~神殿建設場~
むち男「おらっ、おらっ、働け奴隷どもぉ!」
むち男「さっさと岩を運ぶんだよ!」
パチンパチン
主人公「くっ……」
主人公(父さんが死んでから10年が経った)
主人公(遺言に従って、どこかで生きているという母さんを探しに行きたいのに、僕は教祖とかいう奴の命令で神殿を作るために岩を運ぶ毎日)
主人公(こいつらに反逆しようにもHPもないし、武器もない、一体どうすれば……何か活路はないのか)
むち男「おいおい、相変わらずてめぇの目は生意気だよなぁ」
むち男「おらっ、また懲罰房に行きてえか!」
パチンパチン
主人公「ぐあっ!」
主人公「す、すみません」
むち男「そうだ、それでいいんだ」
むち男「お前らはそうやって一生俺たちの言うことを聞いていればいいんだよ」
主人公「くっ……」
目がかすむ。情けないことだ。
少年期には無限だと思っていた体力も、たった数発の鞭打ちで倒れそうになってしまう。おそらくは毎日体を酷使されているせいだろう。
僕はこのまま――ここで一生を終えるのだろうか。悔しい、悔しい、悔しい。
そう自暴自棄になっていると、不意に、聞きなれた親友の叫び声が聞こえてきた。
ヘンリー「主人公ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
むち男「!?」
主人公「へ、ヘンリー!?」
ヘンリー「おい傷大丈夫か!? てめぇら……俺の親友に、なにしてくれてんだコラァ!!」
むち男「貴様は……主人公と同じく問題児のヘンリーだな!?」
むち男「ちょうど良いわ、貴様も生意気な囚人と思っておった。二人ともボコボコにしてやるわい!」
ヘンリー「あ? やってみろよ……できるもんならな!」
ヘンリー「うぉぉおおおおおおお! いっけぇえええええ!!」
ヘンリーは、よくある漫画の叫び声っぽく意気揚々とむち男に特攻していった。
けど普通に負けた。
ヘンリーは精神は強いのだが、ぶっちゃけ戦闘能力は皆無だったのだ。
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~懲罰房~
ヘンリー「あ痛てて……」
主人公「大丈夫かい? ヘンリー」
ヘンリー「ああ、どうってことねえさ」
ヘンリー「つか、すまねえな主人公。俺のせいで二人とも懲罰房行きになっちまってよ……」
主人公「いいんだよ。むしろ、僕の方こそごめん。君を巻き込んでしまって……」
ヘンリー「はっ、ばーか。俺らは一心同体だろうがよ。ここに入った日も同じでさ、そっから10年も一緒に過ごしてんだぜ。親の顔より見た顔ってな、そんな俺らに遠慮なんていらねっての! そうだろ? ははは……あいてっ!」
主人公「む、無理して喋らなくていいから、今は二人とも磔されてるんだし」
ヘンリー「……いや」
ヘンリー「こういう機会、あんまねぇからさ。せっかくだし、伝えておきたかったんだ」
ヘンリー「悪かったな、主人公、俺のせいで……お前の親父は……」
主人公「……終わったことだから」
ヘンリー「……」
ヘンリー「今でも、夢に出てくるんだ」
ヘンリー「お前の親父さんがさ。俺を殴ってくれたこと」
ヘンリー「義母さんやデールのことで苦しんでるのは、俺だけじゃなくてさ、親父もだったんだなって」
ヘンリー「だから、お前の親父さんには感謝してる。むしろ親父さんは俺の恩人だよ。あのまま高慢な俺だったら、一生親父の気持ちなんて分からなかったことだったしな」
主人公「ヘンリー……」
ヘンリー「ま、今奴隷な俺にとっては、王様の気持ちなんて一生関係ねぇことかもしれねえけどよ!」
主人公「そんなこと……」
ガチャ
むち男「楽しそうに話しているなぁ? お前の親父さんがなんだってぇ?」
主人公「!」
ヘンリー「……もう拷問時間は終わったろ、なんの用だ」
むち男「いやぁ、なんだか今日はさ、興奮して寝られなくてね」
むち男「一国の王子をもぉぉぉっと痛めつけたいなぁと思ってさぁ~」
ヘンリー「下衆が」
パチンパチン!!
ヘンリー「ぐっ!」
主人公「や、やめろぉ! それ以上やるとヘンリーが死んでしまう!」
むち男「あ? 死ぬからなんなの? お前らの代わりなんかいくらでもいるけど?」
むち男「なぁラインハットの王子様よ!」
パチンパチン!!
ヘンリー「むぉぉっ……!」
主人公「ヘンリー!」
ヘンリー「い、いいんだ、主人公、これは罰なのさ。お前から、大切な父親を奪った、俺の……」
むち男「ヒャーハハハ! いい気味だぜぇ! 高貴でツラが良いと勘違いしてる野郎を、こうして痛めつけるのが最高の酒のアテだなぁ!」
パチンパチン!!
ヘンリー「ぐぅぅっ!」
主人公「やめろっ! やるなら僕をやれっ! ヘンリーはもう瀕死なんだっ!」
むち男「だーから、死んだら代わりなんていくらでもいるんだっての。あとお前どこぞの王子でもねぇし」
むち男「ほらほら、泣き叫べ、拒め、縋れ! 俺に命乞いしろよ、みっともらしくさぁ!」
パチンパチン!!
ヘンリー「あ、ぐあっ……!」
主人公「ヘンリー!」
ヘンリー「く……」
むち男「……相変わらず、目が死なねえな、このクソ王子はよ」
むち男「あ~、肉体のダメージは慣れてきてんのかな。そりゃそうだわな、10年働いてんだから」
むち男「ならもっと、違う路線で虐めちゃおっかな~?」
主人公「な、なんだって?」
むち男「これは確かな情報なんだが――」
むち男「ヘンリーよ、お前の親父、ライハンットの王様は、誰かに殺されてくたばったとさ」
ヘンリー「なっ……!?」
むち男「今はデールとかいう奴が王をしてるが、これが酷いもんでなぁ~。国に重税をかけ、反抗する者は容赦なく殺し、民を苦しめているらしい」
ヘンリー「バ、バカな……デールがそんなことをするはずがない! あいつは、そんな……」
むち男「でも事実だよぉ~??」
むち男「片や奴隷として過ごす元王子様、片や民衆を苦しめる王子様、ラインハットはとんでもない王国だったんだねぇ~、ははは!」
ヘンリー「嘘だ……」
主人公「おいっ、デタラメを言うなっ! デールは僕も知ってるぞ、そんなことをするような王子じゃ……」
むち男「だぁかぁらぁ、事実なんだって。新聞に載ってたことだし。それにラインハットの王様が死んだってのも事実なの!」
主人公「ヘンリー! こんなやつの言うことなんて気にしなくていい! 全部でまかせだ!」
ヘンリー「親父も……死んだ……」
むち男「そうだ! お前の親父も死んだ! ひゃーははは、いいねぇその顔、ほれぼれするぜぇ!」
主人公「おい、このクソ豚野郎……! 今すぐその汚い口を閉じろ!」
むち男「おいおい、主人公よ、なぁーにカッカしてんだ。俺は『お前の仇』を代わりに断罪してやってるんだぜぇ? このクソ王子に絶望を与えることによってなぁ」
主人公「な、なんだって?」
むち男「お前の親父さんはさぁ、確か、お前とヘンリー王子を守るために死んだんだよな?」
むち男「そもそも何故、お前の親父さんはヘンリー王子と接点を持ったんだ? 護衛でも頼まれていたんじゃないのか?」
むち男「ヘンリーという男にさえ関わらなければ、お前の親父さんは死なずにすんだんじゃないのか?」
主人公「そ、それは……」
ヘンリー「……」
むち男「何が10年の付き合いだ。お前はただ、騙されてるだけなのさ。ヘンリーさえいなきゃ『親父さんは死ななかった』ことは変わらんだろう!」
主人公「い、いや違う! それは責任転嫁だ、ヘンリーのせいじゃない! そもそも魔物やヘンリーを攫った輩さえいなかったら父さんは……!」
ヘンリー「いいんだ、主人公」
ヘンリー「……事実だ」
主人公「ヘンリー……」
むち男「おっとぉ、良い感じに目が死んできたなぁヘンリー」
むち男「くーっくっくっ、いいねぇ~その顔! 今日は朝までたたきつけてやるからなぁ! ふはははは!」
パチンパチン!!
ヘンリー「……」
~一週間後 寝床場~
主人公「ヘンリー、おはよう。傷は大丈夫かい?」
ヘンリー「ああ……」
ヘンリー「すまねぇな、主人公。すまねぇ……」
主人公「だから、気にしないでいいって」
主人公(あの拷問から一週間経った)
主人公(ヘンリーは変わらずこんな調子だ。きっと今でも、僕の父さんのことを気にしているんだろう)
主人公(そうだ、そもそも原因はヘンリーのせいなんかじゃない)
主人公(父さんを殺した魔物たち、そして全ては――何かを企んでいる、あの悍ましい死神ゲマのせいだ)
主人公(10年経った今、奴がどこで何をしているかは分からない。けど、必ず父さんの仇をとってみせる)
おばさん「はいはい! みんな起きたね。聞いて、新しい奴隷の子だよ」
おばさん「名はマリアちゃんだ。なんでも教団が子供を虐げているところを助けたらしくてね、ここに投獄されたらしいよ。ま、よろしくね」
マリア「よ、よろしく、お願いします……」
奴隷A「ひゅーっ、マブい子が入ってきたなぁ」
奴隷B「神じゃ……仏じゃ……後光が見えるぞい……」
奴隷C「女……女だ……」
おばさん「言っとくけど!」
おばさん「マリアちゃんに手なんか出したら、あたいがヨシュア兵長に報告するからね、そん時は命はないと思いな!」
奴隷A「う、まぁ、そらそーだわな、ここじゃ営みは死刑一直線だし……分かりましたよ」
奴隷C「そもそもんな体力ねーっす……」
おばさん「んじゃ今日も働きに行っておいで、怪我したらアタイが治してあげるからさ、マリアちゃんも頑張ってね!」
マリア「は、はい……」
主人公「へぇ、新しい人が入ったんだな」
ヘンリー「……」
主人公「? ヘンリー、どうしたの?」
ヘンリー「あ、いや」
ヘンリー「あの人、母さんに似てる気がしてな」
主人公「へぇ。確かヘンリーのお母さんは……小さいときに亡くなったんだっけ」
ヘンリー「ああ。もう顔もよく覚えちゃいないけど」
ヘンリー「なんだか懐かしい感じがするよ」
主人公「そっか」
主人公(母さん、か。僕も早く外に出て、母さんを探しに行きたいな)
~工事中の神殿~
むち男「ほーら働け働けぇ!」
むち男「お? ヘンリー、ようやく復帰したか」
ヘンリー「……」
むち男「うんうん、目が死んでいるな~、いい感じだぞぉ~?」
むち男「今後はいつでも反抗していいからな、そのたびに俺の酒が旨くなる! ははは!」
ヘンリー「……」
むち男「ケッ、無視かよ」
むち男「まぁいい。お前の他にも鞭打ちたいやつぁたくさんいるからな」
~岩場~
兵士長「おい、そこの奴隷」
主人公「え」
主人公「僕のことですか?」
兵士長「ああそうだ、少しこっちに来い、手伝ってほしいことがある」
主人公「は、はぁ」
トテトテ
主人公「なんでしょうか?」
兵士長(いいから近くに寄れ、聞き耳を立てろ)
主人公(えっ)
兵士長(私は兵士長のヨシュアという。……マリアの様子は、どうだ?)
主人公(マリア? ああ今日の新人の子ですか)
主人公(至って普通ですが、あいや、今日入ったばかりなので、なんとも言えないというか)
兵士長(……)
主人公(ど、どうしたんです? 突然)
兵士長(あーいや、なんでもないのだ)
兵士長(あのマリアという奴隷は、その、あれだ、聞いたかもしれんが教団のやり方に反抗してここに入れられた)
兵士長(……根は悪いやつじゃない。それにあいつは『自分より他人』を優先するやつなんだ。だからその、宿舎でも悪い待遇にはしないでやってくれ)
主人公(は、はい)
兵士長「よし、なら行け! 今日も働け!」
主人公「う、うっす!」
主人公(……なんだったんだろ)
~作業場~
老人「うう……」
ゴトリ
むち男「こらっ、なぜ岩を落とした! 早く拾いなおせ!」
老人「す、すみません……」
老人「しかしもう手が、手が、動かんのですじゃ……」
むち男「ええい言い訳だ! むちを喰らえっ!」
パチンパチン!!
老人「ぐあっ!」
むち男「ん・ん~~♡ なかなか良い声で鳴くじゃないか」
むち男「貴様はそろそろ戦力外通告と思っていた。なぁ爺さん、あんたらはもう生きられない世の中なんだよ。こっからは俺ら若人が盛り上げていくからよぉ、だからここで惨めに死んでくれんか?」
パチンパチン!!
老人「ぐふっ!」
むち男「ひゃーはははは! 老害はよぉ! ここでも生きる価値がねぇんだよ! 時代遅れのてめぇらは地面這いつくばって泥をすすりながら死んでいくのがお似合いだぜぇ!」
マリア「やめなさい!!!」
むち男「……あ?」
マリア「人には、人の役目があります」
マリア「彼はもう岩を運ぶ役目を担うべきではありません。この矛盾だらけの神殿制作に、豊富な知識を活かすご老公というお立場です」
マリア「そして幼き子には未来のため学習する権利を、若者は力だけでなく自ら考え行動する権利を、老公にはこれまでの人生の恩赦と知識開示の権利を」
マリア「貴方がたが行っていることは傲慢にして、人を得手不得手さえも見いだせていない、ただの浅はかな思考能力と弾圧力」
マリア「このようなことが許されましょうか。この神殿に入って理解いたしました、貴方がたこそ、ただの『権力に諂う奴隷』なのだと」
マリア「自らの意思を放棄し、ただ快楽のために人を虐げ奴隷にする。それは貴方が本当に人道を学び、成し遂げたかったことなのですか!?」
むち男「な、ななな、なに意味わかんねえこと言ってんだ!」
むち男「邪魔するならてめぇもこうだ! おらっ!!」
パチンパチン!!
マリア「ぐ……!」
老人「お、おお……やめてくだされ! この方は今日奴隷になったばかりなのじゃっ!」
むち男「だからなんだってんだよぉ! おら、お前も女も死ねっ!」
パチンパチン!!
老人「ぬおおっ!」
マリコ「お爺さん……うっ!」
むち男「ひゃーはははは! え、偉そうなことを言ってもよぉ、所詮おまえらは奴隷! 運命は変わりゃしねえのさ!」
むち男「ショタは犯す、綺麗な女は犯す、老人は成敗ってなぁこの世の真理だろうがケーケケケッ!」
主人公「!」
主人公「あれは……マリアさんや、僕に優しくしてくれたご老公!」
主人公「くそっ、なんてことだ!」
ヘンリー「……」
ヘンリー(そういえば、父さんから聞いたな)
ヘンリー(母さんのこと)
ヘンリー(母さんはいつも、国王の妻として『民を平等に扱い、ひとりの不満も出さない国を作り上げることが本物の王』だと言っていた)
ヘンリー(親父も、自分は王じゃない、母さんに王にしてもらったと言っていた)
ヘンリー(人には役割がある。それは歳をとろうが召そうが関係ない、その時、その瞬間、その人にしかできないことがあるのだと)
ヘンリー(生まれくべくして持った役割をこなすことは王とて同じ、更にそれを国民に活かせてこそ、一国を動かせる主なのだと。母さんが貧民街の出身だからこそ言えたその言葉が、親父の心を動かした)
ヘンリー(しかし今の俺に変えてみればどうだ。俺は――過ちを背負った)
ヘンリー(これはもう覆せない。主人公には生涯顔向けできないだろうし、それは事実)
ヘンリー(だからといって、俺はこれから、何を見るだろう)
ヘンリー(このまま人生を、権力者どもに従って、地べたを這いつくばって過ごすことが俺の人生か?)
ヘンリー(牢獄から見るものは、窓の鉄格子から溢れる無数の星か? それとも泥だらけの地べたか?)
マリア「……抗え」
ヘンリー「!?」
マリア「抗え!!!!」
ヘンリー「えっ……」
ヘンリー(俺を……見てるのか?)
ヘンリー(抗え? 俺が、誰に?)
ヘンリー(そうだ、腐ったこいつら、むち男どもにだ)
ヘンリー(いやこいつらだけじゃねえ、むち男を指揮する者、そして全ての黒幕だ)
ヘンリー(……だが)
ヘンリー(俺にそんな権利があるのか?)
主人公「ヘンリー! いたのか!」
ヘンリー「主人公……」
むち男「おお、ちょうどいいところに来たな、おまえもこうだっ!」
パチンパチン!!
主人公「ぐあっ!」
ヘンリー「主人公!」
ヘンリー「やめろてめぇ、こいつは関係ねぇだろ!」
むち男「関係ない?」
むち男「いーや関係あるねぇ、こいつはこの仕打ちを『傍観』した罪がある」
むち男「そして俺にも生意気な態度をとった、一週間前から気に入らなかったんだよ!」
むち男「そうだ、こいつも一緒に殺してしまおう。そうすりゃまた一国の王子様の絶望顔が見れるからなぁ!」
パチンパチン!!
主人公「ぐっ……!」
ヘンリー「主人公っ!」
傍観した――
それだけで?
いや、考えてもみろ、今の俺も『そう』だ
女老人がむちで叩かれ、親友が殺されそうになっても
俺はただ――傍観しているだけ
俺はあの頃から、何も、変わってない
マリア「……変われる」
ヘンリー「え……」
マリア「人は、どんな罪が、あっても、どんな業を背負っていても、変わることができる」
マリア「それが『人』であり、生きる意志」
マリア「思い出して」
マリア「もう一人の貴方自身を――!」
ヘンリー(もう一人の……俺……?)
むち男「さっきから、訳分かんねえことぬかしやがって、このクソアマが!」
パチンパチン!!
マリア「うう……」
主人公「マリアさん!」
主人公(兵士長が言っていたとおりだ、この人は多分、自分より他人のために生きる)
主人公(こんな優しい人を死なせちゃいけない)
主人公「やめろぉーーーっ!」
むち男「……ああ、主人公、お前は威勢だけはいいからなぁ、こんなものを用意しておいたんだ」
むち男「眠っててくれや」サッ
主人公「ば、ばくだん石――!?」
ボンッ
主人公「~~~ッ!」
マリア「ああっ!」
老人「なんということを……! すぐにでも回復をせんと、本当に死んでしまうぞい!」
むち男「だぁかぁらぁ、いらないんだって」
むち男「代わりはいくらでもいるからね☆」
マリア「貴様ぁっ!」
むち男「おーおー勇ましいこって」
むち男「だけどほら、君の首根っこを持てば終わりだよ」グイッ
マリア「!」
むち男「あと何分持つかなぁ」グググ
マリア「~~!」
ヘンリー(ああ、もう、終わりだ)
ヘンリー(主人公も、マリアさんも、そして俺の親父や主人公の親父さえ)
ヘンリー(俺は誰も救えなかった)
マリア『抗え!』
ヘンリー(抗う……?)
ヘンリー(もうひとりの、俺で……)
ヘンリー(……)
ヘンリー(力がほしい)
ヘンリー(何もかも、失ってもいい、だから)
ヘンリー(誰にも――屈さない――過去の罪さえも受け入れ、それでも俺に手を貸してくれる力が)
ヘンリー(ほしい!!!!!!!!!!!)
???《ようやく気付いたか――》
ヘンリー「!?」
???《罪に苛まれ――幾分の時を過ごし――自らの心すらも牢獄に閉じ込めた哀れな受刑者よ》
ヘンリー「だ、誰だ……」
ヘンリー「誰が話してる!?」
???《親友は一度でもお前を咎めたか?》
???《親友の父は、自らの死に絶望していたのだろうか?》
???《そして国民は――今のお前の姿を嘆くだろうか?》
???《おまえは、おまえ『自身』でおまえを苦しめていただけだ》
ヘンリー「しかし、俺は……」
???《過去の罪は許されざるもの、否しかしそれは、更なる多くの者を救える機会でもある》
???《おまえは先程自問自答したな、答えは出ているはずだ》
???《これよりも『奴隷』として過ごすか、さてもすべて受け入れ『英雄』として生きるのか》
???《おまえが決めるのだ、おまえの中にある、おまえ自身の心で――》
ヘンリー「俺の心で……」
ヘンリー「ああ、そうだ……」
ヘンリー「過ぎてしまったことは仕方ない、なんて言葉で誤魔化すつもりはねぇ」
ヘンリー「だけどこのままじゃあ、誰も救えない。地べた這いつくばってちゃあ、なんにも見えやしねえ、救えやしねえ!」
ヘンリー「親友はそれを望むか? 親父はそれを望むか? 母さんは――それを望むだろうか?」
ヘンリー「いや、違う」
ヘンリー「他人のためじゃねえ、俺自身が許せねえ。俺が許せねえってのに、他人に抗うことなんてできるかよ」
???《ならば契約を交わすか? この我と――自らの意思で!》
ヘンリー「ああ、契約だ」
ヘンリー「俺はもう奴隷じゃない。奴隷どもを虐げるクソ野郎どもを、一匹残らず、ぶちのめしてやる」
???《よかろう、ならば我が名を呼べ》
???《我は汝――》
ヘンリー「汝は我――」
ヘンリー「ペルソナァァァアアアアア!!!!!」
むち男「!!?」
ヘンリー「……」
謎の人影《……》
老人「な、なにが起きたのじゃ!? むち男が吹き飛ばされておる!」
老人「それにヘンリー殿の後ろに立つ、謎の人影は一体……!?」
マリア「う……」バタッ
老人「マリア殿! 大丈夫かいの!?」
マリア「あれ、私は一体……」
むち男「ぐ……」
むち男「な、なにが起こったんだ、いきなり爆風に吹き飛ばされて……」
ヘンリー「……」
むち男「き、貴様、ヘンリー!?」
むち男「それと、後ろにいるヤツは……だ、誰だそいつは……?」
謎の人影《……》
ヘンリー「なるほど、それがお前の名前なんだな」
ヘンリー「おい、立てよクソ野郎、俺がてめぇをぶちのめしてやる」
むち男「な、なんだと?」
むち男「なんの力か知らんが、良い気になりおって!」
むち男「出合え出合え~! 我が部下どもっ!」ピー
むち男B「なにごとですか!」
むち男C「班長、うおっ、なんだこいつ!」
むち男D「こいつをやればいいんですね!?」
むち男「ああそうだ、徹底的に痛めつけてやれい!」
ヘンリー「何人来ようとも同じだぜ」
ヘンリー「他者を虐げる権力者の奴隷どもは、全員叩き潰してやる、そしてその黒幕もな」
ヘンリー「刈り取れ、《ディオニュシオス》!」
ディオニュシオス「メギドラオン」
むち男「ANGYAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
【説明しようッ!!】
メギドラオンとはッ!
某ペルソナと呼ばれるジャパニーズ大人気RPGに出てくる『スキル』の名であるッ!
ドラクエで本SSに吸引されて人々はッ、未知数のものと思うがッ、いわば無属性の全体攻撃の呪文『イオナズン』のようなものだと思っていいッ!
そりゃむち男も全員吹っ飛ぶよねッッ!
ああっ、だがっ、ドラクエで引っ張られた人も、ブラウザバックはしなくていいぜッ!
主にドラクエ5ベースで進む物語だが、ペルソナを知らずとも楽しめる作品になると思うッ、多分ッ!
ヘンリーが宿したペルソナってのは、いわばもう一人の自分『分身』みたいなもんだッ!
ジョジョでいうスタンド能力ってとこかなッ!
本作のベースとしては『ペルソナ5』のテーマである『反逆の精神』をもとにしているッ!
従って各ペルソナの名は『創作からきているもの』となっているッ(例:アルセーヌ、ゾロ、カルメンなど)
ヘンリーが使役したペルソナ『ディオニュシオス』は、有名作『走れメロス』の邪知暴虐な王の名だッ!
彼自身は冒頭メロスに対して、こいつ嘘つきやん人間なんてそんなもんじゃわと思い、国民に対しても残酷な独裁者であったがッ、メロスとセリヌンティウスの友情に感化された王のひとりッ!
故にヘンリー自身も大罪に関わった身としてッ、彼をもうひとりの自分として位置付けたがッ、彼が本当の『王』となれるかは今後の活躍次第であるッ!!!
~民明書房より~
ヘンリー「これが……もう一人の、俺」
ディオニュシオス「……」
ヘンリー「いや、違うな、俺が『見たくなくて背けていた自分』なのかもしれない」
ヘンリー「ありがとうディオニュシオス。いや、略してディオニスでいいのか?」
むち男「ぐ……」
むち男「ぶるぁぁああああああう!」
ドゴーン
老人「な、なんじゃッ、あやつだけ復活しおった!」
むち男「ぎ、ぎざまぁ……よぐもごの俺に……!」
ヘンリー「無様だなぁ、むち男さんよ」
ヘンリー「だが確信したぜ。てめーのその回復力、悪魔に魂を売ってんだろ」
むち男「ぐぶぶぶ……そうだ……我はこんなところで終わる者ではない」
むち男「あのゲマに刃を迫るまで内密にしたかったが、仕方なかろう」
ゴゴゴゴゴ
老人「な、なんなのじゃ、こいつは……!」
老人「悪魔の姿に変身しおった!!」
アークデーモン「ふはははは! これが我の真の姿よ!」
むち男B「はわわわ……班長が魔物に!?」
むち男C「に、逃げろぉぉおお!」
アークデーモン「逃がすわけなかろう? ゲマやその配下に告げ口されちゃたまらんからな」
アークデーモン《ベギラゴン》
むち男ども「ぎゃぁああああああああああああああ!!!」
老人「な、仲間どもを全員焼き殺しおった!」
アークデーモン「ふん、仲間だと?」
アークデーモン「あいつらは全員家畜だよ、ケケケケ」
ヘンリー「救えねぇ」
アークデーモン「ヘンリィィ……」
アークデーモン「俺は貴様を買ってたんだぜぇ? 一国の王子ってな奴隷はなかなかおらんからな」
ヘンリー「……」
アークデーモン「今はラインハットも、ゲマの手先が乗っ取って国を動かしているらしい」
アークデーモン「なぁ、わしと手を組まんか? 太后に化けた輩なんぞ、わしとお前が手を組めばイチコロよ」
アークデーモン「悪い話ではない。いずれにしろ魔族が世界を暗黒に包むのだ、お前の名も大魔王様に進言して生かしておくこともできる、貴様もわしも滅びた世界の末に一国の王となれるのだよ!」
ヘンリー「口を閉じろ、ゲス野郎」
アークデーモン「なに?」
ヘンリー「黙って聞いてりゃベラベラ、ベラベラ」
ヘンリー「俺はてめぇの話を聞きたいんじゃねぇんだよ、お前を1秒でも早くぶっ殺したいんだよ」
ヘンリー「人をゴミのように扱い、今いる地位だけで他者を虐げ己の欲望を満たそうとし、果ては仲間を殺して裏切りさえもする薄汚ねぇ大悪党」
ヘンリー「てめぇにゃ改心じゃ足りねえ、この世でもあの世でもいられねぇように、全部燃えカスにしてやらぁ」
アークデーモン「きき、貴様ぁ……口だけは達者なようだ」
アークデーモン「だが、これでも偉そうな口がきけるかな?」チャキ
ヘンリー「!」
主人公「うう……」
アークデーモン「貴様の親友とやらに、地獄の鎌をかまえたぞ」
アークデーモン「ふははは! 聞くにこいつも、ゲマに鎌を突き付けられて脅されたんだってなぁ!?」
アークデーモン「さぁどうする? 親友が人質となっているならわしに手は出せまい!」
老人「な、なんと非道なやつじゃ!」
ヘンリー「……」
ヘンリー「あの時は、使えなかった」
アークデーモン「あん?」
ヘンリー「あの時の俺は、回復魔法は使えなかったんだ」
アークデーモン「なにを言って」
ヘンリー《吹き返せ、ディオニス!》
ディオニス《ディアラハン(回復魔法)》
ポワワワン
主人公「おっ、おおおお?」
老人「な、なんということじゃ、主人公殿の傷が塞がれていくッ!?」
アークデーモン「な、なにが起きているのだ!?」
ヘンリー「おい主人公、魔法の腕、なまってねぇんだろ」
ヘンリー「抗え!」
主人公「……ああ、ありがとうヘンリー」
主人公《バギマ!!》
アークデーモン「ぐおぉぉおっ!」
老人「しゅ、主人公殿が魔法をーーッ!!!」
シュタッ
主人公「あ、ありがとうヘンリー、僕に回復魔法を使ってくれたんだね!」
ヘンリー「ああ、気にすんな、それより――」
アークデーモン「うぬぅぅううう!! ちょこざいなぁあああああ!!」
ヘンリー「こいつ、二人でぶっ倒すぞ」
主人公「うん!」
ヘンリー「さぁ、ショータイムだ」
ヘンリー「刈り取るぞ、ディオニス!」
ディオニス《……御意……》
主人公「……」
主人公「……」
主人公(え誰????????????????????)
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