ヤマイ「なんだその名字は……どういうことだよ」

マジメ「珍しいですよね、１は２の前の数字だから『にのまえ』なんですよ」

ヤマイ「そういうことを言ってるんじゃない」

マジメ「？」

ヤマイ「お前……一って書いてにのまえって……」

ヤマイ（かっこよすぎかよ……）ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

マジメ「寒いんですか？」

マジメ「確かにこの部屋、空調がかなり効いてますね……」

マジメ「私の上着でよければどうぞ」

ﾌｧｻ

ヤマイ「っ！？//」ﾄﾞｷｯ

ヤマイ「ち、違うよ！ そういうことじゃないし！」

マジメ「え」

ヤマイ「クソっ、何だよにのまえって……ずるいわー……」

マジメ「ずるい！？」

ヤマイ「シンプルで珍しくて読み方が洒落てて、最高かよ……！」

マジメ「は、はぁ……そうですかね？」

ヤマイ「僕なんて山本だぞ……山の本でやまもとだぞ……」

ヤマイ「いや、まあ所詮下界での仮初めの名前に過ぎないわけだが……それでもお前……山本ってお前……」

マジメ「嫌なんですか？」

ヤマイ「だって『山のふもとに住んでるから山本でいっかー』って5分くらいで安直に決めた感MAXだろうが！ 雑かよ僕の仮のご先祖！」

マジメ「仮のご先祖って単語初めて聞きました」

ヤマイ「もっと考え込めよ！ 僕ならどんなゲームでもキャラの名前は1時間くらい考えて付けるぞ！」

マジメ「もっと別のことに頭使った方がいいのでは……」

ヤマイ「でもお前5分だぞ5分！ 自分の名字に5分！ 信じられるか！？ 」

マジメ「いや5分は山本さんの想像ですよね？」

マジメ「いいじゃないですか、山本さんって名前」

マジメ「私はいい名字だと思いますよ」

ヤマイ「気休めを言うな……同情されると余計につらい」

マジメ「気休めなんかじゃ……」

ヤマイ「じゃあお前、言ってみろよ」

マジメ「え？」

ヤマイ「『山本』って名字の良いところ……十個言ってみろよ！」

マジメ「じ、十個！？」

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マジメ「そんなに嫌なんですか？　『山本さん』って名字」

ヤマイ「だって地味だし……」

マジメ「全国の山本さんが怒りますよ？　およそ100万人くらいいらっしゃるのに」

ヤマト「山本なんて地味ネーム、100万人集まろうが僕の敵じゃないな」ﾌｯ

マジメ「あなたも山本さんですけどね」

ヤマイ「くうぅ……せめて渡辺とかが良かった……欲をいえば天上院（てんじょういん）とか烏丸（からすま）とかが良かった……」

マジメ「渡辺さんにも失礼ですよそれ」

ヤマイ「どうにかならないのか賢者マジメよ」

マジメ「別に賢者じゃないですけど……」

マジメ「あ、じゃあせめて下の名前でお呼びしましょうか、美波さん」

ヤマイ「みっ……！//」

ヤマイ「い、いいよ山本で！　急に気安く呼ぶな！//」ﾌﾞﾝﾌﾞﾝ

マジメ「ええっなんで怒るんですか……」

ヤマイ「というかやっぱり『一(にのまえ)』がいいわ……くれよ」

マジメ「いや上げられませんよ……制度的に譲渡できるものじゃありませんし」

ヤマイ「じょーと？」

マジメ「あっすみません、上げたり貰ったりできるルールはないんです」

ヤマイ「なるほど……闘って奪い取る他ないということか」

マジメ「いえ全然違います」

ヤマイ「マジメ……出来ればお前とは闘いたくなかったが仕方ない」

ヤマイ「覚悟しろ！」ﾊﾞｯ

マジメ「うわっ！ 急に?みかからないでくださいよ！」ｶﾞｼｯ

ヤマイ「よーこーせー」ｸﾞｸﾞｸﾞ

マジメ「だから無理ですってば……というか」

ヤマイ「んぎぎぎ……」

マジメ(山本さん力弱っ！)

マジメ「あのー、こんなことしても意味ないですよ？」

ヤマイ「ふー……ふー……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

ヤマイ「お、おいマジメ……降参するなら今のうちだぞ？」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

ヤマイ「ぼ、僕の中のドラゴニアの血が覚醒すれば……もう一つの人格が目覚めてしまうからな……奴は凶悪すぎて僕でも制御しきれない……」ﾌﾟﾙﾌﾟﾙ

マジメ「は、はぁ……」

マジメ「？ あ、山本さん脇のところにほこりが付いてますよ」

ヤマイ「ふ、そんな初歩的なひっかけに惑わされる僕じゃないぞ！」

マジメ「本当ですって、今取りますね」

ﾂﾝ

ヤマイ「はぅっ！//」

マジメ「あ、取れました」

ヤマイ「～～！！//」ﾍﾅﾍﾅ

ヤマイ「き、貴様卑怯だぞ！」

マジメ「えっ何がですか？」

ヤマイ「反則だ！ 反則負けだ！」

マジメ「何のルール違反ですか……」

ヤマイ「罰としてあれだ……名字没収だ」

マジメ「ですからできないんですってば」

マジメ「というか不便なことも多いんですよ？ この名字って」

マジメ「初対面だとまず読み間違えられますし、『一』ってただの横線に見えるから持ち物に名前書いてても間違われて持っていかれることがたまにありますし」

マジメ「山本さんが言うほど良いものではないかと」

ヤマイ「お、お前……そんな恵まれた名字に対して何て言い草だ」

ヤマイ「もっと自分の名字を愛してやれよ！」ﾄﾞﾝｯ

マジメ「そのまま返しますよ山本さん」

マジメ「まあ良いところを一つ挙げるとすれば、テストの時に速く名前を書けるということですかね」

ヤマイ「そうだろうそうだろう」

ヤマイ「僕なんて名字が山本のせいで3つ赤点を取ってしまったからな、今回のテスト」ﾋﾟﾗ

マジメ「いや名字のせいでは……3つも！？」

マジメ「数A4点、数Ⅰ8点、英文法6点……これは酷い」

マジメ「ん？ というかこのテスト、裏に落書きしまくってるじゃないですか！ 名字の時間差丸っきり無関係じゃないですか！」

ヤマイ「落書きじゃない、必殺技の名前を考えてたんだ」

マジメ「休み時間にやりましょうよ……」

ヤマイ「お前もワセダと同じことを言うのだな……」

マジメ「誰だってそう言いますよ……」

マジメ「というか追試の勉強はいいんですか？」

ヤマイ「問題ない、今宵から月が3度死んだ日……それが闘いの刻(とき)だ」

マジメ「3日後！？ 問題大ありですよ！」

マジメ「追試で落ちたらどうなるんです？」

ヤマイ「時空の歪みに囚われる……灼熱に焦がされながらも闘いの日が続くことになるだろう」

マジメ「……」

マジメ「夏休み中に補習、ですか？」

ヤマイ「俗っぽく言うとそうなる」

マジメ(普通に言えばいいのに……)

マジメ「じゃあこんなことしてる時間は無いですよ！ 勉強しましょう！ 私も手伝うので！」

ヤマイ「そ、そうか？」

マジメ「ええ！ まずは何から始めましょう？」

ヤマイ「そうだな……じゃあまずはマジメ、お前の名字をよこせ」

マジメ「時間無いって言いましたよね？」

ヤマイ「ああ、だから速やかによこせ」

マジメ「速やかによこせませんよ」

ヤマイ「何故だ！」

マジメ「だから制度的に譲渡できるものでは……って堂々巡りですかこれ？」

マジメ「分かりましたよ、名字問題が解決しない限り勉強も手に付かないようですし、真剣に考えましょう」

ヤマイ「うむ」

マジメ「お譲りすることはできませんが名字を変える方法はなくはないかと思います」ﾀﾌﾟﾀﾌﾟ

ヤマイ「本当か！？」

マジメ「……なるほど、一応家庭裁判所の許可が出れば名字の変更はできるみたいですね」

マジメ「ただし『その名字であることで生活に支障が出る』くらいの深刻な理由がないと認められないようです」

マジメ「『大楢（おおなら）』さんが『おなら』と響きが似ていてからかわれるから変更したい、とか」

マジメ「『大工（だいく）』さんが職業が大工だと間違われるから変更したい、とか」

マジメ「そのような理由での変更許可事例はあるようです」

ヤマイ「山本は？」

マジメ「まあ無理じゃないかと」

ヤマイ「ぐぬぬ」

マジメ「あとは『一（にのまえ）』姓の人と結婚するか、養子縁組という手もありますが」

マジメ「まあ一番現実的なのは結婚でしょうね」

ヤマイ「け、結婚！？」

マジメ「そりゃあ名字が変わる一番よくあるパターンですからね」

ヤマイ「そ、そんな急に言われても困る……僕にはドラゴニア王国のリアーナ姫という忠誠を誓った相手が……！//」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

マジメ「なんで赤くなってるんですか？」

ヤマイ「じゃ、じゃあ……僕とマジメが結婚するのが『一（にのまえ）』姓になる一番現実的な方法なのか？」

マジメ「えっ、私と山本さんが結婚？」

ヤマイ「えっ、そう言う話だろ？」

マジメ「えっと……その場合は同性結婚になるので日本では無理です」

ヤマイ「無理なの！？」

マジメ「法的に認められてませんから」

ヤマイ「くっ……なんてこった……」

マジメ「そんなに残念がらなくても……」

マジメ「まあどうしてもというなら同性結婚が認められている国、例えばイギリスとか……」

マジメ「私と山本さんがイギリス国籍を取ってからそこで結婚することで……」ﾀﾌﾟﾀﾌﾟ

ヤマイ「イギリスで結婚……」ﾄﾞｷﾄﾞｷ

マジメ「いえ、ちょっと待ってください！」ｶﾞﾀｯ

ヤマイ「？」

マジメ「この法制度なら……イギリス国籍さえ取ってしまえば……その方法は……なるほど……」ﾀﾌﾟﾀﾌﾟ

マジメ「朗報です山本さん、『一（にのまえ）』姓に変えられますよ！」

ヤマイ「本当か！？」

マジメ「調べてみるとイギリスでは届け出さえすれば自由に氏名の変更は認められるそうです！ 独身でも！」

ヤマイ「え、独身でも？」

マジメ「ええ、ですのでまずはイギリスに移住してください」

ヤマイ「え、移住？」

マジメ「そして5年以上継続して生活してください」

ヤマイ「5年……」

マジメ「すると永住権取得申請の権利を獲得できるのでそれで永住権を得た後、英語能力とイギリスに関する知識の試験を受け、それに合格すれば国籍取得の申請を行う権利が手に入ります、そして申請後に国によるもろもろの検査を無事通れば晴れてイギリス国民です！」

ヤマイ「ああ……」

マジメ「イギリス国民になってしまけば後は簡単です、書類一枚で簡単に名字の変更ができますよ！」

ヤマイ「ああ……」

マジメ「『一（にのまえ）』以外にも『天上院（てんじょういん）』『烏丸（からすま）』他にも『小鳥遊（たかなし）』『四月一日（わたぬき）』など山本さんが好きそうな名字よりどりみどりです！　ただし英語圏なので漢字では登録できませんが！」

ヤマイ「……」

マジメ「そうと決まればやはり勉強です！　英語の勉強！　さあ目指せイギリスです！」ｸﾞｯ

ヤマイ「……」

ヤマイ「……」

マジメ「……？　山本さん？」


ヤマイ「やっぱ僕、山本でいいや……」

マジメ「えっ……」

ヤマイ「帰るわ……」

マジメ「えぇ……」


追試は落ちた


ＥＮＤ

おまけ

ヤマイ「『鷺宮(さぎのみや)』もいいよな……響きといい字面といい」

マジメ「それには全面的に同意です……！」ｸﾞｯ

ロボ「？」

終わり