【モバマス】文香「些細で小さな、叶わぬ願い」 (16)

※Pがアイドルではない彼女持ちです。

あの………今日は、ありがとうございました。

お仕事とはいえ…………今日は特別な日、ですから。


何って……七夕、ですよ?

それに今日は土曜日ですよ。空も……晴れてはいませんが、雨ではありません。

会いに、いかなくてよろしいのですか?

誰に、とは。プロデューサーさんは不思議なことを言いますね?




彼女さんが、待っているのではないのですか?

七夕の日の逢瀬は、恋人にとっては特別な意味を持つと……私は思います。

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……珍しい……ですか? 色恋の話題に……?

確かに……そうですね、珍しいかも……しれません。

このお仕事と、そして揺れる短冊に、影響を受けてしまったのかもしれませんね。

いつ知ったのか、ですか。

まゆさんに、聞いてしまいました。私は彼女の隣の部屋なんです。

あのまゆさんが、私にポツリ、ポツリ、と話してくれました。

多分、話す人がほしかったのだと……思います。

多分、理解する相手が、欲しかったのだと思います。

多分、理解して欲しかったのだと、思います。

プロデューサー、少しだけ、私の話を聞いてくれませんか?

別に、問いただしたいわけではないんです。

プロデューサーさんの良縁を妬むほど……私は、色恋に……積極的ではありませんから。



そう、積極的では……ありませんでした。

今日のお仕事も、七夕のお仕事。

織姫と彦星は仲の良い夫婦だったのだそうです。

だからこそ、それにあやかって、恋人たちの記念日として、意味を成すのだと。

今日この日、隣にいることが、良縁を意味するのだと。

でも、それは、私には……無縁と考えてしまって。

だからこそ、思い出してしまったのかもしれません。まゆさんのこと。彼女さんのことを。

……何故謝るんですか?

プロデューサーさんは……何故隠していたんですか?

アイドルは……恋愛対象ではない。そう言っていたことは覚えています。

だからこそ、それならば、初めから話しておけばよかったのではないですか?



それとも……私が………問いていれば。答えて………くれましたか?



いえ、何でもないです。これは……そう、とても意地悪な質問ですね。

行かなくて……本当にいいのですか?

七夕の夜……愛する人と隣合うということを……望まれるのではないですか?

…………そうですね。少し、恋愛小説の読み過ぎかもしれません。

ここ数日は伊吹さん達に、そういう本を教えていただく機会がありましたから。

それなら、もう少し…………短冊を見ていきませんか?

本当に……色々な願いが詰まっていますね……

成功……出世……恋愛から、ほしいもの……本当に様々で……

この短冊1枚1枚に、思いが籠っているのですね……

プロデューサーも……七夕には願い事を書きましたか?

……えっと……一緒に、ですか? 今から?

そう、ですね。私も……この無数の願いの一つになれたなら……ファンの皆さんと共にあれたようで、嬉しいです。

……願いはどうしたか、ですか?

…………短冊はもう、スタッフさんに渡してしまいました。

ファンのみなさんと同様に飾っていただかないと……意味がないですから。

プロデューサーさんは、書けましたか? ……そうですか。


彼女さんを……思って書いたのではないのですね。

恋愛とは、想いとは……私にはわかりません。

短冊に願う必要がないほどに……プロデューサーさんの想いが強いのも、私には多分わかりません。

でも……私と、恋に無縁な……鷺澤文香と、こんな話をしたのですから。



今日くらいは、一人の男性として。彼女さんを想ってあげてください。


お仕事のことは、明日でもできるんです。

私達の願いは、いつでもあなたが叶えてくださっています。

だから今日は、プロデューサー、あなたの、そしてあなたの彼女さんの願いを、応援させてください。

お願いします。プロデューサーさん。

…………行ってしまいました。

もう、スタッフさんも撤収していますし。ここは事務所からの近い。

だから……私はもう、一人で帰ることができる。できてしまう。

待っても、誰も来はしません。自分から会いに行くことはできますけど。


空を見上げる。

曇天で、星空は見えません。

織姫と彦星は、私には……見えません。

『仕事』を捨ててまで愛を選んだ二人を、今の私では理解ができないのでしょう。

でも。




あの時、話を聞いてほしい、と呼び止めたこの思いが。

もう少し話していたいと短冊に手を伸ばしてしまったこの思いが。

私の考える、『無縁』だったのなら。

私はその言葉を、その願いを、織姫にも、彦星にも届けることはないでしょう。

何故なら彦星と織姫は雨が降らないのなら、逢瀬をしているのだから。



私は、袖の中の短冊をくしゃりと握りしめて、自分の家へと向かいます。

短冊の願いは、些末なもので。

短冊の願いは、矮小なもので。

願うほどのものではなかったけれど。




私は…………あなたと話していたかった。

おわりです。


無自覚に恋してるけど飛び込まないでPに彼女がいるせいで飛び込めなくなった文香ちゃん、でした。
七夕ネタの即興です。

依頼出してきます。

関係ないとも言えないけど関係がない前作
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