女騎士「私は十年後のお前だ」(50)
女騎士「未来から来た」
少女「…」
女騎士「…」
少女「はい?」
女騎士「むっ、若い頃は物分かりがいいつもりだったのだがな。もう一度説明が必要か?」
少女「いやいやいや、言っている意味は分かるんですよ、理解できるんですよ。納得はできないんです」
女騎士「むっ」
少女「貴方が十年後の私、っていうんですよね。はいはい、確かに何だか親しみがあるって言うか他人の気がしないっていうか、そんな感じはします」
女騎士「本人だからな」
少女「いきなりそんな事言われて、はいそうですかとすんなり受け入れる程私は単純じゃあないんですよ!」
女騎士「むっ」
少女「そもそもその身体!なんですか胸にぶらさがっている暴力的な桃色爆弾は!自慢じゃないですが私は貧乳!まな板!断崖絶壁!あーはいはい貧乳ですよナイムネですよ悪かったですねっていうか貧乳が貴方に何か迷惑かけたんですか貧乳で誰か困らせましたか貧乳で地球の回転が止まりでもしましたかバカヤロウんなわけねーだろぶっころすぞ乳化物!」
女騎士「おちつけ」
フーッ フーッ
少女「お、落ち着きました」
女騎士「うむ」
少女「で、何でしたっけ。未来の…十年後の私が、貴方なんですね確か」
女騎士「そうだ。五年かけて修行し、さらに三年かけてようやく騎士試験に合格するのだ」
少女「私が騎士に…どうにもピンとこないんですよねぇ。今の私はただの少女。天涯孤独、職無し宿無し、ピッチピチの二十八歳ですよ」
ピッチピチ…?
女騎士「そうだ、そんなお前が!」
シュバババ クルックル シュターン キメッ!
女騎士「なんやかんやあって!騎士を目指す事となるのだ!」
少女「なんやかんや…?」
女騎士「そうだ。幼馴染みの死とかいろいろあって騎士を目指す事となるのだ!」
少女「…うん?」
女騎士「うん?」
少女「何て何て何て?」
女騎士「むっ、何か気になる事が?」
少女「いやいやいや、幼馴染み死ぬって」
女騎士「うむ。酔った勢いでゴブリンの巣穴に入って殺された」
少女「そんな…」
ガクッ
少女「なら私は誰にたか…頼って生きていけばいいのよ!貴重な金づ…友達が死ぬだなんて!」
女騎士「そう、そこなんだよ。貴重な金づるがいなくなった私はガムシャラに修行し、騎士になった。一人で生きていくためにな」
少女「それが…その、なれの果てが貴方、だと?」
女騎士「あぁ…魔物の返り血にまみれ、唾や小便で汚れた孤独な騎士が…お前のなれの果て…私だ…私という!女騎士という!存在なのだ!」
少女「そ、そんな…」
ゼツボウ…
少女「そんな…そんなのって、ないよ…」
ジョロ…
少女「私の人生…なんなのよ…」
ジョロロロロ…
プシェッ
ジョバババババババババババハババババババハ!
女騎士「ははっ、天使の涙(エンジェル・スプラッシュ)」
・ ・ ・ ・ ・
そして世界は尿に包まれた。
過剰なアンモニア摂取により生物は突然変異を起こし
角が、牙が、翼が、尻尾が
眼が、腕が、足が
魔力が
そう、それは。その姿は…
魔物であった。
【続く】
・ ・ ・ ・ ・
人と魔物の境がなくなった世界。
少女は
そんな世界となった元凶たる彼女は
生きていた。
不思議な事に彼女はアンモニアの影響を受けず人の姿のままであった。
グビグビ
少女「ふぅ…」
とある森の奥、小さな小屋に彼女は居た。
真っ昼間だというのに酒をあおっているようだ。
少女「名酒・オークの汗、か…」
グビグビ
少女「酒…酒酒酒。酒しか…酒でしか満たされないこの虚無感…」
少女「私は…何のために…生きている?世界中の人間を魔物に変えてしまって…」
少女「背負うには重すぎる…こんなの…私…」
ザザッ
?「ふん、罪を背負うなどと大それた事を…お前に出来ることなど、ひとつしかないのだよ」
少女「女騎士…」
女騎士「お前に出来る、ただひとつの事…」
ニヤッ
『女騎士に、なる事だ』
・ ・ ・ ・ ・
あれからどれだけ経ったのか。
いや、時間という概念はもはや私にとって意味が無い。
どこでも、いつでも
女騎士「私はいる」
そして私の意識は深い闇から
光指す天(そら)へと吸い込まれていった。
【続く】
・ ・ ・ ・ ・
~とある国、酒場~
?「ふう」
カラン
?「牛乳はいい…嫌な事を忘れさせてくれる」
店主「できれば酒を注文して欲しいんだがね。ここは酒場だぜ、オークの旦那」
オーク「アルコール苦手なもんで」
店主「じゃあなぜ酒場に来るんですかい」
オーク「…」
オーク「店主…あんたに会いたいから…///」
店主「!」
キュンッ
アカイミハジケタァ…
店主「あ、会いたい…から…?」
オーク「いや、何でもない…忘れてくれ…」
ブンブン
店主「わ、忘れねぇ…忘れることなんて、できやしねぇ…だって、あっし、おまはんの事が…!」
ザザッ
ブスッ
店主「す」
バタリ
オーク「!?」
店主「ぐふっ…」
オーク「て、店主…店主が何者かに刺された!いきなり現れた何者かに刺された!」
?「ンフフフフ…」
オーク「誰だお前は!よくも店主を!俺の大好きな店主を刺したな!」
?「私は僧侶…訳あってこのロクデナシの命を奪いに来ました」
オーク「ロクデナシ…?店主が、だと?俺の大好きな店主だと!?」
僧侶「はい、私は確かにロクデナシと…そこに転がっている糞虫を!ロクデナシと言いましたよォォォ!」
ゲシッゲシッ!
僧侶「ロクデナシ!ロクデナシ!ロクデナシ!」
店主「ぐふっ…」
ゲシッゲシッ!
店主「や、止めろ!それ以上蹴ったら俺が死んでしまう!」
僧侶「その、つもりですよォ!」
ゲシッゲシッ!
僧侶「あはははは!このまま胃腸が潰れてしまうンですよォォォ!?」
オーク「…」
オーク(うらやましい…俺も蹴りたい…俺が大好きな店主を!蹴りたい欲求という欲求!欲求欲求欲求!うわぁぁぁぁぁ!俺の固有スキル…【蹴りたい背中(アブノーマルラブ)】が発動しちまった…!)
ウズウズ
オーク(蹴りたい…店主の背中を!俺は愛する者を蹴ることで性的に満たされるんだ!)
ビキビキ ビンビン
オーク(しまっ…興奮のあまり勃起!圧倒的勃起!届け…天まで届け!)
ナ-ミダクン サヨナラー
ボキボキボッキ!
僧侶「!?」
店主「お、オークの旦那ぁ…そいつァ何ですかぃ…?」
トロォン…
黒い巨塔【ブラック=バベル】
それはあらゆる雄を魅了する象徴、シンボル。
もはや店主の脳内は生命維持さえ忘れ
その恐るべきシンボルの事しか考えられなくなり
そして
店主「はひゅ…」
死んでしまった。
僧侶「な、何だかよく分かりませんが…とにかくよしです!」
ガクッ
オーク「あ…うぁぁ…て、店主…」
シオシオシオ スガシカォ…
ナェェ…
オーク「俺の大好きな店主が…死んだ…?」
僧侶「そうりょ」
僧侶「…」
僧侶「そうよ」
オーク(言い直した)
僧侶「この手で始末出来なかったのは残念でしたが、結果オーライです。私の目的は果たされました」
オーク「何故だ、何故店主が死ななきゃならない!?何故…」
僧侶「この男…店主は…クズでした…最低の…父親でした!」
オーク「ち、父親…!?」
ハッ
オーク「まさか君は…店主の…娘、だと?」
・・・・・
オーク「…」
オーク「そうか、店主は…そんなに酷い男だったのか」
僧侶「そうりょ」
僧侶「あんなロクデナシの子供に生まれたばかりに…私は!いえ、私だけじゃない、母も!こいつのせいで!」
ゲシッ
店主「ぐふっ」
オーク「…」
僧侶「はぁっ、はぁっ…」
ガサゴソ チャキッ
店主「!」
店主「な、ナイフ!」
僧侶「しかも折り畳める!」
シュッ チャキッ シュッ チャキッ
店主「あわわわわ…折り畳めるナイフ…か、かっこいいしこわい!」
シロメ グルンッ
店主「ぶくぶくぶく」
僧侶「ははっ、泡を吹くほどの恐怖!情けない姿を!」
シュッ チャキッ シュッ チャキッ
僧侶「今すぐ楽にしてあげます…このナイフ!折り畳めるナイフで!貴方を!楽に!」
オーク「!」
オーク「…」
オーク「…?」
オーク「!」
ポロッ…
ポロポロッ…
オーク「…」
オーク「泣いて、いるのかね…?」
僧侶「!?」
僧侶「嘘…綿…涙を…?」
僧侶「どうして…ようやくこのロクデナシを始末できるのに!?念願の!復讐を果たせるのに!?」
ポロポロッ…
僧侶「どう…して……」
オーク「それは」
オーク「君が温かい人間だからd
ヒュンッ ザクッ
店主「ハヒュ…」
バタリ
オーク「!?」
僧侶「まぁ確かに涙は流しましたけど別に殺せないとは一言も」
オーク「確かに」
店主「ぐふっ…」
バタリ
僧侶「フゥーッ、すっきりしましたわぁ」
オーク「あわわわ…店主が…今度こそ本当に店主が死んでしまった!俺の大好きな店主が!」
僧侶「心の臓を確実に貫きました。即死に違いありません」
店主「即死です」
僧侶「はい」
オーク「くっ…即死か…店主…店主ゥゥゥゥゥゥ!」
ピカァァァ…
オーク「!?」
僧侶「なっ…店主が光って…?」
ピカァァァ…
ムクリ
店主「…」
オーク「店主が立ち上が…生き返ったのか!?」
ピカァァァ…
オーク「ちょ、輝きすぎ」
ピカァァァ…ピカァァァ…
オーク「目が痛い」
ピカァァァ…アカァ…アオォ…
ピカピカピカ
僧侶「赤…青…交互に光が!」
ピカピカピカ
ポ リ ゴ ン !
・ ・ ・ ・ ・
そして
そして世界は赤と青の光に包まれた。
それを見た者は不思議な痙攣に襲われ泡を吹いた。
つまり
テッテッテレビを見るときは
部屋を明るくして離れて見ろという事だ!!!
【完】
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