四葉「上杉さんは童貞か否か」 (43)

〈居間〉

とあるテレビ番組

『──ちゃんもカワイイからね、モテるでしょ』

『えーそんなことないですよ』


二乃「…………」


『結構遊んでるって話も出てますけど。ほら、最近週刊誌とかでも話題持ちきりだったじゃない』

『それはほら、デマってやつですよー』

『怪しいなあ、こういう席なんだしぶっちゃけトークしてくれてもいいんだよ』

『えー、どうしよっかなー』


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三玖「二乃、リモコンかして」

二乃「嫌よ。あんた、チャンネル変える気でしょ」

三玖「うん。来月からスタートする大河ドラマの特集見るから」

二乃「今は私がこれ見てるの。録画しといてあげるから、それで我慢しなさい」

三玖「生で見ないと臨場感がない」

二乃「ドラマの特集に臨場感とか求めてんじゃないわよ……とにかく、今はこれを見る時間!」

三玖「ずるい、テレビは五人全員のもの。私にもチャンネルを選ぶ権利がある」

二乃「あぁもう、往生際が悪いわね!」

三玖「大体、この番組は品が良くない。教育上よろしくないから変えるべき」

二乃「はあ? こういう色恋沙汰はねえ、女子の嗜みなのよ! 女のステータスなの!」

三玖「そんな嗜みはいらない。もっと過去の偉人から色々なことを学ぶべき」


二乃「何百年も前のオヤジから恋のいろはが学べるわけないでしょ!」グワッ!

三玖「……かちーん。今の発言、取り消して」

二乃「絶対取り消さないわ。そもそも間違ってないし」


三玖「二乃は色情狂」ボソッと


二乃「なっ!? なんですって!?」ガバッ

三玖「本物の恋を知らず、借り物の恋しか語れない哀れな女子……それが二乃」

二乃「ぐっ……あ、あんただって男と付き合ったことすらないクセに! 知ったようなこと言うんじゃないわよ!」

三玖「付き合ったことはない。だけど本物の恋は知ってる」

二乃「へえ……随分と大きく出たじゃない。ならご教授頂けるかしら、ホンモノの恋ってやつを」


三玖「そ、それは……」シュン

二乃「ふん、やっぱり言えないんじゃない。けどね、私は言えるわ。本物か偽物かもわからないけど、これだけははっきりしてる──」


二乃「──私はフータローが好き。この世界で誰より一番あいつのことを好きな自信があるわ」


三玖「……うぅ」

二乃「で、あんたもなにか言いたそうだけど」

三玖「わ、私も……その……」

二乃「ぼそぼそ喋ってちゃ聞こえないわ。もっと大きな声で言いなさい!」



三玖「私も……私もフータローのことがっ──」

『あたし、好きな人が経験豊富だったってパターン多いんですよー!』ジャーンッ!


『うわぉ、爆弾発言。これ、オンエアできますかね』

『あはは。ディレクターさん、ここカットでお願いしまーす』



二乃「………………」

三玖「………………」


二乃「……なんかテンション下がっちゃったわね」

三玖「うん。まさかこの子がそういう人だとは思わなかった」

二乃「ごりごりの清純派気取ってるクセしてよく言うわ。よほどの自信なんでしょうね」

三玖「なにを言ってもファンは離れないと思ってる。浅はか」

二乃「ねえー、ちょっとは限度ってもんがあるでしょ。これ全国放送よ」

三玖「この子を応援してる人たちがかわいそう。テレビの前でくらい、綺麗なままでいればいいのに」

二乃「ホントそれ。かわいければなに言っても許されるってものじゃないわ。そもそも、好きな人が経験豊富な人ばかりって、私は遊び人が好きですよーって言ってるようなものじゃない」

三玖「………………」

二乃「……なんで突然黙るのよ」


三玖「ねえ、二乃」

二乃「なによ」

三玖「フータローは、どうなのかな」

二乃「……どうって、なにが」

三玖「やっぱり経験あるのかな、フータロー」

二乃「はあ!? 突然なに言いだすかと思えば……あのね、あいつが誰かと付き合ってる図なんて想像できる? キスどころかデートすらまともにしたことなさそうなのに、経験なんてあるわけないじゃない」

三玖「でも、フータローはかっこいい」

二乃「まあ……否定はしないわ。でも、それとこれとは別。考えるだけ無駄よ。あいつはこれまでまともな恋愛すらしてきてないはずだわ」

三玖「どうしてそう言い切れるの?」


二乃「それは……女の勘よ!」ドンッ!!


三玖(恋愛に関しては先を行かれてると思ってたけど……案外、二乃も大差ない)

三玖「ちょっと待ってほしい。フータローは女の子慣れし過ぎてると思う」

二乃「あいつが女慣れ? うーん、言われてみれば確かに……普段勉強を教わってるときは感じなかったけど、同年代の男子なんてみんな揃ってオオカミみたいなものだもの。それに比べてあいつは──」

三玖「そう。出会ったときから、私たちを異性として意識してない。自意識過剰かもだけど、私たち姉妹はそこそこカワイイ」

二乃「そうよ! なんでそんな簡単なことに気がつかなかったのかしら。これだけカワイイ同年代の女子が五人もいるのに、誰にも手を出さないなんてどう考えたっておかしいわ!」

三玖「つまり、考えられるのは──」


三玖・二乃「「フータローは誰かと付き合ったことがある!」」ガバッ


四葉「ふわーサッパリしたーー! 良いお風呂だったなー、ってあれ? 二人ともなんでそんな真剣な顔してるの?」

二乃「ねえ、四葉。短刀直入に聞くから正直に答えなさい」

四葉「えっ? うん、なんかよくわかんないけど、できる限りは」

二乃「フータローはこれまで誰かと付き合ったことがあると思う?」


四葉「え? ええぇぇええぇぇ!!!! う、上杉さんが誰かと付き合ったことがあるかなんて、そんなの私にはわかんないよー!」

三玖「あるか、ないかで構わない。正直に答えてほしい」

四葉「そ、それは……上杉さんは恋バナとか嫌いみたいだから、恋愛に関心がないだろうなーってことくらいしか」

二乃「そんなの百も承知のことよ。私たちが知りたいのは、四葉──あんたの考え」じーっ


四葉(鬼気迫る表情……うわぁ、二人ともこわー)

四葉「あわわわわ……えーっと、その……多分だけど、上杉さんは誰とも付き合ったことがないと思うよ」

三玖「どうしてそう思うの?」

四葉「うーん。難しいことはわかんないし、根拠もないよ。でもさ、上杉さんがすっごく頭が良いのってそれだけ努力してきたからだよね。その分、これまで恋愛する暇もなかったと思うんだ」

二乃「ふむふむ」


四葉「だから、きっとないよ。なんだかそんな気がする」


三玖「そう言われると」

二乃「あいつに恋愛と勉強を両立させる器用さがあるとも思えない。悩みどころね……ところで四葉、なんか妙に的を得たこと言うけどまさかあんたもフータローのことを──」

四葉「まさか、ありえません」


二乃(気のせいか。まっ、四葉に限ってそれはないわね)

三玖「ここから先はフータローの過去に詳しい人に話を聞かないとダメ」

二乃「ええ、ただの水かけ論になりかねないわ。あーあ、せっかく面白くなってきたとこだったのに……」


一花「なんの話してるのかな?」スッ


二乃「うわっ、びっくりした! 一花、あんたどっから湧いてきたのよ」

一花「いやー、そろそろ寝ようかなって思ってたけどみんな盛り上がってるみたいだから、無視できなくて」

二乃「まあいいわ。ついでにあんたの考えも聞こうじゃないの」

一花「考え? なにが?」


二乃(白々しい……とぼけた振りして、どうせ全部話聞いてたんでしょ)


三玖「フータローが誰かと付き合ったことがあると思うか、ないと思うか」

一花「えーどうだろ。彼、ああ見えてちゃっかり遊んでそうだもんねー」


二乃「……あいつに限ってそれは──」

一花「ない、とは言い切れないよね。そもそもさ、女の子と付き合ったことがあるかどうかだけで恋愛経験を語るのはおかしくない?」

四葉「というと?」

一花「みんな、肝心なとこが見えてないよ。ピュアというか、お子様っぽいよね」

二乃「もったいぶってないで肝心なとこ話しなさいよ」



一花「ふふ……では突然ですが問題です。付き合ってなくてもできる男女の愛の営みってなーんだ?」

二乃「なっ!? あんたまさか!?」

三玖「一花、ハレンチ」

四葉「んー? なんだろ、それ? 手短なとこでいくと……料理かな」

一花「ぶっぶー、外れ。お子様の四葉にはちょっと難しかったかもね」

四葉「むっ、聞き捨てならないセリフ。一花、正解教えてよー」

一花「そう焦らなくても大丈夫。夜は長いんだから──私が言いたいのはね、付き合った経験があるか語るんじゃなくて……」




一花「フータロー君が童貞かどうかを語るべきじゃないかな」




五月(なんてこと……こっそりお夜食を頂いている間にとんでもないことに)ガタガタ…

二乃(やっぱりそっちが本命だったわけね……)


四葉「う、上杉さんが童貞かどうかなんて、それこそわかるわけないよ!」

三玖「同意。それにデリカシーにも欠ける」

一花「ふぅーん。じゃあ、二人は除外ってことでいいね。二乃はどうする?」

二乃「……話を続けようじゃないの」

四葉「ちょっと、二乃っ!」

二乃「好きな人を!!」ドンッ!!

四葉「っ!!??」

二乃「本当に好きなら、どんなことでも知りたいと思うでしょ。ましてや相手の恋愛経験値とくれば、見過ごせるはずないでしょ」

一花「……決まりだね。なら、三玖と四葉はもう休んでてても──」



五月「待ってください!!」ズザーッ!

一花「いいよ、って言おうとしてたけど……どうも盗み聞きしてた子がいたみたい」

二乃「そのようね」


五月「ふ、二人ともっ、一体なにを考えているんですか! 正気の沙汰とは思えません!」


一花「正気かどうかなんてこの際どうでもいいでしょ。大事なのはフータロー君が童貞かどうかだよ」

五月「だ・か・ら、それが下衆の勘繰りだと言っているのです! 交際経験ならともかく、ど、どどど、童貞かどうかなんて探るべきではありません!」

二乃「そうね。本来なら切って捨てられるのが当然の話題よ……でもね、今回は相手が相手──他の誰でもないフータローについてよ」

五月「誰が相手かなんて関係ありません! むしろ上杉君は私たちの家庭教師なのですよ! 彼の人柄はともかく……日頃から勉強を教えてくださっている彼に対して失礼だとは思わないのですか!」

二乃「思うわ。でもあいつのことをより知ることができるなら、それでもいい」

五月「なっ、なんてことを……」

一花「五月ちゃん。これは女のプライドがかかってる、いわば戦争だよ。傷を受け入れる覚悟がないなら、静かに休んでたほうがいい」

五月「いいえっ! 今回ばかりは引きません! ええ、引きませんとも! ほらっ、四葉もなんとか言ってあげてください」



四葉「………………」

五月「……四葉?」

四葉「私は……ちょっと知りたいかな」

五月「んなっ!? そんな、どうして四葉まで浮ついたことを言うのです」

四葉「単純に興味があるし、仮に上杉さんが他の子とHしたことあったとしてもさ、私たちの間だけで留めておけばなにも問題ないわけでしょ」

五月「いやしかしですね……」

三玖「私も同意見。この場だけの秘密にできるなら問題ないと思う」

五月「三玖まで……ああぁぁ、私は一体どうすればいいのです」


一花「こういうとき簡単に解決できる方法知ってるけど」

二乃「あら、奇遇ね。私も良い方法を思いついたとこ」

四葉「多分、二人とも同じ方法だろうね」



一花「ここは多数決で決めよう。ねっ」

五月「はあ……どうせダメだと言ってもやるのでしょう?」


五月以外の全員が手をあげる。


一花「あはは、ごめんね五月ちゃん」

五月「よくないですけど、仕方ありません。口を挟んだ時点でこうなる気はしてましたから」

二乃「よし、決定。じゃあ、誰がフータローに聞くか決めましょ」

一花「はーい、私は五月ちゃんがいいと思いまーす!」



二乃(ここで間髪入れずに五月を指名して難を逃れようとするとは……一花、おそろしい娘っ!!)

五月「ぶっ!!?? は、はあ? さっきと言ってることが全然違います! 何故直接聞く流れになっているのです!?」

二乃「だってフータローが女の子と付き合ったことあるかどうかもわからないのに、童貞かまでわかるわけないじゃない。なら、直接聞いた方が手っ取り早いってわけ」

五月「確かにそうですが……ってちがーう! 本人に聞いたらこの場だけの秘密にならないではないですか!」

二乃「それはそれ、これはこれよ。その場の流れと勢いでいきなさい」

三玖「大丈夫、五月ならきっとできる。信じてるよ」キラキラッ

五月「なにさらっと私に任そうとしてるんですか! きらきらした目をして肩叩いても無駄ですからね、やりませんよ!」

四葉「ししし、みんなでこういうノリで騒ぐの久しぶりだねー!」

五月「四葉ぁ! あなたという人は……この場をさらに盛り上げてどうするのです! 逆効果ですよ!」


一花「今回も多数決で……ってわけにはいかないかな」

五月「いいわけないでしょう! そもそも私は直接聞くのは反対ですっ! 度が過ぎています!」

二乃「ならあんたは休んでなさい。私たち四人で決めて、四人で聞いて、四人で答え合わせするから」

五月「ぐっ……ここにきてはみ出し者にするとは」

二乃「別にそんなつもりはないわ。ただねー、どうしても嫌だって言うなら……ほら、無理にとは言えないわけでしょ」


五月(人のことをチラチラと値踏みするように……挑発しているつもりなのでしょうが、そうはいきませんよ)


五月「わかりました。どうやらみなさんの決意は固いようです。もう引き止めたりはしませんからご心配なく」

一花「ふう……わかってもらえて一安心だよ。じゃあ、五月ちゃんが大役を果たしてくれてる間、私たちも必死で応援するから」


五月「なにを言ってるんです? 私は『引き受ける』なんて一言も言っていませんが」じろっ

一花「っ!?」

三玖「ならどうするの?」

五月「決まっているじゃないですか……勝負ですよ。この中の一人が敗者となり、勝者四人の犠牲となって使命を全うする──敗北者を決める大一番を始めましょう! このトランプを使って!!」グワッ!

四葉「おおー、さすが五月。準備がいい!」

二乃「……あんた、実はみんなで遊びたかっただけじゃないの?」

五月「ぎくっ!? な、なんのことだかさっぱりわかりませんね……ではポーカーでもしましょうか」

三玖「トランプなんて久しぶり。ちょっと燃えてきた」

二乃「実力の違い、格の差ってやつを教えてあげるわ」

一花「さあ、勝っても負けても恨みっこなしだよ。いざ真剣に──」


一花・二乃・三玖・四葉・五月「勝負!!」

五つ子真剣勝負。

結果、敗者──四葉。


四葉「なぁんでこうなるんですかぁー!!」

一花「修学旅行での借りは返せたかな」

二乃「まっ、当然の結果ね(うわぁーぎりぎりセーフ。危うくドベになるとこだったわ)」

三玖「ぶいっ、一番」

五月「助かりました……あとは任せましたよ、四葉」

四葉「ちょちょちょちょい待った! これって遊ぶためのネタだよね? みんな本気で聞こうとか思ってない? いくらなんでもそれは無理があるってー、ねっ? 五月もそう思うでしょ」

五月「………………(かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先に並ぶ運命なのねって感じの冷たい目線)」

四葉「あ、あのー、誰か味方してくれる人は手をあげてくださーい」


一花・二乃・三玖・五月「………………」

四葉「嘘だそんなことぉー!! これは無理っ!! 絶対無理っ!! そもそも聞き方とかわかんないってばー!」


一花「んー、いっちょ電話してみよっか」


四葉「なにちょっとコンビニ行ってきてよ、みたいなノリで言ってんの? できるわけないじゃん! それに今、夜の十時だよ! 上杉さんだってもう寝てるってばぁ!」

三玖「為さぬなら、為すまで鳴らそうホトトギス」キリッ

四葉「みーくぅ!!!! 一番淡々としてるわりに興味深々じゃん! それムッツリっていうんだよ! いいの? 今度から三玖のことムッツリーニって呼ぶよ?」

三玖「望むところ。四葉、覚悟を決めて」

四葉「聞く耳なしっ!!?? ぐわぁー、二乃ぉー助けてよー!」

二乃「誓うわ。あんたの犠牲、絶対無駄にはしない。約束する、必ず成し遂げてみせるから」

四葉「無駄にカッコいい!! スポコン物の主人公っぽい!! しようとしてるの恋愛だけどっ!! 思いっきりジャンル違うけどっ!!」

二乃「あら、案外そうとも限らないんじゃない? 本物の恋愛はスポーツのように熱く激しく、真剣であるべきだもの」


四葉「なんか語り出したぁ!! もうこんなとこにはいられませんっ! 私は部屋に帰らせてもらう!!」ダダッ!!


一花「おっと、そうは問屋が卸さないよ。二乃、三玖、五月、出口塞いで!」


二乃「任せなさい!」シュバ!

三玖「合点承知!」シュババ!

五月「不本意ではありますが!」シュバババ!

四葉「ぐぬぬっ……おのれぇ、普段の三倍はあろうかという身のこなし──好奇心は人を魔物に変えるといいますが、まさかここまでとは」

一花「あははっ。いくら五つ子の中でずば抜けた運動神経をしていても、さすがに四人がかりには手も足も出ないみたいだね」

四葉「……ホントに、やるの?」

一花「もちろん。これは名誉なことなんだよ、四葉」

四葉「あわ、あわわわわ……」


一花「みんな見守ってるから……さっ、いってみよっか」



四葉「ぎゃばああぁぁぁぁーー!!!!」

打合せ後。


四葉(一応、なにかあったときは五人全員で企てたことだと正直に告白することにしたので、多少はマシになりましたが──)


四葉「しかし、本当にいいんでしょうか」


四葉(むむぅ……心なしか携帯を持つ手が震えているような気がします。こんな時間に、こんなしょうもないことを聞くために上杉さんに迷惑をかけるわけには……)


四葉「…………とはいえ」


一花・二乃・三玖・五月「「「「じーっ」」」」ワクワクッ


四葉(みんな深夜テンションでおかしなことになってるし。約束した手前やらないわけにはいきません)

四葉「ええぃ、ままよっ! どうにでもなれぇ!」


四葉(まずは当り障りない会話から始めて、それから恥ずかしくなる前にズバリ聞くしかない! よし、それでいこう!)


プルルルル、プルルルル。


四葉(上杉さん、愚かな私をどうか許してください。そしてあわよくば冗談だと悟ってください!)

風太郎「……なんだ、こんな時間に」

四葉「四葉です、こんな時間にごめんなさい。もしかして、まだ勉強とかされてました?」

風太郎「とかってなんだ、とかって。お察しの通り、まだ勉強中だ。お前らに教えてる分、自分の時間を確保しようとしたら自然とこうなる」

四葉「で、ですよねー」

風太郎「………………」

四葉「あ、あのですねー、ちょっと折り入ってお話したいことが──」

風太郎「かしこまらなくていいから要件を言え。わざわざこんな時間にかけてくるぐらいだ、なにか問題でもあったんだろ」

四葉「えー、問題といえば問題なんですが、それも人によるというか……そもそも問題は上杉さんにあると言いますかー」モジモジっ


風太郎「……切るぞ」


四葉「あぁ待ってください! 切らないでぇ!」

風太郎「はあ……とりあえず緊急の用事じゃないってことはわかった。聞くだけ聞いてやるから、とっとと話せ。はい、3・2・1──」

四葉「わわっ! えっとそれが中々どうして言いずらいことと言いますか、もしかしなくても失礼になりそうなことを聞かなくちゃいけなくて──」チラッ


一花・二乃・三玖・五月「………………」ジーッ


四葉(わーお、メチャクチャこっち見てるぅー!)


風太郎「怒らねぇから正直に言ってみろ」

四葉「……あのぅ、これは答えてもらわなくて全然構わない質問なんですが」


四葉(行け、行くんだ私! ここで行かなきゃ、上杉さんの時間を奪うだけ! だから、言わなきゃ!)

四葉「う、上杉さんはぁ!」

風太郎「お、おう」



四葉「これまで女の子とエッチしたことありますかぁ!!」



風太郎「………………」

四葉「えーっと、もしもーし」


風太郎「……どうせお前ら全員家にいるんだろ。いいか、他の四人にも伝えとけ。今からダッシュでそっちに向かう。全員そこから一歩も動くなよ、いいな」


ガチャ! ツー、ツー……

四葉「……やってしまいました」シュン


一花「どうだった!?」

四葉「今からうちに来るって。全員そこから一歩も動くなとも言ってた」

二乃「あいつうちに来るの!? しかもこれから!?」

三玖「フータローの足だと、多分かなり時間かかると思う」

五月「……だからやめておいた方がいいと言ったのに」


四葉「長い、夜になりそうだね……」どよーん

数十分後

〈中野姉妹邸、もといアパート〉


風太郎「ぜえ…はあ…ぜえ…はあ……お前ら、いい加減に…ごほっ、ごほっ……」

二乃「体力ないクセに無理して走るからよ。ほら、水」

風太郎「う、うるせぇ! ごくっ、ごくっ……ぷはっ! こんな夜遅くに、あんなつまんねえことで連絡してくる暇あるんなら……はあ、はあ……ちっとは勉強しやがれ!」

四葉「……はい、ごめんなさい」

風太郎「四葉だけじゃない、お前ら全員に言ってんだ。そこんとこホントにわかってんのか!」

一花「反省してます」

三玖「フータロー、ごめん」

二乃「悪かったわ……二度と同じようなことがないよう気をつけるから」

風太郎「当たり前だ、このバカ姉妹!」

五月「申し訳ありませんでした。私がきちんと引き止めていれば、こんなことには──」

風太郎「もういい……終わったことをくよくよするな。その分、今回のことを水に流せるぐらい勉強に集中しろ」

一花「うん。挽回できるよう、努力するよ」

三玖「私も、これまで以上にがんばるから……今まで通り見ててほしい」

四葉「上杉さん……」ウルウルっ


風太郎「だあぁ!! わかったから揃いも揃って暗い顔すんな! 五倍暗くなるだろうが! 今回のことは許してやるし、条件つきではあるが……なんならさっきの電話での質問に答えてやってもいい」


二乃「はあ!? あんた、それ本気で言ってるの?」

風太郎「ああ。マジもマジ、大マジだ」

四葉「上杉さん……別に無理しなくてもいいんですよ。今回は全て、私たちが悪いんですから」

風太郎「……ふん。無理なんかしてねぇよ。ただ、そのだな……お前たちがどうしても気になるっていうなら、それを利用して勉強させるだけだ」

五月「ま、まさかっ……!?」



風太郎「そうだ、そのまさかだ。よく聞け。どの科目でも構わん、お前らがそれぞれ得意としてる科目でいい。次のテストで一教科でも満点を取ったやつにだけ、なんでも一つ答えてやる!」



五つ子「「「「「な、なんだってえぇーー!!??」」」」」

数週間後。

〈放課後の教室〉


四葉「で、結局誰も満点取れませんでした──と」

風太郎「当たり前だ。あれぐらいでいきなり成績が伸びるようなら、俺は必要ない」

四葉「まあ、それでもみんながんばってたじゃないですか。点数は前回のテストより良かったし、三玖や一花なんて目を血眼にして勉強してましたから」


風太郎「あれを見て、正直……お前らを指導するにはあっち方面で釣った方が良いんじゃないかと本気で思ったぐらいだ」ガーン…


四葉「それはやめた方がいいと思います……」

風太郎「ああ、わかってる。仮にそんな指導方法を取ってみろ。俺の体裁はともかく、お前らの父親になに言われるかわかったもんじゃない!」グワッ

四葉「あはは……成績だけ伸ばせばいい、というわけではないのも考えものですね」

風太郎「全くだ。しかし──」

四葉「ん?」



風太郎「俺も勉強以外のことを学べてるからな。わりに合わないことばかりじゃないさ」フッ


四葉(机に頬杖ついて窓の外を眺める上杉さんの横顔に、あの日の少年時代の彼が重なった。それ見て、私の胸の鼓動は少しだけ早くなりました。)

四葉(その意味を、私はよく知っている)


四葉「上杉さん、一つ聞いてもいいですか」

風太郎「なんだ、藪から棒に」

四葉「今回のテストではダメでしたけど、これからもっとがんばってたくさん勉強して……もしどこかのテストで満点を取ったら、一つだけ答えてもらってもいいですか」

風太郎「……いいぞ。なんだって答えてやる」

四葉「ホントですかぁ!」

風太郎「ただし、満点取れたらの話だ。お前にそれができるか?」ニヤリッ

四葉(意地悪そうに笑う彼は、あの日からなにも変わっていない。幼い頃、誰かに必要とされたがっていた少年は、今確かに必要とされている)

四葉(私たち姉妹に──そして、私もまた上杉さんを必要としている)


四葉「むう……なんだかバカにしてません? そんな余裕こいてると、ホントにとっちゃいますよ」

風太郎「心配するな。そんなことは万に一つ……いや、億……兆か。とにかくありえん」

四葉「悩むところそこぉ!? ホントに取ってからやっぱりなし、っていうのはダメですからねー! 絶対答えてもらいますから!」

風太郎「やる気があるのは大いに結構。可能性がゼロじゃないなら、いつかは報われるかもな」


四葉(そう、可能性はゼロじゃない。だから、きっと私にだってできるはず──)

風太郎「ところで、お前は満点取ったらどんな質問するつもりなんだ」


四葉(いつかこの想いが報われる日が来るって信じてますから、今は大切に胸の内にしまっておきましょう)



四葉「ししし、秘密です!」



終わり。

原作もいい感じだし、ごと嫁SSもっと流行ってほしいものです…
依頼出してきます。

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