高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「新年の後のカフェで」 (38)

――おしゃれなカフェ――


高森藍子「加蓮ちゃんっ」


北条加蓮「……びっくりしたぁ。どうしたの? 藍子」

藍子「あの……えとっ」

加蓮「うんうん」

藍子「……え~っと」

加蓮「うん? ……分かんないけど、とりあえずあけましておめでと?」

藍子「あ、はいっ。新年、あけましておめでとうございます、加蓮ちゃん♪」

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レンアイカフェテラスシリーズ第102話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「寒い冬のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「灰を被っていた女の子のお話」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「クリスマスのお散歩を」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で はちかいめ」

加蓮「なんて、事務所でも言ったんだけどね。お正月ぶりー」

藍子「ふふ……そうですね。お正月ぶりです、加蓮ちゃん。でも、今年カフェで会うのは初めてですっ」

加蓮「事務所で会う時と、カフェで会う時と――」

藍子「他にですか? う~ん……。お互いの家に遊びに行った時?」

加蓮「あとさ、外で待ち合わせした時なんてどうかな。どこか遊びに行こうってなって」

藍子「なるほど~。でも、あんまり何回も言うと、なんだか言葉が軽くなっちゃいそう……?」

加蓮「あー」

藍子「その日にだけあるから、記念日やアニバーサリーって言うのと同じように。こういうのってきっと、ちょっとだけ言うからいいんですよ」

加蓮「あはは。ガチ説教されちゃった」

藍子「しちゃいましたっ」

加蓮「藍子のくせにー」ワシャワシャ

藍子「きゃ~っ」

加蓮「よし」

藍子「よし、じゃありませんっ。……髪、あとで直してくださいよ?」

加蓮「それで許してくれる?」

藍子「それで許してあげますっ」

加蓮「それでしか許されないならしょうがないねー」

藍子「……なんだか、建前に使おうとしていませんか?」

加蓮「今年も藍子は冴え渡ってるねー」

藍子「こら~っ」

加蓮「言葉を大切にしていく、ってことで。今年のあけおめはこれで封印?」

藍子「はい。封印ですね。また来年になったら、一緒に言いましょ?」

加蓮「来年かー……」

藍子「……、加蓮ちゃん」

加蓮「うんっ。来年。その時はどこで言おっか。よくさ、新年を迎える瞬間にジャンプしようってのがあるけど、ああいう感じで何か新しいことやってみたいよね」

藍子「……よかった♪」

加蓮「LIVE、歌――は、みんなやってるだろうから……。ポーズとか? んー、それも普通かなぁ――こら、藍子ー? 真面目に考えてる?」

藍子「あっ。そうですね~……。何をやるか、ではなくて、どこでやるか、を考えてみませんか?」

加蓮「場所かぁ。神社とか?」

藍子「神社もいいかもしれませんね。でも、加蓮ちゃんの言う、新しいことには当てはまらないかも……」

加蓮「あぁそっか」

加蓮「こういうのって思いつかないなぁ。場所、場所かー」

藍子「一番最初に始めるのって、大変ですよね。また探してみますか?」

加蓮「……来年のあけおめの為に今年いっぱい使ってロケハン? あははっ、どういうことよー」

藍子「そう考えると……ふふっ。どういうことなんでしょう?」

加蓮「それより今年も目一杯生きたいな」

藍子「来年のお話もいいですけれど、まずは、今日や明日のお話から」

加蓮「今日はここで藍子とダラダラ、明日はレッスンと雑誌の取材の予定。話し合うまでもないじゃん」

藍子「……そういうことじゃないです」プクー

加蓮「分かってる分かってる。ごめんごめんっ」

加蓮「ところでさっき何言おうとしたの?」

藍子「さっき?」

加蓮「私が来た時にさ、なんかすごい勢いで名前呼んで来たじゃん。何か言いたかったんじゃないの?」

藍子「そうでした。ええと……」

藍子「……加蓮ちゃん」(真剣な顔持ちで座り直す)

加蓮「う、うん。何?」

藍子「気にしなくて……大丈夫ですから」

加蓮「……いや、何が」

藍子「加蓮ちゃんが、新年初のおみくじで"凶"を引いてしまったこと……気にしなくても大丈夫ですから!」

加蓮「は?」

藍子「それは今年の初めにちょっぴりよくないことがあったっていうだけで、今年の間にはきっともっといいことがいっぱいありますから!」

藍子「例えば……た、例えば、そう。アイドルのこととか、あと、……アイドルのこととか。他には……アイドルのこととか!」

加蓮「……色々突っ込みたいけどまず、藍子の中で私ってどれほどのアイドルバカになってんの??」

藍子「だから、気にしなくて大丈夫ですっ。……ねっ?」

加蓮「ね? じゃなくて。一切気にしてないわよ、そんなこと」

藍子「……あれ?」

加蓮「……」

藍子「……その、加蓮ちゃんがすごく落ち込んでいるって聞いたので、私、ちょっぴり心配で――」

加蓮「……あー。それは……あるじゃん? 何かのオーディションに落ちたりした瞬間はすっごい落ち込むけど、数日したら平気みたいな」

藍子「なるほどっ」

加蓮「引いた後は確かにすごい落ち込んで、しかもこずえ――その時一緒にいたのがモバP(以下「P」)さんとこずえだったんだけど、こずえに頭撫でられちゃってこう、余計に地面に埋まりたくなったけど……」

藍子「こずえちゃん?」

加蓮「よしよしー、だって。一瞬なんか癒やされて、ですぐにそんな自分にすっごい落ち込んだ」

藍子「あ~……」

加蓮「でも何日も悩んだりしないわよ。……ったく。あの子といい藍子といい、なんで私の周りには心配性っていうか、私のことを私以上に悩むのばっかり集まってくるかなぁ……」

藍子「あの子?」

加蓮「今日はいないみたいだけどね。この前言われたじゃん。SNSとかでぶっ叩かれてるの気にしてませんから! って」

藍子「あ~」

加蓮「そこまで心配される筋合いはないっての」

藍子「……くすっ。ごめんなさい。でも、私もあの子も、それだけ加蓮ちゃんに活躍してほしいんですよ」

加蓮「心配じゃなくて?」

藍子「はい。活躍」

加蓮「そういうものなのかな」

加蓮「……?」

藍子「そういえば、まだ注文を――? 加蓮ちゃん?」

加蓮「いや……。凶を引いたおみくじの話だけどさ。さっきも言ったけど、あの時って確かPさんとこずえしかいなかった筈なんだけど?」

加蓮「なんで藍子がそれ知って……」

加蓮「あぁPさんか。ホントおしゃべりなんだから」

藍子「ううん。今回は違いますよ?」

加蓮「あれ……? じゃあこずえ? いや、なんでこずえが藍子に教えるのよ。仲いいの?」

藍子「ううん。あっ、仲はいいと思います。そうではなくて……」

藍子「こずえちゃんから直接聞いたのではなくて、えっと――あの時、誰が言っていたんだっけ……?」ガサゴソ

藍子「そうそうっ。私は、千枝ちゃんから聞きました」

加蓮「…………なんでそこで千枝が出てくんの???」

藍子「千枝ちゃんによると、大変です、加蓮さんがすごく落ち込んでいるみたいです! って」

藍子「だから私、心配になっちゃったんですよ。その時にグループチャットにいたみなさんも、大丈夫かな、連絡した方がいいのかな、って、ずっとお話していました」

加蓮「大変って言うほどのことじゃないんだけど……。気になるなら連絡してくればいいじゃんっ」

藍子「でも、みなさん聞きにくいって……。もし本当に、ものすごく落ち込んでいたらどうしようって……。そうしたら私も、なんだか連絡しない方がいいような気がしてきて」

加蓮「なんでよっ」

藍子「つ、次からはこういう時には必ず連絡しますから! だから安心してください、加蓮ちゃんっ」

加蓮「……なんかもう頭痛くなってきた……」

藍子「もしかしたら、千枝ちゃんはこずえちゃんからお話を聞いたのかな? 千枝ちゃんは、直接加蓮ちゃんの様子を見た訳ではないと思うので……」

藍子「又聞きした私が心配になっちゃったのと同じように、千枝ちゃんもこずえちゃんから聞いて、大変だ! って、思っちゃったのかもしれませんね」

加蓮「あるよね。ホントは大したことないのに話が大げさになっていくヤツ」

藍子「ありますよねっ」

加蓮「ねー。藍子もそういう経験ある?」

藍子「私? 私は……う~ん……。そういう経験はないかなぁ……」

加蓮「残念。藍子のことだから、例えば学校とかで噂が噂を呼んでそのうち"宇宙まで歩いていくアイドル"とか"全国のおもちゃ業界を牛耳るボス"とかになってそうって思ったのに」

藍子「どういうことですか!?」

加蓮「あははっ。深い意味はないよ?」

藍子「おみくじの凶のこと、本当に気にしていないんですね?」

加蓮「してないってば。藍子ー? 心配してくれるのはいいけど、ちょっとしつこいよ?」

藍子「あぅ……。加蓮ちゃん、そういうの気にするかなって思って、つい」

藍子「あっ、でも、もしかして……加蓮ちゃんのことですから、そのことで落ち込んだフリをして、Pさんに何かお願いを聞いてもらったりしたのかな?」

加蓮「……、」ピク

藍子「おみくじを引いた後は、ご飯に連れて行ってもらったりしてっ。そういえば、こずえちゃんも一緒だったんですよね?」

藍子「ごほんっ♪ "こずえも行きたいって~。ほらほら、Pさんっ。大事なアイドルのお願い、聞いてあげないの?"……なんてっ」

加蓮「…………、」ピクピク

藍子「ふふ、つい色々と想像しちゃいまし――」

藍子「……」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……一言一句ってほどじゃないけど大半合ってるってどういうことなのよ……。ホントは千枝から聞いたとかじゃなくて、アンタ後をつけてきたとかじゃないでしょうね……」

藍子「してません……」

加蓮「ところで、この話って続きがあるんだよね」

藍子「続きですか?」

加蓮「うん。年末年始の豆知識ー、みたいな番組にさ、私出てたんだけど」

藍子「ありましたねっ。年末に、加蓮ちゃんが出ていた番組。録画してお母さんと一緒に見ましたよ」

加蓮「見たなら話が早いけど、おみくじって何回引いてもいいって話があったじゃん?」

藍子「気にいる結果が出るまで引き直してもいいんですよね?」

加蓮「そうそう。凶を引いた時に、こずえがそれを教えてくれたの。その時に思い出して――」

藍子「こずえちゃんが……。ふふ。いろいろなことを知ってますよね、こずえちゃん」

加蓮「ねー。どこで聞いたのそれ!? みたいなことも」

加蓮「いいって分かってても、同じとこで2回連続で引くのも……でしょ? 受付の巫女さんは同じ人だったから、ちょっとなー……って感じで」

藍子「ふんふん」

加蓮「で、……今藍子が言った通り、その後はご飯を食べに行って」

加蓮「それからこずえのラジオ収録があったの。だから、Pさん達と一緒に他の神社とかに行く時間はもうなくて」

藍子「それは残念」

加蓮「まあ収録には私もついてったんだけど」

藍子「そうだったんですか。それなら、加蓮ちゃんとこずえちゃんのラジオが近いうちに聞けるのかな?」

加蓮「残念。私はただの野次馬。ちょっとヒマだったからついてっただけだよ」

藍子「なるほど~」

加蓮「おみくじなんだけど、ちょうど昨日引き直してきたの。おみくじ」

藍子「ふんふん」

加蓮「歌鈴が時々手伝ってるとこの神社で」

藍子「……え? 歌鈴ちゃんのところの?」

加蓮「うん。ほら……1人で引きに行くのもなんか寂しいじゃん? でも、なんか引かないままでいるのも気になるっていうか、悔しいっていうか……」

藍子「も~。やっぱり気にしてるっ」

加蓮「え? ……あー、あはは。まあ、それはともかく?」

藍子「それはともかく」

加蓮「行こうって思ったんだけど、オフが合う人がいなくってさー。そういえば歌鈴って神社の手伝いやってたよねって思い出して連絡してみたら、ちょうどいたみたいで」

加蓮「じゃあ引き直してるとこ見てもらおっかなー、って。一応巫女さんだし、これでまた凶でも引いたらお祓いしてもらおうかな、なんて」

藍子「ふんふん」

加蓮「ちょうどいいタイミングに人いなかったから歌鈴に手伝ってもらって、おみくじを引いて」

加蓮「結果は……見事、大吉っ」

藍子「おお~っ」

加蓮「そしたら私よりも歌鈴の方が大喜びしちゃったの。歌鈴、すっごい笑顔でおめでとうございますって言ってくれて、なんか勢い余って私の方に抱きついて来てさー」

藍子「ふんふ……ん……?」

加蓮「なんてっ。あれって多分、喜んでよく分からない踊りをしてたら転んじゃったとかだろうけどさ」

加蓮「ま、そういう続きの話もあるの。だから本当に気にしていないっていうか、凶を引いたのはもう笑い話になっちゃったっ」

加蓮「こずえに励ましてもらって、歌鈴に抱きしめてもらえて、加蓮ちゃんってば人気者ー♪ なんてねっ」

藍子「……………………」

加蓮「って、藍子? ……えーっと、藍子ちゃん? あの、何かぶつぶつ言ってる?」

藍子「……歌鈴ちゃんもこずえちゃんも、ずるいです」

加蓮「……いや、茶化したのは私かもしれないけど、ガチトーンで私に言われても困るよ……?」

藍子「む~。……加蓮ちゃんにいいことがあったのは嬉しいです。こずえちゃんと仲良しなのも、歌鈴ちゃんと前よりも仲良くなっていることも」

藍子「でも……む~」

加蓮「えーっと……。ほ、ほら。次に似たことあったら藍子も誘うから。ね?」

藍子「そうじゃないですっ」

加蓮「じゃあ何なの……」

藍子「それは……」

藍子「……」

藍子「……む~」

加蓮「えー……」


□ ■ □ ■ □


藍子「落ち着きました」

加蓮「よかった」

藍子「最近、加蓮ちゃんが色々な人と仲良くしていて、それはすごくいいことなんですけれど……」

加蓮「うん。自分でもちょっと驚いてるかも」

藍子「ちょっぴり、複雑です」

加蓮「……たはは」

加蓮「さて、そろそろ何か注文しよっか。もうここに来て1時間くらい経って――うっわ、2時間経ってる」

藍子「長いことお話しちゃっていたんですね、私たち」

加蓮「今回は私ばっかり話してたけどねー」

藍子「ってことは、やっぱり加蓮ちゃんはゆるふわアイドル――」

加蓮「違う」ベシ

藍子「きゃ」

加蓮「アンタまだそれ諦めてなかったの?」

藍子「諦めませんっ。やると決めたらやるんです。加蓮ちゃんゆるふわアイドル計画!」

加蓮「諦めろっ」

藍子「初詣の時に、神様にもお願いしましたから。加蓮ちゃんを今よりもっとゆるふわアイドルにしてください、いや私がしてみせます、だから見ててください! って」

加蓮「なんでよっ」

藍子「だって、最初にお願いしたいことがそれだったから……」

加蓮「藍子はホント、人のことばっかり……って、ある意味藍子がやりたいことではあるんだっけ」

藍子「ちゃんとその後、今年もみなさんが笑顔でいられますように、アイドルをがんばれますように、ともお願いしましたよ」

加蓮「よくばり」

藍子「……私も、お願いした後で言いすぎちゃったかなって思ったので、お賽銭を追加しておきました」

加蓮「うくっ……。追加したんだ……。あははっ」

藍子「あははは……」

加蓮「って、だから注文! 何か食べる?」

藍子「そうですね。ちょっぴりお腹も空いてしまいましたし……。何を注文するかは――加蓮ちゃんにおまかせでっ」

加蓮「えー。何それー。じゃあせっかくだし今月の限定メニューとか――」パラパラ

加蓮「……わぉ」

藍子「加蓮ちゃん?」

加蓮「見て藍子。これ。限定メニューなんだけどさ」

藍子「どれどれ……?」

藍子「これは……。おもち?」

加蓮「うん。おもち。1月だもんね」

加蓮「それはいいんだけど、ほらここ。紹介文」

藍子「――"食べ比べてみろ。"」

加蓮「なんかすっごい挑戦的」

藍子「た、確かに……。それだけ自信があるということでしょうか?」

加蓮「比べてみろって言うくらいだもん。きっとすごい自信があるんだよ」

藍子「自信のあるおもち……。ひょっとしたら、店員さんや店長さんがついたおもちなのかもしれません。それがすごく上手くいって、テンションが高くなったままこれを決めて……」

加蓮「それ次の日に顔真っ赤にするヤツ! どうしてこんなこと書いちゃったんだろう、ってなってさ」

藍子「周りの方が、それでいっちゃえって背中を押してくれるんですっ」

加蓮「披露してみたら、また案外いいじゃんって思って?」

藍子「後からVTRを確認して、また顔が赤くなっちゃう……ですよね?」

加蓮「ねー」

藍子「くすっ♪」

加蓮「で」

藍子「?」

加蓮「藍子が後から見て顔を真っ赤にするVTRは事務所のどこにあるのかな?」

藍子「……あ。」

藍子「そ、そんなものはありませんよ~? きっと今ごろ、Pさんがどこかにしまっちゃったんじゃないかな~?」

加蓮「なるほどね。じゃ大掃除しよっか」

藍子「加蓮ちゃん。もう、年は明けましたよ?」

加蓮「藍子ちゃんの秘蔵映像があるよ! って言ったらみんな集まってくれるからっ」

藍子「集めないで~っ」

加蓮「いや、ここはまず未央に声をかけよう。未央ならきっと、私より上手くみんなを集めてくれる筈!」

藍子「具体的な方法を考えないでくださいっ。未央ちゃんまで巻き込んだら、本当に大変なことになっちゃうからっ」

加蓮「じゃー茜にする? 未央と茜、どっちを呼んでほしい?」

藍子「それならまだ――って、どっちも駄目ですっ」

加蓮「ちっ」

藍子「加蓮ちゃん。秘密の映像は、秘密だから秘密って言うんですよ」

加蓮「謎掛けかな?」

藍子「とにかくっ。今は、注文のお話です! このおもちを注文してみるんですか?」

加蓮「そうだねー……。注文しちゃおっか」

藍子「は~い」

加蓮「これってさ。店員さんと店長さん、どっちかがこれを書いて、どっちかが背中を押したってことになるの?」

加蓮「どっちが書いたんだろこれ。私は店員さんに1票ー」

藍子「あ、ずるいっ。私も、店員さんが書いたのかな? って思ったのに!」

加蓮「じゃあ聞いてみよっか。当たったら……んー、当たったらどうする?」

藍子「その時は2人で……おめでとう?」

加蓮「それだけじゃつまんないー」

藍子「では……もしも当たったら、私から記念品を贈呈ですっ」

加蓮「記念品」

藍子「中身は内緒ですよ~。開けてからのお楽しみです♪」

加蓮「藍子がここまで言うんだもん。期待しても良さそうだね」

藍子「そ、そこまでたいしたものではありませんけれど……」

加蓮「で、外したら2人で藍子ちゃんの秘蔵映像を大探索、と」

藍子「しません」

加蓮「未央と茜は呼ばないであげるね?」

藍子「そういう問題じゃありませんっ。誰も呼ばないでください、それからしないでください!」

加蓮「ちぇ。絶対いつか見つけてやるっ」

加蓮「さて……すみませーん! ……あはは、なんか緊張するー。クイズの正解発表の前みたい」

藍子「わくわくしちゃいますねっ。――あっ、こんにちは、店員さん♪ あけまして、おめでとうございますっ」フカブカ

加蓮「あけおめ。おもち2人分でお願いー。それとさ、これ書いたのって店員さん? 店長さん?」

……。

…………。

加蓮「はずれた」ベチョ

藍子「ドンマイです、加蓮ちゃんっ」

加蓮「絶対店員さんが書いたと思ったんだけどなー……。それに予想外。背中を押すとかじゃなくて、店長さんがこっそりメニューに書いちゃってたんだね」

藍子「店員さんも、後から気付いてびっくりしたって言っていましたよね」

加蓮「それでもそのまま出しちゃう辺り、店員さんもノリノリなんだろうけど」

藍子「どうしても嫌なら、嫌です、って止めますよね?」

加蓮「あの店員さんなら止めるよ、きっと」

加蓮「よく考えてみたら藍子も予想外してるじゃん。もっと落ち込めー。たまにはネガティブになれー」

藍子「加蓮ちゃんが相手でも、それはききませんよ~?」

加蓮「ちぇ」

加蓮「予想は外しちゃったし……。残念だけど、藍子の記念品はまた今度だね」

藍子「あっ……。そうですね。私は、外しても加蓮ちゃんに渡すつもりでいましたけれど……」

藍子「……それだと納得できないって顔?」

加蓮「さすがに即バレしちゃうかー。うん、そんな感じ。次に何かできた時までとっておいてよ。で、その時に渡して?」

藍子「はいっ。じゃあ、加蓮ちゃんにいつでも渡せるように、持ち歩くことにしますっ」

加蓮「そこまでやらなくても」

加蓮「――っと。店員さんがおもちを持ってきたね……!」

藍子「か、加蓮ちゃんが大切なオーディションを受ける前の時のような顔に……!」

加蓮「藍子、一緒に食べるよ」

藍子「はい。では……いただきますっ」

加蓮「頂きます」


加蓮「……、」モグモグ

藍子「……、」モグモグ


加蓮「……」

藍子「……」


加蓮「……なるほど」

藍子「食べ比べって、そういうことだったんですね」

加蓮「シンプルだけど、なんだろ。ちょっと甘い? 良い意味で独特の味だよね。私は食べたことないかも……」

藍子「私も、初めて食べる味です。きなこの量は、ひかえめで……。なのに、なんだかあたたかい甘さ♪」

藍子「食べ比べというのは、自分の方が絶対おいしいから! って言うのではなくて……こんな味もあるんだよ、って教えてくれてる、そんなイメージだったんですね」

加蓮「きっとね。おもちって味付けからかけるものまで色々違うって言うし」

藍子「このおもちは、東京ではない味かな……? どこの地方のものなのでしょう」

加蓮「そういうのあんまり分からないけど、やっぱりこのカフェオリジナルかなぁ」

藍子「ふふっ……。やっぱり、加蓮ちゃんもそう思う?」

加蓮「たぶんね」

藍子「店長さんが、一生懸命考えて生み出した味なのかな……?」

加蓮「文を書いたのは店長さんだし、そうなんじゃない?」

藍子「あっ。ひょっとしたら、店員さんと店長さん、2人で考えたのかもしれませんね」

加蓮「一緒に考えた方がー的な?」

藍子「はい♪ 1人で考えるより、2人で見たり、考えた方が、きっと上手く行きますから。それに、一緒にやった方が楽しいですもんっ」

加蓮「……ふふ。途中から自分の話になってない?」

藍子「じ~」

加蓮「はいはい。藍子ちゃんには何かやりたいことでもあるの?」

藍子「……い、今は特には」

加蓮「何それー。何かあるからそういう含みのある言い方をしたのかと思った」

藍子「でも、考えてみたら何か思いつくかも?」

藍子「加蓮ちゃん。"一緒に"考えてみましょうよっ。加蓮ちゃんのやりたいことを言ってもいいんですよ~?」

加蓮「……あのね。そういうのって普通、1人の時に考えて、それから持って来るものじゃない?」

藍子「じ~~」

加蓮「ホント、ワガママなんだから」

……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

藍子「……何も思いつきませんでした」ベチョ

加蓮「……食べてる間やけに静かだと思ったら、アンタ、ずっと考えてたの?」

藍子「はぃ」プシュー

加蓮「アホ」

加蓮「……でも珍しいね? 意外とワガママな藍子ちゃんが? やりたいことを何も思いつかないなんて」

藍子「わがままじゃないつもりです……」プシュー

加蓮「ワガママ言えばいいのに」

藍子「……色々考えてみても、」オキアガル

藍子「ここでのんびりしたい、それ以上のことがなんだか思いつかなくて……」

藍子「頭に、ぽんぽんっ、って考えは思いつくんですけれど、そのうちふわふわと消えていくんです。そして加蓮ちゃんの顔を見たら、思わず笑っちゃって……」

加蓮「……おもち食べてる時たまに笑ってたのって、おもちが美味しいからじゃなかったの?」

藍子「おもちはもちろん、おいしかったですっ。お腹が空いたら、また注文しちゃおっかな……」

加蓮「食べちゃえ食べちゃえ。せっかく1月なんだし」

藍子「1月だから、ですか?」

加蓮「1月だからセーフ」

藍子「あははっ」

加蓮「んー……っと」

藍子「加蓮ちゃんは、何かやりたいことを思いつきましたか?」

加蓮「んー……」

加蓮「私も藍子と同じかな。こう……ショッピングとか、事務所でファッションショーとか、なんか色々思いつきはしたんだけど……」

加蓮「もう1人の自分的な存在が囁くの。ううん、囁くなんて易しいものじゃない。思いっきり自己主張して来てる感じ」

加蓮「違うでしょ、あなたのやりたいことはそうじゃない筈よ! ……って」

藍子「ふふっ……。強い加蓮ちゃんが、加蓮ちゃんの中にいるんですね」

加蓮「弱い加蓮ちゃんなんて一撃で撃退しちゃうのがいるのよ。面倒くさいことに」

藍子「だからすぐに、意地を張っちゃう?」

加蓮「……」ペシ

藍子「痛いっ」

加蓮「ま、強い加蓮ちゃんがそう主張してきて、結局やりたいことが全部、霧のように消えてってさ。だから、藍子と同じ」

加蓮「私も――」

藍子「うんうんっ」

加蓮「藍子ちゃんの秘蔵映像を探したい以上のことは何も思いつかなかったっ」

藍子「はいっ――はい?」

加蓮「ね、やっぱり事務所に行ってさ、テキトーに人探して倉庫とか資料室とか探索してみない?」

藍子「ちょ、」

加蓮「他の子の昔の映像とかも出てくるかもしれないじゃん。絶対面白いって! みんなで見てみよーよ」

藍子「あの、」

加蓮「あ、加蓮ちゃんの昔の映像はNGだから。もし見つけてもみんなには見せないで、こっそり私に渡して――」

藍子「……もおおおおおぉおおおおお~~~~っ! 何が同じですかっ! ぜんぜん違うじゃないですか!」

加蓮「わおっ」

藍子「それにっ、自分だけずるいことしようとしてる!」

加蓮「いやいや。昔の加蓮ちゃんの映像はガチで駄目なヤツだよ。笑い話にできないよ。変な空気になって終わるだけでしょ?」

藍子「決めました。加蓮ちゃんがそういうことを言うのなら私だって決めました!」

藍子「Pさんにお願いして、昔の加蓮ちゃんの映像を探して、みなさんにお見せします!」

加蓮「えっ」

藍子「私言いましたよね。加蓮ちゃんのことを色んな人から聞かれるって。つまりみなさん、加蓮ちゃんに興味しんしんってことですよね?」

藍子「昔の加蓮ちゃんの映像なら、みなさん見たがりますよね! 決めました。絶対に探し出してみせます!」

加蓮「ちょっ……だからそれは駄目だって言ってるでしょ! それはガチでNGなの!」

藍子「自分だけそうやって逃げようなんて、私が許しませんもんっ」

加蓮「……ああもうっ! わかった、わかったから! 謝るからそれはやめろ! ……こら、スマフォでどこに――Pさん聞こえるー!? 違うから、今藍子が言ったこと全部嘘だからねー!!」


【おしまい】

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