俺は愚かな男だった (15)
林田さんは文芸部の部長だった。
うちの高校では何かしらの部活に入ることが義務付けられている。楽そうだからというりゆうで選んだ文芸部に、彼女はいた。
文芸部には林田さんの他に二年の西口さんという先輩もいた。先輩は他にも何人かいたのだけど、籍を入れているだけで部室になっている空き教室に来ることは稀だった。
林田さんは小説を書いたり読んだり。西口さんは読み専で、俺はというと林田さんの真似事でキーボードを叩いたり、西口さんお勧めの難解な小説を読んで頭痛をおこしたりしていた。
「今年は尾関くんだけみたいだね、歓迎するよ」
そう言って微笑んだ彼女の笑顔を、俺は今も覚えている。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1588403528
林田さんは綺麗な人だった。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花、という言葉を最初に聞いた時に、真っ先に彼女のことを思い浮かべてしまうほどには。
腰の辺りまで伸ばしたサラサラロングの黒髪、ぱっちりおめめに華奢な体つき。儚げな雰囲気も合わせて持てば、そりゃモテる。
部活が終わる合図は、大体男が林田さんを迎えに来ることだった。
しかも何がすごいって、その男は大抵は二週間。長くても一ヶ月は持たずに変わってしまう。
魔性の女、林田さん。
西口さんと並んで帰りながら、林田さんと今の男がいつまで続くかをよく賭けていたものだ。
おかげで、俺の財布はいつも寂しくなっていた。
林田さんは小説家志望だった。
文芸部の活動中に書いた作品は、文芸誌を作るのではなく新人賞などに投稿していた。西口さんが読み専だったし俺も素人だったから、作りたくても作れなかったというのが正しいのかもしれないが。
文芸部に一緒にいたのは半年くらいの期間だったが、掌編短編含めて数えきれない数の作品を彼女は書いていた。
うちの学校は部活動は盛んでも強豪と言えるような部は特になく、プロ志望といえるのは林田さんくらいだったと思う。
キーボードを叩きながらディスプレイに向き合うそんな彼女の姿は美しかった。見とれてしまうほどだった。
彼女が元々美しいから、ではなく、何かに真剣な姿を綺麗だと思うのは初めてだった。
キーボードを叩く姿の彼女に憧れて、俺も彼女の真似事を始めてしまったのかもしれない。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません