【BLEACH×ロンパV3】キーボ 「砕かれた先にある世界」【前編】 (542)




このSSは、キーボ 「砕かれた先にある世界」【BLEACH】【ロンパV3】

大まかな話の内容は修正前と同じですが、細かい部分が変わってたりします。

構成としては、主に前編・後編に分かれており、このスレでは前編を投下します。

BLEACHとニューダンガンロンパV3のネタバレ及び独自解釈や独自設定があるので、注意をお願いします。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1568030950




ー尸魂界・流魂街ー



キーボ「………」




ガヤガヤ……ワイワイ……




キーボ「…………」




ガヤガヤ……ワイワイ……




キーボ「……なんなんですか、ここは?」






キーボ(……落ち着きましょう。まずは現状の把握からです)




ガヤガヤッ……ザワッ……




キーボ(……周囲の建造物や人の服装から見るに、ここは平安もしくは江戸時代の日本を再現したテーマパークか何かでしょうか?)




ザワザワッ……




キーボ(……ですが、なぜ、そのようなところに、ボクがいるのでしょう)




ヒソヒソッ……ヒソヒソ……




キーボ(そもそも、ボクは確かーーーー)







「……あれれ? そこにいるの、ひょっとして、キーボ?」




キーボ「………っ、!?」




「……うん、キーボ君で間違いなさそうだネ」




キーボ「!??」




キーボ「……え? え? え?」




キーボ「ち、ちょっと待ってください! まさかキミ達はーーーー」






アンジー(和服ver)「キーボ! 久しぶりー!」ダキッ

キーボ「アンジーさん!?」



真宮寺(和服ver)「……まさか、ここで、それも君と再会することになるとはネ……」



キーボ「真宮寺クン!?」



アンジー「……うんうん! このゴテゴテヒヤヒヤした鉄のカラダと服ーーーやっぱり、キーボだー!」ナデナデ






キーボ(……ま、間違いない! 服装は浴衣のような着物に変わっているもののーーー紛れもなくボクの知るアンジーさんと真宮寺クン!)




キーボ「……で、ですが、どうして、キミ達が……!?」



アンジー「………」

真宮寺「………」



キーボ「キミ達は、何日以上も前に、既に……!」





真宮寺「……それはーーー」



アンジー「……あのよー、あの世ー、ここが死後の世界だからなのだー!」



キーボ「……し、死後の世界!?」



真宮寺「……そういうことになるネ」



アンジー「………」



真宮寺「……ようこそ、尸魂界(ソウル・ソサエティ)へ」





キーボ「……そ、ソウル・ソサエティ?」

真宮寺「この死後の世界は、そう呼ばれているヨ」

キーボ「……そ、そもそも、死後の世界だなんて、そんなーーー」

真宮寺「そうでもなければ、僕達が再会するなんてあり得ない話だと思うけどネ」

真宮寺「というか、君もここに来ている以上、死後の世界に来る心当たりくらいあるんじゃないかな?」

キーボ「……あっ、いや、それは……」

真宮寺「……それが、ここが死後の世界であるという証拠だヨ」

キーボ「っ、」





アンジー「……ところでー、キーボ、整理券はー?」

キーボ「……はい?」

アンジー「だからー、しにがみから貰った整理券はー、どこー?」

キーボ「……死神? 整理券? アンジーさんは何を言っているんですか?」



真宮寺「……一応確認しておくけど、君は死神から何も説明を受けていないーーー」



真宮寺「ーーーそういうことで、良いのかな?」





キーボ「……いや、説明も何もボクは気づいたらここにいてーーーそれに、死神って、いったい何の話をーーー」

真宮寺「……仕方がないネ。代わりに僕から説明させて貰うとするヨ」

キーボ「えっ、?」

真宮寺「本来なら死神に任せる話ではあるけれど、君には借りがあるし……それに君が死神と接触するとややこしくなりそうだからネ」

キーボ「はっ、? いや、でも……」

アンジー「キーボ? ここは、是清の言う通りにするべきだよー? 神さまもきっとそう言ってるよー?」

キーボ「あっ、えっと、その……」

アンジー「とりあえず、家までレッツゴーだよー!」

真宮寺「そうだネ。それにこの流魂街(ルコンがい)だと君は目立つし、こっちに来た方が良いヨ」

キーボ「うっ、あっーーーー」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー






ー流魂街・志波家の屋敷ー



スタスタ……



キーボ(……言われるがまま、引かれるがままについてきてしまいました……)


真宮寺「………」



アンジー「えっほー、ほいさー」トテトテ



ガチャッ……ギイイッ……



キーボ「……どこなんですか、ここは? 屋敷の地下のようですが」

真宮寺「……ここは、【志波家】の屋敷。僕と夜長さんが世話になっているところだヨ」バタンッ

キーボ「志波家? 世話?」

アンジー「そうだよー! アンジーと是清は、この家に居候させて貰っているのだー!」





キーボ「……えっ……」

真宮寺「………」

アンジー「……どうしたー、キーボ?」

キーボ「……あっ、いや、その……」



アンジー「………」







キーボ「……平気、なんですか?」






アンジー「……にゃはははー、大丈夫だよー」



キーボ「………」



真宮寺「………」



アンジー「……ここは、死後の世界なんだよー?」

アンジー「…… “ もう意味はない ” 、そうでしょー?」



キーボ「……それは、そうですがーーー」



真宮寺「……それに、この世界の住民から聞いたのサ」






キーボ「……何をですか?」

真宮寺「僕が執心していた “ あの人 ” のことを……」



キーボ「……その人が、どうかしたんですか?」



真宮寺「…… “ あの人 ” は、とうの昔に生まれ変わっていたそうだヨ」



キーボ「………!?!」



真宮寺「……あれは、幻だった」

真宮寺「そういうこと、だったんだろうネ……」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「今では何も、聞こえはしないヨ……」






真宮寺「……たとえ、このマスクの、チャックを開いたとしてもーーー」スッ



キーボ「………」



真宮寺「ーーーもはや何も、聞こえはしないんだヨ」





キーボ(…… “ あの人 ” は、実在していた?)


キーボ(……いや、絶対に、あり得ない話とは言いきれませんね)


キーボ(そう、“ 元々 ” 有していた血縁関係ーーー)




真宮寺「………」




キーボ(ーーーそうです。 “ 元々 ” 有していた血縁関係だとすれば、あり得ない話ではない……)






アンジー「ーーーとにかく、もう大丈夫だからー」

キーボ「……ですがーーー」

アンジー「ーーーそれに、何かあったら、空鶴(くうかく)と岩鷲(ガンジュ)達が黙ってないからねー!」

キーボ「……?」

キーボ「それは、ひょっとして、人の名前ですか?」

真宮寺「……そうだネ。この屋敷の主とその弟さんの名前だヨ」

キーボ「………」

真宮寺「もし、妙な真似をすれば、彼女達が黙っていない」

真宮寺「彼女達は抑止力……その力の前では、何もできない……」






キーボ「………」



真宮寺「……それに、そんなに心配なら、君の目で確かめて見れば良いんじゃないかな?」

真宮寺「空鶴さん達が帰ってきた、その時に」

真宮寺「抑止力になり得るかどうかを」



キーボ「……そうですね」

キーボ「……とりあえず、今は、ボクがキミを見ていることにしますよ」



真宮寺「……うん、それがいいネ……」



アンジー「………」






真宮寺「ーーーそれで話を戻すけど、僕達のいるこの部屋は、志波家の屋敷の一室、僕の部屋として使わせて貰っている空間サ」

キーボ「………」

真宮寺「……キーボ君、いろいろと混乱しているとは思うけど、まずは僕達のいるこの世界が死後の世界であるということーーー」



真宮寺「ーーーそのことを、しっかりと受け入れて貰うヨ」



キーボ「……死後の世界……」

真宮寺「そう、この世界は、尸魂界と言ってネ。紛れもない、正真正銘の、死後の世界なんだヨ」

キーボ「………」

真宮寺「現世……あァ、僕達がいた世界のことだけどーーーそこで死んだ人の魂が尸魂界に送られてくるのサ」

アンジー「一部を除いてねー!」



キーボ「……にわかには信じがたい話ですがーーーこうして、お二人と会ってしまうと、信じざるを得ませんね」






アンジー「……アンジーねー! キーボには、本当にビックリしたよー!」

キーボ「……ビックリですか」

真宮寺「まァ、回覧板を渡しに行ったら、帰り際に生前の知り合いと……それもキーボ君と再会したわけだからネ……」

アンジー「本当の本当にビックリー!」

アンジー「どわー、って! おわー、って!」

キーボ「いや、そんなリアクションはしていなかったはずですが」

真宮寺「……夜長さんの反応はともかく、機械文明の産物が死後の世界に迎えられるという事実ーーー」







真宮寺「ーーーそれには、僕としても、驚愕せざるを得ないヨ」






キーボ「……死後の世界でもロボット差別を受けるとは……そっちの方が驚きですよ」

真宮寺「……ンー、差別する意図はなかったんだけどネ」

キーボ「どういう意味ですか?」

真宮寺「君は機械文明の産物でありながら、死後の世界に逝けるだけの器……魂魄を持っていた」

真宮寺「それだけ人に近いロボットもそうはいない。むしろ貴重な存在であることを誇るべきだと思うヨ」



アンジー「……うんうん! 是清の言う通りだよー、キーボ!」

キーボ「アンジーさん……」

アンジー「キーボは、『人』に近い、『すごいもの』だった……」

アンジー「……もっと、そのことを喜んでも罰は当たらないよー! にゃはははー!」



キーボ「………」



真宮寺「ーーーそう、君は尸魂界の迷いを振り切って、こうしてやってくることができた存在だ」



真宮寺「それは、充分に誇るに値することだと思うヨ」






キーボ「……はい?」



アンジー「………」



キーボ「迷う?」



真宮寺「………」



キーボ「それは、どういう意味ですか?」






真宮寺「……それを話す前に、一応確認しておくけどサ」

真宮寺「さっき会ったばかりの君の発言から推測するにーーー君の認識では、僕達と何ヶ月かぶりに再会したわけではない……」



真宮寺「……そうだよネ?」



キーボ「? え、ええ……そうですけど……?」



キーボ「それが、何かーーー」



アンジー「うーん、不思議ミラクルだねー?」



アンジー「……アンジーたちは、二ヶ月ぶり、なのにー!」






キーボ「ーーーなっ、二ヶ月!?」

真宮寺「そう、今日は、夜長さんと僕が尸魂界に来てから約二ヶ月となる」

真宮寺「その時に、君は来たんだ」

キーボ「そんな……あれから二ヶ月も経っているはずが……」

真宮寺「でも、実際に二ヶ月という時間が経過している」

真宮寺「それは確かな事実だ」

キーボ「……!」

真宮寺「そして、君はこの世界の管理者から、この世界の説明を受けていない」

真宮寺「つまり、夜長さんと僕のように、魂魄を説明会場に送られたわけではないことになる」

真宮寺「……事実として、君の認識では、死んだ後は、さっきのあの場所に直接魂魄を送られたんでしョ?」

真宮寺「気づいた時には、さっきの、あの場所にいたんだよネ?」



キーボ「………」



アンジー「なんでだろー? なんでだろー?」






真宮寺「……死後の世界も迷っていた、ということなんだろうネ」

真宮寺「キーボ君を受け入れるべきかどうかを」



キーボ「………」



真宮寺「だから、魂魄の移動に時間がかかり、死者が住む街にいきなり送られることになった」

真宮寺「そうした不具合が起きてしまったんだろうネ」






キーボ「……世界が迷うだなんて、そんなことがあり得るんですか?」

真宮寺「……世界が、ある意味での生物だとすれば、あり得ない話ではないと思うヨ」

真宮寺「生物の免疫機能が、受け入れても良い菌と悪い菌の判断に迷うなんて、よく言われる話だからネ」

キーボ「ちょっと! ボクを菌と一緒にしないでください!」

真宮寺「……ごめんネ。菌は生物と無機物の中間って言うから、つい、ネ……」

キーボ「王馬クンみたいなこと言わないでください! 流石にロボット差別でーーー」







キーボ「ーーーえっ、?」






真宮寺「……どうしたんだい、キーボ君? 急に止まってしまって?」

アンジー「ひょっとしてー、ガソリンが切れちゃったりー?」

キーボ「……違いますよ! そもそもボクのエネルギー源はガソリンじゃありません!」

キーボ「ーーーって、そんなことより、ここが死後の世界ってことはーーー」







キーボ「ーーー王馬クン達、他のみなさんもいるんですか!?」





真宮寺「………」



アンジー「……そうだねー。キーボの言う通りだよー」



キーボ「!?」



アンジー「……いるのは、小吉だけじゃないよー?」



アンジー「蘭太郎も、転子も、解斗も、ゴン太も、楓も、斬美も、竜馬も、美兎もーーー」



アンジー「ーーーみんな、尸魂界(こっち)にーーー」



キーボ「どこですか!?」



アンジー「えっ、?」



キーボ「みなさんは、どこにいるんですか!?」






真宮寺「……キーボ君?」

キーボ「教えてください、二人とも! キミ達も含めて、みなさんには、早急にお伝えしなければならないことがーーー」

アンジー「……伝えなきゃいけないことって、どんなことー?」

キーボ「……!」

真宮寺「……まずは、それを、一番最初に僕らに教えてくれないかな? でないと、他の人にも、すぐに伝えるべきかどうか判断できないヨ」

キーボ「あっ…? いや、でもーーー」

アンジー「キーボ? まずはアンジー達に教えてー?」

アンジー「……ショックな話だったらー、最初に知る人は少ない方が良いと思うよー?」



キーボ「……!!」



真宮寺「……そういうわけで、教えてくれるかな、キーボ君」



真宮寺「君が知っていることについて」






キーボ「……わかりました。お教えします」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「実はーーーー」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー






キーボ「ーーーということなんです」

アンジー「……なるなるー、よくわかったよー!」

真宮寺「それが、君の知っていることなんだネ……」

キーボ「ええ、まあ……」

キーボ「……なぜ、ボク達、【超高校級が集められて】【コロシアイをさせられたのか】まではわかりませんでしたがーーー」



キーボ「ーーー【黒幕を突き止め】【全て終わらせました】」



キーボ「それは、確かな事実です」



アンジー「………」



キーボ「……ボクはこの話を今すぐ赤松さん達に伝えるべきだと思います」



キーボ「そうでないと、赤松さん達はーーー」



真宮寺「ーーーその必要はないヨ」






キーボ「え?」

真宮寺「今すぐ赤松さん達に伝える必要はないヨ」

キーボ「はっ? いや、でもーーー」

真宮寺「というか、君の語ったことは、赤松さん達としても大体検討のついていることだからネ」

キーボ「!?」

キーボ「それは、どういうことですか?」

アンジー「……実はねー、見てたんだよー」

キーボ「……見ていた?」

真宮寺「そう、『彼』が殺された時……魂魄が肉体から抜け出た瞬間ーーー」



真宮寺「ーーー【誰が】【どの部屋に入っていったのか】をネ……」



キーボ「………!!?」






真宮寺「そして、その後、どんな理不尽が起きたかは僕達も知っての通り……」

真宮寺「つまりは、そういうことだったんだろうネ……」

アンジー「だからねー? キーボがいま言ったことについては、みんな大体わかってるんだー」

真宮寺「【ずっと前から何度もコロシアイが起きていた】という話も、『彼』の証言から、ある程度は検討のついていたことーーー」



アンジー「ーーー【黒幕を突き止め】【全て終わらせた】っていうのは、今ここで、初めて知ったことだけどーーー」



キーボ「………!??」



アンジー「ーーーみんな、いつかそうなるってことは、信じてるからねー」

アンジー「だから、急いで伝えるような話でもないしー」

アンジー「……キーボの知ってること、すぐに伝える必要はないと思うよー?」



キーボ「………」






キーボ「……しかし、裏付けとなる証言は早めに知っておいた方が良いのではないでしょうか?」

キーボ「でなければ……同じく死んだ、あの人でなしが、赤松さん達のところに向かって、口八丁で騙して混乱させてくる可能性だって出てきます」

キーボ「ここが死後の世界である以上、あの人でなしに何かされる可能性はゼロではありません」

キーボ「ならば、早めにボクの証言を伝えた方がーーー」



真宮寺「その必要もないヨ」



キーボ「……それは、なぜでしょうか?」



真宮寺「……君の語ったことが真実なのであれば、君が恐れているような事態には絶対にならないからサ」



キーボ「?」



アンジー「さっき、アンジーは言ったよねー?」



アンジー「一部を除いて、って」






キーボ「……一部を除いて?」



真宮寺「……そう、現世で死を迎えたとしても、全ての魂魄が尸魂界に送られるわけじゃないんだ」



真宮寺「生前、非道な行為に手を染めた者は、地獄に送られる決まりだからネ」



キーボ「………」












キーボ「……えっ、?」











真宮寺「……何かな?」

キーボ「……あっ、いや、その……」

アンジー「………」

真宮寺「……このことで何か気になることがあるなら、言ったらどうだい? いつだって受け付けるヨ?」



キーボ「……いえ……」



キーボ「……もう、 “ 意味はない ” んでしょう……?」



真宮寺「………」



キーボ「なら、地獄に送る必要もない……」



キーボ「そういう……こと、なんでしょう……」



アンジー「………」






真宮寺「……話を戻すけど、生前、非道な行為に手を染めた者は、基本的に地獄に送られる決まりになっている」

真宮寺「少なくとも……【その時代の現世】【罪を犯した場所に定着した倫理から見て】【あまりにも非道な行為に手を染め】【人を大きく傷つけ】ーーー」



真宮寺「ーーー【そうした罪を、罪とも思わず】【死後の世界でも非道を繰り返し行う気があるような者】ならば、間違いなく地獄に送られるという話だ」



キーボ「………」



真宮寺「そういう者は、 “ 地獄の鎖 ” に囚われ続けーーー」



真宮寺「ーーー “ クシャナーダ ” と呼ばれる地獄の管理者の手によって、責め苦を受け続けることになるのサ」



アンジー「………」



真宮寺「 “ 人でなし ” は地獄に送られる」

真宮寺「 “ 人でなし ” である限り、地獄から解放されることはない」

真宮寺「だから、赤松さん達が騙されてーーーなんてことには絶対にならないヨ」



キーボ「……なるほど、よくわかりました」






キーボ「ーーーただ、真宮寺クン達の話で気になったことが二つあります」

真宮寺「……何かな?」

アンジー「なーにー? キーボ?」

キーボ「……まず、一つ目に気になったことですがーーー」



キーボ「ーーーキミ達は、なぜボク達、【超高校級が集められて】【コロシアイをさせられたのか】についてーーー」



キーボ「ーーーこの死後の世界から、何か突き止めることはできたのでしょうか?」



キーボ「もし、そうなら、どうか教えて貰いたいのですがーーー」



真宮寺「……いや、残念ながら、何もわかっていないままだヨ」

アンジー「……神さまも、きっとよくわかんないってー」






キーボ「……一応確認しておきますけど、この……ソウル・ソサエティにいる他の住民に対して、聞き込みはしていないんですか?」

真宮寺「……しているヨ」

真宮寺「……現在も過去も、僕達が巻き込まれた案件に関して何か突き止められることはないか、定期的な聞き込みは行っている」



真宮寺「 “ 現世で生き残ったみんながどうなったか? ” なども含めてネ」



キーボ「……それは、キミ達よりも前に亡くなられた方に対してだけですか?」

アンジー「いやいやー? そんなことはないよー?」

真宮寺「夜長さんの言う通りだヨ」

真宮寺「僕達は、僕達よりも……それこそ今日から見て何日か前に亡くなって、新しく尸魂界に来た人達にだってーーー定期的な聞き込みを続けている」

アンジー「……今日から一ヶ月前の人でも、十日前の人でも、三日前の人でも、新しい人が来るたびに、聞き込みしてーーー」



アンジー「ーーーおとといだって、そうしてたからねー?」



キーボ「……そうでしたか」






キーボ「………」






キーボ「…………」









キーボ「………………」






キーボ(……なるほど)


キーボ(どうやら、この死後の世界でも、『世界の管理者』が存在し、世界に住まう人々の記憶を操作しているーーー)




キーボ(ーーーそう、考えて、間違いなさそうですね)




キーボ(……この世界が、死後の世界ならば、そこにいるアンジーさん達が何も知らないままでいる……という状況が成立するはずがない)


キーボ(あれから二ヶ月も経過したというのならば、尚更です)


キーボ( “ あの事実 ” を考慮すれば、そのような状況が、成立するはずがないのです)


キーボ(この世界に、ボクやアンジーさん達以外の人がいないなら話は別ですがーーーボク達以外にも人は存在するようですからね……)


キーボ(その条件下で、アンジーさん達が何も知らないままでいる……という状況など、 “ あの事実 ” を考慮すれば、成立するはずがないのです。普通ならば)






キーボ(……ならば、どうして、このような状況が成立しているのか?)


キーボ(……アンジーさん達が、ボクに真相を隠しているということはないでしょう)


キーボ(真相を知っているのならば、ボクに隠したところで意味がないことは知っているはずですからね)


キーボ(さっきボクが、とっさに誤魔化した時だって、もっと追求するようなことを言ったはず)


キーボ(それでも、今の状況が成立する理由があるとすればーーー)




キーボ(ーーーこの死後の世界に来た者達は、生前の倫理観をもって死後の世界を混乱させないようーーー)




キーボ(ーーー『世界の管理者』から、ある程度の記憶操作を受けていると考える他ない)






キーボ(アンジーさん達とボクの記憶に食い違いがないところを見るに、個人レベルの倫理観ならば内容はどうあれ、いちいち記憶操作は受けないようですがーーー)




キーボ(ーーー民衆レベルで溶け込んだ倫理観は、それも偏ったものは、記憶操作の対象となる可能性は極めて高い)




キーボ(ボク達のように民衆から “ 外れた ” 存在とは異なる、ごくごく普通の民衆である他の死者達ーーー)


キーボ(ーーーすなわちボクがここに来た時に見た人々などは、きっと記憶操作を受けている)


キーボ(おそらくは、あの、 “ 人でなし ” の場合であっても、同じように記憶操作を受け、無害な存在へと変わるのでしょう)


キーボ(でなければ、時代によっては、偏った倫理観が死後の世界でもはびこり、無視できない混乱を発生させる可能性がある。それを避けるためには、記憶操作が必要となる)


キーボ(故に、アンジーさん達は、誰からも真相を聞くことができていないのでしょう。聞く対象の記憶が操作されているとすれば当然のこと)




キーボ(……さっき、とっさにああ言って誤魔化してしまいましたが、結果的には良かったかもしれませんね)


キーボ(何事も大勢に伝えるためには、最初に伝えるべき人、場所、状況を、よく考えなくてはならない)


キーボ(……そうです。アンジーさんと真宮寺クンに対し、ここでいきなり “ あの事実 ” を伝えるべきではーーーー)






真宮寺「……また、止まってしまったネ、キーボ君」

アンジー「ひょっとしてー、石炭が切れちゃったりー?」

キーボ「……なっ、違いますって! ボクのエネルギー源は石炭でもありません!」

キーボ「……動きが止まったのは、単純に思考の処理に時間がかかったからです」

キーボ「人が考えごとをしている最中にじっとしているようなものです。大したことではありませんよ」



真宮寺「……そうかい? なら良いけどーーー」



アンジー「ーーーところで、キーボ? さっき言ってたことの、ふたつ目って、なーにー?」



キーボ「……ああ、二つ目に気になったことについてですね」



キーボ「それなら単純にーーーー」






キーボ「ーーーひょっとして、キミ達は、赤松さん達とボクが再会することを、避けようとしているのではないか?ーーー」






真宮寺「………」

アンジー「………」






キーボ「ーーーそれが、二つ目に気になったことです」






真宮寺「……確かに、僕達は、キーボ君が赤松さん達と今すぐ再会することを避けようとはしているヨ……」

キーボ「やはり、ですか」

真宮寺「だけど、それはーーー」

アンジー「それはねー! いま、楓たちは、大事な時期だからなのだー!」

キーボ「……大事な時期?」

真宮寺「……うん、最近の赤松さん達は、この死後の世界での生活基盤を形作るためにいろいろしていて、それで忙しくてネ……」

真宮寺「……故に、君と赤松さん達をいま会わせるわけにはいかない」

アンジー「もし、キーボが来たって知ったらー、楓たちは、無理にでも会おうとするだろうねー」

真宮寺「だから、みんなが落ち着くまで、我慢してくれると助かるヨ……」






キーボ「……わかりました。そういう事情があるのであれば、仕方のないことでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「ですが、これだけは聞かせてください」

キーボ「赤松さん達は、どちらにいるのでしょうか?」



アンジー「………」



キーボ「……赤松さん達が現在いる場所で何かあった場合を考慮すればーーー赤松さん達の居場所は把握しておいた方が良い」

キーボ「なので、そこだけは聞かせて頂けませんか?」






真宮寺「……いま、赤松さん達は、瀞霊廷(せいれいてい)の集合住宅に住んでいるヨ」



キーボ「……!」



真宮寺「……詳しくは、後で地図を見せて教えるとするヨ」



アンジー「………」






キーボ「……セイレイテイ……」



真宮寺「そう、瀞霊廷」

真宮寺「この尸魂界の中心部にある首都のことサ」



キーボ「首都……」

アンジー「………」



真宮寺「……ここから先の説明は、本来ならば、説明会場で、この世界の管理者から教えられる基本事項でもある」



キーボ「………」



真宮寺「……遅れちゃったけど、それをこれから僕が代わりに説明しようと思う」

真宮寺「基本事項について理解していた方が、これからの会話もスムーズに進むだろうからネ」

真宮寺「だから、君にはまず、その説明を聞いて欲しい」



キーボ「……わかりました、お願いします」






真宮寺「ーーー尸魂界において、居住する場所は主に二つに分かれている」

真宮寺「一つは流魂街で、僕達のいるこの屋敷、君と再会した場所である、あの街は、流魂街に位置している」

真宮寺「そして、尸魂界に来た魂魄は、説明会場で世界の管理者から、この世界における基本事項を教えて貰った後、流魂街に住むことになる」

アンジー「整理券を貰ってねー!」

真宮寺「その通りだヨ。整理券を貰い、それに記された通りの区域に住むことになる」



真宮寺「基本的に、ネ」



キーボ「………」



真宮寺「だけど、条件を満たせるのであれば、瀞霊廷という、人が居住するもう一つの場所に住むことが可能となるんだ」






キーボ「……条件、ですか」

真宮寺「そう、条件」

真宮寺「その条件こそが、 “ 霊力 ” を有していることであり、それがあれば瀞霊廷の居住を許されるのサ」

キーボ「……霊力?」

真宮寺「霊力とは、霊的な力……いわゆる霊能力の略称サ」

真宮寺「また、そうした霊能力を扱う際に消費されるエネルギーの名称も、同じように霊力と名付けられている」

真宮寺「そうした力を、赤松さん達は死後に目覚めさせていた」



キーボ「……?」



キーボ「待ってください。どうして、赤松さん達にそんな力がーーーー」






真宮寺「ーーーそれは、わからない」



真宮寺「ただ、少なくとも、二ヶ月前、君を除いた僕達全員がこの世界に来た時には目覚めていたそうだヨ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……僕達全員が、尸魂界の同じ時間の同じ場所に送られた時に、ネ」






キーボ「……時間や場所が同じだった?」



真宮寺「その通りだヨ」



真宮寺「……後から聞いた話だけど、【心中でもしない限り】【送られる時間や場所が同じになるなんて】【まずありえない】らしいんだ」

真宮寺「だけど、どういうわけか、僕達は全員、同じ時間の同じ場所にいたんだ」

真宮寺「それぞれ、死亡した時、はたまた死亡して肉体から魂魄が出て少し経った時に、意識を失いーーー」



真宮寺「ーーー気づいた時には尸魂界に来ていた」



真宮寺「……みんな、同じように、霊力が目覚めた状態で、ネ」



アンジー「………」






キーボ「……どうして、そんなことがーーー」



真宮寺「ーーーそれも、わからない」



キーボ「………」



真宮寺「……いま、わかることは、たった一つ」



真宮寺「君もまた霊力を持っているということだ」






キーボ「……はい?」






アンジー「………」

真宮寺「………」






キーボ「それは、どういうーーーー」






岩鷲「おおーい、オメーら! 帰ったぞー!!」バタンッ!



キーボ「!?」



岩鷲「………っ、!?!?」



キーボ「えっ、あっ……」



岩鷲「………」



キーボ「キ、キミはいったいーーー」



岩鷲「うおおおおおおおおおおおおお!!!」






キーボ「!?」

岩鷲「オメーか!」ダダッ

キーボ「!?!」

岩鷲「オメーが、アンジーちゃんと真宮寺の言ってた “ ろぼっと ” って奴だな!?」ガシッ

キーボ「え、あ、その……」

岩鷲「そうなんだな!?」キラキラ…






アンジー「……そうだよー! キーボはロボットなんだよー!」

真宮寺「……彼こそが、 “ 超高校級のロボット ” キーボ君。紛れもなく僕達が話した存在サ」

岩鷲「……そうかそうか! よろしくな、キーボ!!」ガシッ

キーボ「えっ、あっ……」

岩鷲「いやー、それにしても、スゲーなおい! こんなスゲー “ ろぼっと ” なんて、俺はじめて見たぞ!」ベタベタ

キーボ「いや、ちょっと……」

岩鷲「この白髪! ゴテゴテヒヤヒヤした鉄の身体と服! 全部、アンジーちゃん達の言ってた通りだ!」ベタベタ






キーボ「あっ、うっ……」

岩鷲「……ああ、そうだ! 俺の自己紹介がまだだったな!」

岩鷲「俺こそ、自称【西流魂街のーーー」



空鶴「うるっせえぞ、岩鷲!」ヒュンッ



ドゴオッッッ!!!



岩鷲「ぶほおっ、!?」



バッターンッッッ!!!






岩鷲「……いてて、姉ちゃん! 何すんだよ、いきなり!?」ガバァッ



キーボ「………!?!」



空鶴「それはこっちのセリフだ!」

空鶴「汚ねえ手でベタベタ触ってんじゃねえ!! 礼儀を忘れたのか!? ああ!!」

岩鷲「あっ……!?」



キーボ「」ポカーン



岩鷲「……す、すまねえ! “ ろぼっと ” さん! この通りだ! 許してくれ!」ババッ






キーボ(……この光景は、現実なのでしょうか?)


キーボ(細身の女性が一瞬で部屋の中に回り込み、体格の良い男性を一撃で部屋の外まで殴り飛ばすだなんてーーー)


キーボ(ーーーしかも、それだけの力を身に受けた男性の方もまた、すぐに立ち上がった……)




キーボ(……なるほど、この人達がーーー)




空鶴「おい、聞いてるか? “ ろぼっと ” っての」






キーボ「……あっ……」



空鶴「……安心しろ。コイツには、おれがよーく言い聞かせておく」

岩鷲「………」



キーボ「……あー、はい。まあ、彼も謝っていることですし、ボクはもう別にーーー」



岩鷲「……お、おう! ありがとな、 “ ろぼっと ” さんーーー」

空鶴「黙ってろ」ゲシッ

岩鷲「ぶふぉう!?」ドザアッ!



キーボ「ーーーあのー……もしかして、あなた達がーーーー」






空鶴「……おれの名は志波空鶴! この志波家の家主、そして流魂街一の花火師だ!」



キーボ「やはりあなたが、クウカクさん……」



空鶴「ああ、ついでに、この土下座してるのが、弟の岩鷲だ」カラッ

岩鷲「つ、ついで、って……」



キーボ「………」






空鶴「……事情は真宮寺から全部聞いてる」



キーボ「……はい?」

真宮寺「……あァ、実はここに向かう途中で、空鶴さん達に連絡しておいたんだヨ」

キーボ「……なっ、!? そんなの、いつの間にーーー」



空鶴「ーーーしばらく、この家に泊めてやる」



キーボ「ーーー!?」

アンジー「!」

真宮寺「………」



空鶴「寝床は真宮寺に貸してる部屋を二人で使いな」






キーボ「……いや、ちょっとーーー」



岩鷲「ん? ちょっと待ってくれよ、姉ちゃん。まずは俺の部屋じゃねえのか? 真宮寺の時はーーー」

空鶴「ベタベタ触る奴とされた奴を同じ部屋にできるか、バカ」

岩鷲「うっ……」



キーボ「……あのーーー」



空鶴「気にすんな、死神とのゴチャゴチャした手続きはこっちでやっておく」






キーボ「……えっ、?」



空鶴「……今のテメエが、死神と会うわけにはいかねえだろ?」

空鶴「足元を示す手型一つ持たねえ今のテメエが死神と接触してみろ。不審者扱いで無駄に時間がかかることは目に見えてる」



キーボ「……ふ、不審者……」



空鶴「手続きが終われば、おれの元に通知が来る」

空鶴「テメエの手型が、おれのもとに来るんだ」



キーボ「………」

アンジー「………」



空鶴「瀞霊廷に住めるかどうかも、そこでわかるーーー」



空鶴「ーーーそんで住めるってなったら、実際に住める日まで、泊めてやる」



空鶴「……まあ、手続きなんざ普通は即日で済むんだが、テメエの場合はそうもいかねえだろうからな……」






キーボ「……えーと……」



空鶴「実際に、テメエが瀞霊廷に住めるかどうかはわからねえがーーー」



空鶴「ーーーもし、この流魂街に住み続けることになったら、転生の日まで正式に居候させてやるよ」



アンジー「!!」

真宮寺「………」

キーボ「……あっ、えっ、?」



空鶴「……何年か前までは、居候が三人もいたんだ。また居候が三人になろうが、大したことでもねえ」

空鶴「まっ、なんにしろ、ここで食って寝る以上は、みっちり働いて貰う! そこは覚悟しとけ!」






キーボ「ち、ちょっと待ってください!」

キーボ「ここに住むって、いきなりそんなーーー」



空鶴「ああ? なんだ、テメエ、おれの家に住めねえってか?」



キーボ「ーーーあっ、いや、そうではなく……」



アンジー「……キーボ、ここは空鶴の言う通りにした方が良いって、きっと神さまも言ってるよー?」

真宮寺「……そうだネ。彼女には逆らわないことを勧めるヨ」



岩鷲「そうだ! “ ろぼっと ” さん……いや、キーボ! 姉ちゃんに逆らったらそれはもう恐ろしいことにーーーぶべえっ!?」ドザアッ!

空鶴「雑音はともかく、住むか住まねえかハッキリしな」ゲシゲシッ

空鶴「それで、テメエの今後が決まる……!」ゴオオッ






キーボ「ーーーわ、わかりました! わかりましたから! どうか、ボクをここに住まわせてください!」



空鶴「よしっ、そんじゃあ、決まりだな!」




キーボ(……ううっ、勢いで言ってしまいましたが、大丈夫なんでしょうか………)




空鶴「……ただ、今日はもう夕飯時だ、ゆっくりしていけ。それに、今日はお前ら居候の休みの日でもあるしな」



キーボ「あっ、はい……」



アンジー「………」

真宮寺「………」






空鶴「……しばらくしたら飯にすんぞ」



キーボ「………」

真宮寺「………」

アンジー「………」



空鶴「……おい、岩鷲! いつまでも土下座してねえで、しゃんと立ちやがれ! そんで、ベタベタした罰として飯の準備手伝え!」グイッ

岩鷲「わ、わかったよ、姉ちゃん! いてて! そんな引っ張んなって!」ズルズル…






キーボ「………」



アンジー「……あらら! キーボ、また固まっちゃってるねー」

アンジー「今度は、ゼンマイがほどけちゃったりー?」



キーボ「………」



アンジー「……うんうん、ホントにカチコチだよー、何も返さないしー」

真宮寺「……まァ、空鶴さんも岩鷲君も、強烈な個性の持ち主だからネ。思考処理のために動作を停止させてしまうのも無理はないヨ」

真宮寺「ただ、彼女が言っていた通り、キーボ君にはしばらく、僕が貸して貰ってるこの部屋に寝泊まりして貰うからネ」

真宮寺「そこは記憶領域に残して欲しいかな。なぜなら僕らは空鶴さんにーーー」



キーボ「ーーーわかってますよ! あのクウカクさんに逆らうわけにはいかないのでしょう?」



キーボ「……だったら、泊まりますよ! 誰の部屋であっても!」



真宮寺「ククク……助かるヨ」






浦原「……あー、あー、スイマセ~ン! ちょおっと、お時間よろしいでしょうか~?」トテトテ



キーボ「!?」



アンジー「……あー、喜助ー!」

真宮寺「これはこれは……もう到着したのかい?」



浦原「ええ、ただいま到着しました~! 毎度ご贔屓に~!」



真宮寺「今日は、商品を買うわけではないんだけれどネ」



浦原「わかってますよ~! これは、毎度、ウチを贔屓にして貰ってる真宮寺サンに対する特別サービスでもあるんスから!」






キーボ「……え、えーと、すみません?ーーー」



浦原「………」



キーボ「ーーーあなたは、いったいーーー」



浦原「……ああっ、これは失礼しました!」

浦原「アタシ、浦原喜助という者っス!しがない駄菓子屋の店主ではありますがーーーどうぞ、よろしく!」パッパラ~!





キーボ「あっ、これは、どうも……」

浦原「どうか、キーボさんも! アタクシ共、浦原商店をご贔屓に~!」

真宮寺「ククク……浦原さん、商売も良いけど、まずはメールで頼んだことをお願いするヨ」

浦原「わかってますよ~! それでは、キーボさん、さっそくーーー」スッ

キーボ「ち、ちょっと、急になんですか? 近づいてきてーーー」

浦原「……あー、スイマセン、失礼ながらこれから検査をさせて頂きます」



キーボ「……検査?」



浦原「ええ、検査です」







浦原「……そのステキなボディの中に、危険物でもあれば、大事になりかねませんから」






キーボ「!?」

キーボ「き、危険物ってーーー」



浦原「ーーーいやあ~、だって、ロボットと言ったらドリルやミサイルってイメージあるじゃないっスか?」



キーボ「……あっ……」



浦原「そういったものが付いていたら、日常生活も大変でしょう?」



キーボ「……っ、」



浦原「……それにアタシ、こんな成りしてますが、科学者の端くれではありましてね」






キーボ「科学者……?」

浦原「ええ、科学者です」

キーボ「……ここは、オカルトな死後の世界ではなかったのですか?」

浦原「確かにここは、オカルト現象の吹き荒れる死後の世界ではありますがーーー科学者は普通に存在していますよ」



浦原「実際に、入間サンという科学者の方が、こちらに来ているじゃないっスか♪」



キーボ「………」



浦原「それで、もしキーボさんの身に何か危険があれば、アタシの力でどうにか解決できたら、と思っています」



真宮寺「……大丈夫だとは思うけど、一応ネ」

アンジー「アンジーも、やった方が良いと思うなー」






浦原「……というわけで、検査させては、頂けませんか?」



キーボ「っ、しかしーーー」



アンジー「……キーボ、大丈夫だよー」



キーボ「……アンジーさん?」



アンジー「……喜助はねー? ものすごーく、うさんくさいけど、信頼できる人だからー!」

真宮寺「そうだネ。非常に怪しい人物ではあるけど、信頼は大切にする人だヨ」

浦原「信頼第一、商売人として当然っス!」



キーボ「………」



真宮寺「ーーーどうか、彼を信じて、検査を受け入れてくれないかな、キーボ君?」






キーボ「……わかりました」

浦原「!」

キーボ「……確かに、危険物をそのままにしては、迷惑をかけかねませんからね」

キーボ「検査、お願いします」

浦原「……ありがとうございます! それではーーー」



キーボ「ーーーただし!」



真宮寺&アンジー「「!?」」



浦原「………」



キーボ「……ボクの記憶領域には、決して干渉しないでください。それが検査の条件です」






真宮寺「………」



アンジー「………」



浦原「………」



キーボ「……良いですね?」






浦原「……もちろんっス。キーボさんの記憶領域には一切触れません。その条件で検査させて頂きます」



キーボ「……それでは、検査をーーー」



浦原「ーーーっと、その前に、場所を変えようと思います」



キーボ「えっ……」



浦原「……いやー、万が一、ここで “ ドガン! ” ってなったら大変でしょう? なので修練場……広く頑丈な部屋の方まで移動してから、検査させて頂こうかと思いましてね」

浦原「修練場とその付近の部屋は、現在、防音設備も充実していたりしますからねえ。音が廊下に漏れることは無い……」



浦原「……いろいろ話しやすくもあると思うっスよ?」



キーボ「………」



浦原「……構わないっスよね?」






キーボ「……わかりました。移動しましょう」



浦原「……ありがとうございます! それでは、修練場まで、レッツゴーといきましょう!」



キーボ「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー






キーボ(そうして、ボクは、アンジーさん達といったん別れて、浦原さんと共に修練場に行った)






キーボ(それから、検査が始まるーーー)






キーボ(ーーーそのはずだったんですがーーーー)





ー志波家の屋敷・修練場ー



キーボ「………」

浦原「………」



キーボ「……あの、すみません」

浦原「……なんでしょう?」



キーボ「さっきからボク、浦原さんに言われた通り、ずっと目を閉じているんですけどーーーいつ検査は始まるんでしょうか?」






浦原「……ああ、もう大丈夫っス」



キーボ「……? それはどういうーーー」







浦原「……既に検査は終わりましたから」





キーボ「!?」パチリ

浦原「………」

キーボ「そんな、いつの間にーーー」

浦原「一応言っておきますが、インチキとかサギとかではありませんよ」

浦原「アタシは確かに、さっきキーボさんが目を閉じている間、検査させて頂きました」

浦原「というか、そうでもなければ、あのお強い空鶴さんからどんな目に遭わされるかわかりませんから」

浦原「いいかげんな商売は、できません」



浦原「……まっ、具体的な方法は、企業秘密っスけどね♪」



キーボ「………」



浦原「その上で検査結果を報告させて頂きますがーーーー」





浦原「ーーー今のキーボさんには、危険な機能は、何一つ付いていませんでした」

キーボ「……!?」

浦原「入間サンからお聞きしていた通りの設計っス」

浦原「人と一緒に生活していても、何ら危険の生じない、安全安心の設計っスよ!」

キーボ「……ま、待ってください! そんなはずーーー」

浦原「おや、何かおかしなことでもあるんスか?」

キーボ「……っ、」

浦原「何か危険なものを取り付けたご記憶でも?」

キーボ「……っっ、!!」





浦原「……ちなみに、尸魂界(こっち)で “ それら ” が付いていない状態になっていたとしても、何ら不思議は無いっスよ」

キーボ「……どういうことですか?」

浦原「尸魂界には、持っていけるものとそうでないものがあるんス」

浦原「最近着用したもの……いわゆる “ 外付け ” したような、身体との繋がりの小さいものは、基本的に持っていけない仕組みなんスよ」



キーボ「………」



浦原「……まあ、それが、生命活動の維持や精神の安定などに必要不可欠なものである場合、話は別なんスけどね」

浦原「それなら、身体との繋がりも別の意味で大きくなりますし、尸魂界への持ち込みも不可能では無くなるっスけどーーー」



浦原「ーーーそうした事情を持たない、身体との繋がりが小さい “ 外付け ” アイテムは、基本的に持ち込めないってわけっス」





キーボ「……なるほど」

キーボ「しかし、そうなると、衣服なども持ち込めないということになりますけど……」

浦原「おっしゃる通り、衣服を持ち込むことはできません」

キーボ「………」

浦原「衣服は、定期的に着脱を繰り返すものですし、魂魄にその情報が完全に定着するだなんて、よほどのことが無い限り、あり得ない……」



浦原「まず、持ち込めないっスね」



浦原「故に、キーボさんのおっしゃる通り、衣服は尸魂界に持ち込めず、基本的に誰もが、ありのままの姿で送られるってわけっス」





キーボ「ありのまま……つまりは、裸ってことですね」

浦原「ええ、現世で亡くなり魂魄となった者は、現世では魂魄が衣服を着た状態にありますがーーー」

浦原「ーーーその情報定着が不完全なため、現世から尸魂界に移動する際、衣服の情報が形を保てなくなってしまう場合がほとんど……」



浦原「そうして、裸になってしまう、ってわけっス」



キーボ「………」



浦原「とは言っても、別に人が目を覆うような、あられもない、ふしだらな事態にはなりません」

浦原「きちんと、衣服は自動的に着用されることになります」

キーボ「……?」

浦原「……尸魂界には、魂魄が来た瞬間、自動で和服を着用してくれるシステムがあるんスよ」

キーボ「!?」





浦原(……まあ、魂魄に自動着用される和服は、色やデザインの統一された簡素なものになるのが普通なんスけどね)


浦原(逆に言えば、霊力を有する特殊な魂魄である場合、その人に合った色やデザインの和服が自動で着用されることになる……)


浦原(……そう、真宮寺サンとアンジーさんが現在着ているような、その人に合った色やデザインをした和服は、霊力ある魂魄のみ着用される仕組みというわけでして……)




キーボ「………」




浦原「……とにかく、そうした風に、瞬間的に服が着用されるシステムを、修多羅千手丸(しゅたら せんじゅまる)サンという科学者の方が形にしてくれたんス」





キーボ「瞬間的に、着用……」

浦原「………」

キーボ「……そんなこと、どうやってーーー」

浦原「……残念ながら、秘匿技術でして、アタシも詳しくはわかりません」

キーボ「……そうですか」

浦原「ーーーですが、何はともあれ、無償で和服を貰えて、あられもない姿を晒すことが無くなったわけっスからね」

浦原「現世で亡くなられた方たちにとっては安心できる話だと思うっスよ」





キーボ「……あれ? でも、さっきの真宮寺クンは、浦原さんの言う和服以外にも、マスクやバンダナを付けていたようなーーー」

浦原「ああ! あれはウチの商品っス!」

キーボ「……商品? 駄菓子屋ではなかったんですか?」

浦原「フフフ……駄菓子屋だからと言って、その名の通りのことばかりしていれば、時代に取り残されてしまいます」キラーンッ

浦原「浦原商店では、マスクやバンダナ……パンツだって売ってるんスからねー!」パッパラ~!

キーボ「……服屋も兼ねているってことですか」

浦原「服だけじゃあないんスけど……まあ、わかりやすく言うなら、そんな感じにはなるっスね」





キーボ「……ですが、気になることがあります」

浦原「……なんでしょう?」

キーボ「なぜ、ボクは、この装甲を着用したままなのでしょうか?」

浦原「………」

キーボ「先ほど、あなたの返答から、このソウル・ソサエティに衣服を持ち込めないということを確認しました」

浦原「……ええ、そうっスね」

キーボ「しかし、そうだとすると、なぜボクは、この装甲を着用したままなのか……」

浦原「………」

キーボ「この装甲は、ボクからしてみれば服のようなものでーーー生前はメンテナンスのために定期的に着脱だってしていました」

キーボ「なのに、どうして、ソウル・ソサエティに来た今でも、着用したままなのかーーーー」





浦原「……そこは、まあ、アレじゃないですかね?」

キーボ「…… “ アレ ” ? アレとはいったいーーー」

浦原「いや、単純に “ ロボットだから ” じゃないんスかね?」









キーボ「ーーーあなたも、ロボット差別ですか」



浦原「とんでもありません! アタクシ共、浦原商店では、ロボットだろうと宇宙人だろうとーーーお客様である限り、ステキな商品をお届けさせて頂く所存っスよ!」





浦原「ーーーああ、それはそうとお気づきかもしれませんが……」

キーボ「?」

浦原「……キーボさんの、目のカメラと耳の集音器、どちらも情報伝達の際のフィルターがあったようですが、その両方が撤去されていますね」

キーボ「……フィルター、ですか」

浦原「ええ、キーボさんは、視力と聴力に関しては元から規格外の性能をお持ちだったようなのですがーーー」

キーボ「………」

浦原「ーーーそこから電子頭脳に伝達される情報が、フィルターを介して大幅に制限されていたそうです」

浦原「実際問題、入間サンから教えて貰った内部構造には、フィルターの存在がありましたから」

浦原「それが、どういうわけか、撤去されているという話です」





キーボ「……なぜ、フィルターなんてあったのでしょうね?」

浦原「………」

キーボ「なぜ、視力と聴力だけ、元から規格外の性能があったのでしょう?」

浦原「……なぜ、それをアタシに聞くんですか? アタシに答えられるはずがないじゃないですか」

キーボ「………」

浦原「【キーボさんの製作者が】【どういう目的で】【視力と聴力だけ】【規格外の性能にして】【さらにはフィルターをかけて情報制限していたか】なんて、それこそ製作者の方しか答えられないことでしょう」

浦原「その辺りについて、アタシから答えられることは何もありません」

キーボ「……それもそうですね」





浦原「……ともかく、ここで大切なのは、【なぜ規格外の性能があったか?】【なぜフィルターがかけられていたのか?】などではなくーーー」



浦原「ーーー【規格外の性能を制限するフィルターが取り付けられていたものの】【それが撤去された状態にある】ってことっス」



浦原「実際に、今のキーボさんは、非常に高い視力と聴力を有し続けているのでは?」



キーボ「………」



浦原「キーボさん……アナタはその気になれば、この屋敷にいる小さな生き物たちの姿とその鳴き声がわかるんじゃないっスか?」





キーボ「……言われてみれば、確かに、この屋敷では、小さな虫のような生き物の群れがさえずっているようですね」キュルキュル

キーボ「それらは主に、天井の穴と両わきの木枠の上にある植物らしきものから発生しているようですがーーー」ジー…

浦原「ご名答! その天井にあるのは、【ホタルカズラO】と言いまして、発光型の植物に品種改良を重ねて作り出した、浦原商店の自信作なんスよ!」

キーボ「発光……ああ、だから、こちらの屋敷は電球もなしにここまで明るいのですね」

浦原「その通り! ここが地下にありながらこうまで明るいのも、全ては【ホタルカズラO】のお陰っス!」

浦原「そして、そのOの花粉から生まれる変種の菌が、この空気中を漂う小さな虫みたいな生き物なんスよ!」





キーボ「菌……」

浦原「この菌は、人の肉眼ではまず見えないサイズですがーーー」

浦原「ーーー有害となるような悪い菌、人や植物に悪影響を与える菌を捕食し、一瞬で無害なものに変換して取り込んでくれる良菌なんス!」

キーボ「………」

浦原「さらには、O本体の購入者の言葉一つで、本体の発光を止めるよう働きかけることもできます!」

浦原「【ホタルカズラO】! 少々、お値段は張りますが、当店イチオシの商品ですよ!」

キーボ「……あー、その、申し訳ないのですが、今はお金の持ち合わせはおろか、ゲームに使用するようなメダルすら持っていない状況でしてーーー」

浦原「いえいえ! 今回はあくまでキーボさんの視力や聴力が上がっていることの証明を兼ねて宣伝しただけっスから! 購入するかどうか決めるのはまた別の機会です!」



浦原「志波家で働けばご給金は充分に出ますしーーー」



浦原「ーーーもし、キーボさんにも個室が与えられる時があれば、ぜひ、ご一考を!」



キーボ「はあ……」





浦原「さて、話を元に戻しますがーーーこの空気中の菌を、意識一つ切り替えることでキチンと認識できるくらいには、キーボさんの視力と聴力が規格外のレベルに達していることは証明されたわけです」

浦原「フィルターが撤去されたことについて、納得して頂けましたでしょうか?」

キーボ「……ええ、とてもよく理解しました」

浦原「……どうっスかね? 今なら、サービスで、無料で似たようなフィルターを付け直すこともーーー」

キーボ「結構です」

浦原「……良いんスか? 本当に」

キーボ「ええ、構いません」

キーボ「……このカメラと集音器の機能は、オート及びマニュアルの両方でいろいろと調整可能な状態にありますしーーー」キュルキュル



キーボ「ーーーそれに、今はむしろ、機能の高い状態がデフォルトである方が好都合ですから」



浦原「……そうっスか。それじゃあ、今回のサービスはーーー」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





キーボ(ーーーあれから、さらなるサービスとして無料でボクの身体を洗浄してくれた後、浦原さんは帰り、ボクは真宮寺クンの部屋に戻りました)




真宮寺(……布団には予備があるし、一応それも敷いた方が良いかな……)


真宮寺(そして、それからーーー)




キーボ(また、浦原さんは帰り際に、 “ 伝令神機 ” ……いわゆる携帯電話のプレゼントをしてくれました)


キーボ(もし、ボクの【機械の身体に異常が発生した時】【いつでも電話してくれて構いません】【いつでも修理に駆けつけます】と言伝と取扱説明書を残してーーー)


キーボ(ーーー浦原さん、あの人にはいずれ、しっかりとお礼をしなくてはなりませんね)


キーボ(……浦原さんに検査をお願いしてくれた真宮寺クンにもお礼をするべきでしょうかーーー)チラッ




真宮寺(ーーーよし、後は、この発明品をキーボ君にーーー)スッ




キーボ(ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)




岩鷲「おーい! オメーら、飯ができたぞ!」バタンッ





真宮寺「……ありがとう、岩鷲君。すぐにでも行かせて貰うヨ」

岩鷲「おう! 先に行ってるぞ、オメーら!」スタスタ

真宮寺「さァ、キーボ君も」

キーボ「……ボクも行って良いんでしょうか?」

真宮寺「………」

キーボ「キミも、知っているはずでしょう……?」

キーボ「……ボクは、みなさんのように、食事をーーー」



真宮寺「ーーー大丈夫だヨ、キーボ君」



キーボ「……?」

真宮寺「この発明品があれば、ネ」スッ

キーボ「? それはーーー」

真宮寺「はい、キーボ君」ポンッ





キーボ「……なんですか、この、メカメカしい蚊取り線香みたいなものは?」ジー…

真宮寺「……これは、入間さんが瀞霊廷で発明した、物質電力変換装置ーーー」



真宮寺「ーーーその名も【エレキイーター】だヨ」



キーボ「【エレキイーター】……ですか?」



真宮寺「……これが君の近くにあれば、特殊な波動が発生し、その影響で君は食事が可能となる」



キーボ「………」







キーボ「……はい?」





真宮寺「……そして、君の口の中にある一定の物質……すなわち食料を電力に変換し、そのまま君の魂魄のエネルギーにできるのサ」



キーボ「………!?!?」



キーボ「ーーーな、なんなんですか!? その発明は!?」

キーボ「入間さんはそんなものまで発明したって言うんですか!?」



真宮寺「……そうだネ。入間さんの発明品であることに間違いないヨ」





キーボ「………」



真宮寺「……本当に食事が可能かどうか気になるのであれば、食事場まで向かうことだヨ」



真宮寺「僕が案内するからサ」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





ー志波家の屋敷・食事場ー



金彦「食事の準備が」

銀彦「整いました」

キーボ「………」

空鶴「よし! 飯の時間だ、テメエら!」

空鶴「全員でーーー」

岩鷲「いっただっきまーす!」

アンジー「いただきまーす、だよー!」

真宮寺「ククク……今日も美味しく頂かせて貰うヨ」



キーボ「ーーーいただきます!」





キーボ「………」ジー…



アンジー「……うんうん、ちゃんと美兎の機械持ってきてるね、キーボ」



キーボ「アンジーさん……」



アンジー「……でもでもー、食べないと、ご飯も機械ももったいないよー?」

岩鷲「そうだぞ、キーボ! この料理はウチの金彦(こがねひこ)と銀彦(しろがねひこ)が俺達のために! その機械は入間ちゃんがオメーのために! それぞれ真心込めて作ったもんだ!」

岩鷲「なのに、食わないってのは、人の心を大切にしないってことだ! 俺の目の黒いうちは、そんな真似、させやしねえぞ!」





キーボ「……そうですね。キミ達の言う通りです」

キーボ「ありがたく、食べさせて頂きます!」



岩鷲「よく言った! さあ、食え! 遠慮はいらねえぞ!」

アンジー「パクッといっちゃえー! キーボ!」



キーボ「……はい!」

真宮寺「………」





キーボ(……これで本当に食事がーーー)




キーボ(ーーーまずは、一口、いきましょうか)スッ…




キーボ「………」パクッ









キーボ「……はっーーーー」





キーボ「………」



アンジー「んー? どうしちゃったー、キーボ?」

真宮寺「……もし、何か不具合が起きたのなら、浦原さんに修理を頼んでーーー」



キーボ「ーーー食える」



アンジー「……んんー、?」



キーボ「食えますよ……! 食えますよ、入間さん……!」



真宮寺「……キーボ君?」





キーボ「ふはははははははははははははは!!!」



キーボ「食える、食える、食える、食えますよ!!!」



キーボ「これが、甘味か!!」パクパク



キーボ「これが、辛味か!!」ガツガツ



キーボ「これが、旨味か!!!」





キーボ「そして、これが、旨味の染み渡る感覚……!」モグモグ



キーボ「ああ、思っていた以上に……」



キーボ「……素晴らしいーーー」






アンジー「ーーー静かにして、キーボ」

真宮寺「流石に叫ばれるのは、ちょっとネ」






キーボ「……すみません」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





空鶴「……食い終わったな、テメエら! それならーーー」



岩鷲「ーーーごちそうさまでした!」

アンジー「神ったごちそう、ありがとー! にゃはははー!」

真宮寺「ごちそうさま、だヨ」



キーボ「……ごちそうさまでした!」



空鶴「ーーーよし! あとは身体休めて明日に備えな! そんで、みっちり働いて貰うからな!」





真宮寺「ククク……どうだい? 初めて食事を摂ったことに対する気持ちは?」



キーボ「………」



真宮寺「食事の終わった今なら、多少は声を張り上げても許されると思うヨ?」

アンジー「そうだねー。それに美兎が言うには、その機械で食べるとお口の中にご飯がぜんぜん残んないんだってー! 口の中が錆びるとか、それで異臭が発生するとか、気にしなくて良いんだってー!」



キーボ「………」



アンジー「だから、今なら口を大きく開けて元気な声出しても、大丈夫なんだよー!」





キーボ「……冷静になってみると居た堪れなくなるので、声のボリュームは上げませんがーーー食事を摂ったことへの気持ちについては答えます」

アンジー「……どんな気持ちー?」

キーボ「……嬉しいに決まってるじゃないですか。初めての食事ですよ?」

キーボ「……どうも、ありがとうございました。コガネヒコさん……シロガネヒコさん」



金彦「……こちらこそ、味わって頂き光栄の極みです」

銀彦「それと、お礼の言葉は彼女の方にもお願いします」



キーボ「……そうですね」

キーボ「この美味しいという感覚……それをボクに味わって貰うため、入間さんはこの発明品を作ってくれたーーー」



キーボ「ーーー次にあなたに会った時には、必ずお礼を言わせて頂きます、入間さん!」





金彦「……ふふふ、それでは、我々はこれで」

銀彦「仕事がまだ残っておりますゆえ、申し訳ありませんが、この場を離れさせて頂きます」



キーボ「いえ、こちらこそ、お忙しい中、引き止めてしまって申し訳ありません」

キーボ「これからも、よろしくお願いします! コガネヒコさん!シロガネヒコさん!」



金彦「……ええ!」

銀彦「こちらからも、よろしくお願いします、キーボ殿!」





スタスタ……



真宮寺「……礼儀正しいんだネ、君って」



キーボ「……相手は知り合ったばかりで、さらには立派な社会人の方々でもあります」

キーボ「だとすれば、親しい関係になるプログラムではなく、礼儀を尽くすプログラムに切り替えるのは当然でしょう」



アンジー「……うんうん、ここで、そういうこと言っちゃうところ、キーボらしいねー」

真宮寺「……まさかとは思うけど、君は自分から行動するのを怠けて、そのプログラムに任せて機械的かつ自動的に礼義正しく振る舞っていたのかい?」

キーボ「そんなことしませんよ! 礼儀のプログラムも親しい関係になるプログラムも、あくまでも参考にしただけで、ボクはボク自身の意志によるマニュアル操作で動いています! 怠けてなんていません!」



真宮寺「……そう、それなら良かったヨ」

アンジー「そうだねー! そこでサボってたら、きっと神さまも罰を当ててたよー!」





キーボ「ーーーしかし、入間さんも、よくこんな、すごい発明ができましたね」

真宮寺「? まァ、確かに、すごい発明ではあるけど……」

アンジー「でもでもー、美兎ならこのくらい普通にできるんじゃないのー?」

キーボ「いや、入間さんがすごいことはボクも同感ですがーーー死後の世界でも生前と同じように発明できたことに驚いたんです」

キーボ「いくら、入間さんでも、自分の研究教室も無しに、ここまでの発明ができるとは思えません」



キーボ「……いったい、どうやって発明をーーー」



真宮寺「あァ……その説明は簡単だヨ」



キーボ「?」



真宮寺「さっきの人……浦原さんから、器具や機材を貸して貰ったんだヨ」





キーボ「浦原さんに、ですか?」



アンジー「そうだよー、喜助が美兎にサービスしてくれたのだー!」



キーボ「………」



真宮寺「……浦原さんは、入間さんに興味を持っていてネ」

真宮寺「自分の目の前で、入間さんの才能を確認させて貰う代わりに、霊的科学に関する知識を教え、器具や機材を貸して……つまりは、ほぼ無償で提供してあげたのサ」

真宮寺「そうして提供された知識……並びに器具や機材を用いて誕生した発明の一つが、【エレキイーター】なんだヨ」





キーボ「……発明の、一つ?」

キーボ「まさか、他にも発明があるんですか?」

真宮寺「そうだネ。たとえば、装着するだけで、片手の指の動きだけでメールを打てるようにするバングルがあるヨ」

キーボ「……なっ、!?」

真宮寺「バングルから読み取られた片手の動きでメールが作成され、その内容は脳内に転送され、内容を確認してからは伝令神機に転送後、そこからメール送信ができる」

真宮寺「これは、視覚や聴覚を阻害しないから、慣れてしまえば歩いている時に息をするようにメールの送信が可能となる」

キーボ「そんなものまで……って、まさか、それはーーー」

真宮寺「そう、僕が気づかれることなく、空鶴さん達と浦原さんにキーボ君のことを伝えることができたのは、その方法を使ったからなんだヨ」



キーボ「……なるほど、入間さんの発明品ならば納得です」



アンジー「………」





真宮寺「……他にも、君の身体を自動で洗浄する【ロボットウォッシャー】、自動でメンテナンスを行う【ロボットメンテ】にーーー」



真宮寺「ーーー最近発明したものの中には、霊力ある存在を感知する装置、【パワーセンサー】があるヨ」



キーボ「……【パワーセンサー】……」



真宮寺「……それは、モノパッドを小さくしたような形状をしていてネ。霊力ある存在が比較的近くにいれば、反応して振動しーーー」



真宮寺「ーーー霊力ある存在を示す印が、液晶画面の細かな地図の中に、映し出されるようになっている」



キーボ「!?」



真宮寺「……僕らはその装置を使って、君に霊力があることを確認したのサ」





アンジー「………」



キーボ「……ん? ちょっと待ってください。それって、もしかして今日、キミ達がボクと再会した時にーーー」



真宮寺「ーーーそうだネ。だいたい、君が察している通りだヨ」

真宮寺「僕らは今日、君に再会する直前の時、【パワーセンサー】で反応を確認した」

真宮寺「突如、流魂街の、あの場所に現れた、君の霊力反応を、ネ」



キーボ「………」



真宮寺「……普段は服の中にしまっている “ それ ” で、君に霊力が宿っていることを確認したのサ」



キーボ「……なるほど」





キーボ「……しかし、そのようなものまで発明するとはーーー」






アンジー「………」






キーボ「ーーー流石としか言いようがありませんね」





真宮寺(……本当に、彼女には恐れ入るヨ)


真宮寺(今の忙しい中、必死に時間をやりくりして、霊力ある存在を感知する装置を発明するなんてネ)




真宮寺(……僕達が持っている伝令神機にも似たような機能はあるけれどーーー)


真宮寺(ーーーあれで反応するのは、悪霊だけだからネ。他の魂魄……ましてやロボットの霊力感知なんてできるはずがない)




真宮寺(……他の発明と言い、ここに来るかどうかもわからないキーボ君がために、ここまでするとはネ……)


真宮寺(入間さん、彼女は、本当にーーーー)





キーボ「ーーーまた、それとは別に、驚きましたよ」



アンジー「………」



キーボ「まさか、ボクに、霊力などというものが宿っているとは……」



真宮寺「……どういう理由かまでは、わからないけどネ」





キーボ(……なぜ、霊力などというものがボクに、ひいては赤松さん達に宿っているのか大変気になるところですがーーー)




キーボ(ーーーここで思考を重ねたところで、おそらく結論は出ないでしょう)




キーボ(そういったことに時間を費やすくらいならば、そうーーー)


キーボ(ーーー赤松さん達の現状、それに加えてこの死後の世界のことを、もっと深く知るべきでしょう)


キーボ(その内容次第では、ボクがこの死後の世界でどう行動するべきかも変わってくるでしょうから)


キーボ(……これからしばらくは、情報収集に集中した方が良さそうですね)




キーボ(そうなると、まず聞くべきはーーーー)





キーボ「ーーーこれまでの話を振り返ると、赤松さん達は現在、セイレイテイという場所に住んでいて、忙しいんですよね?」



真宮寺「……まァ、そうだネ」

アンジー「………」






キーボ「……赤松さん達は、具体的に、いま何をしているのでしょうか?」





真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「………?」



キーボ「真宮寺クン? アンジーさん? どうかしたんですかーーー」






真宮寺「ーーー赤松さん達は、目指すもののために、日夜努力しているのサ」





キーボ「……目指すもの、ですか?」

真宮寺「そうだネ。それぞれ目指すものがある」

真宮寺「それを、この世界での生活基盤にして生きていくために、今を懸命に頑張っているんだ」



アンジー「………」



キーボ「……なんなんですか? 赤松さん達が目指すものって」



真宮寺「……本来ならば、そう簡単に話すようなことでもないけどーーー」



キーボ「………」



真宮寺「ーーー赤松さん達は、【もし仲間が来たら】【無用な心配をかけることのないよう】【自分達のことについて話してくれて構わない】って言ってたからネ」

真宮寺「だから、今回は特例で話すことにするヨ」



キーボ「……わかりました。ぜひ、お願いします」





真宮寺「……ただ、その話は、僕が空鶴さんから貸して貰ってる、あの部屋で行うとするヨ」

真宮寺「いつまでも、食事場で話すわけにはいかないからネ」



キーボ「……そうですね。それでは移動するとしましょう」

アンジー「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





ー志波家の屋敷・真宮寺の部屋ー



真宮寺「ーーー部屋に戻ったし、さっそく、みんなについて順番に説明するネ」

キーボ「はい、お願いします」

アンジー「………」

真宮寺「まず……茶柱さん、東条さん、ゴン太君、入間さん、百田君の五人についてだけどーーー」



真宮寺「ーーー彼女達は、死神を目指しているヨ」



キーボ「……そうですか、死神にーーーー」





キーボ「ーーーって、死神!?」



アンジー「……んー? どうした、キーボ?」

アンジー「ここは死後の世界だよー?」



アンジー「しにがみがいても、おかしくはーーー」



キーボ「そういうことじゃありませんよ!?」

キーボ「確かに、ここは死後の世界! 死神がいてもおかしくはないでしょう!」

キーボ「ですが、死神って言ったら、生きている人を無理やりあの世に連れて行く恐ろしい存在じゃないですか!?」



アンジー「……あー、なるほどねー」



キーボ「なぜ、彼女達はそんな存在になろうとするんです!? というか、人が死神になれるんですか!!?」



真宮寺「……そうだネ。まずはそこから説明しないとネ」





キーボ「? どういうことですか?」

真宮寺「キーボ君、この世界の死神とは、君が想像しているようなものじゃあないんだヨ」

キーボ「???」

真宮寺「……この尸魂界における死神とは、尸魂界、ひいては現世を護るための存在ーーー」



真宮寺「ーーーいわゆる、世界の管理者なんだヨ」



キーボ「管理者……」



真宮寺「この世界が一つの国だとするならば、死神は兵士に該当するネ」



キーボ「………」



真宮寺「人をあの世に連れて行くというのも間違いではないけれどーーー」



真宮寺「ーーーそれは、何らかの理由で魂魄に不具合を起こし、現世に残ってしまった魂を昇華……わかりやすく言い換えれば、成仏させるということなんだ」

真宮寺「あの世に連れて行くのは、あくまでも、既に肉体が死んでいる人の魂魄だけサ」

真宮寺「だから、生きている人を殺して、無理やりあの世に連れて行くだとかーーー間違ってもそんな存在ではないヨ」





キーボ「ーーーですが、茶柱さん達は、あくまでも人であって、妖怪などではありませんよね?」



アンジー「………」



キーボ「それが、死神になれるんですか?」



真宮寺「おそらく君は、死神とは……大鎌を手にした黒装束の骸骨であると、想像していると思うけどーーー」



キーボ「? 違うんですか?」



真宮寺「ーーー違うんだヨ」





真宮寺「確かに、死覇装(しはくしょう)と呼ばれる黒い和服は着ているけれどーーー大鎌を手にしているとは限らないし、骸骨でもない」

真宮寺「なぜなら、この、尸魂界における死神とは、人の魂魄が進化した存在を指すのだから」

キーボ「進化?」

真宮寺「そう、進化」

アンジー「………」

真宮寺「人の魂魄は、 “ 真央霊術院 ” ……死神の学校に入学して六年かけることで、死神の魂魄へと、進化を遂げることができる」

真宮寺「基本的に、ネ」

真宮寺「故に、人の魂魄である茶柱さん達も、死神になることは可能だしーーー」



真宮寺「ーーー元が人である以上、人と変わらない姿をしているってわけだヨ」



キーボ「………」





真宮寺「キーボ君にもわかりやすく言うならーーー尸魂界における死神とは、バージョンアップした人の魂魄なのサ」

キーボ「……人のバージョンアップって、サイボーグか何かですか?」

真宮寺「……サイボーグというよりも、エスパーと呼んだ方が、僕としては適切だと思うネ」

キーボ「……エスパー?」

真宮寺「人から死神への昇華、それは人の魂魄が持つ霊能力、すなわち超能力を鍛えた末に起こる進化現象だ」

真宮寺「たとえば、霊能力を鍛えると、自らの霊力を消費することで、霊術……と呼ばれる超常能力を、扱えるようになる……」

キーボ「!」

真宮寺「……他にも【パワーセンサー】のようなものがなくとも、身体の感覚だけで、周囲に霊力ある魂魄がいるか感知することが可能になるしーーー」

真宮寺「ーーーその相手の霊力の “ 質 ” を感じ取り、相手が死神かそれとも別の存在か、細かく区別することも可能となる」

真宮寺「……それこそ、その霊力ある魂魄がどこの誰か? 個人レベルで区別することだって可能となるのサ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……ならば、それはサイボーグというよりもエスパーと言った方が近い」

真宮寺「僕はそう思うヨ」





キーボ「ーーーなるほど、勉強になります」



真宮寺「……僕の説明が役に立ったようで何よりだヨ」



アンジー「………」



キーボ「……しかし、なぜ茶柱さん達は死神になろうとしているのでしょうか?」





真宮寺「ーーーそうだネ。それについても詳しく説明するヨ」

キーボ「お願いします」

アンジー「………」

真宮寺「……まずは、茶柱さん、東条さん、ゴン太くんの三人について説明させて貰うネ」

キーボ「………」

真宮寺「茶柱さん達三人が死神になろうとしている理由ーーーそれは、恐怖で心の弱った人達を助けたいと思ったからサ」





キーボ「恐怖、ですか?」



真宮寺「……そう、恐怖」

真宮寺「死神の仕事には、悪霊との戦いも含まれているからネ」



キーボ「………」



真宮寺「……魂魄は、何の処置もされないまま現世に残り続けてしまうと……どういうわけか悪霊に変化することがある」

真宮寺「また、そうして悪霊に変わった魂魄は、なぜか怪物のような姿となり強大な霊力に目覚め、強力な……霊術を扱えることもある」

真宮寺「そうした相手との戦いには、死の危険がつきまとうし、現実として殉職率も高い」

真宮寺「故に、恐怖に呑まれてしまう死神は、決して少なくないんだ」



アンジー「………」





キーボ「……死神って、真宮寺クンが言うには、死者の魂が進化した存在ですよね? 既に死んでいる人が死ぬとはどういうことなのでしょうか?」



真宮寺「……確かにおかしな話に感じるかもしれないけど、死者でも死ぬことはあるんだヨ」



真宮寺「そして、死者が死ぬということは、生身の肉体ではなく魂魄の死を意味している」



真宮寺「魂魄が死すれば、転生することも不可能だ」



アンジー「………」





真宮寺「……これが、動植物の魂魄なら、話は別なんだけどネ」

真宮寺「それなら、死んだ動植物の魂魄を食べるなりーーーもしくは、死んだ魂魄を取り込ませる……霊術の使用が許される」

真宮寺「そうして魂魄を、深く大きく、人体に取り込ませることが可能となる」

真宮寺「そういった風に、動植物の魂魄を、自分の魂魄が有するエネルギーなどに溶かして、混ぜ合わせることでーーー」



真宮寺「ーーーその人が転生する際、その人が体内に取り込んだ動植物も一緒に転生させることもできる」



アンジー「………」



真宮寺「……だけど、倫理上、人を動植物と同じように扱うわけにはいかないからネ」

真宮寺「故に、この尸魂界では、人の魂魄が転生する前に死んだ場合、基本的に火葬される決まりとなっている」

真宮寺「そうして、焼かれ、骨と灰だけが残りーーーそれ以外は空気と溶け合い、風に吹かれることになる」



キーボ「………」





真宮寺「……そういった死を、死神達は恐れている」

真宮寺「自分達が、骨と灰を残して……風に吹かれるだけの存在になることを恐れている」

真宮寺「絶望的な “ 死 ” を……終わりを迎えることを、とても恐れているんだ」

真宮寺「故に、その恐怖でおかしくなることだってあるし、時に間違いを犯してしまう人だっている」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「それは、覆しようのない、確かな事実なのサ」





真宮寺「……だからこそ、茶柱さん達は、誰よりも “ 死 ” を恐れる死神達のために、自分達も死神になろうとしているんだヨ」

キーボ「それは、茶柱さん達も、悪霊と戦う……ということですか?」

真宮寺「それも視野に入れているという話だけどーーー第一志望は死神を救護する部隊に入ることみたいだネ」

キーボ「救護部隊、ですか」

真宮寺「そうだネ。さっき述べた通り、死神と言っても決して不死ではない」

真宮寺「故に、死なせないよう、壊さないよう……霊術や話術で心身ともに支え、全身全霊を込めて救護する部隊も存在する」

真宮寺「そこを、茶柱さん達は第一志望として、入ろうとしているのサ」

キーボ「………」

真宮寺「茶柱さん達……彼女ら三人は、生前の時点で高い戦闘能力を有していた」

真宮寺「それに加えて霊力を持ち、恐怖から人を守ることの大切さを知っている人達でもある」

真宮寺「そんな自分達だからこそ、自分達も死神となり、他の死神達の気持ちと向き合って理解して、支えることも、できるはずだと……」



真宮寺「……そう、信じてーーーー」





キーボ「……茶柱さんらしいですね。生前も死後も、前向きに真っ直ぐ生きているなんて」

キーボ「彼女が死神になれば、影響されて元気になる人も、きっと多く現れることでしょうね」



真宮寺「……そうだネ。その通りだと思うヨ」



キーボ「………」



真宮寺「実際、東条さんも、ゴン太君も……茶柱さんに影響されて元気になった結果、同じ道を選んだわけだからネ」

アンジー「………」





キーボ「……やはり、そうだったんですか」



真宮寺「……そうだネ。君が察している通りだヨ」

真宮寺「東条さんも、ゴン太君も、茶柱さんに影響されて元気になった結果、自分達も同じ道を歩むことに決めたんだ」



キーボ「………」



真宮寺「……だけど、それは決して流されたわけじゃない」



真宮寺「東条さん達が、熟慮の末に、決めたことだ」



真宮寺「それは、わかって欲しい」





キーボ「ーーーわかってますよ」

キーボ「東条さんも、ゴン太クンも、それぞれ懸命に、必死になって考え抜こうとする人です」

キーボ「そうした上で、茶柱さんと、そして多くの死神達と協力しあいながら、人を恐怖から守ることに決めたーーー」



キーボ「ーーー少なくとも、ボクはそう思っています」



真宮寺「……そうーーー」



アンジー「………」





真宮寺「ーーー以上が、茶柱さん達が死神を目指す主な理由だネーーー」



キーボ「………」



真宮寺「ーーーそして、次は、入間さんと百田君が死神を目指す理由について、説明させて貰うヨ」



キーボ「……お願いします」





真宮寺「それで、入間さん達が死神を目指す理由だけどーーーそれは、尸魂界の科学者となるためだヨ」



キーボ「……科学者? なぜ、科学者になるために死神になる必要があるんですか?」



真宮寺「それは、尸魂界の科学は、基本的に死神が発展させているからだネ」



真宮寺「……霊術を扱える死神でないと、物理的に不可能な実験もあるからサ」





キーボ(なるほど、そういうことでしたか……)




キーボ(……だとすれば、浦原さんも、おそらくは死神でーーー)




真宮寺「……霊術を用いた実験ーーーそうした研究を行う代表的な場所が、瀞霊廷の “ 技術開発局 ” であり、死神しか局員になることを許されない」



アンジー「………」



真宮寺「だから、入間さん達は、科学者になるため、死神を目指すことにしたのサ」





キーボ「……入間さんらしいですね。死後の世界でも研究に打ち込むだなんて」



真宮寺「………」



キーボ「研究のためなら、死神という未知数の存在にだってなれる……」



キーボ「流石は入間さんです」





アンジー「……まあ、美兎は、今まで……霊術のこととか知らなかったからねー」

アンジー「 “ そういう意味での遅れを取り戻すためには、やっぱり自分も、しにがみにならないとー ” って、思ったのかもしれないよー」



キーボ「確かに……入間さんは、科学者としての自分に誇りを持っている人ですからね」

キーボ「それを考えれば、知識面での遅れは、取り戻したくて仕方がないことなのかもしれません」



真宮寺「………」





キーボ「……しかし、入間さんだけでなくーーー百田クンまで科学者を目指すとは驚きでした」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「いったい、百田クンに何があったのでしょうか?」





真宮寺「……百田君には、新たな夢ができたのサ」



キーボ「新たな夢……?」



真宮寺「……それを達成するためには、科学者となる必要がある」

真宮寺「だから、死神となり、科学者を目指すことにしたんだヨ」



アンジー「………」





キーボ「……なんなんですか? その、百田クンの新たな夢って?」



真宮寺「……百田君は、行ってみたいんだヨ」

アンジー「………」



キーボ「……行ってみたいって、どこにーーー」



真宮寺「……尸魂界の空の上に、だヨ」





キーボ「ーーー空の上って……もしかして宇宙のことですか?」

真宮寺「……この死後の世界に、宇宙があるとは限らないヨ」

キーボ「……そうなんですか?」

真宮寺「少なくとも、尸魂界が宇宙進出していることを示す文献は見当たらなかったネ」

キーボ「………」

真宮寺「だけど、尸魂界の遥か上空には、 “ 霊王宮 ” なるものが存在しているということは知った」

キーボ「……レイオウキュウ……?」

真宮寺「そこは、死神の王である “ 霊王 ” ……様とその血族であるとされる王族ーーー」



真宮寺「ーーーひいてはその守護者…… “ 零番隊 ” と呼ばれる死神達が暮らす場所なのサ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「しかも、霊王宮には、尸魂界、並びに現世が始まった根源があるとされている」





キーボ「根源、ですか」

真宮寺「そう、根源」

真宮寺「それこそが、霊王様」

真宮寺「……霊王様は、全ての世界の始まりであり楔であり、遥か過去から現在に至るまで、尸魂界と現世を支え続けている存在とされている」

真宮寺「その霊王様を守護する場所が、霊王宮でもある」

真宮寺「そうした未知の場所に対し、百田君は、強く興味を惹かれたようでネ」

真宮寺「霊王宮がどういった場所なのか、霊王様がどういった存在なのか、世界を支えているとはどういうことなのか、それを知りたくてたまらないと、自分の直感が訴えかけて来たそうだヨ」

キーボ「………」





真宮寺「ーーーあァ、断っておくけど、百田君は宇宙に行くことを諦めているわけじゃないからネ?」

キーボ「……そうなんですか?」

真宮寺「そうなんだヨ」



真宮寺「……もっとも、現世の宇宙には行けないだろうけどネ。現在のあそこは、現世で生きている人間が管理運営すべき場所とされているから……」



キーボ「………」



真宮寺「……故に、百田君が行くとすれば、尸魂界の宇宙ということになる。あるかはわからないけどサ」

真宮寺「だから、百田君は、尸魂界の宇宙に行けるようになるために、霊王宮に行こうとしている……」

真宮寺「……そう、百田君が霊王宮に行こうとするのは、この尸魂界に宇宙が存在するか否か、霊王宮でロケットを発射するなどして確認するためでもあるんだヨ」





キーボ「……? いや、レイオウキュウという場所に行かずとも、入間さんに超高性能な天体望遠鏡を作って貰えば、宇宙があるかどうかわかるのでは?」

真宮寺「……残念ながら、現在の霊王宮は、厳重に守護されていてネ。絶対にそこに入れないように、尸魂界の遥か上空には、七十二層以上もの透明な障壁が際限なく広がっているらしいんだ」

キーボ「なっーーー!?」

真宮寺「その透明な障壁が、霊王宮より上の場所から降り注ぐ光の流れを、歪ませてしまう」

真宮寺「だから、どんなに高性能な望遠鏡を使ったとしても、地上から離れ過ぎている場所を細かに見ることはできないんだヨ」



キーボ「空に障壁って……そんなものがーーー」



真宮寺「ーーーその障壁のせいで、夜空や星の光のようなものを地上から見ることはできても、望遠鏡などで細かに見ることは不可能」

真宮寺「なお、障壁は、尸魂界の遥か上空に際限なく広がっているため、地上のどこにいようと、望遠鏡などで宇宙の存在を確かめることはできない」

真宮寺「それに加えて、障壁は非常に頑強で破壊はまず不可能だし……可能だったとしても霊王宮を守る障壁を勝手に破壊なんてすれば、死罪になりかねない」

真宮寺「故に、尸魂界に宇宙が存在するか否かを地上から確かめることはできないのサ」

キーボ「………」





真宮寺「宇宙が存在するか否かどうかを確かめるには、霊王宮の死神に障壁を突破するための……霊術を使って貰い、その力で霊王宮に行かせて貰うしか方法はない」

真宮寺「そうして、霊王宮に行かせて貰い、そこでロケットを発射するなどして確かめるしかない」



真宮寺「……現世において、宇宙飛行士になるためには、そのための試験に合格して宇宙開発局のロケットに乗せて貰う必要があるように」

真宮寺「霊王宮に行くには、霊王宮の死神に障壁を突破するための……霊術を使って貰い、その力で霊王宮に行かせて貰うしか方法はないんだ」

真宮寺「そうした理由もあって、百田君は、まずは自分も死神となって、技術開発局で科学者としての腕を磨き、霊王宮の守護を任される立場を得ようとしているんだヨ」



キーボ「………」

アンジー「………」





キーボ「……奇妙ですね。なぜ、王様やその場所の守護を任されることと、科学者になることがイコールで結ばれるのでしょうか?」

真宮寺「その答えは簡単だヨ」

真宮寺「霊王宮を守護する立場を得るためには、尸魂界全体にとって “ 歴史そのものとなるほどの価値ある何か ” を発明し、霊王様に認められる必要があるからサ」

キーボ「発明、ですか」

真宮寺「そう、発明。入間さんの得意分野だネ」

アンジー「………」



真宮寺「……だけど、発明を成し遂げるには科学者として、相応の知識と実力を身につけなければならない」

真宮寺「そのために百田君は、努力して科学者になろうとしているんだヨ」





キーボ「……そうだったんですか」



アンジー「………」



キーボ「死後の世界でも、夢を叶えようとするだなんてーーー流石は百田クンですね」



真宮寺「……そうだネ。僕もそう思うヨ」



キーボ「……百田クンも、入間さんも、きっとそれぞれの長所をもって、ソウル・ソサエティの名だたる科学者にーーー」







真宮寺「ーーーそれは、まだちょっとわからないけどネ」





キーボ「ーーーどういうことですか、真宮寺クン?」

真宮寺「………」

キーボ「キミは、百田クンの心の強さを、入間さんの才能のすごさを、信じていないのですか?」

真宮寺「……いや、彼らならば、実力的には信じることはできるヨ」

キーボ「だったら、どうして、二人の未来を疑うようなことを言ったんですか?」

真宮寺「……それは、技術開発局という場所と、百田君や入間さんの性質が合致しているようには思えないからだヨ」

キーボ「性質?」

真宮寺「まァ、正確には、性質というよりも、性格的な相性の問題になるネ……」







真宮寺「……それも、技術開発局の、現局長との、ネ」





キーボ「……?」



真宮寺「……その人と直接話したわけじゃないから断定するようなことは言いたくないのだけれどーーー」



真宮寺「ーーーただ、もし、技術開発局の現局長が、多数が証言する通りの人物だった場合ーーー」






真宮寺「ーーーその人の元で、百田君と入間さんがやっていけるとは、とても思えないネ」





キーボ「……ちょっと待ってください。入間さんならまだしも、百田クンとまで相性が悪いんですか?」

真宮寺「そうだネ。それも致命的なまでに」

キーボ「致命的なまでに百田クンと相性が悪いだなんて、そんなーーー」

真宮寺「百田君のような人だからこそ、だヨ」

真宮寺「……もし、技術開発局の現局長が、多数が証言する通りの人物だった場合、その人の元で百田君がやっていけるはずがない」



真宮寺「僕はそう信じているヨ」



キーボ「………」

アンジー「………」





キーボ「……その現在の局長って、どのような人なんですか? ものすごく気になるんですが……」



真宮寺「それは、言えないかな……」



キーボ「どうして、言えないんですか?」



真宮寺「さっきも言った通り、僕はその人と直接話すことができたわけじゃあない。だから、僕の口から断定するような……偏った認識を植えつけるようなことは、なるべく言いたくないんだヨ」



キーボ「………」



真宮寺「僕は、今を生きる特定の誰かを、デリケートな部分まで評する場合、可能な限りその人と直接話をした上で行いたい」

真宮寺「……そうでないと失礼な気がするんだ。たとえ、相手がどういう人であったとしても」

真宮寺「だから、僕の口から言うことは、とてもじゃないけどできないんだヨ」



キーボ「……そうですか。それなら仕方がないですね」

アンジー「………」





キーボ「しかし、そうなると、入間さんも百田クンも、技術開発局に入るのは難しそうですね」

真宮寺「……そうだネ。しかも、技術開発局は、瀞霊廷における最先端技術の集まる場所」

真宮寺「そこに行かずして科学者として研究を行うのは、難しいと言わざるを得ないヨ」

キーボ「……他に、研究機関はないんですか?」

真宮寺「……他にあるとすれば、貴族が抱える独自の研究機関になるだろうネ」

キーボ「……貴族?」

真宮寺「……実は尸魂界には、王族だけでなく貴族も存在していてネ。充分な財源を確保できる裕福な家であれば、そこで独自の研究機関を抱えていることはある」

真宮寺「そこでなら、技術開発局のそれには及ばないまでもーーー科学者として研究を行うことはできるはずだヨ」

キーボ「なるほど……」

アンジー「………」

真宮寺「まァ、都合よく貴族の研究機関に勤められるとは限らないけれどーーー入間さんほどの才能や百田君ほどの心の強さがあれば、可能性は高いと思うヨ」

真宮寺「人事としても、あれほどの人材を遊ばせておくのは、避けたいことだろうからネ」

真宮寺「おそらくは、信頼できる貴族が抱える研究機関の元に、配属されるんじゃないかと思うヨ」

真宮寺「……もっとも、技術開発局ではない場所で、どこまで科学者として大成できるかはわからないけどネ」





真宮寺「……いや、入間さんなら、持ち前の才能でどうにかできるかもしれないけど、この場合は貴族の元で働くことになるわけだからネ」

真宮寺「どんなに才能があったとしても、あの言動の根本を改めないと、最悪、不敬罪で処断されかねない」

真宮寺「それらを考慮するとーーー」



キーボ「ーーー大丈夫ですよ、入間さんと百田クンならば」



真宮寺「………」

アンジー「………」





キーボ「……入間さんと百田クンなら、きっと上手くやっていけます」

キーボ「あの学園での経験が記憶に残っているのであれば、それと向き合い、己の糧にできる」

キーボ「お互いに必要なところを学び合って補い、支え合うことだってできる」



キーボ「……大変なこともあるかもしれませんがーーーそれでも、今の入間さん達ならば上手くやっていける」



キーボ「ボクは、そう、信じたいです」





真宮寺「……そうだネ」

真宮寺「実際、君の言う通り、入間さんと百田君は、今でもお互いに学び合っている」

キーボ「!」

真宮寺「百田君は、 “ 常識の範囲内で ” 可能な限り入間さんと一緒にいるようにして、彼女を通して発想力を学んでいる」

真宮寺「入間さんも百田君を “ 信頼して ” 、彼が自分と一緒にいることを許し、その上で百田君からコミュニケーション能力や精神論を教わっている」

キーボ「………」

真宮寺「……過去と向き合い、己の糧としている」

真宮寺「お互いに必要なところを学び合って補い、支え合っているんだ」

真宮寺「これからも、そう在り続けることを望むヨ」

キーボ「……そうですね」

アンジー「………」





真宮寺「ーーーとりあえずとして、以上が百田君達が死神を目指す主な理由だネーーー」



キーボ「………」



真宮寺「ーーー何か質問はあるかい?」






キーボ「……それでは、二つ、良いですか?」

真宮寺「何かな?」

キーボ「……まず一つ目の質問ですが、死神になろうとしているみなさんは、もう死神学校に入学しているのですか?」

真宮寺「……いや、それはまだだヨ」

真宮寺「みんなも熟慮の末に死神になる道を選んだからネ」

アンジー「………」

真宮寺「死神の学校に入学する手続きをしたのも比較的最近の話だから。まだ入学はできておらず、死神になるための勉強と生活のためのアルバイトを重ねているのが現状だヨ」

キーボ「……わかりました。ありがとうございます」



キーボ「……それでは、二つ目の質問ですがーーー」



キーボ「ーーーと、その前に確認しておきますが、真宮寺クンの話によると、死神はこの世界の管理者側に位置する存在ですよね?」

真宮寺「……そうだけど?」

キーボ「ーーーわかりました。それでは二つ目の質問に移ります」

真宮寺「………」

キーボ「……キミの話の通り、六年かけて死神になれば、現世に関する詳しい情報を得ることは可能なのでしょうか?」





真宮寺「……普通に可能だと思うヨ?」

キーボ「!」

真宮寺「どうしてそんなことを聞くんだい?」

キーボ「……いえ、単純に気になっただけです」



アンジー「………」



真宮寺「……まァ、詳しい情報を得るとしても、条件はあるだろうけどネ」

キーボ「条件、ですか?」

真宮寺「そうだネ。たとえば情報の伝達制限などが挙げられるネ」





真宮寺「貴族や死神は、現世の情報を得たとしても、それが尸魂界に混乱を引き起こすような内容である場合、その詳細を民間人に伝えることを禁止されている立場にある」

真宮寺「基本的に、ネ」

真宮寺「なお、これは、何らかの理由で貴族や死神を辞めた場合でも同じだ」

真宮寺「故に、何でも伝えられるわけではないんだヨ」

キーボ「……伝える相手が、一人だけでも、ですか?」

真宮寺「……一人だけでも、間違いなく問題になるヨ」

真宮寺「一人だけだろうと、ルールを破ることを許してしまえば、それが前例となってしまう」

真宮寺「そして、一度ルール破りを許すという前例を作ってしまったが最後、何度も繰り返されかねない。そうなれば、社会全体に致命的な破綻を引き起こす可能性だって生じてくる」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「だから、よほど特別な理由がない限りは、一人たりとも認められないだろうネ」



キーボ「……なるほど、よくわかりました」





キーボ(……浦原さんから、いろいろと聞くのは、難しそうですね……)




真宮寺「……さて、そろそろ赤松さん達についての説明に移っても良いかな?」



キーボ「……お願いします」



アンジー「………」





真宮寺「ーーーそれじゃあ、最後に赤松さん、天海君、星君、王馬君の四人について説明するヨ」



キーボ「……赤松さん達は死神になるわけではないんですよね? 何を目指しているのでしょうか?」



真宮寺「……赤松さん達は、芸人を目指しているのサ」



キーボ「芸人……ひょっとして、音楽芸人でしょうか?」





真宮寺「……その通りだヨ、キーボ君」



キーボ「………」



真宮寺「赤松さん達は音楽芸人を目指している」





アンジー「ーーー楓はねー、美兎が作ったピアノを弾いてるんだー!」



キーボ「……そうなんですか?」



アンジー「そうなんだよー!」

アンジー「その間に、小吉たちが踊ったり回ったり、いろいろ楽しいショーを見せてくれたりもー!」



真宮寺「……夜長さんの言う通りだヨ」

真宮寺「赤松さん達は、そういったことをして、生計を立てられるようになることを目指しているのサ」





キーボ「ピアノで、ショー、ですか……」

キーボ「……一応確認しておきますが、この死後の世界において、ピアノとはどのくらい一般的なものなのでしょうか?」



真宮寺「……少なくとも、死神達にとっては、そこまで一般的なものではないネ」



キーボ「……確かに、この死後の世界の文化は、平安から江戸時代のそれに近いようですからね」

キーボ「逆にピアノが大流行りしているという方が驚きです」



アンジー「……でもでもー、それでも楓はーーー」



キーボ「ーーーわかっていますよ」



アンジー「……本当にー?」



キーボ「ええ、わかっています」

キーボ「演奏するのは、あの赤松さんですよ?」

キーボ「彼女なら、多少の文化の違いくらい、ものともしない……」

キーボ「『想い』のこもった演奏を、人々の心に届けようとしている。そうでしょう?」



アンジー「……にゃはははー! 大アタリだねー、キーボ!」

真宮寺「……まったくもって、その通りと言わざるを得ないネ」





キーボ「ーーーただ、それでも気になるところはありますけどね」



真宮寺「……それは、ひょっとして、赤松さんが王馬君と一緒に芸人となったことを気にしているのかな?」



キーボ「ええ、その通りです」

アンジー「………」



キーボ「一緒に芸人になれるということは、今の王馬クンは無害なんでしょうけどーーー」

キーボ「ーーーどうすれば、王馬クンが無害になれるのか、少しイメージしづらいです」

キーボ「いったい王馬クンに、何があったというのでしょうか?」





真宮寺「……まァ、赤松さん達と仲良くなったとでも言っておくヨ」

キーボ「仲良く、ですか」

真宮寺「……もっとも、王馬君に、はじめはそんなつもりはなかったらしい」

アンジー「だから、最初はひとりで、どこか違うところに行こうとしてたんだってー」

キーボ「一人で……」

真宮寺「……もちろん、王馬君としては、みんなの気持ちを考えて、一人になろうとしたんだろうけどサ」

真宮寺「それに赤松さん達が気づいて、必死に引き止めたんだヨ」

真宮寺「……赤松さんは、今度こそ、みんなで友達になることを、望んでいたから………」



キーボ「………」



真宮寺「……僕はその引き止めた現場を見たわけではないのだけれどーーー赤松さん達は王馬君と向き合って、根気よく説得したようでネ」

アンジー「最後は、すごく仲良しになって、一緒に芸人になることに決めたんだってー!」

真宮寺「……ただし、王馬君が何を仕出かすかわからないということで、天海君と星君も、王馬君の監視という名目で一緒に芸人になることにはなったんだけどネ」



キーボ「なるほど……そういった事情が……」





真宮寺「ーーー以上で、みんなについての話を終えさせて貰うヨ」



キーボ「ありがとうございます。真宮寺クン、アンジーさんも……」



アンジー「………」



真宮寺「ククク……何かわからないところがあれば、いつでも聞いてくれて構わないヨ?」





キーボ「……それでは、一つ、良いですか?」

真宮寺「うん、何かな?」

キーボ「なぜ、キミ達は、赤松さん達のようにセイレイテイに住まないのでしょうか?」



真宮寺「………」

アンジー「…………」



キーボ「赤松さん達に霊力があったことから考えて、キミ達にも霊力があると考えるのが自然です」

キーボ「なのに、どうして、キミ達は赤松さん達のようにセイレイテイに住まないのでしょうか?」



キーボ「……キミ達は、ボクのように、存在自体がイレギュラーというわけでもないのですから」

キーボ「ならば、霊力さえあれば、問題なく住めるはずですがーーーー」








真宮寺「………」






アンジー「………」








キーボ「……? 二人とも、どうかされたんですかーーー」

アンジー「さあねー? アンジーはよくわからないやー! にゃはははー!」

キーボ「……わからない?」



真宮寺「……アー、とりあえず、僕については答えるヨ」



キーボ「真宮寺クン……?」

真宮寺「君の言う通り、僕は霊力を持っている。だけど、瀞霊廷には住めない」

キーボ「……え?」



アンジー「………」



キーボ「それは、どういうーーー」



真宮寺「近いうちに、消えるからサ」





キーボ「消える……?」



真宮寺「……僕の霊力は、赤松さん達のそれと違って、期間限定のものなんだヨ」

真宮寺「だから、瀞霊廷に住むことはできないんだ」



キーボ「……期間限定って、どういうことなんですか?」



真宮寺「……詳しいメカニズムは知らない」



アンジー「………」



真宮寺「ただ、魂魄が酷く損壊すると、少しずつ霊力が消えていくこともあるようでネ」





キーボ「魂魄が、損壊……?」



真宮寺「………」



キーボ「…………」









キーボ「………っ、!!!」





キーボ(ーーーそんな、まさかーーー)




真宮寺「………」




キーボ(ーーー “ あれ ” は、悪意による合成映像ではーーー)




真宮寺「ーーーとにかく、僕の霊力は期間限定のもの」



真宮寺「その消えていく『力』は、何をどうしようと、まず取り戻すこと叶わない」



真宮寺「消えていく速度も徐々に上がり続けーーーいずれは、跡形もなく消え失せるだろう」



キーボ「………」



真宮寺「……瀞霊廷への居住申請が通るはずがないんだヨ」





アンジー「……だからねー、アンジーは、是清もここに住めるよう、空鶴たちにお願いしたんだー」

キーボ「……アンジー、さん、が?」

アンジー「そうだよー、空鶴たちは優しくてねー。行くアテのないアンジーに、この家の掃除をお手伝いする仕事を紹介してくれたんだー」

アンジー「しかも、空鶴たちは、アンジーに仕事を紹介してくれたあと、もう一人募集してたからねー」

アンジー「それで、アンジーが、 “ 是清も ” ってお願いしたら、叶えてくれたのー!」



アンジー「……空鶴たちには感謝しかないよー、にゃはははー!」



キーボ「………」





キーボ「……なぜ、ですか?」






アンジー「………」






キーボ「なぜ、アンジーさんは、自分からーーーー」





アンジー「……あー、キーボ、ちょっとアンジーの部屋に来てくれるー?」

キーボ「えっ……?」

真宮寺「………」

アンジー「来てー?」

キーボ「いや、しかしーーー」

アンジー「いいから、来てー?」

キーボ「……はい」





アンジー「……ごめんね、是清、ちょっと、キーボとふたりで話してくるから、男のお風呂にでも入っといてー」

真宮寺「……わかったヨ、夜長さん」

真宮寺「今のうちに入浴させて貰うとするヨ……」

キーボ「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





スタスタ……



アンジー「とうちゃーく!」バタンッ

キーボ「……こちらがアンジーさんのお部屋ですか」

アンジー「………」ガチャリ

キーボ「ーーー思っていたよりも、さっぱりしているんですね」



ガラーン……



キーボ「アンジーさんの作品らしきものも見当たりませんしーーー」



アンジー「………」



キーボ「ーーー少し、意外でした」





アンジー「……キレイに使わないと空鶴に怒られちゃうからねー」






キーボ「……あー、そういうことでしたか」






アンジー「ーーーって、そんなことよりも、さっきの質問の続きだけど……一応その先を聞かせてくれるー?」





キーボ「……わかりました。続きを言わせて頂きます」

キーボ「なぜ、アンジーさんは、真宮寺クンと一緒に住まわせて貰うよう、お願いしたんですか?」



アンジー「………」



キーボ「……淋しさを埋めるためだとしても、それならこの家には、ガンジュ…クン達がいるじゃないですか」

キーボ「あの人達と一緒にいるだけでも、淋しさは吹き飛ぶんじゃないですか?」





アンジー「……うんうん、それには島から見える海よりも深いものがあってねー」

アンジー「それを話すと、どうしても是清のことまで話すことになるんだよー。そうしないと意味が通じないからねー」



キーボ「………」



アンジー「まー、是清に聞けば、答えてくれるだろうけど……あの話を是清の口から言うのは、是清としても辛いだろうからねー」

アンジー「だから、今回だけ特別に、アンジーの口から、是清と居候する理由を話すことにするよー」



キーボ「……わかりました。お願いします」





アンジー「……それで、アンジーが是清と一緒に住むことを頼んだ理由だけどーーー」






キーボ「………」






アンジー「ーーー “ もう意味はない ” からだねー」





キーボ「ーーー “ もう意味はない ” ことは知っています」

キーボ「ここは死後の世界ですし……何より真宮寺クン自身が、 “ あの人 ” に縋ることをやめたようですからね」

キーボ「だとしたら、真宮寺クンが奇怪な行為に手を染める “ 意味はない ” 、故に今の真宮寺クンは無害ーーー」



キーボ「ーーーそう、仰りたいのでしょう?」



アンジー「……うんうん、その通りだよー、キーボ!」



キーボ「確かに、それならば、一緒にいてあげても構わないと、思えることもあるのかもしれませんがーーー」

キーボ「ーーーだからといって、信じられるんですか?」



キーボ「あの、真宮寺クンのことを」



アンジー「………」



キーボ「……ひょっとしたら、かつて自分の中にいた “ あの人 ” が幻だった事実にーーー真宮寺クンは耐えられなくなるかもしれません……」



アンジー「………」



キーボ「……それで、狂乱の果てに、また同じことをーーーー」





アンジー「……それはないよ」

キーボ「……なぜ、そう言いきれるんですか?」

アンジー「だって、今の是清はーーーー」



アンジー「ーーー本当の “ あの人 ” のーーー」







アンジー「ーーーそして、みんなの『想い』のために、生きているから」





キーボ「……本当の、 “ あの人 ” ?」



アンジー「是清はねー、聞いたんだー」

アンジー「しにがみ、から、 “ あの人 ” の伝言を」



キーボ「………」



アンジー「伝言の内容はねー、是清はー、【是清自身とその友達を大切にして欲しい】って話だったみたいだねー」



キーボ「真宮寺クン、自身の……?」



アンジー「そう、 “ あの人 ” は、それを、是清がこの死後の世界に来たら伝えるよう、しにがみに頼んだんだってー」





アンジー「ーーーしにがみが言うには、 “ あの人 ” はどういうわけか、現世で生きていた時のことについて、ほとんど話さなかったみたいでねー」

アンジー「だけど、それでも、是清に言葉を送ることを選んだってー。それも、自分のことじゃなくてー、是清やその友達のことを大切にして欲しい、って、内容の言葉を」

キーボ「………」

アンジー「しかも、しにがみは、 “ あの人 ” は是清が言ってたような人じゃないって、根気よく是清に話したみたいだねー」

アンジー「……だからかなー」

アンジー「是清は、 “ あの人 ” からの伝言を受けてからいろいろ考えてー……人の心を、人の『想い』を、本当の意味で大切にする生き方をするって決めたんだってー」



キーボ「………」



アンジー「……本気の本気で、そう決めたみたいなんだ」

アンジー「だから、もう是清は、大丈夫なんだよー」





キーボ「ーーーですが、それは、よく知らない人からの情報ですよね? 真宮寺クンがそういった情報を信じたんですか?」

アンジー「……そうだねー、信じたんだねー」

キーボ「なぜ、信じたのでしょうか?」

アンジー「それはねー、是清が人を観察し続けてきたからなんだってー」

キーボ「……観察ですか」

アンジー「うん、是清は人を観察し続けてきた」

アンジー「だから、長く話しているとー、その人が誰をどう大切に想っているかがわかるみたいー」

アンジー「実際に、しにがみは、 “ あの人 ” はもちろん、伝言の相手の是清のことも、大切に想ってたんだってー」

アンジー「その気持ちが、是清にも伝わったみたいだねー」





キーボ「……大切って、その死神の人と “ あの人 ” は、いったいどんな関係だったんですか?」

アンジー「先生とー、教え子だねー」

キーボ「………」

アンジー「しにがみは先生でー、 “ あの人 ” は、見習いのしにがみだったんだってー」

キーボ「死神の……見習い?」

アンジー「……なんでもねー? しにがみ学校の生徒は、しにがみとしての『すごい才能』があれば、しにがみの見習いになることがあるんだってー」

アンジー「実際に、 “ あの人 ” は、しにがみとして、『すごい才能』があったみたいー」

アンジー「だから、 “ あの人 ” は、見習いのしにがみでーーー」



アンジー「ーーーその見習いを育てる先生が、是清と話をした、しにがみだったんだってー」





キーボ「……ちょっと待ってください。 “ あの人 ” は見習いの死神だったんですか?」

アンジー「んー? そう言ってるけどー?」

キーボ「だったら、どうして正式に死神となる前に生まれ変わったんですか?」

キーボ「真宮寺クンが言うにはとっくに生まれ変わったってーーー」



アンジー「ーーーそうしないと、いけない事情があったからだよー」



キーボ「……事情?」



アンジー「……なんでもねー? “ あの人 ” は、虚(ホロウ)……しにがみが言う悪い幽霊の名前なんだけど、その悪い幽霊に襲われて死にかけたみたいなんだよー」

アンジー「それで、なんとか、命は繋げたけど、代わりに魂がすごく傷ついたみたいでねー?」

アンジー「……そのせいで霊力を失ってー、しかも是清と違って、すぐに、ぜんぶ失ってー.……」

アンジー「……瀞霊廷に住む資格を失った後、生まれ変わることになったんだってー」



キーボ「………」





アンジー「…… “ あの人 ” は、瀞霊廷に住んでいた。だから、住めない人から、差別されやすかったみたいー」



キーボ「差別……」



アンジー「しかも、 “ あの人 ” は、すごい美人さんだったみたいでねー? そういうことを理由に襲われたりすることを、ものすごい、こわがったらしいんだー」

アンジー「……それで、瀞霊廷の外に住むんじゃなくて、すぐに生まれ変わることにしたんだってー」



キーボ「………」





アンジー「……あー、話を戻すけどー、ふたりはすごく仲の良い見習いと先生だったみたいでねー?」

アンジー「だから、しにがみの先生は、 “ あの人 ” を大切に想ってたしー、伝言相手の是清のことも、大切に想ってたみたいだねー」

アンジー「その気持ちが、是清にも伝わったみたいなんだよー」



キーボ「………」



アンジー「……それで、是清は、しにがみの伝言を信じて、いろいろと考えて考えてーーー」



アンジー「ーーー最後には、【もう人の心を、想いを踏みにじりたくない】って考えるようになって、これまでとは違う生き方を選んだんだー」



キーボ「………」





アンジー「……それから、是清は、やらなきゃいけないことを考えた」

アンジー「 “ あの人 ” だけじゃない、みんなの心を、想いを、どう大切にすべきか考えた」

アンジー「それで、是清は、アンジーに、みんなに、頭を下げた」

アンジー「いっぱい、いっぱい、頭を下げたんだよ」



キーボ「………」



アンジー「アンジーはねー? そんな是清なら、信じられると思ったんだー」

アンジー「そんな是清と一緒にいれば、それだけ淋しくなくなるって」



アンジー「そう、思ったんだー」



アンジー「だから、一緒に住むことを、空鶴たちにお願いしたんだよー」





アンジー「……それから、是清は、アンジーが退屈しないように、この家や図書館から借りた本を読んでくれたりーーー」

アンジー「ーーー難しい本で勉強して、アンジーにいろいろ面白い話してくれるようになったんだー」



キーボ「………」



アンジー「……今では、そういう意味でも、一緒にいたいって思える」



アンジー「……この気持ち、そんなにダメかな?」





キーボ「………」



キーボ「…………」









キーボ「………………」





キーボ「……それが、アンジーさんの望みならば、誰かが無理に止めるようなことではありませんよ」

アンジー「………」

キーボ「実際に、百田クン達からも止められていないのでしょう?」

アンジー「……うん、解斗たちは、止めなかった」

キーボ「………」

アンジー「……もちろん、最初は止めようとはしたけど、アンジーが良いならって、認めてくれたんだー」



キーボ「……それに加えて、ここの家主のクウカクさん達が、アンジーさん達を任せられる、信頼できる人だった」

キーボ「だからこそ、今の状況が成立している」

キーボ「きっと、そういうことなんでしょう……」



アンジー「………」



キーボ「……ならば、ボクも、アンジーさんの意志を尊重しますよ」





アンジー「……ありがと、キーボ……」



キーボ「ーーーただーーー」



アンジー「……?」







キーボ「ーーーただ、一つ、聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」





アンジー「ーーー何かな?」



キーボ「………」



アンジー「答えるよ?」



アンジー「それが、アンジーに答えられることなら」





キーボ「……ならば、聞かせて頂きます」



アンジー「………」



キーボ「ボクが聞きたいこと、それはーーー」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





バタン……



キーボ「………」ガチャリ



真宮寺「……お帰りなさい、キーボ君」

真宮寺「これから僕達が夜を共にする、この部屋まで」



キーボ「……おかしな言い回しはしないでください」



真宮寺「……そうだネ。ちょっと誤解を招く表現だったかもしれないネ」

真宮寺「これからは、気をつけるヨ」



キーボ「………」





真宮寺「……それで、夜長さんとの話は終わったのかい?」



キーボ「……ええ、まあ」



真宮寺「……夜長さんは?」



キーボ「アンジーさんなら、女性用の風呂場まで向かうとのことでした」



キーボ「……入浴が終わり次第、就寝に移るそうです」





真宮寺「……確かに、そろそろ寝た方が良い時間だネ」



キーボ「………」



真宮寺「……うん、僕も、もうそろそろ寝ることにするヨ」



キーボ「……ボクも一緒ですからね」











真宮寺「……ごめんネ」











キーボ「……何に謝っているんですか」

真宮寺「……何もかもサ」

真宮寺「僕はーーー」

キーボ「ーーーボクにそれを言うくらいなら、これから “ しっかりと ” 生きてください。それが、キミが一番やり続けなければいけないことでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「……これからもこの死後の世界について教えてください」



真宮寺「!」



キーボ「それが、ボクの、当面の望みです」





真宮寺「………」



真宮寺「…………」






真宮寺「………………」





真宮寺「……もちろん、だヨ」



キーボ「………」



真宮寺「僕に答えられることなら……なんだって、答えてみせるヨ」





キーボ「……それなら、今ここでボクの質問に一つ答えて頂けますか?」

真宮寺「……質問?」

キーボ「真宮寺クン」

真宮寺「……なんだい?」







キーボ「キミは、この死後の世界に来る前に、夢を見ましたか?」





真宮寺「夢……?」

キーボ「……実はボクの記憶領域には、この世界に来るより前に、夢ともエラーともわからない光景が刻まれているんです」

キーボ「そして、その内容は……ボクら死者が、みんな同じ場所に囚われているというものでした」

真宮寺「……囚われる? あの学園のことかい?」

キーボ「いえ、違います。もっと、暗くて、狭い空間でした」

キーボ「気づいたらそこにいて……囚われているみんなを見ていたら突然エネルギー不足に陥ったかのように力が抜けてーーーうつぶせに身体が倒れてしまいました」

キーボ「その後も、急に重力が倍になったかのごとく、上手く身体を動かすことができなくてーーー」



真宮寺「………」



キーボ「ーーーそうして、もがいている中、光が降り注いできたんです」





真宮寺「……光?」



キーボ「……ただの光じゃありません」



真宮寺「………」



キーボ「天使の光です」





真宮寺「……天使?」

キーボ「ええ、そうです」

キーボ「光が降り注いでくる中、見上げると光り輝く天使がいたんです」



真宮寺「……それは、死神の間違いじゃなくて?」

キーボ「……おそらく、違います」

真宮寺「……人型の黒装束ではないんだネ?」

キーボ「……明らかに、違います」

真宮寺「………」








キーボ(……それに、あの、あたたかな感覚ーーー)








キーボ(ーーーあれは、まるでーーーー)








真宮寺「……それ、写真にはできるかな?」

キーボ「………」

真宮寺「……あァ、何だったら、入間さんがここに置いていった、君用の現像機を使うかい?」

真宮寺「あれなら、外付けではあるけど、写真にできるはずーーー」



キーボ「ーーー残念ですが、写真にするのは難しいですね」



真宮寺「……そうなの?」

キーボ「ええ……急に倒れたことによる衝撃が理由かは不明ですが、記憶領域にある映像の解像度は高くありませんでした」

真宮寺「……なるほど、だから写真にすることは難しい、と」

キーボ「……そうですね」





キーボ「……ですが、それでも記憶領域に残された映像は、一般的にイメージされる天使のそれでした」



真宮寺「………」



キーボ「その天使を見上げていたら、どういうわけか空の暗闇にヒビが入りましてね」

キーボ「そのヒビから、さらなる光が降り注いできたと思ったら気を失ってーーー」



キーボ「ーーー気づいた時には、この世界にいたんです」



真宮寺「………」



キーボ「……もしかしたら、キミも、そうした夢をーーー」



真宮寺「……悪いけど、僕にそんな記憶はないヨ」



キーボ「……そうですか」





真宮寺「……ひょっとして、夜長さんにも、同じことを聞いたのかい?」

キーボ「ええ、去り際に、一応」

真宮寺「……夜長さんは、何て?」

キーボ「……実は、アンジーさんも同じように、夢を見ていたようでーーー」



真宮寺「!」



キーボ「ーーー先ほど話した “ 光 ” 」



キーボ「……あるいは、アンジーさんも、ボクと同じものを認識していたのかもしれません」





真宮寺「……かも、しれない?」



キーボ「……ええ……」

キーボ「アンジーさんは、夢の内容について語る際、ビカビカーという擬音語を出していましたので」

キーボ「同じ光を、認識していた可能性はあると思います」



真宮寺「………」



キーボ「ただ、アンジーさんは、その時意識が曖昧だったようで、光以外は認識できていなかったようですが」





真宮寺「ーーー興味深い話だネ」

キーボ「………」

真宮寺「実に、実に、知的好奇心を刺激させられる話だヨ」



真宮寺「想像力を掻き立てる」



キーボ「………」



真宮寺「……ただ、僕は早起きでネ。もうそろそろ寝ないといけない時間が来てしまう」

真宮寺「夢の考察は、またの機会にさせて貰うヨ」



キーボ「……そうですか」



真宮寺「……そろそろ部屋の明かり、消しても良いかな?」



キーボ「……どうぞ」





真宮寺「……ホタルカズラO」

真宮寺「今日も、照らしてくれて、ありがとう」

真宮寺「 “ お疲れ様 ” 」



フッ……



キーボ「ーーーキミが寝る前に断っておきますが、キミが寝ている間も、ボクは起きていますからね」

真宮寺「……まァ、君は寝る必要がなさそうだからネ」

キーボ「ええ、先ほど夢を見たかのようなことを言っておいてなんですがーーーボクはキミ達で言うところの睡眠が必要ではありません」

キーボ「身体の動きを止めているだけでも充分な休息になります」

キーボ「なので、キミが用意したこの布団の上で、そうさせて貰いますね」

真宮寺「………」





キーボ「また、今のボクの視力と聴力はとても高いです。そのため、この暗闇の中でもキミが何か妙な真似をすれば、すぐにわかります」

真宮寺「……初耳だネ」

キーボ「事実です」

真宮寺「……僕の指、何本に見える?」

キーボ「現在立たせている指でしたら、左手の親指、薬指、小指と右手の親指、中指、薬指、小指の計七本です。ああ、今急いで小指二本に変えましたね」



真宮寺「……正解だヨ」





真宮寺「………………ねェ、僕が今ーーー」

キーボ「ああ、今のキミが、うっすら呟いた言葉ならわかりますよ」

キーボ「 “ 一昨日の夕飯はおでん ” 、そうでしょう?」

真宮寺「……それも正解だヨ」

キーボ「わかって頂けました?」

真宮寺「……こわいほどにネ」

キーボ「そして、今のボクは大した力はありませんが、音声のボリュームを上げる機能は付いています」

キーボ「それで叫び続ければ、近くにいるキミの脳はダメージを受け身体の動きは鈍ります」

キーボ「その後、ボクにのしかかられた場合、キミはまともに身動きが取れなくなるでしょうね」



真宮寺「………」



キーボ「それからも叫び続ければ、キミの脳のダメージは増大し、あまりのうるささにクウカクさん達も起きて、ここに駆けつけてくるでしょう」

キーボ「そのことを決して忘れないよう、お願いします」



真宮寺「……肝に銘じておくとするヨ」





キーボ「……それと最後にーーー」



真宮寺「……何かな?」



キーボ「ーーーおやすみなさい、真宮寺クン」



真宮寺「………」



キーボ「そして、今日は休日の中、いろいろ気遣ってくれて、本当にありがとうございました」

キーボ「物理的なお礼をするかはまだ未定ですがーーー精神的なお礼はいま実行します」



キーボ「……ありがとう、ございました」





真宮寺「……そうかい」

キーボ「………」

真宮寺「喜んでくれたのなら、何よりだヨ……」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





ー翌日・志波家の庭ー



真宮寺「ーーー以上で、今日の仕事……今日の、この夕方までに行う分の掃除は終わりだヨ」

キーボ「……お疲れ様です。真宮寺クン、アンジーさん」

アンジー「お疲れー!是清ー、キーボ!」

真宮寺「お疲れ様だネ。夜長さん、キーボ君」


キーボ(……ボクは疲れないのですがーーーそれでも、労わって貰うというのは、悪いものではありませんね、やはり)





キーボ「……それで、真宮寺クン」

キーボ「今日の、朝食前に交わした約束についてですがーーー」

真宮寺「わかっているヨ。この世界についての説明を改めて行う」

真宮寺「それに、昨日は、流魂街や瀞霊廷などについて、そこまで詳しく話せたわけじゃなかったからネ」

真宮寺「今日はそうしたことを、しっかりと説明させて貰うヨ」



キーボ「……ありがとうございます、真宮寺クン」








アンジー「……ねーねー、キーボ、是清、よかったらーーー」






岩鷲「おおう! オメーら、終わったか!」









アンジー「………」

キーボ「あっ、岩鷲クン」

真宮寺「お帰り……薪拾いは終わったのかい?」

岩鷲「おう! そのくらい、朝飯前よ!」

キーボ「?」

キーボ「待ってください。朝食でしたら、朝の時点で終わっていてーーー夕刻を迎えた現在、今日の食事は夕飯を残すだけのはずですよ?」

キーボ「なのに、どうして、朝飯前なんてーーー」



アンジー「……キーボは、アンジー以上に日本語の勉強が必要みたいだねー」

真宮寺「……君の言語データには、朝飯前という言葉の使い方がないのかな?」





キーボ「えっ、あー、ちょっと待ってください……」



キーボ「……ああ、ありますね。申し訳ありません。データの認識が不充分だったようです」

岩鷲「なっはっは! 気にすんな! 誰にだって失敗はある!」

岩鷲「俺だって、ここに来る前、うっかりオメーのこと話しちまったからな!」

キーボ「……なっ、!?」

岩鷲「いや、そいつらは昔の居候共なんだがよ。流魂街に現れた謎の “ ろぼっと ” について聞かれてな」



岩鷲「そうしたら、話の流れでポロっとーーー」



空鶴「ーーーどういうつもりだ、岩鷲?」





岩鷲「ーーーね、姉ちゃん!」

空鶴「なんで、そんなことをした?」

岩鷲「あっ、いや、だから、そのーーー」

空鶴「テメエの今の狼狽えっぷりからして、キーボ本人が、 “ そうしてくれて構わない ” って言ったわけでもねえんだろ?」



岩鷲「うぐっ……」

キーボ「………」



空鶴「……それをする必要があっても、まずは、家主のおれに許可を取れっつったよな?」

空鶴「なのに、どうして、勝手に話した? ああ?」





岩鷲「……あ、いや、でも、あいつらは、無駄に話が広まんないように “ 工夫 ” してくれてーーーその上で俺は話をしたんだ」



真宮寺「………」

アンジー「………」



岩鷲「それに、あいつらなら、口だって固えしーーー」






空鶴「ーーーそれが、おれの “ 決まり付け ” を破った言い訳か? 岩鷲?」





岩鷲「あ……」



空鶴「…………」









岩鷲「……びゃああああああああああああ!!!」





ーGAME OVERー






ガンジュくんがクロに決まりました。おしおきを開始します。





岩鷲「どわああああああああああああああ!!?」



チュッドーンッ!!



キーボ「岩鷲クーーーン!!?」ガガーンッ



アンジー「あー、これまたよく飛んだねー」

真宮寺「そうだネ。毎度のことながら、空鶴さんの花火師としての腕には感心するヨ」

キーボ「な、何を言っているんですか、二人とも!?」

アンジー「んー? どうしたー、キーボ?」

キーボ「どうもこうもありませんよ!?」

キーボ「目の前で処刑が行われたというのに、どうして、お二人はそんなーーー」



真宮寺「ーーー心配はいらないヨ」

アンジー「そうだねー、だってーーー」



ドサッ……



キーボ「ーーーえっ、?」



岩鷲「……いたたたた」ムクッ



アンジー&真宮寺「「普通に生きてるから」」





岩鷲「ケホッ……うおおっ、煤まみれ……」



キーボ「……!?」



岩鷲「……あっ、すまねえ、オメーら! 掃除したばっかだってのに、煤で汚しちまった!」



アンジー「……あー、大丈夫だよー、気にしないでー」

真宮寺「……それに、いま汚してしまったところは、今日清掃した場所じゃあないからね」

真宮寺「とりあえず、また気をつけてくれればそれで良いかな……」



岩鷲「悪いな、本当……!」





キーボ「………?!!?」

岩鷲「……それとは別に、すまなかった、キーボ! 勝手にオメーのこと話しちまって!」

キーボ「あっ、えっ……」

岩鷲「でも安心しろ! あいつらは口の固い連中だ! だから、オメーのことを知ったとしても、むやみに話したりはしねえし、おかしな真似はしねえ! 心配すんな!」

キーボ「うっ、あっ……」

岩鷲「……自称【数多の通り名を持つ男】の名にかけて、そこは保証ブゲオォッ!?」

空鶴「それ以上は、風呂と掃除の後だ! 岩鷲! 煤まみれで長話してんじゃねえ! 無駄に汚れるだろうが!」ズルズル

岩鷲「ええっ!? 煤まみれなのは、姉ちゃんがーーー」

空鶴「………」ズルズル

岩鷲「ーーーわ、わかった! わかったから! ちゃんと風呂も入るし、煤で汚したとこも、俺だけで今日中に掃除するから! 大砲の方まで引きずんのはやめてくれ、姉ちゃん!」





アンジー「……あー、行っちゃったねー」

真宮寺「まァ、あれだけ派手に打ち上げられたことだし、これ以上はフリだとは思うけどネ」



キーボ「ーーーなんですか、これは」



アンジー「んー?」

真宮寺「何ってそれはーーー」



キーボ「なんで大砲で打ち上げられた人が、生きているんですか!?」





真宮寺「ーーーあァ、それについては、簡単だヨ」

キーボ「??」

真宮寺「それは、岩鷲君の “ 霊圧 ” がとても大きいからサ」

キーボ「……レイアツ?」

真宮寺「霊圧とは、霊力ある魂魄が持つ圧力のことだヨ」

キーボ「圧力……ですか」

真宮寺「そう、霊力ある魂魄は圧力を持っている」

真宮寺「霊力があればあるほど、その圧力は大きくなる。故に、霊的な鍛錬を積んで、霊力の全体量を増やせば、霊圧も大きくなる」

真宮寺「そして、霊圧は、時に “ 気 ” のようなものとなって、それで周囲にいる人を叩きつけたり、押し潰すことも場合によっては可能だしーーー」

キーボ「!」

真宮寺「ーーーさっきの岩鷲君のように、ただ霊圧を持っているだけで、ほぼ自動的に身体の強度が高まり、損傷を防ぐことも可能なのサ」

キーボ「……そんなことがーーー」

真宮寺「現世じゃあり得ないような現象ではあるけどーーー “ 霊子 ” が基本の尸魂界では当たり前のことなんだヨ」





キーボ「……レイシ?」



真宮寺「霊子とは、僕達のこの魂魄など、霊的な物質を構成する原子のことサ」

真宮寺「霊子は、入間さん曰く、信じられないくらい自由度の高い原子のようでネ。彼女も、その存在を知った時には、あまりの衝撃に卒倒しかけたそうだヨ」



キーボ「………」



真宮寺「そういった原子が基本となる世界であるが故に、現世で普通に生きる人間の常識ではあり得ないような……いわゆる超常現象が当たり前に起きてしまうのサ」





真宮寺「……いや、まァ、正確には、現世でも多かれ少なかれ超常現象は起こり得るんだけどネ。霊子は現世にもあるわけだからサ」

真宮寺「だけど、それらのものを、現世で普通に生きてる人達が見て記憶することは “ 基本的に ” 不可能だ」

真宮寺「霊子やそれによって引き起こされる超常現象を、認識しきれないのが現状なんだヨ」



アンジー「………」



真宮寺「……【生前の時点から相応の霊力を持ち】【その影響で霊子などを、ある程度知覚可能になっている】などといった状況にあれば話は別だけど、そういうケースはとても少ないしーーー」



真宮寺「ーーーもしも、なんらかの理由で、本来霊力を持たない人達でも霊子などを知覚できることがあったとしても、それらは混乱防止のため、記換神機(きかんしんき)と呼ばれる記憶操作技術をもって、別の記憶に書き換えられてしまうだろうネ」



キーボ「………」



真宮寺「だから、現世で生きる、普通の人達の常識では、霊子やそれによる超常現象を、当たり前のものとされていない」

真宮寺「……もちろん、知らないもの、目に見えないものに対して、想像を働かせることはできるだろうけどーーー」



真宮寺「ーーー全容を知り、記憶し続けることが困難である以上、自分達の想像が実状と一致しているかどうか、死ぬまで確かめることはできない……」

真宮寺「……そう、実際に死亡して魂だけの状態になり、死の側の存在とならない限りは、霊子やそれによる現象を確かめるなんて、まず不可能……」



真宮寺「……故に、現世で普通に生きる大多数の人達は、自分達が死ぬまでの間、霊子やそれによる現象を、当たり前のものとして認識できない運命にあるのサ……」



キーボ「………」





アンジー「…………うんうん、今日も絶好調だねーーー【鰤清劇場】!」



真宮寺「……【ブリキ劇場】? どうして、そこでキーボ君が出てくるんだい?」

キーボ「なっ、違いますよ! アンジーさんは、【ブリキ劇場】ではなく、【ブリキヨ劇場】と言ったんです! ロボット差別に繋がるような聞き間違いはやめてください!」



アンジー「……そうだよー! キーボの言う通り、ブリキじゃなくて、ブリキヨなんだよー!」



アンジー「魚の “ 鰤 ” に、是清の “ 清 ” で、 “ 鰤清 ” なのだー! にゃはははー!」





キーボ「……ん? でも、なんで、そこで魚の鰤が登場するんですか?」



アンジー「んー? なんとなくー?」



キーボ「………」



真宮寺「……まァ、どういう考えをもって命名したかはともかく、夜長さんが付けてくれた名前であることに変わりはないからネ……」







真宮寺「……うん、僕は良いと思うヨ? 【鰤清劇場】」





アンジー「……にゃはははー! 是清のお墨付きだねー! これからも【鰤清劇場】よろしくだよー!」



真宮寺「……そうだネ。ちなみに、この後は、キーボ君にこの世界について更に詳しく説明するつもりだから、もし良ければ夜長さんもーーー」



アンジー「うんうん! アンジーも聴くよー! 何度聴いても飽きないからねー!」



キーボ「!」





アンジー「……そういうわけだからー」



キーボ「……?」



アンジー「……アンジーも、キーボと一緒に、聴いてもーーー」







アンジー「ーーー良い、かな?」





キーボ「……ええ、もちろんですよ! むしろ、こっちからお願いしたいくらいです!」



アンジー「!」



真宮寺「………」




キーボ(……アンジーさんと一緒の方が、和やかな気持ちで聴けそうですからね……)





アンジー「……ありがと、キーボ」



キーボ「? どうして、アンジーさんがお礼をーーー」



真宮寺「……アー、ちょっと良いかな?」



アンジー「……?」



キーボ「……真宮寺クン?」



真宮寺「……劇場を開く前に、留意しなければならないことがある」



真宮寺「その説明のため、いったん話題を岩鷲君の頑強さの件に戻させて貰うネ?」





真宮寺「……岩鷲君が空鶴さんに打ち上げられた件についてだけどーーーそれは誰であっても決して真似してはいけないヨ?」

真宮寺「それが、僕から伝える話サ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……さっき、打ち上げられても死なないとは言ったけどーーーそれはあくまで岩鷲君のような非常に大きな霊圧の持ち主だからこそ、起こり得ることだ」

真宮寺「霊的な鍛錬を重ねて……霊力の全体量を増やし、霊圧を上げた者だからこそ、可能なことなんだ」

真宮寺「僕達のような、小さな霊圧であんなことをやれば間違いなく死ぬだろうネ」



アンジー「………」



真宮寺「仮に、僕達に岩鷲君ほどの霊圧があったとしても、やり方を大きく誤れば死ぬことだってあり得る」

真宮寺「僕達だけじゃない、下にいる人も巻き込まれ、死ぬかもしれない」



キーボ「………」



真宮寺「……空鶴さんの岩鷲君に対する折檻ーーー」

真宮寺「ーーーそれは、岩鷲君が非常に大きな霊圧の持ち主であること、そして空鶴さんの花火師としての腕が優れているが故に、死を乗り越えて成立しているんだヨ」

真宮寺「……花火とは、時には人の命を奪う可能性を秘めた危険物であり、爆発物に他ならない。故に、花火師とは命の危険の伴う仕事だ」

真宮寺「花火師として、相応の腕を持たなければ、絶対に務まらない」





アンジー「………」

キーボ「………」



真宮寺「……もし、花火師としての小手先の技術を鍛えて小器用になれたとしても、命の……人の心や想いの大切さを知らない者には務まらない」

真宮寺「打ち上げられる存在に込められた心と想い、そして地上に残された存在に宿る心と想いーーー」



真宮寺「ーーーそれらの重みを誰よりも知っている人でなければ、油断して、加減を誤るかもしれないからネ」



真宮寺「死を乗り越えられないかもしれない」



真宮寺「……あの折檻は、岩鷲君が空鶴さんの弟であり、空鶴さんが岩鷲君の姉で、お互いの命ーーー」



真宮寺「ーーーお互いの心と想いの大切さを誰よりも知っている間柄だからこそ、成立していると言って良い」





真宮寺「……だから、あの折檻は、絶対に真似してはならない」

真宮寺「そのことを、絶対に忘れてはいけない」

真宮寺「以上が、僕から伝える話サ」



キーボ「……なるほど、よくわかりました。ボクの記憶領域にもしっかりと記録しておきますね」

アンジー「……アンジーも、改めて覚え直したよー!」

真宮寺「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー






ー鰤清劇場・1日目ー



真宮寺「ーーーさて、それじゃあ、約束通りに劇場を開かせて貰うヨ」



キーボ「お願いします」

アンジー「よろしくだよー!」



真宮寺「こちらこそ、だヨ」



真宮寺「それでなんだけどーーー今日は流魂街と瀞霊廷の詳細について説明させて貰うネ」



真宮寺「ただ、その説明をよりわかりやすいものにするためにも、まずは、これまで話した尸魂界の基本について、おさらいさせて貰うヨ」





真宮寺「……前にも説明した通り、この尸魂界は、現世で死んだ者達の魂魄が送られてくる死後の世界」

真宮寺「故に、そこに存在するものは、霊子という霊的な物質を構成する原子で構成されている」

真宮寺「そして、尸魂界の居住区は、瀞霊廷と流魂街の二つに大別される」

キーボ「……二つ、だけなんですね」

真宮寺「……そうだネ。居住区と呼べる場所は、主にその二つしかない」

真宮寺「なお、瀞霊廷は前にも話した通り、霊力ある魂魄しか住めないけれど、流魂街は誰でも住むことができる」

真宮寺「実際、現世で亡くなった人は、霊力の有無に関わらず、その魂魄を尸魂界の説明会場に送られ、死神から死後の世界についての説明を受けーーー」



真宮寺「ーーーその日のうちに、身元を示す手形や整理券などを貰い、記載された通りの流魂街の場所に、住むことになるのが基本だヨ」



キーボ「………」



真宮寺「……まァ、霊力ある魂魄は、死神に案内されて、瀞霊廷に住むことになるのが基本ではあるのだけれどネ」



アンジー「………」





キーボ「……それで、流魂街とは、具体的にどんな場所なんですか?」



真宮寺「……そうだネ。それじゃあ、おさらいはこの辺にして、流魂街の詳細について説明するヨ」



アンジー「………」



真宮寺「……流魂街とは、基本的に霊力を持たない魂魄が住み、生まれ変わりを待つ場所サ」

真宮寺「大まかには東西南北の領域に分かれていてーーー細かには東西南北それぞれ一から八十までの番地に分かれている」

真宮寺「ちなみに、僕らが今いるここは西の区域になるネ」

真宮寺「なお、流魂街は非常に広大なため、円滑な移動のために、あちこちに空間転移装置が設置されている」





キーボ「……空間転移装置?」

アンジー「うん、なんか割と最近ねー? 流魂街のいろんなところに置かれたんだってー」

真宮寺「そうだネ。現世でいうところのバス停のように設置され、流魂街での人々の行き来を非常に楽なものにしているんだ」

キーボ「そんなものが……」

真宮寺「ちなみに、その装置は、君が昨日この志波邸に来た際にも使われている」

キーボ「えっ……?」

アンジー「……本当はねー? この家と他の家ってすっごい遠いんだー」

キーボ「……そうなんですか?」

アンジー「そうだよー」

真宮寺「だからこそ、空間転移装置が使われている」

キーボ「……いや、しかし、ワープしたようにも見えなかったのですがーーー」

真宮寺「それは、その転移が、移動距離が短縮される形で行われたからだネ」





キーボ「? それは、どういうことですか?」

真宮寺「空間転移装置とは言っても、全てが瞬間移動させるタイプではないんだ」

真宮寺「空間を操作して、移動距離を短縮するタイプだってあるーーーというか、流魂街ではそれがほとんどのはずだ」

アンジー「楽するのもほどほどにしないと、大変なことになっちゃうからねー」



キーボ「………」



真宮寺「……まァ、君には実感しづらいのかもしれないけど、通常の脊椎動物は運動をしなければ身体機能が落ちてしまうし、それで免疫機能が働かず病気にもなりやすくなる」

真宮寺「それを防ぐために、あくまでも移動距離の短縮という形を取っているんだヨ」





キーボ「……既に病気にかかってしまい、身体を動かしづらい人も、そうした運動をする必要があるのでしょうか?」

真宮寺「……もちろん、そんなことはないヨ」

真宮寺「病気の内容にもよるけれどーーー普段よりも明らかに、思ったように身体を動かせられない場合は、安静にした方が良いと思うネ」

キーボ「……病院のような場所に行って医者からの診察や治療を受ける必要が生じた場合は、どうするんですか?」

真宮寺「その場合は、伝令神機で医者を呼ぶことになるネ」

キーボ「………」

真宮寺「実は、尸魂界に来た魂魄が貰えるのは、整理券や身元を示す手形だけじゃないんだヨ」

真宮寺「死神から死後の世界についての説明を受けた後……今では、一人一つずつ伝令神機を貰えるのサ」

真宮寺「それで、流魂街の各所にある医療所で勤務する医者を呼べば、救急車のごとく駆けつけてくれる」



真宮寺「医療所にある、瞬間移動するタイプの空間転移装置を使ってネ」



キーボ「そうだったんですか……」

アンジー「………」





真宮寺「……ただ、それは、医者に負担をかける行為だ」

真宮寺「あまりにそれをやり過ぎると、医療ミスに繋がりかねないし、他に必要としている患者のもとに駆けつけることだって困難となる」



アンジー「………」



真宮寺「だから、住民には可能な限り、運動して貰って、身体の免疫機能を維持して貰う必要があるのサ」



キーボ「なるほど……勉強になります」





真宮寺「ーーーとりあえず、空間転移装置については、このくらいにして、流魂街の暮らし方に関する説明に移らせて貰うヨ」



キーボ「わかりました。よろしくお願いします」



アンジー「アンジーからもよろしくー!」



真宮寺「それならさっそく、説明に移るけどーーー流魂街では、基本的に魂魄達がお互いの家族となる人を新しく決めて、その家族同士で暮らすことになっているヨ」





キーボ「……?」

キーボ「家族となる人を新しく決めるってーーーなぜ、そのようなことをする必要があるんですか?」

真宮寺「それは、家族という集団でいた方が犯罪のために狙われる確率が減るからだネ」

キーボ「犯罪……」

アンジー「………」

真宮寺「……君も尸魂界に来たばかりの時、流魂街のあの家屋がどういった作りをしているかは、確認しただろう?」

キーボ「……ええ、まあ、外観だけならば……」

真宮寺「あの街の家屋は、住民の数に応じ、死神の……霊術でいくらでも作り無償で提供することが可能ではあるもののーーー」



真宮寺「ーーーその代償として作りが古い」



真宮寺「その作りは、平安から江戸時代の民家に近いものがある」

真宮寺「そういった家屋では、防犯能力も相応の物になる。現世と比較して、犯罪がやりやすい傾向にあると言っても過言ではない」

真宮寺「事実として、流魂街にだって、決して犯罪が皆無というわけではないんだヨ」

真宮寺「現在の流魂街の治安は、何年か前に比べれば全体的に向上していて犯罪率も低下はしているようだけれどーーーそれでも犯罪はある」

真宮寺「少し前は、かなり治安の悪い場所もあったようだからネ。それが尾を引いているとも言える」

キーボ「………」

真宮寺「そんな中、個人と集団、どちらが狙われやすいか?という話なのサ」





キーボ(……なるほど、確かに集団が相手だと狙うリスクも高くなる。それを思えば、集団でいる方が安心感を得られるでしょうね)




アンジー「………」



キーボ「ーーーですが、生前、かつて一緒に暮らしていた家族が、同じく死後の世界にいるケースが一般的ですよね?」



真宮寺「………」



キーボ「……人は、生まれの関係から、ほぼ間違いなく家族が存在するものですから」

キーボ「かつて一緒に住んでいたものの、死に別れて先に尸魂界に送られた家族が、大概のケースで存在しているはずです」

キーボ「集団でいたいなら、その家族と改めて暮らせば良い」

キーボ「それなのに、どうして他の人達と新しく家族関係を結ぶ必要があるんですか?」





真宮寺「……あるんだヨ」

真宮寺「生前に死に別れた家族と、こちらで再会できるとは限らないからネ」



キーボ「………!」

アンジー「………」



真宮寺「……少なくとも、あの学園にいた僕達全員は、生前に死に別れた家族と再会できなかった」

真宮寺「そういったように、再会できなかった場合は、こちらで新しく家族関係を結ぶ必要がある」

真宮寺「ただ、夜長さんと僕は、空鶴さん達のいる志波家の使用人として雇って貰えたし、赤松さん達は瀞霊廷という更に治安の良い場所に住めている」



キーボ「………」



真宮寺「故に、新しい家族を作る必要もなく、例外的に家族関係を結んでいない状態にあるヨ」





キーボ「……死神は、生前に死に別れた家族と会わせてくれたりはしないのですか?」

真宮寺「……家族関係に関しては、DNAなどを調べるなどして、そういうことも試みるようになったようだけれどーーー必ず会えるとは限らない」

アンジー「………」

真宮寺「……死んだタイミング次第では既に生まれ変わっているケースもあればーーー」



真宮寺「ーーーそもそも、既に、この尸魂界で新たな家族関係を結んでいて、今さら前の家族と会うことができず、再会を拒否しているケースもある」



キーボ「………」



真宮寺「……死に別れた家族と会わせるだなんて、つい最近まではやっていなかったわけだからネ」

真宮寺「既に、この尸魂界で新たな家族関係を結んでいて、それを壊さないために、前の家族に会うことができないというケースが、多々存在している」

真宮寺「生前で言うなら、なんらかの事情で家族と離れ離れになった人が、新しい場所で別の人と家族関係を結んだ後、前の家族と会いづらくなるようなものサ」

真宮寺「それを思えば、まだまだ新たな家族関係を結ぶ必要が生じてくるんだヨ」



キーボ「……勉強になります」

アンジー「………」





キーボ「……しかし、話の途中で気になったのですがーーー流魂街にいる他の人達はどこで働いているんですか?」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「ボクらは、空鶴さんから、食べるからには働いて貰う必要があると言われました」

キーボ「それは、魂魄だけになった今でも、食事が必要になるということ」

キーボ「だとしたら、他の人達も同じはずでしょう。食べるためには働かないとーーー」



真宮寺「ーーー彼らに労働の義務はないヨ」



キーボ「……!?」



真宮寺「……生前、人に労働の義務があるのは、いろいろな理由があるけれどーーー最大の理由は食事をしないと生きていけないからだ」

真宮寺「だからこそ、労働を行い、金銭という対価を得る必要が出てくる」

真宮寺「故に、食事を必要としなければ、金銭の必要性も減少し、必然的に労働の必要もなくなることになる」





キーボ「……食事を必要としないって、真宮寺クン、キミは何を言ってーーー」



真宮寺「……流魂街の住民の大多数は霊力を持たない」

真宮寺「そして、霊力を持たない魂魄は、物を食べないんだ。水だけで生きていける」



キーボ「なっーーー!?」



真宮寺「……しかも、まったく老化しない」



キーボ「……?!?」



真宮寺「……老化しないことが関連しているのかはわからないけどーーーそうした霊力を持たない魂魄は、水だけで生きていくことが可能なのサ」

真宮寺「……まァ、その代わり、魂魄の強度が低く、いずれ現世の生命に転生する義務もあるんだけどネ」



アンジー「………」





真宮寺「……ともかく、霊力を持たない多数の魂魄は、食事を必要としない」

真宮寺「故に、生前の時のような労働を行う必要がなく、労働義務が免除されているも同然の状態にあるんだヨ」



キーボ「………」



真宮寺「……もちろん、僕らのいる志波邸のように、流魂街でも働いて金銭を稼ぐ場所は存在する」

真宮寺「たとえば、流魂街に何箇所かある飲食店などがそうだ」



キーボ「……飲食店?」



真宮寺「そこにある店の店員として、働くこともできる」





キーボ「……いや、ちょっと、待ってください」

キーボ「確か、キミが言うには、多数の魂魄は霊力を持ってなくて、基本的に物を食べないのではーーー」

真宮寺「流魂街には、その治安維持を担当する死神達の住む基地が何箇所かあってネ」

真宮寺「飲食店などは、そうした死神達のためにあるんだヨ」



キーボ「ーーーなるほど」



真宮寺「ただ、そうした働く場所があったとしても、霊力ある魂魄が優先して働く決まりになっている」

真宮寺「金銭という対価を得て、物を食べる必要のある、霊力ある魂魄が、ネ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「故に、基本的な流魂街の住民……霊力を持たない多数の魂魄は、労働の義務がないも同然なのサ」





真宮寺「ーーーとりあえず、流魂街に関する説明は大体このくらいだネ」



真宮寺「他に、何か質問はあるかい?」



キーボ「……いえ、大丈夫です、ありがとうございました」



アンジー「……アンジーも、特に何もないよー」



真宮寺「……それじゃあ、次は瀞霊廷の詳細について説明させて貰うネ」





真宮寺「……瀞霊廷はさっきも言った通り、霊力ある魂魄のみが住めるとされている場所サ」

真宮寺「死神の管理する、この尸魂界の中心部にある、たった一つの都市でありーーー」



真宮寺「ーーー住めば、輪廻転生の輪から逃れることができる」



アンジー「………」

キーボ「………」



真宮寺「……逆に、瀞霊廷に住めない限り、輪廻から逃れることは基本的に叶わないけどーーーそれでも出入りはできる」

真宮寺「現在の瀞霊廷は、霊力の有無に関係なく出入りが可能なんだヨ。住むことはできないままだけどネ」



真宮寺「……少し前までは、深刻な労働力不足を理由に、流魂街の住民を住まわせることもあったようだけれどーーー今では、霊力ある魂魄以外の労働力を求めていない」

真宮寺「だから、霊力を持たない限り、基本的に瀞霊廷には住めないと考えて良いヨ」





キーボ「……霊力があれば住めるということはわかりましたが、それ以外の意味では、具体的にどういった場所なんですか?」

真宮寺「そうだネ。具体的に述べるのなら、貴族の統治下にある死神の本拠地ってところかな」



キーボ「貴族……死神……」

アンジー「……うんうん、そういうお金持ちの人が住む場所だねー。流魂街とは大違いだねー」



キーボ「………」



真宮寺「……流魂街も尸魂界である以上、厳密には同じ貴族の統治下にある死神の本拠地なんだけどネ」

真宮寺「だけど、瀞霊廷はそうした貴族の意志が非常に色濃い場所……ということなのサ」





キーボ「貴族……正直、ボクには馴染みのない制度ですね」

真宮寺「……うん、そうなるよネ」

真宮寺「だけど、尸魂界において貴族制度は確かに存在するんだヨ」

真宮寺「……そして、それは決して形式だけのものじゃない」

真宮寺「貴族でなければ、政治に参加することは困難だしーーー貴族以外は、基本的に立ち入ることすら許されない場所だって存在するくらいだからネ……」



キーボ「………」



真宮寺「……とまァ、そういった身分社会ではあるけれど、奴隷身分など人権の保証されない身分があるわけじゃない」

真宮寺「そこは、安心して良いと思うヨ?」





キーボ「……ボクにも人権は保証されるんですかね?」

真宮寺「………」



アンジー「……大丈夫だよ、キーボ」

キーボ「……アンジーさん?」

アンジー「主はきっと言いました……空鶴たちがいるから大丈夫だ、と」

キーボ「? それはどういうーーー」



真宮寺「ーーー空鶴さん達は、元貴族だからネ。それを思えば、彼女達の関係者であるキーボ君をぞんざいに扱うわけにもいかないはずだヨ」





キーボ「ーーーえっ、ちょっと待ってください。空鶴さんと岩鷲クン、あの人達も貴族だったんですか?」



真宮寺「……そうだネ」

真宮寺「ただ、流魂街での生活が気に入っているからなのかはわからないけどーーー今のところ瀞霊廷には住んでいない」



キーボ「………」



真宮寺「しかも、今では没落し、貴族としての立場を失っているという話だ」



アンジー「………」





真宮寺「ーーーだけど、それでも、かつての【志波家】は “ 五大貴族 ” と言って、尸魂界でもトップクラスの権威を持つ貴族だったみたいなんだヨ」

キーボ「………」

真宮寺「……当時、志波家の人達によって助けられた死神や貴族は、決して少なくないみたいなんだ」

真宮寺「言うなれば、志波家は先祖代々から、いろいろな人に貸しを作っていた一族でもあったんだヨ」

キーボ「貸し、ですか」

真宮寺「まァ、空鶴さん達を含む志波家の一族がそれを意識してやったかどうかはともかくとして……没落した今となっても特定の死神や貴族は志波家の一族に恩を感じ続けているようでネ」

真宮寺「その中には、位の高い死神や貴族だっているという話だ」

真宮寺「だから、君に人権があるかどうかは置いといて、志波家に対して恩がある位の高い死神や貴族がいる以上、君がぞんざいに扱われることはないはずだヨ」

真宮寺「空鶴さんの関係者である君にそんなことをすれば、空鶴さん達はもちろんのこと、位の高い死神や貴族からの怒りも買ってしまうことになるのだから」

キーボ「………」

真宮寺「……よほどの理由がない限りは、自分の不利益となるような怒りを、自ら買いにいこうとする人なんていない」

真宮寺「故に、君の身の安全は保証されていると言って良いヨ」





キーボ「……ですがーーー」

真宮寺「……あァ、空鶴さん達が君より先に生まれ変わっていなくなる可能性はまずないヨ」

キーボ「……どういうことですか?」

真宮寺「あの人達は輪廻転生を免除されているからサ」

キーボ「!!」

真宮寺「没落したとはいえ、かつては五大貴族だったわけだからネ」

真宮寺「五大貴族であるが故の特別な霊力や霊圧だって有しているし、それらを一族独自の鍛錬で磨き上げれば、強い死神にだってなれる」

真宮寺「それほどの血統を絶やすことは、瀞霊廷の貴族達も可能な限り避けたいことなのサ」

真宮寺「魂魄同士でも、子を成すことはできるのだから」



アンジー「……だから、キーボも安心して、ここにいてよいのだー!」



キーボ「……なるほど、わかりました」




キーボ(……空鶴さん達には、改めて感謝しないといけませんね……)





真宮寺「ーーーちょっと話が脱線しちゃったネ。とりあえず瀞霊廷の話に戻すけど良いかな?」

キーボ「……ええ、お願いします」



真宮寺「……うん、それじゃあ、次は瀞霊廷での生活についての話に移させて貰うネ」

真宮寺「それに関してなんだけどーーーはっきり言って、生活水準は、流魂街よりも遥かに高いと言わざるを得ないかな」



キーボ「……そんなに生活水準に違いがあるんですか?」



真宮寺「外観……建物や衣服の見た目などに関してだったら、どちらも平安から江戸時代並みなんだけどね……」

真宮寺「ただ、生活水準に関しては、井戸ではなく水道などが整備されていたりと、現世のものと相違ないーーーいや場合によってはそれ以上の生活水準を誇っているヨ」



キーボ「そんなに……」

アンジー「………」



真宮寺「……まァ、瀞霊廷は、尸魂界において、霊王宮の次に重要な拠点とされているからネ。生活水準が高いのは当然とも言える」

真宮寺「その代わり、瀞霊廷では、外敵に利用されやすい空間転移装置の設置は『公的に』認められていないのだけれどーーー」



真宮寺「ーーー公共の交通機関が新しく整備されている上、セキュリティだって盤石だ」



キーボ「………」



真宮寺「兵士たる死神達が居住している以上、そこで何かあればすぐ対処できるしーーー」



真宮寺「ーーー何より、瀞霊壁(せいれいへき)と遮魂膜(しゃこんまく)があるからネ」





キーボ「……なんですか、それらは?」

真宮寺「まず、瀞霊壁についてだけどーーーこれは、瀞霊廷の外側を囲む巨大な壁のことを指している」

真宮寺「本来は、この尸魂界の遥か上空にある霊王宮を守っている壁なんだけれどーーー」

真宮寺「ーーー瀞霊廷で緊急事態が発生したなどの場合に限り、地上まで降ってきて、瀞霊廷を守ってくれることがあるんだ」

キーボ「……なっーーー!?」

キーボ「ちょ、ちょっと待ってください!」

キーボ「確か、霊王宮と地上の間には、七十二以上の障壁があるのではーーー」



真宮寺「ーーーその辺りは大丈夫。霊王様の御力で、瀞霊壁は障壁を透過するようになっているから」



キーボ「と、透過……?」

真宮寺「そう、透過」

真宮寺「もちろん、それができるかは霊王様の体調次第らしいけどーーー体調が良い方にあるなら、万物を透過させる力を一時的に付与することも可能らしいヨ」





真宮寺(……まァ、そうした風に、障壁を破壊することなく、霊王宮とそれ以外の場所で物のやりとりをすることは、霊王様にしか不可能だしーーー)


真宮寺(ーーー可能だったとしても、霊王様の意志を伴わずにそれをやるのは許されないらしいけどネ……)




キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……アー、話題を瀞霊壁のことに戻すけど、その壁は、殺気石(せっきせき)という霊力を遮断する鉱物で作られていて、あらゆる攻撃を受け付けない」

真宮寺「それに加えて、瀞霊壁は切断面からも波動と呼ばれる強力な圧力が出ており、それがドーム上となって、遮魂膜と呼ばれるバリアを空地両方に形成している」

キーボ「バリア……」

真宮寺「……空や地中から侵入しようとすれば、遮魂膜によって防がれてしまう」

真宮寺「だから、瀞霊廷に入るには、東西南北四つの門から入るしかないんだけれどーーーそこには番人が一人ずつ存在し、敵が侵入できないよう立ち塞がっている」





キーボ「……ちょっと待ってください、番人はそれぞれの門に一人だけしかいなんですか?」

真宮寺「そうだネ。基本的には一人一門だヨ」



キーボ「……大丈夫なんですか? それはーーー」

アンジー「……大丈夫だよー! 少なくとも、ジダンボウはすっごい強いからー!」



キーボ「……ジダンボウ? ひょっとして、門番の名前ですか?」

真宮寺「その通り、彼は、西の門、白道門(はくとうもん)を守護する人であり、門番なんだ」

真宮寺「そして、彼は、あのエグイサルよりも大きな体躯を誇っている」





キーボ「……なっ、!? あのエグイサルよりも大きな体躯!? そんな人が実在するんですか!?」

真宮寺「言ったよネ? 霊子とは自由度が高く、現世の常識ではあり得ないような現象も起こし得る、って」

キーボ「………」

真宮寺「だから、鍛錬の結果、巨体になる人も稀に出てくるんだ」

キーボ「……そうなんですか」

真宮寺「その巨体故に、戦闘能力も非常に高い」

真宮寺「仮に、彼や他の門番が、生前の僕らと同じ場所にいれば……エグイサルなんて、どうとでもなったかもしれないネ」



アンジー「だから、一人だけでも、大丈夫なんだよー!」



キーボ「……なるほど、そういうことなら納得ですね」





キーボ「ーーーしかし、教えて貰った限りでは、瀞霊廷とは、随分と恵まれた場所なんですね」

真宮寺「……確かに、その通りだネ」

アンジー「………」

キーボ「……流魂街の住民も、瀞霊廷の住民も、どちらも死者の魂でしょう? なのに、どうして、ここまで待遇に差があるのですか?」

真宮寺「……霊力ある魂魄は、物を食べる必要があるからネ。しっかりとした栄養補給が可能な生活環境が必要となる」

真宮寺「それに加えて、死神になれる素質を持つ貴重な存在となれば、こうなるのも無理はないのかもしれないヨ」

キーボ「………」

真宮寺「……死神は仕事の性質上、殉職率が高いし、霊力あるが故に、老化だってする」

真宮寺「身体が魂魄であるため、老化速度は現世で生きている人間よりも遥かに緩やかだけどーーー」



真宮寺「ーーーそれでも寿命はある」



真宮寺「それを考えれば、人材確保のためにも、霊力ある魂魄を瀞霊廷で守る必要があるんだろうネ」





キーボ「……寿命って、それは具体的にどのくらいの長さなんですか?」



真宮寺「……個人差もあるから具体的には答えられないけどーーー」



真宮寺「ーーー少なくとも、二千年以上、生きていた人もいるという話だヨ」



キーボ「そ、そんなに!?」

アンジー「………」



真宮寺「ただ、この寿命はその気になれば無限に伸ばせるとは思うけどネ」



キーボ「なっーーー!?」

アンジー「………」



真宮寺「……死神には、様々な……霊術があってネ」



真宮寺「……中には、死んだ死神を……蘇らせる霊術……なんてのもあるくらいなんだ」





キーボ「……し、死者を蘇らせるってーーー」



アンジー「………」



真宮寺「……死んだ死神の死体の何割かが残っていれば……蘇らせることは可能らしいヨ」

真宮寺「それを上手く用いれば、霊力ある全ての者達が、文字通り永遠を手にすることも可能なんじゃないかな?」



キーボ「………」



真宮寺「だけど、倫理的な問題などがあって、未だそれはできないでいる」





キーボ「……倫理、ですか」



真宮寺「……そう、倫理の壁だヨ」



アンジー「………」



真宮寺「実際、さっき話した……蘇りの、霊術は、行使されていた時期はあったものの、今では禁術になっている」





キーボ「……なぜ、禁止にしたのでしょうか?」

真宮寺「………」

キーボ「一時期は行使していたのに、今は禁止されていることには何か理由があるのでしょうか?」



真宮寺「……それには、いろいろな理由があるけれどーーー最大の理由としては、その霊術を……行使する必要がないからだネ」

真宮寺「この霊術が……開発され行使された当時は、どうしても人材不足を補わなくてはいけない事情があった。だから、緊急的に倫理は取り外され、行使が許された」

真宮寺「だけど、今ではそこまでして人材不足を補う必要はない。だから、倫理が復活し……蘇りの行使が許されなくなった」

アンジー「………」

真宮寺「……もし、尸魂界全体が実利のために、倫理を完全に廃するようになればーーー」



真宮寺「ーーー蘇りの……霊術は復活して、寿命はなくなるかもしれないネ……」



キーボ「………」





キーボ「……逆に倫理を廃さなくても、二千年以上は生きていられるわけですね」



真宮寺「……人にもよるし、早い段階で殉職しなければの話ではあるけどネ……」



アンジー「………」





キーボ「……しかし、どうにも、わかりませんね」

真宮寺「……何がだい?」

キーボ「……死者の、蘇り、なんてことが可能ならば、別のこともできるんじゃないですか?」

キーボ「たとえば、霊力を持たない人に霊力を与える、とかーーー」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「ーーーそれなら、元々霊力を持っていない人であっても、瀞霊廷に住めるはずです」

キーボ「それに、霊力を与えることが、特に倫理に反するようにも思えません」

キーボ「そういったことを可能とする霊術は、存在しないのでしょうか?」





真宮寺「ーーーあると思うヨ」

キーボ「!」

アンジー「………」

真宮寺「……実は死神は人間の魂魄に対し、死神の力を譲渡することが可能らしいんだ」

キーボ「力の、譲渡……?」

真宮寺「死神の力の譲渡とは、すなわち霊力の譲渡を意味する」

真宮寺「それが可能なら、人間の魂魄に霊力を与えることは、決して不可能ではないと思うヨ」

キーボ「だったらーーー」



真宮寺「ーーーだけど、そんなことはまず認められないだろうネ」





キーボ「ーーーそれは、どうしてですか?」

真宮寺「二つ、大きな問題があるからだヨ」

キーボ「問題……?」



真宮寺「……一つ目の問題、それは、霊力ある魂魄は悪霊に襲われやすいということだ」

キーボ「悪霊……」

真宮寺「悪霊は自身の力を高めるために、霊力ある人間の魂魄を……その力を自らに取り込もうとする」

真宮寺「故に、霊力ある特別な魂魄は、積極的に襲われやすい傾向にある」

アンジー「………」

真宮寺「そう、霊力を与えるということは、与えられた魂魄が悪霊に危害を加えられる可能性を高めてしまうことを意味する」

真宮寺「だから、その人の安全を考慮するならば、霊力を与えることが必ずしも良いことであるとは言いきれないんだ」

キーボ「………」





真宮寺「……そして、霊力を与える上での二つ目の問題だけどーーー」



真宮寺「ーーーそれは、人の輪廻転生を阻む結果を生むからだ」



キーボ「……?」



真宮寺「仮に、流魂街の全ての住民に霊力を与えて瀞霊廷に住まわせる……すなわち輪廻から逃がれることを許可したらどうなると思う?」



キーボ「……どうなるってーーー」



真宮寺「そうして、誰もが瀞霊廷に住むことを選んで、生まれ変わりをしなければ、現世はどうなるだろうネ?」



キーボ「……あっーーー」



真宮寺「そうなれば、現世で人間が生まれなくなる」

真宮寺「現世において、人類が滅亡することになるんだヨ」





キーボ「人類が、滅亡……」

真宮寺「……いや、その前に現世の魂魄の数が減少し、世界のバランスが崩れることになるかな」

キーボ「……世界のバランス、ですか?」

真宮寺「世界とは、天秤のようなものでネ」

真宮寺「尸魂界と現世に存在する魂魄の数が均等でなくなれば、少しずつ、天秤のようにバランスが崩れるんだ」

真宮寺「そうして相応の時間をかけて、バランスが完全に崩れたが最後、尸魂界と現世を隔てる次元の壁が破壊されーーー」



真宮寺「ーーー最終的には二つの世界が混じり合ってしまう」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「……死と生の入り混じる混沌、どんな混乱と被害が起きるか想像もつかない」

真宮寺「それだけは、絶対に避けなければならない」

真宮寺「そういった問題がある以上、人間の魂魄に霊力を与える行為は、まず認められないだろうネ」

真宮寺「事実、僕が言った理由もあって、人間に死神の力を譲渡する行為は、掟で固く禁じられているんだ」



キーボ「なるほど……」





真宮寺「ーーーとまァ、以上が流魂街と瀞霊廷の詳細となるわけだけど、何か質問はあるかい?」



キーボ「ーーーそれでしたら、二つ、聞いても良いですか?」



真宮寺「ーーー何かな?」



キーボ「まず、一つ目ですがーーーー」





キーボ「ーーー生まれ変わりは大体どのくらいまで待つことになりますか?」



アンジー「………」

真宮寺「………」



キーボ「……現世で亡くなって、この尸魂界に来たら、すぐに生まれ変わるということもあるのでしょうか?」

キーボ「その辺り、とても気になるのですがーーー」



真宮寺「ーーー転生に関しては、大体、六十年くらいを目安にしているようだヨ」

真宮寺「尸魂界に来て、六十年が経過すれば、転生するという風に言われている」



キーボ「……六十年ーーーならば、ボクらはまだまだ大丈夫そうですね」





真宮寺「……そうとも限らないヨ」



キーボ「……えっ、?」

アンジー「………」



真宮寺「確かに普通に考えれば、尸魂界に来たばかりの僕らは、転生まで充分な時間があることになる」

真宮寺「だけど、それは特に異常がなかった場合の話だ」



キーボ「異常……」



真宮寺「たとえば、現世の人間の出生率が増加すれば、必然的に生まれてくる人間の数も増える」

真宮寺「そうなると、現世に大量の魂魄を送る必要があるため、転生すべき魂魄は増えるだろうネ」

真宮寺「そうしたことが繰り返された場合、僕達が転生する順は繰り上がることになるはずだヨ」



キーボ「……なるほど、確かにそうですね」

アンジー「………」





キーボ「……二つ目の質問に移りますが、ロボットのボクでも生まれ変わりは行われるんですか?」



真宮寺「……おそらくはそうなると思うヨ?」



キーボ「……!」



真宮寺「生まれ変わりの際は、誰もが輪廻の輪を通過し、そこで精神や体質など魂魄に定着した情報が強く溶かされていく」

真宮寺「そうして、情報が形を保てず、限りなく白紙に近いものにまで薄れていき……魂魄は霊子レベルまで分解されることになる」

真宮寺「その後、霊子が集まり直して、新しい魂魄に再構築され、現世の人間として生まれ変わることになるんだ」



キーボ「………」

アンジー「………」



真宮寺「浦原さんの話によると、そうなった魂魄は、もう前の状態を保つことは不可能だそうだ」

真宮寺「だとすれば、君が輪廻の輪を通過した場合であっても、普通の新しい魂魄になって、人間に生まれ変わることになるはずだヨ」



キーボ「……なるほど、お答え頂きありがとうございました」





真宮寺「……うん、もう夕飯の時間がかなり近づいていることしーーー以上で今日の分の説明は終了させて貰うヨ」

真宮寺「……聴いてくれて、ありがとう。キーボ君、夜長さん」

キーボ「いえ、こちらこそ、教えてくれて、ありがとうございます。真宮寺クン」

アンジー「……そうだねー! 今日もすごくて、楽しかったー! にゃはははー!」



アンジー「……また、一緒に聴こうねー! キーボ!」ダキッ

キーボ「はい! そうですね、アンジーさん!」

アンジー「………」ギュッ



真宮寺「………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー

ーー





ー(翌日)鰤清劇場・2日目ー



真宮寺「ーーー今日は、死神の仕事と彼らの持つ力についての説明をするヨ」

真宮寺「まァ、昨日と一昨日にも多少は説明したけれどーーーそこまで詳しく説明したわけではないからネ」

真宮寺「改めて聴くことで、きっと気になることも出てくると思う」

真宮寺「だから、ここで、改めて説明させて貰うヨ」

キーボ「……わかりました。お願いします」

アンジー「………」

真宮寺「それじゃあ、まずはおさらいとして、死神の仕事の基本から説明するネ」





真宮寺「……死神の仕事、それは今の世界の形と秩序を守ることだネ」

真宮寺「尸魂界が国だとすれば、死神はそこの兵士」

真宮寺「尸魂界の住民による犯罪を取り締まって治安を維持したり、悪霊などといった霊的な敵から魂魄を守り通す存在だ」



真宮寺「また、そうして守り通した魂魄を、輪廻を用いて循環させ、尸魂界と現世の魂魄の数を均等にする存在でもある」

真宮寺「それを怠れば、世界のバランスが崩れ、尸魂界と現世が混じり合ってしまうからネ」

真宮寺「ここまでが基本事項ではあるけれど、何か気になったことはあるかな?」





キーボ「……あります」

真宮寺「何かな? 何でも構わないヨ」

キーボ「……もし、現世で出生率が増加した場合はどうやって二つの世界の魂魄を均等にするつもりなんでしょうか?」

アンジー「……あー、それは確かに、気になるねー」

キーボ「ええ、そうなってしまえば、現世で多くの人間が産まれることになります」

キーボ「そして、そのためには、尸魂界から現世の妊婦のもとへと多数の魂魄を送らざるを得なくなり、世界のバランスが崩れてしまうはずです」

キーボ「それなのに、いったいどうやって、それぞれの世界の魂魄の数を均等にーーー」



真宮寺「ーーーその場合は、現世とは異なる別の世界から尸魂界に魂魄を送り、バランスを保つことになるネ」



キーボ「……別の世界?」



真宮寺「実は、尸魂界と現世の他にも、虚圏(ウェコムンド)と呼ばれる、悪霊達が住まう別世界があってネ」

真宮寺「その悪霊達を、特殊な……霊術をもって誘き出し、無害な魂魄に昇華した上で尸魂界の説明会場まで送ってあげるのサ」

真宮寺「そうやって、別の魂魄が、世界のバランスを保つのに適した状態になるまで、送られてくる仕組みになっているヨ」



キーボ「……なるほど、そういうことでしたか……」





アンジー「……でもでも、逆に現世の人間の数が大きく減ったらどうするんだろうねー?」

キーボ「あっ、確かに、それも気になりますね……」

アンジー「でしょでしょー?」

真宮寺「……その場合は、流魂街に住む一定数の魂魄達が輪廻の輪を通り、生まれ変わることになるネ」

キーボ「? 生まれ変わる……?」

キーボ「ちょっと待ってください、輪廻の輪というのを通って現世の人間に生まれ変わろうにもーーーその人間の数が少なければ、おのずと生まれ変われる数も限られてくるはずです」

真宮寺「………」

キーボ「それでは、結局のところ、尸魂界に魂魄が残ってしまうのでは?」





真宮寺「……その辺りは大丈夫。輪廻の輪の中にある魂魄は、現世や尸魂界の魂魄の数に計上されないようになっているからネ」

キーボ「……そうなんですか?」

真宮寺「そうなんだヨ。だから現世の人間の数が大きく減少した場合は、流魂街の住民が大勢で輪廻の輪を通りーーー」



真宮寺「ーーーまっさらな魂魄の状態になった後、輪廻の輪の中で、生まれ変わりを待ち続けることになる」



アンジー「………」



真宮寺「そうして、世界のバランスを保つのサ」



キーボ「なるほど……」



真宮寺「……逆に現世の人間の出生率が増加すれば、それだけ生まれ変わり先が多くなり、生まれ変わりを待つ魂魄も減少するだろうネ」





真宮寺「ーーーそれで、ここまで説明した中で、何か気になったことはあるかい? あるなら答えるけど……」



キーボ「それでは、一つ」



アンジー「?」

真宮寺「……何かな?」



キーボ「死神は、魂魄が悪霊に変わる原因を断つことはしないんですか?」



アンジー「??」

真宮寺「……どういうことだい?」



キーボ「……それを言う前に確認しておきたいのですが、キミのいう悪霊とは【その人が】【生前あるいは死後に受けた】【理不尽な仕打ちによって】ーーー」



キーボ「ーーー【精神に悪影響を及ぼされ】【それによる変化をもたらされた魂魄】……のことを言うんですよね?」



真宮寺「………」



キーボ「そう、理不尽な仕打ちが、魂魄を悪霊に変える “ 条件 ” に組み込まれている」



キーボ「違い、ますか?」





真宮寺「……そうだネ」

真宮寺「ひょっとしたら他にも “ 条件 ” があるのかもしれないけどーーー死神の話によれば、【魂魄が悪霊に変わる原因は】【基本的に理不尽な仕打ちにある】とされている」



真宮寺「それは確かな事実だヨ」



キーボ「……お答え頂き、ありがとうございます」

キーボ「ただ、もし、キミの言う通りならば、魂魄が悪霊に変わる原因は明確に存在していることになります」

キーボ「ならば、その原因そのものを断つことはしないんですか?」



真宮寺「……あァ、そういうことかい」

アンジー「……なるほどねー」



キーボ「……具体的には、現世で起こる戦争や災害みたいな、それだけで理不尽に死者が発生するような何かを止めたりだとかーーー」



真宮寺「それは、ないネ」



キーボ「………」





真宮寺「……死神達は、人間を悪霊から一刻も早く守るためーーー時に、義骸(ぎがい)と呼ばれる仮の肉体に入り、現世で人間のように生活することもある」

真宮寺「また、霊的な存在が現世に与えた何かしらの混乱や問題を解決するため……記換神機で、人間の記憶を操作することだってある」



真宮寺「だけど、それ以上のことはしない」



真宮寺「そう、死神達は、霊的な存在が関わらない問題……すなわち現世での問題は可能な限り、現世で解決して貰うことを望んでいるしーーー」



真宮寺「ーーーそもそも、尸魂界にはいろいろな掟があってネ。それらによると、死神の現世での活動には、厳しい制限が課せられることになっている」



キーボ「………」





真宮寺「それらの掟は、誇りを重んじる大貴族が、現世で生きる人間達への敬意をもって作り上げたものという話だ」

真宮寺「そうした掟の存在もあって、死神が現世の問題にむやみやたらと干渉することは、非常に困難と言わざるを得ない」

真宮寺「だから、現世がどうなろうと、それこそ戦争や災害が起ころうと、世界のバランスに致命的な影響を与えない限りは、死神が関与することはない」



真宮寺「というか、そうでもなければ、現世は今ごろ死神によって支配されてしまっているヨ」



真宮寺「現世で生きる人間達に敬意を払うが故に、現世の問題は、可能な限り現世で解決して貰うことになっているのサ」



キーボ「……よくわかりました。ありがとうございます」



アンジー「………」





真宮寺「ーーー以上で、死神の仕事の説明を終えようと思うけど、他に質問はあるかい?」



キーボ「……いえ、ボクは特にありません」



アンジー「……アンジーも特にないよー」





真宮寺「それじゃあ、死神の仕事に関する説明はこの辺りにしてーーー今度は、死神の持つ力に関する説明をさせて貰うネ」



キーボ「………」



真宮寺「……死神の持つ力は、斬拳走鬼(ざんけんそうき)と言って、主に四種類に分類される」

真宮寺「まずは、斬拳走鬼の斬、斬魄刀(ざんぱくとう)についての説明をしようと思う」



キーボ「ザンパクトウ……?」

真宮寺「……簡単に言えば、刀だネ」



キーボ「……刀、ですか」

アンジー「………」



真宮寺「……ただの刀じゃあないヨ? それは、霊王様の守護を任されし死神が直々に製作した特殊な刀だ」

真宮寺「その刀には、持ち主となる死神の霊力を込めることができるしーーー」



真宮寺「ーーーそれに加えて、迷える魂を死後の世界に送ったり、悪霊を無害な魂魄に昇華する力がある」



キーボ「……なっ、刀でそれをしていたというんですか!?」



真宮寺「それを可能とするのが斬魄刀なのサ」





真宮寺「ーーーだけど、斬魄刀の機能は、決してそれだけじゃあないんだヨ」

キーボ「どういうことですか?」

真宮寺「斬魄刀には、固有の能力があるのサ」

キーボ「……はい?」

真宮寺「……たとえば、普通の形をした刀から……大鎌のような形状に変形したりーーー」



真宮寺「ーーー炎を生み出したり、氷を生み出したりと、斬魄刀ごとの固有能力があるってことサ」





キーボ「……変形したり、炎や氷を生み出せるくらいでは驚きません。刀で魂をどうこうできるのなら、そのくらいは可能でしょう」

真宮寺「………」

キーボ「……しかし、なぜ、そんな能力が必要なんですか? ザンパクトウは魂を死後の世界に送り届けるためのものではーーー」



真宮寺「……死神は悪霊と戦う必要があるんだヨ?」



キーボ「………」



真宮寺「悪霊に変わった魂魄は、どういうわけか怪物のような姿と化し、強大な霊力に目覚め……強力な霊術を扱えることもある」

真宮寺「それに、普通の形をした刀の状態では、一切ダメージを与えられない……特殊な防御能力を有していることだってある」

真宮寺「それを考えれば、固有能力があった方が、悪霊と戦闘する上で都合が良いはずだ」



キーボ「……まあ、それはそうでしょうが」



真宮寺「また、固有能力に目覚めると、その分だけ斬魄刀に込められる霊力の量も増える」

真宮寺「斬魄刀に込められた霊力が多ければ多いほど、単純な刀として破壊力も増していく傾向にある」

真宮寺「故に、悪霊との勝率を上げるためには、固有能力に目覚めていた方が都合が良いんだ」



アンジー「………」





真宮寺「……まァ、そうは言っても、固有能力に目覚めてる斬魄刀なんて、全体から見ればかなり少ないんだけどネ」

キーボ「少ないんですか?」

真宮寺「そうだヨ」

真宮寺「固有能力に目覚めさせるためには、斬魄刀の名前を知る必要があるからネ」

キーボ「名前?」

真宮寺「そう、斬魄刀には、刀一振りごとに固有の名前がある」

真宮寺「なお、その名前は二段階に分かれていてネ」

真宮寺「一段階目は、 “ 始解 ” と呼ばれる基本的な名前、二段階目は、 “ 卍解 ” と呼ばれる真の名前だ」

真宮寺「そうした名前を知ることによって、固有能力を解放し、引き出すことも可能となるのサ」



キーボ「………」





真宮寺「ただし、斬魄刀は、はじめは浅打(あさうち)と呼ばれる、魂魄を昇華して死後の世界に転送する以外は何の能力も持たない刀の状態になっているため、いきなり名前を知ることはできない」

真宮寺「だけど、持ち主である死神が、浅打と寝食を共にし、錬磨を重ねることによって、浅打はその死神の魂の精髄……思念などを写し取りーーー」



真宮寺「ーーー己が持つべきと判断した自我と固有能力を形作ろうとする」



キーボ「………」



真宮寺「そうして形作られた自我と固有能力を現すものこそが斬魄刀の名前であり、死神はそうした斬魄刀と “ 対話と同調 ” などを試みてーーー」



真宮寺「ーーーすなわち、コミュニケーションを試みて、自分の斬魄刀と向き合い、名前を教えて貰うことにより、固有能力を扱えるようになるんだヨ」





キーボ「………」



アンジー「……どうしたー、キーボ?」

真宮寺「……どうかしたのかい? もし、わかりづらい部分があったのならーーー」



キーボ「いえ、似てるなって思いまして」



真宮寺「ーーー似てる?」

キーボ「ええ、ボクと」



真宮寺「……まさか、斬魄刀がかい?」

キーボ「……そうは思いませんか?」



キーボ「鉄の身体を持ち、人と共に生きることを通して、なりたい自己を想い描き、それを目指す人工知能……」

キーボ「まさに、ロボット……ボクそのものじゃないですか」





アンジー「……あー、なるほどー! 確かに似てるかもねー!」

キーボ「でしょう?」

キーボ「もちろん、ザンパクトウがただの凶器であるならばこんなことは思わなかったかもしれませんがーーー真宮寺クンの話によれば、ザンパクトウとは一概に凶器とは呼べないものです」



キーボ「ならば、ボクはそれをーーー」



真宮寺「……ク、クク……」



キーボ「ーーーえ?」



真宮寺「ク、クク……ククク……!」



アンジー「……どうしたー? 是清ー?」



真宮寺「クククッ……ククククククッ……クククッッ、!!!」



キーボ「……真宮寺クン? どうかしたんですかーーー」



真宮寺「ーーーあァ、そうだヨ! 君の言う通りだヨ! キーボ君!」



キーボ「!?」



真宮寺「確かに、確かに似ているヨ!!」



真宮寺「君と斬魄刀は!!!」





キーボ「えっ、あっ……?」

アンジー「……あらら、是清、何かスイッチ入っちゃったみたいだねー」



真宮寺「ククク……まさか、そのことに君自らが気づくとはネ……!」



真宮寺「……心ある者は、いかなる存在であろうと、進化を遂げることができる!」

真宮寺「その実例が、目の前に、存在している!」



真宮寺「あァ、僕は、満たされている……!」





キーボ「……ボクが成長するロボットであると、認めてくれたことには感謝しましょう」

キーボ「ですが、そういったタイプの喜び方は、あまりして欲しくないですね」



真宮寺「……ククク、ごめんヨ。ちょっとエキサイトし過ぎたネ。もうしないヨ」



キーボ「………」



真宮寺「ーーーだけど、今の君なら気づけるんじゃないかな?」



キーボ「……何をですか?」



真宮寺「……君や斬魄刀に、心が与えられた理由を、ネ」





キーボ「……!?」

真宮寺「……斬魄刀もそうだけど、『物』というのは、その役目を機械的に果たすだけならば、心なんて必要がないんだヨ」

アンジー「………」



真宮寺「なのに、どうして、心が与えられたのか?」



キーボ「………」



真宮寺「……今の君なら気づけるはずだヨ?」





キーボ(……ボクやザンパクトウに心が与えられた理由?)




アンジー「………」




キーボ(……まさか、それってーーー)








キーボ「ーーー側にいる人に、希望を与えるため、ですか?」





真宮寺「ーーーその通りだヨ」

キーボ「!」

真宮寺「正解、大正解だヨ」

キーボ「………」

アンジー「………」

真宮寺「……『想い』を分かち合い、わかりあえるのは、心があるからだ」

真宮寺「心があるからこそ、その『想い』が、誰かの心にも伝わる」



真宮寺「希望だって、伝染させられる」



真宮寺「そうして、人が絶望に心を砕かれないよう、必死になって働きかける」

真宮寺「そのために、君や斬魄刀は、心を与えられた」



真宮寺「……少なくとも、僕は、そう考えているヨ」





真宮寺「……まァ、それが本当に正解であるかどうかは、君や斬魄刀の製作者と話をしてみないとわからないことだけどネ」

キーボ「………」

真宮寺「ただ、もし本当にそうだった場合、どこまで似ているか気になるところではあるネ?」

キーボ「……?」



真宮寺「ーーー斬魄刀には、生涯、従うべき主がいる」



キーボ「!?」



真宮寺「キーボ君には、従うべき主がいるのかな?」



アンジー「………」



真宮寺「その答えこそがーーーー」





キーボ「ーーーいないですよ」



真宮寺「………」

アンジー「………」



キーボ「ーーーボクは、存在している以上、製作者はいます」



キーボ「ですが、ボクに主なんて、いない」



キーボ「誰一人として……」





真宮寺「……そうかい」



キーボ「………」



アンジー「………」



真宮寺「なら、この話は、ここまでにしておくとするヨ……」





真宮寺「ーーーさて、次は、斬拳走鬼の拳、白打(はくだ)についての話に移させて貰うネ」

キーボ「………」

真宮寺「ちなみに白打というのは、死神特有の格闘術のことだヨ」



キーボ「……茶柱さんのネオ合気道みたいものですか?」

真宮寺「……僕は、彼女のネオ合気道についてそこまで詳しく知っているわけじゃないから、何とも言えないネ」

アンジー「………」



真宮寺「ただ、彼女も白打という格闘術には興味があるみたいでネ。死神になったら一通り修得するつもりらしいヨ」





キーボ「……茶柱さんが興味を惹くとはーーーそんなにすごい技があるんでしょうか?」

真宮寺「そうだネ。確かにすごい技がいくつもあるヨ」

キーボ「具体的には、どんな技があるんですか?」



真宮寺「ーーー僕が、もっとも目を引いたのが、 “ 千里通天掌 ” だネ」



キーボ「……せんりつうてんしょう……?」



真宮寺「この技は、その名の通り、手の平が纏う “ 気 ” を利用して、人を千里先まで飛ばす技なのサ」





キーボ「……せ、千里先!?」



キーボ「四千キロメートル近くもですか!?」



真宮寺「そうだネ」

アンジー「………」



キーボ「……そんな技までーーー」



真宮寺「ただ、この技は修得が限りなく難しいようでネ。修得できるかどうかは茶柱さん次第かな」





アンジー「……転子なら大丈夫だと思うよー?



キーボ「……アンジーさん?」



アンジー「主はきっと言いました……転子はすごい子だと……」



アンジー「そんなすごい転子は、守りたい女の子のためなら、どんなことだって成し遂げられると」





真宮寺「………」



キーボ「……そうですね。アンジーさんの言う通りです」



キーボ「茶柱さんなら、きっと大丈夫です! どんな技だって修得できますよ!」



アンジー「………」





真宮寺「ーーー次は、斬拳走鬼の走、歩法についての説明をさせて貰うヨ」

キーボ「歩き方まで……」

真宮寺「死神の歩法には、代表的なものとして、瞬歩(しゅんぽ)が挙げられる」

キーボ「……シュンポ?」

真宮寺「その名の通り、瞬間移動したかのようにハイスピードな歩法のことサ」

キーボ「……瞬間移動、ですか」

真宮寺「……厳密には、限りなく瞬間移動に近いハイスピード歩法なんだけどネ」

真宮寺「そして、そうした能力は、非常に有用だ」

真宮寺「……それがあれば、敵の背後に回って、死角から斬り伏せることだって可能だしーーー」



アンジー「………」



真宮寺「ーーー自分の仲間が、平時ではあり得ないくらいの大ピンチに追い込まれた場合であっても、瞬歩を駆使すれば、短い時間で駆けつけて助けることが可能となるのサ」





キーボ「……ゴン太クンならマスターできそうですね」

真宮寺「……そうだネ」

アンジー「……それに、ゴン太なら、それで体当たりしただけで、悪霊退散できそうだよねー!」

キーボ「……確かに、ゴン太クンの身体は、鉄製のボクも驚愕せざるを得ないくらいには頑強ですからね」

キーボ「あの身体で突進されたら、大概の相手はただでは済まないでしょう」

真宮寺「……そういった意味では、うかつに瞬間移動して味方に体当たりしてしまうと大変なことになる、諸刃の剣とも言えるわけだけどーーー」



真宮寺「ーーー彼は小さな虫が傷つかないように、細心の注意を払える人だ。それを思えば、味方に体当たりしないよう、注意を払うことだって可能だろうネ」



キーボ「……ええ、ゴン太クンならば、きっと大丈夫でしょう」





真宮寺「ーーーさて、それじゃあ劇場の締め括りに、斬拳走鬼の鬼、鬼道(きどう)についての説明に移させて貰うヨ」

キーボ「キドウ、ですか」

真宮寺「鬼道とは、わかりやすく言うなら、魔法みたいなものだヨ」



キーボ「……魔法?」



真宮寺「手を伸ばしてから詠唱……すなわち呪文を唱えた後に、その言霊(コトダマ)に対応した……霊術が手の平から発動される」

真宮寺「そうして、言霊を超常的な力に変換しているんだ」



真宮寺「まさに、魔法と呼ぶに相応しい力だヨ」





キーボ「……夢野さんが積極的に習いそうな技なんですね」



アンジー「……うーん、それはどうだろうねー?」



キーボ「? どういうことですか?」

アンジー「ちょっとねー? 技の名前やコトダマの感じが秘密子と合わない気がするんだー」

キーボ「感じが合わない……?」



真宮寺「……鬼道とは、技名や言霊の内容が和風気味でネ。夢野さんみたいな、西洋の魔法使いを参考にしている人に合うかは微妙なところだヨ」

キーボ「なるほど、確かにそれならば、夢野さんに合うかは判断しかねますね」

アンジー「………」





真宮寺「……夢野さんなら、むしろ、 “ 西 ” のーーー」



キーボ「……西?」



真宮寺「ーーーあァ、いや、何でもないヨ。気にしないで」



キーボ「……気にしないで、ってーーー」



真宮寺「いや、話しても良いヨ? ただ、話が脱線するし、長くなるからネ。とりあえず今は気にしないで貰えると助かるヨ」



キーボ「ーーーわかりました。それでは、今は気にしないようにしましょう」





キーボ「ーーーところで、呪文って具体的にどういったものがあるんですか?」

キーボ「とても興味があるのですが」

真宮寺「……僕が気に入った技とその詠唱は、この紙に書き留めてあるから、それを見てくれれば良いヨ」スッ

キーボ「ありがとうございます。それではさっそくーーー」パラパラパラッ…







キーボ「ーーー【滲み出す混濁の紋章】」





真宮寺「ーーーえっ、?」



アンジー「………」



キーボ「【不遜なる狂気の器】」



真宮寺「……ちょっと、キーボ君」



キーボ「【湧き上がり】【否定し】【痺れ】【瞬き】【眠りを妨げる】」



アンジー「……あのねー? キーボ、その技はーーー」



キーボ「【爬行する鉄の王女】【絶えず自壊する泥の人形】」



キーボ「【結合せよ】【反発せよ】」



キーボ「【地に満ち】【己の無力を知れ】!!」











キーボ「破道の九十【黒棺】!!!!」











シーン……



キーボ「ーーーって、何も起こらないじゃないですか!」



真宮寺「それはーーー」



アンジー「……キーボはしにがみじゃないからねー」



キーボ「えっ……?」



真宮寺「……これは死神の技だからネ」

真宮寺「死神の霊圧を持たなければ発動はできない」



アンジー「………」



真宮寺「死神でない者がそれを言ったところで、ただの言葉の羅列にしかならないヨ」





キーボ「そ、そうだったんですか……」

アンジー「……というか、もし、万が一、本当にすごい力が出たらどうするつもりだったのー?」



キーボ「あっーーー」



アンジー「アンジーたち、巻き込まれたかもよー?」

キーボ「す、すみません! アンジーさん! 真宮寺クン!」

キーボ「あの呪文を見たら、どういうわけか読みたい気持ちが溢れてつい……本当にすみません!」





アンジー「ーーーうんうん、ちゃんと謝れて偉いねー! アンジーは許すよー!」

真宮寺「まァ、中々に神秘的な言葉だからネ。魅了される気持ちはよくわかるヨ」



真宮寺「……とりあえず、これからは気をつけてネ?」



真宮寺「今回は何ともなかったから良いけどーーー不用意な言葉は人を悲しませる結果を生むこともあるからサ……」



キーボ「……はい、本当にすみませんでした! アンジーさん! 真宮寺クン!」





真宮寺「ーーー鬼道の説明に話を戻すけど、鬼道は番号が大きい程、その分、使用の際に霊力を消費するし、扱いも難しくなる傾向にある」

真宮寺「だから、さっきのような九十番代の鬼道を扱える人は、死神の中でも比較的少数になるだろうネ」



キーボ「………」



真宮寺「……また、鬼道は、斬魄刀に込められし霊力を、適した量と形で編み込んで発動することでーーー」



真宮寺「ーーー斬魄刀のように悪霊を無害な魂魄に昇華し、死後の世界に送ることも可能とされている」



真宮寺「……そうした技術が、編み出されている」



アンジー「………」



真宮寺「まァ、実際にそれが可能かどうかは、その鬼道を扱う死神の力量次第なんだけどネ」





真宮寺「……ちなみにさっきキーボ君が詠唱したものは “ 破道 ” と言って、主に攻撃に使う鬼道」

真宮寺「他にも攻撃の補助などに使うための “ 縛道 ” 、回復に特化した “ 回道 ” などが存在しているヨ」

キーボ「……勉強になります」

真宮寺「他の鬼道……縛道に関しても、詳しく説明をしたいところだけどーーー」



アンジー「ーーー是清ー? そろそろーーー」



真宮寺「ーーーわかっているヨ。夕飯までの時間も迫っているし、死神の仕事と死神が持つ力に関する説明も一通り終わった」

真宮寺「今日は、ここまで。ご静聴感謝するヨ」





キーボ「……わかりました。今日も、ありがとうございました! 真宮寺クン!」



アンジー「……アンジーも楽しかったよー!」



真宮寺「……ありがとう」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー






ー翌日・志波家の庭ー



キュッ……



キーボ(ーーーよし、これでボクの分の掃除とやり残した部分がないかの最終チェックが終わりました)



キーボ(しばらくしたら、アンジーさんと真宮寺クンの方も終わるでしょう)



キーボ(これから合流して、その後はーーー)キュルキュル






………………………………………………………………






銀城(……おい、見たか?)






月島(……うん、見たよ)


ギリコ(見てしまいましたな)


銀城(まさか、本当にロボットがいるとはな……)


ギリコ(存在自体は、岩鷲さんから聞いてはおりましたがーーー実際に見るとなると、流石に驚きを隠せませんな)


銀城(……月島、一応聞いておくが、幻覚や立体映像って線はーーー)


月島(それは無いよ、銀城)


月島(あのロボットには、過去の “ 厚み ” があるからね)




銀城(………)




月島(それも、他の全員と全く同じ、 “ 厚み ” が、ね)





銀城(……そうか)


ギリコ(確かに、月島さんが、そうした “ 厚み ” を認識できている以上、幻覚や立体映像の線は薄いと言わざるを得ませんな)


銀城(ああ、幻覚にしろ立体映像にしろ、 “ 厚み ” まで再現するとなると、それを月島レベルで認識できる奴でねえと不可能なはずだ)


銀城(だが、そんなものを認識できるのは、月島本人くらいのもんだ。それを考慮すれば、幻覚や立体映像の線は薄い)


銀城(……何はともあれ仕方ねえな。あのロボットは現実の存在って方向で話を進めてくしかーーー)






………………………………………………………………






キーボ「ーーーすみません、キミ達三人はどうして、そんなところに隠れているのですか?」





銀城「………」


月島(……この距離で聞こえるような、大きな声は出していなかったはずだけどね)


ギリコ(それに加えて、あの場所では、こちら側は死角となって見えないはず)


ギリコ(ふむ、どうやら、御姿だけではなく、聴力も人を外れているようですな)






………………………………………………………………






キーボ「……ロボット差別しているところすみませんが、何か御用でしたら、こちらまで来て返事をして頂けないでしょうか?」





銀城「……しゃあねえ、行くぞ、お前ら」

月島「………」

ギリコ「………」



スタスタ……



銀城「……あー、来たぞ、そのーーー」

キーボ「はじめまして、ボクはキーボと言います。見ての通り、ロボットをしていて、この志波家で住み込みで働いております」



月島「………」

ギリコ「………」



キーボ「……よろしければ、キミ達のお名前の方も教えて頂けますか?」





銀城「……俺は、銀城空吾」



月島「僕は、月島秀九郎」



ギリコ「私、沓澤ギリコと申します」



キーボ「銀城さんに、月島さんに、沓澤さんですね! ありがとうございます。ボクの記憶領域に記録しました!」





キーボ「ーーーところで、みなさん、こちらに何か御用でしょうか?」

キーボ「先ほどお聞きした内容によると、どうも岩鷲クンのお知り合いのようですが」



月島「……確かに、彼とは知り合いではあるけれどーーー別に大した用があって来たわけじゃないよ」

キーボ「大した用じゃ、ない?」

月島「ここにロボットがいると聞いてね。ちょっとばかり確かめたくなったのさ」

月島「食費のためのアルバイトも、ひと段落ついたことだしーーーそうして空いた時間を使って、なんとなくここに来た」



月島「ただ、それだけだよ」





キーボ「……なるほど、よくわかりました」



月島「………」



キーボ「……ただ、これだけは言っておきます」



月島「……何かな?」











キーボ「ーーーボクは、見世物ではありませんよ」











月島「………」



ギリコ「………」



銀城「………」



キーボ「………」





銀城「……悪かったな」

キーボ「………」

銀城「本当に、悪かった」



銀城「ーーー見世物にされんのは、気分の良い話じゃねえからな。多分それはロボットも同じなんだろうよ」

月島「………」



銀城「……お前も謝っとけ、月島」

月島「……そうだね。悪かったよ、キーボくん」

ギリコ「私からも謝罪させて頂きます。申し訳ありません」



キーボ「……いえ、気をつけて頂けるのなら、ボクはそれでーーーー」





銀城「……あー、詫びと言っちゃあ何だが、何かわからないことや困っていることがあれば何でも言ってくれ。応えてやるし、力になるぜ?」



キーボ「ーーーわかりました。それでは三つほど質問してもよろしいでしょうか?」



銀城「おう、なんだ?」



キーボ「まず、一つ目ですがーーーー」



月島「………」



キーボ「ーーーキミ達は、岩鷲クンや空鶴さん……この志波家の人達と、どのような関係にあるのでしょうか?」





銀城「……それはだな……」

ギリコ「……元居候、と言ったところですかな」



キーボ「……えっ、元居候ってーーー」



月島「………」



キーボ「ーーーということは、まさかキミ達が空鶴さん達の言っていたーーー」



銀城「そうだな。俺達三人が、お前が現在住んでいる家にかつて居候していた連中だ」

ギリコ「もう、何年も前の話になりますがね……」

月島「………」








キーボ(……まさか、ボクらの先輩に会うことになるとはーーー)






銀城「ーーーそれで、次の質問は何だ? 遠慮なく聞いてくれて構わねえぜ?」








キーボ「……それでは、二つ目の質問ですがーーー」



銀城「………」



キーボ「ーーー瀞霊廷の住み心地はどうですか?」






銀城「………」



月島「………」



ギリコ「………」





キーボ「……実は、ボクは現在、【パワーセンサー】という霊力ある存在を感知する装置を、この装甲の中に収納していましてね」



銀城「……何だと?」



キーボ「そうやって、誰かと一緒に掃除している最中は、お互いに現在どこにいるか、いつでも把握できるようにしているのですがーーー」



キーボ「ーーーそのおかげで、僕は、銀城さん達が霊力を持っていることがわかったんです」





キーボ「……霊力を持っているということは、瀞霊廷に住む資格があるということになります」



月島「………」

ギリコ「………」



キーボ「だからこそ、お聞きしたいのです」

キーボ「瀞霊廷の住み心地をーーー」



銀城「ーーー悪いが、そいつは無理だ」





キーボ「ーーーどうして、ですか?」



銀城「……簡単な話だ」

銀城「俺達は、瀞霊廷に住んでねえからだ」



キーボ「……えっ、?」



月島「だから、瀞霊廷の住み心地なんてものを、話しようがない」



月島「そういうことなんだよ」





キーボ「……どうして、霊力があるのに瀞霊廷に住まないんですか?」

銀城「ーーーこっちにも、いろいろあってな。多少の出入りだったり、食費のためのアルバイトをしに行ったりはできるが、住むわけにはいかねえんだ」

キーボ「………」

銀城「悪いが、その理由は言えねえ。察してくれると助かる」



キーボ「ーーーわかりました。それでは踏み込まないようにします」



銀城「……悪いな、本当に」



キーボ「いえ、誰にだって踏み込まれたくない部分はありますからね」

キーボ「それを考慮すれば、当然のことです」



月島「………」

ギリコ「………」





キーボ「……三つ目、最後の質問に移りますがーーー良いですか?」



銀城「ーーーああ、答えられる範囲で答えさせて貰うぜ」



キーボ「……それでは、お聞きしますがーーー」



月島「………」

ギリコ「………」



キーボ「ーーーなぜ、キミ達の服は、現代風なのでしょうか?」





月島「……ああ、そのこと」

キーボ「? ひょっとして、これも聞いたらいけませんでしたか?」

ギリコ「……いえ、このくらいならば、問題はありません。よくされる質問ですからな」

銀城「そうだな。とりあえず、わかりやすくざっくりと話させて貰うがーーーそれで良いか?」



キーボ「……ええ、お願いします」





銀城「……結論から言うとだな」

銀城「俺達のこの服は、現世から持ってきたものなんだ」

キーボ「え? でもーーー」

ギリコ「言いたいことはわかります。生前の服は現世から持っていくことはできません」

月島「普通なら、ね」



キーボ「………」



銀城「……逆に言えば、普通じゃない力があればできることでもある」



キーボ「普通じゃない、力……」



銀城「実は俺達は、生前、霊能力者じみたことをしていてな。その力のおかげで、この尸魂界に服を持ってこれちまったってわけだ」





キーボ「霊能力者……?」

銀城「ああ、霊力ってのは、大概の場合は死んで肉体の束縛を受けなくなってから目覚めるもんなんだがーーー中には生前の時点で持っている奴もいる」

キーボ「………」

銀城「その中でも、比較的 “ 器用 ” な奴は、俺達みたいに服を尸魂界に持っていくことができちまうんだ」

キーボ「……いや、ちょっと待ってください」

銀城「………」

キーボ「霊能力者だから服を持ってこれたとのことですがーーー霊力を持っていたとしても、死神学校で鍛えるか、悪霊に変わるなりしないと、超常能力を扱うことはできないんじゃないんですか?」

キーボ「少なくとも、【パワーセンサー】によれば、ボクも霊力を持っているようですが、だからと言って超常能力を扱えるような感覚はありません」

キーボ「なので、霊力を持っていても、 死神学校で鍛えたり、悪霊に変わるなりしないと、超常能力を扱えないものだとばかり思っていたのですが……」





銀城「ーーーまあ、普通はそうだな」



キーボ「……だとしたら、銀城さん達は、どうやって、 “ 器用 ” なことをしたんですか?」

キーボ「現世に死神になるための学校があるとは思えません」

キーボ「ならば、死神としての力だって手に入らないはずですし、その条件下で、 “ 器用 ” なことができるとも考えづらいです」

キーボ「……悪霊でもない限りは」



月島「………」

ギリコ「………」



キーボ「……銀城さん達は、いったい、どうやって、服をーーー」



銀城「……それはーーー」



ギリコ「ーーー霊力にも、いろいろな形があるのですよ」





キーボ「形?」

ギリコ「ええ、一口に霊力と言っても、いろいろな形があります」

ギリコ「悪霊にならずともーーー霊力の形次第で、できることも変わってくるのですよ」

月島「……そう、全ては霊力の形次第」

月島「形次第で僕らのように、現世から服を持ってくると言った、 “ 器用 ” な真似も可能となるのさ」



キーボ「………」



銀城「……もちろん、これはあくまでも特殊な事例だ」

銀城「普通の霊力持ちは、さっきお前が言った通り、悪霊に変わるか、死神の学校で鍛錬して磨き上げない限り、超常能力を扱ったりはできねえからな」

月島「そうだね、銀城。普通は生前に幽霊を見たり、話したりするくらいが良いところだろうね」

ギリコ「磨かれていない力では限界がある、ということですな」



銀城「……まあ、とりあえずは、俺達には普通とは違う霊力があって、そのおかげで生前の服を尸魂界に持ってこれちまった」

銀城「そう、考えてくれりゃあ良いさ」





キーボ(……なるほど、そういうことですか)




キーボ(……そういえば、銀城さん達は、さっき、過去の “ 厚み ” という言葉を発していたーーー)




キーボ(ーーーその時の彼らは、ボクを幻覚や立体映像と捉えていたようですし、 “ 厚み ” とはそれに関する専門用語か何かだと思って、あまり気にしていませんでしたがーーー)




キーボ(ーーーもしかしたら、その言葉こそが、彼らの霊力のーーーー)





キーボ「ーーーとりあえず、服を持って来れたのは霊力のおかげということは、よくわかりました。お答え頂き、本当にありがとうございます」



キーボ「ただーーー」



月島「ああ、流石に僕らの霊力がどういったものであるかは教えないよ?」



キーボ「………」



月島「誰がどこで、どんな方法で聞き耳を立てているかわからない以上、教えたが最後、それが広まって晒し者にされるかもしれない……」

銀城「………」

月島「……それは、僕らとしても望むところはないからね」



キーボ「ーーーわかりました。ならば、そこは聞かないことにします」



ギリコ「……こちらへの配慮、感謝します」





銀城「……とりあえず、質問には三つとも答えたが、これで大丈夫か?」

キーボ「……はい、大丈夫です」

キーボ「お答え頂き、本当にありがとうございました」

銀城「どういたしまして、だな」

ギリコ「……私からも、あなたの貴重なお時間を割いて頂き、本当に感謝します」

月島「………」

銀城「……それじゃあ、俺達は自宅に帰るぜ。邪魔したな、キーボ」

キーボ「あっ、はい、お元気でーーー」



銀城「ーーーと、その前に、だ」



キーボ「?」



銀城「帰る前に一つ、こっちから聞いても良いか?」



キーボ「ーーー何でしょうか?」



銀城「ーーーアンジー達と仲は良いのか?」





キーボ「ーーーキミは、アンジーさん達のことを知っているんですか?」



銀城「ああ、さっきも言ったが、何年か前は、この家で生活していたからな」



ギリコ「そうした繋がりから、いくらか彼女達と関わることがありましてな。あなたの存在についても聞いておりました」



月島「まあ、その君が尸魂界(こっち)に来るだなんて、この目で見るまで半信半疑だったけどね……」



キーボ「………」



銀城「ーーーで、どうなんだ? キーボ?」



銀城「アンジー達とは、仲良くやれてるのか?」





キーボ「ーーーそうですね。仲良くしていますよ」

銀城「そうか……」

キーボ「……なぜ、そのようなことを?」

銀城「……大した理由じゃねえさ」

銀城「ただ、一応は先輩だからな」

銀城「後輩が上手くやれてるかは、なんとなく気になるんだよ」

銀城「ーーーそんだけだ」

キーボ「………」

銀城「じゃあな」



スタスタ……



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





スタスタ……



銀城「ーーーこの辺りで良いか?」

ギリコ「そうですな……」

月島「………」


ギリコ(……【タイム・テルズ・ノー・ライズ】)ギリギリ



ギュイーン……!



ギリコ「……これで、我々の声は、あのロボットの元には絶対に届きません」

銀城「……そうか」

ギリコ「ここまで離れれば、もはや『契約』をする必要はないかもしれませんがーーー念には念を入れておくに越したことはありませんからな」





月島「ーーーそれじゃあ遠慮なく話すけど……あのロボット、随分と過激な過去を持っているようだね」

銀城「………」

月島「霊圧は、大きさも質も、一護のクラスメイトと同じくらいだっていうのにーーー」



月島「ーーーまさか、あんなピリピリした霊圧を放てるとはね」



銀城「……そんだけ気骨のある奴なら、問題はねえかもな」



ギリコ「……ですが、彼の過去もまたーーー」



月島「ーーー関係無いよ」





月島「あのロボットやアンジー達……彼らの過去がどうだろうと、僕らが踏み込むようなことじゃあない」

月島「そう、一護が、僕や君らの昔に、踏み込まなかったように、ね」



銀城「………」



月島「だから、話の種にはしても、気を揉む種として育むことはない。そうだろう?」



ギリコ「………」





月島「……というか、それ以前に、僕らが気を揉むほどの案件だとも思わないけどね」



ギリコ「? どういうことです?」



月島「……どれほど変わった過去があろうとなかろうとーーー決して変わらないものはある」



銀城「………」



月島「だから、心配はいらない」

月島「そういうことなのさ」





月島「……僕がこんなことを言えるのはおかしいかい?」



銀城「………」

ギリコ「………」



月島「……僕らの霊能力は、『過去の改竄』『契約』などの固有能力が形作られたが最後ーーーその固有能力の内容が変化することは決して無い」

月島「だけど、そうした結果と向き合い続けることで、今まで気づけなかった新しい能力の使い方に気づけることはある」

月島「だから、僕にはわかるのさ。 “ 変わらない色 ” ってやつを、ね」



月島「あの鉄の本は、そう彩られているよ」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





アンジー「……よしよし、これでーーー」



キーボ「ーーーそちらは終わりましたか? アンジーさん」スタスタ



アンジー「……あ、キーボ」

アンジー「ーーーうん! アンジーも終わったよー!」



真宮寺「ーーーもっと言えば、僕の方も終わったヨ」スタスタ



アンジー「あー、是清もかー! お疲れー!」

真宮寺「ありがとう、夜長さん」





アンジー「……ところで、キーボ……」

キーボ「……?」

アンジー「……もしかして、さっき、空吾たちに会った?」



キーボ「……? はい、確かに会いました!」



アンジー「……やっぱりー」

真宮寺「こっちの【パワーセンサー】にも三人分反応していたからネ。もしやとは思っていたけど……」



キーボ「……それがどうかしたんですか?」



アンジー「………」



キーボ「もしかして、銀城さん達に何か用事があったんですか?」





アンジー「……ノーノー、違うよー」

キーボ「?」

アンジー「単純に、気になっただけだからー」

キーボ「……気になる?」

アンジー「そうだよー」



真宮寺「………」



アンジー「……キーボが、何か、変なこと言われなかったかなー、って」





キーボ「変なこと……?」



アンジー「……たとえば、ギリコからーーー」



真宮寺「………」



アンジー「ーーー別の、神さまの、こととかーーー」









アンジー「ーーー言われ、なかった?」





キーボ「ーーー別の、神さま?」



アンジー「………」



キーボ「……いえ、そのような話はしていませんがーーー」



アンジー「……そう」

真宮寺「………」



キーボ「……?」





アンジー「……実はねー? ギリコは、アンジーの神さまとは、違う神さまを信じているんだよー」

キーボ「違う、神さま、ってーーー」



真宮寺「……彼は、それを、 “ 時の神 ” と呼んでいるヨ」



キーボ「時の、神……」



真宮寺「まァ、聞いた限りだと、偶像崇拝というよりは、概念の崇拝に近いようだけどネ……」





アンジー「……これから、ギリコに変なこと言われても、気にしちゃダメだからねー? キーボ?」



キーボ「………」



アンジー「……アンジーの信じる神さまは、アンジーの神さまだけだからさー」



アンジー「別の神さまに浮気したら……きっと罰が当たるよ?」





キーボ「……大丈夫ですよ」






アンジー「………」






キーボ「……ボクは神さまに頼ることが、できませんから」











アンジー「…………」











真宮寺「ーーーアー……とりあえず、家の中に戻ったら、今日の分を、はじめようか」



真宮寺「そう、【鰤清劇場】を、ネ」



キーボ「!」



アンジー「……うんうん、それが良いよー!」



キーボ「………」





真宮寺(……今日、話すこと)


真宮寺(それは、昨日話せなかった “ 西 ” についてーーー)


真宮寺(ーーーそう、この、日本人の集う、 “ 尸魂界・東梢局 ” とは、大きく異なる文化圏ーーー)


真宮寺(ーーー “ 尸魂界・西梢局 ” についての話をーーーー)



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





~尸魂界・流魂街~



アンジー「………」



シバタ「ーーーあっ、アンジーお姉ちゃん! おはよう!」



アンジー「……あー、ユウイチ! おはよー!」



シバタ「奇遇だねーーー」

シバタ「ーーーって、あれ?」



アンジー「んー? どうしたー?」



シバタ「今日は、真宮寺お兄ちゃんは一緒じゃないの?」





アンジー「……あー、是清は、お花摘みに行ってるところだよー」






シバタ「……そうなんだ……」





アンジー「……是清に、何か用かー?」

シバタ「……うん、実は、 “ 家族 ” のみんなに絵を描いてプレゼントしようって思ったんだけどーーー」



アンジー「………」



シバタ「ーーーそれと一緒に付ける手紙、それができたら、まずは真宮寺お兄ちゃんに出来を確かめて欲しいと思ってさ」

シバタ「万が一、変なこと書いちゃってたら、大変だし」



アンジー「………」



シバタ「それを、伝えたくてーーーー」





アンジー「……プレゼント、するんだー?」

シバタ「……うん、 “ 家族 ” のみんなに!」

アンジー「……にゃはははー! 是清はすっかりユウイチに頼られてるねー!」

アンジー「アンジーもすごい嬉しいよー!」



シバタ「………」



アンジー「……? どうしたー、ユウイチ?」



シバタ「……ちょっと、ね……」



アンジー「ちょっと?」



シバタ「うん、ちょっとだけーーー」







シバタ「ーーーアンジーお姉ちゃんが羨ましいなあ、って」





アンジー「………」



シバタ「ぼくは、真宮寺お兄ちゃんのこと、まだ全然知らないしーーー」



シバタ「ーーーだから、真宮寺お兄ちゃんと一緒に住めるアンジーお姉ちゃんが羨ましいって、思える時があるんだ」



シバタ「もっと、真宮寺お兄ちゃんに近づけたらな、って」





アンジー「……ユウイチ?」

シバタ「?」

アンジー「ユウイチには、ユウイチの “ お兄さん ” がいるよね?」

シバタ「……そうだね」

アンジー「是清のことを好きになってくれるのは嬉しいけどーーー」



アンジー「ーーー “ お兄さん ” のことも大事にしないとダメだよ?」



シバタ「………」



アンジー「でないと……罰が当たるよ?」





シバタ「……大事に、したいよ」

シバタ「……今の “ お兄さん ” が、現世のどこで、どんな人になって、どんな人生を送っているかはわからないけどーーー」



シバタ「ーーーぼくの “ お兄さん ” であることに変わりはないから……」



アンジー「………」



シバタ「…… “ お兄さん ” 、“ 家族 ” のみんなには、僕自身、納得のいく内容の手紙と絵をお供えしたいと思ってる」

シバタ「だから、真宮寺お兄ちゃんに、手紙の出来を見て貰いたかったんだ」





シバタ「……それに、真宮寺お兄ちゃんは、前にも僕を助けてくれたからね」

シバタ「そんな真宮寺お兄ちゃんの、支えになりたいと、僕は思う」



アンジー「………」



シバタ「だから、近くでそれができるアンジーお姉ちゃんが羨ましい」



シバタ「そう、思ったんだ」





アンジー「……アンジーが是清を、支える、かー……」

シバタ「……うん、アンジーお姉ちゃんならできるでしょ?」



アンジー「……どうかなー?」

シバタ「えっ……?」

アンジー「……むしろ、逆かもよー?」

シバタ「……?」

アンジー「アンジーが是清を支えているんじゃなくて……是清がアンジーを支えてくれてるんだー」





シバタ「……そうなの?」

アンジー「……そうだよー」

アンジー「そうでないと、アンジーはーーーー」



~~~~~~~~~~


~~~~~~


~~~~


~~





チュンチュン……




アンジー「………」パチリッ






アンジー「…………」ムクッ









アンジー「………………」





アンジー(……夢かー……)




アンジー(ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)




アンジー(……なんでかなー)




アンジー(……なんで、あの時のーーー)




コンコンッ……





アンジー「………」



キーボ「……アンジーさん、アンジーさん」コンコンッ

キーボ「起きていますか?」



アンジー「……起きてるよー」ムクッ…スタスタ



アンジー「……開けるねー?」ガチャッ…バタンッ

キーボ「おはようございます! アンジーさん!」

アンジー「……アンジーに何か用かー?」





キーボ「……ああ、いえ、この時間、アンジーさんは今まで、ボクと真宮寺クンのいる部屋まで、朝ごはんの誘いに来ていたので……」



アンジー「……うん、そうだね」



キーボ「でも、今日はなかったので、どうしたのか気になってーーー」



アンジー「……んー、ちょっと、変な夢見ちゃってねー……?」



キーボ「……夢、ですか」



アンジー「……詳しい内容は秘密だけどーーー夢見悪くて、調子狂って、起きるの遅めになっちゃったのかもねー」








キーボ「……まあ、そういうこともありますよ」



アンジー「………」



キーボ「あまり気にしない方が良いですよ、アンジーさん」








アンジー「……ねー、キーボ?」

キーボ「はい! なんでしょうか、アンジーさん!」

アンジー「今更、かもしれないけどねー?」

キーボ「?」






アンジー「……キーボと、こうしてまた会えてーーーー」











アンジー「ーーーアンジーは、すごく嬉しいんだー……」











キーボ「………」

アンジー「……もちろん、悲しまなきゃ、いけないことはわかってる」

アンジー「キーボも、アンジーたちと同じなんだから」



アンジー「そう、秘密子たちと、離ればなれ……」



キーボ「………」



アンジー「アンジーは、それが、悲しい」



キーボ「アンジーさん……」



アンジー「……だけど、それでも、キーボとこうしてまた会えたことはーーーー」









アンジー「ーーーすっごく、嬉しいんだ……」








キーボ「………」






アンジー「………」








キーボ「……それは、ボクも同じです」

アンジー「!」

キーボ「ボクも嬉しいですよ、アンジーさん」

キーボ「また、アンジーさんに会えて」

キーボ「一緒にいられて」



キーボ「すごく、嬉しいです」





アンジー「……そう……」

キーボ「………」

アンジー「……ありがとねー、キーボ」

キーボ「!」

アンジー「アンジーと “ 同じ ” でーーー」



アンジー「ーーー嬉しいって言ってくれてーーーー」






アンジー「ーーー本当に、ありがとう……」





キーボ(……そうです)




アンジー「………」




キーボ(今度こそ、アンジーさんが、喪われることのないようにしなくてはーーー)








キーボ(ーーーそのためには、まずーーーー)








キーボ「ーーーボクからも、お礼を言わせてください」






アンジー「………」






キーボ「ありがとうございます、アンジーさん! またボクと一緒にいてくれて!」








アンジー「……そんな風に言って貰えるなんてねー」

アンジー「アンジー、やっぱり嬉しいなー」

キーボ「アンジーさん……」

アンジー「……ねーねー、キーボ?」

キーボ「? なんでしょうか?」

アンジー「これから朝ごはんの時間だよねー?」

キーボ「ええ…そうですね」





アンジー「……アンジーが、食べさせてあげようかー?」



キーボ「……はい?」



アンジー「……ほら、 “ あーん ” ってやつだよー」



キーボ「………」





キーボ「……??」



アンジー「……キーボ、そういうこと、されたことないでしょー?」



キーボ「……いや、まあ、確かにされたことはありませんがーーー」



アンジー「だったら、アンジーがそれをする “ 初めて ” の相手なんだねー」



アンジー「なんだか、嬉しいなー」





キーボ「……?」






アンジー「………」






キーボ「……??」








アンジー「……んー? どうしたー、キーボ?」



キーボ「………」



アンジー「何か、変かなー?」








キーボ「……ああ、いえーーー」



キーボ「ーーーそんなことは、ありません」



キーボ「おかしくなんて、ないですよ……」



アンジー「………」



キーボ「……アンジーさんは、誰に対してもーーーー」











キーボ「ーーーすごく、あたたかい人ですから」











アンジー「……それで、どうするのー? キーボ?」



キーボ「? どうするってーーー」



アンジー「アンジーの “ あーん ” のことだよー」



アンジー「どうするー? どうするー?」





キーボ「……お気持ちはとても嬉しいのですがーーー」

キーボ「ーーー食卓には真宮寺クン達もいますし、ボクも一応は高校生です」

キーボ「流石に、ちょっと、恥ずかしいというかなんと言いますかーーー」

アンジー「にゃはははー! ロボットでもこういうこと、恥ずかしかったりするんだねー!」

キーボ「なっ、ロボット差別ですか!?」

アンジー「ノーノー、嬉しいんだよー」

アンジー「ロボットのキーボが、恥ずかしいって気持ちを知ってることがねー」

アンジー「それってー、『すごいこと』だよねー?」

キーボ「……!」





アンジー「……ねーねー、キーボ?」



キーボ「……なんでしょうか? アンジーさん?」



アンジー「 “ あーん ” が恥ずかしかったらさー」



アンジー「……アンジーの、隣で食べるくらいは良いかな?」



キーボ「………」



アンジー「……キーボ、今日から、アンジーの隣で食べて貰ってもーーー」







アンジー「ーーー良い、かな?」





キーボ「……もちろんですよ」



キーボ「むしろ、こっちからお願いしたいくらいです」



キーボ「隣に来させて貰います、アンジーさん」



アンジー「……ありがとね、キーボ」





アンジー「……アンジーは、これから朝の着替えをする」

アンジー「それが終わったら……一緒に行こうー?」

アンジー「着替え終わる頃には……朝ごはんの時間だからねー!」



キーボ「……ええ、そうですね!」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





キーボ(ーーーあれから、一週間以上もの時が経ちました)


キーボ(ボクら三人はこれといった問題もなく、こちらの屋敷での生活を続けていました)


キーボ(仕事の日は三人で掃除を行い、空いた時間にはアンジーさんと共に、真宮寺クンの……【鰤清劇場】を聴いていたのです)


キーボ(その話の中には、 “ 護廷十三隊 ” ……尸魂界や魂魄を守護する十三の部隊が、敵対勢力と交戦をしていたという内容もありました)


キーボ(……藍染惣右介(あいぜん そうすけ)をリーダーとした裏切り者の死神達と、崩玉(ほうぎょく)と呼ばれる謎の霊的アイテムでパワーアップした悪霊の軍団ーーー)


キーボ(ーーーそうした敵対勢力が、空座町(からくらちょう)と呼ばれる “ 重霊地 ” ……霊の集まる現世の土地を、悪用しようとした結果、起こってしまった戦争ーーー)


キーボ(ーーーそれ以外にも、因幡影狼佐(いなば かげろうざ)という死神が率いる、人造魂魄との戦争という内容のものまでありました)


キーボ(その全てが、興味深い話でした)


キーボ(それは今でもボクの記憶領域に大切に記録されています)


キーボ(絶対に記録しなければ、なりません)


キーボ(なぜなら、その話は、真宮寺クンがボクらのために話してくれたことでーーー)




キーボ(ーーー他ならぬ、アンジーさんと一緒に聴いたことなのですから)




キーボ(そうして近くで、話題を共有することによって、ボクはアンジーさん達とこれまで以上に仲良くなれたように思います)


キーボ(また、真宮寺クンの持つカルタや花札で遊んだり、アンジーさんが浦原さんから購入したお菓子を、一緒に食べたりもしました)


キーボ(……まあ、それでも、アンジーさんに、その…… “ あーん ” を、させて貰ったりはしませんでしたがーーーー)





キーボ(……そんな中、休日である今日この日、とうとうボクに封筒が届きました)


キーボ(そう、ボクが瀞霊廷に住むための申請、その結果に関する通知の入った封筒が、です)


キーボ(空鶴さんが瀞霊廷に行った手続き、それに対する返事が今日ついに届き、空鶴さんからボクに手渡されたのです)


キーボ(それを知ったアンジーさん達から、一緒に結果を見ても良いか頼まれ、その通り一緒に見ることにしました)




キーボ(そして、その結果はーーーー)











キーボ(ーーー合格、でした……)











キーボ「………」



アンジー「………」



真宮寺「………」



キーボ「……えーと、その……」



キーボ「……これは、どういうーーー」







アンジー「ーーーすごいねー、キーボ!」





キーボ「ーーーえっ、?」



アンジー「……だって、キーボは、瀞霊廷に住めるんだよー?」

真宮寺「………」

アンジー「ロボットなのに魂があるだけじゃなくてーーーすごい場所にだって住めちゃうんだよー?」

アンジー「それって、ものすごく、『すごいこと』なんだよー!」



キーボ「………」



アンジー「だからーーーいってらっしゃい、なんだよー!」ニパアッ!





キーボ「……アンジー、さん……」



アンジー「……どうしたー、キーボ?」



アンジー「瀞霊廷に住めるなんて、めったにない話だよー?」



アンジー「もっと、喜んだらー?」





キーボ「……いえ、そうではなく……」



アンジー「……?」



キーボ「……アンジーさん、今あなたはーーー」



アンジー「………」



キーボ「ーーー笑いながらーーー」







キーボ「ーーー泣いてーーーー」





アンジー「ーーーえっ、?」ジワッ…



ポロ……ポロポロ……



アンジー「……あっ、あれ?」ポロポロ…

アンジー「……おかしいなー? なんでかなー……」ガクッ…

アンジー「……あれれ?」ガクガク…

アンジー「あれれー……?」ガクガクブルブル…



キーボ「………」

真宮寺「………」



アンジー「……うーん、寒くて、身体ヘンになってるのなー?」ブルブル…

アンジー「キーボみたいには、いかないねー、にゃはははー!」ガクガク…



キーボ「アンジーさん……」





アンジー「……ごめんねー? ちょっと、アンジーの部屋で落ち着いてくるねー?」ブルブル…

キーボ「えっ……」

真宮寺「………」

アンジー「……大丈夫だよー! ちょっと、落ち着けば、なんとかなるからー!」ガクガク…

アンジー「……ぐっばいならー! にゃはははー!」タッタッ…

キーボ「あっ、アンジーさんーーー」ダッ…



ガシッ!!



キーボ「!?」

真宮寺「………」ググッ





キーボ「……なんですか、真宮寺クン? この手は」

真宮寺「……今の時点で、君を夜長さんのところに行かせるわけにはいかない」



真宮寺「そう、思っただけだヨ」



キーボ「……どうして、そう思ったんですか?」

真宮寺「……逆に聞くけど、君は夜長さんがああなった理由がわかるかい?」

キーボ「それは……」

真宮寺「わからないのなら、行くべきではないヨ」





キーボ「………」



真宮寺「……よくわからないまま、不用意なことを言ってしまえば、それで相手の心を傷つけてしまうかもしれない」

真宮寺「場合によっては……最悪の結果で終わりを迎えることになるかもしれない」



キーボ「……!!」



真宮寺「コトダマは時に、 “ 死 ” を生み出す凶器にもなり得るのだから」



真宮寺「そうだろう、キーボ君?」





キーボ「……だったら、キミはわかるんですか?」

キーボ「アンジーさんの、あの様子について」

真宮寺「……少なくとも、今の君よりはわかるつもりだヨ」

真宮寺「夜長さんとは、今の君よりもずっと長く時間を共有していたわけだからネ」



キーボ「………」



真宮寺「一応言っておくけど、夜長さんがどうしてああなったのかは、自分で考えて欲しい」

真宮寺「……君が今それをわからないのは、夜長さんと再会したことによって得られた、安心感による油断が原因だとは思うけどーーー」



真宮寺「ーーー逆に言えば、こうして自分と夜長さんの関係に不安を感じている今であれば、気づけるはずだヨ」



キーボ「………」





真宮寺「……キーボ君、僕が斬魄刀の話をしていた時には、君は自分に心が与えられた理由に、気づくことができたじゃないか」

真宮寺「……少なくとも、僕の出した問題に、答えることができたじゃないか」

真宮寺「僕が用意していた解答と同じ答えを自力で見出すことができたじゃないか」

真宮寺「それができるのなら、夜長さんがああなってしまった理由にだって……僕の出した結論以上のものを見出せるはずだ」



真宮寺「……自力で気づけるはずなんだ」



真宮寺「違うかい?」



キーボ「………」





真宮寺「……もし、どうしても自分から理由に気づけないというのなら、ある程度は僕から話しても良い」

真宮寺「だけど、自力で気づくことすらできない身の程で、夜長さんに対して、何をしてあげられるだろうか?」

真宮寺「自力で気づくことすらできない者がーーーどうやって人の複雑な気持ちに……夜長さんの心に向き合えるというのだろうか?」



キーボ「………」



真宮寺「……そのことを踏まえた上で、よく考えて欲しいんだ」



真宮寺「夜長さんが、ああなってしまった……その理由を、ネ」





キーボ「………」






キーボ「…………」









キーボ「………………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





キーボ(ーーー真宮寺クンにああ言われてから、約半日が過ぎました……)


キーボ(今日は休日であったため、充分な時間が用意されていました)


キーボ(その間に、ボクは思考を繰り返し、それをまとめーーー)




キーボ(ーーーボクとしての “ 解 ” を出した)




キーボ(なぜ、アンジーさんが、ああなってしまったのか?)


キーボ(その解を携えて、今のボクは、修練場の扉の前にいる)


キーボ(ボクが、 “ 解を出した ” と、真宮寺クンにメールを送った後に、 “ 指定した時間に修練場で話そう ” と返信されたのです)


キーボ(故に、今のボクは、修練場の扉の前にいる)




キーボ(……ボクの出した解が、完全に正しいとは限らない。いや、完全とは到底言えないものでしょう)




キーボ(だからこそ、より正しい解を、見出すために、ここにいる)




キーボ(最良の結果を求めて、こうしてここにいる)








キーボ(……ボクに、痛覚は無いはずなのに……)









キーボ(……また、こんな、気持ちになるだなんて……)








キーボ(ーーーそれでも、ボクは歩み続ける)


キーボ(そうしないと、前に進めないから)


キーボ(辿り着けないものがあるから)


キーボ(向き合えないものがあるから)




キーボ(だから、ボクは歩む)




キーボ(今ここで……)


キーボ(……ボクの中にある、みんなの『想い』と共にーーー)




キーボ(ーーーいざーーーー)




ガチャッ……





真宮寺「ーーー来たようだネ」

キーボ「……ええ、来ましたよ」

キーボ「ボクとしての、解を携えて」



バタンッ……ガチャッ!



真宮寺「ーーーそれなら、さっそく聞かせて貰うヨ? キーボ君」

キーボ「………」

真宮寺「なぜ、夜長さんは、ああなってしまったのか?」



真宮寺「その解をーーー」



真宮寺「ーーー他ならない、君の推理を、ネ」





キーボ「……結論から言わせて頂きます」



真宮寺「………」



キーボ「アンジーさんが、ああなってしまったのはーーーー」









キーボ「ーーー “ こわいから ” です」





真宮寺「ーーーこわい、ネ……」



キーボ「………」



真宮寺「……一応確認しておくけど、夜長さんが、何をこわがっていると言うんだい?」



真宮寺「まさかとは思うけど、君が瀞霊廷に住むことで離れ離れになってしまうことーーー」



真宮寺「ーーー “ それだけ ” が、こわいなんて、言うつもりはないよネ?」





キーボ「……そうですね」

キーボ「 “ それだけ ” ではありませんよ」

真宮寺「………」

キーボ「 “ それだけ ” ならば、あんな風に、震えたりはしない……」

キーボ「ならば、アンジーさんがこわがる理由は、他にもある。いや、むしろ、それこそが、あんな風に震えてしまう最大の理由なのでしょう」

キーボ「……あの身体の震えは、その理由が根幹となったものでありーーー」

キーボ「ーーーボクが瀞霊廷に住めるという事実が、震えを誘発してしまった」

キーボ「こわがる、最大の理由を、想起させてしまった」

キーボ「そういうこと、なのでしょう」





真宮寺「……それで、結局それは、何なのかな? キーボ君?」



キーボ「………」



真宮寺「夜長さんが、他に、こわがっていることって、サ」





キーボ「……アンジーさんがこわがっているものーーー」






真宮寺「………」









キーボ「ーーーそれは、 “ 死 ” です」





真宮寺「………」



キーボ「……これは、事故や事件などに巻き込まれて “ 死 ” を迎えることだけを恐れているのではなくーーー寿命による “ 死 ” をも恐れているんです」



真宮寺「寿命、ネ」



キーボ「ええ、寿命です」

キーボ「事実として、流魂街の住民には、寿命があります」

キーボ「それも、【瀞霊廷に住める者達とは異なり】【短い時間の中で】【新しい命に生まれ変わらなければならない】ーーー」



キーボ「ーーーそんな寿命が」



真宮寺「………」



キーボ「……生まれ変わりとは、言い換えるのならば、現在有している自己が喪われ、全く違う新しい自分に存在を書き換えられるということです」

キーボ「ボクは、それを、ある意味での “ 死 ” であると考えています」





キーボ「……アンジーさんもまた、同じように考えている」

キーボ「故に、それをこわがっている」

キーボ「しかも、この流魂街では、いつ自分が輪廻の輪を通り、生まれ変わることになるかわからない」



真宮寺「………」



キーボ「……現世の出生率が増加した場合は、尸魂界の魂魄には輪廻の輪を通って現世の生命に生まれ変わって貰う必要が出て来ますしーーー」

キーボ「ーーー現世で多数の死亡者が出て、その魂魄が尸魂界に来た場合は、それによる世界バランスの変化を修正する必要がある。つまりは、これまで尸魂界にいた魂魄は輪廻の輪を通らなくてはならない」

キーボ「そう、現世の状況次第では、いつ自分が輪廻の輪を通らされるか、わからない」



キーボ「……いつ、輪廻の輪の中で、自己を喪うことになるか、わからない」

キーボ「いつ、現世のどこの誰に生まれ変わることになるか、わからない」



キーボ「そうした、 “ 死 ” を、いつ迎えても、おかしくはない」



キーボ「それを思えば、アンジーさんがあんな風に震えて、こわがるのは当然の反応でしょう」





真宮寺「……転生はある意味での “ 死 ” であり、それをこわがっている、ネ……」

キーボ「………」

真宮寺「……だけど、なんで夜長さんまでこわがるんだい?」

真宮寺「……彼女には、神さまがついているんだヨ?」

真宮寺「その神さまから、元気の出る言葉をかけて貰って……それで勇気を湧き上がらせればーーー」



キーボ「ーーーそういうわけにもいかなかったのでしょう」





キーボ「……なぜなら、今のアンジーさんはーーー」



真宮寺「………」












キーボ「ーーー神さまの声を、しっかりと聞くことができないのでしょうから……」





真宮寺「………」



キーボ「……神さまの声が生前と同様に聞こえていれば、その神さまに元気の出る言葉をかけて貰い、勇気を湧き上がらせることもできたかもしれません」



キーボ「そうした勇気をもって、生まれ変わりという “ 死 ” を、受け入れることもできたかもしれない……」



キーボ「……しかし、この尸魂界では、アンジーさんの定義する神さまの声を、生前のように聞くことができない」



キーボ「だから、生まれ変わりを……今の自分の “ 死 ” を、受け入れることはできなかった」



キーボ「だから、ああして、こわがっているんです」





真宮寺「……神さまの声が聞こえない、ネ……」

キーボ「……ええ、そうです」

真宮寺「そう思う根拠は、何かあるのかい?」

キーボ「……主に二つあります」

真宮寺「………」

キーボ「一つ目の根拠、それは、アンジーさんがこの世界で神さまの言葉を述べる際に、『きっと神さまは~』という表現を何度も使っているということです」

キーボ「もし、生前と同じように、神さまの声がしっかりと聞こえるのであればーーー何度もああいった言い回しはしないでしょう」



真宮寺「……なるほど、ネ」



キーボ「そして、二つ目の根拠ですがーーーー」






キーボ「ーーーそれは、この屋敷に来た当初、アンジーさんの部屋に美術品の一切がなかったことです」





真宮寺「………」



キーボ「……生前のアンジーさんは、自分が美術品を作ることが可能なのは、神さまのおかげであるかのような発言をしていました」

キーボ「それはすなわち、アンジーさんの “ 才能を発揮できる条件 ” には、 “ 神さまの声が聞こえること ” が含まれていたということになります」

キーボ「逆に言えば、神さまの声が聞こえない場所では、才能を発揮できず、納得のいく作品が作れないということでもあります」

キーボ「そして、アンジーさんの部屋には美術品の一切がなかった」

キーボ「それは、アンジーさんが自分で納得のいく作品を作ることができない、すなわち才能を発揮できる状態にないことを意味している」

キーボ「そう、その才能を発揮する上で、必要となる神さまの声が聞こえないからーーー」



真宮寺「………」



キーボ「ーーーそうして、神さまの声が聞こえないが故に、神さまに元気の出る言葉をかけて貰うことができない」

キーボ「神さまのもたらす勇気をもって、恐怖を、抑え込むことができない」

キーボ「それでは、生まれ変わりという “ 死 ” を受け入れるなど、到底できやしない」



キーボ「そういうことなのでは、ありませんか?」





真宮寺「……神さまの声が聞こえないのならーーーどうして神さまの声が今でも聞こえているかのような発言をする必要があるんだい?」



キーボ「………」



真宮寺「どうして、素直に神さまの声が聞こえないと、言わないんだい?」



キーボ「……そんなの決まっているじゃないですか」

キーボ「そうしないと、耐えられなかったからです」



キーボ「死の恐怖に」



真宮寺「………」





キーボ「……今のアンジーさんは、生前の時とは違う」

キーボ「常に自分を導いてくれて、なおかつ最大級に信頼を寄せる神さまの声を、生前のように聞くことができなくなった」

キーボ「才能を振るうことも叶わなくなった」

キーボ「ただ、この流魂街で、生まれ変わりという名の “ 死 ” を待ち続けるだけ」



キーボ「……こわいに決まっています」



キーボ「そのこわさに耐えるためには、神さまに頼るしかなかった」



キーボ「だから、アンジーさんは【神さまの声が】【生前と同様に】【聞こえていることにする】しかなかったんです」



真宮寺「………」





キーボ「……いえ、ああして身体を震わせているところを見るに、完全に耐えきれているわけではないのでしょう」



キーボ「ですが、それでも耐えるために、今でも【神さまの声が】【生前と同様に】【聞こえていることにする】しかなかったんです」



真宮寺「………」



キーボ「……キミがそうして、正気でいられることがその証明でしょう」





真宮寺「……どういう意味かな?」

真宮寺「どうして、そこで、僕が出てくるんだい?」



キーボ「……人は、【一歩離れた場所から】【落ち着いていない誰かを見ることによって】【自分を落ち着かせることのできる】存在でもあるーーー」



キーボ「ーーーキミにも、よくわかる理屈だと思いますが」



真宮寺「………」



キーボ「実際にキミは、アンジーさんが、【神さまの声を】【聞こえていることにした】ーーーその姿を見ていたのではありませんか?」



真宮寺「!!」



キーボ「……見ていたからこそ、自分の “ 過去 ” と向き合うことができた」

キーボ「……冷静に見つめ直すことができた」

キーボ「だからこそ、そうして正気を保てている」



キーボ「そう、でしょう?」





真宮寺「………」






真宮寺「…………」









真宮寺「………………」





真宮寺「……そうだネ。その通りだヨ」

キーボ「!」

真宮寺「……僕は、この世界に来たばかりの頃、正気を保つのが困難だった」

真宮寺「死神からこの世界に関する説明を受ける際は、医療所の中で行われーーー」

真宮寺「ーーー途中で何度も鎮静剤を投与され、安静にするよう言われたり、妙な医療機器を頭に取り付けられたりもした」

キーボ「………」

真宮寺「それから……親切な死神からカウンセリングを受けるなどして、いくらか落ち着いたけどーーー」



真宮寺「ーーーそれでも、ずっと正気を保っていられるわけじゃあなかったんだ」





真宮寺「……そんな中で、この世界に来た他のみんなから、キーボ君が言うような状態の夜長さんを、見せられた……」

真宮寺「それで……いろいろと、思い、知らされた、ん、だヨ……」

キーボ「………」

真宮寺「……その後、茶柱さんに投げ飛ばされたり、百田君に何発か殴られたりもした」

真宮寺「だけど、その二人を含めたみんなと対話して、支えられてーーー」



真宮寺「ーーーその結果、どうにか今のように、正気を保ち続けることができるようになった」



真宮寺「……だから、僕が正気でいられるのは、君の言う通り、夜長さんのことがあるからなんだ」

真宮寺「それは、確かな事実だヨ」



キーボ「……やはり、そうでしたか」





真宮寺「……一応言っておくけどサ……」

真宮寺「……百田君達は、決して夜長さんを見捨てて、自分達だけ別の場所に行ったわけじゃないからネ?」



キーボ「……わかっていますよ。そのくらい」

キーボ「百田クン達は、アンジーさんのためにここに残るだなんて、できるはずがなかった」

キーボ「なぜなら、残ってしまえば、アンジーさんの心を殺してしまうことになるのですから」



真宮寺「………」





キーボ「……アンジーさんだって、生前のことを何も振り返らなかったわけではないのでしょう」

キーボ「きっと、アンジーさんは、自分の抱える過去と向き合った」

キーボ「だからこそ、百田クン達を引き止めるようなことはしなかったしーーーそれどころか、笑顔で送り出した」



キーボ「そうやって、みんなを、瀞霊廷へと……誰もが憧れる世界へと送り出したのでしょう」



キーボ「ボクを瀞霊廷へと、送り出そうとした時のように……」



真宮寺「………」



キーボ「……そんな中で、百田クン達が空鶴さん達に無理を言って、この屋敷に居座ったりすれば、どうなるか?」

キーボ「アンジーさんのために、百田クン達が自分の可能性を閉ざしてしまったら、何がどうなるか?」

キーボ「それは、アンジーさんに罪悪感を募らせ……最終的に心を殺してしまいかねない」

キーボ「故に、百田クン達は、アンジーさんを残して、瀞霊廷に行くしかなかったのでしょう」





キーボ「……もちろん、百田クン達もアンジーさんのために何かできることはないか必死に考えたとは思います」

キーボ「彼らが、真宮寺クンが言っていたような夢を想い描き、それを目指すようになった理由ーーー」

キーボ「ーーーそれは、彼ら自身の純粋な夢ということもあるでしょうが、アンジーさんに元気になって欲しいという気持ちもあったはずです」



真宮寺「………」



キーボ「だからこそ、東条さん、茶柱さん、ゴン太クンの三人は、人の心をケアする方法を学び、それをもってアンジーさんに元気になって貰えないかと考え、救護部隊を目指した」

キーボ「だからこそ、赤松さん、王馬クン、天海クン、星クンの四人は、アンジーさんの心に届いて元気になれるような演奏や芸を編み出そうと考え、音楽芸人を目指した」



キーボ「だからこそ、百田クンは科学者の道を選んだ」



キーボ「そうした道の上で、入間さんやその発明品から発想力というものを学び、それを我が物とすることに決めた」

キーボ「アンジーさんの心に届くような言葉を、そのための手法を、発想できるようになるために」

キーボ「入間さんは、それにできる限り協力して、百田クンを支える形で、アンジーさんに元気になって貰おうとした」



キーボ「そうして、それぞれ、アンジーさんが元気になるためには、どうすれば良いかを考え、実行に移したのでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「……ですが、現状それは上手くいっていない」

キーボ「故に、アンジーさんは現在、ああなってしまっている」

キーボ「……ただ、それだけのことなのでしょう」





真宮寺「……君の言う通りだヨ、キーボ君」

真宮寺「百田君達は、決して、夜長さんを見捨てたわけじゃない」

真宮寺「それどころか、時間さえあれば、夜長さんに対して何かできないかを考えている」

真宮寺「それをわかってくれたようで何よりだヨ……」



キーボ「………」



真宮寺「……そう、だからこそ、夜長さんは、ああなった」

真宮寺「彼女の抱える死の恐怖を、誰も退けることができなかったが故に、ああなってしまった」

真宮寺「……これまで、聞こえるようにした神さまの声と、君の存在で抑えていた死の恐怖ーーー」



真宮寺「ーーーそれが、君が瀞霊廷に住めると知った瞬間に、吹き出してしまった」



真宮寺「君と離れ離れになることの淋しさのあまり、死の恐怖が吹き出してしまった」

真宮寺「だから、夜長さんは、ああなってしまったんだヨ」





キーボ「ーーーアンジーさんは、自分と誰かとの間に、深い繋がりが欲しかったんですね」

キーボ「それこそ、空鶴さんと岩鷲クンの関係のようなーーー」



キーボ「ーーー他者が入り込めない程の、深い繋がりが」



真宮寺「………」



キーボ「……アンジーさんは、生まれ変わりという名の、今の自分の “ 死 ” に怯えていた」

キーボ「故に、それを抑えようと、誰かを求めた」

キーボ「誰かとの、深い繋がりを持とうとした」

キーボ「そして、その対象は、最初は真宮寺クンだった」



真宮寺「………」





キーボ「……キミにそれを求めることは、アンジーさんとしても迷いがあったでしょうがーーー」



キーボ「ーーーあの学園での、当時の状況を考慮すれば、アンジーさんは、キミのことをトラウマになるレベルで恐怖はしていないはずです」



真宮寺「………」



キーボ「それに加えて、今のキミは信頼できる言動を取っている」

キーボ「アンジーさんもまた、キミと一緒にいたい思えるくらいには、今のキミを信頼していた」

キーボ「故に、アンジーさんは、今のキミならば、死の恐怖を抑えるに足る存在であると考え、キミを居候させることを空鶴さんに頼み込んだ」

キーボ「そうして、可能な限り、二人、一緒にいることにした」

キーボ「ボク達が再会したばかりの時、一人で渡しに行くことも可能な回覧板を、二人で渡しに行っていたくらいには」



真宮寺「………」





キーボ「……ですが、やはり、どこか上手くいかなかった」

キーボ「……まあ、無理もないことですね」



真宮寺「………」



キーボ「……そこで、新たに現れた存在が、ボクでーーー」

キーボ「ーーーそれが、百田クン達と同じように瀞霊廷に住めるとなればーーー」






キーボ「ーーー戸惑いも、しますよ」





真宮寺「ーーー君は、本当によく、わかっているようだネ……」

真宮寺「そう、君は間違いなく夜長さんの希望だった」

キーボ「………」

真宮寺「君はロボット。常識的に考えて瀞霊廷に住めるはずのない存在だ」

キーボ「……ええ、まあ……」

真宮寺「故に、流魂街……この志波邸に留まり続けることになると考えるのが自然だ」



真宮寺「……しかも、君がこの志波邸に留まれば、どうなるか?」

真宮寺「君は今後、誰を最優先対象とすることになるか?」

真宮寺「言うまでもなく、夜長さんだ」



キーボ「………」



真宮寺「それは、夜長さんにとっても同じこと」

真宮寺「お互いを、これ以上にないほど大切にできる関係を築き上げることができる」

真宮寺「夜長さんは、そう考えたはずだ」





真宮寺「だけど、君が瀞霊廷に住めるとなると話は変わる」

真宮寺「瀞霊廷に住めるなら、ここにいる理由はなくなる」

真宮寺「夜長さんは、君を送り出さなくてはならない」



真宮寺「自分の抱える過去を、理由に」



キーボ「………」



真宮寺「そうして、君は夜長さんから離れ、入間さん達と一緒にいることになる」

真宮寺「そんな中で、君が夜長さん個人を最優先対象にするのは難しい」

真宮寺「そうだよネ?」





キーボ「……そうですね」



キーボ「アンジーさんと一緒に住めるのは、今日来た通知によれば、あと一週間しかない」



真宮寺「………」



キーボ「……もちろん、空間転移装置がある以上は、ボクが瀞霊廷に住んだ後も定期的にアンジーさんと会うことはできるでしょうがーーー」







キーボ「ーーー流石に、アンジーさんだけを最優先で……というのは困難であると言わざるを得ません……」





真宮寺「ーーーそれに加えて、君は瀞霊廷に住むことによる特権を享受できることになる」



真宮寺「輪廻転生の輪から逃れることが可能となる、特権を、ネ」



キーボ「………」



真宮寺「それは、生まれ変わりという名の “ 死 ” に怯える夜長さんにとって、羨みの対象となり得るんだ」





キーボ「羨み、ですか……」

真宮寺「……それも、百田君達に対するものよりも、ずっと大きな、ネ」

キーボ「……まあ、確かに、ボクは百田クン達とは違いますからね……」

真宮寺「………」

キーボ「……百田クン達は、瀞霊廷に住めるため、かなりの長生きが可能ですがーーーそれでも寿命はある」



キーボ「……だけど、ボクは、違う」



真宮寺「………」



キーボ「それは、否定できないことです」





真宮寺「……そうだネ。その通りだヨ、キーボ君」



キーボ「………」



真宮寺「君には寿命がない」



真宮寺「君は、永遠を持っている」



真宮寺「ロボットであるが故に」





真宮寺「……もちろん、機械的な寿命はあるかもしれないけどーーー悪くなった部分は取り替えれば済む話だ」

真宮寺「入間さんに頼めば、そういったことを自動でしてくれる発明品を作ってくれるんじゃないかな?」



キーボ「………」



真宮寺「……そうなれば、君は永遠だ」

真宮寺「君は、永遠の存在となり得るんだ」



真宮寺「……瀞霊廷の霊力ある魂魄が、倫理を廃した時、寿命を超越し永遠になれる可能性を持つ存在だとするならばーーー」



真宮寺「ーーー君は倫理を廃さずとも、永遠になれる存在であると言える」



キーボ「………」



真宮寺「……短い時間の中でしか生きられない、夜長さんとは、真逆の存在だ」

真宮寺「それが、夜長さんにとって、どう見えるか?」

真宮寺「その相手と、深い繋がりを持つことができるだろうか?」

真宮寺「一緒にいて、死の恐怖を抑えられるだろうか?」



真宮寺「……想像に難くない話だヨ」



真宮寺「期待と現実のあまりのギャップに、夜長さんがああなってしまうのは、無理もないことだろうネ……」





真宮寺「……そんな中で、君がそこまで現状を理解している」

真宮寺「それほどまでの進化を、君は遂げている」

キーボ「………」

真宮寺「それは、霊体という自由度の高い身体になって電子頭脳が活性化したが故なのかーーー」

真宮寺「ーーーそれとも、単純に “ 頼れる誰か ” がいないが故に成長したのかはわからないけどーーー」

真宮寺「ーーーそうして、君が進化したことは、今の状況において、とても喜ばしいことだヨ」



キーボ「………」



真宮寺「……うん、この分なら、君が夜長さんの神さまを全否定することはなさそうだネ……」





キーボ「……そんなこと、するはずがないでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「神さまを、全否定する?」

キーボ「それは、人の心の基盤を破壊するということですよ」





キーボ「……人には、それぞれ、心の基盤としている過去があります」

キーボ「家族、友人、恩師、恋人、夢……人によって内容は変わるでしょうが、それでも基盤としている過去がある」



真宮寺「………」



キーボ「アンジーさんの場合、それが神さまだった」



キーボ「……そう、神さまは、人によっては、かけがえのない心の基盤、立派な過去なんです」

キーボ「なのに、その神さまが存在する可能性を奪い尽くせばどうなるか?」

キーボ「そうやって心の基盤を破壊するような真似をすれば、人に何を与えることになるか?」



キーボ「……計算するまでもないことです」



キーボ「ボクは、そういった行為に手を染めたくなどありません」



真宮寺「………」





キーボ「……もちろん、場合によっては、そうした行為に手を染めねばならない時もあるでしょう」

キーボ「……神さまの存在を盾に、誰かの人生を搾取したりーーー」

キーボ「ーーー人の首を集めまわる人物がいたのであれば、ボクは全身全霊を込めて破壊することでしょう……」



真宮寺「………」



キーボ「……しかし、アンジーさんは違う」

キーボ「アンジーさんが、それも過去と向き合い、生前のことを振り返ったアンジーさんが、そうした行為に手を染めるはずがない」

キーボ「……仮に、それをしているのならば、あの空鶴さん達に気づかれないとは思えない」

キーボ「そして、空鶴さん達に気づかれているのなら、空鶴さんの元に、未だアンジーさんがいられるはずがない。既に罪人として、死神の管理する施設に拘束されているはずです」

キーボ「それらの事実を考慮すれば、今のアンジーさんは、何もしていない」

キーボ「ならば、ボクに、ボクらに、アンジーさんの神さまを全否定する権利などない」



キーボ「そうでしょう?」





真宮寺「……その通りだと思うヨ」

真宮寺「その言葉は、王馬君達の主張と同じだ」

真宮寺「彼らと同じことを話してくれて、僕は本当に嬉しいヨ」



キーボ「………」



真宮寺「……彼らは、たった一つしかないとされる真実が、どういった結末を生み出すか知っている」

真宮寺「それを知っている彼らが、誰かの命がかかっているわけでもない状況でーーー」



真宮寺「ーーー誰かが傷つくわけでもない状況で、不用意に神さまを全否定するような言葉を放つはずがなかった」



真宮寺「そして、それは君もまた同じ」



キーボ「………」



真宮寺「……君が彼らと同じで、夜長さんと向き合うに足る存在で、僕は本当に嬉しいヨ」








キーボ「ーーーそうは言っても、まだ、どうしてもわからないことが残っているんですけどね……」






真宮寺「……?」














キーボ「……そもそも、なぜ、アンジーさんは瀞霊廷に住めないのでしょうか?」











真宮寺「………」



キーボ「……入間さんの【パワーセンサー】に反応した以上、アンジーさんには霊力があるはずです」

キーボ「しかし、瀞霊廷に住むことはできない」

キーボ「住めるのであれば、流魂街に留まっていないでしょうし……こうして空鶴さんのお世話になることもなかったでしょうから」

キーボ「ならば、瀞霊廷に住めない、相応の理由があるはずです」



真宮寺「………」



キーボ「……教えてください、真宮寺クン」

キーボ「これは、アンジーさんと向き合うために必要な情報なんです」

キーボ「不用意なことを言わないようにするためにも、知識が必要なんです」

キーボ「どうか、教えてくれませんか……?」







キーボ「真宮寺クン……!」











真宮寺「…………」











真宮寺「……わかった。教えるヨ」



キーボ「!」



真宮寺「どうして、夜長さんが瀞霊廷に住むことができないのか?」



真宮寺「その理由を、ネ」



キーボ「……お願いします!」





真宮寺「……実は言うと、夜長さんは瀞霊廷に住める条件を満たしている」



キーボ「!」



真宮寺「夜長さんは君の言う通り霊力を持っているし、僕と違って失われることもなく、今も保たれ続けている」

真宮寺「手続き上は、住むことが可能なはずだヨ」





キーボ「……それなら、どうしてーーー」



真宮寺「それは、夜長さんの霊力の形に問題があるからサ」



キーボ「……形……?」



真宮寺「……夜長さん、彼女はーーーー」











真宮寺「ーーー滅却師(クインシー)だ」











キーボ「……クインシー?」



真宮寺「……滅却師とは、種族単位で特殊な霊力を宿すに至ったーーー人間の突然変異種のことサ」



キーボ「ーーー!!?」



真宮寺「突然変異種である滅却師は、DNAレベルで特殊な霊力を宿している」

真宮寺「その霊力の強さによっては、生前の時点から、幽霊を見ることもできるしーーー」






真宮寺「ーーー霊子を操作することも可能だという話だ」





キーボ「……霊子を操作?」

真宮寺「……まァ、念動力のような力で霊子を集めて、弓矢のような武器を構築したりだとかーーーそういうことができると思ってくれれば良いヨ」

キーボ「えっ、いや、しかし、アンジーさんにそんな力はーーー」

真宮寺「そうだネ。夜長さんは昔も今もそんな力は一切扱えない」



キーボ「………」



真宮寺「……もっとも、夜長さんの場合は、種族としては滅却師でも、滅却師として育てられていたわけではないようだからネ」

真宮寺「滅却師としての、鍛錬もしていない」

真宮寺「それでは、霊力や霊圧の質が滅却師というだけの人間の魂魄でしかない」



真宮寺「故に、夜長さんに滅却師の力が扱えないのは当然だヨ」





キーボ「……鍛錬が必要なんですね」

真宮寺「そう、滅却師がその力を扱うためには、滅却師の力をコントロールする鍛錬をしなければならないんだ」

真宮寺「もっとも、純血の滅却師は、そのあまりに強い霊力のおかげか、鍛錬せずとも一部の力を行使できるみたいだけどーーー」



真宮寺「ーーー夜長さんは、通常の人間との混血のようでネ……」

キーボ「………」



真宮寺「……混血の滅却師は、通常の人間の血が混じっている分だけ、霊力の強さは抑え気味になる傾向にあるらしくてネ。そのため、鍛錬抜きで滅却師の力を扱うなんて、まず不可能」

真宮寺「そして、夜長さんが滅却師として育てられていたわけではないということは、鍛錬を一切していないことになる」



真宮寺「それは、今も同じ」

キーボ「………」



真宮寺「……夜長さんは、その鍛錬をするために、 “ どうにか瀞霊廷の図書館などを利用して鍛錬の仕方を調べられないか ” とも思ったようだけれどーーー」



真宮寺「ーーーそういった情報が記載された文献は、死神や貴族以外が閲覧することを禁止されているという話でネ。結局、鍛錬は諦めざるを得なかったのサ」





キーボ「……それで、アンジーさんがそのクインシーだったとして、いったい何が問題なんですか?」

真宮寺「……滅却師が、死神と相容れない種族だから、かな?」

キーボ「……どういうことですか?」

真宮寺「……滅却師はDNAレベルで霊力を宿している人間で、当然その魂魄も霊力を宿している」

真宮寺「そして、霊力ある魂魄は、悪霊に襲われやすい」

真宮寺「だから、滅却師が身を守るためには、霊子を操作する力で悪霊を倒す必要があるのだけれどーーーそれを死神が受け入れるわけにはいかないんだ」

キーボ「……?」

真宮寺「……滅却師は、その力で悪霊に攻撃すると、悪霊の魂魄が崩壊して、消滅してしまう」

キーボ「消滅……」

真宮寺「そう、昇華ではなく、消滅」

真宮寺「故に、その魂魄が、尸魂界に送られることはない……」



キーボ「なっーーー」



真宮寺「だけど、そんなことをすれば、その魂魄は救われないしーーー」



真宮寺「ーーーそれに加えて、現世と尸魂界にある魂魄の全体量が減少し、世界のバランスを崩してしまう」



キーボ「………」



真宮寺「滅却師が身を守るための行動が、魂魄の救済を妨げ、世界のバランスを崩してしまうことになるんだ」





真宮寺「故に、滅却師と死神は永きに渡り、対立を続けていた」

真宮寺「その結果、死神は滅却師と三度、戦争をすることになった」

キーボ「戦争……」

真宮寺「そう、戦争」

真宮寺「身もふたもないことを言えば、殺し合いだネ」



キーボ「………」



真宮寺「……前に、死神とは、 “ 生きている人を殺して、無理やりあの世に連れて行く ” ような存在ではないと説明したけどーーー」

真宮寺「ーーーそれはあくまでも、 “ 現在の死神が、生者を積極的に殺害することを目的とした集団ではない ” という意味で言ったこと」

真宮寺「相手が自分達にとって、害となるのであれば、例外的にその命を奪う選択をすることもある……」



真宮寺「……時には、肉体だけでなく、その魂魄ごと、ネ」



キーボ「…………」





真宮寺「……そうした殺し合い、戦争は、とても残酷なものだ」

真宮寺「中でも、十年近く前、 “ ユーハバッハ ” という滅却師の王が引き起こした戦争は、相当凄惨なものだったようでネ」

真宮寺「 “ 見えざる帝国 ” という、霊体に進化した滅却師の群勢が、瀞霊廷の中にまで侵攻しーーー護廷十三隊の死神の約半数を、殺害するに至ったそうだ」



キーボ「………!!?」



キーボ「ま、待ってください!!」

キーボ「瀞霊廷……赤松さん達は、盤石なセキュリティで守られているんじゃーーー」



真宮寺「当時は、瀞霊壁と遮魂膜の性能が現在ほど高くなかったらしい」

真宮寺「また、瀞霊廷の門番達も、まだ特殊な結界霊術を扱いきれなかったとのことだ」



キーボ「結界霊術……?」



真宮寺「……僕も詳しくは知らないんだけどーーー現在は門番達の霊圧などを媒介に、特殊な結界霊術が常時発動されているようでネ」

真宮寺「無意識に発動されし “ 見えない結界 ” が、瀞霊廷やその付近を覆い、特殊な形で守っているらしいんだ……」



キーボ「………」





真宮寺「……亡くなった死神達とその関係者の名誉のためにも言っておくけどーーー別に当時のセキュリティが脆弱だったわけじゃない」

真宮寺「当時の瀞霊壁や遮魂膜だって、大概のものなら決して通さなかったしーーー」



真宮寺「ーーー瀞霊廷への不法侵入を試みる者が現れた時には、まるでそれを予知していたかのように、瀞霊壁は降り注いだ」

真宮寺「不法侵入されるより前のタイミングで、必ずと言っていいほど空から降り注ぎーーーその壁の効力で、門以外からの侵入をほとんど阻止し守ってくれた」

真宮寺「門を任された門番達だって、大概の相手ならば一撃で倒していたという話だ」



キーボ「………」



真宮寺「……ただ、滅却師が何枚か上手で、僅かな隙を突かれてしまった」

真宮寺「それだけのことに過ぎないのサ……」





真宮寺「……そうして僅かな隙を突かれた結果、滅却師の群勢が瀞霊廷の中にまで侵攻してしまった」



キーボ「………」



真宮寺「……もっとも、それは、死神達によって返り討ちにしたもののーーーそれでも被害が甚大なことに変わりはない」

真宮寺「かつての護廷十三隊のトップ……総隊長を殺され、その副官を含め、最終的には約半数もの死神を殺されるに至った……」



キーボ「…………」



真宮寺「……そうした前代未聞の大被害は、人手不足など多数の問題を生み出し、今も死神達に多大な影響を与えているんだ」





真宮寺「……もちろん、今では、多少は人手も回復しているし、セキュリティもより盤石と呼べる状態に昇華されている」



キーボ「………」



真宮寺「……ただ、どんなに頑張って外側を埋め直したとしても、人の心まで同じように直るとは限らない」



真宮寺「戦争でつけられた心の傷は未だ残っており……油断すれば、傷口から負の感情が吹き出してしまいそうになる」





真宮寺「そう、仲間を、大切な人を奪われる……取り返しのつかない痛み……」

真宮寺「……そうした痛みが、死神の心から強い恐怖と憎しみを生じさせることになった」



キーボ「………」



真宮寺「….…そうして生まれた感情は、今だけではなくこれからも強く残り続けるだろう」



真宮寺「死神の寿命が長い以上、そうなるのが自然だ」



真宮寺「そうしたこともあってか、夜長さんと僕、他のみんなが尸魂界に辿り着いたばかりの時、大勢の死神に囲まれた」

真宮寺「その時の僕は冷静じゃなかったから具体的には覚えていないけどーーー星君が言うには、死神から相当の憎悪を感じたそうだヨ」



キーボ「………」





真宮寺「そう、死神達は、それほどまでの憎悪……いや、あらゆる負の感情を、滅却師に抱いてしまっている」

真宮寺「そんな中で滅却師が瀞霊廷に住んだりしたらーーーいつ嬲り殺しにされてもおかしくはない」



キーボ「………」



真宮寺「たとえ、滅却師であることを黙っていても同じこと」

真宮寺「滅却師は存在するだけで滅却師としての霊力や霊圧を発生させてしまうし、死神はそうしたものを見分ける感知能力を有しているのだから」



キーボ「………」



真宮寺「そうした状況で、滅却師である夜長さんが瀞霊廷に住めばどうなるか?」



真宮寺「死神達の近くにいれば、何が起きてしまうか?」



真宮寺「……想像に難くない話サ」





キーボ「……戦争をしたのは、そのクインシーの人達でアンジーさんではないでしょうに……」

真宮寺「……そうだネ」

キーボ「それに、クインシーとしての力を扱えないアンジーさんに、悪霊を消滅させたり、死神を殺したりなんて、できるはずがないのに……」

真宮寺「……君の言う通りだと思うヨ」



真宮寺「夜長さんは、そういったことはしていない」



真宮寺「だから、死神が夜長さんに危害を加えるような真似をすれば、その死神は自分達の法で厳重に罰せられるというリスクを背負うことになるはずだ」

真宮寺「きっと、いや間違いなく、死神の力と称号を剥奪され、名実共に死神でいられなくなるだろうネ」



キーボ「………」





真宮寺「夜長さんに危害を加えるだなんて、大間違いも良いところだと思うけどーーー」

真宮寺「ーーー死神の全てが、己が恐怖や憎しみを御しきれるとは限らないしーーー」



真宮寺「ーーーなにより、人は、間違いを犯す存在だ」



真宮寺「時には、間違いをも超える……大間違いに手を染めることもある……」



キーボ「………」



真宮寺「……どんなにルールで縛り付けられてもそれを破り……程度の差はあれ、人を傷つける者がいるように、ネ」



キーボ「…………その通りですね」





真宮寺「……人によっては、死神であることを捨ててでも、大間違いに手を染めるかもしれない……」

真宮寺「……目の前に恐怖、憎しみの対象が存在するとなれば、尚更……」



キーボ「………」



真宮寺「……よほどの人格者、あるいは、 “ 間違わないよう、支えてくれる誰か ” を持つ者であれば、目の前の恐怖や憎しみにも対抗できるかもしれない」

真宮寺「だけど、世界は必ずしも、そんな存在ばかりではない……」



キーボ「………」





真宮寺「……もちろん、夜長さんは、種族が滅却師というだけで、恐怖や憎しみの対象となるようなことはしていない」

真宮寺「だけど、人は、対象と同一性があるというだけで、関係のない誰かに対しても同様の感情を抱いてしまうこともある」

真宮寺「故に、人によっては、滅却師である夜長さんは恐怖や憎しみの対象となってしまうかもしれない」



キーボ「………」



真宮寺「……人が罪を犯せば、その当人だけでなく、その家族まで恐怖され、憎まれることがあるように」

真宮寺「一つの種族が殺人などの罪を犯せばーーーそれと同じ種族の全てが、まるで同罪かのように扱われてしまいかねないんだ」



キーボ「………」





真宮寺「そして、恐怖や憎しみ……負の感情は、人を苦しめる」

真宮寺「そうした苦しみから目を逸らし、苦しみを感じることから逃げ出したくもなる」

真宮寺「そうやって逃げ出したい気持ちに駆られておかしくなってしまえばーーー恐怖や憎しみの対象となる存在に、暴言を吐くこともあり得る」



キーボ「………」



真宮寺「【暴言を吐いて追い詰めて】【対象を “ 死 ” に近づければ】ーーー」



真宮寺「ーーー【そうやって近づけた分だけ】【自分の気持ちは晴れるだろう】……」



真宮寺「……【我が身の安全は保障され】【苦しみは消えるだろう】….…」



真宮寺「……そんな間違った認識をしてーーーその認識のままに、大間違いを犯してしまうこともあり得る」

真宮寺「それが、人という存在でもあるんだヨ」



キーボ「………」





真宮寺「……あァ、断っておくけど、夜長さんは、これまで死神から危害を加えられたことはないからネ?」

キーボ「……わかってます」

キーボ「キミがアンジーさんの前で死神の話をしていたことから考えるにーーーアンジーさんは、死神から感情のままに暴言を吐かれたりなど、危害を加えられたことはないのでしょう」

キーボ「そうでもなければ、キミは、アンジーさんの前で、死神の話をするだなんて、できなかったでしょうから」

真宮寺「………」

キーボ「それに、ボクらが再会したばかりの時、アンジーさんが外を出歩いていたことから考えてーーーアンジーさんの行動範囲に出向いている死神は、人格者ばかりなのでしょう」

キーボ「ただ、それでも、アンジーさんはクインシーであり、その事実は、アンジーさんの心に不満を生じさせてしまう」

キーボ「……瀞霊廷に住めないという、不満を」



真宮寺「………」



キーボ「……そういうこと、なのでしょう」





真宮寺「……そうだネ」



真宮寺「夜長さんは、滅却師だった」

真宮寺「そしてそれは、死神の管理する尸魂界において、デメリットの塊だった」

真宮寺「この辺りでは、まともな扱いをされてはいるけれどーーーそれ以外の場所では、どう扱われるかわからない」



キーボ「………」



真宮寺「滅却師であることのメリット……特別な力を持っているということを活かし、その力を鍛えて自らを誇ることもできない」

真宮寺「それに加えて、霊力ある身でありながら、死神全体の感情の問題から、瀞霊廷に住むこともできない」



真宮寺「どんな力も、それを御しきれないのならば、本人にとっては何の意味もない」



真宮寺「夜長さんが置かれている状況は、その証明であるとも言える」

真宮寺「……たとえ、自分がどんなにすごい超能力を持っているかもしれなくても、実際に超能力を扱えなければ、その超能力はないも同然ーーー」



真宮寺「ーーーいや、夜長さんの場合、完全になかった方がまだメリットがある」



真宮寺「完全になければ、瀞霊廷に出入りするくらいは普通にできただろうからネ……」





キーボ「……だからこそ、アンジーさんは、ああなってしまったわけですね」



真宮寺「……そうだネ」



真宮寺「滅却師という、自分にはよくわからないことを理由に、世界の管理者である死神から睨まれるという現実」

真宮寺「そのせいで、瀞霊廷に住めず、輪廻転生から逃れられないという現実」

真宮寺「神さまの声を生前のように聞くことが叶わず、才能を行使できないという現実」

真宮寺「そんな残酷な状況下で、いつ転生を迎えるかわからないという現実」

真宮寺「そうして、いずれ、今の自分が終わり、 “ 死 ” を迎えることになるという現実」



真宮寺「……それらの現実は、夜長さんにとって、あまりにあまりだった」








キーボ「……故に、アンジーさんは、死の恐怖を抑えるために、深く繋がれる誰かを求めーーー」






キーボ「ーーーそれが叶わなくなったと感じ、ああなってしまった……」








真宮寺「……解決し難い、根深い問題だヨ」

真宮寺「生前の……今までの常識が通用しない世界に突如として放り込まれ、上手く適応することができない……」

真宮寺「さらには、瀞霊廷という誰もが憧れる世界に住むことも叶わず……生まれ変わりを待って生きるしかない」



真宮寺「そうして、 “ 死 ” に、怯え続けることになる」



真宮寺「それも、生前に抱いていた信仰を揺るがされ、生前に最も信頼していた相手(神さま)と語らうこともできずに、ネ….…」



キーボ「………」





真宮寺「……そうした一面を切り取ってみれば、程度の差はあれ、この尸魂界では当たり前のように起きていることでもあるけれどーーー」



真宮寺「ーーーだからこそ、解決の目処が立たない、根深い問題でもあるのサ」



真宮寺「決して、目を逸らしてはいけない程に、ネ」



キーボ「………」





真宮寺「……ねェ、キーボ君?」



キーボ「………」



真宮寺「君はこの問題とーーー」









真宮寺「ーーー夜長さんと、どう向き合うつもりなんだい?」





キーボ「………」



キーボ「…………」






キーボ「………………」









キーボ「……………………」



ーーーーーーーーーー


ーーーーーー


ーーーー


ーー





これで前編は終了です。下記の次スレから後編に突入します。


【BLEACH×ロンパV3】キーボ 「砕かれた先にある世界」【後編】
【BLEACH×ロンパV3】キーボ 「砕かれた先にある世界」【後編】 - SSまとめ速報
(https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1569933726/)


よろしければお読みください。







真宮寺「……あァ、断っておくけど、夜長さんは、これまで死神から危害を加えられたことはないからネ?」

キーボ「……わかっています」

キーボ「キミがアンジーさんの前で死神の話をしていたことから考えるにーーーアンジーさんは、死神から感情のままに暴言を吐かれたりなど、危害を加えられたことはないのでしょう」

キーボ「そうでもなければ、キミは、アンジーさんの前で、死神の話をするだなんて、できなかったでしょうから」

真宮寺「………」

キーボ「それに、ボクらが再会したばかりの時、アンジーさんが外を出歩いていましたからね」

キーボ「そのことから考えて……アンジーさんの行動範囲に出向いている死神は、よほど負の感情を抑えるのに長けた人達かーーー」



キーボ「ーーーあるいは、アンジーさんと十年前のクインシーを完全に区別できる、そんなサッパリした人達ばかりなのでしょう」



真宮寺「………」



キーボ「ただ、それでも、アンジーさんはクインシーであり、その事実はアンジーさんの心に不安や不満を生じさせてしまう」



キーボ「……クインシーというイレギュラーな身の上で、死神の世界を生きるしかないという不安を」

キーボ「……霊力があるのに瀞霊廷に住むこと叶わず、いつ生まれ変わることになるか、わからないという不満を」



キーボ「生じさせて、しまう」



真宮寺「………」



キーボ「……そういうこと、なのでしょう」





>>513>>522に差し替えます。


また、後で同じように、他の部分を差し替えるかもしれません。なので、このスレは埋め立てないようにお願いします。


それでは次スレで。






キーボ「……なんですか、それらは?」

真宮寺「まず、瀞霊壁についてだけどーーー瀞霊廷の外側を取り囲む巨大な壁のことサ」

真宮寺「その壁は、本来、霊王宮を取り囲んでいるんだけどーーー」

真宮寺「ーーー瀞霊廷への不法侵入を試みる者が現れた場合などに限り、地上まで降って瀞霊廷を囲み、侵入を防いでくれるんだ」

キーボ「!?」

真宮寺「……たとえ、空間転移を悪用して不法侵入を試みようとも、光の速度で不法侵入を試みようともーーー」

真宮寺「ーーー瀞霊壁はそれらを何らかの方法で察知し、自らを地上へと降り注がせるそうだ」

真宮寺「……不思議なことに、侵入が完了する前に地上に到達する」

真宮寺「そして、その壁の機能によって、瀞霊廷外部からの空間転移などは阻害されーーー超スピードなどによる侵入さえも不可能にしてくれるんだ」



キーボ「?!?!?」



真宮寺「……あァ、もちろん、不法侵入以外の場合でも、瀞霊壁は降り注ぐ」

真宮寺「瀞霊廷に危機が迫っている時ーーーあるいは、ここしばらくのように、瀞霊壁が地上でも機能するか、入念な定期チェックを行う場合などに限りーーー」

真宮寺「ーーー必ず降って、瀞霊廷を取り囲んでくれるんだヨ」



キーボ「…………ち、ちょ、ちょっと待ってください!?!」

キーボ「……た、確か、霊王宮の下には、七十二以上の障壁があるのではーーー」

真宮寺「大丈夫。瀞霊壁が降る場合、霊王様の御力で自動的に障壁などを透過するようになっているから」

キーボ「……!!?」

真宮寺「……もっとも、障壁を破壊することなく地上まで届けられるかは、体調次第らしいけどーーー」

真宮寺「ーーー現在、霊王様の体調が急激に悪化することはないらしくてネ。それ故に、どんな時もオートで可能とされている」

真宮寺「まァ、いくらか制限はあるようだけどーーーそれに引っかからなければ、万物を透過する力を一時的に付与するくらいは、可能らしい」


>>286>>524に差し替えます。


……もう、あまり差し替えはしたくないのですが、個人的にどうしても許容できない部分があったので。差し替えさせて頂きます。


すみません。




真宮寺「……いや、まァ、正確には、現世でも多かれ少なかれ超常現象は起こり得るんだけどネ。霊子は現世にもあるわけだからサ」

真宮寺「だけど、それらのものを、現世に生きる大多数が見て記憶することは “ 基本的に ” 無理だ」

真宮寺「霊子やそれによって引き起こされる超常現象を、認識しきれないのが現状なんだヨ」

アンジー「………」

真宮寺「……もちろん、【生前の時点から相応の霊力を持ち】【その影響で霊子などを】【ある程度知覚可能になっている】などといった状況にあれば話は別だ」

真宮寺「でも、そういうケースはとても少ないしーーー」



真宮寺「ーーーもしも、【なんらかの理由で】【本来霊力を持たない人達でも】【霊子などを知覚できる状況にあった】としても、それらを記憶し続けることはできないだろうネ」

キーボ「!?」

真宮寺「……死神が、混乱防止のため、別の記憶に書き換えてしまうだろうからサ」

真宮寺「記換神機(きかんしんき)と呼ばれる記憶操作技術を使って、ネ」

キーボ「………!」

真宮寺「だから、現世では、霊子やそれによる超常現象を、当たり前のものとされていない」

真宮寺「……もちろん、知らないもの、目に見えないものに対して、想像を働かせることはできるだろうけどーーー」



真宮寺「ーーー全容を知り、記憶する術を持たない以上、自分達の想像が実状と一致しているかどうか、死ぬまで確かめることはできない……」

真宮寺「……そう、実際に死を迎えて魂だけの状態になり、死の側の存在とならない限り、確かめることは不可能」

キーボ「………」

真宮寺「……多くの人達は、霊子やそれによる現象を、死ぬまで当たり前のものとして認識できない運命にあるのサ……」


>>251の内容を>>526の内容に修正します。




キーボ「……もちろん、場合によっては、そうした行為に手を染めねばならない時もあるでしょう」

キーボ「……もしも現在、神さまの存在を盾に、誰かの人生を搾取したりーーー」

キーボ「ーーー人の首を集めまわる、とんでもない人物がいるのであれば、ボクは全身全霊を込めて破壊することでしょう……」



真宮寺「………」



キーボ「……しかし、アンジーさんは違う」

キーボ「アンジーさんが、それも過去と向き合い、生前のことを振り返ったアンジーさんが、神さまを盾に、とんでもないことをするはずがない」



キーボ「……仮に、それをしているのならば、あの空鶴さん達に気づかれないとは思えない」



キーボ「そして、空鶴さん達に気づかれているのなら、この家に、未だアンジーさんがいられるはずがない。既に罪人として、死神の管理する施設に拘束されているはずです」

キーボ「それらの事実を考慮すれば、今のアンジーさんは、何もしていない」

キーボ「ならば、ボクに、ボクらに、アンジーさんの神さまを全否定する権利などない」



キーボ「そうでしょう?」


>>487>>528の内容に修正します。




真宮寺「……その通りだと思うヨ」

真宮寺「その言葉は、王馬君達の主張と同じだ」

真宮寺「彼らと同じことを話してくれて、僕は本当に嬉しいヨ」



キーボ「………」



真宮寺「……彼らは、たった一つしかないとされる真実が、どういった結末を生み出すか知っている」

真宮寺「それを知っている彼らが、神さまを全否定するはずがなかった」

真宮寺「……自分や他の誰かの命がかかっているような状況であれば、話も変わるだろうけどーーー少なくとも、現在はそうじゃない……」



真宮寺「……もちろん、個人の主義主張、心情的な理由などもあり、【神さまには従えない】【神さまに頼ることはできない】などと述べてはいたけどーーー」



キーボ「……っ、!!」



真宮寺「ーーーだけど、それでも、夜長さん本人を見守っている神さま……その存在を丸ごと否定することはなかったんだ」



真宮寺「……そんな彼らは、【キーボ君達がここに来たら】【自分達と同じように考え】【決して神さまを、全否定することはないだろう】とも言っていた」



キーボ「!」



真宮寺「彼らが、キーボ君に向けた信頼……やはりそれは間違いじゃなかった……」



真宮寺「君が彼らと同じで、夜長さんと向き合うに足る存在で……僕は本当に嬉しいヨ」


>>488>>530の内容に修正します。




キーボ「……そうは言っても、まだ、どうしてもわからないことが、二つ残っているんですけどね……」

真宮寺「……?」

キーボ「……まず、一つ目ですがーーーそれはキミの言動についてです」

真宮寺「!」

キーボ「……この世界でのキミの言動ーーーそれは、生前に暴露した “ あれ ” と比較して……信頼できるものではあります」

キーボ「ですが、それでも、思い返してみるとーーーいくらか無神経な部分が見受けられたように思います」

真宮寺「………」

キーボ「……いや、ボクもあまり、とやかく言えた身ではありませんがーーーそれでも、この世界でのキミの言動には、どこかおかしなところがあった」

キーボ「キミは当時のボクと違って、アンジーさんの精神が不安定な状態にあることを知っていたはずで……その理由も理解していたはずです」

キーボ「しかし、それにしては、言動にいくらか無神経な部分があったように思えるのですがーーー」



真宮寺「ーーーそれは、僕のミスだネ」



キーボ「………」



真宮寺「……それ以外に、答えようがない」



真宮寺「……どこがどういけなかったのか? 後で教えてくれると、助かるヨ……」



キーボ「…………わかりました。後でお教えします。これからは、ボクと一緒に、気をつけあっていきましょう」



真宮寺「………」



キーボ「……そして、最後、二つ目にわからない部分についてですがーーーー」


>>489>>532の内容に修正します。




アンジー「……転子なら大丈夫だと思うよー?」



キーボ「……アンジーさん?」



アンジー「……転子は、すごい子だからねー」



アンジー「そんな転子なら……守りたい女の子のため、どんなことだってできちゃうよー!」


>>334>>534の内容に修正します。




キーボ「…………そう、でしたか…………」



アンジー(……あー、やっぱり、謝らないんだねー、キーボ。きのうやおととい、言ったこと……)


アンジー(……もう、神さまに頼る気はない。従う主がいないーーー)


アンジー(ーーーそうした言葉を……キーボは謝らない)



キーボ「………」



アンジー(……まあ、そうなるよねー……)


アンジー(…… “ キーボたちは ” 、アンジーの神さまに頼ってーーーそのために、アンジーを、止められなかった)


アンジー(……だから、アンジーは、こうしてーーー)


アンジー(ーーーそれを思えば、キーボは、もう神さまにーーー)


アンジー(ーーーその選択を、謝るなんて……キーボには、できなかったんだ……)


アンジー(……だって、そんなことをしたら、アンジーはーーー)



キーボ「………」



アンジー(ーーーうん、この話、これ以上はヤメだね。イヤな気持ちが、酷くなる)


アンジー(……それに、いまはもっと前向きでいかないとー……!)


アンジー(……そうだよ。せっかく、キーボがアンジーのところまで来てくれたんだからさー!)




アンジー(……だったら、アンジーは、もっともっと、キーボにーーー)




アンジー(ーーーアンジーの、気持ちをーーーー)


>>411>>536の内容に修正します。




キーボ「……別の、神さまーーー」



キーボ「ーーーその存在を、ボクが頼りにすることは、ないでしょう……」



アンジー「………」



キーボ「……なぜなら、ボクはーーー」









キーボ「ーーー神さまに、頼ることが……できません、から……」


>>393>>538の内容に修正します。

ごめんなさい。>>530>>531はミスでした。なかったことにしてください。




真宮寺「……その通りだと思うヨ」

真宮寺「その言葉は、王馬君達の主張と同じだ」

真宮寺「彼らと同じことを話してくれて、僕は本当に嬉しいヨ」

キーボ「………」

真宮寺「……彼らは、たった一つしかないとされる真実が、どういった結末を生み出すか知っている」

真宮寺「それを知っている彼らが、神さまを全否定するはずがなかった」

真宮寺「……誰かの命がかかっている状況なら、話も変わるだろうけどーーー少なくとも、現在はそうじゃない……」



真宮寺「……無論、個人の主義主張……あるいは、経験上の…………理由によりーーー」



真宮寺「ーーー【神さまには従えない】【神さまに頼ることはできない】ーーー」



キーボ「!」



真宮寺「ーーー彼らもまた、そう述べざるを、得なかった…………」



キーボ「っ、!!」



真宮寺「……だけど、それでも、夜長さん本人を見守っている神さま……その存在を丸ごと否定することはなかったんだ」

真宮寺「……そんな彼らは、【キーボ君達がここに来たら】【自分達と同じように考え】【決して神さまを、全否定することはないだろう】とも言っていた」

キーボ「!!!」

真宮寺「彼らが、キーボ君に向けた信頼……やはりそれは間違いじゃなかった……」

真宮寺「君が彼らと同じで、夜長さんと向き合うに足る存在で……僕は本当に嬉しいヨ」


>>488の内容を>>541の内容に改めて修正します。

こっちが正しい修正内容です。>>530>>531はミスなので、なかったことにしてください。

本当に申し訳ありません。

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