狂わしい765プロの女たち (15)

春香「あずささんからのメール」

あずささんから本文のない「あ」という件名のメールが毎日一回は必ず送信されていたときのこと。

返信しても応答はないし多いときは一時間ごとに届くこともあって堪らなくなった私が「あのメールは何なんですか?」と尋ねるとあずささんが真顔で

「あ」

と答えた。

私の携帯からメールの着信音が鳴った。

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あずさ「律子さんとの電話」

今日はたまのオフで旅行に行っていると聞いていた律子さんから電話があったときのこと。

そのときの私は事務所で暢気に雑誌を読んでいたのだけれど、電話越しの律子さんは凄い剣幕で「あずささん、今すぐそこから出てください!」と言ったので何事かと思っていると、バンっと乱暴に扉の開く音とともに律子さんが入ってきて私から電話を取り上げた。

彼女の手元にある携帯電話から「はやく逃げて!」という声が聞こえた。

律子「金魚」

ロケ先で金魚すくいをやっていたのを見た美希が「私もやりたいの」と言って全部すくってしまったときのこと。

あの後美希に「あのときの金魚はどうしたの」と尋ねた。

美希は「おいしかったの」と答えた。

やよい「プロデューサーさんの運転」

伊織ちゃんと一緒にお仕事に行ったときのこと。

プロデューサーさんの車に乗って行ったのだけれど大分時間が経っても着かなかった。不思議に思っていると、プロデューサーさんは誰もいない横断歩道の前でブレーキを踏んだり、「何か」を避けるように蛇行しながら運転しているのに気がついた。

運転中、プロデューサーさんはとても怖い顔をしていて、車内は異様な雰囲気だった。着いた後に、伊織ちゃんが「さっきの何だったのよ!」と尋ねたのだけれど、プロデューサーさんは何も答えてくれなかった。

伊織「お見舞い」

やよいが風邪をひいたので、たまたまオフだった響と一緒にお見舞いに行ったときのこと。

やよいには弟が二人と妹が一人いると聞いていたのだけれど、家の中には子どもがもう一人いた。

響が「幽霊子、一緒に帰るんだぞ」と言って、その子と手を繋いで帰って行った。

響「動物園」

仕事の関係で動物園の無料優待券を貰ったけれど忙しくて行けないから困っている、と貴音に相談すると、たまたま明日オフだった貴音が券を貰ってくれたときのこと。

後日貴音が、「檻に一匹だけ象がいたのです。とても寂しそうだったので私が手を振ると、象はそれに気が付いたのか、鼻をゆさゆさと振ってどこか嬉しそうでした。その日はずっとその檻の前におりましたが、大変楽しい一日でした」と嬉しそうに言った。

今あの動物園に象は飼われていないのだけれど、戦時中に毒の餌を食べさせられて殺された象がいたことを伝える気にはなれなかった。

貴音「三人」

響と雪歩と一緒にかふぇーに行ったときのこと。

うぇいとれすに「お二人様ですね」と言われたので、私が「三人でございます」と答えると、彼女は不思議そうに私たちを席に案内した。

席に座って三人でしばらく談笑していたのですが、コップが雪歩のものだけ用意されていなかったり、雪歩の注文した料理だけいつまで経っても出てこなかったり、不思議なことばかり起こる。いたたまれなくなったのか、雪歩がお花を摘みに行くと言ってバッグからハンカチを取り出すのと一緒に封筒が出てきて、それには

「遺書」

とか細い字で書かれておりました。

雪歩「玉」

真ちゃんと一緒に事務所でお話をしていたときのこと。

その日は土砂降りの雨が降っていました。だから雨がやむまで事務所で待っていようと思っていたのですが、全然やみません。すると、事務所に青い光が射して、不意に真ちゃんが妙な音で嘔吐きはじめました。私が真ちゃんの背中をさすってあげると、真ちゃんは「げえっ」と玉のようなものを吐き出しました。

その途端に雨がやみました。

真「本」

亜美から本を貸してもらったときのこと。

正直そんなに好きな作家ではなかったのだけれど折角貸してくれたんだし、と思って読んでいたけれど、結局半分ほど読んだところで諦めた。

次の日亜美に会ったので本を返すと、亜美は「まこちん、全部読んでないっしょ」と言って、怒って出て行ってしまった。どうして判ったんだろうと不思議に思って、本をパラパラと捲っていると、あるページに

「真美に殺される 助けて」

という書き込みがあった。

千早「狂わしい765プロの女たち」

春香に監禁されていたときのこと。

手足を拘束されていた私は、最初は戸惑いながらも恐怖し、怒った。監禁当初は「プロデューサーが助けてくれる」という希望があったのだけれど、時間とともにそれも次第に萎えていき、やがて春香に対して卑屈になっていった。春香はそんな私の状態を見ながら、時には優しく、時には暴力をふるい、硬軟交えた性行為があり、心も拘束されるようになった。

ついにはもう春香なしではいられなくなり、私は春香が部屋に来る度に欲情するようになった。

「春香、私、今日も来てくれるまでずっと我慢してたのよ。大変だった。ほら見て、もうこんなになっちゃってる。私、女の子なのに、もうこんなになっちゃってるよ。もういい?もうしてもいいよね?」

おしまい

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