男「……」
青年「……」
案内係「では、面接番号3番の方、面接室にお入り下さい。4番の方はもう少々お待ち下さい」
男「はい」スッ
青年「頑張って下さい!」
男「ええ、あなたも。面接では自分の全てをさらけ出しましょう」
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男「失礼いたします」
面接官「どうぞ、おかけ下さい」
男「……」スッ
面接官「えー……前職は公務員をなさっていたと」
男「はい」
面接官「公務員といえば、なるのも大変ですし、安定しているイメージがありますが」
面接官「失礼ですが、なぜお辞めになったんです?」
男「己の職務を……果たせなかったからです」
面接官「職務を、ねえ」
面接官「ようするに、仕事で失敗したから辞めてしまったということですか?」
男「そういうことになります」
面接官「責任を取ったといえば聞こえはいいですが、結局逃げてしまったということですよね?」
面接官「失敗したまま逃げるというのは社会人失格では? 成功するまで頑張るべきだったのでは?」
男「まったくもっておっしゃる通り」
男「この件については、なんとお詫びしたらいいか、本当に申し訳ありません!」
面接官「いや、私に謝られても困るんですけどね」
男「失礼しました、つい……」
面接官「前職を辞してから空白期間があるようですが、何をなさっていたんですか?」
男「自分探しを……していました」
面接官「は? 自分探し?」
男「はい」
面接官「お遍路でもなさったんですか? それともインド旅行?」
男「いえ、そういうのではないのですが」
面接官「すみません、もう少し具体的にお願いします」
男「私は前職で、ある仕事をやり遂げられませんでした」
男「その結果、自分自身というものをすっかり喪失してしまったのです」
男「だからそれを取り戻すため、私は仕事を辞め、時間を作ることにしたのです」
面接官「あの、具体的にとお願いしたのに、ますます分かりにくくなりました」
面接官「もっときちんと説明をお願いします」
男「……承知しました」
男「実は私は元刑事なのですが……」
面接官「弊社は警察官OBも多数在籍していますからね。珍しいことではありません」
面接官「ただし、それを話したところで面接で有利になることはありませんよ」
男「存じています。えー、話を戻しますが、私はある事件を追っていたのです」
面接官「ほう、どんな?」
男「ある一家の……殺人事件です」
面接官「ほう」
男「父親と母親、そして娘さんが殺害されるという大変いたましい事件でした」
面接官「!」
男「遺族となった、娘さんと同い年の妹さんの悲痛なインタビューは今でも心に残っています」
男「犯人が遺体に線香を捧げるという特異性も話題になりました」
男「おそらく強盗目的の突発的な犯行で、犯人も罪悪感を抱いたのでは、などと分析されました」
面接官「……待て」
男「しかし、この事件は警察の懸命の捜査にもかかわらず」
面接官「よせ……!」
男「迷宮入りとなってしまったのです」
面接官「やめろ!」
男「私はこの事件の担当刑事だったのですが、迷宮入りさせてしまった自分を許せなかった」
男「そのため刑事を辞め、犯人探しに生涯を捧げることにしたのです」
男「そして、ついに……」
面接官「あ、あのっ!」
男「なんでしょう?」
面接官「まさか、見つけたというのですか……犯人を」
男「ええ、刑事の身分があっては出来なかった独自の捜査で見つけました」
面接官「……!」
男「今も、まさにこの近くにいます」
……
……
青年「失礼します!」
面接官「……」
青年「?」
面接官「……」
青年「あ、あの? うつむいたままじゃ、面接できないと思いますけど」
面接官「よくも……」
青年「?」
面接官「よくも、あたしをころしたな……」
青年「な、なにいってんです? これも面接なんですか?」
面接官「よくもあたしをころしたなああああああああああああっ!!!」ガバッ
青年「!!!」
青年「な、なんで……!?」
青年「お前は確かに僕が殺したはず……! 殺してしまったはず……!」
面接官「よくも、よくもぉぉぉぉぉ……!」
青年(いや待て、落ち着け! きっと他人の空似だ! そうに決まってる!)
面接官「あたしの胸を何度も刺した感触はどうだったぁ?」
面接官「最初はためらっちゃったんだよねえ、だから何回も刺すはめになったんだよねぇ!?」
面接官「あんな線香で弔いになるわきゃねえだろおおおおおおお!!!」
青年「あ、あああ……!」
青年「うっひゃあああああああああっ!」
青年「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」
青年「警察行って全て話します! 自首します!」
青年「だから……だから許して下さい! 成仏してくださぁぁぁぁぁい!!!」
面接官「……」
男(終わった、な……)
男「奴は自首しましたし、あの様子ならば自宅を捜査すれば有力な証拠が見つかるでしょう」
男「ご協力、ありがとうございます」
面接官「いえ……」
男「職を辞して犯人を見つけたはいいが、もはや私には奴を追い詰める手段がなかった」
男「そんな時、奴がこの会社の採用面接に応募し、さらにこの会社の人事部に被害者遺族がいることを知った」
男「被害者となった娘さんの双子の妹である、あなたが……」
面接官「……」
男「そして私は、この会社にいる警察OBのツテを利用して、面接の順番を奴の一つ前にしてもらったのです」
男「あなたに全て伝えて、奴を自首させるため、お姉さんの怨霊を演じてもらうために……」
男「本来なら、事前にちゃんと話して協力を仰ぐべきでしたが……」
面接官「いえ、これでよかったと思います」
面接官「面接中ではなく、事前にお話しされていたら、かえって冷静でいられたかどうか……」
面接官「自分で仇討ちしようとしていたかもしれません」
面接官「あなたもそれを危惧して、こんな形で私にコンタクトしたんでしょう?」
男「……まあ、そういうことです」
面接官「ありがとうございました」
面接官「これで……父と母と姉も、成仏できると思います」
男「あなたにそうおっしゃって頂けると光栄です」
男「私も……これでようやく自分の心の空白を埋めることができました」
END
このSSまとめへのコメント
こういうのおれは好きだぞ
がんばれ