勇者「この物語の結末は、ここにいるみんなが見たいんだ」 (57)

国王「勇者よ、この世界が今どのような状況にあるかは知っておるな?」

勇者「はっ、魔王の脅威に晒されております」

国王「ふむ、そのとおりじゃ。魔王がこの世界を我が物にしようと、多くの魔物を送り込んできておるのじゃ」

勇者「北の方には、魔物の群れに滅ぼされた国もあると聞いています」

国王「そこで、じゃ」

勇者「はっ」

国王「そなたには魔王討伐に向かってほしい」

勇者「陛下のご意向とあらばすぐに出立いたしますが……」

勇者「既に国王軍が魔族と戦ってるのではありませんか?」

国王「それはもちろんじゃ」

国王「しかし、国王軍は国内にいる魔物の群れの相手をするのに手一杯で、魔界に向かう余裕がない」

国王「仮にその余裕があったとしても、国王軍のような大群では、すぐに魔王に発見されてしまう」

国王「勝手の分からぬ魔界で、そのような行軍はあまりに危険が大きいのじゃ」

勇者「なるほど」

国王「そこで、そなたには魔王の討伐に特化した少数精鋭の“暗殺部隊”として魔界に向かってほしいのじゃ」

勇者「お話はよくわかりました。それでは早速出立いたします」

国王「まあ待て」

国王「少数精鋭と言ったであろう。まずは酒場に行って仲間を探すとよい」

勇者「はっ!」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1598180954

やべー久しぶりすぎてトリップの付け方ミスったわ
こうだっけ?

おお上手くいったかな
続き続き

~~~~~~~~~~

男「どう?」

友「『どう?』と言われてもな。何だこの珍妙な台本は」

男「SSを書いてみたんだ」

友「えすえす? ナチスの親衛隊か何かか?」

男「いや、台本形式の物語でさ……」

男「文芸部所属という陰キャ道まっしぐらの友の忌憚ない感想を聞きたいんだ」

友「何か引っかかる言い方だけど……」

男「まあまあ、細かいことは置いといてさ」

友「文章的には大きく破綻していないと思う」

男「おっ、なかなか好意的だな」

友「ただ、続きを読みたいかといわれれば、完全に“No”だ」

男「あれ? 上げて落とすスタイルですか?」

友「何が駄目かというと、物語としての力だ」

男「すいません、よくわからないんですが」

友「つまり、この出だしに引き込まれる奴がいるのかという話だ」

男「お、あれですね。『つまり』といっておきながら、要約するどころか長く説明しちゃうタイプですね」

友「そこまで要領を得ない説明をしてないだろうが!」

友「この80年代のRPGの出来損ないみたいな出だしを見せられて、お前は続きを読みたいと思うのか?」

男「これから面白くなる予定なんだってば」

友「それを出だしから読者に伝えなきゃ意味がないんだよ」

男「だけどこれ、勇者が魔王を討伐する物語なんだぞ。国王から依頼を受けるところからはじめないと……」

友「そう思うのは、物語が出来上がっていないからなんだよ」

友「物語の骨格を作ったうえで、『ここは!』というところを序章に持ってくるんだ」

男「でも『ここは!』ってところがどこか分からないぞ」

友「それが原因だよ。まずプロットを作れよ」

男「プロット?」

友「骨格だよ。あらすじだよ。概要だよ」

(数日後)

男「本日はお忙しい中、SSのプロット説明会にお集まりいただきありがとうございます」

友「……はあ。できたのか?」

男「それでは早速ではありますが、お手元の資料に基き、プロットの説明をさせていただきたいと思います」

友「お、おう」

男「申し遅れましたが私、男と申します。どうぞ宜しくお願い申し上げます」

友「知ってるよ馬鹿!」

男「まず主要登場人物については、1枚目にまとめております。まずは勇者……」

男「さて、物語の概要については、2枚目のA3の資料にまとめております」

友「何だ、この縦軸と横軸に文字がびっしりと書き込まれた表は!?」

男「横軸は時間の経過を表しています。即ち、勇者が魔王討伐の依頼を受ける時点が左端、勇者が魔王を討伐するのが右端となります」

友(お前だって『即ち』といっておきながら、要約するどころか長く説明するタイプじゃねーか)

男「対する縦軸は、主人公である勇者を取り巻く人々の、勇者に対する心情を表しています」

友「勇者そのものの心ではなく……?」

男「そこです!」

友「???」

男「一般的に、物語は主人公視点で語られがちです」

友「だけどこれ台本形式だろ?」

男「そうです。台本形式だからこそ、主人公以外の登場人物の心情を明確にし、それらと主人公を対比する中で、新たな形の群像劇を描いていくのです」

男「この物語のコンセプトは、通常の物語では曖昧になってしまうところにスポットライトを当て、主人公たちの成長に説得力を与えることにあります」

友「う~ん……」

男「この物語の概要は以上になりますが、何かご質問等はありますでしょうか?」

友「コンセプトはいいと思うけどさ……」

男「なんか歯切れが悪いけど、問題があれば教えてほしい」

友「……いや、ま、SSの続きを書いてみなよ」

~~~~~~~~~~

勇者「お邪魔しま~す……」カランコロン

酒場店主「いらっしゃい。どんな御用?」

勇者「魔王討伐に出ることになったのですが、国王陛下からこちらで仲間を募るよう言われたので参りました」

酒場店主「あらあら、それは大変ねぇ」

勇者「こちらに、魔王討伐に協力いただける方はいるでしょうか?」

酒場店主「そうねぇ……、武闘家ちゃんは大会に出場中だし、傭兵さんは国王軍に入って既に魔王戦線に従軍中だし……」

勇者「いや、ダメな方の情報は要らないんで、協力いただける方だけ教えてほしいのですが」

酒場店主「えっ!? ……ああ、そうね。ごめんなさいね」

酒場店主「うん、戦士君と僧侶ちゃんと魔法使いさんに声を掛けてみようかしら。ちょっと待っててね」

戦士「俺は魔物に兄弟を殺された。魔王を倒したい気持ちは同じだろう。是非同行させてほしい」

僧侶「未熟者ですが、神に仕えるものとして魔王の存在を認めるわけにはいきません。宜しくお願いします」ペコリ

魔法使い「王国軍から追い出されて暇だったからちょうど良かったわ。一緒に行きましょう、僕」クスクス

勇者「では、早速行きましょう」

戦士「えっと……、今すぐにか?」

勇者「ええ、善は急げ、です」

僧侶「は、はあ」

勇者「王都周辺に魔物は少ないと思っていましたが、何か巨大な牛が沢山いますね」

戦士「ミノタウロスだな。俺の兄弟はあいつらに殺られたんだ」ギリッ

魔法使い「あらあら、穏やかじゃないわね」クスクス

僧侶「あいつらが異教の集団……」

勇者「では、俺が奴らを引き付けます。皆さんは後ろから援護をお願いします!」チャキ

僧侶「えっ!?」

戦士「ちょっ……!」

魔法使い「単身で牛に切りかかっちゃって……」

戦士「馬鹿か勇者。今加勢するから待ってろ!」

戦士「くっ……兄弟の命を奪った憎き相手なのに、足が動かぬ……!」

僧侶「えっと、私は何をすれば……、何をすれば……」

魔法使い「みんな邪魔よ! 下がりなさい!」

魔法使い「爆発魔法、極大!!!」

ドオォォォォォォォ……ン

戦士「何だ、閃光が走ったかと思ったら辺り一面何もなくなっているんだが……」

勇者「この灰の塊が、あの牛たちの骨じゃないですか?」

僧侶「これが異教徒の骨……消えろ……消えろ……」ゴンゴン

魔法使い「……」

勇者「まあ、先に進みましょうか」

~~~~~~~~~~

友「掘り下げろや!」

男「いや、そうは言うけど……」

友「戦士も僧侶も魔法使いも色々ありそうなのに、何でスルーしてるんだよ!」

友「しかも酒場の店主さんいい人そうなのに、暴言はいて勇者の好感度下げてるし」

友「お前の書きたい群像劇ってこれ!?」

男「だって、プロットどおり物語を進めないとさ……」

男「みんな勝手にしゃべりだすから収拾がつかなくて……」

友「俺が歯切れ悪かった理由はこれだよ」

男「えっ!?」

友「プロットをガチガチに固めすぎると、登場人物が会話できなくなるんだよ」

友「登場人物は創作上の存在とはいえ生きているんだ。お前の作ったレールの上を忠実に走ってくれるわけがないんだ」

男「じゃあ、どうすればいいんだよ」

友「プロットは書き出す前にしっかり意識すればいい」

友「お前は作者だろ。書き出したら登場人物を信じて登場人物に任せろ」

男「何かかっこいいな。でもさっぱり分からないわ」

~~~~~~~~~~

戦士「交代の時間だぞ、勇者」

勇者「ああ、周りの状況はどうだ?」

僧侶「今のところ何の気配もありません。静かな夜です」

勇者「そうか。じゃ、魔法使い姉さんも起こさないと……」

魔法使い「もう起きたわ。見張りに行きましょ、勇者君」

戦士「じゃ、後は頼んだぞ」

勇者「……確かに静かな夜だね」

魔法使い「昼までの激戦続きが嘘みたい?」クスクス

勇者「うん、まあ」

魔法使い「この国での魔族との戦いの最前線は抜けたのよ」

勇者「あとは魔王城に向かうのみ、か……」

魔法使い「魔界での状況が分からないけど、とりあえずはそういうことね」

勇者「魔界の敵はどんななんだろう」

魔法使い「恐れることはないわ」

勇者「でも……」

魔法使い「魔王だって最前線に主要な戦力を投入しているはずよ。私たちは正面からそこを突破してきたの」

魔法使い「私たちは力も、技術も、互いを理解した上での連携も、みんな磨いてここまでたどり着いたのよ」

勇者「確かに魔法使い姉さんの爆発魔法はすごいし、戦士のフットワークも見違えるように軽くなったよ」

魔法使い「勇者君だって、いまや肩書きがなくても誰もが勇者と認める力を持ったわ」

勇者「それは言いすぎだと思うけど」

勇者「ただ、僧侶ちゃんは……」

魔法使い「僧侶ちゃんのことが気になるんだ?」

勇者「は!? はあ!? いや違うし! そういうんじゃないし……///」

魔法使い「うんうん」クスクス

勇者「いやだから、そうじゃなくて……!」

勇者「僧侶ちゃんは、なんと言うか、教会への思いが強すぎるというか……」

魔法使い「……教会の呪縛から解き放たれていない?」

勇者「そうそう、それ」

勇者「魔王を憎むのはいいと思うんだ。でも、それは人間に対する仕打ちを憎むべきであって、異教とかそういうことで憎むのは違うというか……」

魔法使い「勇者君は大人ね」クスクス

勇者「子ども扱いは傷つくよ」

魔法使い「ごめん。褒めたつもりだったのよ」

魔法使い「相手の罪を憎んでも戦は終わるけど、相手の存在を憎んだら戦は終わらないのよ、永遠に」

魔法使い「だから、勇者君の考え方は平和をもたらす発想だと思う」

魔法使い「私は、勇者君の考えを応援したい」

勇者「……ありがと」

魔法使い「……私もありがとね」

勇者「えっ!?」

魔法使い「私も、僧侶ちゃんのことはちょっと気になってたのよ」

魔法使い「でも、僧侶ちゃんから見たら私なんて邪教に心を奪われた魔女だからと思って、遠慮していたんだ」

魔法使い「でも勇者君に、それじゃいけないって気付かされたわ。私からも僧侶ちゃんにそれとなく言ってみようと思う」

~~~~~~~~~~

男「どうよ?」

友「……まあ、うん」

友「静かなやりとりだけど、次の展開に目を向けさせようという努力は伝わる」

男「俺のかわいい登場人物達だからな。特に魔法使いとか」

友「悪くないからこそ、このままダレていかないように小技を散りばめてみよう」

男「お、小説仕込みのスキルだな。伝授してくださいな、3色チーズ牛丼をこよなく愛してそうな友よ」

友「あー悪い。もう二度とお前と会話しないわ」

男「どうしたんだよ心が狭いな」

友「チー牛とか言われて素直に教える奴は心が広いんじゃなくてただの馬鹿だろうが!」

男「じゃ、陰キャでチー牛で馬鹿ってことにしとくから教えてくださいよ」

友「……どうしよう。男が他人とコミュニケーション取れない存在になっちゃった」

友「小技ってのは伏線やフラグだよ」

男「伏線? フラグ?」

友「伏線ってのは、何気ない会話の中に結末に繋がるストーリーを織り交ぜる技だな」

友「例えば、序盤の戦士の話に兄弟を魔物に殺されたというのがあったけど、魔王と対峙する直前に死んだはずの兄弟が魔王サイドで立ちはだかるなんてのがありがちな例だな」

男「ほうほう。で、フラグってのは?」

友「フラグってのは、小説における枕詞みたいな奴だな」

友「良くあるのは殺人事件で『こんな、殺人犯がいるかもしれない部屋にいられるか! 俺は自分の部屋に戻る!』といった奴は次に確実に死ぬみたいなお決まりパターンのことだな」

男「ああ、はいはい。コナンが出てきたら確実に周りが死ぬみたいなやつね」

友「それはフラグとは違うんじゃね?」

~~~~~~~~~~

戦士「いやあ、昼間は何とか洞窟のアンデッドを討伐できて良かったな」

魔法使い「勇者君が、街の人の話を聞いて『洞窟に魔物退治に行く』と言い出したときはどうなるかと思ったわ」クスクス

勇者「だって、あれは……」

戦士「まあ、魔界も近いのだ。最前線を抜けて以来、戦という戦もなかったからちょうど良かったではないか」

勇者「良かったのは確かだけど、課題も色々と浮き彫りになったよ」

戦士「確かに洞窟戦ならではの問題点は見つかったが、魔王城が洞窟にあるわけではあるまい」

魔法使い「洞窟に限った話ではないわ。魔王城が私たちの知るような城郭なら、大規模な爆発魔法は使えないのよ」

僧侶「すいません。私が浄化魔法を使えないばかりに、勇者さんと戦士さんにご迷惑をおかけして、すいません……」

戦士「あ、いや、僧侶を責めているわけではないのだ」

勇者「僧侶ちゃんの治癒魔法には、充分助けられているよ」

僧侶「でも、戦闘ではやっぱり勇者さんと戦士さんの負担が大きいですし……」

僧侶「私も早く浄化魔法を身に付けたいんです!」

僧侶「あんな悪魔に心を売った異形のものすら浄化できないなんて……」

魔法使い「……そういう発想だから習得できないんじゃないかしら?」

僧侶「……は?」

魔法使い「浄化というのは魂を天に還すこと。魂に寄り添って魂を理解しようとしないと難しいんじゃないかし……」

僧侶「あんたになんか話してない!」

勇者「ちょっ……! 僧侶ちゃん、魔法使い姉さんも仲間として話をしているんだからさ」

僧侶「仲間!? こんな悪魔の一味を仲間だなんて私は認めてません!」

戦士「僧侶、さすがに言葉が過ぎるのではないか?」

僧侶「勇者さんも戦士さんも、この魔法使いがどんな人か知らないからそんなことをいえるんです」

戦士「人となりは、この戦いを通じてそれなりに把握してきたつもりだが」

勇者「うん。王国軍を追い出されたとか言ってたから、王国軍在籍時に何かやらかして問題になったのかもしれないけど……」

僧侶「この魔法使いはそんな生易しいことで追われたのではありません」

僧侶「勇者さんや戦士さんはこの王国の方だからご存じないのでしょう。私は周辺国も教圏とする教会出身なのでしっかり聞いています」

僧侶「この魔法使いは、隣国の王国軍を追われたのです」

勇者「隣国って……数年前に体制が変わったあの国のこと?」

戦士「今は王制ではなくなったと聞いているが……」

僧侶「この魔法使いは、隣国の王国魔道師団を率いる身でありながら、その王宮に総攻撃を仕掛け、王制を潰したのです!」

僧侶「王族たちが攻撃を避け、身を寄せていた王宮内の教会にも無差別に爆撃を加え、多くの人々を爆殺しました」

僧侶「悪魔の技を使って人々を無差別に殺めるような人なんですよ、この魔法使いは!」

戦士「そ、そうなのか……?」

勇者「いや、何か訳があったんじゃないのか? ねえ、魔法使い姉さん?」

魔法使い「……僧侶ちゃんの言うとおりよ」

勇者「でも、魔法使い姉さんが人を殺めて喜ぶような人には思えないよ」

魔法使い「もちろんよ。そんな性格なら勇者君とともに行動したりしないわ」

僧侶「そうですかね? スパイっていますよね?」

魔法使い「当時の隣国は、歴代の国王が暴政をしいたおかげで、国も民もみんな疲弊していたわ」

魔法使い「私は王国軍で上に登れば登るほど、国王サイドからの要望と民の苦しみの間に横たわる矛盾に悩まされた」

魔法使い「貴族にも国王にも、何度も上奏したわ。民あっての国だと。でも、全く聞き入れてもらえなかった」

魔法使い「あのときの私には、見て見ぬ振りをして国王の忠臣として振舞うか、王制を破壊するかしか選択肢がなかった」

魔法使い「教会まで破壊したのは私の魔法制御スキルの低さから来る過ちよ。でも、私には国王の忠臣を続けるのは無理だったわ」

僧侶「だからって、爆発魔法を使う必要があるんですか? さっき言ってたじゃないですか、魔王城では爆発魔法を使えないって。おかしいですよね?」

魔法使い「……経験からしか学べないことだってあるのよ」

僧侶「そんなのは言い訳です!」

魔法使い「言い訳……そうね、その通りね。私は隣国時代の行いを正当化するつもりはないわ」

魔法使い「だからこそ、今回こそは前回とは違う未来をこの手で実現したいし、この目で見たい。それで誰が救われることもなくても、無駄な犠牲を出さずに平和をもたらしたいの」

僧侶「……」

戦士「魔法使いの話は筋が通っていると思うが」

勇者「僧侶ちゃん、魔王を倒すまでは、互いの利害とか捨てていこうよ」

僧侶「ふん、この人が寝返るとしたら、魔王を倒した後だと思いますよ」

魔法使い「信用がないのね」

魔法使い「いいわ。私は祖国に兄弟を残したままこの国に逃げてきてしまったの」

魔法使い「この戦いが終わったら、魔法を封印して祖国に戻るわ」

魔法使い「そして、祖国で薬屋でも開業して兄弟とささやかに暮らしていくわ」

~~~~~~~~~~

男「フラグとか伏線とか、こんな感じでいいのか?」

友「あ、ああ。確かに伏線は回収してるしフラグも立ってるっぽいけどな」

友「でも……」ペラッペラッ

男「でも?」

友「この前もらったプロットを見てるんだけど、魔法使いって、こんなに早く死ぬんだっけ?」

男「……いや? 死ぬ予定は全然ないけど?」

友「でもフラグとか伏線が魔法使いをターゲットにしているように見えるんだけどな」

男「友がフラグとか伏線とか使ってみろというから、適当に使ってみただけだぞ」

友「死亡フラグは死ぬ奴に使うんだよ! 『この戦いが終わったら』とかいう奴は戦いの終わりを見ることができないと決まってるんだ」

友「それから魔法使いが前回の反省を踏まえて魔王戦に臨むとか言ってるけど、確実に魔法使いの戦い方の足かせになるからな」

友「今の状態は、フラグと伏線がコンボで魔法使いを殺しに掛かっている状態だぞ」

男「なんじゃそりゃぁあ!!!」

男「殺したくないよ、待ってくれよ、俺はまだ殺したくないよ。何で死ぬんだよ」

友「そんなんしらんがな」

男「何か方法はないかな。教えてくれよ。たのむよ」

友「まあ、ミスリードというのもあるにはある」

男「ミス、リード?」

友「ああ、推理小説なんかで用いられる手法だな」

友「いかにも犯人っぽい所作で読者の視線をそちらに向かわせておいて、実は別に真犯人を用意したりする手法でな。ある意味マジックに通じる手法かもしれない」

男「おお、それだよ! それで行こう!」

友「ただ……」

男「ただ何だよ?」

友「相当巧くやらないと読者に『胸糞』と言われるぞ」

男「『胸糞』とか言われない方法をご教示くださいな!」

友「ミスリードを超える伏線を早い段階でさりげなく散りばめるしか……」

男「手遅れっぽくないですか??」

~~~~~~~~~~

側近「魔王城の玉座の手前まで到達した人間たちはあなた方が初めてです」

側近「ここまで来たことには敬意を表しましょう」

戦士「では、敬意を表してそこを退いてはくれぬか?」

側近「フッ、笑止!」

側近「あなた方に見せるべき玉座などありません! この部屋があなた方の墓標となるのです!」

勇者「待ってくれ。俺達は魔王に斬りかかりたいんじゃない。魔王と話をさせてほしいんだ」

側近「あなた方が魔王様に斬りかかるのか、そうでないのかは私の知るところではありません」

僧侶「でしたら通してください!」

側近「しかし、私にはあなた方をここで葬るという任務があります。魔王様と対峙したいのなら、私たちを倒してからにすることです」

戦士「くっ……! どうしても戦いたいというのなら、やむを得まい」チャキ

側近「待ちなさい」

魔法使い「倒せといったり、待てといったり、忙しい人ね」クスクス

側近「あなたたちの相手は私ではありません。出てきなさい!」パンパン

戦士兄「オ゛オ゛オ゛……」

戦士弟「ア゛ア゛ア゛……」

戦士「兄弟……!」

僧侶「え、戦士さんの兄弟って……」

側近「ええ、我らの手によって息絶えました」

勇者「じゃあ、この2人は一体……?」

側近「……人間としては、息絶えました。それを魔王様が悪魔の心を注入することで蘇らせたのです! 魔王様に感謝することですね!」フフフ

戦士「なんて鬼畜なことを……!」

僧侶「戦士さんのご兄弟と戦うなんて、そんなの!」

戦士「……みんな、これは俺達兄弟の問題だ」

勇者「いや、それは違うぞ戦士」

戦士「兄弟の問題なんだ。だから、ここは俺だけに戦わせてほしい」

魔法使い「私たちはこのあと魔王と対峙するのよ。ここで無茶はすべきじゃないわ」

戦士「無茶はしない。ただ……、血を分けた兄弟が他人に傷つけられる様子は見ていられないんだ。頼む」

勇者「……戦闘中でも治癒等はさせてもらうぞ」

戦士「ああ、それでいい」

側近「相手は誰でも構いません! 戦士兄! 戦士弟! やっておしまいなさい!」

戦士兄「オ゛オ゛オ゛……」

戦士弟「ア゛ア゛ア゛……」

キンキンキンキンキンキンキン!

~~~~~~~~~~

友「おいおいおい!」

男「何だよ、重厚な戦闘シーンが始まったところだというのに」

友「ただの金属音が重厚とは異なことを申される」

男「そんなつまらない指摘でオリジナリティ溢れる物語の腰を折らないで頂きたい」

友「それだよそれ!」

友「どこがオリジナリティだよ。俺が例示した伏線そのものの展開じゃねーか」

友「もうほぼほぼ丸パクリ。スタジオに火を放つぞこの野郎!」

男「時系列的にパクリが全否定されるパターンだな」

友「お前の時系列どうなってんだよ……」

~~~~~~~~~~

戦士「すまん、兄弟。せめて安らかに眠ってくれ……」ザシュ

勇者「あんたたちは敗れたんだ。約束どおりここを通させてもらうぞ」

側近「フフフ……、それはできない話です」

僧侶「なっ……! おかしいじゃないですかそんなの!」

戦士「おいおい、俺は何のために兄弟を殺したのだ。何のために、人間界に戻ることも許されぬ罪を背負ったというのだ!!」

側近「あなたが望んで兄弟を殺したのではないですか」フフフ

勇者「ふざけるな! 俺達にはあんたのくだらない余興に付き合う暇などない。そこをどけ!」

側近「ですから、私をどかしたいのなら私を倒してからにしなさいと言ってるのです」

戦士「じゃあ今すぐ死ね!」ザシュッ

側近「つっ……!」

勇者「許されないことをしたと思い知れ!」ガキン

側近「くっ……!」

僧侶「治癒は私に任せてください! 皆さんの攻撃は効いているようです!」

魔法使い「強力爆発魔法 小!」

側近「……」

側近「フフフ……フフフフ……!」

側近「こんなおままごとのような攻撃が効いているはずがないでしょう!!」

戦士「なに!?」

勇者「強がりはやめろ!」

側近「強がりかどうか、私の姿を見てから言うことですね。私が傷ついているように見えますか?」

勇者「かすり傷すら、付いていない……?」

側近「私の外骨格はそれ自体が強固な鎧。武器にしろ魔法にしろ外部からの攻撃はほぼ無効化されるのです」

戦士「『ほぼ』ねえ……」

勇者「ああ、俺達に望みは充分あるってことだ」ダッ

(半刻後)

勇者「はぁ……、はぁ……」

戦士「本当に、刃が通らぬ……」

側近「おやおや、望みがあるのではなかったのですか?」

勇者「くっ……!」

側近「だいぶ辛そうですね」

側近「では楽にして差し上げますよ、勇者さんとやら!」ヒュンッ

僧侶「勇者さん危な……」

魔法使い「待ちなさい!」

ドシュッ

戦士「ま、魔法使い!」

魔法使い「…………っ!」

側近「フフフ、愚かな。私の毒針に自ら刺さりに来るとは」

勇者「そんな、魔法使い姉さんが俺の身代わりに毒針に貫かれるなんて……」

側近「さて、次はどなたの番ですかね」フフフ

戦士「ふざけるな!」

勇者「魔法使い姉さん、未来を見たいんだろ? 平和をもたらしたいんだろ? あと少しなんだよ。 魔法使い姉さん!」ユサユサ

魔法使い「勇者……君。未来は……しっかり見てるわ。ちょっと……遠い……ところからになるけど……見てる……から……」

勇者「魔法使い姉さん!!」

僧侶「…………」ハァ

僧侶「……勇者さん邪魔です。そんなところで跪いていないで、どいて下さい」

勇者「僧侶ちゃん!!!」

僧侶「この魔法使いに治癒魔法を掛ける邪魔になるからどいて下さいと言ってるんです!」

魔法使い「やめ……て」

僧侶「強がりを言っている場合ですか? 私たちが戦いに勝つしか道はないんですよ?」

魔法使い「わたしの体は、もう……治癒魔法では……どうにもならない」

魔法使い「僧侶ちゃん……魔力は……大切な魔王戦に……とっておくの……よ」

側近「盛り上がっているようですが、戦いはまだ途中ないのですよ」

魔法使い「愚か……ね」クス…

側近「愚かはあなたの方でしょう?」

魔法使い「わたし……が……ただ……刺されにいった思っている……ようだから……愚かだ……と……いってる……の」

魔法使い「外部からの攻撃が……効かないのなら……内部からは……どうかしら?」

魔法使い「あなたの毒針を……媒介して……爆発魔法を……あなたの体内に……大量に……送り込んでおいたわ……」

魔法使い「あなたも……わたしと……一緒に……しぬの……」

魔法使い「勇者君……見てるから……私の……夢も……おね……が…………」

勇者「魔法使い姉さん! 魔法使い姉さん!」ユサユサ

勇者「あああああああああああーーーーーーーー!!!!」

~~~~~~~~~~

男「あああああああああああーーーーーーーー!!!!」

友「うるせえよ!!!!」

男「魔法使いが死んじゃったよ!!!!」

友「お前が殺したんだろうが」

男「俺じゃない。俺じゃないよ。フラグと伏線が殺したんだよ!」

友「そのフラグを立てて伏線を張ったのがお前だろうが」

男「俺の大切な魔法使いが。魔法使いがぁぁぁぁぁ!!!」

男「あ、嗚呼……いい天気だな……」

友「雷が鳴ってるぞ」

男「綺麗なお花も咲き乱れてる……」

友「駄目だ、ショックのあまり現実逃避しやがった」

~~~~~~~~~~

魔王「フハハハハハ。我の側近を破ったと見えるな」

勇者「魔王よ、これがお前の戦いなのか?」

勇者「自分のために奮戦する部下を駒のように扱い、この玉座から動かないのがお前の戦いなのか?」

魔王「ほざくがいい。貴様だって魔法使いという仲間を駒のように使い捨ててここに来たのだろう?」

勇者「んだとこの野郎!」

僧侶「勇者さん! 安っぽい挑発ですよ!」

勇者「……挑発に乗るつもりはない。確認だ」

戦士「ここまで来て何を確認するというのだ?」

勇者「避けられる戦なら避けたい」

勇者「犠牲者を増やすことなく、王国に平和をもたらせる方法があるのか否かを確認しておきたかったんだ」

魔王「フハハ、ここまで来て何を寝ぼけたことを言っているのだ。我は魔族のために、魔界の領土拡張を目指すのみ」

勇者「確認は終わりだ」

勇者「お前の言ってることは嘘だと分かったからな」

魔王「ほう……。我は真しか言っていないつもりだが」

勇者「魔族のための戦いのはずなのに、お前はこの玉座に腰を据えたまま、多くの魔族を見殺しにしてきたんだろう」

勇者「そんな奴の戦いに正義はない!」

魔王「フハハ、まあ良い。ここからは我もこの玉座から立ち上がるのだから安心するがいい」

魔王「さあ、そちらから掛かってくるがいい!」

勇者「ああ、心置きなく行かせてもらうぞ」

勇者「お前の戦いを悔いながら旅立つんだな!」ガキン

戦士「おい魔王、背後がガラ空きだぞ!」ザシュッ

勇者「なっ……! ただの皮膚だというのに……」

戦士「剣が刺さらない……だと?」

魔王「……フハハハ! 貴様らの実力はその程度だということだ」

魔王「我は外骨格など持たぬし、鎧だって在り来たりなものだ。そんな我にダメージを与えられないのなら、貴様らはここに来るべきではないのだ」

勇者「ふっ……、少しずつでも攻撃していくのみだ!」

戦士「ああ、外が固くないと分かっていれば、いくらでも策はある」

勇者「はあ……はあ……」

戦士「く……そっ……!」

魔王「フハハ! 貴様らが力を出し切って切り刻んだのは、我のマントの裾だけだぞ」

勇者「出し切った……だと?」

戦士「それは随分な希望的観測だな」

僧侶「まだまだ治癒できる余力もあります!」

魔王「ほう……。引き際を理解できない指揮官は犠牲者を増やすだけだぞ?」

勇者「今は引き際ではないといってるんだ」

魔王「……だと、いいな」

魔王「出でよ、我が意思を受けし亡骸たちよ!」

ワラワラワラワラ…

僧侶「なんですか、このおびただしい数の死体は……」

戦士「ゾンビ……だと……?」

~~~~~~~~~~

友「ゾンビ……だと……?」

友「言いたいことはいくつかあるけど一つずついこう」

男「ああ、分かりやすく頼む」

友「敵の攻撃パターンのバリエーションを増やせよ」

友「ゾンビ&攻撃が通じないの繰り返しだとみんな飽きるぞ」

男「う~ん、言われてみれば確かに」

友「それからもう一つ」

男「俺にどうにかできることかな?」

友「作者にしかどうにもできないことだよ!」

友「この勇者たち、体力的にはかなり厳しい状態だよな?」

男「そのようだな」

友「そんな勇者たちにおびただしい数のゾンビを差し向けてどうするつもりだよ」

男「う~ん、その辺は魔王に聞いてよ」

友「はい!?」

男「いや、友が『書き出したら登場人物を信じて登場人物に任せろ』って言ったから、思い切って魔王に任せてみたんだけどさ」

友「ラスボス戦でラスボスの自主性を重んじる作者がどこにいるんだよ! 主人公たちが死ぬぞ!」

男「よしわかった。ここからは勇者たちの気持ちになって考えてみる」

友「いや、これまでも勇者たちの気持ちになって考えとけよ……」

男「……駄目だな」

友「ん!? 何が?」

男「いやさ、体力の限界まで戦って、もう気力だけで立っているような状態なのに、目の前に数えられないほどの敵が現れたんだぞ。お前が勇者だったらどう思う?」

友「……光明が遠のく感じだろうな」

男「だろ?」

友「『だろ?』じゃねーよ。対策を考えろよ」

男「ま、対策はあるぞ」

友「おお、頼もしくなったな」

男「ここで急に女神が援軍の天使を大量に派遣する」

友「雑雑雑雑、対策が雑!」

男「数には数で勝負しょうが!」

友「そんな話にはもう勇者も魔王も要らないだろ」

男「じゃあどうしろというんだよ」

友「ラスボス戦だぞ? さすがに自分で考えろよ」

男「いやいやお願いしますよ。アイディアひとつ、光明とやらが見えるまでの粗筋ひとつでいいんですよ」

友「粗筋ひとつって……」

男「ちゃちゃっと書いてくださいよ」

友「おい、書くって……馬鹿か。無茶言うなよ、こんな崖っぷちの話」

男「すこ~し軌道修正していただくだけで構いませんから」

友「軌道修正って、既に軌道が崖下に向かってビシッと整備されてる状態なんだぞ」

男「そこを何とかグイッとこう……」

男「この物語の結末は、ここにいるみんなが見たいんだ」

~~~~~~~~~~

「フハハハ! 貴様らの不退転の決意とやらを見せてもらおう」

魔王の声は、それ自体が勇者たちの体力を奪うかのように響き渡る。

「…………」

目の前の無数の亡骸は、無言で勇者たちの希望を奪う。

「ひとりずつ、ひとりずつだ」

「ああ、ちょっと長い引き算に過ぎぬ」

「皆さんの体力の足し算は私に任せてください」

勇者たちの発言は、その勇ましい内容とは裏腹に、短調を奏でて魔王の間に響く。
魔王に操られた亡骸たちは自分の身を守ることを知らない。
勇者たちの攻撃力の前に力なく崩れていく。
しかし、無数の亡骸はみな勇者たちを目がけて同時に攻撃を仕掛けてくる。
勇者たちは亡骸を倒すことはできても、亡骸から身を守るのには限界があった。

~~~~~~~~~~

男「お、おお~。何か重々しい雰囲気ですね……」

男「いいですね……いいんですけどね……」

男「ですけどちょっと……雰囲気が変わりすぎじゃないですかね」

友「俺はSSどころかファンタジーを書くのも初めてなんだぞ」

男「でも文体がちょっと変わりすぎている気がしないわけでもないようで……」

男「露骨に文体が変わると、作者が投げ出したみたいじゃないですか」

友「投げ出したんだろ」

男「いや、ちょっとしたアドバイスを頂きたいと……」

友「魔王を前に戦いを諦めない勇者たちを、勇者たちに未来を託した魔法使いを、お前はその場に置き去りにして逃げ出したんだろうが!」

男「そ、それは物語の中の話でして……」

友「作者を名乗るのなら、全ての批判は自身で受け止めるつもりで臨めよ!」

男「ひっ……!」

~~~~~~~~~~

ひとりずつの小さな力が着実にダメージを与えているのは、皮肉にも亡骸達のほうであった。
勇者たちも亡骸を次々に倒してはいたが、それでも亡骸達の数が減っているようには見えなかった。
勇者と戦士が二人で亡骸達から身を守りつつ、亡骸たちに攻撃を仕掛ける。
それでも防げない亡骸たちからの攻撃には僧侶の治癒魔法で対処する。
足りなかった。
無数とも思える亡骸たちの数に対し、勇者たちの数も、体力も、魔力も……。
圧倒的に、足りなかった。

分からなかった。
なぜ、俺達はこんな戦いをしているのだろう。
勇者たちの脳裏に、余計とも思える気持ちが湧き上がる。
魔王を前にして、俺達は一体何をしているのだろう。
仮にこいつらを倒したとき、俺達に魔王を倒すだけの力があるのだろうか。
魔王は、なぜこんな仕打ちをするのだろう。

「すまん、戦士」

「なんだ、勇者」

互いに最低限の言葉で疎通を図る。

「……俺にちょっと考えがある。この場をお前ひとりに任せてもいいか?」

戦士は黙って頷く。
大丈夫なはずはなかった。
しかし、考えられる手を全て尽くさなければ勝利はない。
互いの認識を確認するかのように勇者も頷き返し、戦士の元を離れた。

勇者が離れた後の戦士たちの戦況は目に見えて悪化した。
戦士は防戦一方となり、亡骸たちからの攻撃を防ぐことすらままならなくなった。
それは必然的に、治癒魔法を唱える僧侶の魔力を急速に奪うことにつながった。

分からなかった。
なぜ、私達はこんな戦いをしているのだろう。
なぜ、目の前の亡骸たちは私たちに刃を向けるのだろう。
みな、何らかの理由で、一度は絶えた命のはずだ。
病と闘って絶えたのかもしれない。
愛するものを守ろうとして絶えたのかもしれない。
何かと引き換えに、自らの命を差し出したのかもしれない。
分からなかった。
でも、何か意図があって、絶えたはずだ。
何も考えずに操られるように動くために絶えたわけではないだろう。
ではなぜ今、戦う意味を考えることさえできずに戦わなくてはならないのだろう……
分からなかった。

「くっ……ぐっ……!」

圧倒的な攻撃を受け、戦士の視界がゆがみ、全身の感覚が鈍っていく。

(ああ、ついに子守唄まで聞こえてきやがった……)

戦士が意識を失いかけたその瞬間、一面をまばゆいばかりの光が覆いつくした。
その光はまばゆいのに鋭さはなく、暖かささえ感じられた。

(まさか、魔界で天に召されるとはな……)

しかし光が引いた後、戦士の目の前に広がった光景は、天界のそれではなかった。
薄暗く広い空間。
禍々しい玉座が置かれた空間。
僧侶と、勇者と、魔王だけが存在する空間。

「あれ……? 亡骸たちは……?」

「浄化魔法です! 浄化魔法でみんな天に還りました!」

「えっ……? だってお前、浄化魔法なんて……」

「そ、それが、目の前の亡骸さんたちはどんな想いでこの戦いに臨んでいるんだろうと考えていたら……自然と詠唱できたんです!」

「これが魂に寄り添うということなのでしょうか?」

「あ、ああ。なるほどな。助かったぞ、僧侶」

そう労う戦士に、僧侶はゆっくりと首を振った。

「これは私ではなくあの魔法使……いえ、魔法使いさんのおかげですから」

フハハハハ

そんな会話は地響きのような魔王の高笑いによってかき消された。

「命もない抜け殻を倒しただけで感動するなど、おめでたいにもほどがあるわ」

「今の貴様らに、体力を温存したこの我と対峙する力が残っているというのか?」

「それはどうかな?」

魔王の問いかけに答えたのは、勇者だった。
勇者の声は、魔王の背後から響き、魔王の首には、やはり背後から刃が当てられた。

「フハハハ。我に文字通り刃が立たなかったことを忘れたのか?」

「いやな、何でお前と戦ってる最中に亡骸たちが呼びよせられたのかを考えてみたんだ」

「ほう……」

「確かにお前の体には全く刃が立たなかった」

「外骨格も防具も持たないのに刃が立たないということは、何らかの魔法の力によるのだろう」

「そんなお前がなぜ、あのタイミングで亡骸を呼んだのか」

「余興よ。我は人類に対し絶望を与えてから倒すのが礼儀と心得ている」

勇者の問いかけに、魔王は一呼吸を置いて答える。

「違うな」

魔王の返事に、勇者は一瞬のためらいもなく返す。

「お前の防御魔法は、恐らく魔力の消費がとてつもなく激しいんだ。だからこそ、あのタイミングでお前は魔力を回復する時間が必要だった」

「そしてあの亡骸たちの数だ」

「俺達の戦闘を熟知しているお前は、自分の魔力を回復するのに必要な時間を計算した上で、あの数の亡骸を呼び寄せたはずだ」

「つまり」

「僧侶が一気に大多数の亡骸を天に還してしまった今、お前はまだ全然魔力が回復していないということになる」

「フ……フハ……フハハ……」

魔法の笑いから、従前のような地面を響かせる力は消えていた。

「貴様の話は全て想像だ。想像に想像を重ねた虚構に過ぎん」

「じゃ、虚構か正しい推論かを証明してやるよ!」

勇者は魔王の首の左側に当てられた剣に力を込めた。
そして---
その剣は、呆気なく魔王の首を貫き、右側から抜けていった。

~~~~~~~~~~

男「すげぇ……」

男「俺の伏線張る能力すげーーー!」

友「そっち!?」

男「僧侶の浄化魔法をここで持ち出せるよう、丁寧に伏線を仕掛けておいた甲斐があったわ」

友「作者自身が気付いていなかった伏線を伏線といっていいのか……?」

男「まあ、友も俺の与えた試練に何とか応えようとしてくれたことは評価しよう」

友「は!? 試練? 評価? なに目線?」

男「スマホで読む層のことを全く考慮していない、黴の生えたような文体だからどうなるかと思ったが、一応、常識的な着地点を目指したのだから次第点といってよかろう」

友「それが、勇者たちを瀕死に追いやって投げ出した人間の台詞か?」

男「フッ、結局のところ、友は俺の描いたマップ上を歩き回ったに過ぎぬ」

男「敢えてのゾンビ投入の意味も、僧侶の浄化魔法習得も、俺の仕掛けたネタを拾って繋いだだけなのだからな」

友「……ああ、分かった。後はもう勝手にしろ」

男「まあまあ、待ちたまえ。魔王を倒して終わりにしないのがこのSSの真骨頂なのだ。最後まで見ていくがいい」

~~~~~~~~~~

国王「勇者よ、良くぞ魔王を倒してくれた」

国王「そして、良くぞわが王国に戻ってくれた。王国を代表して礼を言おう」

勇者「はっ、恐れ入ります」

勇者「しかし……、大切な仲間をひとり失ってしまったことは忸怩たる想いです」

国王「ふむ、それは悲しいことであったな」

国王「だが、こうして勇者一行が魔王を倒し王国に戻ったということは、民にとってこの上ない希望となろう」

勇者「ありがたきお言葉を賜り、ありがとうございます」

国王「魔王を倒したことで脅威がなくなり平和が訪れる―――」

国王「それだけでは、駄目なのだ」

国王「魔王を倒した勇者たちが凱旋してはじめて、民は平和を実感するのだ」

国王「そなたたちが戻ってきたことそれ自体が、平和が戻ってきたことなのだ。そなたたちは平和の象徴なのだ」

勇者「そうおっしゃっていただけると、少し救われる思いではあります」

国王「さて、今宵は王都の民を集めて勇者凱旋記念式典を予定しておる。そなたたちも参加してくれるな?」

勇者「はっ、もちろん」

国王「魔王との戦いではわが王国も多くの民を失ったが、これを機に皆、前だけを見て進めるようになるであろう」

国王「ついては勇者よ、そなたたちに魔王討伐の褒賞を授けたいと思うのだ。褒賞の希望があれば遠慮なく申してほしい」

勇者「……」

国王「できる限り望みは叶えるぞ。さすがにこの王座を譲ることはできんがな。ワッハッハッ」

勇者「……褒賞はいりません」

国王「いやいや、遠慮することはないのだぞ。そなたたちはこの王国に平和をもたらしてくれたのだからな」

勇者「この王国の平和に貢献できたことは嬉しく思いますが、平和に貢献したのは我々だけではありません」

勇者「王国に戻ることができなかった魔法使い姉さん、この地で魔族と戦った国王軍、日常生活の中で魔族に屈しなかった王国の民……そういった皆で勝ち取った平和なのです」

勇者「そしてその平和は等しく王国の民を祝福してくれることでしょう。皆、この上ない褒賞を自らの手で獲得しているのです」

勇者「その上で、我々だけが追加の褒賞を賜る理由もありませんし、賜りたいとも思いません」

国王「ふむ……そなたたちがそれで良いというのならそうするが……」

国王「どうか今宵の記念式典では、民に笑顔を見せてくれぬか」

勇者「はっ……」

勇者「それと一つ、褒賞ではなくお願いしたいことがあるのですが……」

国王「ほう、勇者の願いか。何なりと申してみるが良い」

~~~~~~~~~~

男「どうよ?」

友「はぁ、まぁ、何ていうか……どうでもいいんじゃね?」

男「あれなんか友君冷たくない!?」

友「……」

男「友君変わったね」

男「私何かした!? 言いたいことがあるならはっきり言ってよ! 直すからさあ!」

友「したよ言ったよさっさと直せよ!!!」

男「まあまあ、あそこだけでなく人間性までちっちゃいこと言ってないで、この崇高なる物語の感想を聞かせてくださいよ」

友「崇高な物語なら、小さい人間のコメントなんか気にせず書き進めたらいいだろ」

男「いやいや、できる人間こそ驕らずに下賎なる民の声にも耳を傾けるものだよ」

友「お前は実力もないのに驕る下賎なる民の筆頭だからな」

男「そんなこと言わないで、一端の物書き気取りの友は感想言いたくてしょうがないんだろ? ほらほら」

友「気取ってないから感想言いたくない。以上」

男「いやお願いしますってほんと。もうそろそろラストなんで、このまま進んでいいのかどうかよくわからないんだよ」

友「……なぜ最初からそういう会話ができないんだよ」

友「話の流れ的には、物語の終盤に向かっている感じも出ているからいいと思うけどな」

男「じゃあこのまま……」

友「ただ」

男「ただ?」

友「勇者一行の中で、戦士のキャラが相対的に弱い気がするんだよな」

男「一応、側近との戦いの際に兄弟との死闘を演じさせたぞ。俺のアイディアで」

友「俺のアイディアだろ?」

友「登場回数の話ではなく、キャラとしての深みというか、読み手に訴える情と言うかさ……」

男「う~ん。とりあえず勇者一行といったら4人かなと思って戦士を入れたけど、書いていても戦士にはあまり興味が湧かないんだよな」

友「あー、駄目だわそういうの」

男「作者にだって好みはあるだろ」

友「作者に好みがあるのは分かるけど、物語は読者のものだ」

友「主要登場人物として送り出した以上、その登場人物に感情移入する読者はいるもんだ」

友「そういう読者の前に、『こいつ嫌い』なんて作者のエゴは絶対に許されない。登場人物を世に送り出した作者の責任は全うしなきゃいけない」

男「うーーー……ん」

男「よし、俺の崇高な物語を読む読者のために責任を全うするか!」

友(戦士に感情移入する読者どころか、この物語を読む人すらいねーだろうけどな)

~~~~~~~~~~

衛兵「これは勇者様と戦士様と僧侶様ではありませんか。本日は王宮へ御用ですか? それとも……」

戦士「ああ、王宮への伺うが、その前にな……」

衛兵「はっ、いつものところですね。案内のものを参らせます。しばしお待ちください」

僧侶「ええ、宜しくお願いします」



僧侶「いい風ですね」

案内人「ここはいつもいい風が吹いています。天気もよく、王宮内でも王城以上の一等地ですから」

勇者「眺めもいい」

案内人「王都だけでなく、王城も見渡す高台ですからね。元は王族の離宮だっただけありますよ」

僧侶「では、私はここで。ちょっと話をしたい人がいますので」

勇者「あ、待ってくれ僧侶。俺も行こう」

案内人「そんな離宮を戦没者の墓地にしてしまうなんて、勇者様にはびっくりですよ」

戦士「ああ、戦没者はな、みな平和な世の中を信じて魔王や魔族と対峙してきた者たちなのだ」

戦士「そういう者たちは、誰よりもいい場所で、平和になった王国を見つめる権利がある」

案内人「そういうところに気を配るのが、勇者様の勇者様たる所以なんですかね」

案内人「それにしても、王様のところよりも先に墓地に立ち寄るなんて、我々が同じことをしたら即刻処刑されますよ」ハハハ

戦士「そんなことはなかろう」

案内人「いやいや、不敬罪を甘く見たらいけませんって」

戦士「目の見えるものは自ら目を向ければよい。耳の聞こえるものは自ら耳を傾ければよい。五感の働くものは自ら五感を働かせればよい」

戦士「しかし、志半ばで絶えた者たちにはそれが叶わぬのだ」

戦士「我らは率先して、そういうものたちの目となり耳となり五感とならねばならぬ。それが生き残った我らの責務なのだ。それを不敬というものがどこにいよう」

案内人「それで皆さん、毎日墓地で長い時間を過ごされているのですか……」

戦士「ああ、未来に向かうからこそ、ここにいるものたちに語り掛けねばならぬのだ」

案内人「勇者様たちとここに眠る人たちは一心同体というわけですか」

戦士「この墓地にいるものだけではないぞ」

戦士「墓地にいるものも、生きて王国にいるものも、この平和を勝ち取ったもの全て含めて……」

勇者「この物語の結末は、ここにいるみんなが見たいんだ」

<<おわり>>

~~~~~~~~~~

友「戦士のキャラに深みを与えろと言ったらこれだよ……」

男「え!? え!? 戦士頑張ったじゃん? すげーかっこよく物語まとめたじゃん?」

友「それは主人公の勇者の仕事だろうが!」

友「しかもこれ、既に書いていた物語にあった、台詞の前の『勇者』の部分を『戦士』に置換しただけだろ」

男「そんなことはないぞ。口調も抜かりなく置換したわ」

友「そういう小手先の微調整の話じゃねーよ!」

友「登場回数ではなくキャラの深みの話だっていっただろ? ラストで主人公みたいな役回りを演じたら、キャラが更に意味不明になるだろうが」

友「しかもタイトル回収するために、最後の台詞だけ『勇者』のままにしただろ」

男「うっ……」

友「戦没者との語り合いにいっていたはずの勇者が、何で急に戻ってきてんだよ。おかしいだろ」

友「木を見て森を見ないタイプの一部の読者は、そういうところが気になるとストーリーすら受け付けなくなるんだぞ」

男「まあ最後の最後だから時効でしょ」

友「最後の一行でそれまでのストーリーが全て吹っ飛ぶと言ってるんだよ!」

男「それはちょっと哀しいな」

男「じゃあ、次回作にはこのSSの反省を生かすよ」

友「次回……作……?」

男「ああ、感動モノの大長編SSだ」

男「次回の物語の結末は……」

友「俺はもう見たくもないからな!」

<<本当のおわり>>

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