未来「土曜日のケーキ」 (8)

未来ちゃんの誕生日おめでとう的なssです

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昨日は、私の誕生日だった。

昨日は金曜日だったから、いつも通り学校に行って、その後は劇場に行った。
学校の友達に、劇場の仲間に、プロデューサーさんに、事務員の美咲さんに、出会った人みんなからお祝いの言葉をかけてもらった。

でも、当たり前だけど、誕生日は昨日で終わり。
そして、今日からはまた、いつもと変わらない毎日を過ごしていくんだろうな。

だけど、それじゃいけないんだよね。


14歳になった私は、去年よりも一つ、大きくなりたいなって思うんだ。


昨日、静香ちゃんにそんな話をしたら、「そういうのは『抱負』っていうのよ」って教えてもらったの。


抱負って、何にしたらいいかな。

そんなことを考えながら、私はベッドから身体を起こして大きく伸びをした。





洗面所で顔を洗った私はリビングに向かった。まだ六時半なのに、お母さんはもう台所に立って、私のためにお弁当の準備を始めていた。

「昨日のケーキが余ってるからそれ食べちゃって」と言われて、私は冷蔵庫を開けた。その中段には、昨日の晩に食べた誕生日ケーキの残りが入っていた。
六等分して、昨日はお父さんとお母さんと私で三つ食べたから、残りは三つ。そのうちの一つを小皿に取り分けて、私はそれをテーブルに運んだ。

正直、ケーキはそこまで美味しくなかった。それは、時間が経って味が落ちたからかもしれないし、昨日はあったチョコプレートがないからかもしれない。でも、それだけじゃない気がする。昨日はみんなが私のことを祝ってくれて、その後に食べたケーキだったから、美味しかったんだろうな。

結局、私はそのケーキを流し込むようにして食べた。普段に比べて食べる量は少なめだったけど、あんまり食欲もなかったし、それで満足したことにしておいた。


その後、適当に身支度を済ませた私は、お母さんからお弁当を受け取った。
「今日も頑張ってね」「ありがとう。行ってきます!」
手を振りながら玄関を出た私は、表に停めてある自転車に跨った。






私が今から向かうのは、765プロの劇場だ。今日は劇場で静香ちゃんたちのライブがある。私は出演しないけど、裏方のお手伝いとして参加することになっていた。

通い慣れた国道沿いを自転車で走り抜ける。結局、劇場までは15分とかからず、私は集合時間の30分前ぐらいに劇場に着いてしまった。


今日の私の仕事は、楽屋回りのお世話係だ、ってプロデューサーさんが教えてくれた。小物類の準備とか、着替えの手伝いとか。でも、私と同じ仕事を担当する人は結構多いらしくて、プロデューサーさんは「そんなに忙しくないと思うから、ライブに出てるみんなのことを見て欲しい」とも言っていた。今までは、自分のことで精一杯であんまり気にする余裕もなかったから、今日はそっちも頑張ってみようかな。






朝から音響チェックに通しリハに、と準備を進めて、いよいよライブが始まった。ライブが始まってもステージに立っていないっていうのはすごく不思議な気持ちだったけど、その代わりにやるべきことはちゃんとあった。曲ごとにみんなが楽屋を出入りして、その僅かな時間の中で小物を変えたり化粧を直したりした。場合によっては、衣装をまるまる着替えることもあった。出演する側しか経験してこなかった私は今まで気づけなかったけれど、裏方の仕事も思っていた以上に大変だった。


でも、空き時間はちゃんとあって、私はその間に、一緒に裏方の手伝いをしていたアイドルの仲間たちと、ステージを見学しに行った。今日は使われていない劇場の二階席の最前列で、ステージに立つみんなの熱と声と、そしてお客さんの歓声を身体全体で感じた。


そこで、私は気づかされた。みんな、凄かった。
もちろん、凄くないって思ってたわけじゃない。でも、改めてみんなのことをちゃんと見て、みんながステージで堂々と歌い踊っている姿に感激して、ますますみんなのことが好きになった。この中に私もいる。そんな事実が嬉しかった。そして、私もこうありたいと思える理想に近づくヒントを貰えた気がした。





私の14歳の抱負は「みんなをもっと好きになる」にしよう。


そしたら、私はもっと、私のことを好きになれる気がする。



終わりです。読んでいただいてありがとうございます!

依頼出してきまーす

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