【ラブライブ】希の誕生日の祝い方 (42)

 自分の誕生日にウキウキする人ってどのくらいいるのかな。

私は親以外に誕生日を祝ってもらったことが無い。

6月って案外微妙だよね。

どんなに素敵な出会いがあっても、誕生日を祝ってもらえるようになるまでには時間がかかる。


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高校3年生の誕生日も、ただその日一日が過ぎるように、カレンダーを捲るように過ぎ去ってしまった。

(別に、期待した訳じゃないんよ。)

期待してないって言えばウソになる。

(一応みんな知ってるはずなんだけどなぁ・・・。)

そして、何の変化も無く19回目の誕生日が来てしまった。

両親からは、朝一でメールが来てた。

遠く離れて暮らしてるんだから、仕方ないよね。

「それにしたって、誰か一人くらいウチの誕生日に触れてくれたって良いやん?」

スマホを眺めながら、思わず口に出てしまう。

音ノ木坂を卒業してからも、ちょくちょくみんなとは会ってる・・・気がする。

決して疎遠になった訳じゃないと思いたい。

とは言え、今日は平日。

誕生日だからって講義が無くなる訳じゃないからね。

そんな一人愚痴を吐きながら家を出る。

「希。」

「希ちゃん!」

「うわあっ!」

扉を開けた瞬間、目の前に海未ちゃんと凛ちゃんが待ち構えていた。

「どどど、どうしたん?家の前で待ち伏せなんて。」

「どうしたのなんて、水くさいですよ。希。」

「そうだよ!今日は希ちゃんの誕生日にゃ!」

あぁ、神様。

リリホワの絆って本当にあったんやね・・・。

ニヤケそうになるのを我慢しながら、至って冷静を装う。

「覚えていてくれたんやね~嬉しいなぁ。」

「当たり前では無いですか!」

「当たり前にゃ!」

なんかすごい迫力で迫ってくる。

「あー、でもウチこれから大学の講義なんよ。」

「えぇ、判っています。」

「そんなの織り込み済みだよ。」

なんか凛ちゃんが高度な言葉を使った気がする。

「時間は取らせません。」

そう言うと、海未ちゃんが何故か上半身をはだけさせる。

「今日だけ、ですよ。」

え?

なんなん?

海未ちゃんが、凄い積極的・・・イヤイヤイヤ、そうじゃないって。

「希ちゃん。今日だけは凛の事好きにしてくれて良いんだよ・・・。」

気付けば凛ちゃんまで上半身をはだけさせながら、迫ってくる。

「う、ウチの事からかってるん?」

努めて笑顔を崩さないように、何とか絞り出した言葉も二人は意に介さない。

「さあ、希。」

「希ちゃん。」

何故か、人の話を聞く感じじゃないのが伝わってくる。

「ちょちょちょ、ダメやん。それはダメなやつ!」

軽く混乱しながら、私は二人を振り払って走り出した。

今までにないくらいの勢いで階段を駆け下りると、そこにはエリチとにこっちがいた。

「あら、希。そんなに慌ててどうしたの?」

「まさか、遅刻しそうとか言うんじゃないでしょうね?」

よかった・・・。

その時の私は、味方の登場に安堵して、なぜ彼女たちがここにいるのかを気にする余裕は無かった。

「エリチ!にこっち!助けて!」

「まあまあ、落ち着いて。何があったの?」

「今、海未ちゃんと凛ちゃんが何かおかしくって!」

テンパってる私は、見事に要領を得てなかった。

「オカシイってどういう事?」

「どうもこうも、海未ちゃんと凛ちゃんが・・・。」

そう言おうとして、固まる。

『それって、こういう事?』

いつの間にか、上半身をはだけさせた二人が、私を抱き込もうとしていた。

「qあwwせdrftgyふじこlp 」

声にならない声を出し、私は二人から離れる。

「あら、絵里、にこ、来ていたのですか?」

海未ちゃんと凛ちゃんが下りてきてしまった。

「ちょっ、みんなどういうつもりなん?冗談ならタチ悪いよ!」

精一杯威嚇したつもりだったけど、そんな事は意味も無いとばかりに笑顔の4人がにじり寄ってくる。

「だって、今日は希の誕生日じゃない。」

「そうですよ。折角の誕生日なのですから。」

「希には、色々感謝してるのよ。」

「そうにゃそうにゃ!」

私は悪い夢でも見ているんだろうか。

「わ、私、そんなの望んでないから!」

そう言って、駆け出す。

何がどうなってるの?

4人の目が、ドッキリとかじゃないって言ってる。

しばらく走ると、向こうも全速力で追いかけてくる・・・って事も無く、あっさりと引き離すことができた。

何処にも4人の姿は見えない。

息を整えていると、背後から聞き慣れた声が聞こえた。

「あれ?希ちゃん?こんな所で何してるの?」

振り向くと、そこには花陽ちゃんがいた。

無防備に歩み寄ろうとする花陽ちゃんに、一抹の不安を覚える。

「ちょっと待って!花陽ちゃん、これ以上近づかないで。」

そう言いながら、少しずつ後ずさる。

「え?どういう事?何かあったの?」

普段と変わらない様子で花陽ちゃんがどんどん近づいてくる。

「いいから、それ以上近づかないで!」

そう言ったとき、背後から体を掴まれる。

「希・・・みぃつけた。」

「もう逃げられないよ。」

・・・真姫ちゃんと、ことりちゃんがいた。

「もう、希ちゃんったら、私から逃げようとするなんてヒドイよぉ・・・。」

いつの間にか上半身をはだけさせた花陽ちゃんが迫ってくる。

「ひぃっ!」

我ながら情けない声を上げてしまう。

ゆっくりと笑顔で近づいてくる花陽ちゃん。

笑顔で私を拘束する真姫ちゃんと、ことりちゃん。

「もう、いい加減にしてっ!」

精一杯の力を込めて振り払う。

3人から距離をとり、キッと睨みつける。

「一体みんな何のつもりなん?」

「何のつもりもないよぉ。」

「意味わかんない・・・、今日は希の誕生日じゃない。」

「だから、私達がプレゼントなんだよ♪」

みんなおかしい!

おかしいのに、みんなの目がおかしくないって言ってる。

もう発せられる言葉もなく、私は駆け出す。

誰か人の居る所に、みんなと一緒に居たくないっ。

最早恐怖でパニックに陥った私は、自分が何処をどう走っているのかも判らないほどだった。

走りながら背後に目をやった一瞬、何かとぶつかった衝撃で尻もちをつく。

「いったぁ~~~ごめん、急いでて・・・。」

「こっちこそゴメンなさいって、希ちゃん?!」

そこには見紛う事も無い、穂乃果ちゃんが私と同様に尻もちをついていた。

一気に、緊張が走る。

「ストップ!穂乃果ちゃん、ストップよ。」

「え?え?希ちゃんどうしたの??」

「お願いだから、ウチに近づかんといて。」

「ええっ?!何かあったの?」

そこで、穂乃果ちゃんの目がみんなと違う事に気が付いた。

「・・・穂乃果ちゃん、今日が何の日か知ってる?」

「えー??山の日?」

「それは8月!」

「えぇっ?!じゃあ、海の日?」

「それは7月!」

「ええ~~~じゃあ何なの~~~~!」

頭を抱えて悩み倒す穂乃果ちゃんを見て、心底ホッとしてる。

「穂乃果ちゃん、今日みんなに会った?」

「みんな?あ、今朝海未ちゃんと凛ちゃんに会ったよ。」

「ホント?なんかいつもと変わっておかしい所とかなかった?!」

「うーん、特に変な所は無かった気がするけど・・・。あ!みんな~!」

穂乃果ちゃんの一言に体が強張る。

振り返れば、こちらへ近づいてくる皆の姿が・・・。

「ダメ!穂乃果ちゃん、来て!」

思いっきり穂乃果ちゃんの腕をつかむと、一気にダッシュした。

「おわわわわわっ、な、何なの~~~!」

穂乃果ちゃんの叫びは一切無視して走り続けた。





気付けば神田明神にたどり着いていた。

「はあっ、はあっ、希ちゃん~一体どうしたの~。」

息も絶え絶えの穂乃果ちゃんとその場にヘタリ込む。

「はあっ、み、みんなに、はあっ、追いかけられてるんよ!はあっ。」

「希ちゃん、はぁっ、また何かイタズラしたの?!」

「はぁっ、そんなのしてないし!って、またってどういうこと?!」

瞬間、無言の空気が流れる。

「アレ?ウチってそんなにイタズラばっかりしてる感じ?」

「う~ん、そんな感じ?」

「うそやん!」

いや、穂乃果ちゃんに言われるくらいなんだから、もしかしたら本当にそうなのかもしれない気がしてきた。

「私も一緒に行くから、みんなに謝りにいこ?」

「いやいやいや。ホントに今回は何にもしてないんよ!」

自ら今回はと言ってしまった事に少し凹む。

それにしても、穂乃果ちゃんとのやり取りで、ちょっとだけ昔に戻った気がしてホッコリする。

はぁ・・・、やっと落ち着いてきた。

「希ちゃん、みーーーっけ!」

もう聞き間違えるはずの無い声。

そこにはやっぱり上半身をはだけさせた凛ちゃんが・・・。

「ええ~~~!!!凛ちゃん何やってるの?!」

穂乃果ちゃんの当り前と言えば当たり前の反応に我に返る。

「何って、今日は希ちゃんの誕生日にゃ!」

「あ!」

凛ちゃんの動きに注意しながら、小声で穂乃果ちゃんに話しかける。

(穂乃果ちゃん、凛ちゃんの狙いはウチだけ、だから穂乃果ちゃんは裏から逃げて!)

そういって、動き出そうとした瞬間、両肩を掴まれる。

「そっかぁ~~~、今日は希ちゃんの誕生日だったんだ~♪」

穂乃果ちゃん?!

凛ちゃんや他のみんなと同じ目をした穂乃果ちゃんが凄い力で私を掴む。

ウソ?!

穂乃果ちゃんまで、みんなと同じになっちゃったん?

身動きが取れなくなった私の視界に、他のみんなが入ってくる。

「希、逃げるなんてヒドイです。」

「希、今日はあなたの誕生日なのよ。」

「希、大人しく私達の感謝を受け取るニコ♪」

「希ちゃんのために、美味しいご飯が炊けたんだよ~。」

「希、私達からは逃げられないわよ。」

「希ちゃんに、どうしても着てほしい衣装があるの~♪」

「これでやっと、希ちゃんのお誕生日が祝えるにゃ!」

「希ちゃん、私達はいつまでも一緒だよ・・・。」

私の意識はそこで途切れた・・・。





気がつくと、そこは見慣れた天井。

視線を流せば、見覚えのある部屋。

私は自室のベッドに横たわってた。

あ・・・。

あ~~~。

良かったぁ。

夢オチやん。

って、いくら夢でもアレは無いわぁ・・・。

思い返しながら安堵の息を漏らす。

「さてと、寝覚めは悪かったけど何時かなぁ。」

そう呟きながら体を起こそうとしたとき、違和感を覚える。

「え?!」

体が起こせない?

というより、何これベッドに縛り付けられてる?!

今の状況にイマイチ理解が追いつかないでいると、部屋の戸が開いた。

「あ、希。目が覚めたのね・・・。」

一気に冷や汗が溢れ出し、緊張が体を硬直させる。

あの目は・・・、さっきの夢で嫌というほど見た・・・。




「お・誕・生・日・お・め・で・と・う・♪」


素直に誕生日を祝うつもりで書き始めた話が、何時の間にか世にも奇妙的な話になってしまいました・・・

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