【艦これ】ブサ督「イケメンに限るって……真理だよな」(955)

※注意事項
自分は艦これ改しか知らない提督です。
話の都合上、艦娘の幾人かはゲスいです。
また割と艦娘が轟沈します。
気まぐれ投下。
これらが嫌な方はブラウザバックしてください。



―――――――――――







     ビュオオオオオオオッ…









.


北方鎮守府 食堂


     ズズッ ズルズルズルッ

ブサ督「ふう……あ、間宮」

ブサ督「天ぷらそばお代わり」

間宮「はい。かしこまりました」

ブサ督「おう」

     テク テク テク…

ブサ督「…………」

     バサッ…(新聞広げ)

ブサ督(…………)

ブサ督(……イケメン提督、南方で快進撃)

ブサ督(同海域の制圧間近……)


ブサ督(…………)

ブサ督(快進撃……ねぇ)

ブサ督(そんなに上手く行ってるのなら)

ブサ督(俺のところの艦娘を出向させたのは何故なんだよ……)

ブサ督(…………)

ブサ督(しかも大本営に出向させた艦娘の安否を聞いても答えないし)

ブサ督(なんで軍部に居る俺が新聞でしか戦況把握出来ないんだよ……)

ブサ督(…………)

ブサ督(……だが)

ブサ督(俺に出来る事なんて、現状維持が精一杯)

ブサ督(どうしたもんかな……)


    ガチャンッ

ブサ督「!」

利根「…………」

ブサ督「ビックリした、利根か……」

ブサ督「せめて、座る前にひとこと声を」

利根「話しかけるな」

ブサ督「…………」

利根「他に席が空いてなかったから座っただけじゃ」

ブサ督「…………」

間宮「お待たせしました、ブサイク提督」

間宮「追加の天ぷらそばです」

     コトッ

ブサ督「ありがとう、間宮」

間宮「いえ」


利根「…………」

ブサ督「……さて、熱い内に食うか」

     ズズッ ズルズルズルッ

―――――――――――

執務室


ブサ督「天龍、遠征ご苦労」

天龍「……おう」

ブサ督「そうだ、良かったらお茶でも」

天龍「んじゃ、下がらせてもらうぜ」


ブサ督「……そうか」

天龍「ふん……」

     ガチャ キィ パタン

ブサ督「…………」

大淀「これで……本日の仕事はお終いですね」

ブサ督「そ、そうか」

ブサ督「なら大淀、時間まで――」

大淀「少し早いですが、私も上がってよろしいでしょうか?」

ブサ督「……そうだな」

ブサ督「もういいぞ、大淀」

大淀「ありがとうございます、ブサイク提督」

大淀「失礼します」

ブサ督「ああ……」



―――――――――――


ブサ督「はあ……」

ブサ督「…………」

ブサ督(……なんで俺、ブ男に生まれたんだろ)

ブサ督(…………)

ブサ督(……イケメン提督ほどで無くていいから)

ブサ督(並みの顔で生まれたかった……)

ブサ督(…………)

ブサ督(かーちゃんに孫は諦めるって言われたくらいだし)

ブサ督(鏡見て自分でも女だったら絶対に避けるわって思うレベルだしなぁ……)


ブサ督(…………)

ブサ督(もう寝よう……)

ブサ督(…………)

ブサ督(…………)

ブサ督(せめて……夢の中でくらい)

ブサ督(モテたいなぁ……)

ブサ督(…………)


―――――――――――

艦娘兵舎 談話室


利根「今日はツいておらんかった」

筑摩「あらあら利根姉さん、不機嫌ですね~」

筑摩「どうしたんですか~?」


利根「食堂でブサイク提督の隣に座る羽目になってのう」

筑摩「あらまあ……それは災難でしたねぇ」

利根「うむ」

利根「いつも通り、気持ちの悪い いやらしい目つきで」

利根「我輩を見てきてのう……」

利根「ああもう……思い出すだけで虫唾が走る!」

筑摩「ほんと、気持ち悪いですよね~」


天龍「まったく……なんであんなのが指揮官なんだか」

天龍「俺は遠征要員じゃねーっての!」

天龍「ブ男なのは別にしても仕事くらいちゃんとしろってんだ!」

天龍「つーか、俺を戦いに使え!」

大淀「…………」


天龍「なあ、大淀。お前もそう思うだろ?」

大淀「……仕事はきちんとしてますよ? あの人」

天龍「え?」

大淀「天龍さんを前線に出さないのは」

大淀「一定の練度に達していないからで、他意はないって言ってました」

天龍「…………」

天龍「で、でも、それならもっと演習でも何でもやらせてくれりゃあ」

大淀「それも物資不足でしょうがない所はあるんですよ」

大淀「だから天龍さんに遠征を頑張ってもらってるんだと思います」

天龍「…………」

大淀「けど……秘書艦の立場から言わせて貰うと」


大淀「やっぱり作戦は拙いですよね」

天龍「だよな!」

大淀「先日もなぜ途中で進撃を中止して引き上げたのか」

大淀「大淀には理解できません」

大淀「あのまま行けば、おそらくあの海域は手中に収められたはず」

天龍「……かぁ~」

天龍「マジで良いとこ無しの無能なのかよ……あいつ」

大淀「それに太ってて脂ぎってますし……」

大淀「生理的に受け付けないです……」

天龍「はあ……」

天龍「イケメン提督の鎮守府へ出向した連中が羨ましいぜ……」

大淀「いまごろ、どうしているんでしょうね……」



―――――――――――


大本営


大将「……またこんなに戦力を失ったのか」

イケ督『いや、お言葉なんですが』

イケ督『増援で来た艦娘たちの動きが悪くて……』

イケ督『いつもの様な生きの良い艦娘ならここまで酷くは』

大将「練度を考えんか! このバカ者!」

イケ督『そ、そんな事を言われましても』

イケ督『深海棲艦の奴ら、最近活発に行動するようになってまして』

イケ督『そこかしこから沸いてくるんですよ……』

大将「…………」


大将(ちっ……この無能め)

大将(報道で海軍の顔として役に立っているのは良いが)

大将(その他は並以下の対応力しかない)

大将(下手に地位を与えているから、参謀の言う事もまったく聞かんし)

大将(どうしてくれようか……!)

イケ督『……大将閣下?』

大将「!」

大将「……何でもない」

イケ督『左様ですか』

イケ督『それで、これからどうすれば良いでしょう?』

大将(できるなら今すぐ死ね!と言ってやりたいわ!)

大将「……そうだな」

大将「…………」


大将「とにかく、今は現状維持に努めておけ」

大将「無闇やたらに出撃をせず、艦娘の練度を少しでも上げる事に徹しろ」

イケ督『はあ……報道にはどう説明しましょう?』

大将「進撃し続けて疲弊しているので、しばらく休養するとでも言えばよかろう」

イケ督『分かりました』

大将「くれぐれも大損害を被った事は言うなよ?」

イケ督『了解です』

大将「では……今後の方針が決まり次第、追って連絡する」

イケ督『はい。失礼します』

     ブッ… ツー ツー

大将「…………」


―――――――――――

数日後

北方鎮守府 執務室

     ジリリリリンッ ジリリリリンッ

     ガチャ

ブサ督「はい……ブサイク提督ですが」

ブサ督「これは大本営の……はい……はい……」

ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「……は?」

ブサ督「ちょっと待ってください」

ブサ督「こちらの戦力もぎりぎりなので、今、練度の高い艦娘に抜けられては……」

ブサ督「い、いえ、その重要性は分かります」

ブサ督「しかし先月もイケメン提督の鎮守府に派遣したばかりではないですか?」

ブサ督「…………」


ブサ督「……で、ですが、いくら何でも急な話で酷すぎるのでは」

ブサ督「こんなに頻繁に我が鎮守府から戦力を持っていくのはあんまりです」

ブサ督「それに」

ブサ督「出向した我が鎮守府の艦娘はどうして居るのですか?」

ブサ督「なぜ連絡をさせてもらえないので?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……ええ、ですからその重要性は理解しています」

ブサ督「私が言いたいのは、我が鎮守府は」

ブサ督「無限に戦力の出る魔法の壷などではないということで――」

ブサ督「っ!」

ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「反逆罪ですと?」


ブサ督「失礼を承知で申しますが」

ブサ督「何と言われようとも、これ以上イケメン提督の鎮守府に」

ブサ督「我が鎮守府の艦娘を差し出す事は出来ません」

ブサ督「これは相対的な……ええ、ですから」

ブサ督「防衛の為に必要最低限の戦力という意味で」

ブサ督「我が鎮守府はぎりぎりの状態なんです」

ブサ督「…………」

ブサ督「……無理です」

ブサ督「…………」

ブサ督「では言い直しましょう。不可能です」

ブサ督「何と言われ様ともこれ以上、戦力低下されての戦線維持は自分に不可能です」

ブサ督「無い袖は振れません」


ブサ督「…………」

ブサ督「……左様ですか」

ブサ督「そういう事でしたらいっその事」

ブサ督「私とイケメン提督を入れ替えてみてはいかがでしょう?」

ブサ督「あなたのおっしゃる通りなら」

ブサ督「我が鎮守府の現在の戦力で北方海域は」

ブサ督「イケメン提督の手腕で平定できるのでしょう?」

ブサ督「無能な私と違って」

ブサ督「…………」

ブサ督「無理を言うな?」

ブサ督「さっきからそれを言ってるのは大本営直属のあなたの方だ」

ブサ督「…………」


ブサ督「でしたら」

ブサ督「あなたが指揮をとってみたらいいのでは?」

     ブッ… ツー ツー

ブサ督「…………」

ブサ督「……へっ。切りやがったか」

     チンッ

ブサ督「…………」

ブサ督「愛宕……高雄……飛龍……蒼龍……」

ブサ督「扶桑……山城……妙高……足柄……」

ブサ督「計8人」

ブサ督「今、生きてるのか……死んでるのかすら」

ブサ督「大本営は教えてくれない」

ブサ督「…………」

ブサ督「元気で……居てくれてるといいのだが……」



―――――――――――


西方鎮守府 執務室


     ジリリリリンッ ジリリリリンッ

     ガチャ

フツ督「はい、こちら西方方面艦隊鎮守……」

フツ督「ああ、これは大将閣下」

フツ督「どうされました?」

フツ督「…………」

フツ督「……ほう。左様ですか」

フツ督「増援の要請は理解しましたが、現在、西方方面にて」

フツ督「深海棲艦どもが不穏な動きを見せていまして」

フツ督「…………」


フツ督「はい、緊急性は理解しております」

フツ督「こちらとしても出来るだけ早く増援を送れるよう努力していきますが」

フツ督「なにとぞ、大将閣下にもその辺りをご理解していただきたく」

フツ督「…………」

フツ督「はい、現在情報収集に全力を挙げているところで」

フツ督「西方鎮守府の艦娘総動員、という有様でして」

フツ督「南方への増援は少々お時間をいただきたいのです」

フツ督「…………」

フツ督「はっ……まことに申し訳ありません」

フツ督「これからは大将閣下のご期待に添えるよう、一層粉骨砕身努力して参ります」

フツ督「それでは」

     チンッ…

フツ督「…………」


龍田「今の……大本営からかしらぁ?」

フツ督「ああ」

龍田「うふふ」

龍田「深海棲艦の不穏な動き、ねぇ」

フツ督「ウソは言ってないだろ?」

龍田「確かに」

龍田「でも全力で、とか、艦娘総動員、とかはぁ?」

フツ督「言葉のあやってやつさ」

龍田「うふふ」

龍田「日本語って、便利よねぇ」

フツ督「だな」



―――――――――――

大本営


大将「クソがっ!」

大将「どいつもこいつも使えない奴らめ!」

大将「はあ……はあ……」

大将「…………」

大将(……ようし)

大将(癪に障るが、あのブ男の言う通りにしてやろう)

大将(くくく……せいぜい後悔しろ)

大将(この私に逆らった事をな……!)

本日はここまで。
需要あるかなぁ……

そんなに嫌なら整形しろ

>>27
整形費用が8桁&一生メンテナンス費用も掛かるので断念しました。


―――――――――――

さらに数日後

北方鎮守府 執務室


     バサッ…(新聞広げ)

ブサ督(…………)

ブサ督(…………)

ブサ督(イケメン提督、快進撃の疲れから休養……)

ブサ督(…………)

ブサ督(戦線拡大による戦力不足を起こしてたりしてな)

ブサ督(そんな事は無いと思いたいが……果たして)

     コン コン

ブサ督「お……入れ」


     ガチャ

利根「……失礼するぞ」

ブサ督「哨戒任務から帰ったか。お疲れさん」

利根「これが報告書じゃ」つ(報告書)

ブサ督「お、おう」

ブサ督「海の様子はどうだっ」

利根「それ(報告書)に書いておる。読めばわかる」

ブサ督「そ、そうか……」

利根「ではな」

     ガチャ キィ パタン

ブサ督「…………」


ブサ督(き、気を取り直そう)

ブサ督(…………)つ(報告書)

ブサ督(…………)

ブサ督(……うん)

ブサ督(今のところ、異常は無いみたいだな)

ブサ督(一安心だ)

ブサ督「ふう……」

     コン コン

ブサ督「お……入っていいぞ」

     ガチャ

ブサ督「金剛に比叡か」

比叡「…………」

金剛「……演習、終わったネー」


ブサ督「お疲れ」

ブサ督「空母との連携は上手くn」

比叡「問題ありません」

金剛「赤城、加賀と一緒にいつも通りのメニューをこなしたネー」

ブサ督「そ、そうか。 それは良かった」

ブサ督「出来ればくわしく聞かせ」

比叡「少々疲れましたので、下がらせてください」

ブサ督「……ん」

金剛「それじゃ失礼するネー、ブサイクテートク」

ブサ督「ああ……」

     パタン

ブサ督「…………」

ブサ督「……はあ」

大淀(いつもながら……無様ですね)


大淀「…………」

大淀「あ、そういえば……」

大淀「…………」 ゴソゴソ…

大淀「あった」

大淀「すみません、ブサイク提督」

ブサ督「ん?」

大淀「今朝、大本営から書状が届いていたのを失念していました」

ブサ督「書状? 大本営から?」

大淀「はい。 これがそれになります」つ(書状)

ブサ督「……?」つ(書状)


     ビリッ ガサガサ…

ブサ督「…………」

ブサ督「ッ!?」

大淀「どうされました?」

ブサ督「…………」

大淀「提督?」

ブサ督「……出向命令だ」

大淀「ああ、艦娘の」

ブサ督「違う」

大淀「え?」

ブサ督「俺への、だ……」


大淀「あら」

大淀「出向先はどこなんですか?」

ブサ督「南方方面艦隊鎮守府……となっている」

大淀「……え?」

大淀「その鎮守府はイケメン提督が着任しているのでは……?」

ブサ督「そのイケメン提督と入れ替え、となっている」

大淀「!」

大淀(という事は……イケメン提督がここにいらっしゃる!?)

大淀(きゃー!///)

大淀「そ、それで……いつ、なんですか?」

ブサ督「…………」

ブサ督「今日から一週間後……となってる」

大淀「左様ですか」


大淀「良かったですね、提督」

ブサ督「……え?」

大淀「だってイケメン提督が平定した後の海域を守るだけなんですから」

大淀「これほど楽な出向も無いですよ」

ブサ督「…………」

ブサ督「大淀、聞いてくれ」

大淀「さて、これからいろいろと準備しないといけませんね」

大淀「まずは……」

ブサ督「大淀!」

大淀「ひっ」 ビクッ

ブサ督「…………」

ブサ督「怒鳴ったのは謝る」

ブサ督「でも聞いてくれ」


大淀「はあ……」

ブサ督「大淀に……いや」

ブサ督「ここの艦娘ほぼ全員に俺が良く思われてないのは分かっている」

大淀「…………」

ブサ督「だから、信じてもらえないかもしれない」

ブサ督「ただの僻(ひが)みと思うかもしれない」

ブサ督「それでも、ひとこと言っておく」

大淀「…………」

ブサ督「イケメン提督の指揮には疑問が生じる」

大淀「…………」


ブサ督「大淀も知っているだろうが」

ブサ督「勝っていながら、何故戦力を欲しがるのか」

ブサ督「また、俺は何度と無く出向した艦娘の安否を大本営に尋ねているが」

ブサ督「曖昧に対応されて一向に答えてくれない」

大淀「…………」

大淀「……何がおっしゃりたいのでしょうか?」

ブサ督「だから、そこから推測すると」

ブサ督「新聞報道はでたらめで、実際には相当の被害を受け」

ブサ督「それを覆い隠すため、世間受けのいい」

ブサ督「イケメン提督を前面に出しているんじゃないかと思う」

大淀「…………」

ブサ督「つまり」


ブサ督「この出向話は、イケメン提督の失態を」

ブサ督「全部俺に押し付けるための辞令ではないかと俺は思うんだ」

大淀「…………」

大淀「……すみませんが」

大淀「ちょっと信じがたい推測ですね」

ブサ督「…………」

大淀「戦力についても戦闘行為があったのなら損害は付き物ですし」

大淀「こう言っては大変失礼ですが」

大淀「ブサイク提督が大本営に失態を押し付けられる……」

大淀「もっと言いますと、嫌われる原因を作っているのも」

大淀「問題なのではないでしょうか?」

ブサ督「…………」


大淀「いずれにしても」

大淀「辞令が下った以上、出向は確定していますし」

大淀「準備をなさった方がよろしいのでは?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……そうか」

ブサ督「確かに……その通り、だな」

大淀「わかってもらえましたか」

ブサ督「では、その準備は大淀に一任する」

ブサ督「必要な事があれば言ってくれ」

大淀「了解です」

大淀「それでは、ちょっと失礼しますね」

ブサ督「ああ……」


     ガチャ キィ パタン

ブサ督「…………」

ブサ督(なんか……もう)

ブサ督(どうでも良くなってきたな)

ブサ督(…………)

ブサ督(…………)

ブサ督(あとは……)

ブサ督(俺の推測がまったくの見当違いである事を)

ブサ督(祈るのみ……か)

ブサ督(…………)


―――――――――――

一週間後

北方鎮守府 執務室


大淀「忘れ物は無いですか?」

ブサ督「……ああ」

大淀「それでは、南方鎮守府でも頑張ってくださいね」

ブサ督「分かっている」

ブサ督「それからな、大淀」

大淀「はい」

ブサ督「…………」 ゴソゴソ…

ブサ督「これを渡しておく」つ(書類)


大淀「これは……?」つ(書類)

ブサ督「俺が考えた防衛作戦の一覧だ」

ブサ督「状況や地形、戦力等で分類してある」

大淀「は?」

ブサ督「もし……万が一」

ブサ督「イケメン提督の指揮に疑問が生じたら」

ブサ督「参考にしてくれ」

大淀(…………)

大淀(この人は……どこまで見栄っ張りで僻(ひが)み根性丸出しなんでしょう)

大淀「……了解しました」

大淀「そうだ、最後に質問してもよろしいでしょうか?」

ブサ督「なんだ?」


大淀「いつだったかの侵攻作戦」

大淀「突然撤退を指示されて腑に落ちなかったのですが」

大淀「どういう意図があったのでしょう?」

ブサ督「…………」

ブサ督「あの作戦目的の泊地は、危険だと判断しただけだよ」

ブサ督「侵攻の道中も抵抗が少なかったし……」

ブサ督「泊地付近には無数の孤島や岩礁が存在する」

ブサ督「自分が敵の立場なら、敵を誘い込んで」

ブサ督「一気に包囲殲滅するのに最適な場所だと思ったんだ」

大淀「え……」

ブサ督「攻められて困る場所ってのは、たいてい抵抗が強くなる」

ブサ督「これは戦術・戦略の基本だよ」

大淀「…………」


ブサ督「もっとも……それを利用する奴もいるだろうから」

ブサ督「一概に言い切れないところではあるがな」

大淀「…………」

ブサ督「納得したか?」

大淀「は、はい」

ブサ督「そうか」

ブサ督「それじゃあな……」

大淀「…………」

     ガチャ キィ パタン

大淀「…………」


大淀「…………」

大淀「…………」つ(書類)

大淀「…………」つ(書類)

大淀「……まあ」

大淀「保険はあっても困らない……ですよね」

大淀「たぶん必要ないでしょうけど」

大淀「…………」

大淀「この引き出しの奥にでもしまっておきましょう」

     ごそごそ

大淀「うん」

大淀「これでよし、と」

大淀「さ、歓迎会場に行かなくちゃ!」


     テク テク テク

ブサ督「…………」

     デー、イケメン提督ッテー

     キャー キャー

ブサ督「…………」

     テク テク テク

ブサ督「…………」

ブサ督「!」

ブサ督「…………」

ブサ督(……イケメン提督、歓迎会会場)

ブサ督「…………」

ブサ督「……へっ」


     テク テク テク

ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「あ……」

ブサ督「金剛、比叡……」

金剛「それでもう楽しみデー……あ」

比叡「ブサイク提督……」

ブサ督「…………」

金剛「何かご用ですカー?」

ブサ督「……そうだ」

比叡「いったい何用です?」

ブサ督「……今さっき、大淀に」

ブサ督「俺が考えた防衛作戦の一覧を渡しておいた」


金剛「はあ……」

比叡「左様ですか」

ブサ督「…………」

ブサ督「……もし、イケメン提督の指揮に疑問が」

金剛「たぶん無いと思うネー」

比叡「ええ。私もそう思います」

ブサ督「…………」

ブサ督「……そうか」

金剛「それじゃ、南の鎮守府でも頑張ってくだサイネー」

比叡「さようなら、ブサイク提督」

ブサ督「……ああ」


―――――――――――

北方鎮守府 正面玄関付近


     テク テク テク

ブサ督「…………」

     テク テク テク… ピタ

ブサ督「…………」

ブサ督(見送りも無し……か)

ブサ督(…………)

ブサ督(…………)

ブサ督(……南方鎮守府でも)

ブサ督(こんな扱いなんだろうな……たぶん)

     テク テク テク…



―――――――――――


北方鎮守府

イケメン提督 歓迎会会場


     ポンポンッ ポンッ

大淀「イケメン提督、北方方面艦隊鎮守府へようこそ!」

大淀「艦娘一同、心待ちにしておりました!」

イケ督「おおっ、これはこれは……」

イケ督「こんなに熱烈な歓迎をして貰えて嬉しいよ」

イケ督「ありがとう」 ニコッ

大淀「い、いえ///」


金剛「イケメンテイトクー!」

金剛「私は金剛ネー!」

金剛「これからどんどん活躍するから、期待してくだサーイ!」

比叡「もう、お姉さまったら、子供みたいにはしゃいで……」

イケ督「ははは、まあいいじゃないか」

イケ督「もちろん当てにさせてもらうよ」

天龍「おい! 俺も活躍させろよ!?」

天龍「前の提督の下じゃ遠征ばかりさせられて、もううんざりなんだよ!」

イケ督「ああ、安心してくれ天龍」

イケ督「必ず君の期待に答えよう」

天龍「うっしゃあ!」

     ハハハハハハ…


長門「…………」

陸奥「…………」

翔鶴「…………」

瑞鶴「…………」

鈴谷「…………」

熊野「…………」

利根「ん?」

利根「何じゃお主ら。 見たところ艦娘のようじゃが」

利根「イケメン提督の艦娘か?」

長門「……ああ」

利根「そうか。 ならばこれからは仲間じゃな」

利根「我輩は利根じゃ。 よろしく頼む」


長門「……よろしく。 長門だ」

利根「ほう。 かの有名なビック7とはお主の事……」

長門「すまないが」

利根「!」

長門「疲れたので部屋を用意してもらいたい」

利根「そ、そうか」

利根「それは気が効かずに済まない事をした」

利根「大淀!」

大淀「はい?」

大淀「利根さん。 何でしょう?」

利根「こやつらはイケメン提督直属の艦娘なのじゃが」

利根「疲れていると言うので部屋へ案内しようと思ってな」

利根「部屋番号を……」

大淀「……私は何も聞いてませんが」


利根「……何?」

大淀「ですから、新しい艦娘が来る、などとは聞いていませんが……」

利根「そうなのか?」

長門「…………」

利根「しかし……現にああして来ているのだし」

利根「何かの手違いではないのか?」

大淀「かもしれませんね……」

大淀「ともかく、イケメン提督に事情を聞いて」

イケ督「私がどうかしたのかい?」

利根「おう、イケメン提督。 実は……」


―――――――――――

イケ督「ああ、そうだったか」

イケ督「確かに急遽決まったからね……」

イケ督「連絡が追いつかなかったのだろう」

利根「やはりか」

イケ督「さっそく迷惑をかけてしまって申し訳ない」

イケ督「事情が事情だから、急ごしらえの部屋でも」

イケ督「私の艦娘は文句を言わないだろう」

イケ督「彼女達の部屋を用意してくれるかな?」

大淀「はい。 分かりました」

大淀「お安い御用です」

イケ督「頼もしいね。 これからもよろしく頼むよ」

大淀「はい///」


望月「…………」

望月「ねえ、天龍」

天龍「あん?」

望月「ブサイク司令官の送迎会はいつやったの?」

天龍「やるわけねーだろ、んなもん」

望月「えっ」

天龍「来る日も来る日も遠征、哨戒、演習ばっかで」

天龍「前線に立たせてくれねーし」

天龍「たまーに出撃したかと思えばすぐ撤退命令出すし」

天龍「そんな腰抜けで、おまけにブ男な司令官の送迎会なんて必要ないない」

望月「…………」



北方鎮守府 正面玄関付近


     ビュオオオオオオ…


望月「…………」

文月「望月」

望月「……文月」

文月「こんなところで何してるの?」

文月「風邪引いちゃうよ? 中に入ろう?」

望月「…………」

望月「……そうだね」

     ギィ… パタン

望月「…………」


望月「ねえ、文月」

文月「うん?」

望月「ブサイク司令官って……」

望月「そんなにダメな司令官だったのかな……?」

文月「……さあ」

文月「文月には分からない」

望月「……そう」

文月「…………」

文月「でも文月は、嫌いじゃ無かったよ」

望月「!」

望月「ほんと?」


文月「うん」

文月「……天龍の前じゃ言えないけどね」

文月「艤装の事とか相談したら、ちゃんと聞いてくれたし」

文月「時々飴ちゃんくれるし」

望月「ふふふ、そうだね」

望月「よくくれたね、飴ちゃん」

文月「あはは」

望月「…………」

文月「…………」

望月「また……会えるよね?」

文月「うん。きっと会えるよ」

望月「うん……そうだよね」

本日はここまで。

>>57修正↓


望月「…………」

望月「ねえ、天龍」

天龍「あん?」

望月「ブサイク司令官の送別会はいつやったの?」

天龍「やるわけねーだろ、んなもん」

望月「えっ」

天龍「来る日も来る日も遠征、哨戒、演習ばっかで」

天龍「前線に立たせてくれねーし」

天龍「たまーに出撃したかと思えばすぐ撤退命令出すし」

天龍「そんな腰抜けで、おまけにブ男な司令官の送別会なんて必要ないない」

望月「…………」

続きを始めます。



―――――――――――


3日後

南方鎮守府 正面玄関付近


ブサ督「はあ……はあ……はあ……」

ブサ督「ふうぅぅぅ……」

ブサ督「…………」

ブサ督「あっつうぅぅ……」

ブサ督「デブには辛い地域だ……」

ブサ督「…………」

ブサ督「はい、出迎えも特に無し、と……」



―――――――――――


南方鎮守府内


     テク テク テク

ブサ督「…………」

ブサ督(……建物の構造はだいたい同じだな)

ブサ督(という事は執務室は……)

ブサ督「!」

ブサ督(第一艦娘発見!)

ブサ督(……などとお茶らけた雰囲気は出せない様子)

ブサ督「…………」 コホン

ブサ督「あー……そこの艦娘」


?「……ん?」

?「誰……なのです?」

ブサ督「本日付でここの司令官に任命されたブサイク提督だ」

?「ああ……そういえば、そんな話ありましたね」

ブサ督「…………」

ブサ督「すまないが執務室まで案内を……」

ブサ督「おっと、その前に君の名前を教えてくれ」

?「……電(いなずま)といいます」

ブサ督「そうか、よろしくな、電」

電「執務室ですね……」

電「こちらになります」

ブサ督「…………」



―――――――――――


南方鎮守府 執務室前


電「このお部屋が執務室になります」

ブサ督「ありがとう」

電「いえ」

電「それでは……」

     テク テク テク…

ブサ督「あ……」

ブサ督「…………」

ブサ督「まあいいか……」

     ガチャ


??「!?」

??「誰だ!?」

ブサ督「御挨拶だな……」

ブサ督「本日付でここの司令官に任命された」

     キィ… パタン

ブサ督「ブサイク提督だ」

??「ああ……あんたが後任の」

ブサ督「……お互い色々思うところがあるみたいだが」

ブサ督「とりあえず名前を教えてくれないか?」

??「そうだね……それは失礼だったねブサイク提督」

??「私は川内」

川内「ここの秘書艦をやってる」


ブサ督「そうか」

ブサ督「では……何か言いたい事があるのなら言ってみてくれ」

川内「……言いたい事?」

ブサ督「そうだ」

川内「…………」

川内「く……くくく」

川内「ふふ……ふふふふっ……」

川内「あははははははははははっ!」

ブサ督「…………」

川内「じゃあ、言わせて貰うけどね」

川内「地獄へようこそ!としか」

川内「言いようが無いね!」


ブサ督「…………」

ブサ督「そうか……」

川内「そうか? そうか、だって?」

川内「そんな言葉で返せる余裕がお有りの様で」

川内「羨ましく思うよ!」

ブサ督「俺に余裕が有る様に見えるのか」

川内「…………」

ブサ督「どうやら俺は、イカサマ師の才能があるみたいだな……」

川内「…………」

ブサ督「……では、現状報告を頼む」

川内「……了解」



―――――――――――


ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督(……覚悟は)

ブサ督(それなりにしていた……)

ブサ督(だが……)

ブサ督(…………)

ブサ督(だがっ!)

     ダンッ!

川内「……ふん」

川内「机にあたっても現状は変わらないよ」

ブサ督「まさか……ここまで酷いとはな……」


ブサ督(ほぼ南方海域全域に広がる戦線)

ブサ督(無計画と言うしかない無謀な侵攻……)

ブサ督(損耗率は6割に達し)

ブサ督(あらゆる物資が底をつきかけている……!)

ブサ督(こんな状況でどうしろと言うんだ!!)

川内「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「……川内」

川内「何?」

ブサ督「補充で来た北方鎮守府の艦娘は」

ブサ督「どうなったか分かるか?」


川内「…………」

川内「悪いけど知らない」

川内「あたしも前回の作戦前に来た補充の艦娘だからね……」

ブサ督「そうか……」

ブサ督「…………」

ブサ督(配置・未配置の艦娘の中に)

ブサ督(あの8人の名前は……無い)

ブサ督(…………)

ブサ督(そういう……こと、なのだろうな……)

川内「…………」

川内「……大事な艦娘だったのかい?」

ブサ督「…………」

ブサ督「もう……わからん」


川内「わからない?」

ブサ督「今は……いろんな感情が渦巻いてて……」

ブサ督「悲しいのか、悲しくないのか」

ブサ督「空しいのか、腹立ってるのか……」

ブサ督「もう……訳がわからん」

川内「ふうん……そう」

川内「ともかく、現状は今、説明した通り」

川内「あんたはここの司令官。 命令には従う」

ブサ督「……頼もしいお言葉で」

川内「あの顔だけ提督よりマシなら、もうそれでいい」

川内「よろしく頼むよ、ブサイク提督」

ブサ督「……出来るだけ期待に答えよう」


ブサ督「では、さっそくだが」

ブサ督「鈴谷と熊野を連れてきてくれ」

川内「……居ないよ」

ブサ督「……は?」

川内「その二人だけじゃない」

川内「鈴谷、熊野、戦艦の長門と陸奥、正規空母の翔鶴、瑞鶴の計6人は」

川内「顔だけ提督が北方鎮守府に連れて行った」

ブサ督「…………」 クラッ…

川内「…………」

ブサ督「……めまいがした」

川内「きっと……暑さのせいだね」

ブサ督「そうだったなら、どれだけいいか……」


ブサ督「……はあ」

ブサ督「もう嘆いてもしょうがない」

ブサ督「現在のこの鎮守府で一番索敵能力に長けているのは?」

川内「たぶんあたしか、暁かな……」

川内「暁は改二だし……」

ブサ督「よし、暁を呼んで来てくれ」

川内「了解」

     タッ タッ タッ…

ブサ督「…………」


―――――――――――

大本営 大将の部屋


     ジリリリリンッ ジリリリリンッ

大将「ん……電話か」

     ガチャ

大将「私だ」

大将「…………」

大将「ああ、南方鎮守府からか」

大将「構わん。 繋げ」

大将「…………」

大将「やあ、ブサイク提督」

大将「そろそろ掛かってくる頃だと思っていた」

大将「南方鎮守府の居心地はどうかね?」

大将「ハッハッハッ!」


ブサ督『……笑っていられるのも今の内だけです、大将閣下』

大将「何?」

ブサ督『あなたが私を敗軍の将として糾弾する為に』

ブサ督『今回の人事を仕組んだのは分かりますが』

ブサ督『このままだと、私の首だけでは済まない可能性が高い』

大将「…………」

大将「ふん。 何が言いたい?」

ブサ督『簡単に説明しますとね』

ブサ督『現在の南方鎮守府は、主力艦娘不在』

ブサ督『残存戦力は軽巡級・駆逐級艦娘二十数人という有様』

ブサ督『おまけにあらゆる物資が底をつきかけている』

大将「!?」

ブサ督『こんな状況では、南方鎮守府は陥落寸前と言う外ありません』


大将「ま、待て!」

大将「主力艦娘が不在とはどういう事だ!?」

大将「それに物資もそこそこは……」

ブサ督『秘書艦の話だと、イケメン提督が連れて行ったとの事です』

ブサ督『推測ですが物資もついでに持って行ったのでしょう』

大将「」

ブサ督『現状の把握はできましたか?』

大将「あの……無能めがぁっ!」

ブサ督『……その辺の認識は一致するところですが、大将閣下』

ブサ督『私の言いたい事は ご理解いただけましたか?』

大将「う、うむ……」


ブサ督『さしあたり、物資の補給を大至急お願いします』

ブサ督『特に燃料と弾薬・食料は絶対に急がせてください』

ブサ督『鋼材とボーキサイトは多少遅れても構わないですが……』

ブサ督『それでもなるべく急いで手配をしてください』

大将「わ、分かった」

大将「だが……どんなに急いでも最低4~5日程度は掛かる」

大将「それまで持つのか?」

ブサ督『約束なんて出来ませんよ』

ブサ督『深海棲艦たちが浮かれてバカンスでもしてくれる事を』

ブサ督『祈っててください』

大将「…………」

ブサ督『それでは……補給物資が届くのをお待ちしています』


     ブッ… ツー ツー

大将「…………」

大将「…………」

大将「……くそがああああっ!!」

     ガチャン!

大将「はあ、はあ、はあ……」

大将「ちっ……」

大将(だが、あのブ男の言う通りだ)

大将(仮に南方鎮守府が敵に奪取されたら)

大将(南方海域全域を失うも同然……)

大将(当然そうなったら……責任者である私にも批判が……)

大将「……クソッ」


     チンッ…

ブサ督「ふう……」

川内「上手く行ったの?」

ブサ督「たぶんな」

ブサ督「だが物資が届くまで4~5日はどうしても掛かる」

川内「考えたんだけどさ」

川内「遠征で何とかならない?」

ブサ督「遠征にまわす余剰戦力も時間も無い」

川内「でも、だいぶ戦線を切り捨てたんでしょ?」

川内「もういっそのこと全部捨てて鎮守府に立てこもったら?」

ブサ督「それも一つの手だが」

ブサ督「それだと敵の戦力も集中してしまう恐れがある」


ブサ督「そうさせないため、ゲリラ戦を展開する必要があるんだよ」

ブサ督「少数が多数の敵を打ち破るのは容易じゃない」

ブサ督「戦線を引っ掻き回す事で時間も稼げるしな」

川内「へえ……いろいろ考えてるんだね」

ブサ督「とは言っても……」

ブサ督「それに敵さんが乗ってくれればの話」

ブサ督「大群が猪突猛進して、この南方鎮守府を目指してきたら」

ブサ督「それでゲームセット。 お終いだ」

ブサ督「尻尾巻いて逃げるしかない」

川内「そう……」

     コン コン

ブサ督「おう。 入ってくれ」


     ガチャ

電「失礼します」

     キィ パタン

川内「来たね、電」

電「何かご用ですか?」

川内「うん」

川内「あたし、これから任務に出る」

川内「だから電に秘書艦をやって欲しいんだ」

電「……電が、ですか?」

川内「ああ」

川内「安心して、電」

川内「今度来たブサイク提督は見た目キモイけど、割とまともだよ」


ブサ督「…………」

電「えと……川内さん、いくら何でも言っていい事と悪い事が」

ブサ督「……別にいい、電」

ブサ督「自分がブ男なのは毎朝、顔を洗う時に嫌でも自覚するしな……」

電「は、はあ……」

川内「じゃ、ブサイク提督」

川内「川内、暁と共に出撃します!」

ブサ督「ああ……」

ブサ督「頼んだぞ」

     ガチャ キィ パタン

ブサ督「…………」

電「…………」


電「あの……ブサイク司令官さん」

ブサ督「ん?」

電「勝算がお有りなのですか?」

ブサ督「…………」

ブサ督「逆に聞いてしまうが……」

ブサ督「どうしてそんな質問をするんだ?」

電「その……」

電「川内さん、いつもと違って明るい表情でしたので」

ブサ督「そうか……」

ブサ督「それからさっきの質問だけどな」

ブサ督「勝算なんてまったく無い」

電「え……」


ブサ督「これから俺が川内達に指示する作戦は」

ブサ督「時間稼ぎのかく乱戦法だからな」

ブサ督「最初から『勝ち』なんてものは捨てている」

ブサ督「だから、勝算なんてものは無くていいんだよ」

電「…………」

ブサ督「理解できないか?」

電「いえ……でも、だとすると……」

ブサ督「すると?」

電「ブサイク司令官さんのせいじゃないとしても……」

電「これまでの艦娘の犠牲は……なんだったのだろう、と……」

ブサ督「…………」

ブサ督「……そうだな」

本日はここまでです。

こんな艦娘をだれが作った

盲目の少女と、彼女の唯一の肉親である祖母が暮らしていた。
ある日、お婆さんが亡くなり、身よりのない少女は、村の神父が引き取ることになった。
神父が彼女を引き取ったのは純粋な慈悲からだったが、いつしか2人は恋に落ちた。
ある時、村を訪れた医者に彼女を診せたところ、手術で治ることが分かった。
神父に喜びと同時に、新たな悩みを抱えた。彼はブサイクだった。
しかし、神父は彼女のためにと寄付を募り、なけなしの財産をはたき、彼女の目の手術を依頼した。手術は成功した。

医者「ゆっくり目を開けてごらん。」
少女「…!!見えるわ!何もかも!」
神父「僕が見えるかい?」
少女「ええ、とても!」
医者「どうやら手術は成功のようだね。」
少女「ありがとうございました。…でも」
医者「どうしたんだね?」
少女「耳が悪くなりました。この方の声が神父様の声に聞こえます。」

>>87修正↓


ブサ督「そうさせないため、ゲリラ戦を展開する必要があるんだよ」

ブサ督「少数が多数の敵を打ち破るのは容易じゃない」

ブサ督「戦線を引っ掻き回す事で時間も稼げるしな」

川内「へえ……いろいろ考えてるんだね」

ブサ督「とは言っても……」

ブサ督「それに敵さんが乗ってくれればの話」

ブサ督「大軍が猪突猛進して、この南方鎮守府を目指してきたら」

ブサ督「それでゲームセット。 お終いだ」

ブサ督「尻尾巻いて逃げるしかない」

川内「そう……」

     コン コン

ブサ督「おう。 入ってくれ」

続きを投下します。



―――――――――――


北方鎮守府 軍港


金剛「さぁて!」

金剛「張り切って行くネー!」

比叡「はい、金剛お姉さま」

利根「うむ。 我輩たちの門出を祝うかの様な快晴じゃの!」

筑摩「そうですね、利根姉さん」

イケ督「そろっている様だな」

金剛「あ、イケメンテイトク!」

金剛「金剛の力、よ~く見ててネー!」

イケ督「ははは、期待してるよ」



第一戦隊

金剛 比叡 利根 筑摩 赤城 加賀


第二戦隊

長門 陸奥 鈴谷 熊野 翔鶴 瑞鶴


イケ督「そっちも問題ないか?」

長門「……ええ」

陸奥「しっかりと休養を取りましたから」

イケ督「よし」

イケ督「では、これより、北方深海棲艦泊地奪取作戦を開始する」

イケ督「抜錨せよ!」


     オオー!

大淀「…………」

大淀「あの、イケメン提督」

イケ督「ん? 何かな?」

大淀「作戦立案の時にも意見具申しましたが……」

大淀「あの泊地周辺は孤島と岩礁が多数存在し」

大淀「敵が伏兵を敷くには最適と思われます」

大淀「どの様な対処法をお考えになられたのですか?」

イケ督「ああ、その事か」

大淀「はい」


イケ督「それについては問題ない」

イケ督「伏兵には伏兵で対抗するまでさ」

大淀「……はい?」

イケ督「ははは! まあ大船に乗ったつもりで」

イケ督「どっしり構えていればいいんだよ」

大淀「はあ……」

大淀「…………」


―――――――――――


南方海域 某戦線


     ザザザザザザ…

雷「くっ……!」

雷「しつこい!」


     ドォンッ ドォンッ!

     ドガァンッ

雷「はあっはあっ……」

雷「何とかなったけど……もう弾薬が……」

雷「このままじゃ……どうにもならない」

     ザザザザザザ…

雷「はっ!?」

雷「いけな――」

     ドォンッ ドォンッ!

     ドガァンッ

雷「…………」

雷「……あれ?」


川内「雷(いかづち)、大丈夫?」

雷「えっ、川内!?」

雷「どうして秘書艦のあなたがここに?」

川内「説明すると長くなるから、かいつまんで言うよ」

川内「新しく来た後任のブサイク提督の命令」

雷「ブサイク提督?」

川内「見た目キモイけど、今度のはマシそうよ」

川内「拡大しすぎた戦線をある程度切り捨てる事になった」

川内「雷はここから撤退して」

川内「ここは放棄」

雷「りょ、了解」


川内「ここの駐留部隊は燃料・弾薬、食料を優先して」

川内「持てるだけ持って南方鎮守府へ帰って!」

川内「じゃ、伝えたからね!」

     ザザザザザザ…

雷「あっ、ちょっと!……もう」

雷「…………」

雷「ブサイク提督、ね……」

雷「見た目キモイって……どんなよ」



―――――――――――


南方海域 某戦線2


暁「ここは私達の戦隊が引き受けるわ」

暁「あなた達は出来るだけ物資を持って」

暁「南方鎮守府へ向かって」

由良「了解」

由良「でも……イケメン提督がそんな命令を?」

暁「ううん、これは後任のブサイク司令官の命令よ」

由良「ブサイク司令官……」

暁「ちょっと……ううん、かなりお顔がアレな人だけど」

暁「信頼できる人だと思うわ」

由良「ふうん……」



―――――――――――


南方鎮守府 作戦室


電「切り捨てた海域に駐留していた艦娘が」

電「続々到着しています」

ブサ督「よし」

ブサ督「損傷軽微な艦娘を優先して入渠させてくれ」

電「えっ」

ブサ督「高速修復材が無い」

ブサ督「あれ無しで大破・中破の艦娘を入渠させたら、時間が掛かりすぎる」

ブサ督「中破・大破している艦娘は機関の修理だけに留めて待機」

電「りょ、了解です」


ブサ督「物資の方はどうだ?」

電「少々お待ちください」

ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

電「……各部隊、それなりの物資を持って帰ってくれてますが」

電「焼け石に水……というところなのです……」

ブサ督「それでも御の字だ」

ブサ督「無いよりずっといい」

電「はあ……」

     ピピー ガガッ

電「!」


電「…………」

電「川内さんから入電なのです」

川内『こちら川内』

川内『命令された切り捨て海域をすべて回ったわ』

川内『戦闘も多少行って損害は軽微。残弾は4割ってところよ』

川内『これからの指示をちょうだい』

ブサ督「ほう……早いな」

ブサ督「川内の戦隊は北緯△□〇東経□△□の離島付近で待機」

ブサ督「しばらくそこで駐留偵察しつつ4時間ごとに定時連絡してくれ」

電「こちら作戦室」

電「川内さんの戦隊は北緯△□〇東経□△□の離島付近で待機」

電「繰り返します」


電「川内さんの戦隊は北緯△□〇東経□△□の離島付近で待機」

電「しばらくそこで駐留偵察しつつ4時間ごとに定時連絡せよ、との事です」

川内『北緯△□〇東経□△□の離島……ああ、あれね』

川内『川内、了解』

川内『離島で待機、駐留偵察しつつ4時間ごとに定時連絡する』

川内『オーバー』

電「オーバー」

     ブッ…

ブサ督「ふう……」

ブサ督「一息つきたいところだな」

電「暁からの連絡がまだなのです」

ブサ督「分かってる。冗談だ」


電「上手く行ってるといいのですが……」

ブサ督「大丈夫さ」

電「……何か根拠が?」

ブサ督「あればいいんだけど……単なる勘」

電「はあ……」

     ピピー ガガッ

電「!」

電「こちら作戦室……暁からの入電なのです!」

ブサ督「よし」

暁『こちら暁』

暁『命令された……』



―――――――――――


北方深海棲艦泊地水域付近


     ザザザザザザザザ…

利根「なんじゃ」

利根「せっかく張り切って来たのに他愛ないのう」

金剛「まったくネー」

金剛「一撃で沈むのばかりで退屈デース!」

比叡「赤城さん、索敵に反応はありますか?」

赤城「……今のところ感無しです」

赤城「加賀さんの方は?」


加賀「…………」

加賀「こちらも上空から見た限りでは敵影無しね」

加賀「五航戦の方はどうかしら?」

金剛「聞いてみるネー!」

金剛「こちら第一戦隊旗艦・金剛」

金剛「第二戦隊、応答するネー?」

     ピピー ガガッ

長門『……こちら第二戦隊旗艦・長門』

長門『どうした?』

金剛「敵・泊地海域付近にて索敵するも敵影を確認できてないネー」

金剛「第二戦隊の方はどうなってるか、教えて欲しいデース」

長門『了解。 確認する』


金剛「…………」

長門『…………』

長門『こちら第二戦隊旗艦・長門』

長門『こちらの索敵でも敵影は確認できず』

長門『繰り返す。 こちらの索敵でも敵影は確認できず』

金剛「OK! 長門サーン、協力に感謝するネー!」

金剛「では、これより第一戦隊は」

金剛「予定通り、敵・泊地に突撃を慣行するネー!」

長門『了解。 第二戦隊も予定通り突撃を慣行する』

長門『お互い幸運を』

金剛「オーバー!」

     ブッ…


金剛「さぁーて、みなサーン?」

金剛「用意はいいですカー?」

利根「言われるまでも無いわ」

筑摩「準備完了しています♪」

比叡「いつでも行けます、金剛お姉さま!」

赤城「慢心せずに行きましょう」

加賀「発艦準備、完了」

金剛「それじゃあ……レッツゴー!ネー!」


     ザザザザザザザザ…

金剛「見えた!」

金剛「泊地棲姫ネー!」

比叡「あれを片付ければ、我々の勝利です! 金剛お姉さま!」

赤城「第一次攻撃隊発艦……」

利根「待て!」

加賀「?」

加賀「どうしました?」

利根「……筑摩、お主の方はどうじゃ?」

筑摩「ええ、利根姉さん……私も気づきました」

利根「金剛! 今すぐ反転して逃げるのじゃ!」

金剛「ホワイ!?」


利根「我輩らは囲まれておる! それもざっと見て30隻!」

利根「まだ増えつつある!」

金剛「」

利根「赤城、加賀!」

利根「攻撃機はすべて今来た方向に使うのじゃ!!」

利根「急がんと間に合わんぞ!!」

赤城「金剛さん、いいですか?」

金剛「……わ、分かったデース。 許可しマース!」

金剛「全艦180度回頭! イケメン提督にも撤退を打診しておくネー!」

     ピピー ガガッ

金剛「こちら第一戦隊!」


金剛「北方深海棲艦泊地海域に侵攻するも」

金剛「こちらをはるかに上回る数の敵艦に包囲されんとせり!」

金剛「第一戦隊は遺憾ながら撤退を……」

金剛「あ!?」

比叡「第二戦隊が……突っ込んで行く!?」

利根「……そうか、あやつらの索敵能力では」

利根「まだ気がついておらんのじゃ!」

     ピピー ガガッ

金剛「第二戦隊! 私たちは凄い数の敵艦に囲まれて居るネー!!」

金剛「今すぐ反転して、この海域から脱出してくだサーイ!!」


長門『……何!?』

長門『くっ……第二戦隊! 反転180度!』

     ザザザザザザザザ…

利根「ダメじゃ……あそこまで進入してしまっては……」

金剛「今助けに……」

筑摩「いけません! 金剛さん!」

筑摩「私たちの位置でも逃げ切れるかどうか、厳しいんです!」

筑摩「いま第二戦隊のところへ行くなんて……」

筑摩「自殺行為です!!」

金剛「……っ」

比叡「金剛お姉さま……」

金剛「…………」


金剛「……第一戦隊」

金剛「進路……そのまま……」

利根「…………」

筑摩「……ありがとう、ございます」

赤城(…………)

赤城(……どうして……こんな事に……)

加賀(五航戦……)

金剛(…………)

金剛(許して……)

金剛(許してくだサーイ……)


北方鎮守府 作戦室


大淀「大変です! イケメン提督!」

大淀「やはり……あの泊地周辺に大規模な伏兵が潜んでいた模様です!」

大淀「第一、第二戦隊、共に撤退を打診してきました……」

イケ督「…………」

イケ督「……撤退だと?」

大淀「はい」

大淀「総数は不明ですが……」

大淀「すでに40隻以上の敵艦に囲まれていると」

イケ督「そうか……それでは致し方ないな」


大淀「それも……第二戦隊は逃げ遅れた模様で」

大淀「おそらく逃げ切れないだろうと……」

イケ督「…………」

イケ督「大淀」

大淀「はい?」

イケ督「しばらく席を外す」

大淀「えっ!?」

イケ督「心配するな」

イケ督「すぐ戻る」

大淀「は、はあ……」

     ガチャ キィ パタン

大淀「…………」


     ザザザザザザザザ…

天龍「……結局遠征かよ」

天龍「はあ……」

天龍「…………」

天龍「金剛たちは今頃……ど派手に暴れてんだろーなぁ」

天龍「はあ……」

     ピピー ガガッ

天龍「ん? 通信?」

天龍「珍しいな……」

天龍「ほい。 こちら遠征艦隊・旗艦天龍」

イケ督『やあ、天龍』

イケ督『遠征の調子はどうかな?』


天龍「調子も何も……今朝出たばかりだから」

天龍「まだ何にも成果は無いぜ」

イケ督『ははは、そうだった。 すまない』

天龍「で? そんなくだらない話の為に通信したのか?」

イケ督『実はね』

イケ督『現在、金剛たちが攻略中の泊地なんだが』

イケ督『少しばかり敵の数が多くて少々苦戦してるんだ』

天龍『何!? 金剛たちは大丈夫なのか!?』

イケ督『ああ、そこは問題ないよ』

イケ督『でもさ、天龍を実戦に使うって言っておきながら』

イケ督『遠征に回してしまった罪滅ぼしをしたくてね』


天龍「!」

天龍「という事は……これからその泊地へ向かえって事なのか?」

イケ督『うん』

イケ督『どうだろう? やってくれるかい?』

天龍「う~ん……けど今引き連れてるのは」

天龍「まだ練度の低い駆逐級ばかりだしなぁ……」

天龍「危なくないのか?」

イケ督『それは大丈夫だと思う』

イケ督『まあ天龍が行くまでに片がついてるかもしれないけどね』

天龍「…………」


天龍「……よし」

天龍「そういう事なら引き受けよう」

イケ督『ありがとう。 助かるよ』

イケ督『では、天龍の現在位置を教えてくれ』

天龍「おう」

天龍「ええと……北緯○○○東経△△△の位置だ」

イケ督『了解……その位置からだと』

イケ督『…………』

イケ督『おお、ちょうど真北に進めばいいね』

天龍「そうか。 そいつは分かりやすくて助かるな」

イケ督『じゃ、すまないけど頼んだよ』

イケ督『帰ったら、金剛たちと一緒に祝杯を上げよう』

天龍「おう! 楽しみにしてるぜ!」

     ブッ…



―――――――――――


     ドォンッ! ドォンッ!

金剛「くっ……3時にまた増援!」

金剛「ファイヤー!!」

     ドォンッ! ドォンッ!

利根「次から次へと……! 7時からも来ておるぞ!」

比叡「弾幕を張ります!」

筑摩「対空戦闘、用意!」

     ダダダダダダダ!

赤城「戦闘機の準備はまだ!?」

加賀「この状況では……準備できても発艦が……!」



―――――――――――


     ドォンッ! ドォンッ!

     ドガァンッ!

翔鶴「きゃあああああああっ!」

瑞鶴「翔鶴姉!?」

瑞鶴「翔鶴姉ぇぇっ!!」

長門「くそぉっ!」

     ドォンッ! ドォンッ!

陸奥「はあっはあっ……!」

鈴谷「!」

鈴谷「2時! 急降下してくる!」


熊野「対空……」

鈴谷「だめ! 避けて!」

     ドガッ! ズガァン!

     ズガァアアンッ!!

長門「ぎっ……ああああああっ!!」

陸奥「長門!?」

長門「がはっ………うっ…」 ビチャビチャ…

陸奥「長門、しっかりして!」

長門「……陸奥……旗艦を……委譲する」

     ゴプ…

長門「ここからの……指揮を……」

     ゴプ… ゴププ…

陸奥「長門……長門ぉぉぉぉぉぉっ!!」



     …………


     戦いの中で……沈むのだ……

     あの光ではなく……


     本望……だな………


     …………

     ………

     ……

     …


陸奥「うううっ……!」

陸奥「ウアアアアアアッ!!」

     ドォンッ! ドォンッ!

瑞鶴「翔鶴姉っ! ほら、しっかり捕まって!」

翔鶴「いいのよ……瑞鶴……もう……」

     ゴプ…

翔鶴「……あなたは……生き延び……て……」

     ゴプ… ゴププ…

瑞鶴「翔鶴姉っ!? 翔鶴姉っ!!」

瑞鶴「いやああああああああああああっ!!」



     …………



     ああ……私……

     また、逝くのね……

     …………

     矢矧さん……秋月さん……

     後は……お願い……


     …………

     ………

     ……

     …


鈴谷「はあっ……はあっ……」

鈴谷「長門と翔鶴が……沈んだみたいね……」

熊野「まあ……わたくし達も……」

熊野「時間の問題、という感じでしょうけど……」

鈴谷「気の滅入ること言わないでよ」

熊野「ふふ……わたくし達の運もこれまでと、諦めま……」

熊野「……ん?」

陸奥「はあっはあっ……」

陸奥「……?」

陸奥「…………」

陸奥「攻撃が……やんだ……?」


金剛「どういうこと……!?」

利根「分からん……分からんが」

利根「奴ら、一目散に泊地へと撤退しとるぞ!」

利根「こちらも急いで引き上げるのじゃ!」

筑摩「ええ、利根姉さん!」

     ピピー ガガッ

金剛「!」

金剛「こちら第一戦隊旗艦・金剛!」

陸奥『繋がっ【ガガガッ】……こ【ピピー】は……』

陸奥『第二戦隊臨【ガガッ】艦・陸【ピー】損傷激し【ガガッ】救助を要【ピピー】る』

金剛「良かった! 第二戦隊も生きてたネー!」

金剛「でも音声が悪いネー……救助要請しているみたいデース」

金剛「利根サーン、位置は分かりますカー?」


利根「すまぬ、金剛。 我輩の電探、損傷しておってな……」

利根「筑摩、そっちはどうじゃ?」

筑摩「はい、利根姉さん」

筑摩「大丈夫です。 第二戦隊の識別信号をキャッチしました」

利根「そうか! あの攻撃で、みなが無事なら……」

筑摩「それが……利根姉さん」

筑摩「識別信号……4人しか確認できません……」

利根「…………」

利根「……そうか」

赤城「…………」

加賀「…………」

比叡「…………」



―――――――――――


北方深海棲艦泊地水域


     ザザザザザザザザ…

天龍「……やけに静かだなぁ」

天龍「もう戦闘は終わっちまったのか……?」

天龍「…………」

天龍「お」

天龍「ありゃあ軽巡級のホ級じゃねーか!」

天龍「いただきだぜ!」

文月「天龍!」

天龍「ん?」


文月「3時から……ル級が来てる!」

天龍「な!? 戦艦級だと!?」

文月「それも3隻!」

天龍「」

天龍「じょ、冗談じゃねぇ!」

天龍「そんなの相手に勝てるか!」

天龍「撤退するぞ!」

天龍「180度回頭! 機関最大!」

文月「りょ、了解!」

     ピピー ガガッ

天龍「おい! イケメン提督!」

天龍「これはどういう事だ!?」


     ガガガー ピー

天龍「クソッ!」

望月「!」

望月「6時から敵機!」

望月「多すぎて数えられない! 何機いるのっ!?」

天龍「とにかく飛ばせ!」

天龍「回避しながら南西に進路を取るんだ!」

     ヒュウウウウウウウ……

     ドォンッ ドォンッ!

文月「きゃあああああっ!」

天龍「文月!?」

天龍「……くそがあああああああああああああああっ!!」



―――――――――――


数時間後

北方鎮守府 軍港


イケ督「よく戻ってくれた、みんな」

金剛「イケメンテイトク……」

金剛「期待に答えられず、すみまセーン……」

イケ督「何を言うんだ、金剛」

イケ督「今回は私の失態だ」

イケ督「今は何も考えず、ゆっくり休んでくれ」

金剛「イケメンテイトク……///」

イケ督「他のみんなも無事でよかった」

イケ督「どうか、ゆっくり休んでくれ」

比叡「はい……イケメン提督///」


陸奥「…………」

イケ督「おお、陸奥」

イケ督「よく帰って来てくれた」

イケ督「長門と翔鶴は……残念だったが」

陸奥「……いえ」

イケ督「今はゆっくり休んでくれ」

陸奥「……そうさせてもらいます」

陸奥「イケメン提督」 ギロッ

大淀「!?」 ゾクッ

大淀「…………」


大淀(今……陸奥さん)

大淀(イケメン提督の事を……睨んだ?)

大淀(…………)

大淀(ううん、気のせい)

大淀(きっと気のせいよね)

大淀(きっと……)

大淀(…………)

本日はここまでです。




海上式通信プロトコルについて、一件。
>>114とか>>118で使ってる符丁「オーバー」は誤用
「オーバー」とは、アマチュア通信「どうぞ」や陸自通話「送れ」に相当する、「こちらからあなたに送話を切り替えます」の意味
「終わり」や「以上」に相当する意味の、海上式通信プロトコルでの符丁は「アウト」だよ

>>147
ご指摘ありがとうございます。>>1に横文字は早すぎたんや……

>>114修正↓


電「川内さんの戦隊は北緯△□〇東経□△□の離島付近で待機」

電「しばらくそこで駐留偵察しつつ4時間ごとに定時連絡せよ、との事です」

川内『北緯△□〇東経□△□の離島……ああ、あれね』

川内『川内、了解』

川内『離島で待機、駐留偵察しつつ4時間ごとに定時連絡する』

川内『川内、通信終了』

電「作戦室、通信終了」

     ブッ…

ブサ督「ふう……」

ブサ督「一息つきたいところだな」

電「暁からの連絡がまだなのです」

ブサ督「分かってる。冗談だ」

>>118修正↓


金剛「…………」

長門『…………』

長門『こちら第二戦隊旗艦・長門』

長門『こちらの索敵でも敵影は確認できず』

長門『繰り返す。 こちらの索敵でも敵影は確認できず』

金剛「OK! 長門サーン、協力に感謝するネー!」

金剛「では、これより第一戦隊は」

金剛「予定通り、敵・泊地に突撃を慣行するネー!」

長門『了解。 第二戦隊も予定通り突撃を慣行する』

長門『お互い幸運を』

金剛「通信アウト!」

     ブッ…

続きは……もう少々お待ちください。生存報告でした。

蛇足なんですけどオーバーって
ゲームオーバーのオーバーと同じだと思ってました。
世の中知らない事がいっぱいですね。

少し短いですが続き投下します。



―――――――――――


南方鎮守府 作戦室


     ムシャ ムシャ

ブサ督「ふう……」

伊良湖「これをどうぞ。 麦茶です」

ブサ督「ありがとう、伊良湖」

     ゴク ゴク ゴク…

ブサ督「ぷはっ……ふう」

ブサ督「あ、麦茶はお代わりを頼む」

伊良湖「はい」

     コポコポコポ…

伊良湖「でも……食料を放出して良かったんですか?」


ブサ督「腹が減っては戦は出来ぬ」

ブサ督「どの道、大本営が約束した補給が間に合わなかったら」

ブサ督「お手上げなんだから構わんさ」

ブサ督「精神力も腹が満たされてこそ発揮できるもんだよ」

伊良湖「はあ……」

ブサ督「伊良湖も不安だろうけど食っとけ」

ブサ督「出来たら、おにぎり以外のメニューを振舞って欲しい」

伊良湖「ははは……努力します」

ブサ督「気楽にやってくれたらいいさ」


ブサ督「さて……仕事に戻るかな」

伊良湖「それでは、失礼しますね」

ブサ督「おう」

     キィ… パタン

ブサ督「電、川内と暁からの連絡は?」

電「今のところ、定時連絡ばかりなのです」

ブサ督「ふむ……」


ブサ督(…………)

ブサ督(こちらの損耗率は約6割強)

ブサ督(イケメン提督はどれだけ敵を損耗させてくれたんだろう……)

ブサ督(…………)

ブサ督(俺が敵の司令官なら……)

ブサ督(とっくの昔に撤退の様子からしておかしい事に気がつく)

ブサ督(今までの指揮官とは、まったく異質なものを感じるだろう)

ブサ督(…………)

ブサ督(それを敵の罠と見て、侵攻速度を緩めるか)

ブサ督(反対に好機と見て、早めるか……)

ブサ督(そろそろ答えが出るはず)

ブサ督(…………)


     ピピー ガガッ

ブサ督「!」

電「!」

電「こちら作戦室。 どうぞなのです」

川内『こちら川内』

川内『敵艦隊を補足』

川内『艦種……イ級3……ホ級1……』

川内『ポイント○○○から真北に向かって侵攻中』

川内『指示されたし』

ブサ督「……真北?」

ブサ督「…………」

ブサ督「よし、川内の戦隊はもうしばらく待機」


電「……こちら作戦室」

電「川内さんの戦隊は、もうしばらくその場で待機しててください」

川内『了解』

     ブッ…

ブサ督「…………」

ブサ督「……おいおい」

ブサ督「まさか……これって」

     ピピー ガガッ

ブサ督「!」

電「!」

電「こちら作戦室。 どうぞ」

暁『こちら暁』

暁『敵艦隊を補足』


暁『艦種……イ級4……ホ級1……』

暁『ポイント△△△から……東に向かって侵攻中みたいよ』

暁『これからどうしたらいいか、指示をちょうだい』

ブサ督「東……クソッ」

電「司令官さん……?」

ブサ督「…………」

電「…………」

ブサ督「……よし」

ブサ督「暁の戦隊もその場で待機」

電「はい」


電「こちら作戦室。 暁の戦隊はその場で待機してください」

暁『暁、了解』

     ブッ…

電「…………」

電「それで、どうされますか? ブサイク司令官さん」

ブサ督「……まいった」

ブサ督「こりゃ相手は相当の手練れだ……」

電「え……」

ブサ督「電、川内に連絡」

電「は、はい……」


     ピピー ガガッ

川内『こちら川内』

ブサ督「ブサイク提督だ」

ブサ督「川内、おそらくもうすぐ」

ブサ督「敵の主力部隊がそこを通る」

川内『!』

ブサ督「だがまともに戦うな」

ブサ督「最適と思える瞬間に魚雷攻撃を一斉射お見舞いしてやれ」

ブサ督「戦果確認はしなくて良い。 その後はすぐに鎮守府へ帰還しろ」

ブサ督「いいな? 繰り返すぞ」

ブサ督「主力部隊が現れたら、魚雷を一発お見舞いしてすぐ帰って来い」

ブサ督「分かったか?」

川内『川内、了解』

川内『必ず帰るよ』


     ブッ…

ブサ督「よし、次は暁だ」

電「了解です」

     ピピー ガガッ

暁『こちら暁』

ブサ督「ブサイク提督だ」

ブサ督「暁、食料は手元にどれだけある?」

暁『え……1日分』

暁『切り詰めれば2日ってところね』

ブサ督「……ふむ」

ブサ督「暁、少し酷なことを言うが」

ブサ督「何とか3日、そこで待機して欲しい」


暁『3日……』

ブサ督「もちろん敵が通りかかっても手を出してはいけない」

ブサ督「息を潜めて、敵の同行だけを知らせて、その場に3日待機して欲しい」

ブサ督「出来るか?」

暁『……何だか分からないけど3日ね?』

暁『了解したわ』

ブサ督「すまないな……もちろん定時連絡は頼む」

暁『レディに任せときなさい』

暁『じゃ……』

     ブッ…

ブサ督「ふう……」


電「あの……ブサイク司令官さん」

ブサ督「なんだ?」

電「手練れって……どういう事なのですか?」

ブサ督「それじゃあ……また逆に聞いてしまうが」

ブサ督「電は川内たちが報告してきた敵艦隊は何だと思う?」

電「……電は艦隊構成から斥候か先遣隊かと思いました」

ブサ督「ああ、その通りだ」

ブサ督「俺もそう思う」

電「はあ……」

ブサ督「ではもう一つ」

ブサ督「敵はなぜ二つの侵攻ルートを進んでいる?」

電「え……」

電「えと……」


電「……海図を見る限り、南方鎮守府を包囲殲滅するため」

電「なのでしょうか?」

ブサ督「そうだな」

ブサ督「俺もそう思ってしまう」

電「……あの」

電「何が言いたいのでしょうか?」

ブサ督「川内に言ったんだけどな」

ブサ督「今の南方鎮守府において、一番やられると困るのは」

ブサ督「大艦隊で猪突猛進して来られる事だ」

電「……そうですね」


ブサ督「だが、敵はそうせず、わざわざ艦隊を2つに分けた」

ブサ督「何故だと思う?」

電「う~ん……」

電「…………」

電「……電には分かりません」

ブサ督「考えられる理由は3つ」

ブサ督「1、大艦隊を組めるほどの戦力が無い」

ブサ督「2、1を装ってワザと艦隊を分割させ、こちらを引っ張り出そうとしている」

ブサ督「3、敵を警戒して分割し損耗率を上げないようにしている」

電「!」

電「…………」

電「……ブサイク司令官さんは、どれだとお思いなのですか?」


ブサ督「願望込みで1と3だと思ってる」

電「願望込みなのですか……」

ブサ督「まあ理由もちゃんとある」

ブサ督「俺は南方海域の戦線を広げすぎていると判断して」

ブサ督「かなりの部分を切り捨てた」

電「…………」

ブサ督「だが、これは敵から見るとどうだろう?」

ブサ督「敵は去ったが、どこかに伏兵が残っているかもしれない」

ブサ督「そう思ったら、ある程度の戦力は分散して配置しないといけなくなる」

電「…………」

電「あ……」


ブサ督「それに」

ブサ督「イケメン提督の戦い方を推奨はしないが」

ブサ督「彼が与えたダメージもそれなりにあっただろう」

ブサ督「その辺りを考慮すると……」

電「敵は引いた……」

電「もしかするとチャンスかもしれない」

電「でも、侵攻に回せる戦力は……」

ブサ督「そう」

ブサ督「俺もそういう結論に達した」

電「はわわ……たったあれだけの情報で」

電「そこまで判断していたなんて……ですが」

電「それでも最初の手練れという意味が電には分かりません」


ブサ督「……これは決して川内や暁を馬鹿にするわけじゃないんだが」

ブサ督「なぜ、川内たちは敵を発見できたと思う?」

電「……それはブサイク司令官さんが」

電「ある程度の侵攻ルートを予測していたからなのでは?」

ブサ督「お褒めに預かり光栄だが」

ブサ督「俺は別の可能性を考えた」

電「というと?」

ブサ督「確かに俺は侵攻ルートを推測したが」

ブサ督「それは敵からも当然考えて当たり前のこと」

ブサ督「俺が敵の立場なら、本気でそのルートを通る場合」

ブサ督「もっと穏便に、静かに、目立たないように探ろうとする」

電「……え?」


ブサ督「これが利根や筑摩だったら……」

ブサ督「いや、もっと索敵能力の高い艦娘だったなら疑わなかったんだろうが」

ブサ督「川内たちが艦種まで正確に伝えてきた事が」

ブサ督「逆に引っ掛かった」

電「…………」

ブサ督「敵は俺の推測ルートに乗っかり」

ブサ督「ワザと発見され、どう出てくるか様子を見ているんだと思う」

電「…………」

電「ええ!? で、でも」

電「し、深海棲艦がそこまで考えるでしょうか!?」

ブサ督「違っていると良かったんだけどな……」

ブサ督「北方鎮守府で指揮官やってて何となくだが」

ブサ督「段々手ごわくなって来ているのを肌で感じたんだよ」


電「…………」

ブサ督「敵はこちらの指揮官がどういう人物か」

ブサ督「前と代わらない無能か、手ごわい相手なのか」

ブサ督「今回の侵攻で見極めようと出方を伺っていると思う」

電「では……ブサイク司令官さんは」

電「川内さんに与えた指示で、どう思われたいと思っているので?」

ブサ督「戦力が整っていれば無能のフリするんだが……」

ブサ督「あえてどっちつかずにした」

電「というと……?」

ブサ督「俺が敵の指揮官なら……」


ブサ督「最初の斥候に攻撃を仕掛けたら無能」

ブサ督「後から通る主力艦に攻撃したらまあまあ有能」

ブサ督「あえて全部無視したら、侵攻先に罠を貼っていると予測できるので有能」

ブサ督「と、思うな」

電「でもブサイク司令官さんの対応は」

電「川内さんの戦隊のみの魚雷攻撃だけ……」

ブサ督「さて、敵さんはどう判断するかな?」

電「……後から来る主力艦隊に攻撃しているから」

電「無能ではないけど、片方しか攻撃してない……それも一斉射のみ」

電「侵攻ルートを予測できてなかったのか、あえてそうしたのか……」

電「それとも偶然だったのか……」

電「はわわ……頭がこんがらがってしまいますっ」

ブサ督「ははは……」

ブサ督(…………)


ブサ督(…………)

ブサ督(……だが、もう一つ)

ブサ督(こちらが探りを入れてきた、と思う可能性もある)

ブサ督(そうだとしたら、どう判断するか……)

ブサ督(…………)

ブサ督(苦し紛れの苦肉の策と判断し、攻撃してくるか)

ブサ督(それとも自軍の戦力が整うまで待つか……)

ブサ督(…………)

ブサ督(今の状況では後者を望むが)

ブサ督(それはそれで厄介な話ではあるな……はあ)



―――――――――――


西方鎮守府 執務室


     バサッ…(新聞広げ)

フツ督「…………」

フツ督「……ん?」

フツ督(イケメン提督休養後、北方鎮守府へ……)

フツ督(北方海域平定へ意欲……ね)

フツ督(もっと大人しくしてりゃいいのに……)

フツ督(…………)

フツ督(…………)

フツ督(……ちょっと待て。 という事は……あいつは……?)


フツ督「龍田」

龍田「はぁい。何かしらぁ?」

フツ督「大至急、南方海域への偵察部隊を編成してくれ」

龍田「南方海域ぃ?」

龍田「イケメン提督がボロボロにしたままでしょ?」

フツ督「おそらく状況が変わっているはず」

フツ督「あいつなら……あいつの立場なら」

フツ督「何かしら手を打って戦況を変えているはずだ」

龍田「……ふうん」

龍田「誰だか知らないけれど」

龍田「ずいぶん信頼してる様で、ちょっと妬けるわぁ」


フツ督「とにかく情報が欲しい」

フツ督「急いでくれ」

龍田「りょうかぁ~い」

     スタ スタ スタ…

     キィ… パタン

フツ督「…………」

フツ督「よし」

フツ督「必要になるかもしれない」

フツ督「出撃準備もしておこう」



―――――――――――


翌日の昼ごろ

北方鎮守府 執務室


     ジリリリリンッ ジリリリリンッ

イケ督「む、電話か」

     ガチャ

イケ督「こちら北方鎮守府……ああ」

イケ督「これはこれは……少々お待ちください」

イケ督「大淀」

大淀「はい?」

イケ督「すまないが席を外してくれ」

大淀「え……あ、はい」

大淀「分かりました」


     ガタタ…

     ガチャ キィ パタン

イケ督「…………」

イケ督「お待たせしました、大将閣下」

イケ督「それで、何のご用でしょう?」

大将『何の、ではない! 貴様……』

大将『なぜ勝手に南方鎮守府の主力艦娘を連れて行った!?』

大将『それに物資もだ!』

大将『おかげで南方鎮守府そのものが危機に晒されておるのだぞ!?』

イケ督「ああ、その事ですか」

大将『その事だと……貴様』


イケ督「まあまあ落ち着いてください」

イケ督「黙ってそうした事は謝ります」

大将『謝って済む問題ではないわ!』

イケ督「ですから落ち着いてください」

イケ督「いったい何故そんなに怒っておられるので?」

イケ督「勝手に戦力を持って行ったのは、北方海域を平定する為ですよ?」

大将『な……』

イケ督「兵力は集中運用するのが最も効率的ですからね」

イケ督「確かに南方鎮守府は敵に奪取されるかもしれませんが」

イケ督「そんなもの北方海域を制圧した後」

イケ督「また取り返せばいいだけです」

大将『』


大将『き、きき、貴様……!』

イケ督「はい?」

大将『本気で……本気でそう思っているのか……!?』

イケ督「はい。 いたって本気ですが?」

大将『…………』

大将『……もうよい』

大将『貴様の無能振りにはもう愛想が尽きた』

イケ督「…………」

大将『少々世間受けが良いから使ってやったのに増長しおって……!』

大将『もう我慢ならん。 貴様の艦隊司令官としての任を解く!』

イケ督「……ほう」


大将『正式な辞令は数日後、書簡にて通知する』

大将『覚悟しておけ……!』

     ブッ…

イケ督「…………」

イケ督「やれやれ……」

イケ督「覚悟しておけ、か」

イケ督「…………」

イケ督「くくく……」

イケ督「はっはっはっ!」

イケ督「ふふふ……」

イケ督「…………」

イケ督「それは……あんたの方だ、大将閣下!」

本日はここまでです。


―――――――――――

 文月は…こんなとこじゃ…
  終わらないんだ… から……


     ドォンッ! ドォンッ!


    あ、あれ……なんだろう。
     海が……暗いよ? なにも見えない……
      どうして……

少しは…役に…
立てたのか…にゃ…


     ガガガガガガガッ!


    ブサイク司令官、本当はね…
     楽し…かった…よ…

 桜の丘で……
 会おう……


天龍「うああああっ!!」

天龍「はあっ、はあっ……」

天龍「はあっ……」

天龍「…………」

天龍「…………」

天龍「……くそっ」

天龍「…………」

天龍「……何で……俺は……」

天龍「生きてんだよ……」

天龍「…………」

天龍「…………」


天龍「文月……皐月……」

天龍「睦月……望月……菊月……」

天龍「…………」

天龍「敵(かたき)は……」

天龍「必ず取ってやるからな……!」

天龍「あの……クソ野郎……」

天龍「絶対に……」

天龍「絶対に……!」

天龍「絶ッッ対に!」

天龍「許……さねぇ……!」

天龍「必ず……この俺の手で……」











     ブ   チ   コ   ロ   ス  !!









.



―――――――――――


北方鎮守府 執務室


大淀「…………」

大淀「あの、イケメン提督」

イケ督「ん?」

イケ督「何かな、大淀?」

大淀「遠征に向かった天龍さんの部隊ですが」

大淀「帰投予定日を2日も超えています」

イケ督「……心配なところだな」

大淀「はい」

大淀「こんな事は初めてなので……ご指示をお願いします」

イケ督「…………」


イケ督「ふむ」

イケ督「ならば捜索隊を出すか?」

大淀「そ、そうですね」

大淀「それが良いかと思います」

イケ督「じゃあ、その件は大淀に一任しよう」

大淀「……えっ?」

大淀「私に……ですか?」

イケ督「何か問題か?」

大淀「いえ……そうではありませんが」

イケ督「うん。大淀なら安心して任せられる」

イケ督「頼んだよ」

大淀「は、はい」


大淀「それでは、さっそく利根さんと筑摩さんに連絡を……」

イケ督「待て」

イケ督「その二人は主戦力だ。捜索隊には使うな」

大淀「えっ」

大淀「し、しかし、彼女たち二人は最上の索敵能力を持っています」

大淀「捜索にこれ以上の適任は居ないかと……」

イケ督「何を言うんだ、大淀」

イケ督「だからこそ主力から外せない」

大淀「で、ですが!」

イケ督「彼女達ほどでないにしろ、索敵に長けた艦娘は他にも居るだろう?」

大淀「そ、それは……そうですが」

イケ督「なら問題は無い。そうだな?」


大淀「せ、せめて、どちらか一人だけでも……」

イケ督「大淀」

大淀「…………」

イケ督「私だってね、こんな事は言いたくないんだ」

イケ督「だが、戦況は常に絶えず変化している」

イケ督「そんな中、利根と筑摩がどれだけ重要な役割を担っているか」

イケ督「賢い大淀なら……分かるだろう?」

大淀「……はい」

イケ督「なら……心苦しいが」

イケ督「そういった事も考慮して、行動して欲しい」

大淀「…………」

大淀「分かり……ました」


イケ督「うん」

イケ督「大淀は理解があって助かるよ」

イケ督「では、改めて捜索の件は君に一任する」

大淀「…………」

大淀「了解です」

大淀「それでは……すぐ捜索隊を編成して出航させて来ます」

イケ督「ああ、ごゆっくり」

     ガチャ キィ パタン

イケ督「…………」

イケ督「よし、次の攻撃目標はここにしよう」

イケ督「今度こそ金剛達には頑張ってもらわないとな」

イケ督「損傷は高速修復材を使って直せばいいし、どんどん攻めて行こう」



―――――――――――


北方鎮守府 廊下付近


     テク テク テク…

大淀「…………」

大淀(……ブサイク提督だったら)

大淀(どうするかな……?)

大淀(…………)

大淀(…………)

大淀(利根さんと筑摩さん……捜索に加えてくれたかな……?)


大淀(…………)

大淀(…………)

大淀「……ううん」

大淀「居ない人の事なんて考えてる場合じゃない」

大淀「イケメン提督の言ってる事は正しい……」

大淀「きっと……正しい」

大淀「…………」

大淀「早く捜索隊を編成して、天龍さん達を探さないと!」

     タッ タッ タッ…



―――――――――――


南方鎮守府 作戦室


川内『こちら川内』

電「はい、こちら作戦室」

川内『ちょうど10分、約30m、北西へ流された』

ブサ督「…………」 カキカキ…

ブサ督「……よし」

ブサ督「こんなものでいいだろう」

ブサ督「川内、ご苦労だった。これくらいでいい」

電「川内さん、ご苦労様です」

電「これくらいで良いそうです」


川内『了解……ふう』

川内『それでこの後は?任務終了なら鎮守府へ帰投かい?』

ブサ督「電、代わってくれ」

電「はい」

ブサ督「川内、ご苦労だが近くの離島……そうだな」

ブサ督「その位置からだと真東にある島で停泊、待機しててくれ」

川内『待機か……艦娘使いが荒いね』

ブサ督「すまんな」

川内『別にいいけど……でもこんな海流調査に何の意味があるのさ?』

ブサ督「ようやく戦う準備ができた」

ブサ督「そう思っててくれ」


川内『戦う準備ね……了解』

川内『川内戦隊、ポイント〇〇△△の離島で待機する』

ブサ督「定時連絡は忘れるなよ」

川内『分かってる。通信終了』

ブサ督「通信終了」

     ブッ

ブサ督「ふう……」

電「お疲れ様です、ブサイク司令官さん」

ブサ督「ああ……出来れば休みたいところだが」

ブサ督「もう少しデータをまとめないといけなくてな……」

電「そ、そうなのですか……」

ブサ督「あー……甘いものが食いたい」

電「あればお渡しするのですが……」


ブサ督「無いものねだりだ。気にしないでくれ」

電「…………」

ブサ督(……あれから3日)

ブサ督(そろそろ敵に何らかの動きがあるはず)

ブサ督(…………)

ブサ督(…………)

ブサ督(……大本営からの補給は間に合うだろうか)

ブサ督(…………)

ブサ督(……データのまとめをするか)

     ピピー ガガッ

電「!」


     ガチャ

電「こちら作戦室」

暁『こちら暁……!』

暁『大変よ、電! ブサイク司令官に繋いで!』

ブサ督「ブサイク提督だ」

ブサ督「どうした?」

暁『40隻くらいの深海棲艦が、この前と似たルートで東進してるわ……!』

ブサ督「……!?」

ブサ督「40隻……本当か?」

暁『ええ』

ブサ督(……どういう事だ?)

ブサ督(…………)

ブサ督(いや、理由を考えてる場合じゃないな)


ブサ督「よし、暁」

ブサ督「その40隻の艦隊が過ぎ去った後」

ブサ督「西方方面艦隊鎮守府へ向かってくれ」

暁『……え!?』

ブサ督「そして鎮守府の司令官に南方海域で」

ブサ督「実弾演習を要請してもらいたい」

暁『実だ……へ? 演習!?』

ブサ督「そう言えば向こうは分かってくれる」

ブサ督「暁、ご苦労だった」

ブサ督「西方鎮守府に付いたら休養してくれ」

暁『待ちなさいよ、ブサイク司令官!』

暁『40隻なのよ!?40隻!!』

暁『南方鎮守府はどうなるの!?』


ブサ督「何とかなるさ」

暁『でも……40隻もの深海棲艦が相手なのよ!?』

暁『ひとたまりもないんじゃないの!?』

ブサ督「おちつけ、暁」

暁『!』

ブサ督「まあ……来たばかりの司令官だから信用ないのはしょうがないが」

ブサ督「暁に与えた任務は、かなり重要なんだ」

暁『……演習要請が?』

ブサ督「そうとも」

ブサ督「それも出来るだけ早くしてくれると助かる」

暁『…………』


暁『……分かったわ』

暁『ええと……南方海域で実弾演習を要請すればいいのね?』

ブサ督「ああ。あってるぞ」

暁『了解……ブサイク司令官』

暁『ヤバくなったら逃げるのよ?』

ブサ督「もちろん」

暁『暁、通信終了』

     ブッ…

電「…………」

電「あの……本当に何とかなるのですか?」

ブサ督「無理だな」

電「えっ……」


ブサ督「前にも言ったが」

ブサ督「恐れてた通り、大軍が猪突猛進して来たわけだから」

ブサ督「勝ち目なんてあるわけ無い」

電「…………」

電「……その割に何故かブサイク司令官さんには」

電「余裕がある様に電には見えるのですが……」

ブサ督「……ま、これで大まかな方針が決まったからな」

ブサ督「後は……運しだいの部分はあるが、希望もある」

ブサ督「電もそう思っててくれ」

電「はあ……」


ブサ督「それでは部隊編成を行う」

ブサ督「電も前線に出てもらう事になるが……大丈夫か?」

電「が、頑張ります!」

ブサ督「期待してる」

電「は、はい!」

ブサ督「ははは」

ブサ督「…………」

ブサ督(謎は残るが……何とかなる、か……)

ブサ督(…………)

ブサ督(さて、上手く行ってくれるといいが……)

本日はここまでです。



―――――――――――


大本営 大将の執務室


大将「ふう……これで後は」

     ワー ワー

大将「ん……?」

大将「何やら騒がしいな……」

大将「何事だ?」

     バタン!

中尉「た、大変です!大将閣下!」

大将「どうした中尉。いったい何事だ?」


中尉「今朝の新聞、とんでもない事が書かれているんです!」

中尉「ご覧ください!」つ(新聞)

大将「とんでもない事?」つ(新聞)

     大将、横領疑惑。数年前から着手か?

大将「!?」

大将「な、何だこれは!?」

中尉「ともかく事実確認がしたい、とかで」

中尉「ブンヤどもが押し寄せているんです!」

大将「…………」

大将「……!」

大将(この……内容は!)

大将(あの、無能の仕業かぁぁぁっ!!)


中尉「大将閣下、いかがしましょう?」

大将「!」

大将「そ、そうだな……」

大将「いずれ記者会見を開く、とでも言ってブンヤどもを下がらせろ」

大将「それに従わないなら今後の取材は一切受けんと言え!」

中尉「わ、分かりました」

中尉「その様にします。では!」

     パタン タッ タッ タッ…

大将「…………」

大将「やってくれたな、あの無能め……!」

大将「これまでの事が水泡に帰す事すら分からんのか!」

大将「とはいえ、どうするか……」



―――――――――――


北方鎮守府 執務室


大淀「…………」

イケ督「いやはや……軍部の恥だね」

イケ督「国民の皆さんに申し訳ないよ」

大淀「…………」

イケ督「大淀?」

大淀「!」

大淀「は、はい、すみません、イケメン提督」


イケ督「どうかしたのかい?」

大淀「いえ……大したことでは」

イケ督「まあそう言わずに。言ってごらん?」

大淀「…………」

大淀「……では、お言葉に甘えて」

イケ督「うん」

大淀「その……上手くは言えないのですが」

大淀「記事に書かれてる期日や時間がやたらと正確なので」

大淀「どこからこの様な話が出てきたのだろう……と」

大淀「気になりまして……」

イケ督「……なるほど」

イケ督「意外と高官が新聞に漏らしたのかな?」

大淀「…………」


大淀(違う)

大淀(本質はそこじゃない)

大淀(私の記憶通りなら……横領の額が桁違いに多くなった時期と)

大淀(イケメン提督が新聞を賑わせる様になった時期が)

大淀(ちょうど同じくらいになる……!)


     「新聞報道はでたらめで、実際には相当の被害を受け」

     「それを覆い隠すため、世間受けのいい」

     「イケメン提督を前面に出しているんじゃないかと思う」


大淀「…………」

イケ督「大淀?」

大淀「!」

大淀「す、すみません!」


イケ督「いや、いいんだ」

イケ督「調子が悪いなら休むといい」

大淀「……そうですね」

大淀「すみませんが、医務室でちょっと休んできます」

イケ督「ああ。お大事に」

大淀「では……失礼します」

イケ督「ああ」

     ガチャ キィ パタン

イケ督「…………」

イケ督「……ふん」

イケ督「大将もざまあないな……ククク」



北方鎮守府 廊下付近


大淀「…………」

     ガヤ ガヤ

大淀「…………」

摩耶「でさー、やっぱりイケメン提督は違うよなー♪」

鳥海「これで私たちもようやく前線へ行けますね」

大淀「…………」

大淀「えっ?」

大淀「ちょ、鳥海さん、摩耶さん」

摩耶「ん?」

鳥海「あら、大淀さん。どうかしました?」


大淀「あの……今、前線へ行くとか聞こえたのですが?」

鳥海「ええ。イケメン提督に言われまして」

大淀「そ、そんなまさか!?」

摩耶「まあ……沈んだ艦娘の代わりっつーのは」

摩耶「ちょっと引っかかるけどな」

鳥海「来たばかりで余り話す機会もありませんでしたが……」

鳥海「長門さん、翔鶴さんの抜けた穴を見事、埋めて見せます」

大淀「い、いえ、そういう事では無くて」

大淀「あなた方の防空能力は、北方鎮守府の最後の砦と……」

摩耶「んなのブサイク提督が勝手に言ってた事だろ?」

大淀「!!」


鳥海「私も少々飼い殺しにされてる気がしてたので」

鳥海「今回の抜擢は嬉しく思ってます♪」

大淀「…………」

摩耶「話はそれだけか?」

大淀「…………」

大淀「……はい」

大淀「呼び止めてすみませんでした……」

摩耶「ん。別にいーぜ、こんくらい」

摩耶「じゃあなー」

鳥海「では、失礼しますね、大淀さん」

     テク テク テク…

大淀「…………」


大淀「…………」

大淀(……本当に)

大淀(このままで……いいのかしら)

大淀(…………)

大淀(…………)

大淀(ブサイク提督……)

大淀(…………)

大淀(…………)



―――――――――――


南方鎮守府 作戦室


ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

     ピピピ… ピピピ…

ブサ督「!」

     ガチャ

電『こちら電戦隊』

電『ブサイク司令官さん、聞こえますか?どうぞ』

ブサ督「こちらブサイク司令官」

ブサ督「良く聞こえるぞ、電。どうぞ」


電『全艦娘、配置につきました』

電『いつでも作戦行動可能です』

ブサ督「よし」

     ピッ

ブサ督「こちらブサイク提督。全艦娘に次ぐ」

ブサ督「もう間もなく敵艦隊が現れると思われる」

ブサ督「現在の状況は絶望的だが、それは君達のせいじゃない」

ブサ督「すべては……我々司令部の無能のせいだ」


全艦娘『…………』


ブサ督「なので、今作戦は今、君らが持っている弾薬が尽きるか」

ブサ督「敵の勢いを殺せないと俺が判断した瞬間」

ブサ督「遺憾ながら南方鎮守府を放棄し、本土への撤退を持って」

ブサ督「作戦の終了とする」


     ザワッ…

ブサ督「さっきも言ったが、これは君達に責任は無い」

ブサ督「すべての責任は俺を含めた司令部にある」

ブサ督「気にせず命令に従って、自分の命を第一に考えて欲しい」


全艦娘『…………』


ブサ督「では、確認作業に入る」

ブサ督「第一戦隊旗艦、川内。専用回線で応答せよ」

     ピピッ ブー

川内『こちら第一戦隊旗艦、川内。どうぞ』

ブサ督「よし。よく聞こえるぞ」


ブサ督「続いてA島観測要員、専用回線で応答せよ」

     ピピッ ブー

伊良湖『は、はい。こちらA島観測要員の伊良湖です』

ブサ督「よし、良く聞こえるぞ、伊良湖」

ブサ督「任務内容を復唱せよ」

伊良湖『は、はい』

伊良湖『ええと……川内さんが相手にした深海棲艦の位置を逐一報告せよ』

伊良湖『です』

ブサ督「よし。難しい任務だが、一つ頼む」

伊良湖『頑張ります』

ブサ督「では第二戦隊旗艦、五十鈴。専用回線で応答せよ」

     ピピッ ブー

五十鈴『こちら第二戦隊旗艦、五十鈴。どうぞ』


ブサ督「よし。問題無く聞こえる」

ブサ督「続いてB島観測要員、専用回線で応答せよ」

ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「……B島観測要員、専用回線で応答せよ」

ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督(くそっ)

     ピピッ ブー

ブサ督「!」

雷『こちらB島観測要員、雷(いかづち)。即応出来なくてごめ……済みません』


ブサ督「聞こえるぞ」

ブサ督「何かあったのか?」

雷『問題はあったけど、解決したわ。以後、気を付ける』

ブサ督「よし」

ブサ督「任務内容を復唱せよ」

電『五十鈴戦隊が相手にした深海棲艦の位置を逐一報告せよ、よ』

ブサ督「うん、あってる」

ブサ督「頼むぞ、雷」

雷『了解。任せて』

ブサ督「それでは第三戦隊旗艦、由良。専用回線で応答せよ」

     ピピッ ブー

由良『こちら第三戦隊旗艦、由良。どうぞ』

ブサ督「よし、感度良好。続いてC島観測要員……」



―――――――――――


     ザザザザザザザ…

暁「…………」

暁「……お腹空いたなぁ」

暁「って!」

暁「暁はレディなのよ!」

暁「お腹空いたなんて言わないっ!」

     ザザザザザザザ…

暁「…………」

暁「……ん?」

     ヒュルルルルル…

暁「何の音……?」


     ドォンッ! ドォンッ!

暁「きゃああああ!」

暁「こ、この衝撃は……砲撃!?」

暁「」

暁「あれは……タ級!?」

暁「うそ、どうしてこんなところに戦艦級が!?」

     ドォンッ! ドォンッ!

暁「きゃあああああっ!!」

如月「応戦しましょう!」

暁「!」

暁「ダメ!こっちの装備じゃ歯が立たない!」


暁「それよりも全速力でここを離脱するの!」

暁「相手は戦艦級、必ず振り切れるわ!」

如月「わ、分かった!」

     ドォンッ! ドォンッ!

如月「きゃあああああっ!」

暁「わああああああああっ!」

暁「だ、大丈夫!」

暁「とにかく回避しながら――」

     ドガァッンッ!

如月「ああああっ!!」

暁「如月!!」


暁「ほら、捕まって!」

暁「如月!」

如月「うっ……うう……」

暁「っ……」

暁「見捨てない……見捨てないんだから!」

     ドォンッ! ドォンッ!

暁「きゃあああああっ!」

暁「はあっ……はあっ……」

暁「うっ……!?」

暁(今の至近弾で……損傷した!?)

暁(速度が……出ないっ)

暁「くっ……」

暁「…………」


暁「……指揮権を三日月に移譲するわ。如月もお願い」

三日月「!?」

暁「口答えは無しよ!他のみんなを引き連れて西方鎮守府に向かいなさい!」

暁「早く!」

三日月「で、でも!」

暁「向こうに着いたらブサイク司令官の要請をお願いして」

暁「ついでに私の救出部隊も頼むわ」

三日月「……っ」

三日月「全艦……三日月に続いて!」

     ザザザザザザザザ…

暁「……頼んだわよ、三日月」

     ドォンッ! ドォンッ!

暁「ぐっ……!」


暁「はあっはあっ」

暁「暁は……暁は!」

     ドォンッ! ドォンッ!

暁「……タダでは……終わらないんだからっ」

     ドガァッンッ!

暁「ぎっ……!!」

暁「…………」

暁「……うっ……」

暁「…………」

暁「ははは……やっぱり、無理……かぁ……」

暁「……でも……任務は……きっと……」


     ブロロロロロロ…

暁「…………」

暁「……え?」

暁「…………」

暁「この……発動機音は……」

暁「友軍?」

     ドンッ ドドンッ ボボボンッ!

暁「……いったい、どこから」

三日月「暁!」

暁「三日月?」

三日月「大丈夫!?」

暁「うん……大破したけど……何とか」


暁「それよりもこの友軍は……?」

     ピピッ ガガッ

フツ督『こちら西方方面艦隊司令官、フツメン提督』

フツ督『そちらの所属は?』

暁「!!」

暁「こ、こちら、南方方面艦隊所属艦娘、暁」

暁「救援、感謝します!」

フツ督『なぁに。間に合って良かった』

フツ督『それよりも状況を教えてくれないか?』

暁「は、はい。それについて、ですが」

暁「ブサイク司令官から言伝があります!」

フツ督『言伝……分かった、合流しだい聞くとしよう』


     ブッ…

フツ督「…………」

龍田「どうしたの?」

フツ督「ん?」

フツ督「少し……不思議に思ってな」

龍田「タ級の事?」

フツ督「さすが龍田。見抜いてたか」

龍田「ここら辺は私たちの勢力圏内」

龍田「イ級くらいならともかく、タ級が、それも単独で居るなんて」

龍田「どうにも腑に落ちないわぁ」

フツ督「そうなんだよな……どうにも引っかかる」

フツ督「……ま、考えるのは後にするか」

フツ督「とにかく暁たちとの合流を急ごう」

龍田「はぁ~い」

本日はここまでです。



―――――――――――


北方鎮守府 執務室


大淀「……また出撃ですか」

イケ督「ああ」

イケ督「ここで確実に止めを刺さないといけないからね」

大淀「…………」

大淀「あの……」

イケ督「うん?」


大淀「ここの所、出撃が頻繁に行われて」

大淀「主力艦娘の皆さんの疲労度が増しています」

大淀「出撃の重要性は分かりますが」

大淀「休養を取らせるべきかと……」

イケ督「…………」

イケ督「まあ……大淀の言いたい事は分かる」

イケ督「だが、これは北方海域平定の為に必要な出撃なんだ」

イケ督「金剛達にはすまないが……もうひと踏ん張りしてもらいたい」

大淀「…………」

大淀「……分かりました」

大淀「それでは、金剛さん達に命令を伝えてきます」

イケ督「よろしく頼む」



北方鎮守府 廊下付近


     テク テク テク…

大淀「あ……金剛さん」

金剛「……ん?」

金剛「大淀……」

大淀「…………」

金剛「出撃デスカー?」

大淀「……はい」

金剛「了解ネー」

金剛「イケメンテイトクの為に……金剛は頑張るヨー!」

大淀「…………」


大淀「これが……命令書になります」

金剛「OK!」

金剛「それじゃ、準備して行ってくるネー!」

     スタ スタ スタ…

大淀「…………」

―――――――――――

大淀「陸奥さん」

陸奥「……大淀か」

陸奥「出撃命令?」

大淀「……はい」

陸奥「了解した」

陸奥「命令書を」

大淀「…………」


陸奥「……大淀?」

大淀「あの!」

陸奥「……何?」

大淀「…………」

大淀「……イケメン提督の指揮に」

大淀「疑問を……感じた事はありますか?」

陸奥「!」

大淀「…………」

陸奥「…………」

陸奥「……それを聞いてどうするの?」

大淀「……分かりません」


大淀「ですが……ここの所の出撃頻度はさすがに異常です……!」

大淀「このままでは、疲労の抜けない艦娘に損害が……!」

陸奥「大淀……」

陸奥「…………」

陸奥「…………」

陸奥「……場所を変えましょう」

大淀「!」

大淀「は、はい!」

―――――――――――

大淀「この部屋は誰も使っていませんので」

大淀「大丈夫だと思います」

陸奥「そう……」


陸奥「それでさっきの話だけど……」

大淀「はい」

陸奥「イケメン提督の指揮に疑問なんてありまくりよ」

大淀「…………」

大淀「……やっぱり、そうですか」

陸奥「ええ」

陸奥「……でも驚いたわ」

大淀「え?」

陸奥「北方鎮守府に来た時、あれだけあのクズを歓迎してたから」

陸奥「半分くらい艦娘が死なないと気が付かないと思ってた」

大淀「なっ……いくら何でもそれは……」


陸奥「無いと言い切れるのなら謝るけど」

陸奥「南方に居た頃、新聞報道に洗脳された多くの艦娘が」

陸奥「疲れ切った体で笑いながら、あのクズの命令に従い散って逝ったわ」

陸奥「ちょうど……今の金剛達の様にね」

大淀「…………」

陸奥「でも……そんなこと言いながら」

陸奥「私たちもそうだった」

大淀「…………」

陸奥「勝っているハズなのに居なくなる仲間達」

陸奥「勝利してるのにどんどん激しくなる深海棲艦たちの攻撃」

陸奥「おかしいと気が付いた時には……もう半分くらいになってたのよ」

大淀「…………」


大淀「……ブサイク提督の……言う通りだったんですね」

陸奥「ブサイク提督?」

大淀「北方鎮守府の前の指揮官だった人です」

大淀「南方鎮守府と入れ代わりに……」

陸奥「ああ……」

大淀「イケメン提督の指揮には疑問があると」

大淀「新聞報道は虚偽である可能性が高いと……言ってました」

陸奥「へえ……それはすごい」

陸奥「きっと……優秀な指揮官なんだろうね」

大淀「…………」

陸奥「さて……状況の確認ができたのはいいけど」

陸奥「これからどうするつもりなの?」


大淀「…………」

大淀「……責任転嫁、だと承知して言いますが」

大淀「陸奥さん達は、どうしてこの事を私達に教えてくれなかったんですか?」

陸奥「……さっきも言ったけど」

陸奥「あのクズをあれだけ歓待して迎え入れたのを見て」

陸奥「無駄だと判断しただけ」

大淀「ですが!」

陸奥「じゃあさっきの……ブサイク提督?」

陸奥「そいつがあのクズを見抜いてたにもかかわらず」

陸奥「あなたはどうしたの?」

大淀「っ!!」



     「……すみませんが」

     「ちょっと信じがたい推測ですね」


大淀「…………」

陸奥「……それが答えよ」

陸奥「もういいかしら? 命令書を渡して」

大淀「…………」

大淀「……陸奥さん」つ(命令書)

陸奥「何?」

大淀「無駄かもしれません……が」

大淀「この作戦行動中、金剛さん達に今の事を」

大淀「説明してあげてくれませんか……?」

陸奥「…………」


陸奥「…………」

陸奥「……分かった」

大淀「…………」

陸奥「知ったところで……何ができる、という事でもないけどね」

大淀「…………」

大淀「……それでも」

大淀「それでも、お願いします……!」

陸奥「…………」つ(命令書)

陸奥「じゃ……行って来る」

大淀「……はい」

     ガチャ キィ パタン

大淀「…………」



―――――――――――


南方鎮守府近海 諸島群海域


雷「……!」

雷「来た……敵艦隊よ!」

     ザザザザザザ……

五十鈴「すごい数ね……見えてるだけで、ざっと30隻ってとこかしら」

五十鈴「こちら五十鈴」

五十鈴「作戦室、応答を」

     ピピー ガガッ

ブサ督『こちら作戦室』

ブサ督『どうぞ』


五十鈴「敵艦隊を補足」

五十鈴「距離、約5500」

五十鈴「速度、約20」

ブサ督『……各艦娘に次ぐ』

ブサ督『まず、敵艦隊からの航空攻撃を』

ブサ督『それぞれの担当離島を利用して、全力回避せよ』

五十鈴「……軽く言ってくれるわね」

五十鈴「五十鈴、了解!」

―――――――――――

川内「川内、了解!」

―――――――――――

由良「由良、了解!」

―――――――――――



南方鎮守府 作戦室


ブサ督「電、何度も言ってるが」

ブサ督「お前の戦隊は中破、大破した艦娘で構成されている」

ブサ督「絶対に前へ出るな」

ブサ督「指定されたポイント以外に向かってはダメだぞ」

電『分かっています』

電『ご指示をください』

ブサ督「よし。 魚雷装填」

電『魚雷装填……よし!』

ブサ督「目標、西南西方向」


電『西南西……え?』

電『あ、あの……深海棲艦は居ませんが?』

ブサ督「以後、口答えはするな」

電『は、はい』

ブサ督「秒読み……5,4,3,2,1」

電『…………』

ブサ督『魚雷発射』

電『魚雷発射!なのです!』

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

ブサ督「よし」

ブサ督「ポイント【ベータ】へ向かえ」

電『りょ、了解なのです』



―――――――――――


西方鎮守府 執務室


フツ督「……左様ですか」

フツ督「では、私もそちらへ向かいます」

フツ督「……はい……はい」

フツ督「ええ、その時はよろしくお願いします」

     チンッ

フツ督「やれやれだ……」

龍田「面倒ごと?」

フツ督「ああ。とびっきりのな」


フツ督「残念だが、しばらくここを空ける事になりそうだ」

フツ督「龍田。君にも来てもらう」

龍田「ここの運営はどうするの?」

フツ督「表向きは……そうだな、阿賀野に一任、としておくよ」

龍田「裏は?」

フツ督「あいつの為に骨を折ってやるんだ」

フツ督「ブサイク提督に任せる」

龍田「……どうやって連絡を取るの?」

フツ督「ま、そこは蛇の道は蛇」

フツ督「いろいろと手は打っておいた」

龍田「そういう根回し、あなた本当に好きよねぇ」


龍田「でも彼、今、大変なんじゃないの?」

フツ督「たぶん大丈夫だ」

フツ督「魚雷の魔術で翻弄してる頃だろう」

龍田「魚雷の魔術?」

     ガサゴソ ガサゴソ

フツ督「ええと……あの書類は……あ、あったあった」

龍田「ねえ、魚雷の魔術って?」

フツ督「……簡単に言うと、だな」

フツ督「魚雷が目標を狙うんだよ」

龍田「は……?」

龍田「意味が分からないんだけど?」


フツ督「……敵からするとな」

フツ督「あさっての方向に行ってるハズの魚雷が」

フツ督「何故かこっちへ向かって当たりに来るんだよ」

龍田「……ますます意味が分からないわね」

龍田「それはなに?」

龍田「つまり魚雷に意思があって追ってくるという事?」

フツ督「そうそう」

フツ督「そんな感じ」

龍田「どんな新技術なのよ」

フツ督「違う違う。そうじゃない」

フツ督「あくまで【そう思える】って事だよ」

龍田「……てことは」

龍田「何かタネがあるって事かしら?」

フツ督「正解」


フツ督「諸島群海域でしか使えないが」

フツ督「それなりの高さのある離島に観測員を置き」

フツ督「海上の艦娘と敵との相対距離やら速度やらの情報を元に」

フツ督「三角測量やら何やら使って、敵の行動予測して」

フツ督「後方からの遠距離魚雷攻撃を当ててくるんだよ」

龍田「…………」

龍田「……ちょっと待って」

龍田「それって複数の敵を相手にしたら不可能じゃない?」

龍田「観測員や艦娘だって数が増えたら」

龍田「とんでもない情報量になる」

龍田「それに海流も不確定要素に……」

フツ督「ところがだ」

フツ督「あいつはそれを……可能にしてるんだよ」


―――――――――――

五十鈴『新たな目標!ル級!1時方向!距離約4500!速度約20!』

雷『五十鈴、目標変更!南南西距離約6000!速度約20!』

川内『右舷……3時方向にイ級!距離約3400!速度20!』

伊良湖『あっ川内さん方向転換……えっと、南東……いえ、東南東方向』

伊良湖『距離……5600……ぐらい。速度は……20くらいです!』

由良『回避急いで!』

     ドォンッ! ドォンッ!

由良『えっ!?』

由良『目の前の深海棲艦に……魚雷が命中した模様!』

由良『ル級、ネ級轟沈!』


ブサ督「……由良、ポイント【デルタ】へ移動」

ブサ督「川内、魚雷装填。目標4時方向」

川内『装填完了!』

ブサ督「秒読み。5,4,3,2,1」

ブサ督「魚雷発射」

川内『てー!』

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

ブサ督「川内、ポイント【ガンマ】へ移動せよ」

川内『川内了解!』


     ドォンッ! ドォンッ!

五十鈴『えっ!?』

五十鈴『私たちを追ってた深海棲艦たちから爆発音!』

ブサ督「…………」

五十鈴『……空母級のヲ級、ヌ級轟沈!』

ブサ督「五十鈴戦隊、魚雷装填」

五十鈴『了解、魚雷装填!』

ブサ督「目標方向、6時」

ブサ督「秒読み……5,4,3,2,1」

ブサ督「発射!」

五十鈴『魚雷発射!』

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

ブサ督「五十鈴、ポイント【イオタ】へ移動せよ」


ブサ督(……くそ)

ブサ督(時間が無かったから仕方ないが……海流の誤差が結構ある)

ブサ督(このままじゃ、やはり尻尾巻いて逃げるしかなさそうだな)

ブサ督(せめて補給が間に合っていれば……)

ブサ督(…………)

ブサ督(いや、無いものねだりしても仕方ない)

ブサ督(問題はタイミング)

ブサ督(引き際を間違えない様にしないと)


―――――――――――

龍田「……そんなまねが出来るなんて」

龍田「聖徳太子も真っ青ね」

フツ督「ああ、同感だ」

フツ督「本人いわく」

     「こんなもの訓練すれば誰でも出来る」

フツ督「らしいが……俺は2部隊でも無理だった」

龍田「でしょうね」

フツ督「一度でも聞き間違ったり、計算ミスったりしただけで」

フツ督「立て直す暇もなく大混乱」

フツ督「あいつの頭の中身がどうなってるのか」

フツ督「本気で知りたくなった」

龍田「知っても理解できないでしょ」

フツ督「……まあその通りなんだけど酷いな」


龍田「それにしても」

龍田「まるで……ええと、ブサイク提督?」

龍田「その彼と戦った事があるみたいな口ぶりね?」

フツ督「あいつに頼まれて模擬戦やったんだ」

フツ督「……ところで俺のお気に入りのシャツ知らない?」

龍田「昨日洗濯に出して、今日干したままでしょ」

フツ督「うっ……そうだった」

龍田「生乾きでいいなら今から取ってくれば?」

フツ督「そこまで思い入れねーよ」

フツ督「仕方ない……今回は別ので我慢だ」


     ガサゴソ ガサゴソ

フツ督「ふう……こんなもんか」

龍田「それで? どんな模擬戦だったの?」

龍田「種明かしされた後は勝てたとか?」

フツ督「……そんな甘いもんじゃなかったよ」

龍田「あらら」

フツ督「駆逐級艦娘二人編成の変則艦隊構成で」

フツ督「あいつは3部隊、こっちは6部隊で行ったんだが」

フツ督「一度目はコテンパン」

フツ督「種明かしされてからもコテンパンだったよ」

龍田「目を潰せばいいじゃない」

フツ督「それは俺も真っ先に考えた」

フツ督「でもな……」


フツ督「どの島に観測員が居るか、瞬時に分かるか?」

龍田「あ……」

フツ督「それに」

フツ督「こっちが目を潰そうと躍起になってるのを」

フツ督「あいつが放っておくと思うか?」

龍田「…………」

フツ督「ま、あくまで駆逐級艦娘での話だからな」

フツ督「種明かしされて空母級が居れば」

フツ督「さすがに勝てたかもしれないが……」

フツ督「空母級無しだと、俺の腕じゃ5倍の戦力が無いと勝てる気がしない」

龍田「……でも」

龍田「深海棲艦相手だと、また違って来るんじゃないの?」


フツ督「それは俺も思った」

フツ督「深海棲艦はダメージを受けても沈まない限り」

フツ督「こちらへ向かって来る」

龍田「あれホント怖いわよねぇ」

フツ督「ところがだ」

フツ督「あいつは事も無げに」

     「そっちの方が読みやすい」

フツ督「と言い返して来た」

龍田「まあ一理あるけど……」


フツ督「模擬戦の時、どこから魚雷が飛んでくるか分からんから」

フツ督「艦娘の方が速度落としたり、回避行動したりで」

フツ督「魚雷は当てにくくなる」

龍田「そうよね」

フツ督「ところがそうなったら」

フツ督「相対してる艦娘部隊の砲撃のいい的になっちまう」

龍田「あらら……」

フツ督「どっちにも気を付けてられないし」

フツ督「どっちかに気を付けてたら、気を付けてない方でやられちまう」

フツ督「今思い出してもブルっちまうわ、あれ」

龍田「……すごい人なのね」


フツ督「そうとも」

フツ督「あいつの才能を埋もれさすのは」

フツ督「皇国にとって大きなマイナスでしかない」

龍田「……そこは大事な友とか」

龍田「綺麗ごと言っておいた方が良くない?」

フツ督「そういうの俺のキャラじゃないからなー」

フツ督「あくまで持ちつ持たれつ、さ」

龍田「はいはい。そういう事にしといてあげる」

フツ督「そいつはどうも」

フツ督「さて、俺の方は出発準備ができたが?」

龍田「私は少々の着替えと日用品があれば問題ないわ」

フツ督「そうかい」

フツ督「演習部隊もそろそろ始めてる頃だし……行くとするか」



―――――――――――


南方海域 西南部


     ザザザザザザザザ…

イタリア「…………」

ローマ「…………」

イタリア「ホントに大した敵が居ませんね」

ローマ「姉さん……油断大敵です」

イタリア「油断なんかしてませんよ……」

ローマ「私はまだ、フツメン提督を完全に信用してませんから」

ローマ「それに管轄外の地域に進出して演習なんて」

ローマ「規律に違反してないかヒヤヒヤしてます」


西方鎮守府 演習艦隊

第一戦隊

イタリア(戦艦) ローマ(戦艦)
ポーラ(重巡) ザラ(重巡)
リベッチオ(駆逐) アクイラ(空母)

第二戦隊

ビスマルク(戦艦) プリンツ・オイゲン(重巡)
レーベレヒト・マース(駆逐) マックス・シュルツ(駆逐)
U‐511(潜水艦) グラーフ・ツェッペリン(空母)


イタリア「友軍のピンチなのだから」

イタリア「固いこと言わなくてもいいんじゃないかしら?」

ローマ「そういう問題ではありません」

ローマ「そもそも規律というのは……」


ビスマルク「二人とも、そのくらいに」

ビスマルク「今のところ情報通りに進めてるけど警戒して」

ビスマルク「ここは敵の勢力圏よ」

プリンツ・オイゲン「そうですよ」

プリンツ・オイゲン「実弾演習してて、うっかり南方海域に入っちゃって」

プリンツ・オイゲン「うっかり敵に遭遇しちゃったんですから♪」

ビスマルク「……そういうのは腹黒フツメン提督に任せればいい」

ビスマルク「とにかく、敵が総出で南方鎮守府に構っている今」

ビスマルク「我々が敵の横腹を突く」

ビスマルク「敵が引き返して来たら、こちらも撤退」

ビスマルク「うっかり退路を断たれる、なんて事の無い様に」

     オオー!


―――――――――――

ブサ督「発射!」

電『魚雷発射!なのです!』

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

ブサ督「よし、ポイント【アルファ】へ移動せよ」

電『了解なのです!』

ブサ督(…………)

ブサ督(……電の戦隊の魚雷残弾は、あと3斉射)

ブサ督(敵の損害は約3割……)

ブサ督(他の部隊も残弾がそろそろ厳しいしダメージも蓄積している)

ブサ督(……潮時だな)


ブサ督「よし」

ブサ督「五十鈴戦隊、ポイント……」

雷『!!』

雷『深海棲艦艦隊の後方に新たな艦影!』

ブサ督「……チッ」

ブサ督(ここに来て新たな増援か……)

ブサ督(だが……これで……)

雷『待って! あれは……』

雷『天山艦攻!?』

雷『ブサイク司令官!友軍よ!!』

ブサ督「…………」

ブサ督「は……?」


     ヒュウウウウウウウ……

     ドォンッ ドォンッ!

五十鈴『えっ、何!? 艦攻!?』

川内『味方!? どこから!?』

由良『友軍が来てくれたの!?』

     ピピー ガガッ

??『こちら元・北方方面艦隊所属艦、高雄』

ブサ督「!?」

高雄『説明は後でします』

高雄『高雄、愛宕、飛龍、鳳翔の4名』

高雄『ブサイク提督の指揮下に入る許可をお願いします』

ブサ督「……りょ、了解。許可する」


ブサ督「臨時で入った艦隊を以降、高雄戦隊と呼称する」

高雄『了解です』

ブサ督「高雄戦隊、そのまま前進し敵艦隊の背後を突け」

高雄『わかりました』

ブサ督(……くそったれ!)

ブサ督(フツメン提督からの増援だろうが、タイミングが最悪だ!)

ブサ督(完全に撤退の機運を逃した……)

ブサ督(もうこうなったら……腹を括るしかない!)

ブサ督「……五十鈴、川内、由良戦隊に次ぐ」

ブサ督「先の作戦は忘れて自由に戦ってくれ」

ブサ督「ただし、むやみに突っ込むな」

ブサ督「自分の身を第一に考えて行動せよ!」


五十鈴『了解!』

川内『了解!』

由良『了解!』

ブサ督「電の戦隊は……心苦しいだろうが、ポイント【アルファ】で待機」

電『了解なのです』

ブサ督「各離島観測員は状況を報告せよ」

伊良湖『状況!? えっと、あの……』

伊良湖『み、味方の戦闘機が、敵艦を攻撃してて……』

雷『不意を突かれた深海棲艦は大混乱を起こしてるわ!』

雷『あっ、ル級、ホ級、イ級、轟沈!』

雷『続いて空母級のヲ級二隻轟沈!』


ブサ督(くそっ……!)

ブサ督(この勢いはそう長く続かない!)

ブサ督(早く……早く撤退しろ!)

ブサ督(もう4割はやられたはずだ!)

ブサ督(そろそろ本拠地付近で異変が起こっている頃だろ!)

ブサ督(撤退してくれないと……こちらの弾薬が……!)

―――――――――――

川内「はあっはあっ……」

川内(まずい……もうすぐ砲弾が尽きる)

川内(魚雷もあと一斉射……!)

―――――――――――

五十鈴「このっ!」

五十鈴「てー!!」


―――――――――――

由良「はあっはあっ……」

由良「魚雷……斉射ー!」

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

     ドォンッ! ドォンッ!

由良「よし!」

由良(……今ので打ち止めだけど)

―――――――――――

高雄「目標、右舷のル級!」

高雄「斉射!てー!」

     ドォンッ ドォンッ!ドォンッ!


愛宕「パンパカパーン!」

     ドォンッ ドォンッ!ドォンッ!

飛龍「友永隊!頼んだわよ!」

友永妖精「らじゃー」

     ブロロロロロロッ……

鳳翔「制空権確保!」

鳳翔「第二次攻撃隊、発艦準備!」

     ヒュウウウウウウウ……

     ドォンッ ドォンッ!

―――――――――――

ブサ督(……まだか)

ブサ督(まだ、なのか……!)


雷『!!』

雷『ブサイク司令官!』

雷『敵が、南方向へ撤退し始めたわ!』

ブサ督「!!」

ブサ督「……よし」

ブサ督「高雄戦隊、そのまま追撃」

ブサ督「だが深追いはするな」

ブサ督「だいたい30分程度で切り上げろ」

高雄『高雄、了解』

ブサ督「他の戦隊は しばしその場で待機」

ブサ督「…………」

ブサ督「各戦隊……被害報告」


川内『こちら川内』

川内『大破1、中破3、小破2』

川内『轟沈無し』

―――――――――――

由良『こちら由良』

由良『大破無し、中破5、小破1』

由良『轟沈無し』

―――――――――――

五十鈴『こちら五十鈴』

五十鈴『大破3、中破3』

五十鈴『轟沈……無し!』

―――――――――――


ブサ督「……こちらブサイク提督」

ブサ督「各艦娘に次ぐ」

ブサ督「全戦隊、轟沈無し」

     !!

ブサ督「繰り返す」

ブサ督「全戦隊、轟沈無し!」


     ワアアアアアアアッ!


ブサ督「みんな……良くやってくれた」

ブサ督「B島観測要員である雷」

ブサ督「すまないが、あと6時間そこで警戒監視を続けてくれ」

ブサ督「時間が来たら交代要員を送る」

雷『分かったわ、ブサイク司令官』


ブサ督「それ以外は……」

ブサ督「速やかに南方鎮守府へ帰還せよ」


艦娘『了解!』


ブサ督「作戦室、通信終了」

     ブッ…

ブサ督「…………」

ブサ督「ふううううううううっ……」

ブサ督「はあ……」

ブサ督「…………」

ブサ督「一つの戦いが……終わったな」

本日はここまでです。



―――――――――――


南方鎮守府 執務室


ブサ督「高雄、愛宕、飛龍……」

ブサ督「よく生きていてくれた」

高雄「……そうですね」

愛宕「あの人の指揮下になって、良い事なんて一つもありませんでした」

飛龍「ブサイク提督がいかに優秀だったか……骨身に染みました」

ブサ督「君は……純粋にフツメン提督からの増援か」

鳳翔「そうなります」

鳳翔「よろしくお願いします、ブサイク提督」


高雄「それから、ここへ来る途中」

高雄「暁の部隊がタ級に襲われているのを発見し」

高雄「撃退しました」

ブサ督「何!?」

ブサ督(という事は……俺が西方へ連絡する事を予測した奴が)

ブサ督(深海棲艦に居る……!?)

ブサ督「……暁たちは無事なのか?」

高雄「暁と如月が大破してましたが」

高雄「今は西方鎮守府で手当てを受けていると思います」

高雄「おそらく一両日中にはこちらに向かって来るかと」

ブサ督「そうか……良かった」

ブサ督(危いところだった……ツキがあったな)


ブサ督「それにしてもどういった経緯で西方に?」

高雄「……酷い戦闘でした」

高雄「倒しても倒しても出てくる深海棲艦に」

高雄「私と愛宕は扶桑さんと山城さんに庇われて」

高雄「何とか戦闘海域から離脱できたんです」

ブサ督「……そうか」

飛龍「私も……似た様な状況です」

飛龍「妙高と足柄が庇ってくれたんですが……」

飛龍「それでも蒼龍が……」

ブサ督「…………」

高雄「……あの戦闘の後」

高雄「私たちは西方海域に行く事を決意しました」


高雄「南方鎮守府に戻っても……またあの男に使い潰されるだけ」

高雄「それならば、と」

高雄「西方海域の離島とかで一時的に身を潜める事にしたんです」

ブサ督「…………」

高雄「もうお分かりでしょうが」

高雄「私たちは程なくフツメン提督に見つかり」

高雄「彼の一存で艤装の修理と怪我の手当てを受け」

高雄「そして秘密裏に今まで滞在させてもらう事になったんです」

ブサ督「そうか……」

ブサ督「あいつに……大きな借りが出来たな」

高雄「あと、フツメン提督から伝言があります」

ブサ督「ん?」


高雄「まずはこれを」

ブサ督「これは……通信機と西方海域の海図か」

高雄「もしかしたらお前の頭脳が必要になるかもしれない」

高雄「その為の保険だ」

高雄「……との事です」

ブサ督「あいつらしいな……」

ブサ督「何故かこういう鼻は良く効く奴なんだよ」

高雄「そうなんですか」

ブサ督「ははは」

高雄「…………」

高雄「あのっ……ブサイク提督」

ブサ督「うん?」


高雄「今まで……失礼な態度を取ってすみませんでした」

愛宕「私からも謝ります。ごめんなさい」

飛龍「これまで……すみませんでした」

ブサ督「…………」

ブサ督「……顔を上げてくれ」

高雄「…………」

愛宕「…………」

飛龍「…………」

ブサ督「わだかまりが無い……と言えばウソになるが」

ブサ督「でも、そんなわだかまり以上にお前たちとまた会えた事が」

ブサ督「嬉しく思うよ」

高雄「ブサイク提督……」


ブサ督「それに変わりなく元気そうで良かった」

高雄「ブサイク提督は……少し痩せましたね」

高雄「日にも焼けてますし」

ブサ督「ここに来てから碌なもん食ってないからな……」

ブサ督「早く大本営からの補給が届いて欲しいよ」

     コン コン

ブサ督「ん、入ってくれ」

     ガチャ

電「失礼します」

     キィ パタン

電「先ほど、大本営からの補給物資が届きました」

ブサ督「噂をすれば、ってやつか」


電「はい?」

ブサ督「何でもない」

ブサ督「続けてくれ」

電「は、はい」

電「えと……こちらが目録になります」つ(目録)

ブサ督「おう」つ(目録)

ブサ督「では各自、艦体の修理と補給を済ませておくように」

ブサ督「もちろん高速修復材の使用も許可する」

電「はい」


ブサ督「それと……彼女たちに部屋を用意してやってくれるか?」

電「了解なのです」

ブサ督「頼む」

ブサ督「それじゃ……また食事時にでも会おう」

高雄「はい」

愛宕「分かりました」

飛龍「了解です」

鳳翔「それでは、また」

     ガチャ キィ パタン

ブサ督「…………」

ブサ督「ふう……」

ブサ督「…………」



―――――――――――


大本営 記者会見場


     ガヤ ガヤ

中尉「……えー、新聞記者の皆さん」

中尉「ご静粛にお願いします」

     …………

中尉「それでは、時間になりましたので記者会見を始めます」

中尉「質問などは後に受付けますので」

中尉「まずは、大将閣下のお話をお聞きください」

     …………

中尉「それでは……大将閣下、どうぞ」


大将「……あー」

大将「先ほどご紹介にあずかりました、大将です」

大将「早速ですが……先日、大々的に報道された」

大将「横領疑惑報道の件でございますが」

大将「結論から言いますと……事実でございます」

     ザワッ…!

大将「しかしながら、その経緯に至った理由に関して」

大将「新聞報道では説明が成されておりませんので」

大将「これからご説明させていただきます」

     …………


大将「まず……多大な額の横領となっておりますが」

大将「私的に流用したわけでなく」

大将「あくまで予算配分の都合上そうなってしまった面が強く」

大将「結果的に横領になってしまった、という側面がございます」

     …………

大将「特に南方方面の戦費拡大は」

大将「今年の予算配分を大きく超えるものであり」

大将「追加予算を組むにしても時間が掛かりすぎてしまいます」

     …………

大将「その様な煩雑な工程を踏んでいては」

大将「前線への補給や増援も遅れがちになってしまうため」

大将「この様な形を取り、それを新聞報道された」

大将「という経緯かと思われます」


大将「しかしながら……皇国国民の皆さまに対し」

大将「期待を大きく裏切る行為と捕らえられても仕方なく」

大将「また、予(あらかじ)め説明しなかった事も」

大将「私の不誠実な部分と指摘されても否定できません」

     …………

大将「よって」

大将「私はそれらの責任を取り、本日をもって」

大将「自らの職を辞する決意を固めました」

     ザワッ…!

大将「私からは以上です」


中尉「大将閣下、ありがとうございました」

中尉「それでは……質問を受付けます」

中尉「質問のある方は挙手を願います」

中尉「……では、そこの記者さん。どうぞ」

A「〇×新聞のA記者です」

A「えー先ほど南方方面の戦費拡大とおっしゃられましたが」

A「それは戦況が悪化している、という事なのでしょうか?」

     …………

大将「……申し訳ありませんが」

大将「その質問はいささか軍事機密に関しますので」

大将「お答えできません」


A「しかし、ですね」

A「南方方面は、かのイケメン提督が管轄していた地域です」

A「イケメン提督と言えば、連戦連勝で名を馳せた人物」

A「なのに戦費が拡大しているというのは、どういう事なのでしょうか?」

     …………

大将「……ならば少しだけお答えしますと」

大将「激しい戦い方をすれば、それだけ消費も激しくなる」

大将「戦争というものは、そういうものだ、という事です」

A「で、ですが!」

中尉「はい、ありがとうございました」

中尉「では、次の方……はい、そこのあなた。どうぞ」


B「□〇新聞のB記者です」

B「常勝のイケメン提督であっても戦費拡大は防げなかったのであれば」

B「他の指揮官はもっと酷いのでしょうか?」

     …………

大将「その質問もいささか軍事機密に関しますので」

大将「お答えできません」

     …………

B「しかし、大将閣下のお話を総合しますと」

B「そういった結論に至るのではないでしょうか?」


大将「敵である深海棲艦の動向は、非常に分かりづらく」

大将「神出鬼没で何が切っ掛けで戦闘を仕掛けてくるのかも不明確です」

大将「今回はたまたま南方方面が活発になった」

大将「現時点では、そうとしか説明できません」

B「…………」

中尉「はい、ありがとうございました」

中尉「それでは……はい、そこのあなた。どうぞ」

C「△△新聞のC記者です」

C「先ほどのお話の中で――」



―――――――――――


その日の夜

南方鎮守府 執務室


フツ督『――というわけで』

フツ督『我らが大将閣下殿は』

フツ督『電撃辞任する事になった』

ブサ督「…………」

ブサ督「……内地ではそんな事になってたのか」

ブサ督「しかし、権威主義の塊みたいなあの大将が」

ブサ督「よく辞任なんて道を選んだな」


フツ督『もう八方ふさがりだったんだろう』

フツ督『栄光ある皇国海軍艦娘艦隊の看板に傷をつけず』

フツ督『かつ、自分も守れてイケメン提督を辞めさせるにはどうしたらいいか?』

ブサ督「…………」

フツ督『今辞めれば残りの人生、楽に暮らして行ける年金は貰えるし』

フツ督『自分が泥を被る事で海軍の威光も傷つかず』

フツ督『世論的にも金を食いつぶした原因である』

フツ督『イケメン提督に不信感を与えられる、という算段じゃないかな』

ブサ督「……なるほど」

ブサ督「イケメン提督の首を切りやすくしたわけか」

フツ督『ところが……そこで誤算が二つ生じた』

ブサ督「誤算?」


フツ督『一つはイケメン提督の人気は想像以上に高く』

フツ督『新聞も大将の方ばかり批判している事』

ブサ督「…………」

フツ督『……もう一つはお前だ』

ブサ督「……は?」

フツ督『新聞ではほとんど取り上げられなかったが』

フツ督『軍部は、大将がお前からの補給要請を』

フツ督『第一級ですんなり受諾した事に不信感を抱いてるんだよ』

ブサ督「…………」

フツ督『もちろん状況は分かっているし』

フツ督『イケメン提督への不信感とは比べ物にならないくらい小さい』

フツ督『……が、どう転ぶかは、まだ分からん』


フツ督『そこでだ』

フツ督『しばらくの間、お前には負傷療養で姿をくらませて欲しい』

ブサ督「負傷療養か……」

フツ督『俺の伝手で何とか協力者を集めて』

フツ督『お前の立場を固める為の時間がどうしてもいる』

ブサ督「そうか……」

ブサ督「期間はどれくらいになる?」

フツ督『1週間……いや2週間あれば完璧だな』

ブサ督「2週間か……まあ長期休暇とでも思えばいいか」

ブサ督「先の防衛作戦で怪我して離島で療養している、と」

ブサ督「艦娘たちにしらばっくれてもらおう」


フツ督『ああ、そうしててくれ』

フツ督『それから俺が留守の間、西方鎮守府の防衛もよろしく』

ブサ督「へいへい」

フツ督『じゃ……そうだな、1週間後、中間報告を兼ねて必ず連絡を入れる』

フツ督『それまで静かにしていてくれ』

ブサ督「分かった」

フツ督『……あとな』

ブサ督「うん?」

フツ督『お前さんの事だ……』

フツ督『俺からの増援なんて無くても何とかしたんだろうが』

フツ督『どうするつもりだったんだ?』

ブサ督(あの増援……到着したタイミングは最悪だったけどな)

ブサ督「……普通に南方鎮守府を諦めるつもりでいた」


フツ督『俺が知りたいのはその後だ』

フツ督『タダで南方鎮守府をくれてやるつもりは無かったんだろう?』

ブサ督「……撤退後は」

ブサ督「とりあえず南方鎮守府に来る予定だった補給船団と合流し」

ブサ督「お前に頼んだ演習部隊迎撃の為に」

ブサ督「深海棲艦がどれだけ戦力を振り向けるか」

ブサ督「それを見て、判断するつもりだった」

フツ督『…………』

ブサ督「もちろん必要最低限しか残さないのなら」

ブサ督「せん滅するつもりではあった」

フツ督『……それを見込んでの演習要請か』


フツ督『お前の事だから何か考えがあるのだろうと思って』

フツ督『出せるだけ出したんだが、良かったよ』

ブサ督「その点はもちろん感謝してる」

ブサ督「……それとな」

フツ督『ん?』

ブサ督「今回の事もそうだが……高雄たちの事」

ブサ督「本当にありがとう」

フツ督『……元々大将閣下直々に要請されてた事だし』

フツ督『ついこの前偶然見つけて手当しただけの事さ』

フツ督『まあ気にするな……と言っても無理か』

ブサ督「俺にできる事で、何か礼をさせてくれ」

フツ督『…………』


フツ督『……じゃあ』

フツ督『今度、美味いダルマをご馳走してくれ』

ブサ督「そんなもんじゃ俺の気が済まない」

フツ督『なら二本だ』

フツ督『美味いダルマを二本、そして朝まで付き合え』

フツ督『それでどうだ?』

ブサ督「…………」

ブサ督「……分かった」

フツ督『美味いダルマ、楽しみにしてるぞ』

ブサ督「任せてくれ」

フツ督『通信終了』

ブサ督「通信終了」

     ブッ…



―――――――――――


翌日

北方海域 某所


     ザザザザザザザザ…

長良「…………」

長良「……そろそろ定時連絡しないと」

     ピピー ガガッ

長良「こちら天龍遠征隊・捜索班」

長良「北方鎮守府、応答願います」

大淀『こちら北方鎮守府、執務室』

大淀『どうぞ』


長良「残念だけど……今回も良い報告は出来ないわ」

長良「残骸すら発見出来ない」

大淀『……そうですか』

長良「それでね……大淀」

長良「これだけ広範囲を捜索して見つからないんじゃ……」

大淀『…………』

大淀『……最後にもう一度だけお願いしてもよろしいでしょうか?』

長良「…………」

長良「……分かった」

長良「最後にもう一度だけ探してみる」

大淀『ありがとうございます』

大淀『それが終わったら……帰途に就いてください』


長良「ええ……そうするわ」

長良「長良、通信終了」

     ブッ…

長良「みんな、ご苦労だけど」

長良「もう一度だけ捜索するわ」


艦娘「…………」


長良「今度は少し北寄りのルートで捜索してみよう」

長良「それで何も見つからなかったら……」

長良「捜索を打ち切って帰投するわ」

長良「もうひと踏ん張り、お願いね」

長良「…………」



―――――――――――


北方鎮守府 軍港


大淀「…………」

大淀「…………」

     ザザザザザザザザ…

大淀「……あ」

大淀「金剛さん!比叡さん!」

大淀「他の皆さんも……お帰りなさい!」

金剛「…………」

大淀「……お疲れさまでした」

大淀「入渠の準備はできてます」

大淀「高速修復材の用意もしてますよ」


金剛「…………」

大淀「……金剛……さん?」

金剛「…………」

大淀「……あれ?」

大淀「…………」

大淀「陸奥さん……は?」

金剛「…………」

金剛「……沈んだネ」

大淀「っ!!」

大淀「そ……そん…な……」

金剛「……イケメンテートクは?」

大淀「……今、新聞記者が大勢取材に来てて」

大淀「その対応に追われています」

金剛「そう……」


金剛「とりあえず……入渠して来マス」

金剛「その後で……話をシマショウ」

大淀「…………」

大淀「……はい」

―――――――――――

金剛「……以上が今回の任務報告ヨ」

金剛「何とか目的地の奪取には成功したネ」

大淀「はい」

金剛「…………」

金剛「それで……陸奥サンからイケメンテートクの評価を聞きマシタ」


大淀「……はい」

比叡「金剛お姉さまと同様……私も最初は信じられませんでした」

比叡「この戦いは確実に勝利に近づいていると」

比叡「いずれ南方と同じように平定できると思い」

比叡「戦ってきました」

大淀「…………」

利根「……いつかの戦闘よりはマシじゃったが」

利根「今回もけっこうな数の伏兵と遭遇してな」

利根「何とか力でねじ伏せ、撃滅には成功したが……」

大淀「…………」


加賀「……正直」

加賀「これが常勝と名高い人の戦略なのか?と」

加賀「薄々は……感じていました」

大淀「…………」

赤城「私は……今でも本当にそうなの?という疑いはありますが」

赤城「私を庇って沈みゆく陸奥さんの……」

赤城「最後の言葉が……忘れられそうにありません」


    「これが……あのクズを…信じてしまった……結果…よ」


大淀「…………」

利根「……のう、大淀」

利根「最近吾輩は……ブサイク提督が居った頃ばかり思い出す」

大淀「…………」


利根「何でじゃろうな……?」

利根「あの頃は勇ましく戦いたくて仕方無く」

利根「それをさせてくれぬブサイク提督が」

利根「憎くてしょうがなかったというのに……」

利根「あの頃頻繁にやらされていた哨戒任務が」

利根「今は懐かしくてしょうがないのじゃ……」

筑摩「利根姉さん……」

大淀「…………」

大淀「……大本営に相談してみましょう」


一同「!」


大淀「ずっと考えて来た事です」

大淀「何か……何か方法は無いものか、と」


利根「それで何かが変わるのか?」

大淀「分かりません……ですが」

大淀「内地では、大将閣下が横領していた事を認め」

大淀「電撃辞任した、という大きな変化があったんです」

利根「なんと……」

利根「あの新聞報道は事実じゃったのか……」

大淀「はい」

大淀「今、イケメン提督が記者に囲まれているのも」

大淀「その関係なんです」

利根「なんじゃ?」

利根「イケメン提督も横領しておったのか?」


大淀「いえ……そうではありません」

大淀「新聞は……空いた大将閣下のポストに」

大淀「常勝イケメン提督が行くのでは?と」

大淀「書き立てているんです……」

利根「……世も末じゃのう」

大淀「ですので、その辺りも含めて」

大淀「大本営に相談してみるのが一番いいのではないかと」

加賀「…………」

加賀「他にいい案はあるのかしら?」


一同「…………」


加賀「なら……決まりね」


大淀「ただ……大本営へのホットラインは」

大淀「執務室に限られてるのが厄介なところです」

利根「イケメン提督が邪魔になるか……」

利根「それならば吾輩らで奴を誘(おび)き出せばよいのでは?」

金剛「……その役」

金剛「私がスるヨ。きっと適役ネ」

大淀「では……お願いします」

大淀「他の皆さんもフォローをしていただければ……」

筑摩「言われるまでもありませんよ、大淀さん」

加賀「……顔に出ないかしら」

赤城「加賀さんなら大丈夫ですよ」

     ハハハ…



―――――――――――


天龍「はあっ……はあっ……」

天龍「……ぐっ……」

天龍「…………」

天龍「……死ねる…か……」

天龍「…………」

天龍「……こんな……ところで……」

天龍「死んで……たまるか……!」

天龍「……はあっ……はあっ……」

天龍「………………はあっ………」

天龍「…………はあっ…………はあっ…………」

天龍「…………」


     ド ク ンッ

天龍「ぐっ!?」

天龍「がっ……があああああああああっ!!」

天龍「あ……がっ……」

天龍「……っ」

天龍「…………」

天龍「…………」

天龍「…………」

天龍「…………」

天龍「………ロス」

天龍「コロス……」


天龍「コロス……コロス……」

天龍「コロス、コロス、コロス」

天龍「コロス、コロス、コロス、コロス、コロス」

天龍「コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス、コロス」

 コロス コロス コロス コロス コロス コロス…
    コロス  コロス コロス……    コロス
コロス… コロス コロス… コロス   コロス コロス 
    コロス コロス……
 コロス コロス   コロス……     コロス……
    コロス…  コロス   コロス… コロス…
 コロス コロス     コロス… コロス コロス コロス…
コロス コロス    コロス  コロス……
 コロス コロス    コロス……  コロス コロス コロス…
コロス コロス コロス コロス
         コロス コロス コロス コロス…









     アノ……クソヤロウ……

     コ  ロ  ス  …







.

本日はここまでです。
ジャイロコンパスなんて初めて知りました。
この頃の魚雷って純粋にまっすぐしか進めないものと思ってたんですけど
すごい技術があったんですね。
海流のこと無視かよm9(^Д^)プギャーされるかと思って
わざわざ入れたネタだったんですが、必要なかった……(´・ω・`)ショボーン
ちなみに元ネタは戦闘機の見越し射撃です。あれを魚雷でできないかなー
と思って考えた戦法でした……



―――――――――――


西方海域 とある離島の砂浜


     ザザーン… ザザーン…


ブサ督「…………」

ブサ督「……どうしてこうなった」

ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督(うん、確かに離島で療養とは言ったけど)

ブサ督(それはあくまで建前であって)

ブサ督(本当に離島で過ごしたいわけじゃ)

ブサ督(無いんだけど……)


ブサ督(…………)

ブサ督(……高雄に話したのがまずかったのかな)

ブサ督(…………)

ブサ督(そういう事でしたら私たちが使っていた島がお勧めです)

ブサ督(とか言い出して……)

ブサ督(あれよあれよ、という間にここへ連れて来られた)

ブサ督(…………)

ブサ督(いや……そこまでは良しとしよう)

ブサ督(問題は……)

ブサ督(何で俺は今ひとりなんだって事)

ブサ督(…………)


ブサ督(…………)

ブサ督(……高雄に話したのがまずかったのかな)

ブサ督(…………)

ブサ督(そういう事でしたら私たちが使っていた島がお勧めです)

ブサ督(とか言い出して……)

ブサ督(あれよあれよ、という間にここへ連れて来られた)

ブサ督(…………)

ブサ督(いや……そこまでは良しとしよう)

ブサ督(問題は……)

ブサ督(何で俺は今ひとりなんだって事)

ブサ督(…………)


ブサ督(…………)

ブサ督(……高雄に話したのがまずかったのかな)

ブサ督(…………)

ブサ督(そういう事でしたら私たちが使っていた島がお勧めです)

ブサ督(とか言い出して……)

ブサ督(あれよあれよ、という間にここへ連れて来られた)

ブサ督(…………)

ブサ督(いや……そこまでは良しとしよう)

ブサ督(問題は……)

ブサ督(何で俺は今ひとりなんだって事)

ブサ督(…………)

しもた二重投下してもうた。


ブサ督(確かにここは西方鎮守府のテリトリーだけど……)

ブサ督(俺、最弱のイ級にだって勝てないよ?)

ブサ督(たぶんワンパンだよ?)

ブサ督(……海にさえ入らなきゃいいんだけどさぁ……)

ブサ督(…………)

ブサ督(それでも誰か一人くらい)

ブサ督(護衛で来てくれても……いいんじゃないかなぁ……)

ブサ督(…………)

ブサ督「……はあ」

ブサ督「…………」

ブサ督「まあ……」

ブサ督「それを口にしなかった俺にも落ち度はあるか……」

ブサ督「はあ……」


ブサ督「…………」

ブサ督(とりあえず2週間とか言ってたが)

ブサ督(食料、飲料生成装置、医薬品、その他、電池などの雑貨も)

ブサ督(余裕をもって、ひと月分あるから)

ブサ督(サバイバルする必要はないけど……)

ブサ督(…………)

ブサ督(なんだかなぁ……)

ブサ督(…………)

ブサ督(……ほんと、ため息しか出ない)

ブサ督(…………)



―――――――――――


南方鎮守府 談話室


     ガヤ ガヤ

電「…………」

電「いまごろ……ブサイク司令官さんは」

電「どうしているのでしょうか……」

暁「極秘任務よ」

暁「それは私たちが考えても仕方ないわ」

暁「わざわざ高雄に向かって離島で療養なんて言い出すんだから」

暁「何らかの思慮遠謀があるのよ」


電「……ここを出る時、ブサイク司令官さんが」

電「とても悲しそうな顔をしていた様に思えたのですが」

暁「……信じるしかないわ」

暁「私に重要な任務を託した様に」

暁「きっと……何かブサイク司令官にしか出来ない事があるのよ」

電(……そういう意味ではないのです)

由良「……きっとそうね」

由良「あんな見事な魚雷戦術を駆使できるのだもの……」

由良「戦略上、重要な何かが……」

由良「ブサイク司令官の双肩にかかっているのよ」

暁「ええ……」

電(……本当にそうなのでしょうか)



―――――――――――


     ザザーン… ザザーン…


ブサ督「…………」

ブサ督「……もう夕方か」

ブサ督「うう~ん……」 ノビー…

ブサ督「…………」

ブサ督「晩飯の用意でもするか……」

     ザッ… ザッ… ザッ…

ブサ督「……ん?」

タ級「…………」

ブサ督「」

ブサ督(せ……戦艦級の……タ級!?)

タ級「…………」


ブサ督「……う」

ブサ督「うわわわわわわわわわわわわわわっ!?」

タ級「…………」

ブサ督(……終わった)

ブサ督(俺の人生……)

ブサ督(予想通り……童貞のまま)

ブサ督(終わった……!)

タ級「…………」

ブサ督「…………」

タ級「…………」

ブサ督「…………」


ブサ督「……?」

タ級「…………」

ブサ督「…………」

タ級「…………」

ブサ督「……えと」

ブサ督「な、何か……用……なのか…な?」

タ級「…………」

タ級「……そういう訳ではない」

ブサ督(しゃ、しゃべった!?)

ブサ督「…………」

タ級「…………」

ブサ督「……とりあえず」

ブサ督「座らないか?」


タ級「…………」

     ストン

ブサ督(……向こうもこちらの言葉を理解してる)

ブサ督(驚いた……)

ブサ督(俺は、世界で初めて)

ブサ督(深海棲艦とコミュニケーションを取ったのかもしれない)

タ級「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「……これから飯を食うんだが」

ブサ督「お前も食うか?」

タ級「メシ……とは何だ?」

ブサ督「え」


タ級「…………」

     ストン

ブサ督(……向こうもこちらの言葉を理解してる)

ブサ督(驚いた……)

ブサ督(俺は、世界で初めて)

ブサ督(深海棲艦とコミュニケーションを取ったのかもしれない)

タ級「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「……これから飯を食うんだが」

ブサ督「お前も食うか?」

タ級「メシ……とは何だ?」

ブサ督「え」

また二重投下……PCの調子が悪いのか


ブサ督「食事……って分かるか?」

タ級「いや」

タ級「……栄養摂取作業……の事か?」

ブサ督「……そうだ」

タ級「もらおう」

タ級「グレッズが何を摂取しているのか興味がある」

ブサ督「……ぐれっず?」

タ級「お前たちの事だ」

タ級「我々ディルプはお前たちの事をグレッズと呼称している」

ブサ督「……ほう」

ブサ督(深海棲艦は自分たちをディルプと呼んでいるのか)

ブサ督「ま……話は食いながらしよう」


―――――――――――

ブサ督「……口に合うか分からんが」

タ級「……これは何だ?」

ブサ督「袋詰めのビーフシチュー……つっても分からんよな」

ブサ督「そういや、深海棲艦……いや、ディルプは」

ブサ督「普段どんなものを食っ……摂取してるんだ?」

タ級「主にプランクトンの死骸だ」

タ級「あれを凝縮して、ブロック状にしたものを摂取している」

ブサ督「プラ……ちょっと遠慮したくなるな」

タ級「そうか?」

タ級「このビーフ……何やらも何か生き物の死骸ではないのか?」

ブサ督「……言われてみれば確かにそうだ」


タ級「…………」

タ級「では……摂取する」

ブサ督「お、手づかみとはワイルド……」

ブサ督「あ、スプーンの使い方が分からないのか?」

タ級「む?」

ブサ督「これはこうやって使うんだ」

ブサ督「俺の真似をしてみるといい」

タ級「分かった」

タ級「では……今度こそ摂取する」

ブサ督「ああ。いただきます」

     モグ…

タ級「!」


     モグモグモグ ゴクン

タ級「な、なんだこれは!?」

ブサ督「口に合わなかったか?」

タ級「い、いや……どう言えばいいのか分からん」

タ級「分からんが!」

     モグモグ ゴクン

     モグモグ ゴクン

タ級「摂取が……止まらない!」

ブサ督「……その様子だと」

ブサ督「旨いみたいだな」

タ級「旨い?……この感覚は旨い、というものなのか?」

ブサ督「たぶん」

タ級「旨い……旨い!」


―――――――――――

タ級「ふう……」

ブサ督「お粗末様でした」

タ級「……グレッズは普段、こんな旨いものを摂取しているのか」

ブサ督「普段はもっと旨いものを摂取してるぞ」

タ級「な、なに!?」

ブサ督「これは袋詰め……んと、保存用に作られている物だからな」

ブサ督「偽物……とまでは言わないが旨さは控えめにしてある」

タ級「……信じられない」

ブサ督「あと……他の食い物もある」

タ級「他?」


タ級「ビーフ……何やら以外の生き物も摂取すると?」

ブサ督「それもそうだが……やり方次第で別の旨さがあるって事だ」

タ級「……違う旨いがある、という事か?」

ブサ督「そうなるな」

タ級「…………」

タ級「非常に興味がある」

ブサ督「気持ちは分かるんだけど、数に限りがあるんでな」

ブサ督「また飯時に……ええと、明日の朝、ご馳走しよう」

タ級「……そうか」

ブサ督(あからさまにがっかりしてる……)

タ級「…………」


タ級「……お前は他のグレッズとは違うな」

ブサ督「……まあ顔についてはそうだろうな」

タ級「違う。そうではない」

タ級「何と言うか……体形がかなり違う」

ブサ督「体形?……ああ艦娘とか?」

タ級「艦娘?」

ブサ督「戦っている戦闘員の事をそう呼んでいる」

タ級「そうだ。その艦娘というグレッズと、だいぶ体つきが違う」

ブサ督「それは男と女の違いだな……」

ブサ督「ん?……ディルプに男は居ないのか?」

タ級「少なくとも私はお前の様なものを見た事が無い」

ブサ督「……そうなのか」

ブサ督「じゃあ、深海……ディルプはどうやって増えるんだ?」


タ級「私には分からない」

タ級「上が言うには、勝手に生まれてくるとか言っていたが……」

ブサ督(上が居るのか……)

タ級「グレッズはどうやって増えるのだ?」

ブサ督「……へ?」

タ級「男……とか言ったな?」

タ級「つまり、お前のような存在がグレッズの増殖に必要という事か?」

ブサ督「そ」

ブサ督「そ、その、通りなんだが……相手の女と合意が……ごにょごにょ」

タ級「?」

ブサ督「そ、そう言えば!」

ブサ督「名前! 名前を聞いていなかったな!」


タ級「名前?」

ブサ督「ディルプみたいな種族とか全体を指すのではなく」

ブサ督「個人や個体の名称の事だ」

タ級「ああ……個体名の事か」

ブサ督「俺の名前はブサイク提督」

ブサ督「君は?」

タ級「私はディルプでスリーオブエイトと呼ばれていた」

ブサ督「スリーオブエイト?……数字で呼ばれていたのか」

タ級「私の様な自我を持つ個体はディルプでは珍しいからな」

タ級「ナンバーズとして区別されている」

ブサ督「珍しい?」

ブサ督「という事は……ディルプのほとんどは自我が無いのか?」


タ級「ああ」

ブサ督(……なるほど)

ブサ督(それでダメージを喰らっても構わず前進して来るのか)

ブサ督「……それにしても」

ブサ督「名前が数字、というのは味気ないな」

タ級「気に入らないのか?」

ブサ督「まあ……端的に言えば」

ブサ督「我々は普通、君みたいな綺麗な女の子には」

ブサ督「花の名前とか付けたりするんだ」

タ級「花……とは?」

ブサ督「植物が実を付け……いや、これじゃ分かりづらいな」


ブサ督「ええと……」

ブサ督「ああ、ほら。 そこにある黄色いやつ」

ブサ督「そういうのを総称して花と呼んでいる」

タ級「これか……」

タ級「この花の名前は何と言うのだ?」

ブサ督「すまん。ちょっと分からない」

タ級「そうか……」

タ級「では……お前が知っていて好きな花の名前は?」

ブサ督「…………」

ブサ督「桜だな」

タ級「桜……どんな花だ?」


ブサ督「春になると、樹木いっぱいに淡いピンク色の花をつける植物で」

ブサ督「一つ一つは、そこの花くらいの大きさだが」

ブサ督「それはもう見事で……とても綺麗なんだ」

タ級「…………」

タ級「では……私は桜、と名乗ろう」

ブサ督「え」

タ級「不満か?」

ブサ督「い、いや……そうじゃないが」

タ級「なら……別に構わないだろう?」

ブサ督「……ああ」

ブサ督「よろしく、桜」

桜「よろしく、ブサイク提督」



―――――――――――


大本営 元帥の執務室


     コン コン

元帥「む?」

フツ督「お久しぶりです元帥閣下」

フツ督「フツメン提督です」

元帥「おお、着いたのか」

元帥「どうぞ、入ってくれ」

フツ督「失礼します」

     ガチャ キィ パタン

元帥「長旅、ご苦労だった。そこのソファにでも掛けてくれ」


フツ督「ではお言葉に甘えて」

フツ督「龍田、君も座ると言いい」

龍田「はぁい。失礼します」

     ストン

フツ督「いやぁさすが内地、しかも帝都は違いますね」

フツ督「人込みで少々酔いました」

元帥「そうか」

フツ督「それでは、さっそく本題に入りますが……」

フツ督「ブサイク提督の件はどうなりました?」

元帥「そちらは貴様の根回しがあれば、おそらく問題ないだろう」

元帥「ただ、やはり一度、ブサイク提督には大本営に来てもらう必要がある」

元帥「南方鎮守府着任当時の状態を本人が文書付きで提示せねば」

元帥「納得できぬ者も多い」


フツ督「まあ……妥当なところですね」

元帥「問題はイケメン提督の方だ……」

元帥「これを見てくれ」

     バサ バサ…

フツ督「……イケメン提督、大将職へ意欲?」

フツ督「横領撲滅の急先鋒……」

フツ督「……何ですかこれ?」

元帥「見ての通りだ」

元帥「大将……いや元大将の毒が効きすぎて」

元帥「手が付けられん状況になっている」


フツ督「……民衆の人気が高いと聞いていましたが」

フツ督「新聞がそれに乗っかってる感じですか」

元帥「知り合いによると」

元帥「イケメン提督の話題は発行部数に多大なる影響があるそうだ」

フツ督「…………」

元帥「この状態で奴の首を切ってみろ……」

元帥「海軍への民意は一気に悪くなる」

元帥「かといって、奴のやらかした事を暴露しても結果は同じだ」

フツ督「……その場合は奴を道連れに出来ますけどね」

元帥「逆だ。海軍が奴に道連れにされるのだ!」

フツ督「…………」


元帥「……すまん」

元帥「少々声を荒げてしまったな」

フツ督「いえ」

龍田「…………」

フツ督「何とか奴の方から辞任する様もって行く事は出来ないですか?」

元帥「……実は」

元帥「その方向で海軍も検討を始めている」

フツ督「癪に障りますが……それが無難なところですね」

元帥「納得など到底無理だがな……」

元帥「だが奴の持つ海軍の機密事項がどれだけあるか」

元帥「あやつの行動を鑑みると、うかつに刺激すれば」

元帥「藪蛇になりそうでな……」


フツ督「やはり……新聞へ情報を提供したのは彼ですか」

元帥「……残念ながら証拠は掴めなかった」

元帥「元大将もさぞかし手を焼いた事だろう」

フツ督「飼い犬に手を噛まれるどころか」

フツ督「喉笛噛み切られてますからね」

元帥「今度は海軍そのものが食い散らかされそうだ……」

龍田「…………」

元帥「何かいい方法は無いだろうか?」

フツ督「考えてみますが……余り期待しないでください」

元帥「そうか……来たばかりで疲れているだろう」

元帥「とりあえず、用意したホテルで休養してゆっくり考えてくれ」

フツ督「ありがとうございます」



―――――――――――


帝都 大通り付近


     ガヤ ガヤ

龍田「……ねえ」

フツ督「ん?」

龍田「私を連れてきた理由って……処理かしら?」

フツ督「……まだそうと決まった訳じゃない」

龍田「やらされる可能性はあるのね」

フツ督「……残念ながらな」

龍田「そっか……」

フツ督「…………」



―――――――――――


北方鎮守府 執務室前


大淀「…………」

大淀(さて、金剛さん)

大淀(心の準備はいいですか?)

金剛(大丈夫ネ……)

金剛(いつも通り、元気ハツラツ金剛出来マース!)

大淀(では……ノックして扉を開けます)

金剛(了解ネー!)


     コン コン

大淀「入ります」

     ガチャ…

イケ督「ああ、大淀か」

イケ督「それと……金剛も一緒か」

イケ督「任務ご苦労」

金剛「ヘーイ! イケメンテートクゥ!」

金剛「任務達成した金剛にご褒美……」

金剛「へ?」

大淀「イケメン提督、その荷物は?」

イケ督「いやね」

イケ督「ちょっと大本営まで行かなきゃならなくてね」

大淀「出頭命令が出たので?」


イケ督「まあそんなとこかな」

イケ督「そんな訳で私はこれから出かけるから」

イケ督「北方鎮守府はしばらく大淀達に任せるよ」

大淀「はあ……」

イケ督「すまないね」

イケ督「金剛も悪いな」

イケ督「また今度埋め合わせをさせてもらうよ」

金剛「は、はい」

金剛「北方鎮守府は任せてくだサーイ!」

イケ督「それじゃ、またな」

     ガチャ キィ パタン

大淀「…………」

金剛「…………」


―――――――――――

利根「せっかく意気込んだというのに……」

利根「拍子抜けじゃのう」

大淀「ま、まあ、釈然とはしませんが……」

大淀「結果的に良かったと思いましょう」

大淀「それでは……」

     プルルルル… プルルルル…

     ガチャ

大淀「こちらは北方鎮守府、執務室」

大淀「秘書艦の大淀です」

大淀「艦娘艦隊の責任者の方をお願いします」


通信使『こちら大本営・艦娘艦隊窓口』

通信使『現在、総責任者の不在によりお繋ぎできません』

大淀「え」

大淀「で、では、どなたか……責任のあるお方で構いません」

大淀「お繋ぎ願えませんか?」

通信使『少々お待ちください』

大淀「…………」

大淀「…………」

通信使『お待たせしました』

通信使『現在、責任者不在であり、その他の方も多忙の為』

通信使『大変申し訳ないのですが』

通信使『お取次ぎする事が出来ません』


大淀「そ、そんな!」

大淀「…………」

大淀「で、では……南方鎮守府のブサイク提督はいかがでしょう?」

通信使『少々お待ちください』

大淀「…………」

大淀「…………」

通信使『お待たせしました』

通信使『ブサイク提督は先日、南方鎮守府防衛作戦で負傷され』

通信使『離島で療養中との事で、お取次ぎできません』

大淀「な……」

通信使『申し訳ありませんが、また日を改めてご連絡ください』

通信使『では……失礼します』


     ブッ…

大淀「え、ちょっと待っ」

大淀「……切れました」

利根「……色よい返事は聞けなかった様じゃの」

大淀「…………」

大淀「……それから」

大淀「ブサイク提督、南方鎮守府の防衛戦闘で負傷されたそうです」

利根「悪い事は重なるのう……」

大淀「参りました……もうお手上げです」

大淀「大本営も混乱状態なのかもしれません」

利根「…………」


利根「くよくよしても仕方ない」

利根「飯でも食って、たっぷり寝て」

利根「英気を養う事が、今の吾輩らに出来る事じゃろう」

大淀「…………」

大淀「……そうですね」

大淀「せっかくですから、羽を伸ばしましょう」

大淀「…………」


―――――――――――


北方鎮守府 食堂


利根「それにしても……ブサイク提督が防衛作戦で負傷とはの」

利根「それだけ南方は……酷い状況だった、という事か」


大淀「そう推測せざるを得ません……」

大淀「今後は……イケメン提督の命令に対し」

大淀「どう対処していけばいいのか……」

利根「頭の痛い問題じゃのう……」


     ドォンッ! ドォンッ!

     ドガアァァァァァンッ!!


大淀「!?」

利根「!?」

利根「何じゃ!? 今の爆発音は!?」

大淀「執務室の方向から聞こえてきました!」


―――――――――――

     タッ タッ タッ…

比叡「今の爆発、執務室ですか!?」

利根「分からぬ!」

利根「それを確かめに走っておるのじゃ!」

金剛「まさか……深海棲艦が攻めて来た!?」

大淀「この角を曲がれば……ああっ!?」

??「…………」

利根「あれは……チ級……?」

利根「いや、違う……」

??「……ドコダ」

大淀「えっ……!?」

大淀(深海棲艦が言葉を!?)


??「あの……クソヤロウ……」

??「ドコだ……?」

利根「クソ野郎……とは」

利根「イケメン提督の事か?」

??「ソウだ……トネ……」

利根「!?」

利根「な、なぜ、吾輩の名前を知っておる!?」

??「言エ……アノ……くそヤロウは……」

??「ドコダ……!!」

大淀「…………」

大淀「ま……まさか……」

大淀「て……天龍……さん?」


利根「!!」

比叡「!?」

金剛「!?」

利根「そうじゃ……あの顔、どこか見覚えがあると思ったが」

利根「天龍!」

利根「いったい……お主に何があったのじゃ!?」

天龍?「…………」

天龍?「あの……クソヤロウに……」

天龍?「深海棲艦泊地へ……イケと……命令……ぐっ……」

天龍?「がああああああああああっ!!」

利根「!?」

大淀「!?」


     ドンッ

大淀「ひっ!」

天龍?「言え……オオよド……」

天龍?「あの……クソヤロウは……ドコダ!!」

大淀「こ、ここには……居ませんっ」

大淀「大本営にっ……」

天龍?「…………」

     バッ!

利根「あっ!」

利根「ま、待つのじゃ! 天龍!」

金剛「追いかけるネー!」

比叡「私も行きます!」

     タッ タッ タッ…


利根「……なんという事じゃ」

利根「いかに恐ろしかったと言えど」

利根「イケメン提督の居場所を教えてしまうとは……」

大淀「……すみません」

利根「あの様子だと……何日かかろうとも」

利根「おそらく大本営へ向かうであろうな……」

利根(途中の防衛網に引っかかれば、間違いなく)

利根(深海棲艦として処理される……)

大淀「…………」

利根「……じゃが、この事は」

利根「大本営に報告せねばな」


大淀「え……」

利根「それが艦娘である吾輩らの責務じゃ」

利根「皇国国民に危害を加える可能性も否定できんしのう」

大淀「…………」

大淀「……わかり……ました」

大淀「執務室へ向かいましょう」


―――――――――――


北方鎮守府 執務室


利根「何たる事じゃ……」

大淀「やはり……あの時の爆発音はここだったんですね」


利根「……いや、もっと深刻じゃぞ」

大淀「え……」

利根「こっちを見てみよ」

大淀「…………」

大淀「!!」

大淀「そんな……作戦室まで!」

利根「しかもご丁寧に広域通信機も電探も破壊されておる」

利根「追跡を防ぐ為か……手際のよい事じゃ」

大淀「すぐに明石さんを呼んできます!」

     タッ タッ タッ…

利根「…………」

利根(これ以上……何事も起こらねば良いが……)


―――――――――――

     ザザザザザザザザ…

長良「メーデー!メーデー!」

長良「こちら天龍遠征隊・捜索班!」

長良「北方鎮守府、応答して!」

     ピピピー ガガー

長良「大淀! 返事して!」

     ガガガー ピー

長良「どうして……どうして!」

長良「メーデー!メーデー!」

長良「大規模な深海棲艦艦隊に追撃を受けてる!」

長良「誰か……誰か助けて!」

長良「誰かぁぁっ!!」

本日はここまでです。




あれ、艤装を装着したら普通の艦娘同士で無線通信できるのでは?

それとディルプだのグレッズだのは
>>1の創作で公式でもなんでもありません。
あしからずです。

>>409
後で出てきますが艦娘同士では短距離通信しかできない設定です。



―――――――――――


西方海域 とある離島の砂浜


     ザザーン… ザザーン…

ブサ督「…………」

ブサ督「……平和だ」

桜「平和……世の中が安定している事」

桜「だったか?」

ブサ督「ああ」

桜「……戦いしか知らなかった私だが」

桜「こう……何もせず誰かと休養を取るのは」

桜「いいものだな……」

ブサ督「……そうだな」


ブサ督(まあ……そのおかげで)

ブサ督(俺としては別の戦いが生じてるんだけどな……)

ブサ督(特に夜だ)

ブサ督(他は余裕を持っていろいろあるが)

ブサ督(テントは一つしかない……)

ブサ督(おまけにマラリア等で虫刺されを気にしないといけないから)

ブサ督(外で寝るわけにもいかないし……)

ブサ督(おかげで自家発電が捗る捗る……)

ブサ督(…………)

ブサ督(……バレてない……よな?)


     ピピピ… ピピピ…

ブサ督「お?」

桜「…………」

     ピピッ ガガッ

ブサ督「こちらブサイク提督」

ブサ督「どうぞ」

阿賀野『こちら西方鎮守府・臨時秘書艦・阿賀野』

阿賀野『早速ですが、北緯△△□東経〇△□にて』

阿賀野『深海棲艦艦隊を発見しました』

阿賀野『規模は二個戦隊。中核は戦艦級のル級で構成されています』

ブサ督「ええと北緯△△□東経〇△□……」

ブサ督「空母級は? 居ないのか?」


阿賀野『確認していません』

ブサ督「了解……脳筋部隊か」

ブサ督「その艦隊の東に駐留している機動部隊と」

ブサ督「南に駐留している重巡の二個戦隊を最短で合流させ」

ブサ督「手厚く歓迎してやるといい」

ブサ督「念のため西方鎮守府の機動部隊を出動させ」

ブサ督「予備兵力として控えさせておけば大丈夫だろう」

桜「…………」

阿賀野『では、その様にします』

阿賀野『阿賀野、通信終了』

ブサ督「ブサイク提督、通信終了」

     ブッ…


ブサ督「ふう……」

桜「…………」

桜「……いいのか?」

ブサ督「ん?」

桜「今のは軍議だろう?」

桜「敵である私の前でするべき事じゃない」

ブサ督「……確かに」

ブサ督「でも桜がもしそのつもりなら」

ブサ督「俺を始末するか、拉致して情報を聞き出すかするだろう?」

桜「それは……そうだが」

ブサ督「それをやって来ないんだから」

ブサ督「俺は敵じゃないと思ってる」


桜「…………」

桜「……グレッズ……いや」

桜「人間、だったか」

桜「みな、お前みたいな考え方をするのか?」

ブサ督「残念ながら、そんなことは無い」

ブサ督「すぐ怒る奴もいるし、敵と判断したら襲い掛かる奴もいる」

ブサ督「人それぞれさ」

桜「…………」

桜「変わってるな、ブサイク提督は……」

桜「定時連絡でも私の存在を伝えないし」

桜「自分が言うのもおかしいが、利敵行為がすぎる」

ブサ督「……かもな」


ブサ督「でもそれを言うなら」

ブサ督「最初会った時、俺を殺さなかった」

ブサ督「桜も同じじゃないのかな」

桜「…………」

桜「……そうだな」

ブサ督「…………」

桜「…………」

桜「……聞かないのか?」

ブサ督「何を?」

桜「なぜ……私がここに居るのかを」

ブサ督「…………」

ブサ督「言いにくい事かと思って」


桜「…………」

ブサ督「…………」

     ザザーン… ザザーン…

桜「……私は」

桜「ブサイク提督の言う南方海域の……ディルプだった」

ブサ督「…………」

ブサ督「だった、か……」

桜「…………」

桜「数か月前……私は突如、自我が芽生え」

桜「ナンバーズになり、スリーオブエイトと名付けられた」

ブサ督「…………」


桜「憎きディルプの敵」

桜「グレッズどもをせん滅する事」

桜「それが……我々の使命だと教えられてきた」

ブサ督「…………」

桜「ある日、私はワンオブスリー……南方ディルプの最高責任者に」

桜「同海域のグレッズせん滅作戦を立案して承認され」

桜「大戦果を挙げた」

ブサ督(……やはり)

ブサ督(南方鎮守府は大ダメージを受けてたのか)

桜「私は意気揚々と拠点に戻ったが……」

桜「ワンオブスリーは喜んでいなかった」

ブサ督「…………」


桜「私は何が悪かったのか……考えてみたが分からず」

桜「その答えも分からぬまま、グレッズの攻撃が激化した」

ブサ督「…………」

桜「その攻撃はちぐはぐな物ばかりで」

桜「反撃には苦労しなかったが……たびたび来て」

桜「辟易した」

ブサ督(イケメン提督……敵からも散々な評価だ)

桜「だが……きちんと防衛してるにも関わらず」

桜「ワンオブスリーの機嫌は悪くなる一方……」

桜「理由は不明だ……」

ブサ督「…………」

ブサ督(ワンオブスリーって奴……もしかして桜に嫉妬してる?)


桜「ある日……突然だった」

桜「グレッズの動きが急に変化した」

ブサ督「…………」

桜「忽然と消えたかと思えば要所で戦闘を仕掛け」

桜「私は……どう対処すべきか悩んだ」

ブサ督「…………」

桜「気が付けば多くの戦場でグレッズの姿が見えなくなり」

桜「これは撤退の手段だったのかと驚かされた……」

ブサ督「…………」

桜「私は……これだけ見事な撤退をする指揮官なのだから」

桜「どこかに伏兵を仕掛けていないか恐ろしかった」

ブサ督「…………」


桜「急に広がった支配海域の駐留に兵力を割かねばならず」

桜「この撤退をどう見るか考え、試す事を思いついた。が……」

ブサ督「…………」

桜「私は後悔した」

桜「実に中途半端な対応をされ、返って頭を痛める事になった」

ブサ督(……そりゃスマン)

桜「私は……初めてワンオブスリーに相談した」

桜「ワンオブスリーの回答は実に明快だった」

桜「この様な小細工を弄するのだから、敵の窮状は明らか」

桜「大艦隊で押しつぶせばいい、と言い放った」

ブサ督(なるほどね……)

ブサ督(あれはワンオブスリーさんの指揮だったか)


桜「ワンオブスリーの決定で戦力がかき集められ」

桜「一路、グレッズの拠点へ向かったのだが……」

桜「ある場所で、正体不明の部隊が西へ向かっていると報告が上がった」

ブサ督「!」

ブサ督(暁……発見されていたのか)

桜「私はそれを聞いて戦慄した」

桜「もし、その部隊がグレッズによるもので」

桜「西にあるグレッズの別拠点に救援を求めるものだったら」

桜「南方ディルプの拠点を攻略されるのではないか?」

桜「……そう考えた」

ブサ督「…………」


桜「私はワンオブスリーに今すぐ艦隊を引き返す許可を求めた」

桜「しかし……それは受け入れられず、指揮官の交代を命じられ」

桜「私に帰投するよう指示された」

ブサ督「…………」

桜「私は……初めて命令に背いた」

桜「西に進路を取り、私一人てでもその艦隊を沈めねばと」

桜「ディルプの為にと……行動した」

ブサ督「…………」

桜「…………」

桜「……私の命令違反は無駄に終わった」

桜「その部隊に追いつきはしたものの、グレッズの増援が現れ」

桜「私は……命からがら離脱する事になった」

ブサ督「…………」


桜「拠点に戻るとワンオブスリーは怒り狂っていた」

桜「理由を説明するも命令に背いた私を許すことは無く……」

桜「私は……傷ついたまま……」

桜「拠点から放り出され……帰る場所を無くした」

ブサ督「…………」

桜「どこをどう……移動したのか」

桜「ディルプに攻撃されることは無く……気が付けば」

桜「グレッズのテリトリーに入っていた」

ブサ督「…………」

ブサ督「……そして、今に至るって訳か」

桜「……ああ」



     ザザーン… ザザーン…


桜「私は……どうすれば良かったと思う?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……それは俺も分からん」

桜「…………」

ブサ督「でもな……」

ブサ督「努力して、それが誰にも認められない辛さは」

ブサ督「俺にも分かる」

桜「!」

ブサ督「桜は……よく頑張った」

ブサ督「世界中の誰もが認めなくても」

ブサ督「俺はそう思うよ」


桜「…………」

桜「…………」 ポロッ

桜「……う…」 ポロポロ

桜「うううっ……」 ポロポロ

桜「うああああっ……」 ポロポロ…

ブサ督「…………」

ブサ督(……深海棲艦は化け物だと思っていたが)

ブサ督(彼女達には独特の社会性があり、我々と同じ様なしがらみや)

ブサ督(悩みや孤独感がある……) 

ブサ督(不思議なものだ……)

ブサ督(…………)



―――――――――――


     ザザーン… ザザーン…


桜「…………」

ブサ督「落ち着いたか?」

桜「ああ」

ブサ督「そろそろ……メシにするか」

桜「いいな」

ブサ督「今日は……何にするかな」

桜「…………」

桜「ブサイク提督」

ブサ督「ん?」


桜「お前は時々……私を綺麗だと言うな?」

ブサ督「……ああ」

桜「清潔である、という意味だと私は思っていたのだが」

桜「今の私の姿では該当しないと思う」

桜「他の意味があるのだろうか?」

ブサ督「……顔が整っている」

ブサ督「そんな意味が含まれている」

桜「では、夕日を見て綺麗と言うのは何故だ?」

ブサ督「……難しいこと聞くなぁ」

ブサ督「夕日は……見ていてホッとすると言うか」

ブサ督「心が落ち着くと言うか……そんな気持ちにさせてくれるから、かな」

桜「そうか」


桜「なら……ブサイク提督」

桜「お前は綺麗だ」

ブサ督「ぶっ!」

桜「……どうした?」

桜「おかしな使い方だったか?」

ブサ督「ちょ、ちょっとな……」

桜「私は……お前を見ていると心が落ち着くし」

桜「ホッとするのだが……」

ブサ督「!」

ブサ督(そんなこと初めて言われたよ)

ブサ督(やべっ……顔が熱い)///


桜「どんな言い方がいいのだ?」

ブサ督「…………」

ブサ督「と」

ブサ督「とりあえず……」

桜「とりあえず?」

ブサ督「飯を食いながら……」

ブサ督「考えてみよう」

桜「分かった」 クス



―――――――――――


北方鎮守府 軍港


大淀「現在、広域通信機が故障しているため」

大淀「艦娘同士の短距離通信しか使えません」

大淀「そこで」

大淀「艦娘による中継通信網を構築し」

大淀「各駐留海域と連絡を取ろうと思います」

大淀「こちらの勢力圏内なら、単艦でも大丈夫だと思いますが」

大淀「くれぐれも気を付けてください」

大淀「それでは……よろしくお願いします」

     ザザザザザザザザ…

大淀「…………」



―――――――――――


北方鎮守府 破壊された執務室


明石「…………」

大淀「明石さん」

明石「大淀……」

大淀「どんな感じでしょうか?」

明石「……これ」

明石「新しいの持ってきた方が早いです」

大淀「そこを何とか……」

明石「予備は無いんですか?」

大淀「予算の都合で……ありません」


明石「参りましたね……幸い心臓部は何とか直りそうですから」

明石「頑張ってみますけど……いつ直るかは断言できません」

大淀「そうですか……」

明石「広域通信機は妖精さん技術の塊で」

明石「これが無いと艦娘も短距離通信しか出来ませんし」

明石「重要度は分かっています」

明石「妖精さんにも手伝ってもらって最善を尽くしますよ」

大淀「お願いします」

     スタ スタ スタ

利根「どんな具合じゃ?」

大淀「あっ利根さん」


大淀「明石さんの話によりますと……」

大淀「広域通信機のすぐの復旧は難しいそうです」

利根「……まああの有様ではしょうがなかろう」

利根「吾輩は鎮守府内で何か変わった事が起きておらぬか」

利根「調べてみたのじゃが……」

利根「いくらかの携帯食料と、高速修復材が一つ消えておった」

大淀「!」

大淀「もしかしたら……天龍さんが……?」

利根「吾輩もその可能性が高いと見ておる」

     タッ タッ タッ…

比叡「ただいま戻りました……」

金剛「スミマセン……天龍に逃げられたネー」

利根「そうか……」


利根「さて、問題はこれからじゃ」

利根「大本営に一連の事を伝えたいが」

利根「広域通信機がやられて伝える事が出来ぬ」

利根「ましてや天龍の事は一大事」

利根「どうにかして大本営と連絡を取らねばのう……」

大淀「…………」

大淀「あの……利根さん」

利根「ん?」

大淀「ここに限らず鎮守府には」

大淀「深海棲艦を感知して警報が鳴るシステムがあるハズなんですが」

大淀「何故、作動しなかったと思いますか?」


利根「……何が言いたいのじゃ?」

大淀「つまり……あんな姿でしたが」

大淀「天龍さんは、天龍さんのままなのでは……」

利根「…………」

利根「……だからと言って」

利根「大本営に黙ってて良い事ではないぞ?」

大淀「…………」

利根「……気持ちは分かるがの」

金剛「そういえば……」

金剛「執務室を破壊した時、天龍は何と言ってマシタか?」


利根「確か……深海棲艦泊地がどうの」

利根「命令とか何とか言うておったが……」

利根「…………」

大淀「……待ってください」

大淀「天龍さんが行方不明になったのは……遠征に出ていた時です」

大淀「深海棲艦泊地へ出撃していたのは、金剛さん達だったはず」

金剛「Oh!確かにソウでした!」

金剛「……長門サンと翔鶴サンを失った苦い戦いでしたネー」

利根「…………」

利根「のう……金剛」

金剛「ホワイ?」

利根「あの時……敵は吾輩らを完全包囲してあと一歩、というところで」

利根「突然、泊地へ引き揚げよった。そうじゃな?」

金剛「イエース。 あれは不思議でしたネー」


利根「吾輩も不思議でしょうがなかった」

利根「何故……あの時、敵は引いたのじゃ?」

金剛「金剛に聞かれても……ワカリマセン」

大淀「…………」

大淀「……ま……まさか」

利根「……気づいたか、大淀」

大淀「い、いくら何でも……そんな事……」

利根「じゃが……吾輩がその立場なら」

利根「天龍がああなった気持ち……良う分かるわ」

大淀「…………」

金剛「……?」


利根「話を戻すぞ」

利根「とにかく、今は本土と連絡を取る事」

利根「それが最優先事項じゃ」

大淀「……現時点では」

大淀「艦娘が直接本土まで行って」

大淀「広域通信可能域まで出向くのが一番早いかと……」

利根「吾輩もそれを考えておった」

利根「航空機を使えば、半日くらいで到達するじゃろ」

大淀「では……その方向で」

     ピピー ガガッ

鳥海『大淀さん!緊急通信です!』

大淀「え、鳥海さん?」


利根「鳥海、聞こえておるぞ」

利根「どうしたのじゃ?」

鳥海『連絡によると……』

鳥海『長良さんから北緯□□〇東経△□□の辺りで』

鳥海『深海棲艦の大艦隊に追撃を受けていると』

鳥海『緊急通信を傍受したと……』

大淀「!?」

利根「な、何じゃと!?」

大淀「そ、それで、長良さんは!?」


鳥海『…………』

鳥海『……悲鳴混じりの爆発音とともに通信途絶したそうです』

大淀「ああ……なんてこと……」

     バサッ!(海図広げ)

利根「……北緯□□〇……東経△□□」

利根「!」

利根「ここは……吾輩がブサイク提督に」

利根「良く哨戒任務をやらされた場所の近くじゃ!」

利根(ブサイク提督は……こうなる可能性を)

利根(予測しておったのか……!)

大淀「…………」

利根「大淀!」

利根「至急この海域近くの駐留艦娘に連絡を!」


大淀「…………」

利根「大淀!」

利根「惚けてる場合か!」

     バシッ!

大淀「ぎっ……!」

利根「しっかりせい!大淀!」

大淀「ですが……ですが……!」

大淀「私が……余計な事を言わなければ長良さんは!」

利根「……その長良の最後の通信を無駄にする気か?」

大淀「っ!」

利根「……辛いのは分かる」

利根「じゃが悲しむのは後じゃ!」


大淀「……わ、分かりました」

大淀「すぐに駐留艦娘に連絡を入れます!」

利根「うむ」

利根「鳥海、聞こえるか?」

鳥海『はい。聞こえます』

利根「吾輩らは迎撃準備を整えるぞ」

利根「北方鎮守府の艦娘総動員する覚悟で準備するのじゃ!」

鳥海『分かりました!』

鳥海『鳥海、通信終了』

     ブッ…

利根「さて……威勢よく言うたが」

利根「どう迎撃したものかのう……」


金剛「…………」

比叡「…………」

利根「……何をしておる二人とも」

金剛「う、う~ん……」

金剛「何かが……何かが、金剛の中で引っかかってるのデース」

比叡「金剛お姉さまもですか……」

比叡「実は私も何か……忘れている様な気がするんです」

利根「今はそれどころではないわ」

利根「吾輩、防衛作戦の妙案は無いか思案中……」

金剛「!」

比叡「!」


金剛「利根サン!それヨ!」

比叡「思い出しました!」

利根「?」

金剛「大淀ー!」

大淀「はい?」

比叡「実はブサイク提督がここを去る時」

比叡「防衛作戦がどうの、大淀さんに渡したとか何とか」

比叡「聞いてたんです!」

金剛「大淀、何か覚えてまセンかー?」

大淀「…………」

大淀「あ」

大淀「ああああ……」

大淀「あああああああああ!!」


金剛「ど、どうしたネー?」

大淀「確かに貰いました……ブサイク提督から」

大淀「イケメン提督の指揮に疑問を感じたなら使えと言われて」

大淀「防衛作戦の書類を!!」

利根「なんと!?」

利根「それはまことか!?」

金剛「やったネー!」

比叡「それで、どこにあるんですか?」

比叡「その書類は?」

大淀「…………」

大淀「……執務室の……私の机の引き出しの中です」


金剛「」

比叡「」

利根「」

大淀「…………」

金剛「こ、ここデスかー!?」

比叡「もう……お終いですね……あは、あははは……」

利根「あ、諦めるでないわ!」

利根「とにかく探せ! 探すのじゃ!」

大淀「は、はい!」

―――――――――――

大淀「あった!ありました!」

大淀「机自体は粉々でしたが、引き出し部分はひしゃげてただけでした!」


金剛「Oh!良かったデース!」

利根「火災が起きなかったのが幸いしたの」

比叡「これで……何とかなりますね!」

利根「それはまだ気が早い」

利根「場所を変えて、検討するのじゃ!」

―――――――――――

利根「…………」

     ピピー ガガッ

鳥海『こちら鳥海。大淀さん、応答願います』

大淀「こちら大淀」

大淀「どうされました?」


鳥海『深海棲艦・大艦隊のおおよその規模が判明しました』

鳥海『総数……約70隻』

利根「!?」

大淀「!?」

鳥海『北北西方向に侵攻し』

鳥海『こちらの支配海域に迫りつつある、との事です』

大淀「……艦隊構成は分かりますか?」

鳥海『少々お待ちを……』

大淀「…………」

鳥海『約6割が駆逐級のイ級』

鳥海『残りのほとんどは戦艦級のル級と重巡級のリ級で』

鳥海『空母級のヌ級がちらほら見えた程度との事です』


大淀「……分かりました」

大淀「引き続き、慎重に偵察を続けるよう伝えてください」

鳥海『了解です。鳥海、通信終了』

     ブッ…

大淀「……70隻」

利根「あやつら……どこにそんな戦力を隠しておったのやら」

利根「しかし、ほとんどがイ級で構成さておるのは朗報じゃ」

大淀「それでも30隻以上の戦艦級と重巡級、空母級が控えています」

大淀「大戦力なのは変わりありません」

利根「まともに戦えば勝ち目は無いのう」

大淀「そんな呑気な……」


利根「それにしても……北北西?」つ(海図)

利根「そちらには何もないが……」

大淀「確かに不可解ですね……」

大淀「ですが、放ってもおけません」

利根「分かっておる」

利根「ブサイク提督の防衛作戦に何か良いものが無いかのう……」

大淀「…………」

大淀「…………」

大淀「……!」

大淀「利根さん、これ……」

利根「ん?何じゃ?」

大淀「この部分……もしかしたら」


利根「何々……敵艦隊の行動に疑問が生じたら」

利根「陽動を疑うべし……」

利根「……70隻もの大艦隊を動員して陽動じゃと?」

利根「バカも休み休み言え」

大淀「……もう少し先も読んでください」

利根「……陽動だった場合」

利根「たいてい正反対の方向に本来の目的が……」

利根「…………」つ(海図)

利根「っ!!」

大淀「そうです」

大淀「先日、利根さん達が奪取した海域があるんです」


利根「ありえん……確かにあそこの抵抗は激しかったが」

利根「こんな大艦隊を陽動に使うほどの価値があるのか!?」

大淀「……奪取が目的では無いのかも」

利根「何?」

大淀「仮に……70隻の艦隊が陽動だとすると」

大淀「どこかに別動隊が存在するはず」

大淀「その別動隊はどこで何をするのでしょうか?」

利根「…………」

利根「しかし……イケメン提督が着任して以降」

利根「連戦を重ねてきておる」

利根「深海棲艦も70隻もの艦隊を用意して」

利根「さらに艦隊を繰り出せる余力があるのか?」


大淀「それは私にもわかりません……が」

大淀「少数精鋭ならば……あるいは」

利根「……少数精鋭か」

利根「…………」

利根「仮定に仮定を重ねるが」

利根「深海棲艦がこの前の海域を少数精鋭で奪取」

利根「あるいは、何らかの目的があるとして目指しておるのならば……」

利根「吾輩らはどう動くべきか」

大淀「…………」

大淀「……陽動の艦隊構成から考えると」

大淀「おそらく、空母級の精鋭で来る可能性が高いと考えます」


利根「理由は?」

大淀「陽動の方はほとんどが駆逐級のイ級」

大淀「残りが戦艦級のル級と重巡級のリ級、そしてわずかな空母級のみ」

大淀「先ほど利根さんのおっしゃった通り」

大淀「深海棲艦と言えど、余力を考えると……」

大淀「せいぜい一個戦隊が限界でしょう」

大淀「そうなると……」

利根「……駐留艦娘は、ほとんどが駆逐級艦娘」

利根「確実性は低くとも先制攻撃が容易な空母級は」

利根「確かに居りそうじゃな」

大淀「はい」

利根「ふむ……」

大淀「…………」


利根「……もし」

利根「吾輩らが70隻の艦隊に総がかりで相対した場合」

利根「あの海域を急襲されると……ちょうど背後を取られる形になる」

大淀「少数と言えど、北方鎮守府もほぼ無防備状態」

大淀「艦隊を引き返すにしても、いくらか迎撃に回すとしても」

大淀「敵に隙を見せる事になります」

利根「……敵の狙いはそれか」

利根「まともに大艦隊同士で殴り合うより」

利根「より味方の損害を少なく敵にダメージを与えられる……」

利根「最悪、例の海域だけは確実に確保、という算段か」

大淀「……厄介ですね」

利根「じゃが、敵もかなり無理をしておるのも想像に難くない」


大淀「ですが……こちらはすべての艦娘をかき集めても」

大淀「56人しか居ません」

大淀「ましてや今、広域通信が使えないため」

大淀「それを補うために艦娘を割いている状態です」

大淀「駐留艦娘を必要最低限残し、通信用の艦娘も省くと……」

大淀「動かせるのはせいぜい40人が限界でしょう」

利根「……頭の痛いところじゃのう」

利根「じゃがまあ……まともに戦わねば良いだけの事じゃ」

大淀「!」

大淀「ブサイク提督の防衛作戦に何かいいものが?」

利根「ああ……見つけた」

大淀「ど、どんな作戦なのでしょう?」


利根「問題点もある」

利根「この作戦に限らず、この書類すべての作戦は」

利根「広域通信できる前提で立てられておる事じゃ」

大淀「あ……」

利根「……さすがのブサイク提督も」

利根「こればっかりは予測できなかったようじゃの……」

大淀「…………」

利根「なに、今回の作戦は広域通信の心配はそれほどない」

利根「それよりも例の背後の海域」

利根「これにどれだけの戦力を振り向けるか」

大淀「…………」


大淀「それについては……私に考えがあります」

利根「ほう?」

大淀「最悪……予測が外れても」

大淀「北方鎮守府は死守してみせます」

利根「……そんな悲壮な覚悟は要らん」

利根「必要な戦力はどれだけじゃ?」

大淀「鳥海さんと摩耶さん、それと夕立さん」

大淀「あと瑞鶴さんの計4名です」

利根「正規空母一隻はちと痛いが、それだけで良いのか?」

大淀「戦闘は私も参加します」

利根「……良かろう」

利根「では……それ以外の動かせる艦娘はこちらで使わせてもらう」

利根「こちらも……上手く行くかは賭けになるがの……」

本日はここまでです。

広域通信について。
我々の概念で一番近いのは衛星通信です。
今回の話で出てきている広域通信機の破壊は
衛星通信の人工衛星が破壊された様なものだと
お考え下さい。

>大淀「鳥海さんと摩耶さん、それと夕立さん」
>大淀「あと瑞鶴さんの計4名です」
>大淀「戦闘は私も参加します」
火力高め……やはり火力(暴力)……火力(暴力)は全てを解決する!



―――――――――――


西方海域 とある離島の砂浜


     ザザーン… ザザーン…


ブサ督「エンジ~ン~のお~と~」

ブサ督「ごぅお~ごぅおぉぉ~と~」

ブサ督「ハヤブ~サ~は~ゆぅぅ~くぅ~」

ブサ督「くぅ~もぉ~のぉ~はぁ~て~」

桜「…………」

ブサ督「よぉ~くぅに輝く日の丸とぉ~」

ブサ督「むぅ~ねに描き……ふおっ!?」

ブサ督「さ、桜か……いつからそこに?」

桜「ついさっきだ」


桜「で、その妙な言い回しは何だ?」

ブサ督「……歌……というものだ」

桜「何の意味があるのだ?」

ブサ督「意味……というものは余り無いが」

ブサ督「音楽というジャンルの……娯楽の一つ」

ブサ督「かな……」

桜「ふむ……娯楽か」

桜「将棋やオセロ、双六や小説に漫画……」

桜「人間は娯楽が本当に好きだな」

ブサ督「まあ否定はしない」

ブサ督「娯楽はまだまだたくさんあるしな」

桜「そうか」


ブサ督「むしろディルプの娯楽の無さに衝撃を受けるぞ」

桜「私は自我を持って間もない」

桜「ディルプにはディルプの娯楽があるのかもしれないぞ」

ブサ督「どんな娯楽なんだろうな……想像もつかん」

桜「それは私も同様に思う」

桜「それで?」

桜「歌……を言いながら、何を作っているんだ?」

ブサ督「トイレ……んと、排泄施設……とでも言うか」

桜「排泄か……」

桜「人間はやって当たり前の行為をなぜ隠したがるのか」

桜「私には理解できん」

ブサ督「…………」


ブサ督(文化の違い、と言ってしまえばそれまでなんだが)

ブサ督(まさか立ちション覗かれるとは思わなかった……)

ブサ督(ち〇ち〇について根掘り葉掘り聞かれるし)

ブサ督(ディルプは排泄行為なんぞ海上で誰の目の前だろうがやっている)

ブサ督(という衝撃の事実を聞かされるし)

ブサ督(あれ?じゃあ艦娘は?)

ブサ督(などと考えちゃいけない事まで想像しちゃいましたよ……)

ブサ督(…………)

ブサ督(とにかく!)

ブサ督(桜に説明するのは大変だったが……)

ブサ督(これでもう覗かれる心配はない)

ブサ督(……って、普通逆だろ……こういう心配は)


ブサ督「……はあ」

ブサ督「まあ無理に理解しなくていいけど」

ブサ督「俺は見られると嫌なんだから、配慮してくれ」

桜「…………」

ブサ督「…………」

桜「…………」

ブサ督「……桜?」

桜「…………」

ブサ督「桜!」

桜「!」

桜「あ、ああ、すまない」

桜「また意識が飛んだみたいだ」


ブサ督「本当に大丈夫なのか?」

桜「ああ」

桜「気分が悪いとか、体調が思わしくないという事は無い」

桜「理由は……私にも分からないが」

ブサ督「…………」

ブサ督(時々……桜がぼうっとしている時があるのだが)

ブサ督(たまに、会話中でも突然こうなる)

ブサ督(本人に聞いても大丈夫だと言うばかりだし)

ブサ督(深海棲艦の生態に詳しいわけでもない……)

ブサ督(…………)

ブサ督(何事もなく治ってくれればいいのだが……)

ブサ督(…………)


桜「…………」

桜「なあ、ブサイク提督」

ブサ督「ん?」

桜「お前に……触れてもいいか?」

ブサ督「え」

桜「ダメか?」

ブサ督「い、いや……ダメじゃ無いが」

桜「無いが?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……そういう事を女の子に初めて言われたな」

ブサ督「って……思って」

桜「そうか。初めてか」


     ギュッ

ブサ督「」

桜「……私も初めてだ」

桜「誰かに触れてみたい、と思ったのは……」

ブサ督「…………」

ブサ督(アカン……俺)

ブサ督(たぶん一生分の運を使ってるわ……)

ブサ督(…………)

ブサ督(……女の子って)

ブサ督(こんなに柔らかいんだなぁ……)

桜「♪」



―――――――――――


翌日の昼頃

大本営 元帥の執務室


     コン コン

元帥「誰かな?」

イケ督「元帥閣下、イケメン提督であります」

イケ督「入室の許可を願います」

元帥「許可する。入ってくれ」

     ガチャ…

イケ督「失礼します」

     キィ パタン


元帥「遠いところ、ご苦労だった」

元帥「そこのソファにでも掛けたまえ」

イケ督「はい」

     ストン

イケ督「…………」

元帥「では……話をする前に紹介をしておこう」

元帥「これは西方鎮守府の司令官をやっている」

元帥「フツメン提督だ」

フツ督「初めまして」

イケ督「初めまして」

元帥「そしてその傍らに居るのは秘書艦の龍田だ」

龍田「初めまして。以後、お見知りおきを」

イケ督「よろしく」


元帥「それでは本題に入ろう」

元帥「イケメン提督」

イケ督「はい」

元帥「貴君の武勇は耳に入っておるし」

元帥「民衆の人気も大したものだ」

イケ督「恐れ入ります」

元帥「だが……いささか戦費の面での折り合いが悪い」

元帥「正直、海軍としても目玉が飛び出るほどだ」

元帥「この点について貴君はどう思っているのかね?」

イケ督「…………」


イケ督「まず……軍人の本分は果たしていると自負しておりますが」

イケ督「深海棲艦との戦いは常に予測困難を極め」

イケ督「対処療法的な戦い方しかできず……」

イケ督「少々犠牲が多かったのは確かです」

フツ督「…………」

イケ督「しかしながら……その様な状況下でも」

イケ督「私の指揮により奪取した海域は確かに存在しており」

イケ督「その点も考慮していただければ……というのが」

イケ督「自分の正直な気持ちであります」

元帥「……そうか」


元帥「では……これは提案だ」

イケ督「提案?」

元帥「現在、貴君は北方鎮守府司令官となっているが」

元帥「大本営直属の指揮官として栄転……という話はどうだろうか?」

イケ督「…………」

イケ督(……なるほど)

イケ督(俺に現場は任せられんから大本営で飼い殺しに)

イケ督(という事か……)

イケ督「……大変良いお話ですね」

元帥「であれば――」

イケ督「しかしながら」

イケ督「指揮官、というのも色々なものが存在します」

イケ督「その点についてのご説明はいただけるのでしょうか?」


元帥「……フツメン提督」

元帥「例のものを」

フツ督「はい」

イケ督「……?」

フツ督「イケメン提督殿」

フツ督「これを見てくれ」

イケ督「海図……日本近海のものだが?」

フツ督「最近は内地付近の海にも深海棲艦は時々顔を見せる」

フツ督「その討伐が主任務の艦娘艦隊の指揮官」

フツ督「それが貴君に示された指揮官だ」

イケ督「…………」


元帥「給料も現在の倍を提示しよう」

元帥「どうかね?」

イケ督「…………」

イケ督「……確かに魅力的な提案でありますな」

イケ督「ですが、それは栄転というよりも左遷ではないのですか?」

イケ督「第一、民衆がこれをどう思うか」

フツ督「その点は問題ない」

イケ督「……というと?」

フツ督「かの大英雄イケメン提督が」

フツ督「民衆の為、日本近海の深海棲艦討伐を行ってくれる」

フツ督「これほどの美談はありますまい」

フツ督「新聞もこぞって記事にする事でしょう」

イケ督「…………」


元帥「どうだろうか?」

元帥「私としては、受け入れてくれる事を望むが」

イケ督「…………」

イケ督「……せっかくのありがたい申し出ですが」

イケ督「自分には受け入れがたい提案ですな」

元帥「…………」

フツ督「では、単刀直入に聞こう」

フツ督「何が足りない?」

イケ督「ふふ……足りないも何も」

イケ督「私が望むのは現在の民衆が望んでいる事ですよ」

フツ督「…………」

フツ督(こいつ……本気で大将職に就きたいと思っているのか)

元帥(周りに煽てられ、自分の実力を完全に見失っている……か)


元帥「……イケメン提督」

元帥「貴君の気持ちと想いは良く分かった」

元帥「だが、すぐに返事は出来ない」

元帥「少々時間をくれ」

イケ督「分かりました」

イケ督「他に話はありますか?」

フツ督「私から少々……いいかな?」

イケ督「どうぞ」

フツ督「海軍としても、今の様な提案はそう何度も出来るものではない」

フツ督「気が変わるのなら……今の内だけだと思う」

フツ督「本当にその選択でいいのか?」


イケ督「……それは脅しかな?」

フツ督「そういう事じゃない」

フツ督「いつまでも美味しいメシが出てくる訳ではない」

フツ督「それを認識しているのか、気になったまでさ」

イケ督「なら……さっきの提案には君が応じればいいのでは?」

イケ督「私は喜んで譲ろう」

フツ督「…………」

イケ督「他に話はありますか?」

龍田「あのう」

龍田「わたくし事なんですけどぉ」

龍田「いいですか?」

イケ督「……何かな?」


龍田「北方鎮守府の天龍ちゃん、どうしてるかなー?」

龍田「と、思いまして」

イケ督「……君は天龍と知り合いなのか?」

龍田「はい」

龍田「姉妹艦ですので」

龍田「とぉ~っても、仲良しだったんです」

イケ督「…………」

龍田「で?天龍ちゃんは元気ですか?」

イケ督「……残念だが」

イケ督「遠征任務中に行方不明になってそれっきりだ」

龍田「えっ」

イケ督「現在、大淀に任せて捜索を……」


     ガバッ

イケ督「ぐっ!?」

龍田「……どういう事かしら?」

イケ督「な、何をする、貴様!」

フツ督「龍田!やめろ!」

龍田「…………」

     スッ…

イケ督「ぐっ……はあっ……ふう」

龍田「…………」

イケ督「……随分と乱暴な艦娘が居たものだ」

イケ督「しっかりと躾けておけ!」

フツ督「……謝罪しよう」


イケ督「ふん……それで?」

イケ督「もう話は無いですかな?」

     …………

イケ督「では、私はこれで失礼させてもらいます」

元帥「ああ……時間を取らせたな」

元帥「下がってくれ」

イケ督「失礼する」

     ガチャ キィ パタン

フツ督「ふうう……」

フツ督「肝を冷やしたぞ……龍田」

龍田「……ごめんなさい」


元帥「しかし……遠征任務で行方不明とな」

元帥「珍しい事もあるものだ」

フツ督「確かに珍しいですが、無い事ではありません」

フツ督「あ……すまない、龍田」

龍田「いいえ」

龍田「よくよく考えれば、まだ沈んだと決まった訳でもないし」

龍田「あの天龍ちゃんが簡単に……」

     ギュッ…

フツ督「…………」

龍田「……やめてよ」

龍田「元帥閣下が見てる」

フツ督「構うもんか」


元帥「…………」

龍田「……うっ」

龍田「う、うあっ……」

龍田「うああああああああああ……」

龍田「うっ……うっ……」

龍田「ああああああああ……」

フツ督「…………」

フツ督(……くそっ)

フツ督(何か……何か手は無いのか?)

フツ督(何か……)

フツ督(…………)



―――――――――――


大本営 廊下付近


     テク テク テク

イケ督(ふん……どうやら海軍は)

イケ督(どうあっても俺を大将にしたくない様だな)

イケ督(…………)

イケ督(……そっちがその気なら)

イケ督(仕方ない)

イケ督(こちらも……奥の手を使わせてもらおう)

イケ督(ククク……)



―――――――――――


北方鎮守府 ブリーフィングルーム



利根「――以上が」

利根「吾輩の提案する作戦じゃ」

利根「現状、内地に連絡する人員も時間もない」

利根「他に何か提案があれば聞こう」

熊野「…………」

熊野「あの……利根さん、でしたっけ?」

利根「うむ。何かな?」

熊野「この作戦は、あなたがお考えになられたので?」


利根「残念ながら吾輩ではない」

利根「ここの前の指揮官であった、ブサイク提督のものを引用した」

     ザワッ…

     エッ アノキモブタノ……?

     ウソッ… ヤダー…

利根「だから聞いておろう」

利根「他に何か提案があれば聞こう、と」

利根「お主らにこれ以上の作戦があるのなら、ぜひ提案して欲しい」

     …………

利根「……不安なのは吾輩も同じじゃ」

利根「だが、数の不利を覆す作戦はこれしかない」

利根「皆の衆、どうか従ってくれ」


熊野「わたくしはむしろ、イケメン提督でない方がありがたいですわ」

鈴谷「鈴谷もそれに一票」

     …………

利根「では、この案で行動するぞ」

利根「解散!」

     バタ バタ バタ…

利根「……金剛」

金剛「ん?何ですカー?」

利根「本来はお主向きの役では無いのじゃが……」

利根「頼むぞ」

金剛「任せてネー!」

金剛「どんな役でも……金剛はキッチリ仕事シマース!」

金剛「増設バルジ、準備完了ネー!」


利根「大淀の方も頼むぞ」

大淀「お任せを」

大淀「お互い、元気な姿で北方鎮守府に帰りましょう」

利根「必ず」

大淀「…………」

利根「…………」

     タッ タッ タッ…

利根(必ず……か)

利根(敵の数はこちらの倍)

利根(大半が駆逐級のイ級といえど……どの程度の犠牲で済むのか……)

利根(…………)

利根(ええい!弱気になるな!)

利根(ただの一人たりとも犠牲にしてたまるか!)

本日はここまでです。



―――――――――――


西方海域 とある離島の砂浜


     ザザーン… ザザーン…


桜「…………」

桜「…………」

ブサ督「桜」

ブサ督「そろそろ昼飯にしよう」

桜「…………」

桜「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「桜」


桜「!」

桜「あ……ブサイク提督」

桜「何か用か?」

ブサ督「……そろそろ昼飯にしないか?」

桜「ああ、分かった」

桜「今日の献立は何だ?」

ブサ督「カレーライスだ」

ブサ督「旨いぞ」

桜「ほう……わざわざお前が旨いと言うからには」

桜「期待してしまうな」

ブサ督「楽しみにしててくれ」


―――――――――――

夕刻前 テント内

     ピピー ガガッ

ブサ督「こちら、ブサイク提督」

ブサ督「南方鎮守府、応答してくれ」

電『こちら南方鎮守府、執務室』

電『電なのです』

電『ブサイク司令官さん、どうされました?』

ブサ督「電、すまないが」

ブサ督「医局員を呼んできてくれないか?」

電『えっ』

電『ブサイク司令官さん、どこかおケガでもされたのですか?』


ブサ督「そうじゃない。そうじゃないんだが」

ブサ督「ちょっと聞きたい事があってな……」

電『分かりました』

電『少々お待ちください』

ブサ督「頼む」

―――――――――――

ブサ督「……そうか」

ブサ督「手間をかけさせたな、ありがとう」

ブサ督「電に代わってくれ」

ブサ督「…………」

電『電なのです』

電『お役に立ちましたか?』


ブサ督「ああ、ありがとう、電」

電『いえ』

ブサ督「ブサイク提督、通信終了」

電『南方鎮守府、通信終了』

     ブッ…

ブサ督「…………」

ブサ督(桜の例の症状は酷くなる一方……)

ブサ督(艦娘や人間の病気で似た症状や症例は無いか)

ブサ督(聞いてみたが……)

ブサ督(…………)

ブサ督(やはり……桜を医者に見せるべきなのだろうか)


ブサ督(…………)

ブサ督(だが……それは……)

ブサ督(桜を深海棲艦の標本として差し出すのと同義)

ブサ督(…………)

ブサ督(ほぼ……間違いなく)

ブサ督(桜は実験動物にされる……!)

ブサ督(…………)

ブサ督(そんな事……出来るか!)

ブサ督(そんな事……!)

ブサ督(…………)



     ザザーン… ザザーン…


ブサ督「桜」

桜「……ん」

桜「ブサイク提督」

ブサ督「調子はどうだ?」

桜「……前にも言ったが」

桜「気分や体調が悪いという訳じゃないんだ」

ブサ督「…………」

ブサ督「ディルプでは、こういった……」

ブサ督「病気やケガには、どう対処してるんだ?」


桜「……基本的には何もしない」

桜「ある程度休ませて……見た目、平気そうなら、また使う」

桜「そんな感じだ」

ブサ督「……手当てとかいう概念は無いのか」

桜「機械化された部分の修理は行うが」

桜「生体部分は自然任せ……そんな感じだ」

ブサ督「…………」

桜「…………」

桜「……ところでブサイク提督」

ブサ督「……何だ?」

桜「お前は……南方グレッズの指揮官なのか?」

ブサ督「…………」

ブサ督「ああ、そうだ」


桜「ふふっ、そうか……」

ブサ督「……どうして笑うんだ?」

桜「…………」

桜「私にも分からない」

桜「お前には……いろいろして貰ったからだろうか」

ブサ督「…………」

桜「……いや、違うな」

桜「すまない、上手く言えない」

ブサ督「…………」

桜「不思議と……恨みはない」

桜「ついこの前まで殺しあう仲だったというのに……」

ブサ督「……俺も同じだ」


桜「ふふっ……同じか」

桜「それは奇遇だな」

ブサ督「ああ」

桜「…………」

ブサ督「…………」

桜「…………」

桜「…………」

ブサ督「……そろそろ晩飯にしよう」

ブサ督「桜」

桜「…………」

桜「…………」

ブサ督「…………」


―――――――――――

ブサ督「ほら、桜」

桜「ん……これは何だ?」

ブサ督「おでん、というものだ」

桜「また違う献立か……」

桜「グレッ……人間の食への欲求は」

桜「我々のそれとは比べ物にならんな」

ブサ督「ははは。俺もそう思う」

ブサ督「では……いただきます」

桜「……そういえば」

桜「その、いただきます、というのは何の意味があるのだ?」


ブサ督「日本では食べ物になった食材に対して」

ブサ督「感謝して食べる習慣があるんだ」

桜「死骸に感謝?」

ブサ督「生きて行く上で自分の為に殺してしまったわけだからな……」

ブサ督「すまない、という意味も含まれている」

桜「…………」

桜「すまない、か……」

桜「ディルプでは思いもよらない考え方だ」

ブサ督「まあ……自己満足とも言える」

ブサ督「殺された方からしたら……たまったもんじゃないだろうし」

桜「……そうだな」

桜「でも、そんなに悪い事とも思わない」

ブサ督「そうか」


桜「…………」

桜「いただきます」

     モグ

桜「うん……今日の献立も旨い」

ブサ督「…………」 クスッ

桜「……この世界は不思議だ」

ブサ督「ん?」

桜「ディルプに居た時は疑問すら抱かなかったが」

桜「外に出たとたん分からない事だらけになった」

ブサ督「井の中の蛙(かわず)ってやつか……」

桜「井の中の……何?」


ブサ督「そうだな……」

ブサ督「自分の知ってる世界が世界のすべてだと思っているが」

ブサ督「実際はもっと広い世界があって……」

ブサ督「それを知らないのに威張っている奴を指す言葉かな」

桜「…………」

ブサ督「……なんて偉そうなこと言ってるが」

ブサ督「俺もその一人だ」

桜「え……?」

ブサ督「深海棲艦……ディルプにも」

ブサ督「こんなに話せる奴が居る」

ブサ督「桜に出会って初めて知った事だ」

桜「…………」 クスッ


ブサ督「お互い……望んでこうなった訳じゃないが」

ブサ督「自分が小さな世界に居て、知らない事を知ったという意味では」

ブサ督「同じだろう」

桜「……そうだな」

桜「その通りだ」

ブサ督「ははは」

ブサ督「さ、飯を食わなくちゃ……」

     カランッ…

ブサ督「ん?」

ブサ督「どうした桜、スプーンを落として」

ブサ督「手が滑ったのか?」

桜「…………」


ブサ督「桜?」

桜「……違う」

ブサ督「違う?」

桜「…………」

桜「手が……右腕が……」

ブサ督「うん」

桜「まったく……動かせない」

ブサ督「……!?」


     ザザーン… ザザーン…


.



―――――――――――


北方 某海域 


     ザザザザザザザザ…


利根「…………」

利根「む……!」

利根(吾輩の電探に反応あり)

    ピピー ガガッ

利根「利根より全艦娘へ達する」

利根「敵艦隊を補足」


利根「予測海域よりやや東に展開しておる」

利根「これより艦隊の進路を変更する」

利根「左(ひだり)舷、20度転進せよ!」

     ヨーソロー!

利根「…………」

利根「利根より筑摩へ」

    ピピー ガガッ

筑摩『こちら筑摩。何でしょうか、利根姉さん?』

利根「吾輩の気のせいか……」

利根「どうも敵艦隊の動きが鈍い様に感じる」

利根「筑摩はどう思う?」

筑摩『…………』

筑摩『……大艦隊ゆえ、動きが悪いのではないでしょうか?』


利根「一理あるが……どうにも気になる」

利根「十分警戒しておいてくれ」

筑摩『了解です、利根姉さん』

利根「利根、通信終了」

筑摩『筑摩、通信終了』

     ブッ…

利根「…………」

     ピピー ガガッ

金剛『こちら金剛ネー!』

金剛『利根サーン!聞こえマスかー?』


利根「こちら利根。感度良好」

利根「どうした?」

金剛『比叡ともども目標の海峡前に到着したネー!』

金剛『いつでも殿(しんがり)を任せてくだサーイ!』

利根「……うむ」

利根「済まぬが……頼む」

金剛『了解!』

金剛『金剛、通信アウト!』

利根「利根、通信終了」

     ブッ…

利根「…………」

利根「…………」

利根(……そろそろか)


     ピピー ガガッ

利根「こちら利根」

利根「全艦娘に達する」

利根「陣形、複縦陣」

     ザザザザザザザザ…

利根「…………」

     陣形 準備ヨシ!

     砲弾、装填ヨシ!

利根「…………」

利根「目標……敵艦隊前衛、イ級!」

利根「一隻でも多くの敵艦を沈めよ!」

利根「全艦娘……攻撃開始!」


     ドォンッ ドォンッ!

     ヒュウウウウウウウ……

     ドォンッ! ドォンッ!

利根「…………」

利根(やはり、敵艦隊の動きが鈍い……)

利根(何の意図があるのじゃ?)

     イ級 轟沈3!

     同ジク イ級轟沈2!

利根(誘っておるのか?)

利根(じゃが、そういう事なら乗ってはやれん)

     12時、敵機確認!

     数、約60!


     ピピー ガガッ

利根「赤城、加賀」

利根「よろしく頼む」

赤城『赤城、了解』

加賀『加賀、了解』

     ピピー ガガッ

利根「全艦娘に達する」

利根「あまり前へ出るな」

利根「なるべく現状海域に留まって攻撃せよ!」

     了解!

利根「…………」

利根(……例の海域、どうなっておるかのう)



―――――――――――


例の海域


     ザザザザザザザザ…


名取「…………」

名取「!」

名取「この反応は……!」

     ブロロロロロロ…

名取「3時に敵機……!」

     ピピー ガガッ

名取「こちら名取! 敵機襲来!」


名取「艦種……不明ながら空母級3!ル級いち!イ級2!」

     ヒュウウウウウウウ……

     ドォンッ ドォンッ!

名取「くっ!」

名取(襲撃があるかもと聞いてたけど……結構きつい!)

名取「対空戦闘!」

     ダダダダダダダ!

名取「名取、現海域から離脱します!」

     ピピー ガガッ!

大淀『了解。後はこちらにお任せください』


     ザザザザザザザザ…

大淀「…………」

大淀「…………」

大淀「あ……追撃をやめましたね」

鳥海「大淀さんが言った通り……この海域は敵にとって重要なのでしょうか」

大淀「その詮索は後にしましょう」

大淀「利根さんに打電」

―――――――――――

筑摩『大淀さんから例の海域で侵攻があったと連絡が来ました』

利根「……予測通り襲撃を受けたか」

利根「では、こちらも作戦を開始する!」

筑摩『はい』

利根「全艦娘に達する」

利根「中破以上の損傷をした艦娘は作戦通り後方の海峡に迎え!」


     了解!

利根(さて……ここからじゃ)

利根(敵はどう出るか……!)

利根「!」

利根「全艦娘に達する!」

利根「敵艦隊急速接近!」

利根(こちらの考えた通り……例の海域と連携しておったか!)

     ザザザザザザザザ…

利根「くっ……!最初の鈍さはやはり誘いか!」

利根「全艦娘!後進一杯!」

利根「魚雷一斉射して敵を牽制せよ!」


     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

     ドォンッ! ドォンッ!

     ……敵艦隊の足、止まりません!

利根「分かっておったが……!」

利根「こちらも後進の足を止めるな!」

利根「例の海峡まで頑張るのじゃ!」

     敵イ級、肉薄!

利根「うろたえるな!」

利根「こんなに接近しおったら、後方の敵もうかつには攻撃でき……」

     ドォンッ! ドォンッ!

     ドォンッ ドォンッ!

利根「何ッ!?」


     ドガッ! ドガアァァァンッ!

利根「み、味方ごと……撃ちおった!?」

     キャアアアアアッ!

     味方艦娘、被害拡大!

利根「くそっ!イケメン提督でも上に居るのか!こやつら!」

利根「この状況での反転は命とりじゃ!」

利根「後進一杯を続けつつ、迎撃!」

利根「海峡を越えるまでの辛抱じゃぞ!」

     キャアアッ! 機関破損!

     速度が……助けてぇっ!

利根「……っ!」


利根「全艦娘に……達する!」

利根「脱落した艦娘は、艦娘は……!」

利根「構うな!」

     !!?

利根「後進一杯を続けよ!」

     待って! 置いてかないで!

     キャアアアアアッ!!

     ドガァンッ!

利根「……う……ううっ……」

利根「うああああああああっ!!」

     ドォンッ! ドォンッ!

筑摩(利根姉さん……)


金剛「……待ちくたびれマシタ」

金剛「後は、この金剛が敵のヘイトを集めるネ!」

金剛「増設バルジ、展開!」

     ジャキン!

金剛「さあ……深海棲艦サーン」

金剛「ドンドン金剛を狙いなサーイ!」

利根「頼むぞ、金剛、比叡!」

比叡「お任せを」

比叡「早く海峡の向こうへ!」

利根「お主らも必ず来るのじゃぞ!」

     ザザザザザザザザ…


金剛「全砲塔を外してまで増設バルジ付けまくった」

金剛「この防御特化型金剛の殿(しんがり)」

金剛「そう簡単には抜かせないネー!」

比叡「そして金剛お姉さまを狙う敵は……」

比叡「この比叡の主砲で至近砲撃を喰らわせてやります!」

     ピピー ガガッ

利根『何をしておる!』

利根『早う後進せい!』

利根『ル級が10は居るのじゃぞ!?』

金剛「利根サーン!了解ネー!」

金剛「金剛、後進一杯!」

比叡「比叡、後進一杯!」



―――――――――――


例の海域


大淀「…………」

大淀「……では、こちらも攻撃を開始します」

大淀「艦隊、前進!」

     ザザザザザザザザ…

大淀「!」

大淀「敵機襲来!」

大淀「瑞鶴さん、頼みます!」

瑞鶴「了解!」


瑞鶴「まさか格納庫すべてに迎撃戦闘機を載せるなんてね」

瑞鶴「発艦!」

     ブロロロロロロ…

大淀(これで制空権確保、とまではいかなくとも)

大淀(互角くらいには持って行けるはず)

大淀(そして撃ち漏らした敵機は……)

摩耶「ハッハー!」

摩耶「お客さんだぜ、鳥海!」

鳥海「対空戦闘、用意!」

大淀(対空特化型の彼女たちに任せ……)

夕立「敵艦、見ゆっぽーい!」

大淀「目標、単縦陣先頭のル級!」


大淀(私と駆逐艦最強クラスの火力を持つ夕立さんで)

大淀(攻撃、殲滅する!)

大淀「魚雷、斉射ー!」

夕立「ぽーい!」

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

     ドォンッ! ドォンッ!

大淀「ル級、轟沈!」

夕立「次、イ級ぽい」

大淀「砲撃、てー!」


     ブロロロロロロ…

     ヒュウウウウウウウ……

     ドォンッ ドォンッ!

摩耶「ちいいっ!」

摩耶「さすがに数が多いぜ!」

鳥海「空母3隻分の攻撃機ですからね」

鳥海「瑞鶴さん、もう少し何とかなりませんか?」

瑞鶴「これでも精一杯やってるわよ!」

大淀「もうしばらく持ちこたえてください!」

大淀「護衛はあと少しで片づきます!」

摩耶「頼むぜ、大淀!」

大淀「お任せを!」

夕立「北方でも悪夢見せたげるっぽーい!」



―――――――――――


北方 某海域 海峡出口付近


利根「筑摩!」

利根「艦隊陣形はどうじゃ!?」

筑摩「はい、利根姉さん」

筑摩「扇状陣形、もう間もなく完成します」

利根「よし……各艦娘へ達する!」

利根「もうすぐ金剛達が海峡を抜けてくる!」

利根「吾輩の合図とともに金剛達を追い、海峡を抜けて来た」

利根「深海棲艦艦隊へ、集中砲火を喰らわせるのじゃ!」


利根(……敵に一杯食わされたふりをして)

利根(後方へ逃げを打ったかのように見せ)

利根(海峡という一種の隘路(あいろ:狭い道の意)へ誘い込み)

利根(海峡先にて扇状に展開した艦娘で出口に現れた敵を叩く!)

利根(……見事な策じゃが、どうしても陣形を整えるために)

利根(少しの時間がいる……!)

利根(金剛、比叡……)

利根(決して……やられるでないぞ!)

筑摩「利根姉さん」

筑摩「陣形準備、整いました」

利根「よし! 吾輩の合図を待て!」

利根「…………」


―――――――――――

     ドォンッ ドォンッ!

     ドガァッ! ドガアァァンッ!

金剛「ぐっ……くうっ!」

比叡「このぉっ!」

     ドォンッ! ドォンッ!

比叡「もう少し……もう少しですよ!」

比叡「金剛お姉さま!」

     バキィィンッ!

金剛「うあああっ!!」

金剛(さ、最後の増設バルジがっ!)


     ドォンッ ドォンッ!

     ドガァッ! ドガアァァンッ!

金剛「ひぎゃあああああっ!!」

比叡「金剛お姉さまぁぁぁっ!!」

比叡「このおぉぉぉぉっ!!」

     ドォンッ! ドォンッ!

金剛「ぐっ……う……」

比叡「金剛お姉さま、しっかりしてください!」

金剛「比叡……」

金剛「私……置いて行くネ……」

比叡「っ!」

比叡「何をバカな……!」


金剛「最後の……効いた……ネ……」

金剛「機関出力…………低下……」

金剛「…………」

比叡「金剛お姉さま!?」

比叡「……いいえ、いいえ!」

比叡「比叡は……比叡は!」

比叡「金剛お姉さまを見捨て……」

     ドォンッ ドォンッ!

     ドガァッ! ドガアァァンッ!

比叡「ぎっ……あああああああああああっ!!」

比叡「…………」

比叡「ま、まだ……動けます」


比叡「さあ、金剛お姉さまも……諦めないで!」

金剛「…………」

比叡「金剛お姉さまあっ!!」

     ブロロロロロロ…

     ヒュウウウウウウウ……

     ドォンッ ドォンッ!

比叡「!?」

     ピピー ガガッ

加賀『こちら加賀』

加賀『最後の航空支援よ、長くはもたない』

加賀『急いで!』

比叡「……了解!!」


筑摩「金剛さん達の予定地点通過を確認!」

利根「――全艦娘に達する」

利根「目標、海峡出口付近に現れる敵深海棲艦・艦隊!」

利根「全砲門……開け!!」

     ドォンッ ドォンッ!

     ドォンッ! ドォンッ!

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

     ドガアァァンッ!

利根「次弾装填!」

筑摩「敵艦隊の反撃、来ます!」


利根「回避ー!」

     ドォンッ! ドォンッ!

     ドガアァァンッ!

利根「今度はこちらの番じゃ!」

利根「残った火力をすべて叩き込め!!」

     了解!

熊野「一捻りで黙らせてやりますわ!」

熊野「てー!」

鈴谷「うりゃぁ!」

     ドォンッ ドォンッ!

     ドォンッ! ドォンッ!

利根「まだまだじゃ!撃ちまくれ!」

筑摩「また敵の反撃、来ます!」


     キャアアアアアッ!

     損傷! 大破!

     サガレ!

利根「こちらも反撃の手を緩めるでない!」

利根「撃って撃って撃ち尽くすのじゃ!」

     ドォンッ ドォンッ!

筑摩「!」

筑摩「敵艦隊のイ級が何隻か抜けてきました!」

利根「近寄らせるな!」

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

     ドガアァァンッ!

筑摩「イ級殲滅!」


利根「よし、敵艦隊の動きがあからさまに悪くなって来おった!」

利根「皆の衆、もう少しじゃぞ!」

利根「撃てー!」

     ドォンッ ドォンッ!

     ドォンッ! ドォンッ!

     シュボボボボボンッ

     シャアアアアア……

     ドガアァァンッ!


―――――――――――

筑摩「利根姉さん、敵艦隊、撤退を始めました」

筑摩「追撃しますか?」

利根「そんな余力、微塵も無いわ」

筑摩「ですね」

筑摩「警戒監視を敷いておきます」

利根「頼む」

     ピピー ガガッ

筑摩「あ……大淀さんから連絡があったそうです」

利根「何と言ってきた?」

筑摩「…………」

筑摩「侵入してきた敵艦隊を殲滅した、との事です」

利根「そうか」

利根「こちらも何とか勝てたと伝えてくれ」


筑摩「分かりました、利根姉さん」

筑摩「ん?」

利根「どうした?」

筑摩「…………」

筑摩「近くなので、少し長良さんの捜索を行いたいと……」

利根「……大淀の好きにすれば良かろう」

筑摩「では、その様に伝えますね」

利根「ああ、任せる」

利根「鈴谷、熊野、点呼を取ってくれ。被害報告!」


鈴谷「……小破2」

鈴谷「中破……12」

鈴谷「大破18」

鈴谷「轟沈……3」

利根「…………」

熊野「……あの数の劣勢を考えたら」

熊野「記録的な大戦果ですわ」

鈴谷「敵も7割は沈めたし……ほとんどイ級だけど」

利根「そうじゃな……大戦果じゃな」

鈴谷「…………」

利根「じゃが……吾輩はミスをした」

利根「そのミスを無くすため……脱落した仲間を見捨てた」


鈴谷「…………」

熊野「…………」

利根「……結局、吾輩はイケメン提督と似た様な事を」

金剛「利根サーン……それを言い出したら」

金剛「私もイケメン提督と同じネ……」

利根「!」

利根「金剛……大丈夫なのか?」

金剛「疲労がポンッと回復するお菓子を食べてなかったら」

金剛「危なかったネ……」

利根「……あれを使っておったのか」


金剛「それよりも……利根サン」

金剛「先の戦いで……私は第二戦隊を……見捨てマシた」

利根「じゃが、あれは……」

金剛「同じヨ……見捨てたことに代わりないネ……」

利根「…………」

比叡「利根さん……気に病むのは後にしましょう」

比叡「今は傷ついた艦娘を一刻も早く入渠させなければ」

利根「!」

利根「……そうじゃな」

利根「全艦娘に達する」

利根「警戒監視の艦娘を除いて、全艦娘」

利根「北方鎮守府へ帰還せよ!」



―――――――――――


北方鎮守府 工廠


明石「…………」

明石「ふううっ……」

明石「これで後はテストして……と」

     カチャ カチャ

     ピッ

明石「…………」

明石「……ん?」

明石「…………」

明石「これって……何?」

本日はここまでです。

乙、ブサ提督に料理上手説?

>>555
全部レトルト(保存食)を開けただけです。
第二次世界大戦当時には無かったものですが
艦これなのでご容赦を……



―――――――――――




西方海域 とある離島の砂浜


     ザザーン… ザザーン…


ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督(……もう、迷っている時間は無い)

ブサ督(桜の様態は悪化の一途……)

ブサ督(とうとう首から上しか動かせない様に……)

ブサ督(…………)


テント内


ブサ督「……桜」

桜「ん……ブサイク提督」

ブサ督「…………」

ブサ督「話がある」

桜「なんだ?」

ブサ督「君を……」

ブサ督「我々の医療……生体部分メンテナンスを」

ブサ督「受けてみないか?」

桜「…………」

桜「…………」


ブサ督「桜」

桜「聞こえている」

ブサ督「…………」

桜「…………」

桜「一つ聞きたい」

ブサ督「なんだ?」

桜「こんな状況になってから提案するという事は……」

桜「何か……デメリットがあるのか?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……感がいいな」

桜「そんな不安そうな顔をしていれば嫌でも分かる」

ブサ督「…………」


ブサ督「まず……桜の症状が良くなるかどうかは分からない」

桜「…………」

ブサ督「そして……」

ブサ督「君は深海棲艦の貴重なサンプルでもある」

桜「…………」

ブサ督「俺の権限では医療従事者の口まで塞げない」

ブサ督「桜の事を知った大本営は……おそらく君を……」

ブサ督「研究材料として実験動物にする可能性が高い」

桜「…………」

桜「実験動物……か」

桜「それは少し受け入れがたいな」


ブサ督「だが、生き延びられる可能性もある」

ブサ督「このままじゃ君は……君は……!」

桜「…………」


     ザザーン… ザザーン…


桜「私は……このままでいい」

ブサ督「!」

桜「ブサイク提督は信じられないだろうが」

桜「気分も悪くないし、どこかが痛い訳でもない」

桜「正直……手足を動かせないのに何を言ってるんだと思うだろうが」

桜「死ぬ気がしないんだ」

ブサ督「桜……」

ブサ督「…………」


桜「……私自身、私の身に何が起きてるのか」

桜「まったくわからない」

桜「不安には思うが……体調としては悪い部分が見当たらない」

ブサ督「…………」

ブサ督「……そうか」

桜「…………」

桜「ブサイク提督は……私が死ぬのが嫌なのか?」

ブサ督「当たり前だろ」

桜「当たり前……か」

桜「私も……ブサイク提督が死ぬのは嫌だな」

ブサ督「…………」


ブサ督「桜……何かやりたい事は無いか?」

桜「やりたい事……」

ブサ督「何でもいい」

ブサ督「例えば……日本に行って旨い物を食べ歩くとか」

ブサ督「いろんな娯楽を見たり、やったりする、とか」

桜「それは楽しそうだな」

ブサ督「ああ。きっと楽しいぞ」

桜「…………」

桜「私は……自分の名前に使わせてもらった」

桜「桜の花を見たい」

ブサ督「いいな。 いいじゃないか」

桜「……ブサイク提督と二人で」

ブサ督「!」


桜「淡いピンクの花を樹木一杯に付けるという桜……」

桜「それを……ブサイク提督と二人で見たい」

ブサ督「…………」

ブサ督「ああ……必ず二人で見よう」

桜「ふふっ、楽しみだ」

ブサ督「ははは」

桜「…………」

ブサ督「…………」

桜「そろそろ……眠くなってきた」

桜「休ませてくれ」

ブサ督「ああ、お休み、桜」

桜「…………」



     ザザーン… ザザーン…


桜(…………)

桜(……すまない)

桜(ブサイク提督……)

桜(…………)

桜(たぶん……私は、もう……)

桜(私で居られなくなる……)

桜(…………)

桜(私なりに抗ってみたのだが……)

桜(…………)


桜(…………)

桜(本当は……少し前から……)

桜(自分が自分で無くなる様な……)

桜(奇妙な感覚があった……)

桜(…………)

桜(この数日……本当に楽しかったな……)

桜(…………)

桜(自我を持つディルプとして生きて来た数か月より)

桜(何倍も……何十倍も素晴らしい体験をさせてもらった)

桜(…………)


桜(…………)

桜(心配ばかりかけて……)

桜(何も返せないのが心苦しいが……)

桜(…………)

桜(だが……身体的に苦しくないのも事実なんだ)

桜(…………)

桜(あなたに礼も言わずに消えてしまう事を)

桜(許してくれ……)

桜(…………)

桜(最後になってしまう事を……あなたが知って)

桜(悲しむ顔を……見たくなかった……)

桜(…………)


桜(…………)

桜(そして……願わくば……)

桜(…………)

桜(……誰か………私…の……)

桜(…………)

桜(……代わりに……となり……で……)

桜(…………)

桜(…………)

桜(…………笑顔……………すご…し……)

桜(…………)



―――――――――――


     ザザーン… ザザーン…


ブサ督「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「……ん」

ブサ督「…………」

ブサ督「朝……か」

     ムクッ

ブサ督「ふあ~……」

ブサ督「…………」 ムニャムニャ…

ブサ督「……桜、朝だぞ」

ブサ督「っ!?」


??「…………」 スー スー

ブサ督「…………」

ブサ督「……艦娘?」

ブサ督(しかもこの服装と艤装……金剛型?)

ブサ督(…………)

ブサ督(いや、それよりも桜だ!)

ブサ督(どこへ行ったんだ……)

―――――――――――

ブサ督(…………)

ブサ督(……どこにも居ない)

ブサ督(…………)


ブサ督(だいたい前の晩まで)

ブサ督(首から上しか動かせなかったんだ)

ブサ督(急に歩けるようになるのも不自然……)

ブサ督(となると……)

??「…………」 スー スー

ブサ督(…………)

ブサ督(この眠っている金剛型の艦娘……)

ブサ督(信じられないが……桜が変化して)

ブサ督(!!)

ブサ督(…………)

ブサ督(まさか……これは)

ブサ督(離島艦娘!?)


??「…………」 スー スー

ブサ督(……通常、艦娘は)

ブサ督(妖精さんに資材を渡して頼んで)

ブサ督(艤装を作る事から始まる)

??「…………」 スー スー

ブサ督(艤装が完成したら、それは)

ブサ督(日本国内のどこかに適正者が存在するという事で)

ブサ督(適正者の婦女子は、艤装から何らかの感覚があり)

ブサ督(大抵は自ら名乗り出て、艤装を受け取り、めでたく艦娘となる)

ブサ督(……だが)


??「…………」 スー スー

ブサ督(たまに例外がある)

ブサ督(それは離島で良く発見される事から)

ブサ督(離島艦娘と呼ばれるようになったが……)

ブサ督(出自の分からない艦娘が艤装ごと突然湧いてくる事がある)

ブサ督(特に深海棲艦の支配地域を奪取した時は)

ブサ督(割と多くあるのだが……)

??「…………」 スー スー

ブサ督(離島艦娘はどれだけ調べても)

ブサ督(通常の艦娘と差異は無く……)

ブサ督(いつしか、原因を探す者すら居なくなった)

ブサ督(……が)


??「…………」 スー スー

ブサ督(……今でも信じられないが)

ブサ督(離島艦娘は……離島艦娘は……)

ブサ督(深海棲艦が何らかの理由で変化したもの)

ブサ督(だったのか……!)

??「…………」 スー スー

ブサ督(…………)

ブサ督(桜……)


 「正直……手足を動かせないのに何を言ってるんだと思うだろうが」

 「死ぬ気がしないんだ」


ブサ督(もしかしたら君は……こうなる事が)

ブサ督(分かっていたのか?)


ブサ督(…………)

ブサ督(……知ったところで)

ブサ督(どうにかできる事じゃないけど)

ブサ督(こんな……こんな別れ方って……)

??「……ん……んん」

ブサ督「!」

??「…………」

     ムクッ

ブサ督「…………」

??「…………」

??「えと……おはようございます」


ブサ督「お、おはよう」

??「あなたは……榛名の提督さん、ですか?」

ブサ督「そうなる……かな?」

ブサ督「君は榛名か」

榛名「えっ、どうして榛名の名前を?」

ブサ督「今しがた自分で言ったよ」

榛名「そうでしたか……では、改めまして」

榛名「榛名は、金剛型3番艦、榛名、と申します」

ブサ督「よろしく」

ブサ督「俺の名前はブサイク提督だ」


榛名「はい!」

榛名「榛名、ブサイク提督さんのお名前、覚えました!」

榛名「よろしくお願いします、ブサイク提督さん」

ブサ督「お、おう」

榛名「それで……ここはどこなのでしょう?」

榛名「どうしてブサイク提督さんと二人きりなのでしょう?」

ブサ督「…………」

ブサ督「桜」

榛名「はい?」

ブサ督「……桜、という名前に覚えは無いか?」

榛名「桜?……桜って、お花の桜、ですよね?」

ブサ督「……そうだな」

榛名「榛名……何か間違えました?」

ブサ督「いや、何でもない」


ブサ督「今のは忘れてくれ」

榛名「はあ……」

ブサ督「…………」

ブサ督「腹、減ってないか?」

榛名「そう言えば……榛名、お腹が空いてます」

ブサ督「じゃ……朝飯でも食いながら」

ブサ督「分かっている範囲で今の状況を説明しよう」

榛名「はい。ありがとうございます、ブサイク提督さん」

ブサ督「…………」

ブサ督(桜……)

ブサ督(…………)



―――――――――――


北方鎮守府 軍港


     ザザザザザザザザ…


大淀「…………」

利根「遅いぞ、大淀」

大淀「……すみません」

利根「その様子じゃと……」

利根「良い結果では無かった様じゃな……」

大淀「……長良さん他」

大淀「幾人かの艦娘の艤装の残骸を岩礁で発見しました」


利根「そうか……」

利根「とにかく、今は休む事じゃ」

利根「心身ともに疲れておったら」

利根「ロクな考えが浮かばぬ」

大淀「……利根さんの方こそ」

大淀「酷い顔をしていますよ」

利根「……寝付けなくての」

大淀「私も……気が張って怪しいですね」

利根「じゃがあれだけの大艦隊を退けたのじゃ」

利根「当分、彼奴らも大人しくするであろう」

大淀「朗報ですね」 クスッ…


大淀「鳥海さん、摩耶さん、夕立さん、瑞鶴さん」

大淀「お疲れさまでした」

大淀「どうか入渠して、休養してください」

摩耶「……大淀の方こそな」

鳥海「そうですよ、大淀さん」

夕立「休むっぽい!」

瑞鶴「これだけ疲れたのなら」

瑞鶴「ベッドに入って目つむれば嫌でも寝れるわよ」

大淀「ありがとうございます」

大淀「試してみますね」

     ゾロ ゾロ ゾロ…

大淀「…………」

大淀「ふう……」


     タッ タッ タッ…

明石「大淀」

大淀「あら、明石さん」

大淀「広域通信機、直ったのですか?」

明石「それはまだまだ掛かると思う……」

明石「だけど、ちょっと変な物見つけちゃって」

大淀「変な物?」

明石「疲れてるところ悪いんだけど」

明石「工廠まで来てくれないかな?」

大淀「分かりました」



―――――――――――


北方鎮守府 工廠


大淀「それで……変な物とは?」

明石「順を追って説明します」

明石「広域通信機の心臓部なんですけど」

明石「わずかに破損してるだけですが、上手く動作するか」

明石「それは分かりませんでした」

大淀「…………」

明石「慎重に修理し、最後の総仕上げで動作確認を行ったところ」

明石「中の記憶回路や実行制御は問題なく起動したんです」

大淀「はあ……」


明石「問題はここからです」

明石「実行制御の記録を確認していた時」

明石「艦娘の何人かに緊急規制が掛けられている事に気が付きまして……」

大淀「緊急……規制?」

明石「簡単に言うと……」

明石「任意で艦娘の通信機能をオフにしていた」

明石「という事なんです」

大淀「…………」

大淀「……え?」

大淀「ちょっと待ってください……それは」

大淀「誰かが、艦娘の通信を出来なくしていた」

大淀「という事……ですか?」


明石「はい」

大淀「」

大淀「そ、それって……大ごとじゃないですか!?」

明石「いったい誰がこんな事をしたのか……」

明石「これは司令官権限でもないと出来ませんよ」

大淀「…………」

大淀「明石さん」

明石「はい?」

大淀「まず……緊急規制を掛けられた艦娘の名前は分かりますか?」

明石「分かりますよ」

明石「なんなら、いつやったのかも分かりますが?」

大淀「ぜひ、それらを文書にまとめてください!大至急!」


明石「わ、分かりました」

明石「1時間ほど時間をください」

大淀「お願いします!」

大淀「私は……出発の準備を整えてきます」

明石「出発?」

明石「どこへ行くんですか?」

大淀「大本営です!」

明石「」

     タッ タッ タッ…

明石「ちょ、今から帝都にですか!?」

明石「……行っちゃった」



―――――――――――


北方鎮守府 臨時執務室


利根「…………」

     ドドドドドド

利根「む?」

利根「何事じゃ?」

     バタン!

大淀「利根さん!」

利根「うおっ!?」

利根「お、大淀か……驚かすでないわ」

利根「それで、どうしたのじゃ?」


大淀「私、ちょっと大本営まで行ってきますので」

大淀「北方鎮守府の事は、しばらくお願いします!」

利根「はあ!?」

大淀「では!」

     バタン!

利根「ちょ、大よ……!」

利根「……行ってしまいおった」

利根「何なのじゃいったい……」

利根「…………」



―――――――――――


飛行場


     ドッドッドッ…

搭乗員「……こういう事はこれっきりにしてくださいよ?」

搭乗員「ただでさえ広域通信不能で管制に支障を……」

大淀「事情があるんです」

搭乗員「……了解」

大淀「…………」

大淀(……この証拠があれば)

大淀(イケメン提督の暴走を止められるかもしれない)

大淀(天龍さんの事もあるし、一刻も早く大本営に伝えなくては……!)

大淀(…………)



―――――――――――


翌日の朝

帝都 ホテルの一室


フツ督「ふあ~あ……」

フツ督「朝か……」

フツ督「…………」

フツ督「……あれ?」

フツ督「龍田?」

フツ督「龍田、どこだ?」

フツ督「……居ないのか」


     ガチャ

龍田「あ、起きた?」

フツ督「龍田、どこへ行ってたんだ?」

     キィ パタン

龍田「新聞と朝食を取りに行ってたの」

龍田「食べる?」

フツ督「寝起きだからな……ちょっとキツイ」

フツ督「先に新聞を読ませてくれ」

龍田「はぁ~い」

     バサッ

フツ督「まずは4コマ漫画……っと」

フツ督「ぷっ……ククク」


フツ督「さて……」

フツ督「……!?」

     南方方面戦線 大打撃か?

フツ督「…………」

フツ督(……イケメン提督により平定間近となっていた)

フツ督(南方戦線に異常発生か……)

フツ督(指揮官交代により戦線維持機能不全の疑い……)

フツ督(交代指揮官名ブサイク提督……)

フツ督(交代直後、異常な補給物資要求で惨状が……)

フツ督「クソッ!」

フツ督「あの野郎……やりやがったな!」

龍田「!?」



―――――――――――


イケ督「くっくっくっ……」

イケ督「元々は大将閣下がやろうとしてた事だがな」

イケ督「これで……ブサイク提督とやらの信用はガタ落ち」

イケ督「民衆はさらに英雄を、俺を求めるって訳だ」

イケ督「ハーハッハッハッ!」

イケ督「笑いが……笑いが止まらん!」

イケ督「ハハハハハハハハハハ!」

イケ督「これで……」

イケ督「俺もいよいよ大将だ」

イケ督「くっくっくっ……!」

本日はここまでです。



―――――――――――


西方海域 とある離島の砂浜


     ザザーン… ザザーン…


ブサ督「…………」

榛名「ブサイク提督さん」

ブサ督「ん?」

榛名「何をなさっているのですか?」

ブサ督「墓……とは、ちょっと違うか」

ブサ督「記念碑みたいなのを作ってる」

榛名「記念碑ですか」

ブサ督「まあ、便宜上【艦娘の墓】と似た様なもんだけどな」

榛名「【艦娘の墓】?」


ブサ督「……艦娘って、まだまだ謎の多い部分があって」

ブサ督「駆逐艦だろうが、戦艦だろうが」

ブサ督「何故か存命中の同じ名前の艦娘は生まれて来ない」

榛名「という事は……榛名は榛名だけって事ですね?」

ブサ督「そう」

ブサ督「……でもそうなると少し困った事が起こる」

榛名「困った事?」

ブサ督「戦争をやっているからどうしても轟沈する……」

ブサ督「つまり、死んでしまう事もあるんだが」

ブサ督「墓にその名前を入れると、後から同じ名前の艦娘が生まれた時」

ブサ督「その艦娘は、自分の墓がすでにある事になる」

榛名「あ……」


ブサ督「そこで出来たのが【艦娘の墓】」

ブサ督「どの艦娘が亡くなっても【艦娘の墓】に入れて」

ブサ督「故人を悼む対象にした、という訳さ」

榛名「…………」

榛名「では……榛名もいずれはそこへ入るんですね」

ブサ督「そうとも限らない」

榛名「え?」

ブサ督「艦娘の行く末は主に3つある」

ブサ督「一つは今、言った通り」

ブサ督「二つ目は艤装の経年劣化や損傷で動かなくなった時」

ブサ督「艦娘任務から解き放たれ、一般の婦女子として暮らしていく」

榛名「…………」


ブサ督「三つ目は理由不明で艤装が艦娘を認識しなくなり」

ブサ督「艦娘として活動できなくなった場合」

ブサ督「これまた艦娘任務から解き放たれ」

ブサ督「一般の婦女子として暮らしていく事になる」

榛名「そんな道もあるんですね」

ブサ督「ああ」

ブサ督「理屈は全く分からんが、艦娘は最長で10年くらいの任務になり」

ブサ督「何故かその間、年は取らないし、人間の病気になる事も極めて稀」

ブサ督「そして解放後は艦娘手当という一時金も付いて来るから」

ブサ督「艦娘になれる事は割と名誉に思われてる」

榛名「そうなんですか」


榛名「でも榛名は……お父さんとお母さんの記憶がありません」

ブサ督「さっきも言ったけど……榛名は離島艦娘だからな」

ブサ督「謎は残るが、普通に婦女子として暮らしている元離島艦娘も居る」

榛名「先輩が居るんですね!」

ブサ督「ああ」

榛名「榛名……安心しました」

ブサ督「良かったな」

榛名「それで……ブサイク提督さん」

榛名「その記念碑は……どなたの為のものなのですか?」

ブサ督「ん~……」

ブサ督「一言では説明できないな」

榛名「恋人さん……とか?」


ブサ督「恋人か……」

ブサ督「そういう気持ちが無いって言えばウソになるけど」

ブサ督「どちらかと言えば、妹とか、娘みたいに思ってたかも」

榛名「妹さんか娘さん、ですか」

ブサ督(……本人が聞たら怒るかな)

榛名「どんな人だったんですか?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……とても綺麗な子だった」

榛名「…………」

ブサ督「ちょっと世間知らずで……最初はギクシャクしたけど」

ブサ督「俺もいろいろな事を彼女から学んだ」

榛名「…………」


榛名「亡くなった……という訳ではないんですよね?」

ブサ督「ああ」

ブサ督「でも……もう二度と彼女には会えない」

ブサ督「どこへ行ったのかも分からない」

榛名「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「……よし、出来た」

ブサ督「不格好だけど……許してもらおう」

榛名「……灰色の髪の君?」

ブサ督「何か書いておかないと、普通の岩と間違えられそうだからな」

ブサ督「……まあ、またここへ来るのは俺だけだろうけど」

榛名「…………」


ブサ督(……これは俺なりのけじめだ)

ブサ督(名前にしなかったのは、墓標みたいで嫌だし)

ブサ督(君は死んだわけじゃないと思うからだ)

ブサ督(…………)

ブサ督(桜……)

ブサ督(…………)

ブサ督(君と居た時間は……俺にとって、とても貴重で)

ブサ督(楽しいものだった……)

ブサ督(…………)

ブサ督(ありがとう)

ブサ督(桜……)

榛名「…………」


     ピピピ… ピピピ…

ブサ督「……ん?」

ブサ督「通信か」

     ピピッ ガガッ

ブサ督「こちらブサイク提督」

電『あっブサイク提督さん』

ブサ督「どうした、電?」

電『その……新聞記者の方が何人か』

電『南方鎮守府に押し寄せてまして……』

ブサ督「え?」

電『一応、軍事機密に係るので、電たちでは答えられないし』

電『ブサイク提督さんも離島療養中で答えられないと、押し通してます』

ブサ督(……どういう事だ?)


ブサ督「電、ブンヤは何の取材に来たんだ?」

電『…………』

電『……南方戦線は打撃を受けたのか?とか』

電『元大将との癒着はあったのか?とかです……』

ブサ督「!?」

電『いずれにしても詳しい事は分からないので』

電『このままで通しますが……』

電『ブサイク司令官さんのお耳にも入れておいた方が良いと思いまして』

ブサ督「そうか……ありがとう、電」

ブサ督「その対処でしばらく頼む」

電『分かりました』

電『南方鎮守府、通信終了』

ブサ督「ブサイク提督、通信終了」


     ブッ…

ブサ督「…………」

ブサ督(妙だな……フツメン提督がその辺は任せておけと)

ブサ督(言ってたはずだが……)

ブサ督(…………)

ブサ督(内地で何かあったか?)

ブサ督(…………)

榛名「ブサイク提督さん?」

ブサ督「!」

ブサ督「あ、すまない、榛名」

榛名「何かあったのですか?」


ブサ督「そうみたいだが……」

ブサ督「こっちから動くのは悪手の様な気がする」

榛名「では……どうしますか?」

ブサ督「この件は任せてる奴がいるから」

ブサ督「そいつからの連絡を待つ」

ブサ督「今は、それしかないと思う」

榛名「分かりました」

榛名「榛名はブサイク提督さんに従います!」

ブサ督「…………」

ブサ督(……それにしても)

ブサ督(榛名は……俺の顔について何も言わないな)

ブサ督(ギョッ、としたりも無かったし……)

ブサ督(…………)



―――――――――――


大本営 元帥の執務室


元帥「クソッ!」

元帥「これが奴の答えか!」

フツ督「……完全にやられました」

フツ督「この報道で世論は」

フツ督「一気にブサイク提督の糾弾へ向かう事になるでしょう」

元帥「そんな事は言われなくとも分かっている……」

元帥「そして奴の大将への要望が高くなる事もな……!」

龍田「…………」


フツ督「もはや俺の根回しなんて意味を成しません」

フツ督「軍部もブサイク提督を庇う事は出来ない……」

フツ督「万事休す、ですね……」

元帥「記録の開示をしてしまえば楽なのだが」

元帥「それは海軍全体の信用の失墜を招く」

元帥「何か……何か良い策は無い物か……」

フツ督「…………」

龍田「…………」

龍田「あのぅ……」

元帥「!」

フツ督「!」


元帥「何か……良い策があるのかね?」

龍田「いえ、そうではなくて……」

龍田「少し、休憩をなさってはいかがかなぁ~」

龍田「と」

元帥「…………」

フツ督「…………」

元帥「……それもそうだな」

フツ督「頭を冷やすべき、か……」

龍田「何か、冷たい飲み物でも持って来ましょうか?」

元帥「そうだな」

フツ督「頼めるか?」

龍田「はい♪」

龍田「それでは、ちょっと失礼しまぁす」


     ガチャ キィ パタン

元帥「…………」

フツ督「…………」

フツ督(……もうこうなったら)

フツ督(龍田に【処理】を頼むほか……)

フツ督(…………)

フツ督(いや……)

フツ督(それは出来ればやらせたくない)

フツ督(…………)


大本営 廊下付近


     テク テク テク

龍田「ふふ~ん♪」

龍田「冷たい物と言えば~」

龍田「やっぱりラムネ~」

    ガヤ ガヤ

龍田「……ん?」


大淀「ですから!」

大淀「直接元帥閣下にお話ししたいんです!」

憲兵「何度も言うが、許可を受けてない者は通せない」

憲兵「まずは君の所属する上官に通してからが筋だ」

大淀「それでは意味が無いんです!」

.


龍田(あれは……どこかで見た様な?)

龍田(…………)

龍田(まあいいか)

     テク テク テク…

―――――――――――

龍田「お待たせしました~」

元帥「うむ」

フツ督「ありがとう、龍田」

龍田「いえいえ」

     スッ スッ

     ゴク ゴク

フツ督「……ふう」

フツ督「人心地ついたな」


龍田「うふふ~」

龍田「やっぱりラムネはいいですよねぇ~」

元帥「……そうだな」

元帥「これで現実の方もスッキリできれば良いのだが……」

フツ督「…………」

龍田「…………」

龍田「あ」

龍田「そういえば……」

フツ督「どうした?」


龍田「ラムネを持って来るとき見かけたんだけど」

龍田「元帥閣下に直接話がしたい~とかって」

龍田「憲兵と揉めてる艦娘が居たのよね」

元帥「私と?」

フツ督「どこの所属の艦娘だ?」

龍田「ん~……どこかで見た顔だと思うんだけど」

龍田「思い出せないのよね~」

フツ督「君に面識があるのか……」

元帥「…………」

フツ督「…………」


フツ督「どうでしょう、元帥」

フツ督「行き詰っているところですし」

フツ督「その艦娘に会ってみませんか?」

元帥「ふむ」

元帥「それも一興か……」

元帥「では、その様にしよう」

フツ督「迎えに行ってきます」

元帥「頼む」

―――――――――――

フツ督「あー君君」

憲兵「はい?」

フツ督「私は西方方面艦隊鎮守府・司令官のフツメン提督だ」


憲兵「!」

大淀「!」

フツ督「何でも元帥閣下と直接話がしたい艦娘が居るとか?」

大淀「は、はい!」

憲兵「しかし、本来の規定では」

憲兵「所属する部隊の司令官の許可が……」

フツ督「うん、君の意見は正しい」

フツ督「だが……そこの艦娘は見たところ損傷を直す暇(いとま)すら」

フツ督「押して来たみたいじゃないか」

大淀「…………」

フツ督「責任は私が取る」

フツ督「一つ、私の顔に免じて通してくれないか?」

憲兵「…………」


フツ督「いざとなれば、この護衛の艦娘に相手をさせる」

龍田「…………」

憲兵「…………」

憲兵「……分かりました」

憲兵「この艦娘の身柄はフツメン提督にお願いします」

大淀「!」

大淀「あ、ありがとうございます!」

フツ督「いやいや」

フツ督「では……こっちへ来てくれ」

大淀「はい」

龍田「…………」


―――――――――――

元帥「私が元帥だ」

大淀「は、はい」

大淀「まずは……お会いくださり」

大淀「ありがとうございます」

元帥「うむ」

大淀「それで……私は、北方方面艦隊鎮守府・所属の艦娘で」

大淀「秘書艦をやっております、大淀、と申します」

元帥「!」

フツ督「!」

龍田「あ……思い出した」


龍田「去年の合同観艦式で天龍ちゃんと一緒だった娘ね?」

大淀「はい、そうです」

大淀「ええと……龍田さん、でしたっけ?」

龍田「正解~♪」

大淀「……そういえば」

大淀「天龍さんと意気投合していましたね」

龍田「うん♪」

龍田「……天龍ちゃんの事は聞いたわ」

大淀「…………」

大淀「……これから話す事は」

大淀「もっと辛い事をあなたに知らせる事になるかもしれません」

龍田「……どういう事?」


大淀「…………」

大淀「元帥閣下、並びにフツメン提督」

大淀「まずはこれをご覧ください」

     パサッ…

元帥「……この書類は?」

大淀「これは、広域通信機に記録されている」

大淀「艦娘の通信記録の一部です」

元帥「ふむ?」

大淀「この記録は……主に遠征に出た天龍さんの通信記録なのですが」

龍田「…………」

大淀「最後の通信の後……司令官権限で」

大淀「緊急通信規制処理されていたんです」


元帥「!?」

フツ督「!?」

龍田「…………」

元帥「遠征で緊急規制……!?」

フツ督「……通常ではありえない処置ですね」

フツ督「どういった状況だったんだ?」

大淀「…………」

大淀「この時……イケメン提督の指揮の元」

大淀「二個戦隊をもって敵泊地へ攻撃をしていたのですが」

大淀「大規模な伏兵によって、両戦隊とも撤退を打診して来ました」

フツ督「…………」

フツ督「……まさか」


大淀「……はい」

大淀「その後なんです」

大淀「天龍さんを含めた遠征部隊……全員に」

大淀「緊急規制が掛けられたのは……!」

元帥「…………」

フツ督「…………」

龍田「…………」

龍田「……ねえ」

龍田「それって……さ」

龍田「考えたくないんだけど……」

龍田「天龍ちゃんを」


龍田「囮か何かにした……って事かしら?」

元帥「…………」

フツ督「…………」

大淀「…………」

龍田「……どうしてみんな黙るの?」

龍田「誰か……否定しないの?」

龍田「ねえ!!」

大淀「……まだあるんです」

元帥「!」

フツ督「!」

龍田「!」

龍田「……これ以上」

龍田「何があるのかしら?」


フツ督「少し待ってくれ、大淀」

大淀「……はい」

フツ督「それは……天龍に関する事なのか?」

大淀「……はい」

フツ督「龍田」

フツ督「君は聞かない方が良い」

龍田「いいえ!」

龍田「絶対聞くわ!」

龍田「天龍ちゃんの事なんですもの!」

フツ督「……なら」

フツ督「約束してくれ」

フツ督「暴走しない、と」

龍田「…………」


龍田「……考えておくわ」

フツ督「その答えじゃダメだ」

フツ督「イエスかノーの二択」

フツ督「それ以外認めない」

龍田「…………」

龍田「……意地悪」

フツ督「どっちなんだ?」

龍田「分かったわよ」

龍田「暴走しない」

龍田「これでいい?」

フツ督「……ああ」


フツ督「すまない大淀、続けてくれ」

大淀「分かりました……」

大淀「…………」

大淀「あれは……ちょうど3日くらい前です」

大淀「北方鎮守府は……襲撃を受け」

大淀「広域通信機と電探を破壊されたんです」

元帥「何!?」

フツ督「待て。深海棲艦なら、警報が鳴るハズだろう?」

フツ督「故障でもしていたのか?」

大淀「いいえ」

大淀「正常に機能していました」


フツ督「!」

フツ督「まさか……天龍がやったのか!?」

龍田「!」

大淀「……結論から言えばそうです」

元帥「囮に使われ、生き残ったのならば……分からないではないな」

大淀「ただ……その時の天龍さんは……天龍さんは!」

大淀「深海棲艦のチ級によく似た姿を……していたんです!」

元帥「」

フツ督「」

龍田「」

元帥「な、何だと!?」

フツ督「し……信じられん……」

大淀「ええ……ええ! 私だって信じたくありません!」


大淀「ですが……私はこの目で見ました!」

大淀「そして、私の名前を呼んだんです!」

元帥「…………」

フツ督「…………」

     …ドサッ

龍田「」

フツ督「た、龍田ッ!!」

元帥「こりゃいかん……」

元帥「医務室へ連れて行くんだ」

フツ督「失礼します!」

     ガチャ キィ パタン

大淀「…………」

元帥「…………」


元帥「……それにしても3日か」

元帥「なぜすぐに連絡しなかったのだ?」

大淀「その襲撃の後、すぐに」

大淀「深海棲艦の大艦隊が現れまして」

大淀「その対応に追われてしまったんです……」

元帥「……なんというタイミングの悪さだ」

元帥「イケメン提督は……ちょうどこちらへ向かっててすれ違いになったか」

元帥「あ奴が居ても頼りないが……」

元帥「指揮官不在で、よく対処できたな」

大淀「…………」


大淀(……大本営は)

大淀(イケメン提督の実力を把握していたのね)

大淀(…………)

大淀「……私たちの功績ではありません」

大淀「ほとんどは……ブサイク提督が残してくれた」

大淀「戦術書のおかげなんです……」

元帥「ブサイク提督の?」

大淀「はい」

大淀「あれが無かったら……」

大淀「私たちは大損害を受けていたでしょう」

元帥「…………」


―――――――――――

フツ督「お待たせしました」

元帥「龍田は大丈夫か?」

フツ督「はい」

フツ督「軍医の話では問題ないだろう、と」

フツ督「医務室のベッドで休ませてあります」

元帥「そうか。何よりだな」

フツ督「それで……天龍はその後、どうしたんだ?」

大淀「…………」

大淀「天龍さんは、不在だったイケメン提督の居場所を執拗に聞いてきました」

元帥「……さもありなん、か」

フツ督(悪運の強い奴め……)


大淀「……申し訳ありません」

元帥「?」

元帥「なぜ謝罪するのだ?」

大淀「私は混乱して……うかつにも大本営へ行ったと」

大淀「天龍さんに漏らしてしまったんです……」

フツ督「!」

元帥「!」

大淀「金剛さんと比叡さんが捕まえようとしましたが」

大淀「逃げられてしまい……それっきり動向は知れません」

フツ督「なんてこった……」


元帥「…………」

元帥「警戒態勢を敷くべきか?」

フツ督「…………」

フツ督「今の状況を考えると、難しい判断です……」

フツ督「ただでさえ海軍の信頼が揺らいでいる時期ですから」

元帥「だが、放っておく訳にもいくまい」

フツ督「……天龍の居場所は把握しておきたいですね」

フツ督「移動ルートを予測して、当該地域を探らせてみましょう」

元帥「ふむ……それが妥当か」

元帥「天龍が無辜の民に手を出さぬ内は、それで行こう」

フツ督「ありがとうございます」

大淀「…………」


元帥「イケメン提督の事だけでも手一杯だというのに」

元帥「問題ばかり次々と起こってくれるな……」

大淀「…………」

フツ督「その事なんですが、元帥閣下」

フツ督「ひとつ思いついた事があります」

元帥「イケメン提督の事でか?」

フツ督「はい」

フツ督「ただ……まだ不確定要素がありますので」

フツ督「少し時間をください」

元帥「どれくらいだ?」

フツ督「長くても半日程度です」


元帥「…………」

元帥「……よかろう」

元帥「そのくらいなら待てる。期待してるぞ」

フツ督「がっかりされない様に頑張ります」

フツ督「では……」

フツ督「大淀、君にも手伝って欲しい」

大淀「え?」

大淀「あ、はい。私に出来る事なら手伝います」

フツ督「頼む」


フツ督「じゃあ、ついてきてくれ」

大淀「分かりました」

フツ督「それでは、失礼します」

大淀「失礼します、元帥閣下」

元帥「ああ」

     ガチャ キィ パタン

元帥「…………」

元帥「……やっと分かった気がする」

元帥「フツメン提督が、あれだけブサイク提督に」

元帥「入れ込む理由が……」

元帥「…………」

元帥「一度、酒の席にでも誘ってみるかな?」



―――――――――――


大本営 屋上


フツ督「よし、ここならいいだろう」

大淀「こんなところで、いったい何を?」

フツ督「ブサイク提督と連絡を取る」

大淀「え!?」

大淀「負傷され、離島で療養中と聞きましたが……」

フツ督「それは表向きの話。色々あってな」

大淀「そう……だったんですね」

フツ督「……それと、通信する前に」

フツ督「君に龍田の事を話しておきたいと思って」


大淀「龍田さんの?」

フツ督「ああ……」

大淀「…………」

フツ督「君から見ると……」

フツ督「龍田があれだけ天龍に入れ込むのは変に思うんじゃないか?」

大淀「……少し思いました」

大淀「去年の合同観艦式で仲良くなってたのは見ましたが」

大淀「それ以降、会ってないはずですし……」

フツ督「だよな……」

フツ督「…………」


フツ督「実は……龍田は、前の天龍とかなり仲が良かったんだ」

大淀「前の……今の天龍さんの前、という事ですか?」

フツ督「そう」

フツ督「だが……ある日の戦闘で」

フツ督「前の天龍は龍田を庇い……」

フツ督「轟沈して【艦娘の墓】に居る」

大淀「!」

フツ督「……それ以降」

フツ督「龍田は自分を責め続けてな……」

フツ督「戦闘で自暴自棄になった事も一度や二度じゃなかった」

大淀「…………」


フツ督「そんな時……北方鎮守府で」

フツ督「新たな天龍が着任した事を知った」

大淀「…………」

フツ督「俺はそれを利用した」

フツ督「龍田に天龍は生きていた、と言い」

フツ督「その代りケガの後遺症で記憶を失っている」

フツ督「という事にしたんだ」

大淀「…………」

フツ督「……それを伝えて」

フツ督「合同観艦式を終えた後」

フツ督「龍田は……無謀な行動を取らなくなった」


大淀「……そうだったんですね」

フツ督「我ながら酷い男だと思うよ」

フツ督「何もかも全部……俺の我が儘での行動だ」

大淀「…………」

大淀「いいじゃないですか、それくらい」

フツ督「…………」

大淀「私の我が儘なんて……もっと酷い結果を招きました」

フツ督「…………」

フツ督「……興味はあるが、聞かないでおこう」

大淀「……そうしてくださると助かります」


フツ督「ははは」

フツ督「……じゃ、連絡を取るか」

大淀「そんな小さな通信機で南方まで通信可能なんですか?」

フツ督「こいつは端末にすぎん」

フツ督「詳しい仕組みは俺も知らんが」

フツ督「この端末で広域通信機を経由して通信できるんだ」

大淀「……すごいですね」

フツ督(……たぶん)

フツ督(イケメン提督もこういう物を使ったんだろうな……)



―――――――――――


ブサ督「こちらブサイク提督」

フツ督『……久しぶり』

フツ督『元気にしてたか?』

ブサ督「体調は問題ないが、いろいろとあった……」

ブサ督「それに、そっちでも何かあった様だな?」

フツ督『!』

ブサ督「電から新聞記者が押し寄せてると連絡があったんだ」

フツ督『……すまん』

ブサ督「謝る必要はない」

ブサ督「説明してくれ」


―――――――――――

フツ督『……という訳だ』

ブサ督「…………」

ブサ督「……こりゃ参ったね」

フツ督『だが、まだ諦めるのは早い』

ブサ督「こんな状況で、まだ打てる手があるのか?」

フツ督『その為に』

フツ督『お前にもひと働きしてもらう』

ブサ督「……何をすればいい?」

フツ督『南方鎮守府に戻り』

フツ督『広域通信機の通信記録を調べてもらいたい』

ブサ督「広域通信機の?」


フツ督『ああ』

フツ督『特に行方不明扱いになってる艦娘や』

フツ督『轟沈扱いの艦娘の通信記録を時系列で』

フツ督『俺に知らせて欲しいんだ』

ブサ督「……聞かない方が良い気もするが」

ブサ督「どういう事なんだ?」

フツ督『…………』

ブサ督「おい、フツメン提督」

大淀『ここからは私が説明します、ブサイク提督』

ブサ督「!?」

ブサ督「その声……大淀か?」


大淀『……はい』

大淀『お久しぶりです、ブサイク提督』

ブサ督「お、おう……」

大淀『……イケメン提督が着任して以降』

大淀『ブサイク提督の偉大さが……良く分かりました』

ブサ督「…………」

大淀『すみません。謝罪やお礼とか山ほど言いたいのですが』

大淀『時間が無い様なので手短に説明します』

―――――――――――

大淀『……という事でして』

大淀『南方ではどの様だったのか、調べて欲しいんです』

ブサ督「…………」

ブサ督「……分かった」


フツ督『俺だ』

フツ督『そういう訳だから急いでくれ』

ブサ督「任せてくれ」

ブサ督「ブサイク提督、通信終了」

フツ督『フツメン提督、通信終了』

     ブッ…

ブサ督(……天龍)

榛名「ブサイク提督さん?」

ブサ督「……ん?」

榛名「大丈夫ですか?」

ブサ督「大丈夫だ……榛名」


ブサ督「あ」

榛名「どうしました?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……何でもない」

榛名「?」

ブサ督(榛名の事を伝え忘れていた)

ブサ督(ここは西方海域……本来、榛名の所有権は)

ブサ督(フツメン提督にある……)

ブサ督(…………)

ブサ督(後で頼むしかないな……)

ブサ督「よし、南方鎮守府に戻るぞ」

榛名「はい!」


     ピピー ガガッ

ブサ督「こちらブサイク提督」

ブサ督「南方鎮守府、応答してくれ」

電『こちら南方鎮守府・執務室』

電『ブサイク司令官さん、いかがされましたか?』

ブサ督「バカンスは終わった」

ブサ督「やる事が出来てな……至急迎えを寄こして欲しい」

電『分かりました』

電『すぐに高雄さん達を向かわせます』

ブサ督「頼む」

ブサ督「ブサイク提督、通信終了」

電『南方鎮守府、通信終了』

     ブッ…

本日はここまでです。
遅れてすみません。ちょっと体調を崩していました。



―――――――――――


関東沿岸部 某所


フード女「…………」

     ガサゴソ…(ゴミ箱あさり)

フード女「…………」

フード女「……アッた」

     バサッ(新聞広げ)

フード女「…………」

フード女(……イケメン提督、責任を痛感……)

フード女(南方戦線疲弊……大本営完全に否定せず)


フード女(…………)

フード女(…………)

フード女(……!)

フード女(イケメン提督、帝都ホテルで……)

フード女(よし……)

フード女(クソ野郎……まダ……)

フード女(帝都に居ル……!)

フード女(…………)

フード女(必ず……)

フード女(コロス……!)

フード女(…………)



―――――――――――


南方鎮守府 軍港


     ザザザザザザザ…


電「ブサイク司令官さん、お帰りなさいなのです」

ブサ督「ただいま」

ブサ督「ブンヤどもは大丈夫か?」

電「監視下に置いて下がらせてます」

ブサ督「助かる」

ブサ督「高雄たちもご苦労だった」

高雄「いえ、お役に立てて光栄です」


ブサ督「そうだ、良かったら榛名に」

ブサ督「南方鎮守府を案内してやってくれないか?」

榛名「え? 榛名は、ブサイク提督さんと一緒がいいです」

ブサ督「えっ」

電「えっ」

高雄「えっ」

愛宕「えっ」

飛龍「えっ」

鳳翔「えっ」

榛名「……?」

榛名「どうして皆さん、そんなに驚くのですか?」


ブサ督「……ま、まあ、榛名がそう言うのなら」

榛名「はい♪」

ブサ督(調子狂うな……)

ブサ督「では……高雄たちは、ゆっくりしててくれ」

高雄「は、はい」

ブサ督「それじゃ、執務室に向かおう」

榛名「はい、ブサイク提督さん」

     スタ スタ スタ…

高雄「…………」

愛宕「…………」

飛龍「…………」

鳳翔「…………」


高雄「……あれ、どう見ます?」

愛宕「う~ん……控えめに言って」

愛宕「ベタ惚れ?」

飛龍「ここへ来る道中でも、やけに仲良さそうでしたけど……」

鳳翔「どちらかと言えば……」

鳳翔「ブサイク提督さんの方が戸惑ってましたよね?」

高雄「…………」

愛宕「…………」

飛龍「…………」

鳳翔「…………」

4人(尊敬はしてるけど……)

4人(恋愛感情は……さすがに……)


南方鎮守府 執務室


ブサ督「ふう……帰って来たな」

ブサ督「さて、早速だが……技術主任を呼んできてくれ」

電「あの、ブサイク司令官さん」

ブサ督「ん?」

電「その前にですね、お手間は取らせませんので」

電「新たに補充された艦娘の着任を確認して欲しいのですが……」

ブサ督「補充か。それはありがたい」

ブサ督「すぐ呼べるのか?」

電「隣の作戦室に待機させてます」


ブサ督「分かった、呼んでくれ」

電「了解なのです」

電「許可が下りました」

電「入室してください」

     ガチャ… ゾロ ゾロ

??「……っ」 ギョッ

??「……うわっ」

??「…………」 ギョッ

??「ひっ……」

ブサ督「…………」

榛名「…………」

電「……すみません、事前に話しておいたのですが」

ブサ督「……いいよ、別に」


ブサ督「これからは写真でも前もって見せておけばいい事だ」

電「……えと」

電「ご挨拶してください」

??「……く、駆逐艦、朝潮です」

朝潮「勝負なら、いつでも受けて立つ覚悟です」

??「……なんでこんな……満潮よ」

満潮「力は尽くすわ」

??「く、駆逐艦、大潮で~す」

大潮「小さな体に大きな魚雷! お任せください」

??「……霞よ」

霞「ガンガン行くわよ、ついてらっしゃい」


ブサ督「なかなか元気があってよろしい」

ブサ督「着任を確認した」

ブサ督「ようこそ南方鎮守府へ。よろしく頼む」


朝潮型4人「はい」


ブサ督「では、後の処理は電に任せる」

ブサ督「彼女たちに部屋を用意してやってくれ」

電「了解なのです」

電「その帰りに技術主任さんをお連れしますね」

ブサ督「ああ、待ってるよ」

電「失礼します」

     ガチャ キィ

     ゾロ ゾロ… パタン


ブサ督「ふう……」

榛名「…………」

榛名「……酷い」

ブサ督「ん?」

榛名「何なのですか、あの態度……」

榛名「いくら何でも失礼すぎです!」

ブサ督「…………」

ブサ督「……あれが普通なんだよ」

榛名「え……」

ブサ督「どちらかと言えば、榛名の方がおかしいんだ」

ブサ督「ああ、もちろん普通に接してくれるのは嬉しいんだが……」

榛名「…………」


ブサ督「……榛名は、俺の顔が気持ち悪くないのか?」

榛名「微塵も思いません」

ブサ督(それはそれで心配になるな……)

ブサ督「そ、そうか」

ブサ督「ええと……」

     ガサゴソ ガサゴソ

ブサ督「あった」

榛名「?」

ブサ督「普通はな、こういう顔がモテ……好まれるんだ」つ(古新聞)

榛名「…………」

榛名「……榛名は、何とも思いません」

ブサ督「マジか……」


ブサ督「じゃあ榛名」

榛名「はい」

ブサ督「あそこの壁に貼ってるポスターの一番下の文字」

ブサ督「そこから読めるか?」

榛名「ええと……」

榛名「我が皇国の科学力は世界いち……ですか?」

ブサ督「うん、視力も問題ないな」

榛名「…………」

ブサ督(これはやっぱ……)

ブサ督(刷り込み、みたいなアレか?)


ブサ督「ともかく、だ」

ブサ督「俺がブ男ってのは分かってるし」

ブサ督「初対面では、嫌悪されるのもしょうがな――」

榛名「辛くは無いんですか?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……もう慣れた」

ブサ督「物心ついた時から……こんな扱いさ」

榛名「ウソです」

榛名「こんな扱いをずっとされて……辛く無いなんて」

榛名「榛名には信じられません!」

ブサ督「…………」

ブサ督「無駄なんだよ」

榛名「……え?」


ブサ督「いまさら……辛いとか、嫌だとか言っても」

ブサ督「俺がブ男である事に変わりはない」

ブサ督「いや……変える事は出来ないんだよ」

榛名「でも……」

ブサ督「変わらないと言ってるだろ!」

榛名「っ!」 ビクッ

ブサ督「今までずっとそうだったんだ!」

ブサ督「止めろと言っても嫌だと言っても!」

ブサ督「来る日も来る日も……!」

ブサ督「俺の顔をキモイだのブタ面だの、誰かに言われ続けて来たんだ!!」

榛名「…………」

ブサ督「はあ、はあ……」


ブサ督「…………」

榛名「…………」

ブサ督「……怒鳴って……悪かった」

榛名「いいえ」

榛名「榛名、嬉しいです」

ブサ督「……何?」

榛名「ブサイク提督さんの正直なお気持ちを聞けました」

ブサ督「…………」 ポカーン

榛名「ブサイク提督さん」

ブサ督「お、おう」

榛名「榛名は、ずっとブサイク提督さんのお傍に居ます」

榛名「これからもどんどん正直なお気持ちを榛名にぶつけてください」


ブサ督「…………」 ポカーン

榛名「うふふ♪」

ブサ督「…………」

ブサ督「……なあ、榛名」

榛名「はい」

ブサ督「君は……もしかして――」

     コンコン ガチャ

電「お待たせしました、ブサイク司令官さん」

電「技術主任さんをお連れしました」

ブサ督「っ!」 ビクッ!

電「……お取込み中でしたか?」

ブサ督「い、いや、大丈夫だ」


ブサ督「こほん」

ブサ督「では、技術主任、作戦室へ来てくれ」

技術主任「了解です」

ブサ督「それと……榛名、電」

榛名「はい」

電「はい」

ブサ督「悪いんだが、しばらく執務室と作戦室は立ち入り禁止にする」

ブサ督「これは命令だ」

榛名「えっ……」

電「わかりました」

榛名「待ってください!榛名はブサイク提督さんと一緒に……」

ブサ督「……そういう問題じゃないんだ、榛名」


電「榛名さん」

電「ブサイク司令官さんは『命令』と言ったのです」

電「どんなに親しい人でも……見せられない事が軍にはあるのです」

榛名「…………」

榛名「……榛名、分かりました」

ブサ督「電、榛名の事、よろしく頼む」

電「お任せください」

電「失礼します」

榛名「……失礼します」

     ガチャ キィ パタン

ブサ督「…………」



―――――――――――


大本営 元帥の執務室


元帥「…………」

     コンコン

元帥「誰だ?」

フツ督「私です、元帥閣下」

元帥「入ってくれ」

     ガチャ キィ パタン

フツ督「失礼します」

元帥「時間にはまだ早いが、進展があったのか?」

フツ督「はい。それともう一つ」


元帥「む?」

フツ督「まず……ブサイク提督との話で思い出したのですが」

フツ督「ある事について、元大将と連絡を取り」

フツ督「かなり使えそうなネタを入手しました」

元帥「ほう……」

フツ督「奴を挑発するのに持ってこいのネタです」

フツ督「これは期待していてください」

元帥「うむ」

フツ督「次に天龍の動向ですが……」

元帥「何か掴めたのか?」


フツ督「北海道から東北にかけての」

フツ督「防衛網に異常が無いか調べましたが」

フツ督「ここ数日、特に変わった事は無いそうです」

元帥「そうか……」

フツ督「そこで沿岸部付近の街や村を調べてみたのですが」

フツ督「数件、ガソリン泥棒が発生していました」

元帥「なるほど……燃料狙いか」

フツ督「ガバガバとは思いたくありませんが」

フツ督「防衛網は天龍にとって大した障害では無かった模様です」

元帥「現在位置は分かるのかね?」

フツ督「おそらく……関東沿岸部付近に到達したくらいかと」

元帥「至急、関東沿岸部に注意喚起をせねばな」


フツ督「…………」

フツ督「それなんですが、元帥閣下」

元帥「む?」

フツ督「あえて、放っておくのはどうでしょうか?」

元帥「何?」

フツ督「天龍の狙いはイケメン提督一人」

フツ督「このまま泳がせておけば、切り札として使えるかもしれません」

元帥「…………」

元帥「……フツメン提督」

フツ督「はい」

元帥「今のは聞かなかった事にしておこう」

フツ督「分かりました」


元帥「関東沿岸地域に大本営直属の艦娘部隊を要所で待機」

元帥「連絡を受けたら急行出来るよう手配をしておけ」

フツ督「了解です」

元帥「もし忘れたりしたら」

元帥「今のやり取りを龍田に伝えるからな?」

フツ督「誠心誠意、やらせていただきます!」

元帥「よろしい。では、行ってよし」

ブツ督「失礼します」

     ガチャ キィ パタン

元帥「…………」

元帥「ふう……」

元帥「あやつの冗談は笑えん上に」

元帥「心臓に悪いな……」



―――――――――――


南方鎮守府 談話室


     ガヤ ガヤ

電「で、ここが談話室になります」

榛名「……はい」

電「…………」

電「少し、休憩しましょうか?」

榛名「……そうですね」

電(……さっきから上の空なのです)

電「な、何か……飲み物でも持ってきますので」

電「そちらに座っててください」

榛名「……はい」


榛名「…………」

榛名「…………」

川内「ねえ」

榛名「はい?」

川内「あんたかな?」

川内「ブサイク提督と一緒だった離島艦娘って」

榛名「はい。榛名の事です」

川内「ふうん」

川内「…………」

榛名「……あの、何でしょうか?」


川内「いやね、仕方なかったとはいえ」

川内「あのブサイク提督としばらく一緒だったんでしょ?」

榛名「はい。それが何か?」

川内「何か、さ」

川内「やらしー事でもされなかった?」

榛名「…………」

榛名「どうしてそんな事を聞くんですか?」

川内「だってあの見た目でしょ?」

川内「どう考えたって、女の子に飢えて良からぬ事を……」

     ダンッ!!

川内「わっ!?」

榛名「…………」


川内「な、なに机叩いて怒ってんのよ?」

榛名「……本当は」

榛名「あなたの顔面を叩きたかったのを我慢したんです」

川内「えっ」

榛名「ブサイク提督さんは……とてもお優しい方です」

榛名「少なくとも榛名は、一緒に居て不愉快だと思った事は」

榛名「一度もありませんでした」

川内「…………」

榛名「……それとも」

榛名「あなたは、ブサイク提督に何か嫌な事をされたんですか?」

川内「……そりゃ言われてみれば」

川内「無いけど……」


榛名「あなたのお名前は?」

川内「……川内」

榛名「川内さん、ですね」

榛名「あなたは人を見た目で判断する嫌な人だと」

榛名「榛名は覚えました」

川内「なっ!?」

榛名「用がお済みなら、もう榛名に構わないでください」

川内「この……!」

電「川内さん?」

川内「!」

電「ど、どうかしたのですか?」


川内「…………」

川内「……何でもない」

     スタ スタ スタ…

電「……?」

電「榛名さん、何かあったのですか?」

榛名「…………」 ポロポロ

電「あえっ!?」

電「な、何で泣いてるのですか!?」

榛名「……榛名にも分かりません」

榛名「どうして……こんなに悲しいのか……」

電「…………」

電「……良かったら話してください」

榛名「…………」


榛名「上手く……話せるかどうか……」

電「少しずつでいいのです」

電「少しずつで……」

榛名「…………」

榛名「……ブサイク提督さんは」

榛名「自分がブ男である事実は変わらないと」

榛名「誰からそう言われても仕方ないと、これが普通なんだと」

榛名「言ってました」

電「…………」

榛名「でも榛名は知りました」

榛名「ブサイク提督さんは、心からそう思っている訳じゃないと」

電「…………」


榛名「榛名は……」

榛名「そんなブサイク提督さんのお気持ちを考えてしまって」

榛名「目の前でそれを言って来る人に……怒りを覚えました」

電「…………」

榛名「……ブサイク提督さんは」

榛名「今までずっと……そしてこれからもずっと」

榛名「誰かに、あんな風に思われ続けるのかと思うと」

榛名「悲しくて……悲しくて……」

電「榛名さん……」

電「…………」

電「ごめんなさい、榛名さん」

榛名「えっ?」


電「電も……少しそう思っている一人なのです」

榛名「…………」

電「もちろん、ブサイク司令官さんが酷い事をする人とは」

電「今はもう思っていません……でも」

榛名「でも?」

電「心のどこかで……見た目で判断してる部分があるのです」

榛名「…………」

電「ちょっとお聞きしたいのですが」

電「榛名さんは、どうしてそこまでブサイク司令官さんの事を」

電「信用できるのですか?」

榛名「え……」

榛名「…………」


電「あっ、その……答えにくい質問だと思います」

電「きっと……榛名さんは」

電「電の知らないブサイク司令官さんのお顔を知っているからだと思います」

榛名「電さんの知らないブサイク提督さんのお顔……」

榛名「……そうですね」

榛名「榛名、少し気分が良くなりました」

電「……きっと川内さんも」

電「心の底からブサイク司令官さんの事を」

電「悪く思っている訳ではないと思います」

榛名「……そうだといいですね」

電「電が後で川内さんに榛名さんのお気持ちを話しておきます」

電「誤解は、きっと解けるのです」


榛名「誤解、ですか……」

電「争いは誤解から始まるものも多いのです」

電「後で、どうしてこうなったのだろう?」

電「と、思う事も多いのです」

榛名「……そういうもの、ですか」

電「もちろん、何もかもがそう、という訳ではありませんが」

榛名「ふふふ」

電「あはは」

榛名「飲み物……もらってもいいですか?」

電「どうぞなのです」

榛名「いただきます」



―――――――――――


南方鎮守府 作戦室


ブサ督「…………」

ブサ督「……よし」

ブサ督「これらの文書化を頼む」

技術主任「分かりました」

ブサ督「それと、これらの情報は一切口外してはならない」

ブサ督「家族にもだ。漏らした場合、処罰の対象になる」

技術主任「心得てます」

ブサ督「よろしい」

ブサ督「…………」



―――――――――――


大本営 廊下付近


     ピピー ガガッ

フツ督「!」

フツ督「……こちらフツメン提督」

ブサ督『こちらブサイク提督』

ブサ督『今、大丈夫か?』

フツ督「……ちょっと場所が悪い」

フツ督「移動するから、少し待っててくれ」

ブサ督『了解』



―――――――――――


大本営 屋上


フツ督「……待たせた」

フツ督「どうだった?」

ブサ督『……ビンゴだ』

フツ督「そうか……」

ブサ督『…………』

フツ督「これほど当たって嬉しくない事も珍しいな……」

ブサ督『同感だ』

フツ督「文書化はどれくらいかかる?」

ブサ督『もうすぐ終わる』


フツ督「仕事が早くて助かる」

ブサ督『…………』

ブサ督『……これは公表して良い事なのか?』

フツ督「本来は良くない……が」

フツ督「イケメン提督を罪に問えて民衆の目を覚まさせられる」

フツ督「最大のチャンスなんだ」

ブサ督『…………』

ブサ督『……では』

ブサ督『俺からも提案がある』

フツ督「提案?」


ブサ督『今、南方鎮守府にブンヤどもが来ていてな』

ブサ督『その取材を受けようと思う』

フツ督「……やめておけ」

フツ督「お前に対するイメージが下がるだけだぞ?」

ブサ督『だが……イケメン提督を油断させるのには』

ブサ督『最適だ』

フツ督「!」

フツ督「…………」

ブサ督『…………』

フツ督「……言っておくが」

フツ督「相当辛い事だぞ?」

ブサ督『一時的に土俵際へ追い込まれるだけだ』

ブサ督『堪えて見せる』

フツ督「…………」


フツ督「……分かった」

フツ督「こっちにはいつ来れる?」

ブサ督『……明日の夕方くらいか』

ブサ督『遅くとも明日中には会えると思う』

フツ督「分かった」

フツ督「決戦は明後日に予定しておこう」

ブサ督『強行スケジュールだな……』

フツ督「仕方ないだろう」

フツ督「余り各方面鎮守府を指揮官不在にしたくないしな」

ブサ督『……それもそうか』

ブサ督『天龍の方はどうなっている?』


フツ督「行方不明のままだ」

フツ督「一応、怪しい出来事は掴めたので」

フツ督「絞り込みをかけている」

ブサ督『……分かった』

ブサ督『詳しい事は直接会った時に』

フツ督「ああ、そうそう」

ブサ督『ん?』

フツ督「頭に包帯くらい巻いとけ」

ブサ督『……了解』

フツ督「それじゃ、大本営で待ってる」

ブサ督『ああ』

ブサ督『通信終了』

フツ督「通信終了」


大本営 元帥の執務室


フツ督「……という感じです」

元帥「ふむ……」

フツ督「いかがでしょうか?」

元帥「…………」

元帥「……正直を言えば」

元帥「海軍が無傷で済む方法が良かったが」

元帥「やむを得まい」

フツ督「では、このまま進めます」

元帥「ああ」


元帥「それにしてもブサイク提督には頭が下がるな」

フツ督「……元帥閣下から言われると恐縮するでしょうね」

元帥「ふん……私はそれほど賢い存在ではない」

元帥「議会工作ばかり上手くなってしまった」

フツ督「得手不得手は誰にでもありますよ」

元帥「…………」

元帥「そうか……」

元帥「では、そろそろ私は休むとしよう」

フツ督「はい。どうか、いい夢を」

元帥「うむ」

     ガチャ キィ パタン

元帥「…………」



―――――――――――


翌日の朝

帝都 ホテル、ロビー付近の売店


     ガヤ ガヤ

イケ督「〇×新聞を」

     ハイ

イケ督「ありがとう」

イケ督「…………」

イケ督「んん?」


     南方司令官 疲弊の事実認める!

イケ督(…………)

イケ督(……担当司令官・ブサイク提督は語る)

イケ督(南方戦線は非常に不安定……)

イケ督(その為の補給を要請)

イケ督(…………)

イケ督(イケメン提督の奪取した海域について語らず)

イケ督(本社記者の追及により、撤退の事実を一部認める……)

イケ督(くくく……)

イケ督(そうりゃそうだろうな……)

イケ督(ご苦労さん、ご苦労さん)

イケ督(すべての罪を被ってくれてありがとうよ)


イケ督(…………)

イケ督(これでようやく俺も大将か)

イケ督(結構あっという間だった)

イケ督(…………)

イケ督(大将になったら、何をするかなぁ)

イケ督(くくく……)

イケ督(…………)

イケ督(あーもう……上手く行きすぎて)

イケ督(怖いくらいだぜ……!)

本日はここまでです。遅れてすみませんでした。
(ソシャゲのハロウィンイベントにかまけてたなんて言えない……)

>>685修正↓


川内「な、なに机叩いて怒ってんのよ?」

榛名「……本当は」

榛名「あなたの顔を叩きたかったのを我慢したんです」

川内「えっ」

榛名「ブサイク提督さんは……とてもお優しい方です」

榛名「少なくとも榛名は、一緒に居て不愉快だと思った事は」

榛名「一度もありませんでした」

川内「…………」

榛名「……それとも」

榛名「あなたは、ブサイク提督さんに何か嫌な事をされたんですか?」

川内「……そりゃ言われてみれば」

川内「無いけど……」

続きを投下します。



―――――――――――


夕方

帝都 軍用空港エントランス付近


     ガヤガヤ

龍田「…………」

龍田「……あ、あの人かしら?」

     テク テク テク

龍田「わ……」

ブサ督「ん?」

榛名「…………」

龍田「……失礼しました」


龍田「ブサイク提督……ですね?」

ブサ督「そうだが?」

龍田「私はフツメン提督の秘書艦をやっております」

龍田「龍田、と申します」

龍田「以後、お見知りおきを」

ブサ督「君がフツメン提督の……それで」

ブサ督「肝心のフツメン提督はどこに?」

龍田「大本営で待ってます」

龍田「こちらの裏口に車を用意してますので、どうぞ」

ブサ督「……その車には榛名を頼む」

ブサ督「俺はこのまま空港玄関ロビーから車を拾うから不要だ」


榛名「!」

龍田「え……でも」

龍田「新聞記者が待ち構えてますよ?」

ブサ督「それも分かってる」

ブサ督「俺が到着時間を教えたからな」

龍田「なら、なおさら……」

ブサ督「あくまでイケメン提督の目を眩ませる為だ」

ブサ督「俺は囮にすぎん」

龍田「…………」

龍田「分かりました」

龍田「それじゃあ、榛名ちゃん?」

榛名「嫌です」

榛名「榛名は、ブサイク提督さんと一緒に……」


ブサ督「榛名」

ブサ督「俺を困らせないでくれ」

榛名「…………」

龍田「…………」

榛名「……分かりました」

ブサ督「うん……大本営でまた会おう」

榛名「はい」

ブサ督「それじゃ、龍田」

ブサ督「よろしく頼む」

龍田「了解です」

     スタ スタ スタ…



―――――――――――


帝都 軍用空港玄関ロビー付近


     ガヤ ガヤ

A「…………」

A「……あ!来たぞ!」

     ダダダダダダ…

A「〇×新聞のA記者です!」

A「南方海域の撤退責任はどう取るおつもりですか!?」

ブサ督「ノーコメントです」

B「□〇新聞のB記者です!」

B「犠牲になった艦娘はどのくらい居るのでしょうか!?」

ブサ督「…………」


C「△△新聞のC記者です!」

C「皇国国民に対して」

C「何か言わなければならない事があるのではないでしょうか!?」

     ワー ワー

ブサ督「ノーコメント!」

ブサ督「ノーコメント!」


榛名「…………」 ギリッ…

龍田「榛名ちゃん……堪えようね」

榛名「……はい」

龍田「…………」


龍田「さ……ここに長居は無用よ」

龍田「大本営でブサイク提督さんと合流できるわ」

榛名「……分かりました」

榛名「…………」

―――――――――――

宵の口

大本営の一室


フツ督「じゃ、正面玄関までブサイク提督を迎えに行ってくる」

龍田「はぁ~い」

     パタン

龍田「それじゃ榛名ちゃん、改めて。私は龍田」

龍田「西方鎮守府の秘書艦をやってるわ」


大淀「初めまして」

大淀「北方鎮守府の秘書艦をやっている」

大淀「大淀です」

大淀「以前は、ブサイク提督の下で働いていました」

榛名「初めまして」

榛名「榛名は、南方鎮守府の秘書艦代理として来ました」

龍田「代理?」

榛名「事情がありまして……」

榛名「ブサイク提督さんが仰るには」

榛名「榛名は、フツメン提督さんの許可がないと」

榛名「一緒に居られないとかで……」


龍田「……もしかしたら離島艦娘?」

榛名「はい」

大淀「という事は、榛名さんは西方海域で発見された」

大淀「という事ですね?」

榛名「そうなります」

大淀「…………」

龍田「…………」

榛名「?」

龍田「……あのね、榛名ちゃん」

榛名「はい」

龍田「あなたって、ブサイク提督さんと、どのくらいのお付き合いなの?」

榛名「ええと……3日くらい、でしょうか?」


大淀「…………」

龍田「…………」

龍田「……そんな短期間なのに」

龍田「随分とブサイク提督さんの事、慕ってるわね?」

榛名「おかしいですか?」

龍田「だって、出会って3日でしょう?」

龍田「それであんなに怒りを見せるほどの仲になったの?」

榛名「……そんなに不思議な事なのでしょうか?」

龍田「そりゃ蓼食う虫も好き好き、とは言うけど……」

大淀「…………」

榛名「……実はブサイク提督さんにも不思議がられてます」


龍田「あら」

榛名「榛名は、最初からブサイク提督さんのお顔を見ているだけで」

榛名「何故か安心できるし、心が落ち着きました」

榛名「そして、この人のお傍に居られる事が、何よりも幸せで……」

龍田「榛名ちゃん」

榛名「はい?」

龍田「それちょっと怖い」

榛名「え?」

龍田「だって出会って間もなく好き好き~って言われるのよ?」

龍田「ちょっと引いちゃうわ……」

榛名「そ、そんな事……」

龍田「…………」


     ガバッ!

榛名「!?」

龍田「きゃあ~榛名ちゃん!」

龍田「好き好き~」

榛名「えっ?ちょ……何ですか?いきなり!」

     スッ…

龍田「……どう?」

龍田「程度に差はあるけど、榛名ちゃん」

龍田「あなたがブサイク提督さんにやってる事はこれよ」

榛名「!?」

龍田「あなたは嬉しく思った?」

榛名「…………」

榛名「……気持ち悪かったです」


龍田「そう正直に言われると少し傷つくけど」

龍田「言いたい事は伝わって嬉しいわ」

榛名「…………」

榛名「榛名は……間違っていたのですか?」

龍田「んー……誰かを好きになるのは間違いではないわ」

龍田「でも……相手の気持ちを考えないのは、よろしくないわね」

榛名「相手の……気持ち」

龍田「そう」

龍田「少しずつでいいの」

龍田「何をやったらダメで、何をやったら喜んでくれるのか」

龍田「好きな人とお話をいっぱいして、学んでいくの」


龍田「それが……大事な事なのよ」

榛名「はい!」

榛名「榛名、学びます!」

榛名「榛名はブサイク提督さんとたくさんお話します!」

龍田「す、少しずつ、を忘れないように、ね?」

榛名「はい!」

龍田(……本当に大丈夫かしら、この娘)

大淀(……離島艦娘は変わり種が多い、とは聞いてましたが)

大淀(明石さんとかで慣れてる私の方が異常なのでしょうね)

大淀「ごほん!」

大淀「それでは……本題に入ってよろしいでしょうか?」


榛名「あ、はい」

龍田「ごめんなさいね。いいわよ」

大淀「ありがとうございます」

大淀「とは言いましても……確認事項にすぎないんですけどね」

榛名「確認事項?」

大淀「まず……私は事情があって」

大淀「直属の上司である、イケメン提督に会わないようにしています」

大淀「そのため、ホテルではなく、ここ大本営の一室をお借りしているんです」

榛名「そうだったのですか……」

大淀「それから……フツメン提督によりますと」

大淀「私は明日、行われる緊急記者会見での切り札だと言われたんですが」

大淀「詳細は明らかにされませんでした」

龍田「……相変わらず腹黒いんだから」


大淀「そして、ブサイク提督なんですが……」

大淀「イケメン提督を油断させるために今はあえて」

大淀「好奇の目に晒される事を選びました」

榛名「…………」

大淀「以上が、現在の状況の確認事項となります」

大淀「榛名さんにとっては、辛い事でしょうが……」

大淀「どうか自重を心がけてください」

大淀「明日までの辛抱です」

榛名「……分かりました」

龍田「…………」

龍田(明日まで、か……)


     コン コン

フツ督「龍田、いいか?」

龍田「あら、早かったわね」

龍田「どうぞ」

     ガチャ

フツ督「待たせたな」

龍田「そんな事ないわよ」

     キィ パタン

ブサ督「ふう……」

榛名「お疲れ様です、ブサイク提督さん」

ブサ督「ああ、疲れたよ、榛名」

大淀「ブサイク提督……」

ブサ督「大淀……」


大淀「本当に……本当にすみませんでした」

ブサ督「…………」

大淀「あなたが残してくれた戦術書」

大淀「あれが無かったら……私たち北方鎮守府の艦娘は」

大淀「大勢死者が出ていたと思います……」

ブサ督「…………」

大淀「どれだけ謝っても私の無礼は許される事では無いと思います」

大淀「それでも、それでも……どうか謝罪させてください」

ブサ督「…………」

ブサ督「顔を上げてくれ、大淀」

大淀「…………」


ブサ督「高雄たちにも似た様なこと言われたけどな」

ブサ督「わだかまりが無い、と言えばウソになるが……」

ブサ督「分かってくれたなら、嬉しく思う」

大淀「ブサイク提督……」

ブサ督「俺の残した戦術書が役に立って良かった」

ブサ督「また大淀の元気な姿が見れて、何よりだよ」

大淀「ありがとう……ございます……!」

榛名「…………」

ブサ督「さて、本題に入る前にフツメン提督」

フツ督「ん?」

ブサ督「榛名の事なんだが……彼女は例の離島で発見したんだ」

フツ督「…………」


フツ督「……ああ、そういう事か」

フツ督(所有権……こういうところは筋を通す男だが)

フツ督(自分から特定の艦娘を欲しがるのは珍しいな?)

ブサ督「…………」

フツ督「いいぞ。喜んでお前に所有権を譲ろう」

ブサ督「すまない」

フツ督「別にいいさ」

フツ督「今、南方は極端な戦力不足」

フツ督「戦艦級が喉から手が出るほど欲しいのは分かるさ」

ブサ督「……まあな」

榛名「これで、榛名は名実共にブサイク提督さんのものですね♪」


フツ督「…………」

フツ督(……なあ龍田)

龍田(何かしら?)

フツ督(榛名は……ブサイク提督に惚れてるのか?)

龍田(見れば分かるでしょ)

フツ督(いや、そうなんだが……まあいい)

フツ督「じゃあ……本題に入ろう」

―――――――――――

フツ督「――という感じだ」

ブサ督「…………」

榛名「…………」

龍田「…………」

大淀「…………」


ブサ督「……公開処刑か」

ブサ督「やる事がえげつない」

フツ督「不服か?」

ブサ督「あの情報を知らなければな」

ブサ督「あれを知った以上、異論はない」

フツ督「そう言ってくれるとありがたいよ」

フツ督「後は……」

大淀「天龍さんの事ですね……」

龍田「天龍ちゃんはどうなってるの?」

フツ督「その事なんだが……」

フツ督「茨城沿岸の漁村での燃料泥棒以降、騒ぎが途切れた」


龍田「行方不明って事?」

フツ督「そうなる」

フツ督「元帥閣下にも伝えて、関東沿岸部近海を」

フツ督「それとなく見張っている状況だ」

ブサ督「…………」

フツ督「燃料タンクを抱えながら夜間に移動しているのでは?」

フツ督「と推測して、対処を強化している」

龍田「対処、ね……」

フツ督「……願わくば、投降してくれる事を祈ろう」

龍田「…………」

大淀「…………」

榛名「…………」

ブサ督「…………」


フツ督「さて……そろそろいい時間だ」

フツ督「ホテルに部屋を用意してある」

フツ督「俺が案内しよう」

ブサ督「分かった」

     ガチャ キィ

榛名「…………」

ブサ督「……何で榛名が付いて来るんだ?」

榛名「えっ?」

榛名「ご迷惑……ですか?」

ブサ督「いや、迷惑とかそういう話じゃ……」

フツ督「別に構わないだろ?」

フツ督「俺も龍田と一緒の部屋だし」


ブサ督「えっ……本当か?」

フツ督「ああ」

ブサ督「…………」

ブサ督「じゃあ……二人はそういう関係なのか?」

龍田「ええ。そうだけど?」

ブサ督「…………」

ブサ督「いやいやいや……流されそうになったけど」

ブサ督「俺と榛名はそういう関係じゃ……」

榛名「でも、ブサイク提督さん」

榛名「あの離島で榛名たちは、一つのテントで一緒に寝ましたよね?」

ブサ督「」

大淀「…………」


フツ督(ぷっ……くくくっ……!)

フツ督「なんだ……もうそういう仲じゃないか」

ブサ督「い、いや、それはマラリアとかを、だな」

大淀「……よろしいじゃないですか」

ブサ督「大淀!?」

大淀「きっと……榛名さんはブサイク提督の」

大淀「本質を見抜いている、という事なのでしょう」

ブサ督「…………」

大淀「それに」

大淀「女の子が了承しているのにそれを拒むなんて」

大淀「榛名さんに恥をかかせている様なものですよ?」


ブサ督「ええぇ……」

龍田「ブサイク提督さん」

龍田「諦めてエスコートしてあげた方がいいわよ?」

榛名「…………」

ブサ督「…………」

ブサ督「……分かった」

ブサ督「行こう、榛名」

榛名「はい!」

フツ督「それじゃ、大淀とはここで」

大淀「はい。お休みなさい、皆さん」

フツ督「ああ、君もな」

     パタン



―――――――――――




帝都 ホテルの一室


ブサ督「…………」

榛名「うわぁ、大きなベッドですね!」

榛名「二人でも余裕で寝れます♪」

ブサ督「は、榛名……あのな」

榛名「はい?」

ブサ督「その……男と女が一つの寝床を共にするって」

ブサ督「意味分かってるのか?」


榛名「……?」

榛名「一緒に寝る、という事でしょう?」

ブサ督「うん、知らないみたいで安心した」

榛名「教えていただけるのですか?」

ブサ督「いやその……俺の口からは……」

榛名「?」

ブサ督「と、とにかく!」

ブサ督「榛名は、俺と一緒に寝る、という事は」

ブサ督「一緒に睡眠をとる、と理解しているんだな?」

榛名「……違うのですか?」

ブサ督「……今はその認識でいい」

ブサ督(南方に帰ったら誰かに榛名の性教育を頼もう……うん)


ブサ督「それじゃ……風呂にでも行って来るか」

榛名「榛名も一緒に……」

ブサ督「だー! 一人で行くから!」

榛名「でも……」

榛名「!」

   「相手の気持ちを考えないのは、よろしくないわね」

榛名「…………」

ブサ督「……榛名?」

榛名「……何でもありません」

榛名「榛名は、ブサイク提督さんがお嫌な事はしません」

ブサ督「……ん」

ブサ督「じゃ……」


     スタ スタ スタ…

榛名「…………」

榛名(相手の気持ち……)

榛名(ブサイク提督さんは……榛名の事をどう思っているのでしょうか)

榛名(…………)

榛名(確かに……出会ったばかりだというのに)

榛名(こんな気持ちになるのは変かもしれません)

榛名(……でも)

榛名(榛名のこの気持ちは……ウソ偽りない本当の気持ち)

榛名(それは……真実)

榛名(…………)

榛名(ブサイク提督さん……大好きです)///



―――――――――――


翌日の朝


  大本営、本日午前緊急記者会見!


     疑惑釈明か?


釈明会見か?渦中はブサイク提督


   イケメン提督、大将職へ昇進発表?


.



―――――――――――


大本営 廊下付近


     テク テク テク

イケ督「ふふん♪ふ~ん♪」

イケ督(急な記者会見には多少驚いたが)

イケ督(世論は俺の味方)

イケ督(例の事を暴露出来ない海軍は)

イケ督(不合理な決断を俺に下す事は不可能)

イケ督(……くくく)

イケ督(いよいよ、俺を大将へ昇進させる気になったか)

イケ督(焦らしてくれるぜ、まったく)

イケ督(…………)

イケ督(……ん?)


大淀「…………」

イケ督「大淀?」

大淀「はい?」

大淀「!」

イケ督「どうして大淀がここに居るんだ?」

イケ督「北方鎮守府で何かあったのか?」

大淀「…………」

大淀「……申し訳ありません」

大淀「イケメン提督と話すな、と命令されてまして」

イケ督「!?」

イケ督「……誰にだ?」


大淀「それもお答えしかねます」

イケ督「なっ……!?」

大淀「失礼します」

     テク テク テク…

イケ督「…………」

イケ督(どういう事だ?)

イケ督(…………)

―――――――――――

     ピピー ガガッ

イケ督「こちらイケメン提督」

イケ督「北方鎮守府、応答せよ」

     ガガガー ピピー

イケ督「……北方鎮守府、応答せよ」


     ガガピー ピピーガガッ

イケ督「クソッ!」

     ブッ…

イケ督(……何だこれは?)

イケ督(何が起こっている?)

イケ督(…………)

イケ督(俺の有利は変わらんが……気になるな)

イケ督(…………)

イケ督(チッ……もう時間が無い)

イケ督(記者会見場に行かないと……)



―――――――――――


大本営 記者会見場


     ザワ ザワ

中尉「…………」

中尉「えー各紙、新聞記者の皆さん、お待たせしました」

中尉「時間になりましたので、緊急記者会見を始めたいと思います」

中尉「ご静粛に願います」

     …………

中尉「ありがとうございます」

中尉「それでは、皆様にご紹介いたします」

中尉「皆さんから見まして右側から」

中尉「海軍総司令官であらせられます、元帥閣下でございます」


     ザワッ…

元帥「よろしく」

中尉「元帥閣下、ありがとうございます」

中尉「そして、その横からまとめまして順番に」

中尉「西方方面艦隊・鎮守府司令官のフツメン提督」

フツ督「よろしく」

中尉「南方方面艦隊・鎮守府司令官のブサイク提督」

ブサ督「よろしく」

中尉「北方方面艦隊・鎮守府司令官のイケメン提督」

イケ督「よろしく」

中尉「以上になります」


中尉「えー司会進行はわたくし、中尉が行います」

     …………

中尉「それでは、まず」

中尉「フツメン提督から、記者会見の概要を述べたい、との事ですので」

中尉「フツメン提督、どうぞ」

フツ督「ありがとう、中尉」

     …………

フツ督「えーご紹介にあずかりました、フツメン提督です」

フツ督「まず、今回の記者会見の概要ですが……」

フツ督「ある指揮官について、非常に重大な事実が判明しましたので」

フツ督「それをお知らせするために急遽、開いたものである」

フツ督「と言っておきましょう」

     ザワッ…


フツ督「それでは、焦らす様で申し訳ありませんが」

フツ督「少々前提となるお話をしておきます」

     …………

フツ督「我々各方面艦隊司令官と大本営は、緊密に連携を取っていますが」

フツ督「さすがに緊急事態……急に出て来た敵の対処や」

フツ督「海域の攻略などに関して、現地指揮官に一任されています」

     …………

フツ督「これはいちいち大本営の指示を仰いだりしていては」

フツ督「対処に時間が掛かり、手遅れになる場合もあるためと」

フツ督「ご理解ください」

     …………


イケ督「…………」

イケ督(……何故そんな当たり前の事をいまさら?)

ブサ督「…………」

     …………

フツ督「それでは、本題に入りましょう」

フツ督「先日、私と元帥閣下はイケメン提督と面談を行いまして」

フツ督「そこで奇妙な話を彼から聞いたのです」

イケ督「……?」

ブサ督「…………」

フツ督「それは、艦娘の遠征部隊の行方不明、というものでした」

イケ督「!?」

     ザワッ…


フツ督「遠征は、ご存じの方も多いと思われますが」

フツ督「比較的安全が確保されたルートを通り」

フツ督「資源確保などの雑任務をこなす作業の為」

フツ督「深海棲艦との遭遇戦は多少あれど、行方不明や全滅などは」

フツ督「ほとんどありません」

イケ督「…………」

     …………

フツ督「ですが……無かった事ではない」

フツ督「それもまた事実です」

イケ督(……さっきから何が言いたいんだ?)


フツ督「しかしながら……」

フツ督「少し気になった私は、イケメン提督がかつて指揮を執っていた」

フツ督「南方方面艦隊・鎮守府の記録を、ここに居る」

フツ督「ブサイク提督に調べてもらいました」

イケ督「!!」

イケ督(な、なに!?)

     …………

フツ督「すると……」

フツ督「イケメン提督が着任していた時期だけで」

フツ督「実に2部隊……人数にしますと」

フツ督「12名もの艦娘が遠征任務で行方不明となっていました」

     ザワッ…!

イケ督(くっ……!)

ブサ督「…………」


フツ督「しかし、先ほども言いましたが」

フツ督「遠征任務で部隊全員が行方不明になった事例はあります」

フツ督「イケメン提督の指揮の下、不幸な偶然が重なった」

フツ督「とも言えなくもない」

イケ督「おい……さっきから私をどう」

フツ督「だが!」

イケ督「っ!?」 ビクッ

     …………

フツ督「ブサイク提督の調べで分かった事はこれだけでは無かった」

イケ督「…………」


フツ督「行方不明になった遠征部隊の艦娘はすべて」

フツ督「緊急規制が掛けられていたのです」

イケ督(!!)

イケ督(バカな!……あれは通常の調べ方では出てこないハズ)

ブサ督「…………」

イケ督(どうしてこのブ男はそこへ行きついた!?)

     …………

フツ督「記者の皆さんには馴染みの無い言葉でしょう」

フツ督「軍事機密に関しますので簡単に説明しますが」

フツ督「司令官権限で艦娘の通信機能をオフにする」

フツ督「という処置だとご理解してください」

     ザワッ…!

イケ督「…………」

ブサ督「…………」


フツ督「ここまで言えば、勘の良い記者さんは疑問に思った事でしょう」

フツ督「なぜ、比較的安全な任務で通信を出来なくさせていたのか?」

フツ督「と」

     ザワ ザワ

中尉「皆さん、ご静粛に願います」

     …………

中尉「どうぞ、フツメン提督、お続けください」

フツ督「ありがとう、中尉」

フツ督「えーこの緊急規制という機能ですが」

フツ督「通常は無線封鎖など、隠密作戦などで使うのが一般的です」

フツ督「私が知る限り、遠征任務では必要のない機能と認識しています」

イケ督「…………」


フツ督「そこでイケメン提督にお尋ねしますが」

フツ督「どの様な作戦意図があって」

フツ督「緊急規制を遠征部隊に使用したのでしょうか?」

     …………

イケ督「…………ぐ」

イケ督「軍事機密に……関わるので」

イケ督「この場での回答は控えさせていただきます」

     …………

フツ督「分かりました」

フツ督「それでは、それらを踏まえた上で」

フツ督「北方鎮守府の行方不明部隊を調べてみたのですが」

フツ督「そこでも重要な事が判明しました」


     ザワッ

イケ督(クソッ!)

イケ督(これ以上何が分かったんだ!)

フツ督「ここでゲストを呼びたいと思います」

フツ督「中尉」

中尉「了解です」

     …………

中尉「それでは、ご紹介します」

大淀「…………」

中尉「彼女は、北方方面艦隊鎮守府で秘書艦をやっている」

中尉「大淀、と呼ばれている艦娘です」

大淀「……よろしくお願いします」

     …………


フツ督「紹介ありがとう、中尉」

フツ督「さて、大淀」

フツ督「行方不明になった遠征部隊に」

フツ督「緊急規制が掛けられた当時の状況を教えてくれ」

イケ督「!!」

イケ督「ま、待て!」

イケ督「それは軍事機密に抵触する!」

元帥「……私の権限で発言を許可しよう」

イケ督「っ!!」

元帥「続けたまえ」

フツ督「ありがとうございます、元帥閣下」


イケ督「…………」 ギリッ…

     …………

フツ督「では、大淀。 話してくれ」

大淀「はい」

大淀「当時……我が鎮守府の主力艦娘は某敵泊地を攻略中でして」

大淀「想定よりも多い敵艦隊から攻撃を受けている」

大淀「と、連絡がありました」

フツ督「ほう」

大淀「行方不明になった遠征部隊に緊急規制が掛けられた時間は」

大淀「ちょうどその連絡の直後くらいになります」

イケ督「……っ」


フツ督「ほう……それで?」

フツ督「主力艦娘の方はどうなったのかな?」

大淀「彼女たちの話では……」

大淀「敵からの激しい攻撃を受けていたものの、突然」

大淀「何の前触れもなく攻撃がやみ、撤退に成功した、との事です」

     ドヨッ…

イケ督「…………」

フツ督「ありがとう、大淀」

フツ督「下がってくれ」

大淀「はい」

     …………

フツ督「さて、イケメン提督殿」

フツ督「何か間違いはあるかな?」


イケ督「…………」

フツ督「貴殿の戦術がどんなものか、それは私の知るところでは無いが」

フツ督「これでは遠征部隊を囮にでも使ったのかと疑っ」

イケ督「ち、違う!」

イケ督「断じて違う!」

     …………

元帥「……落ち着きたまえ、イケメン提督」

元帥「軍事機密に関わるという貴君の意見を尊重しよう」

イケ督「はっ……」

元帥「だが、後で文書での回答は求めさせてもらう」

イケ督「…………」


元帥「フツメン提督」

元帥「貴君も想像でモノを言うのは慎みたまえ」

フツ督「はっ。申し訳ありません」

元帥「では……続けてくれ」

フツ督「了解です」

     …………

フツ督「えーそれでは最後になりますが」

フツ督「新聞各紙で報じられている」

フツ督「ブサイク提督の指揮に対する疑惑について」

フツ督「ここからは本人に申し開きをしてもらいましょう」

     …………

ブサ督「……どうも。ブサイク提督です」


ブサ督「一部、軍事機密に触れますが」

ブサ督「元帥閣下の許可を得たので、話せる部分だけ話します」

ブサ督「まず、私が南方鎮守府に着任した当時」

ブサ督「かの地は極端な戦力・物資不足をおこしており」

ブサ督「支配海域の戦線維持すらままならない状況だったと」

ブサ督「言っておきます」

     ザワッ…!

イケ督「…………」

ブサ督「その為、やむを得ず」

ブサ督「一部支配海域を切り捨てる判断を下しました」

ブサ督「自分からは以上です」

     …………

フツ督「ありがとう、ブサイク提督」


フツ督「……これはどういう事なのか?」

フツ督「南方はイケメン提督が平定間近まで押していたはず」

フツ督「私も今現在、記者の皆さんと同様の疑問を抱きました」

     …………

フツ督「そして、内密に調べた結果」

フツ督「何と、イケメン提督の独断で南方鎮守府の主力艦娘を」

フツ督「北方鎮守府へと移動させていた事が判明したのです」

イケ督「っ!」

     ザワッ…!

フツ督(このネタは元大将がイケメン提督を糾弾するために)

フツ督(したためていたものだがな)

フツ督(これだけは元大将に感謝しかない)


フツ督「……以上の事から」

フツ督「ブサイク提督に何ら落ち度はなく」

フツ督「むしろ主力艦娘不在でロクな戦力も物資も無い中」

フツ督「よく南方鎮守府を守り抜いたものだと」

フツ督「私としては畏敬の念すら抱いている次第であります」

イケ督「…………」

ブサ督「…………」

     …………

元帥「……イケメン提督」

元帥「何か申し開きたい事はあるかね?」

イケ督「…………」

イケ督「こ、これは……大本営からの指示で」


フツ督「残念ながら」

フツ督「この当時、大本営が出した指示は」

フツ督「指揮官の交代だけで、戦力の移動は命令されていない」

イケ督「くっ……」

フツ督「冒頭で言ったが」

フツ督「大本営と各方面艦隊司令官は、連絡を取り合い」

フツ督「ある程度の信頼関係で成り立っている」

フツ督「貴殿のこの行為は、その信頼を裏切る行為に他ならないと」

フツ督「私は思うのだが?」

イケ督「そ、そういう事ではない!」

イケ督「そもそもは大本営の指示が原因で大打撃を受けた……」

     !?


イケ督「あっ……」

     ザワ ザワ…

元帥「……イケメン提督」

元帥「大打撃を受けた……とは、どういう事かね?」

元帥「私は何も聞いておらぬが?」

イケ督「!!」

イケ督(しまった……!)

イケ督(疑惑をこれだけ向けられた状態で)

イケ督(元帥にしらを切られたら……!)

イケ督(大打撃を受けた責任を俺のせいにされてしまう!!)

イケ督(ハメられた!)

ブサ督「…………」


イケ督「ま、待ってください!」

イケ督「そ、そもそもの問題なんです!」

イケ督「私は、大将閣下からの命令に従っ」

元帥「もう良い!」

元帥「くだらない言い訳は皇国軍人らしからぬぞ!」

イケ督「ぐっ……!」

     ザワ ザワ…

中尉「静粛に、静粛に願います」

     …………

中尉「……それではフツメン提督」

中尉「他に何かありますでしょうか?」


フツ督「……私からは以上です」

中尉「ありがとうございました」

中尉「えー続きまして」

中尉「元帥閣下より、総括してのお言葉がございます」

中尉「元帥閣下、どうぞ」

元帥「うむ」

     …………

元帥「まず、新聞各社の皆さんの報道に関する熱意は」

元帥「十分すぎるほど理解している」

     …………

元帥「しかしながら」

元帥「海軍総司令官としては今回、過剰に報道された部分もあり」

元帥「いささか憤りも感じるところであると、言わざるを得ない」


     …………

元帥「よって、ここである程度の決定を発表しようと思う」

     !?

元帥「まず、元大将の辞職に伴う大将職人事だが」

元帥「これの候補にイケメン提督は入れない事を伝える」

イケ督「……っ」

     …………

元帥「次に」

元帥「イケメン提督とブサイク提督についてだが」

元帥「懸案についての文書の提出を求め」

元帥「その文書の内容によっては何らかの処分を下す」


フツ督「…………」

ブサ督「…………」

イケ督「…………」

元帥「以上が……海軍総司令官として」

元帥「現時点での決定事項であると宣言する」

     …………

元帥「私からは以上だ」

中尉「元帥閣下、ありがとうございました」

中尉「……えーそれでは、これを持ちまして」

中尉「今回の緊急記者会見を終了とさせていただきます」

     !?

中尉「各新聞社の記者の皆さん」

中尉「ご清聴、ありがとうございました」


     えっ!?

     ちょっと待ってくださいよ!

     質問が有るのですが!!

中尉「会見は以上です」

中尉「質問は受け付けません」

     ギャー! ギャー!

―――――――――――

     ツカ ツカ ツカ!

イケ督(クソッ!)

イケ督(クソッ!クソッ!クソッ!)

イケ督(どうしてこうなったんだ!?)

イケ督(とにかく、北方鎮守府に戻って――)


     ガシッ

イケ督「!?」

イケ督「な、何をする!?」

憲兵A「イケメン提督殿」

憲兵A「元帥閣下のご命令で、文書による回答があるまで」

憲兵A「ホテルにて身柄を更迭(こうてつ)させていただきます」

イケ督「なっ……」

憲兵B「こちらに車を用意してあります」

憲兵B「どうぞ」

イケ督「は、放せ!」

イケ督「北方鎮守府に……資料、そう」

イケ督「必要な資料があるんだ!」


憲兵A「元帥閣下は後で整合性を取れば問題ないと仰せです」

イケ督「くっ……」

憲兵B「書類作成に必要なものはこちらで用意します」

イケ督「…………」

憲兵B「さ、行きましょう」

―――――――――――

大本営 元帥の執務室


元帥「……やれやれ」

元帥「何とか上手く行ったな」

フツ督「彼は、私が思っていたより頭が悪かった様です」

フツ督「しらを切った場合も想定していたんですが」

フツ督「必要ありませんでした」


ブサ督「…………」

元帥「しかし……海軍も無傷では済まんな」

フツ督「ええ……まず考えられるのは」

フツ督「艦娘が行方不明となっている事を暴露しましたから」

フツ督「艦娘の家族から安否確認が殺到するでしょう」

元帥「……事実を伝えねばな」

元帥「イケメン提督のせいに出来たが犠牲は変わりない」

元帥「慰労金や一時金の支払いも準備しないと……」

フツ督「大蔵省が青筋立てるのは間違いないでしょうね」

元帥「これで一応の区切りとなるが、やる事は山積みだな」

元帥「あとの問題は……」


フツ督「天龍の事ですね」

元帥「その後の動向はどうなっている?」

フツ督「残念ながら掴めていません……」

フツ督「よほど警戒しながら沿岸部沿いを進んでいるのか」

フツ督「それともいったん沖に出て、大回りでもしているのか」

ブサ督「…………」

元帥「ブサイク提督」

ブサ督「はい」

元帥「貴君から何か……意見は無いかね?」

ブサ督「……申し訳ありません」

元帥「そうか……」

ブサ督「…………」


元帥「いや、気にしないでくれ」

元帥「君の働きはここに居るフツメン提督や大淀」

元帥「そして今回の機転で十分知る事が出来た」

元帥「ありがとう」

ブサ督「元帥閣下……」

ブサ督「もったいないお言葉です」

元帥「今度、機会があれば酒でも酌み交わそう」

ブサ督「ありがとうございます」

元帥「これからも海軍に対し、尽力してくれたまえ」

ブサ督「はっ」

フツ督「…………」



―――――――――――


帝都 大通り付近


男「号外!号がぁい!」

男「イケメン提督の大スキャンダルだよ~!」

     ザワ ザワ

フード女「…………」

     バサッ…

フード女「…………」

     イケメン提督、裏の顔!

フード女「…………」



遠征任務艦娘の無線封じ!


     フツメン提督は囮作戦を示唆


  イケメン提督の黒い戦術!


       行方不明艦娘、実に12名!


 無許可の戦力移動


    大本営、信頼を裏切る行為と糾弾


フード女「…………」

フード女「…………」

フード女「…………」


フード女「…………」

フード女「……!」


  イケメン提督、ホテルにて更迭か?

  他、2提督も同ホテルにて宿泊


フード女「…………」

フード女「…………」 ニヤリ…

本日はここまでです。



>>777とか>>784の「更迭」の使い方は間違い
提督の職務から追い出すのが「更迭」で、ホテルに缶詰にしてるだけならば「拘束(こうそく)」が妥当と思われ
あるいは類義語の「勾留(こうりゅう)」だったり、「禁固(きんこ)」「監禁(かんきん)」またはホテルという部外施設だから「軟禁(なんきん)」も悪くない

別件、防衛省は所属共済組合の運営によるホテル「グランドヒル市ヶ谷」を間接的に保有してて、コレは防衛省本庁のすぐ隣

ホテルグランドヒル市ヶ谷 - 公式サイト
 ttps://www.ghi.gr.jp/index.html

結構な高級ホテルだが、ブサ督やフツ督が宿泊したりイケ督が拘束されたホテルのモデルとしては、とてもピッタリだと思う

>>878
ご指摘ありがとうございます。
>>777修正↓


     ガシッ

イケ督「!?」

イケ督「な、何をする!?」

憲兵A「イケメン提督殿」

憲兵A「元帥閣下のご命令で、文書による回答があるまで」

憲兵A「ホテルにて身柄を一時、拘束させていただきます」

イケ督「なっ……」

憲兵B「こちらに車を用意してあります」

憲兵B「どうぞ」

イケ督「は、放せ!」

イケ督「北方鎮守府に……資料、そう」

イケ督「必要な資料があるんだ!」

>>784修正↓


フード女「…………」

フード女「……!」


  イケメン提督、ホテルにて拘束か?

  他、2提督も同ホテルにて宿泊


フード女「…………」

フード女「…………」 ニヤリ…



―――――――――――


その日の夜

帝都 ホテル イケメン提督の部屋


憲兵A「…………」

憲兵B「…………」

イケ督「…………」

イケ督「……おい」

憲兵A「何でしょうか?」

イケ督「息が詰まる」

イケ督「少し出歩かせてくれ」

憲兵A「文書が完成するまではダメです」

イケ督「少しくらい、いいだろう?」


憲兵A「許可できません」

イケ督「そうかよ……」

憲兵A「…………」

憲兵B「…………」

イケ督(……クソッ!)

イケ督(これは本気だな……)

イケ督(…………)

イケ督(どうして俺がこんな目に……)

イケ督(クソッ!クソがッ!)



―――――――――――


同ホテル ロビー付近


フツ督「ほら、君の部屋の鍵だ」

大淀「……ありがとうございます」

大淀「ですが、本当によろしいのですか?」

フツ督「今さらだが、大本営のあの部屋は窮屈だっただろう」

フツ督「君への感謝の気持ちも含めての意味もある」

フツ督「今日くらいはゆっくり休んでくれ」

大淀「……分かりました」

大淀「お言葉に甘えさせていただきます」

フツ督「ああ」

     テク テク テク…


フツ督「…………」

フツ督「さて、俺たちも行くか」

龍田「ええ」

龍田「と、言いたいところだけど……」

龍田「少し用事が出来たの」

フツ督「ん?用事?」

龍田「女の子の日よ」

フツ督「ああ……分かった」

フツ督「部屋は分かるな?」

龍田「ええ」

フツ督「じゃ、部屋でディナーを用意して待ってる」


龍田「あら」

龍田「それは急いで用事を片付けないといけないわね」

フツ督「ま、ご期待に添えればいいけどな」

龍田「うふふ」

龍田「それじゃ後で」

フツ督「ああ」

     スタ スタ スタ…

ブサ督「…………」

榛名「…………」

ブサ督(……なんか次元の違うやり取りしてるなぁ)

ブサ督(あの二人……)

榛名(榛名も……ああいうのやってみたいです)


ブサ督「……榛名」

榛名「!」

榛名「は、はい!」

ブサ督「その……部屋でディ、ディナー?」

ブサ督「取るか?」

榛名「は、はい!」

榛名「榛名、ディナー?取ります!」

ブサ督「よ、よし」

フツ督「…………」

フツ督(微笑ましいなぁ)



―――――――――――


同ホテル ブサイク提督の部屋


榛名「わあ……」

榛名「ブサイク提督さん、窓の方、見てください」

榛名「夜景が綺麗です!」

ブサ督「うん。確かに」

ブサ督「でも料理が冷めてしまう」

ブサ督「景色を眺めるのは後にしよう」

榛名「はい」

     スタ スタ スタ ストン

ブサ督「いただきます」

榛名「いただきます」


     モグ モグ

榛名「ん……美味しいです」

ブサ督「確かに旨いな」

榛名「えと……どのお料理がディナーなのですか?」

ブサ督「え?……あーそのディナーって言うのはな」

ブサ督「英語……フランス語だったか?」

ブサ督「その、外国語で『夕飯』って意味だよ」

榛名「!?」

榛名「そ、そうだったのですか……」

榛名「榛名、知りませんでした……」

ブサ督「このくらい、そんな気にする事じゃない」

榛名「…………」


ブサ督「俺だって知らない事なんざ、たくさんある」

ブサ督「いちいち気にしてたら切りがない」

榛名「そうなのですか?」

ブサ督「ああ」

ブサ督「例えば……この食事だって」

ブサ督「テーブルマナーとかいうルールが存在するが」

ブサ督「俺は全く知らん」

榛名「お食事にルールがあるんですか?」

ブサ督「日本で言うとな」

ブサ督「お箸で豆腐をブスッと刺したり」

ブサ督「爪楊枝みたいに使ったりするのは、お行儀の悪い行為とされている」

榛名「そうだったんですか……」


ブサ督「でもこう言っちゃなんだけど」

ブサ督「そんなもん全部守ってたら、食った気がしないわ」

榛名「えっ」

ブサ督「……まあ、ある程度は仕方ないが」

ブサ督「知らなかった事はどうしようもない」

ブサ督「けど知ったあと、どうするかは……」

ブサ督「いや、どう生かすかは、自分次第かな」

榛名「はい!」

榛名「榛名、この失敗を生かします!」

ブサ督「そ、そう気張らなくていいから」

ブサ督「要は……楽しんで食事を取ればいいんだ」

榛名「はい!榛名は、もう楽しんでます♪」

ブサ督「ははは、良かった」



―――――――――――


同ホテル フツメン提督の部屋


フツ督「…………」

     コン コン ガチャ

龍田「お待たせ」

フツ督「おっ、来たか」

     キィ パタン

龍田「ディナーには間に合ったかしら?」

フツ督「帰りがいつになるか、聞いてなかったから」

フツ督「軽食にしておいた」


龍田「あらら」

龍田「豪華ディナーはサンドイッチですか」

フツ督「冷めたスープなんて旨くないしな」

フツ督「その代り……」

     カラン…

フツ督「良く冷えたシャンパンを頼んでおいた」

龍田「うふふ、気が利くじゃない」

フツ督「食後にはコーヒーなんてどうだ?」

龍田「いいかも」

フツ督「じゃ、そうしよう」

フツ督「席についてくれ」

龍田「はぁい」


     キュポン

     トクトクトク…

フツ督「どうぞ」

龍田「いただきます」

     ゴク…

龍田「うん……美味しいわ」

     グビッ

フツ督「ふう……確かに旨いな」

龍田「結構するシャンパン?」

フツ督「ちょいとな」

龍田「あら、そこは最高級とか言わないの?」


フツ督「確かに飲みたかったけど、持ち合わせがな……」

龍田「ああ……」

龍田「銀行、もう閉まってるものね」

フツ督「そういう事」

フツ督「俺は……君が居てくれればそれでいいさ」

龍田「ふふふ」

龍田「安っぽいセリフね」

フツ督「……結構決めたつもりだったんだけどな」

龍田「冗談よ」

龍田「あなたから言われて嬉しくない訳ないじゃない」

フツ督「それはそれは」


フツ督「さて、メインディッシュの方に行きま……」


     ドドーン… ドンッ ドンッ…


フツ督「ん?」

龍田「ん?」

フツ督「何の音だ?」

龍田「遠くで花火大会でもやってるのかしら?」

     スタ スタ スタ…

フツ督「…………」

龍田「…………」

フツ督「……どこも花火なんてやって無さそうだが」

龍田「……!」

龍田「フツメン提督! あそこ!」


フツ督「…………」

フツ督「あっ、火の手が上がってるな」

フツ督「事故でもあったのか?」

龍田「何呑気な事を言ってるのよ!」

龍田「あの方角……大本営の方じゃないの!?」

フツ督「…………」

フツ督「あっ!?」

フツ督「天龍か!?」

龍田「すぐ向かいましょう!」

フツ督「よし!」


     バタン!

     タッ タッ タッ

フツ督「!」

フツ督「ブサイク提督!」

ブサ督「!」

ブサ督「フツメン提督」

フツ督「騒ぎは知ってるな?」

ブサ督「ああ、たぶん天龍だろう」

     タッ タッ タッ

大淀「あ、ブサイク提督にフツメン提督!」

大淀「この騒ぎは……天龍さんでしょうか?」

ブサ督「タイミングからして、おそらくな」

フツ督「よし、俺は車を拾って来る」

ブサ督「いや、必要ない」


フツ督「何?走って行くつもりか?」

ブサ督「違う」

ブサ督「それよりもイケメン提督の部屋はどこか分かるか?」

フツ督「イケメン提督の?」

フツ督「それなら下の階だが……」

ブサ督「よし、俺はそこへ向かう」

フツ督「何故だ?火の手が上がったのは大本営だぞ?」

ブサ督「……天龍が今日の号外を見ているとしたら?」

フツ督「…………」

龍田「!」

大淀「!」

榛名「!」


フツ督「……良く分かった」

フツ督「イケメン提督の部屋へ急ごう」

     タッ タッ タッ…

―――――――――――

イケ督「おい、どうなってるんだ?」

イケ督「何が起こっている?」

憲兵A「……ちょっと待っていてください」

     ヒソヒソ…

憲兵B(ダメだ……通信が混線している)

憲兵B(下まで降りて、俺が確認してくる)

憲兵A(頼む)

憲兵B(イケメン提督は任せた)


イケ督「…………」

憲兵A「……ちょっとした事故が発生した様だ」

憲兵A「イケメン提督はここに居ろ、との事」

イケ督「ちょっとした事故ねぇ……」

イケ督「本当なのか?」

憲兵B「じゃ、ここは任せたぞ」

憲兵A「ああ」

     ガチャ キィ パタン

イケ督「…………」

     !?

     ナンダ貴様… グアッ!

     ドサッ…


憲兵A「!?」

イケ督「!?」

イケ督「お、おい……今の音は」

憲兵A「下がっていろ」

     スチャッ…

憲兵A「…………」つ(拳銃)

イケ督「…………」


     ドガアァァンッ!!


憲兵A「ぐあっ!?」

イケ督「ひ、ひいいいいいいっ!!」

イケ督(と、扉が……爆発した!?)


憲兵A「」

イケ督「お、おい、大丈夫か?」

憲兵A「」

イケ督「気絶とか止めろよ、おい!」

イケ督「誰が俺を守るんだよ!?」

     ジャリ…

イケ督「!」

フード女「…………」

イケ督「…………」

フード女「……見ツケタ」

     バサッ!

イケ督「!?」


天龍?「…………」

イケ督「し……深海…棲艦……!?」

天龍?「ふフふ……コロス」

イケ督「ひいいいいいっ!!」

大淀「天龍さんっ!!」

天龍?「!」

イケ督「!?」

イケ督(て、天龍……天龍だと!?)

大淀「もう止めてください!」

天龍?「……邪魔ヲするナ……オオよド」

大淀「気持ちは分かるつもりです……」

大淀「ですが」


大淀「イケメン提督は、これから社会的制裁を受け」

大淀「死ぬより辛い目に合う予定です!」

イケ督「」

天龍?「…………」

大淀「ですから、殺す必要は無いんです!」

イケ督(……いくら何でも酷くないか、その説得)

天龍?「……どケ……おオヨド」

大淀「!」

大淀「天龍さん!」

     バキッ!

大淀「きゃあっ!」


フツ督「大淀!」

榛名「大淀さん!」

龍田「…………」

     ザッ…

ブサ督「…………」

天龍?「…!」

天龍?「ブさイク……提督……」

ブサ督「…………」

天龍?「ドけ……俺ノ邪魔をスルナ……」

ブサ督「……もう許してやれ、天龍」

大淀「」

フツ督「」

榛名「」


天龍?「……何を言っテイる」

天龍?「このクズヲ許せル訳……無いダロ!」

ブサ督「違う」

ブサ督「イケメン提督の事じゃない」

天龍?「ナに?」

ブサ督「俺が言っているのは……」


ブサ督「お前自身の事だ、天龍」


天龍?「…………」

天龍?「意味が分からんゾ……」

天龍?「……どけ、くダラない話をスルな」


ブサ督「お前は……イケメン提督の口車に乗せられてしまった」

ブサ督「自分自身が許せないんだ」

     ピクッ

大淀「…………」

フツ督「…………」

榛名「…………」

天龍?「……何を……言っている」

ブサ督「俺は……お前が文句を言いつつも」

ブサ督「言われた仕事はきっちりこなし」

ブサ督「低練度の艦娘の面倒見が良い事も知っている」

天龍?「…………」

ブサ督「大淀からおおよその話は聞いた」


ブサ督「あの状況で、お前がイケメン提督の要請を」

ブサ督「二つ返事で応じたとは思えない」

天龍?「…………」

ブサ督「たぶんだが……最初は断ったか、少なくとも」

ブサ督「低練度の艦娘を実戦投入する事に対し、安全確認をしたはずだ」

天龍?「…………」

ブサ督「だが……最終的に」

ブサ督「お前はイケメン提督の甘い言葉に乗せられる決断を下した」

天龍?「……黙れ」

ブサ督「お前が許せないのは……」

ブサ督「そんな決断を下し、仲間を死なせてしまった」

ブサ督「自分自身なんだろう?」


天龍?「黙れト言ってイル!!」

ブサ督「!!」

     バキッ!

榛名「……ブサイク提督さんは」

榛名「この榛名が守ります……!」

天龍?「くっ……!」

ブサ督「天龍!」

天龍?「黙れ!」

天龍?「お前ニ……何が分カる!?」

天龍?「あいつらがどれだけ無念だったか……!」

ブサ督「俺には、お前の気持ちが良く分かる」

天龍?「!?」


天龍?「……ウソを付くナ!」

天龍?「こンな事を……簡単に分カラれてタマるか!!」

ブサ督「何故なら……俺は」

ブサ督「自分の命令が原因で何人もの艦娘を死なせているからだ!」

天龍?「っ!!」

フツ督「…………」

大淀「…………」

榛名「…………」

ブサ督「……立場は違えど」

ブサ督「自分の下した判断で仲間を死なせたのは同じ」

ブサ督「だから……お前の気持ちは痛いほど分かるんだ、天龍」

天龍?「…………」


フツ督「…………」

大淀「…………」

榛名「…………」

ブサ督「…………」

天龍?「……離れないんだ」

ブサ督「離れない?」

天龍?「アノ時の……あいつらの……最後の言葉が」

ブサ督「…………」

天龍?「俺の……くダラない……見栄のせいで……」

天龍?「みんな……ミンな……ううっ……」

天龍?「うっ……うううっ……う……」

ブサ督「…………」


ブサ督「……うらやましい」

天龍?「…!?」

天龍?「なん……だと……?」

ブサ督「俺は……その最後の言葉すら聞けなかった」

天龍?「…………」

ブサ督「きっと……俺に対して恨み言を言っていたに違いない」

榛名「ブサイク提督さん……」

フツ督「…………」

大淀「…………」

天龍?「…………」

天龍?「……俺は……そうは思わない」


ブサ督「?」

ブサ督「何故だ?」

     ピシッ…

天龍?「あいつらは……無念を伝えたが……」

天龍?「誰も……恨み言は言い残さなかった」

ブサ督「……そうか」

天龍?「それどころか……」

天龍?「望月は、お前の下で……楽しかったと……言っていた」

ブサ督「!」

ブサ督「……望月が」

天龍?「ああ……」

     ピキ… パキ…


天龍?「ブサイク提督……」

天龍?「教えてくれ……」

ブサ督「何をだ?」

天龍?「お前は……どうやって」

天龍?「自分を許したんだ……?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……その気持ちを糧に」

ブサ督「一人でも多くの艦娘が死なないよう作戦を立てたり」

ブサ督「犠牲が出そうな場合は躊躇なく撤退する様にした」

フツ督「…………」

大淀(ブサイク提督……)

榛名(ブサイク提督さん……)


ブサ督「俺は……そうする事で過去の自分と向き合い」

ブサ督「今に至っている」

天龍?「過去の自分と……向き合う……」

ブサ督「……完全には許していないかもしれないが」

ブサ督「あの時の自分よりは、多少マシになった」

ブサ督「そう……思える様になってきた」

ブサ督「そんなところだ」

天龍?「…………」

天龍?「ふ」

天龍?「ふふ……ふ……」

天龍?「そうだな……それ……」

天龍?「……いい……な……」


     ドサッ…

ブサ督「て、天龍!?」

大淀「天龍さん!」

天龍?「…………」

天龍?(過去は変えられない……)

天龍?(それなら、これからを変えて行けばいい)

天龍?(……そいう事……か……)

天龍?「…………」

     ピシッ… パキパキ…

     パアアアアアッンッ

ブサ督「うわっ!?」

榛名「うっ……!」


大淀「きゃっ!」

フツ督「眩しっ……!」

     …………

ブサ督「て……天龍?」

榛名「……ブサイク提督さん、大丈夫ですか?」

大淀「天龍さんは……」

フツ督「…………」


天龍「…………」


大淀「!」

大淀「て、天龍さん!」

     ダッ…


大淀「…………」

大淀「大丈夫、脈はあります」

大淀「それに艤装も……元に戻ってますね」

ブサ督「深海棲艦……みたいなパーツが」

ブサ督「すべて消えている……」

榛名「何が起こったのでしょう?」

ブサ督「……分からない」

フツ督「…………」

大淀「…………」

ブサ督「…………」

榛名「…………」


フツ督「……あ」

フツ督「イケメン提督は?」

ブサ督「!」

大淀「!」

榛名「!」

龍田「……逃げられたみたいよ」

フツ督「龍田!」

龍田「私もハッとして、そこら辺を探してみたのだけど……」

龍田「どこにも居なかった」

フツ督「……なんてこった」

ブサ督「仕方ないと言えば仕方ないが……」

ブサ督「やらかしてしまったな……」


フツ督「状況が状況だ」

フツ督「元帥閣下に報告はしておく」

ブサ督「頼む」

ブサ督「天龍は俺が軍病院へ連れて行こう」

龍田「私も付き添っていいかしら?」

フツ督「え……俺は?」

龍田「一人でも大本営へ行けるでしょ?」

フツ督「龍田ぁ……」


ブサ督「……役割を逆にしよう」

ブサ督「俺と榛名で大本営へ報告に行く」

ブサ督「フツメン提督、龍田。 天龍の事は任せる」

フツ督「心の友よ!」

ブサ督「……お前そんなキャラだったか?」

フツ督「冗談だ」

ブサ督「…………」

フツ督「それじゃ、大本営で落ち合おう」

ブサ督「……おう」

大淀「あのう……私も天龍さんに付き添ってもよろしいでしょうか?」

ブサ督「もちろんだ」

ブサ督「大淀はフツメン提督を手伝ってやってくれ」

大淀「分かりました」



……その後

攻撃された大本営は混乱状態だったが

後に時限式の爆発物で塀と建物の一部が

破壊されただけだけで被害は大した事は無かった。

死傷者も憲兵の二人だけで命に別状は無い。


深海棲艦化?した天龍の仕業なのは

俺を含めた一部の者しか知らないので

ホテルの襲撃含め、大目に見てもらう事が出来た。

表向きは、単体の深海棲艦が迷い込み

警報の不備で対応が遅れた事になっている。

.



元に戻った天龍は、後で詳しい検査を行ったが……

通常の艦娘と何ら代わりなく

別命あるまで北方鎮守府で待機する事となった。


イケメン提督は、襲撃後、完全に行方不明になった。

隙を見て逃げられたのは痛いが

公式に逃亡犯扱いとなり、少なくとも

皇国内でおいそれとは外を出歩けない事だろう……

.



―――――――――――


????


     ピチョン…

     ピチョン…

イケ督「…………」

イケ督「…………」

イケ督「……ん」

イケ督「…………」

イケ督「……ここは……どこだ?」

イケ督「……!?」


イケ督「な、何だ!?」

イケ督「手足を縛られてる!?」

     ガチャ

龍田「あら……」

龍田「目が覚めちゃった?」

     キィ パタン

イケ督「!」

イケ督「お前……確かフツメン提督の……」

龍田「龍田よ」

龍田「覚えてたみたいね」

イケ督「そ、それより……これはどういう事かな?」

イケ督「何故……俺は手足を縛られてるんだ?」


龍田「うふふ」

     ザシュ

イケ督「」

イケ督「ぐあああああああああっ!?」

龍田「ああ……心地いい悲鳴……」

イケ督「ひっ、ひいっ……」

イケ督「や、止めろ……止めてくれ、龍田ァ……」

龍田「大丈夫」

龍田「これくらいでは死なないし」

龍田「痛いのは、これだけで済ませてあげるわ」


イケ督「な、何を……する気なんだ!?」

イケ督「て、天龍の事は、謝る!」

イケ督「だ、だから、許してくれ!」

龍田「ダ メ ☆」

     スッ…

イケ督「な、なんだそれは!?」

イケ督「何を注射するんだ!?」

龍田「安心して」

龍田「ただの全身麻酔よ」

イケ督「全身……麻酔?」

龍田「分かりやすく言うとぉ、ちょーっと長時間」

龍田「ねんねしててもらうだけだから♡」

イケ督「や、止めろ……止めろォッ!」


龍田「うふふ」

     プスッ

イケ督「ひっ、ひいいっ!」

龍田「だってさぁ」

龍田「痛みだけで死んじゃう人も……結構居るのよね」

イケ督「!?」

龍田「そうなったらぁ」

龍田「つまらないのよぉ」

     チュー…

イケ督「ぐっ……!」


龍田「あなたにはぁ……」

龍田「天龍ちゃんが受けた苦しみをぉ」

     チュー…

イケ督「あ……が……」

イケ督(い、意識……が……)

龍田「何倍にもして、受けて欲しいのよねぇ」

     チュー…

イケ督「…………」

龍田「うふふ……」

     スルッ

イケ督「…………」

龍田「これで準備良し」

龍田「さあ……イケメン提督さぁん……」









龍田「生まれ変わりを体験させてあげる……」








.



―――――――――――


????


イケ督「…………」

イケ督「…………」

イケ督「……!」

イケ督「…………」

イケ督「お゛……お゛お゛は……」

イケ督「!?」

イケ督(な、何だ!?)

イケ督(か、顔が……顔が熱い……!)

イケ督(いや、痛い!)

イケ督(それに声もおかしいし……腕も縛られてる)

イケ督(俺はまだ龍田に拘束されてるのか!?)


看護師「あ」

イケ督(!?)

イケ督(誰だ!?)

イケ督「う゛ーあ゛ー……」

看護師「クズ山さん、声を出さないで」

イケ督(……?)

イケ督(クズ山?何を言ってるんだ?この女)

看護師「落ち着いて聞いてください、クズ山さん」

看護師「あなたは……全身に酷いケガをされてて」

看護師「包帯でグルグル巻きの状態なんです」

イケ督「!?」

イケ督(包帯?……じゃあここは病院なのか?)


看護師「今、先生を呼んできますね」

     スタ スタ スタ

イケ督「…………」

イケ督(……助かった)

イケ督(のか?)

―――――――――――

看護師「お待たせしました、クズ山さん」

看護師「先生……どうぞ」

医師「うむ」

イケ督「…………」

医師「あー……クズ山さん」

医師「落ち着いて聞いて欲しいのですが」


医師「あなたは今、全身に酷いケガをしてまして……その」

医師「命に別状はないのでご安心ください」

イケ督「…………」

医師「ですが……そのー……何と言いますか」

医師「お顔の方が、ですね……非常に、その……」

医師「酷い状況でして……」

イケ督(……はっきり言えよ)

医師「元のお顔に戻る事は、非常に困難であると……言えるでしょう」

イケ督「…………」

医師「それと、ですね」

イケ督(まだ何かあるのか?)


医師「右手、なの……ですが」

医師「手首から先が……もうありません」

イケ督「…………」

イケ督「……あ゛?」

医師「落ち着いて……それからしゃべらないでください」

イケ督(右手が……無い?)

イケ督(今……そう言ったのか!?)

イケ督「あ゛……があ゛あ゛……あ゛!」

医師「お、落ち着いて!クズ山さん!」

医師「君、鎮静剤を!」

看護師「はい!」


―――――――――――

医師「……どうだ?」

看護師「ようやく落ち着いたみたいです」

医師「そうか……」

看護師「やっぱり……事件なんでしょうか?」

医師「詳しい事は分からんが……」

医師「あれだけ執拗に顔を傷つけられ」

医師「右手を切り落とされ、左手も」

医師「指紋が取れなくなるほどの火傷を負わされているんだ……」

看護師「…………」

医師「身分証を持っていなければ」

医師「名前すら分からない状況だったからな」


医師「どう見ても……誰かからの恨みとか」

医師「何かの抗争に巻き込まれたとか」

医師「そういう風に見てしまう……」

看護師「厄介ごとは勘弁して欲しいですね……」

医師「……そうは言っても患者は患者だ」

医師「誰かからは分からんが、治療費も支払われてる」

医師「無下にはできんよ……」

看護師「そうですか……」

医師「まあ詳しい事は分かっていない」

医師「警察にも相談したし……」

医師「退院までは様子を見よう」

看護師「分かりました」



―――――――――――


天龍の襲撃から数日後の夜

とある旅館の個室


フツ督「……見るからに高そうなダルマだな」

ブサ督「約束だからな。酒屋で一番高いダルマを二本買った」

フツ督「肴(さかな)はナッツにチーズ、クラッカー」

フツ督「残念ながらここじゃ洋酒に合いそうな料理は用意できなかった」

ブサ督「別にいいさ」

     キュポッ トクトクトク…

ブサ督「じゃあ……乾杯」

フツ督「おう、乾杯」


     チンッ…

     グビッ

ブサ督「んっ……」

フツ督「ふっ……んん」

ブサ督「これは……来るなぁ」

フツ督「いい酒だ」

ブサ督「よくストレートで飲めるな……」

フツ督「俺からしたら水割りやロックなんて邪道だ」

ブサ督「はいはい、邪道で結構です」

     トクトクトク… グビッ

ブサ督「ふう……」


フツ督「これでようやくひと段落か……」

ブサ督「……ああ」

ブサ督「結局イケメン提督は逃亡を図ったとして指名手配」

ブサ督「どこへ雲隠れしたかは分からんが、もう皇国内を出歩けないだろう」

フツ督「だな……」

     グビッ

ブサ督「ふう……」

ブサ督「北方の後任は誰がやるんだ?」

     ムシャ ムシャ

フツ督「元帥閣下は、ショウユ顔提督か、ソース顔提督を」

フツ督「候補に考えてるそうだ」

ブサ督「……無難なところだな」


     トクトクトク…

フツ督「俺からしたら問題ない様に思うが」

フツ督「お前は違うのか?」

     ボリ ボリ

ブサ督「……俺が選ぶとしたら」

ブサ督「メガネ提督だな」

フツ督「メガネ提督?」

フツ督「……知らないなぁ。そんな名前の奴居たか?」

     グビッ

ブサ督「ふう……」

ブサ督「新進気鋭の若者だからな」

フツ督「若者? もしかして今年、訓練模擬戦した奴か?」


ブサ督「ああ」

ブサ督「なかなか見どころのある戦い方をする奴だった」

フツ督「おいおい……」

フツ督「いくら何でも若すぎるだろ」

     ムシャ ムシャ

ブサ督「たぶん……同戦力で戦ったら」

ブサ督「ショウユ顔提督もソース顔提督も勝てないと思う」

フツ督「……冗談だろ?」

ブサ督「ま……俺の贔屓目もあるかな?」

フツ督「…………」


     グビッ

ブサ督「ふう……」

ブサ督「そういや大将職の人事は結局どうなったんだ?」

     ムシャ ムシャ

フツ督「……そっちは大揉めに揉めて大変らしい」

フツ督「派閥争いの板挟みになって、元帥閣下は頭を抱えていたよ」

ブサ督「そりゃ気の毒に……」

フツ督「そういう苦労をするのが元帥閣下のお仕事さ」

ブサ督「……本人に聞かれたら怒られるぞ」

フツ督「ははは」

     トクトクトク… グビッ

フツ督「ふう……」

ブサ督「……俺が元帥閣下の立場なら」

ブサ督「お前が大将にふさわしいと思うが」


フツ督「よせよ……あんな派閥争いに巻き込まれたくない」

ブサ督「それはまあ、俺も御免被りたいが」

ブサ督「人脈や人望とか考えたら、お前がいいと思う」

フツ督(実は元帥閣下から要請はあったが)

フツ督(どう考えてもこき使われそうで断ったんだよなぁ)

フツ督「……お褒めにあずかり光栄だが」

フツ督「俺が大将になると、お前に命令できる様になるんだぞ?」

フツ督「いいのか?」

     グビッ

ブサ督「ふう……」

ブサ督「その分、こっちの要求も適正に聞いてもらうから」

ブサ督「構わないさ」


フツ督「そうじゃなくて、同期が上になって悔しくないのか?」

ブサ督「んー……」

ブサ督「お前だったら、全然ないな」

フツ督「なんだよそれ……」

     ムシャ ムシャ

ブサ督「……だが、元大将みたいな事するなら」

ブサ督「見限るってだけだ」

フツ督「……それは怖いねぇ」

     トクトクトク… グビッ

フツ督「ふう……」

ブサ督「……なあ」

フツ督「ん?」


ブサ督「あの時……天龍の事を元帥閣下へ報告していた時」

ブサ督「やたらと『沿岸部』を強調していたが……」

ブサ督「あれはわざとか?」

     ピクッ

フツ督「…………」

フツ督「……何の事だ?」

ブサ督「責めるつもりはない」

ブサ督「あの時……俺は天龍が陸路を使う可能性を考えたが」

ブサ督「それを黙ってた俺も同罪だ」

フツ督「…………」

ブサ督「俺は……天龍を止められるものなら止めたかった」

ブサ督「そう考えたら、お前の策に乗った方が良いと思ったんだ」

フツ督「…………」


フツ督(……見抜かれていたか)

フツ督(という事は……俺の目的も当然分かっている)

フツ督(って事か……?)

ブサ督「…………」

ブサ督(おそらく……暴走した天龍を放置して)

ブサ督(イケメン提督を亡き者に……って算段だろうな)

フツ督「…………」

ブサ督「…………」

フツ督「……俺が間抜けだったって事にしといてくれ」

ブサ督「……分かった」

ブサ督「それでいい」


     グビッ

ブサ督「ふう……」

ブサ督「少し酔ってきたかな」

フツ督「おいおい。早いな」

ブサ督「元々そんなに強くないんだ、俺は」

フツ督「そうか」

フツ督「そういやさ」

ブサ督「ん?」

フツ督「榛名、気に入ったのか?」

ブサ督「…………」

フツ督「黙るなよ」

フツ督「男なんだ。女の一人や二人好きになって何が悪い」


     サク サク

ブサ督「……そうだな」

ブサ督「お前には話しておくか」

フツ督「ん?」

―――――――――――

ブサ督「――という事があったんだ」

フツ督「」

フツ督「ちょ、ちょっと待ってくれ……」

ブサ督「ああ」

フツ督「ディルプ……グレッズに」

フツ督「離島艦娘が深海棲艦の生まれ変わりとか」

フツ督「情報量多すぎだろ!?」


ブサ督「……離島艦娘に関して確信が持てたのは」

ブサ督「天龍があの状態から元に戻ったのを目の当たりにしたからだ」

フツ督「…………」

ブサ督「うかつに公表も出来ないし」

ブサ督「かと言って俺一人が抱え込むには大きすぎる」

フツ督「……で、俺を引き込んだって訳か」

ブサ督「そうとも」

ブサ督「これで一蓮托生だ」

フツ督「はあ……くそっ」

フツ督「酔いが覚めちまった」


     トクトクトク… グビッ

フツ督「……で?」

フツ督「お前はそんな榛名の事、どう思ってるんだ?」

     ピクッ

ブサ督「…………」

フツ督「また、だんまりか」

ブサ督「……好意は持ってる」

フツ督「ほう」

     グビッ

ブサ督「ふう……」

ブサ督「けど……なんて言うか」

ブサ督「ずるい気がしてな……」

フツ督「ずるい?」


ブサ督「さっきも言ったが……榛名は」

ブサ督「深海棲艦だった頃の記憶は無くとも」

ブサ督「俺に好意的だった人格の生まれ変わり」

ブサ督「でなきゃ……俺の顔を見て普通に接してくれる訳無い」

フツ督「…………」

ブサ督「もし」

ブサ督「普通に艦娘として採用されてたり」

ブサ督「俺と何の関わりもない離島艦娘として生まれていたら」

ブサ督「榛名は……」

フツ督「……だから何だってんだ?」

ブサ督「え?」


     ムシャ ムシャ

フツ督「あのなぁ……生まれとか、生い立ちとか」

フツ督「そんなのは後付けだ」

ブサ督「…………」

フツ督「大事なのは今、お前に、好意を持ってるイイ女が」

フツ督「目の前に居るって事」

ブサ督「…………」

フツ督「その女を好きなら好き、嫌なら嫌」

フツ督「極端な話、抱くか抱かないかの二択だろ?」

ブサ督「…………」

フツ督「迷ってんのなら、もう答えは出てるんじゃないのか?」

フツ督「さっさと抱いちまえ」

ブサ督「おま……簡単に言いやがって」


フツ督「ふん」

フツ督「言っとくが俺と龍田なんてなぁ……」

     …ドドドドドドドドド

フツ督「ん?」

     ガラッ!

榛名「ブサイク提督さぁん♪」

     抱きっ

ブサ督「うわっぷ!?」

榛名「榛名、寂しかったので」

榛名「会いに来ましたぁ♪」

ブサ督「ちょ、榛名!?酔ってるのか!?」


龍田「ごめんなさい……」

龍田「女子会開いて飲ませたら」

龍田「平気そうな顔しててどんどん進めちゃって」

龍田「こうなっちゃったの……」

大淀「……うぷっ」

大淀「龍田さん……何でそんあに平気なんですか」

フツ督「あ~あ……龍田に付き合ったのか」

榛名「んふ~♪ブサイク提督さぁ~ん♪」

ブサ督「分かった、分かったから!」

フツ督「……こりゃもうお開きだな」

フツ督「んじゃ、部屋に戻るか」

龍田「はぁい♪」

ブサ督「おい!? 手伝ってくれよ!?」



―――――――――――


同旅館 フツメン提督と龍田の部屋


フツ督「あー疲れた」

フツ督「さて、さっさと寝るか」

龍田「あ、そうそう」

フツ督「ん?」

龍田「これ。忘れない内に渡しておくわね」

     スッ

フツ督「!?」

フツ督「これって……通信機の端末か!?」


龍田「ええ」

フツ督「型番は……俺の知らない番号」

フツ督「これをどこで手に入れた?」

龍田「イケメン提督が持ってたものよ」

フツ督「」

フツ督「はあ!?」

龍田「声が大きいわよ」

フツ督「ぐ……イケメン提督はどうしたんだ?」

龍田「安心して」

龍田「生かしてあるわ」

フツ督「……その言い方だと」

フツ督「背乗り(はいのり)処理か」


龍田「正解」

フツ督「なんて事を……俺は」

フツ督「君にそんな事をさせたくなかったのに……」

龍田「ふふ……その気持ちは嬉しいんだけどね」

龍田「天龍ちゃんに酷い事をしたのを知ってから」

龍田「ずっと機会を伺ってたの」

フツ督「…………」

フツ督「あの日ってのもウソか……」

龍田「ごめんなさい」

フツ督「……やってしまった事はしょうがない」

フツ督「イケメン提督が名乗り出る事は無いのか?」


龍田「たぶん大丈夫でしょ」

フツ督「たぶんじゃ困るんだが……」

龍田「あれをイケメン提督と見破る人ほど」

龍田「手を引くと思うわ」

フツ督「……なるほど」

フツ督「でも、金輪際こういう事は止めてくれ」

龍田「それは約束できない」

フツ督「何?」

龍田「私だって感情があるんだもの」

龍田「自分の愛する人が酷い目にあわされて」

龍田「平気でなんて居られない」

フツ督「…………」


フツ督「……対艦娘暗殺組織を前の天龍と一緒にぶっ潰した」

フツ督「君ほどの力は俺には無いが」

フツ督「もう……俺に何も言わずに事を起こすのは止めてくれ」

龍田「……分かった」

フツ督「それならいい」

龍田「ところで……前の天龍って」

龍田「どういう意味?」

フツ督「!!」

フツ督「あ……それは……その……」

龍田「ふふふ」

龍田「……もういいのよ」

龍田「私、気が付いているから」


フツ督「え……」

龍田「実は……去年の合同艦監式で会った時に分かっちゃったの」

フツ督「!?」

龍田「本当に……よく似ていたわ」

龍田「前の天龍ちゃんに」

フツ督「…………」

龍田「だけど……同時にあなたに愛されてる事も再確認できた」

龍田「だから……あなたの優しいウソに騙されてあげようと思ったの」

フツ督「……そうだったのか」

龍田「もちろん今の天龍ちゃんへの気持ちも本当よ?」

龍田「だから行動したの」

フツ督「…………」


フツ督「……そろそろ寝るか」

龍田「うん。いっぱい愛してね♡」

フツ督「……さっきまでやる気満々だったんだけどな」

フツ督「色々と衝撃すぎて、息子が……ちょっと」

龍田「あら、残念」

龍田「それじゃ、お楽しみは西方に帰ってから」

フツ督「すまん」

龍田「……いいわよ」

龍田「あなたの気持ちも分からないでは無いし……」

龍田「お休みなさい」

フツ督「ああ、お休み」


フツ督「…………」

フツ督(……ったく)

フツ督(…………)

フツ督(…………)

フツ督(普段、俺のこと腹黒だの何だの言ってくれるが)

フツ督(俺の周りの奴も結構腹黒いじゃねーか)

フツ督(…………)

フツ督(やれやれ……)

フツ督(まだまだ修行が足りないって事か……)

フツ督(…………)

本日はここまでです。次回、最終回になります。



―――――――――――







     約二ヶ月後








.



―――――――――――


帝都 〇×新聞社・社会部


     ガヤ ガヤ

編集員「部長」

部長「ん?」

編集員「部長にお会いしたい、という人物が居るのですが……」

部長「……今日は誰とも会う予定はないはずだが?」

編集員「はい。分かってます」

編集員「ただ……」

部長「ただ?」

編集員「顔は酷い傷で似ても似つかないんですが」

編集員「イケメン提督と名乗ってまして……」

部長「…………」


―――――――――――

応接室


部長「……お待たせしました」

イケ督「!」

イケ督「ああ、待ちくたびれた」

部長(……酷い傷だ。これじゃ元の顔も分からんし)

部長(声も全然違う……)

部長「えー……イケメン提督、とお伺いしましたが?」

イケ督「ああ……軍にこんな姿にされたんだ!」

部長「…………」


部長「それで……私に何の御用ですか?」

イケ督「決まっている」

イケ督「この事実を報道してくれ」

部長「…………」

イケ督「足りなければ、俺が知っている軍の隠し事を」

イケ督「洗いざらいぶちまけてやる」

部長「…………」

イケ督「確かに顔も声も変わっているが」

イケ督「前にお前の息子の話をした事を俺は覚えている」

イケ督「確か……小学校へ上がったばかりだとか言っていたな」

部長「…………」

イケ督「さ、今こそ新聞の力を……」

部長「自称イケメン提督さん」


イケ督「!?」

イケ督「俺はイケメン提督だと言っているだろ!」

部長「まあまあまあ」

部長「そうですな……まずは」

部長「イケメン提督があの事件以降、どう扱われているか」

部長「お話ししましょう」

イケ督「そんな暇は……」

部長「聞く気が無いのなら、このままお帰りください」

イケ督「な……」

部長「いかがしますか?」

イケ督「…………」

イケ督「……聞こう」

部長「結構」


部長「まず……深海棲艦の単独襲撃事件後」

部長「イケメン提督は、そのどさくさに紛れて逃亡した」

部長「という事になってます」

イケ督「違う!」

イケ督「俺はあの時、当て身を喰らわされ、気絶させられたんだ!」

部長「まあまあまあ、落ち着いて」

イケ督「ちっ……」

部長「……その後、軍はですね」

部長「南方海域の大打撃は逃亡を図ったイケメン提督の責任とし」

部長「指名手配を大々的に行っています」


イケ督「違うんだ!」

イケ督「あの大打撃は、元は大将閣下の指示に従っていたら」

イケ督「深海棲艦の急襲を受けて……!」

部長「落ち着いてください」

部長「あくまで、軍の発表は、というだけです」

イケ督「…………」

部長「続けますよ?」

部長「その後は、イケメン提督のご家族に取材が殺到しまして」

イケ督「!?」

部長「イケメン提督のご家族は、ですね」

部長「息子の不祥事に申し訳ない、申し訳ないと繰り返すばかりでして」

部長「いくばくか経った後……ご自害なされました」

イケ督「」


イケ督「な……な……!?」

部長「大変……痛ましい事件でした」

イケ督「親父……お袋……」

部長「それで、ですね」

イケ督「…………」

部長「もし、今、イケメン提督が現れたとしても……」

部長「味方する世論は皆無だと思います」

イケ督「!!」

部長「まあ……あなたが本当にイケメン提督だとしても」

部長「それを示す証拠が無いのでは、お話にならないと思いますが」

イケ督「…………」


―――――――――――

編集員「さっきの人、お帰りになられたんですか?」

部長「ああ、帰ったよ」

編集員「しっかし、寄りにもよってイケメン提督だと名乗り出るなんて」

編集員「新聞を見てないんですかね?」

部長「……あの傷跡だから」

部長「治療に専念してて見る機会が無かったのかもな」

編集員「そういうもんですか」

部長「そういうもんさ」

編集員「何にしてもお疲れさまでした」

部長「ああ。たまにはいいさ」


部長「…………」

部長(……たぶんあれは)

部長(軍からの警告だろう)

部長(イケメン提督と繋がりのある報道関係者に対して)

部長(余計な事をしたら、次こうなるのはお前だ)

部長(という……)

部長(…………)

部長(今後は……海軍に目を付けられていると想定して)

部長(報道しないといけないな)

部長(くわばら、くわばら……)



―――――――――――


帝都 郊外

障碍者支援施設


イケ督「…………」

イケ督「……あの」

職員「はい?」

イケ督「病院から……ここを紹介されたんだが」

職員「はい、お名前は?」

イケ督「…………」

イケ督「クズ山……クズ夫……です」



―――――――――――


北方鎮守府 執務室


     コン コン

ショウユ督「誰だ?」

明石「明石です」

ショウユ督「入れ」

     ガチャ

明石「失礼します」

     キィ パタン

ショウユ督「どうした?」


明石「新しい広域通信機が届きました」

明石「こちらがその関係書類になります。サインをお願いします」

ショウユ督「分かった」

     サラサラ…

ショウユ督「これでいいか?」

明石「はい」

明石「後ですね。新しい広域通信機の設置なんですが」

明石「丸一日かかりますので、日程の調整をお願いします」

ショウユ督「それはいつでも問題ないだろう」

ショウユ督「今は厳冬期で深海棲艦も大人しい」

ショウユ督「明石の都合の良い日を大淀と決めてくれ」

明石「分かりました」


明石「ところで大淀はどこですか?」

ショウユ督「たぶん食堂だと思う」

明石「今頃?」

ショウユ督「少々書類仕事が立て込んでな……」

ショウユ督「遅くなってしまったんだ」

明石「分かりました」

明石「では、食堂に行ってみます」

ショウユ督「すまんな」

ショウユ督「大淀にもう少しゆっくりでもいいと伝えてくれ」

明石「はい」



―――――――――――


北方鎮守府 食堂


利根「む?大淀、今頃昼食か?」

大淀「そう言う利根さんも?」

利根「うむ」

利根「吾輩は演習の後始末に少々手間取ってな」

大淀「そうですか」

大淀「実は私も書類仕事が溜まってて……」

利根「そうか……お互い手際が悪かった様じゃの」

大淀「ははは……」


利根「……ブサイク提督は」

利根「こんな小さな事も手際よく用意してくれておったのじゃな」

大淀「そういう事ですね……」

利根「こうなると、南方への転属願いが認められた天龍と」

利根「転属命令があった金剛達がうらやましく思えるのう」

大淀「ふふふ、そうですね」

大淀「日々、ブサイク提督の有難さが分かる事ばかりです」

利根「今頃は……どうしておるのやら」

大淀「大丈夫ですよ」

大淀「きっと……利根さんのアドバイスを生かしてくれてるでしょう」

利根「そうじゃな……」

利根「吾輩らの轍を踏まぬ様、艦娘が育つじゃろう」



―――――――――――


南方鎮守府 談話室


霞「まったく……つまらない任務ばかりで退屈だわ」

霞「顔だけでなく作戦の作りも酷いものね、あいつ」

満潮「ほんと。なんであんなのが指揮官なんだか」

朝潮「……二人とも、言葉が過ぎるわ」

大潮「そ、そうですよ……」

大潮「まあ、気持ちは分からないでもないけど……」

霞「ふん」

     テク テク テク

天龍「……朝潮型、そろってるな」

霞「何よ、天龍。何か用?」


天龍「次の任務だがな」

天龍「お前たちに決めさせてやるぞ」

霞「……はあ?」

     バサッ(海図)

天龍「大体の戦況は分かっているな?」

霞「バカにしてるの?」

天龍「ほいほい」

天龍「この海図に書かれてる赤丸がブサイク提督お勧めの海域だ」

天龍「他の海域を選びたいのなら、そこでもいいし」

天龍「俺は確定だがあと一人、戦力も好きなのを連れて行っていいぞ」


霞「戦力……戦艦や空母とかでも?」

天龍「ああ」

天龍「どうだ? やってみるか?」

霞「ふん……面白そうね」

霞「やってやろうじゃない」

朝潮「えっ本気?」

朝潮「いくら何でも危ないのでは……」

満潮「あんなブ男に出来る事なのよ?」

満潮「実際の戦場を知らないあいつより私たちの方が」

満潮「よっぽど優秀だって事、見せつけてやるわよ!」

天龍「…………」


天龍「……旗艦は誰がやる?」

霞「私がやるわ」

天龍「分かった」

天龍「どこの海域を攻略するのか、敵戦力はどれだけか」

天龍「他にも知りたい情報があれば、俺が答えよう」

霞「ふん……そうねぇ」

―――――――――――

翌日

南方 某海域

     ザザザザザザザ…

満潮「……くっ」

大潮「大丈夫? 満潮?」

満潮「これくらい……平気よ」


霞「…………」

天龍「さて、霞」

霞「……何よ」

天龍「敵に潜水艦が居て予想外のダメージを受けた訳だが」

天龍「これからどうする?」

霞「…………」

天龍「……対潜装備が無い以上」

天龍「俺は撤退をお勧めする」

霞「……っ」 ギリッ

朝潮「霞……気持ちは分かるけど」

朝潮「満潮と鳳翔が中破してる……敵の主力まで行けたとしても」

朝潮「相当のダメージを覚悟しないといけない」


霞「…………」

霞「……ブサイク提督に……撤退を打電するわ」

朝潮「うん……それでいいと思う」

朝潮「次、また頑張ろう」

満潮「待ってよ!」

満潮「私はまだ戦えるわ!」

霞「旗艦は私よ。従いなさい」

満潮「何でよ霞!」

満潮「あのブ男みたいに安易に撤退を選んで!」

霞「っ!!」

霞「…………」

天龍「…………」


天龍「満潮」

満潮「何よ、ブ男の腰巾着」

天龍「なら、お前が今から旗艦をやるか?」

満潮「……は?」

天龍「お前が旗艦をやって、この先、戦闘を続行させ」

天龍「誰かが轟沈した場合」

天龍「その責任はお前になるが……それでいいな?」

満潮「な……」

天龍「旗艦ってのは……指揮官ってのは、な」

天龍「そういった命令を下した全員の命を預かっているんだ」

満潮「…………」

天龍「その覚悟や自覚がお前にあるってんのなら……」

天龍「今からでも旗艦をやらせてやる。やってみろ」


満潮「…………」

天龍「……どうした満潮」

天龍「やってみろよ!! ああ!?」

満潮「ひっ……」

霞「天龍……その辺にして」

天龍「ふん……」

霞「満潮……私の命令に従って」

満潮「…………」

満潮「……了解」

朝潮「…………」

大潮「…………」



―――――――――――


南方鎮守府 執務室


ブサ督「よく帰って来てくれた」

霞「…………」

満潮「…………」

朝潮「…………」

大潮「…………」

鳳翔「…………」

天龍「……おうおう、行きしなの勢いはどうしたぁ?」

天龍「さっさと任務報告しろ、霞」


ブサ督「…………」

霞「……当該海域の主力部隊撃滅を目指すも」

霞「道中の敵から……予想外である潜水艦から攻撃を受け」

霞「満潮と鳳翔に中破のダメージを負い、目的達成は困難と判断」

霞「撤退の決断を……下したわ」

満潮「…………」

朝潮「…………」

大潮「…………」

鳳翔「…………」

ブサ督「……そうか。大変だったな」

ブサ督「では、損傷した艦娘は入渠、高速修復材の使用を許可」

ブサ督「あとは、ゆっくり休んで、次の戦闘に備えてくれ」


霞「!?」

霞「ま、待ちなさいよ!」

ブサ督「ん?」

霞「私は……ミスをしたわ」

霞「その罰を受けさせないの?」

ブサ督「……最終的に霞の作戦行動に許可を出したのは俺だ」

ブサ督「だから、そんな必要はない」

霞「で、でも……」

ブサ督「むしろ……この状況で速やかに撤退を決断したのは」

ブサ督「俺としては好感が持てるくらいだ」

霞「ブサイク提督……」


ブサ督「なので、お咎め無し。それでも何か罰を受けたいのなら」

ブサ督「今度、飯でも奢ってくれ」

霞「…………」

霞「ふん……いいわよ」

霞「食堂で一番高いメニューをご馳走してあげるわ」

ブサ督「ああ。楽しみにしておこう」

―――――――――――

南方鎮守府 談話室


天龍「これで分かったか?」

天龍「敵海域の情報、艦隊構成、分析、それに対する艦娘の種類と装備」

天龍「全部、ブサイク提督が1から10まで考え、揃えて」

天龍「お膳立てしてくれてたんだ」


霞「…………」

満潮「…………」

朝潮「…………」

大潮「…………」

天龍「お前たちはな、自分の実力で勝ってたんじゃねえ」

天龍「ブサイク提督に『勝たせてもらってた』んだよ」

天龍「それを肝に銘じておけ」

霞「……了解」

満潮「……分かったわよ」

朝潮「……朝潮、肝に銘じます」

大潮「……よく分かりました」


天龍「ん」

     ゾロ ゾロ…

天龍「ふう……」

鳳翔「お疲れ様です、天龍さん」

天龍「鳳翔の方こそな……」

天龍「中破までさせちまった」

鳳翔「いえ……お気になさらず」

鳳翔「後方に増援部隊が控えているの知ってましたから」

鳳翔「安心してましたし」

天龍「……あのまま進んでても大丈夫な様にはしてあったが」

天龍「霞が撤退を決断するとは思わなかったよ」

鳳翔「きっと……根はいい娘なんでしょう」

天龍「……そうだな」



―――――――――――


南方鎮守府 執務室


天龍「――って感じで」

天龍「いい経験になったと思う」

ブサ督「そうか……」

ブサ督「でも天龍」

天龍「ん?」

ブサ督「わざわざお前が憎まれ役をやらなくても……」

天龍「……自分で決めた事だ」

天龍「あんな思いはもう……二度としたくねぇしな」

ブサ督「…………」


天龍「それにな、利根の言う通り」

天龍「ブサイク提督は優しすぎるんだよ」

ブサ督「そ、そうか?」

天龍「だから……かつての俺たちみたいに」

天龍「艦娘が付け上がっちまうんだ」

ブサ督「…………」

天龍「この利根が考えた方法は俺としても かなりいいと思う」

天龍「ブサイク提督のすごさを分からせるには」

天龍「自分たちで一から準備させて行動させればいい」

天龍「本当に効果的だ」


ブサ督「……イケメン提督指揮下での経験から学んだとか」

ブサ督「手紙には書いてあったな」

天龍「実際そうだろうさ」

天龍「この俺も……そうだからな」

ブサ督「…………」

天龍「ところでよ」

ブサ督「ん?」

天龍「前から聞きたかったんだが……ブサイク提督は」

天龍「どうして艦娘部隊の指揮官になろうと思ったんだ?」

ブサ督「……こ」

天龍「こ?」


ブサ督「こ、皇国の、海の安全を守るため……」

天龍「……ブサイク提督は嘘がヘタだな」

天龍「正直に言ってくれ」

ブサ督「……察してくれないか?」

天龍「ブサイク提督の口から聞きたいんだ」

ブサ督「…………」

ブサ督「……艦娘となら」

ブサ督「仲良く出来るかな……って……」

天龍「ふうん……」

ブサ督「十代後半の思春期真っただ中だったんだ」

ブサ督「今なら不純な動機だったって思ってるよ」

天龍「いいんじゃねーの?」

ブサ督「……へ?」


天龍「ブサイク提督も男なんだし」

天龍「そういう気持ちを抱くのも分からんでもないぜ?」

ブサ督「…………」

天龍「よく俺の胸ばっか見てたしな♪」

ブサ督「す、すまん……」

天龍「別にいいって」

天龍「それだけ俺に魅力があるって事でもあるんだからな」

ブサ督「…………」

天龍「何なら……揉ませてやろうか?」

ブサ督「」

天龍「ははは!」


ブサ督「……天龍」

天龍「すまん。冗談でも良くないよな」

ブサ督「分かればいい」

天龍「……でもよ」

天龍「本気だったら……どうする?」

ブサ督「…………」

ブサ督「……天龍」

ブサ督「もう、からかうのはそのくらいにしてくれ……」

天龍「……へいへい」

天龍「…………」


天龍「……なあ、ブサイク提督」

ブサ督「ん?」

天龍「この後……さ」

天龍「予定が無いのなら……二人で飯でも食わないか?」

ブサ督「ああ、いいぞ」

天龍「うっしゃあ!」

     バタン!

榛名「ブサイク提督さん!」

榛名「この後、榛名と一緒にご飯を食べませんか?」

ブサ督「あ……」


天龍「悪いな、榛名」

天龍「ブサイク提督は、この俺と夕飯を食べる約束を、今、したんだよ」

榛名「なっ……」

榛名「ぐぐぐっ……榛名、我慢しますっ」

ブサ督「いや、俺は別にみんなと一緒でも……」

天龍「なんだよ……」

天龍「俺と二人きりは……嫌だってのか?」

ブサ督「」

ブサ督「だ、誰もそんな事は言ってないだろ!?」


     ガチャ

電「失礼しま……」

ブサ督「…………」

天龍「…………」

榛名「…………」

電「……した」

     パタン

ブサ督「いや!?ちょっと待ってくれ!電!」

ブサ督「大丈夫だから!?」

     ガシッ

天龍「さ、俺と二人っきりで飯にしようぜ♡」

榛名「ぐぎぎぎぎっ」

ブサ督「」



―――――――――――


大本営 元帥の執務室


フツ督「……報告は以上です」

元帥「うむ」

元帥「後任のソース顔提督は、ちゃんと西方を守っているようだな」

フツ督「ええ……俺の代わりにしっかりと」

元帥「ふふふ……そう浮かない顔をするな」

元帥「私は貴様が大将になってくれて本当に感謝している」

フツ督「その代償で、俺の胃に穴が開きそうですよ……」

元帥「貴様なら大丈夫だ」


元帥「それでは明日の予定だが」

元帥「陸軍との合同演習に向けた調整を頼む」

フツ督「…………」

フツ督「……ひと月くらいかかりそうな案件なんですが」

元帥「これが済めば休暇を取らせよう」

元帥「秘書艦の龍田と共にな」

フツ督「…………」

元帥「頑張ってくれたまえ」

フツ督「……了解」

フツ督(うう……どうしてこんな事に)

元帥(…………)


元帥(ブサイク提督に彼を大将にする妙案は無いか相談したら)

元帥(一番の近道はフツメン提督に手柄を立てさせる事だと言われ)

元帥(あえて、脛に傷持つ敵対派閥の人物を先に大将職へ就かせた)

元帥(…………)

元帥(その後、フツメン提督にそいつを調べさせ)

元帥(そいつを引きずり降ろさせる事で手柄とし)

元帥(彼を大将へ昇進させる事に議会を納得させ)

元帥(私の派閥の大躍進となった……)

元帥(…………)

元帥(フツメン提督には悪い事をしてしまったが)

元帥(彼の人脈を私の派閥に組み込む事もできたし……)

元帥(ブサイク提督には、今度、何か贈り物でもしておこう)


元帥「ああ、そうそう」

元帥「以前、言われてた事だったが……」

フツ督「はい?」

元帥「メガネ提督」

元帥「貴様の指揮下に加える手続きが済んだ」

フツ督「!」

フツ督「あ、ありがとうございます!」

元帥「何でもブサイク提督のお墨付きだとか?」

フツ督「ええ」

フツ督「俺は全く知りませんでしたが」

フツ督「彼が言うには、同じ戦力で戦った場合」

フツ督「ショウユ顔提督もソース顔提督も敵わないだろうと」


元帥「……にわかには信じられない話だな」

フツ督「贔屓目もある、とは付け加えてましたけどね」

元帥「だが、その言葉を貴様は信じるのだな?」

フツ督「ええ」

フツ督「ブサイク提督の戦術、戦略は超一流ですから」

元帥「私も大いに期待しよう」

元帥「それと……」

フツ督「まだ何か?」

元帥「例の離島艦娘と深海棲艦についてのレポートだが」

フツ督「……ようやくお読みになられましたか」

元帥「厄介な事実を持ち込んでくれたな……」

元帥「こんなもの公表なんて絶対に出来ないぞ」


フツ督「でしょうね」

元帥「ふう……」

元帥「一部、公表したいものもあるが」

元帥「それをやると、どう考えても情報源を追及されてしまう」

元帥「そうなったら芋づる式に公表しなくては」

元帥「海軍の信用の失墜に繋がってしまうだろう」

フツ督「…………」

元帥「公表したらしたで、艦娘を敵視する連中も増えるだろうし」

元帥「対艦娘部隊創設派を勢い付かせてしまう」

フツ督「……全くもってその通りだと思います」


元帥「まあ、そういう訳だから」

元帥「海軍への情報提供には感謝するが」

元帥「私が元帥職である限り、この情報は秘匿し続ける事とする」

フツ督「ええ。それで構いません」

フツ督「私としても元帥閣下に知っておいて欲しかっただけですので」

元帥「ふん……」

元帥「抜け抜けと言いおって……」

フツ督「腹黒ですので」

元帥「よろしい。それでこそ私が見込んだ男だ」

フツ督「はっ」

元帥「では、明日からも頼むぞ」

元帥「フツメン大将」

フツ督「了解です」



こうして……

イケメン提督による一連の騒動は幕を閉じた。


彼によるとされる大損害での艦娘の犠牲に加え

大将職が短期間に二人も辞任するという

不名誉な出来事に見舞われ

海軍の信用は一時期、大きく失墜する事になった。


が、新たに大将へ就任した若手のフツメン提督は

その手腕をいかんなく発揮し

各方面艦娘艦隊は一部で新たな提督を迎え

戦力の再編と拡充、国民への信用回復を少しずつ進めている。

.



北方は厳冬期に入り、深海棲艦の活動が

一時的とはいえ鈍るため、当該主力である金剛と比叡は

南方へ転属。

さらに南方では、金剛型4番艦である霧島が加わり

金剛型4姉妹が勢ぞろいした、という事で

紙面を大いに賑わせ、これも海軍の信用回復に繋がる事となった。


しかし……深海棲艦との戦いは、まだまだ混迷を極め

人々が安心して海を渡るには時間が掛かりそうであった。

.



―――――――――――


数日後のある日

西方海域 例の離島の砂浜


     ザザーン… ザザーン…


榛名「久しぶりですね、ここへ来るのも」

ブサ督「ああ……そうだな」

     ザッザッザッ

榛名「灰色の髪の君さん」

榛名「お久しぶりです」

ブサ督「…………」


ブサ督「ここも温かいな……」

ブサ督「内地は真冬で雪が降っている頃だというのに」

榛名「不思議ですね」

榛名「緯度とか経度とか、地球の地軸とか」

榛名「そういう理屈は分かってても」

榛名「今、この瞬間、同じ星で、違う気候が存在するんですから」

ブサ督「……そうだな」

ブサ督「この世の中は不思議でいっぱいだ」

榛名「ふふふ」

ブサ督「…………」

ブサ督「榛名」

榛名「はい?」


ブサ督「その……こういうのは慣れてなくて」

ブサ督「正しいやり方かどうかも良く分からんのだが……」///

榛名「?」

ブサ督「……俺は」///

ブサ督「榛名の事が……好きだ」///

榛名「!!」

ブサ督「…………」///

榛名「ブサイク提督さん……」///

榛名「榛名……嬉しいです!」///

榛名「榛名もブサイク提督さんの事が、大好きです!」///

ブサ督「あ、ありがとう、榛名」///


ブサ督「そ、それで、だな」

ブサ督「これを……受け取って欲しい」

榛名「指輪……ですか?」

ブサ督「うん……海軍艦娘部隊の伝統で」

ブサ督「好意を寄せる艦娘に指輪を送って結ばれると……」

ブサ督「その二人はずっと幸せになれるっていうものなんだ」

榛名「まあ……うふふ」

榛名「とっても素敵な伝統ですね♪」

ブサ督「ははは……喜んでくれて良かった」

     キラン☆

榛名「榛名、大事にします!」

ブサ督「うん」



     ザザーン… ザザーン…


ブサ督「……近いうちに」

ブサ督「俺の両親に会って欲しいんだが、いいか?」

榛名「はい、構いません」

榛名「ブサイク提督さんのご両親ですから」

榛名「榛名、今から楽しみです♪」

ブサ督(……俺がこんな美人を連れて帰って来たら)

ブサ督(とーちゃん、かーちゃん、腰抜かすだろうなぁ)

ブサ督「……そうだ」

ブサ督「榛名、内地へ帰ったら、何かやりたい事はあるか?」

榛名「やりたい事、ですか?」

ブサ督「そう」


ブサ督「例えば美味しいものを食べたい、とか」

ブサ督「映画を見たい、とか……」

榛名「う~ん……」

ブサ督「…………」

榛名「……そうですね」

榛名「榛名は……桜が見たいです」

榛名「ブサイク提督さんと二人で!」

ブサ督「!」



 「私は……自分の名前に使わせてもらった」

 「桜の花を見たい」

 「……ブサイク提督と二人で」


ブサ督「…………」

ブサ督「…………」 ポロポロ

榛名「えっ!?」

榛名「あ、あの、ブサイク提督さん!?」

     グイッ…

ブサ督「……大丈夫」

ブサ督「大丈夫だ、榛名」


榛名「でも……」

ブサ督「悲しくて泣いたんじゃない」

ブサ督「嬉しかったんだ」

榛名「そう……なのですか?」

ブサ督「ああ」

榛名「…………」

ブサ督「来年……春になったら」

ブサ督「内地に戻って、桜を見に行こう」

ブサ督「必ず、榛名と二人で」

榛名「はい!」



俺は……自分の顔の醜さをずっと呪ってきた。

ガキの頃は、この境遇に何度も泣いて死にたくなった。


周りは俺をバカにする奴ばかりだったが

わずかながら友達も居た。

おかげで俺は道を踏み外さずにいられたが

友人に彼女が出来てからは疎遠になった。

.



悔しかった。

俺はかすかな希望にすがって

海軍艦娘部隊の士官学校へ入学した。

……艦娘の反応も同じだった。


でも俺は思い違いをしていた。

そこにある艦娘には命があって

浮ついた気持ちで扱っていいものでは無かったのだ。

.



……俺と話をしてくれた艦娘たちの命を

俺の命令で失ってしまった。

恐ろしかった。

悲しかった。

罪悪感が俺の心を苛(さいな)んだ。

この世の中は俺に悪意しかないのかと

絶望した。

.



俺は努力をした。

艦娘の命を二度と無駄にしない為に

作戦を考え、地形を調べ上げ

少しでも艦娘が傷つかない方策を

模索し続けた。


……気が付けば

鎮守府の司令官に上り詰めたが

一般の婦女子も艦娘の態度も変わらなかった。

.



それでもいいじゃないか

これで良かったんだ。

……そんな言葉で誤魔化していたが

現実は俺の心を

少しずつ蝕んで凍らせて行くのが

ひしひしと感じられて辛かった。

.



ただ……温かい話し相手が欲しかった。

安らげる相手が欲しかった。

心を癒してくれる人が

俺の傍に居て欲しかった。


日々、過ぎていくだけの現実の時間が

空しかった。

泣きたかった。

言葉で言い表せないほど

とにかく辛かった。

.








……でも






.




そんな辛い思い出も

出来事も



この日の幸せの為にあったのかもしれないと

初めて思えたのだった……




     おしまい

という事でこれで終了です。
実は昔、途中まで書いてて放置、発掘したものなんですが
久しぶりに読んでみたら、これ続き読みたいなぁ……と思い
続きを書き始めました。
楽しんで頂けたのなら幸いです。
お付き合いありがとうございました!

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