星梨花「私が帰る場所」 (10)

星梨花誕生日お祝いSSです。すでに書き終えているので投稿していきます

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芸能人にとって、誕生日というのはそう恵まれた一日ではないのだろう。

「バースデー企画」なんてものを打ち出されて否応なしに仕事に駆り出されたりもするだろうし、
その後には大して親交のない関係者との誕生日会が企画されていたりもするかもしれない。
もちろんその中で、誕生日の人は「主役」としてちやほやされるだろう。
誕生日プレゼントとして、事前のアンケートに書いた「今一番欲しいもの」が与えられ、
誕生日会のケーキには当たり障りのない一般的なケーキがさも当然といった様子で現れる。
そのような、微妙に距離感のある祝福は、人によっては不快にすら感じられるものになって
しまっていることに、被害者以外は誰も気づくことが出来ないのだ。





今日は二月二十日。
立春から二週間ほど経ったとはいえ、まだまだ肌に刺さるような
寒さが残るこの時期に、彼女の誕生日はやってくる。
彼女というのは765プロ所属のアイドル、箱崎星梨花のことである。
アイドルを始めたのは去年の春のことなのだが、デビューと共にその人気は急上昇し、
その勢いは留まる気配がない。
あどけなさの残る表情と「天然箱入り娘」という二つ名を武器に、
今やテレビで見ない日はないほどの活躍を見せている。



そんな売れっ子アイドルが誕生日だからと言って休みが取れるはずもなく、
今日も彼女は学校から直接テレビ局に移動し、毎週レギュラーで出演している
テレビ番組の収録をこなしていた。
その番組の放送日が約三週間後ということもあり、収録の中で星梨花の
誕生日に関する話題が登場することはなかったものの、その合間合間で
彼女はスタッフや共演者の人からのお祝いの言葉を受け取っていた。

「星梨花ちゃんって今日が誕生日なんだって? おめでとう!」

「ありがとうございます!」

星梨花はそれらすべての祝辞に丁寧なお辞儀を返していた。
中には、お祝いのプレゼントを手渡されることもあった。
星梨花自身が好きだと公言している、紅茶のティーバッグの詰め合わせや、
普段使いにと選んでくれたのだろう、可愛らしいデザインのアクセサリーを
彼女は嬉しそうに受け取っていた。




その一方で収録は順調に進み、最後の休憩に入った時、
ADの若い女性が思いつきをそのまま口に出した。

「この後、星梨花ちゃんの誕生日祝いも兼ねて、
近くのケーキ屋さんにでも行きませんか?」

「いいですね! それって最近オープンしたあの店ですか?」

「はい! この間行ってきたんですけど、チーズケーキが本当に美味しくて!」

「チーズケーキ!? 行きます行きます! 
私チーズケーキ大好きなんですよね~」

魅力的な提案に、すぐに他のスタッフ数人が参加の意思を示した。
しかし、星梨花はすぐにその提案を棄却しようとする。

「あの、お気持ちは有難いんですけど……
私、このあと同じ事務所のみんなと予定があって……」

「大丈夫大丈夫! ただちょっとケーキ食べて帰るだけだから! ね?」

「だったら、別に大丈夫かも……」

「でしょ?」

主役の一言ではどうしようもなく、結局ケーキパーティーは開催されることになってしまった。
事務所のみんなとの用事までは多少の時間があったし、皆さんの好意を
無碍にするのも申し訳ないし、私もチーズケーキは嫌いじゃないし、
そんな思いで星梨花は残りの収録をこなした。






目当てのケーキ屋は、テレビ局から歩いて五分とかからないところにあった。
オープンしたばかりというのは本当らしく、レンガ造りの洋館をイメージした
のだろう店先には、新装開店を祝うフラワースタンドがいくつか置かれていた。
その脇にある扉を開けると、店内からお菓子のいい匂いが漂ってきた。

この店は持ち帰りもできるらしい。
入口の目の前に置かれたショーケースの中には、ケーキの他にも様々な洋菓子が
並べられており、店内で食べるときにはその中からいくつかを選び、
それと飲み物を選んで会計を済ませれば、店内奥の席まで持ってきてもらえるらしい。
星梨花は早速ショーケースとにらめっこを始め、オススメだというチーズケーキと
チョコレートマフィン、そして飲み物にダージリンティーを選んで会計を済ませようとした。
その時、

「ああ、いいよ。今日は僕が持つから」

そう告げたのは、星梨花の後ろでお菓子を選んでいた番組プロデューサーだ。
男の人だけど甘いものに目がないという人は最近多いらしいが、彼もその例外
ではないようだ。晩御飯に支障が出るのではないかと思うほど大量のスイーツを
すでに持ち帰り用に買い込み、そのうえで店内でもケーキを食べるらしい。

「えっ、でも……」

「誕生日なんだしこのぐらいはやらせてくれよ」

「えっと、じゃあ……ありがとうございます!」

誇らしげな顔をしている番組プロデューサーに一礼して、
星梨花はすでに他のスタッフ達が陣取っている店内奥のテーブルへと向かった。





程なくして、すべてのスイーツがテーブルに並べられる。
それを確認したところで、星梨花の誕生日会は始まった。

「それじゃあ、星梨花ちゃんお誕生日おめでとうということで、乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」

コーヒーや紅茶が入ったティーカップが乾いた音を立てる。
優雅なティータイムの幕開けだ。



そしてお茶会は予想通りの方向へと舵を切り始める。
星梨花がチーズケーキに舌鼓を打ち、ダージリンティーを啜っている間に、
スタッフ達は世間話に花を咲かせていた。やれあの出演者は偉そうでなんだの、
あのコーナーは数字が良くないから廃止した方がいいだの、
番組制作への愚痴をあれこれと並べ始めた。
それは今日の主役とされている星梨花にとっては不快以外の何物でもないわけだが、
この手の話は盛り上がるもので、星梨花を置き去りにして時間は進んでいく。

結局、事務所のみんなとの約束の時間ぎりぎりまで、その話が終わることはなかった。
その後も店内に残るらしいスタッフを置いて、星梨花は一人、事務所へと向かうことにした。
彼女の心の色を映し出すように、空はどんよりとした重苦しい灰色の雲で覆われていた。





事務所のみんなとの用事というのも星梨花の誕生日会であることは明らかだった。
その証拠に、星梨花自身には今日の概要は一切伝えられていないし、
誰もそのことについて星梨花の前で話すことはなかった。
ただ、星梨花も薄々感づいてはいたらしい。絶対に自分が遅れてはいけないという使命感から、
今日は普段の約束よりもだいぶ時間に余裕をもって事務所に行こうと決めていた。
しかし実際は、先の一件があってぎりぎりの時間になってしまったのだが。



事務所での誕生日会は、端的に言って平和だった。
さらに言えば、和気あいあいとした雰囲気だった。
やはりこういうお祝い事はある程度仲がいい人でやるのがいい。
何より変な気を使わなくて済むし、使わせる必要もない。


星梨花自身、自覚はなくともそう感じていたのだろう。
先ほどとは打って変わって、星梨花は軽やかな足取りで事務所を後にした。



家に帰れば、両親と愛犬ジュニオールが彼女の帰りを待っていることだろう。





終わりです。
今日中にあげたいというそれのせいで終盤が全力疾走している点は次の改善点としたいと思います。

依頼出してきまーす

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