海未「ブロークン・アロー」 (140)


ブロークン・アロー 〔航空軍事用語〕

「折れた矢」の意
核またはそれに準ずる兵器の紛失を現す暗号コード名


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1529246094


【ROUND1 ボクシングリング】


海未「はぁー…はぁー」


絵里「ふぅ……はッ」



希「いけーそこやそこ!」


凛「海未ちゃんもっと前に出るにゃー!」


にこ「絵里、遊んでないでさっさと仕留めなさい!あんたに賭けてんのよッ」



絵里「どうしたの。もうお終い?」クイクイ


海未「っ…!」


海未「はぁッ!!」


絵里「おっと」


絵里「くすっ…がむしゃらな攻めも嫌いじゃないけど」


絵里「あんまり真っ直ぐでも痛い目見るわよ。こんな感じにッ!」


海未「ぐっ…!」


希「アイタタ…今のカウンターもろ入ったなぁ」


絵里「いつも言ってるでしょ…ボクシングの基本は左左っ」


絵里「左…が来ると見せかけて右を食らわせるッ」


海未「がはっ…っっ、っ」



凛「あーあ、勝負あったね」


にこ「バンザーイ!今夜はビフテキ!バンザーイ!」


海未「っ…ぜぇ、はぁ…はぁ」


海未(また、負けてしまいました)


海未(いつもこう…彼女には敵わない)


海未(私では――)


スッ


絵里「ほら手を貸すわ」


海未「…一人で起きれます」



海未(精一杯意地を張って、差し出された右手を拒むぐらいが関の山)


【オトノキ空軍基地 ブリーフィングルーム】


絵里「絢瀬少佐」


海未「および園田大尉両名、只今出頭しました」


穂乃果「二人とも楽にしていーよ」


穂乃果「…なんかボロボロじゃない?」


絵里「はっ。先程まで二人でくんずほぐれつ熱い汗をかいていたもので」キリッ


海未「ただのスパーリングですっ」


穂乃果「ははは、仲のおよろしいこって」


穂乃果「そんな二人には今晩、レズ弾頭を搭載したステレズ爆撃機を飛ばしてもらうよ」


海未「将軍、失礼ですがこの演習の目的は?」


穂乃果「さあね。多分何かの実験じゃない」


絵里「…相変わらず適当なのね」


穂乃果「そこ、私語は慎みたまえ」


穂乃果「私こう見えても大将なんだよ?この基地で一番偉いんだよ?」


ことり「まあまあ。細かいことは私からお話します」


【ROUND2 ステレズ機内】


キィィィィィィィィィン――


海未「現在時速320キロ、間もなくアキバ国立公園上空です」


絵里「ねえ海未」


絵里「核以上の威力を誇るレズ弾頭を二基積んだ爆撃機をカッ飛ばしてると、何だか神様にでもなった気がしない?」


絵里「大勢の人たちの運命が、自分の指先一つでどうとでもなっちゃうのよ」


海未「絵里、任務中ですよ。集中して…」


絵里「いいじゃない。私たちの仲なんだから」


絵里「答えなさいよ。あなたはどんな気持ちで任務に臨んでるの」


海未「正直…空恐ろしいです」


絵里「空だけに?」


海未「茶化さないでくださいよ」


海未「でも同時に、どこかでそのスリルを楽しんでる自分もいて」


絵里「クセになっちゃったのね」


絵里「長続きするコツよ。きっとあなたは定年まで勤めあげるんでしょうね」


海未「絵里は違うのですか?」


絵里「ここだけの話、もう辞めようかと思ってるの」


絵里「さっきはああ言ったけど、今更飛ぶことに何の感慨もないわ」


絵里「もう…飽きちゃったのよね」


絵里「階級は万年少佐どまりだし」



海未「絵里は意外と抜けているところがありますからね」


海未「そういうの、私以外にも見抜かれてるのでは?」


絵里「だからって穂乃果みたいなあんぽんたんを将軍にしたりする?」


海未「彼女は悪くないと思いますけどね。優秀な補佐官も付いてますし」



絵里「本当なら私だって今頃大佐くらいに…エリーチカ大佐とか呼ばれててもいいはずなのに」ブツブツ


絵里「世の中、穂乃果や希みたいな要領と運のいい子が出世していくのよね…」


海未(珍しいですね。絵里がこんな風に愚痴るなんて)



絵里「あら?」


絵里「ねえ、窓の外おかしくない? ほらそっちの方、サメが飛んでる」


海未「え…」



窓ガラス絵里「」スチャッ



海未「!」



――BANG!



海未「っ…」


絵里「チッ」シュウウウウウ



海未「一体何を…!?冗談では済みませんよッ」


絵里「冗談でこんなことすると思う?ホントおめでたいんだから…!」


海未「銃を降ろしなさい…このっ」グググ



Bi―!Bi―!


【異常接近警報】



海未「ッ――尾根にぶつかる!」


海未「くぅ…!」グィ


――ィ ィ ィ ィ ィ ィ イ イ イ ン


絵里「」カタカタカタ


【爆弾投下 スタンバイ】



海未「やめなさい! 狂ったのですか?」


絵里「邪魔しないで!」グィ


【パイロットB 緊急射出】


海未「ちょ…」


絵里「Пока~」ヒラヒラ



海未「絵里いいいぃぃぃ」シュゴオオオオオオオ!



――ァァァアアアアアア



絵里「お邪魔虫は放り出したことだし」カタカタカタ


【不発モードで投下】


【レズ弾頭A 緊急投下】


【レズ弾頭B 緊急投下】


絵里「こっちは喧嘩別れしちゃったけど。あなたたちは仲良くね」


絵里「さてと――本部聞こえる!? 園田大尉がヘマした!」


絵里「機体の制御不能!これより機を捨てて脱出する!」グィ



シュゴオオオオオオオオオオ!


――

―――――


真姫「…まだなの?」クルクル


真姫「約束の時刻を40秒も過ぎてるんだけど」



亜里沙「あっ。あれじゃないかな」ソウガンキョウ


真姫「貸して!」



キィィィィィィィィン―――!!!


雪穂「わ゛っ」



ズシャアアアアアア―――BOOOOOOOOOM!!!!



亜里沙「ハラショー…」


真姫「爆撃機を墜落させるなんて…聞いてないわよ」


【オトノキ空軍基地】


ことり「ブロークン・アローです」


穂乃果「なにそれ」


ことり「将軍…それくらいは知っておいてくださいね?」


ことり「レズ兵器の紛失を意味する暗号です」


ことり「墜落した機体の残骸から二本のレズ弾頭は発見できなかったの」


穂乃果「やばいじゃんそれ」


穂乃果「まさか爆発したってことはないよね」


ことり「レズ弾頭は起爆装置をセットしない限りは、ちょっとやそっとの刺激じゃ開花しない仕組みで」


ことり「目下、捜索チームが公園内を全力で探してるんだけど…」


ことり(もし――ステルス演習中でレーダーに探知されないのをいいことに、誰かが計画的に盗み出したとしたら)





【ROUND3 アキバ国立公園】


ヒュウウウウ…


ドサッ


海未「くっ…」



海未(不覚です!こんな無様を晒す羽目になるとは)


海未「絵里…」


海未(貴女は一体何を考えてあんなことを)


――――

――


海未『絵里、これを』スッ


海未『さっきの負け分です』


絵里『あら、いつも悪いわね』


海未『本来賭け事は嫌いですけど。負けは負けですから』


海未『ですが次こそは勝ってみせます!』


絵里『……ねえ。このお札覚えてる?』ピラッ


海未『二千円札ですか。また懐かしいものを』


海未『随分と年季が入ってますねこれ』


絵里『昔あなたから最初に巻き上げたお金よ』


絵里『これのお陰で、私たちの間では勝負事に二千円賭けるのがお約束になったのよねー』


絵里『ま、長年の友情を象徴する記念品ってとこかしら』


海未『紙幣の方は廃れて久しいですけどね』


絵里『海未…さっきのスパーリングなんで負けたと思う?』


海未『ひとえに私の至らなさ故です』


海未『昔からボクシングの技術を磨いてきた絵里に対して、未熟な私ではまだまだ歯が立ちません』


海未『しかし研鑽を積んで、いつかは貴女に追い付きます』


絵里『分かってないわね』


絵里『そういう考えだから勝てないのよ』


絵里『さっきだって、惜しい場面はあった』


絵里『私をノックアウトできるチャンスはあったのに』


絵里『あと一歩、踏み込む勇気と食い下がる執念がない』


絵里『あなたは負けず嫌いに見えて、その実謙虚すぎる人間よ』


絵里『必要以上に自分を過小評価して、知らず知らずのうちにブレーキをかけてる』


絵里『そんな“本気”の勝負が出来ない人のお金は…受け取れないわ』


海未『そんな…』



絵里『……ぷっ』



絵里『その顔……なにもそんなこの世の終わりみたいな顔しなくても』


海未『なっ///』



絵里『くっくっ、ごめんなさい。さっきあなたがシャワー浴びてる時にね』


絵里『財布から二千円、あらかじめ徴収させてもらったの』


絵里『だからこのお金は要ーらない♪』


海未『ぐっ…またそういうイタズラを』


海未『からかわないでくださいよ』


絵里『だから謝ってるじゃない。でもあなたも悪いのよ?』


絵里『反応がかわいいから、ついイジワルしたくなっちゃうのよ』ペロッ


海未『もう…』



絵里『あ、でも。さっきのは半分本気だからね大尉?』


海未『……精進します、少佐殿』









海未「絵里…」


海未「また…私の負けですね」


海未「お金はここに置いておきます…が」スッ


海未「必ず、貴女の手から取り返します」


「そこで止まって!」チャカッ


海未「!」



「ゆっくりこちらに振り返ってください」


海未「…」クルッ




花陽「そのまま動かないで…」


海未(銃を持ってる…絵里の仲間でしょうか)


花陽「ここは自然保護区です。一般の立ち入りは制限されてますよ」


海未「私は軍人です。事情を説明させてください」


花陽「お話は事務所の方で伺います…手錠を」


海未(やむを得ませんね)


海未(そういえばもうすぐ日の出…)


海未「」サッ


花陽「?」


ピカッ


花陽「眩しっ」


海未「はぁ!」バシッ


花陽「あっ」


チャカッ


海未「何者ですか」


花陽「ぱ…公園監視員(パークレンジャー)です」


花陽「通報があったの。怪しい車がここに入っていくのを見たって…」


花陽「あ、そこ気を付けて!踏まないで!」


海未「えっなんですか地雷!?」


海未「って、ただの花…」


花陽「とんでもない!とっても希少な種なんだよ?」


花陽「か弱くて…でも必死に生きてるの」


海未「…なるほど」


海未「銃をお返しします」クルッ


海未「どうやら貴女は悪い方ではないようですから」


海未「今一度お願いします。私に協力してくれませんか」


海未「一刻を争う非常事態なのです」


花陽「……」


花陽「この先に車を停めてます」


花陽「無線が積んであるの。案内しましょうか?」


海未「是非に」


――――――


亜里沙「ユキホ、軍人さんたちが来たよ」


雪穂「分かってる。頭上からしっかり狙ってますよーっと」




にこ「こちら捜索班。レズ弾頭を二つとも発見したわ」


にこ「これより回収を…」



――DoDoDoDoDoDoDo!!!!!


凛「にゃああああっ!?」


ヒデコ「軍曹!どこかから撃たれてます!」


にこ「落ち着きなさい!四方警戒、固まって円陣を組むのよ!」



DoDoDoDoDoDoDoDoDoDo!!!!


ウァー! ギャア!



フミコ「軍曹、他のチームは全滅です!」


ミカ「もう私たちしか残ってない…どうすれば」



凛「きっとあの弾頭を奪いに来た悪いやつがいるんだ…」


凛「こーなったら、盗られる前に起爆装置を壊しちゃえば」


にこ「待ちなさい。今飛び出せばハチの巣よ」



にこ「何か他の手を考えましょう」


にこ「私は自分の部下を一人も死なせるつもりはないわ」


凛「にこちゃぁぁん…」ウルウル





にこ「ま、あんたは違うんだけどね」スチャッ


凛「え…」


――BANG!


凛「かはっ…」


凛「な、なんでこうなるにゃ…」ドサッ



にこ「目上に対する礼儀がなってないっつーの」


にこ「ねえ、あんたたち?」


ヒフミ「サー、ニコサー!!!」


にこ「おーい、お掃除完了したよー」




雪穂「だそうです」


真姫「ふん、大金積んで買収したんだからちゃんと仕事してもらわないと」クルクル


真姫「で、首謀者サマは何処ほっつき歩いてるの? 迷子?」



真姫「それとも脱出に失敗して星になったのかしら」





「勝手に殺さないでよ」





亜里沙「お姉ちゃん!」パァァ




絵里「ごめんなさい。雄大な自然につい見惚れちゃってね」ザッザッ



絵里「でも、主役は遅れてなんとやらっていうでしょ?」スパー




真姫「……随分とカッコつけて登場したとこ悪いんだけど」



真姫「あなたのせいで計画は遅れまくってるのよ?」クルクル



絵里「私が来たからには万時が順調になるわ」




にこ「本部聞こえる!?こちら矢澤」



にこ「部下が全員死亡!にこも…うっ、ごほごほ」



『どうしたにこっち!? 状況を報告せよ――』



にこ「弾頭に大きな亀裂が入ってるにこ…!」カチッ


ローター『』ヴィィィィィ



『さっきからよく聞こえないんよ―――この音、電波障害か?』



絵里「それ、もっとマイクに近付けて」


にこ「にしし」ヴヴヴ


『ヴィィィィィィ――弾頭からレズ核が露出して――うぅぅ』


『愛液が漏れてるにこ――目に染みヴイイイイイイイ』


『――ら一帯はヴィィィィィィィんに汚染され――ヴヴヴ』


『もうダメ――家族にヴィィィィィィィンて伝えて―――ブチッ』




希「…えらいこっちゃ」


希「至急全ての部隊を引き返させて」


希「それとA-RISEに出動要請を!」



穂乃果「A-RISEってなんだっけ」ヒソヒソ


ことり「レズ兵器対策のスペシャリストだよ」


絵里「これで現場ではレズ波漏れが起きてると思わせられた」


絵里「向こうは迂闊に近付けない。偵察衛星やA-RISEの出動にも時間がかかる」


絵里「そうしてる間に私たちはブツを抱えてさようならってわけ」


絵里「邪魔者は消えたわ。みんなで自然を眺めながら、のびのび回収作業としゃれ込みましょう」


絵里「亜里沙一緒に来て。あっちに本で見たことある山があったの」


真姫「待ちなさいよ」



真姫「さっき気になる無線を傍受したわ」


真姫「パークレンジャーが、向こうで落下するパラシュートと人を目撃したって」



絵里「…!」



真姫「これもあなたの計画通りなの?」クルクル


絵里「…実戦にアクシデントは付き物よ」


絵里「ヘリを偵察に出して。そのレンジャーとスカイダイバーを探すのよ」



絵里(海未…やっぱり生きてたのね)クシャッ



真姫「なによ。お札なんか取り出して。こんなところで使う気?」



絵里「………もしかしたら、そうなるかもね」



真姫「……?」



【ROUND4 峡谷】


ザッザッザッ


海未「随分と歩くのですね」


花陽「結構広いですからここ。具体的に言うとドゥーム100個分くらいあります」


海未「その喩えはよく分かりませんが。飛んでた時はあっという間に通過していましたから」


花陽「え…ここ飛行禁止区域ですけど」


海未「…今のは冗談です。忘れて」


花陽「軍事機密ってやつですか。今起きてることも?」


海未「……」


花陽「まあ…深入りするつもりはありませんけど」



花陽「着きました!」


花陽「これでやっと私も家に帰れます!早くアルパカに餌あげないと」っ無線


花陽「事務所、聞こえますか? こちら小泉です。誰かいませんかー?」



――バラバラバラバラ


海未(この音…)


海未「車から離れて!」


花陽「へ…」



ダララララララララララララッ!!!!



花陽「ぴゃあああ!!?」



花陽「あわわ…花陽のジープが真っ二つに」


海未「逃げますよ、ほら立って!」




ミカ「へへ…目標はっけーん」カチッ




ズダララララララララララララ!!!!



花陽「あれって軍のヘリですよねっ? なんでこっちを狙うのォ!?」


海未(絵里が捜索隊から奪って…それともまさか内部に裏切り者が?)


キュイイイン―――バラバラバラバラ



花陽「こちらに向かって来ます!」


海未「峡谷の中へ!」


海未(狭い谷間へ降りれば追ってこれないはず…!)



ミカ「お、そっち逃げる? ちょっと遊んであげよっかな」



バラバラバラバラ――!!!



花陽「はぁ、はぁ…着いてきてるじゃないですかぁ!」


海未「いい腕ですっ」



ビュオオオオオオオオオオオ―――!!!



花陽「あぁぁ貴重な自然が…飛行禁止だって言ってるのにぃ!」


海未(追い付かれる…!)



海未「伏せて!」グィ


花陽「ぴゃ」ドテッ



ダララララララ!!!!!――――キュイイイイイイン 



海未「…何とかやり過ごせました」



花陽「でもすぐ戻ってくるよね?」


海未「ひとまず崖下に身を潜めましょう」



海未「小泉さんと言いましたね。貴女のリボルバーを貸してください」


花陽「拳銃でヘリと戦う気?」


海未「コクピットを狙えれば勝機はあります」


海未「しかしあの速度で飛び回っている物体に当てるのは容易でありません」


海未「私たちの真上でホバリングでもしてくれれば話は別ですが…」


花陽「……」



花陽「私が…ヘリの注意を引いてみます」


海未「はい?」


花陽「ヘリの動きを止めればいいんですよね」


花陽「この谷底から崖上の機体に当てられる?」


海未「射撃は得意ですが。貴女は…」


花陽「ここ、登りやすいポイントがあるんです」



花陽「……今朝、通報があったって言いましたよね」


花陽「通報したキャンパーの人は、園内で撃たれて死んでました…」ギュッ


花陽「何が起きてるか分からないし怖いけど……自然を荒らす人たちを止めるのも仕事だから」


花陽「お任せします!」ダッ


海未「あ、ちょっと…!」



海未(意外にするすると岩肌を登って……鈍臭いタイプだと思っていたのですが)


海未「……私は私の仕事をしましょう」カチャリ



ミカ「くそーどこに隠れた?」




花陽「」ヒョイ



花陽「おおおおぅい」フリフリ




ミカ「れれれ? いつの間にヘリの真下に…」




花陽「撃たないで!助けてえええぇぇ」




ミカ『パイロットはどうしたの?』




花陽(私たちのさらに真下です…!)





海未「捉えました…!」チャカッ


海未「」BANG!BANG!BANG!BANG!



バリィィィィン!


ミカ「ぐわわー!!?」



花陽「やった…!」




ミカ「あぅ…」ガコン



花陽「へ…」



海未「逃げて!」



バラバラバラ――ズシャァァァァン!


花陽(ひいいいいヘリが錐揉みしながら降ってくるぅぅ)



キュラキュラキュラキュルルルル―――!!!




花陽「ろ、ローターが…!」



海未「こっちです!」グィ



ズバババババババババッ!!!



花陽「ひゃ――」


海未「何をグズグズしてるのです!? 草花と一緒に伐採されるところでしたよ?」



海未「休んでる暇はありません!丸焦げになりたくなければ走るのです!」


花陽「も、もう嫌だよぅ!誰か助けてえぇぇ」


海未「だから助けてるじゃないですか!」




―――BOOOOOOOOOM!!!!








にこ「今の爆発って…」


絵里(海未、あなたの仕業なの?)



真姫「ヘリが落ちちゃったじゃない!どうやって弾頭を運ぶのよ?」


絵里「心配しなさんな。何のためにハンヴィーを二両も用意したと思ってるの」


真姫「また想定の内だって言うの? バカにするのもいい加減にして!」


真姫「予定外のことが起こり過ぎよ。このままじゃ大金をかけた計画が水泡に…!」


絵里「あのね」



絵里「この際だからはっきりさせておくけど」



絵里「あなたはスポンサー、私たちはソルジャー」



絵里「金は出しても口は出さないでもらえる?」



絵里「ボンボンの小娘に、実戦の何が分かるっていうのよ」



真姫「っ…」



絵里「…」フッ


絵里「そう焦らなくても、明日には私たちみんな大金持ちになってるわ」


絵里「この弾頭は予定通り、あなたの息のかかった病院に運び込む」


絵里「その後は政府を脅迫して、金をたんまりむしり取る算段だけど…」


絵里「やつらがすんなり要求に応じるかどうかまでは保証できない」


真姫「その時はどうするのよ」



絵里「そうね…その時は」



絵里「オトノキの南西部には向こう百年、草も花も虫も鳥も…人間すら」



絵里「新しい生命は何一つ芽生えなくなるでしょう」


【ROUND5 ハンヴィーチェイス】



花陽「レズ弾頭をオッコトシチャッタノォ!?」


海未「それを盗むのが私の上官の狙いです」


花陽「でもヘリ無しじゃ運べないんじゃ…」


海未「絵里なら別の策を用意してるはずです」




花陽「そっか…車だ」


花陽「ごつい車両が園内に侵入したって通報、これだったんだ…」


海未「しかしそんな車両で公道に出れば嫌でも目立ちます」


海未「人目につかず外へ出られるルートはありますか?」


花陽「うん。川に沿って下れば」


海未「道案内を頼みます」




ブロロロロロロロロ…ガタガタガタ



真姫「この揺れにこの狭さ……エコノミーより酷い乗り心地…」


雪穂「そら六人で乗ってますし」


亜里沙「アリサは好きですよ?みんなでギュウギュウするのも」


ヒデコ「でも流石に狭いよね、これ」



にこ「我慢なさい。フミコの方の車には二基の弾頭を積んだのよ」


にこ「重量を軽くするためにも、運転手以外はこっちに乗るしかないでしょ」



絵里「……」



にこ「あんた、さっきから静かね」




絵里「……ひた噛んじゃった」ヒリヒリ




海未「見つけました…!あの二両ですね」


海未「弾頭が積んであるのは先頭車に違いありません」


花陽「どうしてわかるの?」


海未「一言で言えば重量制限です」




海未「さ、ここから屋根に飛び移りますよ」


花陽「あ、待って…! 私が乗ると重量オーバーしちゃうかも」


海未「何をモジモジと…いきますよほら!」


花陽「ぴゃああああああああ――――」


ドッドツン!


フミコ「!!!」



花陽「きゃあああ!」ゴロゴロ


海未「小泉さん!」




花陽「やっぱり着地失敗しちゃいましたぁぁぁ」



海未「そのままフロントにしがみ付いてなさい!」



フミコ「くそ、邪魔!前が見えない!」


ヒデコ「おいおいなによあの二人!?」


亜里沙「空から降ってきた…」ハラショー


絵里「海未なのに空って…ふふっ」


真姫「笑ってる場合!? 何とかしなさいよ!」


絵里「クスクス…にこ、あのゾウリムシを撃ち落としてくれる?」


――パンパンパン!!!


海未(撃ってきた――)




絵里「ハァイ海未~」フリフリ




海未「っ、お返しです!」BANG!BANG!



チュインチュイン!


絵里「んー残念、ガラスも防弾よ。そんな豆鉄砲効くわけ」



――BANG!BANG!BANG!



ガギィン! ギィン!



絵里「……本当に大丈夫なのよねこれ」




海未(ッ、埒があきませんね)



フミコ「振り落としてあげるッ」ブォォォォン



海未「くっ…」



花陽「ダレカタスケテー!」



海未(かくなるうえは――)


ガチャ


海未「ドライバー交代です」グィ


フミコ「よ、よせ!うああああああああああ」ゴロゴロゴロ



ヒデコ「ッ!ブレーキ…」


絵里「ダーメ」グィ


ヒデコ「お、おいっ」



ブォォォォォォォォォ―――グシャッ



ヒデコ「っ…」


絵里「逃がさないんだから」


花陽「はぁ、はぁ…もう車のフロントに乗るのはこりごり…」


海未「お疲れのところすみませんが、運転を代わってください」


花陽「何するの?」


海未「しつこいお友達にお別れを言うんです」


雪穂「あの人荷台で何してるんだろ…」



海未「てや!」



ポリタンク(with発煙筒)『』ヒューン



にこ「ばっくだん!?」


絵里「停めて!」



――BOOOOOOOOOM!!!!


ゴォォォォォォォゥ


雪穂「うわ゛燃え燃えだぁ!」


ヒデコ「早く降りて!爆発するかも」


真姫「ひぇぇ」ガチャ



亜里沙「お姉ちゃんは!?」


にこ「まだ中に…」




絵里「…ふん」ウデグミ


絵里「ちょっとはやるじゃない、海未」


絵里「さて、消火器はっと」ゴソゴソ


ブシュウウウウウウ


ヒデコ「クソ、早く消して!」


真姫「言わんこっちゃない!弾頭を二つとも奪われるなんてこのポンコツ!」


にこ「」ピキピキ



絵里「賢さとカルシウムが足りてない子には好きなだけ喚かせとけばいいわ。どうせあの子たちは遠くへ行けないんだから」



絵里「海未…手の内が読めるのはお互い様よ」



絵里「ここまではドローね。次のラウンドが楽しみよ」


【ROUND6 廃坑道】


海未「燃料タンクを撃たれていたとは…」


海未「お陰でガス欠です」


花陽「しばらくここに隠れましょう」


花陽「ここは閉鎖された銅山への入口なの」


海未(その割にチェーンが新しい…最近誰かがかけ直したような)



海未「ときに小泉さん。西木野ホスピタルの所在地をご存知でしょうか」


花陽「ここから西にずうっと行った町にある病院だけど…」


海未「ハンヴィーの車内にそこの医師のネームプレートが落ちていたんです」


海未「なにかの手掛かりになればと思ったのですが…」


海未「私の勘では、あと数分もすれば絵里がここにやって来るでしょう」


海未「弾頭を降ろすのを手伝ってください。彼女にぎゃふんと言わせてやります」









ブォォォォォォォォ


真姫「やつらの行き先は分かってるの?」


絵里「私たちと同じはずよ。勘だけどね」


真姫「またテキトーなこと…」


絵里「それじゃ答え合わせしてみましょうか」


絵里「向こうの車にテレフォンショッキングよ」ピポパ



『ガー…ブブッ……園田大尉、応答願えるかしら』



『――――私の可愛い相棒さん? 拗ねてないで声を聞かせてよ』



カチッ


海未「相棒ですって? よくもぬけぬけと」



海未「こちらを殺そうとしておいて…貴女との友情は終わりです!」



海未「この音が聞こえますか?」ピッピッピッ…ブーッ



海未「知ってるでしょう。弾頭の起爆に必要な暗証コードを三回打ち間違えるとどうなるか」



海未「貴女が坑道で回収するのは自分と同じ、全ての回路がショートしたポンコツの鉄クズです」ピッピッピッ…ブーッ



『………海未、やめなさい』



『取引しましょう。仲間になりなさい』



海未「死んでもお断りですよ…!」ピッピッピッ



ブーッ



花陽「よかったこれで…」




【起爆セット完了】




花陽「なんでェ!?」




【開花まであと29:57】




海未「これは…」



『……引っかかった♪』



『まっすぐなやり方が最善とは限らないって教えたわよね?』



『私が細工しておいたの。どのボタンを押してもタイマーがセットされるように』



『最初の一発をそこで起爆させるのは計画通りなのよ』



『そうしなきゃ、私が本気だってことがお馬鹿さんたちに伝わらないでしょ?』



『マヌケ共の目を覚まさせるにはキツめのモーニングコールかもしれないけど』クスクス



花陽(なんて人…!)


『親友としての忠告よ。恥ずかしがらずに尻尾を巻いて逃げなさい』


『手遅れになる前に。そこはあなたがいるべき場所じゃない』



海未「……小泉さん」


海未「この坑道の深さは…?」


花陽「え…っと、確か600メートルだったかな…」




海未「絵里、いいことを思いつきましたよ」


海未「レズ弾頭は二本ともここで心中させます」


海未「地下深くに運んでしまえば、地上まで被害は伝わりません」




『――――賢いわね。でも間に合うかしら』




『今、私たちも到着したわ』


日曜洋画劇場


           ラブライブ!× ブロークン・アロー








リフト『』ゴウンゴウンゴウン


海未「早く、早く降りてください…!」


花陽「地図によればここが最深部ですっ」



花陽「あとは弾頭を乗せたこのトロッコを…おっ重いいい」キュラ…キュラ…



海未(こんな調子ではすぐ絵里たちに追いつかれて――)




絵里「見ーつけた♡」DoDoDoDoDoDo!!!!


花陽「ひゃあ!」グラッ


海未(トロッコが…!)



キュラキュラキュラ



絵里「お帰り」



ヒデコ「撃て撃てー!!」



ズダラララララララララッ!!!



海未「っ…多勢に無勢です、奥へ!」ダッ


絵里「ね? 簡単に取り返せたでしょ」


絵里「にことヒデコは急いで作動してない方を上に運んで」


絵里「亜里沙、雪穂ちゃんと先に行ってボートの用意をしておいて」


にこ「あんたは?」


絵里「私はあの二人を足止めしとくから。ほら行った行った」



絵里「」チラッ



【開花まであと20:00】



絵里「フフ…」


海未「小泉さん、もう一度貴女の銃を」


海未(ハンヴィーの敵から奪った銃とこれで)


海未「ここで絵里と勝負をつけます…!」チャカッ





――BANG!BANG!BANG!



          DoDoDoDoDoDoDoDo!!!!!―――    





海未「はああああっ!!」BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!



絵里「あはっ♪」DoDoDoDoDo!!!!!





――ドォンドォン!  
           ズ゙ガガガガガガ…   






チャリンチャリンチャリン…



海未「はぁ、はぁ…」ガチャリ



海未(充満した硝煙で何も見えません―――が)



海未(確かに感じます……この壁の反対側に、彼女の存在を)



海未(私と同じように…岩に背を預け、弾倉を交換している…その息遣いまで)


―――――――――――――――――――


絵里「あーっ、あーっ」シュウウウウウウ


絵里「ねえ、鼓膜がキンキンしてない?」


絵里「つい楽しくって撃ちすぎちゃった。洞窟で撃ち合いなんてするもんじゃないわね」


絵里「それにしてもズルいわよ? 二挺拳銃に横っ飛び撃ちなんてカッコよすぎ」


絵里「どこで覚えたの? まるで映画のヒーローじゃない」


―――――――――――――――――――


海未「…それはどうも」


―――――――――――――――――――


絵里「………でもね」


絵里「私は、あなたの本質を知ってるわよ」クスッ


絵里「あなたのことを仲間に誘いたかったのは本当よ」


絵里「でもしなかった。強い正義感の持ち主だから?」


絵里「違うわ。私の知っている海未の本当の姿は、一羽の臆病な白ウサギ」


絵里「自信も思い切りも足りないから、ここ一番で勝負を決めることができない」


絵里「肝心な局面で臆してヘマするような仲間は要らないわ」


絵里「だから誘わなかったの。海未聞いてる?」


海未「…そちらの狙いは読めてます」


海未「挑発からのカウンターは絵里の得意技ですから」


海未「ついでに貴女の最終プランも」


海未「西木野ホスピタルの同性愛科に弾頭を隠すつもりですね」


海未「そこなら衛星のレズ波探査を誤魔化せ、町の住民を人質に取れる…でしょう?」

―――――――――――――――――――

絵里「…お利口さんね」クスッ

―――――――――――――――――――

海未「目的は金ですか」

―――――――――――――――――――

絵里「政府を脅して優雅な引退生活。悪くないでしょ?」



海未「違いますね」


海未「優秀で誇り高い貴女は、実力がそのまま評価されない現状に我慢できなかった」


海未「たとえ金を受け取れなくても、上層部に一泡吹かせてやれればいいと考えているのでは?」

―――――――――――――――――――

絵里「……」

―――――――――――――――――――

海未「自分は出来る人間だということを証明したかったのでしょう?」


海未「私に言わせればそんなものは」


海未「自分の思い通りにならなくて喚く駄々ッ子と変わりません」


海未「学校やラブライブの会場で銃を乱射するような連中と同類。KKEが聞いて呆れますよ!」

―――――――――――――――――――

絵里「ッ…!」


ヒデコ「」コソコソ



花陽「危ない、後ろ!」



海未「!」クルッ



ヒデコ「おら!」っ手榴弾




絵里「ハラショオオオオオオ」DoDoDoDoDoDoDo!!!!



海未「っ…!」サッ



ヒデコ「ぐわああああああ!!???」っ手榴弾ポロッ



絵里「あ」



海未(マズい…!)



海未「てやぁ!」バシーン




ドォォン! ガラガラガラ…


花陽「すごい…空中で爆弾を蹴り飛ばすなんて」


海未「ですがリフトへ通じる道が…」


―――――――――――――――――――


絵里「海未!またこっちの勝ちね!」


絵里「弾頭の片割れは貰っていくわ。残された方のカウントも早めさせてもらった」


絵里「残り数分、せいぜいその子と仲良くしてなさい。じゃあね!」


【開花まであと03:15】


海未「くっ…絵里め!」


花陽「私たち…ここで死ぬんだね」



海未「…落ち着いてますね」



花陽「もう駄目って分かったら…力が抜けて」



花陽「最後ぐらいジタバタせず、静かに」



ゴ―…ゴウ――……―



花陽「………でも、アルパカさんのことだけは心残りです」



花陽「お腹空かせてるだろうなぁ……お水も欲しがって」



ゴウゴウゴウゴウ



海未「……この音は?」


花陽「そうですっ! 川がありましたっ」


花陽「銅山が閉鎖された理由は、掘り進めていったら川にぶつかったから」


海未「地図を見せてください。なるほど…こっちの方へ行けば」



【KEEP OUT】



海未「せい!」バキン



花陽「天然の滑り台みたい…まさかここを」


海未「いくんですよ、さあ!」


花陽「ぴゃあ!」ズルズルズル



ボチャァン! ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド


うみぱな「わあああああああああ」



――バラバラバラバラバラバラ


『A-RISEよ!そこの車、停止しなさい!』



真姫「話が違うじゃない!あんな武装ヘリに追っかけられるなんて!」


絵里「今考え事をしてるの。イライラさせないで」



にこ「で、マジにどうすんのよ?」



絵里「そろそろ時間よ。エンジンを切る」



真姫「正気なの!? 止まったら私たち全員…」


ボギャッ


真姫「かっ?!?」


絵里「シーッ、運転中はお静かに!」


真姫「っ…ぁ…」


にこ「あーあ」



真姫「」



絵里「あっけないわね。人を黙らせるのって」



絵里「ずっとあなたみたいな連中にこき使われてきた」



絵里「とうとう目に物見せてやれる日が来たのよ」








【開花まであと00:00】


ピーッ




カッ――



┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨



ツバサ「なに!?この衝撃は――」


あんじゅ「大地が波打ってる!」


英玲奈「そ、操縦不能!墜落する!」



ツバサ「なっ――きゃああああああ!」



―――K a B O O O O M !



絵里「見た? 今の落ち方見てた!?」


絵里「あんなの、映画でも見たことないわ!」


にこ「あんた楽しそうね」


にこ「ま、面白かったけど。A-RISEなのに墜落するなんて」


絵里「ふふっ、爆発時に発生したEMP(電磁パルス)の威力よ」


絵里「この車みたいに対策がされてない電子機器は全部オシャカ」


絵里「爆発が地下なのが惜しいわね。地上ならでっかい白百合の花が拝めたのに「それ死んじゃうから」



【ROUND7 河川】


ザァァァァァァァァ


海未「ぷはぁ」


花陽「げほげほ」


海未「岸へ…!」



花陽「…ぅぅう」


海未(ショック状態ですね)



花陽「咲いちゃいけない花を…咲かせちゃった…」


花陽「わた…ちが爆発……たようなもの……うしよぅ……」ブツブツ



ギュッ


海未「落ち着いて。ゆっくり息を吸って」


海未「今、前方を飛んでいるものが見えますか?」


花陽「…ハトのつがい」


海未「銅山がレズ波を遮ってくれた証拠です」


海未「もし地上に漏れていれば、あらゆる生物はレズとなって根絶やしになります」


海未「だから…その、とにかく安心してください」


花陽「園田さん…」


花陽「……手は冷たいけど…優しいんだね」


海未「貴女も、あったかいですよ」









花陽「随分下流まで流されちゃったみたい」


海未「!――隠れて」


海未「あそこでボートの番をしているのは絵里の一味です」


海未「ということは」



絵里「亜里沙に雪穂ちゃん、ボートの準備ご苦労様」


亜里沙「遅かったね。またお邪魔されたの?」


絵里「ええ。でももう解決し―――?」サッ


花陽(こっちを見てる…)


海未(まさか…気付かれた?)




絵里「……」


にこ「どうしたの」



絵里「いえ…なんでもない」



絵里「弾頭を運んできましょう。川下りよ」





海未「全員で何処かへ行きました。チャンスです」


花陽「このボート壊しちゃうの?」


海未「いえ、拝借します」


海未「今エンジンを…」



「漕げよー漕げよーボート漕げよ~♪」「モーターボートでしょ」ガサガサ



花陽「も、モドッテキタヨォ?」


海未「川に飛び込んで!」ボチャン



花陽「ぁ…う…えっと…!」



花陽(今から…ダメ、音が聞かれ…)



花陽(こ、この中に…!)ササッ


雪穂「そろそろ基地の方へ脅迫ビデオが届いてる頃かな」


絵里「いよいよ最後の仕上げよ。みんな気を抜かないで」


にこ「出発しんこー」



ドロロロロロロロロロロロロロ…




海未(行ってしまいました…)チャポン


海未(小泉さん……まさか、ボートに乗ったまま…?)



花陽(あぅぅ…私のバカぐずのろま!)



花陽(大変なことになっちゃった…)



花陽(どうか見つかりませんように…!)



~~~~~~


『午後2時までに2000億円を用意させなさい』


『金を渡さなかった場合は…こうよ』


『ザァァァァァ―――』


穂乃果「あれ、映像が途切れてるよ?」


ことり「刺激の強い内容だったから…カットしました」


ことり「もし弾頭を使われたら…被害は半径50キロで25万人」


ことり「さらにその倍の人数が、一年以内にレズを発症します」


ことり「男の人も女の人も、動物も植物も…生きてるものは全部」


穂乃果「大変だ…」



ピーッ


「東條中佐より連絡が入ってます」


「鈴湖付近で、園田大尉を保護したと」


希「海未ちゃんご苦労やったね。あとはウチらに任せて」


ことり「湖の対岸でボートが見つかったの」


ことり「そこからトラックのタイヤ痕が西へ向かう道路にまで」


ことり「あなたの話とも合致するよね」


希「今基地中の兵士とヘリがトラックの捜索に出払ってるんよ」


海未「……」


ことり「さっきから地図とにらめっこしてどうしたの?」



海未「どうも腑に落ちません」



海未「検問だらけの陸路を突っ切るような無謀…スマートな絵里らしくない」



海未「私が彼女なら鉄道を使います」



ことり「でもこの線路は西の町を通らないよ?」


海未「病院のネームプレートもタイヤ痕も、彼女の得意とする引っかけだとしたら」


希「西へ行くと思わせて…本当はこっち、東カンダーか」


希「エリちならあり得るね」


海未「至急捜索隊を呼び戻してください」


希「それがなぁ…EMPの影響で無線が使えなくて」


海未「では私たちで行きましょう」


ことり「いけませんっ」


ことり「あなたのことは基地へ連れ戻せと命令が」


ことり「線路のことだって深読みし過ぎだと思うけど…」


海未「彼女のことは私が一番よく知ってます。私には分かるんです」


ことり「…随分その人を買ってるんだね」



海未「絵里は…私の目標でした」


海未「彼女の様になりたいと思い続けてきたのに…こんな形で裏切られるなんて」


海未「弾頭を盗まれたのは私の責任です。私がやらなくちゃいけないんです!」


希「よっしゃ」




希「ヘリはウチのを使って」


希「責任もって海未ちゃんをエリちのとこまで届けるよ」


ことり「中佐…!」


希「今この場で一番偉いんは誰かなー?」


ことり「うぅ…ズルいよぉ」



ことり「…頑張ってくださいね」



海未「二人とも…感謝します」



【FINALROUND 貨物列車】


ガタンゴトンガタン…


雪穂「アンテナのセッティング完了しました」


雪穂「これで貨物室の弾頭は、このリモコンで遠隔でも操作できます」


絵里「手際のいい仕事って大好きよ」


絵里「亜里沙、政府に弾頭の行き先は東カンダーだと伝えて」


絵里「にこはヘリのカバーを取って離陸準備を」


絵里「五分後に飛び立つわ。弾頭のタイマーを作動させて」


絵里「入金を確認したら…その時はこれで解除してあげる」




花陽(バレずにここまで来ちゃったけど。私一人の手に負えないよねこれ?)


花陽(いや…いつまでも怖がってちゃダメ。あの人なら…!)


【貨物車】


雪穂「~♪」カタカタカタ



花陽(弾頭を弄ってる…今がチャンス?)


花陽(はっ…花陽は今銃を持っていないんでした)



花陽(……このハンマーで)ソッ


花陽「ええぇい!」



雪穂「おっと」ピタッ


花陽(指二本で止められた!?)


雪穂「気配には気付いてたよ。自分と同じメガネキャラだからって弱いと思った?」


バシーン!


花陽「あぅぅ…!」


雪穂「こー見えても軍人一家の生まれなんだ」


花陽「うぅ、ゲホッ」


雪穂「銃…は飽きたな」


雪穂「ナイフにしよっか……いや、やっぱりこの親指で」




花陽「ハンマーなんてどうでしょうっ」ブンッ



ヒュルルルルル――ゴチン!


雪穂「ふぎゃッ」コテッ




花陽「はぁ…はぁ…メガネだから弱いと思いましたか?」


花陽「公園監視員を舐めないでください」


花陽「銃は頂きます」ゴソゴソ


花陽「ついでにそちらの知識も貰えればいいのに」


花陽「これどうやって解除すれば…」




にこ「そこまでよ」チャキッ


花陽「――!」



絵里「わざわざご苦労様」


絵里「でもね監視員さん。ここはあなたの管轄外じゃなくて?」


絵里「一人で来たんだ」


絵里「度胸あるのね。海未には見捨てられた?」



花陽「…彼女は勇敢な人です」



絵里「みんな勘違いしてるのよね。あの子意外とヘタレなのよ?」


絵里「あなたはどっちかテストしてあげましょうか」ツツー



花陽「っ~~!」ゾクゾク



絵里「フフ…ひんやりしてるでしょ?この銃身」


絵里「撃てばたちどころに熱くなるの、感じてみる?」


絵里「さあ…あなたのせいで中断した作業を完了させるの」


絵里「暗証コードを押して。最初は…2のボタン」ツー



花陽「うぅ…ぐすっ」


絵里「いい子ね。次は1よ」ツツツ



絵里「どうしたの、押して…押すのよ」グィ



【1021:起爆スタンバイ】



絵里「仕上げに、エンター」



花陽「っ……」ポロポロ



絵里「ほらもうひと踏ん張りよ。頑張って」





花陽「くぅ…!」ポチッ


【キャンセル】


絵里「ハラショー…どうやら勇気は本物みたい」


花陽「どうせ死ぬんです…他の人を巻き込む気はありません」


絵里「そう。だったらサヨナラ、サヨナラね」


花陽「近いうちにまた会うことになると思いますよ」


絵里「…言うじゃない」



絵里「にこ! 貨車の扉を開けて!」



絵里「せめて土の上で死なせてあげる」



ガラガラガラ――ビュウウウウウ


絵里「ダスビダー……っ!」



バラバラバラバラバラ――!



にこ「ヘリ!いつの間に」


花陽「あ…」



海未「もう逃がしませんよ絵里!」チャキッ



絵里「海未…」


絵里「やっと、私に追い付いたわね」クスッ



花陽「ぴゃい!」バッ



にこ「あいつ、外に逃げ」



――DoDoDoDoDoDoDo!!!!



にこ「ちっ」サッ




絵里「海未いいいいい!!!」ダララッ!ダララッ!ダララッ!



海未「はぁぁぁッ!」DoDoDoDoDoDoDo!!!!



絵里「ぐあ…ッ」


にこ「絵里!?」



絵里「腕にカスっただけよ、扉閉めてッ」


ゴォゥゥゥゥゥゥゥゥ


花陽「くぅぅ…!」ヨジヨジ



海未「花陽が列車の外壁に!」


海未「中佐、もっと近付けてくさだい!」


希「飛び降りる気?」


海未「彼女を助けるにはそれしかありません!ロープを借ります!」



海未「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」バッ



ダンッ


海未「さあ、これに掴まって!」


花陽「うんっ」




絵里「今よ、動けない二人にありったけの弾を」



希「援護はまかしとき海未ちゃん」バラバラバラ



にこ「ふん、射手がいないヘリなんて怖くもなんとも」



希「悪い子たちは散髪しちゃる!」



バラバラバラバラバラ――!!!


にこ「ちっか」


絵里「伏せて!ローターに巻き込まれるわよぉ!」




バラバラバラバラバラ――バズン!ズバズバズバ




にこ「なっ」



亜里沙「アンテナを壊されちゃった…」



絵里「それだけじゃない…私たちのヘリに傷まで」


亜里沙「テイルローターが…これじゃ飛べないよぅ」


にこ「畜生、よくもやってくれたわね!」DoDoDoDoDo!!!!



ブーッブーッ


希「流石に無理しすぎたか…エンジンの調子があかん」


希「ウチに付き合えるのはここまでみたい…海未ちゃん幸運を!」


亜里沙「ヘリは追い払えたけど」


にこ「これじゃ手動でタイマーをセットしても30分以内に逃げ切れない」



にこ「計画を見直す必要があるわ」



絵里「…海未を探して。あの二人の排除が最優先よ」


ガタンゴトンガタンゴトン…


花陽「助かりました」


海未「貴女を巻き込んでしまってすまないと思っています」


海未「同じように、無辜の市民が暮らす町へこの列車を辿り付かせるわけにはいきません」



海未「花陽は貨車の連結部を切り離しに行ってください」


海未「私は残って、彼女との決着をつけます」



花陽「…また会えるよね?」


海未「そちらも、どうか無事で」



うみぱな「」コクッ


【タイマーセット】



絵里「……」



絵里「こうなったら派手にいきましょう」ピッピッ


ピーッ


【開花まであと05:00】


にこ「アンタなにやってるのよっ?」


亜里沙「お姉ちゃん!?こんな話聞いてないよ」



絵里「…」ニッ


にこ「タイマーを解除して、早く!」チャキッ



絵里「人間いつかは命を捨て去る日が来る。問題はその捨て方だと思うの」


絵里「味気ないのは趣味じゃないのよ」



にこ「ふざけんなっ!にこはまだ死ぬつもりは」



絵里「もうすぐ鉄橋よ。下の川に飛び込んでそれから必死に逃げれば?」



亜里沙「あわわ…お姉ちゃんがおかしくなっちゃった…」




「その通り!絵里、貴女はイカれてます!」


ゴトン!


亜里沙「壁に誰か取り付いてる!」


絵里「海未よ!」ダララッ!ダララッ!


にこ「クソ!」DOM!DOM!DOM!




ドガァン!バキンバラバラ…




雪穂「」ブラーン




亜里沙「ユキホ!?」


絵里「しまっ」




海未「“引っかけ”ですよおおおおおおお」ゴォォォォォ


海未「てやぁ!」


にこ「ぐえっ?!」バキン


にこ「にごぉおおおおお゛お゛お゛お゛お゛お゛っ」ヒューン




――――ボチャァン




絵里(貨車の外壁に引っかけた囮に注意を惹き付け、反対側からラペリングで突入するなんて)



絵里「ハラショーよ!今のはいいフックねっ、見直したわ!」ダララッ!ダララッ!



海未「待たせましたね!決着をつけましょう」DOM!DOM!




絵里「海未ッ――!」ダララッ!ダララッ!ダララッ!


海未「絵里ぃぃぃ!!」DOM!DOM!DOM!


―― チャキッ


絵里「…弾切れでしょ?」


海未「そちらこそ…」




絵里「私には必殺のクロスカウンターがあるもの」スッ


海未「…それは弾頭のリモコンですか」


絵里「これを賭けて残り三分、最後の1ラウンドを楽しまない?」


海未「ここで昨日の続きを…?」



絵里「昨晩…いえ、ずっと前から預かりっ放しの二千円札」ピラッ



絵里「これもアンティするわ。勝者の総取りってことで」



海未「」ジリッ…



絵里「ほら時間がないわ。ゴングよッ――!」




ガタンゴトン…


花陽「あった、連結部」



花陽「これを外して…ううう゛う゛ん゛」ギィィ



ガチャコン



花陽「はぁ、はぁ…よかった、これで…!」




花陽(貨物車が離れてく……あそこで二人は今も)



キキィィィィィィィィィィィ―――――!!!!!!




花陽「わ゛わ゛っ??」グラッ



花陽(先頭車が止まった!? 誰かがブレーキを)




亜里沙「ごめんなさい!もう付き合いきれない、うわーん!」ピュー




花陽「……大変、このままじゃ貨車がこっちに突っ込んで…!」


【開花まであと01:37】


絵里「シッシッ、ッシィ!」


海未「くっ…」



絵里「ほらほらどうしたの、防戦一方じゃない?」


海未(威力もキレもケタ違いです…!)



絵里「初めて会った時に分かったわ。あなたにはハングリーさが欠けてるって!」


絵里「所詮いいとこ育ちのお嬢様なのよッ。厳しい鍛錬を積んでもどん底を経験したことがない!」


絵里「謙虚で堅実って言えば聞こえはいいけど、自分で自分の可能性を狭めてるだけッ」


絵里「折角の能力も生かしきれず……生涯、人生の本当の熱を感じれずに終わる」


絵里「ここぞという場面で勝ち切ることのできない、噛ませ犬の一生よ」





絵里「最近は格闘技でも何でも、血が出すぎたら止めが入る」


絵里「違うでしょ? 人生って、そんなものじゃないはず」


絵里「昔のボクシングみたいに百ラウンド以上、肺が己の血に浸かっても戦い続けなきゃ!」


海未「貴女は脳を揺らされ過ぎておかしくなったんです!」


絵里「かもねっ」



絵里「おら、ガラ空きよッ」


海未「ぐぅ゛っ…!」



海未「っぐ……ハァ、ハァ…」



絵里「そうよ。歯を食いしばって、もっと血を流しなさい」


絵里「それが生きてるってことよ」


海未「…今のパンチは効きました」


海未「お陰で目が覚めましたよ」



海未「大それたことをやろうだなんて考えたことはありません」


海未「ただ、身の回りのことを粛々と。それだけで満足でした」



海未「ですが…私は私の世界を守るため…貴女に勝ってこの国を救います!」


絵里「そうよっ、デカいことしましょ? 一緒にやれないのが残念だけど!」



うみえり「はぁぁぁぁぁあああ!!」


【開花まであと00:25】


海未「ふッ、たぁ、とぉ!」


絵里「へ、それでいいのよッ」



【開花まであと00:19】


海未「」スッ


絵里(フェイント…!)



【開花まであと00:16】


海未「すぁ!」


絵里「うぐっ…」


海未「おおおああアッ」



【開花まであと00:10】


海未「せい!すりャ!てやぁ!ハァァ!」


絵里「がっ、はッッ…ッ」フラフラ


海未「貴女のK.O.負けです!」



海未(リモコン…!花陽から聞かされたコードは1021)



「海未ちゃん逃げてええええええええっ」


海未「!」



隙間から、貨物車が燃料缶を満載した先頭車の後部に迫っていくのが見える。

衝突と起爆まで、あと二秒――



海未「うおおおあああああっ」



貨車の出口へ飛び込みながら、宙で身を捩ってリモコンを突き出した。


次の瞬間、追突の衝撃で貨車は大きく揺さぶられ、
固定されていなかった弾頭がまるでミサイルの様に射出され――


絵里「…」ニッ


よろよろと起き上がった彼女はそれを避けるでもなく、ただ挑発的な笑みを浮かべ両手を広げた。


紛失弾頭〈ブロークン・アロー〉――折れた矢の先端が旧友の身体を貫いた刹那


紅蓮の彼方に全てが消え去り、何も見えなくなった。



―――――

――


ゴォォォォォォォ


海未「ぜぇ、はぁ」


海未(どうやら弾頭の爆発は免れたようです)


海未「すぐ回収班を呼ばないと…ん?」


海未「これは…」




海未(二千円札…黒焦げですが)



海未(思えばこんなになるまで、何かを取り合ったことなど初めてかもしれません)




海未「…私の勝ちですね」





「止まって!」


花陽「ゆっくりこちらに振り返ってください」


海未「また手錠をかけに来たんですか?」クスッ


花陽「そうです。手を出して」



花陽「小泉花陽です」




海未(そういえばまともに自己紹介もしてなかったことと)


海未(昨晩は、差し出された右手をすげなく振り払ったことを思い出して)




海未「園田海未と申します」


海未「お手柔らかにお願いしますよ」




海未(私たちはがっちりと、固い握手を交わしたのでした)



FIN

以前某所で投下したものの修正版です
丁度昼に放送してたパロ元を観てエリチカボルタを
もっと茶目っ気ある悪役に書き直したくなってこうなりました

お目汚し失礼しましたおやすみなさい

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