R-18【艦これ】大井「愛の天秤」  (28)

大井「今晩寝かせるつもりはないわ」の続き
【艦これ】大井「今晩寝かせるつもりはないわ」 - SSまとめ速報
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濡れ場の習作、地の文あり


 確かに、キスをせがんだのは私からだった。

 しかし、舌を絡めてきたのは彼からだ。

 だから。私はそう繋ぐ。「だから」私は負けていない。

 惚れたほうの負け、だなんて使い古された文句には生来懐疑的だった。恋愛というのはそんな対立構造や支配関係とは無縁のものだとずっと思っていたからだ。そして今、私は宗旨替えをしようとしている。
 否、余儀なくされている、と言ったほうが正しいのだろう。

 天秤の均衡を望むのは、単に負けるのが悔しいからではない。百注いだ愛に、一しか返ってこない「かもしれない」ことへの恐怖がそうさせるのだ。私はその理解を、口の中で混ざり合った唾液とともに嚥下する。

 ファーストキスは、少しだけ、コーンスープの味がした。


 苦しくなって唇を離すと彼は屈託なく笑った。何度も「好き」と告げた彼の部分のひとつ。直截的な感情の発露。一切の衒いのない、花の咲くような。
 暗い部屋の中であっても私は彼の顔がわかる。表情が見て取れる。となれば当然、彼からも私の顔が、表情が、判然としているということになる。だから笑っているのかもしれないし、もっと別のところに思いを寄せてなのかもしれない。
 ただ、彼の笑いが私に由来するものであることは明白だった。そして、全ての価値はそこにあった。

 いまはそれだけでよかった。

 心臓がどくんどくん音を立てている。耳を澄ませばいつもより断然早い血流さえ聞こえるだろう。思わず両手を重ねあわせて、胸のところで握り締める。早鐘を押さえつけるように。

「鼻で息をすりゃあいいのに」

 そう言って、また、笑う。どうやら理由はそういうことらしい。

「初めてってわけでも――」

 途中で彼の表情が固まる。いや、固まったのは私? それとも、私のせい?

「……なによ」


 なんとなく視線を逸らそうとして、可能な限り横へ向いたとしても、完全に視界から締め出すことはできない。
 背中にはベッドのマットレスの感触。前には、こちらを押し倒す体勢の彼の姿。

「悪い?」

「あぁ、すまん、悪くはねぇ。寧ろいいっつぅか、いや、何を言ってんだ俺は。いいのか? っつぅか」

 しどろもどろ。その単語がここまで似合う人間を、私は見たことがない。思わず吹き出しそうになるけれど、少しばかりの悪戯心で、表情は依然睨みつける状態を維持。

 初めての女は面倒くさいと言うのなら、今すぐ股間を蹴り上げる心づもりだった。
 そして彼の驚きは、逆説的に彼自身は初めてでないことを如実に示している。年齢を考えれば当然ではあるけれど、前の女の存在をにおわせるのは、流石に少し、デリカシーが足りない。
 ……他人のことを言えた義理ではないのは百も承知。種類こそ違えど、私も随分ときついことを言い続けてきたわけなのだから。


「初めてが好きな相手とだなんて、断る理由はないわ。違うかしら」

 抱き寄せるように、両腕を伸ばして彼の首を回す。

「……まぁ、少しは優しくしてほしいけれど」

「期待に沿えるよう、頑張るさ」

「えぇ。精々頑張りなさい」

 そうして、ついに視線があった。

 私たちはどちらともなく「うふふ」「あはは」と笑いあって、まるで猫がじゃれあうように、ともすれば親子での毛繕いのように、お互いの額と額を、顔と胸を、手と脚を、指先と唇を、触れたり、離したり、時には絡ませたりしてみる。そして唇と唇をも。

 驚くべきことだった。私はもう、彼の好きなところは全部見つけ出したと自負していたはずなのに、こうしている間にもどんどんと好きなところが増えていくのだ。
 それは例えば表情であったり声であったり匂いであったりするし、筋肉のつき具合だったりもする。左の脇腹の少し上の方に、ほくろが三つ絶妙な間隔をあけて並んでいたときは、眩暈さえした。


 鎖骨を甘く噛んでやると、くすぐったそうに私の頭へと手をやる。その時に、彼の指先がこの栗色の髪の毛の間を流れるように滑っていく、そんな瞬間でさえも一生続けばいいなと感じてしまう。

 より強い密着を求めて彼の背中へと手を回した。彼もそれに呼応して、強く引き寄せてくれる。上半身だけではない。下半身も、お互いの脚と脚の隙間に自らの脚を差し入れ、互い違いになるように、より空白を埋めていく。
 と、彼の下半身にあるそれが、私の太腿に押しつけられて強い存在感を放っていた。硬く、熱い。初めて意識した時に生まれた感情は、途轍もない興奮とほんの少しの恐怖。
 いや、恐怖さえもここに来ては香辛料に違いなかった。言い得て妙だ。これから私は、私たちは、肉を喰らうのだから。

 彼も私が気づいたことに気付いたらしい。こちらに向けられた視線は真っ直ぐ射抜くようで、もう気が退けても後戻りはできないのだと訴えている。

「……大井」

「もう、困った顔しないで頂戴。そっちが主導権を握るものなんでしょうに」

 男女の交わりについて一家言があるわけではないけれど。

「……」

 返事として、啄むような口づけが降ってきた。


 ぞくり。背筋と神経が震える。

 その瞬間、私は自らが女であることを思い出した。そして同時に、艦娘となったこの身が、依然として女であることを神様に感謝したくなった。
 下着が粘度の高い液体で濡れて、脚を動かすたびに微かにはりつく感触。そういえば今日はどんなものを身に着けていたっけ――なんて、これまでの人生で思いもよらなかったことを考え出す。

 寝巻のボタンが一つ一つ外されていく。上から下に、丁寧に。割れ物を扱うかのように。
 そんなに華奢な女じゃあない。けれど、まるでお姫様相手のようなその手つきは、正直言って気分がよかった。

 隙間から入り込んでくる部屋の温度に僅かだけ体を震わせる。

 ブラが露わになった。薄水色の、あまり飾り気のない、色気のない、実用主義的な。それでも彼はそんな下着と私を見て、きれいだ、なんて甘ったるいことを言ってくる。

「好きだ」

 熱量を持たないものが私の耳朶を溶かす。


 背中のホックが外されて、ブラは上へとずりあげられた。その一瞬、私の中にいる弱気の虫が「ちょっと待って」と声を上げそうになったのを、必死に飲み下す。
 胸は彼の手に少し余るくらいだった。上には上がいるとはわかっていても、サイズには多少自信がある。

 私の首筋を舌が這った。

「あ、やっ」

 未知の感覚が全身を貫く。思ってもいない「だめ」が口からこぼれそうになるのはなぜだろう。まるでまったくぜんぜん「だめ」ではないのに。
 体の中心からとろりとしたものが沁み出すほどには、私はこの感覚を――快楽を望んでいるというのに。

 同時に、胸が彼の手で形を変える。少し、力が強い。けれど痛いほどではない。
 先端に指がかかると、思わず細く息が漏れた。口の内側を噛む。

「大井、腰、上げて」

 辛そうな声が上から降ってきたが、声帯が仕事をするだけましだろう。私なんて、もう声さえ出ない。


 言われるがままに腰を上げる。彼は私のショーツに手をかけ、するりと一息に脱がせた。なんとなく予想はしていたけれど、ここにきてまだ恥ずかしさに光景を直視できない。かといって自分から脱げたかと問われれば、首を横に振るしかないのだけれど。
 細く細く伸びた愛液が、太腿に線となって一瞬ひやりとする。

 指が私のそこへと触れた。

 体が強張る。怖いのではない。ただ、確かに覚悟は要った。
 彼と視線が合って、どちらからでもなく唇を重ねる。そしてどちらからでもなく舌を絡ませる。私がせがむでもなしに、彼から舌を伸ばすでもなしに。

 同時に、指が私の体へと分け入ってくる。ゆっくり、じっくり。でも確実に。慣らすように。焦らすように。
 痛みはなかった。異物感はあるものの、さほどでもない。

「――っ」

 それよりも、ぐちゅりと一際響いた音が、私の頭から一気に思考を奪っていく。

「……濡れてる」

「い、わっ」

 なくていいのよ。続けようとした言葉は、また彼の唇に遮られる。
 キスの快楽は心地よかった。それは肌を粟立てながらも、蕩けて沈んでいく感覚を与えてくれる。湯船につかって意識が拡散していく瞬間にも似ている。


 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅり。唾液が口内で混ざる以上に、もっと下、彼の指が私の中をかき回すその粘度が、耳と頬を焼く
。もともと余裕なんてものはないに等しいのだけれど、キスとは違う快楽の津波に、私は少しだけ愕然としていた。

 気持ち良すぎて怖いというのは初めての感覚だった。

 魚雷の斉射、そして敵機の撃滅。それらを万倍にも強くした恍惚感が、彼が私の中の奥、そこの少し上側をこするたびに、頭の中で弾ける閃光となってやってくる。
 大丈夫か? と彼は問うた。私は目をぎゅっと瞑っているから、その表情を窺い知ることはできない。口を開けば自分のものではないような嬌声が飛び出しそうで、それをまだ自らの耳に入れるのは恥ずかしくて、下唇を噛んで首を左右に振る。

 やめたほうがいいか? と彼はまたも問うたので、私はそれにも、首を左右に振って答える。

 私は瞼の裏に天秤を見た。それは紛うことなく愛の天秤であり、そう呼称することになんら差し支えはなかった。

 やられっぱなしは癪だった。


 私は意を決して、彼の下半身へと触れる。硬く熱いそこに。
 トランクスは大きく盛り上がっていて、不器用ながらも、快楽の波にあおられながらも、下着のボタンを何とか外す。
 そそり立ったものが私の手の甲を叩き、どきりとしてしまう。

「……硬くなってるわ。こんなに、硬くなるものなのね。
 男の人って、みんなこうなのかしら」

「……さぁな」

 ちょうどくびれた部分を親指の腹でなぞってやると、存外可愛い声が上から降ってきた。堪えきれずに空気が漏れたような声。
 ようやくいくらかの余裕ができて、そっと目を開ける。

 思ったより彼の顔は近くにあった。ぼんやりとしているようで、けれど射抜くようなまなざしで、私のことを見ている。

 彼がまた私の中を指でこねくり回し始めた。咄嗟に手に力が入って、彼のものを少し、強く握りしめてしまう。

「あっ。……大丈夫?」

 力加減を知っているとは到底胸を張れない。

「ん、あぁ、大丈夫だ。……そのまま、ゆっくり、上下に」

 言われるがままに恐る恐る手を動かしてみる。手の腹で撫ぜたほうがいいのか、それとも指で扱いたほうがいいのか、全てが未知。
 彼の大きな手が私の髪の毛をくしゃりとやった。満足し、そのまま動きを続行する。
 彼もまた、私の中をゆっくり、大きく、混ぜていく。


 それはやられたからやりかえすという行為で、けれど勝ち負けとは全く異なる次元の行為である。

 与えた分の愛が返ってこないことを恐れているのではない。
 与えられた愛の重さに右往左往しているのが、私たちの行為の正体である。

「大井」

 一際切なそうな声で、彼が私の名前を呼んだ。

「もう、さすがに、我慢ができん」

 彼のものをさすった。硬く上を向き、先走りで濡れている。くびれが指を通過するたびに、くぷ、くち、ぐち、と音を立てているのを知っていた。
 ……同時に、私のお尻のほうまで、そしてシーツまで、汗ではない何かでじっとり濡れていることも。

 答えなんて聞くまでもないでしょうに。言葉の代わりににこりとやって見せて、私は彼の首の後ろへと手を回し、抱き寄せた。


「……」

「……?」

 彼が固まっている。この期に及んで怖気づくのは、日本男児がどうこう、据え膳喰わぬはなんとやら――という以前に、いや、そもそも初めての私が覚悟を決めたのに、

 ……そこまで思考を回して、遅ればせながら私も彼の停止の理由に思い至る。

「ゴム」

 ぽつりと彼は漏らす。

 当たり前の話ですっかり失念していたけれど、泊地の海軍施設内でことに及ぶことは、そもそも想定されていない。だから彼の部屋に避妊具があるわけもない。そりゃそうだ。当然だ。
 反面、胸をなでおろしている私もいた。もしここで彼がなんの躊躇もなく、例えば抽斗や戸棚から避妊具を取り出してきたら、それはまぁ、そういうことに違いないと思うだろう。私は彼のことをよく知っているつもりでいるけれど、全てを知っているわけではない。

 もう一度彼を見た。

「……ふっ」

 思わず笑ってしまいそうになるほど、折角の雰囲気を台無しにするほど、彼の焦りは尋常でないようだ。視線が泳いで、迷っている。否、戦っている、というべきか。
 何と? ――きっと、たぶん、性欲と。


 リスクは勿論知っているし、それでもつけないほうが気持ちがいいものだ、なんて話は色んなところで目にしたことがある。ここまできて、じゃあまた今度ね、なんて言葉は本能が許してはくれないのだ。

 だから私は魔法をかける。
 彼に魔法の言葉をかける。

「……艦娘って、妊娠すると思う?」

「……さぁ、な」

 艦娘が孕んだという事例はいまだ嘗て聞いたことがなかった。そして、艦娘と関係を持った、という提督の話も。
 とはいえ後者は、きっと表沙汰になっていないだけなのだろうという予感も、今の私には確かにあった。

「我慢しなくたっていいのよ」

「……だが」

「だって私はあなたを愛しているもの」

 論理の道に正解はなく、感情の道にこそ正解がある。少なくとも、今は。


 彼のものの先端が、私のそこへとあてがわれ、一気に挿入される。力任せではないにせよ、理性では制御しきれない体の動きに、私の体は悲鳴を挙げた。
 頬の内側を噛む。指とは比較にならない大きさ。そして熱。ゆっくり、ゆっくり、確かめるように動いてくれるのならばまだなんとかなったのかもしれないけれど、どうやら彼にはその余裕はないようだった。

 抽送。引き抜き、押し付けられるたび、ぱちんぱちん体がぶつかりあう音が響く。夜の部屋は静かで、ただその音と、私たちの吐息が支配している。
 力を籠めることを避けられない。快楽がないわけではない。ただ、やはり痛みは伴って、動くたびに私は彼の体に救いを求めるように爪を立てた。肩を掴む。よくわからない何かから振り落とされないように。

「大井ッ、悪いっ」

 謝りながらも彼は動きを止めない。止めてほしくないのは私もだ。こなれてきたのか、それとも潤滑が進んだのか、痛みは最初よりもずっとましになってきた。
 ぱちん、ぱちん。私の太ももと彼の腰がぶつかりあう。それはなんとも卑猥に聞こえる。耳朶を官能で揺さぶる。


  破瓜の痛みの中に、交わりの快楽の中に、小さいながらも煌々とした灯りを放つ感情がある。充足感と名付けられたそれは、揺れるこの肉体とともにゆらゆら揺れているのだ。

「んっ、ふぅ、ん、ちゅっ」

 どちらからともなく口づけを交わす。舌を絡ませる。唾液を啜る。
 その頃にはもう痛みもだいぶ薄れてきていて、彼が私の最奥を一突きするたびに、浮遊感とむず痒さが同時に襲ってくる。規則正しい肉のリズム。爪先から脳天までを貫く静電気。この喜びを伝える術はなく、私たちの間に伝える必要はなかった。
 さらにいっそう彼の体へと縋りつく。滾々と湧き出る情動を、自らの内では、最早私は燃焼できなくなっている。

 弓のように浮いた背中へとごつごつした手が這う。胸が密着し、乳房が形を変える。先端が筋肉質の肌で擦れ、それさえ信じられないくらいに気持ちいい。
 大きな掌が私の臀部に伸びた。限りなく優しく、指が埋まって形を歪める。


「んあっ!」

 体勢を変えたせいだろうか、彼のものが、私の中のそれまでとは違う場所を擦る。そこが弱点なのだということはすぐに自覚できた。だめだ、と本能が告げている。スイッチだ。私を駄目にするスイッチがそこにある。
 私にわかったのだから、彼がそのことをわからないはずはなかった。意地の悪いくらい執拗に、少し早めた抽送で、そこを的確に抉られる。

「ん、くぅ、や、あ、あっ」

 小刻みに体が震える。決して彼の揺れが伝わっているのではなかった。
 私だって女だということなのだ。

「うぅ、ふ、んぁっ」

 表情筋はとっくに馬鹿になっていて、だらしなく開いた口の端から、涎が顎まで伝う。彼は貪るようにそれを舐めとり、私も堪らず彼の鎖骨へと噛みついた。決して痕が残らないように、それでも私の跡を残そうと、歯が皮膚の上を滑っていく。

 彼がこれまで以上に私の臀部を強く掴む。密着の度合いはさらに深まり、乳房は潰れ、臍が体毛に触れた。掬い上げられるような浮遊感。事実、彼は殆ど私の下半身をベッドから浮かせていた。

 強く腰が打ち付けられる。
 息を吸うばかりで出て行かない。

 太腿の間、体の内側から、いやらしい音とにおいがする。


 終わりが近いのだ、となんとなくわかった。快楽はあまりに大きくて、ともすれば泣きだしたくなるくらいなのに、私という器はなんと自らの感情さえも湛えておけるほどに大きくは無いようなのだ。

 だから錨が必要で、私は彼を掴むから。

 彼もこんなに必死になって、私をぎゅうっと抱き締めてくれる。

「すまん。俺、もう、だめだわ」

 熱い言葉と吐息。顔はすぐ横にあるから見えない。
 返事をする余裕はなかった。だめ、とも、いい、とも。

 もう私たちは止まれないところまで来てしまったから。
 彼も、謝罪の言葉を口にはするけれど、反対に腰の動きは乱雑さを増している。

 せめてもの意志の疎通として、私は彼に回した腕へと全力を籠める。ゼロの距離は、これ以上縮まることはないとわかっていても。

「―-ッ!」

 彼の体が跳ねた。抽送が止み、大きな震え。より強く、より奥でという動きは本能がさせるのか、私の腰を自らに引き寄せながらも前へ前へと押し広げていく。
 かき回していく。
 塗り潰していく。


 視界が一気に白くなった。ついには息を吸うこともできなくなって、意識がほろほろ崩れていきそうになる恐ろしさのあまり、彼の皮膚へと爪を立てる。歯の根が合わない。眼をぎゅっと瞑って、ただそこにある肉体を感じるだけ。

 大きく彼の下半身が、一回、二回と震える。暖かさがじんわりと下腹部に。

 快楽の余韻で、敏感になった肌の、そこかしこが触れるだけでも気をやりそうだった。

 一時間のような一瞬は、一瞬のような一秒でもある。
 視界から白さが抜けて最初に見たのは電灯。豆球が橙色の光で部屋を照らしている。乱れた前髪が視界を悪くしていた。
 次いで聴覚。荒い息遣い。私のものか、彼のものか、特定には至らない。きっとどちらもだ。

「……ふぅ、あー……あぁ」

 彼も、どうやら長い長い射精を終えたらしかった。私に体重を預けながらシーツに顔を埋めている。
 私の中へと収まっていたものが、今、急速にその硬さや巨大さ衰えさせていくのがわかった。それにさえぞくりと感じる私の体。先ほどまで一つになれていたのにと寂しささえ覚えてしまう。

 明らかに私のものではない液体が、どろりと私の臀部へと垂れた。


「……気持ちよかった?」

 そう訊くのがマナーかどうかを私は知らない。けれど、オーソドックスではあるように思えた。愛を確かめるだけの出来レース。不毛な問いだとしても。

「ん……」

 彼は私をゆっくりと抱き起こした。胡坐をかいて座っている彼の上半身にしなだれかかるように、首と鎖骨の窪みへ頭を置く。まるで私のためにあるかのようにぴったりだった。
 心地よい疲労感と睡魔が頭をぼんやりとさせている。筋肉が弛緩してしまっていて、彼に抱きすくめられていないと姿勢を維持することすらできそうにない。

「大井、好きだ」

 耳元で彼が囁く。

 多幸感。顔がにやける。

 私はそのとき、確かに、またも天秤を見た。愛の天秤。均衡を保つ、それこそが愛の結晶。


「そういえば、俺がお前の好きなところは、まだ言っていなかったか」

 悪戯っぽく彼は笑った。子供が大人を驚かせる前にする笑いに酷似していた。
 そして私は、彼のそんな顔も好きなのだ。

 今夜はどうやら、やはり寝られないようだと考えるのは、少し自惚れすぎるだろうか?

<了>

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これ別に艦これの二次創作じゃなくてもいいな!?
あと、実用には堪え難い……エロゲ的表現に頼るか、あるいはやっぱり視覚情報は偉大なんだね。

次回があれば幼馴染のゴトランドが出てきます。多分次回はないです。設定と導入だけ考えていたい。

もしよろしければ過去作もどうかご覧になってください。

提督が俺俺すぎて作者のアバターかと思う
女性視点ではホモしか喜ばない

前作も大井視点なんだから、続き物であるこの作品も大井視点であることに個人的にはなんの違和感もない
女性視点のエロは独特の艶かしさがあるから好きだよ

>>23
んー、「俺俺すぎる」の意味が申し訳ありませんが読み取れないです。
性格についてでしょうか? それとも立ち位置、役割として?
視点は>>25のかたも仰ってくれているとおり、続きものなので如何ともしがたく。

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