沈めると、カリのくびれ目に引っかかった襞がぴたりと張り付き、ぎゅう……と抱き締めてくる。
「へへ……今、一つになってるんだな……」
この辺にあんたがいる、と言いながら、ジュリアは臍の下を愛おしげに撫でている。吸い付く粘膜が、キスをするように亀頭の粘膜を啄む。大きく腰を引き、一気に根元まで突き入れた。
「あ、あ……! んっ、ひんっ……!」
陰毛が絡みあう。腰を引く度に傘が襞の愛液を掻き出すが、再び奥まで入り込む時にはもう新たな湧き水が滲み出ている。声が出てしまうのを恥ずかしがっていたジュリアだったが、膣が男の形を覚えてフィットするようになると、喘ぎ声を漏らすのを躊躇しなくなった。神経を伝う感覚に集中するように目を閉じているが、時折目蓋を開いては、肌を重ねる相手が目の前にいるのを確かめている。処女を相手にする遠慮が、頭の片隅へと追いやられていく。
身勝手に貪ってはならない、と自戒しつつも、長らく女を抱いていなかったオスの欲求は強力だった。勝気な女の甘い嬌声。二人分の体重に軋むベッド。粘液が立てる卑猥な水音。ぶつかった肌の弾け合う音。賑やかなベッドの上で、俺はジュリアに夢中になっていた。
「はぁ、ううっ……あっ、あ、ああぁんっ……♡」
ジュリアが官能的に悶える。掴んだシーツのあちこちが皺だらけだ。射精感をやり過ごそうと奥まで沈めて休んでいると、ひくひくと内壁が蠢く。慣れてきていたピストン運動が止んで物足りなくなったのか、ジュリアが腰を押し付け、貪欲にぎゅうぎゅう締め付けてくる。急かされて反り返ったペニスの先端が天井を引っ掻き、白い喉を見せて一際トーンの高い鳴き声があがった。
「き……気持ち、いい……あたし、初めてなのに……っ!」
シーツを掴んでいた手が離れ、首元に伸びてきた。もっと近くに来いよ、とぐいぐい引っ張られる。互いの息がかかるぐらいに顔が近づいたと思ったら、下から首を伸ばしてジュリアが唇にしゃぶりついてきた。
「はふ……ん、ちゅる……ん、んっ……んん♡」
口腔の中で舌が絡み合う。ロックに生きる姿とも、アイドルとしてステージに立つ姿とも違う、欲求に突き動かされる、発情したメスとしてのジュリアの姿があった。膣の中がさらに狭くなり、オスを搾り取ろうとしてくる。睾丸が収縮し、尿道の根元まで精液が込み上げた。まだ、まだだ……。
「ば……バカP、止めんなよ……止めちゃ、やだ……」
「う……ジュリア……」
切なげにねだるジュリアが、ぐりぐりと腰を押し付けてきた。最奥でぴったりと包まれた亀頭がしゃぶられる。挿入する前から催していたのを先延ばし先延ばしにしていたが、ここらが潮時か。気怠くなっていた下半身に喝を入れた。
「あ、あ、あっ、や、あ……♡」
一往復ごとに、ぬちゅ、ぬちゅ……と水音が鳴っている。相手が初めて男を受け入れたことなんて、思い出さなければ分からなくなっていた。射精を間近に控えて、もう入りきらないのにまだ血液が入り込んで、ペニスを膨らませようとする。本能に任せてジュリアに溺れた。息継ぎも忘れ、上の口でもジュリアは繋がりたがって舌を入れてきた。
「あた、あたひ……イキひょ……」
「……俺もだ」
「絶対、抜くなよ、このまま……んっ、んむ、んん……♡」
首にしがみついていた手が、更なる密着を求めて背中に回ってきた。気が付けば、太腿の裏側にもジュリアの脚が絡みついている。息をする度にジュリアの匂いが鼻を満たして、その匂いにすら剛直は反応していた。導火線は根元まで焼け落ち、はち切れそうな程に膨らんだペニスが、びきびきと張り詰めた。
「んふ……っ♡ んん、んんんんーーーーッッ♡♡」
心臓が強く脈動した。溜まった尿の排泄が如く、すさまじい快感と共にザーメンが尿道を押し広げてどくんどくんと放出されていく。似たようなタイミングでオーガズムに達したジュリアの舌が、口内で硬直している。下の口はびくびくと痙攣し、ラバーの内側へ放たれる温度に反応して、射精の最中にあるペニスを根元からぎちぎちと絞り上げてくる。
長い射精だった。鈴口から精液が飛び出す感覚が無くなっても、速くなった鼓動に合わせてペニスが震えている。
「ん……♡ ふー、ふうっ……♡」
絶頂の余韻にどっぷりと浸りながら、ジュリアの舌がじゃれついてくる。上の口でも下の口でも繋がって、一つの生き物になってしまったみたいだ。
「あ……ま、まだ抜くなよ……もうちょっと……」
名残惜しさを隠そうともせず、ジュリアが呟いた。膣肉に引き止められつつも、温かく下半身を包む体内から性器を引き抜く。
蒸し暑さを感じていたが、股間に触れた部屋の空気はひんやりしている。引き抜いたシャフトの先端にぶら下がったコンドームが重たかった。口を縛ったそれをジュリアにも見えるように掲げる。ぬらぬらとした粘液にまみれているが、所々に赤いものが見えた。女を剥き出しにして嬌声をあげていたが、激しくしたから痛みも強かったかもしれない。
「血、出てたんだな。気が付かなかった」
「痛かったか?」
「繋がってるのが、なんか幸せでさ……全然、気にならなかった」
ふわっとした猫っ毛に指を通して、頭を撫でる。こめかみや首筋に汗の滴が浮いていて、髪の根元まで湿っていた。
「汗だくだな、ジュリア」
「はは……あんただってだいぶ汗かいてるぜ」
顎の先端から垂れそうになっていた汗を、先端の硬くなった人差し指がすくった。
「とりあえず、シャワー浴びるか。暑くて仕方がない」
「……あたしも入るよ。さっき入ったばっかりだけどな」
差し伸べた手を強く握って、ジュリアが体を起こした。
二人で入るには狭いバスルームに、あられもない喘ぎ声と、ばちんばちん皮膚を打ち付ける音が反響する。「バカPのことだから、こうするだろうと思って」なんて言って、手の内にこっそりコンドームの小袋を握っていたジュリアに、再燃させられた性欲をぶつける。
浴室の壁に寄り掛かったジュリアは、力の入らない脚で立つのを諦めて、片脚を担がれて俺にしがみついていた。横になってロマンチックに愛し合える環境があるのに、ベッドに戻るのもじれったくなって始まった立位セックスは、下品で、背徳的だった。
「あっ♡ あ♡ あっ♡ はあぁぁっ……♡ ん♡ あ、きもちいい……♡」
「今日が初めてなのにこんなによがるなんて、ジュリアってスケベなんだな」
「うっ、う、うるさい……! あのベッド、匂いが充満、してたんだから……仕方ない、だろ。あの日だって……中々寝られなくて……」
もしかして、俺のベッドで寝てムラムラしていたのだろうか。ジュリアはその続きを喉の奥に押し込んでしまったが、締め付けを強くして絡みつくトロトロの膣が、赤裸々な本音を打ち明けていた。カリに掻き出される愛液が、どろっと厚くなっていく。
「あ……♡ ま、また……イく……♡」
「いいぞ……思い切り声をあげて、イッちまいな……」
焦燥感が形を取り出すのを自覚しつつ、奥の壁に当たるように突き上げていると、たちまちジュリアはがくがくと腰を震わせ出した。半ば悲鳴と化した嬌声が、狭いバスルームに反響する。
「ひあっ、あっ、いっ、イくっ♡ イっ……うく、ううっ~~~ッ♡♡」
「ん……や、ヤバ……」
裏筋をぞりっと擦られて、込み上げた射精感が突如爆発した。準備段階をすっ飛ばして、睾丸の中身が噴き上げた。びゅるびゅると景気よく精液が体外へ排出される。
吐精が完全に終わった後も、汗か水滴か分からないもので濡れた背中を、ジュリアの掌が撫で続けていた。セックスの味を知った、蕩けた眼差しが見つめてくる。
「……プロデューサー」
啄むようなキスを交わす合間に、小さな声でジュリアが言った。
「……」
子音が歯の隙間から漏れ出ただけの「す」ですら無い音が、微かに聞こえた。だがそれきりジュリアは、唇を閉じてしまった。
「わ……悪い。何でもない。やっぱ、こういうの、恥ずかしくて」
シャワーヘッドから垂れた水滴が、洗面器の水面に落ちた。
同じベッドで眠った翌朝、ジュリアの歩き方はぎこちなかった。どうかしたか、と尋ねてみても「しょうがないだろ」と不愛想に言われてしまう始末だ。あれだけ「女の顔」を晒して、自ら唇まで差し出していたのだ。機嫌が悪いようには見えなかったが、怒っているというよりは、何かに緊張しているように見えた。ジュリアから話すまで待っている内に朝食も済み、自宅への帰り支度もあっさりと終えていた。
「あ、あのさ、プロデューサー。これ……」
玄関に向かう途中で振り返ったジュリアが、薄いケースを差し出した。
「これは?」
「その……曲……」
クリアケースに入っていたのは、音楽用のCD-Rだった。
「順番が前後しちゃったけど……これ、あんたに聞いてもらいたかったんだ」
「昨晩弾いてたヤツか?」
「ホ、ホントは……あの場で歌おうと思ってたんだよ。でも、ちょっと……心の準備ができてなくてさ。言葉で伝えられる自信も無くて」
ケースを受け取って両手が空くと、所在無さげな指先がもじもじし始めた。
「とっ、とにかく。あたしは家に帰るからさ。次に会う時にまでは、聞いておいてくれよ。あと……」
ソファーの脇に置かれたギターケースに、ジュリアが視線を落とした。
「いいよな、置いていったままで」
「ああ」
通ってくる口実にオーケーを出すと、ジュリアの張っていた肩肘が緩んだ。郵便配達か何かのバイクがマンションの近くを通り過ぎたのを契機に、靴の爪先をトントンし始めた。「おじゃま……」と言いかけたのを咳払いで誤魔化して、流し目でこちらの様子を伺う。
「行ってきます」
行ってらっしゃいと背中に浴びながら、赤毛の少女は玄関の向こうに姿を消した。今度会った時にでも、合鍵を渡してやるとしようかな。
分割した数を数え間違えていましたが以上になります。ここまでお読み頂きありがとうございました。
ジュリアさん、意外と口調の調整が難しくてセリフ回しは結構難儀しました。
解釈違いが怖い所ですが、楽しんで頂ければ、と思います。
ご指摘ご感想など、ありましたら是非とも下さい。反応があることが一番の励みになります。
4月に書いた分は全然こっちに投下できていなかったので、また機会を見て書きに来ます。
渋の方もよろしくお願いします。
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