とある街中の昼下がり──
カメラマン「今の彼でいいんじゃない?」
スカウトマン「声かけに行きます」
キャップ「えっ? 僕を悩めるチェリーボーイ達の相談役に?」
カメラマン「はい。あなたの様な誠実で逞しい男性に、人生の先輩として彼らにアドバイスしてあげて欲しいんです」
スカウトマン「まぁ、その分はギャラ出すんで」
キャップ「いや、報酬は必要ない。そこに困った人々がいるのなら、僕はいつだって力になるよ」
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キャプテン・アメリカちゃん
身長:188㎝ 体重:104㎏ 年齢:ヒ・ミ・ツ♡
街行くメンズの中でもひときわ目を引く、爽やかな金髪にスラリと伸びた長身
そして、たわわに膨らんだおっぱいが魅力のナイスガイ
「僕なんかでお役に立てるのかな?」
なんて謙遜してるけど、ひと声かけただけでホイホイ付いてきちゃうあたり、けっこうスキモノのご様子
でも実は、困った人を見ると放っておけない優しいハートの持ち主
そんな正義感溢れるカレは、いったいどんな性技(正義?)を見せてくれるのか……?
キャップ「へぇ。ここが撮影場所かい」キョロキョロ
キャップ「外からは普通のトレーラーに見えたが、中からはマジックミラーで表が見えるようになっているんだな」
キャップ「なるほど。この解放感は確かにカウンセリングに適している」
キャップ「相談者達も自ずと心を開いてくれるというわけだね」
スカウトマン「あー、まぁそんな感じっす」
カメラマン「そんじゃ、カメラ回すんで早速一人目の方お願いしまーす」
first chapter 相談者:ハルくん(仮名)
ハルくん「よ、よろしく……おねがい……します……」ペコ
キャップ「やぁ! そう畏まらなくていい。こっちに来て一緒に座らないか?」
ハルくん「う、うぅ……失礼、する……」
キャップ「それにしても、素晴らしい肉体だね。是非仲間として共に戦って欲しいくらいだよ」
ハルくん「で、でも……女どもは、おでのこの見た目、怖いと言う……醜いと言う……」
キャップ「そんな事はない! 君はその巨体を誇りに、胸を張って生きればいいんだ!」
ハルくん「自信なんて持てない……おで、こんなだからきっと一生ひとりぼっちのままだ……!」
キャップ「いいや。君の良さを理解してくれる女性だって、いつかきっと現れるさ」
ハルくん「安っぽい気休めはやめろぉ!!」ガオーッ
キャップ「ハルくん、落ち着け。感情をコントロールするんだ!」
ハルくん「うるさい!! お前におでの何が分かる!? もう怒ったぞ!! 叩き潰してやるっ!!」
熱り立ったハルくんの突進を迎え撃つべく、キャップは下半身を深く落とし、受け入れの体制を取る。
しかし、二回りは差がある彼の巨体は流石に支えきれず、荒々しく床に組み伏せられてしまった。
とっさに上体を起こそうとするキャップだが、それより早く伸びたハルくんの逞しい腕がそれを許さない。
我が身にのしかかる巨体。見上げれば、今にも振り下ろされんとする特大の拳がキャップの目に留まる。
肩。上腕。大胸筋。そして外腹斜筋──
逞しく盛り上がったハルくんの筋肉の連動が、まるで独立した生き物のように、美しく艶めかしく収縮する。
思わず防御の姿勢を取るのも忘れ、その動きに魅了されてしまうキャップ。
刹那、激しい衝撃が彼の脳を揺らした。
しまった! そう考えた時には、すでに二撃目、三撃目の拳を見舞われていた。
激しく、荒々しく。何度も、何度も。
執拗に繰り返されるハルくんの突き上げに、キャップは気をやられそうになる。
反撃のチャンスは、あった。
力任せで大振りなハルくんの拳は、キャップにとってすれば封じるになんら問題のないものではあった。
それでもキャップは、されるがまま、ハルくんの攻めを受け入れていた。
ハルくんの拳で打ち付けられるたび、彼の内に巣くう滾りがキャップの中へひしひしと流れ込んできたからだ。
虚しさ。惨めさ。恐れ。行き場のない怒り。そして悲しみ……
確かに気休めに過ぎないかもしれない。
それでも、せめてこの瞬間だけは、彼の溜まりに溜まったリビドーをこの身体で吐き出させてやらねばとキャップは思う。
それは使命感などでなく、純粋に男同士としての、人生の先輩としての優しさであった。
ハルくんの熱い吐息が顔にかかる。振り乱した彼の髪からは沸騰した汗の玉が飛び、口にも入る。
やがてその中にポタポタと、冷たいものが混じり始めた。
いつしか泣いていたハルくんは、その涙に自分自信でも戸惑っていた。
温かくどろりとした血液がキャップの鼻から一筋流れ、白い床に赤い点を落とし、ハルくんの目に留まる。
拳を握る彼の手から、力が抜けていった。
「どうした? もう打って来ないのか?」
キャップの言葉は強がりでも挑発でもなかった。それはハルくんにも分かっていた。
しかし、その優しさは、ハルくんを何とも言えずやるせない気分にさせたのも、また事実だった。
「こんな程度で超人兵士は壊れたりしない。もっともっと、君の想いをぶつけて来い!」
再び、拳に力を込める。
だが、今度は憎しみでも怒りでもない、敬意と感謝の拳。
猛々しい咆哮をあげ、ハルくんはキャップの顔めがけて最後の一撃を放った。
自らの内にマグマのように滾っていた様々なわだかまりが霧消していく感覚が、ハルくんの背筋を伝う。
フッと脱力したハルくんは、にわかに眠気に襲われ、そのままキャップの厚い胸板に倒れ込む。
己の胸の上で赤ん坊のように安らかな寝息を立て始めたハルくん。
その額に汗で貼り付いた前髪を、キャップは愛おしそうに払うのだった──
ハルくん「ご、ごめんキャップ……おで、あんたにヒドいことを……」
キャップ「言っただろう? 超人兵士はあんな程度でへこたれやしないよ」
ハルくん「で、でも……」
キャップ「それに、もう一度言っておきたい事は他にもあるんだ」
ハルくん「なんだ?」
キャップ「君の良さを理解してくれる女性は必ずいる」
キャップ「決して気休めなんかで言ってるんじゃない。君はいい男だ。僕が保証するよ」
ハルくん「キャップ……! ありがとう……」
ハルくん「でも、ダメなんだ……あんたも見ただろう? おで、頭に血が昇ると我を忘れちゃって……」
キャップ「ふむ。確かに感情のコントロールは君の今後の課題になるだろうね」
ハルくん「コントロールか……おで、自信ない……いったいどうすれば……」
キャップ「そうだね。森林浴はどうかな?」
ハルくん「森林浴……?」
キャップ「僕も永い眠りから目覚めてすぐの頃は、現代の暮らしになかなか馴染めなくてね」
キャップ「そんな時、セントラルパークで眺める豊かな緑は心の癒しになってくれた。自然の風景だけは昔も今も変わらないからね」
ハルくん「緑か……いいな。やってみるよ」
キャップ「ああ。これからは、感情が昂ったら緑の出番だ」
second chapter 相談者:鉄男くん(仮名)
キャップ「お待たせしたね。君が次の相談者かな?」
鉄男「んあー。どうもどうも、お会いできて光栄だよ」
キャップ「こちらこそ。それで、君はどんな事で悩んでいるんだい?」
鉄男「いやいや、別に悩みなんて大袈裟なもんじゃないんだ」
鉄男「だってそうだろう? 見ての通り、僕はとある大企業の社長でね。悩みなんて、指を鳴らすだけで全部解決ってわけさ」
キャップ「そうなのかい? 僕はてっきり……ここにはその、女性関係の悩みを抱えた男子が集まっていると聞いたものだから……」
鉄男「いいだろうキャプテン。君の疑問にお答えしよう」
鉄男「確かに、僕は今まで女性との交際経験はない。でも勘違いしないでくれよ? それは彼女が出来ないんじゃない。作らないだけだ」
鉄男「僕ほどの勝ち組になると、そこいらの凡人みたく焦って経験を積むような見苦しいマネは必要ないってわけ」
鉄男「僕がその気になれば、女なんていつでも吐いて捨てるほど寄ってくるんだからね」
キャップ「ほぅ。まぁいいだろう。そういう事にしておくよ」イラッ
キャップ「それで? まだ僕の疑問は解消されていないんだが」
キャップ「女性に不自由していないはずの君が、いったいなぜこの場にいるんだい?」
鉄男「ほらな? 凡人はそうやって結論を急ぐんだ。まったく嫌気が差すね。もう少し会話を楽しもうじゃないか」
キャップ「生憎だが、この後にも相談者が控えている。用がないなら次に譲って貰えないか」
鉄男「やれやれ、いいだろう。白状するよ」
鉄男「用が無いのが用……と言えばいいのかな。僕の目的は冷やかしだからね」
キャップ「冷やかしだって!?」
鉄男「ああ。ここに集まってる負け組どものショボくれた顔を拝んで優越感に浸りに来たのさ。それこそ上流階級の特権ってもんだろう?」
鉄男「女に見向きもされないダサ童貞に、底辺ブラックアダルトビデオ制作者……」
鉄男「そして、善人面して他人の悩みに首を突っ込むお節介ピチピチタイツもな」
キャップ「……僕のことは何と言ってもいい。相談者やスタッフの事を悪く言うな」
鉄男「おいおい、マジになるなって。普段からそんな風に肩ひじ張って生きてるのか?」
キャップ「生憎君のようにおちゃらけて生きることが出来ないものでね」
鉄男「それはいけない。よし、レクチャーしよう。僕の人生哲学は《いつでも20%の能力でスマートに》だ」
キャップ「言っておくが、相談を受けるのは僕の役目だ」
鉄男「なんだ、役目を奪われて怒ったのか? 意外とケツの穴の小さい男だねぇ」
鉄男「いいぜ。相手になってやる。どこからでもかかって来るといい」
キャップ「……君みたいな若僧の挑発に乗るほど未熟じゃない」
鉄男「だろうな。そのカビの生えた価値観からして、実はけっこう歳いってたりして」
キャップ「まぁね。色んな意味で大人になれていないボウヤよりはマシってとこさ」
鉄男「このっ……! 今の台詞は高くつくぞ!」
この男の軽薄な態度はどうにも受け付けない。キャップはマスクの下で柄にもなく顔をしかめた。
眼前の鉄男は懲りずに薄笑いを浮かべ、その性格にふさわしい軽快なフットワークを刻んでいる。
やれやれ。あれじゃ格闘技というよりダンスだな。
こんな男を本気で相手にするのも馬鹿馬鹿しい。悪いが適当にあしらわせて貰おう。
溜息をつき、時間でも確認しようと鉄男から視線を外すキャップ。
「おやおや、敵に背を向けるのか? これはどうやら、僕の実力に恐れをなしたと見える」
なおも向けられる鉄男の軽口に、キャップはもはや返事をするのさえ億劫になっていた。
「なっ……!?」
しかし、次の瞬間鉄男が背後から打ち込んできたパンチにキャップは驚きを隠せなかった。
鉄男の拳が特別鋭かったわけではない。生憎だが、彼のパンチは常人の枠を大きく超える程には至っていない。
超人の反応速度を持ってすれば躱す事は容易だったし、仮に当たったところでキャップの強靭な肉体はビクともしなかった事だろう。
彼が驚いたのは、その拳の重さが、この軽薄な男から放たれたものにしては想像を遥かに上回っていたからだ。
少なくとも、ナイフとフォークより重い物を持つ事のないお坊ちゃまに出せる威力でない事は確かだった。
ほんの少し、鉄男の事を見直した。それとも、彼をいささか見くびり過ぎていたのか。
飄々として、時に不真面目とも取れる鉄男の態度だが、それは彼が誰かの前で熱くなるのをナンセンスと捉えているだけで
実のところ、その陰ではひたむきな努力が行われているのではないか。一転して、鉄男に対する好感が芽吹く。
これは、反省が必要なのは僕の方かもな。
つい先ほど鉄男の不誠実な態度を叱責していながら、自分も彼に対して手を抜こうとするなんて。
マスクの下、キャップの顔が再び引き締まった。
「素晴らしいパンチだったよ。思ったよりやるじゃないか」
素直な賛辞を送ったつもりだったが、鉄男には嫌味にとられてしまったかもしれない。
「まぁね。これでも週三日のトレーニングは欠かさないんだ」
すかさず返ってくる得意げな口調ですら、どこか可愛らしく聞こえてくるのだから不思議なものだ。
「いいね。僕は週七でやってるよ」
今度はこちらから。とはいえ、もちろん超人の全力では挑まない。
キャップは鉄男の身体レベル、そのやや上あたりに自分の運動能力を調整していった。
しかし、今度のそれは手抜きなどではなく、彼に払う敬意からそうするのであった。
徐々に自分の動きに追いつかせ、追い超させてやる。そうやって鉄男の成長を少しづつ促していくのだ。
「oops!?」
自分を捕らえようと素早く伸びたキャップの腕を、鉄男は辛うじて躱した。
「いいぞ! よく見切ったな!」
鉄男の表情からは、先ほどまでの余裕など完全に失われていた。
唇はキュッと引き結ばれ、呼吸は荒く、眼光は熱く……真っ直ぐにキャップを見据えている。
いつしか鉄男は、一人前の男の顔になっていた。
そんな鉄男を、キャップはたまらなく愛おしく思い、続くべき攻撃の手がつい緩んでしまう。
相手に失礼な戦いをしてはならぬと思う反面、彼を慈しみ、その成長を見守りたい思いにも駆られてしまう──
「なにをヘラヘラ笑っているんだ! この僕を侮辱するのかっ!」
激昂の叫びと共に繰り出される鉄男のタックルに、キャップはふと我に返る。
どうやら知らぬ間に微笑んでいたらしい。
眼下の鉄男は、キャップの逞しい腰に両腕で必死にしがみつき、そのまま引き倒そうと自らも懸命に腰を使っている。
「ほら頑張れ。どうした、そんなへっぴり腰じゃいつまで経っても僕は降参しないぞ?」
「このぉ……!」
鉄男の、決して太くはないがよく引き締まった腕の三角筋が、猫科肉食獣のそれの様に美しくしなやかな盛り上がりを見せる。
100㎏を超えるキャップの身体が徐々に浮き始め、ついに鉄男は彼を床に押し倒す事に成功した。
「み、見たか! これで君は僕の思うがままだ!」
キャップの腹部あたりに馬乗りになり、息を切らしながらも勝ち誇った笑みを浮かべる鉄男。
その達成感溢れる笑顔を眺めていると、キャップは思わずよくやったと頭を撫でてやりたくなる。
だが同時に、彼の更なる成長に期待し、世界の広さを教えてやらねばという親心も芽生えてしまう。
「左から失礼」
おもむろに、キャップが鉄男の上体に手をかける。利き腕と逆の死角を突く、一瞬の動作。
そのまま身を捩り、するりと拘束を抜け出したキャップに鉄男は目を見張るが
次の瞬間には何が起きたかも理解できぬまま、今度は自分が下に組み伏されていた。
「このっ……!」
あっさり上下を逆転され、鉄男の瞳に脅えの色がにじむ。
そんな彼の表情は、キャップの内に宿るほんの僅かな嗜虐心をどうしようもなく掻き立てるのだった。
「なかなか良い線いってたが、やはりトレーニング不足だな」
キャップの指が、くいと鉄男の顎にかかる。
プレイボーイ風に生やした顎髭が、チクチクと痛痒く、指先に心地よい。
いけない。どうしてこの男を前にすると、僕はこんなにもイジワルになってしまうのだろう……
「よ、よせっ!」
耳まで赤くなった鉄男が、顎にかけられたキャップの手を乱暴に払う。
「うわあああああああああっ!!」
恐怖をかき消す為の叫び。
己自身を奮い立たせた鉄男は、もうなりふり構わなくなり、キャップに向かってがむしゃらに打ち付け始めた。
《いつでも20%の能力でスマートに》それが人生哲学とうそぶいていた男はどこへやら。
今の鉄男はただひたすらに必死で。懸命で。真っすぐで。全身全霊を持って激しくキャップを攻め立てている。
鉄男の瞳には、世界には、もはやキャップしか存在していない。
己の腕の中で精一杯の抗いを見せる鉄男を、いつしかキャップは兄のような、父のような慈愛の瞳で見つめていた──
キャップ「どうだい? 何かに全力で挑むのは気分がいいものだったろう?」
鉄男「まぁね。四年に一度くらいなら悪くないかもな」
キャップ「まったく。少しは素直になったと思ったらこれだものな」
鉄男「その、キャプテン……やっぱり僕の人生相談、聞いて貰ってもいいかな?」
キャップ「ああ。もちろんいいとも」
鉄男「実はな……僕は、社長なんかじゃない。それどころか、一度も社会に出た事もない筋金入りのニートなんだ」
キャップ「そうか」
鉄男「驚かないのか?」
キャップ「僕は肩書きなんかで人を判断したりしないからね」
鉄男「ふっ。みんなが君のような人ばかりならいいんだけどな……」
鉄男「ダメなんだ僕は。メンタルが弱くて、本気になるのが怖くて。適当に生きて、自分に言い訳していないと耐えられなくて……」
キャップ「だが君は今日、その考えを改めた。天は自ら助くる者を助くという。ならば、僕もそういう人々の助けになりたいと思う」
鉄男「それがニートでもか?」
キャップ「ああ。例えニートでも、助く」
鉄男「ニート……助く……」
キャップ「だけど、最初の一歩は君自身の足で踏み出さねばいけないよ」
鉄男「ならばせめて教えてくれ! 僕はこれからどうすればいいだろうか!?」
キャップ「そうだな──」
キャップ「まずは、スーツを着ろ」
final chapter 相談者:???
キャップ「次で相談は最後かい?」
カメラマン「はい。そこで、ラストに相応しく少し趣向を凝らそうと思いまして」
キャップ「趣向?」
スカウトマン「今控えてるのが、皮被りでお悩みのホーケイくん(仮名)と、長持ちしないのがお悩みのソーローくん(仮名)なんすけど」
カメラマン「彼ら二人をまとめて相手して貰えないかなって」
キャップ「二人を同時にかい? 参ったね。僕のタフネスにも限度があるんだけどな」
スカウトマン「その分ギャラも少し上げるからさ」
キャップ「いや、初めにも言ったけど報酬は必要ない。いいだろう。それで君達の作品がより素晴らしい物になるのなら喜んで協力しようじゃないか」
カメラマン「あざっす」
スカウトマン「そんじゃ、二人とも入ってきて~」
シーン…
スカウトマン「あれ? おかしいな」
カメラマン「聞こえてないんじゃね? お前ちょっと見て来いよ」
スカウトマン「へーい」
ホーケイ「う、うぅぅ……」
ソーロー「ぐ、ぐはっ……」
スカウトマン「お、お前ら! いったい何があったんだ!? 誰にやられたんだよ!?」
カメラマン「騒がしいけどいったい何が── こ、これは!?」
キャップ「気をつけろ! 奥に誰かいるぞ!」
???「こんなビデオでは……手ぬるい……」
キャップ「何者だ!? お前が二人をこんな目に……!?」
???「軽はずみに契約書にサインするようなバカどもに、ビデオ出演の恐ろしさを教えてやったまでだ」
キャップ「なんだと……!」
カメラマン「あ、あいつは!?」
キャップ「奴を知っているのか?」
カメラマン「はい……奴の名は、バッキー!」
キャップ「バッキーだって!?」
スカウトマン「俺も聞いた事がある。まさか実在していたとは……」
キャップ「その、バッキーとはいったい……?」
カメラマン「俺らの業界じゃ有名な話ですよ」
スカウトマン「その昔、バッキーというアダルトビデオメーカーがあったんすけど」
カメラマン「ただ、そのビデオというのが出演女優に凄惨な行為を強いるという、目を覆いたくなる内容で──」
スカウトマン「ついには女優達により被害届が提出され、代表のクリヤマが逮捕される事件になったんす」
デッドプール「詳しくはWikipediaでも見てちょんまげ」
キャップ「彼がそのクリヤマなのか?」
カメラマン「いえ。クリヤマは目の前の彼みたく、長髪に無精ひげがセクシーな、ノンケでも見とれてしまうワイルド系イケメンじゃありません」
スカウトマン「そもそも、クリヤマの奴はまだ塀の中だしな」
カメラマン「恐らく、世間の《バッキー》という名に対するバイオレンスなイメージが具現化し、彼のようなヴィランを生んでしまったのです!」
キャップ「そうだったのか……」
キャップ「おい君! いったい何が目的なんだ!?」
バッキー「……頭の中で声がするんだ。『もう一度作り直せ』と。俺のこの手で、以前のバッキーすら凌ぐ、最強最悪のAVメーカーを!」
キャップ「そんな事のために……!」
バッキー「『すっかりぬるくなった業界に思い知らせてやれ』と! アダルトとは、本来バイオレンスと同義である事をな!」
キャップ「僕の親友と同じ名を名乗る者に、そんな真似はさせないぞ!」
盾を構えたキャップの体当たりに、バッキーの身体は宙を舞い、叩きつけられたマジックミラーが粉々に砕け散る。
表に放り出されながらも、バッキーは空中で体制を立て直し、軽やかに地面に着地する。
顔をあげるや否や、追撃せんと飛びかかってくるキャップの姿が目に留まった。
激しくぶつかり合う、バッキーの拳とキャップの盾。
幾度も衝突を繰り返す二つの硬質な塊は、不謹慎ながら周囲に小気味よい物音を響かせ始めた。
道行く人々が足を止め、何事だろうと怪訝な視線を向けても気にはならなかった。
彼らが戦いを通し二人の世界に浸り込むまで、さほどの時間を要さなかったからだ。
キャップが攻め立てればバッキーが受入れの体制を取り、バッキーの猛攻が始まれば、キャップは肢体をくねらせ、それらをいなす。
たった今対峙したばかりだというのに、彼らの戦いからは型の決まった演武のような調和が垣間見えた。
バッキーが拳を振り上げるたび、彼の豊かな長髪が揺れ、そこから漂うほのかな香りがキャップの鼻腔を切なくくすぐる。
それは、失われた遠い昔。少年の頃遊び場にしていた広大な農園で嗅いだ、夕焼けに照らされる麦の香り。
もちろん、その隣には彼の親友が居て──
バッキーの重い一撃が頬にヒットし、キャップの意識は即座にして70年後の現代に引き戻された。
違う。この男は僕の知るバッキーとは別人だ。
頭ではそう理解していても、魂の部分で二人を切り離せずにいるキャップ。
ここで彼を止めなければ。キャップは決意を改たにした。
そうでなければ、こちらのバッキーにも間違った道を歩ませてしまう。
バッキー、君は町一番の色男だった。そんな君が、女性に酷い真似をするのを黙って見過ごすわけにはいかない。
そうさ。バッキーが、女とだなんて。絶対に許さない。
波長の合っていた二人の攻防のバランスは、キャップの猛攻により次第に傾き始めた。
沸き上がった正義感と使命感。そしてほんのちょっぴりの嫉妬心が、凄まじい闘士となってキャップを突き動かしたのだ。
防戦一方になるバッキー。キャップはパンチの嵐に織り交ぜたタックルで、彼を優しく地面へ転がした。
「どうだいバッキー、久々の取っ組み合いは。少年時代を思い出すだろう?」
「何を言っている……離せ!」
キャップの馴れ馴れしい態度に、能面のようだったバッキーの瞳に困惑の色が宿る。
そんな表情をされてしまったらますます親友のバッキーと錯覚してしまうと、キャップは微笑ましくなる。
「離せ! 離せ! 離せっ!」
バッキーも攻撃の手を休めないが、覆いかぶさるキャップの上体が邪魔をして、存分な威力を発揮できない。
ならばといくつか攻めの手法を変え逆転を試みるが、付け焼刃の技などキャップに通じる筈もなく、ことごとく封殺されてしまう。
バッキーの瞳には、明らかに焦りの色が滲み始めていた。相手に少しでも主導権を握られると、途端に弱くなってしまう性質のようだ。
それに、冷静に観察すれば、技の所作ひとつ取ってもいまいち洗練されていない事が見受けられた。
言うなれば、本の中の知識だけで実戦を知らぬ者のような。いや待て、それではまるで……
しかし、その考えが当たっているのなら、こんなに嬉しい事はない。
我が腕の中で必死に乱れるバッキーが、キャップはたまらなく愛おしくなった。
もう二度と手にする事はないと思われた幸せが、今まさにこの腕の中にある。
彼を離したくない。このまま永遠に戦いを続けていたいとすら思ってしまう。だが──
「そんな目で……この俺を見るなあああぁぁぁ!!」
突如咆哮をあげるバッキー。彼は渾身の力を込めた右腕でキャップの喉笛を掴み、引きはがして力任せに地面に叩きつけた。
したたかに背中を打ち付け、一瞬の呼吸困難に陥るキャップ。
なんとか焦点を定めた視線の数ミリ先。
ほんの少し唇を尖らせれば接吻してしまいそうな距離の先で、怒りと屈辱と戸惑いで爛々と輝くバッキーの瞳が睨み付けていた。
それは鬼の形相と呼ぶに相応しいものだったが、キャップは一切怯まず、また恐れもしなかった。
彼が親友と瓜二つであるからという理由だけではない。
戦いを通し、キャップはバッキーに対してある確信を抱いていたのだ。
「童貞!」
喉を締めあげながら、バッキーがそう吠える。
その言葉の意味が、そしてそれが間違いでない事実が、今にも握り潰されそうな喉笛よりも深くキャップのハートを抉った。
途絶えそうになる意識。しかし、気力を振り絞ってバッキーを見据え、塞がれた喉から精一杯の掠れ声で、キャップは言い放った。
「……お前が童貞!」
バッキー「ば、馬鹿を言え……/// この俺が童貞であるわけが……///」アタフタ
キャップ「もう下らない見栄を張るのは止せ。僕には分かってしまったんだ」
バッキー「な、何を根拠に……!」
キャップ「今の一戦で僕をスマートにエスコート出来なかったからかな」
バッキー「ぐっ……///」
通行人A「ぷっww アイツ童貞なんだってww」
通行人B「ヤリ〇ンのふりしてたのが尚更ダセーよなww」
バッキー「ぐううっ……///」
キャップ「よせっ! バッキーを侮辱する事は、この僕が許さない!」
通行人A「お、おぅ……」
通行人B「サーセンでした……」
バッキー「お前……!」
キャップ「バッキー、君はあんな事を言っていたが、女性達に乱暴を働いた事なんて一度もないんだろう?」
バッキー「だ、黙れ……!」
キャップ「気を悪くしないでくれ。馬鹿にするつもりなんてないんだ。むしろ、君の事を誇らしく思うよ」
バッキー「誇らしい、だと……? またわけの分からない事を……!」
キャップ「きっと君の内に秘めた優しさが、本能の声を思い止まらせているんだ。だから、君は決してバイオレンスの権化なんかじゃない」
バッキー「黙れ! 黙れ黙れっ! 俺に近付くなっ!」
キャップ「バッキー、今ならまだやり直せる。さぁ、僕と一緒に来るんだ」
バッキー「気安く俺の名を呼ぶなああああああああああっ!!」スタコラサッサ
キャップ「バッキー!」
キャップ「……行ってしまったか。だが、彼とはきっとまた会える事だろう」
カメラマン「キャップさん! ご無事でしたか!?」
スカウトマン「奴を追っ払ってくれたんすね! その分はギャラ出すんで!」
キャップ「ああ。行ってしまったよ……」
カメラマン「今日は本当にありがとうございました。キャップさんの尽力のおかげで、最高の一本になりそうですよ!」
キャップ「それはよかった」
キャップ「……ところで、君達にひとつ質問があるんだけどいいかな?」
カメラマン「何でしょう?」
スカウトマン「何でも答えちゃいますよ!」
キャップ「その、これは例え話として聞いて貰いたいんだが……」
キャップ「100歳の童貞がいたとして、そろそろ焦った方がいいのかな?」
Secret chapter
カメラマン「あ、よかった。まだ居らしてたんですね」ガチャ
キャップ「oops!?」
カメラマン「す、すみません。お着替え中でしたか」
キャップ「いや、構わないよ。ちょうどシャワーを浴び終わったところさ」
スカウトマン「いい身体してんね」
キャップ「それで、何か用かな?」
カメラマン「その、撮影終わってからで恐縮なんですが、うちのスタッフでまだ童貞の奴がいて……」
スカウトマン「自分も是非キャップさんに相談に乗って貰いたいって聞かないんすよ」
キャップ「なんだそんな事か。僕は構わないよ。そこに悩んだ人がいるのなら、いつだって力になる」
カメラマン「無理言ってすいませんね。でも、さすがキャップさんだ」
スカウトマン「おーい! 入ってこいよー!」
???「……どうも」ノッシノッシ
キャップ「彼が?」
カメラマン「ね、おかしいでしょ? コイツ、こんなイカツイ見た目してる癖にけっこう奥手な奴で」
スカウトマン「せっかく玉袋みたいな顎してるのにな」
キャップ「君、只者じゃないな」
???「いいや。ただの童貞さ」ニヤリ
キャップ「……いいだろう。名前を聞いておこうか」
???「──佐野っす」
終わりでいいんじゃない?
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