柳瀬美由紀「新しい朝がいつものように始まる」 (14)

 こんにちは、あたし、柳瀬美由紀です! あたし、お父さんに東京にいる知り合いの所でお世話になりながら“けんぶん”を広めなさいって言われて1人で東京に来たの!
東京って人がたくさんいるからすぐに迷っちゃう! でね、お父さんの知り合いっていうのがアイドルのプロデューサーで住むところがアイドルの寮だったの。
そこに住んでる子たちはみんな可愛くって楽しそうだったの! あたしもそういう風になりたいから、プロデューサーさんにお願いしてアイドルにしてもらったの!


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 アイドルになってからは、大変なことも一杯あったんだ。レッスンは厳しいし、学校の勉強についていくのも精一杯! ミニライブでお客さんの反応が少なかったときも悲しかったなぁ。
 でもね? あたし泣かなかったよ。……あの時までは。

 きっかけは、同い年の三好紗南ちゃんがゲームで遊んでいた時だったと思うの。
あたし、道内にいた頃知り合いの旅館のゲームコーナーで古いゲームで遊んだことがあるんだ。
その話をしたら紗南ちゃんすっごく興味持って、今度帰省するときは一緒に連れてってーって目をキラキラさせながら言ったの。
それを横で聞いてたプロデューサーが、「……今度企画するのもありか」ってぼそって言ってたの。
 そのことがあってから少し経って、夏休みが終わる少し前、あたしたちはプロデューサーに呼ばれたの。

「わざわざ呼び出して悪かったね。2人とも、宿題はもう終わったかい?」
「……数学があと少し」
「あたしもまだ少し残ってるかな。あ、でも始業式には間に合うよ!」
「そっか。実は2人にとある仕事がきていてね。それが夏休み最後の週末なんだ。30日までには仕上げておいて欲しいんだ」
「ってことはリミットは29日!? うわぁ、終わるかなぁ」
「みゆきも手伝うから頑張ろう!」
「すまないね、急な話で。じゃあ、また29日になったら改めて連絡するから」
 本当だったら、この時点で何かに気付いておくべきだったのかも。だって、週末のお仕事なのに水曜日には宿題を終わらせなきゃいけないなんて変だもん。
 29日、あたしたちはなんとか宿題を終わらせてプロデューサーさんと打ち合わせをしました。

「紗南、前に美由紀と一緒の仕事の時に美由紀の地元にある旅館のゲームに興味を持っていただろう?」
「うん! 美由紀ちゃんの説明聞く限り、今ではかなりレアな筐体ばっかりだもん!」
「へー、そうなんだ。みゆき、ゲームは詳しくないからなぁ」
「そこでだ。その旅館に実際に行ってみようじゃないか」
「本当!?」
「あぁ。美由紀と紗南の2人で美由紀の地元に里帰りしつつ懐かしのゲームで遊ぼうって内容の旅番組だ」
「だから週末なんだ。流石に日帰りって訳にはいかないもんね!」
「あぁ。これから日程を説明するぞ」

 その時説明された番組の内容は、東京から電車で、途中で古いゲームが置いてある所で遊んだりしながら北海道に向かうっていうもの。
北海道に着いたらまずあたしの実家に挨拶に行って、その後旅館でゲーム。うちの工場を見学して東京に戻る。
……うん、おかしくは無かった。移動に時間を多くとってるな、くらいは思ったかもしれないけど、変だとは思わなかったもん。
 ……そして、運命の朝。

2018年8月30日㈭
午前8時00分
東京駅丸の内駅前広場
「おはようございます」
「「おはようございまーすっ」」
「ってあれ? どうして芽衣子さんがカメラ回してるの? 他のスタッフさんは?」
「この間の説明でも話したけど、今回の企画は急きょ決まったものでね、最低限の人数で行くんだよ。あ、撮影中は名字で呼ぶからよろしくね」
「私も余り喋れないけどよろしくね~♪」
「……うーん?」
「どうしたの美由紀ちゃん」
「ううん、きっとみゆきの気のせいだよ!」
 演者が2人、スタッフが2人。あの番組が真っ先に浮かんだけどまだあたしはプロデューサーを信じていました。
あんな企画をやるはずがない、って。

「さて、これから北海道に向けて出発する訳ですが、お2人には楽しく旅をしてもらう為にとある要素を取り入れようと思います」
「何々!?」
「『桃○郎電鉄』ってゲームはもちろん知ってるよね?」
「うん! 順番にサイコロを振って出た目の数だけ進んで最初にゴールした方が勝ち、だよね!」
「……っ!?」
「まぁ途中の駅で物件買ったりカードを使って妨害なんて要素もあるけど……まさか美由紀ちゃんと別移動!?」
「いやいや。それにあのゲームをそのまま再現しようって訳じゃないよ」
「へー。じゃあどの部b「紗南ちゃん!! 帰ろうよ!! ううん、帰らなきゃダメだよ!!」
「ど、どうしたの美由紀ちゃん?」
「はっはっは、やっぱり柳瀬さんには分かっちゃったか。とりあえず説明を続けるね?」
 ……あたし、サイコロの4文字で自分がこんなにも怖がっちゃうなんてこの時まで知りませんでした。

「えー、柳瀬さんと勘の良い視聴者の皆さんは気付いているでしょうが、これから行う企画の説明をさせていただきます」
「我々がこれから行うのは、HTB制作のテレビ番組、『水曜どうでし○う』の名物企画、サイコロの旅です!」
「ルールは至って簡単、今私が持っているフリップに東京駅から利用可能な交通手段をリストアップして各目に割り振ってあります」
「柳瀬さんと三好さんには交互にサイコロを振っていただき、出た目に従って移動してもらいます」
「これを繰り返して北海道を目指してもらいます!」
 プロデューサーは、いつもの通りの優しい笑顔であたしたちに企画を説明していました。でも、あたしはその笑顔が少し怖かったです。
「ここまでで質問はありますか?」
「別に? なんで美由紀ちゃんはあんなに怖がったの?」
「だって、これって目によっては九州までバスに乗ったりするんだよ?」
「……マジ?」
「……うん」
「そこはご安心下さい。本家のそれとは違い我々が行うのは基本的に前進のみです。もちろん中には後退の目もありますが、ちょっとした寄り道程度です」
「ではフリップを見ていただきましょう! こちらです!」

⚀ 新幹線で       仙台
⚁ 普通列車で      大宮
⚂ 普通列車で      千葉
⚃ 高速バスで      新潟
⚄ 普通列車で      横浜
⚅ 新幹線で      名古屋

「横浜はまだしも名古屋って何!?」
「……高速バス」
「さぁ、早速ですがサイコロを振っていただきましょう! どちらが第一投を振りますか?」
「はい! あたしが振るよ! いいよね美由紀ちゃん?」
「6は絶対に、絶っっ対にダメだからね!?」
「大丈夫、実は今朝茄子さんに安全祈願ってことでハグしてもらったんだ!」
「さぁ、旅を始めようか!」
 ……こんな風に、あたしたちは前途多難な帰省をすることになりました。
多分大人になったらいい思い出として話せる日が来るんじゃないかな?
それじゃあ、今日はここまで。またね!

続かない

美由紀ちゃんと紗南が美由紀ちゃんの故郷に行くならどんな風になるだろう?
そんなシチュエーションを考えていたらこんなのが出来ていました。
移動手段は適当なのでそこはご了承ください。まぁ続きませんが。
それでは失礼いたします。

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