北条加蓮「藍子と」高森藍子「緑色と紅色のカフェテラスで」 (26)

――おしゃれなカフェテラス――

北条加蓮「お待たせー。今日も藍子が先なんだね」

高森藍子「加蓮ちゃんを待たせちゃうよりも、加蓮ちゃんを待っている時間の方が、私は好きですから♪」

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レンアイカフェテラスシリーズ第138話です。

<過去作一覧>
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「普通のことをやるだけのカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「のんびりうたたねのカフェで」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「思い出のあふれるカフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「朝を過ぎてのカフェテラスで」

藍子「あっ。加蓮ちゃん――」

加蓮「?」

藍子「……」

藍子「……♪」トントン

加蓮「……え、どしたの。こっちに来いってこと?」

藍子「♪」トントン

加蓮「いいけど……。椅子ごと移動した方がいい? 隣に座りたい気分とか――」

藍子「ううん。椅子はいいですよ。加蓮ちゃん、こっちに来て、ちょっとしゃがんでみて?」

加蓮「……? はい。しゃがんだよ」スッ

藍子「……じ~」

加蓮「?」

藍子「じぃ~」

加蓮「……???」

藍子「えいっ。……ふふ。取れました。髪の間に、ほら。ちょっぴり赤くなっていた葉っぱが、はさまっていたみたい」

加蓮「……」

藍子「今日は、加蓮ちゃんが秋を運んできてくれましたね♪」

加蓮「……」

藍子「……あ、あれ? なんだか、怒ってます……か?」

加蓮「怒ってるっていうか……。え、今の何だったの?」

藍子「……」シュン

加蓮「えー……」

藍子「……何も用を言わないで、隣に来て、って言ったら、どう思ってくれるのかなって。なんだかそういうことを、試してみたい気分だったのに。伝わりませんでしたね」

加蓮「あ、あー……。ごめんごめん。テイク2、やっとく?」

藍子「ねたばらしをした後では、意味がないですよ~」

加蓮「それもそっか」

藍子「残念」

加蓮「藍子がそういうことしてくるとは思ってなかったもん。今度からは事前に言っといてね」

藍子「それでも、意味ないじゃないですかっ」

加蓮「あははっ」

藍子「加蓮ちゃんが、いつも通りに向かい側に座ったところで……。こんにちは、加蓮ちゃんっ」

加蓮「こんにちは、藍子」

藍子「髪についていた紅葉のひとひら、最初は何かの髪飾りや、アクセサリーかな? って、思いました。髪にくっついていた、自然の葉だったみたいです」

加蓮「ちっちゃい葉っぱだったもん、そう思ってもおかしくないかもね」

藍子「どこから、運んで来たんですか?」

加蓮「どこからだろ……。今日は家からここに来たし、途中紅葉なんて見たかなぁ」

藍子「頑張って思い出してみてくださいっ。来た道のどこかに、必ずあるハズなんですから」

加蓮「……さては帰りに一緒に見に行こうとか考えてる?」

藍子「えへへ」

加蓮「そのついでに私の家に泊まりに来たいとか?」

藍子「やっぱり、お見通しなんですね」

加蓮「珍しくお母さんと喧嘩でもしちゃったんだ」

藍子「……そ、そこまで分かっちゃうんですか」

加蓮「えっ?」

藍子「あれっ」

加蓮「ごめん、今のはテキトー……っていうか、喧嘩なんてしませんよー、って言ってくるかなって思ってた」

加蓮「珍しいね。喧嘩」

藍子「たいしたことではなくて……それに、私が悪いんです。おととい、テレビで紅葉の特集をやっていたから、見に行きたくなっちゃって」

加蓮「ふんふん」

藍子「でも、この辺りはまだ、完全には色付いていないみたいだから――ほら、加蓮ちゃんが運んできた葉っぱも」

加蓮「緑色が残っちゃってるよね」

藍子「なので、紅葉を求めて、ちょっと遠くまで行っちゃいました!」

加蓮「……一応聞いてみるけど、それどれくらい遠くに?」

藍子「……電車で2時間くらい」

加蓮「旅行じゃん……」

藍子「か、加蓮ちゃんを誘おうかなって少し思ってて、もし誘っていたらきっと、電車で30分くらいのところで探してたと思いますっ」

加蓮「なんで私を誘ったら近場――あー、うん」

藍子「あはは……。2時間先っていうのも、どこに行くか決めていたわけではなくて。電車の窓から、紅葉が綺麗な場所を探していて……降りたいって思う場所まで、2時間かかっちゃったんですよ」

加蓮「ぶらり旅じゃん」

藍子「確かに、こうしてお話していると、旅行のような気もしてきました……」

加蓮「見つかった? 紅葉の綺麗な場所」

藍子「はい♪ その時の写真が……じゃん♪」

加蓮「わ、ぎっしりと紅葉が詰まった写真だ……」

藍子「1枚の写真に、秋をいっぱい詰めこんでみました♪」

加蓮「秋が詰め込まれた写真かー。いいね、そういうの」

藍子「えへへっ」

加蓮「……けど、これは急に見せられてもびっくりしちゃうかもね。だって、真っ赤なドアップの写真だもん」

藍子「やっぱり、そうですよね。私も撮ってから、何かちょっと違うような気がしたので――こっちが、普通に撮った紅葉の写真ですっ」

加蓮「そうそうこういうのこういうの。背景に秋の空が映ってて、紅葉がちょっと左下とか右下に映ってるヤツ。よく駅のポスターにあるよね」

藍子「駅のポスター?」

加蓮「ほら、どこそこに旅行をっていうポスターとか。うちのアイドルが映ってるのも見たことあるなぁ……。あれってどこの駅でだっけ。都心じゃなくて違う県の……」

藍子「前に遠くまでロケに行った時にでも、見つけたのでしょうか」

加蓮「たぶんね。詳しいことは忘れちゃった。いやー、加蓮ちゃんは相変わらず大人気アイドルだからさー。もうあっちこっち連れて行かされるの。どこの駅で見たかなんて覚えてないよー」

藍子「ふふっ。加蓮ちゃん、楽しそう……♪」

加蓮「けど、藍子みたいに紅葉の写真は撮ってないね」

藍子「そうなんですか?」

加蓮「誰かさんが撮ってくるだろーし、私はそれでいいやーとか思ってたり。あと、なんか……誰かと紅葉を見に行こうって誘うのも、って感じだし」

加蓮「1人で撮るのは……撮ってもいいけどさ。なんか寂しくない?」

加蓮「で、後回し後回し、って訳じゃないんだけど、そうしてるうちに……あー、そういえば紅葉の季節かー、ってちょっと他人事になっちゃった」

加蓮「……帰りに、どこで紅葉の葉を拾ったか、探してみよっかなぁ」

藍子「そうしてみましょう。私も、手伝いますからっ」

加蓮「えー」

藍子「……なんですか、その反応」

加蓮「まだ藍子ちゃんから喧嘩の理由を聞いてないしなー。どうしてうちに泊まりたいか、聞きたいなー?」

藍子「加蓮ちゃんと、いっぱいお喋りがしたいからです!」

加蓮「……そういうことさらっと言うの、良くないと思うんだけど」

藍子「加蓮ちゃんといっぱいお喋りする時間が、とっても楽しいからっ♪」

加蓮「締め出すわよ?」

藍子「わ~っ。ごめんなさい、冗談です――って、これだとまるで、加蓮ちゃんとお喋りする時間が楽しくないみたいになっちゃう……?」

加蓮「ふぅーん」

藍子「違います、違いますっ。……って、もう! 分かってて、言ってますよね?」

加蓮「分かってて言ってるけど?」

藍子「え~……」

加蓮「ふふふっ。ま、家に居づらいならおいで。お母さんも喜ぶだろーし」

藍子「じゃあ……お邪魔しちゃいますね」

加蓮「何なら仲介くらいやるよ? 喧嘩の。たぶん藍子のお母さんも、藍子が話すより私が話す方が、怒ったり、棘を見せたりし辛いと思うよ」

藍子「……あやしい」

加蓮「は?」

藍子「加蓮ちゃんが、そんなに優しいことを言ってくれるなんて……。なんだか、あやしいです……」

加蓮「…………」

藍子「なんてっ。でも、本当に大した理由じゃなくて……。さっきお話した、紅葉探しの旅の日に、帰るのが遅くなっちゃったんです。ほら、秋になって、暗くなるのが早くなっちゃいましたよね」

加蓮「そうだね。もう夜!? ってなっちゃうよ」

藍子「だからお母さんも、少し心配しがちになっちゃってるんだと思います。連絡はしたのに……ものすごく、怒られちゃいました」

加蓮「あーあ」

藍子「それから、心配しているのがわからないの! って言われちゃったので……」

藍子「それくらい分かってるもん、って言ったら……なんだか、気まずくなっちゃって」

加蓮「……その話って一昨日起きたことなんだよね。昨日は?」

藍子「1日、ぜんぜん……」

加蓮「あー……。気まずいよね」

藍子「気まずいです」

加蓮「じゃ、下手に勘ぐる藍子ちゃんの為になんか要求でもしとこっか」

藍子「私にできることなら、なんでもしますよ~」

加蓮「んー。……んー……。えー……意外と思いつかないや」

藍子「加蓮ちゃんの好きそうな、秋の美味しいものを探して来ましょうか? ファーストフードの、秋限定メニューとかっ」

加蓮「甘い甘い。そんなのいっぱい食べたよ。全種類コンプリート済みっ」

藍子「ふふ。先回りされちゃいました。では、それ以外のお菓子はどうですか? いろんなところで、紅葉にまつわるお菓子や、そうそう、ハロウィンの限定メニューも! こっちはさすがに、コンプリートできてないんじゃないですか~?」

加蓮「おっ、挑発してるつもり? これでも流行の最先端アイドルなんだよ?」

藍子「挑発……。はいっ。挑発しちゃっています。え~っと……挑発……。挑発っぽいセリフ……」

藍子「あ、あなたに、このお題を達成することはできますか!?」

加蓮「まあさすがに全種は無理だし、そういうのもいいかもね。藍子がどんな物を持ってくるか興味あるし。……あと、それ何の真似?」

藍子「ありすちゃんが、今度クイズ番組のMCをやることになったみたいで……」

加蓮「……教育番組?」

藍子「違いますよ~。本格的な、難問もいっぱい出題される番組みたい」

加蓮「へぇー……。そっちの方がらしいかも?」

藍子「ありすちゃん、とっても賢くて、いろんなことを知っていますから」

加蓮「前に千枝や薫がすごーいって言ってたなぁ。あれ、なんの豆知識だったんだろ」

藍子「最近は生き物のことにはまっているみたいなので、それかもしれませんね」

加蓮「生き物? なんかそういうのって触れないイメージあるけど」

藍子「う~ん、どうなんでしょうか。前は、虫にこわがっているみたいだったけれど……」

加蓮「図鑑とか読んで勉強したのかな」

藍子「それなら、クイズ番組の時に解説役にもなれそうっ」

加蓮「すごく詳しく説明して、以上、◯◯図鑑からの引用でした――とか言っても、なんか格好つくよね」

藍子「うんうんっ」

加蓮「学校でも人気者になったりして?」

藍子「ありそうですっ」

加蓮「でも、そういうのもMCがちゃんとできてからの話だね」

藍子「今、すごく練習しているみたいですよ。堂々と言えるように、って。……そうそうっ。もし、失敗してしまっても、動揺しない方法や、パニックにならない方法を聞いているのが、印象的だったなぁ」

加蓮「頭いいじゃん。そういうのってトチらないようにってみんな考えがちになっちゃうけど――」

藍子「失敗したことも考えられるなんて、すごいですよね。私も失敗しないようにって思っちゃうかも……」

加蓮「藍子の場合、失敗してもゆるふわ空間があるし、みんなが許してくれる能力もあるから大丈夫大丈夫」

藍子「……それって褒めているんですか?」

加蓮「一応。私も聞いてみよっかなー。失敗した時のリカバリー」

藍子「加蓮ちゃん、そういうのはすごく得意な気が……」

加蓮「そうでもないよー。これでも小心者ですから。今日だって、藍子にちゃんといいとこ見せられるかなって内心ビクビクしてるかもよ?」

藍子「……そういうことを考えている人は、そういうことを言わないと思いますよ」

加蓮「だよねー」

藍子「でも、もし本当に不安になっちゃったら……そんなこと思わなくても、大丈夫ですから。アイドルの時は難しくても、私と会う時は、強がらない加蓮ちゃんでいてくださいね」

加蓮「そうするー。もう今更だもん」

藍子「うんうん」

加蓮「さてとっ。今頃収録してるのか、まだ練習中なのかって子の話はここまでにして」

藍子「ここまでにして?」

加蓮「いや、ほら……そろそろ店内の方から、いつ水を届ければいいかな、って悩んでる店員さんもいるし」

藍子「あっ、そういえば……まだお水ももらってなかったんですね」

加蓮「なーんにも注文しないで早速1時間。ホント、藍子なんだから」

藍子「うぅ……」

加蓮「それともこの時期だから?」

藍子「この時期?」

加蓮「ハロウィン」

藍子「なるほど~。ハロウィンが近づいて、もしかしたらちょっとだけ、魔女さんの気持ちになっちゃってるかも♪」

加蓮「うわー大変だー、このままだと呪われてしまうー。逃げろー」

藍子「どうしてそうなるんですかっ!」



□ ■ □ ■ □


加蓮「藍子」

藍子「はい」

加蓮「軽い気持ちで"パンプキンケーキ:リメイク版"を注文したら、顔が想像以上に怖いんだけど」

藍子「……怖いですよね」

加蓮「大きめのケーキに思いっきり顔の模様を入れたら、それはもうスイーツじゃなくてホラー映画の小道具だよ……。小梅ちゃんに持っていったら大喜びかも」

藍子「写真だけでも、送ってあげようっと。……うぅ。怖くてシャッターが切れません」

加蓮「これ、どうする?」

藍子「う~ん……。そうだっ。こっちに向けちゃえば!」クルッ

加蓮「そっか、顔が正面……私達側に向かないようにすればいいんだ。じゃあ私も横向きにして――」クルッ

加蓮「……ねえ、これってさ」

藍子「?」

加蓮「いや……例えばカフェの店内にいる人が、秋の風景っていいよねー、とか言いながら窓から外を見たとするじゃん」

藍子「……あっ」

加蓮「その瞬間、この顔がお出迎えにならない? しかも2つも……。営業妨害だよ、こんなの」

藍子「反対側にしましょうか……。通りかかった人には見えちゃうかもしれませんけれど、逆に、遠くからかぼちゃが見えて、気になったり、食べたいって思ったりするかも!」

加蓮「これなら招き猫ならぬ、招きかぼちゃになるかな?」

藍子「もし気になって、じっ、と見ている方がいたら、かぼちゃの代わりに、私たちが手を振っちゃいましょう♪」

加蓮「招き藍子ちゃん」

藍子「おいで、おいで~」フリフリ

加蓮「うん。可愛い。あーあ、私も魔女ならなー。黒猫でも喚んでくるのに」

加蓮「食べよっか。ケーキ」

藍子「いただきます♪ ……ん~~~っ♪ 口の中に、いっぱいのかぼちゃの味っ。でも甘くて、歯ごたえがあって……ゆっくりゆっくり、食べたくなりますね」

加蓮「私も食べよっと。……うぐ。ちょっと甘すぎるかも……」

藍子「そういえば、なんとなく2人分を注文しちゃいましたけれど……加蓮ちゃん、これぜんぶ食べられますか?」

加蓮「……」

藍子「……私も、2人分はちょっと無理ですよ?」

加蓮「しょうがない。食べれなさそうなら、その時限定で藍子のゆるふわを借りよっと」

藍子「えっと……どういうこと?」

加蓮「ゆっくり食べる」

藍子「なるほど~」

加蓮「……んっ。これ、中にぜんぜん違う食感が混ざってない? なんか固い感じの――」

藍子「あっ、本当。これは……アメ?」

加蓮「っぽいけど、ちょっと食感が違うんだよね。なんだろこれ」

藍子「……う~ん?」

加蓮「……んー?」

藍子「あとで、店員さんに聞いてみますか?」

加蓮「そうしよっか」

藍子「それとも、夏の時のブレンドジュースみたいに、分かるまで通って、注文するとかっ♪」

加蓮「あの時結局わからずじまいだったじゃん」

藍子「そうですけれど~……」

加蓮「……はいはい、藍子ちゃんなりのデートのお誘いでしょ? 分かりました、そのお誘い受けますよっと」

藍子「やった♪」

加蓮「それこそ今さらでしょ。にしてもホント、なんなんだろこれ……?」

……。

…………。

「「ごちそうさまでした。」」

藍子「意外と早く食べ終わっちゃいましたね」

加蓮「いやいや。やっぱり1時間くらい経ってるよ?」

藍子「あれ?」

加蓮「あはは……」

藍子「……えへへっ」

加蓮「しょうがないなぁ、藍子は」

藍子「加蓮ちゃん、優しいですねっ」

加蓮「今さら今さら」

藍子「今日の、マイブームですか?」

加蓮「かもね?」

藍子「いまさら。……でも、いまさらの中にも、幸せはいっぱいありますから♪」

加蓮「今の時間みたいな?」

藍子「はいっ」

加蓮「……あはは。冗談半分で言ったけど、改めて言われるとちょっと照れちゃうね」

藍子「加蓮ちゃんの顔、運んできた葉と同じくらい、赤くなってますよ~」

加蓮「調子に乗るなっ」ペシ

藍子「きゃ」

加蓮「っていうか、それってあんまり赤くなってないってことじゃん」

藍子「そうですよ。ほっぺたの先のところが、ちょこん、って赤くなってました。ちいさい秋の、童謡みたいに♪」

加蓮「ちいさい秋、ちいさい秋」

藍子「み~つけたっ」

加蓮「あともういくつ寝ると、紅葉が見頃ー」

藍子「加蓮ちゃん、それは違う季節の童謡ですよ~」

加蓮「無理矢理歌ったけどリズムが悪すぎる」

藍子「ふふっ」

加蓮「あーあ。藍子、紅葉を見に行くなら連れていってくれればよかったのに……って、私が言っていいことじゃないか」

藍子「えっ……あ、そっか……。おとといは、たまたま1人で行きたい気分だっただけですから」

加蓮「あるよね、そういうの」

藍子「加蓮ちゃんは……」

加蓮「ごめんごめん。冗談。ま、前みたいに――約束して、体調を崩しちゃったこと、全然気にしてないって言ったら嘘になっちゃうけどね」

藍子「……もう。その冗談は、ちょっと分かりにくいです」

加蓮「やっぱり?」

藍子「加蓮ちゃんが、前向きに話せるようになったのは、とってもいいことだと思うけれど……」

加蓮「じゃあ、今のナシ。っていうか行きたいって思ったら、今度は私から誘わなきゃね」

藍子「その時を、楽しみにしていますね。いっぱい準備して、写真もたくさん撮れるようにして」

加蓮「私は手ぶらで行っちゃおっかなー」

藍子「大丈夫ですよ~。荷物も、ぜんぶ私が持っちゃいますからっ」

加蓮「至れり尽くせりすぎる……。私も少しくらいは持つよ?」

加蓮「藍子と一緒にお出かけして……紅葉でも、ハロウィンでもいいや。ハロウィン……ふふっ。ハロウィンを見に行くって、何を探すんだろ」

藍子「仮装している方や、かぼちゃを飾っている家とか?」

加蓮「トリックオアトリート! みたいなことも言っちゃったり?」

藍子「もしアイドルだってばれちゃったら、大騒ぎになっちゃいそう……」

加蓮「うんうん。お散歩アイドル藍子ちゃんが出現した! って騒ぎになって、みんなSNSとかでも話題にしちゃうよ」

藍子「私のことじゃなくて、加蓮ちゃんのことですよ~。……でも、えっと」

藍子「私でも……ちょっぴりくらいは、騒ぎを起こせちゃうかな?」

藍子「って、騒ぎを起こしちゃ駄目ですっ。後でモバP(以下「P」)さんにも、怒られてしまいますから」

加蓮「Pさんなら、藍子がアイドルバレして大騒ぎになったよ、って教えてあげたら嬉しがると思うけどなー」

藍子「と、とにかく、やっぱりばれない方がいいと思います。ほら、騒ぎになったら、加蓮ちゃんが疲れちゃうかもしれませんし……」

加蓮「む……。それを言われると反論できなくなっちゃうね」

藍子「お散歩の時は、のんびり、穏やかに行きましょうっ」

加蓮「しょーがないなー。でも街中で「アイドルの藍子ちゃんだ!」って叫ぶのは、絶対いつかやるからね」

藍子「なんでっ!?」

加蓮「ひひっ」

藍子「も~……」

藍子「でも、ゆっくりお出かけしたり、加蓮ちゃんとお散歩したり……そんなできごとも、いつかみなさんに教えてあげたいな」

加蓮「……ふふっ。そう?」

藍子「うんっ。もちろん、加蓮ちゃんのことだけではありません」

藍子「加蓮ちゃんが今日言った、今さらって言葉」

藍子「私や加蓮ちゃんにとっては、今さらかもしれないことも……見慣れた景色や、出来事も、他のみなさんにとってはぜんぜん知らないことで――」

藍子「もしかしたらそれを、楽しい、面白い、って思ってくださる方も、いらっしゃるかもしれないから」

藍子「私たちのできごとをお話して、楽しんで頂ける方がいるなら、いっぱいお伝えしたいですっ」

藍子「……加蓮ちゃんのように」

藍子「昔の、加蓮ちゃんみたいに」

藍子「あるいは、Pさんみたいに」

藍子「忙しかったり……あるいは、何か別の理由で、家から出られないって方も、いるかもしれないから」

藍子「私がお話して、ちょっとでも行った気分になれたらな……って。おととい、紅葉を見ている時に、ぼんやりと思って……」

藍子「私のお話なんかで、って気持ちは、今でもちょっぴり、残っています。でも……加蓮ちゃんを見ていると、そんな気持ちもなくなっちゃいますね♪」

加蓮「……そっか」

藍子「うん♪」

加蓮「ったく。藍子ってば、そうやって私のファンを取るつもりー?」

藍子「へ?」

加蓮「ほら、さっき言った"別の理由で"ってヤツ。結構、そういう人からファンレターとかメッセージとか、もらっちゃったりするから……」

藍子「……あ」

加蓮「私も……そういう人達に向けて、少しでも夢とか、希望を与えられたらいいなって――」

加蓮「その考えは、ずっと持っていたいって思うから。私が何になれたとしても、それだけは絶対に」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……え、えっと。そ、そーやって私のこと応援してくれる人を掻っ攫うつもりでしょ。悪い子だね?」

藍子「そういうつもりはありませんよ。……そっか。言われるまで、気づかなかった……」

加蓮「そこは思いっきり頷いてほしかったなぁ」

藍子「ファンをとられる、ってお話なのに?」

加蓮「それくらい自信満々な方が、応援しがいがあるし。ま、ホントに勝負を仕掛けてくるなら全力で返り討ちにするけどねっ」

藍子「ふふ。今は……まだ、そこまでは」

加蓮「そっか」

藍子「でも、そっか。私と加蓮ちゃん、同じことを考えて……」

加蓮「そう……かもね。紅葉もハロウィンも、見に行けない人の代わりに……か。お散歩が好きな藍子ならではだね、それ」

藍子「じゃあ――加蓮ちゃんも、お散歩が好きってことですかっ?」

加蓮「えー」

藍子「ふふ。違いますよね。分かってて、言っちゃいました」

加蓮「お散歩が好きになったことは否定しないけどさー……。私は昔自分がそうだったってだけだし、藍子ほど前向きじゃないかもしれないけど……」

藍子「今の加蓮ちゃんは、じゅうぶん前向きですよ。……そっか。同じこと、考えてたんですね♪」

加蓮「そんなに嬉しい?」

藍子「えへへ……」

加蓮「藍子の行った場所か……。藍子って、よく行ったカフェの話をしてくれるよね」

藍子「はい、そうですね」

加蓮「あれってすっごく分かりやすくてさ。店内の様子とか、藍子が出会った店長さんの様子とかも、顔も知らないのにすごく想像できて……」

加蓮「そういう話、ファンのみんなもきっと喜ぶと思うよ」

藍子「そう……かなっ? でも、いつも加蓮ちゃんにお話しているみたいに、長い時間を用意してもらうのって……やっぱり、難しいですよね」

加蓮「あー……」

藍子「コラムでなら、たくさん文章を書いてお伝えできるかもしれませんけれど、私はやっぱり、お話して伝える方が好きですから」

加蓮「確かにコラムと話すのとではだいぶ違うもん。私もネイルの説明をする時はそれぞれで使い分けて――っと、それはまた別の話として」

藍子「やっぱり、ラジオやテレビでお話させてもらう時は、びしっ、と短く伝えて――」

藍子「お話したいことを、好きなだけお話するのは、こうして加蓮ちゃんと一緒にいる時ということで♪」

加蓮「ふふっ。好きなだけどうぞ。藍子の話なら何時間でも聞いていられるし。でも、たまには私の話も聞いてよ?」

藍子「もちろんですよ。加蓮ちゃんも、何時間だってお話していいですから。私、ぜんぶ聞きますよ」

加蓮「……いやいや。そんな何時間も話せるのは藍子くらいだからね?」

藍子「え~」

加蓮「たまに藍子って、自分の凄さとか分からなくなる時があるよね……。周りのみんなが見つけてくれるのだろうけど。もちろん、私もね」

……。

…………。

藍子「あっ。結局、今日は誰も通りかかりませんでしたね」

加蓮「?」

藍子「ほら。手招きあいっ――て、手招きかぼちゃのお話」

加蓮「手招き藍子ちゃんの話?」

藍子「かぼちゃのお話ですっ」

加蓮「っていうかよく考えてみたらかぼちゃがどうやって手招きするのよ。顔と口しかないじゃん」

藍子「そこは……こう、かぼちゃをごろごろって転がすように」

加蓮「ホラーじゃん……」

藍子「ホラーでした……」

加蓮「手招き藍子ちゃんになれなくて、残念だったね」

藍子「……じ~」

加蓮「?」

藍子「加蓮ちゃん。おいで、おいで~」フリフリ

加蓮「隣? いいけど、今度は何かな?」

藍子「次は、あごをこっちに、くいっと出してください♪」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……ほら、加蓮ちゃん。おいで、おいで~」

加蓮「誰が黒猫だっ」


【おしまい】

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