不死と手を繋いで (4)
門兵としての仕事として,荷物の検分がある.
違法な製品や,危険物を持ち込んでいないかを確認する作業である.
全員隈なくというわけにはいかないから,たいていは怪しい者に限っている
例えば,目の前に立っている,全身を黒いフードで覆い,腰に鋸を携帯している人物がそれに当たる.
そいつの運んできた荷車の上には大小まちまちなブラックボックスが規則正しく並べられていた.
俺は,その荷物を怪訝そうに見ていた相棒のスナにこちらに来るよう手を振った.
スナは門兵の中で一番力が強く,一番こういう事態に向いている.
スナは顔面に浮かぶ火傷跡を痛々しくゆがめて,フードの人物の隣に立った.
スナは巨漢であるので,比較的小柄なフードの人物とは,親子のような体格差である.
なにかあっても,すぐに鎮圧できるようにスナは拳を固めている.
俺はようやく,フードの人物に質問をすることができた.
「あなたの名前と素性について教えて下さい」
フードの人物は,意外にも凛と澄んだ声で返事をした.
「私は,コロム.不死狩りを生業としている者だ」
声音からして女だろう.なるほど,フードしているのもそれを隠すためということか.
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そして,『不死狩り』耳慣れない単語が出てきた.
「不死狩りとはなんでしょうか?」
マホウ生物を狩るもの,罪人を狩るもの,は今まで見てきた.
彼らは大抵,この村に似つかわしくない強力な武器を持っていて,そのたびに入村を拒否しなければならなかった.
そして,彼らは大抵気が強くて,納得してくれない.
俺は.目の前に暗雲が立ち込めてきたのを感じる.
「言葉通り,不死となったモノを狩る.それ以外,何もするつもりはない」
ぴしゃりと言われた俺は渋々,質問を続ける.
「この村に,その「不死」がいると?」
「十中八九,不死はいないだろう」
「そうでしょう.それにこの門兵は優秀ですから,もし「不死」とやらが来れば気づきますよ」
帰ってくれという思いを込めて.精一杯笑顔を見せる俺.
.
「そのときは,私を呼んでくれ.すぐにそいつを削いで,解体して,運んでやる」
それからスタスタと横を通ろうとするフードの女を慌ててスナが立ち止まらせる.
「待て,お前は怪しい」
直球だな,スナ.でもお前の見立ては間違いなく正しい.
「それでは,荷物の検分を行います.もし武器や危険物があれば申告してください.種類によっては,こちらで預かりすることが
あります」
フードの女は帯で留められていた鋸を俺に手渡した.その刃は使い込まれておりz随分すり減っている.
これを何に使ってきたのか,具体的には分からないがいやーな感じだ.
「ありがとうございます.鋸は問題ありませんが,村内で振りかざすことはお控えください」
フードの女は分かったと言って,鋸を元の位置へ差した.
さて,あとは荷車に載せられているブラックボックスだ,
「コロムさん,荷車の上の荷物は見させていただいても,構いませんか?」
「中のものが外気に触れさせると変質してしまうから,できないな」
「中身はどのようなものでしょうか?」
「――――――不死狩りとしての証だ.見ても楽しいものではないことはたしかだ」
門兵として過去数年間生きてきた俺は,大抵のことに驚かなくなっていた.
いきなり魔法銃を向けられたり,無数の牙を生やした鳥が檻から飛び出したりしたから.
「すいませんが,その証を見させていただけますか? 私どもは『不死狩り』について,不勉強でなにも知らないのです,
それに先ほど,彼が述べた通り貴方はいささか怪しいと言わざる負えません」
「―――不死狩りの証を見るまでは,入れさせてくれないわけか」
フードの女が,ため息を吐いた気がした.
「言い方に語弊はありますが,そういうことです」
「ならば私はとめないよ」
フードの女は,荷車の上から一つ,ブラックボックスを取り出し,目の前に持ってきた.
「見せるの一瞬だけだ,もっと近寄れ」
フードの女が襟をつかんで,俺を引き寄せる.彼女からは,あせの甘酸っぱい香りがした..
そして,フードのボックスから中から現れたのは
無残にも手足をもがれ,性器がだらしなく垂れさがった,人間の胴体だった.
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