レオナルド・ダ・ヴィンチ「あのー……笑ってくれません?」モナリザ「イヤよ」 (16)

ダヴィンチ「はじめまして、リザ・デル・ジョコンドさん」

モナリザ「モナリザでいいわよ」

ダヴィンチ「あ、そっすか」

ダヴィンチ「今日は旦那さんのご依頼で、あなたをモデルに絵を描かせてもらうんで」

ダヴィンチ「どうぞよろしくお願いします」

モナリザ「分かったわ。で、どうすればいいの?」

ダヴィンチ「それじゃ、そこに座って……軽く手を重ねて下さい」

モナリザ「こう?」

ダヴィンチ「あー、いいですね。とてもいい。じゃ、始めまーす」

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ダヴィンチ「うーん……」

モナリザ「どうしたの、早く描きなさいよ。このポーズ疲れるのよ」

ダヴィンチ「あのー……笑ってくれません?」

モナリザ「なんで?」

ダヴィンチ「いや、やっぱりムスッとした女性より、笑ってる女性のが絵になるっていうか……」

モナリザ「イヤよ」

ダヴィンチ「なんでです?」

モナリザ「私、笑うのって苦手なの」

モナリザ「まして、絵のモデルになるための愛想笑いなんて絶対ゴメンだわ」

ダヴィンチ「はぁ、そっすか」

ダヴィンチ「じゃあ、このままでなんとか描きます」

モナリザ「早くしてね。タイムセールに間に合わなくなっちゃう」

ダヴィンチ「タイムセールとかあるんすね」

ダヴィンチ「うーん……」

モナリザ「なにしてるのよ。全然手が動いてないじゃない」

ダヴィンチ「あのー……やっぱ笑ってくれません?」

ダヴィンチ「そうムスッとされてると、どうも創作意欲が湧かなくて……」

モナリザ「だからイヤだっていってるでしょ」

ダヴィンチ「ちょっとだけでいいんで」

モナリザ「イ、ヤ、よ」

ダヴィンチ「…………」カチン

ダヴィンチ「なんで? なんでなの? なんでそんな頑なに笑顔を拒むの?」

ダヴィンチ「ちょっとでいいっつってんじゃん」

ダヴィンチ「もしかして、感情がないとかそっち系の人?」

モナリザ「なわけないでしょ。おかしくもないのに、笑うのがイヤだっていってるの」

モナリザ「だいたいね、あんたみたいなヒゲ親父に絵のモデルになって下さいなんていわれて」

モナリザ「笑顔になんてなれるわけないでしょ」

ダヴィンチ「な、なんだと!」

ダヴィンチ「いっとくけどな。オレ、結構すごい人なんだぞ!」

モナリザ「どうすごいのよ」

ダヴィンチ「優れた芸術家であることはもちろんだが、他にも――」

ダヴィンチ「音楽、建築、数学、幾何学、解剖学、生理学、動植物学、天文学、気象学」

ダヴィンチ「地質学、地理学、物理学、光学、力学、土木工学――と」

ダヴィンチ「さまざまな分野に通じて、功績も残してるんだぞ!」

モナリザ「欲張りすぎよ。一つに絞った方がいいって」

ダヴィンチ「欲張りて」

モナリザ「絶対器用貧乏でしょ、あんた」

ダヴィンチ「違うから! オレほどになると器用富豪だから! 全教科100点とか取れちゃうから!」

ダヴィンチ「だったら言わせてもらうけどな、あんたみたいなのっぺりした顔の女」

ダヴィンチ「せめて笑顔ぐらい見せてくれないと、文字通り絵にならねえんだよ!」

モナリザ「誰がのっぺりですってぇ!?」

モナリザ「だったらもっと美人をモデルにすりゃいいでしょうよ!」

モナリザ「ミス・フィレンツェみたいなすごい美人を、鼻の下伸ばしながら描きなさいよぉ!」

モナリザ「このスケベヒゲ親父が!」

ダヴィンチ「あ、お前、ヒゲだけでは飽き足らずスケベを付け足しやがって!」

ダヴィンチ「オレ全然スケベじゃないから! 芸術一筋だから!」

モナリザ「器用富豪はどこいったのよ!」

ダヴィンチ「あ、いや、それはそれ……っていうか」

モナリザ「だいたいあんたの作品、女の絵多いじゃない! 絶対スケベだって!」

ダヴィンチ「バカ、ちげーっての! あくまでオレは芸術のためにだな……」

モナリザ「絶対自分の絵をオカズにしてるでしょ!」

ダヴィンチ「し、してねえって!」

ダヴィンチ「仮にオレがスケベだったとしても、絶対あんたにゃ欲情しねえわ!」

モナリザ「なんですってぇ!?」

モナリザ「このヒゲ! 私を笑わせたかったら、せめてその臭そうなヒゲ剃りなさいよ!」

ダヴィンチ「絶対剃らないぞ!」

ダヴィンチ「ハァ、ハァ、ハァ……」

モナリザ「ハァ、ハァ、ハァ……」

ダヴィンチ「あ、やばい。もうこんな時間だ」

ダヴィンチ「締め切りに間に合わなくなっちゃう……」

モナリザ「絵画にも締め切りなんてあるの?」

ダヴィンチ「どんな業界でも納期ってのは大事ですから……」

ダヴィンチ「あ~……やべえ。もし間に合わなかったら、悪評ついてイタリアに居れなくなるかも」

ダヴィンチ「これぞ、まさに――」

ダヴィンチ「レオナルド・大ピンチ!」





モナリザ「…………」

モナリザ「……フフッ」

ダヴィンチ「あ、今の表情いい!」

モナリザ「え、そう?」

ダヴィンチ「すごくいいよ! なんかめっちゃ創作意欲湧いてきたぁ!」

ダヴィンチ「モナリザさん、あんた笑うと美人だよ! 誇っていいよ!」

モナリザ「そ、そぉう?」

ダヴィンチ「うおおおおおおおっ! オレの筆が勝手に動く、動くぞぉぉぉぉぉ!」

ダヴィンチ「これはきっとものすごい傑作になる!」

ダヴィンチ「値段がつけられないぐらいの価値が出て、フランスあたりで飾られるに違いない!」

モナリザ「あんまり価値がついちゃうのも困るわぁ、表を歩けなくなっちゃうし……」

ダヴィンチ「顔が微笑んでますぜ、モナリザさん」

ダヴィンチ「――できた!」

モナリザ「どれどれ……」

モナリザ「あら、いいじゃない! これはたしかにすごい価値がつきそう!」

ダヴィンチ「マジっすか! ありがとうございます!」

モナリザ「さすが、器用富豪! いうだけのことはあるじゃない!」

ダヴィンチ「いやぁ~……それほどでも」

ダヴィンチ(そうか……自他共に認める万能の天才であるこのオレだけど)

ダヴィンチ(人を笑わせるコメディアンの才能もあったんだなぁ……)







― 終 ―

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