【ガルパン】愛里寿「名も無き操縦手の回顧録」 (25)

ガルパンSS。

オリキャラあり。

劇場版のセンチュリオンの凄まじい動きを見て、今更妄想したSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1555237062

◆◆◆◆



操縦手(小さな頃から、戦車が好きだった)

操縦手(巨大なキャタピラでどんな悪路でも走破して、味方の歩兵を守る盾となり、戦線を切り開く矛となる)

操縦手(敵からの攻撃を一身に受け尚も進み続ける、その姿に憧れのような感情を持っていた)

操縦手(だから、だろうか)

操縦手(高校に進学をした事を期に、私は戦車道の門を叩いた)

操縦手(万年一回戦敗退の弱小校ではあったが、そんな事は関係なかった)

操縦手(ただ戦車に触れて、乗る事ができたならそれだけで満足だった)

操縦手(……初めて、戦車に乗った時の感動は今でも覚えている)

操縦手(薄い座席から全身に伝わる戦車の鼓動……側にいる人の声すら聞こえない駆動音……)

操縦手(一緒に戦車道を始めた同級生の殆どが辟易していたそれ等が、)

操縦手(私には、とてもとても……心地いいものに感じた)





操縦手(乗り始めて分かった事だが、私は戦車の操縦に少しばかりの才能があるようだった)

操縦手(元々の戦車好きだった事も、功を奏したのだろう)

操縦手(私は見る見るうちに戦車の操縦を覚えていき、弱小校ながら一年でレギュラーの座を獲得していた)

操縦手(戦車に乗れるだけで満足だったけれど、試合というものに興味があった事も事実だ)

操縦手(小さい頃に憧れた、戦車の姿)

操縦手(最強の矛となり、盾ともなるその姿を体現できるのなら、)

操縦手(それは、とても幸せな事のように思えた)

操縦手(模擬弾を使用した練習試合を何回もこなした)

操縦手(チームの皆が音をあげる程に、練習を繰り返した)

操縦手(何度も、何度も……憧れの戦車の姿に近付けるように、)

操縦手(私は、自分にできる精一杯をしたつもりだった)




操縦手(―――本番当日)

操縦手(自らの高揚を感じながら、操縦桿を握る)

操縦手(練習を思い出し、作戦を思い返し、開始の合図を待つ)

操縦手(そして、ホイッスルが鳴り、試合が始まった)

操縦手(相棒である戦車は、まるで私の手足のように動いてくれた)

操縦手(……正直、自分の想像以上に動けていた気がした)

操縦手(戦車長の指令通りに動き、砲撃を回避する)

操縦手(敵の攻撃など、まるで当たる気がしなかった)

操縦手(戦車の中にいて、小窓から見える狭い狭い視界だけで、)

操縦手(なぜだか戦場全体が見通せるような感覚があった)

操縦手(無心でもって、戦車を操る)

操縦手(至近弾すら許さず、全てを避け続ける)

操縦手(いつまでだって走っていられるとすら、思えた)

操縦手(でも……それでも限界は直ぐに来た)

操縦手(味方の車両が一両、また一両と落とされていって)

操縦手(最後に残された私達は、完全に包囲されてしまった)

操縦手(もはや回避するスペースすらない)

操縦手(せめてもと物陰に車輌を隠して反撃をするが、焼け石に水だ)

操縦手(そして、一斉にとどめの砲撃が来た)

操縦手(……そう、それが)



操縦手(それが、私の戦車道の―――終点だった)



操縦手(至近弾が地面に炸裂し、轟音が鳴り響く)

操縦手(模擬弾とは違う、実弾での一撃)

操縦手(練習試合とは桁違いの衝撃と音が鳴り響き、視界を白色に染める)

操縦手(その瞬間、だった)

操縦手(言い様の無い恐怖が、心の奥底から噴出した)

操縦手(怖くて、怖くて、仕方がなかった)

操縦手(模擬弾とはまるで違う実弾の衝撃が、私の頭を真っ白にした)

操縦手(映画や映像の中で何度も見ていたそれは、私の想像なんて遥かに上回る衝撃だった)

操縦手(模擬弾と、実弾との違い)

操縦手(その事実を思い知らされた時、私は我を失っていた)

操縦手(―――怖い)

操縦手(怖い、怖い、怖い、怖い……怖い!)

操縦手(気付けば、私は操縦桿を動かしていた)

操縦手(車長の制止も聞かずに、ただこの状況から逃げ出したいと)

操縦手(この砲撃の中から逃げ出したいと)

操縦手(恐怖に任せて、戦車を動かす)

操縦手(物陰から飛び出す車体……)

操縦手(……結果より多くの射線に車体を晒す事になり……それまで以上の衝撃が、全身を叩いた)

操縦手(まるで自殺行為、だった)

操縦手(自ら砲撃の雨に飛び込んだも同然)

操縦手(受けなくても良い砲撃すら一斉に受けて、戦車は限界を越え、)

操縦手(殺しきれぬ衝撃が中の私達を襲って、)

操縦手(……気付いた時には、私は病院のベッドの上にいた)





操縦手(……チームの全員が、決して軽くない怪我を負った)

操縦手(特に酷かったのは車長で、両脚が酷く骨折してしまい、僅かではあるが後遺症が残るとの事だった)

操縦手(日常の生活に支障は出ないが、戦車道を続けるのは止めた方が良いと、医師から言われたようだった)

操縦手(皆が、私を責めた)

操縦手(何であんな行動に出たのかと、どれだけ危険な事をしたのか分かっているのかと)

操縦手(少し上手に戦車を動かせるからと、慢心していたのではないかと)

操縦手(口々に、私を責めた)

操縦手(皆の言葉は当然だと思った)

操縦手(下手をすれば、もっと酷い惨事になっていたかもしれないのだ)

操縦手(糾弾されて、当然だ)

操縦手(私が辛かったのは、そんな事ではない)

操縦手(一番の怪我を負った筈の車長が、)

操縦手(戦車道という夢を奪われた筈の車長だけが、)

操縦手(―――私を、責めなかったのだ)

操縦手(初めての実戦だから仕方ない、と)

操縦手(それよりも凄い動きだった、と)

操縦手(あんな動きができるなら全国でも通用する、と)

操縦手(……君を活かすことができなくてごめん、と)

操縦手(……君の中の恐怖に気付く事ができなくてごめん、と)


操縦手(車長は、ベッドの上で頭をさげた)


操縦手(―――違う)

操縦手(違う、違う、違う!)

操縦手(頭を下げるのは私の方で、馬鹿な事をしてしまったのは私の方で、)

操縦手(責められるのは私の方で、全部全部全部私が悪いのに―――!)

操縦手(車長は、笑いながら、言った)

操縦手(貴方なら、戦車道の頂点に立てる、と)

操縦手(だから、どうか戦車道を続けて欲しいと―――)

操縦手(笑いながら、託すように……言ったのだ)



操縦手(だから、だろうか)

操縦手(私は戦車道を止めなかった)

操縦手(皆が陰で不満を漏らしていた事は、知っている)

操縦手(あんな事をしておいて、まだのうのうと戦車に乗るつもりなのか)

操縦手(車長は引退せざるを得なかったのに、お前は戦車道を続けるのか)

操縦手(皆の意見は最もだ)

操縦手(だけど、それでも止める訳にはいかない)

操縦手(止めてしまえば、それこそ車長の想いを踏みにじる事になるから)

操縦手(だから、私は操縦桿を握り続けた)

操縦手(……でも、駄目だった)

操縦手(どれだけ頭で考えても、実弾への恐怖が拭い去れない)

操縦手(人の意識を根こそぎ奪っていくようなあの衝撃が、怖くて仕方がない)

操縦手(模擬弾なら良いのだ。だけど、実弾になると恐怖が湧き上がってくる)

操縦手(カウセリングも受けた。戦車の仕組みや実弾の仕組みをより一層学び、その安全性も学んだ)

操縦手(でも、それでも―――駄目だった)

操縦手(実弾を使用した試合だと、手足が人形のように固まってしまう)

操縦手(加えて、あの光景が脳裏に過ってしまう)

操縦手(傷だらけの身体でベッドの上に座る車長の姿)

操縦手(頭を下げ、私に想いを託した車長の姿)

操縦手(……頭が真っ白になって、何も考えられなくなる)

操縦手(結局、戦車を進ませることすらできずに撃破されてしまう)


操縦手(ただでさえ最悪の印象があるのだ)

操縦手(精神的な欠落もあるとなると、もう誰も私と組んではくれなかった)

操縦手(……それでも、それでも戦車道を止める事だけはできない)

操縦手(止めようとするたびに、あの日の車長の言葉が蘇る)


―――貴方なら、戦車道の頂点に立てる。

―――だから、どうか戦車道を続けて欲しい。


操縦手(それは、まるで……まるで、呪いのように、私を戦車道に縛り付ける)



操縦手(どうする事もできないまま、時間だけが過ぎていった)

操縦手(気付けば私は最高学年となっていて、)

操縦手(だけど、変わらず皆から疎まれ続ける日々を送っていた)

操縦手(その頃になると、私はある一つの役割を与えられていた)

操縦手(最も機動力のある車輌に乗り、一軍チームと模擬戦をさせられるのだ)

操縦手(普通の模擬戦と違うのは、私の車輌には砲撃手も通信手も車長すらもいないこと)

操縦手(私はひたすらに逃げ続け、一軍チームは反撃の無い私を狙い続ける)

操縦手(最初は1対1で。そして時間の経過と共に一輌一輌と車輛が増えていく)

操縦手(こちらには車長する居ないため、周囲の状況の確認すらできない)

操縦手(弱小校という事もあってか、3対1くらいなら何とかなるが、それ以上に数が増えるとどうしようもない)

操縦手(結局、私は撃破される)

操縦手(適度に避け、適度に動き、反撃もしない……砲撃練習の的としては、最適だったのかもしれない)

操縦手(確かにチーム全体の砲撃練度はあがっていた)

操縦手(ある種のリンチ的な意味合いもあったのかもしれない)

操縦手(だが、別にそんな事は今更気にもならなかった)

操縦手(こんな私が少しでもチームに貢献できるのであれば、それで良かった)


操縦手(そんな日々を送る中で、とある出来事があった)

操縦手(練習を見学したいと申し出てきた者達がいたのだ)

操縦手(その人たちは三人組で、)

操縦手(少し厳格な雰囲気を身に纏った、私と同学年くらいの二人に)

操縦手(何故だか、小学生くらいの少女が付いてきていた)

操縦手(何でこんな弱小校に見学なんてと思ったが、拒む理由もない)

操縦手(三人の前で練習は行われた)

操縦手(さすがに見学者がいる前で私を使っての模擬戦は行われず、練習は滞りなく終了した)

操縦手(私はというと模擬戦がなければ役目もないため、基礎練習と称されグラウンドをひたすらランニングしていただけだった)

操縦手(練習が終了した後の私達を、三人組は何も言わず見詰めていた)

操縦手(私達の一人一人を見定めるように、鋭い瞳を向けてくる)

操縦手(そうして、不気味な沈黙が続いた後に、口を開く者がいた)

操縦手(高校生の二人組―――ではない)

操縦手(その後ろについてきていた少女が、口を開く)

操縦手(ある戦車を指さし、一つだけ)


少女「―――あの戦車の操縦手はあなた?」


操縦手(と、無感情に、それだけを呟く)

操縦手(彼女が指差すそれは、私が模擬戦で使っている戦車だった)

操縦手(どう答えて良いのか分からず、無言で首を縦に振る)

操縦手(そう、と少女はそれだけ言って、戦車の方へ近付いていった)

操縦手(日々の模擬戦で傷だらけの車体に触れながら、少女は再び口を開く)

操縦手(皆さん―――模擬戦をしませんか? とチームに向けて問い掛けた)

操縦手(少女が提唱したルールは、いつもの模擬戦と変わらぬもの)

操縦手(私一人と一軍チーム全員での、模擬戦)

操縦手(ただ二つ、いつもと違う事があった)

操縦手(一つ目は、私の車輌に三人組が乗り込むという事)

操縦手(二つ目は―――実弾を使用する、という事)

操縦手(その提案に皆が察した)

操縦手(どのようにしてか少女は私達のチームの内情をしっていて、そして―――私の事も、知っている)


操縦手(内情を知っているならと、皆は開き直ったようだった)

操縦手(少女の提案を、承諾した)

操縦手(唯一承諾しなかったのは、私だけ)

操縦手(とてもじゃないが、少女の案を飲む事はできなかった)

操縦手(一対複数のリンチ的な模擬戦に関係ない人達を巻き込む事になるし、)

操縦手(何より、実弾を使用しての戦いなんて了承できない)

操縦手(実弾と考えただけで、不快感が込み上げ、気分が悪くなる)

操縦手(無理だよ、と少女に告げる)

操縦手(実弾の試合なんて私はできないよ、と少女に告げる)

操縦手(少女は、何も言わない)

操縦手(後ろの二人も、何も言わない)

操縦手(沈黙だけが流れる中で、少女は小さく息を吸った)

操縦手(そして、告げる)

操縦手(―――映像の中で貴方の戦いを見た、と)



操縦手(少女は、名を島田愛里寿といった)

操縦手(島田流といえば、私にも聞き覚えがあった)

操縦手(『日本戦車道ここにあり』と世界に名を馳せた日本戦車道流派の一つで)

操縦手(その師範にして、次期当主が、目の前の少女だというのだ)

操縦手(驚き、言葉を失う私に少女は続けていく)

操縦手(私は、操縦手を探している、と)

操縦手(それもただの操縦手ではない)

操縦手(誰にも負けない最強の操縦手を探している、と島田流当主は語った)

操縦手(私が引き起こした事故に関する報道の中で、試合の映像が僅かであるが映り込んでいたようで)

操縦手(その動きを見て、この学園に訪れたのだという)

操縦手(私には、分からなかった)

操縦手(その報道を見たならば、私の欠点だって理解している筈だ)

操縦手(実弾での試合が出来ない、欠陥だらけの操縦手)

操縦手(それが、私だ)

操縦手(そう言う私に、少女は被りを振った)

操縦手(大丈夫だと、心配はいらないと、少女が言う)




愛里寿「私が車長である限り、私の指示通りに動いてくれる限り―――」

愛里寿「―――実弾の直撃も、至近弾も許さないから」




操縦手(と、冗談のような答えを、さも当然のように、少女は言った)

操縦手(だから、一緒に戦おうと、右手を差し出してくる)

操縦手(……何故だろうか?)

操縦手(少女が、あんまりにも自信満々にそう言ったから、)

操縦手(一つの逡巡もなく、そう言ったから、)

操縦手(私は、まるで光にいざなわれるかのように……気付けば、その手を握っていた)


操縦手(少女は、名を島田愛里寿といった)

操縦手(島田流といえば、私にも聞き覚えがあった)

操縦手(『日本戦車道ここにあり』と世界に名を馳せた日本戦車道流派の一つで)

操縦手(その師範にして、次期当主が、目の前の少女だというのだ)

操縦手(驚き、言葉を失う私に少女は続けていく)

操縦手(私は、操縦手を探している、と)

操縦手(それもただの操縦手ではない)

操縦手(誰にも負けない最強の操縦手を探している、と島田流当主は語った)

操縦手(私が引き起こした事故に関する報道の中で、試合の映像が僅かであるが映り込んでいたようで)

操縦手(その動きを見て、この学園に訪れたのだという)

操縦手(私には、分からなかった)

操縦手(その報道を見たならば、私の欠点だって理解している筈だ)

操縦手(実弾での試合が出来ない、欠陥だらけの操縦手)

操縦手(それが、私だ)

操縦手(そう言う私に、少女は被りを振った)

操縦手(大丈夫だと、心配はいらないと、少女が言う)




愛里寿「私が車長である限り、私の指示通りに動いてくれる限り―――」

愛里寿「―――実弾の直撃も、至近弾も許さないから」




操縦手(と、冗談のような答えを、さも当然のように、少女は言った)

操縦手(だから、一緒に戦おうと、右手を差し出してくる)

操縦手(……何故だろうか?)

操縦手(少女が、あんまりにも自信満々にそう言ったから、)

操縦手(一つの逡巡もなく、そう言ったから、)

操縦手(私は、まるで光にいざなわれるかのように……気付けば、その手を握っていた)



操縦手(―――結果として、模擬戦は私達の圧勝で終わった)

操縦手(少女の……愛里寿さんの指揮は凄まじいの一言で、)

操縦手(戦場の全てを俯瞰するかのような的確な指示と、要所要所で飛ばす奇想天外でありつつ基礎を踏襲している策)

操縦手(他のメンバーの練度も、これまで見た事すらない程のもので、)

操縦手(私がどれほど滅茶苦茶な軌道で車輌を動かそうと、けろりとした様子で付いてくる)

操縦手(初めに愛里寿さんが言ったように、相手の砲撃なんて一つも当たる気がしなかった)

操縦手(恐怖を感じる暇もない)

操縦手(ほんの十分ほどで、相手の車輌を撃破していた)

操縦手(凄い……本当に凄い)

操縦手(これが島田流……これが、あの日ベッドの上で車長が言っていた―――)

操縦手(―――戦車道の頂点……)




操縦手(……後から聞いた話だが、どうやら愛里寿さんは私と出会う前にある人を訪ねたようだった)

操縦手(それは、あの日私が傷付けてしまった車長で……あの時、私に何があったのか話を聞きに行ったとの事だった)

操縦手(そこで愛里寿さんは、私の実弾恐怖症を知ったらしい)

操縦手(……愛里寿さんが、教えてくれた)

操縦手(車長は、愛里寿さんに頭を下げて、こう言ったのだという)

操縦手(操縦手の事をよろしくお願いします、と)

操縦手(自分が嫌いにさせてしまった戦車道の……その楽しさを、もう一度教えてあげて欲しい、と)

操縦手(自分が未熟であったせいで、自分が彼女の才能を引き出せなかったせいで、彼女には辛い道を歩ませてしまった、と)

操縦手(今更自分が何かを言う権利はないけど、それでも)

操縦手(彼女を救ってあげて欲しい、と……)

操縦手(車長は……愛里寿さんに頼んだらしい)

操縦手(……車長もまた苦悩していたんだ)

操縦手(あの日の自分の一言が、私を戦車道に縛り付けてしまっているのではないか、と)

操縦手(ただ辛いだけの日々を送らせてしまっているではないか、と)

操縦手(―――思って、くれていた)

操縦手(愛里寿さんから話を聞いて、決意が固まる)

操縦手(この人と共に、車長の想いを成し遂げてみせる)

操縦手(戦車道の頂点に立つ―――そう、決意した)






操縦手(それから、私は戦車道の推薦で大学へ進学した)

操縦手(高校で何の結果も残していない私だったが、島田流次期当主が認めるならばと、鶴の一声だったようだ)

操縦手(そして、強豪達の中で研鑽を続け、世界と戦う大学選抜にも選ばれた)

操縦手(この頃になると、私にも少なからず自負が出てきた)

操縦手(日本を代表する操縦手として愛里寿を支えるんだ、と)

操縦手(あの日、彼女が私を救ってくれたように、)

操縦手(今度は私が彼女の力になるんだ、と)

操縦手(日々、鍛錬を積む)

操縦手(そんな中、あるチームとの試合が組まされた)

操縦手(相手は高校生……大洗女子学園という学園艦だった)

操縦手(あの黒森峰を破り、今年の戦車道全国大会で優勝した新参の学校であった)

操縦手(……驚きはあった)

操縦手(ぽっと出の新参があの黒森峰を破るなんて、正直信じられないというのが本音だ)

操縦手(だけど、もう一方で憤りがあったのも事実だ)

操縦手(例え今年の優勝校であろうと、たかが高校生が私達に挑もうなんて無謀を通り越して失礼にあたる)

操縦手(勿論、映像でも確認はした)

操縦手(確かに、光るものはある)

操縦手(特にあの西住流が操るIV号戦車は、かなりの練度を誇っている)

操縦手(それぞれの試合での奇策も感嘆すら覚えた)

操縦手(だが―――それだけだ)

操縦手(大学選抜チームに……何より私達のセンチュリオンに勝てるなんて、百に一つも有り得ない)

操縦手(加えて、試合は殲滅戦)

操縦手(数に劣る大洗には不利でしかない試合形式だ。負ける要素など考えられなかった)



操縦手(……試合当日)

操縦手(リーダーである西住流の次女は、遥か遠目にも青ざめた表情をしていた)

操縦手(指揮官として有能だからこそ、彼我の絶望的な実力差が分かってしまうのだろう)

操縦手(数でも劣り、練度でも劣る)

操縦手(大洗女学園に、勝ち目などない)

操縦手(試合が開始しようかというその時、割って入る者達がいた)

操縦手(どうやら他校の生徒達が、加勢に来たらしい)

操縦手(どれもが大洗女学園と戦った事がある学校で、強豪とされる者達ばかりだった)

操縦手(皆が大洗へ一時転校をし、試合に加わるとの事だ)

操縦手(滅茶苦茶な物言いだったが―――愛里寿さんは、微塵も揺らがない)

操縦手(淡々と、相手の提案を呑む)

操縦手(そう、それでも尚)

操縦手(私達が負ける事など、有り得ないからだ)



操縦手(試合が始まる)

操縦手(大洗連合は、思いの外にしぶとかった)

操縦手(何度も窮地に追い込み、だが時に自らを犠牲にして、時に奇抜な策をもって、窮地を潜り抜ける)

操縦手(特にカールを撃破した時の策や、観覧車を使った策は、通信聞いたこちらが驚いてしまった程だ)

操縦手(そして、気付けば状況は劣勢となっていた)

操縦手(生存車輛21対9……それは、本来であれば絶望的な差であった)

操縦手(そう―――本来であれば、だ)


操縦手(……こんな状況であっても、やはり負けるという思考は一切過ぎらない)

操縦手(何故なら、私達が―――いや、愛里寿さんがいる)

操縦手(彼女がいる限り、私達に負けはない)

操縦手(愛里寿さんが、あの歌と共に直進の合図を出す)

操縦手(彼女の指示に従って、車輛を動かす)

操縦手(センチュリオンの雄叫びが、操縦桿から伝わってくる)

操縦手(やはり気分が高揚してくる)

操縦手(実弾への恐怖なんて、微塵もない)

操縦手(愛里寿さんが指揮する限り、私達に砲弾は当たらない―――!)




操縦手(戦況は、直ぐにひっくり返った)

操縦手(バミューダの皆が撃破されたのは予想外だったが、相手車輛は2輌、こちらの車輛はセンチュリオン1輌まで巻き返した)

操縦手(相手は西住流の姉妹……奇しくも、いや順当と言えば順当なのか)

操縦手(島田流VS西住流の構図が、そこにあった)

操縦手(立ち塞がる2輌から感じる威圧感は、さすがの一言だった)

操縦手(大学にも、社会人にだって、これ程の圧を持った敵は数える程だ)

操縦手(それでも、それでも尚、負ける気はしない)

操縦手(彼女の指示に従い、センチュリオンを駆動させる)

操縦手(急激なストップアンドゴーに、急速旋回)

操縦手(砲撃手もまた私の動きピタリと合わせて、照準を向ける)

操縦手(徐々に、徐々に……2輌を追い詰めていく)

操縦手(一度、絶好の好機を逃してしまったが、それでも)

操縦手(私達は、優勢に在った)

操縦手(……遊具に乗り、高所を陣取る2輌)

操縦手(2輌は正面から突っ込んでくる)

操縦手(先頭のⅣ号を盾にして、ティーガーが攻勢に出るつもりだろうけど、そうはいかない)

操縦手(そんな愚直な直進、掻い潜って―――)



―――ズドン


操縦手(砲撃!? 私達じゃない、Ⅳ号でもない! これは―――!!?)


操縦手(―――狭い視界の中で確認できた光景……)

操縦手(戦車では有り得ない急加速をして、一瞬で距離を詰めるⅣ号……)

操縦手(私は―――反応できなかった)

操縦手(迫りくるⅣ号にアクセルを踏む事も、操縦桿を動かす事も、できなかった)

操縦手(……それに反応できたのは愛里寿さん、ただ一人だった)

操縦手(愛里寿さんが砲撃の合図を出し、砲撃手が反射的に引き金を引く)

操縦手(轟音が、鳴り響く)

操縦手(その履帯を吹き飛ばすが、だが)

操縦手(Ⅳ号は―――止まらない)









操縦手(―――衝撃―――車輛同士が衝突したんだ―――)


操縦手(次いで―――砲撃が、来る―――)


操縦手(―――実弾の―――あの、衝撃と爆音―――)


操縦手(―――衝撃に、意識が揺れ―――)










操縦手(―――試合終了のホイッスルが、鳴り響いていた―――)









愛里寿「っ、大丈夫……!?」

操縦手(意識が晴れるより先に、響く声があった)

操縦手(目を開くと、そこには愛里寿さんの姿がある)

操縦手(何時ものポーカーフェイスを、心配そうに歪めて)

操縦手(愛里寿さんが、私を覗きこんでいる)

操縦手(……久し振りに体感した実弾の衝撃だったが、何故だか恐怖心は湧かなかった)

操縦手(恐怖を覚えるよりも先に―――愛里寿さんの心配そうな表情に毒気が抜かれてしまったから)

愛里寿「ごめん、約束を破ってしまった……」

操縦手(申し訳なさげに俯く愛里寿さんに、思わず笑いが込み上げる)

操縦手(直撃も至近弾も許さないなんて、守れる方がおかしい約束なのに)

操縦手(それなのに、本当に申し訳なさそうに謝る愛里寿さんが、おかしくて―――)

操縦手(―――だからこそ、そんな彼女を負けさせてしまった事が、悔しくて―――)



操縦手「……すみません、最後の一瞬反応できませんでした」



操縦手(―――気付けば、涙が頬を伝わっていた)



操縦手(……悔しかった)

操縦手(最高の指揮をしてくれる彼女がいて、最高のチームがあって、最高の機体があって……それでも負けてしまって)

操縦手(負ける要素なんてなかったのに、実力だって私達の方が上なのに)

操縦手「悔しい……私、悔しいです……!」

操縦手(戦車道で敗北する事が、こんなに悔しいなんて―――)



操縦手(愛里寿さんは、少し驚いたような表情をして、直ぐに優し気な表情を浮かべて、)

愛里寿「そう、貴方も―――戦車道の楽しさを、知ってくれたんだね」

操縦手(私を抱き締めて、そう言った)




愛里寿「仲間と戦って、段々と強くなって……勝てれば嬉しくて……それでも時には負けてしまって、悔しくて……」

愛里寿「怖いだけが、辛いだけが、戦車道じゃない」

愛里寿「貴方は、それを知る事ができたんだね」




操縦手(……諭すような愛里寿さんの言葉に、私は思い出す)

操縦手(戦車道を始めた時、最初にあったもの)

操縦手(戦車が好きで、戦車を動かす事が好きで、だから皆と勝ちたくて―――)

操縦手(そうだ、辛い事ばかりだった戦車道だったけど、最初はそうだったんじゃないか)

操縦手(愛里寿さんと出会えて、車長の想いも知って、仲間もできて、)

操縦手(全力で練習をして、沢山の試合をして……今回の敗北を味わって、心底からの悔しさを味わって……)

操縦手(ようやく思い出せた)






操縦手「愛里寿さん、私……私―――」


操縦手「―――戦車道が大好き、です」






操縦手(―――その事実を、思い出せた)






操縦手(……それから少しだけ、愛里寿さんの胸の中で泣いて)

操縦手(それを愛里寿さんは優しく受け止めてくれて、)

操縦手(私はより一層に強く強く決意をする)

操縦手(私に戦車道の楽しさを思い出させてくれたこの人の元で、もっともっと強くなろうと)

操縦手(今度こそ誰にも負けないくらいに強くなろうと)

操縦手(そして、この人を支え続けようと)

操縦手(―――決意する)









―――これは名も無き操縦手の回顧録。

―――試合となれば、誰の目にも映らない……だが、最強たる車長を支え続けた少女の。

―――誰も知らない、回顧録―――


以上で終了です。
あれ程の動きをするセンチュリオンの搭乗員それぞれに、それぞれの歴史があるんだと妄想して書かせて頂きました。
戦車の事とかはさっぱり分からないので、変な描写があったら申し訳ありません。

少ししたらHTML化依頼だしてきます

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