将軍「山を登って頂上に陣取るぞ!」兵士「オイオイオイ死ぬわオレら」 (26)

将軍「この一戦で全ては決まる」

副官「はい、一体どれほど血が流れるか……たとえ勝利しても厳しい戦いになることは間違いありません」

副官「さて将軍、この決戦の陣容はいかように?」

将軍「あそこに山があるだろう。あの山を登って頂上に陣取るぞ!」

副官「は?」



兵士A「ほう、山頂に布陣ですか……」

兵士B「オイオイオイ死ぬわオレら」

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副官「なぜ山頂に?」

将軍「お前は兵法も知らんのか」

将軍「山頂に陣取れば敵の動きを見渡すことができるし、いざとなれば勢いよく駆け下りて敵を攻撃できる」

副官「しかし、もし敵に包囲されて補給を断たれたらどうします?」

将軍「……」

将軍「よし、全軍山を登るぞ!」

副官「肝心なところは答えてくれないんですね」

ザッザッザッ…

将軍「険しい道のりだが、一人の脱落者も出ないようにな」

副官「はぁ……」

将軍「なんでため息なんかつくんだよ」

副官「いや……すいません。まるで勝てる気がしなくて……」

将軍「この戦いが終わったら俺、軍を辞めて故郷で趣味に没頭するんだ」

副官「今のでただでさえ低い勝率がさらに低くなりましたよ」

その頃――

敵将「ほぉう、敵は全軍で山を登っているだと?」

参謀「いかがいたしましょう?」

敵将「クックック、決まっている。我が軍も山に登るんだ!」

参謀「えっ!? なぜです!?」

敵将「なぜなら、山頂に陣取れば敵の動きが分かるし、上から下に攻撃もしやすい、といいこと尽くめだ」

参謀「しかし、山を囲んで補給を断ってしまえば、我が軍が有利になりませんか?」

敵将「……」

敵将「さあ、山へ進軍するぞ!」

参謀「痛いところを突くといつもスルーしますよね」

ザッザッザッ…

副官「将軍」

将軍「なんだ?」

副官「敵軍も我らを追いかけて、この山を登り始めたようです」

将軍「な、なんだと!?」

副官「どうしますか?」

将軍「こうなれば何としても、奴らより早く登頂するんだ!」

ザッザッザッザッザッ…

ザッザッザッ…

将軍「どうだ?」

副官「敵軍の方が早いですね。みるみる追いつかれています」

将軍「我々が切り開いた道を使っているからだろうな……。くっ、汚い奴らめ!」

副官「どうしますか?」

将軍「とにかく急ぐしかあるまい! 先に山頂に行かれたら負ける!」

ザッザッザッザッザッ…

ザッザッザッ…

将軍「む!」

敵将「クックック、追いついたぞ」

将軍「おのれぇ!」

副官「将軍、こうなってはここで決戦するしかありません。全兵士に命令を!」

将軍「バカ者ォ! 神聖なる山を血で汚す気か!」

副官「!」

将軍「こうなったら敵の将よ、どちらの軍が早く登れるか競争といこうではないか!」

敵将「クックック、望むところよ!」

ザッザッザッザッザッ…

将軍「やるな……」

敵将「そっちこそ!」

将軍「いいかみんな、山道では歩幅を小さく取った方が疲れにくい!」

将軍「なおかつジグザグに歩くんだ! まっすぐ進もうとするとかえって体力を消耗するぞ!」

敵将「つま先で登るんじゃなく、足裏全体を使うことを意識しろ!」



副官「お互い大変ですねえ」

参謀「まったくです」

副官「……!」

副官「崖だ……」

副官「将軍、これは進めませんよ。引き返しましょう!」

将軍「いや、待て……ほんのわずかだが登れるルートがある!」

副官「えっ!?」

将軍「みんな、私が登るルートを真似して登るんだ! そうすれば全員登れる!」

敵将「クックック、こちらもまず私が登るから、それについてくるのだぞ」

ガシッ ガシッ ガシッ

副官(まさか、ロッククライマーみたいなことするはめになるとは……)

副官(しかし、将軍の登り方は的確だ……)

副官(真似してるだけで崖登りなんかやったことない私でもスイスイ登れる……)

副官(っていかんいかん! だいぶ毒されてきてる!)

将軍「さあ、あと少しだ! 気合を入れろ!」

将軍「全員登りきったようだな」

副官「将軍のルート確保もお見事でしたが、我が軍の練度は凄まじいですね。正直見くびってました」

将軍「そうだろうそうだろう」

副官「しかし、あちらも――」

敵将「クックック、お互い脱落者は出ていないようだな」

将軍「ああ、だが勝負はここからが本番だぞ!」

将軍「……と言いたいところだが」

将軍「ここらでいったん休憩しよう」

副官「では、用意してある食糧で――」

将軍「いや、せっかくだから山の幸を食べようではないか」

副官「山の幸……?」

将軍「えぇ~と、たとえばこのキノコ、焼くと美味いゾ!」ズボッ

副官「お詳しいんですね」



敵将「我らも食事にするぞ! 山菜採り開始だ!」

オーッ!

グツグツグツ… コトコトコト…

将軍「ではみんなで、いただきまーす!」

副官「いただきます」

ハグハグ… ムシャムシャ… モニュ… パキ…

兵士A「ほう、息抜きに山で鍋パーティーとは大したものですね」

兵士B「オイオイオイうまいわコレ」

チュル… モニュモニュ… クチャ… ジュル…

敵将「クックック、お互い酒を飲むわけにはいかんが、食後のコーヒーはどうだ」

将軍「お、悪いな」

アッハッハ…

ビュゴォォォォォォ……!

副官「腹も満たして絶好調……と思いきや、まさか吹雪が来るなんて……!」

将軍「山の気候は変わりやすいからな」

副官「いくらなんでも変わりすぎじゃないでしょうか!」

将軍「泣きごとをいっても始まるまい。さあ、全軍で山登りを続行だ!」

ザッザッザッザッザッ…

ビュゴォォォォォォ……!

敵将「ハァ、ハァ、ハァ……」

参謀「閣下、顔色が……」

敵将「うぐ……」ドサッ…

参謀「ああっ!」

将軍「おい寝るな! 寝たら死ぬぞッ!」パシッパシッ

敵将「いや……どうやら私はここまでだ……。この戦、お前たちの勝ちのようだ……」

将軍「……!」

将軍「食え」

敵将「これは……チョコレート!? いいのか? 虎の子のとっておきのチョコだろうに……」

将軍「勘違いするな。お前を倒すのは、この俺だからな」

敵将「……!」

敵将「ありがとう……」モグッ…

将軍「体力が回復したら先に進むぞ。山頂はもう目と鼻の先だ!」

ザッザッザッ…

副官「山頂が見えてきましたね!」

将軍「うむ」

ガクンッ

ドザザッ!

将軍「しまっ!(こんなところにクレバス(割れ目)がッ!)」

副官「しょうぐぅぅぅぅぅぅん!!!」

将軍(落ちる――――!)

ガシッ!

将軍「――――ッ!」

敵将「今、引き上げるぞ……!」ググッ…

将軍「な、なぜ……助けたッ! 情けのつもりか!?」

敵将「勘違いしないで欲しい。先日のチョコレートの借りを返しただけだ」

将軍「……」ニヤッ

敵将「……」ニヤッ



副官(微笑み合う二人の将――敵味方などという小さな垣根を越えた大きな“友情”の姿がそこにあった)

ついに両軍は――

将軍「やった……!」

副官「とうとう登り切りましたね!」

将軍「ああ……」

副官「あっ、ご来光です! まるで我々の登頂を祝福してくれるかのように……」

将軍「美しい……」

将軍「この美しさの前では、どんな争いも憎しみ合いも、ちっぽけなものに感じられてしまうな」

副官「おっしゃる通りですね」

兵士A「ほう、これが山頂ですか……大したものですね」

兵士B「オイオイオイ綺麗だわ景色」

将軍「――さて、下山するか」

将軍「敵の将よ!」

敵将「!」

将軍「今回は引き分けとしよう。しかし、またもし競争する時があったら……次は負けん!」

敵将「クックック、望むところ!」

将軍「全軍、下山する! ただし最後まで気を抜くなよ! 山を無事降りるまでが登山だ!」

ハイッ!!!

副官(こうして両国の命運を賭けた最後の戦いは、両軍とも一人の兵も損なうことなく)

副官(引き分けという形で幕を閉じた)

副官(結局、この戦がきっかけとなり、両国の和睦もとんとん拍子に進んだ)

副官(両国とも長引く戦争に疲れきっていたし、この戦で生まれた和睦ムードは渡りに船だったのだ)

副官(もしこれが全て将軍の計算のうちだとしたら大したものだが、絶対そんなことはないんだろうなぁ)

副官(さて、将軍はというと――)

副官(戦争が終わったら、本当に軍を辞めて田舎に帰ってしまった)

副官(お世話になったのは事実だし、私はしばらくしてから将軍の地元を訪ねてみた)





副官「そういえば、将軍の趣味ってなんなんだろうなぁ」

副官(あれだけ山登りが得意だったしきっと――)

元将軍「おーい! 久しぶりだな、副官!」

副官「あ、将軍!」

元将軍「今日の波は最高だぜ! ヒャッホーッ!」ザバァァァァァン

副官「海派だったんですか!?」










― 完 ―

かつて別の場所で投下したものですがよろしければ読んでみて下さい
ありがとうございました

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