【デレマスSS】 池袋晶葉が人助けをする理由 (19)

夜空を眺める。

月の光。星の明かり。街の灯火。

千の夜を経ても序章を終えない私たちの物語。

心の影に隠した想い。

私は書き記す。

誰にも語らず、しかし決して忘れぬように。

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「晶葉ちゃん!ありがとうございます!晶葉ちゃんのおかげでウサミン星人のみんなと一緒のステージを最高のものにできました!」

「晶葉、ブレスレットのメンテナンスありがとう!今回のライブでも大活躍だったよ!」

「いやいや、私の作品をステージに立たせてもらったんだ、こちらこそ礼を言いたいくらいだ」

いつものように事務所に来た私たち。

つい昨日、第七回シンデレラガール総選挙の記念ライブが終わったばかりで、事務所に未だ興奮冷めやらぬといった方々がいました。

先ほど池袋晶葉さんと会話していた安部菜々さんと南条光さんもそういった様子です。

無理もないことでしょう。光さんは総合十七位・部門二位という大躍進で初めて記念ライブに参加することができたのです。

そして菜々さんは総合一位、今回のシンデレラガールを勝ち取った張本人、記念ライブの主役だったのですから。


私をふくめて多くのアイドルとその担当プロデューサーさんたちが次こそはシンデレラガールへと、せめて上位グループ入りを、と日々研鑽と活動を続けています。

目標を声高に叫ぶ人、そっと心の中で闘志を燃やす人、総選挙に対する姿勢は様々です。

私たちはそれぞれの方法で、シンデレラガールの座を、そしてトップアイドルへの道を目指しています。

そのために協力することもあれば、競い合うことも……私たちアイドルは互いに仲間でもありライバルである存在です。

同じユニットの仲間であっても互いのパフォーマンスを競い合うことで高みをめざすという、そんな関係性のユニットも存在します。

アイドルになった理由や目的が異なっていても、そこに大きな差はありません。

結局のところ私たちは全員、自分自身のアイドルとしての価値を高めるために日々の活動をしているのです。


プロダクションの一大イベントであるシンデレラガール総選挙の記念ライブステージ。

私も、晶葉さんも、総選挙の上位を勝ち取ったことはないため、その大舞台に立ったことはありません。

上位でなくともサポートとしてステージに上がった方も過去にはいたみたいですが、私たちにはそういった縁はありませんでした。

ですが、菜々さんが一位になったことで晶葉さんのロボットだけがステージに上がることになったのです。

ステージ協力の話が来た時にはとても喜び、張り切ってロボットの改造をしていました。

晶葉さんは元々ロボットを披露するためにアイドルになったとのことですから、ウサちゃんロボを菜々さんのステージに上げることは本懐なのでしょう。

もちろん彼女はそれで満足したわけではなく、次こそは自らの力でステージを獲得しようと今日もレッスンを続けています。


それでも晶葉さんはいつも人助けをしています。

以前、トレーナーさんに頼まれてレッスンルームの体重計を直しているところを見ました。

私は見たことがありませんが、「全自動プリンに醤油ロボ」というものを作ったこともあるらしいです。

上田鈴帆さんにヘルメットを提供したり、他のアイドルに裏方として協力もしたりもしています。

最近では光さんたちと一緒に、困っている人を助けて回るパトロールをしているようです。

「私は便利屋じゃないぞ」なんて言ったりしても、頼まれれば嫌な顔一つせずむしろ楽しそうに人助けをしています。

私もまた、そんな晶葉さんに助けられた一人――いえ、特に多く助けられていた一人――なのですが……


彼女はヒーローに憧れてアイドルになったわけではありません。

自らの才能を知らしめ、誇示するためにアイドルになったはずなのです。

誰かのステージにロボット制作者として協力するのはまだ理解できます。

でもそうではない、本当にただの人助けを彼女はしてしまうのです。

それは私にとっても非常に助かることではあるのですが、それが彼女への負担となってしまうのではないかと心配していました。

それでも晶葉さんの新たな出番のときはいつも新しいロボットやガジェットを用意していましたから、十分に自分のための活動ができていると思っていました。

しかし――


――ロワイヤルLIVEで彼女の出番が来たとき、彼女がステージに上げたのはウサちゃんロボに服を着せた物でした。

人助けのために、自らのアイドル活動としてのロボット作りの時間を削ってしまったのでしょうか。

私が彼女の負担になっていたから?

私が彼女の親切心に寄生して食いつぶしていた?

晶葉さんはあまりに親切で、私はそれに慣れてしまっていて。

ああ、私はこれ以上彼女に――


結局のところ、それは思い過ごし――だったのかはわかりませんが、彼女は見事にステージを盛り上げ、彼女は主役としてステージを作り上げました。

ウサちゃんロボは既に多くの実績のあるロボットでしたし、彼女の実力なら素晴らしいパフォーマンスができるのは当然だったのでしょう。

でも、私は気づいたのです。

池袋晶葉という少女のことを、私と出会うよりも前のことを、驚くほどに知らないということに。


彼女の過去を知りたいのなら、本人に直接聞くのが一番なのでしょう。

ですが――ですが、私はそうすべきではないのではないかと思います。

今まで晶葉さんと日常会話をすることは多く(おそらく、他の多くのアイドルよりも)ありましたが、お互いの過去について聞くことも、聞かれることはありませんでした。

私自身があまり自分の過去について語りたいと思わないのに、相手にはそれを求めるというのは誠実でないでしょう。

触れられたくない過去があるとしたら、質問を投げかけるだけでも傷つけてしまう可能性があります。

聞いてもよいのかわからないのならば、私から聞くべきはないと私は考えます。

もし聞いても問題ないとしても、晶葉さんの方から話してくれるのを待つ方がよいでしょう。

なにより、私たちはお互いに深入りしないからこそお互いに心地よい距離感を保つことができたのではないかと思っています。


私はアイドルになるまで、いえ、アイドルになってからもテレビや雑誌といった媒体から情報を得ていません。

それゆえに、多くの人が価値判断の基準にしていると思われるそれらの情報に触れていませんでした。

――それは間違いなく幸運でした。

私は余分な先入観を得ずにアイドル達に、そして晶葉さんに出会うことができました。

アイドルの外の世界におけるオタクといった言葉の意味も、その言葉の使われ方も知らないままに。


私たちアイドルは、多くの方に好かれる仕事です。

個々のアイドルについて好き嫌いはあります。

まれにアイドルという職業自体を嫌う方もいます。

それでも大部分の方はアイドルについて好感を持っているでしょう。

この国のトップアイドルには何百万、何千万人ものファンがつくくらいの地位を確立していますから。

アイドルになることを夢見る人も、子供をアイドルにしようとする親もたくさんいます。

ですが、自分の子供にロボットを作らせたいと思う親はほとんどいません。


私は『アイドルの池袋晶葉』しか知りません。

彼女は初対面の時から私に非常に親切にしてくれましたし、他の事務所のアイドルの方ともすぐに仲良くなっていました。

他のアイドルのステージ演出や衣装に関わることもあり、スタッフの方々とも懇意にしている少女。

見知らぬ人でも目上の人でもすぐに打ち解けて友人になることができる少女。



それにも関わらず、アイドルになる前の友人に関する話を一度も聞いたことがありませんでした。


ロボット制作という彼女の趣味は、この社会において認められない趣味でした。

自らの理解の外にあるもの厭う人は多く、集団の中の異物は排斥されてしまいます。

幼いころから彼女に向けられていた視線は、言葉は、間違いなく彼女を傷つけたことでしょう。

だからそのような環境から身を守るため、彼女は「天才ロボ少女」となり、アイドルの世界に飛び込んだのでしょうか?

そう、彼女もまた私と同じように自由のために逃げ出してきた人なのではないか、と思ったのです。

本人の口から聞いたわけではなく、私の推測でしかありません。

それでも、いいえ、それでも。


アイドルになる前の晶葉さんには、居場所がなかったのでしょうか。

そこに、ただそこに居ることさえ認められなかったのでしょうか。

言葉も文化も大きく違う国から逃げてきた私にさえ向けられた暖かい視線は、機械を愛する彼女に向けられることはなかったのでしょうか。

彼女はアイドルになることで自らの存在を認めてくれる場所を探していたのでしょうか。



彼女は誰かに必要とされたかったのでしょうか。

誰かに「ここにいていい」と認めてほしかったのでしょうか。

ただ他人と好きな物が違うというだけで排斥されず、一緒に過ごすことのできる仲間が必要だったのでしょうか。

人助けをすることで自分の価値を確認したかったのでしょうか。

それは、とても悲しい――。


アイドルになったばかりの私は、他の人から助けられるばかりでした。

でも、アイドルの活動を続けた今の私には、今度は人を助ける力を持っているはずです。

私を助けてくれた人を、そしていま困っている人を助ける側にまわりましょう。

そう、かつて私が助けられたように。

うぬぼれかもしれません。

思い上りかもしれません。

それでも私は、今こそこの新たな一歩を踏み出したいと思ってしまいます。

私は故郷を捨て、家族を捨てて、一人の人間を道連れに逃げ出した身勝手な人間であったはずなのに。

いえ、だからこそ自由を得た私には、人を助ける自由があるはずです。

そう、自分のために人を助ける自由が。


私は自由を求め、日本へ逃げてきた異国人、ライラ。

彼女は私を助けてくれた、白衣を着る少女、池袋晶葉。

私たちはロボフレンズ。

私が彼女の友であることが、私にできる最初の恩返し。


以上で終わりとなります。

ライラさんはみんなが思っているよりもずっと頭が良くて思慮深いのでは?と思って書きました。

次回の第8回総選挙……きっとあると思いますが、池袋晶葉とライラさんの二人をよろしくお願いいたします。


よく見たら>>3>>4が下書きと逆だ。凡ミスつら

[10月31日は池袋晶葉ちゃんの日]10月31日は10(テン)31(さい)で天才ロボ少女池袋晶葉の日。

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