北沢志保「メイドの土産に教えてあげます」 (16)

志保「………」

P「ふーん……若者の既婚率の低下、結婚は人生の墓場ねぇ……難しいところだなぁ」

志保「………」ペラ

P「あ、そうだ。志保……っと、ごめん。台本を読んでたのか。静かにする」

志保「いえ、大丈夫です。今、一通り目を通したところだったので」

P「そうか。どうだ、『孤島にそびえ立つ館で働くメイド』の印象は」

志保「印象ですか。そうですね……やはりメイドという立場上、主人への忠誠をうまく表現する必要があると感じました」

志保「私はこの人に仕えている、従っている……そういった雰囲気を、見ている側にも伝えなければいけない。演じるうえで重要なポイントだと思います」

P「なるほど……それはなかなか難しいかもしれないな」

志保「それは私が普段から生意気で誰かの下に就くなんて考えられないと思っているからですか」

P「穿ちすぎだろ。単純に、志保はまだそういった上下関係の経験が少ないだろうから、演じるのにも時間がかかるかもって思っただけだよ」

志保「プロデューサーさんは経験豊富なんですか?」

P「俺が何度上司に頭を下げたと思っている」

志保「ああ、なるほど……」

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P「だから志保も、わからないことがあれば俺を頼って」

志保「ありがとうございます。私達のために、色々と頑張ってくれて」

P「え」

志保「………? 私、変なこと言いましたか」

P「いや……褒められる流れだとは思ってなかったから」

志保「馬鹿にしてほしかったならそうしますけど」

P「いやいやとんでもない! 嬉しいよ、ありがとう」

志保「お礼を言っているのはこっちなんですけど……」

P「それでもだよ」

志保「そうですか。なら、受け取っておきます」

P「そうしてくれ。ついでにこれも受け取ってくれ」

志保「これは?」

P「実家から送られてきたみかん。ひとりじゃ食べきれないから、おすそ分け」

志保「………いただきます。プロデューサーさんは?」

P「もちろん一緒に食べる」

志保「お茶、淹れてきますね」


P「………」ジーー

志保「………」パタパタ

P「………」ジーー


志保「お待たせしました……なんですか? ジロジロ見て」

P「ああ、ごめん。志保のお茶を淹れる姿、様になってるなと思ったんだ」

志保「そうでしょうか。自分では見えないので、よくわかりません……どうぞ」コト

P「ありがとう。一度録画して見てみたらどうだ? きっと自信がつくぞ」

志保「なんの自信ですか……私もこたつ、入りますね」

P「志保が来るまでにしっかり暖めておいたぞ」

志保「電源入れただけでしょう」

P「俺自身の温もりも追加したぞ」

志保「お邪魔しました」

P「帰ろうとしないでくれ」

志保「まったく。いつもそうやって口が軽いんだから……」

P「はは……すみませんでした」

志保「まあ、いいですけど。それより、食べないんですか。みかん」

P「っと、忘れてた。せっかくの温かいお茶が冷める前にいただかないとな」

志保「私も、いただきます」

P「やっぱりこの前こたつを引っ張り出して正解だったな。みかんとのシナジーが抜群だ」

志保「そうですね。珍しく意見が合いました」

P「珍しいは余計だろう」

志保「そうかもしれません」

P「最近は俺も志保に歩み寄れてると思ってるんだけどな」

志保「なら、今私が何を考えているのかわかりますか」

P「んー………わかった! 『今日のプロデューサーさん、いつもより髪型決まってるな』だろう」

志保「『この人皮剥くの下手ね』が正解です」

P「これはたまたま失敗しただけだ」

志保「どうやったらこんなに破片だらけになるんですか」

P「……し、志保は皮剥くのうまいな! どうやってるんだ?」

志保「別に普通ですけど。こうやって親指をかけて、あとはヘタに向かって剥いているだけです」

P「おおー」

志保「剥けました。どうぞ」

P「くれるのか?」

志保「私はそんなにすぐに食べられないので、あげます」

P「ありがとう。……あれだな、やっぱり志保はメイドの適性があるよ」

志保「どうしたんですか、急に」

P「さっきのお茶を淹れるところとか、今の皮を剥いてくれるところとか……もっと言えば、普段から気がついた時に掃除してくれるところとか。所作も綺麗だし、これならご奉仕される側も喜ぶに違いない」

志保「プロデューサーさんも、喜んでいるんですか」

P「ああ。志保みたいなメイドに毎日ご奉仕してもらえたら幸せだろうな」

志保「しかしメイド側はどう思っているんでしょう」

P「不穏」

志保「メイド側にも主人を選ぶ権利はあるはずです」

P「もう明らかに俺に仕えたくないって感情が出てるんだが」

志保「……対等な関係でいたいので」

P「………」

志保「……何か、言ってくれないんですか」

P「ああ、えっと………お前は今日から自由の身だ?」

志保「ふふっ、なんですかその表現」

P「いきなり志保がデレるもんだからびっくりして」

志保「デレてません。私は、いつも通りです」


P「………」ズズーッ

志保「………」ズズズ

P「暖まるな」

志保「暖まりますね」

P「このまま眠ってしまいそうだ」

志保「一休みはいいですけど、仕事はちゃんとやってください」

P「わかってるよ」

志保「なら、少し役作りの相談に乗ってくれませんか」

P「メイドのことか」

志保「はい。私だけでなく、他の人が抱くメイドに対するイメージも知っておきたいので」

P「そうだな……メイドといえば」

P「やっぱり仕込み刀だな!」

志保「……は? 仕込み……?」

P「知らないのか? 仕込み刀。こう、掃除用の箒と見せかけて実はってやつ」

志保「……それ、メイドらしいんですか?」

P「ご主人様を危険から守るのもメイドの仕事じゃないか。いざとなったら刀でかっこよく敵を倒すんだ」

P「決め台詞もあるんだぞ。『メイドの土産に教えてあげます』って敵を始末する時に言うんだよ。あ、これはメイドと冥土がかかったダブルミーニングでな」

志保「……なんだか、想像していたのと違う気持ち悪さが出てきました」

P「あとはやっぱり、飲み物を淹れる時に『おいしくなぁれ♪』って愛情を振りかけてくれる感じがいいな。きっと仕事の疲れも吹き飛ぶに違いない」

志保「今のは想像していた通りの気持ち悪さでした」

P「ひどいなぁ。素直に忌憚なき意見を伝えただけなのに」

志保「プロデューサーさんは、やっぱりメイド喫茶とかによく行くんですか」

P「いや、一回行ったくらいだけど……というかやっぱりってなんだやっぱりって」

志保「『萌え~』とか言ってそうなイメージがあったので」

P「今のかわいかったからもう一度言ってみないか?」

志保「よく燃えますね」

P「不穏」

志保「まとめると、プロデューサーさんはメイドにかっこよさとかわいらしさを両方求めているということですね」

P「そうだな。萌えと燃えが両立してこそメイドだ。男のロマンってやつだ。だからこそ、志保にはぴったりな役だと思っている」

志保「……まだ、消化しきれていないところもありますけど」

志保「その期待には、応えたいと思います」

P「ああ、頑張ってくれ」

翌日



P「あー………」

志保「お疲れ様です。レッスン、終わりました………プロデューサーさん?」

P「ああ、おかえり志保」

志保「……お疲れですか? 元気、なさそうですけど」

P「んー、今日は朝からなんか疲れててなー。熱はないみたいなんだけど」

P「冬の寒さに身体がついていけてないのかもな」

志保「そうですか」

志保「……寒いなら、ココアでも飲みますか?」

P「ココアか、いいなぁ」

志保「淹れてきます。少し待っていてください」

P「え、悪いよ。自分で淹れるから」

志保「プロデューサーさんはそこで座っていてください。私も飲もうと思っていたので、ちょうどいいというだけです」

P「……悪いな」



志保「お待たせしました。ココアです」

P「ああ、ありがとう。じゃあ早速」

志保「………」

P「……志保? くれないのか?」

志保「いえ……飲んでもらう前に、ご主人様へおまじないを」

P「ご主人様?」

志保「………」コホン



志保「おいしくなぁれ♪」ハァト



P「………」

志保「………」

P「………」

志保「……何か、言うことはありませんか」

P「………」


P「デレた?」

志保「メイドの土産に教えてあげます」ゴゴゴゴ

P「待て、始末しようとしないでくれ」

志保「時にはご主人様を正しく導くのもメイドの務め……」

P「天国に導くつもりだろっ!」

P「あっ……というか。もしかして、俺を元気づけるために?」

志保「………」

志保「気づくの、遅すぎです」

P「すまん」

志保「疲れ、吹き飛びましたか」

P「……確かに、疲れは吹き飛んだ」

志保「含みのある言い方ですね」

P「いや、本当に吹き飛んだんだ。志保の気持ちが嬉しくて……ありがとう」

志保「……どういたしまして」

P「はあ~、やっぱりココアは身体があったまるなぁ」

志保「そうですね」

P「志保の愛情入りだし、なおさらだ」

志保「……別に、愛情までは込めていません。あくまでメイドの演技の練習というのが前提ですから」

P「はは、そうか。俺はてっきり、ついに志保が本格的にデレてくれたものかと」

志保「私は、デレてなんていませんから」

P「残念だ。どうやったらデレてくれるんだろうなぁ」

志保「教えてあげましょうか? メイドの土産に」

P「それ、俺に死ねってことか?」

志保「違います。プロデューサーさんには、まだまだプロデューサーをやってもらわないと困るので」

P「じゃあ教えてくれないってことか」

志保「それも違います」

P「え?」

志保「死ななくても、墓場に入る方法はあるんじゃないですか」

P「………?」

志保「じゃあ、私は弟の迎えがあるので。失礼します」クス

P「お、おう……気をつけて帰るんだぞ」

志保「はい」



ガチャ、バタン



P「死ななくても墓場に入る方法……?」

P「……なんだ、なんのなぞなぞだ?」


志保「………」

志保「なんだか、とんでもないことを言ってしまったような気がするわ……」

志保「………」

志保「冬なのに、熱い……」




おしまい

おわりです。お付き合いいただきありがとうございます
志保のクラシックメイド姿見たいですね

前作 北沢志保「なかったことにしてください」
北沢志保「なかったことにしてください」 - SSまとめ速報
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