A-RISEという偶像2 (109)

前作です
【ラブライブ】A-RISEという偶像 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1466793478/)

前回は書けなかったSDS周りの話です

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1552413698

卒業ライブという一大イベントを終え、私たちは燃え尽きていた・・・。

「ねぇ英玲奈・・・。ちょっと呆けすぎじゃない?」

そう言う、あんじゅの声にも全く覇気がない。

「今は英気を養う時なんだ・・・。」

英玲奈は虚ろな目でどこか虚空を見つめている。

リーダーとして、ここは二人に発破をかけなければいけない、とは思っていても心身が言う事を聞かなかった。

なんだか卒業ライブの成功を受けて、UTXのお偉い様たちは少々気が変わったみたい。

正式にプロ契約が発効する4月一日までは、好きに校舎を使って良いとのお達しだった。

恩でも売ってるつもりなのかしら。

勝手なもんね・・・。

芸能プロダクションの清水さんは、契約の発効までは貴方達の所属はあくまでUTXだと言って最近顔も見てない。

『短い間だけど、最後の高校生生活を満喫してみたらどうだ?』

チーフは簡単に言ったけど、私たちはアイドル活動以外の過ごし方なんて知らないのよ。

結局は、何をするでもなくUTXに集まり、何をするでもなく時間を過ごし、何をするでもなく帰宅する日々。

酷いスケジュールをこなした反動で、何をする気にもならなかった。

最早、引き篭もりと大差ない状況よね。

「何にもしてないけど、そろそろ帰る~?」

「・・・そうね。」

「・・・そうだな。」

あんじゅの一言で、私たちはもぞもぞと動き出す。

ほんと、こんな姿を穂乃果さんにだけは見られたくないわ。

自分の体たらくを卑下しながら立ち上がった時、激しく扉を開け放ち、何日ぶりだろうかチーフが顔を現した。

「おーい!お前たち!今すぐ外に出ろ!!!」

「っ何事だ!」

あまりの勢いに、少しだけ英玲奈の表情に緊張が走る。

「まあ良いから。とにかく今すぐUTXビジョンを見に行け!」

一々要点を言わないのは相変わらずなのね。

私たちはグチグチ文句を良いながらも外に出る。

薄暗くなった夜空に照らし出された映像は、まさしくμ'sの姿だった。

「あれは・・・何?」

それは、見たことのない衣装で、見たことのないステージに立つ彼女たちの姿だった。

「オレもさっき知ったばかりなんだが、アメリカのメディアが日本のスクールアイドル文化を紹介したいって、ラブライブ優勝者としてμ'sを招待したんだ!」

・・・なんて事なの?

私達が卒業ライブくらいで燃え尽きている間に、穂乃果さんたちは海外にまで羽ばたいていた!

薄暗いステージに照らし出されるμ'sの新たな一面。

正直、ここまで来たのかという感嘆しかなかった。

(自分たちの『楽しい』をここまで表現する力、思わず引き込まれる魅力。)

私たちは、少し前まで彼女たちの前に居た。

しかし少しの差で追い越され、逆に今は少なくない差をつけられたのではないか。

そう思わずにはいられない。

「・・・呆けてる場合、じゃ無かったみたいねぇ。」

「あぁ、私たちは辿り着いただけだったんだ。」

あんじゅも英玲奈も目に力が戻っている。

もちろん私も・・・。

私たちは再び動き出すきっかけを求めていたのかもしれない。

μ’sの海外ライブは予想以上に反響があったみたい。

UTXに向かう道すがら、秋葉の街は見事に一色に染まっていた。

「ふふ・・・、穂乃果さんなら、とは思わない事もなかったけど流石にやりすぎね。」

それは羨望なのか、嫉妬なのか。

(・・・穂乃果さん、私これでも結構負けず嫌いなのよ。)

踏み出す一歩に力がこもる。

街に流れるメロディは私を否応なしに奮い立たせてくれる。

今日はチーフに要請されて、後輩たちに付き合う予定。

あのチーフのことだから、何か企んでいるんだろうけど、それはまあ良いわ。

思えば、UTXのスクールアイドル活動は、この3年間私たちA-RISEにかかりっきりだった。

それはつまり、後塵の育成が急務だと言うこと。

私たちを広告塔に拡大してきた学校だからこそ、一代限りなんて訳にはいかないわ。

「さあみんな!今日は大先輩であるA-RISEに特別に来てもらったぞ!」

チーフの一言に場の空気が引き締まる。

(・・・そんなにプレッシャーかけなくっても、ていうか、こっちも重いわよ・・・。)

そんなことを思いながらも、新人たちの前に立つ。

普段、外出先で一般人に向けられるような眼差しは一切感じない。

(みんな気合の入った目をしているわね。)

「・・・初めまして。A-RISEのリーダー、綺羅ツバサよ!」

「あなた達の本気、見せてもらいましょうか。」

・・・決まった・・・!

A-RISEモードのツバサを演じきった達成感に浸る。

「統堂英玲奈だ。分からない事があったら遠慮なく言ってくれ。出来る限り力になろう。」

英玲奈はこういうの好きよねー。

お世話焼きたがり屋。

「優木あんじゅよ~。みんな仲良くしてね~。」

にこやかで、柔らかい物腰。

でもその目は早速、値踏みを始めている。

曲者の本領発揮かしら?

そんな私たちの前には、今年度の一年生と、来年度の新入生がズラリと並んでいる。

その目にはUTXに入学した自負、一年を過ごしたプライド、彼女たちの目は野心で輝いていた。

「・・・なるほど、な。これは教え甲斐がありそうだ。」

英玲奈がつぶやく。

確かに、野心は生き馬の目を抜く芸能界では必須。

でも、それだけではいけないのは、私達が散々思い知ったこと。

「うふ、まるで昔の自分たちを鏡写しに見てるみたいね。」

英玲奈もあんじゅも、それを当然のように理解している。

彼女達に関しては、『今は』それでも良いと思う。

言葉で言ったところで心が伴わなくては意味がないし、伝わらない。

「良いわ。あなた達の目。その目でしっかりと感じ取りなさい。」

そう言う私の視界の端に見えるチーフが何故か満足気なのは気に入らないけど。



合同レッスンが始まって2時間くらい。

まあ、これは当たり前と言えば当たり前なんだけど、新人たちに疲れの色が見え始めてきた。

「どうしたお前たち!まだまだ先輩は物足りないぞ!」

チーフが珍しく激を飛ばしている。

「スクールアイドルが疲れた顔をしてどうする!」

「本当のステージはこの10倍は疲れるわよぉ。」

なんだかな。

英玲奈とあんじゅの先輩面が少し可笑しい。

かく言う私も・・・。

「あなた達の目標は何?A-RISEになること?それとも、A-RISEを超えること?」

ここで目標を小さくしてやる事はない。

ハッタリでも見据えるべき頂を真っ直ぐ見ていて欲しい。





練習を終え、クールダウンをしている私達に、数人の新人達が寄ってくる。

「A-RISEの皆さん!」

勢いに任せた語りかけに私達も少し身構える。

「どうした?」

英玲奈が早速、世話を焼いてくる。

一瞬躊躇したと思った目が力をさらに増して射抜いてくる。

「あの・・・、負けるってどういう気持ちなんですか?!」

「あら・・・。」

あのあんじゅが、思わず素の声を漏らした。

それも無理は無い。

私達の周囲では、地区大会で敗れた事に対してデリケートな配慮が感じられていたから。

「・・・・。」

突然の質問に、私も少し考え淀む。

質問そのものの答えじゃない。

『負けを知らない』

この事実を言葉で伝えるのは本当に難しい。

後輩達も緊張の面持ちで返答を待っている。

「そうね・・・。私達の努力が叶わなかったって所かしら。」

努めて平静を装いつつ、当たり障りの無い返答をする。

「・・・!」

数人が物言いたげな表情をする。

うん、判ってる。

今の答えで納得するような聞き分けの良い子なら、きっとこの場には居ない。

「・・・、貴方達も負けてみるといいわ。」

予想だにしなかったのだろう、驚きの表情を向けられる。

「ふふ。ウチのリーダーは手厳しいのよ♪」

あんじゅが絶妙なタイミングで場をほぐす。

「負ける事が重要なんじゃない。スクールアイドルの本質を突き詰めるんだ。」

そして世話を焼いちゃう英玲奈。

トンチのようなやり取りに、新人達も困惑を隠せない。

「今の自分がオーディエンスにとって本当に最高なのか、常に自問自答しなさい。」

英玲奈とあんじゅと視線を交わす。

「最高のスクールアイドルとは何なのか。」

「お客様はただ口を開けて待っていないのよ~。」

「それが、『スクールアイドルの物語』なの。」






「いやぁ~、君たちをレッスンに招集して大正解だったよ!」

きっと、狙い通りだったのだろう。

チーフは満面の笑みを浮かべている。

まあ体力も技術も精神面も、年季が違うのは当たり前ね。

だけど、眼前に目標があるのは良いことよ。

それは後輩達だけでなく、私たちも同じ。

「あんな熱い目をした奴らに見られていると思うと、な。」

「そうねぇ。私達の3年間も伊達じゃなかったって事かしら。」

「私達を見てくれてたのは、お客さんだけじゃなかったって事ね。」

μ'sだけじゃない。

私達に刺激を与えてくれる人たちが、こんなに身近に居たなんて。

「ここんとこの君達は妙に老け込んでたからなぁ!」

チーフの言葉に全員がピクリと反応した。

「ほう、これでもうら若き乙女であると言う自覚はあったのだがな?」

「まさか、チーフが私達の事をそんな風に思っていたなんて意外ね。」

「うふふ。チーフ?それって『セクハラ』って言うんですけど~?」

慌てふためくチーフとこんな軽口を言い合うのがとても懐かしく感じる。






「穂乃果さん、・・・μ’sの今後って決まったのかしら?」

ある日のレッスンの休憩中、ふと思い立ったことを投げかけてみた。

「そういえば、あの子達の進路の話は聞かないわねぇ。」

「どこか大手のプロダクションと契約できたのなら、漏れ聞こえるはずなんだがな。」

それが一切漏れ聞こえてこないのは・・・。

少なくとも、彼女たちの内3人は卒業。

μ’sとして、全員プロの道へ進むのか。

それとも、卒業生の抜けた穴を新人で埋め、新たにスクールアイドルとして再出発するのか。

「ただ、あの娘達はきっと・・・。」

そう言いかけた、あんじゅの言葉に、ふとラブライブ大会決勝のステージを思い出す。

『どうしてあの娘達、あんなに楽しそうに、あんなに悲しそうに歌ってるのかしら。』

それに比べて、今回の海外ライブは一転して楽しさだけが伝わっていた。

「アレはきっと覚悟の決まったライブ・・・って事かしら。」

「μ’sは、これで終わりにするつもりなのかもしれないな・・・。」

ポツリとつぶやく、あんじゅと英玲奈の言を否定する材料は私には無かった。

(穂乃果さんはこのままμ’sを辞めてしまうかもしれない。)

私の、A-RISEの全てをかけたライバルが居なくなってしまう。

こうなったら、もう本人に直接聞くしかない。

スマホを手に取ると、穂乃果さんのアドレスを前に一瞬躊躇する。

(余計なお世話かもしれない。でも私は穂乃果さんに・・・!)





「ふぅーーー。」

穂乃果さんを自宅近くまで送り届けたあと、思わず大きく息を吐き出す。

「・・・リムジンは拙かったかしら・・・。」

「ふふ。かなり萎縮してたぞ。」

「・・・そうねぇ、でもあれで良かったのかしら?」

あんじゅが心配そうにこちらを伺う。

「こればかりは誰かに決めてもらうという訳にはいかないだろうな。」

英玲奈の言うとおり。

例え、お願いした所でどうにかなるものではない事は判ってる。

私たちも一度は考えた。

『続けるか、否か。』

この問いは私たちスクールアイドルにとって避けては通れない道ともいえる。

『スクールアイドル』の寿命はどんなに長くて3年。

「せめてμ’sの9人が同学年だったらねぇ・・・。」

「そうだな。何の問題もなく9人を引き取れたかもしれない、が・・・。」

「私たちとの完全な違いはそこね。」

高校生活中に、一定の成果を得られたのなら、自然とその先が見えてくる。

私たちは、求められている事を知った。

ならば、全力でそれに答えなければいけないと思っている。

穂乃果さん、あなたは一体どんな答えを選ぶの?






『全てのスクールアイドルの為のライブ?!』

英玲奈とあんじゅの素っ頓狂な反応も無理は無いわ。

「えぇ、そうよ。さっき穂乃果さんから提案があったの。」

それは、スクールアイドルの素晴らしさを、想いを、楽しさを伝えるためのライブ。

この繋がりを後世に残すため、スクールアイドルの火を消さないために。

「ただ、ハッキリ言われちゃった・・・。μ’sは続けないって事も・・・。」

『μ’sは続けない?』

二人が声をハモらせる。

「そ、あの9人以外でのμ’sは無い、ってことだと思う。」

私の言葉に押し黙る二人。

「・・・それなら、なぜ彼女たちが、このイベントを立ち上げるんだ?」

「・・・そうねぇ、きっと、自分たちが点けた火の責任は取りたいって所かしら。」

「そうかもしれない。でもそれはそれよ!」

私は二人の顔を見る。

「穂乃果さんらしい、すごく面白い試みだと思うの。」

スクールアイドルである事を再確認させてくれた穂乃果さん達の想い。

「だから、私からは協力の条件として、スクールアイドルみんなの歌を作って欲しいとお願いしたわ。」

「集まった皆で、スクールアイドルの歌を歌う、か・・・。」

「確かに、実現すれば素敵なライブになりそうねぇ。」

「・・・。」

「・・・。」

『なるほど。』

私達の思案が見事に一致した。

「となれば、まかせっきりと言う訳にはいかないだろうな。」

「そうねぇ。共同作業なんて、ワクワクしちゃう。」

μ’sとA-RISEの名前があれば相当な規模のものが出来るはず。

この高校生活最後の最後で、スクールアイドルの大きな花を咲かせてみたい!

そして穂乃果さん・・・あなたと・・・。





今でも相変わらず、ここに来ると注目されるわね・・・。

私たちは音ノ木坂学院に来ていた。

「まったく、μ’sのお膝元とは思えないな・・・。」

「それは、ご近所の有名人が来てるんだから、ねぇ♪」

生徒たちの好奇の目に晒されながら歩みを進める。

音ノ木坂の校内地図は頭に叩き込んである。

目指すはアイドル研究部の部室よ!

意気揚々と音ノ木坂の正門をくぐる私とは対照的に、何だか不安げな二人。

「人手はきっと足りないと思うんだけど・・・。」

「何故アポイントを取らずに来たんだ?」

「え?だって行くことを伝えたら、サプライズにならないじゃない。」

『・・・。』

押し黙る二人。

「ツバサってそんな子だったわね・・・。」

「だな。ツバサはそんな奴だ・・・。」

え?

なんか酷い事言われてない?

「せっかく穂乃果さんたちと共同作業が出来るんだから、少しくらいサプライズがあったって罰は当たらないわよ!」

サプライズという言葉が余程気に入らないのかな?

「英玲奈・・・、こういうときのツバサは何を言ってもダメだと思うの・・・。」

「そのようだ・・・。」

少し納得のいかない諦めを受けつつ、眼前にはアイドル研究部の扉。

・・・、このドアの向こうに穂乃果さんたちがいる・・・。

なんか柄にも無く緊張してしまう。

っていう私を全く意に介さず、英玲奈が扉を勢い良くあけてしまう。

ちょっ!

まだ心の準備が?!

「ハロハロ~?」

開口一番、あんじゅが気の抜けた挨拶で顔を出す。

(そ、それは私の役目・・・。)

突然の訪問に驚くμ'sの面々、そしてサプライズに浮かれていた私の気分は吹き飛ばされ、涙目を隠しつつ、私はA-RISEモードに入ってしまう。





何度目かの音ノ木坂からの帰り道、あんじゅがポツリと切り出す。

「あの娘たちの制作能力の高さって、ちょっと異常ね。」

返事は無いが、私も英玲奈もきっと同じ思いを抱いたろう。

「精神面だけじゃなかった・・・。私達は胡坐をかいていたんだな。」

英玲奈がつぶやく。

「μ’sは戦う事を選んだ。私達は負けない事を選んだって事よね・・・。」

あんじゅの言葉通り、地区予選に向けて、私達は既存曲の完成度を重視していた。

それに引き換え彼女達は、新曲をぶつけてくると言う勝つ為の努力を惜しまなかった。

「まぁでも、今はそこを気にする時じゃないわよねぇ?」

あんじゅの含んだ笑顔もなれたもの、そう、今は志を共にする心強い仲間だわ。

「明日も海未と作詞の続きをする予定だが、彼女は素晴らしいぞ!」

英玲奈が力強く、目を輝かせている。

「言葉の意味を解っているし、そのチョイスが優秀なんだ!」

「私も、ことりちゃんとライブ衣装の話をするのとっても楽しいわぁ。」

あんじゅも今までに無い手応えを感じているようね。

「あら、曲は殆ど出来上がってるわよ?明日は絵里さんとダンスの打ち合わせ、楽しみだわ。」





「驚いたわ。絵里さんにそこまでのダンスの知識があったなんて・・・。」

「畑は少し違うけど、ダンスを魅せるという点ではそんなに差は無いと思ってるんです。」

真姫さんの作曲を元に、絵里さん、花陽さんとダンスの構築に臨み、素直に感嘆する。

絵里さんのダンスのセンス、ただ、与えられたダンスを受け入れていた私達とは全く違う手探りの試行錯誤。

そして何より、μ’Sの中で一番存在感の薄かった花陽さんの、スクールアイドルに対する観察眼。

とかく目立つところ以上に、彼女達の根幹はシッカリしていた。

しかし、ここは3年間プロのレッスンを受けてきた私達がただ口を開けて教授していたなんて思われたくない。

きっとこれはステージを変えた真剣勝負だと思う。

より良いものを目指しぶつけ合う。

スクールアイドルのあり方そのもの。






スクールアイドルフェスティバル(仮)の成功の為に、UTXのお偉いさん達も巻き込み、準備は順調に進んでいた。

秋葉の大通りをメイン会場に許可を取る。

それに加えて駅前、UTX前をサブ会場として押さえた。

穂乃果さん達には、メインの大通りで一緒に立って欲しいと言われたけど、固辞したわ。

理由の1つは、ラブライブ優勝者といけしゃあしゃあと居並ぶ事が躊躇われたから。

もう1つは、スクールアイドルの全てがμ’sに傾倒していないこと。

少しメイン会場とサブ会場が隔たれているのを利用して、ある意味μ’s派とA-RISE派を分けようという意匠な訳ね。

と言っても、それだけで終わるつもりは毛頭ないわ。

「ツバサさん!会場の設営はどうですか?!」

スクールアイドルフェスティバル前日、穂乃果さんがこちらの進捗を聞きに現れた。

「えぇ、抜かりはないわ。いよいよ明日ね。」

「はい!A-RISEのおかげで、思ったよりずっと大勢のスクールアイドルに参加してもらえました!」

「ふふ。私達は少し手を貸しただけ。穂乃果さんの発想あってのお祭りだから。」

そう言うと、穂乃果さんは少しだけ照れたような仕草を浮かべる。

とても嬉しい事を言ってくれるわ。

(穂乃果さん達と一緒のステージに立つのは、これが最後・・・。)

明日はついに、夢にまで見た穂乃果さんとのライブが始まる。

そのための準備は抜かりない。

さぁ、本当のサプライズが始まるわよ!





オープニングが始まる数分前、UTX前に私達は立っていた。

目の前には私達を慕って集まってくれた各地のスクールアイドルの面々。

過去の栄光である私達を想ってくれるのは、本当に有難い。

でも、今日この場においてはそんな事は仕舞っておいて欲しい。

「みんな、今日は集まってくれてありがとう。」

一同の瞳が集まる。

「でも、勘違いして欲しくないから先に言っておくわ。」

突然の切り出しに一気に緊張が走る。

「今日は誰かの為の競争ではない!」

英玲奈の力強い言葉。

「私達って、スクールアイドルが好きなのよ。」

あんじゅの優しい言葉。

「みんなの力を貸して頂戴。スクールアイドルは今ここに完成を迎えると言う事を!」

私の言葉はみんなの期待。





スクールアイドルの、スクールアイドルによる、スクールアイドルの為のライブが幕を開けた。

μ’sと私達A-RISEにつけられたインコムから、秋葉の街中にOPのSUNNYDAYSONGが流れる。

それは、私達スクールアイドルの想い。

自分だけでも、他の誰かでもない、みんなが輝けるステージを!

OPが終わると、各会場に割り振った各校のライブが始まる。

今秋葉の街に、スクールアイドルの素晴らしさを伝えるライブの音が響いている。





『え?μ’Sがこっちに来る?!』

私たち3人の声がシンクロした。

それは、スクールアイドルフェスティバル前日の夕方。

「ツバサさん!私達、A-RISEのみなさんと一緒のステージに立ちたいんです!」

穂乃果さんの開口はこれだった。

明日はOPの後、会場を分割して集まってくれたスクールアイドルの単独ライブを企画していた。

もちろん、っていうか色んな配慮からA-RISEとμ’Sは別のステージで立つ予定だった。

「媚びてるとか、そういうのじゃなく、UTXの前でA-RISEの皆さんと踊る事が、このスクールアイドルフェスティバルの成功の1つなんじゃないかって思うんです。」

花陽さんの言葉は派閥争いを乗り越える勇気。

「それはつまり、衆人環視のなかでの直接勝負と言う事か。」

英玲奈の目が獲物を捕らえたような輝きを発する。

「ちょっと!これは勝負とかじゃなくて、スクールアイドルの融和でしょ?!」

にこさんのツッコミに、多少しょんぼりしながら英玲奈が引く。

「それなら、優勝者の所に私達が行くのが筋なんじゃないのかしら?」

あんじゅがもっともな事をいう。

「ウチらも完全に勝者だなんて思ってない、じゃダメかな?」

穏やかに希さんがフォローを入れてくる。

「どっちがどっちに靡く、という事にはしたくないんです。」

海未さんの意見も最もだと思う。

きっとこれもある種のサプライズになるんじゃないかって思ったわ。

まさか、こっちからするはずの提案をされるなんて・・・。

「それなら、最初はUTX、最後にメイン会場でライブをするってどう?」





SDSの後、UTX前会場は幕を開けた。

集まってくれたスクールアイドル達が数曲ずつ演目を披露する。

その裏で、最初のサプライズのためにμ’sが集まっていた。

「Private WarsとShocking Party、ちゃんと付いていけるかなぁ・・・。」

今更のように花陽さんが自信なさ気に呟く。

「そのために練習したんじゃない。いつものライブと一緒よ!」

言葉尻は強めだけど、花陽さんを気遣う真姫さん。

「でもでも、あのA-RISEと共演するんだから緊張するよね~!」

嬉しそうな穂乃果さんに一瞬萌える・・・。

「お互いさまですが、良い緊張感ですね。」

「あぁ、これでこそ本番の意味がある。」

作詞を通して英玲奈と海未さんは意気投合したみたい。

「それにしても、私達の衣装にこんなアレンジをキメてくるなんて流石ねぇ。」

「印象の違うA-RISEさんの衣装を参考にするのはとっても勉強になりました。」

こちらも衣装作りを通して、似たもの同士意気投合しちゃったみたい。

「あ、凜たちの時間だにゃー!♪」

「凜!、最初の入りはA-RISE!私達はサプライズよ♪」

今にも飛び出しそうな凜さんをにこやかに抑える絵里さん。

「騒がしくてゴメンネェ。」

そういう希さんの表情はすこし嬉しそう。

よしっ!

サプライズを成功させるのも失敗させるのも私達次第よ!

12人で円陣を組む。

「これはきっと伝説になる!」

「うふふ。私たちのこと、しっかり見てもらいましょうね。」

英玲奈もあんじゅも気合十分!

「さぁ、ここからが私達スクールアイドルの真骨頂よ。せえのっ!」

『全てのスクールアイドルで叶える物語!!!』

 
 
 
 
 

場所はメイン会場。

トリのライブが始まろうとしていた。

各会場は公演を終えている。

全てのスクールアイドルが、お祭りに集まってくれたお客さまも、全ての視線が集まっている。

私達12人が演ずるのはSnow halationとKiRa-KiRa Sensation!

Snow halationは、あえて私達が指定したわ。

私達の可能性を、私達が敗れた楽曲を更に超えていく為に。

本番直前、私達は不思議な高揚感に包まれていた。

ラブライブ地区予選の時でもない。

私達の卒業ライブの時でもない。

今ここに、何のわだかまりもない二つのグループが、楽しさだけを胸に1つの演目に全力を尽くす。

先んじてUTX前で演じた12人でのステージはとても素晴らしいものだった。

だから、これだけは言える。

今から始まるステージも、きっと素晴らしいものだと。

スノハレのイントロが流れる。

もちろん失敗は許されないが、それ以上に穂乃果さんと1つの楽曲を演ずる楽しさが何よりも勝っていた。

浮かび上がる12人のシルエットに会場がざわめく。

イントロが始まり、上げた視線で穂乃果さんと目があう。

(私達のリベンジ、受け取って頂戴!)

 
 
 
 
 

そしてKiRa-KiRa Sensation!

私が外から見たこの曲の印象は、楽しそうで悲しい曲。

でも今は違う、きっと穂乃果さんも、μ'sの皆もそうだと思ってる。

『奇跡それは今さ、ここなんだ』

『みんなの想いが導いた場所なんだ』

『だから本当に今を楽しんで』

『みんなで叶える物語。夢のstory』

スクールアイドルの想いをここに!





曲が終わった瞬間から、アンコールの声が鳴り響く。

解ってる。

ここで歌う曲はもう1つしかない。

穂乃果さん達と目配せをする。

『みんなー!今日は何のお祭り?!!!』

『スクールアイドル!!!』

私に合わせて、英玲奈と海未さんが声を高ぶらせる。

『ならば、ここで歌うべきは何だ?!』

『スクールアイドルの歌!!!』

『それじゃあ、みんなでタイトルコール行くわよ!』

あんじゅとことりさんの音頭に会場がシンクロする!



『SUNNY DAY SONG!!!』

イントロが始まる。

『みんなの全てを!』

絵里さんと希さん。

『この歌に乗せて!』

凜さんと花陽さん。

『スクールアイドルの未来を!』

にこさんと真姫さん。

『みんなで叶える!!!』

私達が叶える!

 
 
 
 
 

『もしもし?清水です。お久しぶりです。』

『昨日のライブ、とっても素敵でした!』

『A-RISEはやはり、時代を作れるユニットだと思わずにはいられません。』

『それでは、明日。』

「だって。」

「意外と律儀だな。」

「乗せられているのは判ってるけど、評価は素直に受け取っておこうかしら。」

私達はUTXの前にいた。

宴の後とはいえ、いつもどおりの街並み。

昨日はとても素晴らしい一日を過ごせたわ。

スクールアイドルの歌。

そして穂乃果さんとのステージ。

スクールアイドルしかやってこなかった私達が、最後の最後でスクールアイドルらしいライブをする事ができた。

明日は正真正銘、私達がプロのアイドルになる日。

でもそれは外側だけの事。

やる事は何にも変わらない。

私達の求める事は1つ。



『A-RISEはみんなの想いを叶えるアイドル。』

以上です。

初めて書いたSSが前作でしたが、気力が足りずに全てを書ききれませんでした。

何年もかかりましたが、一応書ききったと言う事でホッとしています。

ご清覧ありがとうございました。

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