小日向美穂と冬夜の温もり (14)


これはモバマスssです

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 12月16日。

 既に夕陽は沈んで空は黒く、辺りは夜に染まる頃。

 都内某所に存在する女子寮の入り口付近に、小日向美穂は立って居た。
 関東でも雪が降った日の夜風は余りにも寒く、ほんの数分前に部屋を抜け出したばかりなのに既に指は悴み切っていて。
 それを温める為に吹き掛けた吐息の白さが、その寒さを更に主張している。
 スマホのバッテリーも消費が早く、あっという間に半分を下回ってしまっていた。

「……まだかなぁ」

 約束の時間まで、おそらく後十分ほど。
 今か今かと、まるで恋人を待ち焦がれるかの様に空を見上げる。
 雲に隠れた月は、綺麗に半分。
 幸い雨はあがってくれたが、この雲ではまた降り出してもおかしくは無かった。

 焦りは無かった、絶対時間ピッタリに来てくれると信じていたから。
 今から出掛ければ寮の門限ギリギリとなってしまう事は分かっていたが、それでもこれからの事へのワクワクが上回り。
 一応窓の鍵は開けて出て来たから、最悪の事態は回避出来る様になっている。
 もっとも、いざとなったら他の子の部屋に窓から入れてもらうだけだけれど。

 約束の時間まで、あと一分。
 寮の前の道路が、ライトに照らされた。
 少しずつ車が近付いてくる音がする。
 その音源の接近はだんだんゆっくりとなり、そのまま入り口の前で五回ブレーキを踏んでから通り過ぎて行った。

 ……通り過ぎて行った。

「……あ、あの……っ! 此処です! 此処ですよーっ!!」




「なんで通り過ぎて行っちゃうんですかっ! 本気でショックだったじゃないですか!!」

「お前な……流石に目の前で乗っけたら寮母さんや他の子にバレるから、少し通り過ぎて一つ目の交差点曲がった所って言っただろ」

「…………そ、そうでしたっけ?」

「聞いてなかったな?」

「時間はちゃんと覚えてました!」

 良い返事で誤魔化す美穂。
 それに対し、運転席のプロデューサーは苦笑いで返す。

 基本的には良い子なのだがどこか抜けた所がある、そんな美穂の事を当然プロデューサーである彼はよく知っている。
 特に一度失敗ると空回りしやすく、その後もミスを誘発しやすい子だから。
 パーティの疲れで美穂が寝落ちしてちる可能性を考え、更に最悪美穂のスマホの充電が切れている場合まで想定して予定を立てていた。
 実際二人で予定を立てている時、美穂は後半ぽわぽわな笑顔を浮かべて聞いていなかった。

「疲れてないか?」

「全然大丈……あ、疲れてるって言ったらどうなってましたか……?」

「うーん……考えて無かったな」

「もー……」

 高速へ向かって車を走らせながら、彼は苦笑した。
 勿論考えてなかった訳では無い。
 オススメは出来ないがエナジードリンクは買ってあったし、ガムやホットアイマスクもある。
 けれどそれよりも、そう言った場合の美穂の反応を楽しもうとしていた。

「じゃあ逆に聞くけど、美穂はどんな事をされたら元気になれたんだ?」

「…………えっ? ええっと……あ、あぅ……」

 ぷしゅぅ、とオーバーヒートする美穂。
 果たして今の質問は、そんなに難解なものだっただろうか?

「じゃ、じゃあ! プロデューサーさんはどんな事をすればわたしが元気になれると思いますかっ?!」

「昼寝?」

「た、確かにそうですけど……プロデューサーさんが、わたしに何かしてくれないかなー……なんて……」

 少し拗ねた様に、紅くなった頬を隠すべく窓の外を見やる美穂。
 けれど残念な事に、そんな照れた表情は窓に反射してばっちりプロデューサーに見られていた。




 車は高速を走っていた。
 日曜の夜にしては有難い事にかなり空いていて、ブレーキを踏む事なくすいすいと進む。
 壁の外には既に都会の夜景が広がっていて、雲の切れ間からは月が覗く。
 彼女の望む雰囲気としては、なかなかのものだった。

「……外、きっと寒いですよね」

「なんだ、お手洗いなら次のパーキングエリアで」

「そんな事言ってないんですけど!」

 ありゃ、気を回してみたつもりだったんだけどな……と頬をかくプロデューサー。
 本人的には割りと真面目に言ってるのだろうが、いかんせんデリカシーが欠け過ぎていた。

「12月に入って、一気に寒くなった気がします」

「そうだな……あ、今更だけど待たせて悪かったな。寒かったろ」

「え、待ってませんよ?」

「ん、そうだったか。美穂の事だから十分くらい前からスタンバってると思ってたんだがな」

 ドンピシャで当てられ、なんだか面白くなくて合ってるとは言い出せなかった。
 もちろん彼が自分の事を理解してくれているのは嬉しい事だけれど、そんなところまで察されても恥ずかしいだけ。
 とは言え気持ちとしては複雑でなんとも言えないもの、女心は難しいのだ。
 そんな事を言ったところで、当のプロデューサーは全く理解出来ないだろうけれど。

「もうすぐクリスマスですもん」

「流れぶった切ったな」

「昔はよくクリスマスプレゼントと一緒にされてたんです……」

「あぁ……俺の友達にも、お年玉と一緒にされてる奴がいたな」

「今年はホワイトクリスマスだと良いなぁ」

「過去三十年、東京のクリスマスは雪降ってないらしいぞ」

「ガチャ? で言うところの乱数調整ですね」

 それは少し違う気がする。
 というか誰からそんな話を聞いたんだ。
 三好か、それとも双葉か、はたまた神谷か。
 まったく、うちの純粋なアイドルに変な事を吹き込まないで欲しいものだ……と、プロデューサーは苦笑い。



 高速で余りにもすいすいと進むと、逆に眠気がやってくる。
 きちんと意識を保つ為、プロデューサーはスマホを美穂に渡した。

「悪い、適当に音楽かけてくれるか?」

「了解です。あ、パスワードがかかってて……」

「えーっと、美穂の誕生日で開くから」

「はーい……って、教えちゃって良かったんですか?」

 プロデューサーが言った通りに1216と打ち込むと、スマホのロックが解除された。
 さらに壁紙には、ステージで踊る自分の姿。

「…………ふっ、ふぃうちは禁止です!」

 噛んだ。
 更に頬は真っ赤に染まっているが、幸いプロデューサーは前に集中していた為見られずに済んだ。
 パスワードが4桁と言う事は、だいぶ前から変更せずそのままと言う事で。
 つまり、それは……

「……防犯意識が低い……?」

「成る程、流石美穂だな」

 本日何回目の苦笑だろうか。
 プロデューサーの表情筋は、いずれ苦笑の状態で固まってしまいそうな程の頻度だ。

「…………わたし、褒められてます?」

「褒めてるよ、偉い偉い可愛い可愛い」

「雑に褒められても嬉しくありませーんだっ」

「今は運転に集中してるからな。着いたらきちんと丁寧に褒めさせて貰うよ」

「……た、楽しみにしてまふ……」

 こちらも本日何度目かのオーバーヒート。
 この車の中だけで殆どの表情をコンプリート出来そうな勢いだった。

 プロデューサーのスマホのミュージックを開き、適当にシャッフル再生をする。
 一曲目に流れて来たのは、自分のデビューソングである『Naked Romance』だった。
 ……筈だった、と言うかプロデューサーである彼が担当アイドルの曲を聴き逃す筈が無い。
 のだけれど、音速以上の早送りにより次の曲へと飛ばされてしまう。

「なんで変えるんだよ」

「は、恥ずかしいじゃないですかっ!」

「そういうもんなのか」

「そういうものなんです。ところでプロデューサーさんって……その、恋人とかいらっしゃるんですか……?」

「さっきから話の流れが雑過ぎやしないか?」

「死活問題なんですっ!」

 流石はステージ慣れしているアイドル、華麗に話の流れを変える事が出来た。
 更に曲も変える事が出来て、次に流れて来たのは『空と風と恋のワルツ』。
 ……これもまた、美穂の歌っている曲だった。
 芸術点と言う観点からしたらかなりの高得点だろう。
 
「……次の曲流します」

「あ、多分そのプレイリスト美穂の歌ってる曲しか入ってないやつだな」

「なんでそんなプレイリストを作ってるんですかっ?!」




「そりゃ好きだからだよ」

 一拍おいて、頭から湯気を出し。
 落ち着け自分、まだ勘違いの可能性もある、と心頭滅却を図る美穂。

「……………………どっちがですか?」

「ん、それは『Naked Romance』と『空と風と恋のワルツ』のどっちって意味か? んー、かなり難しい質問だな……」

「ふーん……ふーーーん……っっ!!」

「あれか、こういうのって即応しないとプロデューサーとしてダメなもんなのかな」

「男性としてダメだと思います」

「そこまで言うか」

 空回りが二人、溜息を吐く。
 それからしばらく、『空と風と恋のワルツ』をbgmに車は進んだ。

「……それで、その……さっきの質問ですが」

「どっちが、ってやつか?」

「その前のです」

「美穂が褒められてるかどうか?」

「それよりも後の……分かって聞いてませんか?」

 勿論プロデューサーは分かっている。
 けれどそれは、プロデューサーと言う立場としては出来る限り避けて通りたい質問で。
 更に言うと、ただの意地悪だった。

「ふふ、すまん。内心緊張してあたふたしてる美穂が可愛くてな」

「意地悪なプロデューサーさんにはもう二度と…………うーん、どうしようかな……」

 考えていなかったらしい。
 再び、車内は美穂の歌声だけが流れる。

「……黙ってるとわたしの歌が聴かれちゃうので喋ります」

「それはそれで美穂の声が聞こえるから悪い事なしだな」

「……ぶ、ぶっちゃけですよ? プロデューサーさんって、恋人とかそう言ったお相手は……」

 美穂の言い慣れてない『ぶっちゃけ』良いな、と笑うプロデューサー。
 睨まれたので口にはしなかったが。

「仕事だな」

「仕事以外では」

「それだと恋人が複数人って事にならないか?」

「……浮気性」

「俺何も言ってないんだがな」

 口を尖らせジト目なところ申し訳ないが、プロデューサーは別に何も言っていない。
 まぁ、そんな事は彼女も分かっているだろうが。
 彼が仕事人間のワーカー族である事は、同じ事務所にいる人間であれば誰しも知っている。
 けれど、まぁ、それでも年頃の女の子であればそう言った事は気になるもので。




「で、ではですよ? いずれそう言ったお相手が欲しいなーとかって考えたりは……」

「仕事してる間は結構だ」

「退職後は分からない、って事ですか?」

「どうだろうな。少なくとも美穂が引退するまでは分からん」

「……? ……?? わたしが引退したらお仕事辞めちゃうんですか?」

「さあな、この仕事に就いてからは将来なんて殆ど考えて来なかったから」

 ウィンカーを点滅させ、高速から降りる。
 既におめめグルグルな美穂は、カーブで更に目を回していた。

「あ、プロデューサーさんっ!」

「どうした?」

 やっぱり本当はお手洗いに行きたかったのか? と言う言葉をグッと呑み込む。

「プレゼント下さいっ!」

「……車から降りたらな」

 






「…………さ、寒い……」

「おいおい、若い子が何を言ってるんだ。やっばめちゃくちゃ寒いな」

「背中丸めて……おじさんっぽいですよ?」

「美穂くらいの子からしたら、二十後半過ぎればもうおじさんなんじゃないのか?」

 駐車場に車を止めて外に出てた二人を待ち構えていたのは、これでもかと言うくらいの寒さだった。
 日中に雨が降った事もあり、夜風の冷たさはここ数日に比べて一段と厳しいものになっている。
 雨が降っていないのは不幸中の幸いだが、下を見てもキリがない。
 取り敢えず現状に文句を垂れながら、二人並んで寒さを耐える。

「あ、スマホのバッテリーが切れました」

「寒いからな。俺のももう20%切って……あ、消えた」

 せっかくワザワザ訪れたと言うのに、その風景を写真に残す事は叶わなそうだ。
 別に後々見返すかと問われれば即答は出来ないが、それはそれとしてガッカリする。

「あ、プロデューサーさんっ! 熊本の女は強いんです」

「何に? お酒か?」

「寒さに、ですっ!」

「本当か?」

「ほ、本当ですよ? 多分……」

 どうやら適当言っていた様だ。
 ちなみに十二月の平均気温は、東京と熊本では1℃も変わらない。

「だから身体もあったかくて……ほ、ほんとだもんっ!」

「いや、俺何も言ってないが」

「そ、そこまで言うなら確かめてみれば良いと思いますっ!」

「いや、だから俺何も……」

 こうなっては、美穂はテコでも動かない。
 と言うよりも、聞き耳持たないの方が正しいが。
 けれどこうなると、やはり少し意地悪したくなってくる。

「確かめるってどうすれば良いんだ?」

「そ、それはですね……」

 顔を真っ赤に、美穂はプロデューサーへと手を伸ばした。
 顔には『握って下さい』と書いてある。

「手を握って、こう……『お、本当にあったかい。疑って悪かったな、美穂』みたいな感じで……そのまま自然な流れて手を繋いだりとか……」

「……美穂?」

 ワザワザきちんと声まで変えて一人二役を演じるのは良いが、どうやらもう彼女の脳内では別の世界が広がっている様だ。
 けれどだから、そもそもプロデューサーは美穂の事を疑っていなかったのだが。





「あ、あのっ、ええと……べ、別にわたしは良いんですよ? あったかいですから」

「……おーい、小日向さーん」

「でもその、プロデューサーさんの手が冷えて帰りの運転に支障が出たら大変だから……そう、事故予防ですっ!」

「はいはい、失礼するぞ」

「ひゃっ!」

 半分ほど別世界へトリップしていた美穂を、プロデューサーは無理やり手を握って引き寄せた。
 どうやら言い出したはいいが心の準備は出来ておらず、かと言って引き退る訳にもいかなかった的な反応でアホ毛含めて跳ねて驚く美穂。

「ん、確かにあったかい」

「で、でででっ、っですよねっ! ほ、ほらやっぱりプロデューサーさんの手は冷たくなってて大っきくて握って貰えると安心して……あわわわわわっ!」

 コロコロ変わる美穂の表情をしばらく眺めるだけの時間が続いた。
 その間足も止まっていたので、当然体は冷える。

「……寒。歩くぞ?」

「ふぁ、ふぁいっ!」

 未だ興奮冷めやらぬと言った様に、ほぼ上の空で反射的に返事をする美穂。
 顔は相変わらず真っ赤だが、どうやら笑顔なので満更でもないのだろう。

「それで……どうでしょうか?」

「えっ、何が?」

「熊本の女と付き合うと、いつでも手が温かく過ごせるんですっ!」

「…………あぁ、さっきの話の続きか」

「……た、足りませんか? ならっ!」

 まるで通販番組の様なトークが始まる。
 それからしばらく、今度は熊本の女と付き合う事によるメリット講座が続いた。
 プロデューサーは話半分に聞き流し、前を見てない美穂の手を引きエスコート。
 それに対して『きちんと聞いて下さい!』とお叱りを受け謝まって、また聞き流すのがワンセット。

「以上ですっ! どうですか? 熊本の女を恋人にしたくなりませんでしたかっ?!」

「よし、着いたぞ」

「あのっ!!」




 立ち止まるプロデューサーに、腕をぐるぐる回して反抗しようとする美穂。
 けれどそんな彼女の動きは、プロデューサーに指さされた先の光景によって止められた。

「…………わぁぁっ……っ!」

 目の前に広がるのは、何処までも続くイルミネーション。
 色とりどりの明かりが、様々な形をとって夜を飾る。
 花火の様な赤い花が、波の様な青い海が。
 ただひたすらに煌々と、冬の夜を別世界へと塗り替えていた。

 言葉も、視線も、時間も。
 まるで全てが奪われて、止まってしまったかの様な時間がそこにはあった。

「…………綺麗」

「……だな、やっぱり綺麗だ」

 イルミネーションに照らされた美穂の横顔を眺めながら、満足そうに頷くプロデューサー。
 連れて来て良かったと心から思い、握る手を強くした。

「……えへへ、ありがとうございます」

「こちらこそありがとう。それと……誕生日、おめでとう」

 そう言って、プロデューサーはポケットから小箱を二つ取り出した。
 可愛らしいリボンのラッピングがされた箱を、そのまま美穂の手に乗せる。

「二つも……開けて良いですか?」

「もちろん。他の子のプレゼントに見劣りしないと良いんだがな」

 既に日中開催された小日向美穂バースデーパーティで、彼女は大量のプレゼントを受け取っている。
 それと比べるなんて事を彼女はしないだろうが、それはそれとして喜んで貰えるか不安になるのも仕方の無い事だった。
 プロデューサーは男性で、当然ながら女心に聡い訳ではない。
 仕事柄プレゼントを贈る事は多いが、それが喜んで貰えるかどうか毎度毎度悩みに悩み抜いて選んでいた。

「じゃ、じゃあ一つ目を……」

 するりとリボンを解いて、美穂は一つ目の小箱を開けた。

「……これは……ぷちプロデューサーくん……!」

 早速命名して頂けた様だ。
 一つ目のプレゼントは、クマのキーホルダー。
 彼女愛用のクマのぬいぐるみにそっくりな、持ち運び可能サイズのもの。
 取り敢えず突っ返されはせず一安心のプロデューサー。

「ありがとうございます!」




 既に彼女の中では、このキーホルダーを何に付けるかの議論が始まっていた。
 けれど一応、もう一つプレゼントはあって。
 と言うよりもプロデューサー的には、そちらの方が本命で。

「もう一つも開けてくれるか?」

「はいっ!」

 もう一つの小箱を、美穂は開ける。
 その小箱に入っていたのは……

「……わぁ、ネックレス……!」

 リボンモチーフのネックレスだった。
 ピンク色の、本当に可愛い子でないと似合わないデザイン。

「…………あ、ありがとうございますっ!」

「是非使ってくれると嬉しいかな」

「あ、でしたら……」

 そう言って、早速美穂はプレゼントされたネックレスを首に掛けた。

「…………ど、どうでしょうか……?」

「……可愛いな、凄く似合ってる」

 彼女の胸元に輝くネックレスは、プロデューサーが想像した以上に似合っていて。
 ネックレスを掛けた彼女の笑顔は、イルミネーションなんて比じゃない程に輝いて見えた。

「二つも頂いちゃって本当に良いんですか?」

「美穂の気が済まないなら、片方はクリスマスプレゼントって事にしても構わないが」

「クリスマスはクリスマスで楽しみにしてますっ!」

 余りの眩しさに、プロデューサーの方が照れて目を逸らした。
 満面の笑顔は、それだけ明るく温かくて。




「……あぁ、それと……さっきの熊本の女が云々のやつだが」

「あ、どうでしたか? 付き合いたくなったり……」

 目を逸らしたまま、プロデューサーは呟いた。

「……別に熊本の女とかメリットとか関係無しに、俺の気持ちはきちんと美穂に向いてるから」

 静寂が訪れた。
 冷たかった筈の夜風が、今では音すら聞こえない。
 ただただイルミネーションに照らされて、静かな時が流れて。
 けれどそこに、居心地の悪さは無くて。

 ーー先に口を開いたのは、大きな深呼吸を終えた美穂だった。

「っさっきのわたしの説明が無意味だったって事ですかっ?!」

「そっちに食い付くのか……」






 その夜、きちんと意味を理解した一人の女の子の呻き声が一晩中寮に響き渡った。




以上です
小日向美穂誕生日おめでとうございます
お付き合い、ありがとうございました

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