「もう、若様ったら……『また』ですか?」
「……ごめんなさい」
可愛い子には旅をさせよ。
そんな格言がドラゴンにもあるかどうかは定かではないが、竜の子は今、旅をしている。
この広い世界を巡り、実際に己の眼で様々なことを見て、物事を見極める判断力を養う為だ。
「これまた広大な世界地図を描きましたね」
「ううっ……恥ずかしいよぅ」
人間には良い人間と悪い人間がいる。
しかし、そう単純に割り切れるものではなく。
魔物と比較すると、善悪の見極めは困難だ。
時に良いことをして、時に悪いこともする。
時に優しくて、時に厳しい。
時にまともで、時に狂っている。
「くんくん……おしっこ臭いですねぇ」
「い、言わないで……嗅がないで」
「フハッ!」
「わ、嗤わないでぇっ!?」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
竜の子と旅をする人間は、そういう人物だ。
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「若様、ズボンが乾いたら出発ですよ」
手際よく、ズボンを洗い、干す人間の娘。
竜の子の旅の道連れであり、パートナー。
腰まで伸びた亜麻色の長い髪が陽光に照らされキラキラ輝き、サラサラと風になびいている。
何故同行しているのかを説明するのは簡単だ。
「うん、わかった。ありがとう、生贄娘」
ドラゴンへの生贄の娘。
それがこの者の正体だ。
元々はドラゴンの巣に対してちょっかいをかけた愚かな人間への報復として父が襲撃した集落に暮らす住民であり、そして竜王の怒りを鎮めるべく捧げられた人柱。つまり、生贄だった。
旅のナビゲーター兼アドバイザーとして、同行を父と母に認められた経緯がある。
「ごめんね、またズボンを汚しちゃって」
「いえいえ、なんてことはありませんよ」
「でも、もうこれで5度目だし……」
「若様はまだ幼いですから致し方ありません」
「早く大人になりたいな……」
「いつまでも子供のままで居てください」
「どうしてそんなことを言うの?」
「若様のおしっこの匂いが好きなので」
「もう!」
生贄娘は、優しいけれど、頭がおかしい。
そういうところが、竜の子の母と似ていた。
そういうところが、親しみやすく感じていた。
竜の子の母は、元々は魔物使いの人間だった。
その人間とドラゴンの間に産まれた、竜の子。
ドラゴンと人間の特徴を兼ね備えた、ハーフ。
人間でも魔物でもない混じり者の孤独な忌子。
そんな竜の子の旅路は、困難に困難を極めた。
「若様、絶対にフードを脱いではいけません」
「うん……わかった。気をつける」
「では、出発です」
竜の子は言われた通りにフードを目深に被り。
生贄娘としっかり手を繋ぎ、街道を歩きだす。
そうすると旅の母子、もしくは姉弟に見える。
たまに母と面影が重なり、竜の子が間違えて母上と呼ぶと生贄娘はお姉ちゃんと呼べと返す。
「おや、姉弟で旅行かい?」
「やっぱりそう見えます?」
「違うのかい?」
「いえ、その通りですのでお気になさらずに」
「随分と気立ての良いお姉さんにサービスだ」
「ありがとうございます!」
だから、姉弟に見えた時の方が機嫌が良い。
道すがら行商のおじさんに声をかけられた生贄娘は、ホクホク顔で貰ったリンゴをかじった。
「美味しいリンゴですねぇ」
「うん、美味しい。あのおじさんは優しいね」
「行商人はああして顔を売っているのですよ」
「じゃあ、本当は悪いおじさんなの?」
「利害が一致するかによって、変わります」
「たとえば?」
「若様の正体を知ったら恐らく、見世物小屋に売り飛ばそうとするのでお気をつけください」
「……人間って怖い」
人間は恐ろしい生き物だと、つくづく思う。
竜の子はこれまで幾度も、危機に直面した。
そもそも生贄娘と出会うきっかけとなったのも住処を人間に襲われたからだ。おっかない。
「ご安心下さいませ」
怯え震える竜の子に、優しく微笑む生贄娘は。
「若様をお護りするのが、生贄の務めです」
そんなお伽話の騎士様みたいなことを言った。
「若様、そろそろ海が見えてきますよ」
「海?」
しばらく歩くと、地平線の先が途絶えた。
生贄娘に言われてよく見ると、水平線だ。
どこまでも広がる海面の海原に驚愕する。
「すごく大きな水溜りだ!」
「なかなか、言い得て妙ですね」
「あの向こう側はどうなっているの?」
「もちろん、断崖絶壁となっております」
「ええっ!?」
「ふふっ……冗談です」
人間の言葉を、嘘か真か見極めるのは難しい。
竜の子は何度も騙されて、からかわれている。
そうやって人を疑うことを教え込まれていた。
「すごい人の数!」
「ふむ。どうやら今夜はお祭りのようですね」
「お祭り?」
「豊漁を祝ったり、祈ったりする祭事ですよ」
そんな説明されて、竜の子はワクワクした。
それとは裏腹に、生贄娘は警戒心を強めた。
こうも人が集まればロクなことが起きないと。
「おっと、ごめんよ」
ドン! と、通行人と肩がぶつかって。
竜の子はその場に尻餅をついてしまった。
するとフードが取れてその正体が露わとなる。
「いたた……」
「ん? なるほど……へへっ。そういうことか」
見るとぶつかったのは街道で声をかけてきた行商のおじさんであり、全てを知った彼は。
「おーい! ここに化け物がいるぞぉ!」
「っ……若様、フードを! お早く!」
「う、うん、わかった」
大声を出されて衆目を集めるその前に、間一髪生贄娘が竜の子にフードを被せて姿を隠した。
「隠しても無駄だ! 俺はこの目で見たからな」
「気のせいではありませんか?」
「いいや、このガキは化け物だ。間違いない」
「ならば、どうするおつもりで?」
「もちろん、町の守衛に突き出してやる」
向こうが正論を唱える限り逃れられない。
故に生贄娘は、考えた。窮地の逃れ方を。
行商人とは、如何なる存在かを考慮して。
「それであなたに何の利益があるのですか?」
そう口にすると、行商人はニヤリと笑った。
行商人は何より利益を優先する人間である。
次に己の保身。優位性を確保しようとする。
「なに、悪いようにはしねぇさ」
「悪いお顔をしていますよ?」
「仕事柄、そう見えるってだけだ」
「どのようなお仕事に手を出すおつもりで?」
「そうさな……人身売買の奴隷商なんてどうだ」
「ご趣味が悪いことで。人身売買は犯罪です」
「なら、人目のつかないところでやるだけさ」
生贄娘の読み通り、行商人は利益と保身を確保するべく人目のつかない路地裏へ連れ込んだ。
「というわけで、今日からお前らは奴隷だ」
生贄娘と竜の子に行商人改め奴隷商は告げた。
「女は俺がしばらく飼って飽きたら売り払う。そして化け物は当然、見世物小屋行きだ」
まるで絵に描いたような悪どい笑みを浮かべ皮算用する人間に怯え、身を震わせて涙を浮かべながら黙り込む竜の子に生贄娘はそっと囁く。
「ほら、言った通りでしょう?」
「うん……やっぱり悪いおじさんだった」
「さて、どうしましょうか」
「どうしよう……」
「しばらく見世物小屋で過ごしてみますか?」
「そ、そんなの嫌だよ!?」
「そうですか。私もあの男に飼われるのは願い下げなので、ここはお任せくださいませ」
そう言って、生贄娘は元気よく、手を挙げた。
「はい! おトイレに行きたいです!」
「ああ? 行かせるわけねぇだろ」
「ですが、このままでは漏れてしまいます」
「勝手に漏らしてろ」
「尿によって股間がかぶれてしまっては価値が下がりますが、それでもよろしいのですか?」
「だったら、その場でしとけ馬鹿女!」
「では、遠慮なく」
生贄娘は言われた通りに素早く下着を脱いで、その場にしゃがみ込み、そして、力んだ。
ぶりゅっ!
「……おっ?」
「若様、今です!」
「ええっ!? ここで僕の出番!?」
まさか尿ではなく糞をされるとは思いも寄らず呆気に取られた奴隷商と、そして同じくその凶行に目を疑っていた竜の子は、いきなり出番を告げられ慌てて竜の爪を伸ばし、突きつけた。
「ひっ! ま、待ってくれ! 命だけは!」
「はい。命だけは助けてあげましょう」
己の身の安全と優位性を失った奴隷商はすぐさま命乞いをして、生贄娘はその要求を飲んだ。
とはいえこのまま解放するわけにはいかない。
「命が惜しくば、うつ伏せで這い蹲りなさい」
「わ、わかった! 言う通りにする!」
言われた通り従順に、その場にうつ伏せで這い蹲る奴隷商に爪を突きつけながら、竜の子はとても嫌な予感がして生贄娘に恐る恐る尋ねた。
「生贄娘、まさか……」
「このまま何もせず帰すわけにはいきません」
そう言って生贄娘は奴隷商の背に跨り、力む。
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!
「どあっ!?」
「フハッ!」
奴隷商の背に脱糞して愉悦を漏らす生贄娘。
そのあまりの凶行を直視することが出来ずに、竜の子は両手で顔を覆って、心から嘆いた。
「ああ……やっぱり、こうなった」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
人間はとても怖い生き物だ。
時に優しく、時に厳しい。
時にまともで、時にはこうして狂ってしまう。
高らかな哄笑を響かせる生贄娘の狂った嗤い声にすっかり怯えてしまった竜の子は、自らの小さなお尻の穴がキュッと絞まるのを自覚した。
「もう、いくらなんでもやりすぎだよ」
「ですが、あの方法が最善でしたので」
事を終えて、事なきを得た。もう安全だ。
糞塗れとなった奴隷商は表に出られない。
しばらくは追ってくることはないだろう。
「それでも、あんなこと……良くないよ」
「おや? 若様、お顔が赤くなってますよ?」
「あ、赤くなんてなってない!」
「お熱でもあるのでしょうか?」
そう言って額に手を当てる生贄娘にはやっぱり母の面影が感じられて、更に顔が熱くなった。
「ね、熱なんてないよ!」
「ふむふむ。ははあ……なるほど、そうですか」
「な、なにを納得しているの……?」
「さては、奴隷商が羨ましいのですね?」
「なっ!?」
「若様ったらヤキモチを焼いていらっしゃる」
「ヤキモチなんて、焼いてないもん!」
とんだ言いがかりに頬を膨らませて拗ねる竜の子の頭を生贄娘は優しく撫でて、こう諭した。
「あと少し大人になってからのお愉しみです」
そう言われると嫌でも愉しみになってしまう。
「だいぶ陽が落ちてきましたね」
「夜でもこんなに明るいなんて……」
「この出店の数からすると、お祭りの本番は夜からのようですね。おっと、噂をすれば……」
祭りで賑わう、港町の出店の数々が灯す明かりに、竜の子が目を奪われ、輝かせていると。
「うわ!」
ドン! と、大きな音が轟き、身を竦める。
次の瞬間、夜空に大きな火の花が咲いた。
それは花火であり始めて見るものだった。
「すごい……」
「来て良かったですね」
「うんっ!」
町に着いて早々に見世物小屋に売り飛ばされそうになり、一時はどうなることかと思ったが、こうして花火を見れて良かったとそう思えた。
咲いては散り。
輝いては燃え尽きて。
美しくも儚い火の花を見て、竜の子は思う。
「まるで、生命の輝きみたいだ」
「なかなか、言い得て妙ですね」
その表現には竜の子の成長が確かに感じられて、生贄娘は保護者として誇らしくなった。
「命とは儚いからこそ、美しいのです」
「でも、独り取り残されるのは悲しい」
「お父君もお母君も未だ健在でおられます」
「生贄娘は、ずっと僕の傍に居てくれる?」
「命ある限りお傍に居るのが生贄の務めです」
命ある限り。
それは嬉しくも悲しい言葉だ。
まさに花火と同じく一瞬の輝きでしかない。
だけど、それでも、せめて。
どうか、せめてと、願わずにはいられない。
「来年も、一緒に花火が見たい」
「承りました。それもまた、生贄の務めです」
花火に照らされる、生贄娘の笑顔に見惚れた。
顔が赤くなるのを自覚しながら竜の子は思う。
どうして、こんなにも、愛してくれるのかと。
「ねえ、生贄娘」
「はい、如何しましたか?」
「村に……帰りたくはないの?」
それはずっと聞けずにいた質問だった。
ドラゴンへの生贄として捧げられた娘。
切り捨てられた村に対する、その思い。
「私は竜王様への生贄です」
「でも、父上は好きにしろって」
「はい。寛大にもそう仰ってくださいました」
「だったら……」
「だから今、私は自分の好きにしています」
竜王は巣を荒らした人間への怒りを鎮めた。
そして生贄を食おうとはせず、解き放った。
だから、生贄娘はここで竜の子と共に居る。
「好きですよ、若様。お慕い申しております」
また夜空の花火が、生贄娘を美しく照らした。
「若様を慕い共に過ごすのが生贄の本懐です」
ドン! と、花火の音と共に生贄娘の好意が竜の子の心に響く。顔が熱くて胸が激しく高鳴る。
何も言えず見つめていると、流石に照れたらしく、生贄娘は赤くなった顔を堪らず逸らして。
「……ところで、花火の音はお腹に響きますね」
「……さっき出したばかりでしょ」
「こればかりは、自分ではどうにもならず」
「狙ってやってるとしか思えないよ!」
大事な場面をいつも台無しにする生贄娘に、またしても母の面影を感じつつ、げんなりした。
「がっかりさせてしまい、申し訳ありません」
「別に、今更謝る必要はないけどさ……」
「けど、なんでしょう?」
分かり切ったことを尋ねる生贄娘にねだった。
「たまには、普通に……愛して欲しい」
「ふふっ……そんな素直な若様が大好きです」
「ううっ……意地悪」
「ですが、極めて残念ながらこの物語は全年齢対象の健全なお話なので、これが精一杯です」
そっと額に接吻をされて、竜の子は気づく。
恐らく、そうねだるように誘導されたのだと。
人間は賢くて、狡猾で、欲深い生き物だ。
素直な竜の子は、格好のカモに違いあるまい。
それでも、良かった。カモでも良かった。
目の前の人間になら、構わないと思えた。
好きなようにすればいいと、身を委ねた。
「おやおや。いけませんねぇ……若様」
「へっ?」
「油断大敵。お尻の穴がガラ空きですよ」
「んあっ!?」
やられた。いつもの手口だった。
一緒の隙を突かれて、お尻を突かれた。
寸分の狂いもなく狙い定めた竜の子の幼いお尻の穴の中で、狂ったように蠢く、狂った指先。
そしてトドメとばかりに、ドン! と、お腹に響く花火の爆音によって、もはや堪えきれずに。
ぶりゅっ!
「ああっ!?」
「フハッ!」
ぶりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ~っ!
「ああっ!? あああ、あああああっ!?!!」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
竜の子が脱糞して、生贄娘もまた、脱糞しながら天空に哄笑を響かせて、花火を糞で彩った。
「ううっ……こんなの、あんまりだ」
「ああ、若様……おいたわしや」
竜の子の汚れたお尻を、恭しく拭いながら。
シクシク涙を流す、竜の子を慰める生贄娘。
お尻を拭うその手つきには愛がこもっている。
その愛をお尻で感じながら、竜の子は改めて、人間とは恐ろしい生き物だと、理解を深めた。
「はい、綺麗になりましたよ」
「……ありがと」
「ちゅっ」
「うひぃっ!?」
拭き仕上げとばかりに尻に接吻をされ思わず奇声をあげる竜の子を気にも留めず、凶行を重ね続ける生贄娘は平然と疑問を投げかけてきた。
「ところで、若様」
「今度はなにさ!」
「若様はおうちに帰りたくないのですか?」
思いも寄らぬ質問をされて、竜の子は鼻白む。
しばし考え、考えるまでもないと結論つける。
こちらを伺う生贄娘の目を見据えて、答えた。
「もう少し、生贄娘と旅を続けたい」
「理由を伺ってもよろしいですか?」
「好きだから」
わかっている癖にと、つくづく思う。
わかっているのに言わせるな、とも。
しかし、わかっていても、嬉しいらしく。
「若様に出会えて良かったです」
「僕も……そう思う」
「おかげで、生贄になれた私は今、幸せです」
生贄娘は今、幸せらしい。
生贄となって、初めは絶望しただろう。
村を襲ったドラゴンを恐れ、夜も眠れずに。
自分を犠牲にした村を、恨んだかもしれない。
それでも今が幸せならばそれで良いと思えた。
「さて、次はどこへ行きましょうか?」
「あの海の向こう側へと行ってみたい」
水平線の彼方に更なる幸せを求め、旅は続く。
【生贄娘と竜の子の旅路】
FIN
おまけ
「……少し席を外すぞ」
「いけませんよ、ドラゴンさん」
ぴしゃりと人間の妻が夫である竜王を咎めた。
「母として我が子が心配ではないのか?」
「もちろん、心配ですよ」
2人の子供が旅立って、早ひと月ほど。
父である竜王は心配で心配で堪らない。
元々、子に旅をさせようとしたのは己。
いつまでも洞窟に閉じ込めておけない。
いずれは巣立つ時が、必ずやってくる。
故にその勉強の為に心を鬼にしたのだ。
それでも、やはり、心配で堪らなかった。
「ではやはり、様子を見に……」
「ダメですってば」
「ええい! 止めてくれるな!」
「安易な手助けはあの子の為になりません」
「それが母の言うことか!」
逆ギレするドラゴンに元魔物使いの妻であり竜の子の母は深々と嘆息して、冷たく言い放つ。
「情けない」
「なっ!?」
「かの竜王ともあろうお方が、無様ですねぇ」
「ま、魔物使い……?」
「少し、落ちついてください」
取り乱す夫を抱きしめながら、妻は諭した。
「あの子はきっと大丈夫ですよ」
「だが、あの子はまだ子供で……」
「生贄娘ちゃんもついてます」
竜の妻は自分と同じ頭のおかしい匂いのする生贄娘を買っていた。脱糞好きは信用できる。
「そんなに取り乱して、いざという時にどうするのですか。竜の王ならば余裕を持ちなさい」
「……すまん」
人間使いのドラゴンとは昔のこと。
今や完全に妻の尻に敷かれる情けない夫だ。
そんなみっともない主人を、それでも魔物使いは変わらぬ愛を込めて、優しく撫で撫でした。
「大丈夫ですよ、きっとあの子は大丈夫」
「……強くなったな、魔物使い」
「ドラゴンさんは弱くなっちゃいましたね」
「ああ……そうかも、しれないな」
「その分、私が強がりますので」
「ああ……わかった」
魔物使いとて、強がっているだけだ。
本当は心配で心配で堪らない。
それを誤魔化す為にこうして夫の腹を撫でて。
「おい……手つきが怪しいぞ、魔物使い」
「ふっふっふっ……久しぶりの排便マッサージは如何ですか? もう産まれちゃいそうですか?」
「なんの、これしき……ぐあっ!?」
ぎゅるるるるるるるるるるるるるるるぅ~っ!
「フハッ!」
「くそぉ……脱糞オチ担当など認めんぞぉ!?」
「あの子の弟か妹か、どっちか愉しみですね」
「弟や妹など産んでたまるか!!」
「フハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」
子の無事を祈る、父と母は。
このように、脱糞によって。
その寂しさを紛らせていた。
【脱糞オチ担当の竜王】
FIN
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