【ガルパン】みほ「肉欲に溺れた悪魔」 (161)


※みほ杏注意

※微エログロ注意

※鬱展開注意


わたしはボコが大好き。

だって、ボコはやられてもやられても

どんなにボロボロになっても立ち上がるから。

それが、ボコだから。

わたしは、ボコにはなれなかったけれど。



わたしはボコが大好き。

やられても、やられても、立ち上がる。

わたしにはそれができない。

できないのなら、いっそ・・・。


けたたましい目覚ましの音が鳴り、わたしは急いで飛び起きました。

まだちょっと肌寒い季節だけど、布団をきれいに畳んで、服を着替えようとして。

そこまでして、ある事に気が付きました。


「そっか・・・」

わたしはその事実を噛み締め、思わず満面の笑みを浮かべてしまいます。

「もう、家じゃないんだ!」


わたしはもうこんなことをする必要もなかったんだ。

だって、戦車道のない、大洗女子学園へ転校してきたんだから!


鼻歌を歌いながら、わたしは制服に着替えました。

まだ糊のついた、新しい制服。

これにつつまれているだけで、なんだか新しい人生が始まったような気がするなあ。

登校しながら街にあるお店でも見てみようかな。

そんなことを考えながら、わたしは新居を後にしました。


・・・鍵、かけたっけ?


学校のチャイムが、お昼休みの到来をみんなに知らせました。

みんな、ワイワイと話をしながら各自食事をとりに教室を出ていきます。


・・・わたしを除いて。


朝は、はしゃいでて忘れてたけど、わたしって引っ込み思案なんだった。

お友達、これから作れるのかな・・・。

そんなことを考えていると、机からシャープペンが落ちてしまって。

それを拾おうとすると、つぎは消しゴムと物差しが。

そしてそれを拾おうとすると、今度は全てが机の下に落ちてしまいました。

なんだか、幸先悪いなあ・・・。

そんな風に思っていたわたしでしたが、

直後、それが杞憂だと思い知りました。


「ヘイ彼女! 一緒にお昼どう?」

後ろからそう声をかけられて振り向くと、そこには女の子が二人立っていました。

片方の子は少しギャルっぽいかな? 確か、武部さん。

もう片方の子は・・・。とっても美人で、おしとやかそうな人。五十鈴さん。

「ほら、沙織さん? 西住さん、驚いていらっしゃるじゃないですか」

「あ、いきなりごめんね?」

「あの、改めまして。よろしかったらお昼、一緒にどうですか?」

そこまで言われて、ようやく自分が誘われていることに気付きました。

「わ、わたしと、ですか?」

そう問いかけると、二人はにっこり笑って頷きました。



・・・考えてみれば、こんな風に話しかけてもらったのって、いつぶりだろう。

黒森峰の時は・・・。

・・・。

ううん、過ぎたことは過ぎたこと。

大事なのは、大洗でのこれからの生活だよね。


わたしの学校生活、うまくいくかもしれません!


お昼が終わって、わたしたちは教室に戻ってきました。

武部沙織さんと、五十鈴華さん。

二人が友達になってくれて、なんだか胸がいっぱいになっていました。

友達と食べるご飯はいつもの何倍もおいしくて、お腹もいっぱいでした。

午後の授業、眠くならないといいけど・・・。

わたしは、呑気にそんなことを考えていました。


そこに。

そんな朗らかな気分を吹き飛ばすような出来事が起こったのです。

思えば、その出来事さえなければ。

彼女たちとの出会いがもう少し違ったものであったならば。

結末も、少しは変わっていたのかもしれません。


三人の生徒が入ってきて、教室はにわかにざわつきました。


変な片眼鏡をかけた人。

なんだかほわほわした感じの人。

それから、小さいけど・・・。なんだか、とっても偉そうで、どことなく怖いオーラの人。


彼女らは教室を見渡していましたが、片眼鏡の人がわたしを指さすと、小さな人はこちらに向かって手をあげて

「やあ、西住ちゃん」

と、わたしを呼びながら近寄ってきました。


あたかも、旧知の間柄であったかのように、馴れ馴れしく。


・・・一体、誰だろう?

そう疑問を浮かべていると、武部さんが説明してくれました。

「生徒会長と副会長、それから広報の人」


どうして生徒会の人たちがわたしのところに来たんだろう。

にわかに湧いてきた不安と恐怖。

「あ、あの・・・」

わたしは、怯えながらそう声を出すので精一杯でした。


そんなわたしの態度にも一切構わず、広報の人は変な片眼鏡を光らせながら

「少々話がある」

と言って、わたしを廊下に連れ出しました。


「えっと・・・。話って、一体・・・」

嫌な予感がする。

わたしは、声を震わせながらも三人に対して問いかけました。

すると、生徒会長は、不敵な笑みを浮かべました。


後になって思えば、その顔こそが悪魔的な意味を持っていたのかもしれません。


「必修選択科目なんだけどさあ」

「戦車道取ってね」


生徒会長の口から紡がれたその言葉は、まさしくわたしにとっての死刑宣告であるかのように感じられました。


「え・・・。この学校には、戦車道の授業はないんじゃ」

手が、震えてきます。

「今年から復活することになった」

胃から何かが逆流しそうになってくるのを、無理やり飲み込みました。

「あの、わたし、この学校には戦車道はないと思って」

「わざわざここに転校してきたんですけど・・・」

眩暈と耳鳴りがさっきから止まりません。

「いやあ、運命だねえ」

生徒会長の腕に力が入り、肩を組まれていたわたしは引っ張られてしまいました。

思わずよろけるわたしを、生徒会長が支えました。

まるで、何かを暗喩するかのように、周囲からうかがえないよう、こっそりと。

しかし。

わたしにとって、そうした行動は不快なものにしか感じられませんでした。


なぜなら、この人が引っ張らなければ。

わたしはよろけることもなく済んだのだから。


「それに、必修選択科目って自由に選べるんじゃ・・・」

わたしの最後のささやかな抵抗もむなしく。

「とーにかくよろしくぅ」

わたしの背中を、思いっきり叩いて。

生徒会の人たちは去っていきました。


彼女らがみえなくなるまで、わたしは茫然と立ち尽くしていました。

立ち尽くしながら、わたしは、自分の視野が少しずつ失われていくのを感じていました。

そして。

彼女たちが完全に見えなくなったところで、我慢の限界を迎えました。


「う・・・、ぐ・・・!」


「み、みほ!! 大丈夫!?」

武部さんが駆け寄ってきてくれたのを、なんとなく覚えています。


「げ、げええええ・・・!!」


「西住さん!」


眩暈と耳鳴りと、全身の震え。

それらが頂点に達して。

わたしは、さっき食べたお昼を、すべて床に戻してしまいました。


ああ・・・、せっかく美味しいお昼ごはんだったのにな。


気が付くと、わたしは保健室に寝かされていました。

しばらくすると、武部さんと五十鈴さんがやってきてくれて、わたしに何があったのかを尋ねてきました。

わたしは二人に、事の顛末を話すことにしました。

戦車道を履修するように言われたこと。

わたしが西住流家元の次女であること。

戦車道から逃げ出してきたこと。

話をするたびに全身から汗が出て、再び胃の中のものを戻しそうになりましたが、幸い嘔吐することはありませんでした。


もう既に、戻せるものはすべて、廊下に戻し切っていましたから。



武部さんと五十鈴さんは、わたしの話に理解を示してくれました。

わたしは、そうした二人の反応が、本当に心地よく感じました。

やっぱり、この人たちはわたしを大事に思ってくれている。

そう心から思いました。


・・・この後すぐに、その思いも裏切られるのに。


それからのことは、あまり覚えていません。

というか、思い出したくありません。

体育館で反吐の出るような映像を見せられて。

友人二人はすっかり洗脳されてしまいました。

そして、あろうことか、わたしに戦車道を履修することを勧めてきたのです。

先ほど、戦車道の履修を拒絶するあまり、文字通り反吐が出た友人がいたという事実は、二人の中から消えてしまったようでした。




その晩、わたしは履修登録用紙を前に、暗澹たる心持で座っていました。

夕飯は当然、喉を通りませんでした。

そればかりか、無理して飲んだ水すらもすぐに吐いてしまいました。

トイレには何度駆け込んだことかわかりません。

戦車道。

その言葉は、ひときわ大きな文字で書かれており、履修用紙の上半分を占拠していました。

わたしの脳裏に、繰り返し、あの映像が流れました。


赤星さんたちの車両を助けに行って。

それで。

あろうことか、プラウダごときに。


その後のOGたちの反応も。

西住の、親戚たちの反応も。

お母さんの反応も。

お姉ちゃんの、逸見さんの、他の隊員たちの反応も。

思い出したくもないのに、鮮明に流れてきます。


全身の汗腺が開き、冷や汗が噴き出てきました。

さっきから、この繰り返しなのです。

シャワーを浴びたわけでもないのに、わたしの体はひどく濡れていました。

全て、わたしの汗でした。


・・・もう、考えたくないよ。


地獄のような思考から逃げるため、わたしはたいして興味もない香道に丸をつけ、シャワーで汗を流して布団に入りました。

・・・結局、一睡もできなかったけど。


次の日、沙織さんと華さんは、香道を選んだわたしを一切責めませんでした。

そればかりか、わたしと同じことがしたいという理由で、香道に選びなおしてくれました。


昨日知り合ったばかりのわたしのために、ここまでしてくれるなんて。

大切な友達。

改めて、わたしは二人のことをそう思いました。

同時に、昨日二人が戦車道を履修したいと言った時、二人を恨んだことを恥じました。

やっぱり、この二人は友達なんだ。

そう思うと、なんだか胸がすっとして。

お昼休みに入るころには、憂鬱な気分はなくなっていました。



ああ、わたしはなんて愚かだったのでしょうか。

あの人たちが、それをよしとする筈なんてなかったのに。



『普通Ⅰ科 2年A組西住みほ 普通Ⅰ科 2年A組西住みほ 至急生徒会室へ来ること』


悪夢のような呼び出しがあったのは、その日の昼休みの事でした。


「ど、どうしよう・・・」

呼び出しの内容は、考えるまでもありませんでした。

こうなると、あの人たちはきっと地獄の果てまででも追ってくるに違いない。

そうなったら、一体わたしはどうなってしまうんだろう。

そう思うと、全身ががたがたと震えだしました。

沙織さんと華さんは、わたしについてきてくれると言います。

わたしは二人に連れられて、生徒会室へと向かいました。



「これはどういうことだ」

生徒会室につくなり、広報の片眼鏡の人に詰め寄られました。

「なんで選択しないかなあ・・・」

生徒会長は、そう言ってうんざりとした表情を浮かべています。

やっぱり、この件での呼び出しだったんだ。

分かってはいたものの、改めてそれを認識すると、なんだか耳鳴りがして、

世界が徐々に遠くなっていくような感覚になりました。


沙織さんや華さん、生徒会の人たちが何やら言い争っているみたいです。

だけど、わたしの耳にはそれは全く入ってきませんでした。

わたしの周囲がぐらぐらと揺れ始めたように感じました。

思えば、単にわたしがぐらぐらと倒れそうになっていただけなのかもしれません。


「みほ!? 大丈夫!?」

沙織さんが心配そうにこちらをのぞき込んできました。

そんな沙織さんの姿を見て、わたしは。



「あ、あの。わたし・・・」

蚊の鳴くような声でした。


「戦車道だけは・・・」


「・・・やりません」


戦車道。

二度と声にも出したくなかった、その言葉。

わたしは弱弱しい声で、しかしきっぱりと、それを拒絶しました。


その後、案の定倒れてしまったわたしを、沙織さんと華さんは保健室に送ってくれました。

もっとも、朦朧としていたから、その辺りのことはあまり覚えてないんだけど。

気が付いた時には保健室でまた寝ていましたから、きっとそういうことなんだと思います。

何回もそんなことをしてもらったことに対して、かなりの罪悪感が湧き上がってきました。

だけど、これで戦車道をやらずに済む。

沙織さん、華さんにも、これ以上迷惑をかけなくて済む。

そう思うと、胸がすく思いでした。


明日からは、普通の女子高生として生活を送るんだ。

ちょっと遠回りになっちゃったけど、楽しみだなあ。

そんなことを思いながら、保健室を後にして、家路につきました。

なんだかうきうきして、足取りも軽かったです。


・・・次の日発表された必修選択科目の履修者名簿を見るまでは。


「え・・・? なんで・・・?」

沙織さんと華さんと、わたし。

三人の名前は、香道履修者の欄には無く。

戦車道履修者の筆頭に書かれていました。


生徒会長たちが希望用紙を書き換えたんだ。


そのことに気付くのに、それほど時間はかかりませんでした。


自分の状況に大いに絶望したわたしとは違い、沙織さんらの反応は目に見えて軽いものでした。

もともと戦車道をやりたがっていた二人ですから、形式的に生徒会を責める言葉は口にしたものの、それ以上のことは何も言いませんでした。

そんな二人を見て、わたしの中で、何かが吹っ切れました。



その後、戦車道の授業が始まって。

生徒会の人たちから戦車を探すように言われて。

戦車好きな、秋山優花里さんと出会って。

38(t)を発見して。

なぜだかもとからあったⅣ号に搭乗することが決まって。

とんとん拍子に戦車道の授業が進んでいくのが、なんとなく他人事のように思えました。

思えば、無意識のうちにわたしはわたしの心を守ろうとしていたのかもしれません。


だって、もしそんな出来事が、現実に、わたしの身に起こっていることだと知ってしまったら。

きっと、わたしの心は粉々に壊れてしまうから。


次の日、戦車を洗いました。

例によって、あまり自分に関係のあることのようには思いませんでした。

どうやら明日は教官が来るみたいです。

多分、蝶野教官が来るんでしょう。

あの人は、戦車道を新しく始める学校とか、そういうのが大好きだから。


蝶野教官は、わたしが西住の人間だってことは当然知っているはずでした。

だって、何度も家で顔を合わせてきたんだから。

それから、今までのことも、すべて。


昔のわたしのことを知っている人が来ることを思うと、すごく憂鬱な気分になってしまいました。

ボコを抱きしめて丸くなっていると、いつの間にか時計の針が5時を指していたのを覚えています。」


・・・当然、次の日は寝坊しました。


ギリギリ間に合いそうなタイミングだったんです。

だけど、間に合いませんでした。

登校中に出会った、ふらふらしている生徒を肩で支えながら登校したから。


見捨てる選択肢もありました。

だけど、こんな風にふらふらしているその子が、数日前のわたしのように思えて。

あまりいい思い出じゃないけど、あの時、沙織さんと華さんはわたしを支えてくれたから。

わたしも、誰かを支えてみたくなったのかもしれません。


「・・・この借りはいつか必ず返す」

そう言い残して、その生徒は校舎の中へと消えていきました。


まさか、その借りをあんなに早く返してくれるとは、その時は夢にも思いませんでしたけど。


「こんにちは!」

学園長のフェラーリを10式で踏みつぶし、蝶野教官がやってきました。


・・・やっぱり、この人が来たんだ。

分かってはいたことだけど、目を合わせたくなくて、思わず下を向いてしまいました。


だけど、蝶野教官はわたしの顔を見るなり

「西住師範のお嬢さまじゃありません?」

と、近寄ってきました。



西住師範のお嬢さま。


わたしが、一番捨てたい肩書き。


この人は、去年、黒森峰でどんなことがあったのか知っているはずなのに。

どうしてそんなことが言えるんだろう。

どうして、わたしに対して・・・。

・・・。


ぐっと、涙がこみ上げてきました。

もう間もなく、涙がこぼれてしまう。


そう思った時、それを知ってか知らずか沙織さんが手を挙げて。

「教官! 教官はやっぱり、モテるんでしょうか!」

無理やり話をそらしてくれました。


沙織さん・・・。

ありがとう、また守ってくれて。


戦車道のクラスが始まって以来、初めて温かい気持ちになりました。


「教官! 本日はどのような練習をやるのでしょうか?」

秋山さんが無邪気に質問しました。

これほど無邪気なら、楽しいだろうなあ。

「そうね、実戦形式の模擬戦、やってみましょうか!」


模擬戦。

正直、こんな素人集団にできるようなことには思えませんでした。


だけど。

ここで戦いの怖さを思い知れば、みんな戦車道なんてやめるかもしれない。


わたしの中に、そんな思いが渦巻きました。



「あの!」


役割をクジで決めようとしていたAチームのみんなに、わたしは声を掛けました。

「どうしました? 西住殿」

秋山さんがそう問いかけてきた後、わたしは呼吸を整えて、言いました。


「わたし、車長やってもいいかな」

それしか、勝つ方法はありませんから。


「本当ですか!? 西住殿がコマンダーの車両に乗り込めるなんて、感激ですぅ!!」

「みぽりん? 別にいいけど、その・・・。大丈夫なの?」

沙織さんが、心配そうな顔をしてこちらを見つめました。

「うん。平気」

沙織さんの心遣いに、少し心が痛みました。


わたしは、これから他の戦車道履修者の心を折ろうとしているだけなのに。

そんなわたしのことなんて、心配しなくていいのに。


「西住さんが指揮をしてくださるなんて、心強いです」

「ありがとう、華さん。それから・・・、みんなの役割も、今日はわたしが決めていいかな?」

「もちろんです、西住殿!」


勝つための役割。

どうすればいいのか少し考えて、すぐに決まりました。


「では、華さんが操縦手、沙織さんが通信手、秋山さんが装填手でお願いします」

「それだと、砲手がいませんが・・・」

「わたしが兼任します」

「大丈夫ですか? Ⅳ号は三人乗り砲塔なので、それをするには結構忙しいですよ?」

「大丈夫、砲手席から指揮を執るから」

「それなら構いませんが・・・」


操縦手はきっと誰がやっても同じ。

装填手は、きっと秋山さん以外無理。

砲手なんて、素人には絶対任せられない。

それから・・・、沙織さんには、できる限り危なくない仕事をやってもらいたい。


そんな思いで決定した役割でした。


「じゃあ華さん、マニュアルをよく読んでください」

「は、はい。ええと、イグニッションを入れて、それから・・・」

その後、何度か後ろに行ったりエンストしたりしましたが、なんとか安定して走らせることができたようでした。


決められた位置に到着し、しばらくすると教官から通信がありました。

『みんな配置についたわね? 戦車道は、礼に始まり礼に終わるの。一同、礼!』

「よろしくお願いします」


礼に始まり礼に終わる、か。

本当に、最後の礼で試合の中で起こったことがすべて終わるならば、どんなによかったか。


だってわたしは、戦車道の世界にある、礼節のかけらもないヘドロのような部分を見てしまったんだから。


『それでは、試合開始!』

ともあれ、試合開始です。

索敵のため、ハッチから顔を出して見渡すと、七時の方向に八九式がいるのを見つけました。


「七時の方向に敵影あり。砲撃します」

「あの、西住さん。砲撃って、わたくしは何をどうすれば・・・」

「大丈夫、砲塔が回るから。華さんは、わたしが撃ったら前進してください」

「は、はい。頑張ります!」


「西住殿、装填完了しました!」


八九式なら余裕で正面装甲が抜ける。

これは練習だから、相手に与える衝撃を減らすために、一番分厚いところを狙えばいい。


だけどわたしは、あえて装甲が薄いところを狙いました。

その方が、トラウマを植え付けられると思って。

視界を得るための、小窓を狙って。

「・・・発射」


周囲に耳をつんざくような轟音が響きました。

75mm砲を正面から弱点に食らった八九式は、一瞬で白旗を上げました。


『Bチーム八九式、走行不能!』

「す、すごい・・・」

「じんじんします・・・」

「なんだか・・・、気持ちいい・・・」


相手にトラウマを与えることを目的とした砲撃。

フェアプレイのかけらもない行動。

しかしそれは、戦車道に詳しくない彼女らには魅力的だったようでした。

しまったことをしたと気づいたのは、試合が終わってからの事です。


「華さん、そのまま前進してください。索敵します」

「は、はいっ!」

しばらくそのまま、わたしたちは道を進みました。


開けたところに出たと思ったところで。

思いがけない出会いがありました。


「あれは・・・、危ない!!」

なんと、人が寝ていたのです。

華さんに言って、車両を止めてもらおうとしましたが、間に合いそうにありません。


と、そこで。

その人がゆっくりと起き上がり、戦車に飛び乗りました。

「みぎゃ!」

飛び乗った時にこけて顔を打ったようですが、どうやらケガはなさそうでした。

「あれ、今朝の・・・」

さっき助けた、綺麗な子。


すると突然、沙織さんが通信手席のハッチを開けて

「あれ、麻子じゃん。どうしたのこんなところで?」

と、その子に声を掛けました。


どうやら、この子は冷泉麻子さんというそうです。

授業を抜け出して、サボっていたとのこと。

ちょっと変わった子だな、と思いました。

とりあえず、演習場にいると危ないので、中に入ってもらうことにしました。


その直後のこと。

後ろから轟音が響きました。


「何今の!? もーやだぁ!」

「あの音・・・、きっと三突の75mm砲ですね」

「六時方向にCチームか・・・。華さん、旋回ってできますか?」

「は、はい。やってみます・・・きゃ!」


華さんが、緩旋回を試みたときでした。

なんと、運悪くぬかるみにはまってしまったのです。


「す、すみません。あら? でも、これ、出られない・・・」

どうやら、よくない感じにはまってしまったようです。

「落ち着いて。何度か試してみてください」

そう言ってみたものの、どうもなかなか抜け出せそうにありません。

三突相手にこの角度は分が悪いから、角度を変えようとしたのに・・・。

万が一にも当たってしまえば、一撃でやられてしまう角度でした。


「どうしましょう、西住殿・・・」

「とりあえず、三突を撃ってみる。だけど、砲塔の旋回と相手の砲撃、どちらが先か・・・」


わたしが、唇をかみしめたときでした。

気づくと、さっきまでわたしの足元にいた冷泉さんが、華さんの近くに寄っていました。

「ちょっと代わってみてくれ」

「麻子!? あんた、運転できるの?」

「今マニュアル読んだからなんとかなる」

「なんとかって、あんた・・・」

マニュアルをちょっと読んだだけで、このぬかるみから抜け出せるわけがない。

わたしは浅い考えの彼女にいら立ちを感じました。


しかし、一瞬の後。わたしは、自分の狭量さを思い知りました。

「きゃ!」

「抜けたぞ。それで、どうすればいい、西住さん」

一瞬で、冷泉さんは操縦をマスターしてしまったのです。


とりあえず抱いたのは感謝の思いでした。

それから、困惑と、彼女の才能への嫉妬。

それらの入り混じった、複雑な感情が、わたしの心に浮かんで消えました。


「冷泉さん、このまま前進してください」

「わかった」

Ⅲ突が砲撃してきましたが、わたしたちがぬかるみから脱したことで難を逃れました。


「停止!」

Ⅳ号が、がくんと停止しました。

車体の動揺が収まると同時に、わたしは引き金を引きました。


轟音の後。

Ⅲ突から、白旗が上がりました。


『CチームⅢ号突撃砲、走行不能!』

「やったねみぽりん!」

「お見事です!」

「ありがとう。・・・あっ、12時の方向に敵! 秋山さん、装填急いで!」

「は、はいっ!!」


前から馬鹿正直に38(t)が突撃してきていました。


38(t)。

生徒会の戦車。

わたしをここまで引きずり込んだ元凶。

・・・いいでしょう、そんなにお望みだったならば。


戦車道をやることの恐怖を、満足するまで味わわせてあげる。


白旗判定の出ないように、何発も当ててやろうと決めました。


「冷泉さん、すこしだけ前に進んで停止してください」

「わかった」


冷泉さんに停止してもらった後。

わたしは、砲弾が弾かれるように角度をつけて。

何度も38(t)を撃ちました。

Eチームは、最初こそ何度か打ち返そうとしてきましたが、何度も命中させるうちに、戦意を喪失したように見えました。


「あ、あのう、西住殿・・・」

秋山さんが何かを言いたそうにしていましたが、聞こえないふりをして、撃ち続けました。


そして、しばらく弾かせ続けた後、少し手元が狂って、砲撃を正面から当ててしまいました。

38(t)から上がる白旗判定。

わたしは、なんだかもったいないことをしたなあ、と思いました。

もうちょっと、恐怖を与えておきたかったのに。

いくら跳弾したとしても、自分の戦車に砲弾が当たることは、初心者には十分な恐怖を与えられるから。


『DチームM3リー、Eチーム38(t)、走行不能! よって、AチームⅣ号の勝利!』

一年生たちのチームは、わたしが気づかない間に自滅していたようでした。

かくして、大洗女子学園での初の模擬戦は、我々Aチームの圧勝に終わったのです。


「みんなグッジョブベリーナイス! 初めてでこれだけ動かせれば十分よ!!」

蝶野教官が、全体に声を掛けました。

わたしたちとCチーム以外、ほとんど瞬殺だったんだけど。

最初にやられたバレー部チームと、自滅に終わった一年生チームは特に沈んだ顔をしていましたから、教官なりに気を遣ったのかもしれません。


「特に、Aチーム!」

蝶野教官から、わたしたちのチームは名指しで褒められました。

まあ、あれだけの圧勝だから当然かな。


これだけむちゃくちゃに蹂躙したから、もう誰も戦車道を続けようなんて思わないはず。

優越感と、達成感がわたしの胸を支配しました。

さて、あの人たちは一体どんな顔してるんだろう。

そう思って生徒会の方を見ると。



会長がこちらを見て笑顔を見せていました。



「・・・は?」


思わず、小さな声が漏れてしまいました。


なんで、なんで、なんで。

あんなに何発も当てて怖がらせてやったのに。

普通、一発でも当たれば怖くてくじけそうになるはずなのに。

なんでそれをやったわたしに、笑いかけることができるんだろう。

・・・文書の改竄までして、わたしの恨みを買っているのは知ってるはずなのに。

どこまで無神経なんだろう。


疑問と、怒り。そして多少の呆れと。・・・底が知れない彼女に対する、少しの。ほんの少しの、恐怖。

わたしの心では、そうした感情たちがせめぎあっていました。

すんげ―長いので今日はここまでになります。
書きあがっておりますので、どうか最後までお楽しみください。

既にお気づきでしょうが、この作品では、みほが原作にくらべてかなりというかめちゃくちゃ小物で嫌な奴になっております。
原作の聖人の域に片足突っ込んでるみほとの対比もお楽しみいただければと思います。

それでは、また。

こんばんは。

早くR18ゾーンに行ってほしいんですが、なかなかいきません。
あしからず。

では、投下します。


ともあれ、模擬戦が終わった後のことです。

Aチームのみんなとお風呂に入りました。

そこで、冷泉さんが正式にわたしたちのチームに加わってくれることが決まりました。


・・・あんな一方的で、下品な試合展開を見た後で、加わりたいと思うなんて。

大洗の人たちは、少し鈍感なのかもしれません。


次の日、わたしの予想と異なり、戦車道履修者は一人も欠けることなく集まっていました。

それも、珍妙に戦車の色を塗り替えたうえで。

嘗めているのか、と思いました。


その日の練習後、生徒会の人たちは、練習試合の告知を行いました。

相手は聖グロリアーナ。

言わずと知れた、四強校の一角です。

ああ、この人たちは戦車道を嘗めているんだな。

そう確信しました。


普通の神経をしていれば、突然四強校に試合を申し込んだりしない。

相手にも失礼だし。

もう、この学校の戦車道ごっこに何かを期待することはやめよう。

少なくとも、まともな対応を期待してはいけない。

そう、心に決めました。


その後、各チームのリーダーを集めて作戦会議が行われました。

練習の時もそうでしたが、河嶋先輩が暫定的に隊長のようです。

戦車を金色に塗って、的を外しまくるくせに、よくそんなことができるなあ・・・。


「・・・そして、丘の上からグロリアーナをたたく!!」

単純な囮作戦の概要を説明し、得意になっている様を見て、さらに滑稽に思いました。


聖グロリアーナがそんな簡単な策に引っかかるわけがない。

冗談は、片眼鏡だけにしてください。

そう思って下を向いていると、生徒会長が

「西住ちゃん、どうかした?」

と尋ねてきました。

・・・話しかけないでほしいなあ。

そう思いましたが、一応返事だけはしておくことにしました。


「いえ・・・」

「いいから言ってみ」

詰め寄られました。


いくらなんでも、今考えていたことをそのまま伝えるわけにはいきません。

オブラートに包んで、言うことにしました。

「聖グロリアーナは、当然こちらの囮作戦を読んでくるはずです。最悪、利用されて逆包囲されるかも・・・」

わたしがそう言うと、河嶋先輩は激高して

「わたしの立てた作戦に文句を言うな!! だったらお前が隊長をやれ!!」

と言ってきました。


わたしは、思わずカチンと来ました。

どれだけこの人は無能なんだろうか。


すると、会長が、場を収めようとするかのようなそぶりをして言いました。



「まあまあ。・・・でも、隊長は西住ちゃんがやったほうがいいかもね」


わたしは、絶句しました。

犯罪じみた方法で戦車道に参加させておいて、そこまでわたしに背負わせるのかと。

と、同時に。この場が、生徒会長に支配されつつあるのを感じました。

巧みな誘導と、オーディエンスの扇動。

ひょっとすると、先ほどの河嶋先輩のバカげた発言も罠・・・?

背筋に寒いものが走りました。


なんなのこの人・・・?

そう思ったわたしは。

「西住ちゃんがあたしたちの指揮とって」

会長が台詞を言い終わるなり。

「いえ、それは・・・無理です」

そう言って、断ってしまいました。


場が、静まり返ります。

「やっぱり、隊長は河嶋先輩のままで・・・」

正直、わたしが隊長をやった方がいいのは明白でした。

ですが、わたしはそれ以上に何かを背負いたくはなかったのです。


背負えば背負うほど、わたしに対して牙をむくものは多くなるから。

結局最後は、みんながわたしに矛先を向けることはわかっていたから。



・・・しかし、そこで。

それまで黙っていたカエサルさんが、口を開きました。

「まあ、先輩を立てようとする西住さんの気持ちはわかるが。しかし我らの中に戦車道経験者は皆無。これで戦えというのは、あまりに酷ではないか?」

すると、澤さんや磯部さんも

「わたしも、西住先輩の指揮がいいと思います!」

「西住さんの模擬戦の時のアタックにはしびれました!」

と、カエサルさんに同調しました。

「・・・で。ああやってみんな言ってるけど。どーする、西住ちゃん?」


もう、退路はありませんでした。


「・・・わかりました、頑張ります」


――――ああ、この人は。

一体どれだけわたしに苦痛を与えたら気が済むんだろう。

絶望が、わたしを包みました。


「整列!」

練習試合当日になり、わたしたち大洗女子学園と聖グロリアーナが対面しました。

聖グロリアーナのチャーチルとマチルダ。

硬い装甲が特徴の、歩兵戦車です。

対する大洗は、寄せ集めの戦車たち。

相手の戦車に有効なのはⅢ突だけで、あとは装甲を抜くのも一苦労。

その上、相手をバカにしているかのような塗装や装備も施されています。

正直、戦う前から結果は見えているようなものでした。


「突然の申し出にもかかわらず、練習試合を受けていただき、感謝する」

「構いませんわ。・・・それにしても、なかなか個性的な戦車ですのね」

相手の隊長、ダージリンさんは笑いをこらえるようにして言いました。


「それでは、一同、礼!」

試合が、始まりました。



結果的に、わたしたちは勝ちました。

途中、河嶋先輩の立てた作戦が全く功を奏さなかったり、一年生が逃げ出したりするアクシデントはありましたが。


市街戦に持ち込み、Ⅲ突にのぼりを外させて、チャーチルとマチルダを一両ずつ撃破させました。

チャーチルの装甲を抜くには、75mm短砲身では無理でしたから、八九式にⅢ突の前へとおびき出してもらったのです。

こんな初歩的な策にかかるあたり、ダージリンさんの指揮には付け入る隙があるのかもしれません。

そして、冷泉さんの走行技術で路地を逃げ回りながら、Ⅳ号でマチルダを三両。


完全に負けると思っていましたが、冷泉さんの想像以上の操縦能力と、華さんの集中力によって、何とか勝利を収めたのです。


試合後、艦に戻ろうとすると、一年生が並んで、逃げ出したことを謝罪しに来ました。

この子たちは、単純に戦車道のことをよくわかってなかっただけなんだ。

そう思うと、今まで彼女たちに少なからず感じていた苛立ちが、すっと消えていきました。

まあ、常識で考えればわかるようなこともわかってなかったみたいなのは問題だけど。

普通に考えて、砲撃の中、戦車の外に出たら逆に危ないでしょ。

その点だけは、少しお説教をしておきました。



誰かにケガをされると、その責任は隊長であるわたしが負わされるんだから。


その後、一人で艦を歩いていると。

会長がこちらに近寄ってきました。

「いやあ、なんとか勝てたねえ。お疲れさん」


なんとか勝てたねえ?

わたしの指揮が無ければ、なすすべもなく負けていたくせに。

自分たちは、とっとと履帯をやられて立ち往生していたくせに。

なんだか無性に腹が立ったわたしは、

「はい。最初から下手な囮作戦なんてしなければ、もっと楽に勝てていたと思います」

皮肉たっぷりに、言葉を返しました。

「次はもっとうまく作戦を立てます。それじゃあ、失礼します」

吐き捨てるようにそう告げて、その場を後にしました。



「・・・ごめんね、西住ちゃん」


会長が後ろで、小さな声で何かを呟いたようでした。


・・・思えば、この人の言葉が、もっとよくわたしの耳に入っていれば。

もうちょっと、変わった未来もあったのかもしれません。

ですが、会長の声はあまりにも小さくて。

わたしの耳には、なにも届きはしませんでした。


その後、しばらくは練習を重ねる日々が続きました。

みんなさすがにあの戦車じゃまずいと気づいたのか、通常仕様に塗りなおしていました。

歴女の皆さんは歴史上の戦いを学び。

バレー部の皆さんはバレーで培った精神力と体力で。

一年生のみんなは、団結力と頭の柔軟さで。

みんなそれぞれのやり方で、初心者とは思えないほどに上達していきました。

・・・生徒会チームの砲撃だけは、一向にうまくなりませんでしたが。


そして、迎えた全国大会の抽選会。

わたしたち大洗女子学園は、初戦でサンダース大学付属と当たることが決定したのでした。


「初戦でサンダースですか・・・」


戦車喫茶ルクレール。

いたるところに戦車がちりばめられた、趣味の悪い店です。

転校してきた直後のわたしだったら、きっと卒倒していたでしょう。

ですが、連日トラウマに曝露されたわたしの心は、すっかり鈍っていました。

ですから、抽選会の後に、Aチームのみんなと、この店でお茶をしているのです。


「ゆかりん、そんなに強いの? サンダースって」

「強いというより、とってもリッチな学校なんですよ。戦車保有台数が、全国一なんです」


秋山さんがサンダースについて説明していると。

「副隊長・・・?」

横から、聞き覚えのある声がしました。


絶対にそっちを見たくない。

・・・でも、見なければならない。


ゆっくりと顔を向けると、そこには。

「ああ・・・。元、でしたね」

黒森峰の、逸見さんと。

そして。


「まだ、戦車道をやっているとは思わなかった」

「お姉ちゃん・・・」


「お言葉ですが、あの時の西住殿の取った行動は、間違っていませんでした!」

秋山さんが立ち上がって、そう叫びました。

「部外者は口を挟まないでもらいたいわね」

「すみません・・・」

立ち上がってくれたのはうれしいけど、そこで引き下がらないでほしかったな。


「まあ、戦車ごっこのついでにお仲間ができてよかったじゃない。」

そのセリフの直後、逸見さんの表情が嘲笑から侮蔑に変わったのを感じました。

そして、さも憎々しげに

「・・・あなたのせいで、何が起こったかも知らずにのうのうと」

とつぶやきました。

「エリカ」

お姉ちゃんが逸見さんを制しましたが、逸見さんはこちらを睨み続けています。


絶対に許さない。

逸見さんの瞳は、わたしにそう言っているように見えました。

何が起こったか・・・?

一体何が起こったというんだろう。

わたしが黒森峰を去った後に、一体何が・・・。


「えっと、逸見さん・・・、その」

気になって、たずねようとしました。

しかし。

「エリカ、もうそれ以上はよせ。・・・行くぞ」

お姉ちゃんに阻まれて、聞けませんでした。


「隊長、でも・・・」

「エリカ、わたしに二度同じことを言わせるな」

「・・・はい、わかりました。隊長」

逸見さんはそれでも何か言いたそうにしていましたが、お姉ちゃんがそれを許しませんでした。


ここまで言い残してお姉ちゃんと逸見さんは去っていきました。

逸見さんは、最後までわたしを睨みつけたままでした。


「なによ、あの態度!」

沙織さんが憮然として言いました。

「あの黒森峰は、過去九連覇していた強豪です。・・・もしも優勝を狙うなら、避けては通れない相手ですね」

秋山さんがそう解説しました。


過去九連覇。

あの時、わたしの行動が違っていれば。

十連覇中の強豪と、称されていたはずのに。

こんな思いをせずに、済んだはずなのに。


「・・・みぽりん? 顔色悪いよ?」

「・・・ごめん。ちょっと、気分が悪くて」

「もう出ましょうか?」

「うん。・・・ごめんね、まだ来たばっかりなのに」

「別にいい。西住さんの体の方が大事だ」


結局、チームのみんなに迷惑をかけちゃったな。


「・・・」

学園艦へと帰る船に乗りながら、逸見さんの言葉を思い出していました。


何が起こったのかも知らずにのうのうと。


一体、わたしがいなくなった後で何が起こったんだろう。

それに、逸見さんを制したときのあのお姉ちゃんの表情・・・。

なんだか、とっても嫌な胸騒ぎがしていました。


すると。

「寒くないですか?」

考えることに集中して、秋山さんが近づいてきたのにも気づきませんでした。


「全国大会、出場できるだけでわたしは嬉しいです」

そう話す秋山さんの横顔を見ると、本当に嬉しそうなのが伝わってきました。

「大事なのは、ベストを尽くすことです。たとえ負けたとしても・・・」


「それじゃあ、困るんだよねぇ」


秋山さんの言葉を遮ったのは、やはりというべきか、会長でした。

「絶対に勝て。我々はどうしても勝たなくてはいけないんだ」

河嶋先輩が、後に続きます。

・・・一度も、砲撃を的に当てたことすらないくせに。

「そうなんです、だって負けたら・・・」

小山先輩が、何かを言いかけました。

すごく、思いつめた顔をして。

でも、わたしたちにはその理由はわかりませんでした。

・・・会長によって、その先がさえぎられてしまったから。


「しーっ・・・。まあとにかく、すべては西住ちゃんの肩にかかってるんだから。もし負けたら何してもらおっかなー。考えとくね」



・・・?


わたしが初めて違和感を覚えたのは、この時でした。

会長に、いつもほどの余裕が無いように見えたのです。

いつもは、自分がした悪事を何とも思わずに不気味なくらい飄々としているのに。

なんだか、急に自分を取り繕ったように見えて。


そうした会長の態度を不思議に感じて少し何も言わずにいると、秋山さんが

「大丈夫ですよ! がんばりましょう!!」

と、励ましてきました。

きっと秋山さんは、わたしが一回戦のプレッシャーを感じていると思っているんだろうな。

実際は、そんなことないんだけど。

でも、それを指摘すると秋山さんがすごく落ち込みそうなので

「ありがとう、秋山さん。相手の編成が分かれば、作戦も立てやすいのにね」

そう言って、お茶を濁すことにしました。

以上になります。

豆腐メンタルだろうがなんだろうが試合には勝つのが軍神スタイル。

原作から様々なズレが生じ始めました。

すこしずつ溜まっていくひずみがどういう結果を生むのかを見届けてやってください。

それでは、また

こんばんは。
今日、改めてアニメ1,2話を見直してみました。
みぽりんのキャラが劇場版以降と全然違って面白いです。
暇な方は見直してみることをお勧めします。

それでは、投下します。



『サンダースフラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!』


わたしたちは、一回戦を突破しました。

相手が無線傍受をしていたので、それを逆手に取り、主力とフラッグ車を分断させて、その間にフラッグ車を撃破することに成功しました。

森の中に隠れていたところを背後からⅣ号で砲撃すると、あっさりと白旗を掲げたのです。


試合後、サンダースのケイさんは

「ミホ、グッジョブ! 今回はうちの完敗ね。また機会があれば試合しましょ!」

と言って、握手してくれました。

無線傍受までして負けたのに、フレンドリーな人というか、なんというか。


・・・勝つために手段を選ばないあたりは、どこかの流派そっくり。


次の日、学校に行くと、大きなバルーンと幟が掲げてありました。

また、学校新聞の号外まで出ています。

生徒会が、士気向上のためにやったようでした。

・・・浅はかな考えだなあ。


それはさておき、二回戦はアンツィオ高校が相手です。

正直、マジノ女学院が勝ち上がってくると思ったんだけど・・・。

去年のアンツィオは確か、三人しか戦車道履修者がいなかったんだっけ。

マジノ女学院も強くはないけど、弱小校に負けるような学校じゃないし。

余程、今年の隊長が敏腕なのかもしれません。


アンツィオ戦へ向けた会議では、その懸念を率直に話しました。

大嫌いな生徒会の人たちに、大嫌いな戦車道で協力するのはとても嫌だったけど・・・。

勝負に負けることは、それ以上に嫌だったから。

そんな負けず嫌いなところに、ぬぐい切れない西住の血を感じた気がして、背筋が寒くなりました。


その後、生徒会が、新たな戦車の捜索を命じた結果、ルノーB1bisが見つかったみたいでした。

そして、Ⅳ号に搭載可能な75mm砲の長砲身が。

それから、船の底の方でポルシェティーガーもみつかりました。

・・・あんなところから重戦車を運んで、その上レストアするのって、無茶苦茶大変だと思うんだけどなあ。

しかも、ただの戦車じゃなくて、あの失敗作のポルシェティーガーだし。

自動車部の人の技術と努力には、頭が下がります。

ただ、さすがにあらゆる改造が間に合いそうにないので、二回戦はそのままの戦力で臨むこととなりました。


試合前、アンツィオ高校の隊長、アンチョビさんが挨拶にやってきました。

「わたしが統帥アンチョビだ! そっちの隊長は?」

「西住」

河嶋先輩に呼ばれて前に出ると、アンチョビさんは一層胸を張って

「あんたがあの西住流か」

と、言い放ちました。



西住流。

戦車道をやるうえでどこまでもついて回る、その名前。


思わず下を向いてしまいそうになりました。・・・でも


「相手が西住流だろうが島田流だろうが、わが校は負けない! じゃなかった、勝つ!」

アンチョビさんのその言葉を聞いて。

名前なんて関係ない、と言われた気がして。

ひょっとして、名前に縛られる意味はないのかな。

そう、初めて思いました。


「今日は正々堂々勝負だ!」

「はい。よろしくお願いします!」

アンチョビさんとの握手。

握手だけで、アンチョビさんの人柄が伝わってきて。

アンツィオがここまで強くなった理由が分かった気がしました。


・・・どうせなら、こんな学校で戦車道と出会いたかったな。

そう、少しだけ恨めしく思いながら。


『アンツィオフラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!!』

アンツィオ高校の秘密兵器、P40を含む全車両を走行不能にし、わたしたちは勝利しました。

こちらの被害はM41セモヴェンテと相打ちになった、CチームのⅢ突だけ。

圧勝と言ってもいい勝利でした。

そんな結果にもかかわらず、試合終了後、アンチョビさんは、わざわざやってきてくれて。

本来悔しくて顔も見たくないだろうわたしに、ハグを求めてきたのです。

そのうえ、両校揃っての宴会まで開いてくれました。

こんな試合後の交流は、わたしにとって初めてです。

勝ち負けを気にせず、試合後は思いっきり楽しむ。

こんな戦車道もあっていいんだ。

少しだけ。・・・ほんの、少しだけ。

目からうろこが落ちたような思いになって。

戦車道にも、いいところがあるんだ・・・って思いました。



「西住ちゃん」


二回戦が終わって、いよいよ次は準決勝だという時の事でした。

準決勝の準備をしながら浮かれる皆を、新たに加わった風紀委員の皆さんが叱っている和やかな雰囲気の中。

河嶋先輩が突然ヒステリーを起こして、静まり返った戦車倉庫の中で、わたしは会長に声をかけられました。

「後で話があるから。・・・生徒会室に来て」

生徒会室。

わたしにとって、トラウマでしかない場所。



「あの、それは・・・どうしても、ですか?」

顔を引きつらせながら、会長に尋ねてみました。

「んー・・・、そだね。どうしても、そこでしかできない話なんだ」

会長がいつになく真剣な顔をして、わたしにそう言いました。


この人のことは、大嫌いなんだけど。

会長の瞳はあまりにまっすぐわたしを捉えていて。

なんだか、その顔を見ていると、胸がちくんと痛みました。

この痛みは、まるで。

・・・。

その痛みに耐えかねて、わたしは。

「・・・わかりました」

心にもない返事を、してしまったのでした。



どうして、行くと返事してしまったんだろう。

あの日、二度と生徒会室には立ち寄りたくない、と思ったのに。

一体どうして・・・。

・・・

その答えが分かってしまったのは。

もはや取り返しがつかなくなってからのことでした。



「やーやー、西住ちゃん。ま、座ってよ」


意を決して、生徒会室へと向かったわたしを待っていたのは、鍋とこたつでした。

「あんこう鍋は、会長の得意料理だからな。遠慮なく食べてくれ」

確かに、プラウダ戦に向けて高緯度地域に向かっているからかなり寒いけど・・・。

「あの、それで・・・。話ってなんですか?」

わたしが尋ねると、一瞬場が静まり返りました。

が、会長は気まずそうにあたりを見渡して。

「思えば、ここでよく泊まったよなー。文化祭の前なんかは・・・」

と、露骨に話をそらしました。


・・・人がわざわざ勇気を振り絞って来てやったのに。

さっさと話をしてくれないかな。

少しいらだって、わたしは

「いえ、思い出話はいいですから。その、話って・・・?」

と、話題を戻しました。

また、沈黙。

そしてまた。

「珍しいもん見せてあげよっか。ほら、河嶋が笑ってる」

三人の入学時の写真と思しき写真を見せて、話をそらそうとします。

・・・別に、河嶋先輩が笑おうが何しようがわたしには関係ないんだけど。


「いえ、ですからその、話って・・・」


「・・・鍋、煮えてますよ」

「あ、そだねー。食べよ食べよ」


結局、生徒会の人たちは、話と思しき話を一切してくれず。

わたしは鍋をいただいただけで、家路についていました。

だけど・・・。

何も話してはくれなかったけれど。

彼女たちが、何かを隠してるのはわかりました。

ここまで迷惑をかけておいて、その上急な呼び出しまでかけて、隠し事。

その生徒会の態度にも腹が立ちました。

でも、それ以上に腹が立ったのは・・・。


「・・・あんな顔、してたくせに」

いつもとは違う、真剣な顔をしてわたしを動揺させた会長に。

そして・・・。なぜか動揺させられるばかりか、変な痛みまで訴えた、わたしの胸の奥に潜む何かに。

のこのこ出かけて行ったわたし自身に。

耐え難い怒りと苛立ちを覚えていました。


・・・その日、わたしの部屋にあるボコのぬいぐるみに、少しだけ傷が増えました。


そして迎えた、プラウダ高校との準決勝。

今回から、ルノーB1bisを操縦する、風紀委員たちのFチームが加わります。

アンツィオ高校との一戦で圧勝したこともあり、皆の士気も上々でした。

だけど。

プラウダ高校は・・・。

前回大会の、優勝校。

わたしたち、黒森峰を破った学校です。

そのことを考えると、わたしは。

明るくなんて、していられませんでした。



わたしが複雑な気持ちで戦車を寒冷地仕様にしていると。

プラウダ陣営のいる方角から、一台の車両がやってきました。

そこから二人の女性・・・、もとい、一人の女性と一人の女の子が降りてきます。


「あれ? 誰?」

わたしたち黒森峰を破った功績で、隊長に昇りつめた張本人。

「プラウダ高校の隊長と、副隊長だ」

昨年度の優勝の立役者。

「地吹雪のカチューシャと、ブリザードのノンナですね!」

カチューシャさんたちが、やってきました。

挨拶がてら、我々の戦車を嘲笑いに来たようです。

・・・身長で負けて、肩車をしてもらって虚勢を張っているのが、なんだか滑稽だけど。

わたしたちのことをさんざん挑発した後。


カチューシャさんは、わたしに目を止めました。


「あら? ・・・西住流の」

西住流。

大洗に来てから、わたしのことをそう呼ぶ人は少なくありませんでした。

秋山さんに蝶野教官。そして、アンチョビさん。

みんな、わたしをそう呼んだけど、誰の言葉にも悪意はありませんでした。

悪意が無くても、わたしを苦しめるその言葉。

だけど、今回の「西住流」は、今までとは違う。

なぜなら、今回のそれは。

明確に、わたしを傷つける意思をもって発せられた言葉だったから。

「去年はありがとう」

全身に鳥肌が立ちました。

「あなたのおかげで、わたしたち・・・優勝できたわ」

頭から、じわりと何かが広がる感覚。

「今年もよろしくね、家元さん」

心臓の音が、にわかに大きくなりました。

「じゃあね、ピロシキ~」

心の底から湧き上がる、憎悪。

カチューシャさんたちが見えなくなったとき、わたしの心を支配しているものは、それだけでした。


「みぽりん? ・・・顔、怖いよ」

沙織さんからそう声をかけられても。

「大丈夫なのでしょうか・・・」

華さんから心配されても。

「西住殿・・・。その、去年のことは、気にすることではありません! 西住殿の行動は、間違っていませんでした!」

秋山さんから励まされても。

「落ち着け西住さん。怒ったら、相手の思うつぼだ」

冷泉さんから諌められても。

わたしの心中は、まったく穏やかにはなりませんでした。


「に、西住。その、なんだ。今回の作戦を、聞いておきたいんだが・・・」

河嶋先輩にそう声をかけられて。

作戦の下知を行うことにしました。

「はい。皆さんもご存知の通り、プラウダ高校は、昨年度の優勝校です」

落ち着いて。

「プラウダ高校は、撤退してからの包囲戦を得意としています」

駄目。作戦に感情を挟んじゃ。

「ですので、相手の挑発に乗らず持久戦に・・・」

それは指揮官として、最も愚かな行為。

「・・・」

だけど。


「に、西住?」

「・・・持ち込もうと、思っていましたが」

ああ・・・。

「西住殿、いけません!」

ごめんね、秋山さん。

最低な、指揮官で。

「秋山ちゃん、今話してんのは隊長の西住ちゃんだよ。・・・で、どうすんの?」

・・・お前だけは、黙ってろ。

「・・・あそこまで馬鹿にされて、のんびりとしてはいられません」

ああ・・・。やっぱり。


「こちらを嘗めているふざけた奴らを、一気にボコボコにして、速攻で片を付けましょう!」

・・・指揮官、失格だなあ。


「大洗をバカにした、その代償がどれほどのものか。見せつけてやりましょう!」

はたから見たわたしは、士気を上げるために隊を鼓舞する隊長。

だけどその実は、私怨に支配された愚かな指揮官。

それに気づいているのは、Aチームのみんなと。・・・死ぬほど不快だけど、きっと、生徒会長だけ。

事情を知らぬ皆から、大きな鬨の声が上がりました。


かくして賽は投げられたのです。


結論から言うと、わたしたちの取った作戦は・・・、大失敗でした。

最初は、立て続けにT34/75を撃破。


おかしい、うまくいきすぎる。

そう気づいたとき、もはや隊の暴走は止められなくなっていました。

・・・わたしが、自分で暴走させたくせに。


雪原の廃村のようなところへとプラウダを追い詰めたところで・・・。


・・・いや、違う、追い詰めたんじゃない。

ただ、おびき寄せられただけ。


ともあれ、廃村に来たところで、プラウダ高校に包囲されていることに気付きました。

そこでようやく、自分の取った行動がどれだけ愚かだったかを知ったのです。

相手を嘗めてかかっていたのは、他でもない我々の方でした。

その後は、大きな教会の中になんとか撤退。

そして、プラウダから休戦の申し入れと、降伏勧告がなされたのでした。


「誰が土下座なんか!」

「全員自分より身長低くしたいんだな・・・」

「戦い抜きましょう!」


プラウダからの使者によって伝えられた言葉はシンプルでした。

三時間待ってやるから、土下座しろ。そうすれば勘弁してやる。

いかにも、あのカチューシャさんの言いそうな事でした。

・・・わたしだって、あのチビに土下座なんてしたくありません。

でも、ここは閉ざされた教会で、おまけに外は吹雪。

三時間の間に、士気がどれだけ低下するか。考えたくもありませんでした。

それに。

「このまま一斉攻撃されると、けが人が出るかも・・・」


万が一にもけが人を出せば。

その責任は、隊長であるわたしが負わなければなりません。

そうすれば、また黒森峰の時のように。

・・・。


だけど、周りは徹底抗戦をする気満々でした。

どうしよう・・・。

わたしは頭を悩ませてしまいました。


すると。

「みほさんの指示に、従います」

華さんが。

「わたしも! 土下座くらいしたっていいよ!」

沙織さんが。

「わたしもです!」

秋山さんが。

「準決勝まで来ただけでも上出来だ。無理はするな」

冷泉さんが。

みんなが、そう言ってくれました。


そうだ、今のわたしには・・・、みんなが。

Aチームのみんながついていたんだった。

みんなの言葉に、背中を押してもらって、

面子にこだわらず、降伏しよう。

そう決めた矢先。


「ダメだ!!」

河嶋先輩が、叫びました。

「絶対に負けるわけにはいかん!! 徹底抗戦だ!!」


ああ。またか。

どうして、この人たちはわたしの邪魔ばかりするんだろう。


「でも・・・」

「勝つんだ! 絶対に勝つんだ!! 勝たないと、ダメなんだ!!!」

そう思うんなら、もっと活躍してください。

「どうしてそんなに・・・。初めて出場して、ここまで来ただけでもすごいと思います」

「すごくたって、優勝しなければ意味はないんだ!!」

確かに、ベスト4なんて誰にも見向きもされませんね。

「でも、このまま続行して怪我人でも出たら・・・」

そしたらまた、わたしのせいになるんだよね?


すると、河嶋先輩は、少し沈黙した後で、吐き捨てるように。

「多少の犠牲がなんだ! 勝つことの方が大事だ!!」

と、叫びました。


多少の犠牲。

勝つことの方が大事。

その言葉を聞いて。

すーっと頭の中が冷たくなりました。


「・・・西住?」

わたしが黙っていると、さっきまで激高していた河嶋先輩が、こちらを不思議そうにのぞき込んできました。


次の瞬間。

「!! みぽりん!」

乾いた音が、教会の中に響き渡っていました。

頬を押さえて目をつぶっている河嶋先輩。

右腕を振り切った姿勢のわたし。

何が起こったのか、理解するのに少しかかりました。


―――ああ、わたしは

ついに、手を出しちゃったんだ。


「に、西住・・・?」

震える声で、河嶋先輩がわたしの名前を呼びました。


「ふざけたこと、言わないでください・・・」

わたしの瞳から、涙がこぼれました。

「多少の犠牲より勝ちの方が大事? ・・・そんなわけ、ないじゃないですか!!」

悲鳴に近い声で、わたしは叫んでいました。

わたしを諌めに来た秋山さんが、ぎくりと動きを止めるのが視界の端にうつりました。


「確かに、負けるのは悔しいですし、誰だって負けたくなんかありません。でも・・・、犠牲になった人は、どうなるんですか」

「それ、は・・・」

叫んだことで、息切れしていました。

だけど。肩で息をしながらわたしは。

「犠牲になった人は、一生、傷を背負わなければならないんですよ。たった一つの、戦車道の試合のために。・・・一生残る傷を」

かつて、声に出すことすらできなかった思いを。

今こうして、叫びとなって出てきた思いを。

ぶつけることを、やめませんでした。


「河嶋先輩は、それでもいいんですか。この一勝のために、誰かの人生を台無しにして」

「それで本当に、いいんですか」


「でも、でも・・・」

河嶋先輩がその場に崩れ落ち、嗚咽し始めました。


「落ち着け、西住さん」

冷泉さんが、わたしの肩を掴みました。

「みほさん、お気持ちはわかりますが・・・。その、暴力は」

華さんが、わたしを見つめました。


周囲は、すっかり静かになっていました。

聞こえるのは、河嶋先輩がすすり泣く音だけ。

当然、士気は落ちるところまで落ちていました。

降伏やむなし。

そんなムードが、教会内に流れました。


・・・そんな中、会長が一歩前に出て。

「西住ちゃん、河嶋の言ったことはわたしが代わりに謝るよ。・・・ごめんね」

だけど、と会長は言葉をつづけました。


「だけどさ。もしここで負けたら・・・」

「わたしたちの学校、無くなるんだよね」


文科省。統廃合。廃校。

そんな言葉が、会長の口から語られました。

降伏しても仕方ない。ベストは尽くした。もう十分だ。

そう思っていたであろうみんなの顔が見る見るうちにこわばっていきました。

だって、降伏するということは、つまり。

大洗女子学園の廃校を意味するのだから。


「みんな、黙っていて・・・ごめんなさい」

小山先輩が、うつむきながらそう呟きました。


「そんな事情があったなんて・・・」

「大洗が廃校になれば、わたしたち、ばらばらになるのでしょうか?」

「そんなの嫌だよ!」

「単位習得は夢のまた夢か・・・」

Aチームのみんなも、それぞれショックを受けているようです。

そして、それはほかのチームのみんなも同様でした。


・・・だけど、わたしは。

どうしようもないくらい激しい怒りを覚えていました。

今までの生徒会の行動。

文書改竄までしてわたしに戦車道を強要したことに始まり・・・、先日の呼び出しに至るまで。

全ての行動の合点がいって。


苦痛を与えたうえ、隊長までさせておきながら、わたしに何も話さなかった生徒会に対して。

そして裏に隠された意図すら見抜けなかった、最も愚かな人物。

必死だった彼女たちの気持ちも推し量らず、彼女たちを一方的に恨んだ、わたし自身に対して。

この身が張り裂けそうになるくらいの、怒り。


・・・そして、そうしたやり場のない怒りの矛先は。

全て会長へとむけられました。


会長が・・・、あの女が、もっとうまくやっていれば。

違った未来があったかもしれない。

わたしだって、こんなに苦しまずに済んだかもしれない。

さっき河嶋先輩を叩かずに済んだかもしれない。

戦車道のメンバーだって、もっと仲良くなっていたかもしれない。

戦車道を、少しでも楽しめたのかもしれない。


そして・・・、会長を、ここまで恨まずに済んだのかもしれない。


そんなことが、頭の中をひたすらぐるぐると回っていました。

「・・・無理強いはしないよ。隊長は、西住ちゃんだからね」

うるさい。


今更。

今更。

今更。

どんな顔をして、隊長としてふるまえばいいの?

わたしが今まで抱いてきた恨みはどうなるの?

何も、事情を知らないくせに、悪態をついて。

仲間を信頼しようともせず、心の中で罵って。蔑んで。

そんな隊長が何を決められるの?

そして・・・。


一体誰のせいで、わたしはそんな隊長になったの?


「だけどさ、あたしが言ったことも考慮に入れて、もう一度・・・」


「降伏はしません!!」


みんなが、わたしの方を見ました。

「・・・まだ、試合は続いていますから」

「西住殿・・・。しかし、このままでは」

「確かに状況はかなり難しいです。でも、まだ負けと決まったわけではありません」

「でもみぽりん、もし怪我人が出たらどうするの? さっきは、それで・・・」

「怪我人なんて出ません。出させません。・・・みんなが、わたしの指示に従ってくれる限り」

「西住隊長・・・」

「皆さんも、できる限り細心の注意を払ってください。犠牲のある勝利でも、犠牲のある敗北でもない・・・、犠牲のない勝利を掴むために」


とんでもない暴論でした。

怪我人が出るかどうかなんて、わたしにはどうしようもないこと。

ですが。

そんな詭弁を使ってでも、わたしは。

「諦めたら、そこで道は絶たれてしまいます。みんなで、わたしたちの母校に・・・。大洗に、笑って帰りましょう!!」


みんなから歓声が上がりました。

かなりめちゃくちゃな演説でしたが、なんとかうまくいったようです。

士気が再び最高潮に達したのを見て、わたしはほっと胸をなでおろしました。



ここで降伏して、大洗が廃校になってもらっては困ります。


なぜなら。


会長に、まだお返しをしてないんだから。


わたしを最低の隊長に育ててくれたことに対する、お返しを。


その後は、秋山さんとエルヴィンさん、冷泉さんとそど子さんに偵察をしてもらい、

皆さんが帰ってきたころには、戦車の修理も終わり、後は戦略を立てるだけでした。

プラウダの包囲網を見て、わたしが立てた戦術は至極シンプル。

教会内にフラッグ車である八九式と、壁となるB1bisだけを残し、残り全軍で相手フラッグ車へ突撃。

それですべてでした。


「それしか作戦はないのか・・・」

河嶋先輩がうなだれました。

「はい。これほど囲まれてしまっては、それしか方法はありません。ただ、ここに隠れているKV-2だけには注意してください」

そこまで作戦を立てたところで、プラウダからの使者がやってきました。

「もうすぐ時間ですが・・・」

全員で、その子を睨みつけると、その子は少し気圧された様子でした。

ちょっとだけ、すっきりしました。


「降伏なんてしません。・・・最後まで、戦い抜きます」

あのチビに、誰が土下座なんてするかと伝えてください。

そう言ってやろうかと思いましたが、砲撃が激しくなってはいけないので止めておきました。


「プラウダフラッグ車、走行不能! よって、大洗女子学園の勝利!!」


一か八かの突撃。

それは、わたしが想定していたよりも壮絶なものでした。

なんとか、わたしたちが盾になり、Ⅲ突にフラッグ車を撃破してもらいましたが。

わたしたちは、Ⅲ突と八九式を残して全滅していました。

ともあれ、わたしたちはプラウダ高校に対して勝利を収めたのです。


みんなが、喜びのあまり抱き合っていました。

わたしは少し離れたところでそれを見ていましたが。

そこに会長が近寄ってきました。


「西住ちゃん」

会長は、笑顔をこちらに向けてきました。

「はい、なんでしょう?」

「西住ちゃんのおかげで勝てたよ」

「わたしたちを、ここまで連れてきてくれて・・・、ありがとね」

そう言った会長の目には、うっすらと涙が浮かんでいるようにも見えました。

・・・会長。

「いえ、とんでもないです」

当然のことをしたまでですよ。


だって、わたしは。

あなたに復讐をしなければならないんですから。


大洗の学園艦に戻った後。

わたしは、戦車格納庫でうろうろしていた河嶋先輩を捕まえました。


「・・・河嶋先輩」

「おお、西住か。先日はその、なんだ。・・・すまなかった」

河嶋先輩が、伏し目がちにそう言いました。

「いえ・・・。わたしの方こそ、感情的になってたとはいえ、叩いてすみませんでした」

わたしが深々と頭を下げると、河嶋先輩の表情から緊張が抜けていくのを感じました。


「まあ、お互いさまということで水に流そう。頭を上げてくれ、西住。・・・ところで、何か用か?」

「はい。会長がどこにいるかご存知ですか?」

「会長? 会長なら・・・」

「西住さん、会長なら生徒会室でお仕事してるよ」

「・・・そうですか」

「会長に何か用があるの?」

「・・・ええ。少し」

「会長はお忙しいんだから、手短に頼むぞ。・・・それにしても会長、わたしたちも手伝うと言ったのに・・・」

「しょうがないよ桃ちゃん。会長にしかできないお仕事なんだし。さ、せっかく先に帰っていいって言われたんだから、一緒に帰ろ」

「桃ちゃんと呼ぶなあ! それじゃあ西住、また明日な」

「準決勝はありがとう。またよろしくね」

「はい、・・・それでは」


わたしは、生徒会室へ向かいました。

わたしのトラウマの場所。

そして。

明日からは、そこは。


扉をノックすると、どうぞ~という間延びした声が返ってきました。

「・・・失礼します」

扉を開けると。

「あれ!? 西住ちゃん? どしたの突然」

会長は、幾分驚いたように見えました。

・・・当然か。

だって、わたしは、会長と出会ったあの日から。

戦車道でやむを得ないとき以外、口を利くこともなければ目も合わせたこともなかったんだから。


・・・準決勝前のあの日を除いて、だけど。


「すみません、お仕事中」

「うんにゃ、大丈夫だよ~」

会長の顔を見ると、若干引きつっています。

どうやら、かなり緊張しているようでした。

「なんのお仕事ですか?」

「補正予算の承認。戦車の補強のためにいろいろ予算を組まないとだから、サインだけでもかなりの量になっちゃうんだよね」

飄々とそう言ってのけた会長の言葉からは、緊張など微塵も感じられません。

思っていることを全く言葉に出さないあたりは、さすがに生徒会長なんだなって思いました。


・・・そんな余裕も、いつまで続くのかはわからないけど。


「んで、西住ちゃんはどうしたの? 珍しいじゃん、自分からここに来るなんて」

「実は、会長にどうしてもお聞きしたいことがあったんです」

「んー? なになに、何でも聞いていいよ」

会長が書類に目を落としました。

・・・いや、違う。


わたしの目を、見れないんだ。

どんな質問が飛んでくるのか。

一体、何を言われるのか。

それを考えるのが、どうしようもなく怖いから。


「会長・・・」

呼びかけてから、一呼吸おいて。


「どうして、廃校のこと、黙っていたんですか?」


そう尋ねると、会長は少し表情を曇らせて。

「・・・ごめんね」

と一言呟きました。


「ほんとはさ、こないだ西住ちゃんをここに呼んだときに話しちゃうつもりだったんだよね」

「だけど、言えなかった」

「あたしは、西住ちゃんがやりたくないって言ったことを、無理やりやらせてきたから。・・・犯罪スレスレのことをやってでもね」

「そんなことをしておいて、その上にそんな大変なことを背負わせることは、どうしてもできなかったんだよね」

「だから・・・、内緒にしちゃった。・・・本当に、ごめん」

そう言って、会長は、書類を置いて。

こちらへ向かって頭を下げました。

・・・それを見たわたしは。


「・・・っ!」

会長が怯えた表情を見せました。

謝ったのに、どうして。

そんなことでも考えているのでしょう。

わたしは会長の謝罪に対して、会長が使用中の机を思いっきり叩くことで返答したのですから。

わたしは、自分の胸がずきずきと痛むのを感じましたが、無理やりそれを握りつぶしました。

きちんと謝った? わたしのためを思ってくれていた?

そんなことは、どうでもいいんです。


だってわたしは、そんなことを聞くためにここに来たんじゃない。

会長へ復讐をするために、ここに来たんだから。


「いたっ・・・! 痛いって、西住ちゃん!」

わたしは、無言で会長の髪の毛を掴みました。

会長は、泣きそうになりながらわたしの手をほどこうとしています。

「会長・・・」

「に、西住ちゃん、いたい。い、いたい、よ。ごめん、本当に。今までのこと、ぜんぶ謝るから・・・」

「もう、そんなことどうでもいいんです」

「・・・え?」


会長は一瞬だけきょとんとした表情を浮かべた後。

なぜか、すぐに苦悶の表情を浮かべました。

「うぐっ・・・」

わたしの拳が、会長の細いお腹にめり込んでいたことが原因でしょうか?


「会長のお腹、柔らかいんですね。・・・駄目ですよ? 干し芋ばかり食べて。たまには運動しないと」

「どう、じて・・・西住ちゃん」

「・・・はい?」

「どうして、げほっ、こんな。こんな、ことを・・・」

どうして、か。

・・・。


どうして、これだけのことをしてるのに、大声も出さないし逃げ出しもしないんだろう。

・・・ひょっとして、わたしに負い目があるからなのかな。

それとも、決勝がまだ残ってるから、騒ぎを起こせないのかな。

それとも・・・。

・・・。

まあいっか。


どちらにせよ、その心意気はあっぱれです。

そう思ったわたしは。

全て、打ち明けることに決めました。


「正直に話しますね。わたし、会長のこと大嫌いだったんです」

「う・・・」

「だって、あれだけやりたくないって言ったのに、わたしに無理やり戦車道をさせて」

「・・・ごめん」

「会長は知らないでしょうけど、わたし、あまりに苦痛で何回も吐いたんですよ?」

「・・・」

「で、ずっと生徒会の皆さんのことを無視してました。本当に嫌いだったから。[ピーーー]ばいいのに、って何度思ったか」

「・・・それで、あたしを殴ったの?」

「違います。話は最後まで聞いてください」

「・・・」

「そう思ってずっと過ごしてたんですけど、この間呼び出されたときに変な気持ちになったんです」

「へんな、きもち?」

「はい。胸が苦しいような、なんというか・・・変な気持ちです。そのときは、それだけでした」

「その後、準決勝の時、会長のお話を聞いて。会長に対する憎しみがピークになったんです」


「会長が、色んなことを正直に話してくれさえいれば、わたしはこんな嫌な奴にならずに済んだんじゃないか・・・って」


「わたしたちの出会いの形が違っていれば、もっと違った未来があったはずなのに・・・って」


「・・・西住ちゃん」

「そう思うと、会長に仕返しをしたくてたまらなくなってきました」

「・・・ごめん」

「その直前に、わたし、河嶋先輩のこと叩いちゃいましたよね。だから、会長にも同じことしてやろうと思ったんです。・・・でも」

「でも?」

「その・・・。会長、これ誰にも言わないでくださいね」

わたしは、会長の目をじっと見つめました。


・・・言わないで、か。

こんな風に暴力をふるっておいて、本当に今更、だけどね。

「・・・言わないし、言えないよ。きっと」

会長は、怯えた表情を隠しもせず、そう答えました。

「ありがとうございます。えっと・・・その。わたし」


そこまで話して、わたしはゆっくり深呼吸しました。

これ、話すの恥ずかしいな・・・。

でももう、言っちゃえ。


「すごく、興奮しちゃったんです。会長に、痛いことすることに」


「・・・え?」

「興奮というか・・・、その。会長に痛い思いをさせることを想像したら・・・。下着が、びちょびちょになっちゃって」

「・・・えっと、に、西住ちゃん?」

「この意味・・・、わかりますよね?」

「・・・ぁ」


会長が、いよいよ怯えた顔になりました。

このままでは大声を出されてしまう。

そう思ったわたしは。


「・・・んむ!?」

会長の口を、わたしの口でふさぐことにしました。

突然のわたしの行動に、会長は顔を真っ赤にして茫然としていましたが、やがてじたばたと暴れ始めました。


「んうー!!」

「ん・・・、ぷは。会長、静かにしてください」

そして、わたしは会長のお腹をまた殴りました。

「うぐ・・・」

「それに会長、ここに人が来たらまずいと思いますよ」

思わず、くすくすと笑いが漏れてしまいました。


「きっとわたしは退学。そうなると、大洗の廃校を誰が止めるんですか?」


わたしの言葉を聞いて、会長は一瞬目を見開きましたが。

すぐに、あきらめたように下を向きました。


「会長、いい子です。もう大声、出しませんよね?」

わたしはそう言って、会長の髪を撫でました。

すると。


「西住ちゃん・・・、やめよう。今ならまだ、あたしもなかったことにしてあげるから」

何やら生意気なことを言って来ました。

まだ自分の立場が分かっていないようなので、またお腹を殴ると、少し呻いて静かになりました。


「うーん、お腹ばかり殴ってもかわいそうですし・・・。こんなのはどうでしょう?」

わたしは、会長のスカートの下に手を潜り込ませました。

「げほっ・・・。・・・え? に、西住ちゃん、なにを・・・っ」

「何をって、決まってるじゃないですか」


会長の下着をゆっくりとさわり、そしてその中に手を潜らせました。

さらさらと、産毛のような会長の毛がわたしの手に触れます。

指先からの刺激は、わたしの官能を強くくすぐりました。

「あ・・・! やっ、やめて・・・。西住ちゃん、なんでもするからそれだけは」

「えいっ」


ぐちゅり。という感触が、わたしの指に伝わりました。



「いったぁああっっ・・・!!!」


会長の中に、二本の指を突っ込んだのです。

「いたい・・・。いたいよぉ・・・」

会長は、ぐすぐすと泣きべそをかき始めました。

指先に、ぬるぬるした感触が加わります。

一瞬、会長も喜んでいるのかと思いましたが、感触から察するに、血液の様でした。

・・・つまんないの。


「あれ? 会長、はじめてだったんですか?」

「うう・・・、と、当然、じゃん・・・」

「まあ、そうですよね。ここ、女子高ですし。・・・見てください、ほら」

わたしは、会長の中から指を抜いて。

血まみれになったそれを、会長の顔の前に持っていきました。


「会長の初めて、いただいちゃいました」


会長は顔をかっと真っ赤にさせ、自分の手で顔を覆いました。

「ひど、い・・・。ひどいよ、にしずみ、ちゃん・・・」

「それじゃあ、また入れますね。今度は・・・三本、行ってみましょうか」

「え!? も、ゆるして」

「ぐちゅぐちゅ作戦です♪」


「いっだぁあああ!!」

ぬるりという感触を伴って、わたしの指は再び会長の中へ入っていきました。

全く濡れていなかった先ほどと異なり、潤滑油を得た会長の膣は、幾分スムーズにわたしの指を咥えこみました。


「ああああっ!! ぐぅっ・・・」

会長の苦痛の方は、どうなってるのか知らないけど。


「ぐちゅぐちゅ作戦かあ・・・。ふふっ。わたし、こんな感じで楽しい作戦名を考えながら戦車道やりたかったなあ」

指先をぐいぐいと広げると、会長はさらに苦悶の表情を浮かべました。

「いだい・・・、いたいぃ! 抜いて、抜いてよぉっ!」

「ほら。我慢して声を押さえないと。人が来たら、廃校になっちゃいますよ?」


「いた・・・い。いたいよ。こやま、かわしまぁ・・・」

小山先輩と河嶋先輩。

会長が、おそらく最も信頼しているであろう相手。

・・・当然、わたし以上に。


なんだか腹が立ったわたしは、さらに指の動きを激しくしました。

「いづっっ・・・・!! ああ・・・っ、ぐぅっ・・・・」

「わたしとエッチなことしてる時に、他の女の名前を出さないでください。エッチの時の常識ですよ?」


「うぐ・・・、わかった、わかったからぁ・・・っ、はやっくぬいて・・・っえ」

「ふぅ・・・、わかりました。会長の初めても奪いましたし」

わたしは、会長の中から指を抜きました。

「はあ・・・っ、はあ・・・・」

会長が、真っ赤な顔をして荒い息をしていました。


・・・会長の顔、これ以上赤くってなるのかな。

そう思ったわたしは。


「ぐっ・・・!!」

会長の首を思いっきり絞めてみました。


「かっ・・・! くくっ・・・!!」

会長が、大きく目を見開いてわたしの腕をがりがりと引っかきます。

腕が痛かったので、手を離すことにしました。


「がはあっ!! げほっ、げほげほ! はぁ、はあ・・・」

苦悶の表情を浮かべる会長。

「・・・可愛い」

太ももに、何かが伝る感触がありました。

触ってみると、ねばねばした透明な液体でした。

それを会長の目の前に持っていきます。

「見てください。今の会長を見て、わたし・・・。こんなに濡れちゃいました」

「はあ、はあ・・・。げほ、ごほっ! っぐ、はぁ、はあ・・・」

「会長・・・、わたし、気づいたんです。わたし・・・会長のことが、世界一嫌いで、世界一好きだって」

「はあ、はあ・・・。にし、ずみちゃん・・・」

「だから、会長・・・」

わたしは、上に着ているものを脱ぎ、ブラジャーを外しました。


「今から、わたしも気持ちよくなります。会長も、手伝ってくださいね?」

わたしがにっこりと笑いかけると、会長は一瞬だけ絶望したような表情を浮かべましたが。

「もう・・・、好きにしてよ」

そう言って、力ない笑みを浮かべました。


その後、わたしは会長を激しく犯しました。

時には髪を引っ張り、時には体を殴打し。そして、時にはやさしく抱きしめて。

会長は、わたしのそんな行為を、たまにうめき声をあげるものの、甘んじて受け入れていました。

閉じた瞳に、うっすらと涙を浮かべながら。


わたしは会長の顔の上にまたがったり、会長のと自分のを擦り合わせたりして、何度も果てました。

会長も、行為の最中に嬌声をあげることもありましたから、おそらく気持ちよかったのだろうと思います。

悲鳴を上げている時間の方が、長かったかもしれないけど。


わたしがすっかり満足したころには、会長は血液やら他の体液やらでどろどろのカピカピになっていました。


「はあ、はあ・・・。っぐぅ、はぁ・・・・」

「ふぅ・・・。そうだ会長、お風呂行きませんか?」

「おふ、ろ・・・?」

「ええ。会長もわたしも、汚れちゃいましたから。生徒会専用のお風呂があるんですよね?」

前に、誰かがそんなことを言ってたような気がします。

「わか、ったよ。・・・ほら、そこから行けるから」

「会長も一緒に入りましょうね。さあ、行きましょう」

「・・・うん」


その後は、会長の体を洗ってあげて。

何度も、何度も。会長と、その体のあざにキスをしました。

わたしがつけたあざ一つ一つが、いとおしく思えて。

わたしがあざにキスをするたびに、傷が痛むのか、会長は小さな声をあげました。

会長は、わたしとお風呂に入っている間、ぎこちない笑みを浮かべていました。

・・・目だけは、どこか遠いところを見ているようでしたが。



「会長」

お風呂の後、会長の髪をとかしながら、わたしは会長に話しかけました。


「・・・どしたの、西住ちゃん」

「今日は、すみませんでした。・・・痛かったですよね」

さっき会長につけたあざを、指先でなぞると。会長は、びくり、と体を震わせました。

「いや・・・、うん。まあ、痛かったけど、さ。わ、わわ、悪いのは、あたしだから」

声を震わせながら、会長はそう言いました。

なんだかそんな会長がとてもいとおしく思えて、わたしは会長を後ろから抱きしめました。


「・・・西住ちゃん」

「会長は、優しいんですね」


「そんなこと・・・、ないよ」

そんなことないわけがありません。

だって。


「じゃあ、もうちょっとだけ会長のやさしさに甘えちゃおうかな・・・」

「・・・え?」


「これからも、今日みたいによろしくお願いしますね、会長!」

こうやって、わたしがつけ込めるぐらい、会長は優しいんですから!


「明日も、明後日も、その次も・・・。えへへ、なんだかわくわくしますね!」

会長が、肩をぶるぶると震わせ始めました。

不思議に思ったわたしが、会長の顔を覗き込むと。

会長は、大粒の涙をぼろぼろとこぼしていました。


「会長・・・?」

「う、うん・・・。よろ、しくね。西住、ちゃん」

会長は、こぼれてくる涙をぬぐおうともせず。

無理やり笑顔を作って、わたしにそう言いました。


じわり。と。

嫌な感触が頭に広がりました。


ああ。もうわたしは。


後に引くことは、できない・・・。

以上になります。
会長の文字がゲシュタルト崩壊してきました。

ついにミホーシャに襲われてしまった会長。
その運命やいかに!?

あ、ちなみにサンダース戦ではケイが無線傍受に気付く前にアリサがとっととボコられたって設定になっています。
ケイ隊長はこんなどうしようもない世界でもフェアプレーを重んじる名将なのです。

それでは、また。
恐らく次回が最後になるかと思われます。

おはようございます。

ガルパンってすんげー面白いですね。
見直すと改めて思います。

では、投下します


そして、次の日も、また次の日も。

わたしは、会長を犯し続けました。

会長もまた、わたしが来るのを見越して、河嶋先輩と小山先輩を先に帰らせるようになりました。

会長は毎回苦痛に顔を歪ませ、涙を流しながら、しかし決して拒むことはしませんでした。

河嶋先輩と小山先輩を帰らせなければ済む話なのに。

たったそれだけで、わたしは会長に手出しできなくなるのに。


・・・もっとも、その二人はとっくにわたしの行為に気付いているようでしたが。


戦車道の時、いつも河嶋先輩に睨まれるようになりました。

何度も小山先輩から呼び出されそうになりました。

だけど、その度に会長は彼女を咎めて。結局、一度も呼び出しに応じる必要はありませんでした。

呼び出しに応じたら、何をされてしまうんだろう。

そう思うと背筋が寒くなってしまうほど、小山先輩の瞳は冷たいものでした。


悪魔。

小山先輩の唇は、わたしに向かって、幾度となく、その言葉を投げつけました。

音を伴わない、唇の動きだけの言葉として、何度も。

悪魔、か。

・・・。

あの日、あなたたちがわたしにした行為こそが、悪魔の所業だったと思いますよ?

だって、あのときからずっと。

憎しみと悲しみと、苦しみの連鎖が、続いているんだから。


だんだんとわたしたちの行為はエスカレートし、最近では戦車道の練習まで早く切り上げて行為にふけるようになっていました。

会長の机を見ると、日に日に詰まれた書類が増えています。

仕事が進んでいないのは、明白でした。

戦車の補強のための、予算を組んでいる。

会長はそう言っていました。

だけど結局、補強というのはポルシェティーガーが追加されただけ。

そもそもが失敗兵器ですから、足回りは不安が多く、走るかどうかもわかりません。

戦力的に、黒森峰の足元にも及ばないことは誰もが悟っていました。

・・・会長の仕事が予定通りに進んでいれば、もっと補強できたかもしれないけれど。


ですが、わたしはなんだかどうでもよくなっていました。

プラウダ戦で、会長が廃校のことを打ち明けた時。

わたしが一瞬だけ心に思い描いた、ひょっとするとありえたかもしれない幸せな時間。

みんなと、笑って戦車道をやっているような、そんな未来。

だけど。もうその時間は絶対にやってこない。


だってわたしは、もう。

取り返しのつかない道を歩んでしまったんだから。


毎日、毎日、毎日。

会長が泣いても。先輩に睨まれても。わたしは会長のもとへ向かいます。


会長を犯している時だけは、戦車のことを考えなくて済むから。

会長に痛いことをしている時だけは、嫌な過去を振り払えるから。

会長と気持ちいいことをしている時だけは、あったかもしれない未来を羨むことがないから。


狂ってる。

最初から、そう思っていました。

だけど、今となってはもう。

わたしの心を満たしてくれるのは、会長との時間だけでした。


迎えた、決勝戦当日。

わたしが戦車の整備をしていると、アンチョビさんがやってきました。

「おー、西住! 元気・・・か?」

笑顔で手を振りながらやってきたアンチョビさんでしたが、わたしの顔を見ると少し表情を曇らせました。

「はい、元気です。アンチョビさん、来ていただいてありがとうございます」

「う、うん・・・。そ、それよりだな。どうだ? 決勝戦への意気込みは」

勝てるわけ、ないじゃないですか。


その言葉を、ぐっと飲みこみました。


「あとは、今までやってきたことをやるだけです」

「そうかそうか! うん、アンツィオのノリと勢いを分けてやる!! これで百人力だ!」

アンチョビさんは、わたしの手を掴んでぶんぶんと上下に振りました。

「あはは・・・、ありがとうございます」

久しぶりに、こういう人に会ったなあ。

みんな、最近は死んだような目をしてるから。


あ。

一番、目が死んでいるのはわたしだっけ。


「じゃあわたしはこれで。健闘を祈るぞ! アリーヴェデルチ!」

アンチョビさんは、そう言い残して去っていきました。


・・・いい人。

明るくて、美人で、人望もあって。

・・・今日は、副隊長二人はいないみたいだけど。


ああ。もしもわたしがこんな隊長だったなら。


そう思うと、息が苦しくなってきました。

過呼吸。

何度もその発作を経験してきたわたしは、もはやその対処にも慣れていました。

大丈夫。呼吸を止めればいいだけだから。

しばらく呼吸を止めると、なんとか発作は収まりました。

その後、黒森峰にいたときに大量に処方してもらった抗不安薬を、戦車の陰で飲み下しました。


「それではこれより、大洗女子学園対黒森峰女学園の試合を開始する。隊長副隊長、前へ!」

審判の方々に促され、わたしは河嶋先輩とともにお姉ちゃんと逸見さんの前に対峙しました。

「弱小校だと、あなたでも隊長になれるのね」

逸見さんが言いました。

・・・去年は一兵卒だったくせに。

たとえわたしが黒森峰に残っていたとしても、お姉ちゃんの後はきっとわたしが隊長だったと思うんだけど。

そんな言葉をぐっと飲みこんで、お姉ちゃんのほうを見つめると、お姉ちゃんはなんだか寂しそうな目をしてこちらを見ていました。


「それでは、礼!」

「「よろしくお願いします」」

礼を交わして、戻ろうとすると。

逸見さんが再びわたしに声をかけてきました。




「あ、そうそう・・・。あんたが助けた赤星小梅だけどね」



「え・・・?」


どくり。と心臓が脈打ちました。

赤星さんが、どうしたんだろう。

「・・・エリカ、よせ」

「逸見さん、赤星さんがどうしたの?」

わたしが思わず詰め寄ると、逸見さんは、少しだけ何かを躊躇するように唇を噛んでましたが、次の瞬間。

「よせ!! エリカ!!」

お姉ちゃんの制止も聞かず。

吐き捨てるように。



「死んだわ」



そう、言い放ちました。


「エリカ!!」

お姉ちゃんが、逸見さんをすさまじい形相で睨みつけました。

普段の逸見さんなら、間違いなく黙るのに。

借りてきた猫みたいに大人しくなるはずなのに。

今の逸見さんは、わたしのことを睨みつけたままでした。


「どう、いう・・・、事なの?」

「どうもこうもないわ。あなたがいなくなった後、あの子は死んだ。・・・自室で首をつってね」

逸見さんの目に、涙が溜まり始めました。


「あなたが大洗に逃げたあと! 小梅は死んだのよ! あなたがぬくぬくと隊長ごっこをしている間にね!!」


逸見さんは、あふれる涙を隠そうともせず。

むき出しの感情をわたしにぶつけてきました。


「どうして逃げたりしたのよ!! あなたが逃げなければ、批判の矛先があの子に向くことはなかった!!」




「あなたがあの子を・・・っ、殺したのよ!! この、人殺し!!」


「エリカ!!」

お姉ちゃんが、悲鳴のような声を上げました。


「それ以上・・・、やめろ」

「頼むから、やめてくれ・・・」

お姉ちゃんは、拳をぶるぶると震わせていました。


「嘘・・・、だよね・・・?」

わたしは、そう喉から絞り出すのがやっとでした。

嘘じゃないのなんて、火を見るより明らかなのに。

お姉ちゃんの顔を見れば、すぐにわかるのに。


「・・・信じないっていうなら、それでもいいわ」

逸見さんは、そう言って私に背を向けました。

「あなたにこの試合で思い知らせてあげる。あの子がどれだけつらかったか。・・・あなたを叩きのめして、少しでも味わわせてやるわ」

そんな言葉を、捨て台詞にして。

お姉ちゃんは、しばらく下を向いて歯を食いしばっていましたが。

「・・・守ってやれなくて、すまなかった」

そう言い残して、わたしの前から去っていきました。


残されたわたしは、呆然と立ち尽くしていました。


「西住・・・」

横にいた河嶋先輩が何事か声をかけてきましたが、全く耳に入ってきません。

Aチームのみんなは、無言でした。

秋山さんだけが何かを言おうとしていましたが、冷泉さんに制止されていました。


赤星さんが、死んだ。

わたしのせいで、死んだ。

その事実は、わたしの心を折るのに十分すぎるほどの威力を持っていました。



「大洗女子学園フラッグ車、走行不能。よって、黒森峰女学園の、勝利!!」


どこか遠くで、そんなアナウンスが流れていました。

森を突っ切った電撃戦。

アルデンヌの森を越えてきたドイツ軍によってマジノ要塞を蹂躙されたフランス軍のように、わたしたちはなすすべもなく敗れました。

わたしが覚えているのは、逸見さんの乗るティーガーⅡの砲塔がこちらを指向したことだけ。

次の瞬間、Ⅳ号から白旗が上がっていたような気がします。

わたしは、もはや何も考えられませんでした。


「・・・西住隊長は、悪くない」

エルヴィンさんが、そう言いました。


一年生たちが、泣いています。

澤さんが、それを叱っています。自身も、涙を流しながら。


河嶋先輩と小山先輩が、呆然としています。


そど子さんたちが、何やら喚いています。


そんなことが、どこか遠いところで起こっているような気がしました。


ですが、非情にも、それは現実以外の何物でもありませんでした。

小梅さんが、死んだのも。

わたしたちが、黒森峰に負けたのも。

大洗女子学園が、廃校になるのも。

紛れもない、現実。


ですが。

誰も、わたしを責めませんでした。

もはや、責めてすらくれませんでした。



「・・・みほ」


お姉ちゃんがやってきました。

わたしは、顔だけそちらに向けました。

「その・・・、試合前に、あんなことを言って、すまなかった」

そう言って、頭を下げています。

「だが、・・・無理なことだろうが、エリカを許してやってほしい。お前がいなくなった後、小梅の一番近くにいたのは、エリカだったんだ・・・」

お姉ちゃんは、袖で目元をぬぐい、そして再びわたしを見つめました。


「それから・・・。お母さまが、みほは勘当する、と言っていた。」


「わたしはお母さまを説得しようとしたが・・・、できなかった。・・・本当に、本当に、すまない」

勘当。

いつか言われるだろうと思っていたその言葉は、しかし、すんなりとわたしの耳をすり抜けました。

「本当に、重ね重ね・・・。わたしが無力で、すまない・・・」

お姉ちゃんは、深く頭を下げました。

いつまでも、頭を下げたままでした。

わたしが、回収車に乗り込んだあとも。

黒森峰の人たちが、ほとんど見えなくなるほどに小さくなっても。

いつまでも、いつまでも・・・、

頭を上げることは、ありませんでした。


学園艦に戻ると、あわただしい空気が流れていました。

・・・当然か。

この学園艦に乗船している約3万人の人たちが、3月までに引っ越しを済ませなければならないんだから。


それが、わたしがこの学校に来た結果なんだから。


河嶋先輩が、涙をボロボロとこぼしながら、戦車道チームの解散を宣言しました。

名残惜しそうに戦車を眺めていた一同でしたが、やがて散り散りに解散を始めました。

「みぽりん、一緒に帰ろう?」

沙織さんから、そう声をかけられました。

だけどわたしは。


「ごめんなさい。今日は、一人で帰るね。みんな、お疲れ様でした」

と言って、家と反対方向へ歩いていきました。


わたしがなにをしようとしているか、Aチームのみんななら分かっていたのかもしれません。

ですが、それを咎める人は、もはや誰もいませんでした。


わたしは、学園艦の最後尾に立っていました。

船が進んだ後が、白く泡立っています。

学園艦はとても大きいですから、その泡のスケールもとても大きなものでした。

だけど、どんな大きな泡も、しばらくすると弾けて消えてしまうのでした。


ああ。やっと。

わたしも、あの泡のように・・・。


そう思って、学園艦の端に足をかけた瞬間。



「待ってよ、西住ちゃん」


聞き覚えのある声が、わたしを呼び止めました。


わたしがこの世で一番嫌いで。

わたしがこの世で一番好きな人。

振り返ると、会長が息を切らしながら立っていました。

「会長・・・」

どうしたんですか。

わたしがそう問いかける前に、会長はその問いに答えました。


「あたしも、連れてってよ」


「・・・え?」

「死ぬ気なんでしょ? そこから、飛び降りて」

・・・はは、やっぱり。

わたしはこの女、大嫌いです。

だって・・・。


わたしの全てを見透かしているんだもん。


「はい。責任を部下に押し付けて逃げた後、無抵抗の生徒会長を連日レイプし続けて、あげく学校を廃校に追い込む屑に生きる場所はありませんから」

「だったら、あたしも一緒に死ぬよ。だって、西住ちゃんを戦車道に引きずり込んだのはあたしなんだから」

「そのことなら、もういいです。・・・だって、もうそんなのと比べ物にならないくらいひどいことを、わたしは」

「うーん・・・、わかってないなあ。西住ちゃんは」

会長は、そういうと、頭をかきながらわたしの方に近づいてきて。


わたしを船の端の柵に押し付けました。


このまま落とされて殺される。

そう思ったわたしでしたが。


次の瞬間、会長の唇がわたしの唇に重ねられていました。


「ん・・・」

「・・・ぷは」

「つまりさ、あたしも同じなんだよね」


あたしも、西住ちゃんのことが好き。

そう言ってくれると期待してしまいました。

だって、もしこの人からそんな優しい言葉がかけられるのならば。

大嫌いだけど、大好きな人から、そんなことを言ってもらえるのならば。

ここで死ぬことをあきらめて。

この人と一緒に歩んでいくのもいいかもしれない。

そんな風に思ってしまったから。



しかし。



会長は、わたしの首を思いっきり絞め上げたのです。


「ぐっ・・・・・・!」

何が起こっているのかもわからないままに視界がかすみ始めたころ、会長はわたしを開放しました。

「あはは、なんて顔してんの、西住ちゃん」

「げほっ、げほ、がほっ!!」

「あーあ、そんなに咳き込んじゃって・・・。だから言ったじゃん、あたしも西住ちゃんと一緒だって」

そう言って、会長は。

まだ咳が止まってないわたしの顔を掴み、再び唇を重ねてきました。


「ちゅ・・・、んむぅ・・・」


時間にして五分ほどだったでしょうか。

散々舌でわたしの口の中を蹂躙した後、会長はようやくわたしから顔を離して言いました。



「わたしも西住ちゃんと同じ気持ちだよ」


「西住ちゃんのこと、殺したいぐらい憎いし・・・。殺してほしいほど、愛してる」


そういって笑った会長の顔はひどく蠱惑的で。

わたしは、強く官能を刺激されるとともに。

ああ、本当にわたしの命はここまでなんだなあ、と。

諦観。悟り。恐怖。

そうした感情が、巻き起こりました。


「・・・ふふっ、じゃあ、仕方ありませんね」

「ああ!」



「じゃあ、行きましょうか」


「うん・・・。その前に、西住ちゃん」


「どうしました、会長?」


「もう一回・・・んむっ・・・・」


「んちゅ・・・。しょうがありませんね、会長は」


「まあ、これが本当に人生で最後なんだから。ちょっとぐらいわがまま言わせてよ」



「会長、震えてますね」


「まあね。死ぬのって、初めてだし」


「えへへ。奇遇ですね。わたしもです」


「・・・じゃあ、西住ちゃん。ここに足をかけて」


「はい。・・・よし、せーので飛びましょう」


「うん。・・・いくよ。せーのっ!」





以上になります。

改めて見るとめちゃくちゃ長いですね。
ここまでお付き合いいただいた皆さん、ありがとうございました。

どうせ鬱にするなら思いっきり鬱にしてやれと思って小梅にはご退場願ったのですが、なにもそこまでしなくてもよかったかなあと思います。

あと、最後の描写は、皆さんにご想像の中で補完してもらいたいと思い、曖昧にしてあります。
果たして本当に杏はみほと心中することを選んだのでしょうか?
それとも・・・。

あと、ここまでやらせといてなんですが、このみほは本当は杏のことなんて好きでもなんでもないんじゃないかと思います。
もちろん逆も然りですね。
これ書き上げたのが4月の頭とかなんで、色々と筆者の中でも考察が進んでしまいました。

みなさんも暇なら是非色々考えてみてください。
きっと忙しいので考えない人が大半だと思いますが。

それでは、また。

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