――レッスンルーム――
高森藍子「~~~♪」フキフキ
北条加蓮「いたいた。藍子、やっぱりまだここにいたんだね」
藍子「あっ、加蓮ちゃん。探させてしまいましたか?」
加蓮「ちょっとだけ探したよ。やっほー、藍子」
藍子「こんにちは、加蓮ちゃん♪」
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レンアイカフェテラスシリーズ第131話です。
<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
~中略~
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「2人でお祝いするカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「癒やされるカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「目先と足元を確かめ直すカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「日常的なカフェで」
今回はレッスンルームよりお送りします。
藍子「って言っても、さっき事務所でお話したじゃないですか」
加蓮「そうだけど、そういえばあの時挨拶してなかったなって」
藍子「そうでしたか?」
加蓮「たぶん」
藍子「ふふっ。加蓮ちゃん、今日も真面目さん」
加蓮「なんとなくやってるってだけなんだけど……。そっか。そう見られるかもね」
藍子「……どうしてそこで、嫌そうな顔をするんですか」
加蓮「私、そーいうキャラじゃないじゃん?」
藍子「そういうイメージでもいいと思いますし、そういう……キャラ? だと思いますよ。加蓮ちゃんって」
加蓮「そうかなぁ」
藍子「はい。きっとそうです♪」
加蓮「じゃあどこかでバッドイメージでも塗りたくらなきゃ。藍子ー。何かいいアイディアってない?」
藍子「…………」ジトー
加蓮「で、何してんの? 雑巾に水入りバケツに……掃除?」
藍子「はい。あんまりレッスンルームの掃除やお手入れって、やったことないなぁって思って……。いつもお世話になっている場所ですから。たまには、私の手で綺麗にしてあげなきゃっ」ゴシゴシ
加蓮「真面目ー」
藍子「加蓮ちゃんと、おそろいですねっ」
加蓮「じゃあなおさら先に不真面目にならきゃ」
藍子「……おそろいは、嫌ですか?」
加蓮「真面目に聞き返さない」
藍子「くすっ♪」
藍子「~~♪ ~~~♪」フキフキ
加蓮「雑巾で床を拭く姿が妙に似合うねー……」
藍子「掃除って、けっこう好きなんです。いつも使わせてもらっている部屋や場所が綺麗になっていくのって、私からのお礼が伝わったって感じがして♪」
加蓮「そういうものなんだ」
藍子「そういうものですっ」
加蓮「てっきり居残りレッスンでもしてると思ってた。ほら、最近の藍子ってそんな感じだし」
藍子「ご期待にそえなくて、ごめんなさいっ」
加蓮「今の藍子も藍子っぽいから許す」
藍子「許してもらえましたっ」
加蓮「……」
藍子「~~~♪」ギュ
加蓮「…………」
藍子「~~♪ ~~~♪」ゴシゴシ
加蓮「…………手伝おっか?」
藍子「加蓮ちゃん。はい♪ ミニ箒と、ミニちりとりです。はしっこに、ほこりやごみが溜まっているみたいなので、ばっちり綺麗にしてくださいね」
加蓮「……」
藍子「はい、どうぞ」
加蓮「……テキトーに掃いていけばいいんだね?」
藍子「適当じゃなくて、ばっちり綺麗にしてくださいっ」
加蓮「面倒くさいヤツだこれ」
藍子「~~~♪」フキフキ
加蓮「…………」サッサッ
藍子「~~♪ そういえば、加蓮ちゃん、私に何か用でしたか?」
加蓮「んー? んー……」
藍子「探させてしまったみたいだから。何かあるのかな、って」
加蓮「別にー……。レッスン終わったら、いつものカフェにでも行こうよー、って誘おうと思ったんだけど」
藍子「思ったんだけれど」
加蓮「事務所から廊下に出た瞬間、あまりにも暑くて誘う気がなくなった」
藍子「あ~……」
加蓮「でも藍子を探すために廊下に出た訳だし、暑いってくらいで事務所に戻ったら、モバP(以下「P」)さんに笑われちゃいそうだし?」
藍子「それくらいのことで、Pさんは笑わないと思いますけれど……」
加蓮「いーや、絶対笑う」
藍子「笑っちゃうんですか」
加蓮「笑いを堪らえようとするんだけど我慢しきれなくて、ククッ……みたいな感じで。Pさんが悪役の顔になるんだよ」
藍子「ふんふん」
加蓮「咄嗟に隠すんだけど、私は気付くの……ううん。気付いてしまった、って言うべきかな」
藍子「確かに、加蓮ちゃんなら目ざとく気付けそうですね」
加蓮「Pさん、何今の顔。まさか――」
加蓮「ゴホン。……そうだ。加蓮、今まで黙っていたが、実は俺は――」
藍子「…………!」
加蓮「ポテトを食べれないと、生きていけない人生になってしまったんだ……」
藍子「…………」フキフキ
加蓮「こら。まだ話は途中なんだけど! むしろここからっ」
藍子「……加蓮ちゃん」ジトー
加蓮「何」
藍子「ポテトが食べたいなら、誘えばいいじゃないですか」
加蓮「分かってないなー。Pさんが実は悪役だったってところがポイントなの。ポテトなら、放っといても藍子が買って来てくれるでしょ?」
藍子「熱中症と体力にくれぐれも気をつけながら、自分で買いに行ってください」
加蓮「わー冷たい」
藍子「直射日光には、日傘をさすのがオススメですよ。確か事務所にあったと思うので、Pざんに言えば貸してもらえると思います」
加蓮「藍子は何かいるー?」
藍子「う~ん……。今は、特には思いつきません」
加蓮「そっかー」
藍子「……えっ、本当に買いに行くつもりですか?」
加蓮「いや行かないけど」
藍子「そうでしたか。ほっ」
加蓮「……寂しいんだー?」
藍子「えへへ……。加蓮ちゃんっ。きちんと掃除するまでは、ここから外には出してあげませんからね!」
加蓮「ちぇ。真面目に掃除しよ」
藍子「~~~♪」フキフキ
加蓮「……」サッサッ
藍子「あっ、そうだ。加蓮ちゃん、いつものカフェなんですけれど……」
加蓮「うん?」
藍子「お盆なので、開いていませんよ」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……あ、そっか。そういえばお盆だ」
藍子「お休みにもレッスンや、アイドルとしてお仕事をやっていると、つい忘れがちになっちゃいますよね……。ふふっ」
加蓮「うっさいなー。人の心を読むなー」
藍子「ごめんなさいっ」
加蓮「藍子だってレッスンしてた癖にー」
藍子「私は、ちゃんと覚えてましたよ」
加蓮「お母さんからもさ、今日事務所に行く時に呆れられてさ。お父さんより働いてるんじゃない? とか言われちゃった」
藍子「ふんふん」
加蓮「さすがにそんなことないんだどね」
藍子「加蓮ちゃんがいっぱい活躍しているから、加蓮ちゃんのお母さんも、そう思ったのかもしれません」
加蓮「そうかなー……。でさ、別にレッスンとかじゃなくて遊びに行くだけだよって答えても何か言いたそうにしてたから、魔法の言葉で黙らせちゃった」
藍子「魔法の言葉?」
加蓮「事務所には藍子もいるから大丈夫、って」
藍子「わ、私の名前が魔法の言葉なんですか?」
加蓮「藍子ちゃんがいるなら安心ねー、だってさ」
藍子「あははは……」
加蓮「私よりも藍子の方が安心できるんだってさ。ホント、ムカつくよねー」
藍子「まあまあ。それだけ加蓮ちゃんのことを、心配してくれているってことですから」
加蓮「どーせどっちを心配するかって聞いたら藍子って答えやがるんだっ」
藍子「まあまあ」
加蓮「……」サッサッ
藍子「~~♪」ギュ
加蓮「お盆かぁ……」
藍子「お休みですね」
加蓮「そんな日までレッスンするなんて、藍子はすごいなぁ」
藍子「ありがとうございます。でも……ふふ。それ、加蓮ちゃんが言うんですか?」
加蓮「私は遊びに来ただけだよ?」
藍子「今日だけのことではなくて、今までのことですよ。加蓮ちゃんの方が、私なんかより、一生懸命で、努力してるじゃないですか」
加蓮「……藍子ー」
藍子「はい」
加蓮「自分なんかより、って次に言ったら箒を投げるから」
藍子「あっ……。ごめんなさい」
加蓮「よろしい」
藍子「でも、本当に加蓮ちゃんはすごいなって思っているんです」
藍子「ううん。最近になって、もっと強く思うようになりました。加蓮ちゃんって、すごかったんだなぁ……って」
加蓮「……それ、この前も言ってなかった?」
藍子「この間とは、また別のお話ですから。私、加蓮ちゃんが頑張りやさんってことは知っています。誰にでも教えてあげられるくらいには、知っています」
藍子「でも、加蓮ちゃんの本当にすごいところって……。それが、一瞬の情熱ではなくて、いつも燃えているところですよね」
加蓮「……いやいやいや。そんなことないって。ほら、カフェにいる時はいつもゆるふわ~ってなっちゃってるし。今日だってなんにもしてないし?」
藍子「ふふ。カフェにいる時は、そうかもしれません。今日は……ほら、お盆ですから♪」
加蓮「物は言いようすぎる」
藍子「でも、事務所にいる時、レッスンルームで見かけた時、Pさんとミーティングしている時……」
藍子「もちろん、ふざけている時もありますけれど、私の見る加蓮ちゃんは、いつも頑張りやさんで、キラキラ輝いていました」
藍子「……追いつこう、って思って」
藍子「記憶の中にいる加蓮ちゃんを、少しだけ真似してみたら、それがどんなにすごいことか。改めて分かったんです」
藍子「なんでもない毎日でさえも、レッスンに打ち込めて、ずっと情熱の火をたぎらせ続けられるのって……本当に、すごいことなんだなって思っちゃいました」
加蓮「…………」
藍子「……」ギュ
藍子「想いは、負けるつもりはありません。だけど……私、あなたに近づけるのかな……」
藍子「なんて。ときどき不安に思っちゃうんです」
藍子「あっ、待って。ときどきです。ときどきだけですから! だから加蓮ちゃん、箒を振りかぶらないで~っ」
加蓮「……。やってみないと分かんないでしょ、そんなの」
藍子「そうですよね。そして、やっても駄目だったなら――」
加蓮「達成できるまでやり続ければいい」
藍子「はいっ♪」
加蓮「あとさー。私をそんないつでもカリカリに揚がったポテトみたいな扱いするのやめてよねー」
藍子「そんなこと言ってない……」
加蓮「確かに、しなしなのポテトを平気な顔して出してくる店なんて、太陽に焼かれて灰になればいいと思ってるけど」
藍子「なんのお話ですか」
加蓮「私だって、カフェでよくしなしなになってるじゃん。そうやって火を消してる時だってあるでしょ?」
藍子「……そうですけれど」
加蓮「藍子は目が良すぎるんだって。人のいいところばっかり見すぎ。しかも普段はマイペースな癖に、たまーに人と比較して無駄に落ち込むんだから。馬鹿なんじゃないの?」
藍子「そ、そこまで言わなくてもいいじゃないですか!」
加蓮「ばーかっ」
藍子「む~……。加蓮ちゃんだってっ。ときどき、自分の影響力が分かってないんですっ」
藍子「きっと、加蓮ちゃんのことを見た人はみんな、同じように思うハズ!」
加蓮「あのね。私は私なりに自分のことを把握してるわよ。でも、必要以上に受け取って自分で落ち込むアホのことまでは面倒見きれないわよっ」
藍子「今度はあほって言った……。で、でも、加蓮ちゃんは、私の面倒を見てくれますよね?」
加蓮「それ以上に私の方が面倒見られてるっていうか、助けてもらってる気がするけどさー……。クリスマスの時とか、桜の時とか」
藍子「……」
加蓮「……おあいこかぁ」
藍子「はいっ♪」
加蓮「……」サッサッ
藍子「~~~♪」フキフキ
加蓮「……私も雑巾がけしていい?」
藍子「いいですけれど、指が汚れちゃいますよ。今日も加蓮ちゃん、綺麗なネイルをしてるのに」
加蓮「じゃあ外そー」ポイー
藍子「え、そんな簡単に……」
加蓮「そういうタイプのだもん。今ここで見てるのは藍子だけだし、それなら1つでも着飾ってない私でいたいな……なんて。そんな大げさな話にするのは、ちょっと変?」
藍子「ううんっ。じゃあ、掃除が終わったら……今度は私が、ちょっとだけ背伸びをしてみたいです♪」
加蓮「しょうがないなー。突発! 加蓮ちゃんのネイル教室っ。このあと14時から始めるよー」
藍子「わ~っ」パチパチ
加蓮「……って、ネイル道具持ってきてたっけ。鞄の中に入れてたと思うけど……。なかったらごめんね?」
藍子「次の約束ってことにしてくれたら、許してあげます♪」
加蓮「許してくれない場合はどうなるの?」
藍子「……う~ん」
藍子「……う~~~ん」
藍子「…………森の妖精さん?」
加蓮「何が……? なんか嫌な予感がするし、今のうちにスケジュール確認しとこ……。スマフォスマフォ」ガサゴソ
藍子「加蓮ちゃんの次のオフの日は、きっと急なお仕事で埋まっちゃいますね」
加蓮「やだよ。ネイルデートさせてよ。藍子と」
藍子「じゃあ、許す条件を変えちゃいます。許してあげる条件は、加蓮ちゃんの森の妖精さんってことで!」
加蓮「絶対ヤダ!」
藍子「どうしてですか!」
加蓮「ヤダだからヤダ!」
藍子「む~……。加蓮ちゃんのファンのみなさんだって、加蓮ちゃんの森の妖精さん姿、ぜったい喜ぶと思うのに」
加蓮「そーやってファンのみんなを利用しようとしても無駄だよ。やらないからね」
藍子「む~」プクー
加蓮「どうしてもって言うなら? 藍子ちゃんには、加蓮ちゃんの衣装でも着てもらおうかなー? ステージに上がった時のじゃないよ。グラビアの時に使った、ちょっとキワドイやつ。ふふっ、無理でしょ?」
藍子「いいですよ?」
加蓮「……あれっ」
藍子「ちょっと恥ずかしいかもしれませんけれど、新しい挑戦、やってみたいです!」
加蓮「しまった……。今の藍子ならそうなるか……。とにかく、森の妖精はやらないからね!」
藍子「む~」
□ ■ □ ■ □
加蓮「よしっ。こんな感じかな? 掃き掃除もちゃんとやったよ」
藍子「こっちも、ひととおり拭き終わりました」
加蓮「お疲れ」
藍子「お疲れさま♪」
加蓮「ふふっ。レッスンルームの床、ピカピカだね」
藍子「今すぐにでも、ダンスレッスンをしたくなっちゃいます。……あっ、でも、そうしたらまた汚れちゃうかも?」
加蓮「その時はまた雑巾で拭く?」
藍子「拭いたら、またダンスしたくなっちゃって――」
加蓮「ねっ? 倒れるまでレッスンしたくなる気持ちが分かるでしょ」
藍子「それは分かりません」ジトー
加蓮「ちっ」
藍子「加蓮ちゃんっ」
加蓮「?」
藍子「♪」ポンポン
加蓮「……あははっ。隣じゃなくて、正面に座ればいいの?」
藍子「この方が、いつものって感じがして落ち着くから♪」
加蓮「はいはい。ここでいい?」スワル
藍子「うんっ。……お帰りなさい、加蓮ちゃんっ」
加蓮「ただいま。藍子」
藍子「♪」
加蓮「……はっ!」
藍子「ふふっ♪」
加蓮「乗せられた……! それに、お帰りって言うのは私のセリフなのにっ」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「待たせるより、待つ方が良くない?」
藍子「うんうんっ。待っている間、加蓮ちゃんのことを想像したり、違うことも思い浮かべたり……のんびりしている時間、私も大好きですっ」
加蓮「……たははっ。私は、相手に待たせたって思わせることで引け目を作らせる目的なんだけどね」
藍子「えぇ……」
加蓮「そうしたら1つくらいワガママも言えるじゃん?」
藍子「そんなことしなくても、言いたいことがあるなら、言えばいいのに」
加蓮「えー。奥ゆかしくて大人なオンナの加蓮ちゃんには、そんなワガママなんて言えないなー」
藍子「……………………」
加蓮「あはははっ」
加蓮「あ、忘れてた。はい、藍子。ドリンク」
藍子「ありがとうございます。いただきますね」ゴクゴク
加蓮「私も飲んじゃおっと」
藍子「……ふうっ」
加蓮「っと。……ん……」
藍子「……ちょっとだけ」
加蓮「物足りないね」
藍子「ものたりませんよね」
加蓮「いっつもこうやってる時って、メロンソーダとか、ココアとか……そうそう、コーヒー!」
藍子「レモンティーや、ハーブティーも。ときどき、期間限定のメニューにドリンクが登場したりして……」
加蓮「だけど今は、事務所の冷蔵庫から持ってきたスポドリしかないし」
藍子「カフェは、お盆休みですから。いつもの場所だけではなくて、たぶん、ほとんどのカフェが開いていませんよ」
加蓮「開いてる場所を探すには……」
藍子「外、すごく暑いです」
加蓮「ファミレスとかバイキングじゃないんだよねー」
藍子「今日は、スポーツドリンクで我慢しましょう」
加蓮「だね」ゴクゴク
藍子「んっ……」ゴクゴク
加蓮「……ぷはっ」
藍子「……ふうっ」
加蓮「案外いけるかも」
藍子「加蓮ちゃんも?」
加蓮「レッスンルームにスポドリって、なんかそれだけで、やりきったー! みたいな感じ」
藍子「うんうん」
加蓮「私はなんにもしてないけど、それでもそう思うくらいだもん」
藍子「そんなことありませんよ。加蓮ちゃん、一緒に掃除してくれたじゃないですか」
加蓮「えー。それは藍子に押し付けられただけだし」
藍子「加蓮ちゃんが、手伝うって先に言ったっ」
加蓮「そうだっけ?」
藍子「それに、掃除だってとっても大切な、レッスンの一部分みたいなものですから。次の人が、気持ちよく使うために必要なことです」
加蓮「だね。普段は面倒くさいとしか思ってないけど……。ピカピカの床を見るのは、結構好きかも」
藍子「ふふっ♪」
加蓮「だからってもうこんなことしないけど。掃除なんてトレーナーさんに任せちゃえばいいんだっ」
藍子「……加蓮ちゃんが掃除しているところを見たら、Pさんもほめてくれるかもしれませんよ?」
加蓮「そーやって釣ろうとしても無駄だよ」
藍子「残念っ」
加蓮「スポドリ、もう一口飲んじゃお」
藍子「私は、これが最後の一口です」
加蓮「ずず……」
藍子「ごくごく……」
加蓮「……ふうっ。私も一気に飲んじゃった」
藍子「ふうっ♪ つられちゃいましたか?」
加蓮「まーね。あー……やっぱり物足りなーい。メロンソーダ持ってこーい!」
藍子「わがままさんになっちゃった……。事務所に行けばあるかも? ……ってことでは、ありませんよね」
加蓮「うん」
藍子「今日は、頑張って我慢しましょ?」
加蓮「分かってるー……。もう藍子がカフェをやってよ」
藍子「私が?」
加蓮「突発、藍子ちゃんの事務所カフェ! 的な」
藍子「事務所カフェ」
加蓮「加蓮ちゃんのネイル教室と同じで、藍子が突発的にカフェをやるの。で、お客さん……アイドルのみんなかな。に、ジュースとか料理とか出してく感じ」
藍子「私のカフェ……」
加蓮「動画にすればファンにも見せてあげれるかもしれないし、そうしたらそのうち本当に……ん、あんまり乗り気じゃない?」
藍子「う~ん……。……」チラ
藍子「ううん……。いろんなものを用意して、それから、内装をセットして……写真とかを飾って……」
藍子「本当にやるなら、すごく忙しそうですね。……」チラ
加蓮「手伝えと」
藍子「準備は一緒にやりましょう。開店してからは、料理は私がやるので、加蓮ちゃんは接客をお願いしますね。……お客さんにいじわるをしちゃ、ダメですよ?」
加蓮「そこは相手による」
藍子「ほどほどにしてくださいね。にぎやかなカフェもいいですけれど、私は、穏やかで、ゆっくりとした時間を送れる場所にしたいから……」
加蓮「そっか」
藍子「ふふっ♪ カフェか~……」
加蓮「だいぶ前、小さい頃に店員さんになりたいとか言ってなかった?」
藍子「言ったような気がします。……そうそうっ。ちいさい頃、店員さんになりたくて」
加蓮「だよね」
藍子「でも……今は、アイドルのことで頭がいっぱいですから」
加蓮「おぉ」
藍子「カフェに挑戦するのは、トップアイドルになった後です!」
加蓮「おー」
藍子「……でも、加蓮ちゃんに言われると、つい想像してしまいます。私のカフェ」
加蓮「藍子のことだし、食べるだけの場所っていうより雑貨カフェみたいになりそうだね。あんまり派手なのじゃなくて、素朴な感じの、手作り雑貨が置いてあって」
藍子「料理も、あまりユニークなものではなくて、ごくふつうの物で……それでも、喜んでもらえればいいな」
加蓮「喜んでもらえるよ。藍子が作ったって言えば、みんなすぐに食べきっちゃうんじゃない?」
藍子「……なんだかいいなぁ、それ」
加蓮「でしょ?」
藍子「でも、ときどきだけ、ちょっと変わった料理にも挑戦してみるんです」
加蓮「毒味はやってあげる」
藍子「せめて、味見って言ってくださいっ」
加蓮「……そうなると私が店員さんとして、ずっと接客することになるんだね。アイドルのみんなが相手ならまだしも、知らない人相手ってキツイかも……」
藍子「加蓮ちゃんも、練習すればキッチンに入れるようになりますよ~」
加蓮「それはやだ」
藍子「そんなこと言わずにっ」
加蓮「もう1人くらい雇わない?」
藍子「いいですよ。それなら誰にお願いしますか?」
加蓮「うーん……。接客が得意そうなのは未央とか、あと大人のお客さんなら奏がうまいことやりそう。キッチン担当なら、やっぱり黒幕ちゃんかなぁ」
藍子「いつまで響子ちゃんのことを黒幕ちゃんって呼び続ける気ですか……」
加蓮「たまには小梅ちゃんとかが接客してみてもいいかも。ミステリアスな店員さんって、絶対好きそうな人いるし」
藍子「ふんふん」
加蓮「こうして考えてみると、誰か1人って固定して考えるのは損な気がする」
藍子「突発ってことなら、その度にゲストでお招きするというのは?」
加蓮「あっ、いいねそれ! ヒマそーにしてるところに制服を着させて、はい今日はあなたが店員さんね! って」
藍子「ふふ。断れなさそうっ」
加蓮「そしたら私が先輩の店員さんだ。私は藍子と違って厳しいよー?」
藍子「たまには、優しく教えてあげてくださいね」
加蓮「あと雑貨も任せてよ。私だって、一応ネイルをしてますから♪」
藍子「私と加蓮ちゃんの、手作りの雑貨が並ぶ店内……。ふふっ。やってみたいなぁ」
加蓮「ね」
加蓮「一緒にカフェをやりたいから、早くトップアイドルになってよ……なんて、さすがに失礼かな」
藍子「ううん、ぜんぜんっ。なんだか、めらめら燃えてきちゃいましたから!」
加蓮「そっか」
藍子「カフェ……。私、加蓮ちゃんとずっとカフェでの時間を過ごすようになって、逆に、カフェって存在を、少しだけ遠く感じるようになったんです」
加蓮「どういうこと?」
藍子「私と加蓮ちゃんはお客さんで、店員さんはカフェの方。それが当たり前のようになったから……」
加蓮「……店員さんとか、自分がカフェをやるって立場が想像しにくかったんだ」
藍子「うん。だからさっき、加蓮ちゃんに事務所カフェって言われた時、一瞬だけ変に感じちゃいました」
加蓮「そうなんだ」
藍子「でも、不思議。加蓮ちゃんとお話していると、やりたいことも、作りたい光景も、いくらでも思い浮かべられちゃう……」
藍子「やっぱり、加蓮ちゃんが今まで、新しいことや、新しい企画を、いっぱい作ったり、思い浮かべたりしているからでしょうか」
加蓮「そうかもしれないけど……案外、ここで喋ってるからじゃない?」
藍子「ここ?」
加蓮「レッスンルーム」
藍子「……あっ!」
加蓮「アイドル達が、どこよりもなりたい自分を思い浮かべて、目指し続ける場所だもん」
加蓮「……いや、どうだろ。Pさんと――私達の夢を叶えてくれる人と話してる方が、色々思い浮かべられたりして? どっちの方が多くパワーをもらえるかな」
藍子「それは……難しい問題ですね……!」
加蓮「ね」
藍子「そっか……。レッスンルームって、そんな場所でもあったんだ……」
加蓮「それにさ。藍子が綺麗にしてあげたから、部屋も嬉しくなって、もっと多くのエネルギーを分けてくれたのかもしれないね――」
藍子「……」
加蓮「……ごめん、今のはちょっと無し」
藍子「……え?」
加蓮「ちょっとメルヘン臭すぎたなって……」
藍子「言われてみれば……。ちょっとだけ、そうだったかもっ」
加蓮「もー……。藍子といるといっつもこうだ」
藍子「……それなら、加蓮ちゃんもここを綺麗にしてあげたら、もっと多くのエネルギーをもらえるかもしれませんよ」
加蓮「無しって言ったでしょうが!」
藍子「きゃ~っ」
加蓮「カフェと違って、ここは殺風景かなって思ってて……あまり人に見せたくない努力とか、ストイックに独りで頑張りたい時には、時々ここに来るようにしてたんだけど……ここでも、語り合えることってあるんだよね」
藍子「ここにいたら、夢をいくらでも膨らませられる……そんな気持ちになっちゃいます」
加蓮「じゃあ、藍子がまた迷子になってたらここに連れこもっと。それでポジティブになれるまでレッスン漬けね」
藍子「……む、無理をしたら、加蓮ちゃんがPさんから叱られちゃいますよ?」
加蓮「しないしない。私はただ藍子に指導するだけだし」
藍子「そんなこと言って、誰かが頑張っている姿を見たら、加蓮ちゃんもつられちゃいますよね?」
加蓮「……いやいや。立場っていうか、やるべきことっていうか? そういうのは見極められる女ですし?」
藍子「本当に?」
加蓮「…………その時は藍子のせいにするもん」
藍子「ふふっ。そうですね……。その時は、私からPさんに説明しますね」
加蓮「っていうか、そもそも藍子が迷ったり凹んだりしなければいいだけなんだけど?」
藍子「そうでした。……大丈夫っ。進む道は分かっています。下を向きそうになったら、頑張って顔を上げますから!」
加蓮「……そっか」
藍子「今日はどうしますか? あっ、加蓮ちゃんのネイル教室の時間――」
加蓮「うわー。2時どころか3時になってるじゃん。……藍子ぉ?」
藍子「ひゃ。だ、だって、それは……え、えへへ」
加蓮「えへへ、じゃなくて」
藍子「つい、いつもみたいにお話してたから」
加蓮「ネイル教室の時間は終わりました。また次回」
藍子「そんな~っ。時間をずらして、そこをなんとか!」
加蓮「代わりに、突発・加蓮ちゃんのスペシャルレッスン教室を開いてあげる。さあ藍子、立って?」
藍子「……で、できれば優しくしてくださいね?」
加蓮「やだ」
藍子「ひゃ~っ」
【おしまい】
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