中野渡頭取が異世界に転生して2年で皇帝になるようです (4)

中野渡「・・・どこだ? ここは」

 気がつくと中野渡は森の出口で起き上がっていた。
 ついさっきまで東京中央銀行の取締役会で議論を交わしていたと思ったが。
 ふと見上げると見たことのない鳥が飛んでいる。

中野渡「あの鳥は東京には、いや世界で確認されたことのない種ですね。ふむ、どうやらここは異世界か」

 あたりを見回すと右手の遠くに街があるのが見える、高い城壁に囲まれていることから、
 それなりに産業が発展しており、また外部から敵を守る必要のある戦時を想定している、もしかするとすでに戦争中かもしれない。
 
中野渡「とりあえずあの街で現状を把握するとしましょうか。どんな世界でも客のためにベストを尽くす。
     それがまだ見ぬ客であれ顧客第一。それが私のモットーですからね」

 中野渡は立ち上がるとスーツについた草を軽く払い右手に見える街の城壁をにらみつけた。



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街の外では行商人や農民が城壁の入り口へと殺到していた。
城門の衛兵と激しく口論しているものもいる。
中野渡がその口論に聞き耳を立てているとそばの農民がしゃべりかけてきた。

農民A「おめさなんだその格好は? へんてこな格好してるだなー。どっかの貴族様け? それにしちゃお供もつけてねぇしそりゃねぇか」
中野渡「・・・」
農民A「愛想のねぇやつだなー。もしかしておめーも焼け出されてここに流れてきたんけ。お互い大変だのー」

どうやらこの城壁都市の名前はウィンザリアというらしく、
目下のところ戦火が近いらしく方々で戦争の火の粉を浴びたり略奪にあったりした領民が
このウィンザリアに流れ込んでいるらしかった。
しかしまずい事態だと中野渡は思った。戦火の進捗度合いにもよるがこのような農民が焼け出されているということは
農作物の生産能力に打撃が発生している可能性が高い。
その場合は農作物の値段が跳ね上がっている可能性があり先物取り引きによる買占めの発生、
またそれによる経済の資金繰りの収縮が発生しかねない。
それはピンチではあるが同時にチャンスでもある。

中野渡「ところであなたはどの程度遠方からこちらへ?」
農民A「ワシか? ワシしゃぁこのウィンザリアのだ~いぶ西からだべ、西の山脈に近い街だったんだがちょっとキナくさくなってきての~」
中野渡「ふむ」
農民A「でんもここにはあまり期待できんかもしれんぞ。よそにいったほうがいいかもしれん。さっきから衛兵がだ~れも通さん。ありゃ領主に通すなといわれとるな」

 中野渡が城門のほうを見ると、フルアーマーの騎士たちが衛兵にかけあっているが衛兵達はガンとして騎士たちを拒んでいる。
 この農民がふてくされるのもなるほどわからないでもない。

中野渡「なるほど、ではとりあえず街に入るとしましょう」
農民A「へぇ? おめさワシのいったこと聞いとったんか?」
中野渡「あなた、バンカーにとって重要な資質はなんだと思いますか?」
農民A「は? バンカー? おめさなぁにいってんだ?」
中野渡「バンカーに必要な資質は、人を見る目です。金勘定は二の次だ。人の持つ資質を正しく見抜けば結果は後からついてくる」

 中野渡はそういうと衛兵たちに押し戻された騎士たちのほうへ歩いていき、その中の一人に話しかけた。
 すると怪訝な顔つきをしていたその騎士はハッっとした顔になり、次に城門の衛兵のほうへ駆け寄ると衛兵たちに話を伝えた。
 すると衛兵たちが顔を見合わせ中野渡と農民Aのいるほうに走ってきた。

衛兵A「どうも失礼いたしました! どうぞおとおりください!」
中野渡「結構。では参りましょうか」
農民A「はぇ? あ、あぁ・・・」

 こうして中野渡と農民Aは城門を通過してウィンザリアの街へと足を踏み入れた。二人の背後ではまだ衛兵が頭を下げている。
 


農民A「な、なんじゃこりゃ? 一体どうなっとるんじゃ?」
中野渡「なぁに、たいしたことではありません。あなたの正体を、伝えるべき人物に伝えたまでです」
農民A「は? 説明になっとらんぞ」
中野渡「あなたの手、クワを長年握ってきて岩のようなコブができている。並大抵の根の入れ方ではそうはならない実にいい手だ。
     そして同時に右手にはペンダコもある。騎士や衛兵にもできないようなペンダコがなぜ農民であるあなたにできているのか。
     それはあなたが農民の商会の相当上の地位にいる現場主義の人間だからです。はるか遠方からこの街にただ一人あなたがいるのも
     領主に保護を求めるためですね?」
農民A「あっ、はぁ・・・」
中野渡「当たらずとも遠からずといったところのようですね。そしてこのウィンザリアは騎士をも受け入れない。戦火が間近に迫っているのにです。
     その理由はただひとつ。この街には食料が不足しているのです。ウィンザリアは今飢えている。彼らに必要なのは力ではなく、食料なのです。
     領主は今あなたの農業紹介の農作物の備蓄がどうしても必要だ」
農民A「そ~れで騎士が通れずワシが通れたってわけか」
中野渡「そしてそれを私が衛兵に伝えても、おそらく信用されなかったでしょう。素性のわからぬ私が衛兵に伝えるよりも、あの騎士たちが言ったほうが説得力があります。
     騎士たちには領主と契約が成立すれば保護を与えると言ってあります。あなた方にも戦力が必要なはずだ」
農民A「そ、そりゃまぁその通りじゃが、よくこんなにうまくいったのぉ」
中野渡「彼らにはまだ役割が残されています。おそらく重要になるのはこれからでしょう。しかし、本来この街が食糧難になるのはどうもおかしい」
農民A「ま、まぁだなんかあるんけ?」
中野渡「本来農業生産力の拡充に力を入れていればそうやすやすと食糧難に陥るなどということにはならない。おそらくウィンザリアの領主は
     不必要な重税で民を苦しめ、その税金を本来使うべきではない場所に使っていたのでしょう。であれば・・・」

 中野渡は人の往来する道からウィンザリアの領主が住むであろう城をにらみつけた。

中野渡「領主は私がやったほうがいい。ウィンザリアの領主には出向してもらいます」














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