【艦これ】第七駆逐隊リレー小説 (21)

『ンボボボボオォ…』

口から呻き声を漏らしたのは私、オータムクラウドこと秋雲さん(2×歳)
死んだ目のまま原稿を一段落させた。

秋雲「ちょっと…一休み っと」

秋雲「ああ…もう…つらいねぇ」ブツブツ

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着任当初は女子中高生だった自分。
今では酒とレッドブルに依存する成人女性。

6年半経過しているのだから当然の時間の流れであり
ただのイラスト書きから今や鎮守府内随一の壁サークル

オタ気質を持つ艦娘たちのあこがれの的にまで成長
知名度と体型はなかなかに育ち体力と情熱的には劣化した。

毎回新作を出すと生じるファンの列
特に駆逐艦勢には人気が高く
五月雨や電や磯波などは常連さん
皆、6年前は同年代だったのに今では年下のかわいいファン。

おかしいな。なんで加齢する艦娘としない子がいるの?ビールうめぇ。


経緯に納得はいかないけどファンレターは嬉しいし
同好の士が増えるのは望ましいことだ

その中で多いのが「意見が欲しいので自分の書いたものを見てほしい」というもの
どれも稚拙だけれども意欲に溢れた良い刺激
だから煮詰まった時に手を伸ばすようにしている。ちょうど今みたいに。

手を伸ばしたのはその中でも一風変わったタイプで
漣が持ってきたリレー小説。

なんでも第七駆逐隊4人で一つの読み物を作ったとかなんとか
一人が書いたものを次の人がそのまた次の人がお話を続けていく形式で
自作物のワンパターンっぷりに悩んだ漣が他の3人を引き込んだ様子。

確かに漣が出す本、いつも最終的には男同士の深い友情で終わるからね
人の設定を引き継いで他の人に回す。そういう連携を経験することで新しい世界が開けるのかもしんない。

さてさて、読み始めよっか
おっとルーズリーフ100ページくらい
なかなかボリューミーだねぇと思いながら一ページ目に目を通す。

  「釣れますか?」 
  と横に立った女が言った。

  「今釣れました」
  という言葉を飲み込んで男は答える。
  「さっぱりですねー 今の時期はなにが釣れるのでしょうか?」
  途端に女の目が輝く
  「そ、そ、そそうね! やっぱり10月も後半となると豆アジもまだまだ釣れるけど
   やっぱりアオリイカとか太刀魚とか変わったところが」
 
  ある日一目ぼれした相手の趣味が釣りであることを知って3か月
  太公望式に針先がまっすぐな針で延々と防波堤に座っていた
  毎日居るのに一匹も釣れていない人
  そんな人がいたら思わず声をかけたくなる そんな心理を信じて…

第一筆者である曙はどうやら釣りをテーマとした恋愛ものを開始したようだ
自分の趣味がテーマ
ヒロインが自分をどこかしらモチーフにしているあたり良い意味で素人らしくて実にイイ。

自分を登場人物に投影させているものは大好物
大抵その人物や考えを無理やり称えようとして逆に味がある展開となる
とか思っていたら早くも5ページ目あたりからソレが始まった。


  魚の心理を読むために服の配色からセレクトする
  そう言われた僕の目から鱗が落ちた。
  彼女にはもっと淡い色の服が似合うなどと思っていた過去の自分を叱りつけたい
  カーキ色 それこそが渓流に最も映える色だったのだ!!

  機能美というものを理解した少年の目には少女の存在がますます大きくなっていった。
  そうなのである
  釣りの時の服装というものは細部まで計算しつくされたものではなければいけない
  男へのアピールかカーディガンとスカートで釣りにくるような女は言語道断
  かと言って魚河岸のオッサンのような服装もNG
  機能だけではことが足りない
  密かに差し込まれた「美」
  これこそが…

と、釣り場における服装論が3,4ページ続いたのを見て爆笑した
「溜まってたんだねぇwwwwww」といろいろ察してまた爆笑
ガチ勢wwwwww パねぇっすww

その後も生餌とルアーについて3ページ
バサーの是非について6ページ
上流でキャッチアンドリリースするのはどうなのかについて5ページ分
講釈を挟みつつ防波堤釣り・渓流釣り・釣り堀・ワカサギ釣りと目まぐるしく場所を変えながら
手も握らない二人の男女関係は順調に進展してゆき



  「〇〇もなかなか腕を上げたわね!」
   これなら前みたいに坊主ってことはなさそう、と満面の笑顔を浮かべる彼女の存在が愛おしくて
   プロポーズする決心がついた
  「僕に毎日あら汁を飲ませてくれませんか?」 
  「えっ?」
     
  「……ま、まだあんたの腕じゃ二人ぶん釣れるかわかんないんだからね!」
   これからもみっちり鍛えてあげるわ。との回答。やれやれ先は長そうだ
   明日はついに念願の貸ボートでの沖合釣り
   腕が鳴るぜ!!

   さぁ 俺たちの釣り道はこれからだ!!

と、出来はともかくとして無事完結。
…した曙担当分野を読んだ秋雲さんはただただ驚いた。


「…終わっちゃったよ!!」
起承転結の起担当で終わっちゃったよ!!リレー小説が

おおかた書いてるうちに夢中になって設定とか忘れたんだろうけどどうすんのコレ

驚き冷めやらぬままページをめくる
そしたらもっと驚かされた。


   その十月十日後、彼らは天からのプレゼント。健康な赤子を授かった。
   なにを隠そう、彼がこのお話の主役なのである。

曙担当分を丸々プロローグにしやがった!!
なんという力技。
確かにスパっと諦めたほうが被害少ないけど力作を二行で片づけられたぼのちゃん可哀そう。

二番手が漣だったか。印象通り強引な奴だねぇ。


そのまま話自体は何事もなかったかのように続いていった。



   さらに14年後のこと
   「私は猿島に猿退治に行きたいと思います」
   そう主人公が言うとお母さんはいわしで作ったつみれをもたせてくれました。

   そして旅に出た彼は道中で
   言葉が針のように鋭い蜂の女の子と出会い仲間にしました。
   さらにお尻とお胸が臼のようにずっしりした女の子を仲間にしました。
   その女の子に反応しないことから自分が女であったことを知りました。
   そう自分についていたものは栗だったのです。
   最後に牛の糞が仲間になりたそうな顔でこちらを見ておりましたが常識的に考えてお断りしました。

ずっと共にいた蟹が蜂・臼・栗を雇い自分に差し向けた…
猿がショックでデバフ効果60秒受けている間に
チェインバーストがクリティカルヒット
その後ドロップしたパンツなどを売りさばいた元手で仮想通貨発行し
   
   「優雅に暮らしましたとさ めでたしめでたし」


と2人目漣担当分を読み終わったところで出てきたものは大きい溜息。
この後どうするんだろう…(2回目)

悪ノリで自分も終わらせてみたんだろうけどそんな鋭いパスは誰もが受けられるわけもなし
後の人大丈夫かなぁ。

  第三章  「解説」     潮
  「これが…リレー小説…?」というのが初見の感想でした。
  そもそも今回のリレー小説という企画を持ち出したのは漣ちゃんであり
  本人の意向を最大限に尊重したいと思います。
  少なくとも1話と2話の登場人物が親子なのでそこはリレーしてると思いました。

ああ、3人目なのに解説が始まった。
またしても後ろの人のことを考えていない(溜息)

さすがおっぱいデカイだけのことはある。
秋雲さんも結構自信あるんだけどお風呂場でプカプカ浮いてるアレ見ちゃうとねぇ
生唾飲んだよ
湯船から上がる瞬間の3D動作は「支えなきゃ」って使命感が生まれたね。
その後から彼女に避けられているのは私のせいではない。

揉んでないのに支えただけなのに
女同士だから変な話になるんだ。
男同士だったとしたら
銭湯で横の人の竿がブルンと震え

ああ、これは一冊書ける。

「曙の釣り愛」「普段の漣の出版物についての苦言」「リレーといえば鼠輸送」
など、あんまり本編と関係ない解説をあんまり関係ないこと考えながら読んでいたら
大体10ページくらいでその解説は終わった。

   ようやく潮が書かなきゃいけないページ数になったのでここで終わります。
   そういえばふと、順番決めた後に朧ちゃんが相談に来た時のことを思い出しました。
   一緒に頑張ろうって言いました。
   ホントはお助けできるようにしたかったんです ホントです。
   許してください。
   既定の枚数を埋めなきゃいけなかったんです。ごめんなさい。
   終わります。  (完)

気持ちはわかるので非難はしない。
ただただこのあとの惨事を予見しながら原稿をめくると…今までとは紙の色が違った。

何度も何度も書き直され薄汚れたルーズリーフ
欄外に残るリスカのためらい傷のような意味のない線。
手垢のせいか少し黄ばんだ紙を見た瞬間。背筋が凍る。

一旦、本を閉じて姿勢を正し。
排泄後の便器を覗くような感覚で再度開くと
第一行目に書かれた言葉
「ごめんなさい」

思わず目頭が熱くなった。

朧ちゃんは読書家って聞いてるしどうにかするんじゃない?
願望を浮かべながら開いたリレー小説の4人目ページ。

そこは魔窟。覚える吐き気。同情と憐憫と恐怖がシェイクで悲惨が爆誕。

どうにか前の3篇と続けようとして儚く崩れた文章がある意味散文的に書かれ
数ページ彷徨った後、唐突にそれは終わった。

「ごめんなさい」
もう一度書かれた6文字を最後に

それから先は白紙だった。

どれほど無念だったろう
どれほど悲しかったろう

朧の断末魔にも似た数ページは秋雲の心を揺らした。

「敵は取ってやる」
そう心に決め秋雲の心に浮かんだ創作意欲。

「さぁ 来いや!」
朧の遺志を継いだ秋雲は冬に予告した64ページフルカラー本のネームを再開した。

おわり

ま、まだ半年もあるし…

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