白雪千夜「名前をつけるなら」 (14)
白雪千夜さんの逆レSSです
「今度、結婚することになってさ」
そいつの口から放たれた言葉を、私は――白雪千夜は、咀嚼するのに時間がかかった
お嬢様と別々になる仕事も最近は増え、こいつに頼ることも多くなってきた。信頼はともかく、芸能プロデューサーとしてのこいつは信用していた
実際、自分がアイドル以前の自分と変わってきたのを実感する。自分の思考回路に新しい選択肢が増えたというか。自分の考え方に幅が出来た。美術作品に感銘を受け価値観が変わるように、私はこいつの手腕によってこれまでとは違う人間になれたのだ
「で、彼女のご両親に挨拶しに行くことになったんだけど……どんな格好が良いかな、カジュアルなのかフォーマルなのか」
そんな、私を変えたこいつは、勝手に他の女のものになろうとしている。胸の奥から吐瀉物がこみ上げるような不快感が、息苦しくなるようにぎゅっと掴まれる感触と共にやってくる
それらはこいつへの怒りへと変わっていった
「……別に、彼女と相談すれば良いのでは? 高校生に尋ねるよりも、お前には彼女がいるのだから。その彼女が、妄想じゃなければだが」
「妄想じゃないって……ほら、待ち受けにしてるけど」
舌に乗る言葉が重い。目に入った女の写真に憎しみを覚える。惚気るようなセリフは、遠くで響いて耳に入りにくい。
徹夜した時のように胸が静かに高鳴る。体中を黒い血液が回るようだ。鼻で息を吸い、二秒ほど肺で溜めてから、吐き出した
ノロケ続ける男を睨む。殺意に近い感情と、泣きたくなるほどの寂しさが同時に私へ訪れた
「ずっと同棲しててさ、この仕事にも理解があるし、趣味も合うし……本当に、出逢えて良かったと思うんだ」
「そうか」
「反応薄くない?」
「他人の恋路や恋愛遍歴にそこまで興味を抱いていない。」
歯の浮くようなセリフを私に向けるな。誰かを口説いた舌で私に言葉を投げるな。だんだんと怒りが高まる。
「私はそろそろレッスンに向かう……が、他のアイドルに観られる前にそのニヤケ顔を直すべきだ」
捨て台詞を吐き、私は部屋を後にした
不快だ。唾がこみ上げてくる。飲み下しても飲み下しても、止まることがない。
レッスン場までの道のりがヤケに遠く感じた。通い慣れだしたというのに。アイツのせいだ。間違いないだろう
不整脈ではないのに、動悸と息切れが止まらない。これもアイツのせいだ。アイツが私やお嬢様を新しい世界へ導いたのに、もう戻れなくなってしまったのに、他の女と一緒になろうとしているせいだ。
初めて得た不快な感情に、とりあえず「怒り」「憤り」「寂しさ」「不安」と知ってる言葉を総動員してラベルを貼って、整理した
翌日。所用があり、遅くまでレッスンが長引いた。時刻は9時。お嬢様はちゃんと食事を取られただろうか。先ほど連絡した限りは大丈夫そうだが
「……ん?」
すきま風が通るような音がする。しかしそれが規則的で、かつ湿った音であると知り、寝息だと把握する。この時間、事務所に残り寝息を立てるような人間など一人しかいないだろう
明かりが落ちて、暗くなった部屋を忍び足で進む。踵から着地するようにして、音を消しながら歩いた。……なぜ私は、起こさないように注意を払いながら歩いているんだ? いますぐたたき起こして机に向かわせてもいいだろうに
寝息の元、ソファの上を見下ろす。ブランケットを被った、プロデューサーの姿があった。スーツの上着は見当たらない。きっと脱いだのだろう
もぞもぞと、寝返りを打つ。ブランケットに隠れていた右手が出てきた
「…………」
銀色に輝くものがあった。それが右手薬指にはめられる意味を、知らないわけではない。知っているから、余計に胸がざわつく。昨日まではしていなかっただろう、これは。ああそうか、私に言ったからか? プロポーズ前の前哨戦に、ペアリングでも送り合ったのか? 彼女に相談して、まずはという形で。妄想の域を出ないが
ラベリングして仕分けたハズの感情が再燃する。小分けにしたものが全部纏まって、私の身体の隅々まで行き渡った
その黒い感情が、私を突き動かした
頭では理解していることに、身体が無視して動く。男の眠りが浅いことを確認した後、起こさないように細心の注意を払いながらネクタイをほどいた
しゅる、しゅると、外していく音が寝息と寝言に混じる。寝言で誰かの名前を呼んでいた。同じように指輪をはめた女の名前だろう。ああ腹が立つ
万歳させるように両手を挙げさせ、手首を縛る。起こさないように、慎重を期してタスクをこなしていく。胸はざわざわして、頭の中もグチャグチャなのに、身体はこれまでの人生で一番と言って良いほどの動きをする。
思考を放棄して、ただ自分が動きたいと願ってるように身体を使う
ネクタイで手首を縛った後、ブランケットをどける。体勢が変わって寝苦しそうだ。ここからは急いで事を進めなければ
スラックスのベルトを、金属音を立てないように外していく。チャックを下ろし、膝までの肌を露出させる。ボクサーパンツは汗で蒸れていて、男の匂いを凝縮したような感じがした
自分が今何をしているのか、何を求めているのか、頭で理解しても身体が止まらない。溶岩が煮立つように、グツグツと思考が煮え、解けていく。何も考えられず、ただ本能のまま、動きたいままに求めていく
パンツを下ろし、性器を露出させた。一層匂いは強くなる。が、私はこの匂いが嫌いではないようで、鼻の奥まで吸い込んで堪能した
まだ柔らかな性器を指先でつまむ。茹できらず、芯が残ったパスタを太くした感触だ。指先の力加減を強くしたり、弱くしたりして、刺激を与える
性器は徐々に指の中で太さと堅さを得ていく。手のひらで輪を作り、そこにはめた後、扱くようにして動かした
勃起したそれを凝視する。グロテスクで、UMAでも観ているかのようだ。
上の方から聞こえる寝息は、間隔を短くし始めた。もうすぐ目覚めるのだろう、とこの状態であいつが目を醒ましたときに発生するトラブルを理解はすれど、そこで終わる
性器の先、切れ込みから透明な期待が出てきた。カウパーというやつだろう。人差し指で触れる。手袋にシミが出来た
「…………生理現象、なのだろうが」
このカウパーは私の与えた刺激に対する反応で、快感を得たという証左ではないのだろう。
手を離す。性器は勃起したままで、上を向いていた
「……」
この性器を見つめていると、会ったこともない女への怒りが加速する。その女はこの男とまぐわい、同棲もして、この男の身体も心も自分のものにしようとしている。それが私は、どうしても許せない
口を開け、勃起したままの性器を咥える。フェラチオ、だとか言うやつだ。なにぶん初めてなので上手に行くハズもないが、奉仕するようにこいつの性器をねぶり上げる
喉の奥まで性器を咥え込むと男臭さが鼻を通り抜けていく。口の中で唾液が分泌されるのがわかった。排泄器を咥え込んでいるだけだというのに、私の身体はおかしいのだろうか
舌を動かして、包皮と亀頭の間を味わう。決してよいものではない、なんとも言えない味が口の中に広がった
「……っ、ん? うあ、あれ、千夜、えっ、なっこれ!?」
こいつの味で脳が溶けそうになっていた私を、こいつの声が引き戻した。目が覚めたようだ。
私は名残惜しくも性器から口を離し、ソファから男が落ちないように、また抵抗しないように腹の上に座り込んで押さえつけた
「ち、千夜……なにをして、おい、なあ……」
「……」
「何か言ってくれよ、これ外してくれって、どいてくれよ、なあ!」
抵抗出来ずに必死な視線を向けられる。成人男性といっても、デスクワークで鈍った身体ではレッスンをしフィジカルが向上したアイドルには力負けをするようだ。まあ、寝起きで手首は縛られ、腹の上に乗っかられたら抵抗出来る人間の方が少ないだろうが
しかし、こうも弱く、希うようなこいつの姿や声色が、私をゾクゾクとさせる。
身じろぐと、自分の下半身が濡れていることに気がついた。性器を舐めているときは夢中で気がつかなかったが、私は興奮をしているらしい
やめてくれ、退いてくれと懇願するこいつの言葉をBGMに、クロッチ部分に大きなシミが出来たパンツをズラし、性器と性器を触れ合わせた
腰を落として、私のナカへこいつの半身を埋め込む。裂けていく痛みがあった。スカートで見えないが、きっと出血しているだろう。初めては痛みを伴うと聞くが、想像以上だ。しかし、耐えられないというわけでもない
見下ろしながら、自分の下で屈する男を眺める。自分が否応なく満たされていく実感を抱く。
腰を上下に動かし、性器と性器で深く繋がりあう。痛みも、快感の方が強くて忘れてしまうくらいに気持いい
粘膜と体液が擦れ、ばちゅばちゅと軽い音が響く。自分の呼吸が荒くなっていく
頭のどこかではまだ警鐘が鳴っていて、この行為を止めさせようと命令を送り続けている。そんな『やめるべき理由』をじかくしたままに男を貪る行為が感動を覚えるほど心地よかった
「千夜っ……どけ、もう、たのむから……」
犯され、どんどん弱々しくなっていくこいつの姿が愛おしく、下腹部から伝わる快感がより強くなる。自分だけのものに出来た、他の女の手に渡ることなんかない、そういった支配するような快感に似ていた
ああそうか。私のコイツへの感情の名前がわかった。怒りでも、不安でも、また恋や愛といったものでもない
執着だ。
こいつが他の女と結ばれることを良しとせず、自分だけのものにしたいという独占欲。自分やお嬢様を変えたこいつが、私達ではない女に目を向ける事への憤り。弱り、懇願する姿を観て得た快感
全て、私のコイツに対する執着なんだ。
誰にも渡さない、誰のものにもさせたくない。そういった妄執であるんだ
あふれ出た愛液が、陰毛と陰毛でかき混ぜられて泡立つ。初めての男根を咥え込んだ膣は収縮を続け、快感を縁得ようとする
「やめてくれ……俺は、もう……」
弱々しく、か細い声をかけられる。こいつがここまで弱った姿なんで滅多に観られない。いいものをみた、と充足感が生まれる
男の願いに無言の無視を決め込んで、腰をピストンしつづける。破瓜の傷みはもうどこかへ消えた。何度か身体が痙攣している、軽い絶頂を繰りかえしているのだろう
全身は汗で滲んで、口はだらしなく半開きになり唾液が垂れる。快感で身体が溶け、こいつと一つに溶け合うような錯覚が来る
その男は、私の下で何かをいっている。遠くてよく聞こえないが、もうそろそろ射精する、取り返せなくなると叫んでいるようだ
もう後戻りなんか出来ないところにいると言うのに、何を言っているんだろう。いっそうピストンのスピードを上げた。あの女には一切渡せなくなるほど搾り取ってやる、と本能が身体を突き動かす
男の表情が歪む。私の膣内で男性器が跳ね、ピクピクと痙攣する。下腹部に、愛液とは違った熱を持ったものが注ぎ込まれている感覚が生まれる
絶頂したらしい。年下の、未成年の、担当アイドルに犯されて快感に負けてしまった、と身体の下の男は照明したようだ
身体の痙攣と脳のまどろみがある程度落ち着いてから、男性器を引き抜いた。膣口から精液が零れ、ソファにぽとりと音を立てた。
「ううっ……なんで、千夜、なんでこんな……」
情けなく射精した男は、まだ何か言っている。もう何を言おうと、私がしたことが消えて無くなるわけではないのに
肉体関係をむりやり結んでしまったことに、一切後悔をしていないと言えば嘘になる。しかしそれ以上に、ソファに垂れた精液が私の心を躍らせた。
下腹部に残る熱を愛おしく思いながら、私は男の右手薬指から銀色を外した。
【終わり】
突発的でしたが読んでいただきありがとうございます
シンステ8にて頒布した同人誌の委託をしております、興味がありましたらぜひ
https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=643975
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