【モバマス】ライラ「蒸機公園」【蒸機公演】 (12)

アイドルマスターシンデレラガールズ内イベント、蒸機公演クロックワークメモリーの二次創作です。
この世界にライラさんと晶葉さん、つまりロボフレンズがいたらどうなるだろうかと妄想したものです。
時系列はヤスハたちが来る少し前ぐらい。

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「ーーねえ、公園って知ってる?」
「ーーしらなーい」
「ーートモお姉ちゃんがこの前教えてくれたんだけど……」

 遍く蒸気が全てを支配する世界、蒸気都市。
 かつて地上で暮らしていたことを忘れた人類は蒸気に管理され"平和"に暮らしている。
 しかしどんな世界にも完璧というものは存在せず、この蒸気世界も例外ではない。
 ここは蒸気世界最下層、クズ鉄エリア。蒸気の支配を逃れたものたちが辿りつく果ての果て。天井を覆うツギハギだらけのダクト、ひび割れたコンクーリトの地面。
 ただ、どんな場所であってもそこに人々がいる限り社会は存在する。酒屋もあれば踊り子も商人も、決して出回る物資は多くないが皆が協力しながら日々生活をしている。
 そんな最下層クズ鉄エリアに時折流れる”公園”の噂。

 そんな出処不明の噂が突如としてクズ鉄エリアに広まったのだ。

 所詮噂といえば噂。だがこのクズ鉄エリアにとって噂は重要な情報源である。

 この世界の"平和"を保つ為の手先、エンフォーサー。ならずものばかり集まる下層には大量のエンフォーサーがそのセンサーを市民へと光らせている。
 
外部媒体に記憶を残すと漏出のリスクがある、その為個々の頭の中にのみ情報をインプットし、エンフォーサーの目をかいくぐって人づてに情報を拡散させるのだ。

 そんな噂が拡散されると、クズ鉄エリアは姿を変えた。エンフォーサーに気取られないように少しづつ。

 まず、自称預言者の少女は住民にのみ伝わる符号を演説の中に混ぜ情報の拡散を助長する。このときばかりは演説に足を止める者も多くなって、預言者にとっては少し複雑な気持ちだ。しかし本人も公園を楽しみにしているので気にはしていない。

 そうして情報が広がるとレジスタンスの活動が沈静化する。毎日のようにエンフォーサーとの小競り合いを繰り広げいる彼らも公園の為、怪しまれないよう少しずつ戦闘を減らし物資の貯蓄に専念する。

 同じように市民も物資の貯蓄を始めると、そこに目をつけた商会が、これまた怪しまれないよう少しずつ仕入れを増やし流通させる。商会長は需要が増えたから供給を増やすだけだとクールに振舞っているが、彼女もこのイベントに一役買いたいのだ。

 そしてクズ鉄エリアの全員が、決行の日を待ちわびながら当日の予定を、公園で何をすることについて相談する。

 気取られないように、しかし着実に計画は進行していく。

 蒸気も寝静まった夜時間。そんな暗闇の中、裏路地を歩く白衣の少女が一人。

 普段はギャングの縄張りのジャンクヤード、しかし白衣の少女はその見張りを顔パスで通って行く。白衣の少女は慣れた様子で複雑に絡み合った裏路地を歩き、そして立ち止まった。

 その目に映るのは瓦礫と鉄クズの山でできた一角。

 数ヶ月前のエンフォーサーとの戦闘で大破し放棄されたレジスタンスの拠点だった区画の一つ。いまではギャングの縄張りとなり、誰も近づく者はいない。

 しかし、大破したとはいえ元はレジスタンスのねぐら。つまりは隠れやすく動きやすい理想の立地。

 白衣の少女は瓦礫の山を見つめて、何かを考えるように目を閉じた。しばらくウンウンと唸りながら、また来た路地へと引き返していった。

 噂の公園の日。

 ある住民は日課の散歩に行くふりをして、ある住民は朝ごはんを買いに行くふりをして、噂されている場所へと向かう。

 噂されていた場所へはギャングの縄張りを通らねばならないが、今日ばかりはギャングも見て見ぬふり。

 ゆえに噂が真実であると確信した住民たちは、はやる気持ちを抑えて歩みを進める。

 瓦礫ばかりの区画にぽっかりと穴が空いたみたいに綺麗な空間が現れる。

 積もり積もった、そこにあったはずの瓦礫は綺麗に片付けられ、その上に貴重な資源であるはずの土が敷き詰められている。

 ブランコに鉄棒、ジャングルジムと言った遊具-なぜかどれもうさ耳が付いている-の他に、幾つかのベンチが設置されており、ベンチの横には木を模したロボまで植えられている。

 子供たちは広々とした空間のなかで遊びまわっている。

 本が好きなものは、普段なら家の中でしか読めない前世紀の本を広げている。

 料理が好きなものは、それぞれ持ち寄ったお弁当を広げておかずの交換をしている。

 冒険が好きなものは、くまなく公園を探索している。

 機械いじりがすきなものは、協力して新たな装置を作り上げている。

 皆の前で話すのが好きなものは、彼女の好きな青い鳥の話を大勢に聞かせている。

 沢山の人達が、笑顔でおしゃべりをしている。

 全員が、幸せそうである。

 ここにたどり着いた者は、各々のやり方で公園を満喫し、そしてエンフォーサーに怪しまれないように普段の生活に戻り、また新たな者が公園を満喫する。
 
 そんな風に、刻一刻と入れ替わる人々の中に唯一変わらない者がいる。

 青い目をした不思議な少女。

 ベンチに座って、公園を訪れた者とおしゃべりをしている彼女だけがこの公園で不変なのだ。

 夜時間になり、公園にいるのは青い目の少女ただ一人になる。

 ベンチに座り足をぷらぷらさせていると、彼女の待ち人が現れる、白衣を着たツインテールの少女。

 青い目の少女は白衣の少女と少しだけ言葉をかわすと、ベンチから立ち上がり公園にぺこりと頭を下げ、真っ暗な裏路地へと消えていった。

 朝になると公園はなくなっていた。まるで昨日のことが夢のだったかのように、一面の瓦礫の山。

「ただいま。なんだライラ、まだ起きていたのか」

「おかえりなさいです。アキハさん、お腹すくだろうと思ったのでご飯作っておきましたです」

 蒸気都市下層に住む二人の少女。

 青い目をした少女の名はライラ、夢を叶えるために家出して上層から下層に落てきた少女。

 白衣を着た少女の名はアキハ、ロボという異端の技術のせいで管理機構から目を着けられ下層へ降りてきた少女。

「ありがたい、公園の設置と回収はウサちゃんロボに手伝ってもらったとはいえ大変だった」

「ありがとうございましたです。アキハさんがいなければライラさんの夢は叶わなかったですねー」

 ライラの夢は公園の再現であった。

 上層に住んでいた頃、屋敷にある古い古い倉庫の中で読んだ前世紀の本。

 そこに書いてあった公園にライラは心打たれたのだ。

「いや、私は実行しただけだ。ライラが実行できるところまで根回しをしてくれたお陰だ」

 もちろん、こんな都市全体を騙すようなプロジェクトをたった二人の少女で完遂できるわけがない。

 ゆえに沢山の協力をライラは下層の人々と取り付けた。

 特に商会長のツカサとレジスタンスのナオ、そして預言者のトモにはかなり世話になったようだ。

 だが、たった一人の少女の願い。人々を笑顔にしたいという願いが、下層全体を動かしたのだ。

「……それで、公園はどうだった、ライラ」

「夢のような時間でございました」


ーーーーーーーー

「ねえママ、今日も公園連れて行って!!」

「仕方ないわね、ご飯ちゃんと食べられたら連れてってあげる」

 蒸気世界から希望の種が飛び出して早数千年。

 今日も蒸気都市を知らない人々が、地上での暮らしを満喫している。

 ヤスハという少女によって蒔かれた種がこの地上を覆い尽し、それに続くようにたくさんの人々が地上を目指した結果だ。

「ねえ、なんでそんなに公園が好きなの?」

「えーとね、公園で遊んでいるとなんだか胸がポカポカするの!」

「ふふ、きっと公園のアイドルさんが見守ってくれているのね」

「公園のアイドルさん……?」

「公園にある銅像、見たことあるでしょ?」

「うん! あの綺麗なおねーちゃんでしょ?」

「そうそう。これはね古い古いお話なんだけどね。人間がまだ地下で暮らしてたころーー」

 彼女は今も公園を見守り続けています。

以上です。html化依頼出してきます。
最初改行忘れてた。

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