【安価】苦しい事からただ逃げる (62)



日々の生活において苦痛を感じる状況は人によって異なる。

どうやって気を紛らわすか、どのように受け止めるか。


自分の身を守る為にはどうすれば良いのだろうか。



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僕は友人が不良に襲われていた所から逃げ出した。

逃げ出す前に見た、友人の縋るような視線が脳裏に焼き付いて消えない。

あの日の事を思い出す度、僕の胸は苦しくなる。

消えさってしまえば良いのに。



「〇〇区内で起きた暴行事件について専門家は――」プチッ

「学校行くんでしょ? 早く支度しなさいよー」

「……学校、行きたくない」

「どうしたの急に?」

「体調あんまり……」

「何言ってんの。朝ごはんしっかり食べといてよく言うわね」

「……行ってきます」

「ハイ、行ってらっしゃい」



「おはよう」

「……!」


通学路。

ぼんやりと歩いていた僕は、後ろから近づく気配に気づけなかった。

友人が”いつもと同じように”話しかけてきている。


いつも通り、どうして、なぜ?

君は動揺して対応を取る事が出来ない。

どのようにしてこの場面を乗り切る?


①挨拶を返そうとする
②学校まで疾走する
③何も聞こえなかった振りをする

↓1



「あ……っ」パクパク

「どうしたの?」


口を開けど音が出ない。

友人に挨拶を返そうとしたが、うまく発声出来なかったようだ。



「一緒に行こうよ」

「……」

「もしかしてイヤ?」

「……」ブンブン


以前と違う部分がある。

溌溂とした声、落ち着いた優しい声。

何がどうなればこんな変化が生まれるのだろう。



隣で喋っている友人は、おおよそ同年代とは思えない。

顔、声音、仕草。

構成する全てが、僕達とはまるで違うかの様だった。

それは悪意に晒される理由としては十分過ぎる。


学校までの道のりは、やけに長く感じた。



馴染みのある音階と共に授業が終った。

昼休みとして振り分けられた1時間が、これほど不安に感じる日は無い。


「よお」

「……あっ」

「何避けてんだよ」


彼は上級性の先輩だ。

少し前までは同じ部活に所属していた。



「なぁ」

「………」

「まだ正式に退部した訳でも無いだろ」

「あの……」

「戻って来いよ。また走ろうぜ」


純粋な気持ち、拒む事の罪悪感。

先輩を前にして、二つの気持ちがせめぎあっている。

君はどのようにしてこの場面を乗り切る?


①はぐらかす
②目を逸らす
③その場から走り去る

↓1



僕はゆっくりと目を逸らす。

出来るだけ困った表情でそれをした。


「ふぅ、しょうがないか」

「……すみません」

「気が向いたら部室に来てくれ。俺は歓迎するぞ」


それだけ言って先輩は離れて行った。

僕が言うのも何だけど、彼は理解のある人間だと思う。

主張の激しくない、どちらかと言えば無口な僕にも優しいから。



お昼はいつも1人になれる場所を選ぶ。

人の出す音が苦手だから僕はそうしている。


今日は何処で済まそうかな。


①4階東トイレ
②手摺の無い屋上
③体育館裏

↓1



コンクリートの感触が足から伝わる。

屋上へと続く扉を開けると、僕の目に青い空が浮かんだ。


そよ風が頬を撫でる。

まるで嫌な気分を流してくれているようだ。



「おっと……先客か」

「!」バッ

「そう警戒するな。静かな場所を求めて来ただけさ」


とても澄んだ瞳をしている。

彼の瞳は上空に広がる青い空の様だ。



「………」

「隣、良いか?」


屋上は広いのに、わざわざ隣を選ぶのはどうして?

僕はそう疑問を感じざるを得なかった。


①首を横に振る
②首を縦に振る
③首を右斜め後ろに倒す

↓1



唇の端をきゅっと締めて頷く。

彼はにっと笑って僕の隣に座った。


「いつもここに来るのか?」

「……たまに」

「そうか」

「………」


一挙手一投足を観察している気がする。

僕は少しだけ居心地が悪く感じた。



「こうやって生きてるとさ」

「……はい」

「見たくも無い嫌な事に触れたりしちまうよな」

「どうして?」

「バイクで事故った、教師が生徒に暴行を加えた」

「……」ビクッ


暴行。

その単語に反応してしまう僕の身体が恨めしい。



「俺達は学生だ。閉鎖的な社会で暮らしてると思想が歪む時がある」

「気持ちの整理がつかない奴は、自分や他人を傷つける事だって――」

「止めて……」カタカタ

「どうした? 何か心当たりでもあるのか?」

「~~止めてよっ!」ダッ


こんな話題を振られたら、あの日を鮮明に思い出してしまう。

堪らず僕はその場から走り去った。


あの人ちょっと嫌だな……。



ようやく放課後だ。

もう家に帰って休みたい。


「なぁなぁー」

「あの、困ります」

「行こうよ! この前だってOKしてくれたじゃん!」

「あれは無理やり――」


校門の辺りで何やら男女が揉めている。

流石にこの状況で真ん中を通り抜ける自信は無い。

……どうしよう。


①女子生徒の手を取る
②男子生徒の手を取る
③遠回りになるけど裏門から帰る

↓1



真っ直ぐ帰るより15分位かかるけど仕方がない。

裏門から帰る事にしよう。


「……」

「大丈夫……だよね」

「嫌がってたけど、大事にはならない筈……」

「……もし何かあっても僕が悪いんじゃない」

「僕が……悪いんじゃない」


自分に言い聞かせるようにそう呟いた。



挙動不審な僕に、友人は以前と変わり無く接してくれた。

どっちつかずな僕の気持ちを、先輩は汲み取ってくれた。

晴れ晴れとした空の下で食事をして、とても気持ちが良かった。

広い屋上で隣を譲り、澄んだ瞳の彼から逃げた。

校門で繰り広げられていた男女の諍いを、見て見ぬ振りをした。


そうして僕は、似たような毎日を過ごした。



ある日、友人が転校するという噂が広まった。

学校生活はまだ半分もあるのにどうしてこの時期に。


「あの子転校するって」

「ホント?」

「私も聞いたよ」

「でも実は転校じゃないとか」

「えっ、どういうこと?」

「中退するんじゃないかって」

「コレ?」サスリ

「流石にそれは冗談でしょ」

「だったら良いよね……」


それ以上聞きたくなかったので、僕は耳を塞いで保健室へと向かった。



保健室の扉に手をかけると、中から友人に似た声が聞こえてきた。


「んっ……」

「………はぁ」

「…あっ………」


僕は中を確認しようとせず、そのまま家へと帰った。

たぶん気のせいだろう。

友人とは別の誰かが、誰かと保健室を利用していただけだ。

そうに違いない。



噂から数日後、友人は何処かへ行ってしまった。

これで僕の心はこれ以上荒れる事は無い。


……無い筈だ。



僕の物語 おしまい



俺は母方の祖父母に厳しく育てられた。

両親は5歳の時に蒸発して、今は所在が解らない。

あの日の事を思い出す度、俺の目は涙で滲む。


両親さえ居てくれれば良いのに。



「〇〇市内で起きた強盗殺人事件は未だ――」プチッ

「……行くか」

「母さん、父さん行ってきます」

「ふん! 居らんモンに言うてもしかたなかろうに」

「………」

「勉強はしっかりやれ。良いな?」

「……はい」



「はぁ」

「風が無い日は、こう暑くて敵わないな」ポンッ

「……先輩。おはようございます」

「おはようさん!」

「暑苦しいんで離れて貰えますか?」


舗装された通学路。

暑さに辟易していた俺は、日差しを避ける様に木陰を歩いていた。

先輩が近くに来た事で周囲の気温が上がった気がする。


俺は先輩にどんな対応をしよう。


①両手をべったりと先輩の肩にのせる
②肩に置かれた手を払う
③無視してそのまま行く

↓1



「……」スススッ

「あっ、ちょっ」

「先輩ーおはようございまーす」

「あ、ああうん。おはようさん」


面倒だと思った俺は、それ以上会話をしない事にした。

先輩は通りがかった他の後輩と喋っている。

何と言うかあまり気にしない人だから助かった。



学校に着いた俺は、教室よりも先に中庭へと直行する。

目的は水やりだ。

巻き取り式のホースを使って花壇に水を撒く。


「……」シャァァァ

「……ふぅ」バシャバシャ


この学校は朝顔の水やりが当番制になっている。

今月は俺のクラスだ。

とは言っても、誰も進んでやろうとはしない。



俺はこういった作業が嫌いではない。

自分のやる事が何かの役に立っている気がするから。


「おーおー、つまんねぇ事をよくやるねぇ」

「……」キュッキュッキュッ

「どうせ点数稼ぎだろ?」

「………」カラカラカラ


ガラの悪い生徒に絡まれた。

これで上級生だと言うのだから笑わせる。


①深い溜息を吐いて去る
②背中に向かってを指を差す
③腕と肩の骨を鳴らす

↓1



「……」チラッ

「なんだよ」

「………」クイックイッ

「あ?」


俺は親指で自分の背中を指し示した。

上級生は怪訝そうな顔で、首を後ろに向けて背中を見ている。



「まったく、背中が何だってんだよ」グイグイ

「………」ススッ

「何もねぇじゃねぇか……」パッパッ


付いても無い汚れを、払っている今の内に退散するとしよう。

俺は気付かれない様にその場から立ち去った。



生徒に安らぎを与える時間が来た。

回りくどい言い方だが、要は昼休みが来ただけだ。


「ねね、お昼一緒に食べない?」

「断る」

「クラスメートに対してつれないー」


後ろの席から話しかけてきたコイツは同級生の女子だ。

事あるごとに話しかけて来るので正直めんどくさい。



「今日も購買行くの?」

「ああ」

「栄養偏ったりしない?」

「偏るな」

「もっとバランス良いの食べようよ」

「お前には関係ない事だろう」

「心配してあげてるのにー」

「………」


このままでは平行線だ。

どうやって話を切り上げようか。


①何故購買に行くか理由を説明する
②机に2つ置いてある弁当を指摘する
③溜息を吐いて去る

↓1



「ところで」

「んーなあにー?」

「お前は大食いなのか?」

「えっ」

「弁当が2つもある」

「これはそのー、えへへ」モジモジ


同級生は顔を赤らめている。

心なしか周囲から視線を感じるし、迂闊な発言だったか。



「その、良かったら……食べない?」

「俺に片方くれるのか?」

「……うん」

「なら貰おう」

「ほんと?」

「ああ」


俺は同級生と食事を摂る事にした。



「私のはこっちー」

「これは……」


よく見ると弁当の中に肉団子が入っている。

俺は小さい頃に持たせてくれた、母手製の弁当を思い出していた。



「ミートボールのトマト煮だよ」

「……うん、美味いな」

「えへへっ、ありがと!」


懐かしい記憶と共に弁当を味わう。

食べ終えた後にお礼を言うと、また作るねと彼女は言った。

これは元々俺の為に作ってくれた物だったのかもしれない。



夕焼け空が広がる放課後。

俺は帰り道にあるコンビニへ寄った。


「ぃらっしゃいませー」ティロロンティロロン

「……」


ここは新しい物ばかりだ。

商品に設備、果ては店員さえも。



「あった」

「………」パラパラパラ


今日はいつも読んでいる週刊誌の発売日だ。

立ち読みは褒められた事では無いが、金が無いのでこうしている。



「ちょっ、放せよ!」

「コラ! 暴れるんじゃない!」

「……?」


半分まで読み終えたところで、店内が騒がしくなった事に気が付いた。

何やら小学生と思わしき小柄な男の子が店員と揉み合っている。

右手に握りしめた駄菓子を見るに、万引きか何かだろう。


①店員に向かってなけなしの小銭を出す
②一部始終を眺めている
③見なかった事にして立ち去る

↓1



傍から見て子供の態度はあまり良いものではない。

俺は店内で起きた事件を見なかったことにした。



「あの子供、似てる気がしたな」

「……家に帰ろう」


家に帰るその足取りは重かった。



「帰って来たか」

「ただいま戻りました」

「飯が出来とる。それを食ったら部屋で勉強しておれ」

「……はい」


帰ってきて一番に祖父と出くわした。

台所から漂う匂いから察するに、今日は芋煮と野菜炒めか。



「……」ズズッ

「学校はどうなの?」

「勉学で躓く事は今の所無いです」

「そう」

「ふん」

「……」モグモグ


食卓における会話がまるで弾まない。

いつもと同じで重たい空気が漂っている。



夕食が終って1時間。

俺は将来を見据えた勉強をしていた。


「……」カリカリ

「………」ペラッ

「……」カリカリカリ


それはどんな勉強だろうか。


①教師
②警察官
③医師

↓1



俺は教師になりたかった。

自分に子供が出来れば、勉強を見てやりたいからだ。


「……」ティロリン

「メールか。同級生からだな」

『あんまり根を詰めたら駄目だよ?』

『身体に気を付けて頑張ってね』

「……了解っと」


自分から話した覚えは特に無い。

同級生は恐らくずっと前から俺を見ていたのだろう。

通りで些細な事にも気付く訳だ。



日差しの強い朝、暑苦しい先輩と会話をしなかった。

水やりをした後、上級生を煙に巻いて立ち去った。

昼休みは弁当を貰って、同級生と昼食を共にした。

コンビニで見た少年を、俺は見なかった事にして帰った。

家に戻ってからは、教師を目指して勉強を続けた。


そうして俺は、似たような毎日を過ごした。



あれから月日が経ち、俺は同級生と結婚した。

子供が生まれてもう2年は経つ。

今の俺は地元で小学校の教師として働いていた。


「待って待ってー!」ドタバタ

「……なんだ?」

「お弁当ー忘れ物だよ」

「すまない」

「そこはありがとうって言ってよね」


毎朝弁当を作ってくれる事に感謝している。

この幸せが子供が大きくなった後も続くと良いな。



仕事がようやく終わった。

早く家に帰って、妻と子供に癒して貰おう。

浮かれていた俺は、玄関の鍵が開いていた事に気付かなかった。


「……」グチャァ

「なんだ、これは……」

「そうだ!あいつは――」

「……」ブン

「ぁがっ」


ああ、押し入り強盗が居たのか。

そこまで考えて俺の意識は途切れた。



数時間後、家から立ち去った犯人は捕まえられた。

後に残されたのは幼い子供だけ。


……子もまた親と似た人生を送るのかもしれない。



俺の物語 おしまい

区切りも良いのでここで終了 HTML化依頼してきます

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