――おしゃれなカフェ――
北条加蓮「ごめんっ、藍子! この後急に追加撮影の予定が入っちゃって……。30分くらいしたら、もう出なきゃ間に合わないっぽいの。ごめんっ」
高森藍子「加蓮ちゃん、謝らないでください。一緒に過ごせないのは残念ですけれど、予定が入ることは、いいことですからっ」
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レンアイカフェテラスシリーズ第124話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「南風のカフェテラスで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェでの離席と天気雨」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「紫陽花のカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「梅雨の晴れ間のカフェテラスで」
お話の性質上、今回はいつもより短めです。
藍子「何か、注文だけでもしますか?」
加蓮「そうする。あ、でもトイレに行きたくなるのは無し。モバP(以下「P」)さんに送ってってもらうんだけど、途中で行きたくなっちゃったら嫌だし」
藍子「じゃあ、コーヒーは飲めませんね。残念」
加蓮「ちょっと時間かかりそうだし何か食べちゃおっかな。コロッケくらいにしとこー。すみませーんっ」
藍子「私も、同じものでっ」
加蓮「お願いね」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……あ、あはは」
藍子「……なんだか、何を話せばいいのか分からなくなっちゃいますよね」
加蓮「あんまり時間がないからその分いっぱい話そう、って思っちゃうのに。それに、やっぱりちょっと落ち着かない」
加蓮「時計が気になっちゃうよ。あとどれくらいかな、って……何もしてないのにさ」
藍子「もったいない……?」
加蓮「のかな。でも、お仕事が待ってるって考えたら、楽しみも半分。あとは寂しさ……ううん、寂しさの中に、ちょっとだけ申し訳なさが混じってる感じ」
加蓮「こういうこと、初めてだから……。藍子は許してくれるって分かるんだけどさ」
藍子「加蓮ちゃん、加蓮ちゃん」
加蓮「ん?」
藍子「そういう時は……そうですね……。では、次の約束をしましょう。また今度、カフェで会える日を」
加蓮「そっか。そうすれば、気にならなくなるかな」
藍子「それと、もう1つ。ちょっとだけ、失礼しますね」ガサゴソ
藍子「これで、よしっ♪ 今から……加蓮ちゃん、あと何分くらい、ここにいても大丈夫ですか?」
加蓮「……25分くらい?」チラ
藍子「では、25分、ううん、20分後にタイマーをセットしました。これなら、時計を見なくても大丈夫ですよね?」
加蓮「あー……そうすればよかったよね。簡単なことなのに、思いつかなかったよ」
藍子「急いでいたり、焦っていたりしたら、思いつかなくなっちゃいますから」
加蓮「ふふっ。じゃあ、今度から心がそわそわした時には藍子を頼っちゃおっかな」
藍子「リラックスできる方法や、安心できる方法を、たくさん用意してお待ちしていますね」
加蓮「藍子に1つずつ聞いてたら、それだけでリラックスできちゃいそう」
藍子「加蓮ちゃんのこと、いっぱい癒やしちゃいますよ~?」
加蓮「その分時間も奪われそう」
藍子「……奪っちゃいますよ~」
加蓮「開き直ってる」
加蓮「あ、店員さん。コロッケさんきゅ」
藍子「いただきますっ」
加蓮「……うん、美味し。慣れた味を食べると、なんか頑張ろうって気持ちになれるね」
藍子「ふふっ……♪」
加蓮「……次にカフェに来られるのは……提案してもらってごめんけど分かんないかも。最近ホントに忙しいから……」
藍子「大丈夫。加蓮ちゃんが大活躍しているのは、私も見ていますよ。……そうそうっ。お母さんが、私より嬉しそうに言うんです。加蓮ちゃんの活躍が見られて嬉しい、って!」
加蓮「藍子のお母さんが……。あははっ。それよりも自分の娘の活躍を見てあげてよ、って伝えといて」
藍子「そうしますね」
加蓮「いや、待って。そういえば私の家でも……。そうそう、思い出した。そのことを藍子に愚痴ろうと思ってっ」
藍子「なにか、あったんですか?」
加蓮「あったっていうかあるっていうか。お母さんもお父さんも、私の番組は録画ばっかりなのに、藍子が出る番組って知ったらいつもリアルタイムで見ようとするの!」
藍子「ふんふん」
加蓮「なんなのあれ? 私より藍子の方が大切って言うの!?」
藍子「そんなこと――」
加蓮「決めた。今度ご飯食べに行こって誘われてもぜんぶ断ってやる。アイドルが忙しいからね、誰かさん達は知らないでしょうけど! って言ってやるっ」
藍子「やめてあげてください……」
藍子「それに、加蓮ちゃん。それって、加蓮ちゃんの出ている番組は、何度も見たいから録画しているんじゃないんですか?」
加蓮「えっ」
藍子「私の出ている時は、っていうお話は……ひょっとしたらですけれど、加蓮ちゃんのお父さんとお母さんは、話題がほしいのかも」
藍子「私のことなら、加蓮ちゃんともお話しやすい話題になるでしょうから……。加蓮ちゃん、忙しくなってから、おふたりともあまり話していないんじゃ?」
藍子「……あ、でも、私のことをあんまりたくさんお話されると照れちゃうので、ほどほどにしてくださいね」
加蓮「あー……」
藍子「ち、違っているかもしれないので、今度おふたりに聞いてみた方がいいかも? 私の勝手な想像ですし……」
加蓮「そこで自信なくされると困る……っていうか、ムカつく」
藍子「ええっ」
加蓮「私の、それも私の家族のことなのに藍子が先に気付いて、それで自信ありませーんっていうのは、なんか違うでしょ? ムカつくから藍子のことたくさん喋ってやろー」
藍子「待ってっ」
加蓮「っていうか自信がない、間違ってるかもしれないって言うなら、私まで揺らいじゃうなー。お父さんとお母さん、やっぱり私のことより藍子のことの方が……」
藍子「待ってっ、待って! あのっ……じ、じゃあ、今から言いかえます!」
藍子「ごほんっ。加蓮ちゃんのお父さんとお母さんは、加蓮ちゃんの番組を繰り返し見たいから録画していて、話題がほしくて私の出る番組を見るようにしているんです。……ま、間違いありません!」
加蓮「にやにや」
藍子「えっ……」
藍子「…………もお~っ! 加蓮ちゃんのっ……。加蓮ちゃん!!」
加蓮「藍子ってさ、私のことやたら見抜いてくる癖に私が不安なフリとか、分かってるのに分からないフリとかするとすぐ騙されるよね。あははっ♪」
藍子「むぅ~! それも加蓮ちゃんが悪いのっ!」
加蓮「はぁ?」
藍子「今まで何回も何回も不安になることや普通に人を信じれば分かるハズのこと、分からないって言い続けてたじゃないですか!!」
加蓮「……び、微妙にグサっと来ること言うなぁ」
藍子「ぜ~、ぜ~っ」
加蓮「たはは。うん、ゴメンね? お母さんとお父さんとは帰ってちょっと話してみる。ま、喧嘩とかしてる訳じゃないし、そこは安心して」
藍子「……はぁい。いい知らせを待っていますね」
加蓮「うん。きっといい知らせにできるよ」
加蓮「コロッケ、ごちそうさま」
藍子「ごちそうさまでしたっ」
加蓮「いつもの場所の慣れた味、いつものお喋り……。なんか、いつも通り。だけどこの後はアイドルのお仕事で……ずっとそわそわしちゃってるんだよね」
加蓮「ううん、なんだろ。うずうずしてる?」
藍子「ドキドキしてる?」
加蓮「うん。ふふっ……。こんなに満ち溢れてる時間、自分じゃないみたい――なんて、これで何度目かな」
藍子「……加蓮ちゃんですよ。加蓮ちゃんが今まで生きてきたから、今の加蓮ちゃんがいるんです」
加蓮「分かってまーす」
藍子「くすっ。今まで、すっごく真面目な顔だったのに。急にふざけて笑っちゃった」
藍子「追加の撮影って、どの撮影なんですか? ドラマの……それとも、CMの?」
加蓮「ドラマのヤツ。配信サイト限定の、映像特典用のだってさ。なんか見てくれてる人が思ったより多いみたいで」
藍子「すごいじゃないですかっ」
加蓮「ま、今をときめくアイドルですから? 初回特典として私へのインタビューシーンもついてくるよ」
藍子「それは、早めに見なければいけませんねっ」
加蓮「そうそうっ。聞いてよ藍子。なんとその映像特典だと、私が主役なの!」
藍子「わあっ!」
藍子「確かそのドラマの加蓮ちゃんって、大学生の主人公の友だちの、その妹……っていう役柄でしたよね」
加蓮「うん。キャラが濃いし演技もいいからって、なんか見てくれた人から人気になってるみたい」
加蓮「……私のことを"なってるみたい"って言うのも変な話だけどねっ」
藍子「ですねっ」
加蓮「もともとドラマ的にはちょい役っていうか……ひっかき回す役?」
藍子「適役ですよね」
加蓮「こら。どーいう意味」
藍子「そういう意味です」
加蓮「……自分でもそう思うんだけどね。オーディションですらない、オファーだったし」
藍子「オファーを受けた時、Pさんがおおはしゃぎしていたところを見ましたよ。……あははっ。加蓮ちゃん、あの時ちょっぴり引いちゃって、でも嬉しそうにしているのを隠しきれなくて――」
加蓮「映像特典にはそんな加蓮ちゃんついてきません。残念でしたー」
藍子「では、私だけが知っているおふたりってことですね」
加蓮「超貴重映像ってヤツだねー」
加蓮「ドラマでは、小さめだけどトラブルを持ってきて、それがあって主人公の友だち……私から見たらお兄ちゃんになるキャラね。それが、新しいことに気がつくみたいな感じ」
藍子「ふんふん」
加蓮「ホントにちょい役だったんだけど、もっと見たいって声が多かったみたいで……スピンオフ! 私主役の! って感じなのっ」
藍子「すごい……!」
加蓮「Pさん、加蓮の活躍が見せられるな! なんてさ。オファーを受けた時もだけど、あの人いつも私より喜んでくれるんだよね。ホント、変なのって思っちゃう」
藍子「Pさんは、そういう人ですから」
加蓮「人の幸せを、自分の幸せより喜べる人かぁ……。あははっ。藍子もプロデューサーさんになっちゃえば――なんて、言ったら失礼かな?」
藍子「……」ジー
加蓮「……やっぱり失礼? 藍子も、立派なアイドルだもんね」
藍子「……それなら、加蓮ちゃんもそうじゃないですかっ」
加蓮「なっ」
藍子「アイドルの加蓮ちゃんもいいですけれど、プロデューサーさんの加蓮ちゃんもいいかも――」
加蓮「ほぉー? 今をときめくアイドルちゃんに向かってプロデューサーへの転身ー? タイミングを考えなさいよ、ありえないでしょ」
藍子「ふふっ。分かっていますよ」
加蓮「ま、藍子のプロデューサーならいつでもやってあげる。そのかわり、超スパルタでやるからね。Pさんが甘やかす分、私が鞭で叩かないといけないし」
藍子「できれば、優しくしてくださいね?」
加蓮「……いやその言い方だとなんか違う意味に聞こえるんだけど」
藍子「?」
……。
…………。
<ブルルルルッ
加蓮「っと。アラーム……? ってことは、もう時間なんだ」
藍子「時間みたいですね……。加蓮ちゃん……最後に1つだけ、いいですか?」
加蓮「うん。何?」
藍子「加蓮ちゃんが――すごく頑張っていることや、新しいことに次々挑戦しているの、見ていていいなって思います」
藍子「でも、無理はしないでくださいね?」
藍子「……、」
藍子「無理して、倒れちゃったりしたら……あなた以上に悲しむ人がいるってことを、あなたは知っているハズです。だから、言わなくても大丈夫だと――」
藍子「ううん、でも……あははっ」
加蓮「……?」
藍子「無理はしないでっていうのも大事ですけれど、やっぱり、私はこう言いたいです」
藍子「やりたいこと、いっぱいやって、いっぱい楽しんでくださいっ。加蓮ちゃん!」
加蓮「うんっ。……ありがと、藍子」
加蓮「大丈夫。どんなに忙しくても、アイドルのことだから全力だし……。アイドルのことだから、辛いなんて思わないんだ」
加蓮「ま、今でもできないこととかにぶつかって、イライラしちゃうことはあるけどねっ」
加蓮「それに、終わったらお母さん達と話して……。次に藍子と会ったら、今日の分まで話をして」
加蓮「それから、そうそうっ。ドラマを見てくれるみんなの声、けっこう楽しみにしてるんだー♪」
加蓮「他のお仕事でもそう。ラジオの公開収録が終われば、色んな人が声をかけてくれて……Pさんが機転を利かせてくれて、即興の握手会とかもしたっけ」
加蓮「アイドルのみんなを呼んで新しいことに挑戦する企画も、今も続いてるし……。新しいことと、いっぱい出会えるんだよね」
加蓮「うんっ。すっごく充実してる! 今、すっごくアイドルやってるっ」
藍子「加蓮ちゃんっ……!」
加蓮「でも、今日みたいに藍子と話す時間が減ったりするのは……やっぱり、ちょっと寂しいけど」
藍子「気にしないで、とはもう言いません。そのかわり――」
加蓮「そのかわり?」
藍子「私も、実はちょっぴり……ううん。実は、けっこう寂しいです」
加蓮「やっぱり」
藍子「くすっ♪」
加蓮「じゃ、お互い言いたいこと"だけ"は言えたってことで」
藍子「それ以上は、また今度にしましょうか」
加蓮「行ってきまーすっ」
藍子「うんっ。加蓮ちゃん、行ってらっしゃい」
<店員さんー。レジー
【おしまい】
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