【艦これ】提督「クール鎮守府」 (286)

提督(元気で明るい艦娘たちと、賑やかな鎮守府ライフを送りたい――)

提督(艦娘という存在を知ってからというものの、そんな思いを常に抱いてきた)

提督(俺は野望を実現させるべく、高校を卒業すると同時に軍学校へと入り提督を目指した)

提督(しかし艦娘たちを従える“提督”になるためには、並外れた努力と資質が必要となる)

提督(文字通り血の滲むような努力を重ねる羽目になったが、それも薔薇色の鎮守府ライフを想像すれば苦にならなかった)

提督(そうしてようやくこの春から、晴れて“提督”として鎮守府に着任することができたのだが……)



――― 鎮守府 執務室 ―――


提督「………………」カキカキ

加賀「………………」カキカキ

不知火「………………ん、司令」

提督「」ピクッ

提督「……どうした?」

不知火「こちらの書類ですが、計算に誤りがあります」

提督「……そうか、すまない。すまないついでに修正を頼む」

不知火「了解しました」

加賀「………………」カキカキ

提督「………………」カキカキ

不知火「………………」カキカキ




提督(――どうしてこうなった)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1577972201

提督(俺は艦娘たちとの“賑やか”で“楽しい”鎮守府ライフを夢見ていた)

提督(駆逐艦の子たちに懐かれて、一緒に楽しく遊んだり、)

提督(夜は鳳翔さんの居酒屋で、酒呑み艦たちと盛り上がったり、)

提督(金剛をはじめとする“提督ラブ勢”とイチャイチャしたり、)

提督(そんなリア充顔負けの薔薇色人生が俺を待っているはずだったのに……)



提督「………………」カキカキ

加賀「………………」カキカキ

不知火「………………」カキカキ



提督(なぜこんな重苦しい空気の中で毎日を過ごさにゃならんのだ……)

加賀「提督、こちらの書類は粗方片付きました」

提督「……ご苦労。私の分もそろそろ終わる」

加賀「そう……ではお茶でも淹れますね」

提督「……頼む」



提督(こいつは加賀。俺の秘書艦だ)

提督(ザ・クールとでも呼ぶべき物静かで聡明な艦娘であり、見た目や言動通り仕事がめちゃくちゃデキる)

提督(だが性格は非常に淡白で、俺が何か話しかけても『そう……』だとか『えぇ』としか返事をしない)

提督(美人で仕事もしっかりこなしてくれるが、仕事の話以外でのコミュニケーションをほとんど取れないでいる)

提督(……着任したての頃、親しみやすさを出すために軽い冗談を口にしてみたが、一切反応されずに流された。かなり傷ついた)

不知火「加賀さん、私の方もほとんど終わりましたので手伝います」

加賀「ありがとう。でも1人で大丈夫よ、座っててちょうだい」

不知火「そうですか? ではお言葉に甘えて」



提督(こいつは不知火。秘書艦補佐を務めている)

提督(着任歴1年未満の新人提督は、仕事に慣れるため最初は秘書艦を2人つけるのが通例らしい)

提督(そんなわけで俺と加賀のサポートをしてくれているのだが……正直、常に睨まれているような気がして仕事に身が入らない)

提督(なにあの眼光? 俺何か悪いことしました? 駆逐艦だったらもっとはしゃいだり、年相応に甘えてきてもいいよね?)

提督(なのに何で君はいっつもそんな鋭い目付きで俺のことを見てくるの? あと加賀と同じで口数少なすぎだから!)

提督(あの仏頂面を崩そうと小粋なジョークを言ってみたりもしたが『それはどういう意味でしょうか』などと、素で理解できないという反応をされた)

提督(それを見て、高校デビューしようとクラスの自己紹介でウケを狙った結果盛大に滑ったことを思い出し、しばらくへこんだ)

加賀「提督、お茶が入りました」

提督「……ああ」

不知火「ありがとうございます」

提督「……………」ズズッ

不知火「……………」ゴクゴク

加賀「……………」フゥ

提督「……相変わらず、加賀の淹れてくれたお茶は美味いな」

加賀「いえ、そんなことは……」

不知火「………………」ゴクゴク

提督「………………」ズズッ

加賀「………………」






提督(……気まずい)

提督(普通お茶の時間だったらもっとトークに花を咲かせてもいいだろ)

提督(気を利かせて褒めたんだから『ありがとうございます……///』みたいな可愛らしい反応があってもよくない?)

提督(あと不知火も我関せずみたいにひたすら茶を啜ってっけど会話に混ざってきて!)

提督(せっかく2人とも見た目は可愛いのに……いや、可愛いからこそ冷たい反応が心に来るんだよなぁ)

提督(ほんと、どうしてこの鎮守府には彼女らみたいなクール属性の子しかいないんだ……)

不知火「……司令、そろそろ第1艦隊が帰投する時間です」

加賀「!」

提督「む、もうそんな時間か……加賀、仕事も片付いたし、“相方”を迎えに行ってやるといい」

加賀「分かりました」


提督(……普段は感情をほとんど表に出さない加賀だが、彼女の“相方”のこととなるとほんの少しだけ声が弾む)

提督(加賀が唯一心を許し、頼りにしている正規空母の“相方”)


 コン、コン。


加賀「あら、もう戻ってきたみたいね」

不知火「迎えに行くまでもなかったようですね。どうぞ、お入りください」


 ガチャ


提督(そう、彼女こそが加賀の相方であり、正規空母の――)









グラーフ「失礼する。航空母艦グラーフ・ツェッペリン、ただいま帰投した」

加賀「おかえりなさい、グラーフさん」



提督(――赤城かと思った? 残念、この鎮守府にはクール属性しかいねえんだよ!!)



※艦娘たちとイチャコラしたかった脳内ピンク色の提督が、クール属性の艦娘しかいない鎮守府に着任してしまったという物語です※

こんな感じでやっていければと思います
書き溜めは6回分ぐらいはあるのでまた随時投下していくつもりです

たくさんのレスありがとうございます
再開します

グラーフ「――以上で報告は終わりだ」

提督「ご苦労。あとは自由にしていて構わん」

グラーフ「了解した。加賀も今日の執務は終わったのか?」

加賀「ええ、今しがた」

グラーフ「そうか、ではこの後一緒にマミーヤにでも行かないか? なんでも今日から新作のデザートが出るらしいぞ」

加賀「是非お供しましょう。よければ不知火もどうかしら?」

不知火「私もですか? しかし、ご一緒してもよろしいのでしょうか?」チラ

グラーフ「構わないさ。Admiralもどうだ?」

提督「……いや、まだやることが残っているんでな。悪いが遠慮しておこう」

提督(これ以上気まずい空気の中にいたくないしな……)

グラーフ「そうか? ではまたの機会に、な」

提督「ああ」

加賀・不知火「………………」



提督(グラーフ・ツェッペリン。ドイツ出身のクールビューティーで、この鎮守府では数少ない正規空母の1人だ)

提督(というか正規空母は加賀とグラ―フの2人しか着任していない)

提督(……おかしくね? 普通加賀の相方って言ったら赤城だろ)

提督(凛とした佇まいに強者を思わせる立ち振舞い。しかし大食いというチャームポイントも兼ね揃え、周囲から慕われるお姉さんキャラ)

提督(大抵の鎮守府には初期から着任していると聞くが、なぜこの鎮守府にはいないんだ……!)

提督(せめて赤城がいてくれたら加賀のクールさも緩和され、あわよくば赤城にデレる加賀の可愛らしい一面も見れたかもしれないのに……)

提督(グラーフて……加賀とグラーフの組み合わせておかしくない?)

提督(クール×クールじゃん。クールさが緩和されるどころか絶対零度だよ!)

提督(……いやまぁいい子なんだけどさ。美人だし、礼儀正しいし、おっぱいでかいし)

提督(でも欲を言えばやっぱり王道を往く赤城×加賀が見たかったです!)

提督(……百歩譲って二航戦や五航戦が着任していたら、もっと和やかなムードにもなっただろう)

提督(友達感覚で接してくれる飛龍、茶目っ気満載で度々こちらをからかってくる蒼龍、圧倒的な包容力を誇る大和撫子の翔鶴)

提督(そして何より、俺的幼馴染にいてほしかった艦娘ランキング、ベスト3の瑞鶴)

提督(赤城×加賀も捨てがたいが、ずい×かがで素の感情を露わにする加賀も見てみたかった……くっ)





加賀「では提督、行ってまいります」

提督「ああ……今日も秘書艦ご苦労だったな。ありがとう」

加賀「…………いえ、これが私の仕事ですので」

提督(今の間は何? 仕事じゃなかったらやりたくないですってこと? そういうこと?)

不知火「………………」ギロッ

提督(あとなんで不知火は眼光の鋭さ増してんの? 私も嫌々手伝ってるだけですってことを目線で訴えてるの?)

グラーフ「………ハァ」ヤレヤレ

提督(あ、今溜息ついたよね? 部下に毛嫌いされる俺の姿を見て呆れ果ててんの? いい加減泣きそうなんだが?)


―――加賀たちが去った後の執務室―――


提督「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」クソデカ溜息

提督「ようやく極寒の地獄から解放された……」グッタリ

提督「なぜ俺が毎日毎日こんな思いをせにゃならんのだ。仮にも提督だぞ? この鎮守府で一番偉いんだぞ?」

提督「それがどうして部下たちの顔色を窺いつつ、胃をキリキリ痛ませながら仕事に励まないといけないんだ……!」

提督「俺だって……俺だって皆と打ち解けようと努力してきたのに……」シクシク

提督「冗談を言っても軽く流され、褒めたり感謝の言葉を口にしても無反応。おまけに何も悪いことしてないのに睨みつけられ……」

提督「今や俺自身も『ご苦労』だとか『ああ』だとか、最低限の台詞しか吐けなくなっちまったじゃねえか!」

提督「だって少しでもチャラい発言やおふざけをしようもんなら、冷たい視線と沈黙という刃でバッサリ一刀両断だもの。そりゃ口数も少なくなるわ!」

提督「あぁ、俺の夢見たリア充鎮守府ライフは一体どこへ……」ガクッ



――― 間宮 ―――


グラーフ「――それで、今日のAdmiralはどうだった?」

加賀「はい、本日も提督は実直に執務に取り組んでおられました」

不知火「部下である私に書類のミスを指摘されても、気を悪くした素振りも無く自分の落ち度を認めて謝罪してくれました」

グラーフ「そうか……やはり新しいAdmiralは寡黙で誠実な男のようだな」

加賀「そうですね。前任の提督は……その、色々と問題のある人でしたから、余計に今の提督が人格者に思えます」


※この鎮守府には前任の提督がいましたが、色々あった結果今の提督が新しく着任したという設定です


グラーフ「前のAdmiral……いや、もうAdmiralではないが、前任のアイツは軽薄な男だったからな」フン

加賀「全くです。執務を秘書艦に押し付けて遊びに行ったり、プライドだけは高くて自分の非を決して認めなかったり」ハァ

不知火「セクハラ紛いの言動も繰り返していましたし、人としても上司としても落ち度しかない人間でした」ムスッ

加賀「おまけに指揮もデタラメで碌に戦果を挙げられなかったからか、更迭されてしまったみたいだけれど……」

不知火「当然の報いかと。そもそも軍人の身で娯楽や色恋に現を抜かすなど言語道断です」フン!

加賀「その点、今の提督は仕事に直向きで私たちに色目も使わないし、尊敬に値する上司だと思うわ」





――― 執務室 ―――


提督「あぁー、艦娘たちと乳繰り合いてぇなぁ」ダラーン

提督「それが無理ならいっそ執務をサボってどこか遊びに行くかぁ? 加賀も不知火も優秀だし、仕事を任せっきりにしても大丈夫でしょ」

提督「なーんて、そんなことしたら○されるだろうからやらないけどな!」ハハハ


グラーフ「なんだ、2人とも新しいAdmiralのことを随分と評価しているんだな」フフ

加賀「ええ、彼なら信頼できると私は思います」

不知火「不知火も同意です」

グラーフ「ふむ、良いことだが……しかし、信頼しているのは上司としてだけか?」

加賀・不知火「っ!」

グラーフ「先程Admiralが私の誘いを断った時、2人とも心なしか残念そうに見えたぞ」

加賀「……気のせいではないかしら」プイ

グラーフ「Admiralに労いの言葉を掛けられたとき、一瞬反応が遅れていたようだが?」

加賀「あ、あれはいきなり『ありがとう』だなんて、予想だにしないことを言われたから……」

グラーフ「……言われたから、嬉しかったんだろう?」

加賀「……っ///」

グラーフ「前任は仕事を押し付けるだけ押し付けて、感謝の言葉すら一度も無かったからな」

加賀「……ええ、そうね。当たり前のことをしているだけとはいえ、やはり上官から労われるのは気分が高翌揚します」






提督「加賀の仕事っぷりには本当に感謝してるんだけどなぁ」

提督「何度か感謝の気持ちを伝えてはいるが、まるで嬉しくなさそうだし……」

提督「はっ!? もしかしてご機嫌取りしてるように思われてんのか? 部下に媚びを売る情けない上官だと!?」ガーン


グラーフ「不知火も、加賀がAdmiralに労われていたとき、どこか面白くなさそうに見えたが」

不知火「……執務を手伝っていたのは私も同じなのに、加賀さんだけが褒められるのは納得いかなかっただけです」

グラーフ「つまり、自分のことも褒めてほしかったと?」

不知火「べ、別にそういうつもりでは……ない、です」シュン

グラーフ「ふふ、別に苛めるつもりはなかったんだ。すまない」

不知火「……いえ、素直になれない私の落ち度です。気にしないでください」







提督「にしても俺が加賀を労った時の不知火の目付き、クッソ怖かった」ガクガク

提督「なに加賀さんに取り入ろうとしてんだ潰すぞとでも言いたげな表情だった」ブルブル

提督「やっぱりご機嫌取りだと思われてんのかな……」

提督「よし、もうあいつの目の前で誰かを褒めるのはよそう」ウン


加賀「……そういうグラーフさんは提督のことをどう思ってるのかしら?」

不知火「そうです! グラーフさんだって先ほど提督のことを評価してたじゃないですか」

グラーフ「私か? 私はそうだな……上官としては信頼しているが、特にそれ以上のことは何も思わないな」

グラーフ「もちろんあの誠実さは嫌いではない。寡黙で口数が少ないのも落ち着きがあって魅力的だとは思う」

グラーフ「だが如何せん、私は2人と違って秘書艦の経験が無いのでな。その分接する機会も少なく、まだ彼という人間の内面を測りかねている」

加賀「……なんだかその言い回しはずるいです」ムスッ

不知火「同じく。私たちだけが一方的にからかわれた気がします」ムスッ

グラーフ「はっはっはっ、すまないな。だが私とて艦娘である前に女だ。たまにはこういう浮いた話の一つや二つ、したくもなるさ」

グラーフ「それにまぁ……私もAdmiralのことは、なかなか、いいと思っているぞ///」ンフー







提督「……グラーフのやつ、最後溜息吐いてたよな」

提督「規律や階級を重んじる軍人らしい彼女のことだ。部下に嘗められている姿を見て失望されてしまったか……」

提督「…………」

提督「………………う」

提督「うあああああぁぁぁぁぁブロンド美女とダンケダンケしたいのおおおおぉぉぉぉ!!」

提督「『ンフー』とか『あ、Admiralも…なかなか、いい///』とか言われてみたいのおおおぉぉぉぉ!!!(発狂)」






???「……ん? なんだか執務室の方が騒がしいな」

本日は以上になります
パッション鎮守府と演習! みたいなネタは考えてはいますが、まだ形にできていません
キュート鎮守府は……キュート属性の子が多すぎて所属艦を決められません。皆かわいすぎ問題

また数日中に投下します。それでは


こんな鎮守府へ提督に色目使う艦が配属されたら村八分にされそう

>>34
『事故』が起きたり『誤射』や『戦闘中行方不明』が起きるだけじゃない?

和を乱す輩にはみんな『冷静に対処』するでしょ

レスありがとうございます。再開します



 コン、コン。


提督(はっ! いかんいかん、あまりの精神的ダメージに我を失っていた!)

提督「入れ」キリッ

??「失礼する」ガチャ






那智「提督よ、何かあったのか? なにやら叫び声のようなものが聞こえたが……」

提督(やっべ! さっきのを聞かれてたのか! 俺の馬鹿!)

提督(どうする? まさか妄想を繰り広げて悶え叫んでいたなどとは言えまいし……何か言い訳を考えねば!!)

提督「……問題ない。実は来週大本営で開かれる新年会に備えて、カ、カラオケの練習をしていたのだ」

提督(我ながら言い訳が苦しすぎる!)

那智「カラオケだと?」

提督「う、うむ。新年会の余興の一つとして、のど自慢大会が企画されていてな。私もそれに参加することになっている」

那智「……ふむ、そうだったか」

提督(うわぁ、絶対ドン引きされてるだろコレ)





那智(……大本営主催の新年会、か)

那智(となれば恐らく、元帥をはじめとした軍の要人も多数参加するはず。いくら余興とはいえ、無様な姿は見せられん)

那智(もし下手糞な歌声を披露してお偉方の機嫌を損ねたり、場の空気を白けさせようものなら、提督の人事評価にも悪影響を及ぼすだろう)

那智(――そして提督に対する評価は、この鎮守府に対する評価と同義)

那智(鎮守府の評価が下がれば、今後重要な任務や貴重な物資が優先的に回ってこなくなる可能性もある)

那智(まさか提督はそこまで考えて、歌の練習などという柄にもないことをしていたのか?)


那智「……貴様は歌が得意なのか?」

提督「いや……正直、得意ではない」

提督(小学校での音楽の時間、歌のテストと称して皆の前で歌わされて大恥かいたっけ)ホロリ

提督(音痴なモンは仕方ないだろ……それに人前で歌うとかコミュ障にはハードル高すぎるわ!)



那智(やはりな。カラオケなどといった娯楽に疎いであろうことは、この男の生真面目な性格を見ていればよく分かる)

那智(恐らくは同年代の者たちが青春を謳歌している傍らで、娯楽に興じることもなく、ただひたすら勉学に励んできたのだろう)

那智(結果として、この若さで鎮守府の運営を任されるまでに至ったが、その反面“遊び”や“息抜き”といったものには慣れていないはず)

那智(しかし、宴会とはいえ今回のソレは職務の延長線上のようなものだ。慣れていないからという理由で断れるはずもないし、もし断ればそれだけで心証を悪くしかねん)

那智(不得手なことであっても決して手を抜かず、影で努力することで欠点を克服しようとするその姿勢……ふっ、悪くない!)


那智「提督、新年会ということは当然酒も出るのだろう? 貴様はいけるクチか?」

提督「まぁ、それなりにはな」

那智「そうか、それは良かった。昔から酒の強い男は上司からも好かれやすいと聞く。いい飲みっぷりは見ていて気持ちがいいからな」

提督「そういうものか」

那智「うむ。それでだ……今夜あたり一杯どうだ?」

提督「……何?」

那智「なぁに、予行演習というやつさ。歌の練習もいいが、宴会のメインはあくまで酒だからな。今から肝臓を鍛えておくのも悪くあるまい」

那智「ついでに飲みの席での立ち回りや、酒に関する作法なども教えてやろう。覚えておいて損はないぞ?」

那智(歌については私も分からんが、酒に関してなら力になれる)

那智(今までこういった機会も無かったし、ここらで酒を通して友好を深めてみるのもいいだろう)

那智(……何より鎮守府の為に努力しようとしている貴様を、放ってはおけないからな)フッ


提督(飲みのお誘い……だと?)

提督(いや待て、こいつも加賀たちと同じクール属性の艦娘。しかも、より軍人気質で気難しい性格をしている)

提督(酒の席とはいえ軽口を叩いたり、馴れ馴れしく接しようものならボコボコにされる未来しか見えない)ガクブル

提督(酔った勢いでボディタッチでもしてしまった暁には……ん? 待てよ……)




~~ 提督妄想中 ~~


那智『ふぅ……すっかり酒が回ってしまったな……』グデーン

提督『大丈夫か那智』

那智『なぁに、これくらい平気――っ!?』グラッ

提督『!? 危ない!』ガシッ

那智『す、すまん、少しよろけてしまったようだ……』

提督『気にするな。それより、その調子だとまともに歩けなさそうだな。どれ、部屋まで送っていこう』

那智『な…! い、いや、大丈夫だ。1人でも歩ける!』

提督『無茶をするな。転んで怪我でもされたら艦隊運営にも支障が出る。君はこの鎮守府で数少ない重巡洋艦なのだからな』

那智『……ふっ、そうか。ではお言葉に甘えるとしよう』ギュッ

提督『ああ、しっかり掴まっていろ。無事部屋まで送り届けてやる』

那智『…………提督よ、私が1人部屋なのは知っているな?』

提督『ああ、君の同型艦はこの鎮守府には未だ着任していないからな。提督としてすまないとは思うが』

那智『気にするな。確かに姉さんや妹たちに会えないのは幾分寂しくもあるが……今宵ばかりは僥倖だったかもしれんな』ボソッ

提督『? どういう意味だ?』

那智『……これから向かう私の部屋には私以外誰もいない。加えて、私は今とても酔っている』

那智『もし部屋で何かが起こっても、誰にも気付かれないし、私も明日には覚えていないかもしれない』

那智『貴様も男なら……わ、分かるだろ?』///

提督『……ふむ、そうだな。女性に恥をかかせるわけにもいかん。それに――』




提督(それに酔っているなら何が起きても仕方ないよね!!!)ド-ン!




那智「提督、どうだ?」

提督(いくらクールとはいえ、酒に酔ってしまえばその牙城も崩れるはず……!)

提督(先ほど酒に強いかと聞かれた時、無難に『それなりには』などと答えてしまったが……実はかなり強いという自負がある)

提督(何せお前らとの付き合いでストレスを感じるたびに、夜中に1人でストゼロを呑みまくってたからなぁ!!)


提督「……せっかくのお誘いだ、私でよければ付き合おう」キリッ

那智「! そうか、そうこなくてはな! よし、今夜ばかりは私も飲ませてもらおう!」

提督(よっしゃ! 夢の一つでもあった『艦娘と居酒屋でワイワイ楽しく飲む』がようやく実現できる!)

提督(まぁウチには鳳翔さんがいないから居酒屋じゃなく食堂でだけどな畜生!)

提督(そして酔った勢いであわよくば……ぐへへへ)

提督(那智も酒の強さには自信があるようだが、所詮は女! 男より女の方が酒に酔いやすいことは医学的にも証明されている!)

 ※男より体重の軽い女性の方が血中アルコール濃度が高くなりやすいため、だそうです

提督(首を洗って……いや、夜に備えてもっと色んなところを洗って待っているがいい。酔い潰してやるぜぇ!!)


―――その夜 食堂―――



提督(……ぅぐ、も、もう無理……)グデーン

那智「どうした? まだ瓶を8本しか空けていないじゃないか。その程度では上官の酒に付き合うことなどできんぞ!」ハッハッハッ

提督(く、クソが……こいつ酒強すぎだろ!)オェェ…

提督(瓶8本って、その2/3ぐらいは俺が飲まされてるし! なにが『お前の肝臓を鍛えてやろう!さぁ飲め!』だ!)

提督(これがアルハラってやつか……上司から酒を強要される新入社員の気持ちが分かったぜ。いや俺の方が上司なんだけども!)




那智「よし、次はこの『百年の孤独』を開けるぞ! さぁ飲め!」

提督(いやそれ度数40%超えのバケモンだろ! てかよくそんな高価な酒持ってんなオイ!)

提督(しかも『百年の孤独』って……あれか、一生独り身であろう俺に対する嫌味か貴様ッ!)

提督「い、いや、本当にこれ以上は……」

那智「何を言う! 意識がある内はまだいける! さぁぐいっといけ、ぐいっと!」

提督(それは俺に死ぬまで飲めということか? まさか酒の席を利用して嫌いな俺を消そうと……?!)


那智(……さすがにそろそろ限界か)

那智(これ以上飲ませるつもりは無いが、上官から酒を強要された時のシチュエーションも経験しておくべきだろう。そしてその上手い躱し方もな)



提督(クソッ! 俺が何したって言うんだ!)

提督(一応真面目に仕事してるし、必死に戦術の勉強もして間違った指示を出さないよう頑張ってるだろ!)

提督(…………何だかムカついてきた)

提督(こいつ全然酔わねえし。顔も全く赤くなってねえし。酔いからのラッキースケベの一つも起こらねえし!)

提督(これ以上……これ以上、部下に嘗められてたまるかってんだよおおおぉぉぉ!!!!)



提督「貸せっ! 帝国軍人の意地と誇りを見せてやるッ!」パシッ

那智「あっ! 馬鹿! それ以上は――」

提督「うおおおぉぉぉぉ!!! 日本万歳ーッ!!」ゴクゴクゴクゴクゴク



――――――

――――

――


加賀「……それで、その後提督は?」

那智「中身を飲み干した直後に倒れてしまってな……幸い命に別状はない」

那智「自室のベッドに運んでおいたから今も眠っているはずだ。酷い二日酔いは避けられんだろうがな」




那智は語った。

酔い潰れ、意識を失いながらも、決してその手は瓶を離そうとはしなかったと。

そこには確かに、帝国軍人としての意地と誇りがあったと。

そして、勇ましく一気飲みを敢行する提督の姿は、とても男らしかった、と。




那智(今回は悪いことをした……だがまたいずれ、共に飲もう、提督よ!)



※提督は酒に強くなるどころかトラウマで逆に飲めなくなりました

本日は以上です
新艦、クールな子が多くていいですね。一押しはアトランタちゃんです
また数日中に投下します。それでは

少しですが投下します



――那智との飲み会(?)から数日後――



提督(――先日の一件で二日酔いどころか五日酔いになってしまった俺は、長らく自室のベッドから出ることができずにいた)

提督(その間の執務は加賀と不知火、そして責任を感じたらしい那智がこなしてくれたようだが……)

提督(酒にかまけて仕事も碌にこなせないアル中野郎として、ますます失望されてしまったことだろう。泣きたい)

提督(それはさておき、数日の療養を経てようやく頭痛と吐き気から解放された俺は、久々に日光浴でもしようかと中庭まで足を運んだわけだが――)



不知火「………………」

響「………………」

弥生「………………」

霰「………………」



提督(――そこには、微動だにせず睨み合う駆逐艦たちの姿があった)


提督「何やってんだあいつら……」



不知火「………………」

響「………………」

弥生「………………」

霰「………………」



提督(一定の距離を保ったまま、まるで互いに牽制し合うように誰一人動こうとしない……)

提督(え? なに、もしかして内部抗争的な何か?)

提督(俺に対しては冷たくとも、仲間同士ではうまくやれてると思っていたのに……!)

提督(ど、どうする!? 上官として止めるべきか……でもあそこに割って入るのは怖いなぁ。だって空気がヤバいもん)

提督(――ええい、ままよ!)



提督「な、なぁ。君らはそこで何をしているんだ?」

4人「「「「………………」」」」シーン

提督(はいシカト頂きましたぁ!!)



提督「お、おーい……」

4人「「「「………………」」」」シーン

提督(あ、もうダメ。こんな幼い子たちからも愛想を尽かされるなんて無理。死のう)

提督(やっぱり五日間も酔い潰れてたからか!? 無理もない、酒に溺れて仕事をしないだなんて、典型的なダメ人間だし……)

提督(くっ、恨むぞ那智よ……! ベッドまで運んでくれたのは感謝してるけど! そのまま一緒に添い寝してくれたらなお良かったです!)



弥生「………………」ピクッ

不知火「! 弥生、アウトです」

弥生「あっ、動いちゃった……」ガッカリ

提督(ん? これって……)


響「……不知火、司令官もいるし一旦中断しないか?」

不知火「……そうですね、では一旦やめにしましょう。霰も動いて大丈夫ですよ」

霰「んちゃ」スッ

提督「なぁ、もしかして……」

不知火「はい、『だるまさんがころんだ』で遊んでいました」

霰「……たのしかった」

提督「そ、そうか」

提督(なるほど、それで俺が話しかけても反応できなかったのか……っていやいやいや、なぜにそのチョイス?)

提督(ただでさえクールで無口な君らが『だるまさんがころんだ』って……)

提督(暗殺者同士が間合いをはかっているようにしか見えなかったぞ!)

提督(……とはいえ快晴の日に外で遊ぶというのは実に子供らしくていい。欲を言えばもっと微笑ましい絵が見たかったが……)



提督(――そうだ!)ピコーン!




提督「……なぁ、もし良ければ私も混ぜてもらえないだろうか?」

弥生「えっ?」

不知火「司令が私たちと一緒に、ですか?」

響「お酒はもう大丈夫なのかい?」

霰「………………」


提督(予想はしていたがこの反応……)


弥生『え゛っ!?』(いい歳したおっさんが私たちと一緒に遊びたいって……)

不知火『司令が私たちと一緒に、ですか……?』(司令“ごとき”が私たちと一緒にですって?)

響『お酒はもう大丈夫なのかい?』(酒臭いのは勘弁してほしいな……)

霰『………………』(あまりの嫌悪感に絶句)


提督(――とまぁこんな感じか……分かってるよ畜生!)グスッ

提督(でもいいじゃん! たまには大人だって童心に帰りたいの! それに仲間外れはよくないと思います!)



弥生(司令官と遊ぶの、初めてかも……嬉しいな)

不知火(病み上がりであるにも関わらず、部下である私たちと交流を深めようとしてくださっている……)ジーン

響(体はもう大丈夫なのかな? 心配だ)

霰(…………んちゃ♪)



不知火「……分かりました。私たちで良ければ一緒に遊ばせて頂きます。皆もそれでいいかしら?」

弥生・響・霰「」ウンウン

提督(ほっ、何とか仲間に入れてもらえるようだ。もし正面から拒絶されていたら追加で3日間は寝込んでいただろう)

提督(だが全員からの了承は得た。これで、これでようやく――)



提督(俺の野望の1つ、『駆逐艦の子たちに混ざって楽しく遊ぶ』が実現できる!!)ドーン!



提督(艦娘たちと楽しくお酒を飲むという夢は潰えてしまったが、あれしきのことでへこたれる俺ではない!)

提督(こちとら伊達に艦娘目当てで軍学校を首席で卒業してねえんだよ!)

※一刻も早く鎮守府に着任するため、めちゃくちゃ頑張った結果首席で卒業しました


提督「よし、では何をして遊ぶ?」

提督(フフフ……いつかこんな日が来た時のことを考え、色々と案は用意してあるのだ)

提督(たとえば“鬼ごっこ”ならタッチという名目で体に触れても咎められない。追いかけている時にバランスを崩してイケないところにうっかりタッチしてしまうのは事故ですよね!)

提督(“花いちもんめ”なら合法的に手を繋げる。しかも両手! まさに両手に花! 勝てずとも嬉しい花いちもんめ!)

提督(何なら“おままごと”で疑似夫婦ごっこもアリだ! 遊びとはいえ駆逐艦に『アナタ💛』とか『パパ💛』と呼んでもらえる。犯罪臭マジパナイ!)



提督「特に案がなければ私が――」

不知火「司令、実は次の遊びは既に考えてあるのですが……」

提督(な、なにィッ!? お触りOKな鬼ごっこは? おてて繋いで花いちもんめは??)

提督(幸せ家族計画なおままごとは!? 俺の長年のプランを無駄にする気か貴様ァ!!)



提督(……い、いや。冷静に考えたらここで駄々をこねるのは大人げなさすぎる)

提督(いい歳した成人男性が子供たちに『やだぁ!おままごとして遊ぶのぉ!』なんてキモすぎて[ピーーー]る)

提督(ここは子供たちの意見を尊重し、それに快く付き合ってあげるのが大人の対応。それにまぁ駆逐艦と戯れられるなら何だっていいか)



提督「ほう、一体それはどんな遊びだ?」

不知火「はい、それは――」


今回はここまで
次回も数日中の投稿を目指します

投下します




弥生「――こちら弥生、北棟1階はクリア。どうぞ」

不知火『こちら不知火、たった今、資材倉庫の屋根に上ったところです。ココなら絶好の狙撃ポイントかと』ザザッ

弥生「了解……敵を発見次第、また報告するね」

不知火『了解』ザザッ








響「――こちら響、応答せよ」

霰『こちら霰……どうぞ』ザザッ

響「北棟1階の窓に人影らしきものを見かけた。恐らく敵チームの誰かだ」

霰『……どうする? 追う?』

響「いや、深追いは禁物だ。確認できた人影は1人分のみ。影の大きさから察するに駆逐艦……不知火か弥生のどちらかだろう」

霰『……人影は囮で、もう1人がどこかから狙ってる……?』

響「ああ。北棟周辺は遮蔽物が少ない。つまり周りからは狙撃し放題ってことさ」

霰『……じゃあ霰は、北棟周辺の狙撃ポイントを当たってみる』

響「頼んだよ。それから、不知火たちだけじゃなく司令官にも気を付けて。今回はいつもと違って三つ巴戦だからね」

霰『……了解』ザザッ








提督(…………なぜだ)

提督(なぜサバゲ―なんだッッ!?)




―――20分前―――



提督「――サバゲ―、だと?」

不知火「はい、最近私たちの間で流行っていまして」

響「遊びながら戦闘の訓練にもなるし、一石二鳥というやつさ」

弥生「最初は怖いかもって思ってたけど、やってみると楽しい、ですよ……?」

霰「………」コクリ


提督(えぇ……)ドンビキ

提督(幼女が天気の良い日に4人集まって、やることがサバゲーかよ……)

提督(さっき暗殺者みたいだとこいつらのことを評したが、そのまんまじゃねえか!)

提督(……というかサバゲーじゃまともに触れ合えなくね?)

提督(そもそも顔を合わせることすらほぼ無いじゃん。顔を合わせた時はどちらかが殺られる時じゃん!)

提督(あれか? なるべく俺と一緒の空間にいたくないから、サバゲーという接触回数の少ない遊びを提案してきたのか?)

提督(それともサバゲーに託けて俺をKILLするつもりか!? エアガンと実銃間違えましたーとか言って!)

提督(……いかん、サバゲーだけは阻止せねば!)


提督「……危険ではないか? BB弾を使うんだろうが、目に入りでもしたら大怪我だぞ」

不知火「ご心配なく。専用のゴーグルも用意してあります」

提督「だ、だが私はエアガンなど持っていなくてな」

響「私のを貸してあげるよ。趣味で何丁か持っているんだ」

提督「そ、そうだ! 鎮守府でサバゲーなんてしていたら加賀やグラーフに怒られて――」

弥生「この間サバゲーをしていたら、

   『あら、面白そうね。今度混ぜてもらってもいいかしら』

   『ほう、遊びにも戦闘訓練を取り入れるとは……日本の駆逐艦は勤勉だな!』

   ……って言われました」

提督「ぐっ! し、しかし……」

霰「……私たちと遊ぶのは、やっぱり嫌?」ウルウル

提督「よし、やろう」キリッ



―――回想終わり―――



提督(……ともかく、サバゲーをすることになってしまった以上は仕方がない)

提督(仕方ない、仕方ないが……」



 Aチーム:不知火 & 弥生

 Bチーム:響 & 霰



 Cチーム:提督(ソロ)



提督(なんで俺だけ単独チーム? なんで俺だけソロプレイ?)

提督(5人なら3:2で別れればいいじゃん)

提督(俺は大人だし、ハンデということで俺を2人チームの方に入れて、残り3人でチームを組めば……はっ!?)

提督(そうか! そうなると誰か1人だけが俺と2人1組のチームになる。それが嫌であっダメ泣きそう)






弥生「……ところで、どうして司令官だけ別チームなの?」

不知火『司令は大人ですし、優秀な軍人です。聞けば軍学校を首席で卒業したとか』

不知火『艤装を使った海上での戦闘であれば艦娘の独壇場でしょう。ですが、陸上での銃器を使った戦闘であれば、訓練を受けている司令に分があります』

不知火『故に、司令であれば1人でも私たち2人分に匹敵する実力を持っていると判断し、パワーバランスを考慮したうえで公平に決めました』

不知火『……それに、もし2:3でチーム分けをした場合、皆司令と一緒のチームになりたがって揉めるでしょうから』

弥生「……たしかに」





不知火『さて、雑談はこのぐらいにして周囲の警戒を―― !』

弥生「? どうかした?」

不知火『人影を確認しました。あれは……』



提督(……くそっ、こうなりゃやってやる!)

提督(大人げなく自分たちに混ざろうとしてきた俺に対し、制裁を加えるためにサバゲーを選んだんだろうが……)

提督(だったら最後まで大人げなく、勝ちを狙いにいってやんよ!!)

提督(軍学校時代に陸上での実戦訓練を受けたこともあるんだ! 海ならともかく陸で小娘共に負けるわけ――がぁッ!!?)タァーン!!




提督(がっ……ヘッド、ショット……だ…と……?)ドサッ




不知火「――命中。司令の沈黙を確認」

弥生『……了解。容赦ない、ね』

不知火「ええ、遊びと言えどここは戦場ですので」



不知火(司令、申し訳ありません……ですが、貴方を尊敬しているからこそ、手加減はしませんでした)

不知火(部下に、それも駆逐艦に手心を加えられたと分かれば、失礼に値しますから……)





提督(……も、もう少し手心を加えてくれてもいいじゃん……)ガクッ



短めですが以上です
本当はサバゲー描写をもっと掘り下げるつもりでしたが……サバゲーもFPSも未経験の自分には無理でした;
次回も10日以内に更新できればと思っています。それでは

投下します



 チュン チュン



提督「――いい朝だ」



提督(今日は気分がいい……というより気が楽でいい)

提督(なぜかというと、加賀と不知火が不在だからだ)

提督(加賀は新設された遠方の鎮守府まで、実技指導のために出張中)

提督(不知火は昨晩から長距離遠征に出ており、加賀と同じく数日間は帰ってこない)

提督(と、いうことは――)



提督「――今日の執務は俺1人だああああぁぁぁぁ!!!」ッシャオラァ!!



提督(毎日毎日、朝から晩まであの2人と同じ空間に閉じ込められてみろ)

提督(一日中、書類にペンを走らせる音と、時計の針の音ぐらいしか聞こえないんだぞ?)

提督(会話も、談笑も、とLoveる的なハプニングも、ほぼ一切ないんだぞ!?)

提督(加賀からは『仕事が遅いですよ』と言わんばかりの無言の圧力をかけられ、不知火からは俺を射抜かんばかりの眼光を浴びせられ……)

提督(あんな空間で胃を痛めながら仕事をするぐらいなら、仕事量が増えたとしても1人で気楽に取り組んだ方がマシだ!)

提督(……まさか艦娘と一緒に過ごしたくないだなんて、少し前の俺なら考えもしなかっただろうにな)ホロリ



提督「さぁーて、ラジオでも流しながら優雅にお仕事しますかね、っと!」ルンルン

提督「あ、そうだ! お歳暮で貰った羊羹も出そう。えーとたしかそこの戸棚に――」



 コン、コン。



提督(? 朝っぱらから一体誰だ?)

提督「入れ」

グラーフ「失礼する」ガチャ

提督「グラーフ……? どうかしたのか?」

グラーフ「ん? 加賀から聞いていないのか?」

提督「加賀から? 何のことだ?」

グラーフ「本日は加賀と不知火に代わり、私が秘書艦を務めさせてもらう。よろしく頼む」ビシッ




提督(……は?)


――
――――
――――――


グラーフ「………………」カリカリカリ

提督「………………」カリカリカリ

グラーフ「………………」カリカリカリ

提督「………………」カリカリカリ



提督(……気まずい)

提督(なんでもグラーフ曰く、加賀が出張に行く前に……)



加賀『3日ほど留守にしますので、その間の秘書艦業務をお願いできないかしら』



提督(と、気を利かせてグラーフに秘書艦代理を頼んでくれたらしい)

提督(…………嘘だッッ!)クワッ

提督(俺のことを毛嫌いしている加賀が、そんな気を利かせてくれるはずがない!)

※ご存知の通り、提督は艦娘たちに嫌われていると思い込んでいます


提督(……大方、補佐役ではなく監視役として派遣されたんだろう)



提督の想像する加賀『3日ほど留守にしますので……その間、あの無能が仕事を滞らせないよう見張っていてください』



提督(――ってな具合になぁ! お前らの考えは読めてんだよ!)


グラーフ(………………)カリカリカリ

グラーフ(……秘書艦を務めるのは初めてだが、今のところ問題なく業務をこなせている……ように思う)

グラーフ(私を信頼して秘書艦を任せてくれた加賀のためにも、決してミスなど許されない)

グラーフ(……それに、Admiralに情けない姿を見せるわけにはいかないからな)フッ




提督(ちくしょう、せっかく1人で気ままに仕事するつもりだったのに……)

提督(これじゃあいつもと変わりないじゃないか!)

提督(そりゃあ秘書艦がいてくれた方が仕事は捗るが……代わりに俺の胃が犠牲になるんだよなぁ)キリキリ

提督(ドイツという国の国民性なのか、彼女は仕事や規則に対して非常に厳格だと聞く)

提督(もしラジオを聴いたり、羊羹を食べながら仕事しようものなら……)



グラーフ『Admiral、今は職務中だぞ。休憩時間まではあと53分41秒もある。分かったらラジオを止めてその菓子をしまえ』ギロッ



提督(なんてことになりかねん!)ヒィィィ

提督(それに今日この場で起こった出来事は、後日グラーフを通じて加賀の耳にも入るだろう)

提督(もしそうなればあとで加賀からも何を言われるか…………いや待てよ)


提督(この鎮守府に着任してからずっと、加賀は秘書艦として俺の側にいた)

提督(だからこそ、本来ならば信頼関係を築けているはずだが……現実はその真逆だ)ガックリ

提督(あれだけ一緒にいても全く会話が弾まないし、彼女が笑っているところを未だに見たことがない)

提督(恐らく骨の髄まで俺のことを嫌悪しているのだろう。或いは完全に無関心なのか……言ってて悲しくなってきた)グスッ


提督(……だが、グラーフは違う)

提督(廊下ですれ違うたびに挨拶をしたり、朝礼や演習などで顔を合わせることはあるものの、一緒に過ごした時間は短い)

提督(それはつまり、お互いをまだよく知らないということだ)

提督(加賀にはすっかり嫌われてしまったが、グラーフとならまだこれから仲良くなれる可能性はあるはず……!)

提督(そして“監視役”として派遣されたグラーフは、後日加賀にこう報告するわけだ――)



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

グラーフ『秘書艦を務めてみて分かったが、Admiralはとても紳士的で誠実な男だったぞ!』

加賀『グラーフさんがそこまで言うなんて……もしかして私は提督のことを誤解していたのかもしれないわね』シュン

グラーフ『今からでも遅くはない。Admiralに少し歩み寄ってみてはどうだ?』

加賀『ですが、私はこれまで提督に冷たい態度を……』

グラーフ『フッ、Admiralはそんなことを気にするような小さい男ではないさ。何なら私が仲介役になろう』

加賀『グラーフさん……分かったわ。私、提督と仲良くなってみせます!』グッ

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



提督(完 全 勝 利)

提督(いける……これはいけるぞ!)カリカリカリカリ!

提督(まだ俺の野望は潰えていない! むしろここからがスタートだ!)カリカリカリカリイィィィ!!



グラーフ(Admiral……何だか知らないが凄いやる気に満ちているな)

グラーフ(加賀と不知火が言っていた通り、仕事熱心な人だ)フフッ


提督(となると問題は、どうやってグラーフと仲良くなるかだが)

提督(物で釣る……のは駄目だ。彼女のようなプライドの高い人物に対しては逆効果になりかねん)

提督(例えば秘蔵の羊羹で懐柔しようとでもしてみろ。きっと……)



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

グラーフ『こんな物で私を釣ろうとは……随分と安く見られたものだな』フン!

グラーフ『そもそも食べ物で懐柔しようなどとは、貴官は私を何だと思っているんだ!』プンスカ

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



提督(……なんてことになるだろう)

提督(うん、物で釣る作戦は無しだな)







グラーフ(……先程から気になっていたが)

グラーフ(あの戸棚の隙間から見えている物……もしや噂に聞く“ヨーカン”ではないか?)

グラーフ(加賀の話では、日本が誇るスイーツの中でも一二を争うほどの美味だとか……)

グラーフ(……た、食べてみたい)ゴクリ

グラーフ(だが……)



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

提督『何? あの羊羹を食べたい、だと?』

提督『……グラーフ、代理とはいえ今の君は秘書艦だ』

提督『勤務中に食欲を抑えられないとは、秘書艦としての自覚が足りていないんじゃないか?』ハァ…

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



グラーフ(……真面目なAdmiralのことだ。きっと呆れられてしまう)

グラーフ(それに何より、食い意地の張った女などと思われるわけにはいかない!)

グラーフ(いかん! 邪念を捨て、執務に集中せねば……!)カリカリカリカリ


提督(物で釣るのが駄目なら、とりあえず褒めてみるのはどうだろうか?)

提督(相手が誰であれ、褒められて悪い気のする人間はいないだろう)

提督(しかし褒めるにしても俺は彼女の内面をあまりよく知らない)

提督(となると必然的に外見を褒めることになるが……)チラッ


グラーフ「………………」カリカリカリ


提督(……うむ、やはりどこから見ても美人だ)

提督(容姿を褒められた経験も一度や二度ではあるまい)

提督(つまり安易に褒めようものなら……)



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

グラーフ『貴官も他の男と同じような台詞を言うのだな。いい加減聞き飽きたぞ』ハァ

グラーフ『そんなありふれた世辞で私の気を惹こうなどとは、所詮Admiralもその程度の軽い男だったか』フン

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



提督(……これも駄目だな)ウン

提督(そもそも俺は女性の扱いに慣れていない)

提督(童貞の考えた陳腐な誉め言葉程度では、気を良くさせるどころかイメージダウンになりかねん)←童貞

提督(うーむ……)チラッ


グラーフ「………………」カリカリカリ


提督(……しかしホント、見れば見るほど美人だよなぁ)


グラーフ(……先程からチラチラとAdmiralの視線を感じる)

グラーフ(何だ? 私の顔に何か付いているのか?)

グラーフ(そ、それともどこかおかしいところが……!?)

グラーフ(くっ、秘書艦代理と聞いていつも以上に身嗜みに気を遣ってみたのだが……)

グラーフ(化粧の仕方がおかしかったか? それとも髪型がどこか崩れているのか?)アセアセ

グラーフ(だ、だらしない女だとは思われていないだろうか……)オドオド



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

提督『グラーフ、君は軍人や艦娘である以前に、一人の女性だろう』

提督『勤務中とはいえ、最低限の身嗜みぐらいには気を遣ったらどうだ?』ハァ…

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



グラーフ(……などと言われたりはしないだろうか)オロオロ

グラーフ(これまで異性と関わる機会などほぼ無く、それゆえ自分の容姿を気にしたことも無かったが……)

グラーフ(わ、私の外見は異性から見てどうなんだ?)

グラーフ(Admiralは……私のことを女性として見てくれているのだろうか……)ソワソワ


提督(……いかん、時間だけが無駄に過ぎていく)カリカリカリ

提督(黙々と仕事に取り組んでいる甲斐あって、執務自体は順調に進んではいるが……)



グラーフ(……ダメだ、せっかくの機会だというのに、無為に時間だけが過ぎていく)カリカリカリ

グラーフ(幸い執務自体は滞りなく進められてはいるが……)



提督「………………」カリカリカリ

グラーフ「………………」カリカリカリ

提督・グラーフ((…………と、とにかく何か話しかけてみよう!))




提督・グラーフ 「……グラーフ」「……Admiral」


提督・グラーフ「「!?」」


提督「ど、どうかしたか?」

グラーフ「あ、Admiralこそ、私に何か言おうとしていただろう?」

提督「う、うむ。その、だな……」


提督(やっべ! なんつータイミングの悪さだよ畜生!)

提督(図らずもグラーフの言葉を遮る形になってしまった……しかも咄嗟のことで頭が真っ白になって何も台詞が思い浮かばねぇ!)

提督(こういう時リア充だったら、気の利いた言葉や場を繋ぐトークがすんなり出てくるんだろうが……)

提督(くそっ! 軍学校では武器の扱い方は習っても、女の扱い方までは習ってねぇんだよ!)グヌヌ



提督「あー……」

グラーフ「………」ドキドキ

提督「いや、何というか……その……」




   グ ゥ ~




提督「……………」

グラーフ「…………///」←腹の虫が鳴ってしまい赤面中

提督「…………その、羊羹でも、食うか?」



――――――
――――
――


グラーフ「……美味しい」モグモグ

提督「……気に入ってもらえたようで何よりだ」

グラーフ「すまない……まだ執務も終わっていないというのに、こんな高級スイーツを頂いてしまって……」

提督「貰い物だし別に構わんさ。それに……本当のことを言うと、私も執務中に食べるつもりで取っておいたんだ」

グラーフ「何? そうなのか?」

提督「あ、ああ…………仕事中に間食を取るのは、感心しないか?」

グラーフ「フッ、それを言うなら今の私はどうなる」モグモグ

提督「そ、それもそうか……あっ、いや! 決してお前のことを感心しないなどと言うつもりではなくてだな……!」アセアセ

グラーフ「……ふふっ、分かっている。貴官でもそのように狼狽えたりするのだな」フフッ

提督「!」

グラーフ「しかし、このヨーカンというスイーツは本当に甘いな。コーヒーに合うかもしれない」

提督「……羊羹には日本茶がよく合うぞ」

グラーフ「ニホンチャ? ああ、グリーンティーのことか?」

提督「緑茶もそうだが、羊羹のような深みのある甘さには、渋みの強い煎茶や抹茶が合うらしい」

グラーフ「センチャ? マッチャ? ……ふむ、それは飲んだことが無いな」

提督「……よければ今から淹れよう」

グラーフ「!」

提督「羊羹と一緒に頂こうと思ってな、ちょうど煎茶を買っておいたのだが…………どうだ?」

グラーフ「……ふっ、ではお言葉に甘えて頂くとしよう」ニコッ


グラーフ「」ズズッ

グラーフ「……ほぅ。なるほど、確かにこの渋みがヨーカンの甘味と引き立て合い、お互いがより美味しく感じられるな」

提督「良かった。あまり西洋では馴染みのない味だからな。口に合わなければどうしようかと思ったが……」

グラーフ「たしかに人を選ぶ味かもしれない。少なくとも、子供たちは苦手そうだ」ズズッ

グラーフ「……ふぅ」


提督(……なぜだろう)

提督(見た目はまるっきり外国人なのに、両手で湯飲みを持って茶を啜る姿に違和感を感じない)

提督(それどころか、普段は見せない穏やかな表情を浮かべて一息つく姿は、何だか様になっていて……)


提督「……絵になるな」ボソッ

グラーフ「!? ごほっ! ごほっ!」

提督「だ、大丈夫か!?」

グラーフ「ごほっ! ……い、いきなり何を言うのだ、貴官は」///

提督「す、すまん。気に障ったか……?」

グラーフ「……いや、気に障ってはいない、が……そんなことを言われたのは初めてだ」

提督「そんなこととは?」

グラーフ「だから、その……絵になるなどという浮いた台詞を、だ」///

提督「あ、ああ。あれはその、何というか……」

グラーフ「……貴官はもっと堅い男かと思っていた」ジトー

提督「……思ったことが勝手に口から出ただけだ。それを言うなら君こそ、もっとお堅い女性だと思っていた」

グラーフ「む? たしかに装甲は加賀よりも硬いが……装甲空母ほどではないぞ?」

提督「いや、そういう意味では……フフッ」

グラーフ「! Admiral、今笑ったか?」

提督「す、すまん。ついおかしくてな……不愉快であったのなら謝ろう」

グラーフ「……いや、貴官はもっと笑った方がいい。今のように、な」ニコッ

提督「………そうか」フッ



――――――
――――
――



―――3日後―――


加賀「航空母艦、加賀。ただいま出張から戻りました」

不知火「同じく不知火、長距離遠征より帰投しました」

グラーフ「ああ、おかえり。2人とも長旅で疲れただろう」

加賀「ええ、少しばかり……けれどそれを言うならグラーフさんこそ、慣れない秘書艦業務でお疲れでは?」

不知火「遠征のためとはいえ、急に秘書艦を押し付けてしまい申し訳ありません」

グラーフ「なに、たしかに初日こそ覚えることが多くて多少苦労したが、2日目以降はこれといって苦にならなかったぞ」

加賀「そうですか。流石はグラーフさんね。貴方に秘書艦業務を任せて良かったわ」

グラーフ「ふふ、そう言ってもらえると私も鼻が高い」ンフー



不知火「……ところで、私たちが留守の間、司令とはどうでしたか?」

グラーフ「どう、とは?」

加賀「その……グラーフさんはあまり提督と話をしたことがないと言っていたから、気まずくはなかったのかと」

グラーフ「ふむ、まぁ……」




 提督『……絵になるな』




グラーフ「……ふふ」

加賀「?」

グラーフ「いや、特に問題は無かった。Admiralのことも、少しだけ分かった気がするよ」フフッ

不知火「……何だかひっかかります」ジー

グラーフ「気のせいだろう。それより、何ならこれからも定期的に秘書艦業務を代わっても――」

加賀「そこ(秘書艦)は譲れません」キッパリ

グラーフ「そうか、それは残念だ」フフッ


―――執務室―――



提督「………………」




 グラーフ『貴官はもっと笑った方がいい。今のように、な』




提督(……自分でも驚くくらい、自然に接することができていたな)

提督(もしかしたら俺は、彼女たちのことを誤解していたのかもしれない)

提督(勝手に自分で壁を作り、被害妄想を抱いていただけなのではないか……?)


提督(……今日からまた加賀と不知火が秘書艦だ)

提督(グラーフの時と同じように、相手のご機嫌を伺おうとせず、自然体で接すれば……)

提督(もしかしたら……いや、きっと仲良く――)



  バァーン!!



提督「!?」

加賀・不知火「………………」

ドアだったもの「」

提督「ふ、2人とも、長期の出張と遠征、ご苦労だった」

加賀・不知火「………………」

提督「きょ、今日からまた秘書艦として、よろしく頼む!」

加賀「……ええ、心配いらないわ」ムスーッ

不知火「……今後とも、ご指導ご鞭撻、よろしくです」ムスーッ

提督「あ、ああ……」






加賀「………………」カリカリカリ ←グラーフに焼きもちを妬いてモヤモヤしている

不知火「………………」カリカリカリ ←グラーフの嬉しそうな態度が引っかかってヤキモキしている

提督「………………」カリカリカリ ←2人の不機嫌そうな様子に胃がキリキリしている




提督(…………やっぱ気まずい)


今回はここまで
嫁回なのでいつもより多めの更新でした


次回はパッション鎮守府との演習回です
パッション鎮守府で出してほしい艦娘がいれば挙げていってください
ただ、なるべくパッション属性っぽい艦娘でお願いします
(明確な定義は無いので絶対にこの艦娘はダメ!ということはないですが)

下10レスの中から5~6人ぐらい適当に拾います

それではまた

冒頭が書き上がったので投下します



―― とある鎮守府 正門前 ――



  バタン  ブロロロロロ...



那智「……ふぅ、ようやく着いたか」

加賀「随分と時間がかかったわね」

不知火「仕方ありません。県を3つも跨ぐような距離でしたから」

グラーフ「しかしなぜバス移動なんだ? 私は一度シンカンセンとやらに乗ってみたかった……」シュン

霰「グラーフさん……元気、出して」

響「仮にも私たちは軍の最重要機密と同列の扱いなんだ。公共交通機関を使うわけにはいかないさ」

那智「それに、バスに揺られての長旅も悪くなかっただろう?」

不知火「フネである私たちがバスに乗って移動するなど、それだけで貴重な体験でした」

グラーフ「それはそうだが……ん? Admiralはどうした?」

不知火「司令ですか? そういえば姿が見当たりませんね……」キョロキョロ

提督「………ここだ」スッ

不知火「あっ、司令。一体どこに――ッ!?」ゾクッ



提督「………………」ゴゴゴゴゴ



不知火(こ、この気迫……司令に一体何が……!?)

那智(ほう……敵地に着いて早々、戦意に満ち溢れているようだな!)

グラーフ(いかん、今日は遠足で来たのではなかった……どうやら私は気が緩んでいたようだ)

加賀(さすがね、提督。ついさっきまで旅行気分でいた皆の気が引き締まったようだわ)





提督(………ぎぼぢわ゛るい゛)

提督(バス酔いして近くの茂みで吐いていたなどとは言えない……)

提督(う゛っ……イカン! 気を緩めたらまた吐きそうだ……!)




???「Hoi! 私たちの鎮守府へようこそ!」

???「待ってたわよ、不知火!」



那智「ん? どうやら出迎えのようだが……」

不知火「! 貴女は……陽炎姉さん!」



デ・ロイテル「長旅おつかれ~。でもって今日はよろしくねっ!」キラッ☆

陽炎「久しぶりね! 元気してた?」

不知火「陽炎姉さんこそ、相変わらず元気そうですね」

グラーフ「なんだ、不知火と……えーと」

陽炎「陽炎よ。よろしくね、外人さん!」

グラーフ「ああ、よろしく。不知火とカゲロウは姉妹なのか?」

不知火「はい。私は陽炎型駆逐艦の2番艦で、姉さんは名前の通り1番艦です」

陽炎「以前は一緒の鎮守府に所属してたんだけど、転属やら何やらでここ数年は会えてなかったのよねー」ギュッ

不知火「……あの、姉さん。離してください」

陽炎「え~、久々に会えたんだし、少しぐらいスキンシップさせてくれたっていいじゃない!」ダキツキ

不知火「はぁ……仕方ありません。少しだけですよ」

グラーフ(と言いつつ満更でもなさそうだな)フフッ




デ・ロイテル「ん? もしかしてアナタは……げげっ! あの時の重巡!?」

那智「そういう貴様は……たしかデストロイア、だったか?」

デ・ロイテル「デ・ロイテルよ! 駆逐艦でも怪獣でもないしっ!」

那智「あ、ああ。すまん」

デ・ロイテル「もうっ! ……けどいいわ。こうして再会したのも何かの縁よね。仲良くしましょ?」ニコッ

那智「……ふっ、そうだな。スラバヤでの戦いで連合軍の指揮を執る貴様の勇姿は今でも鮮明に覚えているぞ」スッ

デ・ロイテル「ほんと!? へへーん、そう言ってもらえると嬉しいわ!」ガシッ

那智「今日は貴様たちと戦えるのを楽しみにしている」ガシッ





陽炎「――ところで、貴方が不知火たちの司令官?」

提督「ああ……今日はよろしく頼む」ゴゴゴゴゴ


陽炎(す、凄い気迫ね……不知火にも負けず劣らずって感じだわ)

デ・ロイテル(やっばーい! 何だか怖そうな人かも……)


提督(……ダメだ、吐き気が収まらん)ゴゴゴゴゴ

提督(艦娘同士交流を深めるのは構わんが、とりあえず中に案内してくれ! でもって少し休ませてくれ!)ゴゴゴゴゴ


陽炎「た、立ち話もなんだし、とりあえず鎮守府の中を案内するわね!」

デ・ロイテル「じゃあ改めて――」コホン



陽炎&デ・ロイテル「「パッション鎮守府へようこそ!!」」




―― パッション鎮守府 廊下 ――



陽炎「――と、いうわけで、この鎮守府には総勢10名の艦娘が所属してるの」

不知火「10名ですか。私たちも人のことは言えませんが、随分と小規模ですね」

陽炎「仕方ないわよ。まだ設立されて1年ちょっとの駆け出し鎮守府だもの」

デ・ロイテル「でもでも、所属してる子たちはみーんな個性的で面白い人ばっかりなんだから!」

響(それは鎮守府を運営する上で重要なことなんだろうか……?)


陽炎「もちろん個性的なだけじゃなく、全員実力者ぞろいよ?」

加賀「……この辺りの海域には、近年になって深海棲艦が多数出没するようになったと聞いています」

陽炎「ええ。だからこそ、こうして鎮守府が設立されたの。でも艦娘の人数にも限りはあるし……」

デ・ロイテル「あまり大人数をこの鎮守府に移籍させるわけにはいかなかったから、各地から実力者を少数集めて、いわば先遣隊としてこの鎮守府に配属させたってわけ」

陽炎「だから必然的に、ここには全国各地の猛者たちが集ってるのよ」

デ・ロイテル「いわゆる少数精鋭ってやつ?」

不知火「なるほど……となれば、今日の演習も一筋縄では行かないでしょうね、司令」

提督「……うむ、そうだな」ゴゴゴゴゴ

提督(早く……早く休憩させてくれぇ!)




???「あっ! お客さん発見なのね!」タタタタッ――ダキッ!



提督(ん? 誰かがこちらに駆けて―――なッ!?)ヨロッ

加賀・不知火「!?」

陽炎「あっ! こらイク! いきなり抱き着いたりしたら駄目じゃない!」

伊19「へへー、お客さんなんて久しぶりなのね! 貴方が今日演習する鎮守府の提督さん?」スリスリ

提督「あ、ああ。その通りだ」

伊19「へー……よく見るとなかなかのイケメンさんなのね!」ギューッ

伊19「けどそんなコワイ顔してちゃダメなの! ほら、笑って笑って!」ムギュ

提督「ひょ、ひょら! ひゃめにゃいか!」ホッペタツネラレ‐

提督(うおおおおぉぉぉぉ!! 頼むから今は大人しくさせてくれぇ!!)

提督(あまり揺らされると吐き気が……うぷっ)

提督(くそっ、揺らすのはその胸だけにしろってんだよ……!)


陽炎「ちょ、ちょっとアンタ! いくらなんでも失礼でしょうが!」ヒキハガシ

伊19「ぶー! もっと遊びたいの!」プンプン

陽炎「あのねぇ、この人たちは遊びに来たわけじゃないのよ?」

陽炎「ほら! 私は皆を執務室まで案内しなくちゃいけないから、さっさとどっか行った!」シッシッ

伊19「イケズなの! もうっ、あとでもっと遊んで貰うのねー!」タタタタッ



陽炎「まったく……あの、ごめんなさい。イクにも悪気はないんだけど……」

提督「い、いや、構わん。少し驚いたがな」

提督(いざ離れられると少し口惜しい気もするな……さきほどの柔らかい感触をもっと味わっておくべきだった)クッ!

提督(……ん? あれ……酔いが収まっている、だと……!?)

提督(ついさっきまであんなに気持ち悪かったのに……もしや、イクの過剰なスキンシップにより酔いが消え去ったのか!?)

提督(性欲の高まりが、気分の悪さを上回ったとでも!?)

提督(なんてことだ……まさかおっぱいに酔い覚ましの効果があったとは!!)

提督(思えば異性に抱き着かれるなんて生まれて初めてだが、衣服越しでもおっぱいの感触が伝わってくるとはな……)

提督(ふふふ、感謝するぞイク! 二重の意味でな!)フフフ



デ・ロイテル(あれだけ失礼なことをされたのに、嫌な顔一つせず笑ってる……?)

陽炎(厳しそうな人に見えたけど、意外と心は広いみたいね)ホッ

加賀・不知火(………………)←なんだか面白くない




???「Hi! 陽炎、ロイテル、Guestの案内ご苦労さま!」



デ・ロイテル「あっ、アイオワ! はろー!」フリフリ

陽炎「アイオワさんこそ、昼食の準備お疲れ様です!」

アイオワ「Thank you! まったく、Guestの分の昼食も用意してくれだなんて、Admiralも急に言わないでほしいわ!」

陽炎「まぁ食事当番は交代制ですし……」

デ・ロイテル「たまたま今日の当番がアイオワだったんだから、仕方ないよー」

アイオワ「You're right.(それもそうね) ところで、アナタたちが今日の演習相手かしら?」

加賀「はい、よろしくお願いします……しかし驚きました」

アイオワ「What?」

加賀「まさかアメリカ史上最高の軍艦とも謳われた貴女が着任しているとは」

グラーフ「カゲロウがここの鎮守府は強者揃いだと言っていたが、どうやら本当のようだ」

アイオワ「Oh! そう言ってもらえると嬉しいわ。えーっと……」


加賀「正規空母、加賀です。どうぞよろしく」

グラーフ「同じく正規空母のグラーフ・ツェッペリンだ。海外艦同士、仲良くしよう」

那智「重巡洋艦、那智だ」

不知火「駆逐艦、不知火です」

響「響だよ、不死鳥の通り名もあるよ」

霰「……霰、です」

アイオワ「アラ、レ……? Oh! Dr.SLUMP!? ニッポンのComicは私も好きよ!」

霰「……んちゃ、とかは言いません」




アイオワ「それから……Youが彼女たちのAdmiral?」

提督「ああ」


提督(デカァァァァァいッ! 説明不要!)

提督(さきほどのイクも凄かったが、こちらも負けてはいない!)

提督(むしろ谷間が強調されている分、視覚的な刺激はアイオワの方が上か……?)

提督(……今日は来て良かった)グッ!


アイオワ「MeがIowa級戦艦Name Ship、アイオワよ。Nice to meet you!」

提督「こちらこそ。よろしく頼む」

提督(元気で明るくて社交的で、まるで俺の理想としていた艦娘じゃないか!)

提督(デ・ロイテルにせよイクにせよ、ここの子たちは皆フレンドリーでいいなぁ……)

提督(うちの子たちも見た目や実力では負けていないと思うが、いかんせん親しみやすさが無い)

提督(まぁそれは提督である俺に威厳やらコミュ力やらが足りていないせいだが………泣きそう)



デ・ロイテル(イクにからまれていた時は笑ってたのに、今は何だか辛そうな顔をしている……?)

陽炎(やっぱり日本の軍人としては、かつての敵国であるアメリカの軍艦に対して思うところがあるのかしら……)




―― パッション鎮守府 執務室前 ――



陽炎「――着いたわ。ここが執務室よ」


提督(ようやく向こうの提督とご対面か)

提督(所属している艦娘たちの性格から鑑みて、恐らく提督も明るくて快活な人物なんだろう)

提督(毎日艦娘たちと楽しいリア充生活を送っているんだろうな……くっ、羨ましすぎる!)


陽炎「司令、入るわよ」

???「……あぁ」



  ガチャ



パッション提督「ようこそ……私がこの鎮守府の提督、です……」ゲッソリ   ※以下、Pa提督と表記

提督(!?)

提督(な、なんだ? この覇気のまるで感じられない人物は?)


提督「ほ、本日はお招き頂き、ありがとうございます!」ビシッ

Pa提督「こちらこそ……はるばるお越し頂き、ありがとうございます……」ゲッソリ

Pa提督「演習は午後……ヒトゴーマルマルからの開始を予定していますので……どうぞそれまではお寛ぎください」

提督「お、お気遣いありがとうございます」

提督(何だかやつれているようだし、色々と大丈夫なのか、この人は?)

提督(常にスマイルの絶えないナイスガイを予想していたのだが……一体なぜこれほどまで憔悴して――)




???「執務室にいっちばーん!」ドアバァーン!!

???「ああもうっ! 白露速すぎー!」ドタドタ



提督「?」

Pa提督「こ、こら! ノックをしてから静かにドアを開けるよう、いつも言ってるだろう……!」


白露「えぇー? 細かいことは気にしない気にしないっ!」

舞風「怒っちゃやーですよぉ、提督ぅ!」

Pa提督「まったく……それよりほら、皆さんに挨拶しなさい」

白露「わわっ! もしかして今日の演習相手の人たち? 初めまして、白露型1番艦、白露だよ!」ビシッ

舞風「どもどもー! 陽炎型駆逐艦、舞風です! ……って不知火姉さん!?」

不知火「あら、舞風も所属していたの。相変わらず騒がしいわね」

舞風「それが私の取り得ですから! っていうか陽炎姉さん、不知火姉さんが来るって知ってたんなら教えてよー!」

陽炎「ふふっ、ごめんごめん。せっかくだしサプライズにしようと思って。でも久々に姉妹が3人も揃ったわね!」ギュッ

不知火「ね、姉さん……! 先程も言いましたがあまりベタベタしすぎないでくれませんか」

陽炎「えー? そんな寂しいこと言わないの! ほらっ、舞風もこっち来なさい!」

舞風「わわっ、何だかちょっと恥ずかしいけど……まぁいっか! よぉ~し、せっかくだし再会を祝して踊りましょう! それ、ワン、ツー♪」

不知火「ちょ、ちょっと! 舞風まで……!」アタフタ

陽炎「あははっ! それ、ワン、ツー♪」




白露「いいなー、陽炎も舞風も……ていとくぅー、私も妹たちに会いたいよー!」

Pa提督「そんなこと言われてもな……そ、それより、近海警備の報告を頼む」

白露「はーい! えっとねぇ――」



???「お姉はどこ!?」ドアバァーー-ン!!



提督(!? 今度はなんだ?)

Pa提督「ち、千代田。お前までドアを……」


千代田「そんなことより千歳お姉は? 今度こそ千歳お姉に会えたの!?」ガシッ、ユッサユッサ

Pa提督「お、落ち着け! 肩を揺らすな……!」ガックンガックン

白露「あー……ごめんね千代田さん。今回の出撃でも千歳さんには会えなかったよ」

千代田「そ、そんなぁ……!」

Pa提督「ほ、ほら! 分かったら手を離s「提督!!」

千代田「私がここに配属されてからもう396日も経つのに、未だに千歳お姉に会えないってどういうこと!?」

Pa提督「どういうことと言われても……ドロップも建造も運次第なんだ、仕方がないだろう……?」

千代田「そ・れ・で・も! 毎日毎日出撃してるのに一向に出会えないなんておかしいでしょ?!」

千代田「はっ! ……ま、まさか提督、お姉のことを隠してるんじゃないでしょうね?!」ユッサユッサ

Pa提督「は!? な、何を訳の分からんことを……!」ガックンガックン

千代田「本当はとっくの昔にお姉は着任してるのに、私に会わせないよう隠してるんでしょ!?」

千代田「それで……それできっと、毎晩隠し部屋で千歳お姉と……い、いやぁぁぁあああぁぁぁぁ!!」ブンブン!

Pa提督「お、落ち着けぇ! 落ち着いてくれええぇぇぇ!!」ガクンガクン!

Pa提督「ア、アイオワ! 千代田を何とかしてくれぇ!」ガクンガクン!


アイオワ「もう、しょうがないわね! 千代田、少し落ち着いて! Calm down!」ガシッ

千代田「離してアイオワさん! 千歳お姉が、千歳お姉がぁ!!」ウワァァァン!

アイオワ「とりあえず、食堂にでも連れて行くわね。また後で会いましょ! Bye!」

千代田「千歳お姉! 千歳お姉ぇぇぇぇ......!!」ズルズル...




Pa提督「ふぅ……すみません、見苦しいところをお見せしました……」グッタリ

提督「い、いえ。何というか、大変ですね……」

Pa提督「ハハハ……千代田も普段は優しくていい子なんですが、姉である千歳のこととなると、たまに暴走気味になってしまって……」ゲッソリ

白露「でも姉妹に会えなくて辛いっていう気持ち、わかるわかるー!」

デ・ロイテル「あっ、白露! それひょっとして私のマネ?」

白露「あっ、わかるー?」

デ・ロイテル「わかるわかるー!」

白露&デ・ロイテル「「やっばーい、ウケる―!」」キャハハハハ!


Pa提督「はぁ……」アタマカカエ

提督(に、賑やかすぎるのも考え物だな……)←ちょっと引いてる





陽炎「ところで司令、もう正午になるけど」

Pa提督「ん、ああ……そろそろ昼食にしようか。皆さんの分も用意してありますので、食堂へどうぞ」

提督「ありがとうございます」

響「たしかアイオワさんが食事の用意をしてくれたって言ってたよね」

陽炎「ええ。ああ見えてあの人、料理が得意なのよ?」

那智「ほう、人は見かけによらないな」

グラーフ「アメリカ艦の手料理か……楽しみだな、加賀」

加賀「はい。流石に気分が高翌揚します」ワクワク


今回はここまで
ついでにパッション鎮守府の簡単なキャラ設定でも




Pa提督……苦労人。疲れが取れるからという理由で、☆マークの入った謎のドリンクを常飲しているが入手ルートは不明

陽炎……しっかり者の長女。パッション鎮守府の秘書艦を務めており、駆逐艦ながら周囲からの人望は厚い

デ・ロイテル……新進気鋭のオランダ軽巡。史実では那智(と羽黒)の魚雷が原因で沈んでいる。コミュ力の高さは鎮守府随一

伊19……悪戯っ子。悪意はないが、性知識に乏しいまま過剰なスキンシップを取ろうとしてくるので性質が悪い(下半身のタチは良くなる)

アイオワ……アメリカが誇る大戦艦。陽炎が日常生活におけるリーダーなら、アイオワは戦闘におけるリーダー。燃費が悪いのが玉に瑕

白露……何でも一番に拘る駆逐艦。同じ駆逐艦かつ長女でもある陽炎や、波長の合うデ・ロイテルと仲が良い

舞風……陽炎と不知火の妹。じっとしていることが苦手で、よく皆にダンスを披露している

千代田……普段はマトモだが定期的に暴走する。チトセニウムの摂取量が不足しているのが原因と考えられている(大本営調べ)




残りの面々は次回登場予定です
週1~2回ある休みの日に一気に書くスタイルなので、次の更新は早ければ1週間以内に。それでは


お待たせしました。投下します



―― パッション鎮守府 食堂 ――



白露「いぇーい! 食堂に一番乗りー!」キャッホー!

Pa提督「いちいち騒ぎ立てるんじゃない、まったく……」ハァ

Pa提督「すみません、騒がしい鎮守府で……」ペコリ

提督「なぁに、賑やかでいいじゃないですか」ハハハ

提督(少し喧しい気もするが、毎日がお通夜みたいなウチと比べたら……)

Pa提督「いやはや、お恥ずかしい……」

Pa提督(反面そちらの鎮守府の子たちは落ち着きがあって羨ましいですね……)


提督・Pa提督(いいなぁ……)






加賀「ここが食堂ですか」ウキウキ

グラーフ「何やら美味そうな匂いが漂ってくるな」ワクワク

不知火「先に向かったアイオワさんと千代田さんの姿が見当たりませんが」キョロキョロ

陽炎「きっと調理場じゃないかしら? 様子を見てくるから先にテーブルに……ってあれは――」



???「えへへ~♪ もう1本開けちゃお~っと」キュポン


陽炎「ポ、ポーラさん!? 昼間っから何やってんの!?」

ポーラ「ん~? カゲロウさんも一緒に飲みますぅ~?」エヘヘ

陽炎「うわっ酒クサっ! もうっ! 今日は午後から演習だから、あれほどお酒は飲んじゃダメって言ったじゃない!」

ポーラ「だいじょーぶ~。ポーラ、お酒が入ってても戦えますっ!」ビシッ

陽炎「そういう問題じゃなくて……ああもう、司令も何とか言ってよ!」

Pa提督「今度はどうした……ってポーラ!? お前一体何を……!」

ポーラ「え~? 何って、演習前の景気づけですよぉ♪」

Pa提督「こ、ここにある酒全部飲んだのか!?」

デ・ロイテル「うわぁ……そこら中に瓶が転がってるんだけど」

舞風「2本や3本じゃきかないですね、こりゃ」




Pa提督「お、お前……今日が演習だって分かってるよな……?」

ポーラ「もっちろん! イタリア重巡のいいとこぉ、見せちゃいますよぉ~♪」ニヘラ

Pa提督「いいとこ見せる前に醜態を晒してどうする……!」

Pa提督「ていうかこんなに大量の酒どこから………はっ!? まさかお前……」

ポーラ「キッチンの戸棚の奥に捨ててあったんでぇ、勿体ないと思ってもらっちゃいました~」ヒック

Pa提督「捨ててあったんじゃない! 保管しておいたんだよ!! ああ……俺のコレクションが……」ガックリ




不知火「……どなたか存じませんが、何というか……凄い方ですね」

響「あんなに幸せそうにお酒を飲む人は見たことが無いな」

響(ところでウォッカは無いのかな?)キョロキョロ

那智「向こうの提督が言うように、これから演習だというのに酒に溺れるとは、軍人として感心できんな」フン

那智(あれも、それも、あっちに転がっている瓶も……どれも滅多に手に入らない貴重な物ばかりではないか!)ゴクリ...

提督(酒、か……いかん、先日のアレ※を思い出してまた気分が……)ウップ


※那智との飲み会(という名の拷問)


デ・ロイテル「ねぇ提督、落ち込むのも分かるけどお客さんを待たせてるし、ひとまずお昼にしましょ?」

舞風「そうですよぉ。飲んじゃった物は仕方ないですし」

白露「私お腹すいたー!」

Pa提督「……ああ、そうだな」ドヨーン

Pa提督「重ね重ねすみません……今食事の用意をしますので……」

提督「は、はい……」

提督(何だか気の毒になってきたな……)

Pa提督「おーいアイオワ。食事の準備をしてくれ」



アイオワ「――Hi! お待たせ! Me特製、アメリカンランチを召し上がれ!」

加賀「こ、これが……」

グラーフ「アイオワ特製のアメリカ料理……!」



 ・ピザバーガー(約8000kcal)

 ・シカゴピザ(約3800kcal)

 ・チーズステーキ(約2500kcal)

 ・チーズケーキシェイク(約2000kcal)



一同(…………豚のエサかな?)



アイオワ「さぁ! 遠慮しないでドンドン食べてね☆」

Pa提督「お、おい……いくらなんでも高カロリーすぎやしないか?」

アイオワ「Huh? この後演習でしょ? これぐらい食べておかなきゃPowerが出ないわ!」

Pa提督「戦艦の燃費を基準にして考えるな! 見ろ、皆さんもドン引きして――」チラッ


加賀「素晴らしいですね、さすがは世界一の大国です」モグモグ

グラーフ「ああ。この豪快さは日本やドイツも見習わねばな」ムシャムシャ


Pa提督(えぇ……)

陽炎(そういや空母の燃費も戦艦並だったわね……)

提督(加賀のあんな幸せそうな顔は初めて見るな……)




加賀「……ですが1つだけ」

アイオワ「?」

加賀「ご馳走になっておきながら厚かましいことは承知の上で、1つだけ言わせてもらいますと……」










加賀「ピザとチーズが被ってしまっています」

アイオワ「Oh! それもそうだわ!」ウッカリ

一同(そこ!?)




デ・ロイテル「と、とりあえず私たちも食べよっか!」

陽炎「まぁ、カロリーはともかく味は悪くなさそうだしね……」

Pa提督「仕方ない……各自、適度に量を調節して食べるように」

白露「はーい! どれから食べよっかなー」



不知火「司令、私たちもいただきましょう」

提督「そ、そうだな。たまにはこういう食事も悪くないか」

霰「……凄い、チーズの量」

響「こっちのピザも厚みが通常の倍くらいあるよ」ハラショー

那智「いくら演習で体を動かすとはいえ、ほどほどにしておかねば無駄にバルジが付きそうだ……」

提督(確かに。演習で体を動かさない俺は余計に太りそうだな……)




千代田「――あ、あのっ!」

提督「? 君は先ほどの……たしか、千代田だったか?」

千代田「は、はい。その……さっきは取り乱したりしてごめんなさい!」ガバッ

提督「!? あ、頭を上げてくれ……! 別に私は何もされていないぞ」

千代田「そうだけど……初対面なのに目の前で見苦しいところを見せてしまって……」シュン

提督(ああ、さっきのアレか。たしかに少しビックリしたが……)

提督「別に気にしてはいない。誰にでも落ち着きを失う時はあるだろう」

千代田「そう言ってもらえると助かり……ます」ホッ



提督(…………ふむ)

提督(この千代田という艦娘、さっきは慌ただしくて気付かなかったが………デカいな)

提督(イクやアイオワといった分かりやすいデカさに目が眩んでいたが、千代田の持つソレも相当なボリュームと見た!)キラーン

提督(情緒不安定なところもあるが、根は素直でいい子のようだし……)

提督(……せっかく遠方まで来たんだ。少しぐらい他所の艦娘とお近付きになってもバチは当たらないはず!)

提督(そう! これはあくまでコミュニケーションの一環! 鎮守府同士の交流を深めるために必要なプロセス!)




提督「……さっき、姉がどうとか言っていたな」

千代田「えっ? あっ、はい」


提督(先程の騒ぎようから察するに、千代田は姉に対する好意が尋常ではないようだ)

提督(で、あれば――)


提督「ふむ。君があそこまで夢中になる女性だ。きっと素晴らしい艦娘なのだろう」

千代田「!」

提督(よしっ、手応えアリ! ふふふ、自分の好きな人物を褒められて喜ばないやつはいまい!)

提督(この調子で姉のことを褒め倒し、気を良くさせたところで『――るの?』……えっ?)

千代田「千歳お姉に……興 味 が あ る の ?」ジロッ


 <◎> <◎>


提督(ヒエッ……!)

千代田「ねえ、お姉のことがそんなに気になる……?」

提督「い、いや! 気になるというわけではなく、ただ単に褒めただけで……」

千代田「もし……もしそっちの鎮守府にお姉が着任することになったとして」

千代田「お姉に色目を使ったり、手を出そうものなら――」



千代田「 ゆ る さ な い か ら 」ジロッ


提督「」





千代田「……ふぅ、さてと。私もお昼にしよっかな。貴方たちも遠慮せずに食べていってね」

提督「ハイ」

千代田「それから、午後の演習ではよろしくね! じゃあまた」フリフリ

提督「アア、マタアトデ」フリフリ

提督「………………」

提督「…………」



提督(……ちょっとちびった)ガクブル




???「――ああーっ!!」

???「提督! 一体何をしているんですか!」


Pa提督「!? お、お前たちは……」ビクッ


長良「執務室にいないから、どこへ行ったのかと思ったら……」

大鳳「どうして勝手にご飯を食べているんですか!」




グラーフ「何やらまた騒がしいな」

加賀「おや、貴女は……」

大鳳「? もしかして……加賀さん、ですか?」

加賀「ええ。そういう貴女は……大鳳さん、だったかしら」

大鳳「はい! 誉れ高い一航戦である加賀さんにお会いでき、光栄です」ビシッ

加賀「ありがとう。私も会えて嬉しいわ」

グラーフ「加賀、彼女を知っているのか?」

加賀「はい。私の後輩とでも言いますか……日本の最新鋭空母である大鳳さんです」


大鳳「初めまして、装甲空母の大鳳です」

グラーフ「ドイツ製航空母艦、グラーフ・ツェッペリンだ。よろしく頼む」

大鳳「ドイツの……聞いたことがあります! 何でも赤城さんの設計を参考にして建造されたとか……」

グラーフ「よく知っているな。私も日本の装甲空母のことは以前から耳にしていたが……そうか、貴女がタイホウか」

大鳳「私を知っているんですか?」

グラーフ「ああ。堅牢な装甲に覆われた、非常に打たれ強い艦だと聞いている。一度会ってみたかったんだ」

大鳳「わぁっ…! 何だか照れますね」

グラーフ「ふふっ、今日は良い戦いにしよう」スッ

大鳳「はい、よろしくお願いします!」ガシッ




大鳳「――さて」


大鳳「提督!!」

Pa提督「な、なんだ?」

大鳳「なんだ、じゃありません!」

長良「また走り込みをサボったでしょ!」



不知火「? 何の話をしているのでしょうか」

陽炎「あー……大鳳さんと長良さんは日課で毎朝走り込みをしてるんだけど、司令もそれに付き合わされてるのよ」

舞風「私もたまに付き合うけど、毎朝10キロ走るのはキツいよねぇ」タハハ

響「毎朝? 10キロ?」

霰「……すごい、です」



Pa提督「か、勘弁してくれ! この間付き合ったばかりじゃないか……!」

長良「この間って、もう5日も前の話でしょ!」

大鳳「いいですか提督。走り込みも筋トレも、継続しなければ意味が無いんですよ?」

長良「過度にやり過ぎるのは逆効果だけど、提督は私たちと違って普段体を動かさないんだから! ほら、立った立った!」

Pa提督「ま、待て! 今から昼飯を……」

長良「そんなカロリーの高そうな物を食べてからだと存分に動けませんよ!」ガシッ

大鳳「運動してお腹を空かせれば、その分ご飯も美味しく感じられます。さぁ行きましょう!」ガシッ

Pa提督「や、やめろ! やめてくれえええぇぇぇぇぇ………」ズルズル...




不知火「……引きずられていってしまいましたが」ポカーン

白露「大鳳さんと長良さんは健康マニアっていうか、トレーニングオタクだからねー」

舞風「流石に毎日はアレだけど……それもこれも提督の健康を思ってのことだし、いいんじゃない?」モグモグ

陽炎「はぁ……演習前にぶっ倒れなきゃいいけどね」


提督(……やっぱり、この鎮守府ヤバいんじゃないか?)


今回はここまで
パッション鎮守府キャラ設定その2



ポーラ……酒と言ったらポーラ、ポーラと言ったら酒というぐらいの飲兵衛。ストッパーであるザラ姉さまが未着任のため無制限に飲みまくる

長良……運動マニア(主に走るのが好き) Pa提督やアイオワをよくジョギングに誘っている(そのおかげでアイオワは太らずに済んでいる)

大鳳……筋トレマニア。『ダンベル何キロ持てる?』という質問に対し「トンの間違いでは?」と素で返したのはあまりにも有名



次回も1週間以内に更新できたらいいです
それでは

投下します


――
――――
――――――




―― パッション鎮守府 第1会議室 ――


Pa提督「……では、これより……演習の、メンバー発表を、行う……」グッタリ




白露「……ねぇ、アレ大丈夫なの?」ヒソヒソ

千代田「いつにも増してツラそうなんだけど」ヒソヒソ

陽炎「そりゃまぁ食事抜きで10kmマラソンやらされたらああなるでしょうよ……」ヒソヒソ

舞風「あれだけ走った後じゃあ食事も喉を通らないよねぇ」ヒソヒソ

デ・ロイテル「それ以前に向こうの空母2人がほとんど食べ尽くしちゃってて、提督の分は残ってなかったけどね……」ヒソヒソ

大鳳・長良(少しやり過ぎたかしら……)←戦犯


ポーラ「てーとくぅ~、そんなんじゃ演習にも勝てませんよ~♪」ニヘラ~

伊19「ほらほら、しっかりするのね!」バシン! バシン!

Pa提督「わ、分かったから背中を叩くんじゃない……!」イテテ...




Pa提督「……コホン」

Pa提督「では、確定している5人のメンバーを発表する」キリッ


一同「!」ザッ


デ・ロイテル(皆の空気が変わった……!)

陽炎(何だかんだ決めるとこは決めるのよね、うちの司令は)フフッ




Pa提督「まず……旗艦、アイオワ!」

アイオワ「Yes sir!」



Pa提督「続いて……イク!」

伊19「はいなのー!」



Pa提督「大鳳! 千代田!」

大鳳「はっ!」ビシッ

千代田「はい!」



Pa提督「ポーラ!」

ポーラ「えぇ~?」グデーン




Pa提督「以上5名が確定メンバーだ。残る1名はバランスを考慮して駆逐艦にしたいが……」

陽炎「だったら舞風を推薦するわ」

舞風「えっ、私?」キョトン

Pa提督「ふむ……理由を聞こうか」

陽炎「まぁ凄い個人的な理由だけど……成長した妹同士の戦いが見てみたいのよ」

Pa提督「妹同士というと……向こうの鎮守府にいる不知火のことか?」

陽炎「ええ。私自身が相手してあげるのも悪くないけど、せっかくなら舞風と不知火の戦いを見てみたいなって」


舞風「不知火姉さんとかぁ……うん、私はオッケーです!」

千代田「あら、やる気満々じゃない」

舞風「はい! 強くなった私の姿を不知火姉さんにも見せてあげたいなーって!」

Pa提督「……白露はそれでいいか?」

白露「うーん……ほんとは参加したかったけど、今回は舞風に譲ってあげる!」

陽炎「悪いわね、白露」

白露「いいっていいって! 同じ長女として陽炎の気持ちも分かるし」

白露「その代わり、もし今度私の妹たちと演習する機会があったら譲ってね!」


Pa提督「よし、では6人目は舞風で決まりだな」




長良「……ねぇ司令官。このメンバーに決めた理由を聞いてもいい?」

デ・ロイテル「私も聞きた~い! ていうか参加したかったんだけどな~」チラッ

Pa提督「分かった分かった。ちゃんと説明するから、それで今回は我慢してくれ」

デ・ロイテル「むー……理由次第かな」



Pa提督「まず、アイオワとイクをメンバーに採用した理由だが、相手側が“慣れていない”からだ」

長良「慣れていない?」

Pa提督「相手方の鎮守府はウチと同じで規模が小さく、所属している艦娘の人数も少ない」

Pa提督「事前に得た情報では、戦艦と潜水艦が1人も着任していないらしい」

Pa提督「ゆえに戦艦と潜水艦に関する知識が少なく、身内での演習もできないことから対処法も心得ていないはずだ」

Pa提督「つまり、戦艦や潜水艦と戦うことには“慣れていない”と踏んで、2人の採用を決めた」


陽炎「なるほどね。確かに普段から戦っている艦種よりも、戦い慣れていない艦種を相手にする方が厄介だもの」

Pa提督「ああ。特に潜水艦との戦いには対潜に特化した装備とそれなりの経験が必要だからな」

千代田「ふーん。つまり、相手の苦手な艦種で迎え撃つってことね」

デ・ロイテル「……なんかちょっとズルくない?」

Pa提督「そう思われても仕方がない。だが、何事も勝ちに拘るのが私の信条でな。お前たちもそうだろう?」

デ・ロイテル「まっ、そうよねー」

長良「やるからには勝たないと!」フンス

大鳳「相手の弱点を突くのは戦の定石です。それに、事前の情報収集も立派な戦略の一つかと」

Pa提督「そういうことだ。2人とも、やってくれるか?」


アイオワ「OK! 戦艦の火力と装甲を見せてあげるわ!」

伊19「イクも潜水艦の怖さをた~っぷり教えてあげるのね!」ニヒヒッ




Pa提督「次に、大鳳と千代田を採用した理由だが、これは単純に制空争いで負けないためだ」

陽炎「相手側には加賀さんとグラーフさんがいるしね」

長良「こっちも空母を2人ぶつけないと、制空権を取られて空からの攻撃に対し無防備になる、か」

Pa提督「ああ。特に加賀の艦載機搭載数は空母随一と聞くからな。大鳳か千代田のどちらか1人だけでは太刀打ちできんだろう」

大鳳「グラーフさんの実力も未知数ですし、航空戦力は多いに越したことはないでしょう」


千代田「それは分かったけど……私は軽空母よ? 相手は2隻とも正規空母だし、ちょっと分が悪くない?」

Pa提督「確かに正規空母と軽空母とでは基礎スペックに若干の差はあるかもしれない」

Pa提督「……だが私は、お前が加賀や大鳳たちに劣っているとは思わない」

千代田「!」

Pa提督「それとも……正規空母を相手にする自信が無いか?」

千代田「だっ、誰も自信が無いだなんて言ってないわよ! フン! そこまで言うならやってあげるわ!」///

Pa提督「よし、その意気だ」ハハ





白露「千代田さん、少し照れてない?」ヒソヒソ

デ・ロイテル「正規空母に劣ってるとは思わないって言われたのが嬉しかったんじゃない?」ヒソヒソ

陽炎(千歳さんのことしか頭にないと思ってたけど……もしかして意外と司令のことを……)ムムッ




大鳳「私も軽空母が正規空母より下だとは思いません。ですが、私たちが真っ向から挑んだところで優位に立てるでしょうか?」

長良「そうよね。軽空母だとかは関係なく、2対2じゃ制空権を確実に奪い取るのは難しい気がするけど……」

デ・ロイテル「良くて拮抗……相手に制空権を取らせないことはできても、こっちも同じく制空権は取れないんじゃない?」

Pa提督「確かに、普通に航空戦を仕掛けたところでジリ貧だろう」


Pa提督「そこで……2人には“アレ”をやってもらう」

大鳳・千代田「!」


陽炎(なるほどね。確かに“アレ”なら加賀さんたちとも互角以上に戦えるかも)

アイオワ(久々に大鳳たちの“アレ”が見られるなんて……フフッ、楽しみね!)


Pa提督「……どうだ? 頼めるか?」

大鳳「……分かりました。千代田さん、頑張りましょう!」

千代田「ええ。私の背中、大鳳さんに預けるから!」

Pa提督「制空争いの負けはそのまま演習の負けに繋がる。逆も然り、だ。……2人とも頼んだぞ」

大鳳・千代田「「はい!」」




Pa提督「そしてポーラを採用した理由も、制空争いをより有利にするためだ」


Pa提督「先程も述べたが、戦闘において制空権の確保は非常に重要だ」

Pa提督「制空権さえ確保してしまえば空からの攻撃を警戒する必要が無くなり、対空砲火を捨てて砲撃戦に専念できる」

Pa提督「純粋な砲撃戦になれば、火力・装甲・射程の優れたアイオワを擁するこちら側が圧倒的に有利だ」

Pa提督「それに制空権が取れれば『弾着観測射撃』が使用可能になり、ますますアイオワが戦いやすくなる」

Pa提督「あらゆる点を考慮しても、制空権を取ることにはメリットが多い」


陽炎「それは分かるけど、どうしてそれがポーラさんを採用することに繋がるの?」

Pa提督「簡単な話だ。相手の空母をより倒しやすくするためだよ」

Pa提督「装甲空母を除いた全ての空母に共通する弱点として、中破すると艦載機を発艦できない、という点が挙げられる」

Pa提督「大破や轟沈判定までは追い込めずとも、中破にさえしてしまえばこちらのものだ」

Pa提督「であれば、より少ない手数で相手を中破させられる、火力の高い艦が望ましい」


長良「それで私やロイテルのような軽巡よりも、火力の高い重巡のポーラさんを採用したってこと?」

デ・ロイテル「理屈はわかるけど、私だって火力には自信あるんだから!」

Pa提督「単純な火力だけの問題じゃない。一番の理由は……射程距離だ」


Pa提督「ロングレンジでの戦いを得意とする空母を倒すためには、こちらにも長射程の攻撃手段が多数欲しい」

Pa提督「同じ空母である大鳳と千代田の艦載機、アイオワの大口径主砲、そして……ポーラが持つ“あの装備”」


Pa提督「203mm/53連装砲」


Pa提督「イタリア製の、数少ない長射程の中口径主砲」

Pa提督「装備するだけなら軽巡でも可能だが、元々この装備を所持していたポーラの方が扱いには長ける」


Pa提督「空母を一撃で中破させ得る火力と、長距離からでも相手を狙えるフィット装備」

Pa提督「これがポーラを採用した理由だ」





Pa提督「と、いうわけで……頼んだぞ、ポーラ!」キリッ

ポーラ「う~ん、ポーラちょっと気分が悪くてぇ~……辞退してもいいですか~?」グデーン

Pa提督「」




Pa提督「だ、だからあれほど演習前に飲むなと言ったのに……!」

ポーラ「ごめんなさい~。また今度ぉ頑張りますから~」エヘヘ

Pa提督「ダメだ、今さら編成を変えられん! 何とか頑張って出てくれ!」

ポーラ「えぇ~。そう言われてもぉ、無理なものはむーりぃー」ダラーン


Pa提督「お、お前なぁ……」

アイオワ「全く、仕方ないわねぇ」

アイオワ「ポーラ! もし演習で勝てたら、1週間好きなだけお酒を飲んでもいいそうよ!」

Pa提督「はぁ!?」

ポーラ「ホントですかぁ!?」ガバッ

Pa提督「ま、待て! そんなこと一言も……」

ポーラ「ポーラ、頑張りますっ! 空母でも重巡でも、バンバンやっつけちゃいますよぉ~!」キラキラ


Pa提督「お、おいポーラ!」

白露「提督、こうなった以上諦めたら?」

アイオワ「やる気になってくれたんだし、別にいいじゃない」

Pa提督「他人事だと思って……大体1週間飲み放題って、その酒は誰が用意するんだ?」

長良「そりゃあもちろん」

デ・ロイテル「提督でしょ?」

Pa提督「ですよねチクショウ!!」







Pa提督「はぁ……演習前なのに、もう疲れた……」グッタリ

大鳳「大丈夫ですか? やはり日々の鍛錬が足りていないのでは……」

長良「おっ、なら明日からは+3kmいっときます?」

Pa提督「いやぁ元気が有り余って仕方ないなぁ! 演習ガンバルゾ!」ハハハ

陽炎(やれやれ、先が思いやられるわね……)ハァ

Pa提督(……早く終わらせて休みたい……)ガクッ



――――――
――――
――




―― 第2会議室(クール鎮守府一行の控え室) ――



提督(……さて)

提督(今から演習前の作戦会議なわけだが)チラッ




加賀「……………」

グラーフ「……………」

那智「……………」

不知火「……………」

響「……………」

霰「……………」




提督(……こえぇよ)

提督(戦いの前だからだろうか、いつにも増して全員殺気立ってやがる……!)ブルッ




加賀・グラーフ(夕食も楽しみです(だな))

那智(夜には酒も出るのだろうか……)

霰(……………)←特に何も考えてない




提督(こいつらは全員、見た目や雰囲気通りの武人気質だ)

提督(那智やグラーフはもちろん、響や霰でさえ遊びと称して日々サバゲーに明け暮れる始末)

提督(演習とはいえ、こと戦闘に関しては一切手を抜くつもりなど無いだろう)

提督(そんな連中が、もし演習で負けたらどうなる……?)



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

那智『……負けたのは、貴様の指示が悪かったせいだぞ』チッ

加賀『元々期待していなかったとはいえ、何ですかあの穴だらけの作戦は?』ハァ...

不知火『不知火を本気で怒らせたわね……』ギロッ

響『〇ね』

霰『むしろ〇す』

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




提督(……………)








提督(勝 た ね ば)


提督(勝って、生き残らねば……!)ガタガタ




提督(俺は提督! 俺は首席! 俺は優秀!)

提督(考えろ! 考えて、考えて、考え尽くせ!)

提督(灰色の脳細胞を総動員し、ありとあらゆる策を捻り出すんだ!)グヌヌヌ...



加賀(提督が……)

不知火(いつにも増して真剣な表情を……!)ゴクリ

那智(やつの気迫と、この戦いに対する熱意が伝わってくるようだ……!)

グラーフ(これは期待に応えねば、な)フッ



提督(嫌だ! まだ死にたくない! 提督を辞めたくない!)

提督(……いかん、ネガティブになるな! 発想を逆転させろ!)

提督(そう、ピンチはチャンス! これはチャンスなんだ!)

提督(もしこの戦いで俺の策が見事にハマり、大勝利を収めたとしよう)

提督(そうすればきっと――)



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

加賀『提督、見事な指揮でした』

那智『今回の勝利は……貴様のおかげだな』フッ

グラーフ『見直したぞ、Admiral!』

不知火『今までの非礼をお許しください。今後とも、ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします!』ビシッ

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





提督(こ れ だ !)

提督(俺はこの戦いを乗り越えて、実力でこいつらを従えてみせる……!)




提督「……では、これより作戦会議を始める」

一同「!」


提督「まずは編成についてだが……旗艦は加賀に任せたい」

提督「艦載機による広範囲の視野を持ち、冷静に状況分析のできるお前がリーダーに打ってつけだ」

提督「……頼めるか?」

加賀「ええ。鎧袖一触よ、心配いらないわ」キリッ




提督「そして、グラーフには加賀と一緒に制空権の確保に尽力してもらいたい」

提督「向こうも恐らく空母2隻が出てくるだろうからな」

提督「装備に関しては……また後で指示を出す」

グラーフ「了解した。私に任せておけ」キリッ




提督「那智は駆逐艦に指示を出しつつ、敵の巡洋艦クラスの相手をしてくれ」

提督「本来なら軽巡を組み込んで、小規模な水雷戦隊を編成したいところだが……うちには軽巡がいないからな」

提督「役目が多く、相当な負荷がかかるポジションだが……やれるか?」

那智「愚問だな。那智の戦、見ていてもらおうか!」キリッ




提督「不知火、響、霰の3人には、対空砲火と対潜警戒を頼む」

提督「俺の予想が正しければ、恐らく潜水艦……イクが出てくるはずだ」

提督「役割はある程度分担してもらうが、状況に応じて臨機応変にも動いてほしい」

不知火「分かりました」ビシッ

響「勝ってみせるよ」

霰「頑張り、ます」



提督「よし、では詳しい作戦とそれぞれの装備について説明する――」



――――――
――――
――




――
――――
―――――――



提督「――という作戦で行く」

提督「……異論はないか?」



一同「……………」シーン



加賀(……相手の鎮守府にどのような艦娘が所属しているかは、今日ここに来てから初めて知ったはず)

加賀(にも関わらず、向こうの艦種や編成を考慮したうえで、これほどの作戦を短時間で立案するなんて……)

加賀(何でしょうか……気分が高揚します……!)



不知火(……司令)

不知火(必ずや、司令の期待に応えてみせます)

不知火(それに陽炎姉さんや舞風にも、いいところを見せないとね)



提督(……つ、疲れた)

提督(頭を捻りすぎて知恵熱が出そうだ……)

提督(だがやれるだけのことはやった。あとは……こいつら次第だ)




提督「では…………必ず勝つぞ!」

一同「はい!!」



――――――
――――
――


今回はここまで
提督たちはやればできる子(という設定)


次回からはようやく演習です
戦闘描写は初めて書くので時間がかかるかもですがお待ちください

お待たせしました。再開します



―― パッション鎮守府 母港 ――



Pa提督「――ではこれより、ルールの説明と確認を行います」


Pa提督「今回はより実戦に近い形式を取るため、鎮守府近海全域を使った広範囲演習となります」

Pa提督「全員にマップを配布しますので各自確認していただき、指定範囲から離脱することのないようご注意ください」

Pa提督「万が一指定範囲からの離脱が確認された場合は、その時点で失格となります」

Pa提督「演習に参加しない長良とロイテルを監視役および審判として派遣しますので、各員は彼女たちの判定に従ってください」

Pa提督「当然ですが、厳正かつ公平な判定をお約束します。2人とも、頼んだぞ」

デ・ロイテル「ちゃーんとフェアなジャッジをするから安心してね!」

長良「私たちにお任せください!」



Pa提督「事前にお伝えしたように、演習開始時刻はヒトゴーマルマルです」

Pa提督「現時刻がヒトヨンフタマルですので、開始時刻までにそれぞれの初期位置へ移動をお願いします」

Pa提督「なお、互いの初期位置が分からないようにするため、各チームの旗艦はクジを引いていただき、そこに書かれている座標へ移動してください」

提督(なるほど、初期位置はランダムで決まるということか)

提督(となれば純粋な戦闘力だけでなく、いかに素早く敵を見つけ出すかという索敵力も問われることとなる)

提督(先程も言っていたが、かなり実戦に近い形式だな……)



Pa提督「ではクジ引きを行いますので、各チームの旗艦は前へ」

アイオワ「OK!」

加賀「はい」


――――
――



――
――――



Pa提督「――どちらかの艦隊全員が轟沈判定を受けるか、指定時刻に達した時点で演習は終了です」

Pa提督「指定時刻はヒトキュウマルマル。それまでに決着がつかなかった場合は、その時点での各被害状況や残存している人数によって判定を行います」



Pa提督「それでは、各チームはクジに書かれている座標まで移動を開始してください」


――――――
――――
――




【クール艦隊】


加賀「……指定されたポイントに到着しました」

響「肉眼では陸地がほとんど見えないね」

グラーフ「これだけ離れていれば沿岸部に流れ弾が飛んでいくこともないだろう」

不知火「ですね。周りを気にせず戦えます」

那智「さて、時刻は……ヒトヨンゴーマルか。皆、装備の最終点検を済ませておこう」

霰「了解、です」







【パッション艦隊】

アイオワ「――Stop! 目的のポイントに到着したわ」

舞風「よーし! 準備体操準備体操っと」イッチニー

ポーラ「お酒……飲み放題……」ブツブツ

大鳳(大丈夫かしら……?)





―― パッション鎮守府 モニタールーム ――



Pa提督「こちらがモニタールームになります」

Pa提督「演習の様子は長良とロイテルに持たせたカメラを通じて、このモニターに映し出されます」

Pa提督「どうぞ、あちらの席にお掛けください」

提督「これはどうも」





Pa提督「……間もなく開始時刻ですね」

提督「ええ」

Pa提督「………………」

提督「………………」



Pa提督「…………あいつらは」ボソッ

提督「?」

Pa提督「あいつらは……ご覧になられた通り、喧しくて落ち着きが無く、上官に対する敬意も感じられない問題児ばかりです」

Pa提督「ですが……間違いなく強い」

Pa提督「出会ってまだ1年と少しですが、こと戦闘においてはあいつらのことを信頼しています」

Pa提督「……貴方はどうですか?」

Pa提督「自分の艦娘たちを、信頼していますか?」


提督「……………」

提督(俺は……)



 加賀『……いえ、これが私の仕事ですので』



提督(俺は、あいつらのことを……)



 不知火『こちらの書類ですが、計算に誤りがあります』



提督(信頼……しているのか……?)





『ええ。鎧袖一触よ、心配いらないわ』

                      『今後とも、ご指導ご鞭撻、よろしくです』


 『そうこなくてはな! よし、今夜ばかりは私も飲ませてもらおう!』


        『ふふっ、分かっている。貴官でもそのように狼狽えたりするのだな』


『……私たちと遊ぶのは、やっぱり嫌?』


                  『勝ってみせるよ』





提督「…………分かりません」

Pa提督「…………」

提督「恥ずかしながら……彼女たちと良好な関係を築けているとは思えません」

提督「彼女たちが何を考えているのか、私に対してどう思っているのか、分からない時が多々あります」

提督「……ですが」

提督「ですが、これだけははっきりと言えます」




提督「彼女たちに、勝ってほしい――」


提督「私自身が勝ちたいというのではなく、“彼女たちに”勝ってほしいと」


提督「そう思えるくらいには、彼女たちのことを想っています」



――――――
――――
――




    カチッ、カチッ、

  14:59:50



加賀「間もなく開始時刻です。準備はいいかしら」



    カチッ、カチッ、

  14:59:52



那智「ああ。偵察機の発艦準備、整っている!」



    カチッ、カチッ、

  14:59:55



アイオワ「さあ、私の火力、見せてあげるわ……!」



    カチッ、カチッ、

  14:59:58



大鳳「………………」スゥー、ハァー



     カチッ

  15:00:00




=== 演習 開始!! ===


※ここから先は戦闘描写のため、地の文が入ります
※作者は軍事ネタに詳しくないため、どこかおかしい表現や描写があるかもしれませんがご容赦ください

↓↓↓






【クール艦隊】


加賀「偵察機、発艦始め!」

那智「了解!」


加賀の号令と共に、那智の艤装から偵察機が発艦させられる。
零式水上偵察機と呼ばれる、もっともオーソドックスな水上偵察機だ。


加賀「今回、私とグラーフさんは航空戦に注力するため、艦上偵察機を装備していません」

加賀「どちらが先に敵の位置を掴めるかは、貴女の偵察機にかかっているわ」

那智「心得た!」


艦娘の艤装には“スロット”と呼ばれる、装備を搭載するためのスペースが3~5ヵ所備わっている。
そして、スロット1ヵ所につき1種類の装備しか積むことができないというのが艦隊運用における常識だ。

故にどのスロットにどの装備を搭載するかによって、戦局は大きく左右されることとなる。
装備の組み合わせや搭載数次第で、試合が始まる前から半分以上は勝敗が着くといっても過言ではない。


今回、クール鎮守府を率いる提督は制空権の奪取と航空戦における火力を最優先とし、空母の貴重なスロットを攻撃機と戦闘機に割いていた。
“彩雲”と呼ばれる優れた艦上偵察機を装備して索敵能力を伸ばすという手もあったが、そうなると1つのスロットが偵察機で埋まってしまい、その分攻撃機と戦闘機の積める数が少なくなってしまう。
提督はそれを嫌ったのだ。




提督(……しかし、那智の装備できる零式水上偵察機は性能面で艦上偵察機に大きく劣る)

提督(もし相手の空母が艦上偵察機を装備していた場合、索敵能力では大きく差を付けられることになるが……)





【パッション艦隊】


千代田「――見つけた」


偵察機越しに伝わってきた情報に、千代田の口角が僅かに上がる。


千代田「彩雲から得た情報によると、敵艦隊までの距離およそ30000。まだこちらには気付いてないみたい」


彩雲。
航空母艦と一部の航空戦艦のみが装備できる、高性能な艦上偵察機。
クール鎮守府の提督が危惧した通り、那智の零式水偵を性能面で遥かに凌ぐ偵察機が、千代田には搭載されていた。


千代田「さて……どうする?」

アイオワ「もちろん先制攻撃よ! 優先目標はAircraft carrier! カガとグラーフ!」

大鳳「了解しました。攻撃機、発艦始め!」

伊19「それじゃあ私も行ってくるのね~」


大鳳が大量の攻撃機を空に向けて発艦させる。
と同時に、潜水艦である伊19も敵艦隊に向けて潜航を開始した。


アイオワ「初撃が肝心よ。ここでどれだけ痛手を負わせられるかで、今後の展開が決まってくるわ」

アイオワ「……まぁ、展開がどうなるにせよ、結果は私たちのVictoryで揺るがないけどネ☆」



――――
――




那智「――! 何かが来る! 6時の方向!」


那智の放った偵察機が、迫りくる敵の航空隊の姿を捉える。
距離にしておよそ5000。
もう間もなく敵の攻撃圏内に入ろうとしていた。


那智「くっ! すまん、発見が遅れた!」

グラーフ「仕方がない。どうやら敵空母は艦上偵察機を装備しているようだ」

不知火「ここまで早く発見されたということは、恐らくそのようですね……!」


本来、那智のような重巡が得意とするのは砲雷撃戦であり、艦載機の扱いには精通していない。
水上偵察機と艦上偵察機の性能差。
そして重巡と空母という艦種の違い。
これだけのハンデの中、攻撃を受ける前に敵の航空隊に気付けただけでも賞賛モノだろう。


加賀「――迎え撃ちます。グラーフさん、発艦の用意を!」

グラーフ「了解した!」

加賀「響、霰は対空砲火に専念。不知火と那智は周囲を警戒しつつ前進を。こちらからも仕掛けます!」

一同「了解!」




大鳳「――気付かれたみたいね……でも、もう遅いわ」

大鳳「艦攻隊、艦爆隊、攻撃開始!」


大鳳の指示を受けて、艦載機から大量の魚雷と爆弾がばら撒かれる。
加賀たちは未だ発艦動作の途中であり、その一瞬の隙を狙った絶妙なタイミングでの攻撃。

着水した魚雷は海を掻き分けて猛進し、上空で放たれた爆弾は周囲一帯に雨を降らせるが如く落下していく。


加賀「――っ! 総員、回避行動を!」

グラーフ「くっ! まだ発艦の途中だというのに……!」


襲い来る猛攻をギリギリのところで回避していく加賀たち。
発艦動作を中断し、回避に専念していなければ被弾していたかもしれない。
加賀による咄嗟の指示で開幕早々に損害を受けるという事態は免れたが、未だ攻撃の手は止まず、加賀もグラーフも艦載機を発艦できないでいた。


響「好き勝手はさせないよ!」

霰「霰、行きます……!」


高角砲と対空機銃を装備した響と霰が、敵艦載機に対空砲火を浴びせていく。

しかし――


響「……っ! 数が多すぎる!」

霰「動きも、速い……!」


まるで弾道と弾道の間を縫うかのように、ひらりひらりと攻撃を躱される。
流石に全ては回避しきれず、数機が対空砲火によって落とされていくが――
全体の数からしたらほんの僅かであり、とても損害を与えたとは言えないレベルの戦果だ。

だが、敵艦載機が対空砲火に対する回避行動を取ったおかげで、加賀たちにもほんの少しの余裕が生まれる。


加賀「今です! 発艦始め!」

グラーフ「了解!」


ようやく加賀たちの艦載機が空に向かって解き放たれる。
2人の元から飛び立った機種は艦上戦闘機と呼ばれる、敵艦載機を撃ち落とすことを目的とした機体だ。


加賀「ひとまずこの攻撃を凌ぎます! 私とグラーフさんは艦戦による迎撃を、響たちは引き続き対空砲火に専念してください!」

グラーフ「分かった! フォッケウルフの力、思い知れ!」

響「こっちも了解だよ!」




大鳳「……敵の艦戦が出てきました。千代田さん、お願いします」

千代田「了解。もう間もなく到着するわ」


先制攻撃には成功したものの、まだ敵艦隊にダメージを与えられてはいない。
その上、こちらの初撃を回避した相手には反撃の兆候も見られる。

――だというのに、大鳳と千代田には焦りの色が全く見られなかった。


大鳳「さて、ここからが私たちの本領発揮よ……」

千代田「えぇ。そろそろ本気を出しちゃおっかな!」



――――――
――――
――




加賀「! 敵の艦戦を確認しました!」

グラーフ「数は27……いや、30!」

加賀「制空権を取られるわけにはいきません! 敵攻撃機の迎撃と並行して、敵艦戦の撃墜もお願いします!」

グラーフ「了解した!」


敵攻撃機の対処に当たっていた艦戦のうち、およそ半数が新たに飛来した敵艦戦を迎え撃つため航空隊から分離する。

艦攻、艦爆、艦戦。

上空は敵と味方の艦載機が入り乱れる、激戦区と化しつつあった――




―― モニタールーム ――


提督(……先手を打たれてしまったか)

提督(やはりこちらも彩雲を積んでおくべきだったか? ……いや、ここを耐え凌ぎさえすれば勝機はある)


提督(相手は彩雲にスロットを1つ割いている分、艦攻や艦爆の搭載数は少なくなっている)

提督(つまり、数少ない攻撃機を雑に扱うことはできないはずだ。もし攻撃機を全機撃墜されてしまえば、攻撃手段を失うからな)

提督(故に撃墜されることを恐れて攻め方も慎重になり、攻めるにも攻めきれないはず)

提督(この初撃を耐え、なるべく多くの敵攻撃機を落とすことができれば……)





Pa提督(……流石にやりますね)

Pa提督(大鳳の先制攻撃を受けてなお、誰一人小破すらしていないとは)

Pa提督(……ですが、ここからが本番です)

Pa提督(大鳳と千代田の“十八番”をお見せしましょう……!)




加賀(……おかしい)


最初に違和感に気が付いたのは加賀だった。


加賀(相手の艦戦の動きが洗練されすぎている……!)


艦戦同士の空中戦。
いわゆるドッグファイトと呼ばれる戦闘を先程から繰り広げているのだが、こちらの撃墜数に比べて、相手の撃墜数の方が僅かにリードしている。


加賀(おまけに敵攻撃機の雷撃と爆撃も一向に止む気配がない……)

加賀(それどころか、こちらに撃墜されることを一切恐れていないかのように、深いところまで突っ込んでくる……!)


敵は彩雲にスロットを割いている分、攻撃機や艦戦の搭載数は少なくなっているはず。
そのため相手は少ない攻撃機を粗末に扱うことができず、慎重かつローリスクローリターンな攻撃しか仕掛けてこない。
また、艦戦の数もこちらと同等かそれ以下のはずなので、制空争いで負けることはないだろう――

それが提督の判断であったはずだ。
しかし、現実はどうだろうか?

敵の攻撃機はこちらの艦戦による迎撃を恐れず、果敢に猛攻を繰り返し、

敵の艦戦は数で勝るこちらの艦戦に打ち勝ちつつある。


加賀(くっ! 一体なぜ……!?)


現存する空母たちの中でもトップクラスの練度と実績を誇る加賀。
その加賀の目から見ても、敵の艦載機の扱いは見事というほかない。

いくら自分でも、ここまで軽快なドッグファイトを披露しつつ、それと同時に攻撃機による正確無比な攻撃を行えるかどうか――


加賀(……『同時に』? ………まさか!?)




空母の扱う艦載機には、いくつかの種類が存在する。


周囲の偵察を行い、敵を発見することを主な役目とする艦上偵察機。

敵の艦載機を撃ち落とすことで、制空争いに打ち勝つための艦上戦闘機。

魚雷を搭載し、敵にダメージを与えることに特化した艦上攻撃機。

艦上攻撃機とは違い上空からの攻撃手段を持ち、陸地への攻撃も可能とする艦上爆撃機。


空母はこれらの艦載機を同時に、並行して扱うことが求められる。


Pa提督(……しかし、それは左手で文字を書きながら、右手でキーボードを打つようなもの)


攻撃機の操作だけに気を取られていては艦戦の操作が疎かになり、敵機に撃墜されてしまう。
かといって艦戦の操作だけに気を取られていては攻撃の手が休まることとなり、相手に反撃の隙を与えてしまう。
そうならないためには、並行して複数の艦載機を操作する必要があるのだ。


Pa提督(当然、それは簡単なことではない)

Pa提督(異なる種類の艦載機を同時に複数扱おうとすれば、どこかで必ず綻びが生じる)


艦戦によるドッグファイトの最中には攻撃機の動きが緩慢になり、
攻撃機による雷撃や爆撃の最中には艦戦の軌道が単調になる。
それは致し方ないことであり、どれだけ訓練を積んだところで完璧にこなすことは不可能と言われている。


Pa提督(訓練を重ねたところで、脳の数が増えるわけでもない)

Pa提督(空母の脳は他の艦種や人間のものに比べて、物事を並列処理することに長けているとは聞くが……)

Pa提督(それでもやはり限界はある)


空母が艦載機を運用する上で必ず突き当たる課題。
それが、艦載機の並列操作によって生じる操作制度の低下であった。




Pa提督(――だがもし、異なる種類の艦載機を並列操作する必要がなかったら)

Pa提督(2つの操作を同時に行うよりは1つの操作に専念した方が、より精度は高くなる)


それは至極当然のこと。
左手で文字を書き、右手でキーボードを打つような真似をすれば、書き損じやタイプミスも発生するだろう。
しかし、まず先に文字を書き終えてから、次に両手でキーボードを操作すれば。
同時に2つの作業を消化することはできないものの、それぞれの作業の精度は格段に増す。

二兎を追う者は一兎をも得ず……ではないが、一兎を追うことに集中した方が、より確実に成果を得られるのは明白だ。


Pa提督(攻撃機と戦闘機を同時に運用すれば、それぞれの精度はどうしても落ちてしまう)

Pa提督(ならば最初から、どちらか1つしか運用しなければいい)


大鳳には艦攻と艦爆を搭載し、攻撃に専念させ、

千代田には艦戦と偵察機を搭載し、索敵と制空に専念させる。

本来、異なる種類の艦載機をバランス良く積むのが最善とされているところを敢えてそうせず、1つのことに特化させる戦術。


Pa提督(――艦戦キャリア)


ほとんどのスロットに艦戦を搭載し、制空権の確保に全神経を注ぐ艦隊運用方法。
千代田が今行なっているのは、正にそれであった。


Pa提督(制空権の確保は千代田に任せきっている分、大鳳には攻撃機しか搭載していない)

Pa提督(大鳳は敵の艦戦を気にすることなく攻撃に専念でき、千代田は攻撃に参加することなく敵機の撃墜にのみ集中できる)

Pa提督(これこそが、大鳳と千代田が得意とする戦術……!)




千代田(……圧倒してる! 私が、あの加賀さんたちを相手に……!)


自身の操る艦載機が、加賀たちの艦戦を1機、また1機と墜としていく。
その様を見ながら、千代田は確かな手応えと言い知れぬ高翌揚感を得ていた。


千代田(正規空母を2人同時に、それもあの“一航戦の加賀”を相手にして、互角以上に戦えている……!)


正規空母と軽空母。
同じ航空母艦とはいえ、その間には決して埋められない数値上の差が存在している。

かつて千代田は、自身の上位互換とも呼べるスペックを持った正規空母に対し、少なからず劣等感を抱いていた。

火力、耐久、対空値、搭載数

全てにおいて完全に劣っているわけではないにせよ、総合的に見れば軽空母より正規空母の方が優れているのは明らかだ。
対潜攻撃手段を持っていたり、燃費が良いというメリットも存在するが、戦力として見たときに正規空母には決して敵わない――


千代田(それは仕方のないこと……そう思ってた)


思っていた―――が、千代田は諦めきれなかった。

搭載数で劣るのであれば、より艦載機の扱いを洗練させる。
そうすることで被撃墜数を減らし、継戦能力を底上げすればいい。

火力で敵わないのであれば、火力に左右されない艦戦の扱いを極める。
そうすることで、敵空母の攻撃機を撃墜し火力を削ぎ落としてしまえばいい。

ステータスという数値の差は努力で埋めることはできないが、実戦の勝敗は数値だけでは決まらない――

千代田はそう信じて、これまで鍛錬を続けてきたのであった。


千代田(――千歳お姉、提督、見てて!)

千代田(今日ここで加賀さんたちを倒して、軽空母が正規空母の下位互換じゃないってことを証明して見せるから……!)




加賀「――恐らく相手は、攻撃に専念する役と制空権を確保する役とで、完全に役割を分担しているのでしょう」

加賀「そうでなければ、ここまで精密に艦載機を動かすことなどできないはずです!」

グラーフ「なるほどな……だが」

加賀「ええ……」


しかしそれは諸刃の剣でもある。

片方が攻撃機のみを、もう片方が艦戦と偵察機のみしか装備していなかった場合。
攻撃役の空母が倒されてしまえば空からの攻撃手段を一切失うこととなり、ダメージレースで優位に立てなくなる。
逆に艦戦を装備している空母が戦闘不能になってしまえば、敵の艦載機を撃墜する術が無くなり、制空権を喪失してしまう。


加賀(なんてリスキーな……!)


先にも述べたように、艦攻、艦爆、艦戦といった異なる種の艦載機をバランス良く搭載するのが、空母を運用する上で最善と言われている。
その最大の理由は、リスクの分散にあった。


加賀(もし仮に、私が中破して艦載機の発艦ができなくなったとしても、艦攻・艦爆・艦戦を全て搭載したグラーフさんが残っていれば、攻撃手段も制空権も完全には失わずに済む)

加賀(でも相手は……もし大鳳さんか千代田さんのどちらか片方がやられてしまえば、その時点で航空戦における敗北は免れない)

加賀(それを承知の上でこんな戦法を取ってくるということは……よほど自分の腕と、お互いのことを信頼しているようね)



攻撃役は艦戦を積んでいない以上、相手の艦戦に対抗する術を持たない。
にも拘わらず果敢に攻撃を繰り返せるのは、相方が敵の艦戦を撃ち落とし、自身を守ってくれると信じているから――


大鳳(……流石、千代田さんね。こちらの攻撃機を狙ってくる艦戦を、正確かつ優先して撃墜してくれている)



制空権の確保を担う役は攻撃機を積んでいない以上、相手の艦娘を攻撃する術を持たない。
にも拘わらず敵機の撃墜にのみ専念できるのは、自分が攻撃できずとも相方が敵を全て倒してくれると信じているから――


千代田(……相変わらず大鳳さんの攻撃は苛烈ね。私の分まで、たーっぷりお見舞いしてあげて!)


自分が身を守らずとも、相方が守ってくれる。
自分が敵を倒せずとも、相方が倒してくれる。

そんな信頼があってこそ、初めて成立しうる戦法であった。


今回はここまで
これからも花粉症とコロナと5月病に気を付けつつ、投稿を続けていきたいと思います

出張から帰投したのでひっそりと再開します



不知火「――加賀さん! グラーフさん!」ダッ

那智「待て不知火! 戻ったところでどうにもならん!」


敵陣に斬り込むべく前進していた不知火だったが、敵の攻撃に翻弄される仲間の姿を目にし、思わず足を止め振り返ってしまう。
しかし、そんな行動を随伴していた那智に咎められた。


那智「対空機銃も持たない私たちが駆け付けたところで焼け石に水だ!」

那智「私たちが今取れる最善手は、加賀たちが耐えている間に敵に接近し、それを討つことだろう!」

不知火「っ……! 了解、しました……!」


助けに行きたくなる衝動をぐっと堪え、不知火は前を向きなおす。
確かに那智の言う通り、あの場に戻ったところで自分にできることはほとんどないだろう。
それよりも、一刻も早く敵を見つけ出して反撃に転じなければ、このまま一方的に攻撃され続け大勢が決してしまう。


不知火(艦載機の飛来してくる方角から考えて、敵はこの先に潜んでいるはず……!)


味方を救うためにも、一分一秒でも早く敵の位置を割り出さなければ――
そのためには、先程から上空を通り過ぎていく敵艦載機の軌跡を頼りにするほかない。


不知火(敵の航空部隊はいずれも南南東から飛来している。このまま進めば肉眼でも敵影を捉えられるはず……)


キッと目を細め、敵がいるであろう方向を睨みつける。
おおよその位置に目星を付けた不知火が、敵艦隊に到達すべく更に加速したところで――




 ドゴォォォォン!!




「あぐっ……!!」




後方から、大きな爆発音と仲間の悲鳴が挙がった。






響「――霰!!」

霰「ぅ……まだ、大丈夫……っ!」ボロッ


突如として攻撃を受けた霰。
どうやら脚部に被弾したらしく、バランスを崩して海面に片膝をついている。
心配した響が駆け寄ろうとしたが、気丈にもそれを制し、自らの力で何とか立ち上がった。


グラーフ「霰! 大丈夫か!?」

霰「平気……魚雷が、片足に接触しただけ」

響「いや普通に大ごとじゃないか! 損傷はそこまで酷くないみたいだけど……」


見ると、左足に装着された艤装からプスプスと黒煙が上がっている。
だが航行に支障はないらしく、損傷度合で言えば小破といったところか。



霰(……おかしい)

霰(敵艦載機から放たれた魚雷の数は、ちゃんと把握できてたはず)

霰(絶対に当たらない位置にいて、警戒も緩めてなかった、のに……)


先程から猛攻を受けてはいるが、敵の優先目標は加賀とグラーフの2人らしく、霰と響を狙って魚雷が飛んでくることはほぼ無かった。
それでも加賀たちを狙った攻撃が逸れ、流れ弾が飛んでくる可能性はあったので、警戒を怠らず周囲をよく見ていたのだが……




霰「……さっきの魚雷、どこから飛んできたか、分かる?」

響「いや……敵の艦攻は加賀さんたちに殺到していたし、少なくとも霰に向けて魚雷を放つ瞬間は見てないよ」


霰「…………私の見間違い、かもだけど」

響「?」

霰「さっき、攻撃が当たる直前に……一瞬だけ、魚雷の姿が見えた」

霰「一瞬だったし、水面下だから、はっきり見えたわけじゃない、けど……魚雷のサイズが大きかった、気がする」


自身を襲った謎の魚雷。
ほんの一瞬だけ視界に捉えられたその姿は、敵艦載機から放たれるソレと比べて若干大きいように感じられた。


響「艦攻の放つ魚雷より大きいものとなると……まさか、酸素魚雷?」


酸素魚雷。
空気ではなく純酸素を燃料の酸化剤に用いた魚雷で、その威力と射程距離は通常の魚雷を遥かに上回る。
おまけに排出されるガスの量も少なく、その成分も水に溶けやすいことから、魚雷が通った航跡――雷跡も残りにくいため、敵に発見されづらいという利点も併せ持つ。

しかしその反面、サイズが大きく重量も嵩んでしまうため、艦載機には搭載できないのだが……


響(サイズが大きく、当たる直前まで気付かなかったことも考えると、酸素魚雷である可能性が高い)

響(けど、あれを装備できるのは巡洋艦クラスか潜水艦のみ…………潜水艦!?)


浮上する一つの可能性。

どこからか放たれた酸素魚雷。
しかし周りを見渡しても、魚雷を撃ったであろう敵艦隊の姿は見当たらない。
となると――




響「――こちら響! 不知火、聞こえるかい?」ザザッ

不知火『こちら不知火! 先程の爆発音と悲鳴は一体――』ザザッ

響「霰が敵の酸素魚雷に被弾した! 潜水艦が近くに潜んでいるかもしれない!」

不知火『潜水艦が……!? し、しかしソナーには何の反応もありません!』


響と霰が対空装備を充実させているのに対し、不知火は対潜装備を積んでいた。
敵の艦隊に潜水艦――伊19が編成される可能性が高いと踏んだ提督が、ソナーと爆雷を装備するよう指示していたからだ。

――しかし、不知火のソナーには潜水艦の反応は一切表示されていなかった。


響「霰が酸素魚雷に襲われたのはまず間違いない。けれど、周囲の海上には敵の艦影が見当たらないんだ」

響「となると、考えられるのは潜水艦しかない」


水上に敵の姿が見えない以上、残る可能性は水面下……つまり、肉眼で捉えられない場所に潜んでいるとしか思えない。


不知火『……了解しました! もう一度周囲を探ってみます!』

響「頼んだよ。こっちは上からの攻撃に対処するので精一杯だからね……!」


通信を終えた響は、再び対空気銃を構えて艦載機の迎撃に当たる。


響(上空の敵に応戦しつつ、水面下からの攻撃も警戒しなくちゃいけないなんて……)

響(これはかなり厳しいかな……!)


近くに潜水艦が潜んでいるかもしれない以上、空にばかり気を取られていては文字通り足元を掬われる。
上空と海中の二方向からの攻撃に晒されて、響の顔には焦りの色が浮かんでいた。





不知火「――――くっ! ダメです! ソナーに反応ありません!」

那智「水偵でも探しているが見つけられんぞ! 本当に潜水艦が近くにいるのか?」

不知火「ですが、先程の通信で響はそう言っていました。酸素魚雷による攻撃が確認された以上、間違いなくどこかに潜んでいるはずです!」

那智「だが、お前のソナーにも反応が無いとなると一体どこに……!」



――――――
――――
――




遠く離れた位置から、困惑する不知火たちを眺める影が一つ。


伊19「いひひっ♪ 敵さんたち、だいぶ混乱してるみたいなの!」


悪戯っぽく笑うその姿は、一見すると可愛らしい少女の姿にしか見えない。
だが、今この場においては獰猛さを孕んだ悪魔の笑みをも連想させた。


伊19(イクがいる以上、対策としてソナーや爆雷を持ち出してくるのは当然なのね)

伊19(でもそれが分かりきっていれば、対策の対策を講じることも簡単なの!)


なぜ不知火の装備しているソナーに、伊19の姿が映らなかったのか?

答えは単純明白。

ソナーの感知範囲外にいたからだ。


伊19「普通はこんな遠くからだと魚雷なんて当たらないけど……」

伊19「イクを普通の潜水艦と一緒にしてもらっちゃ困るのね!」


海のスナイパー。
伊19本人も自称するその異名は、決して名ばかりの物ではなかった。

いくら酸素魚雷の射程距離が通常の魚雷より長いとはいえ、ソナーにも感知されない距離からでは狙いをつけることすらままならない。
しかし、伊19は持ち前のセンスと日々の訓練により、その技術をモノにしていた。


伊19「流石に動き回る標的に当てるのは難しいけど、対空砲火で動きを止めてる瞬間なら狙い放題なの!」

伊19「ふふー。スナイパー魂が滾るのね~」ニヒッ


次なる獲物を求め、伊19は嗜虐的な笑みを浮かべるのであった――





――――――
――――
――



アイオワ「さぁーて、そろそろMeの出番かしら」


空からは大鳳による爆撃。
水面下では伊19による奇襲。

異なる方向からの絶え間ない攻撃により、加賀たちの統率は乱れ始めていた。
また、大鳳と千代田の見事な連携により制空権も確保しつつある。

叩くなら、今しかない。


アイオワ(悪いけど、このまま一気に勝たせてもらうわ!)


自らの主砲をゆっくりと構え、片眼を閉じて意識を集中させる。


アイオワ(距離……良し。角度……右に5度修正。風向きは……問題なさそうね)


アイオワは先程、千代田と大鳳の艦載機に紛れ込ませるようにして水上観測機を発艦させていた。
自身の長距離射撃の精度を上げるため……即ち、弾着観測射撃を行うために。



アイオワ(……MeからのSupriseよ)


そして、引き金に手をかけ――




アイオワ「Open fire!!」




轟音と共に、鋼鉄の弾丸が発射された。





――
――――
――――――



加賀(このままではジリ貧ね……)


加賀たちは相変わらず、大鳳の操る攻撃機の対処に追われていた。
まだ壊滅的な被害こそ受けていないものの、このまま迎撃に徹していても埒が明かない。


加賀(何とか一旦攻撃を凌いで、体勢を立て直さないと………っ!?」ゾクッ


その瞬間、加賀の背筋をぞわりとした感触が襲った。
研ぎ澄まされた五感と歴戦の猛者だけが持つ直感が、頭の中で警鐘を鳴らす。


加賀(何かが来る……!)


慌てて周囲を見渡すと同時に、耳をすませる。
爆音の合間に微かに聞こえてくる、この風切り音は――


加賀「――っ!! 総員回避! 砲撃が来ます!」


直後。

僅か10メートルほど離れた位置。
加賀やグラーフたちが密集する地点のちょうど中心辺りに――




 ドッパァァァン!!!




視界全てを覆い尽くすほどの、とてつもない高さの水飛沫が上がった。




加賀「ぐっ……!」


至近距離で炸裂した砲撃の余波により、加賀の体は大きく仰け反ってしまう。
体重の軽い響と霰は、その衝撃で数メートルほど身体が宙に舞った。


響「くっ……!」

霰「きゃっ!」

グラーフ「2人とも、大丈夫か!?」


直撃はしなかったため損傷こそ無いようだが、加賀たちの間に動揺と緊張が走る。
もし、あんな攻撃が直撃したら……
駆逐艦は勿論、比較的装甲の厚いグラーフでさえも一撃で大破することは間違いない。


加賀「っ! 急いで散開してください! 恐らく第2波が来ます!」


この威力の砲撃は間違いなく戦艦……アイオワによるものだ。
となるとこれは恐らく、長距離からの弾着観測射撃。


加賀(弾着観測射撃は、1発目の着弾地点から狙いを修正し、2発目、3発目の精度を上げていくもの)

加賀(つまり、すぐに次の攻撃が来るはず……!)


加賀の予想通り、ソレは間髪入れずにやってきた。




 ドッパァァァン!!!




グラーフ「くっ!? また至近弾か!」

響「いや、さっきより着弾地点が近い!」

霰「……っ!」ゾクッ


初撃が10メートルほど離れた位置に着弾したのに対し、2発目は6~7メートルほどの距離に炸裂した。
2発目が来ることが分かっていた分、初撃を受けた時ほどの動揺は無かったが、それでも着弾の衝撃により体はよろけ、額からは嫌な汗が流れ落ちる。




グラーフ「このまま同じ場所に止まっていては、いずれあの砲撃の餌食になるぞ!」

加賀「……三手に分かれましょう」


加賀は攻撃が当たらぬよう動き回りながらも、状況を分析し最善と思われる指示を飛ばす。


加賀「一か所に止まり続けるのも、皆で密集しているのもマズいわ」

加賀「それに、このままここで迎撃を続けていても防戦一方になるだけ……私たちも打って出ます!」



加賀「那智さんと不知火は潜水艦に注意しつつそのまま前進。敵空母に接近し砲雷撃戦でこれを撃破」

加賀「私とグラーフさんは別行動を取ります。敵は率先して私たち空母を狙ってくるはずだから、同じ位置にいては一網打尽よ」

グラーフ「分かった。では響と霰はどうする?」

加賀「響はグラーフさんに、霰は私に護衛艦として随伴してもらいます」

響「了解」

霰「…………」コクリ



加賀「では………散開!」



――
――――
――――――



アイオワ「――ふぅん、どうやら3つに分かれたみたいね」


観測機から伝わってきた情報によると、加賀たちは3チームに分かれて別行動を開始したらしい。

那智と不知火は大鳳たちのいる方角へ向かって前進。
加賀と霰、グラーフと響の2チームは、互いが真逆の方角へと距離を離していく。


アイオワ(……狙うなら、やっぱり旗艦のカガよね)


敵艦隊の中で一番の手練れは、間違いなく加賀だ。
旗艦であり、戦力としても最も脅威になり得る彼女さえ倒してしまえば、ほぼ勝ちは決まったようなもの。


アイオワ(それに、Meが砲撃を続けている限りは、カガも攻撃に専念できないはず)

アイオワ(例えこちらの砲撃がHitしなかったとしても、カガに攻撃する機会を与えないというだけで、敵の戦力を大幅にDownさせることができる)

アイオワ(となると、皆に出すべき指示は……)


アイオワは少し考えたのち、無線に手を当てて皆に指示を飛ばす。


アイオワ「皆聞こえる? 敵は3つのチームに分かれて行動を開始したわ」

アイオワ「私はこのままカガを狙い続けるから、皆は他のMemberの相手をお願い」





アイオワ「千代田はそのまま敵艦載機の迎撃を続けて。Meと大鳳が攻撃に専念できるよう、しっかり守ってちょうだい!」

千代田『了解。私に任せて!』



アイオワ「大鳳はグラーフの相手をお願い。さっきの戦いを見てたけど、加賀に比べて発艦させている艦載機の数が少なく感じたわ」

アイオワ「恐らく元々の搭載数が少ないはず……1対1で正面から戦えば十分に勝てる相手よ」

大鳳『分かりました。 ……しかし、そんなところまで見ていただなんて流石です』

アイオワ「こう見えてもアナタたちのFlag shipよ? 戦場全てを見渡して、的確な判断と指示ができなければ務まらないわ!」フフン

大鳳『……普段とのギャップがありすぎるんですよ』ボソッ

アイオワ「? 何か言った?」

大鳳『いえ何も。通信終わります』ブツッ



アイオワ「ポーラと舞風はナチとシラヌイを迎え撃って。大鳳と千代田には絶対近付かせないこと!」

舞風『りょーかいです! よーし、不知火姉さんに一泡吹かせちゃおっと!』

ポーラ『ワイン……焼酎……ウイスキー……』ブツブツ

舞風『ほらほら! 行きますよポーラさん!』グイッ

ポーラ『はっ!? お酒は? 飲み放題は~?』キョロキョロ

舞風『だーかーらー、それは演習に勝ったらの話ですよぉ!』



アイオワ「最後にイクだけど……状況に応じて狙える相手を狙ってちょうだい」

伊19『なんだかイクへの指示だけ雑なのね!?』ガーン

アイオワ「Youの酸素魚雷なら、どの位置からでも敵全員をSnipeできるでしょ?」

アイオワ「流石の私も弾道の計算をしながら一人一人に的確な指示は飛ばせないし、あとはYouの経験と判断に任せるわ!」ビシッ

伊19『……つまり、イクのことを信頼してくれてるのね!!』キラーン

伊19『了解なの! 何なら全員イクがやっつけてあげるのね~!』


アイオワ(……イクは指示を出したところで、その通りに動くキャラじゃないし)

アイオワ(だったら最初から好きに動いてもらった方が、パフォーマンスも発揮できそうだしね☆)




――――――
――――
――



今回はここまで
長らく更新できず、すみませんでした・・・


――
――――



那智「? あれは……」


加勢に戻りたくなる衝動をぐっと堪えながら敵の潜水艦を探していた那智と不知火は、こちらに向かってくる2人の人影に気が付いた。



舞風「どうもー、舞風でーす!」

ポーラ「敵艦はっけ~ん。砲撃戦~準備ですぅ~」


那智「お前たちは……なるほど、私たちを足止めしに来たわけか」


アイオワの指示で、那智と不知火の迎撃を任された2人。
ソナーで潜水艦の探索を続けていた不知火も、一旦索敵を止めて敵である舞風たちと相対する。




不知火「……演習とはいえ、こうして貴女と戦うことになるとはね」

舞風「前の鎮守府にいた頃は、一緒に出撃したことはあっても直接戦ったことはなかったもんねぇ」アハハ

不知火「演習に参加したのは自分の意思? それとも、貴女の提督の指示かしら?」

舞風「うーん、陽炎姉さんが推薦してくれたのが切欠だけど……今は自分の意思で、不知火姉さんと戦いたいって思ってるかな」

不知火「貴女は昔っから能天気に見えて意外と好戦的だったわね」フッ


不知火「――いいわ、かかってらっしゃい」ギロリ

舞風「ぉ~こわっ! でも私だってあれから強くなったんだから!」チャキ






那智「貴様は確か、ポーラとかいったな」

ポーラ「はい~、ザラ級重巡洋艦の三番艦、ポーラです~」エヘヘ

那智「……妙高型二番艦、那智だ」


那智(何というか、緊張感のないやつだな……)


ヘラヘラした態度のポーラを前にして「こいつは戦いを舐めているのか?」と、那智は若干の苛立ちを覚えていた。
演習前に多量の酒を飲むだけでも言語道断なのに、いざ演習が始まってもこの態度。
戦いそのものを舐めているとしか思えない。
或いは戦いではなく自分たちが舐められているのか……
いずれにせよ、武人気質の那智にとっては度し難い相手であった。


那智「貴様、よくそれで艦娘が務まるな。演習とはいえ真剣勝負の真っただ中だぞ!」

ポーラ「え~? でもでもぉ、こう見えてポーラ、結構強いですよ~?」ニヘラ

那智「ッッ! よかろう……! では相手になってやる!」チャキ

ポーラ「那智さんに恨みはないけれど~、お酒の為にもポーラ頑張りま~す」チャキ



――――
――




――
――――



響「……どうやら不知火たちが会敵したみたいだ」


無線から伝わってきた情報によると、潜水艦の探索を続けていた不知火たちの前に、ポーラと舞風が立ちはだかったらしい。
2人を足止めすることで大鳳と千代田を守り、それと同時に潜水艦の発見を遅らせることで伊19が自由に動き回れるようにするのが敵の狙いだろう。


響「不知火たちが足止めを食らっているとなると、敵空母と潜水艦の脅威はまだ当分拭い去れそうにないね」

グラーフ「あぁ。しかし逆に言えば、敵2人を引き付けてくれているということだ」

グラーフ「戦艦と空母の遠距離攻撃に加えて、重巡と駆逐艦に接近戦まで挑まれる、というリスクはこれで無くなった」

響「そうだね。でも、苦しい状況には変わりないんじゃないかな」

グラーフ「それもそうだ……っと!」


大鳳が放つ爆撃機の攻撃を辛うじて避けながら、グラーフもまた反撃のために攻撃機を発艦させる。

響の言うように、危機的状況にあることには変わりない。
先ほどの航空戦でも、敵空母の見事な連携により後れを取ってしまった。

しかし、それでも――


響「……何だか楽しそうだね」

グラーフ「ふっ、そう見えるか?」


グラーフの顔には、まるで苦しい表情は見られず、

それどころか、この状況を楽しんでいるかのように不敵な笑みさえ浮かべていた。






グラーフ(――これこそ、私が望んでいた戦いだ)


危機感が足りない、などと叱責されてしまうかもしれない。
しかしそれでも、湧き上がる歓喜の念を抑え込むことはできそうになかった。

自分が艦娘ではなく、意思を持たない軍艦だった頃。
かつての大戦で、未成艦のまま戦わずして朽ちていった空母――それが自分、グラーフ=ツェッペリンだ。

そんな自分が、空母として戦えることが。
同じ空母である敵と、航空戦を繰り広げられることが。
グラーフにとって、堪らなく嬉しかったのだ。


グラーフ(こんな日が来るのを待っていた)

グラーフ(この日を夢見て、ひたすら腕を磨いてきた)

グラーフ(敵は技術大国日本の誇る最新鋭の装甲空母『大鳳』)

グラーフ(――相手にとって不足なし!!)


大空を舞う敵の攻撃機を見上げながら、カタパルトを天に向けて突き出すと、


グラーフ「攻撃隊、出撃! Vorwarts!」


楽しくて仕方がないといった声色で、高らかに反撃の開始を宣言した。



――――
――






――
――――



舞風「ほらほら! そんな攻撃当たんないよーっと!」

不知火(くっ、ちょこまかと……!)


一方、舞風と1対1の戦いを繰り広げていた不知火は、予想以上に苦戦を強いられていた。

元々舞風の姉であり、艦娘としても先輩にあたる不知火の方が練度は上だ。
かつて同じ鎮守府に所属していた頃も、戦績では常に不知火が2歩も3歩もリードしていた。

しかし実際こうして戦ってみると、なぜか妹の舞風の方が優位に立っているように見える。

その理由は2つ。


不知火(やはり、この装備では分が悪い……!)


1つ目の理由は、不知火の装備にあった。

ソナー、爆雷、爆雷投射機。

対潜性能に特化させた結果、不知火のスロットには主砲も魚雷も搭載されていなかったのだ。


不知火(せめて、主砲を1本だけでも積んでくるべきだったか……!)


もしも相手が潜水艦であったならば、特化された対潜性能によって簡単に勝利できただろう。
しかし、相手は自分と同じ駆逐艦。
水上の敵を相手に、爆雷やソナーでは何の役にも立たない。
必然的に不知火の攻撃手段は、元から搭載されている小口径の機銃1本のみに限られてしまっていた。




そして、2つ目の理由は――



不知火(……しばらく会わないうちに、随分と成長したみたいね)


確かに以前は、不知火と舞風の間には明らかな実力差があった。

しかし、それは過去の話。

『男子三日会わざれば刮目して見よ』という諺があるが、女子も決してその例外ではない。
ましてや三日どころか、もう数年は会っていなかったのだ。
自分の知らないところで訓練や実戦を積み、メキメキと実力を付けていたところで何らおかしくはない。


以前は存在したはずの実力差が、格段に縮まっている――
それこそが、舞風が不知火を相手に善戦できている2つ目の理由であった。






舞風(いける! 不知火姉さんに勝てる――!)


不知火の機銃による攻撃を難なく躱しながら、舞風は自身の優勢を感じていた。
まだ有効打こそ与えられていないものの、向こうの攻撃もまた、こちらに掠りもしていない。
加えてこちらには心身ともに余裕があるが、不知火の顔には明らかに焦りの色が浮かんでいる。


舞風(別れてから数年。姉さんも姉さんで、きっと更に成長してるんだろうけど……)

舞風(私はそれ以上に成長してるんだから!)


異動により不知火と離れ離れになってからも、毎日の訓練を怠ったことはなかった。
それどころか長姉である陽炎に頼んで、通常の訓練の後にも特別に稽古を付けてもらっていた。
それはひとえに、姉たちへの憧れの念があったからだ。



舞風(――陽炎姉さんは長女として、いつも私たちを引っ張ってきてくれた)


19人姉妹の長女である陽炎。
持ち前の明るさとリーダーシップで、姉妹のみならず艦隊や鎮守府全体を盛り上げてきたムード―メーカー。
その朗らかさからは想像しづらいが仕事に対する責任感は人一倍強く、彼女が成し遂げた任務や勝ち取ってきた武勲は数えきれない。
舞風が最も頼りにし、尊敬している姉。



舞風(不知火姉さんは常に先陣に立ち、何度も私たちを救ってくれた)


次女である不知火は、こと戦闘に関しては陽炎以上にストイックだ。
艦隊の斬り込み隊長として、あらゆる戦場でいつも一番槍を務めてきた彼女。
それは単に戦いが好きだからというだけではなく、自分が率先して敵を倒すことで、背後にいる仲間を護れるから。
一見すると取っ付きにくい性格をしているが、本当は仲間や妹たちのことを大切に想ってくれていることを、舞風は知っていた。



舞風(そんな姉さんたちに追いつきたくて、ここまでずっと頑張ってきたんだ……!)


舞風(絶対に……負けません!)






―― モニタールーム ――



提督(………やっべぇ)

提督(俺が対潜装備を積んでいけって言ったせいで、妹相手に苦戦しちゃってるじゃん)

提督(もし、不知火が舞風に負けたら……)



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

不知火「……提督の指示のせいで、妹相手に1対1で負けるという屈辱を味わわされたわけですが」

不知火「覚悟はできていますか?」ギロッ

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



提督()








陽炎「不知火はあんまり本調子じゃないみたいね。ま、装備のことを考えたら仕方ないけど」

陽炎「それに比べて、舞風はいい動きしてるじゃない」

Pa提督「実の姉が相手ということで、いつも以上に張り切っているんだろう」

Pa提督「……にしても、いつ見ても舞風の動きは独特だな。まるで踊っているようかのような……」

陽炎「あぁ、あれは私が教えたのよ」

Pa提督「何? どういうことだ?」

陽炎「ほら、舞風ってダンスが好きでしょ? だからその動きを戦闘にも取り入れてみたらどう? ってアドバイスをね」

Pa提督「成程な。危なっかしい動きだと思っていたが、あれはそういう戦闘スタイルだったわけか」

陽炎「『蝶のように舞い、蜂のように刺す』だっけ? それがあの子のモットーらしいわ」アハハ



――――
――



――
――――



不知火「……驚いた。まさかここまで成長しているなんてね」


肩で息をしながら、妹のことを素直に称賛する不知火。
よく見れば服の所々が破れ、一部は焼け焦げているようにも見える。
必死に攻撃を回避していた不知火だったが、気付かぬうちに小破するまでダメージが蓄積していたらしい。



舞風「褒められるのは嬉しいけど、できれば勝敗が着いてからにしてほしいなーって」


そう返しつつも、姉に認められたことに対し喜びを隠しきれない舞風。
ずっと尊敬し、その後ろ姿を追ってきた姉に認められたのだ。
喜ぶなという方が無理な相談であった。


舞風「本当はそんな対潜装備じゃなくて、主砲と魚雷を積んだ本気の姉さんと戦いたかったけど……」

舞風「これも演習だし、仕方ないよね」

舞風「それとも、まだ何か策はありますか? その装備で私を倒せる策が」


自身が優位に立っているという自覚と、姉に褒められた高揚感からか、ついつい調子に乗った発言をしてしまう。
後で怒られるかなとも思ったが、少なくとも今は自分の方が立場は上だ。臆する必要などどこにもない。



不知火「……そうね、策ならあるわ」

舞風「へぇ。どんな策ですか?」


この期に及んでどんな策があるというのか。

まさか、水面に立つ自分目掛けて爆雷を投げ付けて戦うとでも言うのだろうか?

それとも単なる負け惜しみか。

いや、この姉の言うことだ。決してハッタリなどではないはず……


様々な考えが頭の中を廻り、舞風が若干警戒を強めたところで、




不知火「――逃げるわ」ダッ



そう一言呟くと、不知火は踵を返して全速力で駆け出した。






舞風「――は?」ポカン


突然の出来事に、舞風は思わず呆気に取られてしまう。



逃げた?  あの姉さんが?


 妹である自分に勝てないと判断し、


    けれども潔く負けを認めることなく、


       尻尾を巻いて戦いから逃げ出した?



あの、ずっと憧れていた、不知火姉さんが?




舞風「…………ふ」
















舞風「ふざけんなあああああああぁぁっっ!!!」



静寂から一転。感情が雄叫びとなって爆発する。
尊敬する姉の醜態を目の当たりにして、舞風の心中は怒りと落胆ではち切れそうになっていた。



舞風「絶っっっ対に! この手で! 倒してやる!!」 ダッ


すぐさま追跡を開始する舞風。

この姉妹の戦いに決着が着くまでには、まだ少し時間がかかりそうであった。


――――
――




――
――――



戦いを舐め切った、艦娘の風上にも置けないヤツ。

それが、那智のポーラに対する最初の印象だ。
しかし実際に矛を交えてみて、その印象は変わりつつあった。


那智(こいつ……強い!)


2人の戦いが始まって早数十分。
幾度となく距離を詰めて近距離から砲撃を浴びせようとしたが、ギリギリのところでポーラに上手く躱されてしまう。
特別ポーラの動きが俊敏というわけではないのだが……
何というか、まるでユラユラとはためく布を攻撃しているかのように、こちらの砲撃が紙一重で当たらない。


那智(さながら酔拳だな……)


酒がまだ抜け切っていないせいなのか、ふらふらとしたその足取りは正に酔拳そのもの。
それがポーラの戦闘スタイルなのか、それとも本当にただ酔っているだけなのか。
那智には判別が付かなかったが、それでもこちらの攻撃を上手く回避していることは事実だ。


那智(それに加えて――)

ポーラ「いいですか~? 撃ちますよ~? Fuoco!」ドゴォォン!!

那智「……ッッ!」



バシャァァァン、と。

ポーラの主砲から放たれた砲弾は、那智の体からほんの数十センチのところを掠め、後方の海面に着弾する。
炸裂した砲弾は高い水柱を上げ、近くにいた那智はその飛沫をマトモに浴びた。





那智(ヤツの主砲……あれは確か、イタリア製の長射程を誇る連装砲だったか)

那智(射程が長い分、命中精度は低いと聞いたことがあるが……)


実際に、ポーラの扱う203mm/53連装砲は命中精度に難がある。
重巡の主砲として最もメジャーである20.3cm連装砲に比べると、その精度の差は歴然だ。
いくら長距離射撃が可能といっても、当たらなければ何の意味も無い……はずなのだが、


那智(あの主砲を使ってこの命中精度とは……恐れ入った)

那智(イタリア艦であるヤツにとっては使い慣れた装備なのかもしれんが……)


見た目や言動とは裏腹に、もしや影で相当な訓練を積んでいるのだろうか。
いや、それにしては動きに無駄が多いというか、洗練されていないというか……



那智「貴様、中々やるではないか! その動きは訓練の賜物か!?」ドォン!

ポーラ「ん~? ポーラ、訓練は苦手ですぅ~」ヒョイッ

那智「っ! ならその動きはどこで学んだ!?」ドゴォン!

ポーラ「う~ん、えっとぉ~……カン、ですかねぇ?」ヒョイッ

那智「なっ……!」


那智が砲撃し、ポーラがそれを軽々と躱す。
そんな応酬の中でポーラに問いかけた那智だったが、返ってきたいい加減な答えに激昂――しかけたところで、一つの答えに辿り着いた。



――ポーラは、いわゆる“天才型”なのだと。






いかなる分野においても、優れた人物には2種類のタイプが存在する。


秀才型と天才型。


前者は修練や研鑽によって実力を身に着けた努力家であり、後天的に力を得た者。
後者は生まれながらにして実力を持ったサラブレッドであり、先天的に力を得た者。


恐らく、ポーラは後者なのだ。


碌に狙っているようには見えない構えと、基本からかけ離れた個性的な撃ち方。
にも関わらず、ポーラの放つ砲撃はどれも至近弾になる。

こちらの射撃精度も決して悪くは無いはずだが、ポーラはそれを難なく躱す。
それはまるで、こちらの弾道を直感で読み取り、最小限の動きだけで回避できることが分かっているかのようだ。

努力や苦労を重ねずとも、持ち前のセンスだけで大抵の物事を卒なくこなしてしまう。
そういったポーラたちのような者のことを、世間では“天才”と呼ぶのだ。



那智(天才、か。まったく……性格はまるで違うが、姉さんを思い出す)


天才と聞くと、真っ先に姉のことが頭に思い浮かぶ。

妙高型一番艦、妙高。

姉としても、武人としても、誇り高い自慢の姉。
その実力は国内のみならず国外にも名を轟かせるほどで、現在就役している重巡洋艦の中でも1~2を争う実力だと噂されている。

昼戦では1人で敵艦隊の半数以上を沈め、夜戦になれば正確無比な雷撃で姫クラスの敵さえ単独で撃破する。
おまけに知略にも優れ、人柄も良く、人望も厚い。
本当に非の打ちどころのない、まさに天才と呼ぶべき姉であった。


だが――



那智(いつからだったか……そんな姉さんと比べられることに、苦痛を覚え始めたのは)




舞風が陽炎と不知火を尊敬しているのと同じように、那智もまた妙高のことを尊敬していた。
同じ妙高型として、いつかは姉と肩を並べられるようにと、どんなに厳しい訓練にも耐えてきた。
訓練だけでは実力は身に着かないと、率先して出撃を繰り返し実戦経験も積んできた。

そうやって姉以上の努力を重ねてきたが―――姉は涼しい顔をして、その1つ2つ先を行く。


そうしていつしか気付いてしまったのだ。
自分は一生、姉に追いつくことはできないのだと。


その事実に気付いてしまった途端、あれだけ誇りに思えていた“妙高型”の肩書が、重く圧し掛かってくるように感じた。


――妙高型の一番艦は優秀だが、その二番艦は姉には及ばない。

――妙高“型”って言う割には、一番艦である妙高以外の活躍は聞いたことが無いな。


誰かにそう言われたわけでもない。自分の勝手な被害妄想だとは分かっている。
しかしそれでも、ことあるごとに卑屈な考えが彼女のことを苦しめた。

普段の那智を知る者からすれば、まさか彼女がそんなことで悩んでいるはずがないだろうと、
豪胆な性格の彼女なら、そんなコンプレックスなど笑って吹き飛ばしてしまうだろうと、
そう思ったかもしれない。

しかし、間違いなく彼女は人知れずに苦しんでいたのだ。


そうして遂に、まるで姉から逃げるようにして他の鎮守府への異動願いを出した。
私もそろそろ姉離れせねばな、などと笑って誤魔化し、心配そうにする姉妹たちを振り切ってこの鎮守府にやってきたのだった――




那智「――ぐぁっ!?」ドゴォォォン!!

ポーラ「おー、当たりました~!」パチパチ

那智(くっ……馬鹿か私は! 戦いの途中で物思いに耽るなど……っ!)


考え事をしていたせいで動きに乱れが生じたのか、ついにポーラの放った一撃が那智を捉える。
強烈な一撃を浴びた那智の艤装からは、薄っすらと黒煙が上がっていた。
まだ戦うことはできるが、中破しているのは明らかだ。


那智(ヤツの態度や考え方は許容できんが、この戦いにはしっかりと集中している)

那智(その反面、私はなんだ! 真剣勝負の真っただ中などと言っておきながら、この体たらく……!)ギリッ


勝負の最中に雑念を抱いてしまった己に対する自己嫌悪。
そしてその自己嫌悪が、再び心の中に雑念を生み出す。


姉と同じ“天才”を目の当たりにし、それに加えて恥ずべき失態を犯してしまったことで、那智の心は負のループに飲み込まれようとしていた――



――――
――



――
――――



霰「加賀さん……! また砲撃が来る……!」

加賀「っ!」




 ドッパァァァン!!!


これで何発目だろうか。

アイオワの放ったであろう砲弾が加賀たちの間近に着弾し、轟音を響かせた。
衝撃の余波を全身に受けながらも、何とか体勢を崩さぬようバランスを取り、追撃から逃れるべく敵との距離を取る。



霰(このままじゃ……負ける)


遥か遠くからの砲撃に晒され続け、加賀と霰は先ほどから逃げ回ってばかりいた。
こちらからも攻撃しようと加賀が隙を見て艦載機を発艦させるも、千代田の艦戦による妨害で思うようにいかない。
おまけに――


加賀「! 魚雷よ! 右方向に回避!」

霰「っっ!」


シュゴォォォ、と、

水切り音を立てながら、霰が先程までいた位置を魚雷が通過していく。

空から降り注ぐ砲撃に加えて、水中からも幾度となく魚雷が襲い掛かってきていた。
恐らく敵の潜水艦は、旗艦である加賀と、その護衛艦である霰にターゲットを定めたのだろう。
未だにその姿と位置は確認できず、2人は見えない敵からの波状攻撃に対処するので精一杯であった。




霰(早く……早く何とかしない、と……!)

霰(私たちだけじゃなく、グラーフさんや、那智さんも……)


危機に直面しているのは自分たちだけではない。

確かに今、自分たちは敵の戦艦と潜水艦に狙われている。
言い方を変えれば、敵の2隻を引き付けているということだ。
その間、他の仲間たちへの攻撃は手薄になるはずだが……


霰(……さっきから、こっちに艦攻も艦爆も、飛んでこない)


先刻はあれほど苛烈に雷撃と爆撃を繰り返していた敵の艦載機が、グラーフたちと分かれて以降、1機もこちらへは飛来していなかった。
それはつまり、自分たち以外の誰か――恐らくグラーフと響が、今この瞬間も攻撃されているということだ。


霰(加賀さんと、グラーフさんの2人がかりでも、凌ぐのがやっとだった、のに……)

霰(それに、まだ敵は他に2人いる、はず)

霰(早く、加勢に行かないと……!)


霰の胸中に自然と焦りが生まれる。

早く何とかしないと。

早くどうにかしないと――




加賀「――大丈夫、心配いらないわ」


そんな霰の心中を察したかのように。
聴く者を安堵させるような声音で、加賀が語り掛けた。




霰「加賀、さん……でも、このままだと皆が……それに、私たちも……!」

加賀「……私たちの役目は、敵戦艦の攻撃を引き付けること」

加賀「確かに艦載機による攻撃や、潜水艦の魚雷も厄介だけれど、一番の脅威はやはりアイオワさんの砲撃よ」

加賀「アレを食らったら、小破や中破では済まない。おまけに命中精度も悪くないときているわ」

加賀「今はこうして少しでも逃げ回り、アイオワさんの注意をこちらから逸らさないようにするのが私たちの役目よ」

霰「けど、他の皆は……!」

加賀「だから言ったでしょう――心配いらないと」


仲間たちが戦っているであろう方角を見据えながら、加賀は静かに、それでいてハッキリと口にした。



加賀(貴女たちが、誰よりも努力を積み重ねてきたことを私は知っている)


序盤は敵にリードされてしまったが、グラーフも那智も、この程度でやられるようなタマではないと。
自分たちが加勢に向かえずとも、彼女たちなら何とか切り抜けてみせるだろうと。

そう信じ切っていると、加賀の眼差しは物語っていた――



梅雨イベに掛かりっきりでしばらく筆を置いていたら、続きが書けなくなっていました
待って頂いていた方はすみません・・・

また少しずつ、更新していければと思っています

レスありがとうございます
少しではありますが投下します


――
――――



大鳳(思った以上に、手強い……!)ギリッ


自身の艦載機がグラーフに迎撃されるのを感じ取りながら、大鳳は歯噛みしていた。


大鳳(これで5機目……明らかに撃墜される数が増している……!)


決してグラーフのことを侮っていたつもりはない。

確かに“あの”加賀に比べれば御しやすい相手だろうとは思っていた。それは認めよう。
しかし、決して油断や慢心はしていなかったはずだ。


大鳳(……いえ、心のどこかで私はグラーフさんのことを舐めていた)

大鳳(加賀さんならともかく、グラーフさんになら1対1でも十分に勝てるだろう、と)


その考え自体は決して間違っていたとは思わない。
旗艦のアイオワもそう判断したからこそ、グラーフの相手を大鳳1人に任せたのだ。
事実、つい先程まではこちら側が圧倒的に優勢であり、向こうは防戦一方だったはず。

それなのに、なぜ今になって戦況が拮抗し始めているのだろうか?




大鳳(……なるほど、戦力を分散させたのはこの為でもあったというわけですか……!)


1ヵ所に固まっていては、砲撃や爆撃で一網打尽にされてしまう。
敵が3つの勢力に分散したのは、それを避けるためだと思っていた。
しかし、それだけでは無かったとしたら――


大鳳(さっきまでは加賀さんとグラーフさんが1ヵ所に固まっていたため、千代田さんの艦戦によるサポートを十分に受けることができた)

大鳳(けれど敵の空母2人が分散してしまったら、千代田さんは艦載機を異なる2つの方向に差し向けなければならない)

大鳳(そうなればどうしても、敵1人あたりに割ける艦載機の数は半減し、操作の精度も落ちてしまう……)


先程までは加賀とグラーフが同じ地点に密集していたため、1つの視界で2人を捉えつつ、全艦載機を1ヵ所に集中して送り込むだけで良かった。
しかし、2人が別方向に分散してしまった今。
加賀とグラーフの攻撃機を撃墜するためには、2つの視界でそれぞれ1人ずつを相手にせねばならない。

ゲームに例えると少しは分かりやすいだろうか。
1つの画面で2人の敵を相手に戦うのと、2つの画面を交互に見ながら1人ずつと戦うのと。
敵の人数は同じ2人であっても、どちらの方が戦いやすく、どちらの方が戦いにくいか、実際にやらずとも分かるはずだ。




大鳳(それに恐らく、千代田さんの艦載機の数は半減どころじゃない)

大鳳(加賀さんの艦載機の数に対抗しようと思ったら、どうしても加賀さん側に割く艦載機の方が多くなってしまうはず)


加賀は圧倒的な搭載数を誇ることで有名な空母だ。
そんな彼女に対抗するためには、こちらもそれなりの数で迎え撃つ必要がある。
実際に大鳳の読み通り、千代田は全艦載機の内、約7割近くを加賀へ、残り3割をグラーフへ差し向ける形となっていた。


大鳳(つまり、演習序盤と比べたら千代田さんによるサポートが3割程度しか受けられないということ)

大鳳(そうなれば撃墜できる敵の数は減り、代わってこちらの被撃墜数が増えるのは自然なこと…………ぐぅッッ!?)ドゴォ!!


突如、大鳳の身に衝撃が走る。
気付けば上空にはグラーフの放ったと思われる爆撃機が旋回していた。
どうやら思考することに気を取られ、その隙に手痛い一撃を貰ってしまったらしい。

しかし、そこは流石に装甲空母。

持ち前の耐久と装甲の厚さにより、何とか中破一歩手前の損傷で持ちこたえていた。


大鳳(くっ、油断した!)ボロッ

大鳳(まさか、ここまで苦戦するとは……!)


確かに千代田のサポートが減ったのは痛い。
コンビネーションを前提とした戦術を取っているがゆえに、その戦力の低下ぶりは甚だしいものがある。

しかし、それでも。
当初、自身やアイオワがそう判断したように、例え1対1であっても決して後れを取るような相手ではないはず――





いや……もう、認めるしかない。





大鳳(グラーフ=ツェッペリン……貴女は、強い……!!)




――――
――



――
――――


グラーフ=ツェッペリンが艦娘として2度目の生を受けたのは、今からほんの3年ほど前。
現在彼女が所属している鎮守府……ではなく、彼女の母国であるドイツの領海にて発見された。



かつて沈んだ軍艦たちが艦娘として転生する流れには、以下の2つが存在する。

1つは、各鎮守府の工廠で資材を消費して行われる『建造』
もう1つは、各海域で深海棲艦を撃破した際などに、どこからともなくその姿を現す『ドロップ』
グラーフはその内の後者であった。

『ドロップ』により発見された艦娘は、一旦その国の海軍や政府にて身柄を保護されることになっている。
グラーフもその例に漏れず、海上にて発見された後、そのまま海軍本部へと連れてこられた。
そうしてしばらくの間は軍や政府の管理下に置かれ、やがて配属先が言い渡されるのだ。



自身の今後が決定されるまでの間、グラーフの心の内にあったのは大きな期待と使命感であった。
かつての自分は未成艦として何の成果も残せなかったが、今の自分にはこの肉体がある。
手があり、足があり、声があり、何より――心がある。


今度こそ、この国のために。

そして護るべき人たちのために、人類の敵である深海棲艦と戦うのだ――












 『グラーフ=ツェッペリン。貴艦に日本への出向を命ずる』





だからこそ、




そう言い渡された時の落胆ぶりは、筆舌に尽くしがたいものであった。






地球の歴史上、ドイツほど戦禍に見舞われ、また逆に戦火を巻き起こした国は存在しないだろう。
先の大戦では多くの国を蹂躙し、多くの命を奪い、多くの悲劇を生みだした。

そんなドイツだからこそ。
それが例え表面的なものであったとしても、平和の訪れた現代において。
戦争や軍を連想させるものは忌避される傾向が強まっていた。

軍隊は大幅に縮小され、外敵と戦う牙を失った。
人々は軍事力よりも、経済力を求めるようになった。

時代の流れと言えば、そうなのかもしれない。
争いを嫌い、平和を愛することは決して間違っていないだろう。



だが、



戦うために生まれてきたグラーフにとって、日本への出向命令は 『お前はもうこの国には必要ない』 という、存在そのものを否定されることと同義であった。







そうして彼女は失意のまま、海を渡り日本へとやって来た。

言葉も文化も分からない異国の地。
かつての同盟国ではあるが、実際に日本へ足を踏み入れたことなどないし、日本人にも会ったことなどない。

聞けば日本も先の大戦の反省からか、軍隊が武力を有することに対して批判的な声が強いらしい。
ここでも、母国と同じように蔑ろにされるのだろうか。
役割を与えられないまま、倉庫の中で埃を被っていく運命なのか。

そんな不安と絶望に苛まれていた彼女が、日本で初めて出会ったのが――




加賀『――ようこそ日本へ。グラーフ=ツェッペリンさん』




世界最強の空母との呼び声も名高い、一航戦、加賀であった。




加賀『何でも、赤城さんの設計を参考にして建造されたとか』

加賀『慣れない異国の地で戸惑うこともあるでしょうが、何かあったら案内役である私を頼ってください』


最初の頃は、気難しい人だと思っていた。
自分が言えたことではないが、常に表情は硬く何を考えているのか分からない。
喋り方も坦々としているため、何か質問をするたびに不機嫌にさせてしまったのではないかと不安になったものだ。





加賀『ドイツではビールが盛んだと聞きましたが……』

加賀『日本のお酒も負けてはいません。よろしければ1杯どうぞ』


だが、何度か接する内にそれは誤解であったことに気が付いた。
彼女は感情表現が苦手なだけで、本当は心優しい、思いやりのある人なのだと。
案内役を任されたから仕方なく……ではなく、本心からこちらのことを気遣ってくれているのだと。





加賀『――確かに、貴女は艦載機の搭載数が少ないかもしれません』

加賀『けれど、それがどうしたというのですか』

加賀『仮にこちらが敵の半数以下の艦載機しか扱えないとしても、こちらの1機で敵を2機撃ち落とせば、2倍の戦力を持つ相手とも戦えます』

加賀『……貴女に強くなりたいという意志があるのなら、協力は惜しみません』


搭載数の貧小さに一種のコンプレックスを抱いていた自分を励まし、稽古を付けてくれたのも他ならない彼女だ。
時には厳しく、時には優しく、航空戦の何たるかを一から十まで授けてくれた。





加賀『驚きました。貴女、空母なのに夜戦ができるのね』

加賀『でしたら艦載機の扱いだけでなく、砲撃についても学んでおくべきです』

加賀『やれることは全てやる。そうすれば、きっと貴女にしかできない、貴女だからこそできるような戦い方が見つかるはずよ』


空母だからといって艦載機を上手く扱うことだけに囚われず、様々な分野にも目を向けるべきだと教えてくれた。
こんな自分にもできることが……いや、自分にしかできないことがあるはずだと、新たな可能性を示してくれた。





未成艦で、何の武勲や戦果も無く、実力的にも未熟な自分の隣に、

歴戦の、輝かしい実績を持った、最強とも呼ばれる空母がいてくれる。


そのことが何よりも嬉しく、何よりも誇らしかった。




そして同時に、グラーフの中に新たな願いが芽生える。

ただ単に強くなるだけではない。
ただ単に功績を立てるだけではない。


この人に認めてもらいたい。

この人と背中を預け合って戦いたい。

この人をいずれ超えてみたい、と――





グラーフ「――敵機撃墜! これで8機目だ!」

響「Круто!(すごい!)」


グラーフと大鳳の一騎打ちは、今や完全に互角の戦いになりつつある。
むしろ防戦一方の状態からここまで巻き返したことを考えると、勢いはグラーフの方にあると言っていいだろう。


グラーフ「このまま敵に接近するぞ! 後に続け!」

響「了解!」


劣勢になった相手が逃げ出さないよう、航空戦を繰り広げながらも徐々に距離を詰めていく。
もしここで大鳳を逃してしまったら、今度は別の味方が狙われるかもしれない。
或いは1対1で戦うことを不利だと感じ、再び千代田と合流されてしまったら先程のようにまた苦戦を強いられることになる。

自分たちがこの演習で勝利するためには、何としてもここで大鳳を倒しておかなければならない。



グラーフ(……とはいえ、序盤に艦載機の大半を堕とされてしまった)

グラーフ(このまま戦い続けた場合、先に艦載機が尽きるのはこちら側、か……)

グラーフ(ならばそうなる前に敵を追い詰め、撃破する!)


響「――見えた! 敵空母を発見!」


迫りくる艦載機の遥か向こう。
薄っすらとではあるが、水平線上に立つ人影を肉眼で捉えた。

ここまで接近してしまえば、自分たちが2人揃って返り討ちにでも遭わない限り、大鳳を逃がすことはない。







グラーフ「さて、そろそろケリを着けさせてもらおうか――!」


大鳳「……来なさい。全力でお相手しましょう――!」



――――
――


今回はここまで
書き溜めて一気に投下するよりも、こまめに投下していきたいと思います

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom