御園かりん「お前の心を盗むのだ!」 (44)


テレビ『奴はとんでもないものを盗んでいきました』

テレビ『あなたの心です』


かりん「むふーっ! このセリフかっこいいーのーっ!」

かりん「これをマジカルかりんが言ったらどんな感じになるかな?」

かりん「・・・・コホンッ」


かりん「お前の心を盗むのだ!」


かりん「えへっ、いいかもなの・・・///」

かりん「物じゃなくて心を盗む。これはマジカルかりんの新境地にしたいの」

かりん「あっそうだ! 途中の展開に詰まってる宝探しのマンガ、今なら続きが描けそうなのっ!」

かりん「早く描かなきゃ! 描き終わったら早速ういちゃんに見せに行くのっ!」







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ペラッ

猛獣『ガオーッ!!』

元忠臣ナギタン『くッ!』ザシュ

猛獣『グワーッ!!』

元妹姫ウイ『きゃー!』

元殿様カリン『無事か我が妹! しっかり我の後ろに隠れているのだぞ!』

元妹姫ウイ『は、はいっ、あに様!』

元忠臣ナギタン『しかしこのままじゃ切りがありませぬぞ殿!』

元殿様カリン『むむむ・・・! これもあのミタマの仕業か! やりおる!』


うい「わっ、すごい展開・・・!」

かりん「えへへ~。ここの戦闘シーンはがんばって描いたの」

ペラッ


巨大怪獣『ぐるるる・・・・!』 ズシン... ズシン...

元殿様カリン『未開の地だとは思っていたが、まさかあのような怪物までいるとは・・・』

元落ち武者キョーコ『ミタマ! これも貴様の仕業か!』

元追手ミタマ『違うわよぉ! あれはこの島に元から棲む古代怪獣よ! わたしたちが騒いだから、きっとそれで起きちゃったのねえ・・・』

元落ち武者キョーコ『信じられぬ! 殿の命を狙う狼藉者め! 今すぐこの場で成敗してくれる!』

元追手ミタマ『ふんっ。好きにするがいいわ・・・』

元殿様カリン『やめないかキョーコ!』

元落ち武者キョーコ『し、しかし殿・・・! このままこやつを生かしておけば、いずれ寝首を掻かれるやもしれませぬぞ!』

元殿様カリン『今はそんなことを言っている場合ではない! ここはみんなで力を合わせて危機を脱するのだ! だからミタマよ、我々に手を貸してくれ。お前の力が必要だ』

元追手ミタマ『へえ・・・。随分とおめでたい殿様がいたものねぇ・・・。手を貸すふりをしてわたしがあなたを刺すかもしれないよぉ・・・?』

元殿様カリン『構わぬ。できるものならな』

元追手ミタマ『どういう意味・・・?』

元殿様カリン『成して見せよう。お前が我の寝首を掻くその前に、我は―――』

元殿様カリン『お前の心を盗むのだ!』 バーン!

元追手ミタマ『★☆★☆┣¨ッキ─wヘ√レv─(〃゚3゚〃)─wヘ√レv─ン☆★☆★』




うい「きゃ~っ! お殿様かっこいー!」

かりん「ふっふっふ~。これで元追手は殿様に心奪われて仲間になって、みんなで助け合って、そして財宝に辿り着くの!」

うい「うんうん! とっても素敵!」

うい「かりんさん、ありがとうっ。こんなに面白いマンガを読ませてくれて」

かりん「こっちこそ読んでくれてありがとうなの。そんなに喜んでくれたらわたしも嬉しいの!」

うい「うん。ほんとに、かりんさんすてき・・・・」

かりん「?」

かりん「素敵なのはわたしじゃなくてマンガのお殿様なの」


かりん「あっ、いけない、もうこんな時間。今日はなぎたんの所に遊びに行こうと思ってたの」

うい「えっ」

かりん「それじゃあねういちゃん。これからもマンガ描くからまた読んでくれたら嬉しいの」タッ

うい「あ、ま、待ってっ」ガシッ

かりん「わっ、っとと」

うい「あ、ご、ごめんなさい・・・」

かりん「大丈夫なの。それよりどうしたの?」

うい「えっと・・・。もうちょっとだけかりんさんと遊びたいなって、思って・・・。ダメ?」

かりん「わたしはいいけど。でもういちゃん、これからみかづき荘のみんなとお出かけする予定があるって、さっき言ってたの。そっちはいいの?」

うい「うん、いいの。お姉ちゃんに電話すればいいから。だからわたし、かりんさんと一緒に居ていい?」

かりん「ういちゃんが良ければそれでいいけど・・・。それじゃあ一緒になぎたんの所に行く?」

うい「うんっ!」







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メイドカフェ



十七夜「せっかく来てくれたのにお待たせして申し訳ないご主人」

かりん「大丈夫なの。ういちゃんとお話ししてたから」

うい「うん。それだけでわたしは楽しいな」

十七夜「そうか」

かりん「それにしても今日はお客さん多いの」

十七夜「うむ。ハロウィンが近くて、それに関するイベントがあるからな。こういう繁忙期はあがるのが遅くなりそうだ」

かりん「大変そうなの。お仕事がんばってなの」

十七夜「うむ。だがそういう画伯も自分の大切なご主人だ。あまり長い時間は取れず申し訳ないが、今からでもお仕えしよう」

かりん「ありがとうなの。あっ、それじゃあこのマンガを読んで欲しいの! わたしの自信作なの!」

十七夜「ほう。画伯の新作か。それは楽しみだ。拝見しよう」


ペラッ

十七夜「ん? これは以前我々が無人島で過ごしたときのことが元になっているのか? 興味深いな」

ペラッ

十七夜「むっ、この窮地をどう脱する・・・?」

ペラッ

十七夜「なんとっ! これはすごい・・・! 素晴らしい殿様だ・・・!」

ペラッ

十七夜「むっ、もう読み終わってしまった」


かりん「どうどう? 感想を聞かせて欲しいの」

十七夜「いやはや、息をもつかせぬ展開が怒涛のごとく押し寄せてきて思わず手に汗握ってしまった。しかしなんといっても、そんな中でも画伯の魅力が際立っていて、ついつい夢中になって読んでしまった。やはり画伯は天才だな」

かりん「わ~っ、わたしは天才漫画家になっちゃったのっ!」

うい「うんうん。かりんさんのマンガは本当に面白いよ」


カラ~ン カラ~ン


かりん「あっ、またお客さん来たの。それに気が付いたら結構な行列になってるの」

十七夜「むっ、そうだな」

かりん「あんまり長居しちゃうと他のお客さんに悪いから、今日はそろそろお暇するの。ういちゃん、いい?」

うい「うん。わたしはかりんさんと一緒に居るよ」

十七夜「なに、他の客の事は気にするな。画伯はもっとここにいるべきだ。あんなのはいくらでも待たせておけばいい」

かりん「ええ・・・。なぎたんにとってお客さんはご主人様なの・・・。そのご主人様をあんなの呼ばわりしちゃダメなの・・・。それにこれ以上何も注文しないでいたらお店にも悪いし」

十七夜「ならここは自分が奢ろう。好きなものを頼むといい」


かりん「ええっ!? う、う~ん・・・。嬉しいけど、なぎたんはせっかく毎日頑張ってお仕事してるのに、わたしなんかのためにお金を使わせちゃうのは良くないと思うの・・・」

十七夜「画伯は優しいな。そんなにも優しいといずれ悪意のある人間に騙されないか心配だ。自分が側に居て守ってやろう」

かりん「あははっ、なぎたん、冗談を言えるようになれたのはいいけど、それはちょっとわかりにくいの」

十七夜「そうか? それじゃあもっと画伯に教えを請わないといけないな」


 < なぎた~ん! ちょっとこっち手伝ってー!


かりん「あっ、お店の人が呼んでるの。わたしたちはもう帰るから気にしないでお仕事がんばってなの」

十七夜「そうか。それじゃ自分が画伯を家まで送ろう」

かりん「ちょ、ちょっとなぎたん! 今のお話聞いてたのっ? なぎたんはお仕事に戻らないとっ」

十七夜「仕事より画伯の方が大事だ。今日はもうあがる。ということで店長、今日は失礼する」

店長「おネェさまよ! ・・・て、えっ、ちょ、なぎたん何言ってるの?! 見ての通りご主人様たちがたくさんいらっしゃってるんだから、今帰られたら困るわよ!」

十七夜「そんなのは知らない。画伯のために働くのが自分の使命だ」

店長「なに言ってるのよお! あなたはここに来るご主人様たちみんなのメイドさんでしょ~っ!」

かりん「あわわ・・・なんか大変なことになっちゃった・・・」

十七夜「画伯は気にするな。さ、自分と一緒に帰ろう」

店長「なぎたん!」

かりん「えーと・・・えーと・・・。あぅぅ、や、やっぱり今帰るのやめるのっ・・・! わたしもうちょっとここにいるの!」

十七夜「そうか。では自分が相席させてもらう」

かりん「ち、違くて・・。なぎたんにはお仕事に戻って欲しいの・・・」

十七夜「もしかして自分は画伯に気を遣わせてしまったか? 自分はメイド失格だな・・・。画伯。正直に教えてくれ。画伯が望んでいることを自分はしたい」

かりん「え、ええ・・・? そ、それじゃあ、なぎたんがメイドさんとしてがんばってお仕事する姿が見たいの! 次のマンガのネタになりそうだから! これはわたしの取材なの!」

十七夜「そうか。それが画伯のためになるのならそうしよう」

かりん「ほっ・・・よかったぁ・・・。もう、なぎたん急にどうしちゃったんだろう・・・」

うい「・・・・・・・」

うい「かりんさん。十七夜さんは忙しいから邪魔にならないよう、もっとわたしとお話ししよう」

かりん「え? う、うーん・・・。なぎたんの取材をするって言っちゃったし・・・。よかったらういちゃんも一緒になぎたんの働く姿を観察するの」

うい「うん、わかった」




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メイドカフェ 閉店時間



十七夜「画伯、こんな時間まで付き合ってくれてありがとう。そのおかげで画伯に見られていると思うといつもより張り切ってメイドをやれた気がする」

かりん「そ、それは良かったの・・・」

十七夜「約束通り画伯を家まで送ろう」

かりん「う、うん・・・。ふう・・・。わたしが働いているわけでもないのになんだか疲れたの・・・。早く帰らないとお母さんに怒られる・・・」

十七夜「むっ? うい君もまだ居たのか。七海と環君が心配するぞ。早く帰りなさい」

うい「大丈夫だよ。今日はかりんさんのお家に泊まることになったから」

十七夜「なにっ?! それは本当か画伯?!」ガタッ

かりん「ひっ・・・。な、なぎたん・・・なんかちょっと怖いの・・・」

十七夜「むっ、これは失礼した。コホンッ、それで、うい君が泊まるというのは?」

かりん「本当なの・・・。さっきやちよさんに電話したの。そういうことはいきなり決めちゃダメだって、やちよさんは大分反対していたけど、ういちゃんが押しきっちゃって・・・」

十七夜「ならば自分も今夜は画伯の家に泊まろう」

かりん「ええっ?! なんでそうなるのっ?!」

十七夜「ピンク頭は淫乱だと昔から決まっている。そんなのと画伯が一つ屋根の下で過ごしたら何か間違いが起こるかもしれないからなっ」ニコッ

うい「間違いが起こったところで十七夜さんには関係ないよねっ? 今日かりんさんとわたしが一緒のお布団で寝ることは昔から決まっている運命なんだからっ」ニコニコッ

十七夜「運命を変えたいなら神浜に来て、と言っていたのは誰だったかな? 望み通り自分がそのふざけた運命を打ち砕いてやろうっ」ニコニコニコッ

うい「どうでもいいけど十七夜さんお仕事で疲れているよねっ? 早く自分のお家に帰って休んだ方がいいんじゃないかなっ?」ニコニコニコニコッ


かりん「わっわっ、待って待ってなの! 線香花火じゃないんだからバチバチしちゃダメなの・・・。みんなで仲良くお泊りしたいの・・・」







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御園宅



かりん「ただいまなのー」

うい「おじゃましまーす」

十七夜「お邪魔します」

おばあちゃん「かりんちゃんおかえり」

おばあちゃん「そちらが なぎたんちゃん と ういちゃん?」

かりん「う、うん・・・。色々あって今日はお泊りすることになっちゃったの・・・」

十七夜「初めまして。和泉十七夜、高3です」

うい「こんばんはっ! 環うい、小5ですっ」

おばあちゃん「はい、こんばんは。なぎたんちゃん の事はよく かりんちゃん から聞いているよ。なぎたんにメイドさんについて教えてあげてるのー、っていつも嬉しそうに話してくれて」

かりん「ちょ、ちょっとおばあちゃん・・・!」

十七夜「恐縮です。かりんさんに良く思って頂いて」

おばあちゃん「ういちゃんの事もよく聞くよ。自分の描いたマンガを楽しそうに読んでくれて、感想も言ってくれるから、自分でも気が付かなかったことに気が付かせてくれるから嬉しいって」

かりん「あわわ・・・そんなこと言ってるって教えちゃったら、わたしかっこ悪いの・・・」

うい「わたしの方こそ、いつもかりんさんのマンガで楽しませてもらっていますっ!」

おばあちゃん「二人ともかりんちゃんと仲良くしてくれてありがとう。いつでも泊りに来ていいから、これからも仲良くしてあげてね」

うい「うんっ! なんといっても、わたしにとってかりんさんは運命の相手だから!」

十七夜「もちろんです。自分にとってかりんさんは無くてはならない存在ですから」

かりん「も、もぉ、おばあちゃん、そういうことはいいのーっ! なぎたん、ういちゃん、早くわたしのお部屋行くのっ!」

おばあちゃん「はいはい、ゆっくりしてね」


おばあちゃん「ふふっ。少し前まで私しか話し相手がいなかったかりんちゃんに、あんなに仲良しのお友達ができていたなんて」

おばあちゃん「私とお話しする時間が減っちゃうのはちょっと寂しいけど、でもやっぱりそれ以上に嬉しいね」




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かりんの部屋



かりん「入ってなの。ここがわたしの部屋なの」

うい「わーっ、マンガがいっぱい!」

十七夜「むっ?! これは芳文社から絶賛発売中のマギアレポートか?!」

かりん「そうなのっ! マギレコ公式宣伝マンガがまさかの単行本化なの! 豪華に全ページフルカラーに加えて、各ページに添えられたPAPA先生の一言やPAPA先生の独自視点で描かれた新規描きおろしの魔法少女図鑑は爆笑必至なの!」

うい「こっちには同じく芳文社から絶賛発売中のマギアレコードがあるよ!」

かりん「そうなのっ! マギレコのメインストーリーを富士フジノ先生がコミカライズ! キャラクターの性格や特徴をしっかり捉えた綺麗な絵で可愛い女の子たちが余すことなく表現されていて、それとセリフ回しが原作とちょっと変えられていたり、キャラクター同士のちょっとしたやり取りも加えられていて、アニメや原作とはまた違ったマギレコを楽しむことができるの!」

かりん「他にもアナザーストーリーをU35先生がコミカライズしたマンガとか、豪華執筆陣によるマギアレコードアンソロジーコミックもあるのっ!!」

十七夜「素晴らしいな画伯!!!! 是非手に取って何度も読み返したくなるようなマンガこんなにたくさんあるなんて!!!!!」

うい「我慢できない!!! わたし読んでいい?!?!?!」

かりん「どうぞなの!!!! 後でいっぱい感想をお話ししたいの!!!!!!」




十七夜「ん? マンガもそうだが、絵画の描き方と言った教科書もあるなんだな。これで絵の勉強を? やはり画伯は絵に対して熱心だな」

かりん「うん。それはアリナ先輩に勧められて揃えたの」

十七夜「アリナが?」

かりん「うん。内容が難しいからなかなか早く読めないけど、でもがんばって毎日読んでるの。分からないところは部活でアリナ先輩に教えてもらうの」

十七夜「そうか・・・。自分の本音を言わせてもらうと、画伯がアリナの側に居るのは心配だ・・・。自分の知っているアリナは自身の目的のために平気で他者を犠牲にする輩だからな」

かりん「それは色んな人に言われるの・・・。でもそれは何かの間違いなの!」

かりん「アリナ先輩は厳しいけどわたしにちゃんと絵を教えてくれるし」

かりん「マンガは専門外だからって言って、わたしのマンガを読むのを嫌がるけど、でもなんだかんだちゃんと読んでくれて、良いところと悪いところをちゃんと教えてくれるし」

かりん「そんなマンガのアドバイスを通して、へっぽこ怪盗かりんが、一人でも戦えるマジカルかりんに変われたし」

かりん「マジカルハロウィンシアターで、わたしがみんなを引っ張って頑張らなきゃいけないことに気が付けたのも、アリナ先輩のおかげだし」


かりん「みんなは悪く言うけど、本当のアリナ先輩はドライでミステリアスで、それでいてとっても後輩想いの素敵な先輩なの!」

十七夜「ああ、画伯がそう言うのならそうなんだろう。自分はアリナのことは争い中でしか知らない存在だから印象が悪いが、画伯のためにもこれから自分はもっと本当のアリナについて知らないといけないな」

かりん「うん、是非そうしてほしいの。みんな本当のアリナ先輩を知ったらきっと好きになってくれるの」

十七夜「いい機会だ。画伯の知っているアリナについて色々教えてもらえるだろうか?」

かりん「うん! いっぱい教えるの!」

うい「アリナさんのこともいいけど、かりんさんお勧めのマンガとか、もっと教えてもらいたいな」

かりん「もちろんなの! えへへっ、今日はいっぱい楽しいお話しができるって思ったら、すごく楽しいの」

かりん「わたし今まで友達っていなくて、お泊りもしたことがないから、今日急に二人がお泊りすることになって、どうなるか不安だったけど、楽しくなって良かったの。二人とも来てくれてありがとうなの」ニコッ

十七夜「なに、こちらも楽しませてもらっているぞ」

うい「かりんさん、明日の放課後も一緒に遊んでいい?」

かりん「あっ、ごめんなさいなの。明日は部活があるから」

うい「そっか、わかった・・・。また連絡するね」

かりん「うんっ」







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翌日
栄総合学園 漫画研究部部室



郁美「かりんちゃ~ん、やっほ~♪ いくみんだよ~♪」

かりん「いくみん・・・また来たの・・・?」

かりん「えっ?! 今日は やちよさん と みふゆさん も・・・? な、なんでっ・・・?」

やちよ「ええ、牧野さんに取り計らってもらったわ」

みふゆ「すみませんね、部活中に」

やちよ「御園さん。昨日はういちゃんを泊めてくれてありがとう」

かりん「う、うん・・・それはいいけど・・・・」

かりん「な、何しに来たの・・・? まさかアリナ先輩のこと・・・? や、やめてなのっ、アリナ先輩は何も悪いことしてないの・・・! わたしがちゃんと更生させるからもうちょっと待ってなの!!」

やちよ「落ち着いて、様子を見に来ただけよ。アリナが御園さんと退院してまた一緒に部活を始めるようになったって聞いたから」

みふゆ「すいません驚かせてしまって。ワタシたちもそうですがユニオンの多くの子たちはアリナに対して非常に強い警戒心を持っています」

みふゆ「そういった子たちを早まらせないで抑えるためにも、ワタシたちのような立場の者がこういう事をしておく必要があるんです。分かってください」

かりん「そうなの・・・」

やちよ「それでアリナは?」

かりん「あっちで絵を描いてるの」


アリナ「ウヴッ・・・!!」バシャッ バシャッ


やちよ「・・・なんだか機嫌が悪そうね」

みふゆ「乱暴に筆を振って・・・あれでちゃんと絵が描けているんですか?」

かりん「筆が乗らない時のアリナ先輩はいつもあんな感じなの。たまに暴れて自分の作品を壊したりするの」

やちよ「暴れて壊すって・・・。やっぱりアリナは元々危険な存在なんじゃ・・・」

かりん「あっ、ち、違うの! 危険じゃないの! アリナ先輩はああやっていっぱい悩んだ先に閃きがあるの! それでできあがった作品が賞を取るほどすごいの!」

かりん「そういう時はわたしが手伝いたい。だからわたしはこうしてアリナ先輩の側にいるの」

やちよ「そう・・・」

みふゆ「うーん・・・」

郁美「やっぱり戸惑っちゃうよね・・・。私たちが知っているアリナは酷いことをする悪人なのに、そんなアリナをかりんちゃんは純粋な気持ちでかばい続けるから・・・」

やちよ「そうなのよ・・・。記憶喪失の事もあって、どうやってアリナと向き合えばいいのか分からない・・・」




やちよ「ところで今のアリナは、あんなに必死になってまで何を描こうとしているの?」

かりん「命をテーマにした絵なの」

やちよ「命をテーマにした絵・・・。記憶を失う前に描いていた死者蘇生シリーズのような?」

かりん「そうなの」

みふゆ「入院しているときのアリナが『ラビリンスで迷ったら入り口に戻ってみればいい』と言っていました。今のアリナは、記憶を取り戻すために過去の自分が表現していた絵をなぞっているのでしょうね」

やちよ「その試み自体は間違っていないでしょうけど・・・」

やちよ「以前アリナの経歴を見たことがあるわ。愛犬の死と祖父母の死を通して、生と死の境の描写を試みるようになったと。・・・その記憶も失っているのなら、今のアリナが以前と同じような絵を描くのは難しいんじゃないかしら」

かりん「うん、その通りなの・・・。でも、記憶を失っても、描きたい絵を何が何でも描こうとするアリナ先輩は変わってないの。だから、できないことを無理矢理やって、いつか体を壊さないか心配なの・・・」


アリナ「ちがう・・・。こうじゃない・・・こうじゃない! 違う違う違う!!」バシャッ

アリナ「アリナのアートには奥に何かがあるのに・・・! 見えない・・・! コピーしただけじゃ何も見えない、何も分からない、何の意味もない!! こうじゃない!! ヴァァアアアッ!!!」バシャァン


かりん「あー、もう・・・。またやっちゃったの・・・」

かりん「絵の具が顔に飛び散ってるの。拭くからじっとしてるの」フキフキ

アリナ「ンンッ・・・」

かりん「それにさっきから手に力が入ってないの。また朝ごはんとお昼ごはん食べてないの? そうだと思っておにぎり作ってきたから、これ食べるの」

アリナ「んっ、むっ・・・もぐっ」

かりん「アリナ先輩が好きな炭酸水も持ってきたから、これもちゃんと飲むの」

アリナ「もぐもぐ・・・ゴクッ、ゴクンッ」

かりん「それに目のクマがすごいの。昨日も寝てないの? 夜の方が絵が捗るのは知ってるけど、夜は寝なきゃダメなの」

アリナ「ハァ・・・? あのねぇ・・・。アリナのスリープタイムを邪魔しているのはドローイングじゃなくて、アナタがアリナに貸した大量のコミックのせいなんですケド」

かりん「ダメなの! そりゃあ、マンガだらけのこの世の中のせいでわたしもついつい夜更かししちゃうけど・・・。それでも夜は寝ないとダメなの! 体に良くないの! マンガはしばらく貸すからゆっくり読むの!」

アリナ「はぁ・・・。ハイハイ・・・」

かりん「それに明日はわたしと画材屋さんに行って、その後わたしのマンガの新キャラを一緒に考える約束なの。ちゃんと来て欲しいから今日はもう帰ってお休みするの」

アリナ「オーケーオーケー・・・・」フラフラ...

かりん「車に気を付けるのー!」

アリナ「ンー・・・・」

パタン




みふゆ「あらあら。あんなに機嫌が悪かったのに、かりんさん相手には随分と素直ですね」

やちよ「まるで母親とその子供ね」

郁美「んっふふ、かりんママ~♪」


かりん「やちよさん、みふゆさん。見ての通りアリナ先輩はずっとこんな感じなの。とにかく危ないことはしないから、みんなにはそう伝えて欲しいの」

やちよ「そうね。御園さんだったら本当にアリナを更生できるような気がするわ」

みふゆ「でも、それまではワタシたちが心配なので、定期的にこうしてまた様子を見に来てもいいですか?」

かりん「うん。大丈夫なの」

やちよ「ごめんなさいね。ういちゃんの事といい、アリナの事といい、御園さんには色々してもらってなんだか申し訳ないわ。御園さんの方から何か私たちにしてほしいことがあったら教えてもらえるかしら。協力するから」

かりん「えっ? そう? うーん・・・。あっ、それじゃあ、わたしが描いたマンガを読んで欲しいのっ!」

やちよ「御園さんの描いたマンガ?」

かりん「うんっ。読んで感想を聞かせて欲しいの」

やちよ「それくらいお安い御用よ。それに、ういちゃんが御園さんのマンガを絶賛していたから私もちょっと気になってたのよ。是非読ませて頂けるかしら」

みふゆ「そう言われるとワタシも気になりますね。一緒に読ませてください」

郁美「くみもくみも~」

かりん「はいなの、お願いしますなの」


ペラッ

やちよ「へえ、無人島を探検するのね。面白そう」

ペラッ

みふゆ「ええっ?! 猛獣に襲われちゃうんですかっ?! こ、この次は、早く、早く次のページを!」

ペラッ

郁美「や、やだ・・・お殿様カッコいい・・・///」ウットリ

ペラッ

やちよ「あっ、もう読み終わっちゃった・・・」


かりん「どう? わたしのマンガ」

やちよ「ええ、とても良かったわ。御園さんが可愛いんだもの」

みふゆ「はい、没入感がすごくて、まるで自分がマンガの中に入って可愛いかりんさんと冒険しているような感覚になってしまいました」

郁美「かりんちゃんがかわいくってぇ、くみぃ ふわふわキュンキュン☆ しちゃったぁ~♪」

かりん「えと、マンガのキャラクターが可愛いってことだよね?」

かりん「えへへ、 やちよさんたちにもそこまで言ってもらえるなんて、わたしすごく嬉しいの!」


やちよ「ところで御園さん。この後の予定は?」ジリッ...

かりん「えっ? うーん。アリナ先輩を帰しちゃったから特にないの。今日はもう帰ってお家でお絵かきしようかな」

やちよ「御園さん、昨日ういちゃんを家に泊めたわよね? ういちゃんだけってずるいと思わない?」ジリッ...

かりん「ず、ずるい・・・? えと・・・よく分からないけど・・・み、みんな、どうしてわたしに じりじり寄ってくるの・・・?」タジッ....


やちよ「御園さん・・・」ニコォ.....

みふゆ「かりんさん・・・」ニコォ....

郁美「かりんちゃぁん・・・♪」ニコォ....


かりん「ひっ・・・」






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御園宅



かりん「どうしてこうなったの・・・」

やちよ「こんばんは。七海やちよ19歳です」シャラーン

郁美「牧野いくみん、19歳でぇ~す♪」キャルーン

みふゆ「御園みふゆ、14歳ですっ♪」ムチッ.....

やちよ「な、こっいつ・・・!」

おばあちゃん「あらまあっ。かりんちゃんったら、毎日取っ替え引っ替え違う女の子を連れてきて、しかも今日はこんなイケイケなお姉さまたちだなんて。かりんちゃんも罪な女ねー」


おばあちゃん「やちよちゃんのことはよく聞いているよ。クールだけど愛を感じる人だって」

やちよ「まあっ、愛を感じるだなんて。うふふっ・・・」

やちよ「その通りだからもっと思ってくれていいのよ?」ニコッ

かりん「う、うん・・・」

おばあちゃん「いくみんちゃんは、よくかりんちゃんの様子を見に来てくれるOGの子だよね? 優しくて可愛いのお手本の先輩だっていつも言ってるよ」

郁美「えっ、そうなのっ?! くみが来るとかりんちゃんって、いっつも面倒くさそうな顔してたのに、本心はそうだったんだ!」

郁美「や~ん♪ うれし~♪ くみぃ、かりんちゃんの専属メイドさんにな~るっ~」ギュムゥッ

かりん「ん、むっ・・・」

おばあちゃん「みふゆちゃんは、よくアリナ先輩から痩せろって言われてるふくよかボディの面白い人だって聞いてるね」

みふゆ「えっ、普通にショックなんですが・・・」ムチィィィ....

かりん「むちむちなの」




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かりんの部屋



かりん「大人が3人も入るには狭いの・・・。夜におトイレ行くとき大変なの・・・」

郁美「くみを敷布団にしてねっ☆」ギュゥゥ

みふゆ「ワタシがトイレですよ」

やちよ「御園さんらしい可愛い部屋ね。あら? これはなに? “かせいでそうなま法少女” ?」

かりん「ん? ・・・あっ!」

かりん(コルクボードを出しっぱなしにしちゃってたの!)


やちよ「書いてあることにはなんか覚えがあるわ。これで怪盗の計画をしていたの?」

かりん「えと、あの、その、あぅ・・・。ご、ごめんなさいなの・・・。で、でも、言われた通り今はもうやってないの!」

やちよ「ええ、かえでから聞いているわ。今は一人で魔女を倒してみんなを助ける正義の魔法少女、マジカルかりんなのよね?」

やちよ「あの時私が言った通り、自分で戦えるようになったなんて、本当に努力したのね。ふふっ、偉いわね、かりん」ナデナデ

かりん「あっ・・・う・・・ぅん///」テレッ

やちよ「それに、ふふっ、もしかして、これって私? こんなに美人に描いてもらえて嬉しいわ」

かりん「あっ、それはっ・・・!/// 昔に描いた絵なの!/// 今のわたしならもっとうまく描けるの! アリナ先輩に絵を教えてもらってるから!」


やちよ「アリナ、ねえ・・・」

みふゆ「かりんさんは、アリナ、アリナと本当によく話しますね。ちょっと妬いてしまいます」

郁美「あの不愛想で怖くて何考えているか分からないアリナが、ちゃんとかりんちゃんに絵を教えている所が想像できないんだけど・・・」

やちよ「アリナはどんな感じで御園さんに絵を教えてくれるの?」

かりん「んとね、アリナ先輩が絵を描く合間に、一日に少しだけ教えてくれるんだけど」

やちよ「一日に少しだけなの・・・?」

かりん「とっても厳しいの。毎日怒られるの」

みふゆ「どんな風に怒られるんですか?」

かりん「教えた基礎が全然なってないとか、ゴミって言われたりとか、わたしのせいで教室の空気が腐ったとか言われたり、描いた原稿を自分で破れって言われたり、罰としてイチゴ牛乳を取られたり」

郁美「かりんちゃんいつもそんなこと言われてるの・・・?」

みふゆ「い、いくらなんでもひどすぎません・・・?」

やちよ「はぁ・・・。アリナらしいといえばアリナらしいというか・・・。逆に、天才芸術家にそこまで言われても絵を描き続けられる御園さんもすごいわ。私だったら心折れるわよ」

郁美「かりんちゃんはそこまでひどい事を言われ続けて、マンガを描くのが嫌になっちゃったりしない?」

かりん「嫌に? うーん・・・。そういえば、そんなこと思ったこともないの。そう思う自分も想像できないの」

やちよ「御園さんは本当に心の底からマンガが好きなのね。そこまで夢中になれる物があるってうらやましいわ」

みふゆ「マンガが好きになったきっかけとかあるんですか?」

かりん「それはもちろん『怪盗少女マジカルきりん』なの! 主人公のきりんちゃんがみんなに命の大切さを伝えて、元気付けてくれるのにすごく感動したの!」

かりん「病院の屋上から飛び降りそうなアリナ先輩にもマジきりを読ませたことがあるの。それでその時のアリナ先輩は命の大切さを知って思いとどまったの!」

かりん「命の大切さを伝えて元気をくれるきりんちゃんがすごいって思ったのはもちろんだけど、それをこうやって現実にいる色んな人たちに広げられるマンガってすごいって思ったの」

かりん「だからわたしはマンガが大好きになって、わたしも元気になれるマンガをみんなに届けたいって思ったの」

郁美「できてるよかりんちゃんっ♪ さっき読ませてくれた宝探しのマンガ、すっごく面白かったからっ♪ くみね、明日もがんばろうって思った! 元気モリモリ♪」

やちよ「ええ、アリナはなんて言うか知らないけど、客観的に見て御園さんのマンガは面白かったわ」

みふゆ「はい。次回作が今から気になります」

かりん「えへへなの/// なぎたんにういちゃんに、やちよさんたち。こんなにたくさんの人たちから面白いって言われたのは初めてなの。この宝探しのマンガは間違いなくわたしの最高傑作なの!」

かりん「ますますマンガを描くのが楽しくなってきちゃったの。新しく描けたら是非また読んでくださいなの!」

やちよ「もちろんよ。ふふっ、やっぱり御園さんて素敵だわ。人として外も中も可愛いんだもの」

みふゆ「人に元気を与えて自分も嬉しいだなんて、本当に全てが可愛い人ですねかりんさんは。目が離せないです」

郁美「くみぃ、ず~ぅっとかりんちゃんのお側にいたいぁい。ねえねえ、明日もくみといっぱいおしゃべりしよっ?」

かりん「あっ、ごめんなさいなの。明日はアリナ先輩とお出かけする予定なの」

郁美「そっかぁ・・・。また連絡するね?」

かりん「うんっ」







----------------------------------------
翌日 外



かりん「あっ! アリナせんぱ~いっ! こっちなの~っ!」

アリナ「モーニン」

かりん「おはようなの! 昨日はちゃんと寝たの?」

アリナ「テンアワー」

かりん「天泡? よく分かんないけど、顔色が良くなってるから良かったの! ということで早速画材屋さんに行くの!」グイッ

アリナ「ちょっと、袖が伸びる・・・」

かりん「やっと退院して大好きなアリナ先輩とお出かけできるんだから、早く色んなところに行きたいの! いっぱいいっぱい遊びたいの!」

アリナ「はぁ・・・。なんでプアアートは朝からそんなにハイテンションになれるワケ?」

かりん「あのねっ、わたしすごくいいことがあったの! 気になるの? 聞きたいの?」

アリナ「ノットインタレスト」

かりん「あのねあのねっ、宝探しを題材に描いたわたしのマンガが大好評なの! 色んな人から面白いって言われてわたしも嬉しくなっちゃったの!」

アリナ「ふーん」

かりん「いつもアリナ先輩にバカにされるわたしのマンガだけど、今度はきっとアリナ先輩に褒めてもらえるの! 後で読んで欲しいの!」

アリナ「ハイハイ」


アリナ「はぁ・・・プアアートがうらやましい・・・。自分のテーマがはっきりしていて。いっそのこと、アリナもプアアートみたいにフールになって、描きたい絵が描けるようになりたいヨネ・・・」

かりん「アリナ先輩、まだ思うような絵が描けそうにないの?」

アリナ「そ・・・。アリナのテーマが分からないんだヨネ・・・」

かりん「アリナ先輩のテーマは命じゃないの?」

アリナ「イエス・・・。色んな記録を見て分かるのは、メモリーをロストする前のアリナのアートに共通するテーマは命。だけど、何か違う気がするんだヨネ・・・。命は命でも・・・もっと奥深くに別のテーマがあるような・・・」

アリナ「それがキャッチできそうで、全然できなくて・・・イライラするんだヨネ・・・!」

かりん「う~ん・・・。よく分からないけど・・・。わたしね、アリナ先輩は無理して命の絵を描こうとしなくてもいいと思うの」

アリナ「ハァッ?! アリナが今まで築き上げてきたアートを全て捨てろって言いたいの?! アナタ自分が何を言っているか分かってるワケ?! そんなのとんでもないギルティなんですケド!!!」


かりん「アリナ先輩。ここ、触ってなの」ギユ ポス

アリナ「なんな・・・はっ? ・・・? ・・・プアアートの、プアバスト?」ムニュ...

かりん「そうじゃなくて・・・。その奥にあるものを感じて欲しいの」

アリナ「奥・・・?」

アリナ「・・・・・・・」


トクンッ トクンッ


アリナ「プアアートのハートが、鼓動してる」

かりん「うん。それは命の音なの」

アリナ「命の音・・・」

かりん「それと、今アリナ先輩の手は何を感じている?」

アリナ「・・・暖かい」ポワァ

かりん「それは命の暖かさなの」

アリナ「・・・・・・」

かりん「わたしにはこの命があって、体があるの。それは、過去にわたしのお父さんとお母さんが出会って愛し合って、そしていっぱい苦労して、わたしが大事に育てられたおかげ」

かりん「でもね・・・。この前、それを二木の怖い人に燃やされ時・・・」

かりん「体中に火が付いて、熱くて、熱くて、物凄く熱いはずなのに、でも、なぜか寒くて・・・。動けなくて・・・暗くて・・・何も見えなくて・・・何も感じなくなって・・・わたし、もう死ぬんだって思ったの・・・」

アリナ「・・・・・・・」

かりん「死んだら、もう父さんにもお母さんにもおばあちゃんにも会えなくなって、仲良くなれた十咎先輩たちとも遊べなくなって、学校にも行けなくなって、大好きなアリナ先輩と一緒に部活もできなくなって、大好きなマンガも、読めないし、描けなくなる」

かりん「何もなくなって、どうしようもなくなって、諦めるしかないのが、悲しくて悔しかったの・・・」

かりん「だけど、ドッペルに助けられて、入院してお医者さんの治療を受けて死なずに済んだの。そしてまたみんなにも会えるようになったし、マンガも描けるようになって、なにより今はこうしてアリナ先輩の隣に居られる」

かりん「それが言葉にできないくらい嬉しくて楽しいの。これからもそんな楽しい未来を生きるために、この命はなにがなんでも大切にしなきゃって思うの。一度死にかけて全部諦めたものだから余計にそう思うの」

アリナ「・・・・・・・」

かりん「命には音があって、暖かさがあって、過去があって、未来があるの。それを一枚の絵に描こうとするのは、簡単じゃないし、誰にでもできることじゃないの」

かりん「簡単にできないことを今すぐにでもやろうとしても、できるわけないの」

アリナ「・・・・だから、アリナにアートを捨てろって?」

かりん「そうじゃないの。例えば、わたしのこの宝探しのマンガはね、実は少し前まで途中の展開が描けなくてしばらく完成できなかったものなの。それは辛かったんけど・・・」

かりん「だけど、時間が経ってある時、ふとしたことがきっかけでまた描けるようになって、それでやちよさんたちにすごく面白いって言われるほどのマンガにできたの」

かりん「それと同じように、アリナ先輩も、今は命をテーマにした絵からちょっと離れてみてもいいと思うの。そうしてしばらくしたらきっとまた描きたい絵が描けるようになるから」

アリナ「・・・・・・・」

かりん「それまでは難しい絵じゃなくて、わたしと一緒にきりんちゃんの絵を描きっこしたりしたいのっ! どうかな?」

アリナ「・・・・・・・・・・・・・・アイシー」


かりん「きりんちゃんと言えば怪盗少女マジカルきりんなの!」

かりん「ねえねえ、アリナ先輩っ。わたしが貸したマジきりはどこまで読んだの? ネタバレしないよう気を付けるからマジきりトークしたいの!」

アリナ「はぁ・・・? 話題がコロコロ変わって、ホント、プアアートってフリーダムだヨネ」

かりん「そんなことはいいの! どこまで読んだの?!」

アリナ「30話」

かりん「30話?! 30話といったら『トリックアンドトリート 奇跡の悪魔祓い』なの! わたしにとって魔法少女のベースになってるの! どうどう? 面白かった? 感想を聞かせて欲しいの」

アリナ「確かに、読んでて不思議と楽しかったヨネ。マジきりって話の内容はリピートばかりなのに、それでもみんなが楽しいと思えるのは、人の根っこにある楽しいという感情を掴んでいるからだと思ったワケ」

かりん「わぁ、やっぱりなのー! 記憶喪失になる前のアリナ先輩も同じこと言ってたの! 記憶が無くなっちゃったのは辛いかもしれないけど、マジきりをまた初めて読めるのはちょっとうらやましいのっ」

アリナ「メモリーをロストする前のアリナも同じことを言っていた・・・? その話、詳しく聞かせて」

かりん「えっ? んーとね」

アリナ「マジきりを読んでいると何か思い出せそうなんだヨネ・・・。前のアリナがマジきりを読んだことをきっかけに何か重大な気付きがあったような・・・」

かりん「そうなの? えーと・・・」

アリナ「なんでもいい、教えて。その頃のアリナが何を言っていたか、どんな様子だったか」

かりん「確か・・・。世界を救うとか変えるとか、なんか中二病みたいなことを言っていたような・・・」

アリナ「世界を・・・? どうやって世界を変えるワケ・・・? アリナのアートで・・・? 世界を変えるほどのアート・・・? 世界をキャンパスに描くアリナのアートってコト・・・?」


かりん「マジきりは、みんなが楽しいと思える根っこを掴んでて・・・。それはアリナ先輩も同じだとかなんとか・・・」

アリナ「根っこ・・・ルーツ・・・アリナも同じ・・・? アリナのアートにもルーツがある・・・? 人類皆の心を惹きつけるルーツをキャッチすれば世界を変えられるというコト・・・? それがアリナのテーマ・・・?」

かりん「そういえばあの時、アリナ先輩は病院の屋上から飛び降りようとしてたの・・・」

アリナ「屋上から飛び降りる・・・? それはつまり、自殺・・・? 自殺の先にあるのは・・・。そうか・・・人類皆を惹きつけるルーツ・・・アンダースタン・・・アリナのテーマは―――」

かりん「あっ、アリナ先輩その時万能薬って言ってたの」

アリナ「万能薬? いや、違う、アリナのテーマは―――」

かりん「違わないの。その時わたしがアリナ先輩にマジきりを読ませたの。それでアリナ先輩は飛び降りるのをやめたの。傷付いた心を元気付けるマジきりのことを、アリナ先輩は万能薬って言ったの。それでアリナ先輩は命の大切さに気付いたの」

アリナ「命・・・? アリナのテーマは命の大切さ・・・? いや、違う、逆・・・。アリナのアートに共通しているテーマ・・・それは―――」

かりん「それは楽しい未来を楽しむために命を大切にする事なの」

アリナ「未来を楽しむ・・・? それが人類皆を惹きつけるルーツであり、アリナのテーマなワケ・・・?」

アリナ「いや、違う・・・。戦争に溢れたヒストリー、止まらないウェポンの開発、贅沢のための環境破壊・・・つまり、人類皆が無意識に惹きつけられるアリナのテーマは―――」

かりん「あっ、それとアリナ先輩は飼育委員をやってたの。なんの動物を飼育していたか分からないけど、きっとウサギちゃんやネコちゃんなの」

アリナ「アリナのテーマは―――」

かりん「アリナ先輩のテーマは命の大切さを伝える事なの。きっと飼育委員を通じて、可愛い動物に触れ合ってそれを思い付いたの」

アリナ「アリナのテーマは・・・・命の大切さを伝える・・・・?」

かりん「そうなの! だってあの頃のアリナ先輩はえらくゴキゲンだったの。急に笑い出したりもしていたの。ウサギちゃんやネコちゃんが可愛くてしょうがなくて思い出し笑いをしていたの」

アリナ「んんんー・・・・・???」

かりん「人類皆を惹きつけるテーマは未来を楽しむことなの。みんながそれを実現できるよう、アリナ先輩は命の大切さを伝える絵を描いてたの」

アリナ「リアリー・・・?」

かりん「なの!」


アリナ「人類皆を惹きつけるテーマは未来を楽しむこと・・・。それが本当なら、何故、人は贅沢のための環境破壊をやめられないワケ・・・?」

かりん「環境破壊をしたくてやってる人なんていないと思うの・・・。科学が発展して、人にできることが多くなって、夢を現実にできる可能性が高くなって、未来に希望を抱く人がどんどん増えているだけなの」

かりん「楽しい未来、そして叶えられそうな夢は誰も捨てたくないの。それが贅沢っていうのなら、贅沢な人が増えるのは良いことなの」

かりん「でもその横で予想していなかった環境破壊が起きているの。だけどみんなそのことは分かってるから、最近はちゃんとリサイクルするようになってるし、排気ガスを出さない車も開発してるし」

かりん「それにね、いずれは環境問題を全部解決できる時代がくるの。宇宙で発電した安全で綺麗なエネルギーが地球に溢れたり、危ないゴミは全部太陽に投げ捨てたりすることができたりするの。SFマンガで読んだの!」

アリナ「そう・・・なワケ・・・?」

かりん「なの!」

アリナ「じゃあ何故、人のヒストリーは戦争に溢れて、ウェポンの開発が今でも止まらないワケ・・・? やはり人類皆が無意識に望んでいるのは・・・死。自滅こそが人類皆を惹きつけるテーマであり、アリナのテーマ―――」

かりん「それは違うの。確かに、歴史もののマンガを読むと人って戦争ばっかりやってるって、わたしも思うの・・・。でもそれは死にたくて戦争をしてるわけじゃないの」

アリナ「・・・?」

かりん「神様の違いとか、少ない土地や資源の奪い合いとか、戦争をする理由は色々だけど、根っこで共通するのは、意見のすれ違いだと思うの」

かりん「誰でも意見の合わない人は居るの。そのすれ違いが偶然ものすごく大きくなったときに戦争が起きるの。それはもう、『この人とは絶対に一緒に生きていけない』って思うくらいのすれ違い」

かりん「だから人は自分が生きるために戦争をするの。死ぬために戦争してるわけじゃないの」

かりん「だけど、いくら自分のためとはいえ人の命は奪っちゃダメなの。だって、命は誰にとっても大事だから。誰でも楽しい未来を生きたいの」

かりん「アリナ先輩のテーマは、その命の大切さをみんなに伝えること。みんなが命の大切さを知れば、戦争なんて無くなるの」

アリナ「アリナのテーマは、命の大切さを伝える・・・」

かりん「なの! アリナ先輩と一緒に絵を描いた時間が一番長い人のわたしが言うんだから間違いないのっ!」

アリナ「んー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


アリナ「そうカモ」

かりん「そうなの」


かりん「それをもっと思い出すためにもアリナ先輩はマジきりを最新刊までしっかり読んでわたしと同格のマジきらーになるの! それからもう一度飼育委員をやったらいいと思うの」

アリナ「ブリーダー?」

かりん「飼育委員と言ったらかえでちゃんなの。かえでちゃんは覚えてる? わたしたちが入院していた時にきりんちゃんのぬいぐるみを置いてくれた水波先輩の隣にいた子なの。今度わたしと一緒に会いに行くの。そうしたらまたきっと何か思い出すの」

アリナ「オーケー」

かりん「飼育委員をやってウサギちゃんやネコちゃんをいっぱい可愛がるの!!」




アリナ「・・・・・・・」

アリナ「ねえ、プアアート。ちょっと・・・聞きたいんだケド・・・」

かりん「どうしたの?」

アリナ「プアアートはなんでこんなにアリナを助けようとするワケ? メモリーをロストする前のアリナからマネーでも借りてた?」

かりん「借りてないの。別に難しいことじゃないの。わたしはアリナ先輩の事が好きだから」

アリナ「なんで好きなワケ? 絵を教えてくれるから? 絵を知りたいならティーチャーに頼めばいいと思うワケ」

かりん「えと・・・。実はわたしたちの部活の顧問の先生は社会科担当で絵の事はあんまりよく知らないの・・・」

アリナ「だったら美術担当のティーチャーから教われば?」

かりん「う~ん・・・。でもわたしはやっぱりアリナ先輩がいい」

アリナ「ワーイ?」

かりん「わたしね、明るいねって言われるけど、うるさいのは好きじゃないの。だから、ずっと静かに絵を描いているアリナ先輩と一緒なのは心地良いの。わたしはアリナ先輩の隣で絵が描きたい」

かりん「それにね、人ってみんな支え合いながら生きているの。わたしだって、色んな人の大変だった時期に支えられてるから、幸せなんだって、そう思うの」

かりん「みんなが居てわたしは強くなれたから、今度はわたしがみんなを助けるの。だから記憶を無くして大変なアリナ先輩も助けたい。アリナ先輩の事は大好きだからなおさらなの」

アリナ「・・・・・・・・・」

かりん「ふっふっふっ。我こそはハロウィンが生んだ魔法少女・・・マジカルかりーーーーん!! なのだ! いつもお世話になっている先輩を助けるのに理由などいらないのだ! アリナ・グレイ! さあ、我と共にゆくぞ、記憶を取り戻す旅に!」

かりん「あっ、記憶を取り戻す旅って、なんかいいフレーズなのっ。次のマンガのネタになりそうなのっ」

アリナ「そ・・・・・・・・・」




アリナ「もう一つ、聞きたいんですケド」

かりん「?」

アリナ「アナタ、アリナに何かした?」

かりん「えっ? 何かって?」

アリナ「うまくいえないんだケド・・・。プアアートはマジカルガールなんだヨネ? アナタ、さっきアリナと一緒に居ると心地良いとかって言っていたケド、そういう自分の思考を他人にコピーさせるマジックとか使っていない?」

かりん「思考をコピーさせる魔法? 使ってないの。わたしの魔法は “盗む力” だから全然違うの」

アリナ「ふぅん・・・・」

かりん「それに、わたし結構長く魔法少女やってるけどそんな魔法聞いたこともないの」

アリナ「そ・・・。アイシー・・・」

アリナ「じゃあ、これはなんなワケ・・・? プアアートの隣に居ないと妙に落ち着かないアリナのこのマインドは・・・。メモリーをロストしてホスピタルで目が覚めてからずっと、そして最近は特に―――」

かりん「あっ、画材屋さんに着いたの! 早く入るのっ!」




---------------



かりん「あーりな、せ~んぱいっ。わたしはお会計済ませてきたの」

アリナ「んー・・・・」ジーッ

かりん「可愛い形がいっぱいあるテンプレートを見つけてくれてありがとうなの! これを使ってマンガを描くのが今から楽しみなの!」

アリナ「そ」

かりん「アリナ先輩はまだ見るの?」

アリナ「んー・・・・・」ジーッ

かりん「・・・?」

かりん(アリナ先輩、スクリーントーンの売り場をずっと見てるの。アリナ先輩もマンガ描くの?)


トンッ

かりん「あっ、ごめんなさいなの」

かりん「アリナ先輩。人が多くなってきたから、わたし外で待ってるの」

アリナ「アズユーライク」



---------------



かりん(えへへっ、アリナ先輩とお出かけ楽しいの。この後はどうしようかな)

かりん(新しいマンガの新キャラを一緒に考えたいし、マジきりトークもしたいし、きりんちゃんのお絵描きもしたいし)

 ブrr

かりん(あっ、スマホがブルブルしてるの。そういえば昨日からスマホはかばんに入れっぱなしで触ってなかったの)

かりん(わたし友達少ないから、別にそれで困らないし・・・)タプタプ

かりん「・・・・えっ?!」

かりん(な、なにこれ?! 着信500件・・・新着メッセージ2000件・・・)

かりん(どうしちゃったの・・・。ウィルスに感染しちゃったの・・・?)

かりん(と、とにかく、古いメッセージから見るの・・・)

かりん(ういちゃんからだ。えーっと、内容は―――)


うい『かりんさん、もう学校に着いた?』

うい『早くかりんさんに会いたいよ。今日は部活って言っていたけど・・・でもやっぱりかりんさんに会いたい。今から会いに行ってもいいかな?』

うい『かりんさん、お返事して欲しいな』

うい『どうしたの? なんでお返事してくれないの? わたしのこと嫌いになっちゃった?』

うい『それともなにかトラブル?! 大丈夫?! 今すぐ助けに行くよ!』

うい『かりんさん・・・お返事して・・・心配だよ・・・』


かりん(―――こんな内容のメッセージがたくさん・・・。なぎたん や やちよさんたちからも来てるの・・・。留守電も同じような内容なの・・・)

かりん(それに、これ、授業中の時間にもメッセージ来てるの・・・。ちゃんと授業は受けないとだめなの・・・)

かりん(一体なにが―――)


ドンッ


かりん「いたっ・・・」

  < ってーな。こんなとこでフラフラ立ってんじゃねーぞ

かりん「あ、ごめんなさいな―――・・・あっ!」

樹里「あっ? ああっ、なんだ小魚じゃねーか」

かりん「ひっ?!」ビクッ

かりん(わたしを燃やした二木の怖い人だ・・・・)

樹里「入院したって聞いてたんだが、もう退院したのかよ。あれだけ派手に燃えたってのに。やっぱドッペルってわけわかんねーな」

かりん「あっ・・・うっ・・・」ガクガク...

樹里「んだよ、なにビビってんだよ。別になにもしねえっつーの」

かりん(怖い・・・怖い・・・)ガクガク.....

樹里「はあ・・・あのなあ・・・。そんな弱気のままじゃお前はいつまで経っても小魚だぞ。いいか、出世魚って知ってるか?」
.
樹里「例えばイワシだ。弱い魚と書いてイワシ。お前みたいな小魚だな」

樹里「これが成長するとオオバっていう大魚になる。樹里サマと同じ名前だ。どうだ、強そうだろう?」

樹里「他に出世魚として有名なのはブリで―――」

かりん(この人なに言ってるの・・・? 怖い怖い怖い・・・)ガクガク......

トサッ...

樹里「夏は味が落ちるが冬になると脂がのって―――・・・んっ? おい、なんか落ちたぞ」ヒョイ

かりん「あっ・・・それは・・・」

樹里「これはなんだ? マンガか?」

かりん「あ・・・う、うん・・・。わたしが描いたマンガ・・・なの・・・」

樹里「へー。お前マンガなんて描くんだな。樹里サマはマンガが好きなんだよ。ちょっと読ませてみな」

かりん「え・・・? う・・・うん・・・ど、どうぞ、なの・・・」




ペラッ

樹里「おっ、宝探しすんのか。なかなか面白そうだな」

ペラッ

樹里「うわっ、大ピンチじゃねーか! 大丈夫かよこれ!?」

ペラッ

樹里「お、おい・・・な、なんだ、この殿様・・・。姉さんよりイカすじゃねーか・・・」

ペラッ

樹里「あっ、クソッ・・・。もう読み終わっちまった・・・」

かりん「えと・・・あの・・・・・・」ビクビク....

樹里「ほら、マンガ返すよ。サンキューな。面白かったぜ」

かりん「え・・・? あ、は、はい、なの・・・」

かりん(なんかこの人、意外と素直なの・・・・?)


樹里「なあ、このあと暇か? よかったら樹里サマと一緒に―――おいっ!!! 何してんだテメェ!!!!!」 ヒュ!

かりん「ひぅっ?!」

かりん(殴られる?!)

ドガッ!

ひかる「ぎゃっ?!」

ドサッ

ひかる「痛ったっ・・・」

かりん「くぅぅっ!」 (歯食いしばり

かりん「ぅぅ・・・・? あ、あれ?」

かりん(あっ・・・。わたしの後ろにいた人が殴られたの・・・?)


樹里「樹里サマの かりんちゃん に何してんだこの駄馬がっ!!!!」

かりん(か、かりんちゃん?!)


ひかる「イタタ・・・。くっ、い、いやっ、次女さんの方こそ何するっすかいきなり!!」

ひかる「こいつは神浜の魔法少女なんすよ?! しかもあのマギウスのアリナに近い人物なんすっ! 捕まえて結菜さんの所に連れて行かないと―――」

樹里「かりんちゃん、大丈夫か? こいつに何かされなかったか?」サスサス

かりん「えっ、あ、う、うん、だ、大丈夫なの・・・」


ひかる「ちょっと次女さん!? ひかるを無視しないでくださいっすよ!」

樹里「ほっ、よかった・・・。悪いな、怖い思いさせて。だが、こんな風に樹里サマからかりんちゃんを奪おうとする悪者が他にもいるかもしれねーな」

樹里「でも樹里サマが守ってやるから安心しな。とりあえず一緒にファミレスに行こーぜ」グイッ

かりん「あぅっ・・・」ヨロッ

ひかる「あ、やっぱり連れて行くんすね。それじゃあ同行するっすよ。っていうか、ホントになんでひかるは殴られたんすか・・・?」

かりん「ま、待って・・・わたし・・・」オロオロ... ビクビク...

樹里「大丈夫だって、樹里サマがおごるから。ファミレスに着いたら樹里サマと―――」グイグイッ

かりん「で、でも・・・あぅぅ、ま、待ってなの、本当に・・・ぅぅ、や、やっぱり怖い・・・怖い・・・」オロオロ...

かりん「わたし、やだっ・・・連れていかれちゃう・・・」オロオロ....

かりん「助けてっ・・・誰か・・・アリナ先輩・・・っ!」






アリナ「フリーズ!!!」

樹里「ああん?」

かりん「あ、アリナ先輩・・・!」パァァ

アリナ「これはなんなワケ?」

ひかる「あっ! アリナだ! 次女さん! こいつがマギウスのアリナっすよ! まさかこんな所にいたなんて!! 早く捕まえて結菜さんの所に連れて行くっす!!」

アリナ「そこのアナタ。アリナのプアアートに何してるワケ? 早くその手を離して」

樹里「何言ってんだお前? かりんちゃんは樹里サマのもんだ。離すわけねーだろ」

アリナ「ハァ? 御園かりんはアリナの作品なワケ。作品に触れていいのは作者のアーティストだけ。アンダースタン?」

樹里「知るかそんなこと。かりんちゃんは樹里サマと一緒に居たいって言ってるっつーの」

かりん「言ってないの・・・」

アリナ「いいカラ、早く離して。プアアートはこの後アリナとニューコミックのニューキャラクターをシンキングするから、アナタに構ってる暇はナイんだヨネ」

樹里「おい。いい加減にしろ。それ以上樹里サマとかりんちゃんの間に首を突っ込むな。ウェルダンにするぞ」

アリナ「シャラップ! ゴーアウェイ!! 目障りなんですケド!!!」

樹里「うるせえ! テメェがどっか行け!!!」

アリナ「Don’t fucking suddenly appear from nowhere and fucking say whatever you want you stupid ass son of a bitch! Get your fucking ass back home and suck your mama’s dirty fucking tities you bastard motherfucker!!」

樹里「はっ! 何言ってんのか わかんねーけど、喧嘩売ってるってことだけは はっきり分かったぜ! おもしれえ、そっちがその気ならやってやる!」手パシッ

ひかる「えっ、ちょ、次女さん・・・? 捕まえないでここで倒すっすか・・・? ま、まあ、でも、それが次女さんの判断なら、ひかるは従うっすよ・・・!」グッ

かりん「あうぅぅ、どうしようどうしよう・・・!?」



 < やっと見つけたわ、御園さん・・・



かりん「んっ? えっ、やちよさん、ええっ?! それにみんなもっ?! ど、どうしてここに・・・?」

やちよ「御園さんの居場所はGPSを使えばすぐに分かるわよ」

うい「やちよさんの後を付けてかりんさんに会いに来ちゃった」

十七夜「神浜中を走り回ってようやく画伯を見つけたぞ」

郁美「くみとかりんちゃんを結ぶ赤い糸を手繰り寄せたよっ☆ キューンキュン♪」

みふゆ「灯花に頼んでかりんさんのスマホをハッキングして位置情報を割り出しちゃいました・・・うふふっ・・・」



ひかる「げっ・・・。神浜の魔法少女がこんなに・・・。しかも大物ばっかりっす・・・」

樹里「なんだなんだあ?! 神浜のババア共が揃いも揃って!!」

郁美「ババァって言うなー! そんなことより、さっ、かりんちゃん、くみと一緒にお家に帰ろう?」

やちよ「御園さんは私と一緒に帰るのよ」

十七夜「いや、違うな。画伯と一緒に帰るのは自分だ」

みふゆ「かりんさん。ワタシの家においしいお茶とお茶菓子がありますよ。ワタシと一緒に帰りたいですよね?」

樹里「はっ、どうやらこいつら全員、樹里サマの可愛い可愛いかりんちゃんがお目的らしいな」

樹里「ったくよー、恋には障害が多いって言うが、でも、障害は多ければ多いほど燃えるってもんだ!!」

十七夜「ゴチャゴチャと喧しい。二木の下品なトカゲ風情が画伯を誑かした罪は重いぞ。平等を愛するものとして断罪してくれる!」

やちよ「はあ・・・。御園さんは私の愛おしい娘なのよ。なのにみんな好き勝手言ってくれちゃって・・・! 痛い目を見ないと分からないのかしら?!」

うい「わたしだって強くなってるんだよ! かりんさんのためなら本気で戦っちゃうよ!!」

アリナ「プアアートはアリナの作品なんですケド!! 触るな近付くな何度も言わせるヴァァアアアアアアアアッッッ!!!!!!!!」

樹里「かりんちゃん、そこで待ってな。こいつら全員を愛の炎でウェルダンにしてやるからよ!!」

ひかる「えっ!? 本気っすか次女さん?! この人数相手に戦うのはさすがに分が悪いっすよ!! ここは一旦退いて・・・」

樹里「ここじゃ人目に付く。そっちの路地裏に来な!」

ひかる「うわぁ・・・やるんすか・・・。で、でも次女さんがやるっていうのなら、ひかるはやるっすよ・・・!!」


かりん「なになになんなの、何が起こってるの~っ・・・!?」

かりん(どうしようどうしよう、このままじゃ戦争が起きちゃうの!)

かりん(なんとかしなきゃ、なんとかしなきゃ・・・!)

かりん(理由は分からないけど・・・みんなわたしが目的らしいから・・・一か八か、わたしがここから逃げていなくなれば、大丈夫かな・・・? 多分・・・。それで、逃げたとして、その後はどうすれば・・・?)

かりん(ううっ、分からないの・・・。でも、他に方法は思い付かないの! 今すぐ何かしないと本当に戦争になっちゃうの!)

かりん(考える暇は無いの! だったら今すぐ―――)




かりん「逃げるの~っ!」ダッシュ


樹里「あっ?!」

十七夜「むっ?!」

やちよ「御園さん?!」

アリナ「シット!」

樹里「これは愛の逃避行か?! 夕日が照らす砂浜でよくやるやつ! ニヒッ、そういうロマンチックなのは嫌いじゃない! 更に燃えてきたぜ!!」ダッシュ


かりん「わーっ、追いかけてくるのーっ!」

かりん「でも、わたしは元怪盗なの! 逃げ足には自信があるの!」タタタッ

やちよ「くっ・・・離される・・・! さすがの身のこなしね!」タタッ

樹里「オラーッ!!!!」ダダダッ

かりん「ひゃあっ?! あの人速い速いめっちゃ速いの! マンガでよく見る砂煙を巻き上げる猛ダッシュなの!!」

かりん「このままじゃ追い付かれるのっ・・・。ひとけの無いところまで来たら変身して・・・!」パァア

かりん「とにかく逃げるのー!」シューンッ


うい「ツバメさんもっと速く飛んでー! かりんさんが取られちゃうー!!」ペシペシ

かりん「ええっ?! ういちゃんが意外と速いの!」

かりん「あーんっ、わたしのジャックデスサイズももっと速く飛んでなのーっ!!」ペシペシ

樹里「かりんちゃん好きだああああ!!! レッドアイズアルティメットドラゴンファイヤーダッシュ!!!」バゴォォン!

かりん「ひぃぃぃっ?! ロケット推進なんて反則なのー! 追い付かれちゃう捕まっちゃうエロ同人になっちゃうの~!!!」

かりん「どこか逃げられる場所、隠れられる場所に行かなきゃ・・・! どこかどこか・・・!」

かりん「うわーんっ! あそこしか思い付かないのーっ、ごめんなさいなの~っ!」







----------------------------------------
調整屋



みたま「ねえねえっ、ももこっ。ももこっておバカさんじゃない。だから、ひなのさんから頭が良くなるお薬をもらってきたの。ちょっと飲んでみて」

ももこ「あのなァ・・・。お前そんなこと言って、自分が作ったものをアタシに飲ませるんだろ・・・。もう同じ手は食わないっての」

みたま「そーお・・・? ざーんねん・・・。わかったわ、それじゃあ代わりにイチゴ牛乳飲む?」

ももこ「おっ、ちょうど甘いものが飲みたかったんだ。サンキュ、もらうよっ」

ももこ「ちゅー・・・ゴクッ―――うぐっ?! ぐへっ?! ゲホッゲホッ!! ・・・おまっ、中身入れ替えたな・・・手の込んだことしてくれるなあ・・・!!?」

みたま「うふふっ、これで ももこは灯花ちゃん顔負けの天才になるわ~♪」



    < 調整屋さ~ん! 調整屋さ~ん!!!



みたま「あら、お客さんかしら。かりんちゃんの声ね」

みたま「は~い、いらっしゃー―――きゃっ?」

かりん「調整屋さん! た、助け・・・あっ! 十咎先輩も居たの! よかった・・・!」

ももこ「おいおい、どうしたのさ、そんなに慌てて」

かりん「えっと! あのあの! 二木の怖い人が! やちよさん とか なぎたん とかも! わたしのために! 戦争で! 逃げた! エロ同人! なの!」アセアセッ

ももこ「な、なんて・・・??? とりあえず落ち着きなよ・・・」

かりん「はぁっ、はぁっ、はーひー・・・」


樹里「ここかー!? 樹里サマのかりんちゃんは!!」バーン


ももこ「なっ?! お、お前は・・・二木の!」

かりん「あわわ・・・来ちゃったの・・・!」

樹里「おっ、いたいた。ニヒッ、かりんちゃぁん・・・」スタスタ

ももこ「お、おいっ! なんなんだよお前?! 何しに来たんだ!? それ以上近付くな!」

樹里「なんだぁ・・・? お前もかりんちゃんがお目当てかぁ・・・? どいつもこいつも虫ケラみたいにかりんちゃんに群がりやがってえッッ!! 樹里サマの炎で殺虫される覚悟はできてんだろーなあ?!!」

ももこ「うへぇ・・・前に戦ったときと雰囲気違うな・・・。こんなに気持ち悪いやつじゃなかったぞ・・・」

かりん「怖いの怖いの・・・」フルフル....

ももこ「大丈夫だ かりんちゃん。しっかりアタシの後ろに隠れてな。もうあんな目には二度と遭わせない。絶対にアタシが守るから!」

かりん「わぁ、十咎先輩、かっこいいの、頼りになるの、ときめいちゃうの!」


樹里「おい、環境が良くなったからって かりんちゃんに色目使ってんじゃねーぞチャーゴリ。早くかりんちゃんを樹里サマに渡しな。今ならミディアムレアで我慢してやる」

ももこ「事情は知らないが、こんなにおびえてる子を簡単に渡せるわけが無いだろ。今すぐ消えんのなら防御無視ブラストコンボは勘弁してやる」

みたま「わたしが手伝ってもできないわよぉ」


うい「かりんさーんっ!」

十七夜「画伯無事かっ?!」

やちよ「御園さん! 私の胸に抱かれて泣いて!」


ももこ「おっ、やちよさんたちが来たのか。これで多勢に無勢だな。もうお前に勝ち目はない。おとなしく引き返すのが身のためじゃないk―――」


十七夜「おいっ、十咎、これはどういうことだ。何故貴様が画伯を懐に抱いている? 返答次第ではお尻ペンペンじゃ済まんぞ」ヒュッ ヒュッ

やちよ「私の金魚の糞で甘えん坊のももこちゃんのくせに、なんでおいしい所だけ持って行こうとしているの? 躾が足りなかったかしら?」ギラッ...

うい「ももこさん! わたしのかりんさんを取らないで! ももこさん相手でも、わたしは一番強い攻撃で戦うよ!」ツバメェ


ももこ「うぇへえっ?! アンタら味方じゃないの?! なにがどうなってんだーっ!?!?」

みたま「ちょっとあなたたち! ここでは戦闘禁止よ! 武器を出すのはご法度!! 変身を解いて!!」

ももこ「いやあ・・・。この人たち、そういうのおとなしく聞く雰囲気じゃないぞ・・・」

みたま「もうっ! それじゃももこ! 早くなんとかしてっ! 貴女はわたしの用心棒でしょ!」

ももこ「なんとかしろって言われても―――」


十七夜「なんだ十咎? やるのか? ん?」ヒュカッ ヒュカッ

やちよ「なーに? 師匠に盾突く気?」チャキ

うい「むむーっ!」ツバメェ

樹里「どうやらベリーウェルダンをご所望のようだなあ?!」ボボォ


ももこ「―――このメンツを相手になにをどうしろってんだよーッ・・・!」タジッ...

みたま「みんな本当にどうしちゃったのぉ・・・。何かに操られてるのかしらぁ? 魔女とかウワサの生き残りとか」

ももこ「ああ、それはあるかもな・・・」

みたま「ソウルジェムを調べれば何かわかるかも。ちょっと失礼するわよぉ」チョン

十七夜「なんだ八雲? 自分と画伯の蜜月を邪魔するというのなら、いくらお前でも―――」

みたま「あらぁぁ? 十七夜のソウルジェムの中にかりんちゃんの魔力があるわよ。何かしらこれ。取っちゃえ」チョイ

十七夜「―――許さんぞ・・・むっ? な、なんだ・・・? ま、待て、本当になんだこれは・・・? なんで自分は今さっきまで画伯を嫁にもらおうと本気で考えていたんだ・・・?」

かりん「へっ・・・? う、嬉しいけど、わたしなんかじゃもったいないの・・・」

ももこ「おっ、十七夜さん、正気に戻った?」

十七夜「う、うむ・・・恐らく・・・」

みたま「なんかよく分からないけど、ソウルジェムの中にかりんちゃんの魔力が入っちゃって、それがなんやかんや作用して、それでみんな かりんちゃん にお熱になっちゃってるみたいね~」

ももこ「そうなのかっ!? よしっ、それじゃ調整屋! 早くみんなのソウルジェムからかりんちゃんの魔力を取り除いてくれ!」

みたま「え~? う~ん、それはできるけどぉ・・・」

ももこ「なんだよ・・・?」


みたま「わたしってこういう魔法の解除って守備範囲外なのよねぇ。それを曲げてやるとなったら・・・ねっ? ほらっ? 分かるでしょ?」 (指で丸

ももこ「バカやろう!! そんなこと言ってる場合か! 早くやれ! このままじゃアタシら本当に殺されるっての!!」

みたま「あー、もーっ、はいはい、分かったわよぉ・・・。こんなの恐喝と一緒じゃない・・・。みたまちゃんファンクラブの子たちが黙ってないんだからぁ・・・」シブシブ......

ももこ「ねーよ、そんなもん・・・」


みたま「はい、まずは いたいけ少女 のういちゃんからね。えいっ」チョイ

うい「あ、あれ・・・? なんでわたし、かりんさんの妹になりたいって思ってたんだろう・・・?」

かりん「妹・・・? そ、それは楽しそうだけど、環先輩が怖くなりそうだから遠慮したいの・・・」

みたま「お次はロリコンのやちよさんね。えいっ」チョイ

やちよ「あ、あれ・・・? なんで私、御園さんを全裸にしてそのお子様ボディの全身にボディクリームを塗りたくりたいなんて考えていたのかしら・・・?」

かりん「ええっ・・・。なんてこと考えてたの・・・。おまわりさん呼ぶの・・・」タプタプ

みたま「ついでに暑苦しいあなたもね。えいっ」チョイ

樹里「あっ?! 勝手に触んな―――・・・・あ、あれ・・・? なんで樹里サマは、こんな小魚と一緒にファミレスに行ってどうぶつの森で遊びたいだなんて考えていたんだ・・・?」

かりん「えっ、どうぶつの森? それはちょっとやりたいの」


ひかる「はぁっ、はぁっ、や、やっと追い付いたっす・・・」ヘロヘロ....

ひかる「馬を置いてけぼりにする程マジダッシュしないでくださいっすよ次女さん・・・」

みたま「あらぁ、あなたも? それじゃ、ちゃっちゃっとやっちゃうわね。えいっ」チョイ

ひかる「うわっ?! な、なんなんすかいきなり?!」

みたま「あれ? 無いわね、かりんちゃんの魔力。なんでかしら。えいっ、えいっ」チョンチョン

ひかる「なっ、訳が分からないっす! もうやめるっす! なんか怪しいっす!」バッ

ひかる「次女さん! 今どういう状況なんすかこれ?!」

みたま「んー? あなたは元々なんともなかったのかしら」


樹里「うそだろ・・・このプロミストブラッドの中心に立つ三姉妹の次女ともあろうこの樹里サマが・・・?! こんな小魚のちゃちな魔法ごときに心乱されてたって・・・?! ありえねーだろ?!」

やちよ「『愛の炎でウェルダンにしてやる』とか言ってたわね」

樹里「ぐっ・・・!?」

十七夜「『かりんちゃん好きだああああ!!!』とか叫びながら走っていたな」

樹里「言ってねえ言ってねえ・・・!」

うい「もうやめたげてよぉ・・・かわいそうだよお・・・」

みたま「あらあら。小学生にかばわれるのってどんな気持ち? ねえねえ、どんな気持ちっ?」

樹里「黙れ! クソッ・・・! なんで、なんでこうなった・・・おいっ、なんでだ馬!!?」

ひかる「はぁ・・・? そんなのひかるが知りたいっすよ・・・」

樹里「ああもう、帰るぞ馬!!」

ひかる「はいはい・・・。はぁ・・・。結局何もしないで帰るんすね・・・。今日は殴られたり、走らされたり、怒鳴られたり、散々っす・・・。早く帰って結菜さんによしよしされたいっす・・・」



ももこ「ふぅ・・・。とりあえず一番危ないやつは居なくなってくれたな」

かりん「うんっ。十咎先輩っ、調整屋さんっ、本当にありがとうございますなのっ」ペコッ

ももこ「いやいや、いいよ。なんか不可抗力みたいだったし」

みたま「う~ん・・・。まだ落ち着くのは早いんじゃないかしら。不可抗力だなんて言わないで、ちゃんと原因を突き止めないと、またすぐに同じことが起きちゃうかも」

ももこ「あ、ああ、それはそうだな」

かりん「確かになの・・・。わたしのことを好きって言ってくれるのは嬉しいけど、そのせいでみんながケンカするのは嫌なの・・・」

みたま「うふふっ、ホントにいい子ね、かりんちゃんって。調整屋さんも可愛いかりんちゃんのこと、だ~い好きよぉ♪」キャピ

かりん「えっ・・・?! ま、まさか、調整屋さんにもわたしの魔力が・・・?!」

みたま「じょ~だんよ~」

ももこ「おい! こういうときにそういう冗談はやめろって!」

みたま「はいはい、ごめんなさいね。それじゃ真面目に考えましょ。みんながかりんちゃんにメロメロになっちゃったきっかけに、何か心当たりはない? 最近あった変わった出来事とか」

かりん「う~ん・・・。別に、最近はいつも通り過ごしてたの・・・。アリナ先輩と部活して、お家に帰ったらアニメの映画見て、それでアイデアが浮かんだから夢中になってマンガを描いて・・・あっ」

かりん「分かったの! このマンガなの! わたしが描いたこのマンガ! みんなこのマンガを読んでからおかしくなったの!」

ももこ「マンガのせいだって? やちよさんたちもこのマンガ読んだの?」

やちよ「ええ、昨日御園さんの部室で読んだわね」

十七夜「自分も一昨日、メイドカフェで読んだな」

うい「わたしも読んだよ」

みたま「このマンガ、どういう内容なの?」

かりん「えっとね、なぎたんたちと無人島を探検した時のことを元にして描いたマンガなの」

かりん「わたしがモデルのお殿様が主人公なの。無人島に隠されたお宝を仲間と探すんだけど、色々あってピンチになって、お殿様が悪役の人の心を盗んで仲間にして、みんなで協力して、そして最後にお宝に辿り着くの」

みたま「心を盗む・・・。かりんちゃん、そのマンガ、ちょっと貸してもらってもいーい?」

かりん「え、でも、読んじゃうと多分・・・」

みたま「ページは開かないわ。ちょっと触って魔力を探ってみるだけ」

かりん「わかったの。どうぞなの」

みたま「ん~・・・・。やっぱり、このマンガにかりんちゃんの魔力が宿ってるわね」

かりん「そうなの?」

みたま「ええ。かりんちゃんってマンガがきっかけで魔法少女になった子だから、こういうことが起きちゃったのね。ねむちゃんが持ってるウワサの本に似てるわ」

みたま「それに加えて、ほら、かりんちゃんの固有魔法って」

かりん「あっ・・・“盗む力” なの・・・・」

みたま「そうそう。このマンガは、かりんちゃんが一生懸命になって描いて、しかも自己投影した主人公が出てくる上に、その主人公が心を盗む行為をした。更にかりんちゃんは石とかお菓子とかに魔力を込めて魔女と戦うくらいだから、物に魔力を込めるのが得意」

みたま「それらの要素は相性が良すぎて、結果的にこのマンガに強い魔力が宿っちゃったのね。それはもう、 “心を盗む” という魔力が、マンガを読んだ魔法少女のソウルジェムの中に勝手に入り込んじゃうくらいにね」

かりん「そうだったの・・・。わたしの魔法って物だけじゃなくて心も盗んじゃうんだ・・・。あ、それじゃあ、わたしはこれからもうマンガは描いちゃいけないの・・・?」

みたま「そんなことは無いわ。今回はたまたま色んな偶然が重なっただけ。意図的にやらない限り、こんなこと滅多に起こらないわよ。それでも心配なら、描いたマンガをわたしの所に持ってきてくれれば、マンガから魔力を取り除いてあげる」

かりん「そっか・・・。うん・・・・それは、よかったの・・・。よかったけど・・・・・」 (俯き

ももこ「かりんちゃん?」




十七夜「逆に言えば、画伯が意図的に心を盗むマンガを描いて、それを二木の本拠地に放り込んでやれば、知らずに読んだ魔法少女同士が画伯を巡って同士討ちを始めるということか」

やちよ「十七夜って普段公平だの平等だの言う割には、時々えげつない事思い付くわよね・・・」

十七夜「むっ、そうか?」



郁美「はぁっ、はぁっ・・・。みふゆさん、そのお腹に付いてるお肉のせいで走りにくそう・・・! 令ちゃんの記事に書いてあったみふゆさんのフィットネスメソッドって全然何の役にも立たないんだあ・・・!」

みふゆ「はぁっ、はぁっ・・・そ、そういう郁美さんこそ・・・もう若くないんだから無理して走ったら体に悪いですよ・・・!」

郁美「私たち同い年だからッ・・・!」

アリナ「はぁっ、はぁっ・・・。退院したばっかりのアリナをこんなに走らせるなんて、トーチャーなんですケド・・・!」


十七夜「なんだ、今頃着いたのか君たち」

みふゆ「はぁっ、はぁっ・・・えっ・・・? なんですかこの空気。何かあったんですか?」

十七夜「どうやら君たちのソウルジェムの中に画伯の魔力が入り込んでしまったらしい」

十七夜「そのせいで、自身の意思に反し画伯に心を奪われている状態になっているんだ」


郁美「自身の意思に反して? コラァー! 何言ってるのー?! くみ怒っちゃうぞぉー! くみはぁ、かりんちゃんの事が大好きでぇ、かりんちゃんのために立派な大人になるって決めたんだよ! プーンプンッ!」

みたま「えいっ」チョイ

郁美「―――・・・あ、あれ? なんで私こんなこと考えていたんだっけ・・・? 私ってもう既にそこそこ大人なのに・・・。はぁ・・・」


みふゆ「ワタシだってかりんさんのために立派な大人になるって決めたんですよ! 具体的には、朝は二度寝しないでちゃんと自分の力で起きて、自分のお茶はちゃんと自分で淹れて、ご飯もちゃんと自分で作って、お風呂に入ったらちゃんと自分で髪を乾かして―――」

みたま「えいっ」チョイ

みふゆ「―――あ、あれ? なんでワタシこんなこと考えていたんでしたっけ? やっちゃんにやってもらえばいいのに」



十七夜「梓はそのままにしておいた方がよかったのでは?」

やちよ「変わらないわよ。どうせ口だけだから」

十七夜「そうか」


十七夜「ま、そういうことで、八雲が画伯の魔力を取り除けば元に戻る」

アリナ「アイシー。アリナ、最近プアアートが隣に居ないと妙に落ち着かなかったんですケド、それはやっぱりマジックのせいだったってワケ」

みたま「あらまぁ、アリナもそうだったのね」

アリナ「そ。なんか変だと思ってたんだヨネ。アリナ程のジーニアスアーティストがこんなプアアートごときにそんな感情を抱いているなんて」

やちよ「少しびっくりだわ。アリナにもそんな惚れた腫れたの感情があっただなんて」

アリナ「そう思われるのがなんかイライラするから、早くアリナにもディスペルしてヨネ」

みたま「なんかもったいない気もするけど、分かったわ。えいっ」チョイ

みたま「・・・あれ?」

アリナ「ワッツ?」

みたま「ごめんなさい、もう一回。えいっ」チョイ

みたま「あらー? さっきの二木の子と同じだわ。かりんちゃんの魔力が無いような・・・?」

アリナ「そんなはずないんですケド」

みたま「おかしいわね。わたしはかりんちゃんの魔力は触り慣れてるから、あればすぐ分かるはずなのに」

みたま「んー・・・。確かにアリナは今でもかりんちゃんに ほの字でラブラブズッキュンなのよね?」

アリナ「なんかその言い方がムカツクんですケド・・・。ま、否定はしないワケ。でも、アリナがアートではなく、個人にラブを感じるなんてありえないワケ。アナタたちが知っている本来のアリナもそうだと思うんですケド?」

みたま「まあ、そうね。あなたはそういう人よ」

みたま「それじゃあなんかの拍子に、かりんちゃんの魔力が奥の方に入っちゃったのかも。ちょっと深く探るけど、いいかしら?」

アリナ「どーぞ」

みたま「はい、それじゃ、リラックスしてー、しんこきゅー」

アリナ「すー・・・・はー・・・・」

みたま「始めるわよぉ」スッ...

アリナ「ん・・・・」

みたま「・・・・・・・・・・」

みたま(こうしてソウルジェムに触れると、その人の過去が見えてくる・・・)

みたま(アリナの過去が・・・アリナの記憶が・・・)







・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・



『はい、コレ』

『え、わっ・・・。イチゴ牛乳・・・』

『自分にウソついてないし、良くなったと思ったワケ』



~~~~~~~~~~~~~~~~



『死神少女クリスマス・デスカリブーの新作なの!』

『ふーん・・・。可もなく不可もなくゴミだヨネ』

『・・・ほんとなの!? すごく嬉しいの!』

『なんで喜ぶワケ? 誉めてないんですケド』

『いつも辛口の先輩に不可じゃないって言われたの!』



~~~~~~~~~~~~~~~~



『あれ・・・体・・・動かない・・・。ここは生と死の間・・・? 生が最も溢れる境地・・・。ハァ・・・今さら見つけても意味ないワケ・・・。もったいないことしたワケ・・・・。さすがに死んだのは損しちゃったカモ・・・』

『・・・リナ先輩』

『この声・・・はっ』

『アリナせんぱーーーーいっ! 良かったの! 目が覚めたの! 心配したの! どうなるかと思ったの!』

『ちょ、アナタウルサイんですケド・・・!』

『うるさくないの!! 見つけてもらえなかったら死んでたかもしれないの! どうしてどうして! どうして・・・。どうし、て・・・。ふぇっ、ふぅぅ・・・』

『別に、アリナ自身を最後の作品にしただけ・・・。アナタが泣く必要なんてないんですケド』

『意味が分からない・・・の・・・。泣いて当然・・・なの・・・ふぅっ・・・』ギュ...

『何、手握ってるワケ?』

『生きてるの・・・。アリナ先輩、生きてるの!』

『フッ、そうカモね』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・






みたま「・・・・・」

みたま「これは・・・・・・・」



かりん「はぁ・・・」

ももこ「どうしたんだよかりんちゃん。落ち込んじゃって」

かりん「あのね・・・。わたしが描いたこの宝探しのマンガ・・・」

かりん「みんなが面白いって言ってたのは、わたしの魔法のせいで、内容が面白かったわけじゃなかったの・・・」

うい「あっ・・・」

かりん「わたし、マンガを描くのが上手になったって勘違いしちゃってたの・・・あはは・・・ばかなの・・・」ショボン...

うい「そんなことないよ! わたしはそのマンガが未完成の頃から面白いって思ってたよ!」

かりん「うん、ありがとなの・・・・・」ショボン....

うい「かりんさん・・・」

やちよ「っ・・・。みたまっ! 早くこのマンガからも魔力を取り除いて!」

みたま「えっ? でもぉ」

やちよ「早くしなさい!」

みたま「わかったわかったわよぉ・・・。も~、なんで今日はこんなにタダ働きしないといけないのよぉ・・・」チョイ

みたま「はい、できたわよ」

やちよ「御園さん、改めてこのマンガを読ませてもらわうね!」

かりん「う、うん・・・」

やちよ「ありがとう・・・・うん! 面白いわやっぱり! ほらっ、あなたたちもまた読んで早く!」

十七夜「そ、そうか! 分かった!」

みふゆ「ワタシも!」

郁美「私もっ!」

十七夜「うむっ! 何度読んでも実に面白いマンガだ!」

みふゆ「そうですね!」

郁美「うんうん!」

やちよ「ほら、みんな面白いって言ってるわよ! 御園さん自信持って!」

かりん「みんな・・・。ありがとうなの、気を遣ってくれて」

十七夜「い、いや、気など遣っていない・・・」

かりん「わたし、やっぱりまだまだ練習不足で勉強不足なの・・・。わたしの絵がアリナ先輩に褒められたことも、まだないし・・・・」

かりん「でも、もっと頑張って、いつか本当にみんなに面白いって思わせるから・・・待っててほしいな・・・」ヘニョ... (苦笑い

十七夜「むう・・・。我々が何を言っても響かんか・・・」

みふゆ「かりんさん・・・」

郁美「かりんちゃんにそんな辛そうな笑顔させたくないのにぃ・・・」



アリナ「ハァ・・・。貸して」パシッ

やちよ「あっ、ちょっと・・・」



ペラッ

アリナ「・・・・・・」

ペラッ

アリナ「・・・・・・」

ペラッ

アリナ「・・・・・・」


パタンッ

アリナ「・・・・・・・・・・」ゴソゴソ


かりん「アリナ先輩・・・?」

アリナ「はい、コレ」ズイッ

かりん「えっ、わっ、これは? スクリーントーン? わあ、綺麗なトーンなの」

アリナ「追手の心が盗まれるトコ、ああいうシーンにはそんなトーンを使ったらいいと思ったワケ」

かりん「あっ、確かにぴったりなの。早速画材屋さんで買ってこなきゃ」

アリナ「それ、あげるカラ」

かりん「えっ?」

アリナ「300円くらいの価値はあると思ったワケ。このマンガ」

かりん「えっ・・・あ・・・・・・。も、もしかして、このトーン、さっき画材屋さんで、わたしのために探してくれたのっ?」

アリナ「いや、それは違うケド。アナタがアリナにきりんを描けって言うカr―――」

かりん「わぁ、アリナ先輩にそこまで褒めてもらえるなんて嬉しいの! すごくすっっごく嬉しいのっ!! ありがとうございますなのっ!!」ニパッ


やちよ「えっ、うそっ、御園さんが一瞬であんなに自然に笑った・・・?!」

みふゆ「アリナのあんな適当な評価で笑顔になったんですか・・・?!」

郁美「プロのメイドさんの私にも笑顔にできなかったのにっ、なんかくやしーっ!!」

十七夜「くっ、なんなんだこの敗北感は・・・?!」

みたま「あらあらぁ~。かりんちゃんが一番欲しかったのはアリナの褒め言葉だったのねぇ~。うふふっ、やっぱり可愛いわ~」

みたま「ねえねえ、そのマンガ、私にも読ませてちょーだい」

アリナ「ウェイトウェイト。調整屋。アリナのディスペルがまだ終わってないヨネ? 遊んでないで早くしてほしいんですケド」

みたま「ああ、そのことなんだけどぉ」

アリナ「ワッツ?」

みたま「あなた、かりんちゃんのその宝探しのマンガ、今初めて読んだのよね?」

アリナ「そうだケド。それがなんなワケ?」


みたま「うふふっ、やっぱり~♪」

やちよ「えっ? 今初めて読んだの? ってことは魔法関係なく、アリナは元々御園さんのことが・・・」

十七夜「ほうっ。なるほど、そういうことか。アリナがそうなのは意外といえば意外だが、まあ、相手はあの画伯だしな。そうなってしまうのは納得だ」

みふゆ「まあっ、そうなんですか! かりんさんはアリナの言葉が欲しくって、そしてアリナも・・・ふふっ、お互い想い合っていて微笑ましいですね。お似合いです」

うい「わあっ、こういうのって素敵。少女漫画みたい」

郁美「ふわふわキュ~ンキュン♪ 貴女のお熱は恋煩い♪ きゃ~☆」

みたま「そうそう。アリナにかかった恋の魔法はわたしには解除できないわ~。こういうのはぁ、エミリーちゃんの方が専門かもー、うふっ♪」

かりん「えっと・・・? みんなどうしたの?」

ももこ「なんだよなんだよ? なんでアリナは魔法の解除ができないんだ?」

アリナ「だからなんなワケ?! アリナにも分かるように説明してほしいんですケド!」


みたま「かりんちゃんの魔力が他の人のソウルジェムに入っちゃうのにはきっかけがあったのよ。それが、その宝探しのマンガを読むこと」

みたま「アリナがそのマンガを読む前から かりんちゃん のことがスキスキだいしゅきってことは、それはつまりー?」

アリナ「・・・ハッ! 待って! いやっ、ありえない・・・! 違う違う違う違うんですケド!! こんなプアアートにアリナが?! 変な事言わないでほしいんですケド!!!」

かりん「ひゃあっ、ど、どうしたのアリナ先輩? 急に慌てて・・・」

ももこ「えっ、なになに? どいうこと? だからなんでアリナだけ魔法の解除ができないんだよ?」

みたま「うふふっ、ありがとうアリナっ♪ あなたのその姿を見られただけで、タダ働きをたくさんやった甲斐があったわ~♪」ニヤニヤ

やちよ「ええっ、いいものを見せてもらった」ニヤニヤ

十七夜「うむ、同感だ」ニヤニヤ

アリナ「シャラップ! ヴァアアッ・・・! アリナ的にアングリーなんですケド!! バッドムードなんですケド!! アナタたちその薄ら笑いをやめてほしいんですケド!!」イライラ

アリナ「シット・・・!! なんで、こんな・・・!! アリナのプライドに関わるんですケド・・・!! このアリナがアートじゃなくてこの・・・こんなのを・・・?! ありえない、こんなのアリナじゃない、ハズ・・・! そうだヨネ?! ねえ!!??」


みたま「まあまあ、落ち着いて。落ち着けるお茶があるけど、飲む?」

ももこ「おい、それって頭が良くなる薬じゃなかったのかよ・・・」

アリナ「いらないっ!」

みたま「そーお? それじゃあ、イチゴ牛乳飲む?」

アリナ「いらないッッ!!!」

かりん「あっ、イチゴ牛乳、わたし欲しいの」

みたま「いいわよ、かりんちゃんにあげる」

かりん「わーいっ。ありがとうなの。わたしイチゴ牛乳好きなの。いただきますなn―――」

ももこ「あっ! ダメだ かりんちゃん! それは―――」

アリナ「あーくっそ、腹立つ!」イライラ

バッ!

かりん「あっ」

ももこ「あっ」

アリナ「ちゅーーーー、ズゾゾゾゾ」

かりん「あーんっ! わたしのイチゴ牛乳~! アリナ先輩ひどいの~っ!」

アリナ「ぷはっ・・・」

ももこ「あーあー・・・。一気に全部飲んじゃったよ・・・。これは無事じゃ済まないぞ・・・」

アリナ「ふぅ・・・。ねえ、御園かりん」

かりん「むーっ、なんなのお・・・?」

アリナ「アリナのママになってよね」

かりん「えっ? ママ?」

アリナ「う・・・うぅ・・・く・・・・」フラッ.....

バタンッ

かりん「あーっ! アリナ先輩が倒れたのー!!」

ももこ「そりゃそうだ、あんなもん全部飲んだら・・・」

かりん「アリナ先輩~! 死んじゃやだのー!」ユサユサ

うい「向こうの部屋に寝台があるよ! みたまさん、借りてもいい?!」

みたま「どうぞ~」

ももこ「おっし、アタシが運ぼう。腕っぷしには自信があるからな」

郁美「私お水持っていく! とにかく今は薄めないと!」






やちよ「アリナはあの子たちに任せるとして」

やちよ「それで・・・。みたま、聞きたいんだけど」

みたま「ん~?」

やちよ「アリナのソウルジェムに深く触れて、記憶を見たんでしょ。アリナは本当に記憶喪失だった?」

みたま「そうねえ・・・。自分の願いとか、身近な人との関係とか、普通の魔法少女ったら当然持っているはずの記憶は、確かに無かったわね」

やちよ「そう・・・。記憶喪失は本当なのね」

みたま「うん。アリナには入院するより前の記憶はほとんどない。ただ、かりんちゃんと思われる人との交友の記憶だけはおぼろげながらも残っていたわね」

やちよ「御園さんとの記憶が? どうして?」

みたま「記憶喪失と言っても、赤ちゃんのように全ての記憶を失ってるわけじゃないのよ。交友関係は忘れているけど、歩き方とか言葉とか美術の知識は残っている」

みたま「かりんちゃんの事を覚えているのは、今のアリナと同じように、以前からかりんちゃんのことが本当に好きで特別な存在だったからなのか、あるいは・・・」

みふゆ「美術の知識を失っていなかったのと同じように、アリナにとってかりんさんは、人というより作品の一部と捉えているのでしょうか」

みたま「そうそう」

みふゆ「アリナは、病院でかりんさんと再会したときから かりんさん のことを “プアアート” と呼んでいました。初めは意味が分かりませんでしたが、文字通り、かりんさんはアリナにとって自身の作品の一部なのかもしれませんね」

やちよ「うーん・・・。美術の作品のように御園さんを作り上げていたってこと? アリナが御園さんを育てていたわけでもないのに、どうしてそうなるのかしら?」

みたま「育てていたのよ。絵を教えるという形で」

やちよ「あっ・・・なるほど、そういう・・・」

みふゆ「アリナはああいう性格ですから、それまで親しい人はいなかったでしょう。誰かにしっかりと絵を教えるようなこともしなかったでしょう。美術部のはみ出し者になっていたくらいですから」

みふゆ「だけど、そんなアリナでもかりんさんは執拗に絵を教えてもらおうとしていました。アリナは嫌々ながらもそれに応えて、それがいつの間にか美術作品を作り上げる感覚になってしまったのかもしれません」

みたま「それで、かりんちゃんが思うように絵が上達しないから、プアになっちゃったのねえ」

みふゆ「はい、おそらくは」



十七夜「・・・・・いや」

十七夜「アリナは以前から画伯に純粋な好意を抱いていた可能性が高いと、自分は思う」

やちよ「どうして? 記憶喪失になっている今ならまだしも、マギウスのアリナがそういう感情を持つなんて想像できないんだけど・・・」

十七夜「自分は他人から、正論を振りかざしすぎて付き合いにくいとよく言われる。だが画伯は、そんな自分でも熱心にメイドについて教えてくれた。メイドの何たるかが分からず苦悩し、挫折しかけていた自分を励ましてくれたこともあった。自分はそれにどれほど救われたことか」

十七夜「画伯には困った人を助けたいという正義感があるし、そしてマンガを通じて多くの人に元気を届けたいという強い信念がある。絵の上達が遅くとも、天才芸術家からいくら酷評されようとも、その信念は決して折れない」

十七夜「なにより、好きな事に全力な画伯は見ていて眩しい。画伯の生き方は自由で手本にしたい。そんな画伯には文字通り、マンガの主人公のような魅力がある」

十七夜「自分は画伯に魔法を掛けられるより以前から、そう思っていた。君たちはどうだ? 一晩画伯と過ごしたんだろう? 魔法が解かれた今でも、少なからず同じようなことを感じているんじゃないのか?」

みふゆ「それは・・・まあ、そうですね。天真爛漫でかりんさんは素敵な方だと思います」

やちよ「そうね。やり方を間違う事はあっても、奥底にある彼女の志はすごく立派だと思うし」

十七夜「アリナはそんな画伯と部活ではずっと一緒だったという。なんらかの特別な感情を抱いても不思議ではないだろう」

みたま「マギウスのアリナがかりんちゃんに好意を持っていた裏付けになるかどうか分からないけど、気になることがあるわ」

みたま「わたしって、アリナがマギウスをやっているときに調整をしたことがあるんだけど、そのときにアリナの願いを見たの。その願いは “誰にも邪魔されないアトリエが欲しい” って」

みたま「それを願うほど、アリナは自分が絵を描く時に、他人から邪魔されるのをとにかく嫌がっていたわ。そんなだから美術部を追い出されたのは仕方なかったと思う」

みたま「だけど、そんなアリナであっても、かりんちゃんとだけはずっと一緒の部室で絵を描いていた。ということは・・・」

みふゆ「はい、その事実を知った時はワタシもびっくりしました。マギウスのアリナが絵を描くときは、決まってフェントホープの専用アトリエか、自分の結界の中でしたから」

やちよ「そうなのね。アリナは御園さんに好意を抱いていたか、そうでなくても、何故か邪魔とは認識していなかった。少なくともアリナにとって御園さんはなんらかの特別な存在なのは間違いなさそうね」


十七夜「ただ、そのような考察ができても、アリナの記憶が戻った場合、アリナがどのような行動をするかは分からないがな・・・」

やちよ「それも心配だけど、もう一つ心配なのは、記憶が戻る戻らないに関わらず、アリナが御園さんの事を作品の一部と捉えていた場合よ。アリナって自分の作品が気に入らないと壊すらしいから・・・」

みふゆ「そうですね・・・。かりんさんの話を聞く限りは、自分の作品を壊すことは今まで何度もあったそうです。わざわざ美術館にまで行って、展示されている自分の作品すら壊したことがあるとか」

みたま「その壊す対象が万が一 かりんちゃん になっちゃうようなことがあったら・・・いやだわぁ・・・」

十七夜「そんなのは考えたくもないな・・・。一番安心できるのは、アリナを隔離することだが、そんなことは画伯が望まないだろうし、画伯が望まないことは君たちもしたくないだろう?」

みたま「そうねえ・・・」

みふゆ「はい・・・」

やちよ「ええ・・・。これからも私たちがアリナと御園さんを監視していくしかないわね」

十七夜「そうだな」







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数日後 漫画研究部部室



やちよ「それで・・・」

やちよ「これはなにがどうなっているのかしら・・・?」



アリナ「ママ。今日のディナーはなんなワケ?」ギュゥ

かりん「えと・・・。ポトフだってお母さんは言っていたけど・・・」

アリナ「そ。ママの大好物だヨネ」ギュゥ

かりん「あ、アリナ先輩、今日もうちに泊まるの・・・?」

アリナ「何か問題があるワケ? ママのペアレンツにちゃんとチャージは払っているし、グランドマザーも喜んでいるワケ。ママも一晩中アリナから絵をティーチしてもらえるから良いことしかないヨネ」ギュゥ

かりん「そ、それはそうだけど・・・」



みふゆ「ワタシもアリナに聞いたんですが・・・言っていることが難解すぎてよく分からず・・・」

みふゆ「ワタシなりに精いっぱい解釈してはみました。入院しているときのアリナが『ラビリンスで迷ったら入り口に戻ってみればいい』と言っていたので・・・それは・・・その、つまり・・・」

みふゆ「人としての入り口とは赤ちゃんのことなので、赤ちゃんからやり直しているのかと・・・。かりんさんにママになってもらって・・・」

やちよ「はあ・・・? なんでそうなるのよ・・・思考がぶっ飛びすぎでしょ・・・。天才の考えることはよく分からないわ・・・」

みふゆ「そうなんです、天才ってよく分からないんです・・・。天才の面倒を毎日見ているワタシも大変ですから、かりんさんの今の気持ちはよく分かります・・・」



かりん「わたしはアリナ先輩のママじゃないの・・・。わたしまだ14歳なの・・・。アリナ先輩の方が年上なの・・・」

アリナ「ママ。おっぱい」グイ-ッ

かりん「ひゃああっ?!/// わたしの制服を捲り上げちゃダメなの!!///」

アリナ「ハァ・・・この子供向けのインナーはなんなワケ? アンダーウェアのセンスが無さ過ぎなんですケド」

かりん「余計なお世話なの・・・」

やちよ「それがいいんじゃない」

かりん「それよりこんなことしてないでアリナ先輩は絵を描くの! 一応美術部員なんだから!」

アリナ「裸婦なら描いたんですケド」ピラッ

かりん「ラフな絵? ・・・・ひゃああああ?!//// わたしがはだかんぼになってる絵なの!!/// 圧倒的な画力でなんてもの描いちゃってくれてるのーっ!? 全然ラフじゃないのーっ!!」

やちよ「その絵、いくらかしら?」

アリナ「バストは無ければ、ヒップも無い、身長もないし、おまけにくびれも無い。女性としての曲線も柔らかさもないプアボディなんですケド、プア過ぎて一周周って逆に魅力的だヨネ」

やちよ「分かるわ」

みふゆ「やっちゃんはちょっと黙っててください」



アリナ「さあっ、アリナにママの命の音を聞かせて。ママの命の暖かさを感じさせて」ギュッ

かりん「んっ、むっ・・・。あ、アリナ先輩・・・そんなにくっつかれたら絵が描きにくいの・・・」

アリナ「手貸して。これはこうしてこうすれば良くなるワケ」ニギ サラサラ

かりん「わぁ、本当なの。・・・て、これじゃわたしじゃなくてアリナ先輩が描いた絵になっちゃうのーっ!」

アリナ「アハッ。空っぽのアリナを、ママの命で満たしてヨネッ」



おわり


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