阿良々木暦「吸血鬼の尻穴って、何の為にあるんだ?」 (31)

「おい、忍」
「なんじゃ、我が主様よ」

今や国民的幼女と成り上がった、忍野忍こと、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの成れの果てが、常時ノーパンであることなど、既に全世界に知れ渡る共通認識なのは、わざわざ言うまでもなく明白なことなのだが。

「見えてるぞ」
「見せているのじゃ」

こうも堂々と見せつけられては、目のやり場に困る……と、思いつつも、ガン見してるけれど。

「流石にガン見するのは感心せんな」
「別に、減るものじゃないだろ?」
「それはそうじゃが、対価は貰うぞ」
「対価?」
「見合った価値ある物を献上して貰おうかの」

絶世の美幼女の局部に見合う価値ある物。
そんなものがこの世に存在するのだろうか。
いや、誤解や語弊がないように補足すると、この美幼女の局部には、絆創膏が貼られている。
ノーパンに絆創膏が忍野忍流のお洒落なのだ。

「うーむ。絆創膏と同価値となると……」
「ミスタードーナツで決まりじゃな」

どうやら結論ありきの既定路線だったらしい。

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「こんなこともあろうかと」
「なんじゃお前様、用意が良いのう!」

伊達に長くペアリングを通わせているわけではない。全ては想定内の範疇に収まっている。
そろそろ催促される頃合いだと見越して、事前に用意していたミスタードーナツが入った箱を差し出すと、忍は目を輝かせて、掻っ攫った。

「うむ。ちゃんとゴールデンチョコレートを2つ買ってきておるようじゃな。大義であった」
「お前の望みなんて僕にはお見通しなんだよ」
「穴の空いたミスタードーナツだけにか?」
「見通しの良さを無理矢理こじつけるな」
「かかっ」

チョコレートで顔やら手が汚れることなどお構い無しに、上機嫌でゴールデンチョコレートにかぶりつく忍に目を細め、僕は局部に貼られた絆創膏を凝視していたのだけど。
そんな微笑ましい光景よりも、気になる疑問がふと浮かび、忍に質問してみることにした。
穴は穴でも、ミスタードーナツの穴ではなく。
尋ねるのは絆創膏で隠し切れない、穴のこと。

「吸血鬼の尻穴って、何の為にあるんだ?」
「はえ?」

僕の問いかけに、忍は可愛らしく首を傾げた。

「そもそも、吸血鬼って、排泄しないだろ?」
「まあ……そうじゃな」

これは紛れもない事実であり、実体験だ。
吸血鬼だった僕が身を以って体験済みの事実。
そもそも、食物を食べる必要がないのだ。
吸血鬼は文字通り、血を吸う鬼、なのだから。

「だから、何の為に尻穴があるのかと思って」
「理由が必要かの?」
「物事には全て、理由があって然るべきだ」

根が真面目すぎる僕は、万物の理を解こうと試みた。神は、サイコロを振らないのである。

「うーむ……そうじゃのう」
「心当たりがあるのか?」
「あるにはあるが、お前様よ」
「なんだ?」
「食事時にする話ではなかろう。暫し、待て」

そう言われては、黙るしかない。沈黙した。
たしかに、食事時には不適切な質問だった。
ましてや、色合いが似ているゴールデンチョコレートを食べている、今この時には、尚更だ。

「はあ~! 美味しかった!」

待つこと、数分。ついに、その時が訪れた。
忠犬よろしく、食べ終えるのを待ちに待った僕は、満足そうな美幼女に詰め寄り、急かした。

「さあ! 早く尻穴の真相を教えてくれ!」
「そうせかせかするでない、お前様よ」
「せかせか!」

せかせかするなと言われると、余計に急く。

「やれやれ、困った主様じゃのう。そんなに儂の見目麗しい尻穴が気になるか?」
「俄然、気になる!」
「気に入ったのか?」
「俄然、気に入った!」
「ならば、良かろう。話してやる」

忍は語る。怪異の王、吸血鬼の尻穴の真相を。

「これはあれじゃ、人間だった頃の名残じゃ」
「名残?」
「なごり尻、と言ったところかの」

なごり雪みたいに、尻穴をなごまれても困る。

「儂が元人間であったことは知っておろう?」
「それは知ってる」
「じゃから、その尻穴が残ったのじゃろうよ」

言われてみれば、なんのことはない。
僕だって吸血鬼化しても尻穴は存在していた。
600年を生きた吸血鬼とはいえ、元は人間。
その名残が身体に残っていても不思議はない。
しかし、疑問は残り、僕は追求を重ねた。

「でも、600年間、使ってないんだろう?」
「まあ、排泄はしておらんな」
「なら、退化してもおかしくない筈だ」

不要な尻穴が600年も残ったことに進化論の観点から疑問を投げかけると、忍は呵呵と嗤い。

「儂は、排泄はしておらんと言っただけじゃ」

その意味深な言い回しに僕の興味が惹かれた。

「排泄以外の使い道があるのか?」
「ないことはない。試したことはないがの」
「たとえば?」
「そうじゃの。心渡を取り出したり、かの?」

ハートアンダーブレードの愛刀。妖刀、心渡。
刃渡り2メートルはあろうかという、長刀だ。
それを尻穴から取り出せると、忍は豪語した。

「マジで!?」
「本気と書いて、マジと読むそうじゃの」
「そんなことが可能なのか!?」
「儂に不可能はない」

僕は初めて心から、忍さんぱない! と思った。

あったほうがエロいじゃん

「是非、見せてくれ!」
「そんなに見たいのか?」
「是が非でも!」
「ならば、儂の尻を撫でろ」

その交換条件は見抜いていた。尻を撫で回す。

「尻穴をほぐすようにじゃ、この下手くそ」
「そうは言っても、忍」
「なんじゃ?」
「世の中には厄介な条例や規制があってだな」
「何を今更。この絆創膏が目に入らぬか!」

そうだ。絆創膏が貼ってある。ならば無問題。

「よしきた! 念入りにほぐほぐしてやる!」
「ほじほじの方が適切ではないのか?」
「その表現は品性に欠けるから性に合わない」
「お前様に品性が備わっていたとは驚きじゃ」

お上品なこの僕を、なんだと思っているのだ。

「それにしても、流石に締まりが良いな」
「かかっ。そうじゃろう、そうじゃろう」

忍の尻穴は、締まりが良すぎて隙がなかった。

>>6

貴重なご意見をお寄せ頂き、ありがとうございます!
本作品は全年齢対象作品となっておりますので、性的な表現は一切含まれておりませんが、今後の創作の参考にさせて頂きます。
重ねて、謹んで、感謝申し上げます。

「なあ、忍」
「ん?」
「お前、褒められると嬉しいか?」
「なんじゃ、藪から棒に」
「いいから、YESかNOかで答えてくれ」

糸口を見出すべく、忍にそう尋ねてみると。

「答えはYESでもあり、NOでもあるな」
「どういう意味だ?」
「愛と真心がこもっていれば、儂は嬉しい」

なるほどな。あい、わかった。愛、わかった。

「お前と出逢えて本当に良かったと思ってる」
「月並みじゃな」
「月よりも、お前は美しい」
「ふぇっ!? な、なにゅを言っておる!?」

その、一瞬の尻穴の緩みを、僕は見逃さない。

「隙ありだ、忍!」
「んあっ!?」

一気に第二関節まで差し込むと、固い感触が。

「今じゃ! 指を引き抜け! お前様よ!」
「あ、ああ!」

指を引き抜くと、抜き身の柄が、出現した。

「うわぁ~! すっげー!」

僕は童心に返り、心渡の柄の先を突っついた。

「これ、あまり乱暴にするでない」
「あ、悪い……痛かったか?」
「痛みよりも、むず痒いのう」
「感覚は人間と同じなのか?」
「恐らく。何せ、600年前のことじゃからな」

よく覚えておらんわいと、忍は嗤った。
600年ぶりに使用した尻穴から柄が出ている。
それはなんとも、シュールな光景ではあるが。
僕にはとても、神聖な神技のように思えた。
だって、すごく綺麗だ。付着物は一切ない。
排泄をしない吸血鬼ならではの芸当。見事だ。
底冷えする地鋼の怪しい煌めきに胸が高鳴る。

「もう少し触ってもいいか?」
「優しく触れるのじゃぞ」
「こんな感じか?」
「んっ……これまた、懐かしい感覚じゃな」

尻穴から伝わる感覚を、忍は懐かしんでいる。
なにせ、600年間も未使用だ。当然だろう。
しかし、人間だった頃の、思い出の尻穴だ。
せめて、幸せな思い出を思い出して貰いたい。
そんな一心で、一心不乱に心渡の柄を弄んだ。

「んっ……あっ……ふぁっ」
「痛くないか?」
「い、痛みはない……むしろ」
「その続きは、言わなくていい」

言葉は不要。僕たちは心を通わせ、渡らせた。

「あ、主様よ……」
「どうした?」
「そろそろ、出そうじゃ」

忍は排泄をしない。出るのは、妖刀、心渡だ。

「でも、尻穴が切れるんじゃないのか?」
「切れてもすぐに治せる」

刃の部分まできたら、間違いなく裂傷する。
その懸念を、忍は一笑に付したのだけど。
僕としては、どうしても、容認出来なかった。

「お前の尻穴が傷つくところを見たくない」
「しかし、尻穴はいずれ傷つくものじゃ」
「そんなことさせない。僕が守ってみせる」
「傷物は、趣味に合わんということか?」
「違う。傷物にしたくないという、決意だ」

尻穴が傷つくのは、痔と同義。絶対阻止する。

「もう充分だ。だから、仕舞え、忍」
「ここまで出てしまっては、どうにもならん」
「大丈夫。僕が優しく押し込むから」
「ひぅっ!?」

ぐっと柄を押し込むと、ズブズブ奥に入った。

「む、無茶じゃ!」
「無茶じゃない。僕に任せろ」
「んああっ!? 口からなんか出る!?」

その言葉通り、口から刃先が飛び出してきた。

「忍、飲み込めるか?」
「んぐっ」

ゴクンと飲み込むと、再び尻から柄が生えた。

「なにこれ、超愉しい!」

僕が柄を押し込むと、忍の口から刃先が出て。
忍が刃先を飲み込むと、尻から柄が飛び出す。
その繰り返しなのだが、一向に飽きがこない。
一生、この遊びを続けたいと、本気で思った。

「この……いい加減に、せい!」
「あっ」

忍が心渡を、ペッと吐き出して、遊びは終了。

「まったく、儂は手品の道具か何かか!」
「そ、そんなつもりは……」
「言い訳は聞きとうないわ! この、女の敵!」
「女って、今のお前は幼女だろ?」
「ならば、幼女の敵じゃ! 近づくでない!」

幼女の尻穴を弄んだ僕は、嫌われてしまった。

「悪かったよ、忍」
「ふんっ。お前様はいつもそうじゃ」
「いつもそうって、なんだよ」
「謝れば儂が許してくれると思っておる」

忍はカンカンで謝っても許してくれなかった。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」
「……キスじゃ」
「えっ?」
「じゃから、儂の尻にキスを……」
「わかった」

最後まで聞かずに、僕は忍の尻にキスをした。

「……そんなに、儂が尻が好きなのか?」
「ああ、好きだ。お前の尻穴を愛してる」
「イタリア男でも、そんなことは言わんぞ」
「他の国では言われたことがあるのか?」
「あるわけなかろう。初めての言葉じゃ」

尻に対する愛の言葉は、600年の生涯で初めての経験だったらしく、珍しく頬を染めながら。

「じゃから……とっても、嬉しい」

心底嬉しそうにはにかんだ忍を、抱きしめた。

「と、突然どうしたんじゃ、お前様よ」

突然の抱擁に動揺する忍の耳元で、懇願する。

「忍、僕の血を吸え」
「なにを……言っておるんじゃ?」
「僕もお前と同じ、不死身の尻穴になりたい」

不死身の尻穴となり、添い遂げたいと願った。

「何を言ってるか、わかっておるのか?」
「お前と同じ尻穴になりたいんだ」
「その為に、人間の生を諦めると?」
「諦めるわけじゃない。僕は、捧げるんだ」

人間の生を、忍に捧げ、不死身の尻穴となる。

「つまりは、対価というわけじゃな?」
「違う、これは進化だ。いや、真価だ」
「真の価値か。不死身の尻穴に相応しいのう」

決して傷つかず、穢れず、緩まない、尻の穴。
それはまさしく、理想の尻穴であり、終着点。
その為に、人間の生を捨てろと言うのならば。

「僕の命は、尻穴に捧げたっていい」

その覚悟を読み取った忍は頷いて、促した。

「ならば、尻を出せ」

命じられるがまま、ズボンを脱ぎ、尻を出す。

「尻から血を吸うのも、初めてじゃな」
「それは、光栄だ」

僕は今日、人間をやめて、吸血鬼に戻る。
全ては不死身の尻穴のため。全てを捧げる。
全てを失い、全てを手に入れようとして。

「フハッハー!」

予期せぬ乱入者によって、全てを邪魔された。

「やあ、阿良々木くん。久しぶり」
「忍野……メメ」
「ああ、覚えててくれた? それは嬉しいな」

唐突に。突然に。突拍子もなく、現れた忍野。

「相変わらず、阿良々木くんの尻穴は元気な尻穴だね。何か良いことでもあったのかい?」
「ひ、人の尻穴を見るなよ!?」

何しに来たんだとか、どこから来たんだとか。
聞きたいことは、山のようにあったけれども。
兎に角、ともかく、ズボンを上げようとして。

「おっと、動くなよ」

火の点いていないタバコの先を差し込まれた。

「おい、小僧。主様に何を……」
「忍ちゃんも、大人しくしてて」

手を拳銃の形にして、忍の額に突きつける。

「……なんのつもりじゃ、小僧」
「僕のスキルが本物だって、知ってるよね?」
「それがどうした?」
「少しでも動けば尻穴から心臓を引っこ抜くっつってんだよ。僕はそんなことをしたくない」

言葉とは裏腹に、忍野の口調は、真剣だった。

「お、忍野……」
「ああ、ほったらかしでごめんね」
「別に、それはいいんだけどさ……」
「ん? なんだい?」
「僕の尻穴から、タバコを抜いてくれ」

僕の尻穴にはタバコの先を差し込まれている。
このままでは、ズボンを上げられない。
そのような状態で、動くなと言われても困る。

「気に食わないね」
「気に食わないって、何がだよ」
「被害者ヅラが気に食わないっつってんだよ」

被害者ヅラも何も、尻穴が被害を受けている。

「君がそれを望んだんだろう?」
「僕はこんな辱めを望んじゃいない」
「なら、火を点けて入れてあげようか?」

何を言ってるんだ。火傷してしまうだろうが。

「不死身の尻穴ならば、へっちゃらかい?」
「ああ。だから僕は、それを求めた」
「人間じゃなくなるよ?」
「それで理想の尻穴が手に入るなら、僕は……」
「だが、感覚や痛覚は、元のままだ」

言われて気づく。自らの、過ち。愚かしさに。

「君がそれを望むなら何度でも焼きを入れる」
「……やめてくれ」
「だから、やめておけって、言いにきたんだ」
「悪かった。反省してる。だから助けてくれ」
「助けない。君が僕の忠告に耳を傾け、自分の愚かさを省みて、独りで勝手に助かるだけさ」

何もかもを見透かしたような、嘆息をされた。

「小僧、今一度問おう。貴様は何者じゃ?」

忍の誰何に、忍野メメは肩を竦めて答えた。

「僕は専門家さ」
「専門家である貴様の仕事とはなんじゃ?」
「あちらとこちらの橋渡し」

忍野メメは専門家であり、橋渡しが生業だ。

「あちらとは?」
「化物」
「こちらとは?」
「人間」
「つまり、貴様は人間の味方というわけか」
「いいや? 僕はバランスを取るだけだ」
「相変わらず、日和見主義のどっちつかずか」
「荒事は苦手でね」
「ふん。食えん奴め」
「幼女の癖に好き嫌いはいけないな」
「食えぬものに好きも嫌いもあるか」
「そりゃあ、ごもっともで」

煮ても焼いても食えそうにない男。忍野メメ。

「忍野、お前の専門は尻穴じゃないだろう」
「僕は手広くやらせて貰ってるものでね」
「尻穴の開発と、怪異は関係ない」
「ところがどっこい、そうでもない」
「どういうことだ?」
「一説によると尻穴は暗闇に通じているとか」

暗闇。くらやみ。思い出しくもない、記憶だ。

「暗闇は、関係ないだろ」
「暗闇の別の名は、規制とも言われている」
「……絆創膏がある」
「それで防げると本気で思っているのかい?」

何も、言えない。怖くて、何も言いたくない。

「危うく呑まれて飲み込まれるとこだったね」

危うい、危ない橋を、僕は渡ろうとしていた。

「まあ、地上波でも放送していたわけだし」

気を取り直すように、忍野は太鼓判を押した。

「絆創膏があれば、呑まれずに済むだろうさ」
「だったら……!」
「でも君の絆創膏なんざ誰も望んじゃいない」
「ぐぬっ」

まるで、羽川のような、正しすぎる正論。
美幼女の忍だからこそ、絆創膏に価値がある。
反論の余地はない。僕の絆創膏に価値はない。
むしろ、価値があった方が困る。怖すぎる。

「ちなみに我が主様は絆創膏サイズなのか?」
「いいえ! 隠し切れませんとも!」
「それならば、小僧に従うより他ないな」

余計な確認をしてくる忍に全力で否定すると。

「それじゃあ、決まりだね」

忍野が手を打ち鳴らし、僕たちは解放された。

「早いとこパンツを穿きなよ、阿良々木くん」
「急かすなよ」
「せかせかしないと、焼き入れるよ?」
「せかせか!」

忍野に急かされ、せかせかとパンツを穿いた。

「小僧」
「なんだい? 忍ちゃん」
「よくも儂の邪魔をしてくれたな」

僕がズボンを穿いている最中、忍は忍野に対して恨み節を炸裂させていた。ご立腹なようだ。

「フハッハー! 君も相変わらず、元気で可愛い尻穴だね。何か良いことでもあったのかい?」
「良いことも何もせっかくの好機を潰された」
「物は考えようさ。忍ちゃんは忘れているかも知れないけど、人間も捨てたものじゃない」

そう言って忍野は、すっと、タバコの先端を、あろうことか、忍の鼻先に近づけた。すると。

「フハッ!」

前触れなく、いきなり、忍は愉悦を漏らした。

「これぞ、生きとし生ける者の醍醐味だよ」

したり顔で、人間の素晴らしさを説く、忍野。
そのタバコはまさしく僕の尻に入ったもので。
生きとし生ける者の僕の尻穴には、もちろん。
ゴールデンチョコレートが潜んでいたわけで。

「フハッ!「フハハッ!「フハハハハッ!!」

独りで嗤い。愉悦を重ね、ハーモニーとなる。
高らかな忍の高笑いは、やがて哄笑となりて。
糞で彩られた物語に花を添え鼻で悦に浸った。

後日談というか、今回のオチ。

あの後、忍野メメは忽然と姿を消した。
立ち去る姿は、誰も目撃していない。
何故ならば、僕たちは目を閉じていたから。
閉じずにはいられない、放屁を、置き土産に。
目に染みるような、臭いオナラを、かまして。
忍野は別れの言葉も告げずに、立ち去った。

閑話休題の暇もなく、あいつは消えた。

忍野が何故、どうやって眼前に現れたのか。
それはついぞ聞くことは出来なかったけれど。
なんとなく、そのトリックは読めていた。
恐らく、同居人、斧乃木余接の手引きだろう。
100年生きた死体が付喪神となった彼女なら。
忍野に連絡を取ることも、招くことも可能だ。

「いえーい、ピースピース! 後期高齢者がまた鬼のお兄ちゃんを誑かしているよと、僕はしたり顔で密告したりしてみたりしたりして」

なんて、如何にも無表情で言いそうである。

ちなみに、忍野が最後に残した、放屁の意味。
それはきっと、間違いなく、さよ『オナラ』。
実にあいつらしい別れの挨拶だったのだろう。
そんなわけでキザで臭い忍野のオチはついた。

それでは僕のオチはどうつくのかと言うと。

「要するに、私を捨てようとしたわけね?」
「誤解です、ひたぎさん」

戦場ヶ原ひたぎに、お灸を据えられていた。

「全てを捨ててもと、そう思ったのよね?」
「あれは一時の気の迷いというか……」
「だまらっしゃい」

僕の彼女であるひたぎさんは、手厳しい。
一時期よりは、毒舌は控えめになったけれど。
生地や下地は元のまま、変わることはない。
それでも、怪異絡みの隠し事はしない約束だ。
だから僕は怒られるとわかって、打ち明けた。
しかし、正直者だから許すほど、甘くはない。

「土下座」
「えっ?」
「頭が高いと言っているのよ。ひかよろー」
「ははぁーっ!」

どこの黄門様だと、思いつつも、頭を垂れて。

「面をあげい」
「おっ?」

顔を上げると、眼前にひたぎさんの肛門様が。

「フハッ!」
「自分の彼氏が尻穴好きというのは、存外、彼女としては嬉しいものなのよ。だから、見て」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」

こちらに尻を向け、スカートをたくし上げて。
満更でもなさそうな、ひたぎさんに、心から。
僕はあの、忘れられない思い出の言葉を贈る。

「戦場ヶ原ひたぎの尻穴……蕩れ」

ひたぎさんの尻穴に見蕩れた裏切り者の僕が。
その後、忍に叱られ、拗ねられたことなんて。
その物語は語るだけ、野暮というものだろう。


【糞物語】


FIN

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