うんこ!w (6)
溶けることは、良いことだ。
物と物の境界がなくなり、混じり合う。二つは一つになり、力を増し、より強固になる。わたしも、最初は風に吹けば、飛ばされてしまうような儚い存在だった。
わたしのできることはただ一つ、溶けること。
他の命と溶け合う。精子と卵子が交わるような生殖的な意味ではなく、合体という意味で。
わたしの周りにいた、同類はより強大な生物と溶け合うことを望んでいた。それは本能的な欲求で、当然のこと。
星と同じく、我々の性質は千差万別。
ある高貴なものは傷ついた竜族と、ある死に飢えたものは鬼族と、溶けた。
溶けて、満足する。そこに、意義も意味もない。溶けて、次の子孫に種を植え付けるまで、
宿の主人の強靭な精神に寄り添って、異口同音に従い、喜怒哀楽を共にする。
わたしは、それを嫌った。
わたしは、良くない憑き物だ。
わたしは、わたしでありつづける。弱きものに憑りつくことで、それを成す。
精神が未熟で、身体の線が細い、哀れな少女がいた。
ああ、溶ける。
父親に酒瓶で頭を殴られて、蹲っている。
ああ、こいつのことが分かる。
涙で滲み焦点の合わない目で父親を見て『酒瓶で殴られたのだ』とようやく理解した少女は、這いつくばるように父親から離れようとする。
少年にとって、これは避けられないことなのだ。
迫ってきた父親に対して、少女は、手に持っていた硬貨を許しを請うように、差し出す。
少女は、身体を売って手に入れた金を、父親に奪われた。
薄暗く狭い部屋に身体をねじ込み、少女はただ諦めている。
わたしは怒っている。
少女は自分の心に芽生えた感情に驚いた。そして、すぐにそれが、これまで使ったことのない部分の心だと感覚的に理解した、
わたしはわたしだ。少女のものではないだから、そこを勘違いをしてもらっては困る、
わたしは、少女へと語り掛ける。
わたしは、神だ。お前だけの神だが、お前に興味はない。ただ、命だけは命がけで守れ。
人間というのは、自己を犠牲にすることを極端に嫌がるものなのだから、それに従え。
少年はわたしを認めたとき、ひざまづいた。
そして、言う。
「もはや、わたしの命に価値はありません。天に召してください」
わたしは笑った。
「おまえの価値は、おまえが決めるものではない」
少女はべそべそと泣き始めた。面倒だが、手を貸そう。少女一人では、容易に抜け出せない状況のようだから。
「わたしがいることで、おまえができるようになったことが一つある」
「なんでしょう」少女はパッと目を輝かせた。
「父親から離れることだ」
少女は、いかにも嬉しそうな顔をした。
支配者が父親からわたしへ移るだけだということを気づいていないようだ。いやはや好都合だ。さすがはわたしが選んだだけはある。
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