姫将軍「儂が怖いか?」 (15)

「今宵の枕は貴様に決めた!」
「はっ! 有り難き幸せ!」

姫将軍は毎晩違う男と臥所を共にする。
とはいえ、当代の将軍は御歳9つの幼女。
もちろん、夜伽とは名ばかりの添い寝である。

「ほれ、近う寄れ!」
「はっ! 失礼します!」

ぽんぽんと布団を叩いて急かす幼女将軍。
枕に選ばれた侍は一礼して隣に横になった。
そしてその鍛え抜かれた上腕を枕とするのだ。

「ほほう。かなり鍛えておるな」
「いつ如何なる時でも上様をお守りする為に、日頃から鍛錬は欠かしておりません故」
「見上げた心がけじゃな。天晴れじゃ!」

とはいえ、将軍もまた名ばかりではなく。

「どれ、その鍛錬とやらを直々に見てやろう」
「は? う、上様……?」
「何を呆けておる! 木刀を持って中庭にこい」
「は、はっ! た、ただいま!」

寝間着姿のまま、木刀で肩を叩きつつ裸足で中庭の砂利をザクザク進む将軍の後を、本日の枕に選ばれた侍は急いで追いかけた。

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「遠慮は要らぬ。かかってこい」
「し、しかし……」
「聞こえなんだか? かかってこい」

先程までの上機嫌から一転して。
月を背負い浮かびあがる表情は冷えており。
ギラつく眼差しに焦った侍は斬りかかった。

「てぇあっ!」
「遅い!」

上段からの振り下ろす前に、胴体を薙がれた。

「お、御見逸れいたしました……」
「もう一本。こい」

したたかに打ち据えられた腹をさすりつつ。

「せあっ!」
「うむ! その意気やよし! じゃが甘い!」

渾身の突きを放つも、完全に見切られて。

「その首貰った!」
「があっ!?」

木刀で首筋を打たれ、堪らず倒れ伏した。

「ま、参り申した!」
「どうじゃ? 将軍とは伊達ではなかろ?」
「ははぁーっ!」

月を背にして、木刀を肩に担ぐ姫将軍。
見てくれは幼女であるが、実力は確かだ。
天賦の才を持って生まれた本物の将軍である。

「いつまで這い蹲っておる。面をあげい」
「はっ!」
「まだまだ修業は足らぬが、励むがよい」
「ははぁーっ!」

再び平服する侍にやれやれと首を振りつつ。

「ほれ、早う起きんか」
「はっ! 今すぐに!」

痛む腹や首筋に鞭を入れて侍が起きあがると。

「ん」
「は?」
「抱っこ」

幼女将軍に抱っこと言われて、首を傾げる。

「今宵、そなたは儂の枕じゃろう?」
「は、はあ……それは間違いありませぬが」
「じゃから、抱っこして寝所に運べ」
「……御意」

ようやく合点がいって、恭しく抱き上げた。

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